説明

焼成品

【課題】アスベスト含有セメント成形品を無害化処理して焼成品として再利用するにあたって、焼成収縮を小さくすることができると共に、比重を小さくして軽量化を図ることができる焼成品を提供する。
【解決手段】アスベスト含有セメント成形品を無害化処理して粉砕して得られた粉粒体と、石炭灰及び蝋石から選ばれるものとが質量比20:80〜80:20の範囲で配合され、1100〜1200℃で焼成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装材や内装材等の廃材を再利用して得られる焼成品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建材関係の分野においては、循環型社会の形成に向けた努力がなされている。その結果、老朽化して解体された建築物から回収された廃材や、建設現場から生じた端材や、製造ラインから生じた不良品等を再利用するリサイクルシステムが構築されつつある。
【0003】
特に過去の建築物は、アスベストを含有するセメント成形品を外装材や内装材として用いて形成されていることが多い。そのため、建築物の解体後にはこのような廃材を無害化処理することが重要であるが、この無害化処理方法についてはこれまでに様々な研究がなされている(例えば、特許文献1−6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−279091号公報
【特許文献2】特開2008−272566号公報
【特許文献3】特開平6−340470号公報
【特許文献4】特開2008−275178号公報
【特許文献5】国際公開第2007/034816号
【特許文献6】特開平5−293457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アスベスト含有セメント成形品を無害化処理しても、その後の有効な利用方法については確立されていない。例えば、無害化処理したものを焼成して焼成品を得ることが考えられるが、このような焼成品にあっては、焼成による収縮が大きいという問題があり、さらに比重が大きく重いという問題もある。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、アスベスト含有セメント成形品を無害化処理して焼成品として再利用するにあたって、焼成収縮を小さくすることができると共に、比重を小さくして軽量化を図ることができる焼成品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る焼成品は、アスベスト含有セメント成形品を無害化処理して粉砕して得られた粉粒体と、石炭灰及び蝋石から選ばれるものとが質量比20:80〜80:20の範囲で配合され、1100〜1200℃で焼成されていることを特徴とするものである。
【0008】
前記焼成品において、前記アスベスト含有セメント成形品がCaOを25〜50質量%、SiOを35〜55質量%含有することが好ましい。
【0009】
前記焼成品において、前記無害化処理が前記アスベスト含有セメント成形品を800〜1100℃で加熱することであることが好ましい。
【0010】
前記焼成品において、前記加熱がマイクロ波加熱及び外部加熱により行われていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アスベスト含有セメント成形品を無害化処理して焼成品として再利用するにあたって、焼成収縮を小さくすることができると共に、比重を小さくして軽量化を図ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】無害化処理後のアスベスト含有セメント成形品のX線回折スペクトル図である。
【図2】成形品を焼成する際の焼成スケジュールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
本発明に係る焼成品は、主として廃材となったアスベスト含有セメント成形品を無害化処理したものを用いて製造することができる。なお、アスベスト(石綿)は、蛇紋石(クリソタイル:Chrysotile)や角閃石(クロシドライト:Crocidolite、アモサイト:Amosite、アンソフィライト:Anthophyllite、トレモライト:Tremolite、アクチノライト:Actinolite)が繊維状に変形した天然の鉱石である。
【0015】
アスベスト含有セメント成形品は、セメント由来のCaO及びアスベスト由来のMgO等の成分を含有するものを用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、CaOを25〜50質量%、SiOを35〜55質量%含有するものを用いることが好ましい。このようなアスベスト含有セメント成形品を用いると、ウォラストナイト(Wollastonite)及びアノルサイト(Anorthite:CaO・Al・2SiO)の結晶が析出しやすい。また、アスベスト含有セメント成形品には、CaO、SiO及びMgOのほか、Fe、Al、NaO、KO、SO等の成分が含有されていてもよい。
【0016】
上記のようなアスベスト含有セメント成形品は、先に粉砕すると粉塵となって人体に取り込まれやすく、アスベストによる健康被害が発生しやすくなるので、本発明では粉砕する前に、アスベストの結晶構造を破壊する無害化処理を行うようにしている。
【0017】
ここで、無害化処理は、アスベスト含有セメント成形品を800〜1100℃で0.5〜1時間、加熱して行うことが好ましい。加熱温度が800℃より低い場合には、無害化処理に要する時間が上記の時間より長くなるおそれがあり、また加熱時間が上記の時間より短いと十分に無害化処理されないおそれがある。逆に加熱温度が1100℃より高い場合には、上記の時間であれば無害化処理に問題はないが、エネルギーコストがかさむ。
【0018】
また、上記の加熱は、マイクロ波加熱(内部加熱)及び外部加熱により複合的に行うことが好ましい。ここで、マイクロ波加熱は、周波数300MHz〜3THzの電磁波(マイクロ波)を物質に照射してその内部から加熱することであり、また外部加熱は、外部熱源により物質の外部から加熱することである。そして、マイクロ波加熱及び外部加熱を複合的に行うためには、例えばマイクロ波発生装置を備えた電気炉等を用いるようにすればよい。アスベスト含有セメント成形品には、通常、セメント由来のCaOやFe等が含有されているので、上記のようにマイクロ波加熱を行うと、特にCaO等が選択的に加熱され、このCaO等とアスベストとの間に大きな温度勾配が発生することにより、非平衡化学反応が起こり、アスベストの結晶構造を破壊して無害化することができるものである。しかもマイクロ波加熱だけではなく外部加熱も行うようにすれば、アスベスト含有セメント成形品が粉砕前の塊状であっても短時間で全体を均一に加熱して無害化処理を行うことができるものである。
【0019】
次に、上記のようにして無害化処理したアスベスト含有セメント成形品をローラーミル等を用いて粉砕することによって粉粒体を得る。この粉粒体の平均粒子径は20μm以下であることが好ましい。なお、平均粒子径はレーザ回折・散乱法により測定することができる。
【0020】
次に、上記のようにして得られた粉粒体と、石炭灰及び蝋石から選ばれるもの(アルミナ源)とを質量比20:80〜80:20の範囲で均一に配合することによって配合物を得る。そして、上記の粉粒体の配合量が少なすぎ、石炭灰及び蝋石から選ばれるものの配合量が多すぎて上記質量比の範囲を逸脱する場合には、耐火性が高くなるため焼結にはより高温の加熱が必要となる。逆に、上記の粉粒体の配合量が多すぎ、石炭灰及び蝋石から選ばれるものの配合量が少なすぎて上記質量比の範囲を逸脱する場合には、焼成品の曲げ強さ等の強度が弱くなることがある。また、焼成品の軽量化を図るために、軽量材としてフライアッシュバルーンを配合してもよい。この軽量材は上記の配合物に外割りで15〜25質量%配合することが好ましい。
【0021】
次に、上記のようにして得られた配合物にメチルセルロース(MC)溶液等の粘結剤を配合物全量に対して0.5〜1.5質量%加えて坏土を調製した後、この坏土を圧縮成形機等を用いて10〜20MPaの圧力をかけて成形することによって成形品を得る。
【0022】
その後、上記のようにして得られた成形品を電気焼成窯等を用いて1100〜1200℃で焼成(焼結)することによって、焼成品を得ることができるものである。好ましくは、上記の成形品を室温(25℃)から一定の昇温速度で6〜8時間かけて1100〜1200℃まで昇温し、次にこの温度で1〜2時間保持した後、アノルサイト(Anorthite:CaO・Al・2SiO)の結晶が析出しやすい結晶化温度(例えば1100℃)に設定し、この温度で1〜2時間保持した後、放冷するという焼成スケジュールに従って焼成する。このようにして焼成品を製造すると、焼成収縮を小さくすることができると共に、比重を小さくして軽量化を図ることができるものである。そして、このような焼成品は、外装材及び内装材等の建材として再利用することができるものである。しかし、焼成温度が1100℃より低いと、焼結が不十分となる。逆に、焼成温度が1200℃より高いと、焼成収縮が大きくなるものである。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0024】
アスベスト含有セメント成形品として、平成15年までに生産された住宅屋根用化粧スレートを用いた。このアスベスト含有セメント成形品は、CaOを32.0質量%、SiOを44.8質量%含有するものである。
【0025】
次に、マイクロ波発生装置を備えた電気炉を用い、アスベスト含有セメント成形品を1000℃で0.5時間、マイクロ波加熱及び外部加熱により加熱することによって、無害化処理を行った。
【0026】
次に、上記のようにして無害化処理したアスベスト含有セメント成形品をローラーミルを用いて粉砕することによって粉粒体を得た。粉粒体に含有されている成分を表1に示す。後述する石炭灰及び蝋石の成分も表1に示す。また、粉粒体についてX線回折法により結晶構造を調べたところ、図1に示すようなX線回折スペクトル図が得られた。この図1によれば、コンクリート由来の石英(Quartz)、ウォラストナイト(Wollastonite)、フォルステライト(Forsterite)等のピークは認められるが、クリソタイル(Chrysotile)等のアスベストのピークは認められず、アスベスト含有セメント成形品が無害化されていることが確認された。なお、粉粒体の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により測定したところ、20μmであった。
【0027】
【表1】

【0028】
次に、上記のようにして得られた粉粒体と、表1に示す石炭灰及び蝋石から選ばれるものと、軽量材とを表2に示す質量比で均一に配合することによって、No.0〜No.6の配合物を得た。
【0029】
【表2】

【0030】
次に、上記のようにして得られたNo.0〜No.6の配合物に粘結剤としてメチルセルロース水溶液(濃度5質量%)を配合物全量に対して20質量%加えて坏土を調製した。その後、この坏土を圧縮成形機を用いて14.7MPa(150kgf/cm)の圧力をかけて成形することによって、大きさ10cm×3cm×0.55cmの板状の成形品を3つずつ得た。
【0031】
その後、上記のようにして得られた成形品を電気焼成窯を用いて焼成することによって、焼成品を3つずつ得た。焼成は、図2に示すような焼成スケジュールA〜Dに従って行った。具体的には、表3において焼成温度が1100℃であるものは焼成スケジュールA、焼成温度が1150℃であるものは焼成スケジュールB、焼成温度が1200℃であるものは焼成スケジュールC、焼成温度が1250℃であるものは焼成スケジュールDにそれぞれ従って焼成を行った。
【0032】
そして、上記のようにして得られた焼成品について、次のような特性を調査した。
【0033】
(収縮率)
次式により長さ収縮率を求めた。
【0034】
α(%)=((L−L)/L)×100
α:長さ収縮率
:焼成前の成形品の長さ
:焼成後の焼成品の長さ
(吸水性)
焼成品を15〜25℃の水中に24時間浸漬させた後、この焼成品に付着している水をタオルで拭き取り、飽和重量(M)を測定した。次にこの焼成品を105±5℃に調節した攪拌機付き空気乾燥機に入れ、24時間乾燥させた後に取り出して、JIS K1464に規定するシリカゲルで調湿したデシケーターに入れて、常温まで冷却した後、乾燥重量(M)を測定した。
【0035】
そして、次式により吸水率を求めて吸水性を評価した。
【0036】
β(%)=((M−M)/M)×100
β:吸水率
:乾燥重量(乾燥後の焼成品の重量)
:飽和重量(吸水後の焼成品の重量)
(比重)
焼成品を乾燥させた後、その質量及び体積を測定し、比重を求めた。
【0037】
(曲げ強さ)
曲げ強さをJIS A1408に基づいて測定した。なお、焼成品は大きさ10cm×3cm×0.55cmの板状であり、スパンは8cmである。
【0038】
(結晶化)
X線回折法により結晶化の状態を調べた。
【0039】
(焼結状態)
目視観察により焼結状態の良否等を調べた。
【0040】
上記の特性の調査結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
また、No.6の配合物を用いて得られた成形品については、図2に示す焼成スケジュールCに従って1200℃で焼成を行った。そして、このようにして得られた焼成品について、特性を調査したところ、焼成収縮は全くなく、比重は1程度できわめて軽いことが確認された。
【0043】
なお、本発明は、焼成品を建材等に利用することを主眼に置き、必要とされる仕様が得られるか否かによって焼成材料や焼成温度について検討した結果、得られたものである。しかし、従来技術の多くは、アスベストの無害化処理前にアスベスト含有セメント成形品を粉砕して焼成品の材料とするものであり、焼成後は安全性に問題がなくても、アスベスト含有セメント成形品を粉砕する際にアスベストが飛散して安全性が損なわれるという問題が残る。これに対して、本発明では、焼成品を製造する過程においては、まずできる限りアスベスト含有セメント成形品をそのままの状態で回収し、粉砕することなくアスベストを無害化処理するものであり、その後、この無害化処理したアスベスト含有セメント成形品を粉砕し、この粉砕物を他の焼成材料と共に焼成して焼成品を得るようにしたものであるから、焼成品を製造する過程において、ほとんどアスベストを飛散させることがなく、非常に安全に焼成品を再利用することができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト含有セメント成形品を無害化処理して粉砕して得られた粉粒体と、石炭灰及び蝋石から選ばれるものとが質量比20:80〜80:20の範囲で配合され、1100〜1200℃で焼成されていることを特徴とする焼成品。
【請求項2】
前記アスベスト含有セメント成形品がCaOを25〜50質量%、SiOを35〜55質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の焼成品。
【請求項3】
前記無害化処理が前記アスベスト含有セメント成形品を800〜1100℃で加熱することであることを特徴とする請求項1又は2に記載の焼成品。
【請求項4】
前記加熱がマイクロ波加熱及び外部加熱により行われていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の焼成品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197202(P2012−197202A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62872(P2011−62872)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(503367376)ケイミュー株式会社 (467)
【Fターム(参考)】