説明

焼結体の製造方法

【課題】 誘電体膜形成用のスパッタリングターゲットを得るため、酸化ニオブに酸化珪素や酸化タングステンを加えた系などの酸化物を含む粉末をグラファイト型で熱間加圧焼結する際に、得られる焼結体あるいはグラファイト型の割れをなくすことができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 低熱膨張率の酸化物を含む粉末を、グラファイト型を用いて熱間加圧焼結する焼結体の製造方法において、グラファイト型の割型2と外型3の間に空隙を設け、その空隙内にフラーレン5を充填し、真空雰囲気下で加熱保持してフラーレン5を蒸発消失させた後、熱間加圧焼結する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱膨張率の酸化物を含む粉末をグラファイト型で熱間加圧焼結する焼結体の製造方法、特に相変化型光記録媒体や光学薄膜に使用される誘電体膜形成用のスパッタリングターゲットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に光記録媒体の構造は、第一誘電体膜/記録膜/第二誘電体膜/金属反射膜からなり、これらをプラスチック基板上に順次スパッタリングにより積層して作製される。上記光記録媒体においては、基板側から照射するレーザ光の熱により記録膜を相変化させることで記録を行い、その反射率差の読みとりによって再生が行われる。
【0003】
上記相変化型光記録媒体の読みとりを容易にするためには、記録膜における相変化に伴う屈折率の変化率を大きくする必要があることから、誘電体膜には高屈折率材料が用いられる。高屈折率の誘電体膜としては、例えば、酸化チタンや酸化ニオブのような屈折率(n)が2.0以上の酸化物が一般的に使用され、スパッタリングターゲットを用いて膜形成されている。
【0004】
かかる相変化型光記録媒体の誘電体膜として、例えば特開平11−278936号公報には、ZnS−SiO膜が記載されている。しかし、ZnSは高屈折率を有するが、レーザ光照射の際の加熱により、ZnS中のS成分がAg等の金属反射膜と反応して腐食が起こりやすいため、光記録媒体としての信頼性に欠けるという問題があった。
【0005】
この問題を解決するため、特開2003―013201公報や特開2003―067974公報には、腐食などのない安定した誘電体膜を形成するためのスパッタリングターゲットとして、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素などの高屈折率の酸化物、若しくはこれらに炭化物や窒化物を混合したものが提案されている。
【0006】
しかしながら、上記した高屈折率の酸化物などからなる誘電体膜には、光記録媒体の記録・再生時に発生するレーザ光の熱によって、誘電体膜が割れたり記録膜から剥離したりするという問題が指摘されている。これは、酸化チタンや酸化ニオブ等の誘電体膜の膜質が硬いことや、誘電体膜と記録膜との熱膨脹差が一因であると考えられている。
【0007】
そこで、誘電体膜の割れや剥離を防止する方法として、高屈折率の酸化物からなる誘電体膜に、酸化珪素(SiO)や酸化タングステン(WO)を添加含有させることが盛んに検討されている。即ち、例えば酸化珪素あるいは酸化タングステンを誘電体膜中に含有させることによって、膜自体が柔軟性を示すようになり、記録・再生時の加熱により応力が加わっても、割れや剥離の発生が緩和される効果があると期待されるからである。
【0008】
【特許文献1】特開平11−278936号公報
【特許文献2】特開2003−013201公報
【特許文献3】特開2003−067974公報
【特許文献4】特開平07−233469号公報
【特許文献5】特開平08―283935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した誘電体膜はスパッタリングにより形成され、そのためのスパッタリングターゲットは、高屈折率の酸化物の粉末をグラファイト型により熱間加圧焼結して製造されている。しかし、この酸化物の粉末を熱間加圧焼結すると、焼結体外周に割れが発生しやすく、特に酸化ニオブに酸化珪素あるいは酸化タングステンを加えた系では、焼結体だけでなくグラファイト型にまで割れが発生するという問題があった。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、誘電体膜形成用のスパッタリングターゲットを得るため、酸化ニオブに酸化珪素あるいは酸化タングステンを加えた系などの酸化物を含む粉末をグラファイト型で熱間加圧焼結する際に、得られる焼結体あるいはグラファイト型の割れをなくすことができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、熱間加圧焼結時に焼結体やグラファイト型に発生する割れについて詳しく検討した結果、酸化ニオブなどの酸化物、特に酸化珪素や酸化タングステンの熱膨脹率がグラファイト型に比べて非常に小さいため、焼結後の冷却時に生じる収縮は焼結体に比べてグラファイト型の方が大きくなり、その結果として焼結体が押さえ付けられ、この過度な押え付けによって焼結体やグラファイト型に割れが発生することが判明した。
【0012】
そこで、焼結体やグラファイト型の割れを防ぐためには、グラファイト型の割型と外型の間に、冷却時の収縮を吸収し得るだけの空隙を設けることが有効であると考え、更に検討を重ねた結果、その空隙を型組後の割型と外型の間に冷却時までに形成する手段として、焼結途中の温度で蒸発して消失する物質、特にフラーレンを用いることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0013】
即ち、本発明は、低熱膨張率の酸化物を含む粉末を、グラファイト型を用いて熱間加圧焼結する焼結体の製造方法において、グラファイト型の割型と外型の間に空隙を設け、その空隙にフラーレンを充填し、真空雰囲気下で加熱保持してフラーレンを蒸発消失させた後、熱間加圧焼結することを特徴とする焼結体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高屈折率で低熱膨張率の酸化物の粉末をグラファイト型により熱間加圧焼結する際に、得られる焼結体又はグラファイト型が割れることがなくなり、安定した焼結が可能となる。従って、光記録媒体や光学薄膜に利用される誘電体膜、特に酸化ニオブと酸化珪素あるいは酸化タングステンを含む誘電体膜の形成に使用するスパッタリングターゲットとなる焼結体を、安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
通常、熱間加圧焼結に用いられる型はグラファイトからなり、その熱膨張率は密度や材質によって若干異なるが、500℃時で2〜5×10−6/℃である。一方、誘電体膜として用いる酸化物の熱膨張率は、グラファイトよりも小さく、例えば、酸化ニオブ(Nb)は500℃時で1.2×10−6/℃程度、酸化珪素(SiO)では500℃時で0.6×10−6/℃程度である。
【0016】
そのため、グラファイト型を用いて酸化ニオブなどの酸化物粉末を熱間加圧焼結すると、冷却時の収縮量は焼結体に比べてグラファイト型の方が大きいため、収縮したグラファイト型によって焼結体が押さえ付けられ、焼結体あるいはグラファイト型に割れが発生するのである。特に、酸化ニオブと酸化珪素あるいは酸化タングステンを含む焼結体の場合、あるいは直径150mmを越える大型の焼結体の場合、割れの現象が顕著に現われる。
【0017】
本発明方法では、酸化ニオブなどの酸化物を含む粉末を通常のグラファイト型で熱間加圧焼結する場合に、グラファイト型の割型と外型の間に空隙を設け、その空隙内にフラーレンを充填しておく。例えば、図1〜2に示すように、グラファイト型の割型2と外型3の間に空隙を設け、酸化物粉末1を割型2とスペーサ4の内部に充填し、更に割型2と外型3の間の空隙にフラーレン5を充填したうえで、上パンチ6と下パンチ7で固定する。上記割型2と外型3の間に設ける空隙の幅は、1mm未満ではフラーレンの充填が難しく、また5mmを超えると逆に焼結体の寸法が安定しないため、1〜5mmの範囲が好ましい。
【0018】
次に、上記グラファイト型を、真空雰囲気下で加熱保持することにより、割型2と外型3の間の空隙に充填したフラーレン5を蒸発消失させる。具体的には、10−3torr以下に保たれた真空雰囲気中において、500〜700℃の温度で10〜30分間保持することが好ましい。この加熱保持の間にフラーレンは蒸発して消失するので、割型2と外型3の間に空間が形成される。尚、この時、割型2は上パンチ6と下パンチ7で、特に上パンチ6の外周爪部で固定されているため、割型2の外側に空間ができても所定の形状を保持することができる。
【0019】
その後、通常のごとく酸化物粉末1の熱間加圧焼結を行う。例えば、真空雰囲気中または500torr以下の不活性ガス雰囲気中において、上パンチ6と下パンチ7で15MPa以上、好ましくは25〜35MPaの加圧力を加えながら、昇温速度5〜20℃/分で加熱し、1000〜1200℃で焼結する。焼結温度が1000℃未満では焼結密度が高まらず、1200℃を越えると高屈折率相、特にNbとグラファイトが反応するため好ましくない。また、焼結保持時間は0.5〜3時間が好ましい。
【0020】
上記熱間加圧焼結によって、グラファイト型の割型2とスペーサ4の内部に充填された酸化物粉末1は焼結され、スパッタリングターゲットなどの所定形状の焼結体となる。焼結後の冷却過程において、焼結体に比べて熱膨張率が大きいグラファイト型の割型2の方が大きく収縮するが、割型2と外型3の間にフラーレン5の消失により形成された空間が存在しているため、焼結体が押さえ付けられることはなく、従って焼結体やグラファイト型の割れを防ぐことができる。焼結終了後、上パンチ6を上昇させ、割型2を取り外して焼結体を回収する。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
平均粒径2μmのNb粉末(三井金属製)に、粒径5〜50μm(平均粒径16μm)の真球状SiO粉末(旭ガラス製)を20重量%加え、直径10mmのZrOボールを用いてボールミル(回転数100rpm)で6時間の解砕を行った。
【0022】
得られた混合粉末を、グラファイト型に充填した。即ち、外径81mmで内径75mmの2つ割型と、内径85mmの外型とからなるグラファイト型を用い、その割型とスペーサとの内部に上記混合粉末を充填した。また、割型と外型の間の空隙(幅2mm)には、フラーレン(フロンティアカーボン社製、商品名ナノムミックス)を充填した。
【0023】
その後、10−3torr以下の真空雰囲気中において、10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱し、600℃で30分保持することにより、割型と外型の間の空隙に充填したフラーレンを蒸発させた。引き続き、10℃/分の昇温速度で加熱し、35MPaの圧力を加えながら、1100℃で1時間の焼結を行い、直径75mm×厚さ6mmのNb−SiO系焼結体を得た。
【0024】
上記の操作を4回繰り返して、4個の焼結体を製造した。その結果、得られた4個のNb−SiO系焼結体、並びにグラファイト型には、いずれも割れは発生しなかった。
【0025】
[実施例2]
平均粒径2μmのNb粉末(三井金属製)に、最大粒径3μmWO粉末(関東化学製)を1モル%加え、直径10mmのZrOボールを用いてボールミル(回転数100rpm)で12時間の解砕を行った。上記以外は実施例1と同様にして、4個の焼結体を製造した。
【0026】
その結果、得られた4個のNb−WO系焼結体、並びにグラファイト型には、いずれも割れは発生しなかった。また、得られたNb−WO系焼結体の抵抗を四探針法(三菱化学製、MCP−T250)で測定したところ、得られた比抵抗値は0.2Ωcmであり、DCスパッタリングのターゲットとして良好なものであることが分った。
【0027】
[比較例1]
内径81.5mmの外型を用い、割型と外型の間(幅0.25mm)にフラーレンを充填しなかった以外は上記実施例1と同様にして、4回の操作を繰り返し、4個のNb−SiO系焼結体を製造した。
【0028】
その結果、4回の操作中3回は割型を外型から抜き取ることができず、1回は割型及び焼結体の両方に割れが発生した。
【0029】
[比較例2]
平均粒径2μmのNb粉末(三井金属製)に、最大粒径3μmWO粉末(関東化学製)を1モル%加え、直径10mmのZrOボールを用いてボールミル(回転数100rpm)で12時間の解砕を行った。この粉末を用いた以外は上記比較例1と同様にして、4個のNb−WO系焼結体を製造した。
【0030】
その結果、4回の操作中4回とも割型を外型から抜き取ることができず、しかも3回は割型及び焼結体の両方に割れが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明方法を実施するためのグラファイト型を示す概略の断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った概略の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 酸化物粉末
2 割型
3 外型
4 スペーサ
5 フラーレン
6 上パンチ
7 下パンチ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
低熱膨張率の酸化物を含む粉末を、グラファイト型を用いて熱間加圧焼結する焼結体の製造方法において、グラファイト型の割型と外型の間に空隙を設け、その空隙にフラーレンを充填し、真空雰囲気下で加熱保持してフラーレンを蒸発消失させた後、熱間加圧焼結することを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記空隙の幅が1〜5mmの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記加熱保持の工程において、500〜700℃の温度で10〜30分間保持することを特徴とする、請求項1又は2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記焼結体が、酸化ニオブと酸化珪素あるいは酸化ニオブと酸化タングステンを含む誘電体膜形成用のスパッタリングターゲットであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の焼結体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−37702(P2008−37702A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214060(P2006−214060)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】