説明

照射量モニタ及び照射量測定方法

【課題】 特に重合、架橋、グラフト、殺菌、滅菌、印刷インキ定着等に利用される300keV程度以下の低エネルギー電子線等の荷電ビームの照射量を、発熱を防止しつつ、また高コスト化することなく、正確にかつ高速で測定することができる照射量モニタ及び照射量測定方法を提供する。
【解決手段】 シリコン基板2上に、高抵抗ダイヤモンド層1が形成されており、その電子線照射領域は基板2が除去されて、ダイヤモンド層1のみが単独で存在する。この電子線照射領域におけるダイヤモンド層1の表裏両面に電極3及び4が形成されている。各電極3,4には、夫々導線5、6が接続されており、導線5,6を介して電極3,4にバイアス電圧を印加するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド薄膜を使用し電子線等の荷電ビームの照射量を測定する照射量モニタ及び照射量測定方法に関し、特に、重合、架橋、グラフト、殺菌、滅菌、印刷インキ定着等に利用される300keV程度以下の低エネルギー電子線の照射量を測定するのに好適の照射量モニタ及び照射量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、産業界において電子線の利用が注目を集めている。電子線の利用の形態は極めて多岐にわたり、反応に必要なエネルギーを低温で被照射物に与えることが可能なため、重合、架橋、グラフト、殺菌、滅菌、印刷インキ定着等の分野で利用が盛んである。
【0003】
ところで、電子線等の加工処理において、一定の照射効果を得るためにその照射量を測定することは重要である。電子線の場合、物質中に入射した際に、多数存在する核外電子と相互作用し、物質内に2次電子を発生させる。この物質中に発生した2次電子の平均的なエネルギーは各物質により決まっており、例えば2次電子の平均エネルギーが100eVとすると、200keVの入射電子線からは約2000個の2次電子が発生する。実際にイオン化及び励起反応に寄与するのはこの2次電子であり、入射した電子のエネルギー及び電流値そのものではなく、この「吸収線量」、略して「線量」を測定することが必要である。吸収線量は放射線照射において、物質が単位質量あたり吸収したエネルギーとしてグレイという単位で表される。なお、本明細書では照射量を上述の「吸収線量」の意味で用いている。
【0004】
電子ビームの照射量を測定によって求めるには線量計を用いる。線量計にはエネルギー量が電離電流に基づく一次線量計と、放射線照射により引き起こされる化学変化又は物理作用等に着目し、その測定結果を線量と対応させることによる二次線量計とがあるが、産業界ではもっぱら手軽に利用可能なフィルムを用いた線量計が利用されている。このような線量計には、例えば、三酢酸セルロース線量計、ポリエチレンテレフタレート線量計及びポリメチルメタクリレート線量計等がある。
【0005】
このようなフィルムを用いた線量計は手軽に扱え、極めて便利であるが、フィルムによっては紫外線に反応することと、湿度が感度に影響を与える等の不都合がある。
【0006】
また、その測定は、長時間電子線を照射した後、フィルムを取り出し、分光光度計又は専用リーダーによる別工程での測定が必要なため、1回の測定にかかる時間が長く、このため、例えば工場のラインで逐次モニタリングすることは不可能である。また、このフィルムを使用した線量計により吸収線量を測定する方法では、その線量計に故障が発生した際に、フィルムを取り出して別工程で測定して始めて故障が判明するため、故障が判明するまでの間、長い時間がかかり、その間に、この電子線を利用した製品の製造工程において、大量の不良品が発生するおそれがある。更に、フィルムを使用した線量計は、その測定が分光光度から決定されるため、定量性に劣るという問題点もある。
【0007】
フィルムを使用しない電子線量の測定装置として、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献1には、電子線を出力する電子管の窓の外側近傍に電流検出部を設け、この電流検出部を導電体であるステンレス、銅、アルミニウム、半導体シリコン、ゲルマニウム又は化合物半導体等により構成し、電子線の一部の電子をこの電流検出部で検出することにより電子線量を測定する装置が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、同様に、電子線管の電子線を出射する窓の近傍であって電子線の行路上に電流検出部を配置し、この電流検出部として、アルミニウムからなる基材と、それを覆うAlからなる絶縁膜と、SiOからなる絶縁膜とを備えたものが開示されている。
【0009】
更に、近時、放射線の分野では耐久性の高いダイヤモンドを用いた計測が試みられている。非特許文献1によると単結晶ダイヤモンド上にエピタキシャル成長させたダイヤモンド層を用いてα線を測定した結果が示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2001−221898号公報(請求項1,段落0014、図2)
【特許文献2】特開2004−257869号公報(請求項1、図2)
【非特許文献1】金子ら、「ニューダイヤモンド」、第74号,Vol.20,No.3,平成16年7月25日号,p.18−p.23
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1及び2に開示された電子線量検出器においては以下のような問題が生じる。即ち、電子線管より出射された電子は電流検知部で電流に変換されるが、入射した電子がそのまま電流になるため、測定される電流は電子のエネルギーに依存しない。一方、化学反応に寄与する固体中で発生する前述の2次電子の数はエネルギーによって大きく異なり、エネルギーが大きな電子ビームを用いると反応は早く完了する。つまり、従来技術においては、電流量を一定に制御しても、反応が十分に行われないおそれが生じる。加えて、一般に、電子ビームは空気中を透過する際に、プラズマ化及び空気中の分子との衝突でエネルギーを失い、ワーク表面に到達する電子のエネルギーは電子線管から出射した状態から大きく減少することが予想され、正確な測定を行うことは困難となる。
【0012】
また、非特許文献1に記載された単結晶ダイヤモンド上にエピタキシャル成長させたダイヤモンド層を電子線照射量の測定にそのまま用いることは困難である。なぜなら、このような単結晶ダイヤモンドは極めて高価であり、またその大きさが限られており、産業用に用いるにはコストが高すぎるからである。また、α線はダイヤモンド中約20μm程度侵入するが、電子線では例えば300keVでは100μm以上侵入し、そのような侵入長と同程度の厚さを持つダイヤモンド膜を合成するには、極めて長時間の合成が必要で、実用的ではないからである。加えて、一つ一つのα線を検知する放射線分野とは異なり、産業界では大電流の電子ビームが使用される。このため、素子が過熱し、破損に至るおそれもある。
【0013】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、特に重合、架橋、グラフト、殺菌、滅菌、印刷インキ定着等に利用される300keV程度以下の低エネルギー電子線等の荷電ビームの照射量を、発熱を防止しつつ、また高コスト化することなく、正確にかつ高速で測定することができる照射量モニタ及び照射量測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願第1発明に係る照射量モニタは、ダイヤモンド層からなる荷電ビームの検知層と、この検知層の両面又は一方の面に形成され前記検知層における前記荷電ビームが照射される領域の少なくとも一部にバイアス電界を印加する1対の電極とを有し、前記検知層は、少なくとも前記荷電ビームが照射される領域には、基材が設けられていないことを特徴とする。
【0015】
この照射量モニタにおいて、前記検知層における前記荷電ビームが照射される領域のビーム照射側の表面には、前記荷電ビームを減速する減速材が設けられていることが好ましい。
【0016】
また、前記減速材は導電性を有し、前記荷電ビームのビーム電流検知用の電極を兼ねているように構成することができる。
【0017】
更に、前記検知層における前記荷電ビームが照射される領域には、前記荷電ビームのビーム電流検出用の電極が設けられているように構成することができる。
【0018】
本願第2発明に係る照射量モニタは、ダイヤモンド層からなる荷電ビームの検知層と、この検知層の両面又は一方の面に形成され前記検知層における前記荷電ビームが照射される領域の少なくとも一部にバイアス電界を印加する1対の電極と、前記検知層における前記荷電ビームが照射される領域のビーム照射側の表面に設けられ前記荷電ビームを減速する減速材と、を有することを特徴とする。
【0019】
この照射量モニタにおいて、前記減速材は導電性を有し、前記荷電ビームのビーム電流検知用の電極を兼ねていることが好ましい。
【0020】
また、前記検知層における前記荷電ビームが照射される領域には、前記荷電ビームのビーム電流検出用の電極が設けられているように構成することができる。
【0021】
これらの照射量モニタにおいて、前記荷電ビームは、例えば、電子線ビームである。また、前記ダイヤモンド層の表面に2次電子放出効率が低い材料がコーティングされていることが好ましい。更に、前記ダイヤモンド層は、気相合成された多結晶ダイヤモンドにより形成されていることが好ましい。更にまた、前記ダイヤモンド層は、表面が(001)面で覆われ、結晶粒子が基板面に対して垂直な一軸方向に配向していると共に、結晶面が面内でも配向している高配向性ダイヤモンド層であることが好ましい。
【0022】
この場合に、ダイヤモンドの粒径が1μm以下であるか、又はダイヤモンドの粒径が10μm以上であることが好ましい。更に、前記1対の電極のうち少なくとも一方は、ホウ素が5×1019cm−3以上添加されたP型半導体ダイヤモンドにより形成されていることが好ましい。
【0023】
本願第3発明に係る照射量測定方法は、前記いずれかの照射量モニタの前記1対の電極間に入射ビームが通過する領域に交わるようにバイアス電界を印加する工程と、前記入射ビームが前記検知層を通過する際に生成したキャリアを前記バイアス電界によって前記電極にて捕集し、得られた電流値に基づき入射した荷電ビームの照射量を決定する工程とを有することを特徴とする。
【0024】
本願第4発明に係る照射量測定方法は、ビーム電流検知用電極又はその機能を有する減速材を備えた照射量モニタにおいて、その前記1対の電極間に入射ビームが通過する領域に交わるようにバイアス電界を印加する工程と、前記入射ビームが前記検知層を通過する際に生成したキャリアを前記バイアス電界によって前記電極にて捕集し、得られた電流値に基づき入射した荷電ビームの照射量を決定する工程と、求められた照射量と電子ビーム照射量モニタを構成するビーム電流検知用の電極から得られた電流量から入射した荷電ビームの平均加速エネルギーを求める工程と有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、検知層をダイヤモンドにより形成しているため、耐久性が優れていると共に、熱損傷のない安定な測定が可能な照射量モニタ及び照射量測定方法を得ることができる。また、低コストの高配向性ダイヤモンド膜又は多結晶ダイヤモンド膜を使用できるので、装置コストが低く、これにより、照射量モニタの実用範囲が広がり、新たな応用分野を開拓できると共に、電子線を利用する産業分野の発展に多大の貢献をなすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の第1実施形態の照射量モニタを示す断面図であり、(a)は上面図、(b)は正面断面図、(c)は底面図である。円形のシリコン基板2上に、円形の高抵抗ダイヤモンド層1が形成されており、このダイヤモンド層1の電子線照射領域(中心部円形領域)においては、基板2が円形に除去されて、ダイヤモンド層1のみが単独で存在する。但し、この電子線照射領域において、そのダイヤモンド層1の一部の表裏両面に、同様に円形の電極3及び4が形成されている。各電極3,4には、夫々リード線5、6が接続されており、リード線5,6を介して電極3,4にバイアス電圧を印加するようになっている。なお、ダイヤモンド層1のみが存在する構造は、シリコン基板2上にダイヤモンド層1を形成した後、シリコン基板2を除去すべき領域以外の領域をマスキングし、その後、これをフッ硝酸等のエッチング溶液に浸漬することにより、マスキングされていない部分のシリコン基板2のみが除去され、電子線照射領域の周囲をシリコン基板2に支持され、電子線照射領域にはシリコン基板2が存在しないダイヤモンド層1が得られる。また、高抵抗ダイヤモンド層1は、不純物をドーピングしていないダイヤモンド層のことであり、例えば、その抵抗値が10Ωcm、更に好ましくは1012Ωcm以上である。
【0027】
次に、上述の如く構成された電子線照射量モニタの動作について説明する。先ず、照射量を測定しようとする電子線のビームをダイヤモンド層1における基板2が除去された照射領域に図の下方から入射させる。この電子線ビームは、この基板2が存在しない領域において、ダイヤモンド層1を通過する。そして、1対の電極3,4間に電圧を印加して、入射ビームが通過する領域のダイヤモンド層1内にバイアス電界を形成する。そうすると、高抵抗ダイヤモンド層1に入射した電子線ビームがダイヤモンド層1を通過する際にキャリアが生成し、この生成したキャリアが前記バイアス電界によって電極3,4にて補集されて、電極3,4間に電流が流れる。この電流をリード線5,6により外部に導出し、電流値を測定する。そして、得られた電流値に基づき入射した電子線照射量を決定する。この場合に、電子線の照射量と、検出される電流値との関係を、種々の照射量について予め求めておき、所定の校正曲線を得ておくことにより、得られた電流値に基づいて入射した電子線の照射量を認識することが可能である。
【0028】
本発明における検知層としてのダイヤモンド層1は、公知の方法により形成することができるが、特に、制御性が優れ、低コストで安定してダイヤモンド膜を製造可能であるプラズマを使用した化学気相蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)法により合成された多結晶ダイヤモンド膜であることが、工業的に好ましい。一般に、気相合成されたダイヤモンド膜は多結晶であるが、本発明のダイヤモンド層1は、表面がダイヤモンドの(001)面により形成され、結晶粒子が基板面に垂直な一軸方向に配向していると共に、結晶面が面内でも配向している高配向性ダイヤモンド膜であることがより好ましい。この高配向性ダイヤモンド膜は、広義には多結晶膜に分類されるが、結晶粒子の成長方向及び面内方向が共に一定方向に配向し、表面は平坦な(001)ファセットが並ぶ特徴的な表面形態をとっているため、通常の多結晶膜に比べて、表面近傍における結晶欠陥密度が小さい。このため、キャリア移動度が1桁程度大きく、良好な検知特性が得られる。
【0029】
なお、ダイヤモンドの粒径は1μm以下、更に好ましくは0.01μm以上、0.1μm以下であることが望ましい。このような粒径とすることで、電子線照射時の発熱により、膜中に不均等にストレスが発生して素子が破損することを防ぐことが可能となる。また、ダイヤモンドの粒径は10μm以上であってもよい。更に好ましくは、ダイヤモンドの粒径は30μm以上、100μm以下である。このような粒径を持つダイヤモンドは電気的特性を阻害する粒界の影響が小さいので高出力の信号を得ることが可能となる。即ち、小さい電流値でモニタが可能であり、モニタの耐久性を向上させることが可能である。
【0030】
更に、信号を取り出す電極3,4は、金、白金又はアルミニウム等の一般的な金属により形成することができる。その形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法及びCVD法等の公知の方法を利用することができる。又は、極めて高い濃度でB等の不純物がドーピングされた極めて低抵抗な導電性ダイヤモンドにより形成してもよい。なお、電極3,4を、Bがドーピングされた導電性ダイヤモンドにより形成する場合は、Bのドーピング濃度を、活性化エネルギーが低下し始めて活性率が向上する5×1019cm―3以上、更に好ましくは活性化率がほぼ100%となり温度依存性を持たず、更に一層低抵抗となる3×1020cm−3以上、1×1022cm−3以下とすることが好ましい。
【0031】
本発明でまず重要な点は、熱伝導率が高いダイヤモンド層1を電子ビームの検知層に使用することで、これにより電子ビームによる発熱を速やかに逃がし、照射量モニタの破損を防ぐことが可能となる。更に、本願発明者等は、上述の電子の侵入長に拘わらず、ダイヤモンド層を通過する電子線の加速電圧とビーム電流に応じて照射量が計測可能であることを見いだした。これに基づくと、電子線の侵入長より薄いダイヤモンド層を用いることが可能となる。なお、その際は多くの高いエネルギーの電子線がモニタを透過するが、この電子線が透過する電子線照射領域においては、熱伝導率が劣る基材材料であるシリコン基板2が存在しないので、このシリコン基板2等を異常加熱することが回避される。これにより、透過する電子線による異常な加熱を防止することができる。ダイヤモンド層1の膜厚は、基板2に支持されずダイヤモンド層1が単独で存在するような構造を得るためには、1μm以上であることが望ましい。一方、ダイヤモンド層1を厚くしようとすると、ダイヤモンド層1の形成に時間がかかり、製造コストが上昇するため、ダイヤモンド層1の厚さは50μm以下が好ましく、更に好ましくは20μm以下が適切である。
【0032】
次に重要な点は、本モニタでは、バイアス電界を印加する1対の電極を有し、ダイヤモンド内に発生するキャリアを測定する点である。ダイヤモンド内では約15eVでダイヤモンド内に電子一正孔対が形成される。従って、例えば150keVの電子ビームが入射した場合、収集効率が100%であるとすると1万個(収集効率10%で1000個)のキャリアが発生する。これは、1個の電子が1万倍に増幅されたことを意味し、高感度での測定が可能となる。更に、特許文献1などで指摘されている精密な測定を阻害する要因である浮遊電荷などはエネルギーが低い。このため、浮遊電荷が、例えダイヤモンド内に侵入したとしても、浮遊電荷に起因してダイヤモンド内で発生するキャリアの数は電子ビーム入射時にダイヤモンド内に発生するキャリアに比べてわずかであるため、測定電流に対する影響は極めて小さい。よって、本発明では浮遊電荷の影響もなく、精密な測定が可能となる。
【0033】
図2は本発明の第2実施形態に係る照射量モニタを示す断面図であり、(a)は上面図、(b)は正面断面図である。本実施形態においては、櫛歯状の電極3a,4aがいずれもダイヤモンド層1の上面上に形成されており、電子ビームが照射される側のダイヤモンド層1の表面には、電極が存在しない。この電極3a、4aは櫛歯が相互に噛み合うような平面形状で、ダイヤモンド層1上に配置されている。
【0034】
本実施形態においても、同様に電極3,4間に電圧を印加することにより、ダイヤモンド層1を通過するバイアス電界を形成する。これにより、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。但し、本実施形態においては、バイアス電界を形成するための電極3,4の対向面積を増加して、感度を向上させるために、電極3,4は櫛形等の形状することが好ましい。
【0035】
次に、図3を参照して本発明の第3実施形態について説明する。図3において、(a)は正面断面図、(b)は底面図である。本実施形態は、第2実施形態の照射量モニタと同様に、ダイヤモンド層1の上面上に、櫛歯状の電極3a、4aを設けると共に、更に、ダイヤモンド層1における電子ビームが照射される側の表面(下面)に、円形のグラファイトからなる減速材7を設けたものである。これにより、照射領域に入射する高エネルギの電子ビームは、先ず、減速材7を通過してその速度が減速される。このため、第1及び第2実施形態と異なり、ダイヤモンド層1を透過してしまう電子ビームの割合が少なくなり、ダイヤモンド層1内に吸収される電荷量が多くなる。
【0036】
このように、ダイヤモンド層1の厚さが薄い場合、又は、電子線の加速電圧が高い場合等に、高いエネルギーの電子線がダイヤモンド層1中を透過し、検知効率が減少するおそれがあるが、上述のように減速材7を設けることにより、これを防止することができる。 減速材7の材質はチャージアップを防ぎ、また、熱による破損を避けるために、導電性を有し、機械的強度が高く、更に熱伝導率が高い材料が好ましい。このような材料には、チタン、金、アルミニウム、白金及びシリコン等があり、対象となる電子線の最低の加速電圧の電子ビームの透過率がほぼゼロとなる厚さを有することが好ましい。例えば、加速電圧50〜300kVの電子線を対象とする場合には、低元素で10μm〜1mm、より好ましくは、20〜500μm、重元素で1〜20μm、より好ましくは、2〜10μmの範囲が好ましい。
【0037】
次に、図4を参照して本発明の第4実施形態について説明する。図4はこの第4実施形態の照射量モニタの底面図である。本実施形態においては、第3実施形態と、減速材7aがアルミニウムのような導電性物質で形成されており、電子ビームのビーム電流検知用の電極を兼ねている点のみが異なる。このビーム検知用電極としての減速材7aにリード線8が接続され、減速材7aに入射した電子ビーム電流がリード線8を介して外部に導出され、ビーム電流が検出される。
【0038】
本実施形態においては、減速材7a側から電子ビームをダイヤモンド層1に照射すると、第1乃至第3実施形態と同様に、電極3a,4a間に形成されるバイアス電界により、電子ビームが高抵抗ダイヤモンド層1に入射したときに発生するキャリアを捕捉し、電流として検出する。これにより、電子ビームの照射量(「吸収線量」)を求めることができる。更に、本実施形態では、減速材7に入射した電子ビームのビーム電流を導電性の減速材7aからリード線8を介して取り出すので、この入射電子ビームのビーム電流を測定することができる。
【0039】
本実施形態においては、このように、入射電子線の照射量とビーム電流を同時に検知する。これにより、得られた入射電子線の照射量とビーム電流から入射電子線の平均エネルギーを求めることが可能となる。一般に産業界における電子線照射では、電子線を大気中に取り出して被照射物に照射を行う。このため、空気の散乱及び吸収により被照射物における実際の入射エネルギーは電子ビーム発生装置における加速電圧と異なることが多く、平均エネルギーの推定は極めて重要になる。このため、本実施形態のように、電子ビームの照射量と、電子ビームのビーム電流とを測定することは、入射電子線の平均エネルギを求めることができるため、極めて有益である。
【0040】
なお、この電子ビーム電流を測定する方法は、本実施形態のように、減速材7aを兼ねる電極をダイヤモンド層1の表面に設ける場合に限らず、減速材の他にビーム電流検知用電極を設けてもよいし、また、照射量検知用の電極3a,4aの一方又は双方と、アースとの間を流れる電流を測定する方法もある。電極3a,4aの双方を使用する場合は、両電極を結合する。また、ダイヤモンド層1を透過した電子線を素子の背面又は基材で検知する等の方法もある。しかし、本実施形態のように、照射量検知用の電極の他に電極を設ける場合には、減速材7aを導電性を有するものとし、減速材7aがビーム電流の検知用の電極を兼ねているように構成することにより、装置全体の小型化が可能である。また、多くの電子をこの減速材7aで吸収することが可能であるので、より熱等のダメージが素子に印加されなくなり、好都合である。
【0041】
図5は本発明の第5実施形態を示す正面断面図である。本実施形態は、図3に示す第3実施形態に対し、ダイヤモンド層1の表面、及び電極3a,4aの表面上を、2次電子放出効率が低い材料からなる膜9で被覆したものである。このように、低2次電子放出効率材料膜9をダイヤモンド層1の上に形成することにより、ダイヤモンド層1から大気中への2次電子放出量が低減され、測定感度が向上し、正確な測定が可能となる。なお、この低2次電子放出効率材料膜9は、減速材7の表面上にも形成してもよく、また、全面ではなく、この照射量モニタの両面又は片面の一部又は全部に形成すれば良い。このような2次電子放出効率が低い材料としては、例えば、グラファイト及びアルミニウムがある。この2次電子放出効率が低い被覆層の厚さは、10nm〜5μmが好ましい。
【0042】
以上のように、本実施形態の照射量モニタは、検知部がダイヤモンド層1により形成されているため、耐久性が優れており、電子線以外の荷電ビーム、例えば、加速粒子等のエネルギーが高いビームの測定にも適用することができる。また、ダイヤモンド層1の電子ビームが照射される領域には、基材が存在しないので、大電流の電子線に対しても過熱による破損がないモニタを得ることが可能である。また、本発明においては、単結晶ダイヤモンド膜ではなく、多結晶ダイヤモンド膜、又は多結晶ダイヤモンドではあるが、結晶の配向性が優れた高配向性ダイヤモンド膜を使用できるので、モニタの低コスト化が可能である。
【実施例1】
【0043】
以下、本発明の効果について実証するための実施例について説明する。本発明の実施例1として、図1に示す照射量モニタを作製した。先ず、シリコン基板2に対し、数10μm径のダイヤモンド粉末のエタノール混濁液中で超音波を印加することにより、核発生促進処理を行う。基板2に付着しているダイヤモンド粒子を洗い流した後、基板2をマイクロ波プラズマCVD装置のステンレス製の反応容器内に裝入し、マイクロ波プラズマCVDにより、ダイヤモンド層1を成膜した。このとき、例えば、原料ガスはメタンを1%、水素を99%含むものとし、8時間の成膜で厚さが20μmの多結晶ダイヤモンド層1が得られた。次に、ダイヤモンド層1を200℃のクロム酸硫酸飽和溶液中で表面洗浄し、次に100℃の王水中で表面洗浄した。その後、シリコン基板2の裏面をカプトンテープで保護し、フッ硝酸に浸漬(ディッピング)し、電子線が透過する領域のシリコン基板2を除去した。その後、メタルマスクを介してアルミニウムの電極3,4を真空蒸着により形成した。このようにして完成した照射量モニタを、素子台に設置するとともに、電極3,4間に100Vの電圧を印加し、大気中で300keVの電子線を照射し、発生する電流をピコアンメータで測定した。その結果、電子ビームを照射した際にのみ電流が観察された。加速電圧及びビーム電流を変化させて、電流を測定し、夫々比例して変化することを確認した。
【実施例2】
【0044】
次に、図3に示す減速材7を有する照射量モニタを作成した。この照射量モニタは、高配向性ダイヤモンド膜を使用したものである。先ず、縦が30mm、横が30mmが、表面が(001)面である低抵抗シリコン基板を、メタンと水素との混合プラズマに曝して表面を炭化した。引き続きバイアスを印加して基板とエピタキシャルな関係にあるダイヤモンド核を形成した。その後、バイアス印加を止め、メタンと水素との混合ガスを使用して、(001)面が優先的に成長される条件で、20時間ダイヤモンドを成膜した。これにより、低抵抗シリコン基板上に、高抵抗ダイヤモンド層1として表面が(001)面であり、ダイヤモンドの粒径が2〜3μmの結晶粒子が一定方向に配列した高配向性ダイヤモンド膜が約10μmの厚さに形成された。
【0045】
次に、重クロム酸で洗浄して表面に付着したダイヤモンド以外の炭素成分を除去した後、硫酸でリンスし、更に、純水で洗浄した。そして、フォトリソグラフィにより高配向性ダイヤモンド膜上にレジストを信号取り出しの電極3a,4aの形状にパターニングした後、マグネトロンスパッタリング法により白金をスパッタし、更に、リフトオフ法により、信号取り出し用電極3a,4aを形成した。実施例2で使用した電極パターンは電極間距離10μmの櫛形パターンである。最後に実施例1と同様にフッ硝酸によるシリコン基板の除去を行うとともに、厚さ300μmのアルミニウムからなる減速材7をダイヤモンド層1の下面に接着した。減速材7には金リードからなるリード線8をボンディングし、電流の取り出しを行った。同じく300keVの電子線をダイヤモンド層1に照射したところ、厚さが10μmと薄いのにも拘わらず、S/N比が高い信号が得られた。
【実施例3】
【0046】
最後に、本発明の実施例3として、図3に示す照射量モニタを作製した。作製方法は実施例2と同様であるが、電極3a,4aには高濃度に約1×1020cm−3ドーピングされた半導体ダイヤモンドを用いた。高配向性ダイヤモンド層1の表面全体にレジストを塗布した後、フォトリソグラフィにより電流分配層に相当する低抵抗ダイヤモンド層を形成する領域以外の部分のフォトレジストを除去した。次に、スパッタ法により高配向性ダイヤモンド層1上にSiO膜を成膜した後、前記レジストを除去した。これにより、電極領域の半導体ダイヤモンド層を形成する領域にのみ高配向性ダイヤモンド層1が露出し、それ以外の領域はSiO膜で覆われた状態にした。そして、この試料を反応容器に移し、原料ガスとしてメタンと水素との混合ガスを使用し、更に、ドーピングガスとしてジボランをB/C(ボロン/炭素)比で10000ppm添加し、プラズマCVD法により20分間合成した。これにより、低抵抗ダイヤモンド層である半導体ダイヤモンド膜が基板2上には形成されず、高配向性ダイヤモンド層1が露出している部分にのみ形成された。その後、試料をフッ酸に浸漬してSiO膜を選択的に除去することにより、選択的に低抵抗ダイヤモンド層(半導体ダイヤモンド膜)が残存形成された。その後の工程は実施例1,2と同様であり、これにより温度上昇及び繰り返し昇温等にも各膜が剥離せず、更に耐久性が優れた照射量モニタを作製できた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態の照射量モニタを示す断面図であり、(a)は上面図、(b)は正面断面図、(c)は底面図である。
【図2】本発明の第2実施形態の照射量モニタを示す断面図であり、(a)は上面図、(b)は正面断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態の照射量モニタを示す断面図であり、(a)は正面断面図、(b)は底面図である。
【図4】本発明の第4実施形態の照射量モニタを示す断面図である。
【図5】本発明の第5実施形態の照射量モニタを示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ダイヤモンド層
2 シリコン基板
3,4、3a、4a 電極
5,6 リード線
7、7a 減速材
8 リード線
9 低2次電子放出効率材料膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド層からなる荷電ビームの検知層と、この検知層の両面又は一方の面に形成され前記検知層における前記荷電ビームが照射される領域の少なくとも一部にバイアス電界を印加する1対の電極とを有し、前記検知層は、少なくとも前記荷電ビームが照射される領域には、基材が設けられていないことを特徴とする照射量モニタ。
【請求項2】
前記検知層における前記荷電ビームが照射される領域のビーム照射側の表面には、前記荷電ビームを減速する減速材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の照射量モニタ。
【請求項3】
前記減速材は導電性を有し、前記荷電ビームのビーム電流検知用の電極を兼ねていることを特徴とする請求項2に記載の照射量モニタ。
【請求項4】
前記検知層における前記荷電ビームが照射される領域には、前記荷電ビームのビーム電流検出用の電極が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の照射量モニタ。
【請求項5】
ダイヤモンド層からなる荷電ビームの検知層と、この検知層の両面又は一方の面に形成され前記検知層における前記荷電ビームが照射される領域の少なくとも一部にバイアス電界を印加する1対の電極と、前記検知層における前記荷電ビームが照射される領域のビーム照射側の表面に設けられ前記荷電ビームを減速する減速材と、を有することを特徴とする照射量モニタ。
【請求項6】
前記減速材は導電性を有し、前記荷電ビームのビーム電流検知用の電極を兼ねていることを特徴とする請求項4に記載の照射量モニタ。
【請求項7】
前記検知層における前記荷電ビームが照射される領域には、前記荷電ビームのビーム電流検出用の電極が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の照射量モニタ。
【請求項8】
前記荷電ビームは電子線ビームであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の照射量モニタ。
【請求項9】
前記ダイヤモンド層の表面に2次電子放出効率が低い材料がコーティングされていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の照射量モニタ。
【請求項10】
前記ダイヤモンド層は、気相合成された多結晶ダイヤモンドにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の照射量モニタ。
【請求項11】
前記ダイヤモンド層は、表面が(001)面で覆われ、結晶粒子が基板面に対して垂直な一軸方向に配向していると共に、結晶面が面内でも配向している高配向性ダイヤモンド層であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の照射量モニタ。
【請求項12】
ダイヤモンドの粒径が1μm以下であることを特徴とする請求項10又は11に記載の照射量モニタ。
【請求項13】
ダイヤモンドの粒径が10μm以上であることを特徴とする請求項10又は11に記載の照射量モニタ。
【請求項14】
前記1対の電極のうち少なくとも一方は、ホウ素が5×1019cm−3以上添加されたP型半導体ダイヤモンドにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の照射量モニタ。
【請求項15】
前記請求項1乃至14のいずれか1項に記載の照射量モニタの前記1対の電極間に入射ビームが通過する領域に交わるようにバイアス電界を印加する工程と、前記入射ビームが前記検知層を通過する際に生成したキャリアを前記バイアス電界によって前記電極にて捕集し、得られた電流値に基づき入射した荷電ビームの照射量を決定する工程とを有することを特徴とする照射量測定方法。
【請求項16】
前記請求項3,4,6及び7のいずれか1項に記載の照射量モニタの前記1対の電極間に入射ビームが通過する領域に交わるようにバイアス電界を印加する工程と、前記入射ビームが前記検知層を通過する際に生成したキャリアを前記バイアス電界によって前記電極にて捕集し、得られた電流値に基づき入射した荷電ビームの照射量を決定する工程と、求められた照射量と電子ビーム照射量モニタを構成するビーム電流検知用の電極から得られた電流量から入射した荷電ビームの平均加速エネルギーを求める工程と有することを特徴とする照射量測定方法。
【請求項17】
前記荷電ビームは電子線ビームであることを特徴とする請求項15又は16に記載の照射量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−59314(P2007−59314A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245791(P2005−245791)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】