説明

照明光学系及び照明装置

【課題】照明光の均一性を確保しながら小型で安価な照明光学系及び照明装置を提供する。
【解決手段】照明装置10に用いられる照明光学系30は、光源20からの光を略平行光に変換するコレクタレンズ31と、複数の単位レンズを各レンズ面の頂点が同一平面上に位置するように配置してなるフライアイレンズ32と、フライアイレンズ32を構成する単位レンズの射出面の各々に形成された光源20の像からの光を自由曲面形状に形成された反射面で反射させて被照射面に照射する曲面鏡33と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明光学系及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラの高画素化に伴って高画質の映像が得られるようになってきた。また、顕微鏡等による観察像の記録は、従来銀塩写真が主に用いられてきたが、デジタルカメラによる撮影も急速に増えている。さらに、生物・医療用分野では、カルテの電子化が提唱されるようになってきている。加えて、工業用分野では検査工程のスループット向上のため、目視での検査よりもデジタルカメラやビデオカメラで撮影された像をテレビモニタなどで観察することが多くなってきている。このように、顕微鏡等による観察では、今後さらにデジタル化されることが予想される。しかし、デジタルカメラなどに用いられている電荷結合素子(CCD、CMOS等)は、銀塩写真で用いられるフィルムよりも明るさの変化に対して敏感である。このため、デジタルカメラによる撮影では、従来では問題にならなかった照明ムラも顕著に現れてしまう。したがって、顕微鏡の照明装置においては、従来よりも照明ムラを低減した照明光学系が要求されている。このような要求に対して、例えばケーラー照明にフライアイレンズを用いた照明装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の照明装置は、光源から放射された発散光をコレクタレンズで略平行光に変換し、このコレクタレンズの像側に配置されたフライアイレンズに照射する。すると、フライアイレンズの射出端面にはこのフライアイレンズの単位レンズの個数だけ光源像が形成される。このフライアイレンズの各単位レンズから射出した発散光束は、フライアイレンズの射出端近傍に配置された開口絞りの開口を通過し、コンデンサレンズで集光されてステージ上の被照明物体を照射する。フライアイレンズの各単位レンズから射出した発散光束は、ステージ上に各々重ねられて照射されるため、例えば光源に配光特性がある場合でもムラの無い均一な照明が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−006225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のケーラー照明にフライアイレンズを用いた照明装置の場合、フライアイレンズの単位レンズの個数だけできた2次光源像のそれぞれの光束を、コンデンサレンズにより被照明物体面上に重ねて照射する構成であるため、コンデンサレンズが必要不可欠であった。そのため、コンデンサレンズを配置するスペースを確保する必要があり、照明装置が大型化してしまうという課題があった。照明装置の大型化によって、顕微鏡の透過照明部などでは、ステージの位置が上がってしまい操作性が低下してしまう。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、照明光の均一性を確保しながら小型で安価な照明光学系及び照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係る照明光学系は、光源若しくは光源の像が形成された領域からの光を、自由曲面形状に形成された反射面で反射させて被照射面に照射する曲面鏡を有する。
【0008】
このような照明光学系は、光源と曲面鏡との間に、光源からの光を略平行光に変換するコレクタレンズと、複数の単位レンズを、各レンズ面の頂点が同一平面上に位置するように配置してなるフライアイレンズと、を有し、フライアイレンズを構成する単位レンズの射出面の各々に光源の像を形成し、当該光源の像を曲面鏡で反射させて被照射面に照射することが好ましい。
【0009】
また、このような照明光学系は、フライアイレンズの射出面側に、光源の像からの光を散乱させる光散乱部材を更に有することが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る照明装置は、光源と、上述の照明光学系のいずれかと、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る照明光学系及び照明装置を以上のように構成すると、照明光の均一性を確保しながら小型で安価なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】照明光学系の構成を示す説明図である。
【図2】上記照明光学系に球面の反射面を有する曲面鏡を用いた場合の照度シミュレーション結果である。
【図3】自由曲面の反射面を有する曲面鏡を説明するための説明図である。
【図4】上記照明光学系に自由曲面の反射面を有する曲面鏡を用いた場合の照度シミュレーション結果である。
【図5】上記照明光学系に光散乱部材を設けた場合の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1を用いて本実施形態に係る照明光学系を有する照明装置の構成について説明する。この照明装置10は、光源20からの光を集光して被照射面である物体面Oに照射する照明光学系30を有して構成されている。この照明光学系30は、光源20側から順に、コレクタレンズ31と、フライアイレンズ32と、曲面鏡33と、から構成されている。この照明装置10において、光源20はコレクタレンズ31の焦点若しくはその近傍に配置されており、この光源20から放射された照明光は、コレクタレンズ31で集光されて略平行光に変換され、フライアイレンズ32に入射する。
【0014】
フライアイレンズ32は、断面が正六角形形状の単位レンズを多数個配列して構成されている。これらの単位レンズは、入射面と射出面の曲率半径が等しく、両面の頂点が互いに他の焦点に配されている。フライアイレンズ32は、この単位レンズを数十個、入射面及び射出面の各々において各頂点が同一平面上に並ぶように束ねて配置されている。また、各単位レンズの入射面は、曲面鏡33を介して被照射面である物体面Oと共役に配置され、光源像は単位レンズの位置に無関係に曲面鏡33の焦点に生じ、この焦点に配置された被照射面(すなわち、物体面O)を重畳的に照明する。フライアイレンズ32の入射面上の照度は、光源20の放射角度特性により不均一に照明されるが、各単位レンズの入射面が物体面Oに重畳的に投影されるため、被照射面での照度の均一性が向上する。
【0015】
この図1に示す照明光学系30のように、曲面鏡33で照明光の進行方向折り曲げることにより、例えば、物体面Oの下方から照明し、この物体面Oを透過した光を結像光学系で結像させて観察する透過型の顕微鏡装置において、照明装置の上下方向の厚さを薄くすることができるため、物体が載置されるステージの位置を低くして、この照明装置を有する顕微鏡装置の操作性を向上させることができる。なお、図1において、顕微鏡装置の光軸をZ軸とし、この光軸に直交する平面内において、照明光学系30の光軸方向をX軸とし、この平面内においてX軸と直交する方向をY軸としている。
【0016】
それでは、この照明光学系30に用いられている曲面鏡33について説明する。この照明光学系30において、軸対象な球面若しくは非球面鏡、また、XZ平面とYZ平面で半径が異なるような面を持つトロイダルミラー等は曲面鏡33としては好ましくない。例えば、軸対象な球面若しくは非球面ミラーでは、非点収差が発生し、被照射面にムラを生じ易い。また、トロイダルミラーにして非点収差を抑えたとしても、軸外に行くに従って照明NAの均一性が取れないため照明ムラが生じやすい。
【0017】
ここで、図1に示す照明光学系30における曲面鏡33として、曲率半径が220mmの球面ミラーを用いた場合に、この曲面鏡33から70mm離れた物体面Oにおける照度シミュレーションを行った結果を図2に示す。この照度シミュレーションにおいて、曲面鏡33からフライアイレンズ32までの距離は24.2mm、フライアイレンズ32からコレクタレンズ31までの距離は25.3mm、そして、コレクタレンズ31から光源20までの距離は13.1mmである。また、光源20にはランバーシアン分布を持つLEDを用いた場合を示している。なお、図2において、実線は、物体面(照野)OにおけるX軸方向の規格化された照度を示し、破線は、Y軸方向の規格化された照度を示している(以降の説明においても同様である)。この図2から明らかなように、曲面鏡33として球面ミラーを用いると、非点収差により軸外に行くに従って照明ムラが顕著になってくる。また、この照明光学系30の光軸を曲面鏡33で曲げる方向の照度、すなわち、X軸における0mmから20mmまでの領域の照度は、略一定になっているのに対して、0mmから−20mmまでの領域の照度は一定になっていない(軸外に離れるほど照度が低下する)ことが分かる。
【0018】
そこで、本実施形態に係る照明光学系30では、図3に示すように、曲面鏡33の反射面33aの形状を、基準となる球面の回転軸をZ軸とし、このZ軸に直交する面内で、それぞれ直交する方向をX軸及びY軸として定義したときに、次式(1)を満たすようなXY多項式に基づいて形成された自由曲面として構成している。ここで、式(1)において、zは、基準球面の頂点(x=0,y=0)においてz=0としたときのZ軸方向への変位量を示し、cは、基準球面の頂点での円錐曲面項の曲率(曲率半径をRとしたとき、c=1/R)を示し、kは、円錐係数を示している。また、Ajはxmnの係数を示し、以下に示す表1のように定義される(この表1においてKは定数項(m=0,n=0)を示す)。さらに、この式(1)においてr2=x2+y2の関係を有する。
【0019】
【数1】

【0020】
【表1】

【0021】
以上のような自由曲面の反射面33aを有する曲面鏡33を用いて照明光学系30を構成した場合の照度のシミュレーション結果を図4に示す。ここで、曲面鏡33から物体面Oまでの距離は70mmであり、曲面鏡33からフライアイレンズ32までの距離は23.7mmであり、フライアイレンズ32からコレクタレンズ31までの距離は25.3mmであり、コレクタレンズ31から光源20までの距離は13.1mmである。また、この場合も、光源20にはランバーシアン分布を持つLEDが用いられ、自由曲面の曲率半径R及び係数Ajは表2の通りである。この図4から明らかなように、自由曲面を有する曲面鏡33を用いることにより、物体面(被照射面)Oにおける照度は、X軸方向及びY軸方向とも、光軸(Z軸)を中心とする広い範囲において照度が略一定になっていることが分かる。
【0022】
【表2】

【0023】
なお、曲面鏡33の反射面33aの形状は、式(1)で示されるXY多項式で決定される自由曲面に限定されるものではなく、それ以外の自由曲面式で表現される形状とすることも可能である。
【0024】
また、以上の説明では、フライアイレンズ32の各単位レンズを、断面が正六角形形状であるとしたが、本実施形態の照明光学系30において、フライアイレンズ32の単位レンズはこの形状に限定されない。例えば、単位レンズの断面形状を四角形(正方形や長方形)としても良いし、円形としても良い。但し、各単位レンズが六角形や四角形の形状を有していれば、これらの単位レンズを隙間無く接合することができるため、迷光を少なくすることができる。また、目視観察を行う光学系に組み込む場合には、なるべく円形の照野を得るために六角形の単位レンズが好ましい。反対に、目視観察を行わない光学系、例えば、画像測定装置などにおいては、画像を取り込むために用いる固体撮像素子の形状が一般に矩形であるため、照野も矩形とすることが好ましい。
【0025】
また、このような照明光学系30において、フライアイレンズ32は、光源20に配光特性があったとしても物体面(被照射面)Oにおいてムラの無い照明を行うための素子であるため、このフライアイレンズ32を用いないとしても、上述の自由曲面の反射面33aを有する曲面鏡33を用いることにより、物体面Oにおいて照明ムラを少なくすることができる。なお、図1に示す照明光学系30においてフライアイレンズ32を用いない場合は、コレクタレンズ31と曲面鏡33との間にリレーレンズを配置し、このリレーレンズによりフライアイレンズ32の射出面の位置に光源20の像を形成し、この光源20の像からの光を曲面鏡33で反射させて物体面Oを照明するように構成する。あるいは、光源20からの光を直接曲面鏡30で反射させて物体面Oを照明するように構成することも可能である。
【0026】
一方、被照射面に対してより均一な照明光を照射するためには、図5に示すように、フライアイレンズ32の射出面の近傍に光散乱部材34を配置することが好ましい。この光散乱部材34を用いると、フライアイレンズ32の射出端に単位レンズ毎に形成された光源像からの光が光散乱部材34によって散乱されてより均一化するためである。
【0027】
以上の説明のように、本実施形態に係る照明光学系30によれば、光源20若しくはこの光源20の像から射出された照明光の集光機能を曲面鏡33に持たせているため、従来のケーラー照明にフライアイレンズを用いた照明光学系に比べて、コンデンサレンズが不要となり、この照明光学系30を利用する照明装置10を安価で小型な構成とすることができる。なお、ここでは、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での変更が可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 照明装置 20 光源 30 照明光学系 31 コレクタレンズ
32 フライアイレンズ 33 曲面鏡 33a 反射面
34 光散乱部材 O 物体面(被照射面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源若しくは前記光源の像が形成された領域からの光を、自由曲面形状に形成された反射面で反射させて被照射面に照射する曲面鏡を有する照明光学系。
【請求項2】
前記光源と前記曲面鏡との間に、
前記光源からの光を略平行光に変換するコレクタレンズと、
複数の単位レンズを、各レンズ面の頂点が同一平面上に位置するように配置してなるフライアイレンズと、を有し、
前記フライアイレンズを構成する前記単位レンズの射出面の各々に前記光源の像を形成し、当該光源の像を前記曲面鏡で反射させて前記被照射面に照射する請求項1に記載の照明光学系。
【請求項3】
前記フライアイレンズの射出面側に、前記光源の像からの光を散乱させる光散乱部材を更に有する請求項2に記載の照明光学系。
【請求項4】
光源と、
請求項1〜3いずれか一項に記載の照明光学系と、を有する照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−13589(P2011−13589A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159481(P2009−159481)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】