説明

照明光通信システム用の送信装置

【課題】照明としての性能が高く、かつ通信速度が速い新規な照明光通信システムおよびこの照明光通信用システムに好適に適用可能な送信装置。
【解決手段】送信データに基づいて変調された変調光を出射する照明用光源を備える送信装置であって、照明用光源は、第1電極52と、第1電極に対向して配置される光透過性の第2電極58と、第1電極および第2電極間に配置される発光層56とを含んで構成される有機エレクトロルミネッセンス素子26を備え、第2電極は、第1電極層58A、第2電極層58B、および可視光透過率が40%以上である第3電極層58Cが、発光層側からこの順に積層されてなり、第2電極層は、第1電極層に含まれる材料に対して還元作用を有する材料により構成される照明光通信システム用の送信装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明光を利用してデータを伝送する照明光通信システムおよびこの照明光通信用システムに好適に適用可能な送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速通信技術の進展とともに、光を伝送媒体として用いた屋内無線通信技術が利用されるようになってきた。特に、伝送媒体として赤外線を用いたLAN(Local Area Network)が、オフィスや家庭に普及してきている。
【0003】
しかしながら、赤外線を用いた無線データ通信では、送信装置と受信装置との間に存在する遮蔽物によって通信に支障が生じるという問題がある。また、信号電力が小さいため、データ通信が不安定になり易いという問題がある。
【0004】
前述した赤外線通信にかかる問題を解決する通信方式として、照明用光源からの光をデータの伝送媒体に用いた通信方式(照明光通信)が考えられている。照明光の光源としては、化合物半導体系の白色発光ダイオード(以下、白色LED(LED:Light Emitting Diode)という場合がある)が用いられている。白色LEDを用いた照明は、蛍光灯といった従来の照明と比較して、長寿命、小型、低消費電力といった優れた特長を有している。非特許文献1および特許文献1には、このような白色LEDの特長に着目した照明光通信システムが開示されている。
【0005】
照明光通信には、通信に求められる特性と照明に求められる特性とを両立させることが要求される。通信としては高い伝送速度が求められており、照明としては高い輝度が求められている。従ってその光源には、例えば高い応答速度と高い発光効率とが求められている。
【0006】
前述したように、蛍光灯などの照明と比較すると白色LEDは照明として優れた特徴を有している。しかしながら上記照明光通信に用いられる白色LEDは、例えば半導体レーザと比較するとその応答速度が低い。特に照明に利用される白色LEDには、蛍光体を使用するタイプのものが主に用いられているが、蛍光体を使用しないタイプのLEDと比較すると、蛍光体を使用するタイプの白色LEDは応答速度が低い。従って白色LEDを用いた従来の照明光通信では、伝送速度が必ずしも十分とはいえない。
【0007】
そこで発光効率と応答速度との両方を勘案したときに、照明光通信用の光源として、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という場合がある)を用いることを本出願人は考案し、これにさらに検討を加えた。有機EL素子は一対の電極と、これら一対の電極間に配置される発光層とを含んで構成される。一対の電極のうちの一方の電極には、光透過性を示す電極(以下、光透過性電極という場合がある)が用いられており、この光透過性電極から光が取り出される。
【0008】
有機EL素子は、該素子の発光を制御する制御回路などが形成された基板上に通常設けられる。有機EL素子が放射する光を基板側から取り出すボトムエミッション型の有機EL素子では、該素子から放射された光が制御回路などにより遮蔽されるため、通常、有機EL素子と制御回路とは重ならないように配置されている。そうすると、制御回路などの分だけ有機EL素子の開口率が制限されることになり、結果としてその輝度が必ずしも十分とはいえないものとなる。
【0009】
この問題を解決するために、ボトムエミッション型の有機EL素子とは逆に、陽極が設けられる基板とは反対側から光を取り出すトップエミッション型の有機EL素子を照明用光源に用いることが考えられる。こうしたトップエミッション型の有機EL素子として、所定の3層が積層された透明な陰極を用いた素子構成が知られている。かかる有機EL素子では、第1層および第3層が酸化物薄膜層によって構成され、第2層がAu、Ag、Cu、PdおよびPtから選択される金属の薄膜からなる層によって構成されている(特許文献2参照)。
【0010】
【非特許文献1】「可視光通信に適した変調方式の実験的検討」(信学技報IEICE Technical Report OCS2005-19(2005-5)第43〜48頁 社団法人 電子情報通信学会)
【特許文献1】特開2003−318836号公報
【特許文献2】特開2004−79422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら前述のトップエミッション型の有機EL素子は、その発光効率が必ずしも十分とはいえない。
そこで、本発明の目的は、伝送速度および発光効率が高い新規な照明光通信システムおよびこの照明光通信用システムに好適に適用できる送信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した課題を解決するために、本発明では、下記の構成を採用した。
〔1〕 送信データに基づいて変調された変調光を出射する照明用光源を備える送信装置であって、前記照明用光源は、第1電極と、該第1電極に対向して配置される光透過性の第2電極と、第1電極および第2電極間に配置される発光層とを含んで構成される有機エレクトロルミネッセンス素子を備え、前記第2電極は、第1電極層、第2電極層、および可視光透過率が40%以上である第3電極層が、前記発光層側からこの順に積層されてなり、前記第2電極層は、前記第1電極層に含まれる材料に対して還元作用を有する材料により構成される照明光通信システム用の送信装置。
〔2〕 前記照明用光源は、それぞれの発光面積が10−8cmから10−1cmである複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、〔1〕に記載の送信装置。
〔3〕 前記照明用光源が、前記変調光を出射する通信用の有機エレクトロルミネッセンス素子と、非変調光を出射する照明用の有機エレクトロルミネッセンス素子とを備える〔1〕または〔2〕に記載の送信装置。
〔4〕 前記通信用の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層が、蛍光を発光する発光材料を用いて形成され、かつ前記照明用の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層が、リン光を発光する発光材料を用いて形成されてなる〔3〕に記載の送信装置。
〔5〕 前記第1電極層が、金属、金属酸化物、金属フッ化物、およびこれらの混合物からなる群より選択される材料を含む、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の送信装置。
〔6〕 前記第1電極層が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びこれらの混合物からなる群より選択される材料を含む、〔5〕に記載の送信装置。
〔7〕 前記第1電極層が、バリウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、およびこれらの混合物からなる第1の群、並びにナトリウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、およびこれらの混合物からなる第2の群のうちの1つの群より選択される材料を含む〔6〕に記載の送信装置。
〔8〕 前記第2電極層が、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、およびこれらの混合物からなる群より選択される金属を含む、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の送信装置。
〔9〕 前記第3電極層が、金、銀、銅、錫、鉛、ニッケル、インジウム、およびこれらの合金からなる群より選択される材料からなり、前記第3電極層の膜厚が、5nm以上30nm以下である〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の送信装置。
〔10〕 前記第1電極の可視光に対する反射率が、80%以上である〔1〕から〔9〕のいずれかに記載の送信装置。
〔11〕 前記発光層は、重量平均分子量が1万から1000万であり、かつ有機溶媒に可溶である高分子発光材料を含む、〔1〕から〔10〕のいずれかに記載の送信装置。
〔12〕 変調光を出射する照明用光源を備える〔1〕から〔11〕のいずれかに記載の送信装置と、前記照明用光源から出射された前記変調光を受光して電気信号に変換し、該電気信号を復調して受信データを生成する受信装置とを具備する、照明光通信システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の照明光通信システム用の送信装置においては、照明用光源として、高速応答性を特長とする有機EL素子を用いることにより、従来の白色LEDを用いる場合と比較して、伝送速度を顕著に高めることができる。また本発明の有機EL素子の電極の構成はトップエミッション型の素子に適しており、有機EL素子をトップエミッション型の素子とした場合に、開口率を向上させることができ、結果として輝度を向上させることができる。
また、3層構造をとる電極のうち、第2電極層含まれる材料が、第1電極層に対する還元作用を有するため、照明用光源が備える有機EL素子をより長寿命化することができる。
【0014】
このように本発明は、伝送速度が速く、かつ発光効率が高く、さらに寿命特性の高い新規な照明光通信システム、並びにこの照明光通信用システムに好適に適用可能な送信装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図を参照して、本発明の実施形態につき説明する。なお、各図は、発明が理解できる程度に、構成要素の形状、大きさおよび配置が概略的に示されているに過ぎない。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。なお、以下の説明に用いる各図において、同様の構成要素については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。
【0016】
また、有機EL素子を備える装置においては電極のリード線等の部材も存在するが、本発明の説明にあっては直接的に要しないため記載を省略している。層構造等の説明の便宜上、下記に示す例においては基板を下に配置した図と共に説明がなされるが、本発明の有機EL素子およびこれを搭載した有機EL装置は、必ずしもこの配置で、製造または使用等がなされるわけではない。なお以下の説明において基板の厚み方向の一方を上または上方といい、厚み方向の他方を下または下方という場合がある。
【0017】
〈照明光通信システムの構成例(1)〉
図1を参照して、本発明の照明光通信システムの構成例につき説明する。図1は、照明通信システムの構成を概略的に説明するブロック図である。
【0018】
図1に示すように、照明通信システム10は、送信装置20と受信装置30とを備えている。送信装置20は、照明用光源22を備えている。照明用光源22は、送信されるべき送信データに基づいて変調された変調光を光信号として出射する。変調光とは、点滅制御された光または光量制御された光をいい、変調方式としては、アナログ変調方式(AM、FMなど)、デジタル変調方式、パルス変調方式、およびスペクトラム拡散方式などが用いられる。
【0019】
送信装置20は、有機EL素子26を備え、また有機EL素子26に接続され、かつ当該有機EL素子26の動作を制御する制御回路28をさらに備える。以下有機EL素子26と制御回路28とを含む構成を発光ユニット24という。図示例は、照明用光源22が、1つの発光ユニット24からなる例である。制御回路28と有機EL素子26とは電気的に接続されている。
【0020】
有機EL素子26は、照明光のみ、または照明光および信号光の双方を生成して出射する。有機EL素子26および制御回路28の具体的な構成については後述する。
【0021】
受信装置30は、受光部32と復調部34とを備える。受信装置30は、照明用光源22から出射された変調光を受光して、受信データを生成する。
【0022】
受光部32は、図示しない光電変換装置を内蔵しており、受光した変調光を電気信号に変換する。復調部34は、受光部32によって光電変換された電気信号から、元のデータ(送信データ)を復調して受信データを生成する。
【0023】
送信装置20がデータを送信する場合には、送信されるべき送信データが制御回路28に供給される。送信データの供給を受けた制御回路28は、供給されたデータに基づいて有機EL素子26の動作を制御する。
【0024】
こうして、送信データに対応して変調された変調光が有機EL素子26から出射される。有機EL素子26を高速に点滅させたり、その光量を高速で変化させたりしても、視覚的には感知されないので、通信用に使用したとしても有機EL素子26はほぼ一定の光量で光っているように見える。したがって、有機EL素子26から出射された変調光は、人に違和感を与えることなく、そのまま照明光としても利用することができる。
【0025】
〈照明光通信システムの構成例(2)〉
図2および図3を参照して、本発明の照明光通信システムの他の構成例につき説明する。
【0026】
1Gbps程度以上の大容量の伝送を行なうためには、送信装置20において多数の発光ユニット24を二次元的に配列し、これらを互いに並列的に動作させればよい。このような並列システムを従来のLEDを用いて実現するためには、多数のLEDを二次元的に配列し、分割器との配線接続を行なう必要があり、システムとして大型にならざるを得なかった。
【0027】
白色LEDに代えて有機EL素子を用いると、完成した個々の発光ユニット24を配線ボード上に後付けして配列するのではなく、例えば制御回路28が形成されたTFT(Thin Film Transistor)基板上に複数の有機EL素子26を直接的に作りこむことができる。発光ユニット24が二次元的に配置された集積デバイスを基板上に最初から製造できる。したがって分割器などの他の素子を加えても非常にコンパクトな送信装置20を実現できる。
【0028】
図2および図3は、本発明の照明通信システムの構成例を概略的に説明するブロック図である。
【0029】
図2に示すように、この照明光通信システム10は、図1を参照して既に説明した構成を基本として、有機EL素子26および制御回路28からなる発光ユニット24並びに受光部32の組を複数組備えている。送信装置20の照明用光源22において、複数の発光ユニット24は、二次元的に配置されている。また、制御回路28は、直列/並列変換回路29をさらに含み、受信装置30は、レンズ36と並列/直列変換回路38とをさらに含んでいる。
【0030】
なお、図示例の送信装置20および受信装置30において、直列/並列変換回路29を制御回路28に組み込む構成としたが、直列/並列変換回路29を、制御回路28の外部に設ける構成とすることもできる。この場合、直列/並列変換回路29から生成されるパラレル信号に基づいて、制御回路28が各有機EL素子26を制御してもよい。
【0031】
送信装置20の直列/並列変換回路29は、送信データであるシリアルデータを複数のパラレルデータに分割し、分割されたパラレルデータを個々の有機EL素子26にそれぞれに供給する。この送信装置20の直列/並列変換回路29の動作を含めた制御回路28の制御によって、各有機EL素子26は、各々に与えられるパラレルデータに基づいて、変調された変調光を出射する。出射された変調光は、レンズ36によって空間的に分離され、対応する各受光部32の光電変換装置において光電変換され、さらに変換された電子信号は図示しないA/Dコンバータによってデジタル化され、受信装置30の並列/直列変換回路38によってシリアルデータに変換される。復調部34は、このシリアルデータを復調することにより受信データを生成して出力する。
【0032】
このように、複数の有機EL素子26を並列的に駆動することによって、大容量のデータを高速で伝送することができる。
【0033】
図2に示した送信装置20において、有機EL素子26の制御(変調制御を含む)は、外部駆動回路としてのドライバICを用いて行ってもよい。図2に示した送信装置20においては、複数の有機EL素子26を単一の制御回路28で動作制御している。
【0034】
図3に示すように、複数の有機EL素子26それぞれを個別に制御する複数の制御回路28を、各有機EL素子に対応させて接続する構成とすることもできる。この場合には、照明用光源22は、1つの有機EL素子26および1つの制御回路28を1組として一体的に形成した発光ユニット24を複数組備える。なお、複数の有機EL素子26を1つの構成単位とする素子群に、各有機EL素子26をグループ分けしたときに、同じ素子群に含まれる複数の有機EL素子26と該有機EL素子26に接続される制御回路28とからなる発光ユニット24群を、サブ光源23という場合がある。後述するように、サブ光源23ごとに発光を制御することにより、各有機EL素子26を素子群ごとに駆動することができる。このように1つの素子群に含まれる複数の有機EL素子26を単位として駆動することにより、素子群単位としての光強度(信号強度)が大きくなるので、例えばノイズの多い環境で使用する場合や各有機EL素子26の光量が少ない場合であっても、正確に信号を伝送することができ、エラービットレートの小さい照明用光通信システムを実現することができる。
【0035】
有機EL素子26と一体的に作り込まれる制御回路28の構成要素の一例としていわゆる薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)を用いることができる。薄膜トランジスタとしては、ポリシリコントランジスタ、アモルファスシリコントランジスタ、有機半導体材料を用いた有機トランジスタ等が知られている。こうした薄膜トランジスタから構成される制御回路28と有機EL素子26とを一体的に形成することで、送信装置20の一層の小型化が可能になる。
【0036】
次に、図4を参照して、前述した照明光通信システム10の送信装置20の構成例として、いわゆるアクティブマトリクス型として構成された照明用光源22について説明する。
【0037】
アクティブマトリクス型とは、有機EL素子26および制御回路28を一体的に構成した発光ユニット24をマトリクス状に配列し、複数の有機EL素子26それぞれの駆動制御を有機EL素子26の近傍にそれぞれ作り込まれた制御回路28によって行うタイプをいう。
【0038】
有機EL素子26を用いてアクティブマトリクス型の照明用光源22を構成した場合には、有機EL素子の駆動方法は、電流プログラム方式および電圧プログラム方式の二種類に大別される。「電流プログラム方式」とは、データ線に対するデータの供給を電流レベルで行う方式をいい、「電圧プログラム方式」とは、データ線に対するデータの供給を電圧レベルで行う方法をいう。
【0039】
図4は、本発明のアクティブマトリクス型の照明用光源を用いた照明光通信システムの概略的な説明図である。
【0040】
送信装置20が備える照明用光源22は、前述したように例えばTFTを構成要素とする制御回路28により有機EL素子26を駆動する、いわゆるアクティブマトリクス型の装置である。
【0041】
この照明用光源22には、m×n(記号「m」、「n」はそれぞれ自然数を表す)個の発光ユニット24が平面上においてm行n列のマトリクス状に配列される。すなわち格子縞の交点上に各発光ユニット24がそれぞれ配置される。
【0042】
照明用光源22は、それぞれが図4において行方向に延在するとともに、互いに列方向に間隔をあけて配置されるn本の走査線Yからなる走査線群Y1〜Ynを有する。
【0043】
また、照明用光源22は、列方向に延在するとともに、互いに行方向に間隔をあけて配置されるm本のデータ線Xからなるデータ線群X1〜Xmを有する。走査線群Y1〜Ynとデータ線群X1〜Xmとは、基板の厚み方向の一方から見て、格子縞を形成している。
【0044】
基板の厚み方向の一方からみて、走査線Yとデータ線Xとにより形成される格子縞の複数の交点近傍には、画素領域51が設けられており、各画素領域51に1つの発光ユニット24が配置されている。換言すると、複数の発光ユニット24が、画素領域51ごとにマトリクス状に配置されている。
【0045】
図4においては、それぞれの有機EL素子26に対して所定の電圧Vdd,Vssを供給する電源線等が省略されている。
【0046】
図5および図6を参照して、発光ユニット24が備える制御回路28の好適な構成例につき説明する。
【0047】
図5は電流プログラム方式における発光ユニット24が備える制御回路28を示す回路図である。図6は電圧プログラム方式における発光ユニット24が備える制御回路28を示す回路図である。
【0048】
図5および図6に示すように、発光ユニット24は、有機EL素子26およびこの有機EL素子26を除く回路部分である制御回路28を備えている。
【0049】
〈電流プログラム方式〉
図5に示すように、制御回路28は、4つのトランジスタT1、T2、T3およびT4、送信データを保持するデータ保持手段であるキャパシタC、電源電圧(供給手段)Vdd、基準電圧(供給手段)Vss並びにこれらを互いに接続する信号線を含んでいる。
【0050】
図5では、トランジスタT1、T2、およびT4をnチャネル型トランジスタとし、トランジスタT3をpチャネル型トランジスタとした例を示してある。
【0051】
トランジスタT1のゲート電極は、走査信号SELが供給される所定の1本の走査線Yに電気的に接続されている。トランジスタT1のソース電極は、データ電流Idataが供給される所定の1本のデータ線Xに電気的に接続されている。トランジスタT1のドレイン電極は、トランジスタT2のソース電極に電気的に接続されている。
【0052】
トランジスタT1のドレイン電極およびトランジスタT2のソース電極は、プログラミングトランジスタであるトランジスタT3のドレイン電極およびトランジスタT4のドレイン電極に電気的に共通接続されている。
【0053】
トランジスタT2のゲート電極は、トランジスタT1のゲート電極と同じく、走査信号SELが供給される走査線Yに電気的に共通接続されている。トランジスタT2のドレイン電極は、キャパシタCの一方の電極と、トランジスタT3のゲート電極とに電気的に共通接続されている。
【0054】
キャパシタCの他方の電極には電源電圧Vddが印加される。また、トランジスタT3のソース電極には、電源電圧Vddが印加される。キャパシタCの他方の電極とトランジスタT3のソース電極とには、電源電圧Vddが印加されている。
【0055】
トランジスタT4のゲート電極には駆動信号GPが入力される。トランジスタT4のドレイン電極には有機EL素子26のアノード(陽極)が電気的に接続されている。また、有機EL素子26のカソード(陰極)には、電源電圧Vddよりも低電圧である基準電圧Vssが印加されている。
【0056】
〈電圧プログラム方式〉
電圧プログラム方式についても、送信装置の全体的な構成については既に説明した通りである。しかしながら、この場合には、データ電圧(信号)Vdataをデータ線Xにそのまま出力するため、データ線Xに電気的に接続されているデータ線駆動回路44(図4)の可変電流源が不要になる。ここでは、いわゆるCC(Conductance Control)法と称される構成例につき説明する。
【0057】
図6は、本発明の送信装置および照明光通信システムの発光ユニットに適用して好適な制御回路の回路構成の一例を示す回路図である。
【0058】
本例の制御回路28は、有機EL素子26を発光させる期間の駆動信号GPの電圧レベルを共通電圧の電圧レベルよりも高くし、それ以外の期間における駆動信号GPの電圧レベルを共通電圧と同じかそれよりも低くすることで、有機EL素子26の発光または非発光の制御を行う。
【0059】
図6に示すように、発光ユニット24の制御回路28は、走査信号SELを供給する走査線Yおよびデータ電圧(信号)Vdataを供給するデータ線Xの双方に電気的に接続されている。以下の説明において、走査線Yおよびデータ線Xを基板の厚み方向の一方から見たときに相互に格子縞を形成するように行列方向に延伸する主たる配線部分を主配線部と称する。また、主配線部から分岐して、トランジスタやキャパシタといった構成要素に接続される配線部分を副配線部部と称する。さらに、これら構成要素間を接続する配線についても副配線部と称する。
【0060】
有機EL素子26を除く制御回路28は、いわゆるスイッチングトランジスタであるトランジスタT1と、駆動トランジスタであるトランジスタT2と、データ保持手段であるキャパシタCとを含んでいる。
【0061】
トランジスタT1は、例えばn型のTFTである。トランジスタT1のソース電極は、データ線Xの主配線部から分岐する副配線に電気的に接続される。
【0062】
トランジスタT2は、例えばn型のTFTである。トランジスタT2のドレイン電極に電気的に接続されている副配線には駆動信号GPが入力される。トランジスタT2のソース電極は、副配線を経て有機EL素子26の陽極に電気的に接続される。
【0063】
トランジスタT1のドレイン電極は、副配線を経てトランジスタT2のゲート電極に電気的に接続される。また、トランジスタT1のゲート電極は、走査線Yの主配線部から分岐する副配線に電気的に接続される。
【0064】
キャパシタCの一方の端子には、トランジスタT1のドレイン電極およびトランジスタT2のゲート電極が副配線を経て電気的に共通接続される。キャパシタCの他方の電極および有機EL素子26の陰極には基準電圧(接地電圧Vss)が印加される。
【0065】
トランジスタT1は、走査信号SELの電圧レベル(走査制御電圧Vg)により、データ線XおよびトランジスタT2のゲート電極間、並びにデータ線XおよびキャパシタC間を導通または遮断する。
【0066】
前述した構成例では、データを保持するデータ保持手段の好適例として、キャパシタを用いる例を説明したが、キャパシタの代わりに、多ビットのデータを記憶可能なメモリ装置(SRAM等)を用いることもできる。
【0067】
図7を参照して、図5および図6を参照して説明した発光ユニット24の動作につき説明する。図7は、発光ユニット24の動作タイミングチャートである。
【0068】
ここで、走査線駆動回路42(図4)による走査線Y1から走査線Ynの線順次走査によって、所定の発光ユニット24の選択が開始されるタイミングをt0とする。また、発光ユニット24の選択が次に開始されるタイミングをt2とする。期間t0〜t2は、前半のプログラミング期間t0〜t1と、後半の駆動期間t1〜t2とに分けられる。
【0069】
〈電流プログラム方式(図5に示した回路構成)における動作〉
前半のプログラミング期間t0〜t1では、キャパシタCに対する送信データの書き込みが行われる。まず、タイミングt0において、走査信号SELが走査線Yに入力される。これにより、走査線Yが高レベル(以下、Hレベルという場合がある)に立ち上がる。スイッチング素子として機能するトランジスタT1およびT2が共にオン(導通)する。すると、データ線XとトランジスタT3のドレイン電極とが電気的に接続される。これにより、トランジスタT3は、自己のゲート電極と自己のドレイン電極とが電気的に接続されたダイオード接続となる。
【0070】
トランジスタT3は、データ線Xより供給されたデータ電流Idataを自己のチャネルに流す。これにより、データ電流Idataに応じた電圧がゲート電圧Vgとして発生する。トランジスタT3のゲート電極に接続されたキャパシタCには、発生したゲート電圧Vgに応じた電荷が蓄積される。これにより、キャパシタCには、蓄積された電荷量に相当するデータ(送信データ)が書き込まれる。
【0071】
プログラミング期間t0〜t1において、トランジスタT3は、自己のチャネルを流れるデータ信号に基づいて、キャパシタCに対するデータの書き込みを行うプログラミングトランジスタとして機能する。また、この期間中、駆動信号GPが低レベル(以下、Lレベルという場合がある)に維持されているため、トランジスタT4はオフ(非導通)のままである。したがって、有機EL素子26に対する駆動電流の経路はトランジスタT4により遮断される。よって、有機EL素子26は発光しない。
【0072】
続く駆動期間t1〜t2では、駆動電流が有機EL素子26を流れ、有機EL素子26の輝度の設定が行われる。まず、タイミングt1において、走査信号SELがLレベルに立ち下がり、トランジスタT1およびT2がいずれもオフする。これにより、データ電流Idataが供給されるデータ線XとトランジスタT3のドレイン電極とが電気的に分離され、トランジスタT3のゲート電極とドレイン電極との間も電気的に分離される。
トランジスタT3のゲート電極には、キャパシタCの蓄積電荷に応じたゲート電圧Vgが印加され続ける。タイミングt1における走査信号SELの立ち下がりと同期(同一タイミングであるとは限らない)して、それ以前はLレベルだった駆動信号GPがHレベルに立ち上がる。
【0073】
これにより、電源電圧Vddから基準電圧Vssに向かって、トランジスタT3およびT4と有機EL素子26とに連なる駆動電流の経路が形成される。有機EL素子26を流れる駆動電流は、トランジスタT3のチャネル電流に相当し、その電流レベルは、キャパシタCの蓄積電荷に基づくゲート電圧Vgによって制御される。
【0074】
駆動期間t1〜t2において、トランジスタT3は、有機EL素子26に駆動電流を供給する駆動トランジスタとして機能する。結果として、有機EL素子26は、この駆動電流に応じて、換言すれば、キャパシタCに保持されたデータに基づいて変調された発光強度で発光する。
【0075】
〈電圧プログラム方式(図6に示した回路構成)における動作〉
図7を参照して、図6を参照して説明した発光ユニット24の動作につき説明する。
【0076】
以下の動作説明において、走査線駆動回路42(図4)による走査線Y1から走査線Ynの線順次走査によって、所定の発光ユニット24の選択が開始されるタイミングをt0とする。また、発光ユニット24の選択が次に開始されるタイミングをt2とする。期間t0〜t2は、前半のプログラミング期間t0〜t1と、後半の駆動期間t1〜t2とに分けられる。
【0077】
まず、タイミングt0において、所定の走査線Yに、走査線信号SELが入力される。すると、走査線Yは、高レベル(以下、Hレベルという場合がある)に立ち上がり、トランジスタT1がオン状態となる。よって、データ線Xに供給されたデータ電圧Vdataが、トランジスタT1を介して、キャパシタCの一方の電極に印加される。
【0078】
これにより、データ電圧Vdata相当の電荷がキャパシタCに蓄積される(送信データが書き込まれる)。走査線Yの電圧レベルが低レベル(以下、Lレベルという場合がある)となってトランジスタT1が完全にオフ状態となった後から次に電圧レベルがHレベルになってトランジスタT1がオン状態となると共に次のデータ信号が入力されるまでの間、トランジスタT2のゲート電極に印加される電圧をキャパシタCは維持する働きをする。すなわち、キャパシタCは、所定の期間、データ線Xに入力されたデータを保持する。
【0079】
また、トランジスタT2がオン状態となり、駆動信号GP入力信号線および有機EL素子26間が導通する。なお、タイミングt0からタイミングt1までの期間において、駆動信号GPの入力信号線はLレベルに維持される。したがって、前半の期間t0〜t1において、有機EL素子26は発光しない。
【0080】
前半の期間t0〜t1に続く後半の期間t1〜t2では、キャパシタCに蓄積された電荷によりトランジスタT2がオン状態となる。期間t1〜t2では、入力される駆動信号GPに応じて有機EL素子26が発光する。
【0081】
タイミングt1では、走査信号SELがLレベルに立ち下がる。これにより、トランジスタT1がオフする。よって、キャパシタCの一方の電極に対するデータ電圧Vdataの印加が停止するが、キャパシタCの蓄積電荷によって、トランジスタT2のゲート電極にはゲート電圧Vg相当が印加される。
【0082】
タイミングt1における走査信号SELの立ち下がりと同期して、それ以前はLレベルだった駆動信号GPは、Hレベルに立ち上がる。
【0083】
これにより、駆動信号GPが入力される信号線は、次の選択が開始されるタイミングt2に至るまでHレベルが維持される。よって、駆動電流の電流経路が形成される。これにより、有機EL素子26は、キャパシタCに保持されていた送信データに基づいて発光する。
【0084】
図4を参照して既に説明したように、照明用光源22を駆動するための駆動回路は、走査線駆動回路42とデータ線駆動回路44とによって構成されており、両者は、図示しない上位装置による同期制御下、互いに協働して動作する。
【0085】
走査線駆動回路42は、シフトレジスタ、出力回路等を主体に構成されており、走査線Y1〜Ynに走査信号SELを出力することによって、走査線Y1〜Ynを所定の選択順序で順番に選択する線順次走査を行う。走査信号SELは、HレベルまたはLレベルの2値的な信号レベルをとり、データの書込対象となる行(走査線Yの1ラインに接続される複数の発光ユニット24)に対応する走査線YはHレベルとされ、これ以外の走査線YそれぞれはLレベルとされる。
【0086】
そして、1垂直走査期間(1F)において、所定の選択順序で、それぞれの行が順番に選択されていく。なお、走査線駆動回路42は、走査信号SEL以外に、トランジスタを導通制御する駆動信号GP(またはそのベース信号)も出力する。この駆動信号GPによって、発光ユニット24に含まれる有機EL素子26の輝度設定を行う(駆動)期間が設定される。
【0087】
データ線駆動回路44は、走査線駆動回路42による線順次走査と同期して、データ線X1〜Xmそれぞれに対するデータ信号の供給を電流ベースで行う。前述した電流プログラム方式の場合には、データ線駆動回路44は、発光ユニット24より出射される変調光の変調度合いを規定するデータ(データ電圧Vdata)をデータ電流Idataへと変換する可変電流源を含む。データ線駆動回路44は、1水平走査期間(1H)において、今回データを書き込む行に対するデータ電流Idataの一斉出力と、次の水平走査期間で書き込みを行う行に関するデータの点順次的なラッチとを同時に行う。
【0088】
ある水平走査期間において、データ線Xの本数に相当するm個のデータが順次ラッチされる。そして、次の水平走査期間において、ラッチされたm個のデータは、データ電流Idataに変換された上で、それぞれのデータ線X1〜Xmに対して一斉に出力される。
【0089】
図8を参照して、サブ光源23の構成につき説明する。図8は、サブ光源の構成例を説明する照明光通信システムの概略的な説明図である。
【0090】
送信装置20のサブ光源23は、照明用光源22に含まれる複数の発光ユニット24が複数のグループに区分けされることにより規定される。図示例では、複数の発光ユニット24が4つに区分けされて、第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23D(以下、それぞれサブ光源A、サブ光源B、サブ光源Cおよびサブ光源Dという場合がある)とされている。なお、iおよびjは1以上の任意の正数であり、かつmおよびnは2以上の任意の正数である。第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源24Dに含まれる発光ユニット24の数は、互いに同一であっても、互いに異なっていてもよい。また、サブ光源23同士の発光ユニット24の数が同数である場合において、発光ユニット24の配置形態は、サブ光源23単位で同一であっても、異なっていてもよい。また離散的に離れて配置されている発光ユニット24を同一の発光ユニット24に属する発光ユニット24とするグループ分けをしてもよく、このようなグループ分けを行うことにより、たとえサブ光源23単位で明滅などしたとしても、局所的な光量の低下を抑制することができ、照明としての性能の低下を抑えることができる。
【0091】
第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源24Dに含まれる発光ユニット24の数を同数とした例を説明する。具体的には、i=j=4かつm=n=8とし、各サブ光源に含まれる発光ユニット24の数を16とした例を説明する。第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dそれぞれが含む発光ユニット24は、この例では4×4のマトリクス状に配置されている。
【0092】
第1サブ光源23Aおよび第2サブ光源23Bの発光ユニット24は、走査線Y1〜Yj(Y4)(走査線群Yabという場合がある)に電気的に接続される。また、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dの発光ユニット24は、走査線Yj+1〜Yn(Y5〜Y8)(走査線群Ycdという場合がある)に電気的に接続される。
【0093】
また、第1サブ光源23Aおよび第3サブ光源23Cの発光ユニット24は、データ線X1〜Xi(X4)(データ線群Xacという場合がある)に電気的に接続される。また、第2サブ光源23Bおよび第4サブ光源23Dの発光ユニット24は、データ線Xi+1〜Xm(X5〜X8)(データ線群Xbdという場合がある)に電気的に接続される。
【0094】
次に、図4、図8および図9を参照して、複数のサブ光源にグループ分けされた照明用光源を備える照明光通信システムの動作につき説明する。
【0095】
走査線駆動回路42およびデータ線駆動回路44(図4)は、照明用光源22に設定された第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dにおいて、各サブ光源23単位で、複数のサブ光源23を独立的に駆動する。
【0096】
同一のサブ光源23に属する複数の発光ユニット24は、本実施形態では、すべて同一の発光状態になるように制御される。異なるサブ光源23同士については互いに独立的に制御され得る。よって、この場合には、照明用光源22に、4つの独立した伝送チャネルが形成されることになる。
【0097】
走査線Y1〜Yj(走査線群Yab)が選択されている状態でデータ線X1〜Xi(データ線群Xac)に供給されたデータ(すべて同一の電流レベルである)は、第1サブ光源23Aの各発光ユニット24に共通して供給される。
【0098】
これによって、第1サブ光源23Aの発光状態が制御される。また、この状態でデータ線Xi+1〜Xm(データ線群Xbd)に供給されたデータは、第2サブ光源23Bの各発光ユニット24に共通に供給される。これによって、第2サブ光源23Bの発光状態が制御される。
【0099】
走査線Yj+1〜Yn(走査線群Ycd)が選択されている状態でデータ線X1〜Xi(データ線群Xac)に供給されたデータは、第3サブ光源23Cの各発光ユニット24に共通に供給される。
【0100】
これによって、第3サブ光源23Cの発光状態が制御される。また、この状態でデータ線Xi+1〜Xm(データ線群Xbd)に供給されたデータは、第4サブ光源23Dの各発光ユニット24に共通に供給される。これによって、第4サブ光源23Dの発光状態が制御される。
【0101】
図9は、照明光通信システムの動作を説明するタイミングチャートである。
【0102】
図8に示す構成において、最上段に配置されている走査線Y1から最下段に配置されている走査線Ynに向かって、n本の走査線Yが順次選択されていくものとする。
【0103】
この場合には、照明用光源22全体に対して、送信データのデータ書き込みを行うのに要する1フレーム期間t0〜t2は、前半の第1サブ光源23Aおよび第2サブ光源23Bの選択期間t0〜t1と、後半の第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dの選択期間t1〜t2とに分けられる。
【0104】
第1サブ光源23Aおよび第2サブ光源23Bの選択期間t0〜t1は、走査線群Yabに属する走査線Y1の選択が開始されてから走査線Yjの選択が終了するまでの期間に相当する。
【0105】
この期間t0〜t1において、データ線群Xacには第1サブ光源23A用の送信データDaが共通して供給され、この送信データDaに応じたレベルにデータ線群Xacが維持される。
【0106】
データ線群Xacには、第1サブ光源23Aのみならず第3サブ光源23Cも接続されているが、走査線群Ycdが非選択のため、第3サブ光源23Cは電気的に分離されている。したがって、データ線群Xacに供給された送信データDaは、第1サブ光源23Aにのみ供給され、これに応じた書き込みが第1サブ光源23Aにおいて行われる。
【0107】
また、この期間t0〜t1において、データ線群Xbdには第2サブ光源23B用の送信データDbが共通して供給され、この送信データDbに応じたレベルにデータ線群Xbdが維持される。
【0108】
データ線群Xbdには、第2サブ光源23Bのみならず第4サブ光源23Dも接続されているが、走査線群Ycdが非選択のため、第4サブ光源23Dは電気的に分離されている。したがって、データ線群Xbdに供給された送信データDbは、第2サブ光源23Bにのみ供給され、これに応じた書き込みが第2サブ光源23Bにおいて行われる。
【0109】
第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dの選択期間t1〜t2は、走査線群Ycdに属する走査線Yj+1の選択が開始されてから走査線Ynの選択が終了するまでの期間に相当する。この期間t1〜t2において、データ線群Xacには第3サブ光源23C用の送信データDcが共通して供給され、この送信データDcに応じたレベルにデータ線群Xacが維持される。
【0110】
ここで、データ線群Xacに接続された第1サブ光源23Aは、走査線群Yabが非選択のため電気的に分離されている。したがって、データ線群Xacに供給された送信データDcは、第3サブ光源23Cにのみ供給され、これに応じた書き込みが第3サブ光源23Cにおいて行われる。
【0111】
また、期間t1〜t2において、データ線群Xbdには第4サブ光源23D用の送信データDdが共通して供給され、この送信データDdに応じたレベルにデータ線群Xbdが維持される。このとき、データ線群Xbdに接続された第2サブ光源23Bは、走査線群Yabが非選択のため電気的に分離されている。したがって、データ線群Xbdに供給された送信データDdは、第4サブ光源23Dにのみ供給され、これに応じた書き込みが第4サブ光源23Dにおいて行われる。
【0112】
なお、図9においては、同一のサブ光源23に対応する走査線群を順次走査するケースを例示したが、駆動回路の駆動能力を十分に確保できることを条件として、サブ光源23ごとに対応する走査線群を同時に一括選択することもできる。
【0113】
ここで、前述した図5および図6に示すように制御回路28を構成しておけば、電流プログラム方式および電圧プログラム方式のいずれにおいても、第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dの独立的な駆動を実現することができる。
【0114】
〈有機EL素子の構成例〉
有機EL素子は、自由なサイズ設計が可能、超小型化が可能、高速応答が可能といった優れた特長を有する。有機EL素子を、照明光通信に利用する場合には、個々の素子面積はより小さいものが好適である。個々の素子面積が小さいほど、有機EL素子の静電容量は小さくなる傾向にあるので、応答速度を規定する素子のRC時定数も同様に小さくなり、ひいては有機EL素子の面積が小さくなるほど応答速度が速くなるからである。
【0115】
素子面積(発光面積)は、好ましくは10-8cm2以上1cm2以下とするのがよく、より好ましくは10-8cm2以上10-1cm2以下とするのがよく、さらに好ましくは10-8cm2以上10-2cm2以下とするのがよい。
【0116】
従来のLEDでは、半導体基板にLEDを形成した後、半導体基板を分割して個々のチップとし、配線が形成された回路基板にチップを取り付けて使用する。チップにはLEDを回路基板に接続する際に必要となる接続部位が設けられるので、チップの大きさはLEDよりも大きくなる。またLEDのチップとしては、台座および樹脂レンズなどが必要となるため、実際に発光する部分よりも大きな素子となる。さらにそのチップを回路基板に実装するためには、基板側にも接続部位を設ける必要があるので、チップよりも大きい実装面積が必要となり、LED自体が小さいものであったとしても、送信装置の小型化には自ずと限界がある。
【0117】
これに対して、有機EL素子の場合には、例えば素子の動作を制御する制御回路および配線などが形成された基板上に素子を直接的かつ配線と一体的に形成することができる。すなわち、従来のLEDのようには有機EL素子自体の大きさよりも大きい実装面積を必要とせず、発光ユニットの高集積化が容易であり、送信装置の小型化を実現することができる。そして、基板に作り込まれた有機EL素子をそのまま動作させて利用できるので、設計上の自由度が高く、素子の小型化が比較的容易である。以上のような理由から、有機EL素子は、照明光通信用の発光素子として極めて好適である。
【0118】
大容量データの高速通信を可能にするためには、複数の発光ユニットからデータを並列的に送信することが好ましく、そのためには、複数の発光ユニットを配列する必要がある。
【0119】
従来のLEDでは、個々のLEDチップ、または、チップに台座と樹脂レンズとからなる素子を配列する必要があるために、実際に発光する部分よりも大きな面積が必要であった。
【0120】
これに対して、有機EL素子では、配線および制御回路などを形成した基板上に素子を直接形成し、素子をそのまま動作させて利用できるので、発光ユニットの高集積化が容易であり、全体として小さな通信向け照明用光源(送信装置)が実現できる。
【0121】
また、従来のLEDの場合には、送信装置における照明用光源の強度変調は、ドライバIC(IC:Integrated Circuit)といった外部制御回路を用いて行う必要があった。そのため、送信装置を構成するユニットの小型化が困難であった。
【0122】
これに対して、有機EL素子の場合には、発光層を含む発光部の近傍に薄膜トランジスタ等の変調素子からなる制御回路を一体的に形成することができる。制御回路と有機EL素子とを、例えば積層して一体化すれば、発光ユニットの小型化が容易である。
【0123】
このように、有機EL素子を用いることにより、発光ユニットのさらなる小型化や集積化が可能であり、有機EL素子と制御回路との積層構造も容易に製造できるので、高速大容量の照明光通信に対応した送信装置の小型化を実現することができる。
【0124】
有機EL素子としては、蛍光発光型(一重項遷移)とリン光発光型(三重項遷移)が知られているが、本実施形態では、どちらを使用してもよい。有機EL素子を小さくし、RC時定数を小さくして応答速度を上げても、発光の減衰時間で規定される速度以上に応答速度を上げることはできない。
【0125】
有機EL素子は、その発光のメカニズムによって、蛍光発光(一重項励起状態からの発光)型とリン光発光(三重項励起状態からの発光)型とに分けられる。一般に、蛍光発光型はリン光発光型よりも発光の減衰時間が短く、室温(20℃程度)では蛍光発光型で約10ns程度、リン光発光型で約1μs程度である。したがって、どちらを用いても、素子単体で1Mbps程度の伝送速度までの信号通信に対応可能である。
【0126】
また、本発明の実施形態において、蛍光発光型の有機EL素子およびリン光発光型の有機EL素子の双方を混載した集積デバイスを照明用光源として用いてもよい。蛍光発光型は、リン光発光型よりも応答速度をより速くできるので、高速な通信用途に適しているといえる。リン光発光型は、蛍光発光型よりも発光効率をより高くできるので、照明用途に適している。
【0127】
有機EL素子は発光層材料を素子ごとに選択的に分けて形成できる。よって、照明用光源において、例えば照明用の有機EL素子をリン光発光型とし、通信用の有機EL素子を蛍光発光型とするというように、照明用光源が、送信データに基づいて変調された変調光を出射する通信用の有機EL素子と、非変調光を出射する照明用の有機EL素子とを含んで構成されてもよい。
【0128】
この場合には、蛍光発光型の有機EL素子には、照明機能および通信機能の双方を担わせて、送信すべき送信データに応じて変調された変調光を出射する通信用の有機EL素子としてこれを用いるのがよい。また、リン光発光型の有機EL素子には、照明機能のみを担わせて、一定の非変調光を出射する照明用の有機EL素子としてこれを用いるのがよい。
【0129】
これら照明用の有機EL素子および通信用の有機EL素子は、前述したサブ光源ごとにいずれかの有機EL素子を選択して設ける構成としてもよい。また、単一のサブ光源内に照明用の有機EL素子および通信用の有機EL素子を混在させてもよい。
【0130】
これにより、照明効率の向上と通信の高速化とを両立した照明システムが構築できる。ただし、このような構成では、照明からの全光量に対して、通信情報が重畳された光(信号光)の割合が小さくなる。したがって、受信装置として、光の強度変化に敏感なシステムが必要になる。全光量に対する信号光の割合としては、1%以上50%以下であることが望ましい。
【0131】
一般照明を用いて照明光通信を行う場合には、照明用光源は白色であることが望ましい。有機EL素子で白色光を得るためには、1つの素子内部にR素子、G素子、およびB素子の発光層を積層する方法がある。
【0132】
これらの白色光を発光する有機EL素子は、従来の蛍光体を用いた、いわゆる白色LEDのような電流注入による青色発光→蛍光体励起→黄色発光というプロセス非経由で、電流注入直接再結合により複数の波長の発光を出射する。そのため、従来の蛍光体を用いた白色LEDよりも応答速度がより速いという特長があり、照明光通信システムに好適である。
【0133】
図10を参照して、送信装置に好適に適用可能な有機EL素子26の構成例につき説明する。
【0134】
図10は、有機EL素子の概略的な断面図である。本実施形態の有機EL素子26は、基板50上に設けられている。ここでは、いわゆるアクティブマトリクス方式の面光源として基板50上に形成された1つの有機EL素子26の構成を説明する。
【0135】
基板50には、マトリクス状に複数の画素領域51が設定されている。各画素領域51は、隔壁60により区画されている。隔壁60は、格子状に設けられ、隔壁60により電気的に区分けされる各画素領域51に、各有機EL素子21がそれぞれ配置される。
この隔壁60は、後述する第1電極52が形成された基板50上の画素領域51を区画する領域に、例えば感光性レジスト液をスピン塗布し、これを露光および現像することで、光透過性である感光性樹脂よりなる隔壁として形成することができる。
【0136】
なお、本明細書において、「光」とは、1nmから1mm程度の範囲の波長の電磁波を意味する。「光透過性」とは、前述の「光」から照明光および信号光として使用できることを条件として選択された範囲内に含まれる波長の光が吸収および散乱されることなく透過するか、または入射した照明光および信号光が許容される程度の割合で透過することをいう。照明光および信号光は、好ましくは「可視光」とするのがよい。「可視光」とはヒトの目で見ることができる範囲の波長を有する電磁波をいう。可視光は、一般に短波長側が360nmから400nm程度、長波長側が760nmから830nm程度の波長を有している。本実施形態では、可視光透過率が10%程度以上であれば「光透過性」であるものとする。
【0137】
基板50に設定された画素領域51上には、有機EL素子26が設けられる。有機EL素子26は、発光層56と、陽極52および発光層56間に必要に応じて設けられる第1機能層53と、発光層56および陰極58間に必要に応じて設けられる第2機能層57とから構成されている。基板50上にはこの例では陽極である第1電極52(陽極52という場合がある)が配置されている。
【0138】
この陽極52の上には、所望により第1機能層53を挟んで、発光層56が配置される。発光層56の上には、所望により第2機能層57を挟んで、この例では複数の画素領域51にわたって、陰極である透明な光透過性の第2電極58(陰極58という場合がある)が配置されている。光透過性の第2電極58は、この例では3層の積層体から構成されている。3層の積層体は、第1電極52側から順に積層された第1電極層58A、第2電極層58B、第3電極層58Cの3層からなる。基板50上に配置された陽極52、発光層56、陰極58を保護するために保護層(上部封止膜と呼称する場合もある)70が設けられている。
【0139】
なお、本実施形態では、第1電極52が陽極であり、光透過性の第2電極58が陰極であるが、第1電極52が陰極であり、第2電極58が陽極である有機EL素子26を構成してもよい。この場合には、第1電極52および第2電極58の配置を前述の実施形態の通りに固定し、これら第1電極52および第2電極58に挟持される積層構造体の積層順を逆順として、トップエミッション型の有機EL素子とすればよい。
【0140】
以下に、まず、第2電極58の3層構造について説明する。その後、その他の構成要素について説明する。
【0141】
(第2電極)
本実施形態において、陰極58は、3層の積層体から構成されている。3層の積層体は、発光層56側から順に積層された第1電極層58A(第1層58Aという場合がある)、第2電極層58B(第2層58Bという場合がある)および第3電極層58C(第3層58Cという場合がある)の3層からなる。
【0142】
本実施形態において、陰極58の第1電極層58Aは金属、金属酸化物、金属フッ化物、およびこれらの混合物からなる群より選択される材料を含む。第2電極層58Bはカルシウム、アルミニウム、マグネシウム、およびこれらの混合物からなる群より選択される金属を含む。
【0143】
第1電極層58Aが金属酸化物および/または金属フッ化物を含み、第2電極層58Bに含まれる材料が、第1電極層58Aに含まれる材料に対する還元剤であるか、または第1電極層58Aが金属を含み、第2電極層58Bに含まれる材料が、第1電極層58Aに含まれる金属の酸化物に対する還元剤であることが好ましい。
【0144】
本発明のさらに他の実施形態において、陰極58の第2電極層58Bの材料は、第1電極層58Aの材料に対して還元作用を有する。この実施形態において、第1電極層58Aは金属、金属酸化物、金属フッ化物、およびこれらの混合物からなる群より選択される材料を含むことが好ましく、また、第2電極層58Bは、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、およびこれらの混合物からなる群より選択される金属を含むことが好ましい。
【0145】
前述の実施形態において、第1電極層58Aが金属、金属酸化物、金属フッ化物、およびこれらの混合物からなる群より選択される材料を含む場合には、第1電極層58Aは、これらの材料から実質的になる層とすることができる。金属、金属酸化物、金属フッ化物、およびこれらの混合物の中では金属が好ましい。第1電極層58Aに含まれる金属、金属酸化物、金属フッ化物、およびこれらの混合物を構成する金属としては、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を挙げることができる。より具体的には、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等を挙げることができ、バリウム、ナトリウム、ルビジウムであることが特に好ましい(バリウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、およびこれらの混合物からなる群を第1の群とする場合があり、ナトリウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、およびこれらの混合物からなる群を第2の群という場合がある)。
また、第1電極層は、前述のルビジウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、およびこれらの混合物からなる群より選択される材料を含むのが好ましい。
第2電極層58Bを構成する材料がカルシウムまたはマグネシウムを含む場合には、第1電極層58Aを構成する金属は、カルシウムまたはマグネシウム以外の金属であることが好ましい。
【0146】
第2電極層58Bがカルシウム、アルミニウム、マグネシウム、およびこれらの混合物からなる群より選択される金属を含む場合には、第2電極層58Bは、これらの金属、これらの金属の酸化物、これらの金属のフッ化物、またはこれらの混合物のいずれかのみから実質的になる層とすることができる。特に、これらの金属のみから実質的になることが好ましい。
【0147】
部材A(例えば金属)「のみから実質的になる」とは、蒸着等の製造工程、および使用に際しての酸化等の過程において混入した部材Aとは異なる他の元素が含まれてもよいことを意味し、具体的には、部材Aの含有割合が90モル%以上である場合とすることができる。
【0148】
第2電極層58Bに含まれる材料が第1電極層58Aに含まれる材料に対する還元剤である場合、第2電極層58Bに含まれる材料が第1電極層58Aに含まれる金属の酸化物に対する還元剤である場合、および第2電極層58Bに含まれる材料が第1電極層58Aに含まれる材料に対して還元作用を有する場合において、材料間の還元能の有無・程度は、例えば、化合物間の結合解離エネルギー(ΔrH°)から決定することができる。即ち、第2電極層58Bを構成する材料による、第1電極層58Aを構成する材料に対する還元反応において、結合解離エネルギーが正であるような組み合わせである場合には、第2電極層58Bの材料が第1電極層58Aの材料に対して還元能を有するといえる。
【0149】
結合解離エネルギーは、例えば、電気化学便覧第5版(丸善、2000)、熱力学データベースMALT(科学技術社、1992)などで参照できる。例を挙げると、LiFとAlの組み合わせでは、
3LiF+Al→3Li+AlF、ΔrH°=−36.28
となり、吸熱反応であることからAlはLiFに対する還元能を有しない。また、LiFとCaの組み合わせでは、
2LiF+Ca→2Li+CaF、ΔrH°=+38.58
となり、放熱反応であることからCaはLiFに対する還元能を有する。
【0150】
第2電極層58Bの材料が第1電極層58Aの材料に対して還元能を有する場合の第1電極層58Aおよび第2電極層58Bの材料の組み合わせの例を以下に列挙する。以下の式においては、左辺の左側の材料が第1電極層58Aの材料、左辺の右側の材料が第2電極層58Bの材料であり、左辺の右側の材料が左辺の左側の材料に対する還元剤となる。
(1)2BaO+Al→2Ba+AlO,ΔrH°=+197.6
(2)BaO+Ca→Ba+CaO,ΔrH°=+172.4
(3)BaO+Mg→Ba+MgO,ΔrH°=+217.2
(4)BaF+Ca→Ba+CaF,ΔrH°=+55.2
(5)2BaF+Ca→2Ba+CaF,ΔrH°=+51.0
(6)BaF+Mg→Ba+MgF,ΔrH°=+135.9
(7)2BaF+Mg→2Ba+MgF,ΔrH°=+139.3
(8)2LiF+Ca→2Li+CaF,ΔrH°=+38.5
(9)CsF+Ca→Cs+CaF,ΔrH°=+14.7
(10)CsF+Ag→Cs+AgF,ΔrH°=+158.0
(11)CsCO+Al→2Cs+AlO+CO,ΔrH°=+303.0
(12)CsCO+Ca→2Cs+CaO+CO,ΔrH°=+431.6
(13)CsCO+Ag→2Cs+AgO+CO,ΔrH°=+595.4
(14)2NaO+Al→4Na+AlO,ΔrH゜=+41.7
(15)2RbO+Al→4Rb+AlO,ΔrH゜=+41.7
(16)RbO+Ca→2Rb+CaO,ΔrH゜=+94.4
【0151】
本実施形態において、第1電極層58Aの材料が、酸化物またはフッ化物などでない金属のみから実質的になる場合、金属の酸化物に対して第2電極層58Bの材料が還元作用を有するか、または金属のフッ化物に対して第2電極層58Bの材料が還元作用を有するか、または金属酸化物および金属フッ化物の両方に対して第2電極層58Bの材料が還元作用を有する場合、本発明でいう「第2層の材料が第1層の材料に対して還元作用を有する」場合に該当するものとする。第1電極層58Aの材料が金属のみから実質的になるものとして有機EL素子を製造した場合であっても、製造工程等の過程において第1電極層58Aに混入する微量の酸素、水分等により酸化物、フッ化物等が生じうる。その酸化物、フッ化物等に対して、第2電極層58Bの材料が還元作用を有する場合には、本発明の効果を得ることができる。したがって、第2電極層58Bの材料は、第1電極層58Aを構成する金属の酸化物およびフッ化物の両方に対して還元作用を有することが好ましい。この場合には、上記に列挙したように、カルシウム、アルミニウム、マグネシウムを第2電極層58Bの材料として好適に用いることができる。
【0152】
本実施形態において、陰極58を構成する第3電極層58Cは、可視光透過率が通常40%以上であり、好ましくは50%以上である。このような可視光透過率とすることにより、第2電極(陰極)58を、光透過性の電極とすることができる。第3電極層58Cを構成する材料は、金、銀、銅、錫、鉛、ニッケル、インジウム、およびこれらの合金からなる群より選択されることが好ましい。
【0153】
陰極58を構成する第1電極層58A、第2電極層58Bおよび第3電極層58Cの厚さは、特に限定されないが、特に可視光透過率に鑑みて適宜設定される。第1電極層58Aの厚さが0.5nmから10nm、第2電極層58Bの厚さが0.5nmから10nm、第3電極層58Cの厚さが5nmから30nmであることが好ましい。
【0154】
また、第2電極58の全層を透過する光の可視光透過率は、40%以上であることが、有機EL素子の光(取り出し)特性を良好なものとする上で好ましい。
【0155】
第1電極層58A、第2電極層58B、および第3電極層58Cを形成する方法としては、発光層56等へのダメージを避けることが可能であるため、真空蒸着法等の蒸着法が好ましい。真空蒸着法により第2電極58を形成する場合には、操作の簡便性、および異物混入による品質低下の防止の観点から、真空蒸着装置のチャンバー内に基板を設置して減圧し、真空を保ったまま第1電極層58A、第2電極層58B、および第3電極層58Cを連続して形成することが好ましい。
【0156】
また、第2電極58の光(可視光)透過率を向上させることを目的として、第3電極層58Cの上に、反射防止層を設ける事もできる。反射防止層に用いられる材料としては屈折率(n)が1.8〜3.0程度のものが好ましく、例えば、ZnS、ZnSe、WOなどが挙げられる。反射防止層の膜厚は材料の組合せによって異なるが、通常10nm〜150nmの範囲である。
例えば、第2電極58として、第1電極層58AにBaを5nm、第2電極層58BにAlを1nm、第3電極層58CにAgを15nmの構成を用いた場合、第3電極層58C上に、反射防止層としてWOを21nm積層すると、発光層56側からの光透過率が10%向上する。
【0157】
続いて、陰極である第2電極58以外の有機EL素子26の構成要素について、以下に詳しく説明する。
【0158】
(基板)
基板50としては、有機EL素子26を形成する工程において変化しないもの、すなわち、電極を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよく、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよく、例えば、ガラス板、プラスチック板、高分子フィルムおよびシリコン板、並びにこれらを積層した積層板などが好適に用いられる。さらに、プラスチック、高分子フィルムなどに低透水化処理を施したものを用いることもできる。基板50としては、市販のものが使用可能である。また基板を公知の方法により製造することもできる。
【0159】
基板50は、前述したような駆動用の制御回路28が厚み内に設けられたいわゆるTFT基板とすることができる。また、基板50上に制御回路28が設けられ、制御回路28上に平坦化膜が設けられていてもよい。平坦化膜が設けられる場合には、平坦化膜の中心線上の平均粗さ(Ra)がRa<10nmを満たすことが好ましい。
【0160】
(第1電極)
本実施形態において第1電極52は、基板50上に、直接または必要に応じて他の層を介して設けられる。第1電極52は、発光層56からの出射光を第2電極58側へ反射させる反射電極として設けられる。第1電極52は、例えば基板50の厚み内に設けられたアクティブマトリクス駆動方式のための制御回路28に電気的に接続されて設けられることが好ましい。
【0161】
第1電極52は、可視光に対する反射率が80%以上であることが好ましい。このような反射率を有することにより、トップエミッション型の有機EL素子における反射電極として有効に用いることができる。
【0162】
第1電極52は、好ましくは陽極として設けられる。後述する正孔注入層、正孔輸送層などの第1機能層53、および発光層56等で用いられる有機半導体材料への正孔供給性の観点からは、かかる第1電極52の発光層56側表面の仕事関数が4.0eV以上であることが好ましい。
【0163】
第1電極52を陰極とすることもできる。このような第1電極52の材料としては、仕事関数が小さく、発光層56への電子注入が容易な材料および/または電気伝導度が高い材料および/または可視光反射率の高い材料が好ましい。陰極である第1電極52の材料としては、具体的には、金属、金属酸化物、合金、グラファイトまたはグラファイト層間化合物、酸化亜鉛(ZnO)等の無機半導体などを挙げることができる。
【0164】
上記金属としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や周期表の13族金属等を用いることができる。これら金属の具体的例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等を挙げることができる。
【0165】
また、合金としては、上記金属の少なくとも一種を含む合金を挙げることができ、具体的には、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等を挙げることができる。
【0166】
この第1電極52は、必要に応じて光透過性とされるが、それらの材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛酸化物)などの導電性酸化物;ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの導電性有機物を挙げることができる。
【0167】
なお、第1電極52を2層以上の積層構造としてもよい。また、第1電極52の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0168】
また、第1電極52を反射電極かつ陽極として設ける場合には、高光反射性金属からなる光反射層と4.0eV以上の仕事関数を有する材料からなる高仕事関数材料層を組み合わせた多層構造が好ましい。
【0169】
このような第1電極52の具体的な構成例としては、以下の(1)〜(15)を例示することができる。
(1) Al
(2) Ag
(3) Ag−MoO
(4) AgとPdとCuとの合金−ITO
(5) AlとNdとの合金−ITO
(6) MoとCrとの合金−ITO
(7) Cr−Al−Cr−ITO
(8) Cr−Ag−Cr−ITO
(9) Cr−Ag−Cr−ITO−MoO
(10) AgとPdとCuとの合金−IZO
(11) AlとNdとの合金−IZO
(12) MoとCrとの合金−IZO
(13) Cr−Al−Cr−IZO
(14) Cr−Ag−Cr−IZO
(15) Cr−Ag−Cr−IZO−MoO
【0170】
なお、上記(3)〜(15)までの表記において、記号「−」は、積層体の層間の界面を表し、表記の左側が基板50側である。十分な光反射率を得るために、Al、Ag、Al合金、Ag合金などの高光反射性金属層の膜厚は50nm以上であることが好ましく、より好ましくは80nm以上である。ITO、IZOなどの高仕事関数材料層の膜厚は通常、5nm〜500nmの範囲である。
【0171】
また、短絡等の電気的接続の不良を防止する観点から、第1電極52の発光層56側表面の中心線平均粗さ(Ra)はRa<5nmを満たすことが望ましく、より好ましくはRa<2nmである。
【0172】
Raは、日本工業規格JISのJIS−B0601−2001に基づいて、JIS−B0651からJIS−B0656およびJIS−B0671−1等を参考に計測できる。
【0173】
第1電極52の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、および金属薄膜を熱圧着するラミネート法等が挙げられる。
(第1機能層)
本実施形態において、陽極である第1電極52と発光層56との間に必要に応じて設けられる第1機能層53としては、正孔注入層、正孔輸送層、および電子ブロック層等が挙げられる。
【0174】
(正孔注入層)
正孔注入層は、陽極である第1電極52からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔注入層は、陽極52と正孔輸送層との間、または陽極52と発光層56との間に設けることができる。正孔注入層を構成する材料としては、公知の材料を適宜用いることができ、特に制限はない。例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0175】
正孔注入層の成膜方法としては、例えば、正孔注入層となる材料(正孔注入材料)を含む溶液からの成膜を挙げることができる。溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔注入材料を溶解させるものであれば、特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水を挙げることができる。
【0176】
溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができる。
【0177】
また、正孔注入層の厚みとしては、5〜300nm程度であることが好ましい。この厚みが5nm未満では、製造が困難になる傾向があり、他方で、300nmを超えると、駆動電圧、および正孔注入層に印加される電圧が大きくなる傾向がある。
【0178】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは、陽極、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。正孔輸送層を構成する材料としては、特に制限はないが、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体などが例示される。
【0179】
これらの中でも、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0180】
芳香族アミン化合物としては、第3級アミンが好ましく、具体的には下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む化合物があげられる。
【0181】
【化1】

式中、Ar、Ar、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアリーレン基または置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、Ar、ArおよびArは置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよい1価の複素環基を表し、nおよびmはそれぞれ独立して、0または1を表し、0≦n+m≦2である。
【0182】
式(1)中、芳香環上の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、アルキルオキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルキルオキシ基、アリールアルキルチオ基、アルケニル基、アルキニル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、酸イミド基、イミン残基、置換アミノ基、置換シリル基、置換シリルオキシ基、置換シリルチオ基、置換シリルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、1価の複素環基、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールチオ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールアルキルオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基およびカルボキシル基などから選ばれる置換基で置換されていてもよい。
【0183】
また、置換基は、ビニル基、アセチレン基、ブテニル基、アクリル基、アクリレート基、アクリルアミド基、メタクリル基、メタクリレート基、メタクリルアミド基、ビニルエーテル基、ビニルアミノ基、シラノール基、小員環(たとえばシクロプロピル基、シクロブチル基、エポキシ基、オキセタン基、ジケテン基、エピスルフィド基等)を有する基、ラクトン基、ラクタム基、またはシロキサン誘導体の構造を含有する基等の架橋基であってもよい。また、上記の基の他に、エステル結合やアミド結合を形成可能な基の組み合わせ(例えばエステル基とアミノ基、エステル基とヒドロキシル基など)なども架橋基として利用できる。
【0184】
なお、正孔輸送層を構成する芳香族アミン化合物としては、上記一般式(1)で表される繰り返し単位において、ArとArが直接または、−O−、−S−等の2価の基を介して結合した構造の繰り返し単位を含む化合物でもよい。
【0185】
アリーレン基としては、フェニレン基等があげられ、2価の複素環基としては、ピリジンジイル基、等があげられ、これらの基は置換基を有していてもよい。
【0186】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等があげられ、1価の複素環基としては、ピリジル基等があげられ、これらの基は置換基を有していてもよい。
【0187】
芳香族第3級アミン化合物の構造を含む繰返し単位を含む重合体は、さらに他の繰り返し単位を有していてもよい。他の繰り返し単位としては、フェニレン基、フルオレンジイル基等のアリーレン基があげられる。なお、この重合体の中では、架橋基を含んでいるものがより好ましい。
【0188】
正孔輸送層の成膜方法としては、特に制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。
【0189】
溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば、特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒などを挙げることができる。溶液からの成膜方法としては、前述した正孔注入層の成膜法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0190】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収の弱いものが好適に用いられ、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0191】
正孔輸送層の厚みは、特に制限されないが、目的とする設計に応じて適宜変更することができ、1〜1000nm程度であることが好ましい。この厚みが前述の下限値未満となると、製造が困難になる、または正孔輸送の効果が十分に得られないなどの傾向があり、他方、上限値を超えると、駆動電圧および正孔輸送層に印加される電圧が大きくなる傾向がある。したがって正孔輸送層の厚みは、上述のように、好ましくは、1〜1000nmであるが、より好ましくは、2nm〜500nmであり、さらに好ましくは、5nm〜200nmである。
【0192】
電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層、および/または正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0193】
(発光層)
発光層56は、通常、主として蛍光またはリン光を発光する有機物を有する。発光層56は、有機物として低分子化合物および/または高分子化合物を含んでいる。また、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。この実施形態において用いることができる発光層56を形成する材料としては、例えば以下のものが挙げられる。なお、陽極52と陰極58との間には、一層の発光層に限らず、複数の発光層が配置されてもよい。
【0194】
なお、本明細書でいう高分子とは、ポリスチレン換算の数平均分子量が、10以上であり、通常、ポリスチレン換算の数平均分子量が10以下である。
発光層56が含有する高分子発光材料の重量平均分子量は、1万から1000万が好ましく、さらに好ましくは2万から500万である。また高分子発光材料は有機溶剤に対して可溶性を有することが好ましい。高分子発光層の厚みとしては、5nmから300nmが例示され、30nmから200nmが好ましく、さらに好ましくは40nmから15nmである。
【0195】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0196】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0197】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0198】
前述の材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0199】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0200】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0201】
(ドーパント材料)
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nmから200nm(20〜2000Å)である。
【0202】
(発光層の成膜方法)
有機物を含む発光層の成膜方法としては、発光材料を含む溶液を発光層形成領域の面上に塗布する方法、発光層形成領域の面上に真空蒸着法を用いて堆積させる方法、所定の基体の上に発光材料を含む溶液を塗布し、この塗膜を成膜化し、得られた膜を発光層領域に転写する方法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒の具体例としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する際に正孔輸送材料を溶解させる溶媒と同様の溶媒が挙げられる。
【0203】
発光材料を含む溶液を発光層形成領域の面上、もしくは転写用の膜を形成するための基体の上に塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の色分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合は、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザによる転写や熱転写により、所望のところのみに発光層を形成する方法も用いることができる。
【0204】
(第2機能層)
発光層56と陰極である第2電極58との間に、必要に応じて、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等の第2機能層57が積層される。
【0205】
なお、陰極58と発光層56との間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合には、陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という。
【0206】
(電子注入層)
電子注入層は、陰極58からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子注入層は、先に述べたように、電子輸送層と第2電極58との間、または発光層56と第2電極58との間に設けられる。電子注入層としては、発光層56の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、あるいは金属を一種類以上含む合金、あるいは金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物、あるいは物質の混合物などが挙げられる。
【0207】
アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。
【0208】
アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0209】
さらに、金属、金属酸化物、金属塩をドーピングした有機金属化合物、および有機金属錯体化合物、またはこれらの混合物も、電子注入層の材料として用いることができる。
【0210】
電子注入層は、2層以上を積層した積層構造を有していてもよい。具体的には、Li/Caなどが挙げられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0211】
(電子輸送層)
電子輸送層は、陰極58、電子注入層または陰極58により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。電子輸送層を形成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体等が例示される。
【0212】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0213】
なお、電子注入層および正孔注入層を総称して電荷注入層という場合があり、電子輸送層および正孔輸送層を総称して電荷輸送層という場合がある。
【0214】
正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層、および/または電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0215】
本実施形態の有機EL素子26において、陽極52から陰極58までの層構成の組み合わせ例を以下に示す。
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
f)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
g)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
h)陽極/発光層/電子注入層/陰極
i)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
【0216】
また、本実施形態の有機EL素子26は、2層以上の発光層を有していてもよく、2層の発光層を有する有機EL素子としては、以下のj)に示す層構成を挙げることができる。
j)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/電荷発生層/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
【0217】
また、3層以上の発光層を有する有機EL素子としては、具体的には、(電荷発生層/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層)を一つの繰り返し単位として、以下のk)に示す繰り返し単位を2つ以上含む層構成を挙げることができる。
k) 陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/(該繰り返し単位)/(該繰り返し単位)/・・・/陰極
層構成j)およびk)において、陽極、陰極、発光層以外の各層は必要に応じて非形成とすることができる。
【0218】
ここで、電荷発生層とは電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、ITO、酸化モリブデンなどからなる薄膜を挙げることができる。
【0219】
有機EL素子においては、通常、基板側に陽極が配置されるが、基板側に陰極を配置するようにしてもよい。
【0220】
本実施形態の有機EL素子26は、さらに電極との密着性向上や電極からの電荷注入性の改善のために、電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。また界面での密着性向上や混合の防止などのために、前述した各層間に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0221】
(保護層)
前述のように第2電極(陰極)58が形成された後、少なくとも基本構造である第1電極(陽極)52−発光層56−第2電極(陰極)58を保護するために、これらを封止する保護層(上部封止膜)70が形成される。この保護層70は、通常、少なくとも一つの無機層と少なくとも一つの有機層を有する。積層数は、必要に応じて決定され、基本的には、無機層と有機層は交互に積層される。
【0222】
なお、ガラス基板に比べると、プラスチック基板は酸素および水などのガスの透過性が高い。発光層56などの発光物質は酸化されやすく、酸素および水などと接触することにより劣化しやすいので、基板50としてプラスチック基板が用いられる場合には、ガスバリア性を高めるための処理を基板50に予め施すことが好ましい。例えばプラスチック基板上にガスなどに対するバリア性の高い下部封止膜を積層し、その後、この下部封止膜の上に有機EL素子26を積層形成することが好ましい。この下部封止膜は、通常、保護層(上部封止膜)と同様の構成、同様の材料にて形成される。
【0223】
本実施形態の有機EL素子26を用いた装置では、第2電極58に対向する第1電極52はアクティブマトリクス駆動方式を実現するための回路、例えば基板50の厚み内に設けられている制御回路28に電気的に接続される。例えば前述したようにアクティブマトリクス駆動方式用の制御回路28が形成されたTFT基板(50)上に複数の有機EL素子26を形成することによって、アクティブマトリクス駆動方式の装置を実現することができる。
【0224】
本実施形態の有機EL素子26を用いた装置は、さらに必要に応じて、カラーフィルターまたは蛍光変換フィルター等のフィルター、画素の駆動に必要な回路および配線等の、任意の構成要素を有することができる。
【0225】
本実施形態の有機EL素子26を用いた装置においては、第1電極52が反射電極となり、第2電極58が透過電極となる。すなわち、基板50とは反対側の面から光が取り出されるトップエミッション型の有機EL素子を備えた装置とすることができる。かかる構成を採用することにより、第1電極52を駆動電極とし、駆動回路の設計の自由度を確保しながら光学的な開口率を高くすることができる。これにより、輝度を向上させることができる。
また、3層構造をとる電極のうち、第2電極層含まれる材料が、第1電極層に対する還元作用を有するため、照明用光源が備える有機EL素子をより長寿命化することができる。結果として、送信装置を、伝送速度が速く、かつ発光効率が高く、さらに寿命特性の高い優れた装置とすることができる。本実施形態の有機EL素子26を用いた装置は、例えば両面を光透過性の電極とし、両面に発光する装置とすることもできる。
【実施例】
【0226】
以下、作製例および参考例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の例示に限定されるものではない。
【0227】
以下に示す作製例1から作製例5では、光透過性の第2電極58を3つの層から構成した場合の効果を確認した。
【0228】
(作製例1)
(A:第1電極(陽極)の形成)
ガラス基板上に、真空蒸着法にて、第1電極(陽極)である厚さ100nmの銀層を成膜した。本銀層は反射率90%の光反射陽極である。さらに、真空を保ったまま、光反射陽極上に、正孔注入層として、厚さ10nmのMoO層をさらに成膜した。
【0229】
(B:正孔輸送層の形成)
正孔輸送性高分子材料およびキシレンを混合し、正孔輸送性高分子材料の0.7重量%キシレン溶液(正孔輸送層形成用組成物)を得た。
【0230】
前述の(A)工程で得た、陽極および正孔注入層を有する基板を真空装置より取り出し、正孔注入層の上に、正孔輸送層形成用組成物をスピンコート法により塗布し、膜厚20nmの塗膜を得た。
【0231】
この塗膜を設けた基板を190℃で20分間加熱し、塗膜を不溶化させた後、室温まで自然冷却させ、正孔輸送層を得た。
【0232】
(C:発光層の形成)
発光高分子材料およびキシレンを混合し、発光高分子材料の1.4重量%キシレン溶液(発光層形成用組成物)を得た。
【0233】
前述の(B)工程で得た、陽極、正孔注入層、および正孔輸送層を有する基板の正孔輸送層の上に、発光層形成用組成物をスピンコート法により塗布し、膜厚80nmの塗膜を得た。
【0234】
この塗膜を設けた基板を130℃で20分間加熱し、溶媒を蒸発させた後、室温まで自然冷却させ、発光層を得た。
【0235】
(D:第2電極の形成)
前述の(C)工程で得た、陽極、正孔注入層、正孔輸送層および発光層を有する基板の発光層の上に、真空蒸着法によって、陰極である第2電極の第1層(第1電極層に相当する)である5nmのBa層、第2層(第2電極層に相当する)である5nmのCa層、第3層(第3電極層に相当する)である15nmのSn−Ag合金(モル比はSn:Ag=96:4)層を、連続的に成膜し、第1層、第2層および第3層からなる電極を形成した。
【0236】
(E:封止)
前述の(D)工程で得た、有機EL素子が積層された基板を真空蒸着装置より取り出し、窒素雰囲気下、封止ガラスおよび2液混合エポキシ樹脂にて基板上の有機EL素子を封止した。
【0237】
(F:評価)
前述の(E)工程で得られた素子に、0Vから12Vまでの電圧を印加し、最大発光効率を測定した。さらに、初期輝度6000cd/mとなる電流で通電し、一定電流を通電して、輝度半減寿命を測定した。結果を(表1)に示す。
【0238】
(作製例2)
第2電極の第3層として15nmのCu層を成膜した他は、作製例1と同様に操作し、有機EL素子を得て評価した。結果を(表1)に示す。
【0239】
(作製例3)
第2電極の第2層として1nmのAl層、第3層として15nmのCu層を成膜した他は、作製例1と同様にして有機EL素子を作製し、得られた有機EL素子を作製例1と同様に評価した。結果を(表1)に示す。
【0240】
(作製例4)
第2電極の第3層として15nmのAg層を成膜した他は、作製例3と同様にして有機EL素子を作製し、得られた有機EL素子を作製例1と同様に評価した。結果を(表1)に示す。
【0241】
以上の作製例1から作製例4の第3層を、前述の材料で前述の膜厚にそれぞれ形成した場合には、各作製例の第3層の可視光透過率は、それぞれ40%以上となる。
【0242】
(参考例1)
第2電極のCa層を成膜せず、第1層上に直接15nmのSn−Ag合金層を成膜した他は、作製例1と同様にして有機EL素子を作製し、得られた有機EL素子を作製例1と同様に評価した。結果を(表1)に示す。
【0243】
(参考例2)
第2電極のCa層を成膜せず、第1層上に直接15nmのCu層を成膜した他は、作製例1と同様にして有機EL素子を作製し、得られた有機EL素子を作製例1と同様に評価した。結果を(表1)に示す。
【0244】
【表1】

【0245】
作製例1と参考例1とを参照すれば明らかな通り、Baの第1層、Caの第2層、およびSn−Ag合金の第3層の3層からなる陰極を使用すると、かかる第2層を省略しBaの層およびSn−Ag合金の層の2層のみからなる陰極を使用した場合に比べて、発光効率が顕著に優れていた。また、輝度半減寿命も顕著に優れていた。
【0246】
また、作製例2、作製例3および参考例2を参照すれば明らかな通り、Baの第1層、CaまたはAlの第2層、およびCuの第3層の3層からなる陰極を使用すると、かかる第2層を省略しBaの層およびCuの層の2層のみからなる陰極を使用した場合に比べて、発光効率が優れていた。また、輝度半減寿命も優れていた。
【0247】
さらに、作製例4に示される通り、Baの第1層およびAlの第2層に加えて第3層としてAgのみからなる層を用いた場合に、発光効率および輝度半減寿命のいずれもが最も優れていた。
【0248】
(作製例5)
第2電極の第1層として3.5nmのLiF層、第2層として4nmのCa層、第3層として15nmのAg層を成膜した他は、作製例1と同様に操作し、有機EL素子を得て評価した。結果を(表2)に示す。
【0249】
(参考例3)
第2電極の第1層として3.5nmのLiF層を成膜し、Ca層を成膜せず第1層上に直接15nmのAg層を成膜した他は、作製例1と同様に操作し、有機EL素子を得て評価した。結果を(表2)に示す。
【0250】
【表2】

【0251】
作製例5と参考例3とを参照すれば明らかな通り、LiFの第1層、Caの第2層、およびAgの第3層の3層からなる陰極を使用すると、かかる第2層を省略しLiFの層およびAgの層の2層のみからなる陰極を使用した場合に比べて、発光効率が顕著に優れていた。また、輝度半減寿命も顕著に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0252】
【図1】照明光通信システムの概略的説明図(1)である。
【図2】照明光通信システムの概略的説明図(2)である。
【図3】照明光通信システムの概略的説明図(3)である。
【図4】照明光通信システムの概略的説明図(4)である。
【図5】電流プログラム方式の発光ユニットの回路図である。
【図6】電圧プログラム方式の発光素子の回路図である。
【図7】発光ユニットの動作説明図である。
【図8】照明光通信システムの概略的説明図(5)である。
【図9】照明用光源の動作説明図である。
【図10】有機EL素子の概略的な断面図である。
【符号の説明】
【0253】
10:照明光通信システム
20:送信装置
22:照明用光源
24:発光ユニット
23:サブ光源
23A:第1サブ光源
23B:第2サブ光源
23C:第3サブ光源
23D:第4サブ光源
26:有機EL素子
28:制御回路
29:直列/並列変換回路
30:受信装置
32:受光部
34:復調部
36:レンズ
38:並列/直列変換回路
42:走査線駆動回路
44:データ線駆動回路
50:基板
51:画素領域
52:第1電極(陽極)
53:第1機能層
56:発光層
57:第2機能層
58:第2電極(陰極)
58A:第1電極(第1層)
58B:第2電極(第2層)
58C:第3電極(第3層)
X:データ線
Y:走査線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信データに基づいて変調された変調光を出射する照明用光源を備える送信装置であって、
前記照明用光源は、第1電極と、該第1電極に対向して配置される光透過性の第2電極と、第1電極および第2電極間に配置される発光層とを含んで構成される有機エレクトロルミネッセンス素子を備え、
前記第2電極は、第1電極層、第2電極層、および可視光透過率が40%以上である第3電極層が、前記発光層側からこの順に積層されてなり、
前記第2電極層は、前記第1電極層に含まれる材料に対して還元作用を有する材料により構成される照明光通信システム用の送信装置。
【請求項2】
前記照明用光源は、それぞれの発光面積が10−8cmから10−1cmである複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
前記照明用光源が、前記変調光を出射する通信用の有機エレクトロルミネッセンス素子と、非変調光を出射する照明用の有機エレクトロルミネッセンス素子とを備える請求項1または2に記載の送信装置。
【請求項4】
前記通信用の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層が、蛍光を発光する発光材料を用いて形成され、かつ前記照明用の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層が、リン光を発光する発光材料を用いて形成されてなる請求項3に記載の送信装置。
【請求項5】
前記第1電極層が、金属、金属酸化物、金属フッ化物、およびこれらの混合物からなる群より選択される材料を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項6】
前記第1電極層が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、及びこれらの混合物からなる群より選択される材料を含む、請求項5に記載の送信装置。
【請求項7】
前記第1電極層が、バリウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、およびこれらの混合物からなる第1の群、並びにナトリウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、およびこれらの混合物からなる第2の群のうちの1つの群より選択される材料を含む、請求項6に記載の送信装置。
【請求項8】
前記第2電極層が、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、およびこれらの混合物からなる群より選択される金属を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項9】
前記第3電極層が、金、銀、銅、錫、鉛、ニッケル、インジウム、およびこれらの合金からなる群より選択される材料からなり、
前記第3電極層の膜厚が、5nm以上30nm以下である請求項1から8のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項10】
前記第1電極の可視光に対する反射率が、80%以上である請求項1から9のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項11】
前記発光層は、重量平均分子量が1万から1000万であり、かつ有機溶媒に可溶である高分子発光材料を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項12】
変調光を出射する照明用光源を備える請求項1から11のいずれか一項に記載の送信装置と、前記照明用光源から出射された前記変調光を受光して電気信号に変換し、該電気信号を復調して受信データを生成する受信装置とを具備する、照明光通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−102966(P2010−102966A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273621(P2008−273621)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】