説明

照明器具及びシリコン単結晶の保管方法

【課題】 シリコン単結晶のライフタイムを低下させることなく、さらには作業性も損なわれない照明器具及び該照明器具を用いてシリコン単結晶を保管する保管方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくともシリコン単結晶を取り扱う場所に設けられる照明器具であって、該照明器具から発せられる照明光の600nm以上の波長における発光スペクトルの最大強度が、600nm未満の波長における発光スペクトルの最大強度の40%以下のものであることを特徴とする照明器具を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶を取り扱う場所を照らすための照明器具及びシリコン単結晶の保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン単結晶の工程内運搬経路や保管場所等において、特殊な照明等は使用せず、一般的な蛍光灯照明(照度300〜900ルクス程度)を使用し、あるいは、ストッカー等保管のみに特化されるような場所においては、照明を設けず成り行きの明るさ(照度0〜100ルクス程度)としていた。
【0003】
しかしながら、CZ法(チョクラルスキー法)によって製造されたp型シリコン単結晶に自然光、特には赤外光を当てると、ボロンや酸素濃度との関係によりキャリアの再結合が促進され、バルクライフタイムが低下することが知られていた(非特許文献1)。
これに基づいて、蛍光灯の光を含む自然光下においては、シリコン単結晶のひとつの品質項目であるライフタイムが低下してしまうという問題があった。
【0004】
これに対して、意図的に照明を消灯することで対応をとるという方法もとられてきたが、照明を点けないということは、作業性、安全性に問題があるため、何らかの照明手段が求められてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Electrochemical Society Proceeding Volume 96−13 P.450−453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シリコン単結晶のライフタイムを低下させることなく、さらには作業性も損なわれない照明器具及び該照明器具を用いてシリコン単結晶を保管する保管方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、少なくともシリコン単結晶を取り扱う場所に設けられる照明器具であって、該照明器具から発せられる照明光の600nm以上の波長における発光スペクトルの最大強度が、600nm未満の波長における発光スペクトルの最大強度の40%以下のものであることを特徴とする照明器具を提供する。
【0008】
このような照明光を発する照明器具であれば、前記照明光は、シリコン単結晶のライフタイムに強く影響する波長帯域においては、相対発光強度が小さく、且つ単結晶の製造や保管等の作業を行うのに都合の良い照度が得られるため、作業性や安全性を損なうことなく、且つシリコン単結晶のライフタイムの低下を抑制することができる。
【0009】
またこのとき、前記照明光は、600nm以上の波長を含まないものであることが好ましい。
【0010】
このような照明光であれば、シリコン単結晶のライフタイムを著しく低下させる波長帯域における光が、シリコン単結晶に照射されることをより確実に防止できるため好ましい。
【0011】
またこのとき、前記照明器具を、白色LED(白色系LEDともいう)とすることができる。
【0012】
このように照明器具が白色LEDであれば、白色LEDから発せられる光の600nm以上の波長における発光スペクトルの最大強度は、600nm未満の波長における発光スペクトルの最大強度の40%以下となるため、安価で且つ容易に本発明の効果を得ることができる。
【0013】
またこのとき、前記照明器具は、600nm以上の波長の光を選択的にカットするフィルターが白色LEDまたは蛍光灯に取り付けられたものとすることができる。
【0014】
このような照明器具であれば、シリコン単結晶のライフタイムの著しい低下をより確実かつ容易に防止することができる。
【0015】
またこのとき、前記シリコン単結晶は、CZ法によって製造されたp型シリコン単結晶であることが好ましい。
【0016】
CZ法によって製造されたp型シリコン単結晶は、自然光、特には赤外光によるライフタイムへの影響を受けやすいため、本発明が有効である。
【0017】
またこのとき、前記シリコン単結晶は、インゴット、ブロック及びウェーハのいずれかの形状とすることができる。
また、前記シリコン単結晶を取り扱う場所は、シリコン単結晶の製造室、洗浄室、加工室及び保管室のいずれかとすることができる。
【0018】
このように、本発明はシリコン単結晶の形状及びシリコン単結晶を取り扱う場所に関わらずその効果を得ることができるため、幅広い場面や状況において適用することができる。
【0019】
また、シリコン単結晶の保管方法であって、前記本発明の照明器具が設けられた場所に、シリコン単結晶を保管することを特徴とするシリコン単結晶の保管方法を提供する。
【0020】
このような保管方法であれば、シリコン単結晶の保管場所において、作業を行わない場合は暗室とし、作業を行う場合は本発明の照明器具を用いることによって、作業性や安全性を損なうことなく、且つ、例え長期間にわたりシリコン単結晶を保管しても、ライフタイムの低下を抑制してシリコン単結晶を保管することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、シリコン単結晶を取り扱う場所に設けられる照明器具を、シリコン単結晶のライフタイムに強く影響する波長帯域において、相対発光強度が小さい照明光を発する照明器具とできるので、作業性や安全性を損なうことなく、且つシリコン単結晶のライフタイムの低下を抑制することができる。さらに、本発明はシリコン単結晶の形状や取り扱う場所に関わらずその効果を得ることができるため、幅広い場面や状況において適用することができる。
さらに、シリコン単結晶に対して作業を行わない場合は暗室で保管し、作業を行う場合は本発明の照明器具によって照明しながら作業を行うことによって、作業性や安全性を損なうことなく、且つシリコン単結晶のライフタイムの低下を抑制しながらシリコン単結晶を保管及び処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】蛍光灯の特定波長帯ごとの光をシリコン単結晶に当てた場合のライフタイムの低下量を示した図である。
【図2】シリコン単結晶に照射した光の波長と、ライフタイムの低下量との関係をグラフで示した図である。
【図3】蛍光灯及び白色LEDの、発光強度の最大強度を100%(相対発光強度1.0)としたときの各波長における相対発光強度をグラフで示した図である。
【図4】暗室、白色LED照明下及び蛍光灯照明下におけるシリコン単結晶のライフタイムの低下量をグラフで示した図である。
【図5】600nm以上の波長をカットするフィルターが設けられた白色LED照明の照明光の照射前と照射後における、シリコン単結晶の抵抗率ごとのライフタイムをグラフで示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
前述のように、CZ法によって製造されたp型シリコン単結晶に自然光、特には赤外光を当てると、ボロンや酸素濃度との関係によりキャリアの再結合が促進され、バルクライフタイムが低下することは従来より知られていた。
このことから本発明者は、シリコン単結晶を取り扱う場所における照明器具について、いくつかの波長帯域におけるライフタイムの低下量を調査し、波長とライフタイムの低下量との関係を導き出し、ライフタイムに強い影響を与える波長帯域の発光強度を小さくした照明器具を、シリコン単結晶を取り扱う場所に用いることに想到し、本発明を完成させた。
【0024】
以下、その調査方法について説明する。
CZ法で製造されたp型、抵抗率8.8Ω・cm、酸素濃度15.5ppma(JEIDA)のシリコン単結晶を用意し、蛍光灯に特定の波長帯域のみをパスするフィルターを取り付け、前記シリコン単結晶に前記特定の波長帯域のみをパスした光を48時間照射し、ライフタイムの低下量を測定した。また、照度は200ルクスとした。
このときの結果を図1に示す。図1は、蛍光灯の特定波長帯ごとの光をシリコン単結晶に当てた場合のライフタイムの低下量を示した図である。
【0025】
図1からわかるように、450nm帯域のみを照射したときの低下量は22μsec、530nm域以下帯域のみを照射したときの低下量は36μsec、600nm域帯域のみを照射したときは87μsecであった。また、650nm以上をカットした可視光域の光を照射したときも低下量は83μsecであった。
これに対し、赤外域780nm以上の光のみを照射したときの低下量は239μsecであった。
【0026】
さらに、蛍光灯から照射した光の波長とライフタイム低下量の関係をグラフにすると図2のように示される。図2は、シリコン単結晶に照射した光の波長と、ライフタイムの低下量との関係をグラフで示した図である。
図2から、特に波長600nm以上の帯域がライフタイムの低下に影響を及ぼしていることがわかる。
【0027】
また、図3に蛍光灯と白色LEDの、発光強度の最大強度を100%(相対発光強度1.0)としたときの各波長における相対発光強度のグラフを示す。
図3からわかるように、蛍光灯の発光強度の最大強度は600nm付近にあり、600nm以上の波長帯では比較的相対発光強度の値が大きくなっているため、前述のようにライフタイムの低下に強い影響を及ぼすと考えられる。
また、白色LEDでは、発光強度の最大強度は450nm付近にあり、600nm以上の波長帯では相対発光強度の値が40%以下となっているため、シリコン単結晶のライフタイムの低下に及ぼす影響はあまり大きくならないと考えられる。
【0028】
以上の結果から、本発明者は、シリコン単結晶を取り扱う場所における照明器具を、発光スペクトルの条件として、該照明器具から発せられる照明光の600nm以上の波長における発光スペクトルの最大強度が、600nm未満の波長における発光スペクトルの最大強度の40%以下であるものとすれば、ライフタイムの低下を抑制しながらシリコン単結晶を保管または処理することができることを見出した。
【0029】
このとき、照明器具として白色LEDを用いれば、上記発光スペクトルの条件を達成できるため、安価で且つ容易に本発明の効果を得ることができる。
またここで、照明光を600nm以上の波長を含まないものとすれば、より効果的にライフタイムの低下を抑制することができる。例えば、蛍光灯や白色LED等に600nm以上の波長の光を選択的にカットするフィルターを取り付けても良い。また、照明光の波長が450nm帯域であると作業を行うのに十分な照度を得ることが難しいため、500〜600nmの帯域の波長に限定すればより好ましい。
【0030】
ここで前記シリコン単結晶として、CZ法によって製造されたp型シリコン単結晶を取り扱う場所に、本発明の照明を用いれば、p型CZ結晶はライフタイムが低下し易いので、本発明の効果をより良く得られる。
また、前記シリコン単結晶はその形状は限定されず、例えばインゴット、ブロックまたはウェーハ等の形状とすることができる。さらに、前記シリコン単結晶を取り扱う場所についても限定されず、例えば単結晶の製造室、洗浄室、加工室または保管室等とすることができる。
【0031】
ここで、単結晶の製造室とは、特には限定されないがCZ法、FZ法等によりシリコン単結晶を育成して製造する室のことである。また洗浄室とは、特には限定されないがシリコン単結晶を溶剤を用いて洗浄する室のことで、エッチングを兼ねても良い。加工室とは、特には限定されないがシリコン単結晶を切断、研削、研磨等をして加工する室のことである。保管室とは、特に限定されないが単結晶がブロック状、ウェーハ状であるか否か等その形状に関わらず、一時的に保管する室のことである。これらの室に関わらず、本発明はシリコン単結晶を取り扱う場所であって、照明を必要とする全ての場所に適用可能である。
このように、本発明の照明器具は、シリコン単結晶の形状や取り扱う場所が限定されないため、幅広い場面や状況で適用され、その効果を発揮させることができる。
【0032】
また、本発明の照明器具が設けられている場所にシリコン単結晶を保管することにより、その保管場所で作業をせずにシリコン単結晶を保管しておく場合は暗室とし、作業を行う場合は本発明の照明器具を用いて照明することにより、ライフタイムの低下をより効果的に抑制しながら安全に作業をしつつ、シリコン単結晶を保管することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(比較例1)
P型、抵抗率8.8Ω・cm、酸素濃度15.5ppma(JEIDA)のシリコン単結晶を暗室で48時間放置し、ライフタイム低下量を測定した。このときの結果を図4に示す。
【0034】
(比較例2)
シリコン単結晶を蛍光灯照明下で放置すること以外は比較例1と同じ条件で、ライフタイム低下量を測定した。このときの結果を図4に示す。
【0035】
(実施例1)
シリコン単結晶を白色LED照明下で放置すること以外は比較例1と同じ条件で、ライフタイム低下量を測定した。このときの結果を図4に示す。図4は、暗室、白色LED照明下及び蛍光灯照明下におけるシリコン単結晶のライフタイムの低下量をグラフで示した図である。
【0036】
(実施例2)
P型、抵抗率8.4〜9.2Ω・cm、酸素濃度15.5ppma(JEIDA)のシリコン単結晶に、600nm以上の波長をカットするフィルターを設けた白色LED照明の照明光を照射する前と48時間照射した後のライフタイム値を測定した。このときの測定結果を図5に示す。図5は、600nm以上の波長をカットするフィルターを設けた白色LED照明の照明光の照射前と照射後におけるシリコン単結晶の抵抗率ごとのライフタイムをグラフで示した図である。
【0037】
(実施例3)
照明器具として、600nm以上の波長をカットするフィルターを設けた蛍光灯照明を用いること以外は実施例2と同じ条件で、照明光を照射する前と48時間照明した後のライフタイム値を測定した。このとき、図5に示したものとほぼ同等の結果を得ることができ、実施例2及び実施例3の結果にはほとんど差は無かった。
【0038】
図4からわかるように、暗室(比較例1)では約5μsec、白色LED照明下(実施例1)では約30μsecとライフタイム値はあまり低下しないが、蛍光灯照明下(比較例2)では、ライフタイム値が約200μsecと著しく低下した。この理由は前述したとおり、ライフタイム値に大きく影響を与える600nm以上の波長帯域において、白色LED照明では相対発光強度は比較的小さいが、蛍光灯では相対発光強度がかなり大きな数値になってしまうためである。
また図5及び実施例3からもわかるように、フィルタリングされた白色LED照明(実施例2)または蛍光灯(実施例3)であれば、暗室から照明器具によって照明されている状態になっても、ほとんどライフタイム値に影響を与えることがないことがわかる。
【0039】
つまり、600nm以上の波長帯域がカットされていれば、白色LEDであっても蛍光灯照明であっても、シリコン単結晶のライフタイム値に与える影響を小さくすることができる。これは、図5より明らかである。
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載した技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともシリコン単結晶を取り扱う場所に設けられる照明器具であって、該照明器具から発せられる照明光の600nm以上の波長における発光スペクトルの最大強度が、600nm未満の波長における発光スペクトルの最大強度の40%以下のものであることを特徴とする照明器具。
【請求項2】
前記照明光は、600nm以上の波長を含まないものであることを特徴とする請求項1に記載の照明器具。
【請求項3】
前記照明器具は、白色LEDであることを特徴とする請求項1に記載の照明器具。
【請求項4】
前記照明器具は、600nm以上の波長の光を選択的にカットするフィルターが白色LEDに取り付けられたものであることを特徴とする請求項2に記載の照明器具。
【請求項5】
前記照明器具は、600nm以上の波長の光を選択的にカットするフィルターが蛍光灯に取り付けられたものであることを特徴とする請求項2に記載の照明器具。
【請求項6】
前記シリコン単結晶は、CZ法によって製造されたp型シリコン単結晶であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の照明器具。
【請求項7】
前記シリコン単結晶は、インゴット、ブロック及びウェーハのいずれかの形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の照明器具。
【請求項8】
前記シリコン単結晶を取り扱う場所は、シリコン単結晶の製造室、洗浄室、加工室及び保管室のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の照明器具。
【請求項9】
シリコン単結晶の保管方法であって、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の照明器具が設けられた場所に、シリコン単結晶を保管することを特徴とするシリコン単結晶の保管方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−138229(P2012−138229A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289147(P2010−289147)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】