説明

熱伝導性シリコーングリース組成物

【課題】熱伝導性充填剤の高充填が可能で、オイルブリードの発生し難い熱伝導性シリコーングリース組成物を提供する。
【解決手段】(A)25℃における粘度が10〜10000mPa・sであり、側鎖および/または分子鎖末端に式(1):‐COOX で表される基を有するポリオルガノシロキサン、および(B)熱伝導性充填剤を含有する。ただし、式(1)中、Xは水素原子、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、または、式(2):−SiR3−a (Rは置換または非置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、Yは炭素原子数1〜4のアルコキシ基、aは0〜3の整数である。))で表される基のいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性充填剤の高充填が可能で、オイルブリードの発生し難い熱伝導性シリコーングリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばCPU、パワートランジスタのような発熱性電子部品には、使用時の温度上昇による損傷や性能低下を防止するためにヒートシンクなどの放熱体が広く用いられており、発熱性電子部品から発生する熱を放熱体に効率よく伝導させるため、発熱性電子部品と放熱体との間には放熱シートや放熱グリースが使用されている。
【0003】
放熱グリースはその性状が液体に近く、放熱シートと比べて、発熱性電子部品や放熱体表面の凹凸に影響されることなく両者に密着して界面熱抵抗を小さくすることができる。
【0004】
一般に、熱伝導性充填剤を高充填すると熱伝導性能が改善されることが知られているが、組成物の粘度上昇を招き、作業性や成形性が低下しやすくなるため、その配合量の上限は制限されていた。近年の電子部品の高集積化、高速化にともなう発熱量のさらなる増大により、熱伝導性に優れたシリコーングリース組成物が求められているが、従来の組成物では、このような要求に十分に応えられるものではない。
【0005】
そこで、シリコーンオイルをベースとして、アルミナ粉末などの熱伝導性充填剤を高充填しても、良好な流動性、作業性を有するシリコーングリース組成物が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなシリコーングリース組成物は、熱伝導性充填剤の高充填は可能であるが、高温の条件下では、経時によりオイルブリードが発生して電子部品が汚染されやすい。
【特許文献1】特開2004−161797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、熱伝導性充填剤の高充填が可能で、オイルブリードの発生し難い熱伝導性シリコーングリース組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ベースオイルとして、エステル結合を有するシリコーンオイルを配合することによって、高温の条件下でも経時によるオイルブリードが著しく低減されることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物は、(A)25℃における粘度が10〜10000mPa・sであり、側鎖および/または主鎖末端に式(1):
−COOX ………(1)
で表される基を有するポリオルガノシロキサン、および(B)熱伝導性充填剤を含有することを特徴としている。
(式(1)中、Xは水素原子、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、または、式(2):
−SiR3−a ………(2)
(Rは置換または非置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、Yは炭素原子数1〜4のアルコキシ基、aは0〜3の整数である。))で表される基のいずれかである。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱伝導性充填剤の高充填が可能であり、オイルブリードが発生し難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物について詳細に説明する。
【0012】
[(A)成分]
(A)成分のポリオルガノシロキサン(シリコーンオイル)は、熱伝導性充填剤の高充填を可能にし、高温での経時によるオイルブリードを著しく低減する、本発明の特徴を付与する成分である。
【0013】
(A)成分は、式(1):
−COOX ………(1)
で表される基を有している。
【0014】
式(1)中、Xは水素原子、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、または、式(2):
−SiR3−a ………(2)
で表される基である。
【0015】
Xが、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基の場合には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基が挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0016】
Xが、上記式(2)で表される基の場合には、式(2)中、Rは、互いに同一もしくは異なる、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基である。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基が挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0017】
式(2)中、Yは、炭素原子数1〜4のアルコキシ基であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられ、好ましくはメトキシ基である。
【0018】
式(2)中、aは、0〜3の整数であり、好ましくは0である。
【0019】
式(1)で表される基(−COOX)は、側鎖にあっても主鎖の末端にあっても、これら両者にあってもよいが、好ましくは側鎖もしくは主鎖末端であり、より好ましくは主鎖の片末端あるいは主鎖の両末端である。
【0020】
(A)成分としては、例えば、下記式(3)〜(5)で表されるポリオルガノシロキサンが挙げられ、なかでも、式(3)、式(4)で表されるポリオルガノシロキサンが好ましく、これらを1種単独もしくは2種以上を混合して用いることができる。
【化2】

………(3)
【化3】

………(4)
【化4】

………(5)
【0021】
式(3)〜(5)において、Rは水素原子、または、独立に置換もしくは非置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基である。
【0022】
が、独立に置換もしくは非置換の炭素数1〜10の一価炭化水素基の場合には、Rとしては、例えば、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基が挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0023】
式(3)〜(5)において、Zは、置換または非置換の炭素原子数1〜20の二価炭化水素基であり、例えば、下記のような直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。
−CH
−CHCH
−CHCHCH
−CHCH(CH)−
−CHCH(CH)CH
【0024】
式(3)〜(5)において、cは2以上の整数であり、好ましくは10〜1000の整数である。dは1以上の整数であり、好ましくは1〜5の整数である。
【0025】
(A)成分の調整方法としては、分子鎖である主鎖の両末端に式(1)で表される基(−COOX)を有する、式(3)で表されるポリオルガノシロキサンの場合には、例えば、以下の調整方法がある。まず、ポリジメチルシロキサンの重合方法として公知の平衡化重合により、分子鎖(主鎖)両末端にケイ素原子に結合した水素(Si−H基)を有するオイル状のポリオルガノシロキサンを製造する。これに、不飽和基を有する脂肪酸化合物(例えばウンデシレン酸またはその誘導体)と、白金系触媒とを添加し、ヒドロシリル化反応させることにより、式(3)で表されるポリオルガノシロキサンを得ることができる。
【0026】
分子鎖(主鎖)の片末端に式(1)で表される基(−COOX)を有する、式(4)で表されるポリオルガノシロキサンの場合には、例えば、以下の調製方法がある。まず、ポリジメチルシロキサンの重合方法として公知のアニオン重合により、アルキルリチウムを開始剤として使用し、ヘキサメチルシクロトリシロキサンをアニオン重合することで主鎖の片末端にSi−H基を有するオイル状のポリオルガノシロキサンを製造する。これに、不飽和基を有する脂肪酸化合物(例えばウンデシレン酸またはその誘導体)と、白金系触媒とを添加し、ヒドロシリル化反応させることにより、式(4)で表されるポリオルガノシロキサンを得ることができる。
【0027】
側鎖に式(1)で表される基(−COOX)を有する、式(5)で表されるポリオルガノシロキサンの場合には、例えば、以下の調整方法がある。まず、公知の平衡化重合により、側鎖にSi−H基を有するオイル状のポリオルガノシロキサンを製造する。これに、不飽和基を有する脂肪酸化合物(例えばウンデシレン酸またはその誘導体)と、白金系触媒とを添加し、ヒドロシリル化反応させることにより、式(5)で表されるポリオルガノシロキサンを得ることができる。
【0028】
(A)成分の25℃における粘度は、10〜10,000mPa・sであり、好ましくは20〜1000mPa・sである。粘度が10mPa・s未満であると、オイルブリード低減の効果が不十分になる。一方、10,000mPa・sを超えると、組成物の流動性が低下して作業性の悪化を招く。
【0029】
[(B)成分]
(B)成分の熱伝導性充填剤としては、熱伝導率が良好なものであればよく、例えば酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物粉末、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の金属窒化物粉末、アルミニウム、銅、銀、ニッケル、鉄、ステンレス等の金属粉末などが挙げられ、なかでも金属酸化物粉末、金属粉末が好ましく、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、アルミニウムがより好ましい。
【0030】
(B)成分の平均粒径は、0.1〜100μmであり、(B)成分を高充填する上で、平均粒径の異なる熱伝導性充填剤を2種以上混合して細密充填を行うことが好ましい。例えば、(B1)平均粒径5μm以上30μm未満の熱伝導性充填剤の少なくとも1種と、(B2)平均粒径0.05μm以上5μm未満の熱伝導性充填剤の少なくとも1種とを使用することが好ましい。平均粒径は、例えばレーザー光回折法で求めることができる。
【0031】
(B1)成分は、その平均粒径が5μm以上30μm未満、好ましくは5μm以上20μm未満である。平均粒径が30μmを越えると、組成物の安定性が悪化し、オイル分離が起こりやすい。(B1)の最大粒径は50μm以下であって、粒径5〜30μmの粒子を(B1)中に90wt%以上含むことが好ましい。(B1)は平均粒径が上記範囲であれば、粒径もしくは粒度分布の異なるものを混合して用いてもよい。(B1)の形状は、制限されるものではなく、例えば球状、不定形状、棒状、針状、円盤状のいずれでもよい。
【0032】
(B2)成分は、その平均粒径が0.05μm以上5μm未満であり、好ましくは0.1μm以上4μm未満である。平均粒径が0.05μm未満であると、所望の低粘度の組成物が得られ難い。(B2)の最大粒径は30μm以下であって、粒径0.05〜10μmの粒子を(B2)中に90wt%以上含むことが好ましい。(B2)は平均粒径が上記範囲であれば、粒径もしくは粒度分布の異なるものを混合して用いてもよい。(B2)の形状は、制限されるものではなく、例えば球状、不定形状、棒状、針状、円盤状のいずれでもよい。
【0033】
(B)成分は、そのまま用いてもよいが、樹脂成分との濡れ性を向上させる点から、1種または2種以上の周知の表面処理剤((D)成分)でその表面を予め疎水化処理したものを用いてもよい。あるいはこのような表面処理剤を別途組成物中に配合してもよい。
【0034】
(B)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して100〜60,000重量部、好ましくは1000〜30000重量部である。配合量が100重量部未満であると、所望の熱伝導率が得られにくい。一方、60,000重量部を越えると、作業性の低下を招く。
【0035】
ただし、上記(B1)、(B2)のような異なる平均粒径の熱伝導性充填剤を併用する場合には、(B1)、(B2)の配合割合は、(B1)は(B)成分中20〜80wt%となる量、好ましくは30〜70wt%となる量である。(B1)の配合割合が80wt%を超えると、組成物の製造プロセスで(B)成分と(A)成分を混練した際に、(B)成分が分散せずに粉状になりやすく、他成分の配合が不能になる。一方、(B1)の配合割合が20wt%未満であると、熱伝導率が不十分となる。
【0036】
[その他任意成分]
上述した(A)成分と(B)成分を基本成分とし、これらに必要に応じてその他任意成分として(C)成分のオイル状のポリオルガノシロキサン(シリコーンオイル)を添加することができる。(C)成分を配合することで、熱伝導性充填剤((B)成分)をより高充填しやすくなる。
【0037】
[(C)成分]
(C)成分は、その粘度が、25℃において0.01〜10Pa・s、好ましくは0.05〜5Pa・sであり、シリコーンオイルであれば特に制限されるものではない。粘度が0.05Pa・s未満であると、得られる組成物の安定性が悪化してオイル分離が起こり易くなる。一方、10Pa・sを越えると、組成物の流動性が乏しくなる。
【0038】
(C)成分としては、好ましくは、下記一般式(6)で表されるポリオルガノシロキサンが挙げられる。
【化5】

………(6)
【0039】
式中、Rはフェニル基であり、Rは、メチル基、フェニル基およびビニル基から選ばれる基であり、互いに同一でも異なっていてもよい。なかでも、オイルブリードを低減し、低粘度で作業性に優れた組成物を与える点から、すべてのRがメチル基であることが好ましい。
【0040】
pは正数、qは0以上の数で、かつ、0.70≦p/(p+q)≦1、好ましくは0.85≦p/(p+q)≦1である。p+qは、限定されるものではないが、好ましくは50〜1000である。なお、p,qは、(C)成分の一般式での組成、数値を示しているにすぎず、分子レベルを制限するものではない。
【0041】
(C)成分としては、例えばジメチルポリシロキサン、ジメチル−ジフェニルシロキサンコポリマー、ジメチル‐メチルフェニルシロキサンコポリマーなどが挙げられる。なかでも、下記式で表されるような、分子鎖(主鎖)両末端がトリメチルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンが好ましい。この場合、式(6)において、Rはメチル基であり、qは0であり、pは、1〜1000の整数、好ましくは10〜800の整数である。
【化6】

【0042】
(C)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して、好ましくは10〜1000重量部であり、より好ましくは20〜800重量部である。(C)成分の配合量が10重量部未満であると、組成物の流動性が低下しやすくなる。一方、1000重量部を超えると、熱伝導性充填剤((B)成分)の高充填が不能になる場合がある。
【0043】
[(D)成分]
さらに、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物には、(D)成分の表面処理剤(ウェッター)を添加してもよい。
【0044】
(D)成分は、熱伝導性充填剤((B)成分)の粉末表面を処理することにより、熱伝導性充填剤とベースオイルである(A)成分との濡れ性を向上させる成分である。
【0045】
(D)成分としては、一般式:
Si(OR4−(s+t)
で表されるアルコキシシランを用いることが好ましい。
【0046】
式中、sは1〜3の整数であり、好ましくは1である。tは0〜2の整数、s+tは1〜3である。
【0047】
は、互いに同一または異なる、炭素原子数6〜15のアルキル基であり、例えばヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。炭素原子数が6より小さいと、熱伝導性充填剤((B)成分)との濡れ性が不充分となりやすい。一方、15より大きいと、(D)成分が常温で固化しやすいのでその取扱いが不便になりやすい上、得られる組成物の耐熱性および難燃性が低下しやすい。
【0048】
は、互いに同一または異なる、非置換または置換の炭素原子数1〜8の飽和または不飽和の一価炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基である。
【0049】
は、炭素原子数1〜6のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基である。
【0050】
(D)成分としては、例えば、下記のアルコキシシランが挙げられる。
13Si(OCH
1021Si(OCH
1225Si(OCH
1225Si(OC
1021Si(CH)(OCH
1021Si(C)(OCH
1021Si(CH)(OC
1021Si(CH=CH)(OCH
1021Si(CHCHCF)(OCH
【0051】
(D)成分の配合量は、(B)成分と(A)成分との濡れ性を向上させる上で、(A)成分100重量部に対して、好ましくは0〜30重量部である。
【0052】
さらに、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物には、耐熱性向上剤、難燃性付与剤、耐酸化劣化剤、着色剤、接着性付与材、チクソトロピー性付与剤、熱伝導性充填剤((B)成分)の沈降防止剤(例えば煙霧質シリカ、焼成シリカなど)、組成物の粘度や作業性を良好にする上で希釈剤(例えば、付加反応に寄与しないポリオルガノシロキサン)などを本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
【0053】
[組成物の製造方法]
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物の製造方法としては、上述した(A)〜(B)成分およびその他任意成分を周知の混練機で、常温、または必要に応じて加熱(例えば50〜150℃)しながら混練する方法が挙げられる。混練機としては、必要に応じて加熱手段や冷却手段を備えた周知の装置を使用でき、例えばプラネタリーミキサー、3本ロール、ニーダー、品川ミキサー、トリミックス、ツインミックス等が挙げられ、単独またはこれらを組み合わせて使用することができる。
【0054】
熱伝導性シリコーングリース組成物の25℃における粘度は、50〜900Pa・s、好ましくは80〜800Pa・sである。粘度が900Pa・sを超えると、ディスペンサなどを用いて電子部品に塗布した場合に、吐出し難くなり所望の厚さになりにくいなど、作業性が悪化する。一方50Pa・s未満であると、塗布時に液ダレを起こしやすい。
【0055】
熱伝導性シリコーングリース組成物は、25℃における熱伝導率が2.0W/(m・K)以上である。熱伝導率が2.0W/(m・K)未満であると、熱伝導性能が不十分になる場合があり、用途が限定され易くなる。
【0056】
次に、熱伝導性シリコーングリース組成物を適用した半導体装置の一例について図面を参照して説明する。図1は、半導体装置の構成を模式的に示す断面図である。
【0057】
半導体装置1は、配線基板2に実装されたCPU3などの発熱性電子部品とヒートシンク4などの放熱体とを備え、CPU3とヒートシンク4との間には、熱伝導性シリコーングリース組成物5が介在されている。
【0058】
このような半導体装置1は、配線基板2に実装されたCPU3に、例えばディスペンサで熱伝導性シリコーングリース組成物5を塗布した後、ヒートシンク4と配線基板2とをクランプ6などで押圧することによって得られる。
【0059】
熱伝導性シリコーングリース組成物5の厚さは、5〜300μmであることが好ましい。厚さが5μmより薄いと、押圧の僅かなずれによりCPU3とヒートシンク4との間に隙間が生じる恐れがある。一方、300μmより厚いと、熱抵抗が大きくなり、放熱効果が悪化し易い。
【0060】
従来のシリコーングリース組成物では、CPUなどの発熱性電子部品による高温の条件下では、経時によりオイルブリードが発生しやすかったが、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物によれば、このオイルブリードを低減できるため、信頼性に優れた半導体装置を提供できる。
【実施例】
【0061】
本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例および比較例中、平均粒径はレーザー光回折法により測定した値である。
【0062】
[(A−1)分子鎖(主鎖)片末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサンの調製例]
ブチルリチウムを開始剤として使用し、ヘキサメチルシクロトリシロキサンをアニオン重合させ、ジメチルクロロシランで反応停止する周知の方法により、分子鎖(主鎖)の片末端にSi−H基を有するオイル状のポリオルガノシロキサンを得た。これに、ウンデシレン酸またはその誘導体と白金系触媒とを添加し、ヒドロシリル化反応させることにより、式:
【化7】

で表されるポリオルガノシロキサン(主鎖の片末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサン)(25℃における粘度30mPa・s)を得た。
【0063】
[(A−2)分子鎖片末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサンの調製例]
ブチルリチウムに対するヘキサメチルシクロトリシロキサンの使用量を増加する以外は、上記(A−1)の調製例と同様にして、式:
【化8】

で表されるポリオルガノシロキサン(25℃における粘度40mPa・s)を得た。
【0064】
[(A−3)分子鎖両末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサンの調製例]
まず、オクタメチルシクロテトラシロキサンとテトラメチルジシロキサンとの周知の平衡化重合により、分子鎖両末端にSi−H基を有するオイル状のポリオルガノシロキサンを得た。これに、ウンデシレン酸と白金系触媒とを添加し、ヒドロシリル化反応させることにより、式:
【化9】

で表されるポリオルガノシロキサン(25℃における粘度60mPa・s)を得た。
【0065】
[(A−4)分子鎖両末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサンの調製例]
オクタメチルシクロテトラシロキサンに対するテトラメチルジシロキサンの比率を下げる以外は、上記(A−3)の調製例と同様にして、
【化10】

で表されるポリオルガノシロキサン(25℃における粘度70mPa・s)を得た。
[(A−5)分子鎖片末端に−COOSi(OCHCH基を有するポリオルガノシロキサンの調製例]
上記の(A−1)とメチルトリメトキシシランを周知の方法で熱処理することにより、式:
【化11】

で表されるポリオルガノシロキサン(25℃における粘度50mPa・s)を得た。
【0066】
[実施例1]
前記調製例で得られた(A−1)分子鎖片末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサン67重量部と、(A−3)分子鎖両末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサン33重量部との混合物、(B−2)平均粒径が10μmのアルミニウム粉末704重量部、(B−4)平均粒径が2μmのアルミナ粉末470重量部、(B−7)平均粒径が0.3μmの酸化亜鉛粉末240重量部、(C−1)25℃における粘度が60mPa・sのジメチルポリシロキサン5重量部を、プラネタリーミキサー(ダルトン社製)で均一に混合して、熱伝導性シリコーングリース組成物を得た。
【0067】
[実施例2]
前記調製例で得られた(A−2)分子鎖片末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサン67重量部と、(A−4)分子鎖両末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサン33重量部との混合物、(B−2)平均粒径が10μmのアルミニウム粉末663重量部、(B−5)平均粒径が1.5μmのアルミナ粉末332重量部、(B−7)平均粒径が0.3μmの酸化亜鉛粉末275重量部、(C−2)25℃における粘度が80mPa・sのジメチルポリシロキサン5重量部を、プラネタリーミキサー(ダルトン社製)で均一に混合して、熱伝導性シリコーングリース組成物を得た。
【0068】
[実施例3]
前記調製例で得られた(A−4)分子鎖両末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサン100重量部、(B−1)平均粒径18μmのアルミナ1140重量部、(B−3)平均粒径3μmのアルミナ380重量部、(B−6)平均粒径0.4μmのアルミナ380重量部を、プラネタリーミキサー(ダルトン社製)で均一に混合して、熱伝導性シリコーングリース組成物を得た。
【0069】
[実施例4]
前記調製例で得られた(A−5)分子鎖片末端に−COOSi(OCHCH基を有するポリオルガノシロキサン100重量部、(B−1)平均粒径18μmのアルミナ1140重量部、(B−3)平均粒径3μmのアルミナ380重量部、(B−6)平均粒径0.4μmのアルミナ380重量部をプラネタリーミキサー(ダルトン社製)で均一に混合して、熱伝導性シリコーングリース組成物を得た。
【0070】
[比較例1]
前記調製例で得られた(A−1)分子鎖片末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサン67重量部と、(A−3)分子鎖両末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサン33重量部との混合物の代わりに、25℃における粘度が60mPa・sのジメチルポリシロキサン100重量部を用いた以外は、実施例1と同様に、プラネタリーミキサー(ダルトン社製)で1時間混合を行ったが、粉状のままであり、グリース状にはならなかった。
【0071】
[比較例2]
前記調製例で得られた(A−2)分子鎖片末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサン67重量部と、(A−4)分子鎖両末端にCOOH基を有するポリオルガノシロキサン33重量部との混合物の代わりに、25℃における粘度が80mPa・sのジメチルポリシロキサン100重量部を用いた以外は、実施例2と同様に、プラネタリーミキサー(ダルトン社製)で1時間混合を行ったが、粉状のままであり、グリース状にはならなかった。
【0072】
実施例1〜4および比較例1,2で得られたシリコーングリース組成物は、以下のようにして評価し、結果を表1に示した。表1に示した特性は、25℃において測定した値である。
【0073】
[オイルブリード]
得られたシリコーングリース組成物0.5gをスリガラス板の上に円形になるように塗布し、150℃のオーブンで12時間放置し、該シリコーングリース組成物からのオイルブリードの発生の有無を目視で確認した。
【0074】
[粘度]
得られたシリコーングリース組成物の25℃における粘度を回転粘度計を用いて測定した。
【0075】
[熱伝導率]
得られたシリコーングリース組成物の熱伝導率を京都電子工業(株)社製の熱伝導率計(商品名:QTM−500)で測定した。
【0076】
【表1】

【0077】
表1から明らかなように、ベースオイルの(A)成分として、分子鎖(主鎖)片末端、分子鎖両末端に−COOH、もしくは−COOSi(OCHCHをもつシリコーンオイルを配合した実施例のシリコーングリース組成物は、熱伝導性充填剤((B)成分)を高充填でき、高温の条件下でも経時によるオイルブリードの発生が改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物を適用した半導体装置の一例を模式的に示す断面図。
【符号の説明】
【0079】
1…半導体装置、2…配線基板、3…CPU、4…ヒートシンク、5…熱伝導性シリコーングリース組成物、6…クランプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)25℃における粘度が10〜10000mPa・sであり、側鎖および/または主鎖末端に式(1):
−COOX ………(1)
で表される基を有するポリオルガノシロキサン、および
(B)熱伝導性充填剤
を含有することを特徴とする熱伝導性シリコーングリース組成物。
(式(1)中、Xは水素原子、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、または、式(2):
−SiR3−a ………(2)
(Rは置換または非置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、Yは炭素原子数1〜4のアルコキシ基、aは0〜3の整数である。))で表される基のいずれかである。)
【請求項2】
前記(A)成分が、前記式(1)で表される基を側鎖に有するポリオルガノシロキサン、前記式(1)で表される基を主鎖の片末端に有するポリオルガノシロキサン、および、前記式(1)で表される基を主鎖の両末端に有するポリオルガノシロキサンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【請求項3】
前記(B)成分が、平均粒径5μm以上30μm未満の熱伝導性充填剤の少なくとも1種と、平均粒径0.05μm以上5μm未満の熱伝導性充填剤の少なくとも1種とを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【請求項4】
前記(B)成分が、酸化アルミニウム、酸化亜鉛およびアルミニウムの群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【請求項5】
前記(B)成分の配合量が、(A)成分100重量部に対して100〜60000重量部であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項6】
さらに、(C)一般式(6):
【化1】

………(6)
(Rはフェニル基、Rは互いに同一もしくは異なる、メチル基、フェニル基およびビニル基から選ばれる基、pは正数、qは0以上の数で、かつ、0.90≦p/(p+q)≦1である。)で表されるポリオルガノシロキサンを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【請求項7】
前記(C)成分が、前記式(6)において、Rはメチル基であり、pは1〜1000の整数であり、qは0であることを特徴とする請求項6に記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【請求項8】
前記(C)成分の配合量が、(A)成分100重量部に対して1〜1000重量部であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【請求項9】
熱伝導率が、2.0W/(m・K)以上であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−221310(P2009−221310A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65864(P2008−65864)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】