説明

熱伝導性シートの製造方法

【課題】本発明は、膜厚方向に高い熱伝導性を持つ熱伝導性シートを製造することを目的とする。
【解決手段】グラファイト小片7を含有する液状の高分子材料9をゲル化するとともにプレスすることによりゲル状単層シート12を形成し、次にこのゲル状単層シート12を複数枚積み重ねるとともに一体化して積層体13を形成し、その後この積層体13の積層面に対して垂直方向に所定の厚みで切断して熱伝導性シート8を形成する熱伝導性シートの製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のグラファイト小片を含有する熱伝導性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ハードディスクに用いられるLSIやパワーアンプに用いられるICなどの発熱電子部品は、その温度上昇に伴いそれを用いた電子製品に対して悪影響を及ぼしてしまうため、その放熱対策として図1に示されるように発熱電子部品1とそのヒートシンクとなる放熱部材2との間に熱伝導性シート3が設けられている。
【0003】
そして、この種の熱伝導性シート3は、高分子材料からなるシートにグラファイトなどの熱伝導性材料が充填されたものが用いられており、従来、この熱伝導性シート3の熱伝導性を上げることを目的として熱伝導性材料を膜厚方向に配向させるべく、図4に示すように熱伝導性シート3に対して磁石5により磁場をかけ、熱伝導材料をシートの膜厚方向に配向させていた。
【0004】
なお、この出願に関する先行技術文献としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2000−281995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような工法を用いて形成された熱伝導性シートにおいては、磁場を用いて熱伝導性材料を配向する過程で、熱伝導性材料に対して磁場による影響のみならず重力の影響も加わることとなり、磁場による影響により熱伝導性材料は所定の方向に配向するものの、重力の影響により沈下してしまい、これにより熱伝導性シートの上層部と下層部において熱伝導度に差ができてしまい、結果的に所望の熱伝導性を得ることが困難となっていた。
【0006】
そこで本発明は、熱伝導性シートにおける膜厚方向の熱伝導性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、この目的を達成するために本発明は、グラファイト小片を含有する液状の高分子材料をゲル化するとともにプレスすることによりゲル状単層シートを形成し、次にこのゲル状単層シートを複数枚積み重ねるとともに一体化して積層体を形成し、その後この積層体の積層面に対して垂直方向に所定の厚みで切断して熱伝導性シートを形成する熱伝導性シートの製造方法としたものである。
【発明の効果】
【0008】
この製造方法により、膜厚方向に高い熱伝導性を持つ熱伝導性シートを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、上述した背景技術と同様の構成については同じ符号を付して説明する。
【0010】
図1は携帯電話などの電子機器の内部構造を模式的に示したもので、回路基板4上にパワーアンプなどの発熱電子部品1が実装され、この発熱電子部品1の上方にヒートシンクとなる放熱部材2を配置した構造を示している。
【0011】
また、このような電子機器を構成する上では、発熱電子部品1とそのヒートシンクとなる放熱部材2との間には設計上クリアランス空間が必要となる。これは、発熱電子部品1を回路基板4上に実装する際の半田量のバラツキなどによって回路基板4から発熱電子部品1上面までの高さが増減することに対応するためである。
【0012】
よってこのようなクリアランス空間には熱伝導性が悪い空気層が介在することになり、結果的に発熱電子部品1から放熱部材2に至る熱伝導経路における熱伝導性が低くなってしまうため、このクリアランス空間を熱伝導性の高い熱伝導性シート3で埋めることで、放熱効率を高めた構成としている。
【0013】
よって、発熱電子部品1と放熱部材2とのクリアランス空間に設けられる熱伝導性シート3は、発熱電子部品1と放熱部材2の両方に当接し、熱伝導効率の低い空気層の介在を阻止すべく、クリアランス空間の幅変動に応じて厚みが変わるよう弾力性を有すること、及び熱伝導性シートの膜厚方向、つまり発熱電子部品1から放熱部材2に至る方向への高い熱伝導性を有することが重要となる。
【0014】
そこでこの一実施形態の熱伝導性シートは図2に示すよう、弾力性のある高分子材料からなるシート基体6内に複数のグラファイト小片7を含有させ、このグラファイト小片7をシート基体6の膜厚方向に配向させるとともに、シート基体6において均一に分散させた構成としたのである。
【0015】
なお、グラファイト小片7はポリイミドなどの高分子樹脂シートを1200度以上の温度で炭化させ、その後、2600度以上の温度でグラファイト化し、炭素が2次元的に密な結合をした炭素層の多層構造のものを用いたため、粉末状の黒鉛や金属等を用いた物に比べて、グラファイト小片7の配向方向にグラファイト内における原子結合が連続的に存するため、熱伝導性シート8の膜厚方向の熱伝導度を高めることができるのである。
【0016】
このような熱伝導性シート8は、グラファイト小片7を膜厚方向に配向させていることにより、発熱電子部品1から放熱部材2方向の熱伝導性が高く、また、シート内においてグラファイト小片7が均一に分散されていることから先に述べたように膜厚方向の上層部と下層部とにおいて熱伝導度の差が抑制されるため、シート全体として非常に高い熱伝導性を得ることができるのである。
【0017】
さらに、シート基体6が弾力性を有することにより、図1に示す発熱電子部品1とそのヒートシンクとなる放熱部材2との間のクリアランス空間の間隔が多少変動したとしてもシート基体6の弾力性によりその間隔変動を吸収できるようになり、常に発熱電子部品1と放熱部材2との両方に対して当接させることができ、組み立て上のバラツキにも十分に対応させることができるのである。また、発熱電子部品1、放熱部材2の表面に凹凸があるような形態においてもこの弾力性により対応することができるのである。
【0018】
なお、シート基体6を形成する高分子材料として熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂、架橋ゴムなどの高分子材料を用いることができ、中でも弾力性があり、硬化の過程を途中で止めることができ、粘度や硬度を自由に変化させることができる架橋ゴムが最も好ましい材料となるものである。
【0019】
また、高分子材料を形成するシート基体6には、気泡を内在する軟質樹脂発泡体を用いることも考えることができるが、この場合シート基体6に内在する気泡により熱伝導度が下がってしまうため、気泡を内在させない高分子材料であることが望ましい。
【0020】
そして、このような熱伝導性シート8の製造方法を、図3を用いて以下に示す。なお、ここで挙げる熱伝導性シート8においては、シート基体6を形成する高分子材料として架橋ゴムの一種であるシリコンゴムを例に挙げて説明する。
【0021】
まず、大判のグラファイトシート(図示せず)を裁断することによりグラファイト小片7を形成し、ここで得られたグラファイト小片7を液状の高分子材料9にて混合し十分に攪拌した状態とし、このグラファイト小片7を含有した液状の高分子材料9を、例えば厚さが1mm程度になるよう下金型10に流し込む。
【0022】
次に、下金型10に流し込まれたグラファイト小片7を含有した液状の高分子材料9を上金型11でプレスしながら80℃〜100℃程度で加熱する事により半硬化させ、例えば0.5mm程度の膜厚を持つゲル状単層シート12を形成する。
【0023】
なお、ゲル状単層シート12を形成するプレス方法としては、先に述べた上下金型10,11を用いた金型プレス工法の他にロールプレス工法なども考えられるが、ゲル状単層シート12の形状が安定することや、プレスと過熱とを同時に行うことが容易であることから、金型プレス工法を実施することが好ましい。
【0024】
なお、このプレス工程においては、液状の高分子材料9内において配向性を持たなかったグラファイト小片7がプレスによる厚みの変動に伴う流動場によってプレス方向に対して垂直方向に配向することになる。
【0025】
この時、1mmという薄い液状の高分子材料9をプレスして0.5mmというさらに薄いゲル状単層シート12に加工する際、内在するグラファイト小片7を配向させるには、さほど大きな力は必要としないため、必要以上にゲル状単層シート12を硬くすることなく、このプレス時にゲル状単層シート12の弾力性を損なうことを抑制することができるのである。
【0026】
その後、このゲル状単層シート12を複数枚、膜厚方向に積み重ね130℃以上で加熱して接合させ、積層体13を形成する。
【0027】
次に、この積層体13の積層面に対して垂直方向に刃14を入れ、所定の間隔で切断することで熱伝導性シート8を形成するのである。なお、積層体13の切断幅が熱伝導性シート8の膜厚となり、切断面が熱伝導性シート8における、放熱部材2や発熱電子部品1との当接面となるのである。
【0028】
このようにして作製された熱伝導性シート8は、製造過程において、従来課題としていた重力の影響を受けるのは、シート基体6が液状体であるときであり、このとき液状の高分子材料9により形成されるゲル状単層シート12が非常に薄いものであることから、この膜厚が非常に薄い状態の中でグラファイト小片7が沈下したとしても、その範囲は狭く、ましてこのゲル状単層シート12を多層積層してシート形成した熱伝導性シート8においてはその影響は非常に微々たるものとなる為、熱伝導性シート8の内面方向におけるグラファイト小片7の分散度合いを均一なものとできるのである。
【0029】
また、グラファイト小片7の配向方向における分散については、先で述べたように液状の高分子材料9内にグラファイト小片7を十分に攪拌した状態で下金型10に流し込むことで形成されるため、この時点での分散度合いは十分に確保され、この状態のものをプレスしゲル状単層シート12を形成するものであるためこの配向方向における分散度合いも十分に確保されるのである。
【0030】
なお、高分子材料としてシリコンゴムなどの架橋ゴムの代わりに、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーを用いた場合は、図3において、高分子材料を加熱により液状化した後に、グラファイト小片7を含んだ高分子材料9を下金型10に流し込み、上金型11でプレスするとともに金型内にて温度を下げ半硬化させ、ゲル状単層シート12を形成する。その後、このゲル状単層シート12を複数枚、膜厚方向に積層してプレス工程時の温度よりも下げて硬化させ、積層体13を形成する。この時、積層体13を完全に硬化しきらない温度まで下げることにより弾力性を保つことができる。次に、積層体13の積層面に対して垂直方向に切断し、熱伝導性シート8を形成すればよい。
【0031】
また、高分子材料として熱硬化性樹脂を用いた場合は、図3において、グラファイト小片7を含んだ液状の高分子材料9を下金型10に流し込み、上金型11でプレスするとともに金型内にて温度を上げ半硬化させ、ゲル状単層シート12を形成する。その後、このゲル状単層シート12を複数枚、膜厚方向に積層してプレス工程時の温度よりも上げて硬化させ、積層体13を形成する。この時、積層体13を完全に硬化しきらない温度まで上げることにより弾力性を保つことができる。次に、積層体13の積層面に対して垂直方向に切断し、熱伝導性シート8を形成すればよい。
【0032】
なお、高分子材料として架橋ゴム、あるいは熱硬化性樹脂を用いた場合の他の方法としては、図3において、グラファイト小片7を含んだ液状の高分子材料9を下金型10に流し込み、上金型11でプレスするとともに、空気中の水分と反応させる、あるいは積極的に水分を含ませることで半硬化させ、ゲル状単層シート12を形成する。その後、このゲル状単層シート12を複数枚、膜厚方向に積層してさらに空気中の水分と反応させる、あるいは積極的に水分と反応させることにより硬化させ、積層体13を形成し、この積層面に対して垂直方向に、積層体13を刃14等により切断し、熱伝導性シート8を形成することもできる。
【0033】
従って、このようにして形成された熱伝導性シート8は、グラファイト小片7の配向方向に平行に積み重ねた積層構造となり、これにより高い熱伝導性を得ることができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、膜厚方向の熱伝導性が高い熱伝導性シートを形成することができるという効果を有し、携帯電話などの小型電子機器において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】熱伝導性シートを用いた電子機器の模式図
【図2】本発明の一実施形態における熱伝導性シートを示す模式図
【図3】同熱伝導性シートの製造方法を示す工程図
【図4】従来の熱伝導性シートの製造方法を示す模式図
【符号の説明】
【0036】
7 グラファイト小片
8 熱伝導性シート
9 液状の高分子材料
12 ゲル状単層シート
13 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト小片を含有する液状の高分子材料をゲル化するとともにプレスすることによりゲル状単層シートを形成し、次にこのゲル状単層シートを複数枚積み重ねるとともに一体化して積層体を形成し、その後この積層体の積層面に対して垂直方向に所定の厚みで切断して熱伝導性シートを形成する熱伝導性シートの製造方法。
【請求項2】
高分子材料に熱硬化性樹脂或いは架橋ゴムを用いて、前記高分子材料のゲル化を第1の温度で行うとともに、複数のゲル状単層シートの一体化を前記第1の温度よりも高い第2の温度で行うとした請求項1に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項3】
高分子材料に熱可塑性樹脂を用いて、前記高分子材料のゲル化を第1の温度で行うとともに、複数のゲル状単層シートの一体化を前記第1の温度よりも低い第2の温度で行うとした請求項1に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項4】
高分子材料に熱硬化性樹脂或いは架橋ゴムを用いて、前記高分子材料のゲル化及び複数のゲル状単層シートの一体化を前記高分子材料を水と反応させることにより行うとした請求項1に記載の熱伝導性シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−332305(P2006−332305A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153482(P2005−153482)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】