説明

熱伝導性シート及びパワーモジュール

【課題】熱伝導性及び絶縁性に優れた熱伝導性シート、及び熱放散性に優れたパワーモジュールを提供する。
【解決手段】熱伝導性シートには鱗片状窒化ホウ素の一次粒子4が等方的に凝集した二次凝集粒子3が熱硬化性樹脂2中に分散されており、二次凝集粒子3は、50%以下の気孔率及び0.05μm以上3μm以下の平均気孔径を有している。パワーモジュールは、一方の放熱部材であるリードフレームに搭載された電力半導体素子と、電力半導体素子で発生する熱を外部に放熱する他方の放熱部材であるヒートシンクと、半導体素子で発生する熱を一方の放熱部材から他方の放熱部材に伝達する熱伝導性シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器等の発熱部から放熱部材へ熱を伝達させるのに用いる熱伝導性シートに関し、特にパワーモジュールの発熱を放熱部材に伝導させる絶縁性の熱伝導性シート、及びこれを用いたパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気・電子機器等の発熱部から放熱部材へ熱を伝達させる熱伝導性樹脂層には、高い熱伝導性を有し、且つ絶縁性であることが要求されており、このような要求を満たすものとして、無機充填剤を熱硬化性樹脂中に分散させた熱伝導性シートが広く用いられている。ここで、無機充填剤としては、高い熱伝導率を有し、且つ絶縁性である六方晶窒化ホウ素(h−BN)が一般に知られている。
この六方晶窒化ホウ素は、黒鉛と同様の層状の結晶構造を有し、その形状は鱗片状である。また、この鱗片状窒化ホウ素は、図5に示すように、長径方向(結晶方向)の熱伝導率が高く、短径方向(層方向)の熱伝導率が低いという異方的な熱伝導性を有しており、かかる長径方向と短径方向との間の熱伝導率の差は、数倍から数十倍と言われている。図5において、矢印の方向は熱伝導の方向、矢印の太さは熱伝導の大きさを表す。そのため、熱硬化性樹脂中に分散される鱗片状窒化ホウ素を、シート内で直立させた状態、すなわち鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート厚み方向と一致するように配向させることにより、シート厚み方向の熱伝導性を飛躍的に向上させた熱伝導性シートの開発が行われている。
【0003】
しかし、プレス成形法、射出成形法、押出成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、ドクターブレード成形法等のような公知の成形方法によってシート状に成形する方法では、成形時の圧力や流動によって、熱硬化性樹脂中の鱗片状窒化ホウ素がシート内で倒れた状態、すなわち、図6に示すように、鱗片状窒化ホウ素5の長径方向がシート面方向と一致するように配向され易いという傾向がある。そのため、このようにして得られる熱伝導性シートは、シート面方向の熱伝導性に優れたものとなり、シート厚み方向が熱伝導経路となる使用形態において、熱伝導性が十分でないという問題があった。
また、全ての鱗片状窒化ホウ素の長径方向をシート厚み方向に平行に配向させてしまうと、熱伝導性が向上する代わりに絶縁性が著しく低下してしまうので、熱伝導性と絶縁性とのバランスを考慮しつつ、熱伝導性シートにおける鱗片状窒化ホウ素の配向を調整しなければならない。
【0004】
そこで、熱硬化性樹脂中に分散される鱗片状窒化ホウ素の長径方向をバランス良く配向させた熱伝導性シートがいくつか提案されている。例えば、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が集合してなる二次凝集粒子を付加反応型液状シリコーン固化物に含有させてなることを特徴とする熱伝導性シート(例えば、特許文献1参照)や、凝集度が3〜50%の二次凝集粒子を熱伝導性フィラーとして含有する熱伝導性シート(例えば、特許文献2参照)がある。
【0005】
【特許文献1】特開平11−26661号公報
【特許文献2】特開平11−60216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の方法では、窒化ホウ素の二次凝集粒子の形状を熱伝導性シート中で保持するための二次凝集粒子の強度設計がなされていないため、窒化ホウ素の二次凝集粒子を含有する熱硬化性樹脂組成物を用いて熱伝導性シートを作製すると、窒化ホウ素の二次凝集粒子が崩れてしまう。その結果、図7に示すように、二次凝集粒子3を構成している鱗片状窒化ホウ素の一次粒子4の多くがシート厚み方向に垂直に配向し、シート厚み方向の熱伝導率の向上効果が十分に得られないという問題があった。
なお、無機充填剤として球状の窒化アルミニウム(AlN)を配合する方法もあるが、窒化アルミニウムの比誘電率(約9)は、窒化ホウ素の比誘電率(約4)に比べて高く、熱硬化性樹脂の比誘電率(約4)と大きく異なるため、絶縁性が大幅に低下してしまうという問題があった。
従って、本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、熱伝導性及び絶縁性に優れた熱伝導性シートを提供することを目的とする。
また、本発明は、熱放散性に優れたパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく、熱伝導性シートにおける窒化ホウ素の二次凝集粒子に着目して鋭意研究した結果、二次凝集粒子の気孔率及び平均気孔径が、二次凝集粒子の強度(すなわち、凝集力)と密接に関連し、熱伝導性及び絶縁性に多大な影響を与えることを見出した。
すなわち、本発明は、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が等方的に凝集した二次凝集粒子を熱硬化性樹脂中に分散してなる熱伝導性シートであって、前記二次凝集粒子が、50%以下の気孔率及び0.05μm以上3μm以下の平均気孔径を有することを特徴とする熱伝導性シートである。
また、本発明は、一方の放熱部材に搭載された電力半導体素子と、前記電力半導体素子で発生する熱を外部に放熱する他方の放熱部材と、前記半導体素子で発生する熱を前記一方の放熱部材から前記他方の放熱部材に伝達する上記の熱伝導性シートとを備えることを特徴とするパワーモジュールである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱伝導性及び絶縁性に優れた熱伝導性シートを提供することができる。また、本発明によれば、熱放散性に優れたパワーモジュールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態における熱伝導性シートの断面模式図である。図1において、熱伝導性シート1は、マトリックスとなる熱硬化性樹脂2と、この熱硬化性樹脂2中に分散された窒化ホウ素の二次凝集粒子3とから構成されている。この二次凝集粒子3は、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子4が等方的に凝集したものである。
【0010】
この熱伝導シート1の製造プロセスでは、様々な機械的な力(例えば、熱硬化性樹脂組成物の調製時に二次凝集粒子3を熱硬化性樹脂組成物中に混合分散させる際に加えられる剪断力や、熱硬化性樹脂組成物をプレス硬化する際に加えられるプレス圧力等)が二次凝集粒子3に加えられるため、二次凝集粒子3の強度が低すぎると、熱伝導性シート1中で二次凝集粒子3が崩れてしまう。その結果、図7に示すように、二次凝集粒子3を構成している鱗片状窒化ホウ素の一次粒子4の多くがシート厚み方向に垂直に配向してしまい、シート厚み方向の熱伝導率の向上効果が十分に得られない。そのため、熱伝導シート1の製造プロセスにおいて二次凝集粒子3が崩れないように、二次凝集粒子3の強度を確保する必要がある。
ここで、二次凝集粒子3の強度は、二次凝集粒子3の気孔率及び平均気孔径に依存しており、気孔率が低く(すなわち、密度が高く)、且つ平均気孔径が小さな気孔が均一に分布していれば、二次凝集粒子3の強度は高くなると考えられる。
【0011】
従って、二次凝集粒子3の強度を確保する観点から、二次凝集粒子3の気孔率は50%以下とする必要がある。二次凝集粒子3の気孔率が50%を超えると、密度が低すぎてしまい、所望の強度が得られない。
また、二次凝集粒子3の強度を確保する観点から、二次凝集粒子3の平均気孔径は3μm以下とする必要がある。二次凝集粒子3の平均気孔径が3μmを超えると、気孔径が大きい部分が存在することになり、その部分の強度が極端に低下する。一方、二次凝集粒子3の平均気孔径の下限は、二次凝集粒子3の強度を確保する観点からは特に限定されないが、二次凝集粒子3の平均気孔径が小さすぎると、二次凝集粒子3の気孔に熱硬化性樹脂2が入り込み難くなる。その結果、熱伝導性シート1中にボイドが残存してしまい、熱伝導性シート1の絶縁性及び耐湿性が低下してしまう。そのため、二次凝集粒子の平均気孔径は0.05μm以上とする必要がある。
【0012】
なお、本明細書において、二次凝集粒子3の気孔率及び平均気孔径とは、熱硬化性樹脂2中に二次凝集粒子3が分散された熱伝導性シート1を、電気炉を用いて500℃〜800℃の温度で空気雰囲気中にて5〜10時間程度熱処理して灰化した後、灰化によって得られた二次凝集粒子3の気孔率及び平均気孔径を水銀圧入式のポロシメータで測定することによって得られた値を意味する。
【0013】
また、二次凝集粒子3の形状は、特に限定されないが、球状であることが好ましい。球状の二次凝集粒子3であれば、熱伝導性シート1を製造する際に、熱硬化性樹脂組成物の流動性を確保しつつ、充填量を多くすることができる。この二次凝集粒子3の平均粒径は、好ましくは20μm以上180μm以下、より好ましくは40μm以上130μm以下である。二次凝集粒子3の平均粒径が20μm未満であると、所望の熱伝導率を有する熱伝導性シート1が得られないことがある。一方、二次凝集粒子3の平均粒径が180μmを超えると、二次凝集粒子3を熱硬化性樹脂2中に混合分散させることが困難となり、作業性や成形性に支障を生じることがある。
なお、製造する熱伝導性シート1の厚さに対して二次凝集粒子3の最大粒径は、大きすぎると界面を伝って絶縁性が低下するおそれがある。そのため、二次凝集粒子3の最大粒径は、熱伝導性シート1の厚さの約9割以下であることが好ましい。
【0014】
上記のような特性を有する二次凝集粒子3は、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子4をスプレードライ法等の公知の方法によって凝集させた後、焼成・粒成長させることによって得ることができる。例えば、まず、結晶性が比較的低い鱗片状窒化ホウ素を仮焼きして粉砕処理を行った後、バインダーを加えてスラリーを調製する。次に、このスラリーをスプレードライして顆粒にした後、この顆粒を焼成すればよい。この方法における各条件(仮焼温度や粉砕時間等)は、使用する原料等によって異なるために一義的に定義することは困難であり、二次凝集粒子3が所望の特性を有するように適宜調整する必要がある。
【0015】
二次凝集粒子3を構成する鱗片状窒化ホウ素の一次粒子4の平均長径は、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上10μm以下である。この範囲であれば、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子4があらゆる方向を向いて凝集、すなわち等方的に凝集した二次凝集粒子3を得ることができ、二次凝集粒子3が等方的な熱伝導性を有することとなる。その結果、熱伝導性シート1の厚み方向において熱伝導性が向上する。一方、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子4の平均長径が、15μmよりも大きいと、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子4が等方的に凝集せず、二次凝集粒子3の熱伝導性に異方性が現れる(すなわち、特定方向の熱伝導性だけが高くなる)。その結果、熱伝導性シート1の厚み方向において所望の熱伝導性が得られない。
【0016】
熱伝導性シート1における二次凝集粒子3の充填率は、好ましくは20体積%以上80体積%以下である。特に、この充填率が30体積%以上65体積%以下の場合には、熱伝導性シート1を製造する際に作業性に優れると共に、熱伝導性シート1の熱伝導性がより一層向上する。二次凝集粒子3の充填率が20体積%未満であると、所望の熱伝導性を有する熱伝導性シート1が得られないことがある。一方、二次凝集粒子3の充填率が80体積%を超えると、熱伝導性シート1の製造時に、二次凝集粒子3を熱硬化性樹脂組成物中に混合分散させることが困難となり、作業性や成形性に支障を生じることがある。
【0017】
熱伝導性シート1のマトリックスとなる熱硬化性樹脂2としては、特に限定されることはなく、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等を用いることができる。これらの中でも、エポキシ樹脂は、熱伝導性シート1の製造が容易になるので特に好ましい。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環脂肪族エポキシ樹脂、グリシジル−アミノフェノール系エポキシ樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独又は組み合わせて用いることができる。
【0018】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸及び無水ハイミック酸等の脂環式酸無水物;ドデセニル無水コハク酸等の脂肪族酸無水物;無水フタル酸及び無水トリメリット酸等の芳香族酸無水物;ジシアンジアミド及びアジピン酸ジヒドラジド等の有機ジヒドラジド;トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール;ジメチルベンジルアミン;1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン及びその誘導体;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール及び2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類を用いることができる。これらの硬化剤は、単独又は組み合わせて用いることができる。
硬化剤の配合量は、使用する熱硬化性樹脂2や硬化剤の種類によって適宜調整すればよく、一般的に、100質量部の熱硬化性樹脂2に対して0.1質量部以上200質量部以下である。
【0019】
熱伝導性シート1は、熱硬化性樹脂2と二次凝集粒子3との界面の接着力を向上させる観点から、カップリング剤を含有することができる。カップリング剤としては、例えば、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのカップリング剤は、単独又は組み合わせて用いることができる。
カップリング剤の配合量は、使用する熱硬化性樹脂2やカップリング剤の種類等に併せて適宜設定すればよいが、一般的に、100質量部の熱硬化性樹脂2に対して0.01質量%以上1質量%以下である。
【0020】
熱伝導性シート1は、熱伝導性や絶縁性を向上させたり、熱伝導性と絶縁性とのバランスを図る観点から、二次凝集粒子3とは別に、鱗片状窒化ホウ素や無機粉末を含有することができる。無機粉末としては、溶融シリカ(SiO)、結晶シリカ(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)等を挙げることができる。これらは、単独又は組み合わせて用いることができる。
鱗片状窒化ホウ素や無機粉末の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されず、使用する鱗片状窒化ホウ素や無機粉末にあわせて適宜調整すればよい。
【0021】
上記のような構成成分を含む本実施の形態の熱伝導性シート1は、以下のようにして製造することができる。
まず、所定量の熱硬化性樹脂2と、この熱硬化性樹脂2を硬化させるために必要な量の硬化剤とを混合する。次に、この混合物に溶剤を加えた後、二次凝集粒子3(必要なら、鱗片状窒化ホウ素及び/又は無機粉末)を更に加えて予備混合し、この予備混合物を3本ロールやニーダ等を用いて混練することによって熱硬化性樹脂組成物(熱伝導性シート用コンパウンド)を作製する。ここで、溶剤としては、特に限定されることはなく、トルエンやメチルエチルケトン等を用いることができる。また、溶剤の配合量も、予備混合が可能な量であれば特に限定されることはなく、一般的に、熱硬化性樹脂組成物において40質量%以上85質量%以下である。なお、熱硬化性樹脂組成物の粘度が低い場合には、溶剤を加えなくてもよい。また、カップリング剤を配合する場合、カップリング剤は混練工程前までに加えればよい。
【0022】
次に、熱硬化性樹脂組成物を離型処理された樹脂シート等の基材にドクターブレード法により塗布する。あるいは、この熱硬化性樹脂組成物を放熱部材上に直接塗布してもよい。そして、この塗布物を乾燥させ、塗布物中の溶剤を揮発させることによって、熱伝導性シート1を得ることができる。ここで、乾燥の際には、必要に応じて80℃以上150℃以下に加熱し、溶剤の揮発を促進させてもよい。また、パワーモジュール等に組み込む際には、発熱部材及び放熱部材との接着性等の観点から、マトリックスの熱硬化性樹脂2をBステージ化させてもよい。
【0023】
このようにして製造される熱伝導性シート1は、電気・電子機器の発熱部材と放熱部材との間に配置することにより、発熱部材と放熱部材とを接着すると共に電気絶縁することができる。特に、本実施の形態の熱伝導性シートは、熱伝導性及び絶縁性が高いので、絶縁性を保持しつつ、発熱部材から放熱部材に熱を効率良く伝達することができる。
ここで、熱伝導性シート1を電気・電子機器の発熱部材と放熱部材との間に配置する場合、マトリックスの熱硬化性樹脂がBステージ状態の熱伝導性シート1を用い、この熱伝導性シート1の配置後に150℃以上200℃以下に加熱して硬化させることによって、発熱部材及び放熱部材を熱伝導性シート1に接着することができる。また、電気・電子機器の発熱部材及び放熱部材のいずれか一方に熱伝導性シート1を接着し、この熱伝導性シート1に他方の発熱部材又は放熱部材を圧接しながら150℃以上200℃以下に加熱して硬化させることにより、発熱部材及び放熱部材の熱伝導性シート1に対する接着性をより一層向上させることができる。なお、発熱部材に熱伝導性シート1を直接接触させることが適切でない場合には、発熱部材と熱伝導性シート1の間に発熱部材を配置してもよい。
【0024】
実施の形態2.
本実施の形態におけるパワーモジュールは、一方の放熱部材に搭載された電力半導体素子と、前記電力半導体素子で発生する熱を外部に放熱する他方の放熱部材と、前記電力半導体素子で発生する熱を前記一方の放熱部材から前記他方の放熱部材に伝達する上記熱伝導性シート1とを備えている。
【0025】
図2は、本実施の形態におけるパワーモジュールの断面模式図である。図2において、パワーモジュール10は、一方の放熱部材であるリードフレーム12に搭載された電力半導体素子13と、他方の放熱部材であるヒートシンク14と、リードフレーム12とヒートシンク14との間に配置された熱伝導性シート11とを備えている。さらに、電力半導体素子13と制御用半導体素子15との間、及び電力半導体素子13とリードフレーム12との間とは、金属線16によってワイアボンディングされている。また、リードフレーム12の端部、及びヒートシンク14の外部放熱のための部分以外はモールド樹脂17で封止されている。
このような構成を有するパワーモジュール10は、熱伝導性及び絶縁性に優れた熱伝導性シートを有しているので、熱放散性に優れたものとなる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(二次凝集粒子の調製)
純度93%で結晶性が比較的低い鱗片状窒化ホウ素を窒素雰囲気中、1800℃で1時間仮焼きし、ライカイ機を用いて3時間粉砕処理を行った。次に、窒化ホウ素100質量部に対して5質量部のポリビニルアルコール(バインダー)を加えてスラリーを調製し、このスラリーをスプレードライして顆粒にした。次に、この顆粒を窒素雰囲気中、2000度で2時間焼成することによって、二次凝集粒子No.Aを調製した。
二次凝集粒子No.B〜Jは、仮焼温度及び粉砕時間を表1のものに変更したこと以外は二次凝集粒子No.Aの調製方法と同様にして調製した。
また、上記の調製方法により得られた二次凝集粒子の特徴を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
(実施例1)
熱硬化性樹脂である液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828:ジャパンエポキシレジン株式会社製)100質量部と、硬化剤である1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール(キュアゾール2PN−CN:四国化成工業株式会社製)1質量部とを混合した後、この混合物に、溶剤であるメチルエチルケトン166質量部を加えて攪拌した。次に、287質量部の窒化ホウ素の二次凝集粒子No.Cを混合物に配合して予備混合した後、この予備混合物を三本ロールにて混練し、二次凝集粒子No.Cが均一に分散された熱硬化性樹脂組成物を調製した。
次に、この熱硬化性樹脂組成物を厚さ105μmの放熱部材(銅箔)上にドクターブレード法にて塗布し、110℃で15分間の加熱乾燥処理をし、厚さが100μmでBステージ状態の熱伝導性シートを作製した。そして、放熱部材上に形成したBステージ状態の熱伝導性シートを、熱伝導性シート側が内側になるように2枚重ねた後、120℃で1時間加熱し、さらに160℃で3時間加熱することで、熱伝導性シートのマトリックスである熱硬化性樹脂を完全に硬化させ、2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Cの充填率は60体積%であった。
【0029】
(実施例2)
二次凝集粒子としてNo.Dを用いたこと以外は、実施例1と同様にして2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Dの充填率は60体積%であった。
(実施例3)
二次凝集粒子としてNo.Eを用いたこと以外は、実施例1と同様にして2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Eの充填率は60体積%であった。
(実施例4)
二次凝集粒子としてNo.Fを用いたこと以外は、実施例1と同様にして2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Fの充填率は60体積%であった。
(実施例5)
二次凝集粒子としてNo.Gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Gの充填率は60体積%であった。
【0030】
(実施例6)
溶剤であるメチルエチルケトン78質量部を加えたこと、及び二次凝集粒子としてNo.Dを用い、82質量部の二次凝集粒子No.Dを混合物に配合したこと以外は、実施例1と同様にして2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Dの充填率は30体積%であった。
(実施例7)
溶剤であるメチルエチルケトン102質量部を加えたこと、及び二次凝集粒子としてNo.Dを用い、127質量部の二次凝集粒子No.Dを混合物に配合したこと以外は、実施例1と同様にして2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Dの充填率は40体積%であった。
(実施例8)
溶剤であるメチルエチルケトン234質量部を加えたこと、及び二次凝集粒子としてNo.Dを用い、446質量部の二次凝集粒子No.Dを混合物に配合したこと以外は、実施例1と同様にして2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Dの充填率は70体積%であった。
【0031】
(比較例1)
比較例1では、本発明で規定した平均気孔径の範囲よりも小さい平均気孔径を有する二次凝集粒子を用いて熱伝導性シートを作製した。具体的には、二次凝集粒子としてNo.Aを用いたこと以外は、実施例1と同様にして2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Aの充填率は60体積%であった。
(比較例2)
比較例2では、本発明で規定した平均気孔径の範囲よりも小さい平均気孔径を有する二次凝集粒子を用いて熱伝導性シートを作製した。具体的には、二次凝集粒子としてNo.Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Bの充填率は60体積%であった。
(比較例3)
比較例3では、本発明で規定した平均気孔径の範囲よりも大きい平均気孔径を有する二次凝集粒子を用いて熱伝導性シートを作製した。具体的には、二次凝集粒子としてNo.Hを用いたこと以外は、実施例1と同様にして2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Hの充填率は60体積%であった。
【0032】
(比較例4)
比較例4では、本発明で規定した気孔率の範囲よりも大きい気孔率を有する二次凝集粒子を用いて熱伝導性シートを作製した。具体的には、二次凝集粒子としてNo.Iを用いたこと以外は、実施例1と同様にして2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Iの充填率は60体積%であった。
(比較例5)
比較例5では、本発明で規定した気孔率の範囲よりも大きい気孔率を有する二次凝集粒子を用いて熱伝導性シートを作製した。具体的には、二次凝集粒子としてNo.Jを用いたこと以外は、実施例1と同様にして2つの放熱部材に挟まれた熱伝導性シートを得た。ここで、熱伝導性シートにおける二次凝集粒子No.Jの充填率は60体積%であった。
【0033】
上記実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた熱伝導性シートについて、シート厚み方向の熱伝導率をレーザーフラッシュ法にて測定した。この熱伝導率の結果は、比較例3の熱伝導性シートで得られた熱伝導率を基準とする各実施例又は各比較例の熱伝導性シートで得られた熱伝導率の相対値([各実施例又は各比較例の熱伝導性シートで得られた熱伝導率]/[比較例3の熱伝導性シートで得られた熱伝導率]の値)として表2に示した。
また、熱伝導性シートの絶縁破壊電界(BDE)は、油中で、放熱部材に挟まれた熱伝導性シートに1kV/秒の一定昇圧にて電圧を印加することにより測定された絶縁破壊電圧(BDV)を熱伝導性シートの厚さで割ることにより算出した。かかる絶縁破壊電界(BDE)の結果は、比較例1の熱伝導性シートで得られたBDEを基準とする各実施例又は比較例の熱伝導性シートで得られたBDEの相対値([各実施例又は比較例の熱伝導性シートで得られたBDE]/[比較例1の熱伝導性シートで得られたBDE]の値)として表2に示した。
【0034】
さらに、熱伝導性シートの比重率は、アルキメデス法によって測定した各実施例又は比較例の熱伝導性シートの比重を各実施例又は比較例の熱伝導性シートの理論比重で割り、100倍すること((各実施例又は比較例の熱伝導性シートで測定した比重/各実施例又は比較例の熱伝導性シートの理論比重)×100)により算出した。なお、各実施例又は比較例の熱伝導性シートの理論比重の計算では、窒化ホウ素の理論密度を2.27g/cm、樹脂成分の理論密度を1.2g/cmとして計算した。
なお、表2において、各実施例及び比較例で使用した構成成分の種類及び配合量等についてもまとめた。また、配合量については質量部を用いて表した。
【0035】
【表2】

【0036】
表2に示されているように、50%以下の気孔率及び0.05μm以上3μm以下の平均気孔径を有する二次凝集粒子を用いて作製した実施例1〜8の熱伝導性シートでは、熱伝導性及び絶縁破壊電圧(絶縁性)の両方が優れていた。これに対して、気孔率又は平均気孔径が上記範囲外である比較例1〜5は、熱伝導性及び絶縁破壊電圧(絶縁性)のいずれか一方が悪かった。特に、気孔率が50%を超える二次凝集粒子を用いて作製した比較例4及び5の熱伝導性シートでは、二次凝集粒子の強度が低いため、熱伝導性シートの製造時に二次凝集粒子の形状が崩れてしまう。その結果、熱伝導性シートの厚み方向に垂直に窒化ホウ素の一次粒子の多くが配向するので、熱伝導性が向上しない。また、平均気孔径が3μmを超える二次凝集粒子を用いて作製した比較例3の熱伝導性シートでは、二次凝集粒子に気孔径が大きい部分が存在するため、その部分の強度が低下している。その結果、熱伝導性シートの製造時に二次凝集粒子の形状が崩れてしまい、熱伝導性シートの厚み方向に垂直に窒化ホウ素の一次粒子が配向するので、熱伝導性が向上しない。さらに、平均気孔径が0.05μm未満の二次凝集粒子を用いて作製した比較例1及び2の熱伝導性シートでは、二次凝集粒子の気孔径が小さすぎてしまい、熱伝導シートを製造する際に気孔中に熱硬化性樹脂が入り込めない。その結果、熱伝導性シート中にボイドが残存し、絶縁破壊電界が低下する。
【0037】
ここで、上記実施例1〜5、並びに比較例1〜2及び4〜5の結果を基に、二次凝集粒子の気孔率と熱伝導性シートの熱伝導率の相対値との関係を示すグラフを図3に示す。また、実施例1〜5及び比較例1〜3の結果を基に、二次凝集粒子の平均気孔径と、熱伝導性シートの熱伝導率の相対値及び絶縁破壊電界の相対値との関係を示すグラフを図4に示す。
図3に示されているように、二次凝集粒子の気孔率と熱伝導性シートの熱伝導率の相対値との間には密接な関係があり、二次凝集粒子の気孔率が50%を超えると、熱伝導率の相対率が低下、すなわち熱伝導性が低下する。さらに、図4に示されているように、二次凝集粒子の平均気孔径と、熱伝導性シートの熱伝導率及び絶縁破壊電界の相対値との間には密接な関係があり、二次凝集粒子の平均気孔径が0.05μm未満であると、絶縁破壊電界の相対率が低下、すなわち絶縁性が低下し、また二次凝集粒子の平均気孔径が3μmを超えると、熱伝導率の相対率が低下、すなわち熱伝導性が低下する。
以上の結果からわかるように、本発明の熱伝導性シートは、熱伝導性及び絶縁性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施の形態における熱伝導性シートの断面模式図である。
【図2】本実施の形態におけるパワーモジュールの断面模式図である。
【図3】実施例1〜5、並びに比較例1〜2及び4〜5の結果に基づく、二次凝集粒子の気孔率と熱伝導性シートの熱伝導率の相対値との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1〜5及び比較例1〜3の結果に基づく、二次凝集粒子の平均気孔径と、熱伝導性シートの熱伝導率の相対値及び絶縁破壊電界の相対値との関係を示すグラフ
【図5】六方晶窒化ホウ素の熱伝導性を示す図である。
【図6】従来の熱伝導性シートの断面模式図である。
【図7】従来の熱伝導性シートの断面模式図である。
【符号の説明】
【0039】
1、11 熱伝導性シート、2 熱硬化性樹脂、3 二次凝集粒子、4 鱗片状窒化ホウ素の一次粒子、10 パワーモジュール、12 リードフレーム、13 電力半導体素子、14 ヒートシンク、15 制御用半導体素子、16 金属線、17 モールド樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が等方的に凝集した二次凝集粒子を熱硬化性樹脂中に分散してなる熱伝導性シートであって、
前記二次凝集粒子が、50%以下の気孔率及び0.05μm以上3μm以下の平均気孔径を有することを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項2】
前記二次凝集粒子が、20μm以上180μm以下の平均粒径を有することを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記熱伝導性シートにおける前記二次凝集粒子の充填率が、20体積%以上80体積%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
一方の放熱部材に搭載された電力半導体素子と、前記電力半導体素子で発生する熱を外部に放熱する他方の放熱部材と、前記半導体素子で発生する熱を前記一方の放熱部材から前記他方の放熱部材に伝達する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱伝導性シートとを備えることを特徴とするパワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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