説明

熱伝導性フィラー及びそれを用いた成形体

【課題】高熱伝導性であり、成形性が高いピッチ系黒鉛化短繊維フィラー及び複合成形材料を提供すること。また、生産性の良い製造方法を提供すること。
【解決手段】光学顕微鏡で観測した真円換算平均繊維径D1が0.5μm以上3μm以下であり、真円換算繊維径の変動係数CV値が15%以上50%以下であり、かつ、平均繊維長L1と真円換算平均繊維径D1との比L1/D1が2以上100以下であって、乾式微粉砕により得られたものであることを特徴とするピッチ系黒鉛化短繊維フィラー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂に高充填でき、かつ、熱伝導性に優れた黒鉛化短繊維フィラー、それと樹脂とからからなる組成物、及びそれを成形して得られる成形体に関する。さらには、生産性が高く、コストメリットのあるピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、産業用ロボット、スポーツ・レジャー用途など広く用いられている。また、PAN系炭素繊維は、主として、その強度を利用する分野に、そしてピッチ系炭素繊維は、弾性率を利用する分野に用いられることが多い。
【0003】
近年、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されている一方で、高速化されたCPUや電子回路のジュール熱による発熱が重篤な問題として認識されつつある。また、電子注入を発光原理とするエレクトロルミネッセンス素子においても同様に重篤な問題として顕在化している。一方、各種素子を形成するプロセスに目を向けると環境配慮型プロセスが求められており、その対策として鉛が添加されていない所謂鉛フリー半田への切り替えがなされている。鉛フリー半田は融点が通常の鉛含有半田に比較して高いため、プロセスの熱の効率的な使用が要求されている。そして、このような製品・プロセスが内包する熱に由来する問題を解決するためには、熱の効率的な処理(サーマルマネジメント)を達成する必要がある。
【0004】
サーマルマネジメントを具現化するには、金属・金属酸化物・金属窒化物・金属酸窒化物・合金といった、熱伝導性の高い無機材料を用いることが多い。金属ダイカストは、その典型的な例と考えることができる。しかし、複雑な形状をした電気部品などの筐体を作製するには、上述した材料をフィラーとして何らかのマトリクスに混合した複合材として用いることが、費用対効果の面から望ましい。しかし、マトリクスに用いられることが多い合成樹脂の熱伝導率はフィラーの1/100程度以下であり、多量のフィラーを混合する必要がある。しかしながら、多量のフィラーの添加は、成形性の劣化を招き、実用性を損なってしまう。そのため、効率的に熱伝導性を発現でき、形状にまで配慮がなされた高熱伝導性フィラーが求められていた。
【0005】
一般に炭素繊維は、他の合成高分子に比較して熱伝導率が高いと言われているが、サーマルマネジメント用途に向けた、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さい。これは、PAN系炭素繊維が所謂難黒鉛化炭素繊維であり、熱伝導を担う黒鉛性を高めることが非常に困難なことに由来している。これに対して、ピッチ系炭素繊維は易黒鉛化炭素繊維と呼ばれ、PAN系炭素繊維に比べて、黒鉛性を高くすることができるため、高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。よって、効率的に熱伝導性を発現できる形状にまで配慮がなされた高熱伝導性フィラーにできる可能性がある。
【0006】
ただ、炭素繊維単体での熱伝導性部材への加工は困難であり、非常に特殊な手法を用いる必要がある。そこで、金属性フィラー等と同様に、何らかのマトリクスと炭素繊維を複合材化し、それを成形体化し、その成形体の熱伝導度を向上させることが求められる。
【0007】
成形体が十分な熱伝導を達成するためには、熱伝導を主として担うフィラーが三次元的にネットワークを形成している必要がある。例えばサイズの揃った球体フィラーの場合、成形体中のフィラーのネットワークは分散状態にも依存するが、均一分散を仮定すると、パーコレーション的な挙動となる。したがって、十分な熱伝導性や電気伝導性を得るためには一定以上のフィラーの添加が必要になる。ところが、成形体を形成する手法においては、媒質とフィラーを一定以上の濃度で分散することが非常に困難なことが多い。
【0008】
このような背景により、三次元的な架橋をフィラーに与える検討がされている。例えば金属を網目状にすることで、熱流を輸送する試みが特許文献1に開示されている。しかし、マトリクスへの分散に極めて高度な技術を要すると考えられる。また、特許文献2には、合金化することでマトリクスとフィラーが同時に溶融し、その結果、成形性を維持しながら高熱伝導性が達成されることが開示されている。
【0009】
しかしながら、比重が樹脂に比して大きい金属材料の添加は、樹脂組成物の比重をも高くし、1gのオーダーで軽量化を議論するような用途には、不利と考えざるを得ない。
さらに、近年の物価動向を鑑みると、コストメリットを達成することが、材料にとって非常に重要な側面を持っており、コストパフォーマンスが極めて重要になっている。
【0010】
【特許文献1】特開平6−196884号公報
【特許文献2】国際公開第03/029352号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したように、軽量で熱伝導性の高い樹脂組成物を作成するためには、熱伝導が高く比重の小さい物質が求められており、さらに最終的な使用状態において最大の熱伝導性を発現するようなフィラーの制御が強く望まれていた。加えて、コストパフォーマンスが高いことも望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、最終的な成形体において熱伝導率を向上させること及び比重を小さくすることを目的とし、熱伝導性材料として熱伝導率の高いピッチ系黒鉛化短繊維フィラーを、サイズ、断面構造及び微細構造に着目し、適切に制御し、さらに樹脂に分散させることにより、これが達成できることを見出した。加えて、特定の構造を持ったピッチ系黒鉛化繊維に特定の処理を施すことで、コストパフォーマンスの高い材料が供給できることを見出し本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、光学顕微鏡で観測した真円換算平均繊維径D1が0.5μm以上3μm以下であり、真円換算繊維径の変動係数CV値が15%以上50%以下であり、かつ、平均繊維長L1と真円換算平均繊維径D1との比L1/D1が2以上100以下であって、乾式微粉砕により得られたものであることを特徴とするピッチ系黒鉛化短繊維フィラーである。
【0014】
さらに本発明は、ピッチをメルトブロー法で紡糸して、次いで不融化処理、炭化処理、粗粉砕処理、黒鉛化処理、微粉砕処理を施すピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの製造方法において、繊維断面の少なくとも20%面積部にラジアル構造を持つピッチ系炭素繊維を黒鉛化処理し、次いで微粉砕処理を実施することを特徴とする上記ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの製造方法である。
【0015】
さらに本発明は、上記ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーと熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂とを含み、樹脂100体積部に対して10〜900体積部の前記フィラーを含有する組成物である。
【0016】
さらに本発明は、上記組成物を、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、注型成形法、およびブロー成形法からなる群より選ばれる少なくとも一種の方法により成形して得られる成形体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーは、サイズが制御されていることにより、樹脂との組成物としたときの粘度増大を抑制しつつ、高い熱伝導率を複合成形体に付与することが可能になり、成形性が良好で熱伝導率の高い複合成形材料にすることが可能である。また、本発明のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーは特定の構造を持ったピッチ系黒鉛化繊維を特定の処理を施すことで、生産性に優れコストパフォーマンスがよく、さらに機械特性を高くすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について順次に説明していく。
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーは真円換算平均繊維径D1が0.5μm以上3μm以下であり、真円換算繊維径の変動係数CV値が15%以上50%以下であり、かつ、平均繊維長L1と真円換算平均繊維径D1との比L1/D1が2以上100以下である。D1が0.5μmより細いと、殆どが粉末状態であり、複合材料としたときに十分な熱伝導性が得られないことがある。D1が3μmより太いと、樹脂と複合する際に、フィラーの本数が少なくなるため、フィラー同士が接触し難くなり、複合材料としたときに十分な熱伝導性が得られないことがある。D1のより好ましい範囲は1μm以上2.5μm以下である。また、CV値が15%より小さいと、繊維径が比較的揃っていることにより、樹脂と複合する際、規則的に充填されるため、空間が生じてしまい、結果的に高充填できない場合がある。CV値が50%より大きいと、繊維径のバラつきが大きすぎて、逆に高充填できない場合がある。真円換算繊維径の変動係数CV値のより好ましい範囲は20%以上45%以下である。また、L1/D1が2より小さいと、繊維形状に由来する効果、即ち当該短繊維同士の接触しやすさに由来する効果的な熱伝導が期待し難くなる。L1/D1が100より大きいと、樹脂と複合する際に樹脂/短繊維混合物の粘度が高くなるため成形が困難になったり、比較的厚みが小さい複合材料を成形する際にムラが発生したりすることがある。L1/D1のより好ましい範囲は5以上50以下である。ここで、真円換算平均繊維径は、光学顕微鏡下でスケールを用いて所定本数測定し、その平均値から求めたものであり、真円換算繊維径の変動係数CV値は所定本数の標準偏差を平均値で除した値の百分率であり、L1/D1は平均繊維長を光学顕微鏡下で測長器を用いて所定本数測定したときの平均値であり、その値を真円換算平均繊維径で除した値である。
【0019】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーは、乾式微粉砕により得られたものであることを特徴とする。微粉砕方式の詳細は後述するが、乾式処理とすることで、L1/D1が2以上を達成できる。一方、湿式処理は、一般的に乾式処理に比べて粉砕性が高いために、繊維の粉砕が行き過ぎて、L1/D1が2より小さくなることがある。
【0020】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの真密度は、黒鉛化温度に強く依存するが、1.90〜2.30g/ccの範囲のものが好ましい。ピッチ系黒鉛化短繊維の真密度は黒鉛化度が進行するに従って増加する。より好ましくは、2.00〜2.25g/ccである。また、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの繊維軸方向の熱伝導率は400W/(m・K)以上である。さらに好ましくは450W/(m・K)以上である。この様なピッチ系黒鉛化短繊維を得る手法として特に制限は無いが、具体的には黒鉛化温度を高めることや黒鉛化時間を長くとることにより達成できる。繊維軸方向の熱伝導率は、粗粉砕処理は実施せずに黒鉛化処理を実施し、微粉砕処理する前のピッチ系黒鉛化繊維ウェブより、単糸を抜き取り測定できる。
【0021】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーは、黒鉛結晶からなり、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズが20nm以上が好ましい。さらに六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であることが好ましい。結晶子サイズは六角網面の厚み方向、六角網面の成長方向のいずれも、黒鉛化度に対応するものであり、熱物性を発現するためには、一定サイズ以上が必要である。六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズ及び六角網面の成長方向の結晶子サイズは、X線回折法で求める事ができる。測定手法は集中法とし、解析手法としては、学振法が好適に用いられる。六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、(002)面からの回折線を用いて求め、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、(110)面からの回折線を用いてそれぞれ求めることができる。
【0022】
また、本発明のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーは、ピッチをメルトブロー法で紡糸して、次いで不融化処理、炭化処理、粗粉砕処理、黒鉛化処理、微粉砕処理を施すピッチ系炭素短繊維フィラーの製造方法において、繊維断面の少なくとも20%面積部にラジアル構造を持つピッチ系炭素繊維を黒鉛化処理し、次いで微粉砕処理を実施することで適宜得ることができる。なお、繊維断面中のラジアル構造面積部は、繊維断面を走査型電子顕微鏡で観察し、断面全体中を占めるラジアル構造の割合から計算する。
【0023】
以下本発明のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの好ましい製造方法について述べる。
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特にメソフェーズピッチが好ましい。メソフェーズピッチのメソフェーズ率としては少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上である。なお、メソフェーズピッチのメソフェーズ率は、溶融状態にあるピッチを偏光顕微鏡で観察することで確認できる。さらに、原料ピッチの軟化点としては、230℃以上340℃以下が好ましい。不融化処理は、軟化点よりも低温で処理する必要がある。このため、軟化点が230℃より低いと、少なくとも軟化点未満の低い温度で不融化処理する必要があり、結果として不融化に長時間を要するため好ましくない。一方、軟化点が340℃を超えると、ピッチが熱分解を引き起こしやすくなり、発生したガスで繊維中に気泡が発生するなどの問題を生じるため好ましくない。軟化点のより好ましい範囲は250℃以上320℃以下、更に好ましくは260℃以上310℃以下である。なお、原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることができる。原料ピッチは、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。組み合わせる原料ピッチのメソフェーズ率は少なくとも90%以上であり、軟化点が230℃以上340℃以下であることが好ましい。
【0024】
メソフェーズピッチは溶融法により紡糸され、その後不融化、炭化、黒鉛化、粉砕処理によってピッチ系黒鉛化短繊維フィラーとなる。場合によっては、粉砕処理の後、分級工程を入れることもある。
【0025】
本発明における紡糸方法には、特に制限はないが、所謂溶融紡糸法を適用することができる。具体的には、口金から吐出したメソフェーズピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸延伸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用してメソフェーズピッチを引き取る遠心紡糸法などが挙げられる。中でもピッチ系炭素繊維前駆体の形態の制御、生産性の高さなどの理由からメルトブロー法を用いることが望ましい。このため以下本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの製造方法に関してはメルトブロー法について記載する。
【0026】
本発明では、ピッチ系炭素繊維前駆体を形成する紡糸ノズルの形状はどのようなものであっても良い。通常真円状のものが使用されるが、適時楕円などの異型形状のノズルを用いても何ら問題ない。ノズル孔の長さLNと孔径DNの比LN/DNとしては、2以上が好ましい。LN/DNが2未満では、原料ピッチにせん断を付与することが出来ず、繊維断面にラジアル構造を全く持たないピッチ系炭素繊維前駆体となることがある。LN/DNのより好ましい範囲は5以上である。
【0027】
紡糸時のノズルの温度、メソフェーズピッチがノズルを通過する際のせん断速度、ノズルからブローされる風量、風の温度等についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる条件、即ち、メソフェーズピッチのノズル孔での溶融粘度が1〜100Pa・sの範囲にあれば良い。
【0028】
ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度が1Pa・s未満の場合、溶融粘度が低すぎて繊維形状を維持することが出来ず好ましくない。一方、メソフェーズピッチの溶融粘度が100Pa・sを超える場合、紡糸ノズルの耐圧を相当高める必要があるため、コストパフォーマンスの面で望ましくない。溶融粘度のより好ましい範囲は3〜100Pa・sである。
【0029】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーは、真円換算平均繊維径D1が0.5μm以上3μm以下であることを特徴とするが、これは紡糸工程及び後述する微粉砕工程の2段階処理により最終的に達成される。紡糸工程のみでD1を0.5μm以上3μm以下に制御することも可能であるが、その場合、紡糸ノズルからの吐出量が制限されるため、生産性が良くない。また、粉砕工程でD1を制御することにより、紡糸工程のみで制御するよりも真円換算繊維径のバラつきを大きくすることができる。従って、本発明での繊維径制御は、生産性を良くし、かつ、繊維径のバラつきを大きくするために、紡糸工程である程度太く、かつ、繊維断面の少なくとも20%面積部にラジアル構造を持つ繊維を製造し、粉砕工程でラジアル構造ドメインの境目を積極的に割ることで実施される。ここで、ラジアル構造とは分子配向が繊維中心部から放射状に規則的に整列した状態にあることをいい、規則的な整列故に、繊維の割れ、欠損等が発生し易い構造を持つため、粉砕され易いことを特徴とする。なお、繊維の断面構造は走査型電子顕微鏡で観察した。また、本発明では、粉砕処理は黒鉛化処理後に実施することを特徴とする。黒鉛化処理によって分子配向がより規則的に整列し、ラジアル構造ドメインの境目が割れ易くなるためである。
【0030】
紡糸工程での繊維径制御は、ノズルの孔径を変更する、あるいはノズルからの原料ピッチの吐出量を変更する、あるいはドラフト比を変更することで調整可能である。ドラフト比の変更は、100〜400℃に加温された毎分100〜20000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって達成することができる。吹き付けるガスに特に制限は無いが、コストパフォーマンスと安全性の面から空気が望ましい。紡糸工程で製造されるピッチ系炭素繊維前駆体の真円換算平均繊維径D1の好ましい範囲は3〜20μmである。
【0031】
ピッチ系炭素繊維前駆体は、金網等のベルトに捕集されピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとなる。その際、ベルト搬送速度により任意の目付量に調整できるが、必要に応じ、クロスラップ等の方法により積層させてもよい。ピッチ系炭素繊維前駆体ウェブの目付量は生産性及び工程安定性を考慮して、150〜1000g/mが好ましい。
【0032】
このようにして得られたピッチ系炭素繊維前駆体ウェブは、公知の方法で不融化処理し、ピッチ系不融化繊維ウェブにする。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いた酸化性雰囲気下で実施できるが、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すると連続処理が望ましい。不融化処理は150〜350℃の温度で、一定時間の熱処理を付与することで達成される。より好ましい温度範囲は、160〜340℃である。昇温速度は1〜10℃/分が好適に用いられ、連続処理の場合は任意の温度に設定した複数の反応室を順次通過させることで、上記昇温速度を達成できる。昇温速度のより好ましい範囲は、生産性及び工程安定性を考慮して、3〜9℃/分である。
【0033】
ピッチ系不融化繊維ウェブは、600〜2000℃の温度で、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気中で炭化処理され、ピッチ系炭素繊維ウェブになる。炭化処理は、コスト面を考慮して、常圧かつ窒素雰囲気下での処理が望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すれば連続処理が望ましい。
【0034】
上記のピッチ系炭素繊維ウェブは、2000〜3500℃に加熱し黒鉛化してピッチ系黒鉛化繊維となる。黒鉛化は、アチソン炉、電気炉等にて実施され、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気下等で実施される。なお、黒鉛化処理の生産性を良くするために、黒鉛化処理前にピッチ系炭素繊維ウェブを粗粉砕処理することが望ましい。予め粗粉砕することで、黒鉛化処理時の充填密度を向上させることができる。粗粉砕処理の方式は後述する微粉砕処理で使用される粉砕機と同様のものが使用できる。
【0035】
ピッチ系黒鉛化繊維は、所望の繊維径及び繊維長にするために、微粉砕処理が実施される。また、場合によっては、分級処理が実施される。処理方式は所望の繊維径及び繊維長に応じて選定されるが、本発明では乾式方式とする。切断機としてはギロチン式、1軸、2軸及び多軸回転式等のカッターが好適に使用され、破砕機、粉砕機としては衝撃作用を利用したハンマ式、ピン式、ボール式、ビーズ式及びロッド式、粒子同士の衝突を利用した高速回転式、圧縮・引裂き作用を利用したロール式、コーン式及びスクリュー式等の破砕機・粉砕機等が好適に使用される。所望の繊維径及び繊維長を得るために、切断と破砕・粉砕を多種複数機で構成してもよい。分級処理には、振動篩い式、遠心分離式、慣性力式、濾過式等の分級装置等が好適に使用される。所望の繊維径及び繊維長は、機種選定のみならず、ロータ・回転刃等の回転数、供給量、刃間クリアランス、系内滞留時間等を制御することによっても得ることができる。また、分級処理を用いる場合には、所望の繊維径及び繊維長は篩い網孔径等を調整することによっても得ることができる。
【0036】
本発明では、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーと熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂とを混合した組成物も包含する。この際、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーは、樹脂100体積部に対して10〜900体積部を添加させる。10体積部より少ない添加量では、熱伝導性を十分に確保することが難しい。一方、900体積部より多いピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの樹脂への添加は困難であることが多い。本発明のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーは真円換算繊維径の変動係数CV値が15%以上50%以下であることから上述のとおり樹脂と複合する際、その充填量を高めることが可能である。
【0037】
樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれか1つ以上を含有し、さらに複合成形体に所望の物性を発現させるために熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を適宜混合して用いることもできる。
【0038】
マトリクスに用いることができる熱可塑性樹脂としてポリオレフィン類及びその共重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体など)、ポリメタクリル酸類及びその共重合体(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステルなど)、ポリアクリル酸類及びその共重合体、ポリアセタール類及びその共重合体、フッ素樹脂類及びその共重合体(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル類及びその共重合体(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート、液晶性ポリマーなど)、ポリスチレン類及びその共重合体(スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂など)、ポリアクリロニトリル類及びその共重合体、ポリフェニレンエーテル(PPE)類及びその共重合体(変性PPE樹脂なども含む)、脂肪族ポリアミド類及びその共重合体、芳香族ポリアミド類及びその共重合体、ポリイミド類及びその共重合体、ポリアミドイミド類及びその共重合体、ポリカーボネート類及びその共重合体、ポリフェニレンスルフィド類及びその共重合体、ポリサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルニトリル類及びその共重合体、ポリエーテルケトン類及びその共重合体、ポリエーテルエーテルケトン類及びその共重合体、ポリケトン類及びその共重合体、シリコーンオイル等が挙げられる。
【0039】
なかでも熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート類及びその共重合体、ポリエステル類及びその共重合体、ポリアミド類及びその共重合体、ポリオレフィン類及びその共重合体、ポリエーテルケトン類及びその共重合体、ポリフェニレンスルフィド類及びその共重合体、およびABS樹脂類、シリコーンオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましく挙げられる。これらから1種を単独で用いても、2種以上を適宜組み合わせて用いても良い。また、これらの熱可塑性樹脂に難燃剤等の添加剤や他の機能性フィラーなどが混入していても良い。
【0040】
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類、イミド類、熱硬化型変性PPE類、および熱硬化型PPE類、ポリブタジエン系ゴム及びその共重合体、アクリル系ゴム及びその共重合体、シリコーン系ゴム及びその共重合体、天然ゴムなどが挙げられ、これらから1種を単独で用いても、2種以上を適宜組み合わせて用いても良い。また、これらの熱硬化性樹脂に難燃剤等の添加剤や機能性フィラーなどが混入していても良い。
【0041】
本発明の組成物は、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーと樹脂とを混合して作製するが、混合の際には、ニーダー、各種ミキサー、ブレンダー、ロール、押出機、ミリング機、自公転式の撹拌機などの混合装置又は混練装置が好適に用いられる。そして、複合材料及び/または複合成形体は、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、粉体成形法、注型成形法、ブロー成形法等の成形方法にて、成形することが可能である。成形条件は、成形手法と樹脂に依存し、熱可塑性樹脂の場合は、当該樹脂の溶融粘度より温度を上げた状態で成形を実施する。熱硬化性樹脂の場合は、適切な型において、当該樹脂の硬化温度を付与するといった方法を挙げることができる。
【0042】
本発明の組成物の熱伝導率をより高めるためには、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラー以外のフィラーを必要に応じて添加してもよい。具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、酸化窒化アルミニウムなどの金属酸窒化物、炭化珪素などの金属炭化物、金、銀、銅、アルミニウムなどの金属もしくは金属合金、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、ダイヤモンドなどの炭素材料などが挙げられる。これらを機能に応じて適宜添加してもよい。また、2種類以上併用することも可能である。
【0043】
さらに、成形性、機械物性などのその他特性をより高めるために、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼化アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素ウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石膏繊維、金属繊維などの繊維状フィラーを必要な機能に応じて適宜添加してもよい。これらを2種類以上併用することも可能である。ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク及びセラミックビーズなどの非繊維状フィラーも必要に応じて適宜添加することが可能である。これらは中空であってもよく、さらにはこれらを2種類以上併用することも可能である。ただ、上記化合物は、密度がピッチ系黒鉛化短繊維フィラーより大きなものが多く、軽量化を目的とするときには、添加量や添加比率に気を配る必要がある。
また、必要に応じて他の添加剤を複数、組成物に添加しても構わない。他の添加剤としては離型剤、難燃剤、乳化剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤を挙げることができる。
【0044】
本発明の組成物を平板状に成形し、熱伝導率を測定すると2W/(m・K)以上の熱伝導率を示す。2W/(m・K)の熱伝導率は、マトリクスとして用いている高分子材料に比較すると約一桁高い熱伝導率である。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
(1)ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの真円換算平均繊維径:
ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーをJIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。
【0046】
(2)ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの真円換算繊維径の変動係数CV値:
上記測定値の標準偏差を平均値で除した値の百分率である。
【0047】
(3)ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの平均繊維長:
平均繊維長は、個数平均繊維長であり、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーを光学顕微鏡下で測長器で2000本測定(10視野、200本ずつ測定)し、その平均値から求めた。倍率は測定する繊維長に応じて適宜調整した。
【0048】
(4)ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの断面構造:
ピッチ系黒鉛化短繊維の断面を走査型電子顕微鏡S−2400(株式会社日立製作所製)で観察することで確認した。
【0049】
(5)ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの真密度:
ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの真密度は、浮沈法により測定した。即ち、シリンダー内に比重2.17(g/cm)のジブロモエタンと比重2.89(g/cm)のブロモホルムの混合溶液を作成し、25±0.2℃の温度にコントロールする。上記混合溶液にピッチ系黒鉛化短繊維フィラーを浸析させ、1.3kPaで3分間保持した後、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーが混合液の中央に来るまでかき混ぜる。10分後、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーが浮上するようであればジブロモエタンを追加し、沈むようであればブロモホルムを滴下する。この操作をピッチ系黒鉛化短繊維フィラーが静止するまで繰り返す。ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーが静止した後、その混合液体の密度を比重浮ひょうで測定し、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの密度とした。
【0050】
(6)結晶サイズ:
X線回折法にて求め、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズは(002)面からの回折線を用いて求め、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは(110)面からの回折線を用いて求めた。また、求め方は学振法に準拠して実施した。
【0051】
(7)ピッチ系炭素短繊維フィラーの熱伝導率:
粗粉砕処理を実施せずに黒鉛化処理を実施し、微粉砕処理する前のピッチ系黒鉛化繊維ウェブから単糸を抜き出し抵抗率を測定し、特開平11−117143号公報に開示されている熱伝導率と電気比抵抗との関係を表す下記式より求めた。
K=1272.4/ER−49.4
ここで、Kはピッチ系黒鉛化繊維の熱伝導率W/(m・K)、ERは同じピッチ系黒鉛化繊維の電気比抵抗μΩmを表す。
【0052】
(8)平板状成形体の熱伝導率:
京都電子製QTM−500で測定した。
【0053】
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が288℃であった。340℃で溶融した粘度10Pa・sのピッチを、直径0.2mmφの孔の口金を使用し、スリットから加熱空気を毎分10000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均繊維径が11.0μmのピッチ系炭素繊維前駆体を作製した。得られたピッチ系炭素繊維前駆体を多孔ベルト上に捕集し、さらにクロスラッパーで目付量が350g/mとなるように調整し、ピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを得た。
【0054】
ピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを空気中で170℃から290℃まで平均昇温速度4℃/分で昇温して不融化処理を行った。次いでピッチ系不融化繊維ウェブを窒素雰囲気中800℃で炭化処理し、粗粉砕処理したところ、平均繊維長は30μmであった。その後、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3000℃で熱処理することで黒鉛化し、ピッチ系黒鉛化繊維を作成した。得られたピッチ系黒鉛化繊維の断面構造を観察したところ、断面の50%面積部にラジアル構造が確認された。さらに得られたピッチ系黒鉛化繊維を乾式微粉砕処理し、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーを得た。得られたピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの真円換算平均繊維径D1は1.5μmであり、真円換算繊維径の変動係数CV値は35%であり、平均繊維長L1と真円換算平均繊維径D1の比L1/D1は15であった。また、繊維の断面構造を観察したところ、ランダム構造が確認された。真密度は、2.15g/ccであった。
【0055】
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、36nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、80nmであった。
粗粉砕処理を実施せずに黒鉛化処理を実施したピッチ系黒鉛化繊維ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、1.6μΩmであった。熱伝導度は750W/(m・K)であった。
比較例2の単位質量当たりの生産コストを100とした場合、生産コストは35であった。
【0056】
[実施例2]
黒鉛化処理を2700℃で実施した以外は、実施例1と同様の方法で、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーを作製した。微粉砕処理前のピッチ系黒鉛化繊維の断面構造を観察したところ、断面の50%面積部にラジアル構造が確認された。得られたピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの真円換算平均繊維径D1は1.7μmであり、真円換算繊維径の変動係数CV値は34%であり、平均繊維長L1と真円換算平均繊維径D1の比L1/D1は14であった。また、繊維の断面構造を観察したところ、ランダム構造が確認された。真密度は、1.91g/ccであった。
【0057】
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、22nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、32nmであった。
粗粉砕処理を実施せずに黒鉛化処理を実施したピッチ系黒鉛化繊維ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、2.5μΩmであった。熱伝導度は460W/(m・K)であった。
比較例2の単位質量当たりの生産コストを100とした場合、生産コストは37であった。
【0058】
[比較例1]
黒鉛化処理後に乾式微粉砕処理を実施しないこと以外は実施例1と同様の方法で、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーを作製した。得られたピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの真円換算平均繊維径D1は8.2μmであり、真円換算繊維径の変動係数CV値は10%であり、平均繊維長L1と真円換算平均繊維径D1の比L1/D1は3であった。また、繊維の断面構造を観察したところ、断面の45%面積部にラジアル構造が確認された。真密度は、2.15g/ccであった。
【0059】
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、36nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、80nmであった。
粗粉砕処理を実施せずに黒鉛化処理を実施したピッチ系黒鉛化繊維ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、1.6μΩmであった。熱伝導度は750W/(m・K)であった。
比較例2の単位質量当たりの生産コストを100とした場合、生産コストは29であった。
【0060】
[比較例2]
紡糸工程のみで平均繊維径を制御するために、吐出量を実施例1の1/6に調整し、不融化処理時の平均昇温速度を8℃/分とし、黒鉛化処理後に乾式微粉砕処理を実施しないこと以外は実施例1と同様の方法で、ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーを作製した。得られたピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの真円換算平均繊維径D1は2.2μmであり、真円換算繊維径の変動係数CV値は12%であり、平均繊維長L1と真円換算平均繊維径D1の比L1/D1は14であった。また、繊維の断面構造を観察したところ、断面の40%面積部にラジアル構造が確認された。真密度は、2.15g/ccであった。
【0061】
X線回折法によって求めた六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、36nmであった。また、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、80nmであった。
粗粉砕処理を実施せずに黒鉛化処理を実施したピッチ系黒鉛化繊維ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、1.6μΩmであった。熱伝導度は750W/(m・K)であった。
【0062】
[実施例3]
熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製L−1225WP)を選定し、実施例1で作製したピッチ系黒鉛化短繊維フィラーとを、樹脂:フィラーが100体積部:200体積部の比でクリモト製2軸混練機にて、コンパウンディングし、複合材料とした。この複合材料を名機製作所製の射出成形機にて、厚み2mmの平板に加工し、複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、3.9W/(m・K)であった。
【0063】
[実施例4]
熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製L−1225WP)を選定し、実施例2で作製したピッチ系黒鉛化短繊維フィラーとを、樹脂:フィラーが100体積部:200体積部の比でクリモト製2軸混練機にて、コンパウンディングし、複合材料とした。この複合材料を名機製作所製の射出成形機にて、厚み2mmの平板に加工し、複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、2.8W/(m・K)であった。
【0064】
[実施例5]
熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製L−1225WP)を選定し、実施例1で作製したピッチ系黒鉛化短繊維フィラーとを、樹脂:フィラーが100体積部:100体積部の比でクリモト製2軸混練機にて、コンパウンディングし、複合材料とした。この複合材料を名機製作所製の射出成形機にて、厚み2mmの平板に加工し、複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、3.1W/(m・K)であった。
【0065】
[比較例3]
比較例1で作製したピッチ系黒鉛化短繊維フィラーを用いた以外は実施例3と同じ条件で複合成形体を得たが複合成形体はムラが大きく、目視でピッチ系炭素短繊維フィラーの多い場所と少ない場所がわかるほど不均一であった。
【0066】
[比較例4]
比較例2で作製したピッチ系黒鉛化短繊維フィラーを用いた以外は実施例3と同じ条件で複合成形体を得たが複合成形体はムラが大きく、目視でピッチ系炭素短繊維フィラーの多い場所と少ない場所がわかるほど不均一であった。
【0067】
[実施例6]
熱硬化性樹脂として、シリコーン樹脂(東レダウシリコーン製SE−1740)を選定し、実施例1で作製したピッチ系黒鉛化短繊維フィラーとをプラネタリーミキサーを用いて樹脂:フィラーが100体積部:200体積部の比でミキシングを行い、1辺300mmの金枠に設置し、真空プレス機で、プレス加工し厚み0.5mmの平板状の複合成形体を得た。この複合成形体の熱伝導率を測定したところ、3.6W/(m・K)であった。
【0068】
[比較例5]
ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーを添加しないポリカーボネート樹脂(帝人化成製L−1225WP)から平板を作製した。熱伝導率は0.2W/(m・K)であった。
【0069】
[比較例6]
ピッチ系黒鉛化短繊維フィラーを添加しないシリコーン樹脂(東レダウシリコーン製SE−1740)から平板を作製した。熱伝導率は、0.3W/(m・K)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学顕微鏡で観測した真円換算平均繊維径D1が0.5μm以上3μm以下であり、真円換算繊維径の変動係数CV値が15%以上50%以下であり、かつ、平均繊維長L1と真円換算平均繊維径D1との比L1/D1が2以上100以下であって、乾式微粉砕により得られたものであることを特徴とするピッチ系黒鉛化短繊維フィラー。
【請求項2】
真密度が1.90〜2.30g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が400W/(m・K)以上である請求項1に記載のピッチ系黒鉛化短繊維フィラー。
【請求項3】
六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズが20nm以上であり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上である請求項1〜2のいずれかに記載のピッチ系黒鉛化短繊維フィラー。
【請求項4】
ピッチをメルトブロー法で紡糸して、次いで不融化処理、炭化処理、粗粉砕処理、黒鉛化処理、微粉砕処理を施すピッチ系炭素短繊維フィラーの製造方法において、繊維断面の少なくとも20%面積部にラジアル構造を持つピッチ系炭素繊維を黒鉛化処理し、次いで微粉砕処理を実施することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のピッチ系黒鉛化短繊維フィラーと熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂とを含み、樹脂100体積部に対して10〜900体積部の前記フィラーを含有する組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリブチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリブチレンテレフタレート類、およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合樹脂類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
熱硬化性樹脂が、エポキシ類、アクリル類、ウレタン類、シリコーン類、フェノール類、イミド類、熱硬化型変性PPE類、および熱硬化型PPE類からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
平板状に成形した状態における熱伝導率が2W/(m・K)以上である、請求項5〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の組成物を、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、押出成形法、粉体成形法、注型成形法、及びブロー成形法からなる群より選ばれる少なくとも一種の方法により成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2010−100946(P2010−100946A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270735(P2008−270735)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】