説明

熱伝導性構造体

【課題】機械強度に優れるとともに、良好な熱伝導性を確保することのできる熱伝導性構造体を提供すること。
【解決手段】無機粒子およびオルガノシロキサンのゾル4を、第1離型材5の凹部6に注入して、これを加熱してゲル化を経て、硬化体7を形成した後、これを第1離型材5から剥離して、第2離型材8に載置する。通過方向両端部9が樹脂マトリックス2から露出するように、かつ、硬化体7が樹脂マトリックス2に充填されるように、樹脂溶液を第2離型材8に流し入れ、これらを加熱して、硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性構造体、詳しくは、パワーエレクトロニクス技術分野などに好適に用いられる熱伝導性構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッドデバイス、高輝度LEDデバイス、電磁誘導加熱デバイスなどでは、半導体素子により電力を変換・制御するパワーエレクトロニクス技術が採用されている。パワーエレクトロニクス技術では、大電流を運動・光・熱に変換するため、半導体素子を封止保護する封止材には、高い放熱性(熱伝導性)が要求されている。
【0003】
例えば、高い熱伝導性を確保すべく、金属アルコキシドの溶液と有機ケイ素化合物の溶液とを混合したゾル液に、熱伝導性フィラーを配合し、このゾル液をシート状に成形して、加熱ゲル化させることにより得られる、熱伝導性シートが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−81669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載される熱伝導性シートでは、単に、熱伝導性フィラーが配合されたゾルをゲル化させてシート状に成形されている。そのため、熱伝導性フィラーの配合割合を多くして熱伝導性を高めようとすると、機械強度が低下する一方、熱伝導性フィラーの配合割合を少なくして機械強度を高めようとすると、熱伝導性が低下するという不具合がある。
【0005】
本発明の目的は、機械強度に優れるとともに、良好な熱伝導性を確保することのできる熱伝導性構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の熱伝導性構造体は、樹脂マトリックスと、無機粒子およびオルガノシロキサンからゾル・ゲル法により形成され、通過方向両端部が前記樹脂マトリックスから露出するように、前記樹脂マトリックスに充填される熱伝導パスとを含むことを特徴としている。
【0007】
また、本発明の熱伝導性構造体では、前記樹脂マトリックスは、シート形状に形成され、前記熱伝導パスは、互いに間隔を隔てて整列配置され、前記通過方向が前記樹脂マトリックスの厚み方向に沿うように、形成されていることが好適である。
【0008】
また、本発明の熱伝導性構造体では、前記無機粒子が、炭化物、窒化物、酸化物、金属および炭素系材料からなる群から選択される少なくとも1種の無機材料からなることが好適である。
【0009】
また、本発明の熱伝導性構造体では、前記樹脂マトリックスの厚みが、3〜300μmであることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱伝導性構造体は、熱伝導パスが、無機粒子およびオルガノシロキサンからゾル・ゲル法により形成され、通過方向両端部が樹脂マトリックスから露出している。そのため、熱伝導パスの通過方向一端部を発熱部材と接触させることができ、発熱部材の熱を熱伝導パスに通過させて、熱伝導パスの通過方向他端部から効率的に放熱することができる。そのため、本発明の熱伝導性構造体は、良好な熱伝導性を確保することができる。その結果、パワーエレクトロニクス技術における熱伝導性構造体に好適に用いられ、大電流により発生する熱を迅速に放熱することができる。
【0011】
しかも、本発明の熱伝導性構造体では、熱伝導パスが樹脂マトリックスに充填されているので、優れた機械強度を維持することができる。そのため、長期信頼性を向上させることができる。
【0012】
その結果、本発明の熱伝導性構造体は、優れた熱伝導性と優れた機械強度との両方を確保することができる。
【0013】
さらに、熱伝導パスは、無機粒子およびオルガノシロキサンからゾル・ゲル法により形成されているので、かかる熱伝導パスでは、無機粒子がオルガノシロキサン中に高充填されながら、これらすべてが化学的に結合した成形体となる。そのため、優れた熱伝導性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の熱伝導性構造体の一実施形態としての熱伝導性シートの平面図、図2は、図1のA−A線に沿う断面図、図3は、熱伝導性シートの製造方法の工程図を示す。なお、図1において、紙面上下方向を縦方向、紙面左右方向を横方向という。
【0015】
図1において、この熱伝導性シート1は、樹脂マトリックス2と、熱伝導パス3とを含んでいる。具体的には、樹脂マトリックス2において、熱伝導パス3が、整列配置されながら、樹脂マトリックス2に充填されている。
【0016】
樹脂マトリックス2は、シート形状に形成され、より具体的には、平面視略矩形シート形状に形成されている。樹脂マトリックス2の厚みは、例えば、3μm以上、好ましくは、3〜500μm、さらに好ましくは、3〜300μm、とりわけ好ましくは、20〜300μmである。樹脂マトリックス2の厚みが上記範囲に満たない場合には、樹脂マトリックス2の厚みが、熱伝導パス3が含む後述する無機粒子の平均粒子径と同等かまたはそれより小さくなり、熱伝導性シート1を成形しにくくなる場合がある。
【0017】
また、樹脂マトリックス2は、熱伝導パス3を充填でき、熱伝導性シート1に優れた機械特性(靭性や柔軟性など)を付与できれば、特に限定されず、樹脂マトリックス2を形成する樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂などの樹脂が挙げられる。
【0018】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、イミド(熱硬化性イミド)樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂(熱硬化性ウレタン樹脂)などが挙げられる。さらに好ましくは、エポキシ樹脂が挙げられる。
【0019】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ダイマー酸変性ビスフェノール型エポキシ樹脂など)、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂など)、ナフタレン型エポキシ樹脂などの芳香族系エポキシ樹脂、例えば、トリエポキシプロピルイソシアヌレート(トリグリシジルイソシアヌレート)、ヒダントインエポキシ樹脂などの含窒素環エポキシ樹脂、例えば、脂肪族系エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂(例えば、ジシクロ環型エポキシ樹脂など)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0020】
これら樹脂は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0021】
熱伝導パス3は、図1および図2に示すように、厚み方向に直交する方向において互いに間隔を隔てて整列配置されている。より具体的には、各熱伝導パス3は、縦方向および横方向に沿って整列配置されている。また、各熱伝導パス3は、略円柱形状に形成されている。
【0022】
熱伝導パス3の直径D1は、例えば、100〜2000μm、好ましくは、200〜1000μmであり、縦方向における各熱伝導パス3間の間隔S1および横方向における各熱伝導パス3間の間隔S2は、同一または相異なっていてよく、例えば、例えば、10〜1000μm、好ましくは、50〜300μmである。
【0023】
これにより、熱伝導パス3は、熱伝導性シート1において、体積割合が、例えば、1〜80体積%、好ましくは、10〜75体積%に設定される。換言すれば、樹脂マトリックス2の体積割合が、熱伝導性シート1において、例えば、20〜99体積%、好ましくは、25〜90体積%に設定される。
【0024】
また、熱伝導パス3は、厚み方向両端部9が樹脂マトリックス2から露出するように、樹脂マトリックス2に充填されている。すなわち、熱伝導パス3は、上端部(厚み方向一端部)9Aが樹脂マトリックス2の上面から露出し、かつ、下端部(厚み方向他端部)9Bから樹脂マトリックス2の下面から露出するとともに、側面が樹脂マトリックス2と接触している。これにより、熱伝導パス3は、熱を伝導させるためのパスの通過方向が、樹脂マトリックス2の厚み方向と沿うように、形成されている。
【0025】
熱伝導パス3の厚み(通過方向長さ)T1は、例えば、樹脂マトリックス2の厚みと同一またはそれより厚く、好ましくは、樹脂マトリックス2の厚みと同一である。この場合には、熱伝導パス3の上面および樹脂マトリックス2の上面が、厚み方向に直交する方向において面一に形成されるとともに、熱伝導パス3の下面および樹脂マトリックス2の下面が、厚み方向に直交する方向において面一に形成される。
【0026】
また、この熱伝導パス3は、例えば、有機・無機ハイブリッド化合物(有機・無機コンポジット化合物)であって、より具体的には、無機粒子およびオルガノシロキサンからゾル・ゲル法(後述)により形成されている。
【0027】
次に、この熱伝導性シート1の製造方法について、図3を参照して説明する。
【0028】
まず、この方法では、図3(a)に示すように、第1離型材5を用意する。
【0029】
第1離型材5は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂、例えば、銅、鉄、ステンレスなどの金属からなる。また、第1離型材5の表面には、熱伝導パス3の剥離性を高めるため、必要に応じて、剥離処理がなされていてもよい。また、第1離型材5には、熱伝導パス3に対応する凹部6が形成されている。
【0030】
次いで、この方法では、図3(b)〜図3(e)に示すように、熱伝導パス3を、ゾル・ゲル法により形成する。
【0031】
すなわち、まず、図3(b)に示すように、無機粒子およびオルガノシロキサンのゾル4を、第1離型材5の凹部6に注入する。
【0032】
無機粒子は、例えば、熱伝導性(放熱性)に優れる無機粉末であって、その熱伝導率が、例えば、30W/m・K以上、通常、2000W/m・K以下である。
【0033】
無機粒子を形成する無機材料としては、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、金属、炭素系材料などが挙げられる。
【0034】
炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどが挙げられる。
【0035】
窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどが挙げられる。
【0036】
酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化チタン、酸化セリウムなどが挙げられる。さらに、酸化物として、金属イオンがドーピングされている、例えば、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズなどが挙げられる。
【0037】
金属としては、例えば、銅、金、ニッケル、錫、鉄、または、それらの合金が挙げられる。
【0038】
炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、ナノホーン、カーボンマイクロコイル、ナノコイルなどが挙げられる。
【0039】
無機材料は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0040】
これら無機材料のうち、好ましくは、炭化物、窒化物、酸化物が挙げられる。
【0041】
無機粒子は、上記無機材料からなる粒子としてそのまま得ることができ、あるいは、上記無機材料を、粉砕法などの公知の方法で、粒子に成形することにより、得ることもできる。粒子の形状としては、特に制限されず、例えば、球状(アルミナ、炭化ケイ素など)、板状(窒化ホウ素など)が挙げられる。
【0042】
粒子の最大長さは、例えば、3〜50000nmであり、とりわけ、球状粒子である場合には、その平均粒子径が、例えば、100〜50000nm、好ましくは、500〜20000nmであり、板状粒子である場合には、その最大長さが、例えば、200〜50000nm、好ましくは、500〜45000nmである。
【0043】
オルガノシロキサンとしては、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランなどのテトラアルコキシシランや、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどの反応性基(エポキシ基)含有トリアルコキシシランなどが挙げられる。
【0044】
これらオルガノシロキサンは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0045】
そして、ゾルを調製するには、まず、上記したオルガノシロキサンに、水およびpH調整剤(例えば、酢酸などの酸や、例えば、アンモニア水などのアルカリなど)を配合して、オルガノシロキサンを加水分解して、水溶液を調製し、これに、無機粒子を配合して、ゾルを調製する。なお、水溶液には、均一な水溶液を調製するために、必要により、アルコールを添加することができる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの炭素数1〜4の低級アルコールが挙げられる。また、ゾルは、pHが、例えば、2〜6、好ましくは、3〜5に調整される。
【0046】
ゾル4を、凹部6に充填して、続いて、その凹部6内において、例えば、20〜90℃、好ましくは、20〜50℃で、さらに好ましくは、20〜40℃、例えば、1〜50時間、好ましくは、5〜30時間放置することにより、脱水縮合反応させることにより、ゲルを得る。ゾルにおける各成分の配合割合は、オルガノシロキサン100重量部に対して、水が、例えば、10〜100重量部、好ましくは、10〜80重量部であり、pH調整剤が、例えば、1〜20重量部であり、無機粒子が、例えば、10〜5000重量部、好ましくは、100〜2000重量部であり、必要により添加されるアルコールは、例えば、50重量部以下、例えば、20重量部以下である。
【0047】
次いで、この方法では、図3(c)に示すように、ゲルを加熱および乾燥させることにより、硬化体7を形成する。より具体的には、まず、ゲルを、例えば、50〜90℃、好ましくは、60〜80℃に加熱して、脱水縮合反応により生じたアルコールを揮発させて除去する。アルコールの除去後、ゲルを、例えば、100〜180℃、好ましくは、130〜160℃に加熱して、残存する水を乾燥させる。これにより、ゲルから硬化体7を得る。
【0048】
次いで、この方法では、図3(d)に示すように、第1離型材5を上下反転させて、硬化体7を第1離型材5から剥離して、これを第2離型材8の上に載置する。
【0049】
第2離型材8を形成する材料は、第1離型材と同様の材料が挙げられる。第2離型材8は、熱伝導性シート1の形状に対応して形成されている。
【0050】
次に、この方法では、図3(e)が参照されるように、上記した樹脂マトリックス2を形成するための樹脂溶液を、第2離型材8に流し入れる。
【0051】
樹脂溶液は、上記した樹脂および溶媒を均一に含んでいる。
【0052】
溶媒は、樹脂を分散および/または溶解させることができれば、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールなどのアルコール溶媒、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン溶媒、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、ノナンなどの脂肪族炭化水素溶媒、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒などが挙げられる。溶媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0053】
さらに、樹脂溶液には、上記した成分の他に、例えば、必要により、硬化剤および硬化促進剤などの添加剤を適宜の割合で添加することができる。
【0054】
樹脂溶液における各成分の配合割合は、樹脂100重量部に対して、溶媒が、例えば、20〜1000重量部、好ましくは、40〜900重量部である。
【0055】
これにより、樹脂溶液が硬化体7の隙間に充填され、かつ、硬化体7の上端部が露出されるように、樹脂溶液を第2離型材8に流し入れることができる。
【0056】
次いで、この方法では、まず、これらを、例えば、50〜150℃、好ましくは、60〜120℃で加熱して、溶媒を揮発させて除去する。次いで、図示しないシート前駆体(溶媒の除去後の硬化前樹脂)および硬化体7を、例えば、70〜250℃、好ましくは、100〜200℃に加熱して、これを乾燥させる。これにより、図3(e)に示すように、シート前駆体を硬化させて樹脂マトリックス2を得るとともに、熱伝導パス3を樹脂マトリックス2中に固定化する。
【0057】
これにより、熱伝導パス3を、ゾル・ゲル法により形成することができる。
【0058】
その後、図3(f)に示すように、熱伝導性シート1を第2離型材8から剥離して、熱伝導性シート1を取り出す。
【0059】
そして、この熱伝導性シート1は、熱伝導パス3が、無機粒子およびオルガノシロキサンからゾル・ゲル法により形成され、通過方向両端部9が樹脂マトリックス2から露出している。そのため、熱伝導パス3の通過方向一端部9Aを図示しない発熱部材と接触させれば、発熱部材の熱を熱伝導パス3に通過させて、熱伝導パス3の通過方向他端部9Bから効率的に放熱することができる。そのため、この熱伝導性シート1は、良好な熱伝導性を確保することができる。その結果、パワーエレクトロニクス技術における熱伝導性シート1として好適に用いられ、大電流により発生する熱を迅速に放熱することができる。
【0060】
しかも、この熱伝導性シート1では、熱伝導パス3が樹脂マトリックス2に充填されているので、優れた機械強度を維持することができる。そのため、長期信頼性を向上させることができる。
【0061】
さらに、熱伝導パス3は、無機粒子およびオルガノシロキサンからゾル・ゲル法により形成されているので、かかる熱伝導パス3では、無機粒子がオルガノシロキサン中に高充填されながら、これらすべてが化学的に結合した成形体となる。そのため、優れた熱伝導性を得ることができる。
【0062】
なお、上記した熱伝導性シート1の製造方法の説明では、図3(e)の実線で示すように、樹脂溶液を、硬化体7の上端部を露出するように第2離型材8に流し入れたが、これに限定されず、例えば、図3(e)の仮想線で示すように、樹脂溶液を、硬化体7の上端部を被覆するように第2離型材8に流し入れることもできる。この場合には、樹脂マトリックス2および熱伝導パス3の形成後、樹脂マトリックス2における熱伝導パス3の上端部9Aより上側の部分を、例えば、エッチング、研磨などで除去することにより、熱伝導パス3の上端部9Aを露出させる。
【0063】
また、上記した説明では、図1において、樹脂マトリックス2の平面視形状を略矩形状に形成したが、これに限定されず、例えば、図示しないが、その目的および用途に応じて、平面視略円形状などの適宜の形状に形成することができる。
【0064】
また、上記した説明では、熱伝導パス3を略円柱形状に形成したが、これに限定されず、例えば、図示しないが、例えば、略3角柱形状、略4角柱形状などの多角柱形状など、厚み方向に延びる柱形状に形成することができる。
【0065】
また、上記した説明では、本発明の熱伝導性構造体を、シート形状の樹脂マトリックス2を含む熱伝導性シート1として説明したが、これに限定されず、図示しないが、例えば、厚肉箱形状(ブロック形状)の樹脂マトリックス2を含む、熱伝導性ブロックとして形成することもできる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。
【0067】
実施例1
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM403、信越化学工業社製)5.0gに、エタノール1.0g、水3.0gおよび酢酸0.1gを配合して、これらを攪拌して混合することにより、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを加水分解して、水溶液を得た。次いで、40℃、1日間、予め乾燥させたアルミナ(AS−50、昭和電工社製)5.0gに、水溶液0.9gを配合して混合してゾルを調製した。
【0068】
別途、凹部が円柱形状であり、その直径が0.5mm、深さが0.2mm、各凹部間の間隔が0.25mmである、ステンレスからなる第1離型材を用意した(図3(a)参照)。
【0069】
次いで、得られたゾルを、第1離型材の凹部に流し入れた(図3(b)参照)。続いて、これを、25℃、50%RH、12時間放置して、十分に反応(脱水縮合反応)させることにより、ゲルを得た。その後、ゲルを、80℃で、2時間加熱して、アルコールを揮発させて除去し、さらに、130℃で、2時間加熱して、水を除去して硬化体を調製した(図3(c)参照)。
【0070】
次いで、第1離型材を上下反転させて、硬化体を第1離型材から剥離して、これをシリコーン系粘着シートからなる第2離型材の上に載置した(図3(d)参照)。
【0071】
別途、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート1010、ジャパンエポキシレジン社製)45g、ビフェニル型エポキシ樹脂(NC3000H、日本化薬社製)55gおよび硬化剤(酸無水物、MH700、新日本理化社製)33gに、メチルエチルケトン204gを加えてエポキシ樹脂を溶解させることにより、エポキシ樹脂溶液(固形分濃度:40重量%)を調製した。
【0072】
そして、エポキシ樹脂溶液を、第2離型材に、エポキシ樹脂溶液が硬化体の上面が露出するように、それらの隙間に充填されるように、流し入れた。
【0073】
その後、これらを、75℃で、1時間加熱して、メチルエチルケトンを乾燥させて、その後、160℃で、30分間、加熱してエポキシ樹脂を硬化させることにより、厚み0.2mmの熱伝導パスおよび厚み0.2mmの樹脂マトリックスを含む熱伝導性シートを形成した(図3(e)参照)。その後、熱伝導性シートを、第2離型材から剥離して、熱伝導性シートを取り出した(図3(f)参照)。
【0074】
なお、得られた熱伝導性シートにおいて、樹脂マトリックスの体積割合は、約50体積%であった。
【0075】
比較例1
硬化剤(酸無水物、MH700、新日本理化社製)33gと、硬化促進剤(2−フェニルイミダゾール、四国化成工業社製)3g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート1010、ジャパンエポキシレジン社製)45gおよびビフェニル型エポキシ樹脂(NC3000H、日本化薬社製)55gに、メチルエチルケトン103gを加えて、各成分を溶解させて、エポキシ樹脂溶液(固形分濃度:57重量%)を調製した。
【0076】
そして、エポキシ樹脂溶液およびアルミナ(AS−50、昭和電工社製)286gをT.Kハイビスミックス(プライミクス社製)に入れ、減圧下で20分間攪拌して、アルミナ含有エポキシ樹脂溶液を得た。次いで、常圧に戻し、アルミナ含有エポキシ樹脂溶液を、銅箔上に塗布して乾燥し、シート形状に形成した。
【0077】
次いで、ホットプレスにて6.0MPaで加圧しながら、150℃で、20分間加熱し、さらに、160℃で、20分間加熱して硬化させて、厚み0.1mmの熱伝導性シートを得た。
【0078】
なお、得られた熱伝導性シートにおいて、アルミナの体積割合は、約50体積%であった。
【0079】
比較例2
アルミナを添加しなった以外は実施例1と同様にしてゾルを調製し、このゾルを、大きな1つの凹部を有する離型材に流し入れた。その後、25℃、50%RHで、12時間放置してゲルを得、得られたゲルを、80℃で、2時間加熱して、アルコールを揮発させて除去し、さらに、130℃で、2時間加熱して、水を除去して、厚み0.2mmの平面視矩形シート形状の硬化体を調製した。
【0080】
その後、硬化体を、離型材から剥離して、硬化体を熱伝導性シートとして取り出した。
【0081】
(評価)
熱伝導率(放熱性の評価)
実施例1、比較例1および2により得られた熱伝導性シートについて、レーザーフラッシュ法により、熱伝導率を測定した。その結果を表1に示す。
【0082】
また、実施例1において調製した熱伝導パスのみの成形体を、比較例2と同様の方法で調製し、上記と同様にして熱伝導率を測定したところ、13W/m・Kであった。
【0083】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の熱伝導性構造体の一実施形態としての熱伝導性シートの平面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】熱伝導性シートの製造方法の工程図を示し、(a)は、凹部を有する第1離型材を用意する工程、(b)は、ゾルを第1離型材の凹部に注入する工程、(c)は、硬化体を形成する工程、(d)は、硬化体を第2離型材の上に載置する工程、(e)は、樹脂溶液を、第2離型材に流し入れる工程、(f)は、熱伝導性シートを第2離型材から剥離して、熱伝導性シートを取り出す工程を示す。
【符号の説明】
【0085】
1 熱伝導性シート
2 樹脂マトリックス
3 熱伝導パス
9 通過方向両端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂マトリックスと、
無機粒子およびオルガノシロキサンからゾル・ゲル法により形成され、通過方向両端部が前記樹脂マトリックスから露出するように、前記樹脂マトリックスに充填される熱伝導パスと
を含むことを特徴とする、熱伝導性構造体。
【請求項2】
前記樹脂マトリックスは、シート形状に形成され、
前記熱伝導パスは、互いに間隔を隔てて整列配置され、前記通過方向が前記樹脂マトリックスの厚み方向に沿うように、形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝導性構造体。
【請求項3】
前記無機粒子が、炭化物、窒化物、酸化物、金属および炭素系材料からなる群から選択される少なくとも1種の無機材料からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱伝導性構造体。
【請求項4】
前記樹脂マトリックスの厚みが、3〜300μmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−144151(P2010−144151A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326418(P2008−326418)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】