説明

熱伝導性湿気硬化型樹脂組成物

【課題】高い接着性と速硬化性を有する樹脂の提供。
【解決手段】(A)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリプロピレングリコール、(B)縮合硬化触媒、(C)熱伝導性フィラーを含有する組成物。該組成物に(D)シランカップリング剤を含有する組成物であり、(C)熱伝導性フィラーがアルミナである該組成物であり、該組成物からなる熱伝導性湿気硬化型接着剤であり、該硬化体であり、該組成物を発熱する電子部品に塗布することにより、電子部品から発生した熱を外部へ放熱させる放熱方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性を有する湿気硬化型樹脂組成物、及び発熱した熱を外部へ放熱させる放熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の集積化、高密度化、高性能化に伴い、電子部品自身の発熱量が大きくなってきている。電子部品の性能は熱によって著しく低下、もしくは故障の原因となることから、電子部品の効率的な放熱が重要な技術になってきている。
【0003】
電子部品の放熱方法として、発熱する電子部品と放熱器の間や、発熱する電子部品と金属製伝熱板との間に放熱材を導入し、電子部品から発生する熱を他の部材に伝え、電子部品に蓄積させない方法が一般的である。この種の放熱材として放熱グリース、熱伝導性シート、熱伝導性接着剤等が用いられている。
【0004】
放熱グリースを用いた場合は、発熱量が多量であるため、グリース成分が蒸発してしまったり、グリース油と熱伝導性フィラーが分離してしまったりする。蒸発成分が電子部品に悪影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。又、フィラーと分離するとグリース油が流れ、電子部品を汚染する恐れがある(特許文献1参照)。
【0005】
又、熱伝導性シートを用いると、成分の流出の問題は解決するが、電子部品と放熱器等を固体のシート状の物を押し付けるため両間の密着性に不安が残る(特許文献2参照)。
【0006】
熱伝導性接着剤を用いると、硬化性であるため蒸発したり、液状成分が流れたり電子部品を汚染することはない。しかし、硬化の際に電子部品に応力がかかり、電子部品がずれてしまう恐れがある。又、接着した物を取り外す作業は困難であり、さらに電子部品を破壊してしまう可能性がある(特許文献3参照)。
【0007】
それらに対して、電子部品と放熱材の間の表面部分のみが硬化し内部は未硬化部分が残る熱伝導性接着剤を用いることが提案された。この熱伝導性接着剤は、電子部品と放熱材との密着性が大きく、未硬化部分があるので電子部品と放熱材との間の応力を取り除くことができ、取り外し作業が優れている(特許文献4,5)。
【0008】
【特許文献1】特開平3−162493号公報
【特許文献2】特開2005−60594号公報
【特許文献3】特開2000−273426号公報
【特許文献4】特開2002−363429号公報
【特許文献5】特開2002−363412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、未硬化成分が存在するため接着性に不安が残り、かつ内部を未硬化にするため硬化時間を遅いといった課題がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、高い接着性と速硬化性を有する組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
(A)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリプロピレングリコール
(B)縮合硬化触媒
(C)熱伝導性フィラー
を含有する組成物であり、
(A)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリプロピレングリコール
(B)縮合硬化触媒
(C)熱伝導性フィラー
を含有してなり、前記組成物の配合割合が(B)成分については(A)成分に対して0.01〜10質量%、(C)成分については組成物全体に対して60〜95質量%である組成物であり、該組成物に(D)シランカップリング剤を含有する組成物であり、(C)熱伝導性フィラーがアルミナである該組成物であり、該組成物からなる熱伝導性湿気硬化型接着剤であり、該硬化体であり、該組成物を発熱する電子部品に塗布することにより、電子部品から発生した熱を外部へ放熱させる放熱方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組成物は、高い接着性と速硬化性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で使用する(A)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリプロピレングリコールは、ケイ素原子に少なくとも一個の加水分解性基が結合したものである。加水分解性基としては、カルボキシル基、ケトオキシム基、アルコキシ基、アルケノキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基等が結合したもの等が挙げられる(例えば、旭硝子社製「S−1000」、カネカ社製「SAT010」、「SAX115」)。
【0014】
本発明で使用される(B)成分の硬化触媒は、特に限定されず、前記加水分解性シリル基を有するポリプロピレングリコールの縮合反応を促進する化合物である。前記(B)成分の硬化触媒としては、シラノール化合物の縮合触媒であれば制限なく用いられるが、例えば、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン酸エステル類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、オクチル酸錫、ナフテン酸錫、ジブチル錫と正ケイ酸エチルの反応物等の有機錫化合物:オクチル酸鉛;ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンジアミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N−メチルモルホリン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7(DBU)等のアミン系化合物又はこれらとカルボン酸等との塩;過剰のポリアミンと多塩基酸とから得られる低分子量ポリアミド樹脂;過剰のポリアミンとエポキシ化合物との反応生成物等の公知のシラノール縮合触媒が挙げられる。これらの中で、反応促進性の観点から、有機錫化合物が好ましく用いられる。
【0015】
本発明で使用される(C)熱伝導性フィラーとしては、酸化アルミニウム等のアルミナを用いることができる。又、球状、破砕状等どの様な形状でもよく、粒度は平均粒径1〜100μm程度である。
【0016】
(B)成分の硬化触媒は、(A)成分に対して0.01〜10質量%が好ましい。0.1〜5質量%がより好ましい。0.1質量%以上であれば硬化促進の効果が確実に得られるし、10質量%以下であれば充分な硬化速度を得ることができる。
【0017】
(C)成分の熱伝導性フィラーは組成物全体に対して60〜95質量%が好ましい。より好ましくは70〜90質量%が好ましい。60質量%以上であれば熱伝導性能が十分であり、95質量%以下であれば電子部品と放熱材との接着性が大きくなる。
【0018】
本発明でしようする(D)成分のシランカップリング剤としては接着性や硬化性、安定性を向上させるために配合するものであり、公知のシランカップリング剤が使用可能である。シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシシリルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。シランカップリグ剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
(D)成分のシランカップリング剤は(A)成分に対して0.1〜10質量%が好ましい。1〜5質量%がより好ましい。0.1質量%以上であれば保存安定性が十分であり、10質量%以下であれば硬化性と接着性が大きくなる。
【0020】
本発明にはさらに添加剤として、有機溶剤、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、チクソ性付与剤等も必要により使用することができる。
【0021】
本発明の熱伝導性湿気硬化型樹脂組成物は空気中の湿分により硬化することができる。
【0022】
本発明の熱伝導性湿気硬化型樹脂組成物はCUPやMPU等の演算回路、光ピックアップモジュール等の精密機器に使用されるレーザーダイオードに適用され、金属製伝熱板等の放熱材との間に使用される。
【0023】
以下に実施例及び比較例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
メトキシシリル基を片末端に有するポリプロピレングリコール100g、ジブチル錫と正ケイ酸エチルの反応物6g、酸化アルミニウム1010g(平均粒径25μm)、ビニルトリメトキシシラン3g、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン1g、ジフェニルジメトキシシラン1g、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1gを混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0025】
(比較例1)
メトキシシリル基を両末端に有するポリプロピレングリコール100g、ジブチル錫と正ケイ酸エチルの反応物6g、プロセスオイル40g、酸化アルミニウム1320g、ビニルトリメトキシシラン3g、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン1g、ジフェニルジメトキシシラン1g、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1gを混合して熱伝導性樹脂組成物を調製した。
【0026】
(比較例2)
比較として市販されている湿気硬化型放熱樹脂「製品名:ThreeBond 2955(スリーボンド社製)」を評価した。
【0027】
(熱伝導率評価)
熱伝導率は物質中の熱の伝わり易さを表す値であり、熱伝導率は大きいほうが好まれる。
上記で得られた各組成物を使用して熱伝導率の評価を行った。熱伝導率の評価は、「NETZSCH社製 LFA447」を用い、レーザーフラッシュ法にて、25℃で測定した。その結果、実施例1の組成物は、2.5W/m・K、比較例1は2.9W/m・K、比較例2は1.9W/m・Kとなった。
【0028】
(タックフリー時間評価)
タックフリー時間は作業性や硬化性の一つの指針であり、タックフリー時間が長すぎると生産性が落ち、タックフリー時間が短すぎると作業途中で硬化が始まり、不良の発生原因となる。作業状況により求められるタックフリー時間の範囲は変わってくるが、10〜60分、より好ましくは13〜40分が作業性に良いと考えられる。23℃・50%RH雰囲気下にて上記で得られた組成物を幅20mm×長さ20mm×厚さ5mmの型枠に流し込んで暴露させ、触指した。流し込んでから指に付着しなくなるまでの時間をタックフリー時間と定義し評価を行った。実施例1ではタックフリー時間は15分であった。比較例1は10分、比較例2は6時間であった。
【0029】
(硬度評価)
幅60mm×長さ40mm×厚さ5mmの各組成物を23℃・50%RH雰囲気下で10日間養生した試験片について、アスカー高分子計器社製、デュロメーターアスカー硬度計シ硬度計「CSC2型」により硬度の測定を行った。測定値が50以下を示した場合、柔軟性を有すると定義した。実施例1は測定値が50以下を示し、優れた柔軟性を有した。一方、比較例1は、測定値が50以上を示し、充分な柔軟性を有さなかった。比較例2は測定値50以下を示した。
【0030】
(接着性評価)
幅50mm×長さ50mm×厚さ1.5mmのアルミ板に3gの各組成物を中央部に塗布し、アルミ板同士を押し付けた。これを23℃70%RHの雰囲気下で1ヶ月間放置した。これらを剥離したところ、実施例1はこじ開ける際に力を要し、凝集破壊を示したが、比較例1はこじ開けることができなかった。比較例2では容易にこじ開けることができ、中心分は未硬化部が存在し、接着していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本熱伝導性湿気硬化型樹脂組成物は、高い熱伝導性と、硬化後の柔軟性と、速硬化性とが非常に良好であり、高精度に固定化された電子部品の放熱媒体として最適である。又、硬化速度が向上したため、高い生産性を有することになる。本発明の柔軟性は、硬化の際に電子部品に応力をかけないほど軟らかい柔軟性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリプロピレングリコール
(B)縮合硬化触媒
(C)熱伝導性フィラー
を含有する組成物。
【請求項2】
(A)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリプロピレングリコール
(B)縮合硬化触媒
(C)熱伝導性フィラー
を含有してなり、前記組成物の配合割合が(B)成分については(A)成分に対して0.01〜10質量%、(C)成分については組成物全体に対して60〜95質量%である組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の組成物に(D)シランカップリング剤を含有する組成物。
【請求項4】
(C)熱伝導性フィラーがアルミナである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組成物からなる熱伝導性湿気硬化型接着剤。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組成物の硬化体。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組成物を発熱する電子部品に塗布することにより、電子部品から発生した熱を外部へ放熱させる放熱方法。

【公開番号】特開2011−256214(P2011−256214A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262016(P2008−262016)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】