説明

熱伝導部材、及びそれを用いた組電池装置

【課題】単電池セルを列設した組電池装置において、各単電池セルの冷却特性を均一とするために、隣接する単電池セルへ伝熱するおそれを低減させ得る熱伝導部材、およびそれを用いた組電池装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の熱伝導部材は、単電池セルを組み合わせて組電池とする際に単電池セル間に配置される熱伝導部材であって、熱伝導率が0.5W/mK未満である基材層の両側に熱伝導率が0.5W/mK以上である熱伝導性層を設けた構成であることを特徴とする。特に基材層を構成する樹脂部材の曲げ弾性率が1GPa以上であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導部材、およびそれを用いた組電池装置に関する。より詳しくは、単電池セルを組み合わせて組電池とする際に単電池セル間に配置される熱伝導部材、およびそれを用いた組電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策、省エネルギーや環境汚染等の関心が高まり、化石燃料を消費し二酸化炭素を排出する従来の自動車から、ガソリンエンジンと電気モーターを併用するハイブリッド車や電気モーターのみで走行する電気自動車への関心が高まっている。このようにハイブリッド車や電気自動車を効率よく走行させるためには、高電圧、高エネルギー容量、高エネルギー密度の電池の開発が望まれている。
【0003】
これら電気自動車等で使用されるニッケル・水素二次電池、リチウムイオン電池などは、高いエネルギー密度が必要とされ、かつ搭載スペースは極力小さくすることが求められている。このため高電圧、高容量の電池の場合、複数の単電池を直列又は並列接続することが行われ、数個から数十ないし数百個もの単電池を接続する組電池装置が用いられる。
【0004】
このような組電池を構成する単電池セルは内部反応により発熱する場合がある。組電池の性能や寿命は温度環境に大きく依存し、高温になると劣化が顕著になるおそれを有するため、その冷却方法について提案がなされている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
特許文献1〜3に記載の方法については、冷却効率や装置の大型化などの問題が指摘されており、これらに代わる方法として単電池セルの間に熱伝導性と電気絶縁性を有する軟材質からシート状(板状)に形成された熱伝導部材を列設する組電池装置が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−045310号公報
【特許文献2】特開2007−012486号公報
【特許文献3】特開2006−048996号公報
【特許文献4】特開2009−054403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献4に記載の組電池装置においては、熱伝導部材について格別規定するものではなく、シリコーンゴムや高熱伝導材を混合したゴムや熱可塑性エラストマーを用いることが記載されている程度である。このため熱伝導部材により放熱空間へ放熱し、間接的に単電池セルを冷却することは有効な手法であるが、熱伝導部材は単層であり単電池セルの熱が放熱空間へ効率的に放熱されないで、熱伝導部材を介して隣接する単電池セルへ伝熱してしまう問題があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、単電池セルを列設した組電池装置において、隣接する単電池セルへの伝熱を抑制しつつ各単電池セルの冷却特性を均一化させ得る熱伝導部材、およびそれを用いた組電池装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、単電池セルを組み合わせて組電池とする際に単電池セル間に配置される熱伝導部材において、熱伝導性を持たせた層の間に断熱性を持たせる構成とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至ったのである。
【0010】
すなわち本発明の熱伝導部材は、単電池セルを組み合わせて組電池とする際に単電池セル間に配置される熱伝導部材であって、0.5W/mK未満の熱伝導率を有する基材層と、該基材層の両側に設けられた0.5W/mK以上の熱伝導率を有する熱伝導性層との少なくとも3層の積層構造を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の熱伝導部材においては、前記基材層は、その厚みが0.1〜10mmであり、前記熱伝導性層の厚みと前記基材層の厚みの比が1/1〜1/10000であることが好ましく、この基材層は、1GPa以上の曲げ弾性率を有する樹脂部材で形成することが好適である。
【0012】
また本発明の熱伝導部材は、前記熱伝導性層が最表面に備えられており、該熱伝導性層の表面の粘着力が0.2N/20mm以上であることが好ましい。
【0013】
また本発明の組電池装置は、単電池セルと、前記熱伝導部材とが交互に複数個列設されてなることを特徴とする。
【0014】
そして、本発明の組電池装置においては、前記熱伝導部材が、該熱伝導部材の両側に配されている単電池セルよりも外側に延出するように配されていることが好ましく、この延出部分を風冷するための機構をさらに備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱伝導部材は、上記構成としているので、熱伝導性を有する層の層間に断熱性を有する層が設けられており、本発明の熱伝導部材を組電池装置に用いれば、単電池セルの熱は、熱伝導部材から隣接する単電池セルへ伝熱することが抑制されるために効率的に放熱空間へ放熱される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の熱伝導部材の一実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】図2は、本発明の組電池装置の一実施形態を示す概略斜視図である。
【図3】図3は、本発明の組電池装置の他実施形態を示す概略斜視図である。
【図4】図4は、本発明の熱伝導部材の熱伝導性の評価方法を示す説明図である。
【図5】図5は、本発明の熱伝導部材のシミュレーション計算の条件を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態の熱伝導部材は、樹脂部材が用いられてなる基材層の両面に樹脂組成物からなる熱伝導性層(以下「熱伝導性有機樹脂層」ともいう)が積層された3層の積層構造を有するシート形状を有し、熱伝導率が0.5W/mK未満であるシート状の樹脂部材の両面に熱伝導率が0.5W/mK以上である熱伝導性有機樹脂層を設けた構成である。
【0018】
すなわち、本実施形態に係る熱伝導部材は、熱伝導性有機樹脂層/樹脂部材/熱伝導性有機樹脂層の3層の積層構造をその基本構成として有しており、熱伝導部材の中心となる基材層がシート状の前記樹脂部材で構成され、前記熱伝導性有機樹脂層が熱伝導部材の表面層を構成している。
以下に、各層の詳細について説明する。
【0019】
(熱伝導性有機樹脂層)
本発明において、熱伝導性有機樹脂層は、その熱伝導率が0.5W/mK以上であることが必要である。熱伝導率が0.5W/mK以上である熱伝導性有機樹脂層を用いれば、熱伝導部材を構成した際に、その表面層の熱伝導率を0.5W/mK以上とすることができ、熱伝導部材を組電池装置に用いることで効率よく単電池セルから発生する熱を伝熱し冷却することができる。本発明において、熱伝導性有機樹脂層の熱伝導率は、1.0W/mK以上であることが好ましく、より好ましくは2.0W/mK以上であり、特に好ましくは3.0W/mK以上である(通常、1000W/mK以下)。
【0020】
また、本発明において、熱伝導性有機樹脂層は、SUS板に対する粘着力(180°ピール、引っ張り速度300mm/分)が0.2N/20mm以上、好ましくは0.3〜20N/20mm、より好ましくは0.5〜15N/20mmであることが望ましい。熱伝導性有機樹脂層の粘着力が0.2N/20mm以上であれば、単電池セルと十分に密着し、接触界面でのなじみが良く、接触熱抵抗が抑えられるため、熱伝導性が向上する。また熱伝導部材を単電池セルに貼り付けて仮接着させることができる。一方、粘着力が20N/20mmより大きくなると、貼り合せミス(位置ズレ)した場合の貼りなおし(リワーク性)や使用済み組電池を廃棄する際に単電池セルから熱伝導部材を剥離する(リペア性)が難しくなる場合がある。
【0021】
本発明において熱伝導性有機樹脂層に用いられる材料は特に限定されないが、熱伝導性と接着性を両立しうる材料が好ましく、例えば、熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム、アクリルポリマー等のポリマー成分に熱伝導性フィラーが含有されている熱伝導性有機樹脂組成物が好適に用いられる。特にアクリルポリマーをポリマー成分とすることで粘着力を有し、緩衝性が発現でき好ましい。
【0022】
アクリルポリマー成分としては、特に限定されるものではなく、一般に用いられているアクリルポリマーを用いることができる。
【0023】
本発明において、熱伝導性有機樹脂組成物に用いられるアクリルポリマーは、モノマー単位として、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル系モノマーを含有している。
【0024】
CH2=C(R1)COOR2 ・・・(1)
上記一般式(1)において、R1は水素またはメチル基である。
また、上記一般式(1)において、R2は炭素数2〜14のアルキル基であるが、炭素数3〜12が好ましく、4〜9のものがより好ましい。また、R2のアルキル基は、直鎖または分岐鎖のいずれも使用できるが、ガラス転移点が低いことから分岐鎖のものが好ましい。
【0025】
一般式(1)で表される(メタ)アクリル系モノマーとしては、具体的には、たとえば、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0026】
本発明において、上述の一般式(1)で表される(メタ)アクリル系モノマーは、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量はアクリルポリマーのモノマー全体において、50〜98重量%であり、60〜98重量%であることが好ましく、70〜90重量%であることがより好ましい。上記(メタ)アクリル系モノマーが50重量%より少なくなると接着性に乏しくなり好ましくない。
【0027】
上記アクリルポリマーは、モノマー単位として、水酸基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーなどの極性基含有モノマーを0.1〜20重量%含むことが好ましく、より好ましくは0.2〜10重量%、さらに好ましくは0.2〜7重量%含有するものである。上記極性基含有モノマーの含有量が上記範囲内であると凝集力がより十分に発揮できる。一方、上記極性基含有モノマーの含有量が20重量%を超えると接着性が低下してしまう場合がある。
【0028】
上記水酸基含有モノマーとは、モノマー構造中に1以上の水酸基を有する重合性モノマーをいう。上記水酸基含有モノマーとしては、たとえば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4−ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチルアクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、ビニルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテルなどがあげられる。なかでも、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートなどが好ましい水酸基含有モノマーとしてあげられる。
【0029】
上記カルボキシル基含有モノマーとは、モノマー構造中に1以上のカルボキシル基を有する重合性モノマーをいう。上記カルボキシル基含有モノマーとしては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸などがあげられる。なかでも、特にアクリル酸、およびメタクリル酸が好ましく用いられる。
【0030】
本発明におけるアクリルポリマーには、上述のモノマー以外のモノマーとして、アクリルポリマーのガラス転移点や剥離性を調整するための重合性モノマーなどを、本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
【0031】
本発明のアクリルポリマーにおいて用いられるその他の重合性モノマーとしては、たとえば、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、シアノ基含有モノマー、ビニルエステルモノマー、芳香族ビニルモノマーなどの凝集力・耐熱性向上成分や、アミド基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、イミド基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、ならびにビニルエーテルモノマーなどの接着力向上や架橋化基点として働く官能基を有す成分などを適宜用いることができる。さらには、上記一般式(1)において、R2が炭素数1または炭素数15以上のアルキル基であるモノマーなども適宜用いることができる。これらのモノマー化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
スルホン酸基含有モノマーとしては、たとえば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などがあげられる。
【0033】
リン酸基含有モノマーとしては、たとえば、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートがあげられる。
【0034】
シアノ基含有モノマーとしては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルがあげられる。
【0035】
ビニルエステルモノマーとしては、たとえば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ビニルピロリドンなどがあげられる。
【0036】
芳香族ビニルモノマーとしては、たとえば、スチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレンなどがあげられる。
【0037】
アミド基含有モノマーとしては、たとえば、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチル、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニル−2−ピロリドンなどがあげられる。
【0038】
アミノ基含有モノマーとしては、たとえば、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N−(メタ)アクリロイルモルホリンなどがあげられる。
【0039】
イミド基含有モノマーとしては、たとえば、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、イタコンイミドなどがあげられる。
【0040】
エポキシ基含有モノマーとしては、たとえば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルなどがあげられる。
【0041】
ビニルエーテルモノマーとしては、たとえば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどがあげられる。
【0042】
炭素数1または炭素数15以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーとしては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0043】
また、モノマーには、凝集力等の特性を高めるため、必要に応じて、その他の共重合性モノマーが含まれていてもよい。このような共重合性モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、スチレン、ビニルトルエンなどのビニル化合物;シクロペンチルジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。
【0044】
上記その他の重合性モノマーは、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量はアクリルポリマーのモノマー全体において、0〜50重量%であることが好ましく、0〜35重量%であることがより好ましく、0〜25重量%であることがさらに好ましい。
【0045】
また、上記アクリルポリマーは、重量平均分子量が60万以上であることが好ましく、70万〜300万であることがより好ましく、80万〜250万であることがさらに好ましい。重量平均分子量が60万より小さくなると、耐久性に乏しくなる場合がある。一方、作業性の観点より、前記重量平均分子量は300万以下が好ましい。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレン換算により算出された値をいう。
【0046】
また、接着性(粘着性)のバランスが取りやすい理由から、上記アクリルポリマーのガラス転移温度(Tg)が−5℃以下、好ましくは−10℃以下であることが望ましい。ガラス転移温度が−5℃より高い場合、ポリマーが流動しにくく被着体への濡れが不十分となり、接着力が低下する場合がある。なお、アクリルポリマーのガラス転移温度(Tg)は、用いるモノマー成分や組成比を適宜変えることにより上記範囲内に調整することができる。
【0047】
このようなアクリルポリマーの製造は、溶液重合、塊状重合、乳化重合、各種ラジカル重合などの公知の製造方法を適宜選択できる。また、得られるアクリルポリマーは、ホモポリマーであっても共重合体であってもよく、共重合体である場合には、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などいずれでもよい。
【0048】
なお、溶液重合においては、重合溶媒として、たとえば、酢酸エチル、トルエンなどが用いられる。具体的な溶液重合例としては、反応は窒素などの不活性ガス気流下で、重合開始剤として、たとえば、モノマー全量100重量部に対して、アゾビスイソブチロニトリル0.01〜0.2重量部加え、通常、50〜70℃程度で、8〜30時間程度行われる。
【0049】
ラジカル重合に用いられる重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤などは特に限定されず適宜選択して使用することができる。
【0050】
本発明に用いられる重合開始剤としては、たとえば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート(和光純薬社製、VA−057)などのアゾ系開始剤、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキシド、ジ−n−オクタノイルパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルハイドロパーオキシド、過酸化水素などの過酸化物系開始剤、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムの組み合わせ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムの組み合わせなどの過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤などをあげることができるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
前記重合開始剤は、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量はモノマー100重量部に対して、0.005〜1重量部程度であることが好ましく、0.02〜0.5重量部程度であることがより好ましい。
【0052】
また、本発明においては、重合において連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤を用いることにより、アクリルポリマーの分子量を適宜調整することができる。
【0053】
連鎖移動剤としては、たとえば、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグルコール酸2−エチルヘキシル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノールなどがあげられる。
【0054】
これらの連鎖移動剤は、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量は、通常、モノマー100重量部に対して、0.01〜0.1重量部程度である。
【0055】
また、乳化重合する場合に用いる乳化剤としては、たとえば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのアニオン系乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどのノニオン系乳化剤などがあげられる。これらの乳化剤は、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0056】
さらに、反応性乳化剤として、プロペニル基、アリルエーテル基などのラジカル重合性官能基が導入された乳化剤として、具体的には、たとえば、アクアロンHS−10、HS−20、KH−10、BC−05、BC−10、BC−20(以上、いずれも第一工業製薬社製)、アデカリアソープSE10N(ADEKA社製)などがある。
【0057】
反応性乳化剤は、重合後にポリマー鎖に取り込まれるため、耐水性がよくなり好ましい。乳化剤の使用量は、モノマー100重量部に対して、0.3〜5重量部、重合安定性や機械的安定性から0.5〜1重量部がより好ましい。
【0058】
また、本発明においては、接着力、耐久力をより向上させる目的で、アクリルポリマー成分に架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、など従来周知の架橋剤を用いることが出来るが、特にイソシアネート系架橋剤を含有することが好ましい。
【0059】
イソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネートなどがあげられる。
【0060】
より具体的には、たとえば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの低級脂肪族ポリイソシアネート類、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環族イソシアネート類、2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(日本ポリウレタン工業社製、商品名コロネートL)、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(日本ポリウレタン工業社製、商品名コロネートHL)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、商品名コロネートHX)などのイソシアネート付加物、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート、ならびにこれらと各種のポリオールとの付加物、イソシアヌレート結合、ビューレット結合、アロファネート結合などで多官能化したポリイソシアネートなどをあげることができる。
【0061】
上記架橋剤は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対し、前記架橋剤0.02〜5重量部含有することが好ましく、0.04〜3重量部含有することがより好ましく、0.05〜2重量部含有することがさらに好ましい。架橋剤を上記範囲で用いることにより、より確実に凝集力や耐久性の向上したものとすることができるが、一方、2重量部を越えると、架橋形成が過多となり、接着性に劣る場合がある。
【0062】
本発明においては、架橋された熱伝導性有機樹脂層のゲル分率が、40〜90重量%となるように架橋剤の添加量を調整することが好ましく、50〜85重量%となるように上記架橋剤の添加量を調整することがより好ましく、55〜80重量%となるように上記架橋剤の添加量を調整することがさらに好ましい。ゲル分率が40重量%より小さくなると、凝集力が低下するため耐久性に劣る場合があり、90重量%を超えると、接着性に劣る場合がある。
【0063】
本発明における熱伝導性有機樹脂層のゲル分率(重量%)は、熱伝導性有機樹脂層から乾燥重量W1(g)の試料採取し、これを酢酸エチルに浸漬した後、前記試料の不溶分を酢酸エチル中から取り出し、乾燥後の重量W2(g)を測定し、(W2/W1)×100を計算して求めることができる。
【0064】
本発明において用いられる熱伝導性フィラーは、特に限定されないが窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ガリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭化ケイ素、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化銅、酸化ニッケル、アンチモン酸ドープ酸化スズ、炭酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、銅、銀、金、ニッケル、アルミニウム、白金、カーボンブラック、カーボンチューブ(カーボンナノチューブ)、カーボンファイバー、ダイヤモンドなどの粒子を用いることができる。これらの熱伝導性フィラーの中でも、熱伝導性が高く、電気絶縁性を有するという理由から、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウムを用いることが好ましい。これらの熱伝導性フィラーは、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0065】
本発明において用いる熱伝導性フィラーの形状は特に限定されず、バルク状、針形状、繊維状、板形状、層状であってもよい。バルク形状には、例えば球形状、直方体形状、破砕状またはそれらの異形形状が含まれる。
特に本発明に係る熱伝導部材においては、面方向への熱伝導性が求められることから、板形状、繊維状、あるいは層状の無機物粒子を前記熱伝導性フィラーとして採用することが好ましく、このような熱伝導性フィラーは、該熱伝導性フィラーを含む熱伝導性有機樹脂組成物で熱伝導性有機樹脂層を形成させるのに際して、前記熱伝導性有機樹脂層の平面方向に配向させ易く、面方向への熱伝導性に優れた熱伝導部材を容易に形成させ得る。
【0066】
本発明において熱伝導性フィラーのサイズは、バルク形状(球状)の熱伝導性フィラーの場合には、1次平均粒子径として0.1〜1000μm、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは2〜20μmである。1次平均粒子径が1000μmを超えると熱伝導フィラーが熱伝導樹脂層の厚みを超えて厚みバラツキの原因となるという不具合がある。
【0067】
熱伝導性フィラーが針形状または板形状の熱伝導性フィラーの場合には、最大長さが0.1〜1000μm、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは2〜20μmである。最大長さが1000μmを超えると熱伝導フィラー同士が凝集しやすくなり、取り扱いが難しくなるという不具合がある。
さらにこれらのアスペクト比(針状結晶の場合には、長軸長さ/短軸長さ、または長軸長さ/厚みで表現される。また板状結晶の場合には、対角長さ/厚み、または長辺長さ/厚みで表現される)が1〜10000、好ましくは10〜1000である。
【0068】
このような熱伝導性フィラーは、一般の市販品を用いることができ、例えば、窒化ホウ素としては水島合金鉄社製「HP−40」、モメンティブ社製「PT620」等を、水酸化アルミニウムとしては、昭和電工社製「ハイジライトH−32」「ハイジライトH−42」等を、酸化アルミとしては、昭和電工社製「AS−50」等を、水酸化マグネシウムとしては、協和化学工業社製「KISUMA 5A」等を、アンチモン酸ドープスズとしては、石原産業社製の「SN−100S」「SN−100P」「SN−100D(水分散品)」等を、酸化チタンとしては、石原産業社製の「TTOシリーズ」等を、酸化亜鉛としては、住友大阪セメント社製の「ZnO−310」「ZnO−350」「ZnO−410」等を挙げることができる。
【0069】
本発明における熱伝導性フィラーの使用量は、ポリマー成分100重量部に対し、10〜1000重量部、好ましくは50〜500重量部、さらに好ましくは100〜400重量部である。熱伝導性フィラーの使用量が1000重量部を超えると可とう性が低くなり、粘着力が低下するという不具合があり、10重量部未満であると十分な熱伝導性を付与するこができない場合がある。
【0070】
また本発明の熱伝導性有機樹脂組成物には接着力、耐久力、熱伝導フィラー粒子とアクリルポリマーとの親和性をより向上させる目的でシランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤としては、公知のものを特に制限なく適宜用いることができる。
【0071】
具体的には、たとえば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有シランカップリング剤、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミンなどのアミノ基含有シランカップリング剤、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどの(メタ)アクリル基含有シランカップリング剤、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのインシアネート基含有シランカップリング剤などがあげられる。このようなシランカップリング剤を使用することは、耐久性の向上に好ましい。
【0072】
上記シランカップリング剤は、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよいが、全体としての含有量は前記アクリルポリマー100重量部に対し、前記シランカップリング剤0.01〜10重量部含有することが好ましく、0.02〜5重量部含有することがより好ましく、0.05〜2重量部含有することがさらに好ましい。上記シランカップリング剤を上記範囲で用いることにより、より確実に凝集力や耐久性の向上したものとすることができるが、一方、0.01重量部未満では、熱伝導性有機樹脂組成物に含有される熱伝導フィラー粒子の表面を被覆できず、親和性が向上しない場合があり、一方、10重量部を超えると、熱伝導性を低下させる場合がある。
【0073】
また、本発明においては、熱伝導性有機樹脂組成物に、接着力、耐久力をより向上させる目的で粘着付与樹脂を加えることができる。
【0074】
粘着付与樹脂としては、公知のものを特に制限なく適宜用いることができる。粘着付与樹脂の具体例としては、たとえば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、キシレン樹脂、およびエラストマーなどを挙げることができる。
【0075】
上記粘着付与樹脂は、ポリマー成分100重量部に対し、10〜100重量部のいずれかの割合となる量で熱伝導性有機樹脂組成物に含有させることが好ましく、20〜80重量部含有させることがより好ましく、30〜50重量部含有させることがさらに好ましい。
【0076】
また、ここでは詳述しないが、本実施形態の熱伝導性有機樹脂組成物には、上記のようなポリマー成分、熱伝導性フィラーなど以外に、分散剤、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、安定剤、消泡剤、難燃剤、増粘剤、顔料などといったゴム、プラスチック配合薬品として一般に用いられるものを本発明の効果を損なわない範囲において適宜加えることができる。
【0077】
次いで、このような熱伝導性有機樹脂組成物を用いて熱伝導性有機樹脂層を作製する方法について、液状の熱伝導性有機樹脂組成物を用いてコーティングする方法を例に説明する。
【0078】
まず、ポリマー成分に熱伝導性フィラーおよびその他の成分を含有させて攪拌し、コーティングに用いるコーティング液(液状の熱伝導性有機樹脂組成物)を作製する。
【0079】
上記のように作製されたコーティング液を用いて熱伝導性有機樹脂層を作製する方法としては、従来広く用いられているコーティング方法を採用することができる。例えば、剥離フィルム上にコーティング液をコーティングし、乾燥した後に別の剥離フィルムを貼り合せして熱伝導性有機樹脂層を作製することができる。
【0080】
本発明における熱伝導性有機樹脂層の形成方法としては、たとえば、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコーターなどによる押出しコート法などの方法があげられる。
【0081】
剥離フィルムの構成材料としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチックフィルム、紙、布、不織布などの多孔質材料、ネット、発泡シート、金属箔、およびこれらのラミネート体などの適宜な薄葉体などをあげることができるが、表面平滑性に優れる点からプラスチックフィルムが好適に用いられる。
【0082】
そのプラスチックフィルムとしては、前記熱伝導性有機樹脂層を保護し得るフィルムであれば特に限定されず、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフイルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムなどがあげられる。
【0083】
前記剥離フィルムには、必要に応じて、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系もしくは脂肪酸アミド系の離型剤、シリカ粉などによる離型および防汚処理や、塗布型、練り込み型、蒸着型などの帯電防止処理もすることもできる。
【0084】
特に、前記剥離フィルムの表面にシリコーン処理、長鎖アルキル処理、フッ素処理などの剥離処理を適宜おこなうことにより、前記粘着剤層からの剥離性をより高めることができる。前記剥離フィルムの厚みは、通常5〜200μm、好ましくは5〜100μm程度である。
【0085】
また、本発明の熱伝導性有機樹脂層においては、厚みが1μm〜500μmであることが好ましく、5μm〜200μmであることがより好ましく、さらに好ましくは10μm〜100μmである。
【0086】
(樹脂部材)
本発明において基材層を構成する樹脂部材としては、熱伝導率が0.5W/mK未満であることが必要である。熱伝導率が0.5W/mK未満である樹脂部材を用いれば、熱伝導部材を構成した際に、層間の熱伝導率を0.5W/mK未満とすることができ、隣接する単電池セルへの熱伝導を防止することができ、放熱空間へ効率的に放熱することができる。熱伝導率が0.5W/mK以上では、隣接する単電池セルへ熱伝導し、効率的な放熱が難しくなる。本発明において、樹脂部材の熱伝導率は、0.4W/mK以下であることが好ましく、より好ましくは0.3W/mK以下である。
【0087】
さらに本発明において樹脂部材としては、曲げ弾性率(ASTM D−790)が1GPa以上、好ましくは2GPa以上、より好ましくは5GPa以上であることが望ましい。曲げ弾性率が1GPa以上あることで、熱伝導部材の剛性が大きくなり、組電池装置を構成した際に補強板として機能できる。このような曲げ弾性率を有する熱伝導部材を得るには、それを構成する熱伝導性有機樹脂層の曲げ弾性率を高くすることでも達成できるが、一般に曲げ弾性率を高くするためには樹脂を硬くする必要があり、粘着性との両立が困難となる場合が多い。そのため、本発明においては、曲げ弾性率の高い樹脂部材を用いることが望ましい。
【0088】
また本発明の熱伝導部材は、電気絶縁性があることが望ましい。リチウムイオン電池においては、その起電力のメカニズムから水分を嫌うため、電池を構成する筐体は金属製が用いられる。すなわち、リチウムイオン電池の電池構成上から、金属筐体の電位はそのリチウムイオン電池の正電極電位と負電極電位との中間電位となるため、複数のリチウムイオン電池を組電池化する際に、各リチウムイオン電池の金属筐体同士が直接接触することがおこると、そこで電位が同電位となるため、組電池としての十分な開放端電圧が得られない。従って、電池セル間で十分に電気絶縁しておくことが必要である。このような電気絶縁性を付与するには、電気絶縁性の高い樹脂部材を用いることが望ましい。
【0089】
本発明において樹脂部材としては、電気絶縁性は体積抵抗率(ASTM D−257)が1×1010Ωcm以上、好ましくは5×1010Ωcm以上、さらに好ましくは1×1011Ωcm以上(通常1×1020Ωcm以下)であることが望ましい。電気絶縁性が1×1010Ωcm以上であれば、十分な電気絶縁性を有する熱伝導部材を構成することができ、組電池装置に用いた場合、十分高い開放端電圧を得ることができる。
【0090】
本発明において樹脂部材としては、その形成材料として、熱硬化樹脂が好適に用いられる。熱硬化樹脂は電気絶縁性に優れており、また3次元架橋構造を有しており熱伝導部材として強度があり、また耐熱性にも優れており本用途においては好適に用いられる。
【0091】
このような樹脂部材としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、部分芳香族ポリアミドなどのポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
本発明においては、上記樹脂をそのまま硬化させて用いることができるが、その他の部材に含浸させる、あるいは塗布して使用してもよい。そのような部材としては、ガラスファイバーやカーボンファイバー、アラミドなどの繊維状物との複合体や、紙、不織布などとの複合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのプラスチック基材との積層物、エポキシフェノール樹脂のような混合物であってもよい。
【0093】
本発明における樹脂部材としては、エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物をガラスクロスに含浸させ加熱硬化させた樹脂部材が、寸法安定性が高く、また耐水性・耐薬品性があり、かつ電気絶縁性を有するといった理由により好適に用いられる。
【0094】
エポキシ樹脂としては、特に制限されないが、例えば、芳香族系エポキシ樹脂、脂肪族・脂環族系エポキシ樹脂、含窒素環系エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0095】
芳香族系エポキシ樹脂は、ベンゼン環が構成単位として分子鎖中に含まれているエポキシ樹脂であって、特に制限されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ダイマー酸変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、例えば、ナフタレン型エポキシ樹脂、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0096】
脂肪族・脂環族系エポキシ樹脂としては、例えば、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジシクロ型エポキシ樹脂、脂環族系エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0097】
含窒素環系エポキシ樹脂としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレートエポキシ樹脂、ヒダントインエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0098】
これらエポキシ樹脂は、単独で使用してもよく、あるいは、併用することもできる。これらエポキシ樹脂のなかでは、芳香族系エポキシ樹脂や脂肪族・脂環族系エポキシ樹脂が好ましく用いられ、補強性を考慮すると、ビスフェノール型エポキシ樹脂や脂環族系エポキシ樹脂がさらに好ましく用いられる。
【0099】
硬化剤としては、例えば、アミン系化合物類、酸無水物系化合物類、アミド系化合物類、ヒドラジド系化合物類、イミダゾール系化合物類、イミダゾリン系化合物類などが挙げられる。また、その他に、フェノール系化合物類、ユリア系化合物類、ポリスルフィド系化合物類などが挙げられる。
【0100】
アミン系化合物類としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、それらのアミンアダクト、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられる。
【0101】
酸無水物系化合物類としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物、ピロメリット酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、ジクロロコハク酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、クロレンディック酸無水物などが挙げられる。
【0102】
アミド系化合物類としては、例えば、ジシアンジアミド、ポリアミドなどが挙げられる。
【0103】
ヒドラジド系化合物類としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジドなどのジヒドラジドなどが挙げられる。
【0104】
イミダゾール系化合物類としては、例えば、メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、エチルイミダゾール、イソプロピルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、ウンデシルイミダゾール、ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0105】
イミダゾリン系化合物類としては、例えば、メチルイミダゾリン、2−エチル−4−メチルイミダゾリン、エチルイミダゾリン、イソプロピルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、フェニルイミダゾリン、ウンデシルイミダゾリン、ヘプタデシルイミダゾリン、2−フェニル−4−メチルイミダゾリンなどが挙げられる。
【0106】
これら硬化剤は、単独で使用してもよく、あるいは併用することもできる。これら硬化剤のうち、接着性を考慮すると、ジシアンジアミドが好ましく用いられる。
【0107】
また、硬化剤の配合割合は、硬化剤と樹脂成分との当量比にもよるが、例えば、樹脂成分100重量部に対して、0.5〜50重量部、好ましくは、1〜40重量部、さらに好ましくは、1〜15重量部である。
【0108】
また、硬化剤とともに、必要により、硬化促進剤を併用することができる。硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール類、尿素類、3級アミン類、リン化合物類、4級アンモニウム塩類、有機金属塩類などが挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、あるいは併用することもできる。硬化促進剤の配合割合は、例えば、樹脂成分100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは、0.2〜10重量部である。
【0109】
本発明においては、上記したエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤以外にも、例えば、有機シラン化合物、乳化剤、消泡剤、pH調整剤などの公知の添加剤、さらには、エポキシ樹脂以外の樹脂および溶剤を適宜配合してもよい。
【0110】
本発明に用いられる樹脂部材を得るには、まず、ガラスクロスにエポキシ樹脂組成物を含浸させる。含浸は、浸漬、スプレー、キスロールによる塗布など、公知の浸漬方法を用いることができる。また、含浸後には、マングル、コーティングナイフなどを用いて、エポキシ樹脂組成物を絞液することが好ましい。
【0111】
次いで、これを乾燥することにより、ガラスクロスがエポキシ樹脂組成物によって被覆され、これによって、本発明に用いられる樹脂部材を得ることができる。乾燥は、通常、100〜250℃で加熱乾操させ、溶媒を揮発させつつ硬化反応を進行させる。
【0112】
本発明の樹脂部材は、その厚みが通常0.1〜10mm、好ましくは0.5〜5mm、より好ましくは1〜3mm程度である。
【0113】
(熱伝導部材)
次に、本発明の熱伝導部材について、図1を参照して、説明する。
【0114】
本発明に係る熱伝導部材の形状としては、通常、シート状とすることができ、例えば、厚手シート(板状シート)や薄手シート(フィルム状シート)の形態とすることができる。
また、その平面形状も、矩形、円形等、単電池セルにあわせて採用が可能であり、細長いテープ状のシートとすることも可能である。
さらには、均一厚みのシートである必要はなく、例えば、丸みを持った単電池セルの間に介装される場合であれば、単電池セルの表面形状にあわせて中央部分を両端部分よりも薄くさせたシート形状とすることも可能である。
以下においては、その一例として、扁平な四角板状の単電池セルを複数用いた組電池装置に利用される矩形シート状の熱伝導部材について説明する。
【0115】
図1は、本発明の熱伝導部材の一実施形態を示す概略斜視図である。図1において、熱伝導部材1は、基材層を構成している樹脂部材12の両面に熱伝導性有機樹脂層11を設けた構成である。
【0116】
樹脂部材12の両面に設ける熱伝導性有機樹脂層11は同一の熱伝導性有機樹脂組成物で形成させてもよいし、異なる材料で形成された熱伝導性有機樹脂層であってもよい。異なる熱伝導性有機樹脂層を設けた場合、熱伝導部材1の両面で熱伝導性が異なる熱伝導部材を提供することができ、これは隣接する単電池セルの発熱温度が異なる場合に伝熱性を調整できるという利点を有する。
【0117】
本発明の熱伝導部材1の作製方法は特に限定されないが、例えば、前記した液状の熱伝導性有機樹脂組成物を用いてコーティングする方法により形成した熱伝導性有機樹脂シートを、前記樹脂部材12に貼り合せて熱伝導性有機樹脂層11を形成させ、熱伝導部材1を形成することができる。
【0118】
また本発明においては、液状の熱伝導性有機樹脂組成物を直接樹脂部材12へコーティングし、乾燥させて、樹脂部材12上に熱伝導性有機樹脂層11を形成させ、熱伝導部材1としてもよい。
【0119】
本発明の熱伝導部材1は、その厚みが0.10〜11mmであることが好ましく、0.51〜5.4mmであることがより好ましく、さらに好ましくは1.0〜3.2mmである。
【0120】
また本発明の熱伝導部材1においては、熱伝導性有機樹脂層11の厚さと、樹脂部材12の厚さの比(熱伝導性有機樹脂層/樹脂部材)が1/1〜1/10000であることが好ましく、1/10〜1/1000であることがさらに好ましい。
【0121】
なお、本発明の熱伝導部材は、上記例示のごとく、「熱伝導性層(熱伝導性有機樹脂層)/基材層(樹脂部材)/熱伝導性層(熱伝導性有機樹脂層)」の3層構成のものに限定されるものではなく、例えば、片方又は両方の熱伝導性層を2層以上の構成としたり、基材層を2層以上の構成としたり、熱伝導性層の外側に0.5W/mK未満の熱伝導率を有する材料からなる極薄い層を形成させたりして4層以上の構成とすることも可能なものである。
【0122】
(組電池装置)
次に、本発明の組電池装置について、図2を参照して、説明する。図2は、本発明の組電池装置の一実施形態を示す概略斜視図である。図2において、組電池装置2は、単電池セル21と熱伝導部材1とが互いに密着して交互に複数個列設されてなることを特徴としている。なお図2においては、本発明の組電池装置において重要な単電池セル21と熱伝導部材1との位置関係を示すものであり、組電池装置を構成する他の部品、例えばケーシングや放熱のためのヒートシンク等は記載していない。
【0123】
また図2においては、4個の単電池セル2と3個の熱伝導部材1とから構成される組電池装置2を示しているが、列設される単電池セル21および熱伝導部材1はこれに限定されるものではなく、必要に応じて数を調整することができる(通常、単電池セル21は数個〜数十個列設される)。
【0124】
本発明において、単電池セル21としては一般的な所謂角型電池セルを用いることができる。これは、極板、セパレータ、電解液などの電池要素が筐体内に収納されている。筐体は樹脂製のもの、あるいは表面に絶縁被膜がコーティングされたものを用いてもよいが、熱伝導性が高い鉄やアルミニウムなどの金属製の筐体が表出する単電池セルを用いることが好ましい。
【0125】
単電池セル2の上部には、一対の電極22が突出形成されているのが一般的である。通常は、電極22をもつ側が全て同じ側となるように、複数の単電池セル2が列設される。
【0126】
単電池セル21の最も広い側面は、それぞれ熱伝導部材1の表面に対向している。したがって、単電池セル21の内部反応で発生した熱は、熱伝導部材1の表面層を通して両端部へ伝熱する。また本発明の熱伝導部材1は、その層間での熱伝導率が0.5W/mK未満と低いため単電池セル間での伝熱がなく、効率よく単電池セル21から除熱することができる。
【0127】
なお熱伝導部材1により伝熱された熱は、熱伝導部材1の空間に露出する放熱表面によって大気と接触し、放熱することができる。また熱伝導部材1から延出するタブ部を形成し、そのタブ部を大気中に突出させてもよい。
【0128】
このような他の形態に関して、図2の組電池装置における熱伝導部材にタブ部を設けた様子を示す図3を参照しつつ詳細に説明する。
この図3に示す組電池装置2は、タブ部1aが形成されている点を除いて図2に示した組電池装置と同様に構成されている。
すなわち、図3に示す組電池装置には、扁平な四角板形状を有し、その4つの側面の内の1側面において電極22を突出させた単電池セル21が複数備えられており、略同一の形状を有する複数の単電池セル22が前記電極22の突出方向が上方となるように竪置きされて備えられている。
より詳しくは、組電池装置2には、四角板形状を有する複数の単電池セル22が、その板面を対向させ、且つ、その間に熱伝導部材1を挟持した状態で並列されており、しかも、前記熱伝導部材1の上端部をその両側に配された単電池セル22の間から上方に延出させて前記タブ部1aが設けられている。
【0129】
なお、大気中に露出させているタブ部1a以外の領域が、その外縁を前記単電池セル22の外縁に揃えた形で略全面を単電池セル22に面接させている点においては、図2に示す事例と図3に示す事例において相違はしていない。
したがって、この単電池セル22と熱伝導部材1とを交互に並べた積層体をケーシングに収容させるに際して、前記熱伝導部材1の端面が露出している前記積層体の側面や底面を前記ケーシングの内面に接触させて収容させたり、あるいは、この積層体の例えば下面側にヒートシンクを当接させたりした際には、図2に示す事例と同様に、一部の単電池セル22に発熱が生じたとしても熱伝導部材1を通じてその熱をケーシングやヒートシンクに伝達させることができるとともに、この図3に示す事例においては、さらに前記タブ部1aを通じて大気放熱させることができる。
そして、このとき主として発熱が生じた単電池セルに接している側の熱伝導性有機樹脂層を通じて放熱が行われ、隣接する単電池セルへの熱伝導が基材層により防止されることから、この発熱が生じた単電池セルに隣接している別の単電池セルが高温に曝されてしまうおそれを抑制させ得る。
【0130】
このような効果をより顕著に発揮させ得る点においては、上記タブ部1aの表面近傍において気流を発生させ、タブ部1aの表面熱伝達率を増大させることが好ましい。
すなわち、延出している熱伝導部材のタブ部1aを風冷するためのエアコンなどの機構をさらに設けることが好ましい。
また、熱伝導層から効率的に熱を外部に放熱させるためには、タブ部1aにおいて熱伝導層の表面積を大きくすることが有効となる。
このように熱伝導層の表面積を大きくする具体的な手段としては、錐状、柱状、板状等の突起を熱伝導層の表面に形成させて凹凸形状とする方法、タブ部1a全体を波打たせて波型形状とする方法、熱伝導層を繊維状とする方法などが挙げられる。
さらには、タブ部1aにおける熱伝導層の熱放射率を大きくすることも効率的に熱を外部に放熱させるための手段として有効である。
具体的には、タブ部1aにおける熱伝導層の熱放射率を0.1以上とすることが好ましく、0.5以上とすることがより好ましい。さらには、0.8以上(通常、1.0以下)とすることが特に好ましい。
このような放射率をタブ部1aに付与するには、熱放射率の高い部材を貼り付ける方法や、タブ部1aの色調を黒色化させる方法、タブ部1aの表面に微細な凹凸構造、網目構造、繊維構造を付与して表面光沢をなくして光の反射を抑制させる方法などが挙げられる。
【0131】
上記の場合には、単電池セルと熱伝導部材とを交互に列設して加圧拘束したものをケーシング中に収納し、放熱表面又はタブ部が突出する側の表面とケーシングの内表面との間にトンネル状の空気流路を形成して、その空気流路を放熱空間とすることができる。この場合、空気流路にエアコンの風を流通させるなどすれば、各単電池セルの熱を放熱表面又はタブ部を介して均一に放熱することができる。
【0132】
さらに、複数の放熱板が列設されてなるヒートシンクを放熱空間に配置し、ヒートシンクに熱伝導部材1の放熱表面を当接させる。そしてヒートシンクにエアコンの風を接触させるようにすれば、ヒートシンク及び熱伝導部材を介して各単電池セルの熱を均一に放熱することができる。
【0133】
なおヒートシンクを用いる場合には、単電池セルと熱伝導部材とを交互に列設して加圧拘束したものの下方にヒートシンクを配置することが望ましい。このようにすれば、万一ヒートシンクに結露が発生した場合でも、水滴が単電池セルと接触することを防止することができ、漏電を確実に防止できる。
【実施例】
【0134】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0135】
(実施例1)
(アクリルポリマー溶液の調整)
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器を用い、アクリル酸ブチル70重量部、2−エチルヘキシルアクリレート30重量部、アクリル酸3重量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート0.05重量部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(開始剤)0.1部、トルエン(溶媒)155重量部を加え、系内を十分窒素ガスで置換した後、80℃で3時間加熱して固形分が40.0重量%のアクリルポリマー溶液を得た。
【0136】
(熱伝導性有機樹脂組成物の調整)
上記アクリルポリマー溶液100重量部(固形分)に、粘着付与樹脂としてロジン系樹脂である荒川化学社製、商品名「ペンセルD−125」30重量部、熱伝導性水酸化アルミ粉末である昭和電工社製、商品名「ハイジライトH−32」(形状:破砕状、粒径:8μm)100重量部、分散剤として第一工業製薬社製、商品名「プライサーフA212E」1重量部と、架橋剤として多官能イソシアネート化合物である日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートL」2重量部を配合し、ディスパーにて15分間攪拌し、熱伝導性有機樹脂組成物を調整した。
【0137】
(熱伝導性有機樹脂層の作製)
得られた熱伝導性有機樹脂組成物をポリエチレンテレフタレートの片面をシリコーン剥離剤で処理した剥離フィルムの剥離処理面に乾燥後の厚みが50μmとなるよう塗布し、70℃で15分間乾燥し、熱伝導性有機樹脂層を作製した。
【0138】
(熱伝導部材の作製)
厚み1mm、熱伝導率0.3W/mK、曲げ弾性率20GPa、体積抵抗率1×1011Ωcmのガラスエポキシ積層板(日東シンコー社製「SL−EC」)に両面に上記で作製した熱伝導樹脂層を貼り合せて、熱伝導部材を作製した。
【0139】
(実施例2)
熱伝導性有機樹脂組成物の調整において、上記アクリルポリマー溶液100重量部に窒化ホウ素粒子(水島合金鉄社製、商品名「HP−40」(形状:凝集塊状、粒径:20μm)100重量部と、架橋剤として多官能イソシアネート化合物である日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートL」2重量部をプライミクス社製「ハイビスミキサー」に入れ、減圧下で30分間攪拌し、熱伝導性有機樹脂組成物を調整した以外は、実施例1と同様に熱伝導部材を作製した。
【0140】
(実施例3)
熱伝導性有機樹脂組成物の調整において、上記アクリルポリマー溶液100重量部に窒化ホウ素粒子(水島合金鉄社製、商品名「HP−40」(形状:凝集塊状、粒径:20μm)150重量部と、架橋剤として多官能イソシアネート化合物である日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートL」2重量部をプライミクス社製「ハイビスミキサー」に入れ、減圧下で30分間攪拌し、熱伝導性有機樹脂組成物を調整した以外は、実施例1と同様に熱伝導部材を作製した。
【0141】
(比較例1)
ガラスエポキシ積層板の代わりに、厚み1mm、熱伝導率237W/mK、曲げ弾性率70GPa、体積抵抗率2.7×10-6Ωcmのアルミニウム板を用いた以外は、実施例1と同様に熱伝導部材を作製した。
【0142】
(比較例2)
熱伝導性有機樹脂組成物の調整において、上記アクリル系ポリマー溶液100重量部に、粘着付与樹脂としてロジン系樹脂である荒川化学社製、商品名「ペンセルD−125」30重量部、架橋剤として多官能イソシアネート化合物である日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートL」2重量部を配合した粘着剤組成物を用いた以外は実施例1と同様に熱伝導部材を作製した。
【0143】
(評価)
実施例及び比較例について、粘着力、熱伝導率、及び熱伝導性を、それぞれ、測定又は評価した。
【0144】
(粘着力の測定)
各実施例、比較例で作製した熱伝導性有機樹脂層に厚さ25μmのPETフィルムを貼り合わせ、これを幅20mm、長さ150mmに切断し評価用サンプルとした。評価用サンプルから剥離フィルムを剥がし、23℃、50%RH雰囲気下、SUS304鋼板に2kgローラー1往復により貼り付けた。23℃で30分間養生した後、ミネベア株式会社製万能引張試験機『TCM−1kNB』を用い、剥離角度180°、引っ張り速度300mm/分で剥離試験を行い、接着力を測定した。
【0145】
(熱伝導率の測定)
各実施例、比較例で作製した熱伝導性有機樹脂層の熱伝導率は、アイフェイズ社製、商品名「ai−phase mobile」により熱拡散率を求め、さらに、示差走査熱量計(DSC)を用いた測定により熱伝導性粘着シートの単位体積あたりの熱容量を測定し、先の熱拡散率に乗じることにより算出した。
【0146】
(熱伝導性評価)
各実施例、比較例で作製した熱伝導部材について、図4に示す方法で、熱伝導性評価を行った。
各実施例、比較例で作製した熱伝導部材1を幅20mm、長さ75mmに切断し評価用サンプルとした。評価用サンプルから剥離フィルムを剥がし、その片面中央部に定格2W(抵抗100Ω)のセラミックス系発熱体31(たて8mm×横12mm×高さ20mm)を貼り付け、裏面および同一面の他端に厚み35μmの銅箔33、34を貼り合せた。セラミックス系発熱体31に電極32より1.7Vの電圧(17mA)をかけ、定常状態(20分後)になった後、セラミック発熱体31と同一面側の銅箔33及び裏面側の銅箔34の温度を測定した。なお、加熱前の銅箔およびセラミック発熱体の温度は25℃であり、加熱後の発熱体の温度は90℃であった。
【0147】
【表1】

【0148】
実施例のように熱伝導率が5W/mK以上の熱伝導性有機樹脂層と0.5W/mK未満の樹脂部材を積層した熱伝導性部材は、同一面への熱伝導性が良好である一方、裏面への断熱性が高いことがわかる。それに対し、樹脂部材として熱伝導性の高いアルミニウム板を用いた比較例1では、裏面へ熱が伝わってしまい、また熱伝導性有機樹脂層の熱伝導率が低い比較例2では同一面への熱の伝わりが悪いことが分かる。
【0149】
(タブ部の効果:シミュレーション)
有限体積法をベースとしたCFD(Computational Fluid Dynamics)ソフトウェア「ANSYS Fluent」を利用してシミュレーション(熱計算)を実施した。
【0150】
条件設定を図5に示す。
すなわち、アルミニウム板とその外側に配したヒーターとを一組として単電池セルを模擬し、2つの単電池セルの間に熱伝導性部材(熱伝導層/基材層/熱伝導層)を挟み、前記ヒーターの外側に断熱材を配して供試体を組み上げ、前記ヒーターに各10W(合計20W)の出力をさせて、該出力と、供試体からの放熱が平衡状態となった時点での前記アルミニウム板の体積平均温度を算出した。
なお、シミュレーションは、下記表2に示す4種類の試料(150mm×150mmのシート)について、アルミニウム板の間に完全に試料を挟み込んだ場合(図5「条件1」)と、試料の下半分(150mm×75mm)をアルミニウム板の下からはみ出させて、タブ部に相当する部分を供試体の下方に形成させた場合(図5「条件2」)とで実施した。
【0151】
【表2】

【0152】
上記シミュレーション結果を、下記表3に示す。
【0153】
【表3】

【0154】
上記表3からもわかるように、本発明の熱伝導部材に相当する試料1〜3においては、単電池セルから延出させることで単電池セルに対して優れた冷却効果が発揮されることがわかる。
このような結果が表3に示されたのは、単電池セルからの発熱を模擬したヒーターによる熱がタブ部に伝わることによって外部に放熱させやすくなったためである。
また、熱伝導層の熱伝導率が高くなる程、タブ部に熱が伝わり易くなってアルミニウム板の体積平均温度が低下している。すなわち、熱伝導層の熱伝導率を向上させることが単電池セルの放熱に有利であることがわかる。
なお、ヒートシンクなど放熱面積を増大させる効果を有する部材をタブ部に取り付けた場合には、放熱量が増大され、試料1〜3では、上記表3の左欄に見られる以上の優位性を発揮することが期待できる。
【符号の説明】
【0155】
1 熱伝導部材
2 組電池装置
3 熱伝導性評価装置
11 熱伝導性有機樹脂層(熱伝導層)
12 樹脂部材(基材層)
21 単電池セル
22 電極
31 セラミック発熱体
33、34 銅箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単電池セルを組み合わせて組電池とする際に単電池セル間に配置される熱伝導部材であって、
0.5W/mK未満の熱伝導率を有する基材層と、該基材層の両側に設けられた0.5W/mK以上の熱伝導率を有する熱伝導性層との少なくとも3層の積層構造を有することを特徴とする熱伝導部材。
【請求項2】
前記基材層は、その厚みが0.1〜10mmであり、前記熱伝導性層の厚みと前記基材層の厚みの比が1/1〜1/10000である請求項1記載の熱伝導部材。
【請求項3】
前記基材層が、1GPa以上の曲げ弾性率を有する樹脂部材で形成されている請求項1又は2に記載の熱伝導部材。
【請求項4】
前記熱伝導性層が最表面に備えられており、該熱伝導性層の表面の粘着力が0.2N/20mm以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項5】
単電池セルと、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱伝導部材とが交互に複数個列設されてなることを特徴とする組電池装置。
【請求項6】
前記熱伝導部材が、該熱伝導部材の両側に配されている単電池セルよりも外側に延出するように配されている請求項5記載の組電池装置。
【請求項7】
前記延出している熱伝導部材の該延出部分を風冷するための機構がさらに備えられている請求項6記載の組電池装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−108617(P2011−108617A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102147(P2010−102147)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】