説明

熱剥離型粘着シート及びその製造方法

【課題】 被加工体の表面が凹凸を有する場合であってもしっかりと被着体を固定し、正確な加工を行うことができ、加工終了後は被加工体を容易に剥離し、回収することができる粘着シートを提供する。
【解決手段】 封止樹脂面を有する半導体基板を加工するために用いられる熱剥離型粘着シートであって、基材の少なくとも片方の面に熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着層を有し、熱膨張性粘着層の粘着面に凹凸部を有するセパレータが設けられ、前記熱膨張粘着層表面の最大断面高さRtが0.5〜12μmの範囲内であることを特徴とする熱剥離型粘着シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体に対する粘着性に優れるとともに、任意な時に加熱処理により被着体より簡単に剥離することができる熱剥離型粘着シート、及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板のダイシング工程等に用いられる半導体基板加工用粘着シートとしては、半導体基板に貼着後、ピックアップする際には紫外線及び/又は放射線により粘着剤が重合硬化し、粘着力が低減する硬化型粘着シートを使用する技術が知られている(特許文献1参照)。一方、半導体基板加工用粘着シートとして、粘着層が熱膨張性微小球を含む熱膨張性粘着層で構成されており、加熱により粘着力を消失させて剥離する熱剥離型粘着シートを使用する技術も検討されている。このような熱剥離型粘着シートは、使用に際して紫外線等の照射設備が不要なことや、剥離耐電の抑制の点で硬化型粘着シートに比して優れているが、熱膨張性微小球を含有することなどにより粘着層が硬く、被着体に対する追従性に劣っていた。
近年、半導体基板は粘着シート貼り付け面となる封止樹脂面に0.4〜15μm程度の粗面をもつものや、レーザー照射により深さ25〜40μmのマークが印字されたものが増えてきている。このような表面に凹凸を有する半導体基板をダイシングする際には、従来の熱剥離型粘着シートでは凹凸に対する追従性が十分でないために十分な粘着力が得られず、基板切断時に被着体が剥離するチップ飛びが発生し歩留まりが低下する問題や、飛んだチップが切断ブレードにぶつかり、ブレードを破損する問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−49420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、被加工体に対する加工を行う際に被加工体を固定する粘着シートにおいて、被加工体の表面が凹凸を有する場合であってもしっかりと被着体を固定し、正確な加工を行うことができ、加工終了後は被加工体を容易に剥離し、回収することができる粘着シート、及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、封止樹脂面を有する半導体基板など、凹凸の大きい面を有する半導体基板を加工して半導体チップを製造する際に、チップ飛びなどの不具合を生じることなく加工作業が行うことを可能にする粘着シート、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、被加工体を固定する粘着シートの粘着面の最大断面高さに着目することにより、表面が凹凸を有する被加工体を安定して確実に固定できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、
封止樹脂面を有する半導体基板を加工するために用いられる熱剥離型粘着シートであって、基材の少なくとも片方の面に熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着層を有し、熱膨張性粘着層の粘着面に凹凸部を有するセパレータが設けられ、前記熱膨張粘着層表面の最大断面高さRtが0.5〜12μmの範囲内であることを特徴とする熱剥離型粘着シートを提供する。
【0007】
前記熱剥離型粘着シートにおいて、
前記熱膨張性粘着層の表面の凹凸部が不規則的に異なっている形状で、不規則的な位置関係に配置されていることが好ましい。
【0008】
前記熱剥離型粘着シートは、基材と熱膨張性粘着層との間にゴム状有機弾性層を有することが好ましい。
【0009】
前記熱膨張性粘着層の表面の表面粗さRaは、0.5〜5μmであることが好ましい。
【0010】
前記セパレータの表面の最大断面高さは、4.8〜11.6μmであることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、
熱膨張性粘着層の粘着面に凹凸部を有するセパレータが設けられた熱剥離型粘着シートの製造方法であって、
凹凸面を有する薄葉体の前記凹凸面上に熱膨張性微小球を含む熱膨張粘着層を形成してセパレータ−熱膨張粘着層積層体を得るセパレータ−熱膨張粘着層積層体形成工程と、
前記セパレータ−熱膨張粘着層積層体形成工程後に、基材の少なくとも片方の面に前記セパレータ−熱膨張粘着層積層体を転写する転写工程とを含むことを特徴とする熱剥離型粘着シートの製造方法を提供する。
【0012】
前記熱剥離型粘着シートの製造方法において、
前記転写工程前に、前記基材の前記セパレータ−熱膨張粘着層積層体を転写する側の表面にゴム状有機弾性層を形成するゴム状有機弾性層形成工程をさらに含むことが好ましい。
【0013】
また、前記薄葉体の凹凸面は、サンドブラスト工法により形成された、又は、凹凸加工が施されたローラを熱圧着することにより形成されたものであることが好ましい。
【0014】
なお、本明細書では、上記発明の他に、
基材の少なくとも片方の面に熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着層を設けてなる熱剥離型粘着シートを用いて被着体を加工する被着体の加工方法であって、上記熱膨張性粘着層表面の最大断面高さRtと被着体表面の最大断面高さRt′との関係がRt′≧Rtを満たし、かつRtが0.5〜12μmの範囲内であることを特徴とする被着体の加工方法、についても記載する。
また、本明細書では、上記発明の他に、
基材の少なくとも片方の面に熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着層を設けてなる熱剥離型粘着シートを用いて半導体基板を加工して半導体チップを製造する方法であって、上記熱膨張性粘着層表面の最大断面高さRtと半導体基板表面の最大断面高さRt"との関係がRt"≧Rtを満たし、かつRtが0.5〜12μmの範囲内であることを特徴とする半導体チップの製造方法、についても記載する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来の粘着シート類によっては確実に固定することが困難であった表面に凹凸(粗面)を有する被着体(被加工体)をしっかりと固定することができるため、加工作業中の被着体(被加工体)のズレや剥がれが抑制され、高精度の加工を行うことができる。また、加工工程終了後は加熱により容易に熱剥離型粘着シートによる固定を解除できるため、剥離時のストレスにより被着体(被加工体)の品質が低下したり、糊残りによる被着体(被加工体)の汚染を生じることが大幅に抑制される。
特に、本発明の熱剥離型粘着シートにより封止樹脂を有する半導体基板等の電子部品集合体を固定し、規定のサイズに個片化するダイシング加工を行った場合には、ダイシング時のチップ飛びなどの不具合を顕著に抑制し、歩留まりの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の熱剥離型粘着シートの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の熱剥離型粘着シートの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[熱剥離型粘着シート]
本発明の熱剥離型粘着シートを、図面を参照して説明する。図1及び図2はそれぞれ、本発明の熱剥離型粘着シートの一例を示す概略断面図である。図1及び図2中、1は基材、3は微細な凹凸面を有する熱膨張性粘着層、4はセパレータを示し、図1中2はゴム状有機弾性層を示す。図1は、基材1と熱膨張性粘着層3との間にゴム状有機弾性層2を有する熱剥離型粘着シートであり、図2はゴム状有機弾性層2を有しない熱剥離型粘着シートである。いずれの形態の粘着シートも好適であるが、図1に示すゴム状有機弾性層2を有する粘着シートがより好適である。
【0018】
(基材)
本発明の熱剥離型粘着シートにおいて、基材1は、粘着シートの支持母体となるもので、一般にはプラスチックのフィルムやシートが用いられるが、例えば、紙、布、不織布、金属箔あるいはそれらのプラスチックラミネート体、プラスチック同士の積層体などの適宜な薄葉体を使用でき、特に制限されない。基材の厚さは特に制限されないが、例えば、5〜250μmの範囲から選択することができる。
【0019】
(熱膨張性粘着層)
熱膨張性粘着層3は、粘着剤に熱膨張性微小球を配合した熱膨張性粘着剤により形成することができ、表面(粘着面)に微小な凹凸を有している。粘着剤としては、公知適宜な感圧接着剤を使用することができ、特に制限されないが、加熱時に熱膨張性微小球の発泡及び/又は膨張を許容し、拘束しないゴム系材料や樹脂等をベースとする感圧接着剤を使用するのが好ましい。
【0020】
このような感圧接着剤としては、天然ゴム、各種合成ゴム、アクリル系、ビニルアルキルエーテル系やシリコーン系、ポリエステル系やポリアミド系、ウレタン系やスチレン・ジエンブロック共重合体系などのポリマーをベースポリマーとする感圧接着剤を例示できる。また、これらのポリマーに融点が約200℃以下の熱溶融性樹脂を配合してクリープ特性を改良したものをベースポリマーとして使用することもできる。
【0021】
これらの中で、アクリル系共重合体を特に好適に使用できる。アクリル系共重合体の主モノマー成分としては、炭素数20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いるのが好ましい。炭素数20以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソデシル基、ドデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基などが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種又は2種以上を選択して主モノマー成分として使用することができる。なお、これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは粘着剤のベースポリマー中通常50重量%以上含まれる。
【0022】
アクリル系共重合体は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルに加えて、必要に応じて凝集力や耐熱性等の改質などを目的に適宜な共重合性モノマーが含まれていてもよい。上記共重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などのカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー;(メタ)アクリルアミドやN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミドなどの(N−置換)アミド系モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルアミノ系モノマー;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル系モノマー;N−シクロヘキシルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系モノマー;N−メチルイタコンイミド、N−エチルイタコンイミド、N−ブチルイタコンイミド、N−オクチルイタコンイミド、N−2−エチルヘキシルイタコンイミド、N−シクロヘキシルイタコンイミド、N−ラウリルイタコンイミドなどのイタコンイミド系モノマー;N−(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−6−オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−8−オキシオクタメチレンスクシンイミドなどのスクシンイミド系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニルピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリン、N−ビニルカルボン酸アミド類、スチレン、α−メチルスチレン、N−ビニルカプロラクタムなどのビニル系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノアクリレートモノマー;(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有アクリル系モノマー;(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールや(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールなどのグリコール系アクリルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、フッ素(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、2−メトキシエチルアクリレートなどのアクリル酸エステル系モノマー;ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレートなどの多官能モノマー;イソプレン、ブタジエン、イソブチレン、ビニルエーテルなどが挙げられる。これらの共重合性モノマーは、1種又は2種以上を選択して用いることができる。
【0023】
上述したモノマーを重合に付すことにより、熱膨張性粘着層3を構成するベースポリマーを製造することができる。重合方法は特に制限されず、重合開始剤を添加して溶液重合方法、塊状重合方法、乳化重合方法等通常用いられる公知の重合方法から適宜選択できる。
【0024】
熱膨張性粘着層3を構成する粘着剤は、必要に応じて各種添加剤が添加されていてもよい。このような添加剤としては、例えば、公知乃至慣用の粘着付与樹脂(例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、スチレン系樹脂など)、架橋剤(例えば、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、多官能アクリレート系架橋剤など)、充填剤、着色剤(顔料や染料など)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤などの公知の各種添加剤が挙げられる。これらの添加剤の使用量は、いずれも粘着剤に適用される通常の量でよい。
【0025】
上記熱膨張性微小球としては例えば、イソブタン、プロパン、ペンタンなどの容易にガス化して膨張性を示す適宜な物質をコアセルべーション法や界面重合法等で殻形成物質内に内包させた熱膨張性微小球を使用することができる。殻形成物質としては、熱溶融性を示す物質や、熱膨張で破壊する物質を使用でき、例えば、塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホンなどが挙げられる。熱膨張性微小球は、良好な熱剥離性を発現するために、体積膨張倍率が例えば、5倍以上、好ましくは7倍以上、特に好ましくは10倍以上であるものを使用するのがよい。
【0026】
熱膨張性微小球の配合量は、熱剥離性粘着剤層3を膨張(発泡)させる程度や接着力を低下させる程度に応じて適宜選択することができ特に制限されない。例えば、上ひゅつのする熱膨張性粘着層3を構成するベースポリマー100重量部に対して1〜150重量部、好ましくは25〜100重量部の範囲から選択することができる。
【0027】
熱膨張性粘着層3の厚さは例えば、5〜50μm、好ましくは15〜35μmの範囲から選択することができる。熱膨張性粘着層3が薄すぎると、熱膨張性微小球の凹凸により被着体との接触面積が過小となり、熱処理前の被着体に対する接着力が低下する場合がある。熱膨張性粘着層3が厚すぎると、熱膨張性粘着層3が変形しやすいため、被着体を加工する際にズレを生じるなど高い精度での加工が困難となる場合がある。また、熱処理による膨張時に凝集破壊が起こり被着体に糊残りが発生するなど、良好な熱剥離性が得られない場合がある。
【0028】
熱膨張性粘着層3の表面(粘着面)の凹凸は、各凹凸部の形状がすべて同一の形状であってもよく、また、部分的に同一の形状であってもよく、さらに又、すべて異なる形状であってもよい。なお、凹凸部の形状が、部分的に同一又はすべて異なる形状である場合(すなわち、すべて同一の形状でない場合)、各凹凸部の形状は、規則的に異なっている形状を有していてもよく、不規則的に異なっている形状を有していてもよい。また、各凹凸部が配置された形態としては、規則的な位置関係で(又は間隔で)配置された形態であってもよく、不規則的な位置関係で(又は間隔で)配置された形態であってもよい。従って、凹凸部は、すべて同一、又は規則的あるいは不規則的に異なっている形状の凹凸部が、規則的又は不規則的な位置関係で(又は間隔で)配置された形態を有していてもよい。熱膨張性粘着層3の凹凸部としては、不規則的に異なっている形状の各凹凸部が不規則的な位置関係で配置された形態の凹凸部であることが好ましい。
【0029】
熱膨張性粘着層3の表面の凹凸部の最大断面高さRtは、0.5〜12μm、好ましくは1〜12μm、特に好ましくは3〜8μmの範囲から選択することができる。最大断面高さが12μmより大きいと、被着体表面の最大断面高さRt′を超える場合が多くなるり、粗面を有する被着体に対する粘着力が十分でなくなるなど、本発明の被着体の加工方法での使用に適さない。なお、粘着層表面の最大断面高さが12μmを超える場合は、平滑な被着面に対しても十分な接着力が得られない場合が多い。また、最大断面高さRtが0.5μmより小さいと、粗面に対する追従性が不十分となり、被着体の加工時に必要な十分な接着力を発現できず、被着体に対して正確な加工を行えない場合がある。
【0030】
熱膨張性粘着層3の表面の表面粗さ(平均粗さ)Raとしては、特に制限されないが、例えば、0.5〜5μm、好ましくは1〜3μmの範囲から選択することができる。
【0031】
上記最大断面高さRt及び表面粗さRaは、例えば、TENCOR社製の接触式表面粗さ測定装置「P−11」を用いて測定することができる。
【0032】
熱膨張性粘着層3の表面の凹凸部は、公知乃至慣用の凹凸部形成方法を利用して形成することができる。例えば、粘着剤、熱膨張性微小球及び必要に応じてその他の成分を適宜な溶媒に溶解・分散した塗工液を調製し、該塗工液を基材上に塗布して粘着剤層を形成した後に、凹凸を有するセパレーターを貼り合わせる方法や、凹凸を有するセパレーター上に上記塗工液を塗布して熱膨張性粘着層3を形成した後に、基材1あるいはゴム状有機弾性層2上に移着する方法になどが挙げられる。なお、凹凸部を有するセパレーターは、セパレーター表面をサンドブラスト方式などで加工する方法や、凹凸加工が施されたローラーをセパレーターに熱圧着する方法など公知適宜な方法により製造することができる。
【0033】
(ゴム状有機弾性層)
ゴム状有機弾性層2は、必要に応じて基材1と熱膨張性粘着層3との間に設けられる層であり、粘着シートを被着体に接着する際にその表面が被着体の表面形状に良好に追従して大きい接着面積を提供する働きと、粘着シートより被着体を剥離するために熱膨張性粘着層を加熱して発泡及び/又は膨張させる際に粘着シートの面方向におけ発泡及び/又は膨張の拘束を少なくして熱膨張性層が三次元的構造変化することによるウネリ構造形成を助長する働きをするものも含まれる。
【0034】
ゴム状有機弾性層2は、ASTM D−2240のD型シュアーD型硬度に基づいて50以下、好ましくは40以下の天然ゴムや合成ゴム、又はゴム弾性を有する合成樹脂により形成することができる。
【0035】
前記の合成ゴム又は合成樹脂としては、例えば、ニトリル系、ジエン系、アクリル系などの合成ゴム、ポリオレフィン系やポリエステル系の如き熱可塑性エラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリブタジエン、軟質ポリ塩化ビニルなどのゴム弾性を有する合成樹脂が挙げられる。なお、ポリ塩化ビニルのごとく本質的には硬質系のポリマーであっても可塑剤や柔軟剤等の配合剤との組み合わせでゴム弾性を持たせたものを使用してもよい。
【0036】
本発明においては、ゴム状有機弾性層2は粘着性物質により形成されているのが好ましい。ゴム状有機弾性層2を構成する粘着性物質としては、上述の熱膨張性粘着層3を構成する感圧接着剤と同様のものを使用することができる。ゴム状有機弾性層2を構成する材料としては、アクリル系重合体を主成分とするアクリル系粘着剤を特に好適に使用することができる。
【0037】
ゴム状有機弾性層2の厚さは、特に制限されず、例えば、1〜200μm、好ましくは5〜50μm程度の範囲から選択することができる。
【0038】
(セパレーター)
セパレーター4は、熱膨張性粘着層3の粘着面を保護するために設けられる面であるが、上述のように熱膨張性粘着層3の表面に凹凸部を設ける目的で使用されることも多い。セパレーター4としては、適宜な薄葉体をいずれも使用することができ、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂などを使用することができる。
【0039】
[被着体の加工方法]
本発明の熱剥離型粘着シートを用いて、被着体(被加工体)を固定し、該被着体に対して種々の加工を行うことができる。加工を施すことができる被着体(被加工体)としては、特に制限されないが、被着体の被着面の最大断面高さR′と、熱膨張性粘着層3表面の最大断面高さRtとの関係がRt′≧Rtを満たしているものであることが好ましい。また、Rt′:Rtが、1:0.2〜1:0.9を満たしていることが好ましい。例えば、シリコンウエハなどの半導体基板や、セラミック、樹脂等からなる基板、これらの基板上に回路パターンを形成した電子部品集合体や、このような電子部品集合体をエポキシ樹脂等の封止樹脂で封止した封止樹脂パッケージなど、表面に粗面を有する被着体を例示できる。また、被着体に対して施す加工としては、例えば、印刷、刻印、積層プレス、切断、研削、洗浄等を例示できる。本発明の被着体の加工方法によれば、熱剥離型粘着シートの熱剥離型粘着層3の表面が、被着体の粗面に対してもよく追従し、十分な接着力を発現するので、加工工程中はズレや剥がれなどを生じることなく高い精度で加工を行うことができる。
【0040】
加工工程終了後は、加熱処理により熱剥離型粘着シートを容易に被着体から剥離することができる。加熱処理の条件は、被着体の表面状態や熱膨張性微小球の種類等による接着面積の減少性、基材や被着体の耐熱性や加熱方法等の条件により決められるが、一般的な条件は100〜250℃、1〜90秒間(ホットプレートなど)又は、5〜15分間(熱風乾燥器など)である。
【0041】
被着体(被加工体)として半導体基板などの電子部品集合体を使用し、該電子部品集合体(半導体基板など)を規定サイズにダイシングして個片化し、半導体チップなどの電子部品を製造することができる。被着体(被加工体)としての半導体基板表面の最大断面高さRt"と熱剥離型粘着シートの熱膨張性粘着層3表面の最大断面高さRtとの関係がRt"≧Rtを満たし、かつ、熱膨張性粘着層3の表面の最大断面高さRtが0.5〜12μmの範囲内であると、ダイシング時は被着体をしっかりと固定し、ズレやチップ飛びなどの不具合を生じることなく、高精度の切断を効率よく行うことができ、ダイシング終了後は、得られた電子部品を加熱により容易に粘着シートから剥離することができる。なお、半導体基板が封止樹脂を有する場合は、熱剥離型粘着シートにより固定する際は通常、封止樹脂面が被着面となり、この場合は、封止樹脂面表面の最大断面高さが熱膨張性粘着層3表面の最大断面高さ以上であることを要する。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0043】
(製造例1)
アクリル酸2−エチルヘキシル(30重量部)、アクリル酸エチル(70重量部)、メチルメタアクリレート(5重量部)及びイソシアネート系架橋剤(1重量部)からなるアクリル系共重合体(感圧接着剤)をトルエンに溶解した。該溶液を厚さ100μmのポリエステルフィルム上に乾燥後の厚さが30μmとなるように塗布し、ゴム状有機弾性層を得た。
アクリル酸2−エチルヘキシル(30重量部)、アクリル酸エチル(70重量部)、メチルメタアクリレート(5重量部)及びイソシアネート系架橋剤(2重量部)からなるアクリル系共重合体(感圧接着剤)100重量部及び平均粒子経13.5μmである熱膨張性微小球(松本油脂製薬製:商品名「マツモトマイクロスフェアーF−30D)30重量部をトルエンに均一に混合、溶解して塗工液を調整した。セパレーターの表面に、サンドブラスト工法により最大断面高さが4.8μmの凹凸を設け、該セパレーターの凹凸面に上記塗工液を、乾燥後の厚みが30μmとなるように塗布し、熱膨張性粘着層を得た。
ゴム状有機弾性層と熱膨張性粘着層とを貼り合わせ、基材、ゴム状有機弾性層、熱膨張性粘着層及びセパレーターからなる熱剥離型粘着シートAを得た。熱剥離型粘着シートAの熱膨張性粘着層表面の最大断面高さ(Rt)は4.5μmであった。
【0044】
(製造例2)
セパレーター表面に設けた凹凸の最大断面高さを12.3μmとした以外は製造例1と同様の操作を行い熱剥離型粘着シートBを得た。熱剥離型粘着シートBの熱膨張性粘着層表面の最大断面高さ(Rt)は11.6μmであった。
【0045】
(製造例3)
セパレーターにサンドブラスト工法を施さなかった以外は、製造例1と同様の操作を行い、熱剥離型粘着シートCを得た。熱剥離型粘着シートC表面の最大断面高さ(Rt)は0.2μmであった。
【0046】
(実施例1)
製造例1で得られた熱剥離型粘着シートAを使用して被着体を固定し、被着体にダイシング加工を行った。被着体として半導体封止樹脂(サイズ:50×50mm、厚さ:2mm、被着面(封止樹脂面)の最大表面粗さ:15μm)を使用し、4×4mmのチップサイズにダイシングした。ダイシング終了後、加熱剥離型粘着シートAをホットプレート(90℃×1分間)で熱処理し、半導体チップを粘着シートより剥離した。ダイシング加工時にチップ飛びが発生するかどうかを全チップ数に対するチップ飛びが発生した数の割合として評価し、熱処理によりチップが良好に剥離するかどうかを全チップ数に対する良好に熱剥離したチップの割合として評価した。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例2)
熱剥離型粘着シートAの代わりに熱剥離型粘着シートBを使用した以外は実施例1と同様の操作によりダイシングを行い、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1)
熱剥離型粘着シートAの代わりに熱剥離型粘着シートCを使用した以外は実施例1と同様の操作によりダイシングを行い、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【符号の説明】
【0050】
1:基材
2:ゴム状有機弾性層
3:熱膨張性粘着層
4:セパレーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
封止樹脂面を有する半導体基板を加工するために用いられる熱剥離型粘着シートであって、基材の少なくとも片方の面に熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着層を有し、熱膨張性粘着層の粘着面に凹凸部を有するセパレータが設けられ、前記熱膨張粘着層表面の最大断面高さRtが0.5〜12μmの範囲内であることを特徴とする熱剥離型粘着シート。
【請求項2】
前記熱膨張性粘着層の表面の凹凸部が不規則的に異なっている形状で、不規則的な位置関係に配置されている請求項1記載の熱剥離型粘着シート。
【請求項3】
前記熱剥離型粘着シートとして、基材と熱膨張性粘着層との間にゴム状有機弾性層を有する請求項1又は2記載の熱剥離型粘着シート。
【請求項4】
前記熱膨張性粘着層の表面の表面粗さRaが、0.5〜5μmである請求項1〜3の何れか1項に記載の熱剥離型粘着シート。
【請求項5】
前記セパレータの表面の最大断面高さが、4.8〜11.6μmである請求項1〜4の何れか1項に記載の熱剥離型粘着シート。
【請求項6】
熱膨張性粘着層の粘着面に凹凸部を有するセパレータが設けられた熱剥離型粘着シートの製造方法であって、
凹凸面を有する薄葉体の前記凹凸面上に熱膨張性微小球を含む熱膨張粘着層を形成してセパレータ−熱膨張粘着層積層体を得るセパレータ−熱膨張粘着層積層体形成工程と、
前記セパレータ−熱膨張粘着層積層体形成工程後に、基材の少なくとも片方の面に前記セパレータ−熱膨張粘着層積層体を転写する転写工程とを含むことを特徴とする熱剥離型粘着シートの製造方法。
【請求項7】
前記転写工程前に、前記基材の前記セパレータ−熱膨張粘着層積層体を転写する側の表面にゴム状有機弾性層を形成するゴム状有機弾性層形成工程をさらに含む請求項6に記載の熱剥離型粘着シートの製造方法。
【請求項8】
前記薄葉体の凹凸面が、サンドブラスト工法により形成された請求項6又は7記載の熱剥離型粘着シートの製造方法。
【請求項9】
前記薄葉体の凹凸面が、凹凸加工が施されたローラを熱圧着することにより形成された請求項6又は7記載の熱剥離型粘着シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−136717(P2012−136717A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−97291(P2012−97291)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【分割の表示】特願2007−199883(P2007−199883)の分割
【原出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】