説明

熱剥離性粘着シート及び被着体回収方法

【課題】 しなり性を有する被着体や非常に小さいな被着体であっても、非破壊で効率よく剥離回収することができる熱剥離性粘着シートを提供する。
【解決手段】 熱剥離性粘着シートは、基材の一方の面に厚さAの中間層と最大粒径Cの熱膨張性微小球を含有する厚さBの熱剥離性粘着層とがこの順で積層された熱剥離性粘着シートであって、C≦(A+B)≦60μmおよび0.25C≦B≦0.8Cの関係を満足し、且つ加熱処理後の熱剥離性粘着層の粘着力が0.1N/20mm未満であることを特徴とする。加熱処理後の熱剥離性粘着層の中心線平均粗さRaは5μm以下、最大高低差Rmaxは25μm以下であるのが好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)が60℃以上且つ厚さが50μm以下である基材を使用したものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱剥離性粘着シートおよびそれを使用した被着体回収方法に関し、より詳細には、加熱処理により速くかつ容易に被着体を剥離回収する方法に関する。またこの剥離回収方法を利用して半導体部品および電子部品を効率的に剥離回収する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体部品や電子部品の小型化、薄型化に伴い、これらの部品の取り扱いが難しくなっただけでなく、生産性の向上も大きな課題になっている。特に、粘着シートに仮固定された小型かつ脆弱な部品を効率的に非破壊で剥離回収する手段は大きな課題である。小型、薄型化された部品の取り扱いに関しては、自然剥離可能な熱剥離性粘着シートの利用が有効である。
【0003】
従来、基板上に熱膨張性微小球などの発泡剤または膨張剤を含む粘着剤層を設けた加熱剥離型粘着シートが知られている(特許文献1〜6参照)。この加熱剥離型粘着シートは、接着性と使用後の剥離性とを両立させた粘着シートであり、加熱により発泡剤等を発泡または膨張させることで接着力が低下し、シリコンウエハなどの被着体より容易に剥離できるという特徴を有する。特に、熱膨張性微小球を用いた加熱剥離型粘着シートは、加熱により熱膨張性微小球が膨張し、粘着層と被着体との接触面積が大きく低下して被着体を非破壊で回収できることから、半導体あるいは電子部品の製造工程時における仮固定手段等として広く用いられている。しかしながら、近年の超薄型チップといわれる厚さ40μm以下のしなり性の高い半導体チップや、非常に小さい部品が被着体である場合には、該被着体が加熱剥離型粘着シートの加熱処理後の表面凹凸に追従し易いため、粘着層と被着体との接触面積が十分に低下せず、剥離に時間がかかったり、剥離できない場合が生じたりして、生産性が著しく低下するという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特公昭51−24534号公報
【特許文献2】特開昭56−61468号公報
【特許文献3】特開昭56−61469号公報
【特許文献4】特開昭60−252681号公報
【特許文献5】特開2001−131507号公報
【特許文献6】特開2002−146299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、例えば厚さ40μm以下のしなり性を有する被着体や非常に小さいな被着体であっても、非破壊で効率よく剥離回収することができる熱剥離性粘着シート、及び被着体回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、基材、中間層及び熱剥離性粘着層からなる熱剥離性粘着シートにおいて、中間層の厚みと熱剥離性粘着層の厚みと該熱剥離性粘着層中に含まれる熱膨張性微小球の最大粒径との間にある特定の関係が成り立つ時には、しなり性を有するような被着体或いは非常に小さい被着体であっても効率よく剥離回収できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、基材の一方の面に厚さAの中間層と最大粒径Cの熱膨張性微小球を含有する厚さBの熱剥離性粘着層とがこの順で積層された熱剥離性粘着シートであって、C≦(A+B)≦60μmおよび0.25C≦B≦0.8Cの関係を満足し、且つ加熱処理後の熱剥離性粘着層の粘着力が0.1N/20mm未満であることを特徴とする熱剥離性粘着シートを提供する。
【0008】
前記熱剥離性粘着シートにおいて、加熱処理後の熱剥離性粘着層表面の中心線平均粗さRaは5μm以下、最大高低差Rmaxは25μm以下であるのが好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)が60℃以上且つ厚さが50μm以下である基材を使用したものが好ましい。
【0009】
前記熱剥離性粘着シートは、所定形状に予め切断加工された基材、中間層及び熱剥離性粘着層とからなるシートが長尺のセパレータ上に、前記熱剥離性粘着層がセパレータ表面に接する状態で配列され、且つロール状に巻回された形態であってもよい。
【0010】
本発明は、また、熱剥離性粘着層上に被着体が載置された上記の熱剥離性粘着シートの基材側または被着体側から加熱を施して、熱剥離性粘着層中の熱膨張性微小球を膨張させた後、前記被着体を剥離回収することを特徴とする被着体回収方法を提供する。
【0011】
前記被着体として半導体部品または電子部品を使用できる。
【0012】
なお、本明細書において、粘着シートには粘着テープも含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば厚さ40μm以下というようなしなり性を有する極薄型の被着体や極めて小型の被着体に対しても、効率的且つ非破壊で被着体を剥離回収することができる。特に、従来のニードルピックアップ方式で回収できないような脆弱な半導体チップも高効率で剥離回収することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は本発明の熱剥離性粘着シートの一例を示す概略断面図である。
【0015】
図1の例では、基材1の一方の面に、中間層2を介して熱剥離性粘着層3が設けられ、さらにその上にセパレータ4が積層されている。
【0016】
基材1は、熱剥離性粘着層3等の支持母体となるもので、一般にはプラスチックのフィルムやシートが用いられるが、紙、布、不織布、金属箔など、又はこれらとプラスチックとの積層体、プラスチックフィルム(又はシート)同士の積層体などの適宜な薄葉体を用いうる。基材1の厚さは、一般には500μm以下、好ましくは1〜300μm、さらに好ましくは5〜250μm程度であるが、これらに限定されない。
【0017】
生産性良く被着体を剥離回収するためには、熱源から熱剥離性粘着層3に効率的に熱を伝達して熱剥離性粘着層3を熱膨張性微小球の熱膨張開始温度以上の温度にする必要がある。そのため、基材1としては、熱を素早く熱剥離性粘着層3へ伝達できるもので、且つ高い耐熱性を有するものが好ましい。このような基材として、ガラス転移温度(Tg)が60℃以上、且つ厚さが50μm以下(例えば5〜50μm程度)のものが好適に使用される。好ましい基材の例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルムのほか、ポリイミド、ポリアミド等のプラスチックフィルム、銅、ニッケル、SUS(ステンレス)などの金属箔や、プラスチック中に金属粉末を分散させたフィルム、異方導電性フィルムなどが挙げられる。また、これらの材料からなる単層フィルムのほか、これらの材料を用いた多層積層フィルムを使用してもよい。
【0018】
中間層2は、熱剥離性粘着層3中の熱膨張性微小球の凹凸を吸収することで、加熱前の熱剥離性粘着層3表面を平滑に保つ機能を有すると共に、加熱後に熱膨張性微小球の基材1への発泡応力を緩和して基材1との投錨破壊を防ぐ機能を有する。そのため、中間層2は弾性を有するのが好ましい。中間層2の材料としては、例えば、天然または合成ゴム系樹脂、熱可塑性または熱硬化性エラストマーなどの天然または合成樹脂のほかに、ゴム系、アクリル系、ビニルアルキルエーテル系、シリコーン系、ウレタン系などの感圧接着剤や、紫外線などのエネルギー線で硬化するエネルギー線硬化型樹脂または粘着剤を使用できる。また、これらの材料に、樹脂、架橋剤、可塑剤、界面活性剤、充填剤などの適宜な改質剤を添加することもできる。また、熱伝導性を向上させるために、金属粉末等を添加することもできる。一般には、中間層2は、熱剥離性粘着層3に使用される粘着物質と同一若しくは類似の材料を使用することが多い。
【0019】
中間層2は単層であっても多層であってもよい。中間層2の厚さは、一般には1〜50μm、好ましくは3〜40μm、さらに好ましくは5〜30μm(特に10〜25μm)程度である。
【0020】
中間層2の形成方法としては、特に制限はなく、中間層を構成する材料を含む溶液若しくは分散液を直接基材1上に塗布し、乾燥する方法、中間層を構成する材料を含む溶液若しくは分散液を適宜なセパレータ上に塗布し、乾燥した後、基材1上に転写する方法のほか、ドライラミネート法、押出し法、共押出し法等、慣用の方法にて形成することができる。
【0021】
熱剥離性粘着層3は、粘着性を付与するための粘着剤(粘着物質)、および熱剥離性を付与するための熱膨張性微小球を含有する。そのため、被着体貼付け後、任意なときに加熱処理を行い、熱膨張性微小球を膨張させることにより、被着体との接触面積を低下させ、該被着体を剥離させることができる。熱膨張性微小球はマイクロカプセル化されているものが好ましい。
【0022】
前記粘着剤としては、加熱時に熱膨張性微小球の膨張を阻害しないものが好ましい。このような粘着剤として、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、エネルギー線硬化型粘着剤などが挙げられる。粘着剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。粘着剤は、粘着性成分(ベースポリマー)のほかに、架橋剤(例えば、ポリイソシアネート、アルキルエーテル化メラミン化合物など)、粘着付与剤(例えば、ロジン誘導体樹脂、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノール樹脂など)、可塑剤、充填剤、老化防止剤などの適宜な添加剤を含んでいてもよい。特に、可塑剤などの低分子量成分を配合した熱剥離性粘着層は、加熱後の粘着力が低くなり、良好な剥離性を発現する。
【0023】
一般には、前記粘着剤として、天然ゴムや各種の合成ゴムをベースポリマーとしたゴム系粘着剤;(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、イソノニルエステル、イソデシルエステル、ドデシルエステル、トリデシルエステル、ペンタデシルエステル、ヘキサデシルエステル、ヘプタデシルエステル、オクタデシルエステル、ノナデシルエステル、エイコシルエステルなどのC1-20アルキルエステルなど)の1種又は2種以上を単量体成分として用いたアクリル系重合体(単独重合体又は共重合体)をベースポリマーとするアクリル系粘着剤などが用いられる。
【0024】
なお、前記アクリル系重合体は、凝集力、耐熱性、架橋性などの改質を目的として、必要に応じて、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他の単量体成分に対応する単位を含んでいてもよい。このような単量体成分として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などのカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸などの酸無水物モノマー;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルなどのヒドロキシル基含有モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー;N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチルなどの(メタ)アクリル酸アミノアルキル系モノマー;(メタ)アクリル酸メトキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル系モノマー;N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系モノマー;N−メチルイタコンイミドなどのイタコンイミド系モノマー;N−(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミドなどのスクシンイミド系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルピリジン、スチレンなどのビニル系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノアクリレートモノマー;(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有アクリル系モノマー;(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールなどのグリコール系アクリルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、フッ素(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートなどの複素環、ハロゲン原子、ケイ素原子などを有するアクリル酸エステル系モノマー;ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレートなどの多官能モノマー;イソプレン、ブタジエン、イソブチレンなどのオレフィン系モノマー;ビニルエーテルなどのビニルエーテル系モノマー等が挙げられる。これらの単量体成分は1種又は2種以上使用できる。
【0025】
熱膨張性微小球としては、例えば、イソブタン、プロパン、ペンタンなどの低沸点物質を弾性を有する殻(シェル)内に内包させたものが好ましい。前記殻は、熱溶融性物質や熱膨張により破壊する物質で形成される場合が多い。前記殻を形成する物質として、例えば、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホンなどが挙げられる。熱膨張性微小球は、慣用の方法、例えば、コアセルベーション法、界面重合法などにより製造できる。なお、熱膨張性微小球には、例えば、マイクロスフェア[商品名、松本油脂製薬(株)製]などの市販品もある。
【0026】
熱膨張性微小球の配合量は、熱膨張性微小球の粒径や熱膨張率などにもよるが、一般には、粘着剤100重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは5〜75重量部、さらに好ましくは15〜50重量部の範囲である。
【0027】
熱剥離性粘着層3の厚さは、一般には5〜59μm、好ましくは10〜45μm、さらに好ましくは15〜40μm(特に20〜35μm)程度である。厚さが過大であると、加熱処理後の剥離時に凝集破壊が生じて粘着剤が被着体に残存し、被着体が汚染されやすくなる。一方、粘着剤の厚さが過小では、加熱処理による熱膨張性粘着層3の変形度が小さく、接着力が円滑に低下しにくくなったり、添加する熱膨張性微小球の粒径を過度に小さくする必要が生じる。
【0028】
熱剥離性粘着層3の形成方法としては、例えば、必要に応じて溶媒を用いて粘着剤、熱膨張性微小球を含むコーティング液を調製し、これを中間層2上に直接塗布する方法、適当なセパレータ(剥離紙など)上に前記コーティング液を塗布して熱剥離性粘着層を形成し、これを中間層2上に転写する方法などの何れの方法を採用することもできる。加熱前の熱剥離性粘着層3の平滑性の観点から、後者の転写法がより好ましい。
【0029】
セパレータ4としては、慣用の剥離紙などを使用できる。セパレータ4は熱剥離性粘着層3の保護材として用いられ、粘着シートを被着体に貼着する際に剥がされる。セパレータ4は必ずしも設けなくてもよい。
【0030】
本発明の熱剥離性粘着シートは、所定形状に予め切断加工された基材、中間層及び熱剥離性粘着層とからなるシートが長尺の(通常、幅広の)セパレータ上に、前記熱剥離性粘着層がセパレータ表面に接する状態で配列され、且つロール状に巻回されている形態であってもよい。
【0031】
なお、熱剥離性粘着層3は基材1の片面のみならず、両面に形成することもできる。熱剥離性粘着層3を基材1の両面に形成する場合には、中間層2を基材1の片面又は両面に介在させることができる。さらに、基材1の一方の面に熱剥離性粘着層3を設け、他方の面に熱膨張性微小球を含まない通常の接着層を設けることもできる。なお、基材と中間層2との間、中間層2と熱剥離性粘着層3との間などに下塗り層、接着剤層などの薄い層を設けてもよい。
【0032】
本発明の重要な特徴は、基材の一方の面に厚さA(μm)の中間層と最大粒径C(μm)の熱膨張性微小球を含有する厚さB(μm)の熱剥離性粘着層とがこの順で積層された熱剥離性粘着シートにおいて、下記式(1)及び(2)の関係を満足し、且つ加熱処理後の熱剥離性粘着層の粘着力が0.1N/20mm未満である点にある。
C≦(A+B)≦60μm (1)
0.25C≦B≦0.8C (2)
【0033】
このような熱剥離性粘着シートによれば、被着体に対する加熱前の優れた接着性と、しなり性を有する被着体(例えば、厚さ30μm程度の半導体シリコンチップ等)や極小の被着体に対する加熱後の良好な剥離性とを両立させることができる。式(1)のように、中間層2と熱剥離性粘着層3との総厚み(A+B)を熱膨張性微小球の最大粒径Cと同じかそれより大きくすることにより、加熱前の熱剥離性粘着層表面の平滑性を維持でき、被着体に対する良好な接着性を確保できる。A+BがCより小さい場合には、加熱前の熱剥離性粘着層表面の平滑性が損なわれるため、脆弱な被着体を貼り合わせる際に被着体に割れが生じるなどの不具合を引き起こす。また、中間層2と熱剥離性粘着層3との総厚み(A+B)を60μm以下とすることにより、熱膨張性微小球の熱膨張を迅速化できると共に、熱膨張後に熱剥離性粘着層が大きく変形するため、被着体を回収する際のアラインメントを正確にすることができる。
【0034】
また、式(2)のように、熱剥離性粘着層3の厚さBを熱膨張性微小球の最大粒径Cの0.25倍から0.8倍の範囲に調整することにより、しなり性を有する極薄の被着体や極小の被着体に対して、良好な熱剥離性を発現する。Bが0.8Cを超えると、加熱後の熱剥離性粘着層の表面粗さが大きくなり、しなり性のある被着体の場合には、粘着層表面の凹凸に追従し、良好な剥離性が得られない。一方で、Bが0.25Cを下回ると、加熱後に、熱剥離性粘着層と被着体との間での接触面積の低下が起こらず、剥離不良となる。
【0035】
加熱処理後の熱剥離性粘着層の粘着力が0.1N/20mm以上であると、被着体の剥離性が劣り、被着体を効率よく剥離回収することができない。加熱処理後の熱剥離性粘着層の粘着力は、例えば、熱剥離性粘着層の厚み、熱剥離性粘着層を構成する粘着剤や添加剤(架橋剤、粘着付与剤等)の種類や量、熱膨張性微小球の種類や量などにより調整できる。
【0036】
さらに、加熱処理後の熱剥離性粘着層表面の中心線平均粗さRaが5μm以下、特に4.5μm以下、加熱処理後の熱剥離性粘着層表面の最大高低差Rmaxが25μm以下、特に23μm以下であると、しなり性のある被着体においても、熱処理後の熱剥離性粘着層の凹凸への追従を大幅に抑制することができる。前記加熱処理後の熱剥離性粘着層表面の中心線平均粗さRa及び最大高低差Rmaxは、熱剥離性粘着層の厚さと該粘着層に添加する熱膨張性微小球の粒径等を適宜選択することにより調整できる。
【0037】
本発明の被着体回収方法では、熱剥離性粘着層上に被着体が載置された前記熱剥離性粘着シートの基材側(粘着層が形成されていない側)または被着体側から加熱を施して、熱剥離性粘着層中の熱膨張性微小球を膨張させた後、前記被着体を剥離回収する。被着体としては、例えば、半導体部品(半導体ウエハ、チップ等)、電子部品(セラミックコンデンサ、発振子等)などが使用される。
【0038】
加熱処理は、通常、基材の粘着層が形成されていない面、または被着体に熱源を接触させることにより行われる。熱は基材または被着体から熱剥離性粘着層に伝導し、熱剥離性粘着層中の熱膨張性微小球が膨張し、これに伴って該粘着層が膨張変形し、接着力が低下ないし喪失する。熱源としては、ホットプレート、ドライヤー、赤外線等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。加熱条件としては、被着体の種類や面積によって適宜選択できるが、熱膨張性微小球の膨張開始温度よりも50℃以上高温で加熱することが好ましい。このようにすると、例えば、厚さ30μmの8インチシリコンウエハの場合、3秒以内で円滑に剥離することができる。なお、被着体は一括で剥離してもよく、また熱剥離性粘着層上に配列した個々の部品を一つずつ加熱剥離してもよい。剥離回収の方法は特に限定されず、吸着コレットを用いる方法等の慣用の方法を採用できる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0040】
実施例1
厚さ25μmのポリイミドフィルム基材(商品名「カプトンH100」、デュポンケミカル製、Tg300℃以上)上に、アクリルポリマーA[2−エチルヘキシルアクリレート/エチルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート(重量比:50/50/4)共重合体]100重量部、イソシアネート系架橋剤[商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン(株)製]3重量部を含むトルエン溶液を、塗布、乾燥して、厚さ25μmの中間層を形成した。
別途、シリコーン離型処理されたポリエステルフィルム上に、前記アクリルポリマーA100重量部、熱膨張性微小球A[商品名「マツモトマイクロスフェアF−301D」、松本油脂製薬(株)製;膨張開始温度90℃、メディアン径11.5μm、最大粒径42μm]40重量部、イソシアネート系架橋剤[商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン(株)製]4重量部、可塑剤[商品名「モノサイザーW−700」、大日本インキ(株)製]10重量部を含むトルエン溶液を塗布、乾燥して、セパレータ付き熱剥離性粘着層を作製し、これを前記中間層付き基材の中間層側に貼り合わせて、熱剥離性粘着シートAを得た。熱剥離性粘着層の厚さは30μmであり、粘着シートの総厚みは80μmである。
【0041】
実施例2
厚さ25μmのポリイミド基材の代わりに、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート基材(Tg68℃)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、総厚み93μmの熱剥離性粘着シートBを得た。
【0042】
比較例1
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート基材上に、実施例1と同じアクリルポリマーA100重量部、実施例1と同じイソシアネート系架橋剤3重量部を含むトルエン溶液を、塗布、乾燥して、厚さ13μmの中間層を形成した。
別途、シリコーン離型処理されたポリエステルフィルム上に、前記アクリルポリマーA100重量部、実施例1と同じ熱膨張性微小球A30重量部、実施例1と同じイソシアネート系架橋剤3.5重量部、ロジンエステル系粘着付与剤4重量部を含むトルエン溶液を塗布、乾燥して、セパレータ付き熱剥離性粘着層を作製し、これを前記中間層付き基材の中間層側に貼り合わせて、熱剥離性粘着シートCを得た。熱剥離性粘着層の厚さは37μmであり、粘着シートの総厚みは88μmである。
【0043】
比較例2
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート基材上に、実施例1と同じアクリルポリマーA100重量部、実施例1と同じイソシアネート系架橋剤1重量部を含むトルエン溶液を、塗布、乾燥して、厚さ13μmの中間層を形成した。
別途、シリコーン離型処理されたポリエステルフィルム上に、前記アクリルポリマーA100重量部、実施例1と同じ熱膨張性微小球A30重量部、実施例1と同じイソシアネート系架橋剤2重量部、テルペンフェノール系粘着付与剤20重量部を含むトルエン溶液を塗布、乾燥して、セパレータ付き熱剥離性粘着層を作製し、これを前記中間層付き基材の中間層側に貼り合わせて、熱剥離性粘着シートDを得た。熱剥離性粘着層の厚さは37μmであり、粘着シートの総厚みは88μmである。
【0044】
評価試験
実施例及び比較例で得られた熱剥離性粘着シートの加熱前及び加熱後の粘着力、該粘着シートの加熱後の粘着層の表面粗さ(中心線平均粗さ及び最大高低差)、並びに加熱剥離性を以下の方法により測定、評価した。結果を表1に示す。
【0045】
(粘着力)
幅20mmの熱剥離性粘着シートの熱剥離性粘着層に、幅30mm、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付け、そのポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離角度180°、剥離速度300mm/minで剥離する際の荷重を測定した(加熱前の粘着力)。なお、ポリエチレンテレフタレートフィルムの貼付けは、2kgfゴムローラーを使用し、貼付け速度300mm/minで1往復させて行った。
また、粘着シートを100℃のホットプレート上で1分間加熱した後、上記と同様にして、加熱後の粘着力を測定した。
【0046】
(表面粗さ)
100℃のホットプレート上で1分間加熱処理した熱剥離性粘着シートの熱剥離性粘着層表面に、シリコーン樹脂(商品名「♯6810」、東レダウコーニング製)を滴下し、真空脱泡後、85℃の熱風乾燥機中で30分間プレキュアし、熱剥離性粘着シートを剥離した後に、シリコーン樹脂を150℃の熱風乾燥機中で30分間本キュアして、加熱処理後の熱剥離性粘着層表面のレプリカを得た。そのレプリカの表面粗さ(中心線平均粗さRa、最大高低差Rmax)を、表面粗さ測定器(商品名「P−11」、Tencor製)を使用して測定した。
【0047】
(加熱剥離性)
熱剥離性粘着シートの熱剥離性粘着層表面に、1mm×1mm角、厚さ30μmのシリコンチップを貼り付け、同サイズのマイクロヒーター(温度180℃及び300℃)で、基材側から加熱して熱剥離性粘着層を発泡させ、吸着コレットでシリコンチップをピックアップし、ピックアップ成功率を求めた。
【0048】
【表1】

【0049】
(評価結果)
表1に示されるように、本発明に相当する実施例1及び2の熱剥離性粘着シートは良好な加熱剥離性を示すのに対し、熱剥離性粘着層の厚さBが、0.8×熱膨張性微小球の最大粒径Cより大きい比較例1及び2の熱剥離性粘着シートでは、ピックアップできないチップが多かった。また、基材としてポリイミドを使用した実施例1の熱剥離性粘着シートでは、300℃で加熱することができ、非常に高速でチップのピックアップを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の熱剥離性粘着シートの一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 基材
2 中間層
3 熱剥離性粘着層
4 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に厚さAの中間層と最大粒径Cの熱膨張性微小球を含有する厚さBの熱剥離性粘着層とがこの順で積層された熱剥離性粘着シートであって、C≦(A+B)≦60μmおよび0.25C≦B≦0.8Cの関係を満足し、且つ加熱処理後の熱剥離性粘着層の粘着力が0.1N/20mm未満であることを特徴とする熱剥離性粘着シート。
【請求項2】
加熱処理後の熱剥離性粘着層表面の中心線平均粗さRaが5μm以下である請求項1記載の熱剥離性粘着シート。
【請求項3】
加熱処理後の熱剥離性粘着層表面の最大高低差Rmaxが25μm以下である請求項1記載の熱剥離性粘着シート。
【請求項4】
ガラス転移温度(Tg)が60℃以上且つ厚さが50μm以下である基材を使用した請求項1記載の熱剥離性粘着シート。
【請求項5】
所定形状に予め切断加工された基材、中間層及び熱剥離性粘着層とからなるシートが長尺のセパレータ上に、前記熱剥離性粘着層がセパレータ表面に接する状態で配列され、且つロール状に巻回されている請求項1〜4の何れかの項に記載の熱剥離性粘着シート。
【請求項6】
熱剥離性粘着層上に被着体が載置された請求項1〜4の何れかの項に記載の熱剥離性粘着シートの基材側または被着体側から加熱を施して、熱剥離性粘着層中の熱膨張性微小球を膨張させた後、前記被着体を剥離回収することを特徴とする被着体回収方法。
【請求項7】
被着体が半導体部品または電子部品である請求項6記載の被着体回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−115273(P2008−115273A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299738(P2006−299738)
【出願日】平成18年11月4日(2006.11.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】