説明

熱剥離性粘着フィルム

【課題】 植物由来であるリグニンを主原料とし、かつ、熱硬化性を付与した熱剥離性粘着フィルムを提供する。
【解決手段】 リグニンと硬化剤およびベースポリマーからなる粘着層と、支持体から構成され、前記粘着層が加熱により硬化する熱剥離性粘着フィルム。リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンであると好ましく、リグニンが有機溶媒に可溶であり、粘着層にリグニンを10〜90質量%含むと好ましい。また、リグニンの重量平均分子量が、100〜7000、リグニン中の硫黄原子の含有率が、2質量%以下であると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱剥離性粘着フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱剥離性粘着フィルムは、フィルムが粘着性を有し、加熱することで剥離性を有するものである。このような熱剥離性粘着フィルムは、接着時には強固に被着体と接着し、剥離時には容易に剥離できることが要求され、半導体モールドなどの電子部品加工工程、装飾用シートなどに利用されている。従来の熱剥離性粘着フィルムは、熱硬化性樹脂により粘着層を硬化させるもの(特許文献1)や、発泡剤、膨張剤を粘着層に含有し、離型性を向上させるもの(特許文献2)が知られている。
【0003】
熱剥離性粘着フィルムのような接着、粘着性を有するフィルムの粘着層は、そのほとんどが石油由来材料から構成されている。一方で、化石燃料の枯渇化、化石燃料を焼却した際に発生する二酸化炭素による地球温暖化が叫ばれおり、カーボンニュートラルなバイオマス材料への関心が高まっている。近年では、包装資材、家電製品の部材、自動車用部材などのプラスチックを、植物由来樹脂(バイオプラスチック)に置き換える動きが活発化している。
【0004】
植物由来の硬化性樹脂原料として、古くからリグニンが注目されてきた。リグニンはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基を有することから樹脂としての利用が期待される。国内で容易に入手できるリグニンとして、例えば、リグニンスルホン酸塩が挙げられるが、水溶性であり、有機溶媒に難溶である。そのため、硬化剤及び硬化促進剤との相溶性が悪く、均質な硬化物がほとんど得られていない。このため、材料として利用価値があるにも関わらず、リグニンは焼却処理される場合がほとんどである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−238910号公報
【特許文献2】特許第3594853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明においては、植物由来の木質系材料を用いた熱剥離性粘着フィルムを提供することを目的とし、特に、植物由来であるリグニンを主原料とし、かつ、熱硬化性を付与した熱剥離性粘着フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の通りである。
(1)リグニンと硬化剤およびベースポリマーからなる粘着層と、支持体から構成され、前記粘着層が加熱により硬化することを特徴とする熱剥離性粘着フィルム。
(2)リグニンが有機溶媒に可溶であり、粘着層にリグニンを10〜90質量%含む前記(1)に記載の熱剥離性粘着フィルム。
(3)リグニンの重量平均分子量が、100〜7000である前記(1)または(2)に記載の熱剥離性粘着フィルム。
(4)リグニン中の硫黄原子の含有率が、2質量%以下である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
(5)リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
(6)リグニンが植物原料に水蒸気を圧入し、圧力を開放することで植物原料を爆砕する水蒸気爆砕法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
(7)硬化剤が、エポキシ樹脂である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
(8)硬化剤が、アクリル樹脂である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
(9)硬化剤が、イソシアネートである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
(10)硬化剤が、アルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
(11)硬化剤が、多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物から1つないし2つ以上選択されたものである前記(1)〜(6)のいずに記載の熱剥離性粘着フィルム。
(12)ベースポリマーが、アクリル樹脂である前記(1)〜(11)のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
(13)ベースポリマーが、ゴム系樹脂である前記(1)〜(11)のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
(14)ベースポリマーが、ウレタン系樹脂である前記(1)〜(11)のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、木質材料から得られたリグニンを利用し、常温時(25℃)で高い粘着力を有し、加熱することで容易に剥離することが可能な、熱剥離性粘着フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、上記本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、リグニンを含む熱剥離性粘着フィルムである。また、本発明で用いるリグニンは、有機溶媒に可溶であり、不揮発分としてリグニンを10〜90質量%含む粘着剤を有することが好ましい。不揮発分としてリグニンを、より好ましくは30〜80質量%、また、さらに40〜80質量%含むことが特に好ましい。90質量%を超えると粘着剤の粘着強度が、徐々に低下するおそれがある。また、10質量%未満では、粘着剤の粘着強度が高くなる傾向があり、所望とする粘着強度を調整する際に、粘着力を十分に低下できないおそれがある。
【0010】
本発明で用いるリグニンの重量平均分子量は、ポリスチレン換算値において、100〜7000が好ましく、さらに200〜5000がより好ましく、500〜4000であることが特に好ましい。リグニンの重量平均分子量が、7000を超えると有機溶媒への溶解性が低下するおそれがある。重量平均分子量が、100未満であるとリグニンの構造を活かした粘着剤を得ることができないおそれがある。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算した値を使用した。
【0011】
リグニンの基本骨格は、一般的にヒドロキシフェニルプロパン単位を基本単位とする架橋構造の高分子である。樹木は、親水性の線状高分子の多糖類(セルロースとヘミセルロース)と疎水性の架橋構造リグニンの相互侵入網目(IPN)構造を形成している。リグニンは、樹木の約25質量%を占め、不規則かつ極めて複雑なポリフェノールの化学構造をしている。このリグニンを硬化剤と併用することで、熱硬化性を有する樹脂を得ることができる。本発明では、植物から得られたこの複雑な構造をそのまま熱硬化樹脂とし、粘着剤と相溶させ、熱硬化性を有する熱剥離性粘着フィルムを提供するものである。
【0012】
本発明で用いるリグニンの原料に特に制限は無い。スギ、マツ、ヒノキ等の針葉樹、ブナ等の広葉樹、タケ、イネワラ、バガス等が使用される。樹木からリグニンを分離し取り出す方法としては、クラフト法、硫酸法、爆砕法などが挙げられる。現在、多量に製造されているリグニンの多くは、紙やバイオエタノールの原料であるセルロース製造時に残渣として得られる。入手可能なリグニンとしては、主に硫酸法により副生するリグニンスルホン酸塩が挙げられる。他にも、アルカリリグニン、オルガノソルブリグニン、ソルボリシスリグニン、糸状菌処理木材、ジオキサンリグニン及びミルドウッドリグニン、爆砕リグニンなどがある。本発明に用いるリグニンは取り出す方法によらず、リグニンが有機溶媒に可溶であれば上記のリグニンを用いることができる。
【0013】
リグニンを取りだした際、リグニン以外の例えばセルロースやヘミセルロースのような成分が、多少含まれていても良い。また、これらのリグニンをアセチル化、メチル化、ハロゲン化、ニトロ化、スルホン化、硫化ナトリウムや硫化水素との反応等によって作製されたリグニン誘導体も範疇として含む。
【0014】
主原料とするリグニンを取得する方法として、水を用いた分離技術を用いた方法が好ましい。使用するリグニンが、水のみを用いた処理方法により、セルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンであることが好ましい。また、リグニンを取得する方法としては、水蒸気爆砕法がより好ましい。水蒸気爆砕法は、高温高圧の水蒸気による加水分解と、圧力を瞬時に開放することによる物理的破砕効果により、植物を短時間に破砕するものである。
水蒸気爆砕の条件は、特に制限しないが、通常、原料を水蒸気爆砕装置用の耐圧容器に入れ、3〜4MPaの水蒸気を圧入し、1〜15分間放置した後、瞬時に圧力を開放することにより爆砕する。なお、前記有機溶媒可溶リグニンは、水蒸気爆砕リグニンとも表す。また、原料としては、リグニンが抽出できれば特に限定しないが、例えば、スギ、竹、稲わら、麦わら、ひのき、アカシア、ヤナギ、ポプラ、バガス、とうもろこし、サトウキビ、米穀、ユーカリ、エリアンサスなどが挙げられる。この方法は硫酸法、クラフト法など他の分離方法と比較し、硫酸、亜硫酸塩等を用いることなく、水のみを使用するので、クリーンな分離方法である。この方法では、リグニン中に硫黄原子を含まないリグニン、又は、硫黄原子の含有率が少ないリグニンが得られる。通常、リグニン中の硫黄原子の含有率は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。硫黄原子の含有量が増大すると親水性のスルホン酸基が増加するため、有機溶媒への溶解性が低下する。本発明者らは、さらに、爆砕物から有機溶媒でリグニンを抽出することにより、リグニンの分子量を制御し得ることを見出した。
【0015】
本発明で用いるリグニンの抽出に用いる有機溶媒は、1種又は2種以上複数の混合のアルコール溶媒、アルコールと水を混合した含水アルコール溶媒、そのほかの有機溶媒または、水と混合した含水有機溶媒を使用することができる。水にはイオン交換水を使用することが好ましい。水との混合溶媒の含水率は、0〜70質量%が好ましい。リグニンは、水への溶解度が低いため、水のみを溶媒とするとリグニンを抽出することが困難である。また、用いる溶媒を選択することにより、得られるリグニンの重量平均分子量を制御することが可能である。
【0016】
抽出する有機溶媒のアルコールには、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、n−ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクノヘキサノールなどのモノオール系とエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリエタノールアミンなどのポリオールが挙げられる。また、さらに好ましくは、天然物質から得られるアルコールであることが、環境負荷低減化の観点で好ましい。具体的には、天然物質から得たメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、グリセリン、ヒドロキシメチルフルフラールなどが挙げられる。
【0017】
本発明の熱剥離性粘着フィルムは、支持体と、リグニンを含む粘着層から構成され、常温(25℃)で被着体に張り合わせることが可能である。また、加熱することで粘着層の硬化が進行し、剥離性を向上させ粘着力を低下させることが可能である。
【0018】
本発明で用いる支持体としては特に制限はなく、粘着フィルムに一般的に用いられるプラスチックフィルムが好適に用いられ、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、この他、金属シート、紙などであってもよい。支持体の融点が、170℃より低いと粘着層の硬化が十分に進行しないおそれがあるため、融点が170℃以上のフィルムを用いるのが好ましい。
更にこれらの支持体は、粘着層との接着を良くするために、サンドブラスト、コロナ処理、カップリング剤処理、酸化剤などによる化学的処理、下塗り剤(プライマ)の塗布等を行ってもよい。また、熱剥離性粘着フィルムの巻出し性を調整する目的で支持体の背面(支持体の粘着層が塗布されている面の反対の面)に背面処理剤を塗布することや、粘着フィルムの巻出しや被着体からの剥離時の静電気発生を防止する目的で粘着フィルムの背面や支持体と粘着層の間に帯電防止剤を塗布する等を行っても良い。ここでの背面処理剤としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アルキッド樹脂、アルキル基を有する樹脂等の単体や変性体混合物が挙げられる。また、ここでの帯電防止剤としては、例えば第4級アンモニウム塩、ピリジウム塩、第1〜3級アミノ基等のカチオン性基を有する各種カチオン性帯電防止剤、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基等のアニオン性基を有するアニオン系帯電防止剤、アミノ酸系、アミノ酸硫酸エステル系等の両性帯電防止剤、アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系等のノニオン系帯電防止剤等の各種帯電防止剤、更にはこれら帯電防止剤を高分子量化した高分子型帯電防止剤等が挙げられる。また、金属薄膜を形成しても良い。
支持体の厚みは、5〜1000μmであることが好ましく、10〜300μmであることがより好ましい。この厚みが5μm未満では熱剥離性粘着フィルムを剥離する際に当該支持体が破れやすくなる傾向があり、また、上限の1000μmを超える場合を制限するものではないが、取扱い性や作業性に劣るようになる。
【0019】
本発明で用いる硬化剤として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、イソシアネート、アルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物、多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物が挙げられる。
エポキシ樹脂には、ビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールSグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールADグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。また、さらに天然由来物質から得られたエポキシ樹脂であることが環境負荷低減化の観点で好ましい。具体的には、エポキシ化大豆油、エポキシ化脂肪酸エステル類、エポキシ化アマニ油、ダイマー酸変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0020】
本発明で用いる硬化剤のアクリル樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、脂肪酸ビニルエステルから選ばれる一つ以上のモノマーを単独または共重合したものが使用できる。
【0021】
本発明で用いる硬化剤のイソシアネートとしては、脂肪族系イソシアネート、脂環族系イソシアネートおよび芳香族系イソシアネートの他、それらの変性体が挙げられる。脂肪族系イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等が挙げられ、脂環族系イソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネートが挙げられる。芳香族系イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等が挙げられる。イソシアネート変性体としては、例えば、ウレタンプレポリマー、ヘキサメチレンジイソシアネートビューレット、ヘキサメチレンジイソシアネートトリマー、イソホロンジイソシアネートトリマー等が挙げられる。
【0022】
本発明で用いる硬化剤のアルデヒドまたホルムアルデヒドを生成する化合物としては、特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、クロラール、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。また、ホルムアルデヒドを生成する化合物としてはヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。特にヘキサメチレンテトラミンが好ましい。
【0023】
本発明で用いる硬化剤の多価カルボン酸の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族多価カルボン酸や、トリメリット酸、ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族多価カルボン酸が挙げられる。多価カルボン酸無水物の具体例としては、例えば、マロン酸無水物、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、アジピン酸無水物、ピメリン酸無水物、スベリン酸無水物、アゼライン酸無水物、エチルナジック酸無水物、アルケニルコハク酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物等の脂肪族多価カルボン酸無水物や、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、フタル酸無水物等の芳香族多価カルボン酸無水物が挙げられる。多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物が、リグニンが有する水酸基と反応させることにより得られるものであることが好ましい。
【0024】
不飽和多価カルボン酸の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸などが挙げられる。また、不飽和多価カルボン酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、シス−1,2,3,4−テトラヒドロフタル酸無水物などが挙げられる。不飽和多価カルボン酸または不飽和多価カルボン酸無水物が、リグニンが有する水酸基と反応させることにより得られるものであることが好ましい。
【0025】
本発明で用いるベースポリマーとしてアクリル樹脂が挙げられる。例えば、アクリル樹脂としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、脂肪酸ビニルエステルなどから選ばれる一つ以上のモノマーを単独またはアクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸アルキルエーテル、メタクリル酸アルキルエーテルなどと共重合したものが使用できる。また、アクリル系樹脂にカルボキシル基、水酸基、エポキシ基などの架橋性官能基を含んでいても良い。
【0026】
本発明で用いるベースポリマーとして、ウレタン系樹脂が挙げられる。ウレタン樹脂としては、イソシアネートとポリオールが縮合したものであって、イソシアネートとポリウレタンの組み合わせは限定しない。イソシアネートとしては例えば、メチレンジフェニルジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネン・ジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられ、ポリオールとしては例えば、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリブタジエンポリオール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、メチルペンタジオール等が挙げられる。
【0027】
本発明で用いるベースポリマーとして、ゴム系樹脂が挙げられる。ゴム系樹脂としては例えば、イソブチレン、1−ブテン、酢酸ビニル、アクリルエステル、ブタジエン又はイソプレンのホモポリマー又はコポリマー、合成ゴム、イソブチレンとノルマルブチレンとの共重合体、イソブチレンとイソプレンとの共重合体、又はこれらのうちの何れかの共重合体の加硫物や変性物等から選ばれる一つ以上のモノマーを単独または共重合したものが使用できる。また、これらの樹脂に可塑剤を含んでいても良い。
【0028】
前記熱剥離性粘着フィルムは、粘着層を形成するリグニン、硬化剤、ベースポリマーを有機溶媒に溶解又は分散させたワニスを支持体である、例えばフィルムに塗布し、溶媒が揮発することで得られる。ワニスに使用する有機溶媒としては、粘着層成分を溶解できれば特に制限は無く、例えば、アルコール、トルエン、ベンゼン、N−メチルピロリドン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、メチルセロソルブ(エチレングリコールモノメチルエーテル)、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフランなどがあり、これらは二種類以上、混合して用いることができる。
粘着層の厚さは、用途により任意の厚さとすることができ、通常、5〜200μmであることが好ましく、15〜60μmであることがより好ましい。この厚みが5μm未満では工業的に塗工困難な傾向があり、200μmを超えても粘着層の粘着力が変わらない傾向にあり経済的でない。
【0029】
本発明の熱剥離性粘着フィルムの粘着層にはリグニン硬化促進剤を含んでも良い。リグニン硬化促進剤としては、シクロアミジン化合物、キノン化合物、三級アミン類、有機ホスフィン類、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール類などが挙げられる。
【0030】
本発明の熱剥離性粘着フィルムにおいては、必要に応じて各種添加剤成分、タッキファイヤ(粘着付与剤)、可塑剤、無機充填材、有機充填材、軟化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、イオン吸収剤などを配合することもできる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
(リグニンの抽出)
リグニン抽出原料としては、竹を使用した。適当な大きさにカットした竹材を水蒸気爆砕装置の2Lの耐圧容器に入れ、3.5MPaの水蒸気を圧入し、4分間保持した。その後バルブを急速に開放することで爆砕処理物を得た。洗浄液のpHが6以上になるまで得られた爆砕処理物を水により洗浄して水溶性成分を除去した。その後、真空乾燥機で残存水分を除去した。得られた乾燥体:100gに抽出溶媒(アセトン)1000mlを加え、3時間攪拌した後、ろ過により繊維物質を取り除いた。得られたろ液から抽出溶媒(アセトン)を除去し、リグニンを得た。得られたリグニンは常温(25℃)で茶褐色の粉末であった。
【0033】
(リグニンの分析)
溶媒溶解性としては、前記リグニン:1gを、有機溶媒:10mlに加えて評価した。常温(25℃)で容易に溶解した場合は「○」、50〜70℃で溶解した場合は「△」、加熱しても溶解しなかった場合を「×」として、評価した。溶媒群1としてアセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、溶媒群2としてメタノール、エタノール、メチルエチルケトンとして溶解性を評価した結果、溶媒群1ではいずれも「○」、溶媒群2ではいずれも「△」の判定であった。
【0034】
リグニン中の硫黄原子の含有率は、燃焼分解-イオンクロマトグラフ法により定量した。装置は株式会社三菱化学アナリテック製自動試料燃焼装置(AQF−100)及び日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラフ(ICS−1600)を用いた。上記リグニン中の硫黄原子の含有率は0.01質量%であった。さらに示差屈折計を備えたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてリグニンの分子量を測定した。多分散度の小さいポリスチレンを標準試料として用い、移動相をテトラヒドロフランとして使用し、カラムとして株式会社日立ハイテクノロジーズ製ゲルパックGL−A120SとGL−A170Sとを直列に接続して分子量測定を行った。その重量平均分子量は、2400であった。
【0035】
上記で得られたリグニン(有機溶媒可溶リグニン)の水酸基当量は、無水酢酸−ピリジン法により水酸基価、電位差滴定法により酸価を測定し求めた。アセトン抽出竹由来リグニンの水酸基当量は140g/eq.であった。
リグニンのフェノール性水酸基とアルコール性水酸基のモル比(以下P/A比)を以下の方法で決定した。リグニン:2gのアセチル化処理を行い、未反応のアセチル化剤を留去し、乾燥させたものを、重クロロホルムに溶解させ、H−NMR(BRUKER社製、V400M、プロトン基本周波数400.13MHz)により測定した。アセチル基由来のプロトンの積分比(フェノール性水酸基に結合したアセチル基由来:2.2〜3.0ppm、アルコール性水酸基に結合したアセチル基由来:1.5〜2.2ppm)からモル比を決定したところ、P/A比は、2.2/1.0であった。
【0036】
(熱剥離性粘着フィルムの作製例)
熱剥離性粘着フィルムの作製に先立ち、エポキシ樹脂との相溶性を評価した。上記リグニン:4g、アセトン(和光純薬工業株式会社製):3g、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(YDF−8170C、東都化成株式会社製):3gを混合し、25℃で2時間攪拌した。その結果、分離せず、析出物がないことを目視で確認した。
上記リグニン:3g、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(YDF−8170C、東都化成株式会社製):3g、バインゾールR−40(アクリル系溶剤型粘着剤、一方社油脂工業株式会社製):3g、コロネートL(トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートの三量体付加物、日本ポリウレタン株式会社製):0.6gをアセトン:30gに溶解し粘着剤を作製した。前記粘着剤を片面コロナ処理した厚み:100μmポリエチレンテレフタレートフィルムに固形分で15μmとなるよう、バーコーターを用いて塗布した後、60℃で5分乾燥し、熱剥離性粘着フィルムを作製した。なお、粘着剤の不揮発分において、リグニンの含有量は31質量%であった。
【0037】
(タック測定)
タッキング装置(株式会社レスカ製)プローブ直径:5.1mmを用い、上記熱剥離性粘着フィルムのタックを測定した。測定条件は、加圧荷重:10g、加圧速度:1mm/秒、接触時間:1秒、測定速度:2.5秒、25℃で7点測定した。その結果、上記熱剥離性粘着フィルムのタックは0.3Nであった。また、上記熱剥離性粘着フィルムを170℃、30分間加熱した場合についても測定を行った結果、加熱後のタックは0.07Nであった。
【0038】
(粘着力特性)
縦×横、25×100mmのSUS板(SUS304)に上記で得られた熱剥離性粘着フィルムを荷重:10kgのゴムローラーで圧着し、25℃で30分間放置し、試験体を作製した。前記試験体について引張り試験機を用い、剥離離速度:200mm/分、90°剥離測定を行った。その結果、上記熱剥離性粘着フィルムの粘着力は2N/25mmであった。また、圧着後の試験体を170℃、30分加熱し、常温(25℃)になるまで冷却した試験体の粘着力を同様の方法で測定するとその粘着力は、0.01N/25mmであった。
【0039】
(移行性)
5×100mmのSUS板(SUS304)に上記で得られた熱剥離性粘着フィルムを張り合わせ、170℃、2分間、0.5MPaの圧力を加えプレスした。その後、SUS板からフィルムを剥がし、粘着剤がSUS板に残っていないことを確認した。
【0040】
(実施例2)
(リグニンの抽出及び分析)
抽出溶媒としてメタノールを用いた以外は実施例1と同様にしてリグニンを得た。実施例1と同様に元素分析及び分子量測定をした結果、それぞれリグニン中の硫黄原子の含有率は0.2質量%未満、重量平均分子量は1900であった。実施例1と同様に溶媒溶解性を評価した結果、溶媒群1ではいずれも「○」、溶媒群2ではいずれも「○」の判定であった。リグニンのフェノール性水酸基とアルコール性水酸基のモル比(以下P/A比)を実施例1と同様の方法で実施した。実施例2で得られたリグニンのP/A比は、1.6/1.0であった。実施例1と同様に上記で得られたリグニン(有機溶媒可溶リグニン)の水酸基当量を測定した結果、水酸基当量は120g/eq.であった。
【0041】
(熱剥離性粘着フィルムの作製)
実施例2記載のリグニン:3g、バインゾールU−250(ウレタン系粘着剤、一方社油脂工業株式会社製):3g、コロネートL:0.6gをアセトン:20gに溶解し粘着剤を作製した。前記粘着剤を片面コロナ処理した厚み:100μmポリエチレンテレフタレートフィルムに固形分で15μmとなるよう、バーコーターを用いて塗布し、60℃で5分乾燥し、熱剥離性粘着フィルムを作製した。なお、粘着剤の不揮発分において、リグニンの含有量は、45質量%であった。
【0042】
(タック測定)
実施例1と同様にしてタック強度を調べた。その結果、上記熱剥離性粘着フィルムのタックは0.5Nであり、加熱後のタックは0.02Nであった。
【0043】
(粘着力特性)
実施例1と同様にして粘着力特性を調べた。その結果、上記熱剥離性粘着フィルムの粘着力は4N/25mmであり、加熱後の粘着力は0.2N/25mmであった。
【0044】
実施例1と同様にして移行性を調べた。その結果、SUS板に粘着剤が残っていないことを確認した。
【0045】
(比較例1)
(熱剥離性粘着フィルムの作製)
リグニンとしてリグニンスルホン酸塩(バニレックスN、高純度部分脱スルホンリグニンスルホン酸ナトリウム、日本製紙株式会社製)を用い、粘着フィルムの作製を試みた。粘着フィルムの作製に先立ち、実施例1と同様に有機溶媒への溶解性を評価した。溶媒としてアセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、メチルエチルケトンを用いて溶解性を評価した結果、すべての溶媒に不溶であった。
【0046】
粘着剤の作製に先立ち実施例1と同様にエポキシ樹脂との相溶性を評価した。前記リグニンスルホン酸:1g、シクロヘキサノン:1g、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(YDF−8170C):1gを混合し、常温(25℃)で2時間攪拌した。その結果、リグニンスルホン酸とエポキシ樹脂が相分離し、粘着剤を作製できなかった。
【0047】
(比較例2)
(熱剥離性粘着フィルムの作製)
リグニンとしてリグニンスルホン酸塩(サンエキスP321、リグニンスルホン酸マグネシウム、日本製紙株式会社製)を用いた以外は比較例1と同様に粘着フィルムの作製を試みた。粘着フィルムの作製に先立ち、比較例1と同様に有機溶媒への溶解性を評価した結果、すべての溶媒に不溶であった。
エポキシ樹脂との相溶性を評価した結果、リグニンスルホン酸とエポキシ樹脂が相分離し、粘着剤を作製できなかった。
【0048】
実施例1、2及び比較例1、2の結果を纏めて表1に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
有機溶媒に可溶であるリグニンを用いることで、硬化剤やベースポリマーとの相溶性が増し、また、有機溶媒に溶解させることができ、十分な粘着力を有する粘着層を形成でき、加熱硬化することで粘着力が低下し、容易に剥離することができる。そして、この粘着剤を被着体に貼付け、加熱して剥がしても、粘着成分が被着体表面に残ることのない良好な剥離性を示す。さらに、植物性資源であるリグニンを主成分とした粘着層であり、環境に優しく、従来は、利用価値があるにも関わらず、焼却処理されているリグニンを有効活用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンと硬化剤およびベースポリマーからなる粘着層と、支持体から構成され、前記粘着層が加熱により硬化することを特徴とする熱剥離性粘着フィルム。
【請求項2】
リグニンが有機溶媒に可溶であり、粘着層にリグニンを10〜90質量%含む請求項1に記載の熱剥離性粘着フィルム。
【請求項3】
リグニンの重量平均分子量が、100〜7000である請求項1または請求項2に記載の熱剥離性粘着フィルム。
【請求項4】
リグニン中の硫黄原子の含有率が、2質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
【請求項5】
リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである請求項1〜4のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
【請求項6】
リグニンが、植物原料に水蒸気を圧入し、圧力を開放することで植物原料を爆砕する水蒸気爆砕法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである請求項1〜5のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
【請求項7】
硬化剤が、エポキシ樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
【請求項8】
硬化剤が、アクリル樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
【請求項9】
硬化剤が、イソシアネートである請求項1〜6のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
【請求項10】
硬化剤が、アルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
【請求項11】
硬化剤が、多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物から1つないし2つ以上選択されたものである請求項1〜6のいずに記載の熱剥離性粘着フィルム。
【請求項12】
ベースポリマーが、アクリル樹脂である請求項1〜11のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
【請求項13】
ベースポリマーが、ゴム系樹脂である請求項1〜11のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。
【請求項14】
ベースポリマーが、ウレタン系樹脂である請求項1〜11のいずれかに記載の熱剥離性粘着フィルム。

【公開番号】特開2012−121938(P2012−121938A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271385(P2010−271385)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】