説明

熱収縮性ポリエステル系フィルムおよび熱収縮性ラベル

【課題】本発明は、優れた熱収縮性を有するとともに、溶剤接着性に優れ、印刷やラベル加工などの後工程の際、破断トラブルが少なく、さらに長期間フィルムを保存した場合でも、優れた耐破れ性を有する熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することを課題とするものである。
【解決手段】全ポリエステル樹脂成分中、エチレンテレフタレート単位が72モル%未満であるポリエステル樹脂からなる層(A)が、全ポリエステル樹脂成分中、エチレンテレフタレート単位が70モル%以上であるポリエステル樹脂からなる層(B)の両外層側に位置し、かつ、95℃の温水中に10秒間浸漬した際の最大収縮方向の熱収縮率が50%以上であり、非塩素系有機溶剤で接着可能であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、さらに詳しくはラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルム、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱収縮性プラスチックフィルムは、加熱によって収縮する性質を利用して、収縮包装、収縮ラベル、キャップシールなどの用途に広く用いられている。中でも、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの延伸フィルム
は、ポリエチレンテレフタレート(PET)容器、ポリエチレン容器、ガラス容器などの各種容器において、ラベルやキャップシールあるいは集積包装の目的で使用されている。
【0003】
しかしポリ塩化ビニル系フィルムは、耐熱性が低い上に、焼却時に塩化水素ガスを発生したり、ダイオキシンの原因となる等の問題を抱えている。また、熱収縮性塩化ビニル系樹脂フィルムをPET容器等の収縮ラベルとして用いると、容器をリサイクル利用する際に、ラベルと容器を分離しなければならないという問題がある。
【0004】
一方、ポリスチレン系フィルムは、収縮後の仕上がり外観性が良好な点は評価できるが、耐溶剤性に劣るため、印刷の際に特殊な組成のインキを使用しなければならない。また、最近ホット用飲料PETボトルラベルで熱収縮性フィルムが使用されているが、ホットウォーマー等加温設備で保管された場合、熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、高温となった熱線等に接触すると瞬時に収縮ラベルが溶けてしまうという問題がある。さらに、ポリスチレン系樹脂は、高温で焼却する必要がある上に、焼却時に多量の黒煙と異臭が発生するという問題がある。
【0005】
これらの問題のない(耐溶剤性、耐熱性、環境適性に優れる)ポリエステル系フィルムは、ポリ塩化ビニル系フィルムや、ポリスチレン系フィルムに代わる収縮ラベルとして非常に期待されており、PET容器の使用量増大に伴って、使用量も増加傾向にある。
【0006】
しかし、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムも、その収縮特性においてはさらなる改良が求められていた。収縮率を確保するために延伸度合いを高めると、収縮方向に直交する方向でフィルムが破断し易くなって、印刷工程やラベル加工工程、あるいは収縮後のフィルムの破断トラブルが起こることがある。この破断トラブルは、30℃以上の比較的高温雰囲気下で長期間保管した場合に起こり易く、この破断トラブルについても改善が嘱望されていた。
【0007】
特許文献1に開示されているように、エチレンテレフタレートユニットの含有量を増加させたポリエステルフィルムは強靭になり、破れにくくなり、また、降伏点応力が増加し、容器等に装着した際、容器への密着性が得られる。
【特許文献1】特開平9−239833号公報
【0008】
ところで、熱収縮性フィルムを実際の容器の被覆加工に用いる際には、必要に応じて印刷工程を施した後、ラベル(筒状ラベル)、チューブ等の形態に加工して、これらの加工フィルムを容器に装着し、熱収縮させて容器に密着装着させている。このチューブ加工の際ポリエステル系フィルムの組成によっては接着性が不足するという問題が出る場合が少なくなかった。
【0009】
熱収縮性ポリエステル系フィルムからラベルを製造する場合、溶剤を用いて接着することが多い。この接着のためには、1,3−ジソキソラン、テトラヒドロフラン等の溶剤をフィルムの片面に塗布、該塗布面にフィルムの他方の面を圧着した際に接着可能であることが好ましい。この接着強度が不足の場合、ラベルの熱収縮装着時、または飲料ボトル取扱時にラベル装着部の剥離が発生する恐れがある。しかし、エチレンテレフタレートユニットの含有量を増加させると、非塩素系溶剤(1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン等)の溶剤の塗布、圧着による溶剤接着性を低下させる傾向がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた熱収縮性を有するとともに、溶剤接着性に優れ、印刷やラベル加工などの後工程の際、破断トラブルが少なく、さらに長期間フィルムを保存した場合でも、優れた耐破れ性を有する熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、全ポリエステル樹脂成分中、エチレンテレフタレート単位が72モル%未満であるポリエステル樹脂からなる層(A)が、全ポリエステル樹脂成分中、エチレンテレフタレート単位が70モル%以上であるポリエステル樹脂からなる層(B)の両外層側に位置し、95℃において最大収縮方向の温湯収縮率が50%以上で、最大収縮方向に対して直交する方向の熱収縮率が4%以上であり、非塩素系有機溶剤で接着可能であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムである。
すなわち、全ポリエステル樹脂成分中エチレンテレフタレート単位が72モル%未満であるポリエステル樹脂混合物(A’)および、全ポリエステル樹脂成分中エチレンテレフタレート単位が70モル%以上である樹脂混合物(B’)を2台の押し出し機を用いて溶融、共押出しすることにより、(A)が外層、(B)が内層となるよう積層し、少なくとも2種3層とした未延伸ポリエステル系フィルムを得、一軸延伸、又は、二軸延伸することにより得られる、熱収縮性ポリエステル系フィルムおよびその製造方法であり、ラベルとして使用する際に溶剤接着性、加工適正に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することができる。
【0012】
また、前記「最大収縮方向」とは、試料の最も多く収縮した方向を意味し、最大収縮方向の熱収縮率は、正方形の試料の縦方向または横方向の収縮率で決められる。すなわち最大収縮方向の熱収縮率(%)は、10cm×10cmの試料を95℃±0.5℃の水中に無荷重状態で10秒間浸漬した後、フィルムの縦および横方向の長さを測定することにより、下記式により求めることができる。
熱収縮率(%)=100×(収縮前の長さ−収縮後の長さ)÷(収縮前の長さ)
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、優れた熱収縮特性や溶剤接着性を有すると共に収縮仕上がり性にも優れ、さらに長期間フィルムを保存した場合でも優れた耐切断性を保持することができるので、収縮ラベル、キャップシール、収縮包装等の用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を95℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率が、50%以上でなければならない。フィルムの熱収縮率が50%未満であると、フィルムの熱収縮率が不足して、容器などに被覆収縮させたときに、容器に密着せず、外観不良が発生するため好ましくない。より好ましい熱収縮率は52%以上、さらに好ましくは55%以上である。また、熱収縮率が必要以上に高くなりすぎると、容器に被覆収縮させたときに、急激な収縮によりラベルの飛び上がり等の概観不良が発生する。熱収縮率は80%以下が好ましく、より好ましくは78%以下、さらに好ましくは76%以下である。また、75℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率が20%以上でなければならない。フィルムの熱収縮率が20%未満であると、容器に被覆収縮させたときに、低温では収縮率が不足するために収縮不足となり、過度に高温にする必要があり、またその場合には高温で急激に収縮し、皴や収縮斑が出来やすくなり好ましくない。より好ましい熱収縮率は25%以上、さらに好ましくは30%以上である。また、熱収縮率が必要以上に高くなりすぎると、低温でも急激に収縮するためによりラベルの飛び上がり等の概観不良が発生する。熱収縮率は45%以下が好ましく、より好ましくは43%以下、さらに好ましくは41%以下である。
【0015】
95℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向に対して直交する方向の熱収縮率は4%以上であり、5%以上がより好ましい。最大収縮方向に対して直交する方向の熱収縮率が4%未満であると、容器の形状が立体的であるとラベルの装着時に緩みが発生したり、横皺が入りやすく好ましくない。最大収縮方向に対して直交する方向の熱収縮率の上限値は11%以下が好ましく、9%以下がより好ましい。該熱収縮率が前記の好ましい上限値を超えると、収縮時にラベルのタテヒケが大きくなる欠点が発生する。
【0016】
90℃での主収縮方向の収縮応力の最大値は12MPa以下であり、10MPa以下がより好ましい。12MPa以上になると容器の締め付けが強くなりすぎ、液面が上昇し蓋を開けた際に吹きこぼれたりする可能性がある。また4MPa以下になると締め付けが弱くなりすぎ、容器の形状によっては空回りが起きるので好ましくない。より好ましくは4.5MPa以上である。
【0017】
また、本発明では、非塩素系溶剤で接着可能であることが好適である。ラベルは、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの最大収縮方向が円周方向となるようにフィルムを筒状に丸めて端部同士を接着し、チューブ状体を作成し、これをさらに所定長さに切断することで作成される。接着用の溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;フェノール等のフェノール類;テトラヒドロフラン等のフラン類;1,3−ジオキソラン等のオキソラン類等の有機溶剤が用いられるが、塩素原子等のハロゲンに起因する有毒物質の発生を考慮して、非塩素系有機溶剤で接着可能であることが好ましく、中でも、安全性の観点から、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランを使用することが望ましい。
【0018】
前述のフィルムの主収縮方向および主収縮方向と直交する方向の適正な熱収縮率とフィルムの非塩素系溶剤での接着性は、後述の好ましい原料組成、積層構成、製膜条件を採用することにより確保することが可能である。
【0019】
次に、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの好ましい組成を説明する。本発明の主構成成分となるポリエステルは、エチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、エチレンイソフタレート等が挙げられるが、中でもフィルムの耐破れ性、耐熱性、収縮仕上り性、コスト等の観点よりエチレンテレフタレートを主構成成分とし、後述する他のモノマー成分を含有させることが好ましい。該ポリエステルを構成する他のジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸又はそれらのエステル形成誘導体、又は脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸などが利用可能である。芳香族ジカルボン酸として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−1,4―もしくは−2,6−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。またこれらのエステル誘導体としてはジアルキルエステル、ジアリールエステル等の誘導体が挙げられる。また脂肪族ジカルボン酸としては、ダイマー酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸等が挙げられ、脂環族ジカルボン酸としては1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また、p−オキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の多価のカルボン酸を、必要に応じて併用してもよい。
【0020】
本発明で使用するポリエステルを構成するジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどのアルキレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノール化合物又はその誘導体のアルキレンオキサイド付加物などのエーテルグリコール類、ダイマージオールなどが含まれる。3価以上のアルコールには、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどが含まれる。前記多価アルコール成分のうち、ネオペンチルグリコール成分や1,4−シクロヘキサンジメタノール成分などはフィルムを非晶化するために有用な成分であり、フィルムの熱収縮性を高めることができるので使用することが好ましい。好ましい使用量はフィルム全体のジオール成分量100モル%に対して5モル%から40モル%、より好ましくは10モル%から35モル%であり、両外層(A)中には溶剤接着性確保の点から18モル%から40モル%、より好ましくは20モル%から35モル%である。また、1,4−ブタンジオール成分、1,3-プロパンジオール成分などは、フィルムのガラス転移温度を低下させ、低温でも熱収縮可能にするのに有用な成分である。これらのガラス転移温度を低下させる成分を含有させるのが本発明の好ましい実施様態で、特に1,4−ブタンジオール成分をフィルム全体のジオール成分量100モル%に対して好ましくは2モル%以上、より好ましくは4モル%以上、さらに好ましくは6モル%以上を含有させることが好ましい。
【0021】
本発明で使用するポリエステル組成物には、さらに、熱収縮性フィルムの易滑性を向上させるために、例えば、二酸化チタン、微粒子状シリカ、カオリン、炭酸カルシウムなどの無機滑剤、また例えば、長鎖脂肪酸エステルなどの有機滑剤を含有させるのも好ましい。
【0022】
本発明熱収縮性ポリエステル系フィルムは滑剤として無機粒子、有機塩粒子や架橋高分子粒子を添加することができる。
【0023】
無機粒子としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、フッ化リオチウム等が挙げられる。
【0024】
特に、良好なハンドリング性を得た上に更にヘーズの低いフィルムを得るためには無機粒子としては1次粒子が凝集してできた凝集体のシリカ粒子が好ましい。
【0025】
有機塩粒子としては、蓚酸カルシウムやカルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩等が挙げられる。
【0026】
架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸またはメタクリル酸のビニル系モノマーの単独又は共重合体が挙げられる。その他ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子を用いても良い。
【0027】
上記滑剤の添加方法としては、フィルム原料として使用するポリエステルの重合工程中で該滑剤を分散する方法、又は重合後のポリエステルを再度溶融させて添加する方法等が挙げられる。フィルムロール中に均一に該滑剤を分散させるためには、前述のいずれかの方法でポリエステル中に滑剤を分散させたあと、滑剤を分散させたポリマーチップの形状を合わせてホッパー内での原料偏析の現象を抑止することが好ましい。ポリエステルを例にとると、重合後に溶融状態で重合装置よりストランド状で取り出され、直ちに水冷された後ストランドカッターでカットされたポリエステルのチップは底面を楕円形とする円筒状の形状となるが、楕円状底面の長径、短径及び円筒状の高さのそれぞれの平均サイズが、最も使用比率の高い原料種のチップサイズ±20%以内の範囲である異種の原料チップをもちいることが好ましく、前記サイズが±15%以内の範囲内であることがより好ましい。
【0028】
また、必要に応じて紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、抗菌剤等を添加することもできる。なおフィルムを形成する為の好ましい固有粘度は限定されるものではないが通常0.30〜1.30dl/gである。
【0029】
上記原料組成物に含有されるポリエステルは、上記酸成分およびジオール成分とからなるものであるが、ポリエステルを調整するには、熱収縮性フィルムとしての特性を改良するために1種以上の酸成分またはジオール成分を組み合わせて用いることが好ましく、組み合わされるモノマー成分の種類および含有量は、所望のフィルム特性、経済特性に基づいて適宜決定される。
原料組成物には、1種もしくはそれ以上のポリエステルが含有される。2種以上のポリエステルを混合する場合には、共重合ポリエステルおよびホモポリエステルの所望組成の混合物とする。一般に共重合ポリエステルは融点が低いため、乾燥時の取り扱いが難しい等の問題があるので、ホモポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキセンジエチレンテレフタレート)等)と共重合ポリエステルを混合して用いることが好ましい。
好適な実施形態としては、エチレンテレフタレートユニット、およびネオペンチルグリコールとテレフタル酸からなるユニット、1,4−シクロヘキサンジメタノールとテレフタル酸ユニット、ブチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、エチレンイソフタレートのいずれか1種以上を含有するポリエステルで、より好適な実施形態としては、エチレンテレフタレート、及びネオペンチルグリコールとテレフタル酸からユニット又は、1,4−シクロヘキサンジメタノールとテレフタル酸からなるユニット、及び、ブチレンテレフタレートユニット、またはプロピレンテレフタレートユニットを含有することが挙げられる。
エチレンテレフタレートユニットの含有量を増加させたときのフィルム物性に与える影響としては、フィルムを強靭にし、破れにくくする効果が挙げられる。また、降伏点応力を増加させ、容器等に装着した際、容器への密着性が得られる。しかし、増加させることにより、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン当の溶剤の塗布、圧着による溶剤接着性を低下させる傾向がある。
【0030】
本発明においては前途の構成成分を使用できるが、フィルム全体に対するエチレンテレフタレートユニット単位が70モル%以上であることが必要である。エチレンテレフタレート単位を70モル%以上とすることにより、前途のフィルムを強靭にして降伏点応力を増加する効果が得られフィルムの加工安定性を高めることができる。エチレンテレフタレート単位は71%モル以上が好ましく、72モル%以上がより好ましい。エチレンテレフタレート単位の上限は特に制限されないが、溶剤接着性や適正な熱収縮率を確保する観点から80モル%以下が好ましい。エチレンテレフタレート単位は79モル%以下が好ましく、78モル%以下がより好ましい。
【0031】
さらに本発明においてはフィルムの一方の面と他方の面が溶剤接着可能であることが好ましい。溶剤接着性は前途のフィルム組成と後述の層構成、製膜方法等により確保できる。なお本発明において溶剤接着可能であるとは、実施例の評価方法において溶剤接着強度が3N/15mm以上であることを意味する。
【0032】
さらに本発明においては、温度30℃、相対湿度85%の環境下で、フィルムを2週間保存後、JIS K7127に準じ、保存後のフィルムの最大収縮方向と直交する方向での引張試験を行った時の全試験片数(20個)に対する伸度5%以下の試験片数の百分率が10%以下であることが好ましい。5%以下がより好ましく、0%がさらに好ましい。上記特性範囲とすることで、フィルムを長期間保管後も加工時に破断等の不良を発生することのない、加工安定性を得ることができる。
【0033】
さらに本発明においては、JIS K7127に準じ、フィルムの最大収縮方向において引張り試験をおこなった時の引張り応力−歪み曲線における降伏点応力値が5.0MPa以上であることが好ましい。降伏点応力値を5.0MPa以上とすることにより、容器等へ装着した際、容器への密着性が得られる。降伏点応力値は5.5MPa以上が好ましく、6.0MPa以上がさらに好ましい。
【0034】
さらに本発明においては、全ポリエステル樹脂成分中、エチレンテレフタレート単位が72モル%未満であるポリエステル樹脂からなる層(A)をフィルム両面外層側に有し、全ポリエステル樹脂成分中、エチレンテレフタレート単位が70モル%以上であるポリエステル樹脂からなる層(B)を内層側に有する少なくとも3層以上の積層構成であることが必要である。
【0035】
前記(A)層におけるエチレンテレフタレート単位は69モル以下、さらには68モル以下が好ましく、(B)層におけるエチレンテレフタレート単位は72モル%以上、さらには74モル%以下が好ましい。
【0036】
好ましい積層構成は(A)/(B)/(A)である。(A)層と(B)層の厚みの比率は25/50/25から10/80/10が好ましい。(B)層の厚みが50%未満では、耐破れ性、強度、耐熱性等が不足するため好ましくない。また、B)層の厚みが80%を超えると溶剤接着強度が低下するために好ましくない。
【0037】
該ポリエステルの製造法は特に限定しないが、ジカルボン酸類とグリコール類とを直接反応させ得られたオリゴマーを重縮合する、いわゆる直接重合法、ジカルボン酸のジメチルエステル体とグリコールとをエステル交換反応させたのちに重縮合する、いわゆるエステル交換法などが挙げられ、任意の製造法を適用することができる。
【0038】
本発明に用いるポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、又は真空乾燥機を用いて乾燥し、200〜300℃の温度でフィルム状に押し出す。あるいは、未乾燥のポリエステル原料をベント式押し出し機内で水分を除去しながら同様にフィルム状に押し出す。この際に前述の、ポリマー成分の組成変動を低減する策を講じることが好ましい。押し出しに際してはTダイ法、チューブラ法等、既存のどの方法を採用しても構わない。押し出し後急冷して未延伸フィルムを得る。該未延伸フィルムに対して延伸処理を行うが、本発明の目的を達成するには主収縮方向としては横方向が実用的であるので以下主収縮方向が横方向である場合の製膜法の例を示すが、主収縮方向を縦方向とする場合も下記方法における延伸方向を90度変えるほか通常の操作に準じて製膜することができる。
【0039】
また、目的とする熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚み分布を均一化させることに着目すれば、テンターを用いて横方向に延伸する際、延伸工程に先立って実施される予備加熱工程では熱伝導係数を0.0013カロリー/cm2・sec・℃以下の低風速でTg−20℃〜Tg+60℃までのフィルム温度になるまで加熱を行うことが好ましい。横方向の延伸はTg−30℃〜Tg+40℃の温度、さらに好ましくはTg−25℃〜Tg+35℃の温度で、2.3〜7.3倍、好ましくは3.5〜6.0倍延伸する。しかる後、60℃〜8℃の温度で、0〜15%の伸張あるいは0〜15%の緩和をさせながら熱処理し、必要に応じて40℃〜100℃の温度でさらに熱処理をして熱収縮性ポリエステル系フィルムを得る。この横延伸工程において、前述の工程での温度変動を抑止する策を講じることが好ましい。
【0040】
延伸の方法としては、テンターでの横1軸延伸ばかりでなく、縦方向に1.03倍以上、好ましくは1.05倍〜1.2倍の延伸を施すことである。該2軸延伸では、逐次2軸延伸、同時2軸延伸のいずれでもよく、必要に応じて再延伸を行ってもよい。また、逐次2軸延伸においては延伸の順序として、縦横、横縦、縦横縦、横縦横等のいずれの方式でもよい。これらの縦延伸工程あるいは2軸延伸工程を採用する場合においても、横延伸と同様に、予備加熱工程、延伸工程等においてある定位置において測定されるフィルム表面温度の変動が、本発明のフィルムロールのフィルム巻き長に相当する流れ方向の距離の範囲内において(平均温度)±1℃以内であることが好ましく、(平均温度)±0.5℃以内であればさらに好ましい。延伸に伴うフィルムの内部発熱を抑制し、巾方向のフィルム温度斑を小さくする点に着目すれば、延伸工程の熱伝達係数は0.0037J/cm2・sec・℃以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.00544〜0.00837J/cm2・sec・℃の条件がよい。
【0041】
さらに、前述の延伸条件のうち、予備加熱工程および延伸工程での熱伝達係数を上記の好ましい範囲内とすることにより、前述のフィルムの主収縮方向および主収縮方向と直交する方向の熱収縮率とフィルムの非塩素系溶剤での接着性をより適正な範囲に制御することが容易となる。
【実施例】
【0042】
次に、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例に限定されるものではない。 また、実施例及び比較例で得られたフィルムの物性の測定方法を下記に示す。
【0043】
(1)組成
試料(チップ又はフィルム)をクロロホルムD(ユーソリップ社製)とトリフルオロ酢酸D1(ユーソリップ社製)を10:1(体積比)で混合した溶媒に溶解させて、試料溶液を調整し、NMR(「GEMINI−200」;Varian社製)を用いて、温度23℃、積算回数64回の測定条件で試料溶液のプロトンのNMRを測定した。NMR測定によるプロトンのピーク強度に基づいて、試料を構成するモノマーの構成比率を算出した。
【0044】
(2)熱収縮率
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、測定温度±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒浸漬してから、試料の縦および横方向の長さを測定し、下記式に従い熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=(収縮前の長さ−収縮後の長さ)÷収縮前の長さ×100
【0045】
(3)降伏点応力
TENSILON/UTM−IIIL(TOYO MEASRING INSTRMENTS CO.LTD)を用いて、フィルムの主延伸方向(最大収縮方向)と直交する方向において、雰囲気温度23℃、チャック間を100mmとして、幅15mmのフィルム試験片を引張速度200mm/分で引張り試験をおこない、応力−歪み曲線を作成した。
【0046】
(4)耐破れ性
温度30℃、相対湿度85%の環境下でフィルムを2週間保存する。JIS K7127に準じ、保存後のフィルムの最大収縮方向と直交する方向についての引張り試験を行う。試験変片数は20とした。試験片長さ200mm、チャック間距離100mm、試験片幅15mm、温度23℃、引張速度200mm/分の条件でおこなった。伸度5%以下で破断した試験変数を数え、全試験片数(20)に対する百分率を求め、耐破れ性(%)とした。
【0047】
(5)溶剤接着性
延伸したフィルムに1,3−ジオキソランを綿棒で塗布量(5±0.3)g/m2、塗布幅5±1mmで塗布して2枚張り合わせることでシールを施した。シール部をフィルムの主延伸方向(最大収縮方向)の直角方向に15mmの幅に切り取り、それを(株)ボールドウィン社製 万能引張試験機 STM−50にセットし、90°剥離試験で引張速度200mm/分で測定した。
【0048】
(6)熱収縮応力
東洋精機(株)製テンシロン(加熱炉付き)強伸度測定機を用い、熱収縮性フィルムから主収縮方向の長さ200mm、幅20mmのサンプルを切り出し、チャック間100mmで、予め90℃に加熱した雰囲気中で送風を止めて、サンプルをチャックに取り付け、その後速やかに加熱炉の扉を閉め送風(吹き出し風速5m/秒)を開始した時に検出される応力を測定し、チャートから求まる最大値を熱収縮応力(MPa)とした。
【0049】
(ポリエステルの合成)
(合成例1)
撹拌機、温度計及び部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブにジカルボン酸成分として、ジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分として、エチレングリコール(EG)100モル%を多価アルコールがモル比でメチルエステルの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル(酸成分に対して)、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.025モル%(酸成分に対して)添加し、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、280℃で26.7Paの減圧条件のもとで重縮合反応を行い固有粘度0.75dl/gのポリエステル(A)を得た。組成を表1に示す。
【0050】
(合成例2〜3)
合成例1と同様な方法により、表1に示すポリエステル(B)〜(C)を得た。なお、表中、NPGがネオペンチルグリコール、BDが1,4−ブタンジオール、DEGがジエチレングリコールである。それぞれのポリエステルの固有粘度は、(B):0.77dl/g、(C):0.72dl/gであった。各ポリエステルをチップ状にした。各合成例の組成を表1に示す。
【0051】
なお、無機滑剤は、全てポリエステル(A)中に使用する無機滑剤をポリエステル(A)中に0.7質量%添加したマスターバッチを作成して必要量使用した。該滑剤の添加方法は、あらかじめエチレングリコール中に該滑剤を分散し、上記方法にて重合する方法を採った。
【0052】
【表1】

【0053】
(実施例1)
各々別個に予備乾燥された表1に示すポリエステルAを15wt%、Bを75wt%、Cを10wt%を混合したポリエステル組成物(A)と、ポリエステルAを65wt%、Bを25wt%、Cを10wt%を混合したポリエステル組成物(B)をそれぞれ別の2台の押出し機に供給、275℃で溶融押出しし、マルチマニホールドダイ方式により(A)層が外層、(B)層が内層となるよう、厚み1:2:1の割合で積層、2種3層として押出し、表面温度25℃のチルロール上で急冷して、厚さ180μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを、連続的にテンターに導きフィルム温度が70℃になるまで予備加熱した後、温度78℃で横方向に4.0倍延伸した。次いで80℃にて14秒間熱処理を行って、厚さ45μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。このとき、予備加熱工程での熱伝達係数は0.0009カロリー/cm2・sec・℃、延伸工程での熱伝達係数は0.0056J/cm2・sec・℃であった。得られたフィルムの物性値を表2に示す。
【0054】
(実施例2)
各々別個に予備乾燥された表1に示すポリエステルAを20wt%、Bを70wt%、Cを10wt%を混合したポリエステル組成物(A)と、ポリエステルAを60wt%、Bを30wt%、Cを10wt%を混合したポリエステル組成物(B)をそれぞれ別の2台の押出し機に供給したものとした他は実施例1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0055】
(比較例1)
ポリエステル組成物(A)、(B)いずれも、ポリエステルAを65wt%、Bを25wt%、Cを10wt%を混合したものとした他は実施例1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
このフィルムの物性値を表2に示す。
【0056】
(比較例2)
ポリエステル組成物(A)、(B)いずれも、ポリエステルAを15wt%、Bを75wt%、Cを10wt%を混合したものとした他は実施例1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
このフィルムの物性値を表2に示す。
【0057】
(比較例3)
ポリエステル組成物(A)、(B)いずれも、ポリエステルAを40wt%、Bを50wt%、Cを10wt%を混合したものとした他は実施例1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
このフィルムの物性値を表2に示す。
【0058】
(比較例4)
(A)層が外層、(B)層が内層となるよう、厚み4:42:4の割合で積層した他は実施例1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
このフィルムの物性値を表2に示す。
【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、外観を良好に維持したうえ、ラベル加工などの加工適性に優れ、ラベルとして使用する際に優れた溶剤接着性を有しており、さらに長期間フィルムを保存した場合でも、耐破れ性に優れ、ラベル用途に好適で工業上利用価値の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全ポリエステル樹脂成分中、エチレンテレフタレート単位が72モル%未満であるポリエステル樹脂からなる層(A)をフィルム両面外層側に有し、全ポリエステル樹脂成分中、エチレンテレフタレート単位が70モル%以上であるポリエステル樹脂からなる層(B)を内層側に有する少なくとも3層以上の構成からなるフィルムで、かつ、95℃の温水中に10秒間浸漬した際の最大収縮方向の熱収縮率が50%以上で、最大収縮方向に対して直交する方向の熱収縮率が4%以上であり、非塩素系有機溶剤で接着可能であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
温度30℃、相対湿度85%の環境下で、フィルムを14日間保存後、JIS K7127に準じ、保存後の知る無の最大収縮方向に対して直交する方向において引張試験を行ったときの伸度5%以下の試験片数が、全試験片数(20個)に対する百分率が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
JIS K7127に準じ、フィルムの最大収縮方向に対する直交方向において引張り試験を行なったときの引張り応力−歪み曲線における降伏点応力値が5.0MPa以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
75℃の温水中に10秒間浸漬した際の最大収縮方向の熱収縮率が20%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。
【請求項5】
90℃での主収縮方向の収縮応力の最大値が12MPa以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムより作成された熱収縮性ラベル。

【公開番号】特開2007−90605(P2007−90605A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281424(P2005−281424)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】