説明

熱収縮性空孔含有フィルム

【課題】 生分解性を有し、かつ、比重が1未満である熱収縮性空孔包含フィルムを提供すること。
【解決手段】本発明の熱収縮性空孔包含フィルムは、(A)乳酸系樹脂と、(B)乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂とを、(A):(B)=95〜60質量%:5〜40質量%配合した樹脂組成物を用いてなるフィルムを少なくとも1方向に延伸し、嵩比重が0.50〜0.99である。ここで、乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂(B)は、80℃における貯蔵弾性率が0.25GPa〜2GPaであるポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック容器、特に飲料用ペットボトル等に被覆される収縮ラベル等の用途に用いられる熱収縮性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは今や日常生活、産業等のあらゆる分野において広く浸透しており、全世界のプラスチックの年間生産量が約1億トンにも達している。この生産されたプラスチックの大半は使用後廃棄されており、これが地球環境を乱す原因の一つとして認識されるようになった。
【0003】
近年、環境対策の一環として、プラスチック容器、特に清涼飲料用として用いられているポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することもある)容器を分別回収して再資源化するという、PETのリサイクル化が活発に行われるようになってきた。廃プラスチックをリサイクルする際、材質の異なるプラスチックを分別するために、水に対する浮力差を利用した液比重分離法、または、廃プラスチックの比重差を利用した風力比重分離法が用いられている。現在、PET等のプラスチック容器の収縮包装、収縮ラベル、キャップシール等に広く使用されている熱収縮性フィルムの材質としては、ポリ塩化ビニル(以下、「PVC」と略称することがある)系樹脂、ポリスチレン(以下、「PS」と略称することがある)系樹脂、又はPET系樹脂が挙げられる。例えばPS系樹脂からなる熱収縮性フィルムが装着されたPET容器を液比重分別しようとしても、PET系樹脂の比重は約1.4であり、PS系樹脂の比重は1.03〜1.06であって、両者とも水より重いため、PET容器とPS系樹脂からなる熱収縮性フィルムとは共に水中に沈みPET容器を分離することができない。
【0004】
このため、比重が1.0未満の熱収縮性フィルムが求められている。例えば特開2002−194110号公報には、比重が1.0未満のアイオノマー樹脂等のポリオレフィン系樹脂を用いた熱収縮性フィルムが開示されている。この公報によれば、PET容器との分別は可能となるが、分別された熱収縮性フィルムはゴミとなり、埋立地の短命化を促進したり、自然の景観や野生動植物の生活環境を損なうといった環境問題を生じる。そのため、廃棄されても地球環境に悪影響を与えない熱収縮性フィルムが求められている。
【0005】
また、ポリオレフィン等のプラスチックの原料である石油等は枯渇性資源であるので、再生可能資源の活用が求められるようになった。例えば、植物原料プラスチックは、再生可能な非枯渇性資源を利用して得られるので、石油等枯渇性資源の節約を図ることができる。しかも、分解して自然に戻り、優れた生分解性を備えている。
【0006】
植物原料プラスチックの中でも乳酸系樹脂は、澱粉の発酵により得られる乳酸を原料とし、化学工学的に量産可能であり、かつ、透明性、剛性、耐熱性等に優れている。そのため、特に乳酸系樹脂は、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の代替材料として、フィルム包装材料分野や射出成形分野において注目されている。
そこで、熱収縮性フィルムの材料として乳酸系樹脂を用いることについて、また、このフィルムの軽量化について研究が行われてきた。
【0007】
【特許文献1】特開2002−194110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、本発明の目的は、生分解性を有し、かつ、比重が1.0未満である熱収縮性空孔含有フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような現状に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、効果の高い本発明を完成するに至った。
本発明の熱収縮性空孔包含フィルムは、乳酸系樹脂(A)と、該乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂(B)とを、(A):(B)=95〜60質量%:5〜40質量%配合した樹脂組成物を用いてなるフィルムを少なくとも1方向に延伸し、嵩比重が0.50〜0.99であることを特徴とする。
ここで、前記乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂(B)は、80℃における貯蔵弾性率が0.25GPa〜2GPaであるポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
本発明のフィルムは、生分解性である乳酸系樹脂を用いるので、バイオマスの利用を促進し、循環型社会を目指すことができる。
【0010】
また、本発明の熱収縮性空孔包含フィルムは、80℃で10秒間処理した後の熱収縮率が主収縮方向において20%以上であり、80℃で20%熱収縮させた後の嵩比重が0.50〜0.99であることが好ましい。かかる構成を有するフィルムは、使用後、PET樹脂等から容易に分離することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生分解性を有し、かつ、比重が1.0未満である熱収縮性空孔含有フィルムを提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明する。
本発明の熱収縮性空孔含有フィルムは、乳酸系樹脂(A)と、この乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂(B)とを配合した樹脂組成物を用いてなるフィルムである。ただし、乳酸系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)との配合割合は、(A):(B)=95〜60質量%:5〜40質量%であることが必要であり、(A):(B)=90〜70質量%:10〜30質量%であることが好ましい。熱可塑性樹脂(B)の配合量が5質量%未満では、少なくとも1方向に延伸した後のフィルムの嵩比重が1.0を超える場合があり、40質量%より多いと、得られたフィルムの機械的性質が低下して脆くなることがある。
【0013】
本発明に用いられる乳酸系樹脂(A)は、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸であるポリ(DL−乳酸)や、これらの混合体である。ここで、乳酸系樹脂のD乳酸(D体)とL乳酸(L体)の構成比は、L体:D体=100:0〜90:10、もしくは、L体:D体=0:100〜10:90であることが好ましく、L体:D体=99.5:0.5〜94:6、もしくは、L体:D体=0.5:99.5〜6:94であることがより好ましい。L体とD体の構成比がかかる範囲外では、成形体の耐熱性が得られにくく、用途が制限されることがある。
【0014】
乳酸系樹脂の重合法としては、縮合重合法、開環重合法等の公知の方法を採用することができる。例えば、縮合重合法では、L−乳酸又はD−乳酸、あるいはこれらの混合物を直接脱水縮合重合して任意の組成を有する乳酸系樹脂を得ることができる。
【0015】
また、開環重合法では、適当な触媒を選択し、必要に応じて重合調整剤も用いて、乳酸の環状二量体であるラクチドから乳酸系樹脂を得ることができる。ラクチドには、L−乳酸の二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の二量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより、任意の組成、結晶性を有する乳酸系樹脂を得ることができる。
【0016】
さらに、耐熱性を向上させる等の必要に応じて、少量の共重合成分を添加することができ、例えば、乳酸系樹脂成分を90質量%以上含有する範囲内で、少量の共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオール等を用いることができる。
さらにまた、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を使用することもできる。
【0017】
乳酸系樹脂は、さらに、乳酸及び/又は乳酸以外のα−ヒドロキシカルボン酸等の他のヒドロキシカルボン酸単位との共重合体であっても、脂肪族ジオール及び/又は脂肪族ジカルボン酸との共重合体であってもよい。
他のヒドロキシカルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシ−カルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0018】
乳酸系樹脂に共重合される脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール,1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。また、上記脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等が挙げられる。
【0019】
本発明に使用される乳酸系樹脂は、重量平均分子量が5万〜40万の範囲であることが好ましく、更に好ましくは10万〜25万である。乳酸系樹脂の重量平均分子量が5万より小さい場合には、機械物性や耐熱性等の実用物性がほとんど発現されず、40万より大きい場合には、溶融粘度が高すぎて成形加工性に劣ることがある。
【0020】
本発明に用いられる乳酸系樹脂は、ビカット軟化点が50℃以上、95℃以下であることが好ましい。ビカット軟化点が50℃未満であると、得られるフィルムを常温よりやや高い温度で使用する場合、例えば夏場に使用する場合には、フィルムが使用前に少し収縮してしまうと言う、いわゆる自然収縮が大きくなり、寸法安定性に欠けるフィルムとなり易い。一方、ビカット軟化点が95℃を上回ると、低温での延伸が困難となり、その結果良好な収縮特性を得ることが難しくなる。
【0021】
本発明に好ましく使用される乳酸系樹脂の代表的なものとしては、三井化学(株)製の「レイシア」シリーズ、カーギル・ダウ社製の「Nature Works」シリーズ等が商業的に入手されるものとして挙げられる。
【0022】
本発明に係る樹脂組成物に配合される(B)乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂は、周波数10Hz、ひずみ0.1%で測定したときの貯蔵弾性率が0.25GPa以上、2.0GPa以下の範囲にあるポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。例えば、高結晶性ホモポリプロピレン、貯蔵弾性率が上記範囲内であるポリメチルペンテン等が挙げられる。貯蔵弾性率が、0.25GPa未満では、得られる熱収縮性空孔含有フィルムの嵩比重が1.0を超える場合があり、2.0GPaを上回ると、結晶性が高く、比重が大きくなり、入手が困難である。
【0023】
本発明に係る樹脂組成物には、耐衝撃性、耐寒性、引き裂き強度等を付与する目的で、他のエラストマー成分を更にブレンドすることができる。他のエラストマー成分としては、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体等のスチレン系エラストマー、エチレン・プロピレン系のオレフィン系エラストマー等が挙げられる。
本発明に係る樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、更に、例えば、乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステル、芳香族脂肪族ポリエステル等を含有してもよい。本発明に用いられる乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステルとしては、例えば、乳酸系樹脂を除くポリヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とを縮合して得られる脂肪族ポリエステル、環状ラクトン類を開環重合して得られる脂肪族ポリエステル、合成系脂肪族ポリエステル、菌体内で生合成される脂肪族ポリエステル等を挙げることができる。
【0024】
本発明の熱収縮性空孔含有フィルムは、少なくとも一方向に延伸されていることが必要であり、延伸によってフィルム内に空孔が形成されて嵩比重が0.50〜0.99を達成することができる。熱収縮性空孔含有フィルムの嵩比重が0.50未満では、乳酸系樹脂がマトリックスとならず、連続相を形成することができない場合があり、フィルムの延伸を行うことができないことがあるからである。一方、嵩比重が0.99を超えると、被覆される容器等を構成する樹脂の比重と近似してくるので、例えばPETボトルを熱収縮性空孔含有フィルムで収縮包装させた場合には、PETの比重と近似してくるので、液比重分離によって分離することが困難になり、PETを分別回収することができない。
【0025】
本発明の熱収縮性空孔含有フィルムは、80℃×10秒での熱収縮率が少なくとも1方向において20%以上であることが好ましい。熱収縮率が20%未満では、熱収縮性フィルムとして実用的な機能を発揮しえない場合がある。熱収縮率が20%以上を達成するためには、延伸倍率及び延伸温度を考慮することが必要であり、例えば、延伸温度を下げ、延伸倍率を大きくする等の工程上の調整を適宜行う必要がある。
【0026】
本発明の熱収縮性空孔含有フィルムは、80℃で20%収縮させた後の嵩比重が0.50〜0.99の範囲にあることが好ましい。本発明の熱収縮性空孔含有フィルムを20%収縮させて使用した場合に、かかる嵩比重が0.50未満では、乳酸系樹脂がマトリックスとならず、連続相を形成することができないことがあり、一方、0.99を上回ると、被覆される容器等、例えばPETボトルを構成するPET樹脂の比重と近似してくるので、容器等と熱収縮性空孔含有フィルムとを液比重分離によって分離することが困難になり、PETを分別回収することが困難になるからである。
【0027】
本発明に用いられる樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、抗酸化剤、UV吸収剤、光安定剤、顔料、染料等の添加剤を処方することができる。
【0028】
本発明の熱収縮性空孔含有フィルムは、通常の溶融押出しによるフィルム成形法等によって製造することができる。以下に、本発明の熱収縮性空孔含有フィルムの製造方法について詳しく説明する。
本発明の熱収縮性空孔含有フィルムは、乳酸系樹脂、乳酸系樹脂に非相溶な熱可塑性樹脂、及び、必要に応じて、その他の添加剤等の各原料を、同方向二軸押出機、ニーダー、ヘンシェルミキサー等を用いてプレコンパウンドし、次いで、押出し、延伸することにより作製することができる。あるいは、各原料をドライブレンドした後、二軸押出機に投入し、押し出し、延伸して作製するか、または、ドライブレンドした原料を二軸押出機を用いてストランド形状に押出してペレットを作製しておき、このペレットを二軸押出機等に投入し、押出し、延伸して作製することもできる。
【0029】
いずれの方法でフィルムを形成するにしても原料の分解による分子量の低下を考慮する必要があるが、各原料を均一に混合させるためには原料をドライブレンドしておく方法を選択することが好ましい。例えば、乳酸系樹脂、乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂、及び、必要に応じて添加剤等の各原料を、十分に乾燥して水分を除去した後、二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作製する。ただし、乳酸系樹脂はL−乳酸構造とD−乳酸構造の組成比によって融点が変化すること、乳酸系樹脂とその他の成分との混合の割合によって混合樹脂の融点が変化すること等を考慮して、溶融押出温度を適宜選択することが好ましい。実際には160〜230℃の温度範囲が通常選択される。
【0030】
押出方法としては、Tダイ法、チューブラー法等の任意の方法を採用することができる。このようにして溶融押出された樹脂は、冷却ロール、空気、水等で冷却された後、熱風、温風、紫外線、炭酸ガスレーザ、マイクロウェーブ等の適当な方法で再加熱され、次いで、一軸又は二軸に延伸される。ここで、フィルムの延伸方法としては、ロール法、テンター法、チューブラー法等の任意の方法を採用することができる。
【0031】
例えば、上記方法にて作製したペレットを十分に乾燥して水分を除去した後、二軸押出機等を用いて溶融押出しをし、溶融状態のシート状の樹脂をテンターで延伸することによって、空洞を含有する熱収縮性空孔含有フィルムを製造することができる。ここでは、乳酸系樹脂に非相溶な熱可塑性樹脂を配合しているので、乳酸系樹脂の中で例えば海島構造を形成しており、溶融状態にあるシート状の樹脂を延伸することによって、非相溶の熱可塑性樹脂の周囲に、空隙が形成されると考えられる。このようにして形成された空隙によって、フィルムの比重を所定範囲にすることができる。
【0032】
延伸温度は、乳酸系樹脂(A)や乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂(B)の軟化温度、形成されるフィルムに要求される用途等によって、適宜、選択することが好ましいが、一般的には60℃〜80℃であることが好ましく、60℃〜70℃であることが更に好ましい。延伸温度が60℃未満では、延伸過程における材料の弾性率が高くなり過ぎ延伸性が低下し、フィルムの破断を引き起こしたり、厚み斑が生じたりするなど延伸が不安定になる傾向がある。一方、延伸温度が80℃以上では所望の収縮特性が発現されないことがあり、あるいはまた、嵩比重が1.0より大きくなることがある。
【0033】
延伸倍率は、フィルムを形成する樹脂組成、延伸手段、延伸温度、得られるフィルムに要求される形態等に応じて、適宜選択されることが好ましいが、一般的には、1.5倍〜8倍とすることが好ましい。延伸倍率が1.5倍未満では、適切な収縮特性が得られないことがあり、あるいはまた嵩比重が1.0を超えることが多くなるからである。また、延伸倍率が8倍を超えるようなフィルムは、実性能上、ほとんど必要とされないからである。
【0034】
フィルムを一軸延伸にするか、二軸延伸にするかは、得られるフィルムの用途等によって決定されることが好ましい。また、例えばフィルムを一軸延伸する場合には、横方向(フィルムの流れ方向と垂直方向)に1.5倍から8倍の延伸を行い、縦方向(フィルムの流れ方向)に1.01倍から1.8倍程度の弱延伸を行っても良い。このように縦方向に弱延伸を行うと、フィルムの機械的物性を改良することができることが多い。
また、延伸した後のフィルムの分子配向が緩和しない時間以内で、速やかに冷却することも、フィルムに収縮性を付与し、保持する上で重要である。
【0035】
本発明の熱収縮性空孔含有フィルムは、必要に応じて、片面あるいは両面にコロナ放電処理を施してもよい。また、本発明の熱収縮性空孔含有フィルムは、片面あるいは両面に印刷を行うことができ、印刷方法としては、グラビア印刷等の任意の方法を採用することができる。本発明においては、熱収縮性空孔含有フィルムに印刷を施した後、印刷面が外面になるように折りたたみ、有機溶剤を用いてセンターシールすることもできる。
【0036】
本発明の熱収縮性空孔含有フィルムは、生分解性を有する乳酸系樹脂を使用しているので、生分解性を有し、環境保護を図ることができる。また、比重が1未満のフィルムを実現することができるので、PET等のように比重が1より大きい樹脂との分別が可能であり、PET容器等のリサイクルが容易になる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。なお、各実施例及び各比較例に示す測定値及び評価は以下に示す方法で測定及び評価を行った。
【0038】
(1)嵩比重
フィルムを縦10cm×横10cmの大きさに正確に切り出し、その重量(w)を正確に測定する。また、切り出したフィルムの厚みを100個所測定し、その平均値を求めて厚みt(cm)とする。測定した重量(w)を、計算により求めたフィルムの体積(10×10×t)で除して嵩比重を算出した。
【0039】
(2)動的粘弾性測定
測定対象の樹脂(ex.乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂)からなるシートを、横4mm×縦60mmの大きさに正確に切り出し、サンプルとした。粘弾性スペクトロメーターDVA−200(アイティー計測(株)製)を用い、振動周波数10Hz、ひずみ0.1%、昇温速度1℃/分、チャック間2.5cmの条件の下、測定温度が40℃から150℃の範囲で、縦方向について動的粘弾性の測定を行った。なお、貯蔵弾性率としては、80℃における貯蔵弾性率を表1に示してある。
【0040】
(3)熱収縮率
フィルムを、縦100mm×横100mmの大きさに切り取った。これを、80℃の温水バス中に10秒間含浸させた後、横方向の収縮量を測定した。熱収縮率は、収縮前の横方向の原寸(100mm)に対する横方向の収縮量の比率を%値で表示した。
【0041】
(4)熱収縮後の比重
フィルムを80℃で20%収縮させた後、粉砕した。この粉砕したフィルム片を、水に浮かべ、水に浮く(比重1未満である)か否かを判別した。水に浮くものを記号「○」、浮かないものを記号「×」で示した。
【0042】
(5)生分解性(簡易コンポスト試験)
60℃に温度設定された家庭用コンポスター(市販品)に、園芸用の腐葉土10kgに対し、ドッグ・フード(市販品)5kgを混合して入れ、さらに水500mLを加えて厚み200mmの埋土とした。
一方、試験用サンプルとして、得られた熱収縮性空孔含有フィルムから40mm×100mmの大きさのサンプル片を切り出し、60mm×150mmの金網(33mm目)2枚で構成されるサンプルホルダーに挟み込んだうえ、細い針金を網目に通してサンプル片を綴じ込んだ。このようにサンプルホルダーにサンプル片を挟み込んだ試験用サンプルを、各実施例及び各比較例につき6枚ずつ用意した。この6枚の試験用サンプルを、コンポスターの埋土中に垂直で、しかもこの6枚の試験用サンプル同士が平行になるように配置し、埋設した。ただし、各試験用サンプルの埋設深さは、サンプルホルダーの下底面が埋土の底面から25mmの位置であり、サンプルホルダーの上底面が埋土の表面から25mmの位置になるように埋設された。また、毎日、水500mLが補給された。このように、サンプル片は、外部と接触して、崩壊、散乱することが極力抑えられるように工夫された。埋設してから2週間後に試験用サンプルを取り出し、サンプル片(熱収縮性空孔含有フィルム)の崩壊状態を観察し、下記基準に基づき評価を行った。
評価基準:
〇 崩壊して跡形もない。
△ フィルム残渣がわずかにある。
× 分解せず形態を保持している。
【0043】
(実施例1)
乳酸系樹脂としてカーギル・ダウ社製のNature Works 4032D(L体:D体=99:1、重量平均分子量20万)と、乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂として日本ポリプロ(株)製のポリプロピレン系樹脂(商品名「FY6H」)とを用いた。乳酸系樹脂と熱可塑性樹脂とを質量比が、Nature Works 4032D:FY6H=80質量部:20質量部の割合でドライブレンドした。これを、三菱重工(株)製の40mmφ小型同方向2軸押出機を用いて、ベント口より可塑剤として田岡化学工業(株)製のジイソデシルアジペート(以下、DIDAと略称することもある)を、乳酸系樹脂と熱可塑性樹脂の合計が100質量部に対して3質量部注入しながら、200℃、100rpmにて混練し、ストランド形状に押出して水槽で急冷し、その後、切断してペレットを作製した。
【0044】
得られたペレットを、90mmφ単軸押出機を具備した三菱重工(株)製の逐次2軸延伸フィルムテンターに供し、押出温度200℃、延伸温度65℃で流れ方向とは垂直な方向に4倍延伸することにより、厚み50μmの一軸延伸フィルムを得た。なお、流れ方向(縦方向)には弱延伸(1.03倍延伸)を行った。
得られた熱収縮性空孔包含フィルムについて、嵩比重、動的粘弾性、熱収縮率、熱収縮後の比重、生分解性の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
(実施例2)
実施例1において用いた乳酸系樹脂(Nature Works 4032D)と、乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂として三井化学(株)製のポリメチルペンテン1(商品名「RT−18」)とを用いた。乳酸系樹脂と熱可塑性樹脂の質量比が、Nature Works 4032D:RT−18=80質量部:20質量部の割合でドライブレンドした。これを、実施例1と同様の設備を用いて、ベント口からDIDAを、乳酸系樹脂と熱可塑性樹脂の合計が100質量部に対して3質量部注入しながら、250℃、100rpmにて混練して、ストランド形状に押出した。これを、水槽で急冷した後、カットしてペレットを形成した。
【0046】
得られたペレットを、実施例1と同様の設備を用い、押出温度を250℃に変更した以外は実施例1と同様にして、厚み50μmの熱収縮性空孔包含フィルムを作製した。
得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
実施例1で用いた乳酸系樹脂(Nature Works 4032D)と、含水珪酸マグネシウムであるタルクとを用いた。乳酸系樹脂とタルクとを質量比が、Nature Works 4032D:タルク=80質量%:20重量%でドライブレンドした。これを、実施例1と同様の方法により50μmのフィルムを作製した。
得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。なお、得られたフィルムは、嵩比重が1.0より大きかった。
【0048】
(比較例2)
実施例1で用いた乳酸系樹脂(Nature Works 4032D)と、ポリオレフィンエラストマーとしてダウケミカル社製の登録商標エンゲージ(エンゲージ8200)を用いた。乳酸系樹脂とポリオレフィンエラストマーとを質量比が、Nature Works 4032D:エンゲージ8200=80質量%:20質量%でドライブレンドした。これを、実施例1と同様の方法により50μmのフィルムを作製した。
得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。なお、収縮特性は良好であるが、得られたフィルムの嵩比重が1.0以上であった。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から明らかなように、本発明の熱収縮性空孔包含フィルムである実施例1及び実施例2のフィルムは、収縮後の比重が1未満であり、液比重分離法によって容易に分離することができた。また、生分解性にも優れたものであることが分かった。また、実施例1及び実施例2のフィルムは、剛性にも優れているものであった。
【0051】
一方、乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂の替わりに無機充填剤を用いた比較例1のフィルムは、収縮後のフィルムの比重が1より大きかったので、液比重分離法によって分離することはできなかった。また、貯蔵弾性率が0.25GPa未満のポリオレフィンエラストマーを用いた比較例2のフィルムは、収縮後の比重が1より大きく、また、生分解性に劣ったものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系樹脂(A)と、該乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂(B)とを、(A):(B)=95〜60質量%:5〜40質量%配合した樹脂組成物を用いてなるフィルムを少なくとも1方向に延伸し、嵩比重が0.50〜0.99であることを特徴とする熱収縮性空孔含有フィルム。
【請求項2】
前記乳酸系樹脂に非相溶の熱可塑性樹脂(B)は、80℃における貯蔵弾性率が0.25GPa〜2GPaであるポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の熱収縮性空孔含有フィルム。
【請求項3】
80℃で10秒間処理した後の熱収縮率が主収縮方向において20%以上であり、80℃で20%熱収縮させた後の嵩比重が0.50〜0.99であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱収縮性空孔含有フィルム。



【公開番号】特開2006−45296(P2006−45296A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−226315(P2004−226315)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】