説明

熱可塑性エラストマーとシリコーンゴムの積層成形体の作製方法

【課題】 成形後の熱可塑性エラストマーの表面にシリコーンゴムを室温にて簡単に接着させることができる積層成形体の作製方法を提供する。
【解決手段】 スチレンブロックコポリマーを主成分とする熱可塑性エラストマー上に、シリコーンまたはシラン化合物が有機溶剤に溶解された接着剤を塗布乾燥した後、(a)1分子中にSiO単位及び脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を有するシリコーンレジン,(b)1分子中にけい素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン,(c)シリコーン可溶性白金化合物,(d)無機充填材から構成されるシリコーンゴムを未硬化の状態で乾燥後の接着剤上に室温に接触させシリコーンコムを硬化させることを特徴とする熱可塑性エラストマーとシリコーンゴムの積層成形体の作製方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形後の熱可塑性エラストマーにシリコーンゴムを積層させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、常温で弾力性を持ち、加熱して軟化させると容易に成形可能であることからマウスガードの作製に用いられてきた。しかし熱可塑性エラストマーは成形した後、部分的に厚みを増すことが難しかった。例えば作製したマウスガードの前歯部にのみ厚みを加えたい場合、成形したマウスガードとは別に新たな熱可塑性エラストマーのシートを加熱軟化してからマウスガードの厚みが必要な部分に圧接して盛り足すことが行われている。ところが、この操作は加熱が必要であることから煩雑であり、エラストマー同士の接着も悪く、マウスガードの使用中に盛り足した部分が剥がれてしまう問題が生じていた。
【0003】
このような不具合を改善する方法として、成形後の熱可塑性エラストマーに室温で硬化することが可能なシリコーンゴムを未硬化の状態で圧接して硬化させることで成形後のマウスガードを盛り足す方法が有用である。熱可塑性エラストマーとシリコーンゴムとの接着方法としては、熱可塑性樹脂とシリコーンゴムとを一体成形する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法は、特定の組成を有するポリブチレンテレフタレートと特定構造を有するシリコーンゴムとを一体成形する方法である。しかし、この方法では熱可塑性樹脂とシリコーンゴムは同時に成形する必要があるので、本発明が求めているような成形後の熱可塑性エラストマーにシリコーンゴムを継ぎたす方法には適さない。
【0004】
また、アクリル系エラストマー層をシリコーンゴム層の積層体及びそれを用いた成形体が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この方法は特定組成を有するアクリル系エラストマーを用いることによりシリコーンゴムとの接着強度を改善する方法である。しかしながら、この方法におけるアクリル系エラストマーには加硫が必要であり、充分な架橋が行われる時間と温度のために熱処理を必要とすることから室温で簡便に積層成形体を得ることはできなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平10−316844号公報
【特許文献2】特開2005−297511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、成形後の熱可塑性エラストマーの表面にシリコーンゴムを室温にて簡単に接着させることができる積層成形体の作製方法を提供することを本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は前記問題点を解決するために鋭意検討した結果、熱可塑性エラストマーの主成分にスチレンブロックコポリマーを使用し、特定のシリコーンゴムを特定の接着剤を用いて接着させることで課題を解決可能であることを見出して本作製方法を完成した。
【0008】
即ち本発明は、スチレンブロックコポリマーを主成分とする熱可塑性エラストマーに、シリコーンまたはシラン化合物が有機溶剤に溶解された接着剤を塗布乾燥した後、(a)1分子中にSiO単位及び脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を有するシリコーンレジン:100部,(b)1分子中に珪素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:1〜30重量部,(c)シリコーン可溶性白金化合物:前記2成分の合計量に対して1ppm〜2重量部,(d)無機充填材:1〜300重量部から構成されるシリコーンゴムを未硬化の状態で乾燥後の接着剤上に室温にて接触させてシリコーンコムを硬化させることを特徴とする熱可塑性エラストマーとシリコーンゴムの積層成形体の作製方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る熱可塑性エラストマーとシリコーンゴムの積層成形体の作製方法は、加熱操作を行うことなく、またシリコーンゴム中に接着性付与剤を含む必要もなく、室温にて簡単に成形後の熱可塑性エラストマーにシリコーンゴムを接着することができる積層成形体の作製方法である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いる熱可塑性エラストマーは、スチレンブロックコポリマーを主成分とする。これは後述する接着剤とシリコーンゴムと室温にて接着させる特性を与えるためである。スチレンブロックコポリマーを主成分とする熱可塑性エラストマーには、脂環族飽和炭化水素系樹脂,テルペン樹脂,脂肪族系石油樹脂,エステルガムから成る群より選ばれた1種または2種以上の熱可塑性樹脂や、鉱物系ワックス,合成系ワックス,植物系ワックス,動物系ワックスから成る群より選ばれた1種または2種以上のワックスが軟化温度の調整のために配合されていても良い。
【0011】
本発明において熱可塑性エラストマーと後述するシリコーンゴムとの接着に使用する接着剤は、シリコーンまたはシラン化合物を有機溶剤に溶解した接着剤である。これらのシリコーンまたはシラン化合物としては、たとえば特開2002−53418号公報に開示されているシリコーンレジン,シランカップリング剤,シリコーン生ゴム,アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン,1分子中に水素原子を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン,シリコ−ン変成アクリル樹脂が例示される。これらの化合物を、トルエン,塩化メチレン,酢酸エチル等の有機溶剤に溶解して接着剤とする。
【0012】
本発明で用いるシリコーンゴムは、(a)1分子中にSiO単位及び脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を有するシリコーンレジン:100部,(b)1分子中に珪素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:1〜30重量部,(c)シリコーン可溶性白金化合物:前記2成分の合計量に対して1ppm〜2重量部,(d)無機充填材:1〜300重量部から構成されるシリコーンゴムである。
【0013】
(a)成分である1分子中にSiO単位及び脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を有するシリコーンレジンの代表的なものの構造を分子中の平均単位で示すと、SiO単位とRSiO1/2単位(R一価単価水素基)を有するものがあるが、SiO単位のみでも良い。この分子中には、メチル基,エチル基等のアルキル基やフェニル基を含んでも良い。中でもメチル基を含んだものが最も好適に使用される。更に本発明で用いられる。脂肪族不飽和炭化水素としては、ビニル基,プロペニル基,イソプロペニル基等が例示され、中でもビニル基が最も好ましい。
【0014】
(b)成分である1分子中に珪素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、その分子中に珪素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有する必要があり、架橋剤として作用すると共に接着力の向上にも有効に作用する。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(a)成分100重量部に対して1〜30重量部配合される。配合量が1重量部より少ないと本発明に使用する熱可塑性エラストマーとの接着力が充分ではなくなり、30重量部より多いと硬化体が脆くなると同時に接着界面も脆い状態となり応力が加わった際に剥がれやすくなってしまう。好適に使用できる範囲は5〜20重量部である。
【0015】
(c)成分であるシリコーン可溶性白金化合物は、公知の付加反応触媒である塩化白金酸,アルコール変性塩化白金酸,塩化白金酸とオレフィンとの錯体等が挙げられる。好適には塩化白金酸のビニルシロキサン錯体が用いられる。配合量は、前記(a)及び(b)成分の合計量に対して10ppm〜1重量部の範囲である。10ppmより少ないと硬化速度が遅く、接着力も低下してしまう。1重量部より多い場合には硬化速度が速すぎると共に性形体が変色してしまう不具合が発生する。この塩化白金酸のシリコーン可溶性白金化合物は、アルコール系,ケトン系,エーテル系,炭化水素系の溶剤やポリシロキサンオイル等に溶解して使用することが好ましい。
【0016】
(d)成分である無機充填材は、(a)成分と共に用いられることにより硬化後のシリコーンゴムの切削、研磨性を向上させるために配合されている。無機充填材としては、石英,クリストバライト,珪藻土,熔融石英,ガラス繊維,二酸化チタン,ヒュームドシリカ等が例示される。このうち溶融石英,ヒュームドシリカが好適に使用される。ヒュームドシリカを用いる場合、表面処理により疎水化したものを用いても良い。この無機充填材は、(a)成分100重量部に対して1〜300重量部配合され、1重量部より少ないと硬化体の切削や研磨性が悪化し、300重量部より多いと熱可塑性エラストマーとの接着が悪くなる。
【0017】
(a)〜(d)の成分から構成されるシルコーンゴムは、その特性を失わない範囲で通常の付加反応に用いる脂肪族付加基を有するオルガノポリシロキサン,非反応性のシリコーンオイル,有機及び又は無機着色剤、公知の抗菌材が含有されていても良い。
【実施例】
【0018】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0019】
<実施例1>
1.ポリスチレンとポリオレフィンとのブロックコポリマーから成る熱可塑性エラストマーを180℃の条件で直径130mm,厚さ3mmのシート状に成形した。
2.次に酢酸エチル90重量%,分子中にSiHを1個有するジメチルシロキサンを含むアクリル樹脂10重量%から成る接着剤をシートに塗布し、23℃にて5分間放置して乾燥させた。
3.下記組成のシリコーンゴムのベースペーストとキャタリストペーストとを同量で30秒間錬和し、接着剤を塗布した熱可塑性エラストマー面に直径30mm厚さ3mmとなるよう金属リングを用いてシリコーンゴムを盛り上げ接着剤とシリコーンゴムとを接触させた。そのまま23℃にて1時間放置してシリコーンゴムを硬化させた。
【0020】
<シリコーンゴム>
ベースペースト
(a)SiO単位とビニル基を有するシリコーンレジン(25℃における粘度:150000mP・s) 100重量部
(b)メチルハイドロジェンシロキサン単位を30モル%含有する直鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン 15重量部
(d)溶融石英 20重量部

(キャタリストペースト)
(a)SiO単位とビニル基を有するシリコーンレジン(25℃における粘度:150000mP・s) 100重量部
(c)1,3ジビニルテトラメチルジシロキサン−白金錯体0.8重量%含有シリコーンオイル溶液 1重量部
(d)溶融石英 20重量部
【0021】
「接着性の確認」
熱可塑性エラストマー上の硬化したシリコーンゴムを引きはがし、界面の接着状態を観察した。界面の接着状態の評価においては、熱可塑性エラストマー上に硬化したシリコーンゴムが残存していた場合を○、界面より剥離していた場合を×とした。評価結果を表1に示す。
【0022】
<実施例2〜3>
熱可塑性エラストマー,シリコーンゴム,接着剤の各組成を変更した以外は実施例1と同様の方法により実施例2の作製方法を実施した。
<熱可塑性エラストマー>
ポリスチレンとポリオレフィンとのブロックコポリマー 90重量部
脂環族飽和炭化水素系樹脂 5重量部
エステルガム 5重量部

<シリコーンゴム>
ベースペースト
(a)SiO単位とビニル基を有するシリコーンレジン(25℃における粘度:150000mP・s) 100重量部
(b)メチルハイドロジェンシロキサン単位を30モル%含有する直鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン 10重量部
(d)溶融石英 30重量部
キャタリストペースト
(a)SiO単位とビニル基を有するシリコーンレジン(25℃における粘度:150000mP・s) 100重量部
(c)1,3ジビニルテトラメチルジシロキサン−白金錯体0.8重量%含有シリコーンオイル溶液 1重量部
(d)溶融石英 30重量部

<接着剤>
トルエン 90重量%
分子中にSiHを1個有するジメチルシロキサンを含むアクリル樹脂 10重量%

これらを用い、実施例1と同様の接着性の確認試験を行った。結果を表1に示す。
【0023】
<実施例3>
<熱可塑性エラストマー>
ポリスチレンとポリオレフィンとのブロックコポリマー 89重量部
脂環族飽和炭化水素系樹脂 5重量部
エステルガム 5重量部
パラフィンワックス 1重量部

<シリコーンゴム>
ベースペースト
(a)SiO単位とビニル基を有するシリコーンレジン(25℃における粘度:150000mP・s) 100重量部
(b)メチルハイドロジェンシロキサン単位を30モル%含有する直鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン 30重量部
(d)溶融石英 10重量部
キャタリストペースト
(a)SiO単位とビニル基を有するシリコーンレジン(25℃における粘度:150000mP・s) 100重量部
(c)1,3ジビニルテトラメチルジシロキサン−白金錯体0.8重量%含有シリコーンオイル溶液 1重量部
(d)溶融石英 10重量部

<接着剤>
塩化メチレン 90重量%
分子中にSiHを1個有するジメチルシロキサンを含むアクリル樹脂 9重量%
シリコーンレジン 1重量%
【0024】
<比較例1>
熱可塑性エラストマーとしてエチレン−酢酸ビニルコポリマー(酢酸ビニル含有率30%)を用い。実施例1で用いたシリコーンゴム及び接着剤にて同様の接着性確認を行った。結果を表1に示す。
【0025】
<比較例2>
実施例1に記載の熱可塑性エラストマー及び接着剤を用い、シリコーンゴムとして、実施例1中のシリコーンゴムの成分のうちSiO単位とビニル基を有するシリコーンレジンを通常の付加型シリコ−ンの基材であるビニルジメチルポリシロキサン(25℃における粘度:100000mP・s)に換えた以下に示す配合のシリコーンゴムを用いた。
ベースペースト
ビニルジメチルポリシロキサン(25℃における粘度:100000mP・s)
100重量部
メチルハイドロジェンシロキサン単位を30モル%含有する直鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン 15重量部
溶融石英 20重量部
キャタリストペースト
ビニルジメチルポリシロキサン(25℃における粘度:100000mP・s)
100重量部
1,3ジビニルテトラメチルジシロキサン−白金錯体0.8重量%含有シリコーンオイル溶液 1重量部
溶融石英 20重量部
【0026】
<比較例3>
熱可塑性エラストマーとして市販のマウスガード材(商品名 ジーシー インパクトガード,株式会社ジーシー製)を用いた。180℃の条件で直径130mm,厚さ3mmのシート状に成形した。このシートの上に同じ市販のマウスガード材(商品名 ジーシー インパクトガード,株式会社ジーシー製)をを加熱軟化させて直径30mm,厚さ3mmとなるよう金属リングを用い盛り上げ、23℃にて1時間放置し冷却した。その後、実施例1と同様の接着性の確認試験を行った。結果を表1に示す。
【0027】
<表1>

【0028】
表1から明らかなように、成形後の熱可塑性エラストマーとシリコーンゴムとを接着剤を用いて室温で積層成形体を作製する方法は、接着性の良好な積層構造を有する成形体を室温にて簡単に作製できることが分かる。一方、比較例のようにスチレンブロックコポリマーを主成分としていない熱可塑性エラストマーを用いた場合や、本発明で使用するシリコーンゴムではないシリコーンゴムを用いた場合では、熱可塑性エラストマーとシリコーンゴムとの接着ができない。また、熱可塑性エラストマーである市販のマウスガード材同士を加熱軟化させ接着する方法での接着は不十分である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブロックコポリマーを主成分とする熱可塑性エラストマー上に、シリコーンまたはシラン化合物が有機溶剤に溶解された接着剤を塗布乾燥した後、
(a)1分子中にSiO単位及び脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を有するシリコーンレジン:100部
(b)1分子中にけい素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:1〜30重量部
(c)シリコーン可溶性白金化合物:前記2成分の合計量に対して1ppm〜2重量部
(d)無機充填材:1〜300重量部
から構成されるシリコーンゴムを未硬化の状態で乾燥後の接着剤上に室温にて接触させ、シリコーンコムを硬化させることを特徴とする熱可塑性エラストマーとシリコーンゴムの積層成形体の作製方法。

【公開番号】特開2011−73223(P2011−73223A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225681(P2009−225681)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】