説明

熱可塑性エラストマー組成物およびその製造方法

【課題】疲労耐久性および加工性に優れた熱可塑性エラストマー組成物の提供。
【解決手段】連続相と分散相を有し、連続相が(A)エポキシ変性ポリアミド樹脂を含み、分散相が(B)ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムを含む熱可塑性エラストマー組成物であって、当該熱可塑性エラストマー組成物は、(B)ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムと、(C)ポリアミド樹脂と、(D)ポリアミド樹脂(C)100質量部に対して0.05質量部以上3質量部未満の1分子当たり2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物とを、ポリアミド樹脂(C)の融点以上の温度で溶融混練することにより得られ、エポキシ変性ポリアミド樹脂(A)は前記溶融混練中にポリアミド樹脂(C)と多官能エポキシ化合物(D)との反応により生成したものであることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物に関し、より詳細には、疲労耐久性および加工性に優れた熱可塑性エラストマー組成物およびその製造方法並びに当該熱可塑性エラストマー組成物をインナーライナーに用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特定の熱可塑性樹脂連続相中に特定のゴムエラストマー成分を不連続相として分散させてなる、耐空気透過性と柔軟性とのバランスに優れた熱可塑性エラストマー組成物は知られている(特許文献1)。また、熱可塑性エラストマー組成物における熱可塑性樹脂成分の溶融粘度(η)とゴムエラストマー成分の溶融粘度(η)およびゴムエラストマー成分と熱可塑性樹脂成分の溶解性パラメーターの差(ΔSP)を特定の関係式を満たすようにすることで高エラストマー成分比率を達成し、それによって一層柔軟性に富み、耐気体透過性に優れた熱可塑性エラストマー組成物が得られること、そしてそれを気体透過防止層に使用した空気入りタイヤも知られている(特許文献2)。さらに、熱可塑性樹脂を連続相としゴム組成物を分散相とする熱可塑性エラストマー中に、偏平状に分散してなる相構造を有するバリア樹脂組成物を存在させることで、耐ガス透過性が向上して、しかも柔軟性、耐油性、耐寒性および耐熱性を有するような熱可塑性エラストマー組成物も知られている(特許文献3)。さらに、層状粘土鉱物で変性したポリアミド樹脂中に動的に架橋されたハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体が分散した熱可塑性エラストマー組成物も知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−259741号公報
【特許文献2】特開平10−25375号公報
【特許文献3】特開平10−114840号公報
【特許文献4】特開2000−160024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリアミド樹脂とハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムの動的架橋熱可塑性エラストマー組成物において、ポリアミド樹脂にハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムがより微細に分散するほど、また、ポリアミド樹脂に対してより高い体積率で充填するほど、より高い疲労耐久性を有する動的架橋熱可塑性エラストマー組成物が得られることが分かっている。しかし、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムはポリアミド樹脂と反応するため、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムがより微細に分散するほど、また、ポリアミド樹脂に対してより高い体積率で充填するほど、ポリアミド樹脂と接するハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム粒子の界面の総面積が増加するため、それに伴って、単位体積当たりのポリアミド樹脂分子と反応したハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム分子の数が増加し、その結果、溶融混練物の流動性が低下し、加工性(混練性、熱安定性、フィルム製膜性など)が大幅に低下する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、ポリアミド樹脂とハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムとを溶融混練する際に、ポリアミド樹脂を1分子当たり2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物と反応させてエポキシ変性ポリアミド樹脂に変換することにより、疲労耐久性に優れ、しかも加工性(混練性、熱安定性、フィルム製膜性など)に優れる熱可塑性エラストマー組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、連続相と分散相を有し、連続相が(A)エポキシ変性ポリアミド樹脂を含み、分散相が(B)ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムを含む熱可塑性エラストマー組成物であって、当該熱可塑性エラストマー組成物は、
(B)ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムと、
(C)ポリアミド樹脂と、
(D)ポリアミド樹脂(C)100質量部に対して0.05質量部以上3質量部未満の1分子当たり2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物とを、
ポリアミド樹脂(C)の融点以上の温度で溶融混練することにより得られ、エポキシ変性ポリアミド樹脂(A)は前記溶融混練中にポリアミド樹脂(C)と多官能エポキシ化合物(D)との反応により生成したものであることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物が提供される。
【0007】
本発明によれば、さらに、連続相と分散相を有し、連続相が(A)エポキシ変性ポリアミド樹脂を含み、分散相が(B)ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムを含む上記熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、
(B)ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムと、
(C)ポリアミド樹脂と、
(D)ポリアミド樹脂(C)100質量部に対して0.05質量部以上3質量部未満の1分子当たり2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物とを、
ポリアミド樹脂(C)の融点以上の温度で溶融混練する工程を含むことを特徴とする方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリアミド樹脂とハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムとを溶融混練する際に、ポリアミド樹脂を1分子当たり2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物と反応させてエポキシ変性ポリアミド樹脂に変換することにより、疲労耐久性および加工性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を提供することができる。また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記のとおり疲労耐久性および加工性に優れていることに加えて、ポリアミド樹脂に由来する優れた気体遮断性を備えている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物においては、エポキシ変性ポリアミド樹脂(A)が連続相を形成し、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)が分散相を形成している。すなわち、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)は、エポキシ変性ポリアミド樹脂(A)を含む連続相中に不連続に分散された形態にある。
【0010】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において連続相を形成するエポキシ変性ポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド樹脂(C)と、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)と、ポリアミド樹脂(C)100質量部に対して0.05質量部以上3質量部未満の1分子当たり2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物(D)とを、ポリアミド樹脂(C)の融点以上の温度で溶融混練する際に、ポリアミド樹脂(C)と多官能エポキシ化合物(D)との反応により生成したものである。
【0011】
ポリアミド樹脂(C)の例としては、ナイロン類、例えばナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/10、ナイロン4/6、ナイロン6/66/12、芳香族ナイロンなどが挙げられる。ポリアミド樹脂(C)は、これらのポリアミド樹脂のうちの1種から構成されていても、2種以上から構成されていてもよい。ポリアミド樹脂(C)としては、疲労耐久性と気体遮断性の両立という点から、ナイロン6、ナイロン6/66が好ましい。
【0012】
本発明に用いるハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)は、例えばイソオレフィンとパラアルキルスチレンの共重合体をハロゲン化することにより製造することができる。イソオレフィンとパラアルキルスチレンの混合比、重合度、平均分子量、重合形態(ブロック共重合体、ランダム共重合体等)、粘度、ハロゲン原子等は、特に限定されず、熱可塑性エラストマー組成物に要求される物性等に応じて当業者が選択することができる。ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)を構成するイソオレフィンの例としては、イソブチレン、イソペンテン、イソヘキセンなどが挙げられ、イソオレフィンとしてはイソブチレンが好ましい。ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)を構成するパラアルキルスチレンの例としては、パラメチルスチレン、パラエチルスチレン、パラプロピルスチレン、パラブチルスチレンなどが挙げられ、パラアルキルスチレンとしてはパラメチルスチレンが好ましい。ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)を構成するハロゲンの例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、ハロゲンとしては臭素が好ましい。特に好ましいハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムは臭素化ポリイソブチレン-パラメチルスチレン共重合体ゴムである。臭素化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体ゴムは、エクソンモービル・ケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)から、Exxpro(登録商標)の商品名で入手することができる。
【0013】
ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)は、動的架橋されたものであることが好ましい。動的架橋により、熱可塑性エラストマー組成物の連続相と分散相を固定することができる。動的架橋は、ポリアミド樹脂(C)と、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)と、ポリアミド樹脂(C)100質量部に対して0.05質量部以上3質量部未満の1分子当たり2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物(D)とを、ポリアミド樹脂(C)の融点以上の温度で、好ましくは架橋剤の存在下で、溶融混練することにより行うことができる。好ましくは、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)の量は、ポリアミド樹脂(C)とハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)の合計量を基準として40〜70質量%、より好ましくは45〜65質量%である。ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)の比率が少なすぎると、疲労耐久性が低下し、逆に多すぎると、溶融時の流動性が低下することにより加工性が低下する。
【0014】
架橋剤の種類および配合量は、動的架橋条件に応じて、当業者が適宜選択することができる。架橋剤の例としては、酸化亜鉛、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、酸化マグネシウム、m−フェニレンビスマレイミド、アルキルフェノール樹脂およびそのハロゲン化物、第二級アミン、例えばN−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンなどが挙げられる。なかでも酸化亜鉛、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンが動的架橋のための架橋剤として好ましく使用できる。架橋剤が酸化亜鉛を含むことがより好ましい。架橋剤の量は、典型的には、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)100質量部に対して0.1〜12質量部が好ましく、より好ましくは3〜9質量部である。架橋剤の量が少なすぎると、動的架橋が不足し、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)の微分散を維持できず、疲労耐久性が低下する。逆に、架橋剤の量が多すぎると、混練または加工中にスコーチが起こる原因や、フィルム製膜後のフィッシュアイなどの外観不良が生じる原因となる。
【0015】
多官能エポキシ化合物(D)は、1分子当たり2個以上のエポキシ基を有し、好ましくは1分子当たり2個〜3個、より好ましくは1分子当たり2個のエポキシ基を有する。多官能エポキシ化合物の例としては、2官能エポキシ化合物、例えばビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなど;3官能エポキシ化合物、例えば、グリセロールポリグリシジルエーテルなど;及びより多官能性のエポキシ化合物、例えばエポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化ポリブタジエン、ソルビトールポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらの多官能エポキシ化合物のうちの1種を使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0016】
多官能エポキシ化合物(D)の量は、ポリアミド樹脂(C)100質量部に対して0.05質量部以上3質量部未満、好ましくは0.05質量部以上2質量部以下である。多官能エポキシ化合物(D)の量がポリアミド樹脂(C)100質量部に対して0.05質量部未満の場合には、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)を高充填した際の加工性(流動性)改善効果が小さいため好ましくない。多官能エポキシ化合物(D)の量がポリアミド樹脂(C)100質量部に対して3質量部以上の場合には、疲労耐久性が低下するので好ましくない。
【0017】
エポキシ変性ポリアミド樹脂(A)に対するハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)の相溶性を高めるために、相溶化剤として、例えば、酸無水物により変性されたオレフィン共重合体(例えば無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体などの無水マレイン酸変性エチレン−不飽和カルボン酸共重合体;例えば無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン−1共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−ヘキセン−1共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−オクテン−1共重合体などの無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体など)および酸無水物により変性されたスチレン−オレフィン共重合体(例えば無水マレイン酸変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体、無水マレイン酸変性スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体など)を、ポリアミド樹脂(C)とハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)と多官能エポキシ化合物(D)の溶融混練前にポリアミド樹脂および/またはハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)と予め混合または混練しても、あるいはこれらの成分(B)〜(D)の溶融混練中に添加してもよい。かかる相溶化剤の配合量には、特に制限はないが、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)の総質量を基準として典型的には5〜50質量%である。
【0018】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、上記の成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、加硫または架橋剤、加硫又は架橋促進剤、可塑剤、各種オイル、老化防止剤などの樹脂およびゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。これらの添加剤は、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量で使用できる。
【0019】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記必須成分および任意の添加剤を、例えばニーダー、バンバリーミキサー、一軸混練押出機、二軸混練押出機等の熱可塑性樹脂組成物の調製に一般的に使用されている混練機を使用して溶融混練することによって調製できる。溶融混練は、その生産性の高さから二軸混練押出機を使用して行うことが好ましい。混練条件は、使用される必須成分および任意の添加剤のタイプおよび配合量などに応じるが、溶融混練温度の下限は、少なくともポリアミド樹脂(C)の溶融温度以上であればよく、融点より20℃以上高い温度であることが好ましく、典型的には約180℃〜約300℃である。溶融混練時間は、典型的には、30秒〜10分、好ましくは1〜5分である。
【0020】
溶融混練により得られた溶融混練物を、次に、例えば二軸混練押出機の吐出口に取り付けられたダイから通常の方法によりフィルム状、シート状またはチューブ状等の形状に押し出すか、あるいは、ストランド状に押出し、樹脂用ペレタイザーで一旦ペレット化した後、得られたペレットを、インフレーション成形、カレンダー成形、押出成形などの通常の樹脂成形法により、用途に応じてフィルム状、シート状、チューブ状などの所望の形状に成形することができる。
【0021】
本発明の空気入りタイヤは、前記製造方法により得られた熱可塑性エラストマー組成物をインナーライナーに用いた空気入りタイヤである。より具体的には、前記熱可塑性エラストマー組成物のフィルムまたは前記積層体をインナーライナーに用いた空気入りタイヤである。タイヤを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を所定の幅と厚さのフィルム状に押し出し、それをインナーライナーとしてタイヤ成形用ドラム上に円筒に貼りつける。その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムから抜き取ってグリーンタイヤとする。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、所望の空気入りタイヤを製造することができる。
【0022】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ホースを製造するためにも用いることができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いてホースを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、次のようにしてホースを製造することができる。まず、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のペレットを使用し、マンドレル上に、樹脂押出機によりクロスヘッド押出方式で、熱可塑性エラストマー組成物を押し出し、内管を形成する。さらに内管上に他の本発明の熱可塑性エラストマー組成物または一般の熱可塑性ゴム組成物を押し出し内管外層を形成してもよい。次に、内管上に必要に応じ、接着剤を塗布、スプレー等により施す。さらに、内管上に、編組機を使用して、補強糸または補強鋼線を編組する。必要に応じ補強層上に、外管との接着のために接着剤を塗布した後、本発明の熱可塑性エラストマー組成物または他の一般的な熱可塑性ゴム組成物と同様にクロスヘッドの樹脂用押出機により押し出し、外管を形成する。最後にマンドレルを引き抜くと、ホースが得られる。内管上、または補強層上に塗布する接着剤としては、イソシアネート系、ウレタン系、フェノール樹脂系、レゾルシン系、塩化ゴム系、HRH系等が挙げられるが、イソシアネート系、ウレタン系が特に好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に示す実施例及び比較例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0024】
実施例1〜3および比較例1〜3の熱可塑性エラストマー組成物の製造には、以下の材料を使用した。
材料
ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(臭素化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体ゴム):エクソンモービル・ケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)製のExxpro(登録商標)MDX89−4(以下「Br−IPMS」と略す)
ポリアミド樹脂:宇部興産株式会社製のナイロン6/66(UBEナイロン5013B)
多官能エポキシ化合物1:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製のYDF−170、2官能性)
多官能エポキシ化合物2:エポキシ化大豆油(DIC(株)製のエポサイザーW100−EL)
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製の酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸
ステアリン酸亜鉛:堺化学工業(株)製
相溶化剤:無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体(三井・デュポンポリケミカル(株)製のHPR AR201)
【0025】
比較例1の熱可塑性エラストマー組成物の製造
下記表1に示す配合で、ゴムおよび架橋剤(酸化亜鉛、ステアリン酸およびステアリン酸亜鉛)を密閉型バンバリーミキサー((株)神戸製鋼所製)により100℃で2分間混合してゴムコンパウンドを作製し、ゴムペレタイザー((株)森山製作所製)によりペレット状に加工した。得られたゴムコンパウンドのペレットとポリアミド樹脂と相溶化剤を2軸混練機((株)日本製鋼所製)により250℃で3分間混練した。溶融混練物を押出機から連続してストランド状に押出し、水冷却カッターでペレット状に切断することにより、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を得た。比較例1はエポキシ化合物を含まない熱可塑性エラストマーの例である。
【0026】
実施例1〜3および比較例2〜3の熱可塑性エラストマー組成物の製造
表1に示す配合で、ゴムおよび架橋剤(酸化亜鉛、ステアリン酸およびステアリン酸亜鉛)を密閉型バンバリーミキサー((株)神戸製鋼所製)により100℃で2分間混合してゴムコンパウンドを作製し、ゴムペレタイザー(森山製作所製)によりペレット状に加工した。得られたゴムコンパウンドのペレットとポリアミド樹脂と相溶化剤を2軸混練機((株)日本製鋼所製)により250℃で3分間混練した。このとき液添ポンプ(鎌長製衡(株)製)を使用してエポキシ化合物を溶融混練物に添加した。溶融混練物を、押出機から連続してストランド状に押出し、水冷却カッターでペレット状に切断することにより、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0027】
試験方法
(1)混練性
実施例および比較例の熱可塑性エラストマー組成物をそれぞれ製造する際に、2軸混練押出機からストランド状に押出される熱可塑性エラストマー組成物およびその外観を観察し、以下の基準にて混練性を評価した。
良:ストランドの表面が滑らか。
可:ストランドの表面にわずかな粒状の欠陥もしくは荒れがあるか、または、わずかなストランドの脈動吐出が観察された。
不良:ストランドの表面に荒れがあり、ストランドの顕著な吐出不良が観察された。
【0028】
(2)熱安定性
熱安定性は、実施例1〜3並びに比較例1および2の熱可塑性エラストマー組成物のそれぞれについて、下記のとおり(i)キャピラリー剪断粘度の変化率と(ii)押出成形性を求めることにより評価した。比較例3の熱可塑性エラストマー組成物については、ストランドの吐出不良が顕著であったために、熱安定性および疲労耐久性は評価しなかった。
(i)キャピラリー剪断粘度の変化率
キャピラリー剪断粘度の測定には、東洋精機(株)製キャピラリーレオメーターキャピログラフ1Cを使用し、剪断速度243sec-1、温度250℃、保持時間5分および10分で、直径1mm×長さ10mmのオリフィスを使用して、熱可塑性エラストマー組成物の溶融粘度(単位:Pa・s)を測定した。保持時間10分で得られた粘度と保持時間5分で得られた粘度の差を保持時間5分で得られた粘度を基準とした百分率で表し変化率とした。変化率が20%未満を良、変化率が20%以上を不良とした。
(ii)押出成形性
熱可塑性エラストマー組成物を、Tダイ押出成形装置(ダイ幅:200mm)を使用して、温度220℃で厚さ1mmのシートに押出した。成形装置を運転後、いったん運転を3分間停止し、その後、成形装置の運転を再開した。成形装置の運転停止前に得られた押出シートの外観と運転再開後に得られた押出シートの外観を観察し、以下の基準で成形時の熱安定性を評価した。
良:運転停止前に得られた押出シートに比べて、運転再開後に得られた押出シートの外観に変化はなかった。
可:運転再開後に得られた押出シートについて、わずかな粒状の欠陥やわずかな表面荒れが観察された。
不良:運転再開後の得られた押出シートについて、多数の粒状の欠陥または表面荒れが観察された。
【0029】
(3)疲労耐久性
熱可塑性エラストマー組成物を厚さ1mmのシートに成形し、得られたシートからJIS#3ダンベル状サンプルを打抜いた。得られたサンプルに、定ひずみ疲労試験機(上島製作所製)を使用して、温度−25℃およびひずみ率40%で100万回まで繰返し疲労を与えた。実施例および比較例の熱可塑性エラストマー組成物のそれぞれについて、12個のサンプルで測定を行い、破断するまでの回数をワイブルプロットして破断確率63%の点を疲労耐久性とした。破断するまでの回数が多いほど、疲労耐久性が優れることを意味する。
上記の試験結果を下記表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
上記試験結果から、実施例2の熱可塑性エラストマー組成物において混練性評価でわずかな粒状の欠陥が観察され、実施例2および3で疲労耐久性が低下したものの、いずれも許容可能な範囲にあり、本発明の熱可塑性エラストマー組成物(実施例1〜3)は、混練性、熱安定性、疲労耐久性に優れることが判る。一方、多官能エポキシ化合物を含まない比較例1および多官能エポキシ化合物の配合量が本発明の範囲よりも少ない比較例2は、熱安定性がいずれも不良であった。多官能エポキシ化合物の配合量が本発明の範囲を超える比較例3は、ストランドの吐出不良が顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、空気入りタイヤのインナーライナーとして好適に用いることができる。また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、空気入りタイヤのほか、ホース、防舷材、ゴム袋、燃料タンク等の、気体遮断性を必要とするゴム積層体のバリア材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続相と分散相を有し、連続相が(A)エポキシ変性ポリアミド樹脂を含み、分散相が(B)ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムを含む熱可塑性エラストマー組成物であって、当該熱可塑性エラストマー組成物は、
(B)ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムと、
(C)ポリアミド樹脂と、
(D)ポリアミド樹脂(C)100質量部に対して0.05質量部以上3質量部未満の1分子当たり2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物とを、
ポリアミド樹脂(C)の融点以上の温度で溶融混練することにより得られ、エポキシ変性ポリアミド樹脂(A)は前記溶融混練中にポリアミド樹脂(C)と多官能エポキシ化合物(D)との反応により生成したものであることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂(C)が、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/10、ナイロン4/6、ナイロン6/66/12、芳香族ナイロンおよびこれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)が臭素化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体ゴムである、請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)が動的架橋されたものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)が、酸化亜鉛を含む架橋剤の存在下に動的架橋されたものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)の量が、ポリアミド樹脂(C)とハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(B)の合計量を基準として40〜70質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
連続相と分散相を有し、連続相が(A)エポキシ変性ポリアミド樹脂を含み、分散相が(B)ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムを含む熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、
(B)ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムと、
(C)ポリアミド樹脂と、
(D)ポリアミド樹脂(C)100質量部に対して0.05質量部以上3質量部未満の1分子当たり2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物とを、
ポリアミド樹脂(C)の融点以上の温度で溶融混練する工程を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物をインナーライナーに用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−7092(P2012−7092A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144833(P2010−144833)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】