説明

熱可塑性共重合体およびその製造方法

【課題】耐熱性及び機械的強度等の各種物性に優れ、かつ着色し難い熱可塑性共重合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の熱可塑性共重合体の製造方法は、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体とマレイミド系単量体とを含む単量体成分を共重合させる方法であり、反応器に少なくともシアン化ビニル単量体の一部又は全部を仕込んで共重合反応を開始後、全ての単量体成分を仕込み終えた時点で、反応溶液中の未反応の単量体成分に占める芳香族ビニル単量体の割合が60重量%以上となるようにシアン化ビニル単量体を仕込み終えた後に芳香族ビニル単量体を仕込み終えること、又は反応器に少なくともシアン化ビニル単量体の一部又は全部を仕込んで共重合反応を開始後、反応溶液に残りの単量体成分を添加し、全ての単量体成分を仕込み終えた時点で該反応溶液から未反応のシアン化ビニル単量体を留去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性および機械的強度等の各種物性に優れ、かつ、着色し難い熱可塑性共重合体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、自動車や電気・電子機器、事務機等においては、軽量化、省エネルギー化、低価格化等を目的として、金属製の成形品を合成樹脂製の成形品に置き換えることが行われている。上記の合成樹脂としては、耐熱性および耐衝撃性に優れた樹脂、例えば、ポリカーボネートとABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂とのポリマーアロイ、変性PPE(ポリフェニレンエーテル)等が用いられている。
【0003】
一方、熱可塑性樹脂であるAS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂は、耐薬品性および機械的強度に優れ、かつ、透明であり、しかも、上記ABS樹脂等との混和性に優れている。このため、AS樹脂は、成形加工材料として一般的に使用されている。ところが、該AS樹脂は、耐熱性に劣るので、高温下で使用する用途には不適当であるという欠点を有している。そこで、AS樹脂の耐熱性を向上させるために、例えばN置換マレイミドを用いたアクリロニトリル−スチレン−N置換マレイミドの三元共重合体が提案されている。
【0004】
しかしながら、アクリロニトリルは、スチレンやN置換マレイミドと比較して、反応性が低い。従って、アクリロニトリル、スチレン、およびN置換マレイミドを一括して仕込んで共重合させると、重合反応の前半段階に生成する熱可塑性共重合体は、その構造単位に占めるスチレンおよびN置換マレイミドの割合が高くなり、一方、重合反応の後半段階に生成する熱可塑性共重合体は、その構造単位に占めるアクリロニトリルの割合が高くなる。つまり、重合反応の前半段階で得られる熱可塑性共重合体と、後半段階で得られる熱可塑性共重合体とで組成が著しく異なるので、結果として、熱可塑性共重合体の組成が著しく不均一になってしまう。このため、該熱可塑性共重合体は、耐熱性および機械的強度に劣り、かつ、透明性が低下する。
【0005】
そこで、組成がほぼ均一である熱可塑性共重合体の製造方法が種々提案されている。例えば、特開平3−205411号公報には、アクリロニトリルの全量、N置換マレイミドの全量、および、スチレンの一部を一括して仕込んで連続的に溶液共重合させた後、残りのスチレンを添加して熟成させる方法が開示されている。また、特開平7−278232号公報には、アクリロニトリル、スチレン、および、N置換マレイミドを乳化させてなる乳化液を滴下しながら乳化重合させる方法が開示されている。尚、機械的強度に優れた熱可塑性共重合体を得る方法として、特開昭63−162708号公報には、アクリロニトリルおよびスチレンを一括して仕込んだ後、N置換マレイミドを滴下しながら溶液共重合させる方法が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の方法では、組成の均一性が不充分であり、従って、重合反応の後半段階に生成する熱可塑性共重合体は、その構造単位におけるアクリロニトリルの割合が高くなる。そして、構造単位におけるアクリロニトリルの割合が高い熱可塑性共重合体は、加熱したときに着色し易い。また、該熱可塑性共重合体は、加熱前の着色度と、一旦加熱した後における着色度との差異(再着色性)が大きい。即ち、上記従来の方法で得られる熱可塑性共重合体は、着色し易く、しかも、成形加工時等における再着色性を抑制することができないという問題点を有している。従って、耐熱性および機械的強度等の各種物性に優れ、かつ、着色し難い熱可塑性共重合体、およびその製造方法が切望されている。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、耐熱性および機械的強度等の各種物性に優れ、かつ、着色し難い熱可塑性共重合体、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者等は、上記従来の問題点を解決すべく、熱可塑性共重合体、およびその製造方法について鋭意検討した。その結果、芳香族ビニル単量体と、シアン化ビニル単量体と、マレイミド系単量体とを含む単量体成分を共重合させて熱可塑性共重合体を製造する際に、反応器に少なくとも、シアン化ビニル単量体の一部または全部を仕込んで共重合反応を開始した後、全ての単量体成分を仕込み終えた時点で、反応溶液中の未反応の芳香族ビニル単量体の重量が未反応のシアン化ビニル単量体の重量よりも多くなるようにすることにより、共重合反応の後半段階における、反応溶液中の未反応の芳香族ビニル単量体の割合を未反応のシアン化ビニル単量体の割合よりも高くすることができ、共重合反応の後半段階に生成する熱可塑性共重合体の構造単位に占めるシアン化ビニル単量体の割合を低くすることができることを見い出した。
【0009】
そして、上記の方法を採用することにより、加熱したときの着色性(加熱着色性)を低減することができると共に、加熱前の着色度と、一旦加熱した後における着色度との差異(再着色性)を小さくすることができることを確認した。つまり、上記の製造方法により、耐熱性および機械的強度等の各種物性に優れ、かつ、着色し難い熱可塑性共重合体を得ることができることを見い出して、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、請求項1記載の発明の熱可塑性共重合体の製造方法は、上記の課題を解決するために、芳香族ビニル単量体と、シアン化ビニル単量体と、マレイミド系単量体とを含む単量体成分を共重合させることにより、熱可塑性共重合体を製造する方法であって、反応器に少なくとも、シアン化ビニル単量体の一部または全部を仕込んで共重合反応を開始した後、全ての単量体成分を仕込み終えた時点で、反応溶液中の未反応の単量体成分に占める芳香族ビニル単量体の割合が60重量%以上となるように、(A)シアン化ビニル単量体を仕込み終えた後に芳香族ビニル単量体を仕込み終えること、又は(B)反応器に少なくとも、シアン化ビニル単量体の一部または全部を仕込んで共重合反応を開始した後、反応溶液に残りの単量体成分を添加し、全ての単量体成分を仕込み終えた時点で、該反応溶液から未反応のシアン化ビニル単量体を留去することを特徴としている。
【0011】
請求項2記載の発明の熱可塑性共重合体の製造方法は、上記の課題を解決するために、請求項1記載の熱可塑性共重合体の製造方法において、反応溶液に、芳香族ビニル単量体とマレイミド系単量体とを、それぞれ別個に添加することを特徴としている。
【0012】
上記の方法によれば、着色性を低減することができると共に、加熱前の着色度と、一旦加熱した後における着色度との差異(再着色性)を小さくすることができる。これにより、耐熱性および機械的強度等の各種物性に優れ、かつ、着色し難い熱可塑性共重合体を得ることができる。即ち、耐熱性および機械的強度等の各種物性に優れ、かつ、着色し難く、しかも、成形加工時等における再着色性を抑制することができる熱可塑性共重合体を得ることができる。また、請求項2記載の方法によれば、上記種々の効果に加えて、低分子量成分の割合が比較的少ない熱可塑性共重合体を得ることができる。
【0013】
また、請求項3記載の発明の熱可塑性共重合体は、上記の課題を解決するために、芳香族ビニル単量体残基を5重量%〜85重量%の範囲内、シアン化ビニル単量体残基を5重量%〜35重量%の範囲内、マレイミド系単量体残基を10重量%〜50重量%の範囲内、および、上記三種の単量体と共重合可能なビニル単量体(b)残基を0重量%〜20重量%の範囲内で含有する熱可塑性共重合体であって、該熱可塑性共重合体の15重量%クロロホルム溶液の黄色度をYI1 、265℃で4分間加熱した後の熱可塑性共重合体の、15重量%クロロホルム溶液の黄色度をYI2、マレイミド系単量体残基の重量%をXとするとき、
YI1 <(1.5×X2 /100)+5
かつ
YI2 /YI1 <1.5
であり、マレイミド系単量体残基を含有する低分子量成分の割合が(0.1×X)以下であることを特徴としている。
【0014】
上記の熱可塑性共重合体は、耐熱性および機械的強度等の各種物性に優れ、かつ、着色し難い。即ち、上記の熱可塑性共重合体は、耐熱性および機械的強度等の各種物性に優れ、かつ、着色し難く、しかも、成形加工時等における再着色性を抑制することができる。また、上記種々の効果に加えて、耐熱性および耐衝撃性により一層優れた熱可塑性共重合体とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1記載の熱可塑性共重合体の製造方法は、以上のように、芳香族ビニル単量体と、シアン化ビニル単量体と、マレイミド系単量体とを含む単量体成分を共重合させることにより、熱可塑性共重合体を製造する方法であって、反応器に少なくとも、シアン化ビニル単量体の一部または全部を仕込んで共重合反応を開始した後、全ての単量体成分を仕込み終えた時点で、反応溶液中の未反応の単量体成分に占める芳香族ビニル単量体の割合が60重量%以上となるように、(A)シアン化ビニル単量体を仕込み終えた後に芳香族ビニル単量体を仕込み終えること、又は(B)反応器に少なくとも、シアン化ビニル単量体の一部または全部を仕込んで共重合反応を開始した後、反応溶液に残りの単量体成分を添加し、全ての単量体成分を仕込み終えた時点で、該反応溶液から未反応のシアン化ビニル単量体を留去する方法である。
【0016】
本発明の請求項2記載の熱可塑性共重合体の製造方法は、以上のように、反応溶液に、芳香族ビニル単量体とマレイミド系単量体とを、それぞれ別個に添加する方法である。
【0017】
それゆえ、着色性を低減することができると共に、加熱前の着色度と、一旦加熱した後における着色度との差異(再着色性)を小さくすることができる。これにより、耐熱性および機械的強度等の各種物性に優れ、かつ、着色し難い熱可塑性共重合体を得ることができる。即ち、耐熱性および機械的強度等の各種物性に優れ、かつ、着色し難く、しかも、成形加工時等における再着色性を抑制することができる熱可塑性共重合体を得ることができるという効果を奏する。
【0018】
また、反応溶液に、芳香族ビニル単量体とマレイミド系単量体とを、それぞれ別個に添加することにより、上記種々の効果に加えて、低分子量成分の割合が比較的少ない熱可塑性共重合体を得ることができるという効果を併せて奏する。
【0019】
本発明の請求項3記載の熱可塑性共重合体は、以上のように、芳香族ビニル単量体残基を5重量%〜85重量%の範囲内、シアン化ビニル単量体残基を5重量%〜35重量%の範囲内、マレイミド系単量体残基を20重量%〜50重量%の範囲内、および、上記三種の単量体と共重合可能なビニル単量体(b)残基を0重量%〜20重量%の範囲内で含有する熱可塑性共重合体であって、該熱可塑性共重合体の15重量%クロロホルム溶液の黄色度をYI1 、265℃で4分間加熱した後の熱可塑性共重合体の、15重量%クロロホルム溶液の黄色度をYI2、マレイミド系単量体残基の重量%をXとするとき、
YI1 <(1.5×X2 /100)+5
かつ
YI2 /YI1 <1.5
であり、マレイミド系単量体残基を含有する低分子量成分の割合が(0.1×X)以下である構成である。
【0020】
それゆえ、上記の熱可塑性共重合体は、耐熱性および機械的強度等の各種物性に優れ、かつ、着色し難い。即ち、上記の熱可塑性共重合体は、耐熱性および機械的強度等の各種物性に優れ、かつ、着色し難く、しかも、成形加工時等における再着色性を抑制することができるという効果を奏する。
【0021】
また、低分子量成分の割合が(0.1×X)以下であるので、上記種々の効果に加えて、耐熱性および耐衝撃性により一層優れた熱可塑性共重合体とすることができるという効果を併せて奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0023】
本発明にかかる熱可塑性共重合体の製造方法は、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、および、これら両単量体と共重合可能なビニル単量体(a)を含む単量体成分を共重合させる方法である。上記のビニル単量体(a)は、不飽和ジカルボン酸誘導体、および、必要に応じて、上記三種の単量体(即ち、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、不飽和ジカルボン酸誘導体)と共重合可能なビニル単量体(b)を含んでいる。
【0024】
上記の芳香族ビニル単量体としては、具体的には、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−メチル・メチルスチレン、ジメチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これら芳香族ビニル単量体は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。上記例示の化合物のうち、スチレン、α−メチルスチレンがより好ましい。
【0025】
芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、および、ビニル単量体(a)の合計、つまり、全ての単量体成分(以下、全単量体成分と称する)に占める芳香族ビニル単量体の割合は、特に限定されるものではないが、15重量%〜95重量%の範囲内が好ましく、25重量%〜75重量%の範囲内がより好ましい。芳香族ビニル単量体の割合が15重量%未満であると、重合率が低くなり、得られる熱可塑性共重合体の機械的強度が低下する。また、芳香族ビニル単量体の割合が95重量%を越えると、得られる熱可塑性共重合体の耐熱性が低下する。
【0026】
上記のシアン化ビニル単量体としては、具体的には、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらシアン化ビニル単量体は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。上記例示の化合物のうち、アクリロニトリルがより好ましい。
【0027】
全単量体成分に占めるシアン化ビニル単量体の割合は、特に限定されるものではないが、5重量%〜35重量%の範囲内が好ましく、5重量%〜25重量%の範囲内がより好ましい。シアン化ビニル単量体の割合が5重量%未満であると、得られる熱可塑性共重合体の耐衝撃性等の機械的強度が低下する。また、シアン化ビニル単量体の割合が35重量%を越えると、得られる熱可塑性共重合体の耐熱性が低下すると共に、該熱可塑性共重合体が着色し易くなる。
【0028】
上記の不飽和ジカルボン酸誘導体としては、具体的には、例えば、マレイミド;N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−(クロロフェニル)マレイミド、N−(ブロモフェニル)マレイミド等のN置換マレイミド;等のマレイミド系単量体、並びに、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸が挙げられる。これら不飽和ジカルボン酸誘導体は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。上記例示の化合物のうち、入手の容易さおよび経済性等の観点から、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドがより好ましい。
【0029】
全単量体成分に占める不飽和ジカルボン酸誘導体の割合は、特に限定されるものではないが、50重量%以下が好ましく、20重量%〜50重量%の範囲内がより好ましい。不飽和ジカルボン酸誘導体の割合が50重量%を越えると、流動性が低下すると共に、得られる熱可塑性共重合体の耐衝撃性等の機械的強度、および成形加工性が低下する。また、該熱可塑性共重合体が着色し易くなる。尚、不飽和ジカルボン酸誘導体を用いない場合には、得られる熱可塑性共重合体の耐熱性が低下するおそれがある。
【0030】
上記のビニル単量体(b)としては、具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸ベンジル等のアクリル酸アリールエステル;メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アリールエステル;等が挙げられる。これらビニル単量体(b)は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。
【0031】
全単量体成分に占めるビニル単量体(b)の割合は、特に限定されるものではないが、20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。ビニル単量体(b)の割合が20重量%を越えると、得られる熱可塑性共重合体の耐衝撃性等の機械的強度、および耐熱性が低下する。
【0032】
尚、ビニル単量体(a)は、不飽和ジカルボン酸誘導体およびビニル単量体(b)のうち、少なくとも一方の単量体を含んでいるので、全単量体成分に占めるビニル単量体(a)の割合は、50重量%以下が好ましく、20重量%〜50重量%の範囲内がより好ましいことになる。また、ビニル単量体(a)は、不飽和ジカルボン酸誘導体を含んでいることがより好ましい。
【0033】
本発明にかかる製造方法においては、上記の全単量体成分を回分方式を採用して共重合させるが、溶液共重合させることがより好ましい。該溶液共重合においては、溶媒、および、重合開始剤を用いる。
【0034】
上記の溶媒としては、具体的には、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素;ブチルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;等が挙げられる。これら溶媒は、単独で用いてもよく、また、二種類以上を適宜混合して用いてもよい。上記例示の化合物のうち、芳香族炭化水素がより好ましい。尚、溶媒の使用量は、単量体成分の組み合わせや、反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0035】
上記の重合開始剤としては、具体的には、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ・イソプロピルカーボネート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等の有機過酸化物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;等のラジカル重合開始剤が挙げられる。これら重合開始剤は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。さらに、上記過酸化物と、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアミジンスルフィン酸、アスコルビン酸等の還元剤とを組み合わせて、レドックス開始剤とすることもできる。尚、重合開始剤の使用量は、単量体成分の組み合わせや、反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0036】
本発明にかかる製造方法においては、先ず、攪拌装置等を備えた所定の反応器に、全単量体成分のうち、少なくとも、シアン化ビニル単量体の一部または全部を含む単量体成分(以下、単量体成分(ア)と称する)を仕込んだ後、共重合反応を開始する。また、組成の均一性をより一層向上させるためには、該反応器に、全単量体成分のうち、少なくとも、芳香族ビニル単量体の一部、および、シアン化ビニル単量体の一部または全部を含む単量体成分を仕込んだ後、共重合反応を開始することがより好ましい。
【0037】
溶媒並びに重合開始剤は、反応器に予め全量を仕込んでおいてもよく、或いは、反応器にその一部を仕込む一方、共重合反応を開始した後で反応溶液に添加する残りの単量体成分(以下、単量体成分(イ)と称する)に、残りを混合しておいてもよい。つまり、溶媒、並びに、重合開始剤を反応器に仕込む方法は、特に限定されるものではない。但し、重合開始剤は、反応溶液に単量体成分(イ)を添加する前に、少なくとも、その一部を反応器に仕込んでおく必要がある。
【0038】
反応温度は、特に限定されるものではないが、70℃〜180℃程度がより好ましく、90℃〜160℃程度がさらに好ましい。反応時間は、反応温度や、単量体成分(イ)の添加にかける時間等の反応条件に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0039】
そして、共重合反応を開始した後、全単量体成分を仕込み終えた時点で、反応溶液中の未反応の芳香族ビニル単量体の重量が未反応のシアン化ビニル単量体の重量よりも多くなるようにする。具体的には、例えば、反応溶液中の未反応の芳香族ビニル単量体の重量が未反応のシアン化ビニル単量体の重量よりも多くなるように、反応溶液に単量体成分(イ)を添加する。また、さらに好ましくは、全単量体成分を仕込み終えた時点で、反応溶液中の未反応の芳香族ビニル単量体の重量が芳香族ビニル単量体以外の未反応の単量体の重量、即ち、未反応のシアン化ビニル単量体およびビニル単量体(a)の重量よりも多くなるように、反応溶液に単量体成分(イ)を添加する。
【0040】
つまり、反応溶液に単量体成分(イ)を仕込み終えた時点で、反応溶液中の未反応の芳香族ビニル単量体の重量が未反応のシアン化ビニル単量体の重量よりも多くなるようにする。また、反応溶液に単量体成分(イ)を仕込み終えた時点で、反応溶液中の未反応の芳香族ビニル単量体の重量が未反応のシアン化ビニル単量体およびビニル単量体(a)の重量よりも多くなるようにすることが、より好ましい。さらに、反応溶液に単量体成分(イ)を仕込み終えた時点で、反応溶液中の未反応の単量体成分に占める芳香族ビニル単量体の割合が60重量%以上となるようにすることが、特に好ましい。尚、熱可塑性共重合体の収率は、生産性の面で、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。
【0041】
これにより、共重合反応の後半段階における、反応溶液中の未反応の芳香族ビニル単量体の割合を未反応のシアン化ビニル単量体の割合よりも高くすることができ、共重合反応の後半段階に生成する熱可塑性共重合体の構造単位に占めるシアン化ビニル単量体の割合を低くすることができる。
【0042】
そして、共重合反応の全段階を通じて、反応溶液中の未反応の芳香族ビニル単量体の重量が未反応のシアン化ビニル単量体の重量よりも多くなるようにすることが、さらに好ましい。また、共重合反応の全段階を通じて、反応溶液中の未反応の芳香族ビニル単量体の重量が未反応のシアン化ビニル単量体およびビニル単量体(a)の重量よりも多くなるようにすることが、特に好ましい。
【0043】
反応溶液に単量体成分(イ)を添加する方法としては、例えば、連続的に添加する方法;数回に分割して逐次的に添加する方法が挙げられる。これら添加方法のうち、連続的に添加する方法がより好ましい。尚、単量体成分(イ)の添加にかける時間は、特に限定されるものではない。また、反応溶液に単量体成分(イ)を添加し始める時点は、共重合反応を開始した後であればよく、特に限定されるものではないが、できるだけ早い時点が望ましい。
【0044】
そして、単量体成分(イ)は、芳香族ビニル単量体の残り、ビニル単量体(a)の一部或いは全部、および、シアン化ビニル単量体の残り(即ち、全量を単量体成分(ア)として仕込まない場合)を、それぞれ別個に添加してもよく、また、これら三種の単量体を適宜混合して添加してもよい。このうち、芳香族ビニル単量体と、シアン化ビニル単量体とを、それぞれ別個に添加することがより好ましい。尚、この場合、ビニル単量体(a)は、別個に添加してもよく、芳香族ビニル単量体と混合して添加してもよく、シアン化ビニル単量体と混合して添加してもよい。さらに、ビニル単量体(a)が不飽和ジカルボン酸誘導体およびビニル単量体(b)を含んでいる場合には、不飽和ジカルボン酸誘導体と、ビニル単量体(b)とをそれぞれ別個に添加することもできる。
【0045】
また、特に、ビニル単量体(a)が不飽和ジカルボン酸誘導体を含んでいる場合、つまり、単量体成分(イ)が、芳香族ビニル単量体と不飽和ジカルボン酸誘導体とを含んでいる場合には、これら芳香族ビニル単量体と不飽和ジカルボン酸誘導体とをそれぞれ別個に、即ち、互いに混合させることなく添加することがより好ましい。
【0046】
具体的には、例えば、(1) 芳香族ビニル単量体の一部を含む単量体成分(ア)を仕込んで共重合反応を開始した後、反応溶液に、単量体成分(イ)として、芳香族ビニル単量体の残りを含む単量体成分と、不飽和ジカルボン酸誘導体を含む単量体成分とをそれぞれ別個に添加する方法;(2) 不飽和ジカルボン酸誘導体の一部を含む単量体成分(ア)を仕込んで共重合反応を開始した後、反応溶液に、単量体成分(イ)として、不飽和ジカルボン酸誘導体の残りを含む単量体成分と、芳香族ビニル単量体を含む単量体成分とをそれぞれ別個に添加する方法;(3) 反応溶液に、単量体成分(イ)として、不飽和ジカルボン酸誘導体の全量を含む単量体成分と、芳香族ビニル単量体の全量を含む単量体成分とをそれぞれ別個に添加する方法;等が挙げられる。
【0047】
これにより、芳香族ビニル単量体と不飽和ジカルボン酸誘導体とのディールス−アルダー反応(Diels-Alder reaction)等の副反応をより一層抑制することができるので、低分子量成分(後段にて詳述する)の割合が比較的少ない熱可塑性共重合体を得ることができる。
【0048】
そして、シアン化ビニル単量体を仕込み終えた後に、芳香族ビニル単量体を仕込み終えることが特に好ましい。また、ビニル単量体(a)は、共重合反応の何れの段階で仕込んでもよいが、ビニル単量体(a)が不飽和ジカルボン酸誘導体を含む場合には、芳香族ビニル単量体を仕込み終える前に、不飽和ジカルボン酸誘導体を仕込み終えることがより好ましい。
【0049】
尚、重合工程に、必要に応じて、アルキルメルカプタンやα−メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤、ヒンダードアミン系やベンゾトリアゾール系の耐候性安定剤、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤、分子量調節剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤等の添加剤を添加してもよい。
【0050】
また、本発明にかかる他の製造方法においては、共重合反応を開始した後、反応溶液に単量体成分(イ)を添加し、全単量体成分を仕込み終えた後、該反応溶液から未反応のシアン化ビニル単量体を留去する。具体的には、例えば、全単量体成分を仕込み終えた後、反応溶液中の未反応の芳香族ビニル単量体の重量が未反応のシアン化ビニル単量体の重量よりも多くなるように、該反応溶液から未反応のシアン化ビニル単量体を留去する。
【0051】
つまり、全単量体成分を仕込み終えた後、反応溶液から未反応のシアン化ビニル単量体を留去することにより、反応溶液中の未反応の芳香族ビニル単量体の重量が未反応のシアン化ビニル単量体の重量よりも多くなるようにする。さらに、反応溶液から未反応のシアン化ビニル単量体を留去することにより、反応溶液中の未反応の単量体成分に占める芳香族ビニル単量体の割合が60重量%以上となるようにすることが、特に好ましい。
【0052】
反応溶液から未反応のシアン化ビニル単量体を留去する方法としては、例えば、シアン化ビニル単量体を還流させ、その一部を抜き取る方法;減圧蒸留する方法等が挙げられる。尚、シアン化ビニル単量体の留去にかける時間は、特に限定されるものではない。また、シアン化ビニル単量体を留去し始める時点は、全単量体成分を仕込み終えた後であればよく、特に限定されるものではないが、できるだけ早い時点が望ましい。
【0053】
共重合反応は、全単量体成分が実質的に重合し終えた段階で終了すればよいが、必要に応じて、例えば未反応の芳香族ビニル単量体が残っている段階で終了してもよい。これにより、本発明にかかる熱可塑性共重合体が製造される。該熱可塑性共重合体は、耐衝撃性
等の機械的強度、耐熱性、耐薬品性、耐候性、および流動性等の各種物性に優れている。
【0054】
反応溶液から熱可塑性共重合体を取り出す方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、反応溶液をベント付き二軸押出機等のいわゆる揮発分分離除去装置に導入し、反応溶液から揮発分を除去(留去)することにより、熱可塑性共重合体と、未反応の単量体成分および溶媒等とを分離する方法が簡便である。揮発分分離除去装置を用いる方法は、工業的に有利である。
【0055】
また、例えば、熱可塑性共重合体を溶解しない溶剤(貧溶媒)に反応溶液を投入して、該熱可塑性共重合体を沈澱(析出)させた後、得られた沈澱物、つまり、熱可塑性共重合体を濾別して乾燥する方法も採用することができる。
【0056】
これにより、本発明にかかる熱可塑性共重合体を分離することができる。また、得られた熱可塑性共重合体には、必要に応じて、前記酸化防止剤、前記耐候性安定剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤等の添加剤、或いは、各種充填剤を添加してもよい。
【0057】
上記の製造方法により、本発明にかかる熱可塑性共重合体が得られる。以上のようにして製造される熱可塑性共重合体は、例えば、単量体成分が不飽和ジカルボン酸誘導体およびビニル単量体(b)を含む場合には、芳香族ビニル単量体残基を5重量%〜85重量%の範囲内、シアン化ビニル単量体残基を5重量%〜35重量%の範囲内、不飽和ジカルボン酸誘導体残基を10重量%〜50重量%の範囲内、および、ビニル単量体(b)残基を0重量%〜20重量%の範囲内で含有していることがより好ましく、さらに、芳香族ビニル単量体残基を15重量%〜75重量%の範囲内、シアン化ビニル単量体残基を5重量%〜25重量%の範囲内、不飽和ジカルボン酸誘導体残基を20重量%〜50重量%の範囲内、および、ビニル単量体(b)残基を0重量%〜10重量%の範囲内で含有していることが特に好ましい。
【0058】
そして、単量体成分残基を上記の各範囲内で含有する熱可塑性共重合体は、その15重量%クロロホルム溶液の黄色度をYI1 、265℃で4分間加熱した後の該熱可塑性共重合体の、15重量%クロロホルム溶液の黄色度をYI2、不飽和ジカルボン酸誘導体残基の重量%をXとするとき、下記の不等式(1)・(2)を満足する。即ち、上記の熱可塑性共重合体は、
YI1 <(1.5×X2 /100)+5 ……(1)
かつ
YI2 /YI1 <1.5 ……(2)
を満足する。尚、熱可塑性共重合体を265℃で4分間加熱する方法は、特に限定されるものではない。
【0059】
上記の不等式(1)・(2)は、本願発明者等が鋭意検討した結果、見い出した不等式である。そして、本発明にかかる熱可塑性共重合体は、着色が少ないので、不等式(1)を満足する。一方、従来の熱可塑性共重合体は、着色し易いので、不等式(1)を満足しない。また、本発明にかかる熱可塑性共重合体は、加熱前の着色度と、一旦加熱した後における着色度との差異(再着色性)が比較的小さいので、不等式(2)を満足する。一方、従来の熱可塑性共重合体は、再着色性が比較的大きいので、不等式(2)を満足しない。即ち、本発明にかかる熱可塑性共重合体は、従来の熱可塑性共重合体と比較して、着色性が改善されているので、着色し難く、しかも、成形加工時等における再着色性が抑制されている。
【0060】
また、上記の熱可塑性共重合体における低分子量の不純物の割合、つまり、例えば分子量が200〜1000の範囲内であって、不飽和ジカルボン酸誘導体残基を含有する低分子量成分の割合は、できるだけ少ない方が好ましい。具体的には、該低分子量成分の割合は、(0.1×X)以下がより好ましく、(0.06×X)以下がさらに好ましく、(0.04×X)以下が特に好ましい。低分子量成分の割合が(0.1×X)を越える場合には、熱可塑性共重合体の耐熱性および耐衝撃性が低下する傾向がある。尚、低分子量成分は、本発明にかかる製造方法において反応溶液から未反応のシアン化ビニル単量体を留去する際においても、該未反応物と共に除去されずに、熱可塑性共重合体に残留する。
【0061】
上記の低分子量成分についてさらに詳しく説明する。本願発明者等が鋭意検討した結果、不飽和ジカルボン酸誘導体であるマレイミド系単量体と、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体とをラジカル重合させると、該重合と共に、三者の間でディールス−アルダー反応等の副反応が起こることがわかった。つまり、目的物である共重合体と共に、マレイミド系単量体と、芳香族ビニル単量体および/またはシアン化ビニル単量体とが反応してなる反応物や、該反応物と、マレイミド系単量体および/またはシアン化ビニル単量体とがさらに反応してなる反応物等の低分子量成分が生成することがわかった。
【0062】
従って、上記の熱可塑性共重合体が含有する低分子量成分は、単量体成分がラジカル重合することによって生成する化合物ではなく、不飽和ジカルボン酸誘導体と、例えば芳香族ビニル単量体とのディールス−アルダー反応等の副反応によって生成する化合物である。尚、低分子量成分の分子量、並びに、熱可塑性共重合体における低分子量成分の含有量(割合)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)等を用いて容易に測定することができる。
【0063】
熱可塑性共重合体は、例えば、自動車の内装部品、電気・電子機器の部品、各種工業製品の部品、事務用品等の成形品、或いは、食品包装材料等として好適である。尚、熱可塑性共重合体の成型方法や、その用途は、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。尚、実施例および比較例に記載の「部」は、「重量部」を示しており、「%」は、「重量%」を示している。
【0065】
熱可塑性共重合体の組成は、次のようにして求めた。即ち、熱可塑性共重合体を所定量、精秤し、クロロホルムに溶解させて3%溶液にした。次に、この溶液を用いて、セル厚0.05mmの条件で赤外分光分析(いわゆる赤外吸収法)を行った。
【0066】
そして、測定された赤外吸収スペクトル(IR)の吸収強度から、熱可塑性共重合体が含有するシアン基、カルボニル基、および、ベンゼン環の量をそれぞれ求めることにより、該熱可塑性共重合体の組成を求めた。尚、シアン基は、シアン化ビニル単量体に由来し、波数2237cm-1の赤外線を吸収する。カルボニル基は、ビニル単量体(a)に由来し、波数1712cm-1の赤外線を吸収する。ベンゼン環は、芳香族ビニル単量体に由来し、波数760cm-1の赤外線を吸収する。
【0067】
また、全単量体成分を仕込み終えた時点での、反応溶液中の未反応の単量体成分の濃度、即ち、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、および、ビニル単量体(a)の濃度は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定した。さらに、共重合反応を終了した時点での、反応溶液中の未反応の単量体成分の濃度も、同様にして測定した。尚、共重合反応を終了した時点での、反応溶液中の熱可塑性共重合体の濃度は、該反応溶液から取り出した熱可塑性共重合体の量から求めた。
【0068】
熱可塑性共重合体のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC (differential scanning calorimetry))装置(理学電気株式会社製;商品名 DSC−8230)を用いて、α−Al23 を標準物質として、窒素気流下、昇温速度5℃/分で測定を行うことにより得られるDSC曲線から、中点法によって求めた。
【0069】
さらに、熱可塑性共重合体の黄色度(YI)は、熱可塑性共重合体の15%クロロホルム溶液を試料とし、色差計(日本電色工業株式会社製;商品名 SZ−Σ80 COLOR MEASURING SYSTEM)を用いて、セル厚1cmで透過法測定を行うことにより求めた。
【0070】
〔実施例1〕
温度計、窒素ガス導入管、二つの滴下装置、還流冷却器、および攪拌機を備えた反応器に、芳香族ビニル単量体としてのスチレン5.0部、シアン化ビニル単量体としてのアクリロニトリル5.0部、および、溶媒としてのトルエン47.3部を仕込んだ。また、一方の滴下装置に、スチレン15.0部と、重合開始剤(化薬アクゾ株式会社製;商品名 カヤカルボンBIC−75)0.2部とからなる混合物(A)を仕込むと共に、他方の滴下装置に、アクリロニトリル1.0部、不飽和ジカルボン酸誘導体(ビニル単量体(a))としてのN−フェニルマレイミド16.0部、および、トルエン10.7部からなる混合物(B)を仕込んだ。混合物(B)は、トルエンにアクリロニトリルとN−フェニルマレイミドとを混合した後、70℃に加熱して両者を溶解させることによって調製した。
【0071】
次に、上記のトルエン溶液を窒素雰囲気下で攪拌しながら100℃に昇温した後、該トルエン溶液に、重合開始剤(同)0.05部を添加して、共重合反応を開始した。そして、共重合反応の開始後、反応溶液に、混合物(A)を3.5時間かけて連続的に滴下すると共に、70℃に保温した混合物(B)を3.0時間かけて連続的に滴下した。
【0072】
全単量体成分を仕込み終えた時点、つまり、混合物(A)を滴下し終えた時点での、反応溶液中の未反応の単量体成分の濃度を測定した。その結果、スチレンの濃度は3.2%、アクリロニトリルの濃度は1.6%、N−フェニルマレイミドの濃度は0.5%であった。従って、反応溶液中の未反応の単量体成分に占めるスチレンの割合は、60.4%であった。
【0073】
共重合反応を開始してから9時間が経過した時点で、該共重合反応を終了した。得られた反応溶液をベント付き二軸押出機に導入した。そして、所定の圧力に減圧すると共に280℃に加熱して、反応溶液から溶媒等の揮発分を除去することにより、熱可塑性共重合体を、ペレットの状態で得た。熱可塑性共重合体のガラス転移温度は、165℃であった。
【0074】
そして、上記熱可塑性共重合体の組成を求めた。その結果、該熱可塑性共重合体は、スチレン残基(芳香族ビニル単量体残基)を47%、アクリロニトリル残基(シアン化ビニル単量体残基)を14%、N−フェニルマレイミド残基(不飽和ジカルボン酸誘導体残基)を39%(X=39)含有していた。また、反応溶液中の熱可塑性共重合体の濃度は、41.5%であった。さらに、濾液中の未反応の単量体成分の濃度、即ち、共重合反応を終了した時点での、反応溶液中の未反応の単量体成分の濃度を測定した。その結果、スチレンの濃度は0.1%、アクリロニトリルの濃度は0.3%であり、N−フェニルマレイミドは検出されなかった。
【0075】
さらに、上記熱可塑性共重合体における低分子量成分の含有量(割合)を、テトラヒドロフラン(THF)を遊離液とするGPCによって測定した。分子量は、標準ポリスチレン換算で求めた値を採用した。また、検量線は、低分子量成分を含まない熱可塑性共重合体に、既知量の低分子量成分を添加してなるサンプルを用いて作成した。
【0076】
その結果、熱可塑性共重合体全体の面積と低分子量成分の面積との比から求めた、該低分子量成分の含有量は、1.0%であった。また、該低分子量成分をTHFを遊離液とするGPCによって分離し、濃縮・乾燥した。得られた低分子量成分の赤外吸収スペクトル(IR)、 1H−NMR(核磁気共鳴)スペクトル、および13C−NMRスペクトルを測定したところ、該低分子量成分は、不飽和ジカルボン酸誘導体残基としてのN−フェニルマレイミド残基を含有していることが確認された。Xが39であったので、「0.1×X」は3.9である。従って、上記低分子量成分の含有量(1.0%)は、好ましい範囲内であることがわかった。
【0077】
次に、熱可塑性共重合体の黄色度YI1 およびYI2 を測定した。その結果、YI1 は25.0、YI2 は33.0、「YI2/YI1 」は1.32であった。また、Xが39であったので、「(1.5×X2 /100)+5」は約27.8である。従って、上記の熱可塑性共重合体は、前記の不等式(1)・(2)を満足していることがわかった。上記の主な反応条件、並びに、結果を、表1にまとめた。
【0078】
〔実施例2〕
実施例1において、混合物(B)を2.0時間かけて連続的に滴下した以外は、実施例1の共重合反応および操作等と同様の共重合反応および操作等を行って、熱可塑性共重合体を得た。熱可塑性共重合体のガラス転移温度は、165℃であった。
【0079】
混合物(A)を滴下し終えた時点での、反応溶液中の未反応のスチレンの濃度は4.0%、アクリロニトリルの濃度は1.8%、N−フェニルマレイミドの濃度は0.1%であった。従って、反応溶液中の未反応の単量体成分に占めるスチレンの割合は、67.8%であった。さらに、共重合反応を終了した時点での、反応溶液中の未反応のスチレンの濃度は0.4%、アクリロニトリルの濃度は0.2%であり、N−フェニルマレイミドは検出されなかった。
【0080】
そして、上記の熱可塑性共重合体は、スチレン残基を47%、アクリロニトリル残基を14%、N−フェニルマレイミド残基を39%(X=39)含有していた。また、反応溶液中の熱可塑性共重合体の濃度は、41.3%であった。
【0081】
実施例1と同様にして測定した上記熱可塑性共重合体における低分子量成分の含有量は、1.0%であった。また、該低分子量成分は、N−フェニルマレイミド残基を含有していることが確認された。Xが39であったので、「0.1×X」は3.9である。従って、上記低分子量成分の含有量(1.0%)は、好ましい範囲内であることがわかった。
【0082】
次に、熱可塑性共重合体の黄色度YI1 およびYI2 を測定した。その結果、YI1 は13.0、YI2 は17.0、「YI2/YI1 」は1.31であった。また、Xが39であったので、「(1.5×X2 /100)+5」は約27.8である。従って、上記の熱可塑性共重合体は、前記の不等式(1)・(2)を満足していることがわかった。上記の主な反応条件、並びに、結果を、表1にまとめた。
【0083】
〔実施例3〕
実施例1において、混合物(B)を3.5時間かけて連続的に滴下した以外は、実施例1の操作等と同様の操作等を行って、全単量体成分を仕込み終えた。つまり、混合物(A)の滴下にかける時間と、混合物(B)の滴下にかける時間とを等しくした。
【0084】
全単量体成分を仕込み終えた時点、つまり、混合物(A)・(B)を滴下し終えた時点での、反応溶液中の未反応のスチレンの濃度は3.2%、アクリロニトリルの濃度は1.7%、N−フェニルマレイミドの濃度は1.7%であった。従って、反応溶液中の未反応の単量体成分に占めるスチレンの割合は、48.5%であった。
【0085】
そして、全単量体成分を仕込み終えた時点で、反応溶液の一部を留去する操作を開始した。即ち、還流冷却器にて凝縮された還流液のうち、10部を抜き取った。還流液10部を抜き取った時点での、反応溶液中の未反応のスチレンの濃度は3.5%、アクリロニトリルの濃度は0.7%、N−フェニルマレイミドの濃度は0.9%となった。従って、反応溶液中の未反応の単量体成分に占めるスチレンの割合は、68.6%となった。
【0086】
次いで、共重合反応を開始してから9時間が経過した時点で、該共重合反応を終了した。その後、実施例1の操作等と同様の操作等を行って、熱可塑性共重合体を分離した。得られた熱可塑性共重合体のガラス転移温度は、166℃であった。
【0087】
そして、上記熱可塑性共重合体の組成を求めた。その結果、該熱可塑性共重合体は、スチレン残基を47%、アクリロニトリル残基を13%、N−フェニルマレイミド残基を40%(X=40)含有していた。また、反応溶液中の熱可塑性共重合体の濃度は、45.2%であった。さらに、共重合反応を終了した時点での、反応溶液中の未反応の単量体成分の濃度を測定した。その結果、スチレンの濃度は0.3%、アクリロニトリルの濃度は0.1%であり、N−フェニルマレイミドは検出されなかった。
【0088】
実施例1と同様にして測定した上記熱可塑性共重合体における低分子量成分の含有量は、1.1%であった。また、該低分子量成分は、N−フェニルマレイミド残基を含有していることが確認された。Xが40であったので、「0.1×X」は4.0である。従って、上記低分子量成分の含有量(1.1%)は、好ましい範囲内であることがわかった。
【0089】
次に、熱可塑性共重合体の黄色度YI1 およびYI2 を測定した。その結果、YI1 は16.0、YI2 は22.0、「YI2/YI1 」は1.38であった。また、Xが40であったので、「(1.5×X2 /100)+5」は29.0である。従って、上記の熱可塑性共重合体は、前記の不等式(1)・(2)を満足していることがわかった。上記の主な反応条件、並びに、結果を、表1にまとめた。
【0090】
〔比較例1〕
実施例1において、混合物(B)を3.5時間かけて連続的に滴下した以外は、つまり、混合物(A)の滴下にかける時間と、混合物(B)の滴下にかける時間とを等しくした以外は、実施例1の共重合反応および操作等と同様の共重合反応および操作等を行って、比較用の熱可塑性共重合体を得た。比較用熱可塑性共重合体のガラス転移温度は、164℃であった。
【0091】
混合物(A)・(B)を滴下し終えた時点での、反応溶液中の未反応のスチレンの濃度は3.2%、アクリロニトリルの濃度は1.7%、N−フェニルマレイミドの濃度は1.7%であった。従って、反応溶液中の未反応の単量体成分に占めるスチレンの割合は、48.5%であった。さらに、共重合反応を終了した時点での、反応溶液中の未反応のスチレンの濃度は0.1%、アクリロニトリルの濃度は0.4%であり、N−フェニルマレイミドは検出されなかった。
【0092】
そして、上記の比較用熱可塑性共重合体は、スチレン残基を49%、アクリロニトリル残基を13%、N−フェニルマレイミド残基を38%(X=38)含有していた。また、反応溶液中の比較用熱可塑性共重合体の濃度は、41.5%であった。
【0093】
実施例1と同様にして測定した上記比較用熱可塑性共重合体における低分子量成分の含有量は、1.1%であった。また、該低分子量成分は、N−フェニルマレイミド残基を含有していることが確認された。Xが38であったので、「0.1×X」は3.8である。従って、上記低分子量成分の含有量(1.1%)は、好ましい範囲内であることがわかった。
【0094】
次に、比較用熱可塑性共重合体の黄色度YI1 およびYI2 を測定した。その結果、YI1 は30.0、YI2 は52.0、「YI2/YI1 」は1.73であった。また、Xが38であったので、「(1.5×X2 /100)+5」は約26.7である。従って、上記の比較用熱可塑性共重合体は、前記の不等式(1)・(2)を満足していないことがわかった。また、比較用熱可塑性共重合体は、実施例1における熱可塑性共重合体と比較して、着色し易く、かつ、再着色性が大きいことがわかった。上記の主な反応条件、並びに、結果を、表1にまとめた。
【0095】
〔比較例2〕
実施例1の反応器と同様の反応器に、スチレン5.0部、アクリロニトリル5.0部、および、トルエン47.3部を仕込んだ。また、一方の滴下装置に、重合開始剤(化薬アクゾ株式会社製;商品名 カヤカルボンBIC−75)0.2部を混合物(A)として仕込むと共に、他方の滴下装置に、スチレン15.0部、アクリロニトリル1.0部、N−フェニルマレイミド16.0部、および、トルエン10.7部からなる混合物(B)を仕込んだ。混合物(B)は、トルエンにスチレンとアクリロニトリルとN−フェニルマレイミドとを混合した後、70℃に加熱して三者を溶解させることによって調製した。
【0096】
次に、上記のトルエン溶液を窒素雰囲気下で攪拌しながら100℃に昇温した後、該トルエン溶液に、重合開始剤(同)0.05部を添加して、共重合反応を開始した。そして、共重合反応の開始後、反応溶液に、混合物(A)を3.5時間かけて連続的に滴下すると共に、70℃に保温した混合物(B)を3.5時間かけて連続的に滴下した。
【0097】
即ち、実施例1において、混合物(A)・(B)の組成を上記のように変更すると共に、混合物(A)の滴下にかける時間と、混合物(B)の滴下にかける時間とを等しくした以外は、実施例1の共重合反応および操作等と同様の共重合反応および操作等を行って、比較用の熱可塑性共重合体を得た。比較用熱可塑性共重合体のガラス転移温度は、152℃であった。
【0098】
混合物(A)・(B)を滴下し終えた時点での、反応溶液中の未反応のスチレンの濃度は3.1%、アクリロニトリルの濃度は1.8%、N−フェニルマレイミドの濃度は1.7%であった。従って、反応溶液中の未反応の単量体成分に占めるスチレンの割合は、47.0%であった。さらに、共重合反応を終了した時点での、反応溶液中の未反応のスチレンの濃度は0.1%、アクリロニトリルの濃度は0.4%であり、N−フェニルマレイミドは検出されなかった。
【0099】
そして、上記の比較用熱可塑性共重合体は、スチレン残基を49%、アクリロニトリル残基を13%、N−フェニルマレイミド残基を38%(X=38)含有していた。また、反応溶液中の比較用熱可塑性共重合体の濃度は、41.5%であった。
【0100】
実施例1と同様にして測定した上記比較用熱可塑性共重合体における低分子量成分の含有量は、5.3%であった。また、該低分子量成分は、N−フェニルマレイミド残基を含有していることが確認された。Xが38であったので、「0.1×X」は3.8である。従って、上記低分子量成分の含有量(5.3%)は、好ましい範囲から外れていることがわかった。つまり、実施例1の熱可塑性共重合体と比較して、上記比較用熱可塑性共重合体は、低分子量成分の含有量が多い。このため、比較用熱可塑性共重合体のガラス転移温度は、実施例1の熱可塑性共重合体のガラス転移温度よりも低くなっている。
【0101】
次に、比較用熱可塑性共重合体の黄色度YI1 およびYI2 を測定した。その結果、YI1 は32.0、YI2 は54.0、「YI2/YI1 」は1.69であった。また、Xが38であったので、「(1.5×X2 /100)+5」は約26.7である。従って、上記の比較用熱可塑性共重合体は、前記の不等式(1)・(2)を満足していないことがわかった。また、比較用熱可塑性共重合体は、実施例1における熱可塑性共重合体と比較して、着色し易く、かつ、再着色性が大きいことがわかった。上記の主な反応条件、並びに、結果を、表1にまとめた。
【0102】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体と、シアン化ビニル単量体と、マレイミド系単量体とを含む単量体成分を共重合させることにより、熱可塑性共重合体を製造する方法であって、
反応器に少なくとも、シアン化ビニル単量体の一部または全部を仕込んで共重合反応を開始した後、全ての単量体成分を仕込み終えた時点で、反応溶液中の未反応の単量体成分に占める芳香族ビニル単量体の割合が60重量%以上となるように、
(A)シアン化ビニル単量体を仕込み終えた後に芳香族ビニル単量体を仕込み終えること、又は
(B)反応器に少なくとも、シアン化ビニル単量体の一部または全部を仕込んで共重合反応を開始した後、反応溶液に残りの単量体成分を添加し、全ての単量体成分を仕込み終えた時点で、該反応溶液から未反応のシアン化ビニル単量体を留去すること、
を特徴とする熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項2】
反応溶液に、芳香族ビニル単量体とマレイミド系単量体とを、それぞれ別個に添加することを特徴とする請求項1記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項3】
芳香族ビニル単量体残基を5重量%〜85重量%の範囲内、シアン化ビニル単量体残基を5重量%〜35重量%の範囲内、マレイミド系単量体残基を10重量%〜50重量%の範囲内、および、上記三種の単量体と共重合可能なビニル単量体(b)残基を0重量%〜20重量%の範囲内で含有する熱可塑性共重合体であって、
該熱可塑性共重合体の15重量%クロロホルム溶液の黄色度をYI1 、265℃で4分間加熱した後の熱可塑性共重合体の、15重量%クロロホルム溶液の黄色度をYI2、マレイミド系単量体残基の重量%をXとするとき、
YI1 <(1.5×X2 /100)+5
かつ
YI2 /YI1 <1.5
であり、マレイミド系単量体残基を含有する低分子量成分の割合が(0.1×X)以下であることを特徴とする熱可塑性共重合体。

【公開番号】特開2007−9228(P2007−9228A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284294(P2006−284294)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【分割の表示】特願平9−142602の分割
【原出願日】平成9年5月30日(1997.5.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】