説明

熱可塑性共重合体の製造方法

【課題】 耐熱性、無色透明性に優れ、揮発成分の含有量が抑制された熱安定性に優れる熱可塑性共重合体ならびに該共重合体を経済的に優位に製造する方法を提供する。
【解決手段】(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(ii)不飽和カルボン酸アミド単位を含む共重合体(A)を沈殿重合により製造し、さらに共重合体(A)を加熱処理し分子内環化反応を行うことにより(iii)グルタルイミド単位および(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含む熱可塑性共重合体(C)を製造する工程を含む熱可塑性共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、成形加工特性、無色透明性に優れ、とりわけ熱安定性に優れたグルタルイミド単位含有熱可塑性共重合体ならびに該共重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAと称する)やポリカーボネート(以下、PCと称する)といった非晶性樹脂は、その透明性や寸法安定性を活かし、光学材料、家庭電気機器、OA機器および自動車などの各部品を始めとする広範な分野で使用されている。
【0003】
近年、これらの樹脂は、特に光学レンズ、プリズム、ミラー、光ディスク、光ファイバー、液晶ディスプレイ用シート・フィルム、導光板などの、より高性能な光学材料にも幅広く使用されるようになっており、樹脂に要求される光学特性や成形加工性、耐熱性もより高度なものになっている。
【0004】
また現在、これらの透明樹脂は、テールランプやヘッドランプといった自動車等の灯具部材としても使用されているが、近年、車内空間を大きくするためやガソリン燃費を改良するために、テールランプレンズやインナーレンズ、ヘッドランプ、シールドビーム等の各種レンズと光源の間隔を小さくすること、部品の薄肉化が図られる傾向にあり、優れた成形加工性が要求されるようになっている。また、車両は過酷な条件下で使用されるため、高温多湿下での形状変化が小さいことや、優れた耐傷性、耐候性、耐油性も要求される。
【0005】
しかしながら、PMMA樹脂は、優れた透明性、耐候性を有するものの、耐熱性が十分ではないといった問題があった。一方、PC樹脂は、耐熱性、耐衝撃性に優れるものの、光学的歪みである複屈折率が大きく、成形物に光学的異方性が生じること、成形加工性、耐傷性、耐油性に著しく劣るといった問題があった。
【0006】
そのため、PMMAの耐熱性を改良する目的で、耐熱性付与成分としてマレイミド系単量体あるいは無水マレイン酸単量体等を導入した樹脂が開発されている。しかし、マレイミド系単量体は高価であると同時に反応性が低く、無水マレイン酸は熱安定性が悪いという問題があった。
【0007】
また、PMMAを溶融下、アンモニア、第一級アミンと反応させて得たグルタルイミド単位を含有する重合体が開示されている(例えば特許文献1、特許文献2)。これにより、耐熱性は向上するものの、該製造法では、アンモニアあるいは第一級アミンの残存による色調の悪化や滞留安定性および引張強度が低下するといった問題があり、また、グルタルイミド単位の含有量の制御が難しく、特にグルタルイミド単位を低含量範囲で高精度に調節することも困難であった。さらに該製造法では、重合体の構造中に副生した不飽和カルボン酸単位およびグルタル酸無水物単位が必ず含まれるため、例えば光学補償フィルム等の光学フィルム用途に用いる際には、湿熱条件下で面内位相差および厚み方向位相差が低下し、また、加工時の溶融条件下ではゲル化や脱炭酸反応による色調の悪化や引張強度等の機械特性の低下が生じる傾向にあった。さらに、他の樹脂とのアロイとして用いる際にはゲル化等が生じることがあるなどの制約があった。
【0008】
そこで、重合体中の不飽和カルボン酸単位およびグルタル酸無水物単位を、例えばオルトギ酸エステルを用いて、あるいは炭酸ジメチル等のアルキル化剤とトリエチルアミン等の塩基性化合物および必要に応じて酸化防止剤とを併用して、エステル基に変換する方法が開示されている(例えば特許文献3、特許文献4および特許文献5)。しかし、アルキル化剤による不飽和カルボン酸単位およびグルタル酸無水物単位の完全エステル化は極めて困難であり、完全エステル化を目指した操作は、同時に重合体の色調悪化、滞留安定性および引張強度を低下させるものであった。また、アルキル化剤や副生成物の残存等により引張強度等の機械特性が低下する傾向にあり、さらに未溶融異物、有機溶媒に未溶解の異物の原因になることもあった。また、他の樹脂とのアロイとして用いる場合にも、得られるアロイの色調(黄色度)が悪化する傾向にあった。
【0009】
一方、グルタルイミド単位を含有する重合体の他の製造法として、(メタ)アクリル酸エステル単位と(メタ)アクリルアミド単位からなる前駆共重合体を試験管内で静置させ加熱する方法が開示されている(例えば特許文献6)。しかし、該製造法のように静置下で加熱を行った場合、分子内環化反応の飽和または完結に5時間以上の長時間を要し、色調の悪化の傾向があった。また静置下であることから、局所的に生じる温度差から反応が不均一なる傾向があり、さらに分子内環化反応で発生するアルコール等が共重合体より放出されにくいことから、分子内環化反応が促進されずにグルタルイミド単位の含有量等の組成分布が増大しヘイズおよび色調の悪化、また、滞留安定性が低下し、加熱条件によっては分子間でのイミド架橋体が生成して引張強度および耐湿熱性が低下する傾向にあった。
【0010】
そこで、該前駆共重合体を有機溶媒中、塩基性または酸性触媒の存在下で分子内環化反応せしめて、グルタルイミド単位を含有する重合体を製造する方法が開示されている(例えば特許文献7および特許文献8)。しかし、該製造法においては、前駆共重合体の製造工程および環化工程、さらには目的共重合体の洗浄工程にも大量の溶媒を使用する上、回分式であることから生産性に課題があった。また、該製造法での洗浄工程を省略あるいは洗浄が不十分な場合には、環化反応に用いた触媒が重合体中にそのまま、あるいはカウンターイオン、もしくは変性物として残存し、色調が悪化する、また、滞留安定性および耐湿熱性が低下する傾向にあった。
【特許文献1】米国特許第4246374号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭58−5306号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】日本特許第2980565号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2002−338624号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2007−9191号公報(11頁、実施例7〜9)
【特許文献6】特開昭60−20904号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開平2−153904号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】特開平7−196732号広報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明は、高度な耐熱性、無色透明性に優れ、成形加工特性を有すると同時に、残存する揮発成分が低減した熱安定性に優れた熱可塑性共重合体ならびに該共重合体を工業的に有利に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、グルタルイミド単位を含有する熱可塑性共重合体の前駆体である、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸アミド単位を含有する共重合体を製造するに際し、特定条件下で重合を行い、続いて特定条件下で分子内環化反応を行うことにより、従来の知見では成し得ることができなかった、無色透明性、熱安定性に優れた成形加工特性、低異物を満足する高品質を有し、共重合体から未反応単量体や重合溶媒との分離が容易な経済的にも優位にグルタルイミド単位含有共重合体の製造をすることが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち本発明は、
[1](i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(ii)下記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸アミド単位を含む共重合体(A)を製造するに際し、原料である不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および下記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アミド単量体を含む単量体混合物は溶解し、共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下である有機溶媒(B)中で、前記単量体混合物を共重合する工程を含むことを特徴とする共重合体(A)の製造方法、
【0014】
【化1】

【0015】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【0016】
【化2】

【0017】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
[2]前記不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アミド単量体を含む単量体混合物の有機溶媒(B)に対する溶解度が10g/100g以上であることを特徴とする前記[1]記載の共重合体(A)の製造方法、
[3]前記有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトンから選ばれる1種以上であることを特徴とする前記[1]または[2]いずれか記載の共重合体(A)の製造方法、
[4]前記有機溶媒(B)が、カルボン酸エステルから選ばれる1種以上であることを特徴とする前記[1]〜[3]いずれか記載の共重合体(A)の製造方法、
[5]前記カルボン酸エステルが、飽和脂肪族カルボン酸および飽和脂肪族アルコールから誘導されるエステルであることを特徴とする前記[3]〜[4]いずれか記載の共重合体(A)の製造方法。
[6]前記共重合体(A)中に、(i)不飽和カルボン酸エステル単位を54〜96重量%、(ii)一般式(1)で表される不飽和カルボン酸アミド単位を4〜46重量%含有する前記[1]〜[5]いずれか記載の共重合体(A)の製造方法、
[7]前記共重合体(A)を水で洗浄する工程を含むことを特徴とする前記[1]〜[6]いずれか記載の共重合体(A)の製造方法、
[8]前記[1]〜[7]いずれか記載の製造方法で得られた共重合体(A)を加熱処理し、脱アルコール反応による分子内環化反応行う工程を含むことを特徴とする、(iii)下記一般式(3)で表されるグルタルイミド単位および(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含む熱可塑性共重合体(C)の製造方法、
【0018】
【化3】

【0019】
(ただし、R3、R4は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
[9]前記熱可塑性共重合体(C)中に、(iii)前記一般式(3)で表されるグルタルイミド単位を7〜61重量%、(i)不飽和カルボン酸エステル単位を39〜93重量%含有することを特徴とする前記[8]記載の熱可塑性共重合体(C)の製造方法、
[10]前記加熱処理を、連続混練押出装置を用いて行うことを特徴とする前記[8]記載の熱可塑性共重合体(C)の製造方法、
[11]連続混練押出装置が、ケーシング内に、スクリュー部を形成した第1軸および第2軸が並列に配置された二軸スクリュー部、および二軸スクリュー部より延長された第1軸が配置された単軸スクリュー部を有し、かつ前記二軸スクリュー部と単軸スクリュー部の連通部に流量調節機構を備え、前記ケーシングに二軸スクリュー部に連通する原料供給口を備えるとともに、前記延長された第1軸の端部に連通する吐出口を備えた二軸・単軸複合型連続混練押出装置であることを特徴とする前記[10]記載の熱可塑性共重合体(C)の製造方法、
[12]前記[8]〜[11]いずれか記載の製造法で得られ、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)が2.5〜5.0であることを特徴とする熱可塑性共重合体(C)、
[13]前記熱可塑性共重合体(C)中に、(iii)前記一般式(3)で表されるグルタルイミド単位を7〜61重量%、(i)不飽和カルボン酸エステル単位を39〜93重量%含有することを特徴とする前記[12]記載の熱可塑性共重合体(C)、
[14]前記[12]または[13]いずれか記載の熱可塑性共重合体(C)からなる光学フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、高度な耐熱性、無色透明性に優れた成形加工特性を有すると同時に、残存する揮発成分が低減した熱安定性に優れた熱可塑性共重合体を、工業的に有利に製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の共重合体(A)の製造方法について具体的に説明する。
【0022】
本発明の共重合体(A)とは、(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(ii)下記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸アミド単位を含む共重合体である。
【0023】
【化4】

【0024】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【0025】
本発明で使用される不飽和カルボン酸アミド単量体としては特に制限はなく、他のビニル化合物と共重合させることが可能ないずれの不飽和カルボン酸アミド単量体も使用可能である。好ましい不飽和カルボン酸アミド単量体として、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0026】
【化5】

【0027】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【0028】
ここで、Rの炭素数1〜20の有機残基としては特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、構造中にヘテロ原子を含んでもよいが、Rとして好ましくは、水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換されたフェニル基、炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基から選ばれる基であり、より好ましくは水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基、無置換またはハロゲン基あるいはアルキル基で置換されたフェニル基、炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基から選ばれる基であり、更に好ましくは水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基から選ばれるいずれかであり、特に好ましくはメチル基である。
【0029】
また、Rの炭素数1〜20の有機残基としては特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく構造中にヘテロ原子を含んでもよい。Rとして好ましくは、水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換された芳香族基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換された脂環式炭化水素基、炭素数1〜20のヒドロキシアルキル基から選ばれるいずれかであり、より好ましくは、水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基、無置換またはハロゲンあるいはアルキル基で置換されたフェニル基から選ばれる基、炭素数3〜6の脂環式炭化水素基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基から選ばれる基から選ばれる基であり、更に好ましくは水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基から選ばれるいずれかであり、特に好ましくは水素原子またはメチル基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0030】
不飽和カルボン酸アミド単量体の好ましい具体例としては、特に制限はないが、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、ブトキシメチルメタクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−n−ブチルメタクリルアミド、N−イソブチルアクリルアミド、N−イソブチルメタクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−tert−ブチルメタクリルアミド、N−n−ペンチルアクリルアミド、N−n−ペンチルメタクリルアミド、N−n−へキシルアクリルアミド、N−n−ヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−シクロヘキシルメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミド、N−ベンジルメタクリルアミド、N−クロロフェニルアクリルアミド、N−クロロフェニルメタクリルアミド、N−ジクロロフェニルアクリルアミド、N−ジクロロフェニルメタクリルアミド、N−トリクロロフェニルアクリルアミド、N−トリクロロフェニルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどの単量体が例示できる。中でも、光学特性、熱安定性が優れる点で、アクリルアミド、メタクリルアミドが好ましく、より好ましくはメタクリルアミドである。これらはその1種または2種以上用いることができる。
【0031】
なお、上記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アミド単量体は、共重合すると下記一般式(1)で表される構造の(ii)不飽和カルボン酸アミド単位を与える。
【0032】
【化6】

【0033】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【0034】
また、本発明で使用される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては特に制限はないが、好ましい例として、下記一般式(4)で表されるものを挙げることができる。
【0035】
【化7】

【0036】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは炭素数1〜22の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【0037】
ここで、Rの炭素数1〜20の有機残基としては特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、構造中にヘテロ原子を含んでもよい。Rとして好ましくは、水素、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換された芳香族基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換された脂環式炭化水素基から選ばれる基であり、より好ましくは水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基、無置換またはハロゲンあるいはアルキル基で置換されたフェニル基から選ばれるいずれかであり、更に好ましくは水素および無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0038】
の炭素数1〜22の有機残基としては特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく構造中にヘテロ原子を含んでもよい。Rとして好ましくは、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換された芳香族基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換された炭素数1〜22の脂環式炭化水素基、炭素数1〜20のヒドロキシアルキル基から選ばれるいずれかであり、より好ましくは、水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基、無置換またはハロゲンあるいはアルキル基で置換されたフェニル基から選ばれる基、炭素数3〜6の脂環式炭化水素基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基から選ばれる基から選ばれる基であり、更に好ましくは水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0039】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ドデシル、トリフルオロエチルメタクリレート、などの単量体が例示できる。中でも、光学特性、熱安定性に優れる点で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましく、とりわけメタクリル酸メチルが好ましい。これらは単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0040】
なお、上記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると下記一般式(5)で表される構造の(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0041】
【化8】

【0042】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは炭素数1〜22の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【0043】
さらに、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、その他のビニル系単量体を用いてもかまわない。その他のビニル系単量体の好ましい具体例としては、特に制限はないが、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体などを挙げることができるが、透明性、複屈折率、耐薬品性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0044】
本発明における重合工程については、重合開始剤の存在下あるいは非存在下で、原料である不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および不飽和カルボン酸アミド単量体を含む単量体混合物は溶解し、かつ、(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(ii)不飽和カルボン酸アミド単位を含む共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下である有機溶媒(B)中で重合することが重要である。すなわち、均一な単量体混合物を含む有機溶媒相から、重合が進行するに従い、共重合体(A)を沈殿させる、いわゆる「沈殿重合法」で得ることを特徴とする。この場合、重合後のスラリー溶液を濾過および乾燥することにより、該共重合体(A)を単離することができる。
【0045】
なお、ここで、「共重合体(A)の溶解度」とは、共重合体(A)の有機溶媒(C)100gに対する、23℃で24時間、撹拌した後の溶解量を意味する。
【0046】
また、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および不飽和カルボン酸アミド単量体を含む単量体混合物は、有機溶媒(B)に対し速やかに溶解することが重要である。該単量体混合物の好ましい溶解度に上限はないが、重合温度において有機溶媒(B)100gに対し1g以上であることが好ましく、同5g以上であることがより好ましく、とりわけ同10g以上であることが好ましい。
【0047】
本発明に使用される有機溶媒(B)としては、前述の沈殿重合を可能とする有機溶媒であれば、特に制限はなく、共重合体(A)および単量体混合物の溶解度が上記条件を満たすことが好ましいが、具体例としては脂肪族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトンから選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0048】
本発明に使用される脂肪族炭化水素としては、炭素数が5〜10の直鎖状、側鎖を有するもの、脂環式のものを挙げることができる。具体例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカンおよびそれらの種々の異性体を挙げることができる。
【0049】
本発明に使用されるカルボン酸エステルとは、飽和脂肪族カルボン酸および飽和脂肪族アルコールからなるエステルであり、飽和脂肪族カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを、また飽和脂肪族アルコールとしては炭素数1〜10で直鎖状および分岐状のものを挙げることができる。好ましいカルボン酸エステルとしては、ギ酸−n−プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸−n−ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸−n−ペンチル、ギ酸−n−ヘキシル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−n−ペンチル、酢酸−n−ヘキシル、酢酸−n−ヘプチル、酢酸−n−オクチル、酢酸−n−ノニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸−n−ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸−n−ペンチル、プロピオン酸−n−ヘキシル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸−n−プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸−n−ブチル、酪酸イソブチル、酪酸−n−ペンチル、酪酸−n−ヘキシルなどの種々の異性体を挙げることができる。
【0050】
本発明に使用されるケトンとは、炭素数1〜10で直鎖状および分岐状の飽和脂肪族基からなるケトンであり、具体例としては、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトンなどを挙げることができる。
【0051】
中でも、本発明では有機溶媒(B)として、生成する共重合体の共重合組成および分子量の分布をより精密に制御するという点で、カルボン酸エステルが好ましく、とりわけ酢酸ブチルを好ましく使用することができる。
【0052】
なお、本発明の沈殿重合においては、その重合反応系に水を用いると共重合組成の精密に制御しにくくなる場合があり、水は共重合組成の制御が可能な範囲にとどめるべきであり、有機溶媒等重合反応系に用いる成分が不純物として水を極少量含む場合を除き、水は積極的に添加しないことが最も好ましい。
【0053】
本発明の沈殿重合における重合温度については、任意に設定することが可能であるが、好ましくは使用する有機溶媒の沸点以下の温度が好ましい。中でも、100℃以下の重合温度で重合することが好ましく、95℃以下の重合温度で重合することがより好ましい。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上、好ましくは60℃以上である。また重合時間は、必要な重合率を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましく、90〜240分間の範囲が特に好ましい。
【0054】
また、本発明の沈殿重合における、重合液中の溶存酸素濃度を5ppm以下に制御することが、加熱処理後の熱可塑性共重合体(B)の優れた無色透明性、滞留安定性および熱安定性を達成することができるため、好ましい。さらに加熱処理後の着色をより抑制するために好ましい溶存酸素濃度の範囲は0.01〜3ppmであり、さらに好ましくは0.01〜1ppmである。溶存酸素濃度が5ppmを超える場合、加熱処理後の熱可塑性共重合体(B)が着色する傾向が見られ、また熱可塑性共重合体(B)の熱安定性が低下するため、本発明の目的を達することができない。ここで、本発明における、溶存酸素濃度は、重合液中の溶存酸素を溶存酸素計(例えばガルバニ式酸素センサである飯島電子工業株式会社製、DOメーターB−505)を用いて測定した値である。溶存酸素濃度を5ppm以下にする方法については、重合容器中に窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを通じる方法、重合液に直接不活性ガスをバブリングする方法、重合開始前に不活性ガスを重合容器に加圧充填した後、放圧を行う操作を1回若しくは2回以上行う方法、単量体混合物を仕込む前に密閉重合容器内を脱気した後、不活性ガスを充填する方法、重合容器中に不活性ガスを通じる方法を例示することができる。
【0055】
本発明における共重合体(A)の製造時に用いられるこれらの単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100重量%として、不飽和カルボン酸アミド単量体が4〜46重量%、より好ましくは13〜27重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体は好ましくは54〜96重量%、より好ましくは73〜87重量%、これらに共重合可能な他のビニル系単量体を用いる場合、その好ましい割合は0〜35重量%、特に好ましい割合は0〜10重量%である。
【0056】
不飽和カルボン酸アミド単量体量が4重量%未満の場合には、共重合体(A)の加熱により製造される熱可塑性共重合体(C)中の上記一般式(3)で表されるグルタルイミド単位の生成量が少なくなり、耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸アミド単量体量が46重量%を超える場合には、共重合体(A)の加熱による環化反応後に、(ii)不飽和カルボン酸アミド単位が多量に残存する傾向があり、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向があり、本発明の目的を達成できない。
【0057】
また、本発明における共重合体(A)の製造時に用いられるこれらの単量体混合物は、有機溶媒中に一括で仕込んで共重合しても良く、分割添加、逐次添加しながら共重合しても良い。より好ましくは、生成する共重合体(A)を構成する単量体単位の組成分布を低減する目的で、単量体混合物中の重量組成比を任意に設定して、分割添加あるいは逐次添加する方法が挙げられる。
【0058】
本発明に使用される重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、通常使用されるあらゆる開始剤が使用できるが、中でも、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリルなどのアゾ系化合物、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が好適に使用することができる。
【0059】
使用される重合開始剤の量は、共重合に用いられる単量体混合物量に対して、0.001〜2.0重量部が好ましく、とりわけ0.01〜1.0重量部が好ましい。
【0060】
また、本発明においては、分子量を制御する目的で、アルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤を添加することができる。
【0061】
本発明に使用されるアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0062】
本発明における特定の重合溶媒で重合された共重合体(A)を含む有機溶媒スラリーは、例えば、遠心分離機により固液分離することにより、共重合体(A)と有機溶媒(B)とを分離・分別でき、さらに必要であれば、有機溶媒(B)を数%程度含有する共重合体(A)を棚段式乾燥機、コニカルドライヤー、遠心式乾燥機などにより乾燥することにより、有機溶媒(B)を含有しない共重合体(A)を製造することも可能である。
【0063】
もっと簡便には、可能であれば、スプレードライヤーにより共重合体(A)を回収すると同時に、乾燥ポリマーとし、有機溶媒(B)を回収することもできる。
【0064】
本発明では、重合後に固液分離した共重合体(A)を水で洗浄することが好ましく、具体的な洗浄方法としては、特に制限はないが、例えば、ポリマーを水中に分散させて撹拌する、いわゆるスラリー洗浄法が挙げられる。洗浄で使用する水は、無機イオンや有機物等の不純物を除去するために適切に処理されたものが好ましく、蒸留水あるいはイオン交換水がより好ましい。また、使用する水の量は、共重合体(A)の重量に対し、等倍〜5倍重量が好ましく、3〜4倍重量がより好ましい。洗浄時の水温は、0〜100℃であれば可能だが、40〜90℃がより好ましく、50〜80℃がとりわけ好ましい。上記洗浄をすることにより、共重合体(A)の環化反応で得られる熱可塑性共重合体(C)の色調および熱安定性を向上することができる。
【0065】
以上により製造される共重合体(A)は、重量平均分子量(以下Mwとも言う)が、好ましくは、2000〜1000000、より好ましくは、5000〜500000であることが望ましい。Mwが2000未満の場合には、共重合体(A)を有機溶媒(B)中に分散質として沈殿、析出できない場合があり、本発明の目的に沿わないことがある。また、重合体が脆く、機械的な性質が劣悪になる傾向にある。Mwが1000000を超える場合には、溶融成形や溶液塗工した製品に十分に溶融、または溶解しない高分子量物が異物として残りやすくなる傾向にありフィッシュアイやハジキの欠点が出やすくなる傾向にある。
【0066】
また、本発明では、特定の共重合組成、溶媒種を選択することにより、均質な分子量分布を有する共重合体が得られる。好ましい態様においては共重合体(A)の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)で、2.0〜5.0であるものが得られ、より好ましい態様においては2.3〜4.0であるものが得られ、とりわけ好ましい態様においては2.5〜3.5の範囲のものが得られる。
【0067】
尚、本発明でいう重量平均分子量および数平均分子量とは、示差屈折率計を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定した、PMMA標準ポリマー換算での重量平均分子量および数平均分子量を示す。
【0068】
続いて、本発明の共重合体(B)の製造方法について具体的に説明する。
【0069】
本発明において、共重合体(A)を加熱し、脱アルコールにより分子内環化反応を行い、上記一般式(3)で表されるグルタルイミド単位を含有する熱可塑性共重合体(B)を製造する方法は、特に制限はないが、ベントを有する加熱した押出機に通して製造する方法や窒素気流中などの不活性ガス雰囲気で、または真空下で加熱脱揮できる装置内で製造する方法が好ましい。中でも、酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、十分に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。特に好ましい装置として、例えば、”ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを用いることができ、とりわけ二軸押出機が好ましく使用することができる。
【0070】
なお、上記の方法により加熱脱揮する温度は、脱アルコールにより分子内環化反応が生じる温度であれば特に限定されないが、好ましくは180〜320℃の範囲、特に200〜310℃の範囲が好ましい。
【0071】
また、この際の加熱脱揮する時間も特に限定されず、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、1分間〜60分間、好ましくは2分間〜30分間、とりわけ3〜20分間の範囲が好ましい。特に、押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保するため、押出機のスクリュー直径(D)とスクリューの長さ(L)の比(L/D)が40以上であることが好ましい。L/Dの短い押出機を使用した場合、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し、成形品にシルバーや気泡が見られる傾向や成形滞留時に色調が大幅に悪化する傾向がある。
【0072】
また、押出機の中でも、二軸・単軸複合型連続混練押出機を用いることにより、極めて無色透明性、機械特性に優れる熱可塑性共重合体が得られる傾向があるため、好ましく使用することができる。ここで、二軸・単軸複合型連続混練押出機とは、押出機ケーシング内に、スクリュー部を形成した第1軸および第2軸が並列に配置された二軸スクリュー部、および二軸スクリュー部より延長された第1軸が配置された単軸スクリュー部を有し、かつ前記二軸スクリュー部と単軸スクリュー部の連通部に流量調節機構を備え、前記ケーシングに二軸スクリュー部に連通する原料供給口を備えるとともに、前記延長された第1軸の端部に連通する吐出口を備えた二軸・単軸複合型連続混練押出機を言い、市販されているこのタイプの押出機としては、CTE社製の「HTM型押出機」が挙げられる。原料となる共重合体(A)を、連続式で加熱処理し環化反応を進行させる際、反応の進行に従い、溶融粘度が高くなることに起因し、押出装置のせん断による発熱が大きくなり、分子主鎖の熱分解による着色が大きくなる傾向が見られる。また、該せん断発熱は、単軸スクリューよりも二軸スクリューで溶融混練した場合に大きくなる。一方、反応速度の観点からは、二軸スクリューで溶融混練することが好ましい。以上のことから、特定の二軸・単軸複合型連続混練押出機を用いることにより、溶融粘度が比較的低い反応初期段階では、二軸スクリューで、十分な反応速度を確保しながら、溶融粘度が比較的高くなる反応後期段階では、せん断発熱を抑制した単軸スクリュー部で加熱処理することにより、分子主鎖の熱分解が抑制されるため、得られるグルタルイミド含有単位を含有する熱可塑性共重合体(A)は特に色調、機械特性に優れるものと推察される。
【0073】
押出機を用いて共重合体(A)を加熱する際の押出機のシリンダー温度は200〜350℃に設定することが好ましく、250〜320℃に設定することがより好ましい。
【0074】
さらに本発明では、共重合体(A)を上記方法等により加熱する際にグルタルイミドへの環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリ、塩化合物の1種以上を添加することができる。その添加量は特に制限はなく、共重合体(A)100重量部に対し、0.01〜1重量部程度が適当である。また、これら酸、アルカリ、塩化合物の種類についても特に制限はなく、酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム塩等が挙げられる。さらに、塩系触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩等が挙げられる。ただし、その触媒保有の色が熱可塑性共重合体の着色に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。中でも、アルカリ金属を含有する化合物(アルカリ金属化合物)が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられ、とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、酢酸ナトリウムを好ましく使用することができる。
【0075】
本発明の熱可塑性共重合体(C)中の前記(iii)一般式(3)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、特に制限はないが、好ましくは熱可塑性共重合体100重量%中に好ましくは7〜61重量%、より好ましくは8〜36重量%、とりわけ13〜27重量%が好ましい。
【0076】
また、本発明の熱可塑性共重合体(C)には、上記(i)および(ii)成分の他に不飽和カルボン酸アミド単位および/または、共重合可能な他のビニル系単量体単位を含有することができる。
【0077】
本発明においては、共重合体(A)の脱アルコール反応を十分に行うことにより熱可塑性共重合体中に含有される不飽和カルボン酸アミド単位の量は10重量%以下、すなわち0〜10重量%とすることが好ましく、より好ましくは0〜5重量%である。不飽和カルボン酸アミド単位が10重量%を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0078】
また、共重合可能な他のビニル系単量体単位量は0〜35重量%であることが好ましいが、より好ましくは10重量%以下、すなわち0〜10重量%であり、さらに好ましくは0〜5重量%である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体単位を含有する場合、含有量が多すぎると、無色透明性、光学等方性、耐薬品性が低下する傾向がある。
【0079】
本発明の熱可塑性共重合体における各成分単位の定量には、一般にプロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機が用いられる。例えば、グルタルイミド単位およびメタクリル酸メチル単位からなる共重合体の場合、重ジメチルスルホキシド溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸メチル単位およびグルタルイミド単位のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.4〜3.7ppmのピークはメタクリル酸メチル単位のカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、10.3〜10.8ppmのピークはグルタルイミド単位の水素(N−H)とし、スペクトルの積分値比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分として、スチレンを含有する場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0080】
本発明の熱可塑性共重合体(C)は、重量平均分子量(以下Mwとも言う)が、好ましくは、30000〜1000000、より好ましくは、50000〜500000であることが望ましい。Mwが30000以上ものは、熱可塑性共重合体が脆いことはなく、機械的性質が良好なものとなり好ましい。また、Mwが5000000以下のものは、溶融成形や溶液塗工した製品に十分に溶融、または溶解しない高分子量物が異物として残ることがないので、フィッシュアイやハジキの欠点が出ないので好ましい。
【0081】
尚、ここでいう重量平均分子量とは、示差屈折率計を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定した、PMMA標準ポリマー換算での重量平均分子量および数平均分子量を示す。
【0082】
かくして得られる本発明の熱可塑性共重合体(C)は、ガラス転移温度が120℃以上と優れた耐熱性を有し、実用耐熱性の面で好ましい。また、好ましい態様においてはガラス転移温度が130℃以上の極めて優れた耐熱性を有する。また、上限としては、通常160℃程度である。なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて昇温速度20℃/分で測定したガラス転移温度である。
【0083】
また、本発明の熱可塑性重合体(C)は、プランジャー式キャピラリーレオメーター(東洋精機製作所製 キャピログラフ タイプ1C)を用い、260℃の温度で、せん断速度12秒−1において測定される溶融粘度(Pa・s)が、好ましい態様においては、10〜150000Pa・sの範囲にあり、より好ましい態様においては該溶融粘度(Pa・s)が100〜100000Pa・sの範囲にあり、更に好ましい態様においては1000〜80000Pa・sの範囲にあり、とりわけ成形加工性に優れる。
【0084】
本発明では、好ましい態様においては熱可塑性共重合体(C)の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が、2.0〜5.0であるものが得られ、より好ましい態様においては、2.3〜4.0であるものが得られ、とりわけ好ましい態様においては2.5〜3.5の範囲のものが得られる。なお、ここでいう重量平均分子量および数平均分子量とは、示差屈折率計を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定した、PMMA標準ポリマー換算での重量平均分子量および数平均分子量を示す。
【0085】
ここで本発明者らは、本発明の沈殿重合法により共重合体(A)を製造し、さらに該共重合体(A)を加熱処理して熱可塑性共重合体(C)を製造することにより、分子量分布を公知の製造法では成し得なかった上記の範囲に制御できることを見出した。さらに驚くことに熱可塑性共重合体(C)の分子量分布を本発明の範囲に制御することにより、熱可塑性共重合体(C)の溶融粘度が同一の共重合組成および分子量(Mw)を有する共重合体よりも低減できることを見出し、本発明に到達した。
【0086】
また、本発明の製造方法により製造される熱可塑性共重合体(B)は、好ましい態様において、黄色度(Yellowness Index)の値が3以下と着色が抑制され、さらに好ましい態様においては2以下と極めて高度な無色透明性を有する。上記において黄色度はガラス転移温度+140℃で射出成形した厚さ1mm成形品のYI値をJIS−K7103に従い、測定した値である。黄色度の下限は、特に制限はなく、低いほど好ましいが、通常1程度である。
【0087】
また、本発明の熱可塑性共重合体(C)には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などや、熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などから選ばれた一種以上をさらに含有させることができる。この場合、他の熱可塑性樹脂の好ましい含有量は、熱可塑性共重合体100重量部に対して、99重量部以下、より好ましくは95重量部以下、最も好ましくは90重量部以下である。
【0088】
また、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料、染料、蛍光増白剤などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。
【0089】
上記他樹脂や可塑剤、難燃剤等の添加剤を含有させる方法に制限はなく、公知の溶融混練法が用いられ、例えば設定温度150〜300℃に昇温した押出機中で行うことができる。押出機としては、ベント付きの単軸押出機、二軸押出機などを例示することができる。
【0090】
本発明により製造された熱可塑性共重合体(C)は、その優れた耐熱性、無色透明性および滞留安定性を活かして、電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0091】
本発明により製造された熱可塑性共重合体(C)からなる成形品の具体的用途としては、例えば、電気機器のハウジング、OA機器のハウジング、各種カバー、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルターおよび点火装置ケースなどが挙げられる。また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品として、カメラ、VTR、プロジェクションTVなどの撮影用レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなど、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)基板、各種ディスク基板保護フィルム、光ディスクプレイヤーピックアップレンズ、光ファイバー、光スイッチ、光コネクターなど、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、ピックアップレンズ、タッチパネル用導光フィルム、カバーなど、自動車などの輸送機器関連部品として、テールランプレンズ、ヘッドランプレンズ、インナーレンズ、アンバーキャップ、リフレクター、エクステンション、サイドミラー、ルームミラー、サイドバイザー、計器針、計器カバー、窓ガラスに代表されるグレージングなど、医療機器関連部品として、眼鏡レンズ、眼鏡フレーム、コンタクトレンズ、内視鏡、分析用光学セルなど、建材関連部品として、採光窓、道路透光板、照明カバー、看板、透光性遮音壁、バスタブ用材料などにも適用することができ、これら各種の用途にとって極めて有用であり、とりわけ偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルムなどの光学フィルムに有用である。
【0092】
本発明の熱可塑性共重合体(C)からなる光学フィルムの製造方法には、公知の方法が使用できる。すなわち、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、溶液キャスト法、エマルション法、ホットプレス法等の製造方法が使用できる。好ましくは、T−ダイ法、溶液キャスト法またはホットプレス法が使用できる。インフレーション法やT−ダイ法による製造法の場合、単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。本発明の熱可塑性共重合体(C)のフィルムを製造するための溶融押出温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。また、溶液キャスト法により本発明の熱可塑性共重合体(C)のフィルムを製造する場合、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶媒が使用できる。好ましい溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン等である。溶液キャスト法により本発明の熱可塑性共重合体(C)のフィルムを製造する場合、熱可塑性共重合体を前記の1種以上の溶媒に溶かし、その溶液をバーコーター、T−ダイ、バー付きT−ダイ、ダイ・コートなどを用いて、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱フィルム、スチールベルト、金属箔などの平板または曲板(ロール)上に流延し、溶媒を蒸発除去する乾式法、あるいは溶液を凝固液で固化する湿式法等を用いることにより製造できる。
【0093】
本発明の熱可塑性共重合体(C)からなるフィルムは、単層であっても、さらには多層であっても良い。
【0094】
本発明の熱可塑性共重合体(C)からなるフィルムは、延伸を施さずにそのままでもよいが、得られるフィルムの靱性の観点から、未延伸フィルムを成形した後、一軸延伸あるいは二軸延伸して所定の厚みのフィルムを製造することが好ましい。延伸を行うことで、フィルムの靱性を向上させることができる。
【0095】
フィルムの延伸は、未延伸フィルムを成形した後、すぐに連続的に行っても良い。ここで、上記「未延伸フィルム」の状態が瞬間的にしか存在しない場合があり得る。瞬間的にしか存在しない場合には、その瞬間的な、フィルムが形成された後延伸されるまでの状態を未延伸フィルムという。また、未延伸フィルムとは、その後延伸されるのに十分な程度にフィルム状になっていれば良く、完全なフィルムの状態である必要はなく、もちろん、完成したフィルムとしての性能を有さなくても良い。また、必要に応じて、未延伸フィルムを成形した後、一旦フィルムを保管もしくは移動し,その後フィルムの延伸を行っても良い。未延伸フィルムを延伸する方法としては、従来公知の任意の延伸方法が採用され得る。具体的には、例えば、ロールや熱風炉を用いた縦延伸、テンターを用いた横延伸、およびこれらを逐次組み合わせた逐次二軸延伸等がある。また、縦と横を同時に延伸する同時二軸延伸方法も採用可能である。ロール縦延伸を行った後、テンターによる横延伸を行う方法を採用しても良い。
【0096】
本発明の熱可塑性共重合体(C)からなるフィルムは、一軸延伸フィルムの状態で最終製品とすることができる。さらに、延伸工程を組み合わせて行って二軸延伸フィルムとしても良い。二軸延伸を行う場合、本発明の目的を損なわない範囲で、縦延伸と横延伸の温度や倍率などの延伸条件を同等もしくは、意図的に変えてもよい。
【0097】
フィルムの延伸温度および延伸倍率は、得られたフィルムの位相差、機械的強度および表面性、厚み精度を指標として適宜調整することができる。延伸温度の範囲は、DSC法によって求めたフィルムのガラス転移温度をTgとしたときに、好ましくは、Tg−30℃〜Tg+30℃の範囲である。より好ましくは、Tg−10℃〜Tg+30℃の範囲である。さらに好ましくは、Tg〜Tg+30℃以下の範囲である。延伸温度が高すぎる場合、フィルムが軟化・溶融する傾向があり、延伸が困難となるばかりか、得られたフィルムの厚みむらが大きくなりやすく好ましくない。延伸温度がTg−30℃以下であると、延伸時にフィルムに応力がかかり、フィルムが破れる等の工程上の問題を引き起こしやすく好ましくない。
【0098】
また、好ましい延伸倍率は、延伸温度にも依存するが、1.1倍〜5.0倍の範囲であり、より好ましくは、1.1倍〜4.0倍、さらに好ましくは、1.1倍〜3.0倍、最も好ましくは1.1〜2.5倍である。
【0099】
かくして得られる、本発明の熱可塑性共重合体(C)からなるフィルムの厚みは、好ましくは10〜200μmであり、より好ましくは15〜170μm、最も好ましくは20〜150μmである。フィルム厚みを上記範囲に制御するには、延伸前の「未延伸フィルム」の厚みを調節することにより可能である。
【0100】
ここで、本発明の光学等方性光学等方性アクリル樹脂フィルムの厚みとは、フィルムを50mm×50mm四方に切り出したフィルムの厚みを測定した平均値である。
【0101】
また、フィルム化の際に、本発明の目的を損なわない範囲で、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤等の加工性改良剤、あるいは、フィラーなどの公知の添加剤やその他の重合体を含有していてもかまわない。
【0102】
本発明の熱可塑性共重合体(C)からなるフィルムに紫外線吸収剤を含有させることにより、耐候性を向上する他、本発明の光学フィルムを用いる液晶表示装置の耐久性も改善することができ実用上好ましい。紫外線吸収剤としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−t−ブチルフェノール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノールなどのトリアジン系紫外線吸収剤、オクタベンゾン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤等が挙げられ、また、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系光安定剤やビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤も使用できる。
【実施例】
【0103】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、各測定および評価は次の方法で行った。
【0104】
(1)重量平均分子量・分子量分布
得られた共重合体(A)および熱可塑性共重合体(B)を1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール(以下HFIPと記載する)に溶解して、測定サンプルとした。HFIPを溶媒として、示差屈折率計を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて、ポリメタクリル酸メチル標準ポリマー換算分子量として重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定した。分子量分布は、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で算出した。
【0105】
(2)各成分組成
重ジメチルスルホキシド中、30℃でH−NMRを測定し、各共重合単位の組成決定を行った。
【0106】
(3)溶解度
原料である不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および不飽和カルボン酸アミド単量体を含む単量体混合物を重合に使用する有機溶媒(C)100gに添加し、重合温度にて撹拌した際の溶液状態を目視で観察して、速やかに溶解する単量体混合物の量を評価した。
【0107】
得られた共重合体(A)を共重合に使用した有機溶媒(C)100gに添加し、23℃で24時間攪拌して溶解試験を行った後の溶液状態を目視観察し、溶解する共重合体(A)の重量を評価した。
【0108】
(4)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。
【0109】
(5)透明性(全光線透過率、ヘイズ)
得られた熱可塑性共重合体を、ガラス転移温度+140℃で射出成形し、得た厚さ1mm成形品の23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ(曇度)(%)を、東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて測定し、透明性を評価した。
【0110】
(6)黄色度(Yellowness Index)
得られた熱可塑性共重合体を、ガラス転移温度+140℃で射出成形し、得た厚さ1mm成形品のYI値をJIS−K7103に従い、SMカラーコンピューター(スガ試験機社製)を用いて測定した。
【0111】
(7)滞留時のガス発生量
得られた熱可塑性共重合体(C)ペレット5gを80℃で12時間予備乾燥し、ガラス転移温度+130℃に温調した加熱炉内で60分間加熱処理した前後での重量を測定し、下式により算出した重量減少率を滞留時のガス発生量として評価した。
重量減少率(重量%)={(W0−W1)/W0}×100
なお、各記号は下記の数値を示す。
W0=加熱処理前の熱可塑性共重合体(C)の重量(g)
W1=加熱処理後の熱可塑性共重合体(C)の重量(g)。
【0112】
(8)熱可塑性共重合体(C)の溶融粘度
得られた熱可塑性共重合体(C)ペレットを80℃で12時間予備乾燥し、東洋精機社製キャピログラフ1C型(ダイス径φ1mmダイス長5mm)を用いて、260℃、剪断速度12/秒にて測定した。
【0113】
実施例1〜4:共重合体(A)の製造
(A−1):沈殿重合法
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記混合物質を供給し、250rpmで撹拌しながら、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始とし、内温を70℃に240分間保ち、重合を終了した。反応系を室温まで冷却し、得られたスラリーを窒素ガスを流しながら遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)の製品)で2時間処理し、共重合体(A−1)と有機溶媒を分離した。遠心分離機処理によるポリマー回収率はほぼ100%であった。続いて、共重合体(A−1)に対し4倍重量のイオン交換水を用い、80℃で1.5時間、スラリー洗浄を行い、再度共重合体(A−1)を固液分離した後、80℃で12時間、乾燥を行い、パウダー状の共重合体(A−1)を得た。この共重合体(A−1)の重合率は70%、重量平均分子量は11万であった。
メタクリルアミド 13.0重量部
メタクリル酸メチル 87.0重量部
酢酸ブチル 375重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.2重量部
2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル) 0.8重量部。
【0114】
(A−2):沈殿重合法
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記混合物質を供給し、250rpmで撹拌しながら、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら95℃に昇温した。内温が95℃に達した時点を重合開始とし、内温を95℃に90分間保ち、重合を終了した。反応系を室温まで冷却し、得られたスラリーを窒素ガスを流しながら遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)の製品)で2時間処理し、共重合体(A−1)と有機溶媒を分離した。遠心分離機処理によるポリマー回収率はほぼ100%であった。続いて、共重合体(A−1)に対し4倍重量のイオン交換水を用い、80℃で1.5時間、スラリー洗浄を行い、再度共重合体(A−2)を固液分離した後、80℃で12時間、乾燥を行い、パウダー状の共重合体(A−2)を得た。この共重合体(A−2)の重合率は80%、重量平均分子量は11万であった。
メタクリルアミド 17.5重量部
メタクリル酸メチル 82.5重量部
酢酸ブチル 375重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.3重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部。
【0115】
(A−3):沈殿重合法
n―ドデシルメルカプタンの量を変更した以外は、(A−2)と同様の製造方法で共重合体(A−3)を、80%の重合率で得た。重量平均分子量は13万であった。
メタクリルアミド 17.5重量部
メタクリル酸メチル 82.5重量部
酢酸ブチル 375重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.1重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部。
【0116】
(A−4):沈殿重合法
メタクリルアミドとメタクリル酸メチルの組成を変更した以外は、(A−2)と同様の製造方法で共重合体(A−4)を、70%の重合率で得た。重量平均分子量は11万であった。
メタクリルアミド 26.7重量部
メタクリル酸メチル 63.3重量部
酢酸ブチル 375重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.3重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部。
【0117】
(A−5):沈殿重合法
メタクリルアミドとメタクリル酸メチルの組成を変更した以外は、(A−2)と同様の製造方法で共重合体(A−5)を、71%の重合率で得た。重量平均分子量は11万であった。
メタクリル酸 36.2重量部
メタクリル酸メチル 63.8重量部
酢酸ブチル 375重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.3重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.8重量部。
【0118】
比較例1:共重合体(A)の製造
(A−6):溶液重合法
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記混合物質を供給し、250rpmで撹拌しながら、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点を重合開始とし、内温を80℃に90分間保ち、90℃に昇温した後、さらに90分間保ち、重合を終了した。反応系を室温まで冷却し、不溶な沈殿物のないポリマー溶液を得た。該ポリマー溶液を多量のイオン交換水/メタノール(9/1、v/v)混合溶媒中に滴下し得られたパウダーを80℃で乾燥したが、重合溶媒である1,4−ジオキサンを完全除去するのに、72時間を要した。得られた共重合体(A−5)の重量平均分子量は11万であった。
メタクリル酸 17.5重量部
メタクリル酸メチル 82.5重量部
1,4−ジオキサン 200重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.2重量部。
【0119】
(A−7):溶液重合法
メタクリルアミドとメタクリル酸メチルの組成を変更した以外は、(A−6)と同様の製造方法で共重合体(A−7)を、36%の重合率で得た。重量平均分子量は11万であった。
メタクリル酸 26.7重量部
メタクリル酸メチル 73.3重量部
1,4−ジオキサン 200重量部
ラウロイルパーオキサイド 0.2重量部。
【0120】
実施例1〜5および比較例1〜2で得られた共重合体(A−1)〜(A−7)の各成分組成および特性を表1に示す。
【0121】
【表1】

【0122】
実施例6〜10および比較例3〜4:熱可塑性共重合体(C)の製造
(C−1)〜(C−7)
実施例1〜5で得られた共重合体(A)100重量部に、触媒として酢酸リチウム0.2重量部を配合し、を38mmφ二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38(CTE社製、L/D=47.5、ベント部:2箇所)に供給した。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量10kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性共重合体(C−1)〜(C−7)を得た。得られた熱可塑性共重合体(C−1)〜(C−7)の各成分組成および特性を表2に示す。
【0123】
比較例5:特開平2−153904の実施例1に開示された製造方法で熱可塑性重合体(C−8)を得た。得られた該共重合体の各成分組成および特性を表2に示す。
【0124】
【表2】

【0125】
実施例1〜10および比較例1〜5から、本発明の沈殿重合法を利用した製造方法により、滞留時も発生ガス量の少ない高度な耐熱性、熱安定性に優れ、色調にも優れた熱可塑性共重合体(C)を製造できることがわかる。また、本発明の製造方法により製造した熱可塑性共重合体(C)は、溶融粘度が分子量(Mw)および共重合組成に応じて変化するが、本発明範囲外の製造方法で得られた同等の共重合組成および分子量(Mw)を有する熱可塑性共重合体(C)と比較すると、溶融粘度が低く、成型加工性に優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(ii)下記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸アミド単位を含む共重合体(A)を製造するに際し、原料である不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および下記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アミド単量体を含む単量体混合物は溶解し、共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下である有機溶媒(B)中で、前記単量体混合物を共重合する工程を含むことを特徴とする共重合体(A)の製造方法。
【化1】

(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【化2】

(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【請求項2】
前記不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アミド単量体を含む単量体混合物の有機溶媒(B)に対する溶解度が10g/100g以上であることを特徴とする請求項1記載の共重合体(A)の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1または2いずれか記載の共重合体(A)の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒(B)が、カルボン酸エステルから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の共重合体(A)の製造方法。
【請求項5】
前記カルボン酸エステルが、飽和脂肪族カルボン酸および飽和脂肪族アルコールから誘導されるエステルであることを特徴とする請求項3〜4いずれか記載の共重合体(A)の製造方法。
【請求項6】
前記共重合体(A)中に、(i)不飽和カルボン酸エステル単位を54〜96重量%、(ii)一般式(1)で表される不飽和カルボン酸アミド単位を4〜46重量%含有する請求項1〜5いずれか記載の共重合体(A)の製造方法。
【請求項7】
前記共重合体(A)を水で洗浄する工程を含むことを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の共重合体(A)の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の製造方法で得られた共重合体(A)を加熱処理し、脱アルコール反応による分子内環化反応行う工程を含むことを特徴とする、(iii)下記一般式(3)で表されるグルタルイミド単位および(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含む熱可塑性共重合体(C)の製造方法。
【化3】

(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、R3、R4は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【請求項9】
前記熱可塑性共重合体(C)中に、(iii)前記一般式(3)で表されるグルタルイミド単位を7〜61重量%、(i)不飽和カルボン酸エステル単位を39〜93重量%含有することを特徴とする請求項8記載の熱可塑性共重合体(C)の製造方法。
【請求項10】
前記加熱処理を、連続混練押出装置を用いて行うことを特徴とする請求項8記載の熱可塑性共重合体(C)の製造方法。
【請求項11】
連続混練押出装置が、ケーシング内に、スクリュー部を形成した第1軸および第2軸が並列に配置された二軸スクリュー部、および二軸スクリュー部より延長された第1軸が配置された単軸スクリュー部を有し、かつ前記二軸スクリュー部と単軸スクリュー部の連通部に流量調節機構を備え、前記ケーシングに二軸スクリュー部に連通する原料供給口を備えるとともに、前記延長された第1軸の端部に連通する吐出口を備えた二軸・単軸複合型連続混練押出装置であることを特徴とする請求項10記載の熱可塑性共重合体(C)の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11いずれか記載の製造法で得られ、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)が2.5〜5.0であることを特徴とする熱可塑性共重合体(C)。
【請求項13】
前記熱可塑性共重合体(C)中に、(iii)一般式(3)で表されるグルタルイミド単位を7〜61重量%、(i)不飽和カルボン酸エステル単位を39〜93重量%含有することを特徴とする請求項12記載の熱可塑性共重合体(C)。
【請求項14】
請求項12または13いずれか記載の熱可塑性共重合体(C)からなる光学フィルム。

【公開番号】特開2010−77348(P2010−77348A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250252(P2008−250252)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】