説明

熱可塑性共重合体組成物およびその製造方法

【課題】
耐熱性、無色透明性、成形加工特性に優れ、さらに過酷な条件下での長期使用時の寸法安定性に優れた熱可塑性共重合体組成物、ならびにその製造方法を提供する。
【解決手段】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)および不飽和カルボン酸単位(iii)を含む共重合体(A)を製造する工程(第一工程)と、続いて、酸解離指数が3以上7以下の酸Yからなる塩を含有させて該共重合体(A)を加熱処理し、脱水および/または脱アルコール反応による分子内環化反応を行う工程(第二工程)により、一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位(i)および不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)を含む熱可塑性共重合体(B)を製造し、さらに該第二工程の後に、酸Yよりも酸解離指数が1.0以上小さい酸Xを添加する工程(第三工程)を行うことを特徴とする熱可塑性共重合体組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、成形加工特性、無色透明性に優れ、とりわけ高湿条件下での長期使用時の寸法安定性に優れたグルタル酸無水物単位を含む熱可塑性共重合体組成物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAと称する)やポリカーボネート(以下、PCと称する)といった非晶性樹脂は、その透明性や寸法安定性を活かし、光学材料、家庭電気機器、OA機器および自動車などの各部品を始めとする広範な分野で使用されている。
【0003】
近年、これらの樹脂は、特に光学レンズ、プリズム、ミラー、光ディスク、光ファイバー、液晶ディスプレイ用シート・フィルム、導光板などの、より高性能な光学材料にも幅広く使用されるようになっており、樹脂に要求される光学特性や成形加工性、耐熱性もより高度なものになっている。
【0004】
また現在、これらの透明樹脂は、テールランプやヘッドランプといった自動車等の灯具部材としても使用されているが、近年、車内空間を大きくするためやガソリン燃費を改良するために、テールランプレンズやインナーレンズ、ヘッドランプ、シールドビーム等の各種レンズと光源の間隔を小さくすること、部品の薄肉化が図られる傾向にあり、優れた成形加工性が要求されるようになっている。また、車両は過酷な条件下で使用されるため、高温多湿下での形状変化が小さいことや、優れた耐傷性、耐候性、耐油性も要求される。
【0005】
しかしながら、PMMA樹脂は、優れた透明性、耐候性を有するものの、耐熱性が十分ではないといった問題があった。一方、PC樹脂は、耐熱性、耐衝撃性に優れるものの、光学的歪みである複屈折率が大きく、成形物に光学的異方性が生じること、成形加工性、耐傷性、耐油性に著しく劣るといった問題があった。
【0006】
そのため、PMMAの耐熱性を改良する目的で、耐熱性付与成分としてマレイミド系単量体あるいは無水マレイン酸単量体等を導入した樹脂が開発されている。しかし、マレイミド系単量体は高価であると同時に反応性が低く、無水マレイン酸は熱安定性が悪いという問題があった。
【0007】
これらの問題点を解決する方法として、不飽和カルボン酸単量体単位を含有する共重合体を、押出機を用いて加熱して環化反応させることにより得られるグルタル酸無水物単位を含有する共重合体が例えば特許文献1に開示されているが、押出機を用いて該共重合体を加熱処理して得られるグルタル酸無水物単位を有する共重合体は著しく着色するという問題があった。
【0008】
また、不飽和カルボン酸単量体単位を含有する重合体溶液を真空下で加熱することによりグルタル酸無水物単位を含有する共重合体を製造する方法が開示されている(特許文献2参照)。しかし、これら公報に記載されている方法においては、溶媒を完全に真空下で脱溶媒するためには、高温で長時間の熱処理が必要となり、多大な労力とエネルギーが必要になるといった問題点があった。また、不飽和カルボン酸単量体を含有する重合体を溶液中で製造する際、高重合率を得るためには、重合温度を高める必要があり、重合体を溶液のまま真空下で加熱しても、得られるグルタル酸無水物単位を含有する共重合体の着色抑制効果は十分ではなく、近年のより高度な無色性の要求を満たすものではなかった。
【0009】
これらの課題を解決する方法として、特許文献3では、特定の不飽和カルボン酸単位を含有する共重合体を特定の重合条件下で製造し、続いて該共重合体を加熱処理することにより、無色透明性と滞留安定性に優れるグルタル酸無水物含有共重合体の製造方法が開示されている。特許文献3提案の技術により、得られる共重合体の着色および滞留安定性は大いに改良されることがわかった。しかし自動車等の灯具部材などに使用される光学材料は、もともとはガラス材料が用いられていたものの、軽量化や成形加工性の面から樹脂化が進んできた用途である。樹脂はガラスとは異なり、吸水性を有するという本質課題があり、特に高湿下での長期使用時に吸水による寸法変化が生じるという課題があった。特に、自動車部品は長時間にわたり大気雰囲気下で使用されることから、近年ガラスと同様に、より過酷な条件下での長期使用時の寸法安定性のさらなる改良が必要であった。
【特許文献1】特開昭49−85184号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献2】特開昭60−120707号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献3】特開2004−2711公報(第1−2頁、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、耐熱性、無色透明性、成形加工特性、過酷な条件下での長期使用時の寸法安定性に優れた熱可塑性共重合体組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、塩を含有させて製造されたグルタル酸無水物単位を含む熱可塑性共重合体組成物に対し、酸解離指数が1.0以上4.0以下である酸を添加することにより、従来の知見では為し得なかった、耐熱性、無色透明性、成形加工特性、高湿条件下での長期使用時の寸法安定性に優れた熱可塑性共重合体組成物を製造可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
〔1〕下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位(i)を含む熱可塑性共重合体組成物の製造方法であって、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)および不飽和カルボン酸単位(iii)を含む共重合体(A)を製造する工程(第一工程)と、続いて、酸解離指数が3.0以上7.0以下の酸Yからなる塩を含有させて該共重合体(A)を加熱処理し、脱水および/または脱アルコール反応による分子内環化反応を行う工程(第二工程)により、一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位(i)および不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)を含む熱可塑性共重合体(B)を製造し、さらに該第二工程の後に、酸Yよりも酸解離指数が1.0以上小さい酸Xを添加する工程(第三工程)を行うことを特徴とする熱可塑性共重合体組成物の製造方法。
【0013】
【化1】

【0014】
(ただし、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
〔2〕前記酸Xが、有機カルボン酸である〔1〕に記載の熱可塑性共重合体組成物の製造方法。
〔3〕前記酸Xが、シュウ酸またはマレイン酸から選ばれる少なくとも1つの酸である〔2〕に記載の熱可塑性共重合体組成物の製造方法。
〔4〕前記酸Yが、酢酸である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の熱可塑性共重合体組成物の製造方法。
〔5〕前記酸Yからなる塩が、酢酸リチウムである〔4〕に記載の熱可塑性共重合体組成物の製造方法。
〔6〕前記第三工程にて添加する酸Xのモル数が、前記第二工程にて添加する酸Yのモル数に対して50%以上200%以下であることを特徴とする〔2〕〜〔5〕のいずれかに記載の熱可塑性共重合体組成物の製造方法。
〔7〕下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位(i)を含む熱可塑性共重合体組成物であって、酸解離指数が3.0以上7.0以下の酸Yからなる塩を実質的に含まず、酸解離指数が1.0以上4.0以下であり、酸Yよりも酸解離指数が1.0以上小さい酸Xからなる塩を含有することを特徴とする熱可塑性共重合体組成物。
【0015】
【化2】

【0016】
(ただし、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、高い耐熱性、無色透明性、成形加工特性を有するとともに高湿条件下での長期使用時の寸法安定性に優れた熱可塑性共重合体組成物を製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の熱可塑性共重合体組成物およびその製造方法について、具体的に説明する。
【0019】
本発明の熱可塑性共重合体組成物の製造方法とは、下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位(i)を含む熱可塑性共重合体組成物の製造方法であって、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)および不飽和カルボン酸単位(iii)を含む共重合体(A)を製造する工程(第一工程)と、続いて、酸解離指数が3.0以上7.0以下の酸Yからなる塩を含有させて該共重合体(A)を加熱処理し、脱水および/または脱アルコール反応による分子内環化反応を行う工程(第二工程)により、一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位(i)および不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)を含む熱可塑性共重合体(B)を製造し、さらに該第二工程の後に、酸Yよりも酸解離指数が1.0以上小さい酸Xを添加する工程(第三工程)を行うことを特徴とする熱可塑性共重合体組成物の製造方法である。
【0020】
【化3】

【0021】
上記の製造方法による場合、典型的には、第二工程において、共重合体(A)を酸解離指数が3.0以上7.0以下の酸Yからなる塩を含有させて加熱することにより、2単位の不飽和カルボン酸単位(iii)のカルボキシル基が脱水され、あるいは、隣接する不飽和カルボン酸単位(iii)と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)からアルコールの脱離により1単位の前記グルタル酸無水物単位(i)が生成される。また、第三工程においては、酸Yよりも酸解離指数が1.0以上小さい酸Xを添加することにより、酸Yが遊離し、同時に酸Xが酸Yよりアニオンを奪ってそのアニオンとの塩を生成する。通常は、遊離した酸Yは成形時の加熱処理によって熱可塑性共重合体組成物より除かれ、酸Xからなる塩は熱可塑性共重合体組成物中に残存する。理論的には、酸Yからなる塩に対して等モル以上の酸Xを添加すれば、酸Yからなる塩を実質的に含まない熱可塑性共重合体組成物を製造することができる。ここで、酸Yからなる塩を実質的に含まないとは、意図しては酸Yからなる塩を含ませないという意味であって、理論上酸Yからなる塩を含まないように酸Xを添加していれば、実際には完全に酸Yからなる塩を除去できていなくても問題ないこととする。なお、理由は後述するが、酸Yからなる塩を除去するために酸Xを添加した結果、酸Xからなる塩を本発明の熱可塑性共重合体組成物を含有することとなるが、酸Xからなる塩は、熱可塑性共重合体組成物中に残存しても熱可塑性共重合体組成物の寸法安定性に影響しないため、本発明の趣旨には影響を及ぼさない。
【0022】
ここで、酸AHが水中で式(イ)のように解離するとき、酸解離指数は式(ロ)のように定義される。
【0023】
【数1】

【0024】
(ただし、 [ ]は各成分の濃度を表す。)
【0025】
酸解離指数は、その系の温度により若干変化するが、本発明の中では通常使用されているのと同じく25℃で測定された値を用いる。またジカルボン酸など多価の酸の場合は、その解離段ごとに酸解離指数は異なった値をとるが、本発明では最も酸解離指数が低い1段目の解離の場合のみを考え、多価の酸であってもその1段目の解離のみをする1価の酸のように扱う。したがって、多価の酸の酸解離指数は、その1段目の酸解離指数を表すこととする。なお、酸解離指数の値は、例えば「化学便覧基礎編改訂2版」、日本化学会編、(1975)の値を参考にすることができる。以下、この明細書中において、酸の記載の後に酸解離指数を示すことがあるが、その値は上記「化学便覧基礎編改訂2版」に記載された値である。
【0026】
なお、理由は後述するが、酸Xの酸解離指数は1.0以上4.0以下であり、また酸Yよりも酸解離指数が1.0以上小さいことが好ましい。
【0027】
第一工程に用いられる不飽和カルボン酸単量体としては特に制限はなく、他のビニル化合物と共重合させることが可能ないずれの不飽和カルボン酸単量体も使用可能である。好ましい不飽和カルボン酸単量体として、下記一般式(2)
【0028】
【化4】

【0029】
(ただし、Rは水素または炭素数1〜5のアルキル基を表す)
で表される化合物、マレイン酸、およびさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられるが、特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。なお、上記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸単量体は、共重合すると下記一般式(3)で表される構造の不飽和カルボン酸単位を与える。
【0030】
【化5】

【0031】
また不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては特に制限はないが、好ましい例として、下記一般式(4)で表されるものを挙げることができる。
【0032】
【化6】

【0033】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
【0034】
これらのうち、無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかの炭化水素基を持つアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが特に好適である。なお、上記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると下記一般式(5)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0035】
【化7】

【0036】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ドデシル、トリフルオロエチルメタクリレート、などの単量体が例示できる。中でも、光学特性、熱安定性に優れる点で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましく、とりわけメタクリル酸メチルが好ましい。これらは単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0037】
また、第一工程においては、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のビニル系単量体を用いてもかまわない。その他のビニル系単量体の好ましい具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体などを挙げることができるが、透明性、複屈折率、耐薬品性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0038】
第一工程における重合方法については、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などの公知の重合方法を用いることができ、不純物がより少ない点で溶液重合、塊状重合、懸濁重合が特に好ましい。
【0039】
第一工程における重合温度については、任意に設定することが可能であるが、好ましくは使用する有機溶媒の沸点以下の温度が好ましい。中でも、100℃以下の重合温度で重合することが好ましく、90℃以下の重合温度で重合することがより好ましい。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上、好ましくは60℃以上である。
【0040】
また、第一工程における重合時間は、必要な重合率を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましく、90〜240分間の範囲が特に好ましい。
【0041】
また、第一工程における、重合液中の溶存酸素濃度を5ppm以下に制御することが、加熱処理後の熱可塑性共重合体組成物の優れた無色透明性、滞留安定性および熱安定性を達成することができるため、好ましい。さらに加熱処理後の着色をより抑制するために好ましい溶存酸素濃度の範囲は0.01〜3ppmであり、さらに好ましくは0.01〜1ppmである。溶存酸素濃度が5ppmを超える場合、加熱処理後の熱可塑性共重合体組成物が着色する傾向が見られ、また熱可塑性共重合体組成物の熱安定性が低下するため、本発明の目的を達することができない。ここで、本発明における、溶存酸素濃度は、重合液中の溶存酸素を溶存酸素計(例えばガルバニ式酸素センサーである飯島電子工業株式会社製、DOメーターB−505)を用いて測定した値である。溶存酸素濃度を5ppm以下にする方法については、重合容器中に窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを通じる方法、重合液に直接不活性ガスをバブリングする方法、重合開始前に不活性ガスを重合容器に加圧充填した後、放圧を行う操作を1回若しくは2回以上行う方法、単量体混合物を仕込む前に密閉重合容器内を脱気した後、不活性ガスを充填する方法、重合容器中に不活性ガスを通じる方法を例示することができる。
【0042】
第一工程である共重合体(A)の製造時に用いられるこれらの単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100重量%として、不飽和カルボン酸系単量体が15〜50重量%、より好ましくは20〜45重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体は好ましくは50〜85重量%、より好ましくは55〜80重量%、これらに共重合可能な他のビニル系単量体を用いる場合、その好ましい割合は0〜35重量%、特に好ましい割合は0〜10重量%である。
【0043】
不飽和カルボン酸系単量体量が15重量%未満の場合には、共重合体(A)の加熱による上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位(i)の生成量が少なくなり、耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸系単量体量が50重量%を超える場合には、共重合体(A)の加熱による環化反応後に、不飽和カルボン酸単位(iii)が多量に残存する傾向があり、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0044】
また、これらの単量体混合物は、有機溶媒中に一括で仕込んで共重合しても良く、分割添加、逐次添加しながら共重合しても良い。より好ましくは、生成する共重合体(A)を構成する単量体単位の組成分布を低減する目的で、単量体混合物中の重量組成比を任意に設定して、分割添加あるいは逐次添加する方法が挙げられる。
【0045】
本発明に使用される重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、通常使用されるあらゆる開始剤が使用できるが、中でも、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリルなどのアゾ系化合物、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が好適に使用することができる。
【0046】
使用される重合開始剤の量は、共重合に用いられる単量体混合物量に対して、0.001〜2.0重量部が好ましく、とりわけ0.01〜1.0重量部が好ましい。
【0047】
また、本発明においては、分子量を制御する目的で、アルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤を添加することができる。
【0048】
本発明に使用されるアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0049】
以上により製造された共重合体(A)は、重量平均分子量(以下Mwとも言う)が、好ましくは、2000〜1000000、より好ましくは、5000〜500000であることが望ましい。Mwが2000未満の場合には、重合体が脆く、機械的な性質が劣悪になる傾向にある。Mwが1000000を超える場合には、溶融成形や溶液塗工した製品に十分に溶融、または溶解しない高分子量物が異物として残りやすくなる傾向にありフィッシュアイやハジキの欠点が出やすくなる傾向にある。
【0050】
また、本発明では、特定の共重合組成、溶媒種を選択することにより、均質な分子量分布を有する共重合体が得られる。好ましい態様においては共重合体(A)の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)で、1.5〜5.0であるものが得られ、より好ましい態様においては、1.7〜4.0であるものが得られ、とりわけ好ましい態様においては2.0〜3.5の範囲のものが得られる。分子量分布が上記範囲にある場合には、得られる熱可塑性共重合体が成形加工性に優れる傾向があり、好ましく使用することができる。
【0051】
本発明における第二工程、すなわち共重合体(A)を加熱し、脱水および/または脱アルコールにより分子内環化反応を行い、グルタル酸無水物単位(i)を含有する熱可塑性共重合体を製造する方法は、特に制限はないが、ベントを有する加熱した押出機に通して製造する方法や窒素気流中などの不活性ガス雰囲気で、または真空下で加熱脱揮できる装置内で製造する方法が好ましい。中でも、酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、十分に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。特に好ましい装置として、例えば、”ユニメルト(登録商標)”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを用いることができ、とりわけ二軸押出機が好ましく使用することができる。
【0052】
なお、上記の方法により加熱脱揮する温度は、脱水および/または脱アルコールにより分子内環化反応が生じる温度であれば特に限定されないが、好ましくは180〜320℃の範囲、特に200〜310℃の範囲が好ましい。
【0053】
また、この際の加熱脱揮する時間も特に限定されず、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、1分間〜60分間、好ましくは2分間〜30分間、とりわけ3〜20分間の範囲が好ましい。特に、押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保するため、押出機のスクリュー直径(D)とスクリューの長さ(L)の比(L/D)が40以上であることが好ましい。L/Dの短い押出機を使用した場合、未反応の不飽和カルボン酸単位(iii)が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し、成形品にシルバーや気泡が見られる傾向や成形滞留時に色調が大幅に悪化する傾向がある。
【0054】
また、押出機の中でも、二軸・単軸複合型連続混練押出機を用いることにより、極めて無色透明性、機械特性に優れる熱可塑性共重合体が得られる傾向があるため、好ましく使用することができる。ここで、二軸・単軸複合型連続混練押出機とは、押出機ケーシング内に、スクリュー部を形成した第1軸および第2軸が並列に配置された二軸スクリュー部、および二軸スクリュー部より延長された第1軸が配置された単軸スクリュー部を有し、かつ前記二軸スクリュー部と単軸スクリュー部の連通部に流量調節機構を備え、前記ケーシングに二軸スクリュー部に連通する原料供給口を備えるとともに、前記延長された第1軸の端部に連通する吐出口を備えた二軸・単軸複合型連続混練押出機を言い、市販されているこのタイプの押出機としては、CTE社製の「HTM型押出機」が挙げられる。原料となる共重合体(A)を、連続式で加熱処理し環化反応を進行させる際、反応の進行に従い、溶融粘度が高くなることに起因し、押出装置のせん断による発熱が大きくなり、分子主鎖の熱分解による着色が大きくなる傾向が見られる。また、該せん断発熱は、単軸スクリューよりも二軸スクリューで溶融混練した場合に大きくなる。一方、反応速度の観点からは、二軸スクリューで溶融混練することが好ましい。以上のことから、特定の二軸・単軸複合型連続混練押出機を用いることにより、溶融粘度が比較的低い反応初期段階では、二軸スクリューで、十分な反応速度を確保しながら、溶融粘度が比較的高くなる反応後期段階では、せん断発熱を抑制した単軸スクリュー部で加熱処理することにより、分子主鎖の熱分解が抑制されるため、得られるグルタル酸無水物単位(i)を含有する熱可塑性共重合体(B)は特に色調、機械特性に優れるものと推察される。
【0055】
押出機を用いて共重合体(A)を加熱する際の押出機のシリンダー温度は200〜320℃に設定することが好ましく、220〜310℃に設定することがより好ましい。
【0056】
さらに本発明では、共重合体(A)を上記方法等により加熱する際にグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリ、塩化合物の1種以上を添加することができる。その添加量は特に制限はなく、共重合体(A)100重量部に対し、0.01〜1重量部程度が適当である。また、これら酸、アルカリ、塩化合物の種類についても特に制限はなく、酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム塩等が挙げられる。ただし、その触媒保有の色が熱可塑性共重合体の着色に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。
【0057】
上記触媒の中でも塩化合物が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。塩化合物の中でも、酸解離指数が3.0以上7.0以下の酸Yからなる塩を使用することが、グルタル酸無水物への環化反応に際し、最適なpH値を示すためより好ましく、通常は第二工程において、酸解離指数が3.0以上7.0以下の酸Yからなる塩を触媒として含有させて熱可塑性共重合体(B)が製造される。酸解離指数が3.0以上7.0以下の酸Yとしては、ギ酸(3.752)、酢酸(4.757)、アクリル酸(4.257)、メタクリル酸(4.66)、安息香酸(4.212)などの酸が挙げられるが、より好ましくは酢酸である。また、酸解離指数が3.0以上7.0以下の酸Yからなる塩としては、前記酸Yと塩基から生成される塩であれば特に制限はないが、好ましくはアルカリ金属塩であり、より好ましくは酢酸リチウムや酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどのアルカリ金属酢酸塩、さらに好ましくは酢酸リチウムである。
【0058】
上述の通り、第二工程において酸解離指数が3.0以上7.0以下の酸Yからなる塩を触媒として含有させることは、熱可塑性共重合体(B)の製造に際し非常に有効であるが、さらに第二工程の後に第三工程として、酸Yよりも酸解離指数が1.0以上小さい酸Xを添加する工程を行うことが、高湿条件下での長期使用時の寸法安定性向上に有効であることを本発明者らは鋭意検討の結果見出した。酸Xは前述の通り酸解離指数が1.0以上4.0以下であることを満たす必要がある。また第三工程にて添加される酸Xは1種類であっても2種類以上であっても上記範囲を満たしていれば差し支えない。
【0059】
前記第三工程で用いられる酸Xは、着色原因や樹脂への悪影響を極力抑えるという観点から有機カルボン酸であることが好ましい。さらに好ましくは、芳香環を持たずヘイズの原因となりにくく、またより低い酸解離指数であるシュウ酸(1.271)またはマレイン酸(1.921)から選ばれる少なくとも1つの酸である。
【0060】
前記第三工程にて添加する酸Xのモル数については、前記第二工程にて添加する酸Yのモル数に対して50%以上200%以下の量であることが好ましい。酸Xの添加量は、熱可塑性共重合体(B)の寸法安定性向上の面から、50%以上であれば十分な向上効果が期待できるため好ましく、さらに好ましくは80%以上である。上限については、100%以上であれば、寸法安定性向上効果がさらに顕著となるが、添加量を多くしすぎると樹脂成形体の透明度の低下などが懸念されるという観点から200%以下であることが好ましく、さらに好ましくは150%以下である。
【0061】
本発明における第三工程、すなわち熱可塑性共重合体(B)に酸(X)を添加する方法は、特に制限はないが、第二工程の箇所で述べた、ベントを有する加熱した押出機に通して製造する方法や窒素気流中などの不活性ガス雰囲気で、または真空下で加熱脱揮できる装置内で製造する方法が好ましい。詳細は前述の通りであるが、上記方法によることで着色が少なく簡便に目的の熱可塑性共重合体組成物を得ることができる。
【0062】
本発明の熱可塑性共重合体(B)中の前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位(i)の含有量は、特に制限はないが、好ましくは熱可塑性共重合体(B)100重量%中に好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは25〜50重量%、とりわけ30〜45重量%が好ましい。
【0063】
また、本発明の熱可塑性共重合体(B)における各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、グルタル酸無水物単位は、1800cm−1および1760cm−1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分として、スチレンを含有する場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0064】
また、本発明の熱可塑性共重合体組成物には、上記(i)および(ii)成分の他に不飽和カルボン酸単位(iii)および/または、共重合可能な他のビニル系単量体単位を含有することができる。
【0065】
本発明においては、共重合体(A)の脱水および/または脱アルコール反応を十分に行うことにより熱可塑性共重合体(B)中に含有される不飽和カルボン酸単位(iii)の量は10重量%以下、すなわち0〜10重量%とすることが好ましく、より好ましくは0〜5重量%である。不飽和カルボン酸単位が10重量%を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0066】
また、共重合可能な他のビニル系単量体単位量は0〜35重量%であることが好ましいが、より好ましくは10重量%以下、すなわち0〜10重量%であり、さらに好ましくは0〜5重量%である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体単位を含有する場合、含有量が多すぎると、無色透明性、光学等方性、耐薬品性が低下する傾向がある。
【0067】
本発明の熱可塑性共重合体(B)は、重量平均分子量(以下Mwとも言う)が、好ましくは、2000〜1000000、より好ましくは、5000〜500000であることが望ましい。尚、本発明でいう重量平均分子量とは、多角度光散乱ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC−MALLS)で測定した絶対分子量での重量平均分子量を示す。
【0068】
かくして得られる本発明の熱可塑性共重合体組成物は、ガラス転移温度が120℃以上と優れた耐熱性を有し、実用耐熱性の面で好ましい。また、好ましい態様においてはガラス転移温度が130℃以上の極めて優れた耐熱性を有する。また、上限としては、通常160℃程度である。なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて昇温速度20℃/分で測定したガラス転移温度である。
【0069】
さらに本発明の熱可塑性共重合体組成物の高湿条件下での長期使用時の寸法安定性については、例えば、常温常湿の環境下、あるいは60℃、90%RHなどの高温高湿環境下でのモデル的な加速試験において測定される、一定時間経過後の樹脂成形体の寸法変化率などにより評価される。
【0070】
また、本発明の製造方法により製造される熱可塑性共重合体組成物は、黄色度(Yellowness Index)の値が3以下と着色が抑制され、極めて高度な無色透明性を有する。上記において黄色度はガラス転移温度+140℃で射出成形した厚さ1mm成形品のYI値をJIS−K7103に従い、測定した値である。黄色度の下限は、特に制限はなく、低いほど好ましいが、通常1程度である。
【0071】
さらに、本発明の熱可塑性共重合体組成物の製造時には、本発明の目的を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、その添加剤保有の色が本発明の熱可塑性共重合体組成物に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。
【0072】
本発明により製造された熱可塑性共重合体組成物は、その優れた耐熱性、無色透明性および滞留安定性を活かして、電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0073】
本発明により製造された熱可塑性共重合体組成物からなる成形品の具体的用途としては、例えば、電気機器のハウジング、OA機器のハウジング、各種カバー、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルターおよび点火装置ケースなどが挙げられる。また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品として、カメラ、VTR、プロジェクションTVなどの撮影用レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなど、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)基板、各種ディスク基板保護フィルム、光ディスクプレイヤーピックアップレンズ、光ファイバー、光スイッチ、光コネクターなど、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、ピックアップレンズ、タッチパネル用導光フィルム、カバーなど、自動車などの輸送機器関連部品として、テールランプレンズ、ヘッドランプレンズ、インナーレンズ、アンバーキャップ、リフレクター、エクステンション、サイドミラー、ルームミラー、サイドバイザー、計器針、計器カバー、窓ガラスに代表されるグレージングなど、医療機器関連部品として、眼鏡レンズ、眼鏡フレーム、コンタクトレンズ、内視鏡、分析用光学セルなど、建材関連部品として、採光窓、道路透光板、照明カバー、看板、透光性遮音壁、バスタブ用材料などにも適用することができ、これら各種の用途にとって極めて有用である。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、各測定および評価は次の方法で行った。
【0075】
(1)重量平均分子量・分子量分布
得られた共重合体をテトラヒドロフランに溶解して、測定サンプルとした。テトラヒドロフランを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて、重量平均分子量(絶対分子量)、数平均分子量(絶対分子量)を測定した。分子量分布は、重量平均分子量(絶対分子量)/数平均分子量(絶対分子量)で算出した。
【0076】
(2)各成分組成
各成分単位の定量は、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)法により行った。H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位(i)、メタクリル酸単位、メタクリル酸メチル単位からなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0077】
なお、H−NMR法の他に、赤外分光法によっても各成分単位の定量が可能である。当該方法においては、グルタル酸無水物単位は、1800cm−1および1760cm−1の吸収が特徴的であり、ビニルカルボン酸由来の単位やビニルカルボン酸アルキルエステル由来の単位から区別することができる。
【0078】
(3)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。
【0079】
(4)透明性(全光線透過率、ヘイズ)
得られた熱可塑性共重合体組成物を、ガラス転移温度+140℃で射出成形し、得られた厚さ1mm成形品の23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ(曇度)(%)を、東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて測定し、透明性を評価した。
【0080】
(5)黄色度(Yellowness Index)
得られた熱可塑性共重合体組成物を、ガラス転移温度+140℃で射出成形し、得られた厚さ1mm成形品のYI値をJIS−K7103に従い、SMカラーコンピューター(スガ試験機社製)を用いて測定した。
【0081】
(6)寸法変化率
寸法変化率は、過酷な条件での長期使用時の寸法安定性をモデル的に評価するため、フィルム状に成形し、下記条件にて評価を行った。得られた熱可塑性共重合体組成物を、メチルエチルケトンで25重量%となるように溶解し、加圧濾過後、日本シーダースサービス(株)製ベーカ式アプリケーターを用いて、厚さ1.5mmのガラス板に両面テープで固定した厚さ100μmのPETフィルム上に、乾燥後のフィルム厚みが80μmとなるようにキャストした。次いで熱風オーブンを用いて以下の乾燥条件で溶媒乾燥を行った。
初期乾燥:50℃/10分
2次乾燥:80℃/10分
3次乾燥:120℃/20分
4次乾燥:140℃/20分
最終乾燥:170℃/40分
上記最終乾燥フィルムをPETフィルムから剥離して、熱可塑性共重合体組成物からなるフィルムを得た。
【0082】
得られたフィルムについて、60℃、90%RH雰囲気下で500時間経過前後のフィルム寸法変化より、下式に従って寸法変化率を算出した。
寸法変化率(%)=[(経過後寸法−経過後寸法)/経過前寸法]×100
【0083】
参考例1(共重合体(A)の合成(第一工程))
容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤(以下の方法で調整した。メタクリル酸メチル20重量部、アクリルアミド80重量部、過硫酸カリウム0.3重量部、イオン交換水1500重量部を反応器中に仕込み反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保つ。反応は単量体が完全に、重合体に転化するまで続け、アクリル酸メチルとアクリルアミド共重合体の水溶液として得る。得られた水溶液を懸濁剤として使用した)0.05部をイオン交換水165部に溶解した溶液を供給し、400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質を、反応系を撹拌しながら添加し、70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始として、180分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体(A)を得た。この共重合体(A)の重合率は98%であり、重量平均分子量は13万、分子量分布は3.23であった。
メタクリル酸メチル 73重量部
メタクリル酸 27重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.4重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.2重量部。
【0084】
参考例2(熱可塑性共重合体(B)の製造(第二工程))
参考例1で得られた共重合体(A)100重量部に、触媒として酢酸リチウム0.2重量部を配合し、その混合物を38mmφ二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38:CTE社製、L/D=47.5、ベント部:2箇所)に供給した。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量10kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性共重合体(B)を得た。
【0085】
得られたペレットを100℃で8時間乾燥した後、Tgの測定を行ったところ、Tg=138℃であり、またH−NMRにより定量した各共重合成分組成(重量%)は、
グルタル酸無水物単位/メタクリル酸メチル単位/メタクリル酸単位=32/63/5
であった。
【0086】
実施例1〜4、比較例1〜4(第三工程)
実施例1
参考例2で得られた熱可塑性共重合体(B)100重量部に、シュウ酸0.14重量部(酢酸リチウム比:51モル%)を配合し、その混合物を38mmφ二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38:CTE社製、L/D=47.5、ベント部:2箇所)に供給した。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量10kg/h、シリンダ温度290℃で溶融混練し、ペレット状の熱可塑性共重合体組成物を得た。
【0087】
得られたペレットを100℃で8時間乾燥した後、各種特性評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0088】
実施例2〜4
添加する酸Xとその添加量を表1で示したものに変更した以外は、実施例1と同様の方法でペレット状の熱可塑性共重合体組成物を得た。
【0089】
得られたペレットを100℃で8時間乾燥した後、各種特性評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0090】
比較例1
第三工程を行わず、第二工程で得られたペレット状の熱可塑性共重合体(B)を100℃で8時間乾燥した後、各種特性評価を行った。評価結果を表1に示す。表1から読み取れる通り、寸法変化率が本発明の熱可塑性共重合体組成物よりも低下することがわかった。
【0091】
比較例2〜4
添加する酸Xとその添加量を表1で示したものに変更した以外は、実施例1と同様の方法でペレット状の熱可塑性共重合体組成物を得た。
【0092】
得られたペレットを100℃で8時間乾燥した後、各種特性評価を行った。評価結果を表1に示す。表1から読み取れる通り、寸法変化率が本発明の熱可塑性共重合体組成物よりも低下することがわかった。
【0093】
【表1】

【0094】
実施例1〜4および比較例1〜4から、本発明の熱可塑性共重合体組成物の製造方法は、第三工程において酸解離指数が1.0以上4.0以下である酸であって、酸Yよりも酸解離指数が1.0以上小さい酸Xを添加することにより、耐熱性、無色透明性、成形加工特性、さらに高湿条件下での長期使用時の寸法安定性に優れた熱可塑性共重合体組成物が製造可能であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位(i)を含む熱可塑性共重合体組成物の製造方法であって、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)および不飽和カルボン酸単位(iii)を含む共重合体(A)を製造する工程(第一工程)と、続いて、酸解離指数が3.0以上7.0以下の酸Yからなる塩を含有させて該共重合体(A)を加熱処理し、脱水および/または脱アルコール反応による分子内環化反応を行う工程(第二工程)により、一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位(i)および不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)を含む熱可塑性共重合体(B)を製造し、さらに該第二工程の後に、酸Yよりも酸解離指数が1.0以上小さい酸Xを添加する工程(第三工程)を行うことを特徴とする熱可塑性共重合体組成物の製造方法。
【化1】

(ただし、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
【請求項2】
前記酸Xが、有機カルボン酸である請求項1に記載の熱可塑性共重合体組成物の製造方法。
【請求項3】
前記酸Xが、シュウ酸またはマレイン酸から選ばれる少なくとも1つの酸である請求項2に記載の熱可塑性共重合体組成物の製造方法。
【請求項4】
前記酸Yが、酢酸である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性共重合体組成物の製造方法。
【請求項5】
前記酸Yからなる塩が、酢酸リチウムである請求項4に記載の熱可塑性共重合体組成物の製造方法。
【請求項6】
前記第三工程にて添加する酸Xのモル数が、前記第二工程にて添加する酸Yのモル数に対して50%以上200%以下であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の熱可塑性共重合体組成物の製造方法。
【請求項7】
下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位(i)を含む熱可塑性共重合体組成物であって、酸解離指数が3.0以上7.0以下の酸Yからなる塩を実質的に含まず、酸解離指数が1.0以上4.0以下であり、酸Yよりも酸解離指数が1.0以上小さい酸Xからなる塩を含有することを特徴とする熱可塑性共重合体組成物。
【化2】

(ただし、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)

【公開番号】特開2008−308566(P2008−308566A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157060(P2007−157060)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】