説明

熱可塑性樹脂フィルムの製造方法

【課題】100μm以上の比較的厚番手であり、しかも、透明性に優れた熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】溶融押出機の口金より熱可塑性樹脂を冷却回転ドラム2上にシート状に押出し、シート状溶融樹脂と冷却回転ドラムとの接点近傍に設けた電極4から静電荷をシート状溶融樹脂に印加せしめてシート状溶融樹脂を冷却回転ドラム表面に密着させ、そして、静電荷印加点以降の冷却回転ドラム上のシート状溶融樹脂表面に冷却可能なスチールベルト5を当接し、次いで、得られたシートを延伸処理して熱可塑性樹脂フィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレーの大型化に伴って保護フィルムや離型フィルムとして使用される熱可塑性樹脂フィルムも大面積であることが要求される。この際、張合せ作業時におけるシワの発生を回避することや耐熱性の観点から、適度の腰強さが要求される結果、例えば100μm以上の比較的厚番手の熱可塑性樹脂フィルムが要求される。
【0003】
ところで、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法として周知の静電密着法は、溶融押出機の口金より熱可塑性樹脂を冷却回転ドラム上にシート状に押出し、シート状溶融樹脂と冷却回転ドラムとの接点近傍に設けた電極から静電荷をシート状溶融樹脂に印加せしめてシート状溶融樹脂を冷却回転ドラム表面に密着させるキャスト方法であり、表面性に優れた熱可塑性樹脂フィルムを製造するための有効な方法である。本発明者の一人は、生産性を高めたポリエステルフィルムの製造方法として、前段にブレード電極、後段にワイヤー電極を設ける方法を提案した(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−179787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、厚番手の熱可塑性樹脂フィルムを製造せんとした場合、すなわち、冷却回転ドラム上に押出されるシート状溶融樹脂が厚い場合、冷却回転ドラムに密着されなかった側の表面は、冷却不足となり、透明性の指標であるヘーズが大きくなるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、例えば100μm以上の比較的厚番手であり、しかも、透明性に優れた熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、溶融押出機の口金より熱可塑性樹脂を冷却回転ドラム上にシート状に押出し、シート状溶融樹脂と冷却回転ドラムとの接点近傍に設けた電極から静電荷をシート状溶融樹脂に印加せしめてシート状溶融樹脂を冷却回転ドラム表面に密着させ、そして、静電荷印加点以降の冷却回転ドラム上のシート状溶融樹脂表面に冷却可能なスチールベルトを当接し、次いで、得られたシートを延伸処理して熱可塑性樹脂フィルムを製造することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば100μm以上の比較的厚番手であり、しかも、透明性に優れた熱可塑性樹脂フィルムの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を添付図面に基づいて詳細に説明するが、図1は、冷却回転ドラム上に溶融シートを押出す本発明におけるキャスト法の説明図である。
【0009】
本発明に使用される熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、結晶性樹脂熱可塑性樹脂が好ましく、その具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステルが挙げられる。これら樹脂は結晶性を有する範囲で共重合体であってもよい。
【0010】
上記のポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分から成るポリエステルを指し、特に、繰り返し単位の80%以上がエチレンテレフタレート単位、エチレン−2,6−ナフタレート単位または1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート単位を有するポリエステルが好適である。なお、斯かるポリエステルは他の第三成分が共重合されていてもよい。
【0011】
上記の芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸以外に、例えば、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシエトキシ安息香酸)が挙げられる。一方、上記のグリコール成分としては、エチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール以外に、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
【0012】
本発明の製造方法においては、従来公知の方法と同様に、静電密着法を採用する。すなわち、溶融押出機の口金(1)より熱可塑性樹脂を冷却回転ドラム(2)上にシート状に押出し、シート状溶融樹脂(3)と冷却回転ドラム(2)との接点近傍に設けた電極(4)から静電荷をシート状溶融樹脂(3)に印加せしめてシート状溶融樹脂(3)を冷却回転ドラム(2)表面に密着させる。電極(2)は、冷却回転ドラム(2)の上部幅方向であって且つ冷却回転ドラム(2)面に対して水平位置に張架されている。電極(2)としては、ワイヤー電極、ブレード電極などを採用することが出来、これらを組み合せて使用してもよい。なお、符号(6)は冷却されたシート状溶融樹脂(3)を移送するための案内ロールを示す。
【0013】
本発明の製造方法においては、静電密着法と共にベルト冷却法を採用する。すなわち、静電荷印加点以降の冷却回転ドラム(2)上のシート状溶融樹脂(3)表面に冷却可能なスチールベルト(5)を当接する。図示したスチールベルト(5)は、ゴムロール(51)と金属ロール(52)とに掛け回され、次のような冷却手段によって冷却可能になされている。すなわち、金属ロール(52)の軸部に冷却水入口(53)と冷却水出口(図示せず)が設けられ、金属ロール(52)に冷却水を供給し、スチールベルト(5)を冷却するようになされている。そして、ゴムロール(51)を駆動ロールとし、揺動可能になされた金属ロール(52)又はゴムロール(51)の冷却回転ドラム(2)側への距離を変更することにより、シート状溶融樹脂(3)に対するスチールベルト(5)の接触面積が調節可能となされている。なお、スチールベルト(5)の冷却手段としては、上記に限定されず、例えば、スチールベルト(5)のシート状溶融樹脂(3)非接触部をドライアイス等の寒材で冷却する方法なども採用し得る。
【0014】
通常、ポリエチレンテレフタレートの場合、270〜310℃で押出されて15〜50℃まで冷却される。シート状溶融樹脂(3)の厚さは、通常500〜3000μm、好ましくは1500〜3000μmである。冷却回転ドラム(2)及び冷却可能なスチールベルト(5)の各表面温度は通常15〜30℃である。
【0015】
本発明においては、前述したように、先ず、静電密着法により、電極(4)から静電荷をシート状溶融樹脂(3)に印加せしめてシート状溶融樹脂(3)を冷却回転ドラム(2)表面に密着させ、次いで、静電荷印加点以降の冷却回転ドラム(2)上のシート状溶融樹脂(3)表面に冷却可能なスチールベルト(5)を当接する。静電荷印加点は実質的には電極(4)の張架位置であり、例えば2本の電極を使用した場合、静電荷印加は2番目の電極の張架位置を意味する。
【0016】
シート状溶融樹脂(3)に対する冷却可能なスチールベルト(5)の当接位置は、上記の条件を満足する限り、特に制限されないが、シート状溶融樹脂(3)の結晶化度との関係で次のように決定するのがよい。すなわち、上記の当接位置としては、結晶化度に対する冷却温度や冷却時間の影響が大きい温度領域である120〜260℃の位置を選択するのが好ましい。
【0017】
シート状溶融樹脂(3)の延伸処理延伸条件は、特に制限されないが、例えば、2軸延伸の場合は、縦方向に70〜145℃で2〜6倍に延伸した後、横方向に90〜160℃で2〜6倍延伸する方法が挙げられる。そして、延伸後、150〜250℃で1〜600秒間熱処理を行うことが好ましい。また、必要に応じ、再縦延伸、再横延伸を付加することも可能である。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1:
原料としてポリエチレンテレフタレートチップを使用した。キャスト法としては図1に示す方法を採用した。電極(4)としては、線径100μmのワイヤー電極を使用した。ワイヤー電極は、冷却回転ドラム(2)の上方8mmの位置にドラムと水平に張架し、7kvの電圧を印可した。スチールベルト(5)の設置位置は、シート状溶融樹脂(3)が冷却回転ドラム(2)に着地する地点から、冷却回転ドラム(2)の回転方向に90°経過した位置とした。そして、冷却可能なスチールベルト(5)とシート状溶融樹脂(3)の接触長さは40mmとした。冷却回転ドラム(2)及び冷却可能なスチールベルト(5)の各表面温度は30℃に制御した。
【0020】
溶融押出機の口金(1)より十分に乾燥したポリエチレンテレフタレートチップを冷却回転ドラム(2)上にシート状に押出し、シート状溶融樹脂(3)を冷却回転ドラム(2)表面に密着させ、更に、冷却回転ドラム(2)上のシート状溶融樹脂(3)表面に冷却可能なスチールベルト(5)を当接し、幅2mで厚さ2000μmの無定型シートを得た。得られたシートを縦および横方向に各4倍に延伸した後、220℃で熱固定し、200μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得、ヘーズと微結晶の個数を測定した。結果を表1に示す。
【0021】
実施例2:
実施例1において、冷却回転ドラムの速度を低下させることによりシート厚み2500μmに変更した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得、ヘーズと微結晶の個数を測定した。結果を表1に示す。
【0022】
比較例1:
実施例1において、スチールベルト(5)の適用を止めた以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得、ヘーズと微結晶の個数を測定した。結果を表1に示す。
【0023】
比較例2:
実施例1において、スチールベルト(5)の適用を止め、そして、冷却回転ドラムの速度を低下させることによりシート厚み2500μmに変更した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得、ヘーズと微結晶の個数を測定した。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】冷却回転ドラム上に溶融シートを押出す本発明におけるキャスト法の説明図
【符号の説明】
【0026】
1:溶融押出機の口金
2:冷却回転ドラム
3:シート状溶融樹脂
4:電極
5:冷却可能なスチールベルト
51:ゴムロール
52:金属ロール
53:冷却水入口
6:案内ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融押出機の口金より熱可塑性樹脂を冷却回転ドラム上にシート状に押出し、シート状溶融樹脂と冷却回転ドラムとの接点近傍に設けた電極から静電荷をシート状溶融樹脂に印加せしめてシート状溶融樹脂を冷却回転ドラム表面に密着させ、そして、静電荷印加点以降の冷却回転ドラム上のシート状溶融樹脂表面に冷却可能なスチールベルトを当接し、次いで、得られたシートを延伸処理して熱可塑性樹脂フィルムを製造することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂が結晶性熱可塑性樹脂である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
結晶性熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂である請求項2に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−58370(P2010−58370A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226123(P2008−226123)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】