説明

熱可塑性樹脂組成物、その製造方法および成形品

【課題】ポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂が本来有する、優れた機械特性を損なうことなく、耐熱性、靭性を著しく改良した熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、該熱可塑性樹脂組成物中で(A)成分または(B)成分が、平均粒子径0.001〜0.9μmで分散している熱可塑性樹脂組成物であり、このような該熱可塑性樹脂組成物は、剪断速度と樹脂圧力の積5000sec−1・MPa以上の剪断下で溶融混練することにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、優れた機械特性、耐熱性等を活かして構造材料として有用に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂に代表されるポリエステル樹脂は、成形性、靭性、耐候性、耐磨耗性などは優れているが、耐熱性が若干低く、結晶化度が大きいために成形収縮が大きいなどの問題点がある。
【0003】
一方、ポリフェニレンエーテル樹脂は、耐熱性、耐熱水性、耐酸性、耐アルカリ性、難燃性、電気特性に優れ、機械的強度も高いことから、エンジニアリング樹脂として、電気電子部品、自動車内外装部品、機構部品に使用されている。しかし、溶融粘度が高く、溶融成形をするには、高温を要することから、酸化、劣化、変色などの問題点がある。
【0004】
そこで、ポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂を組み合わせて、各々の長・短所を補完させることができれば新しい有用な材料が得られるものと考えられ、これまでにポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂とのブレンドについていくつか検討がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1、特許文献2にはポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂とを含有してなる樹脂組成物が開示されている。しかし、これらはポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂との相溶性の悪さに起因したマクロな相分離構造を形成し、得られた樹脂組成物は機械特性に劣り、また、十分な耐熱性を得られなかった。
【0006】
また、ポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂の相溶性を向上させる目的で、特許文献3には、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエステル樹脂とスチレン樹脂の共重合体を配合した樹脂組成物が開示されている。また、特許文献4には、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、グリシジルメタクリレート変性水添ブロック共重合体を配合した樹脂組成物が開示されている。しかし、いずれも得られる樹脂組成物は、十分な耐熱性の効果が得られないばかりか、機械特性についても満足するものではなかった。
【0007】
特許文献5には、熱可塑性ポリエステル樹脂とその他の熱可塑性樹脂を配合してなる樹脂組成物の平均分散径を500nm以下とすることにより、耐衝撃性に優れた樹脂組成物が得られるとの記載がある。しかしながら該公報中の実施例に熱可塑性ポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の具体的な例示がなく、また平均分散径を500nm以下とすることで、特異的に耐熱性や引張伸度が向上する特徴が発現することについては記載も示唆も一切ない。さらに、該公報中の実施例では熱可塑性ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂に対し、エチレン/グリシジルメタクリレート−g−ポリメタクリル酸メチル(日本油脂(株)製“モディパー”A−4200)を配合することで平均分散径を500nm以下に制御しているが、一方で耐熱性が低下する課題があった。
【0008】
特許文献6には、スピノーダル分解によって構造周期0.001〜0.1μmの両相連続構造を形成後、さらに構造周期0.01〜0.1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.01μm〜1μmの分散構造まで発展せしめることにより、優れた機械特性を活かした構造材料や、優れた規則性を活かして機能材料として有用なポリマーアロイを得られることが記載されている。しかしながら該公報にはポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物に関しては例示がなく、また該熱可塑性樹脂組成物が優れた機械特性や耐熱性を発現することについては一切開示されていない。
【特許文献1】特開昭59−159847号公報(第1頁)
【特許文献2】特開平4−55467号公報(第1頁)
【特許文献3】特開平10−139984号公報(第2頁、実施例15〜19)
【特許文献4】特開平1―203454(第1頁、実施例3、5)
【特許文献5】特開2007−246845(第2頁、実施例1〜5、比較例4)
【特許文献6】特開2003―286414(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、ポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂が本来有する、優れた機械特性を損なうことなく、耐熱性、靭性を著しく改良した熱可塑性樹脂組成物を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリエステル樹脂(A)と、ポリフェニレンエーテル樹脂(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物における、(A)成分または(B)成分の平均粒子径を0.001〜0.9μmに制御することにより、耐熱性、靭性に著しく優れることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
1.ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、該熱可塑性樹脂組成物中で(A)成分または(B)成分が、平均粒子径0.001〜0.9μmで分散していることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
2.ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)の合計を100重量%として、ポリエステル樹脂(A)1〜99重量%およびポリフェニレンエーテル樹脂(B)1〜99重量%を配合してなることを特徴とする1記載の熱可塑性樹脂組成物。
3.前記熱可塑性樹脂組成物が海島構造を形成し、海成分がポリエステル樹脂(A)であることを特徴とする1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
4.前記ポリエステル樹脂(A)がポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)およびポリエチレンテレフタレート樹脂(a2)から選ばれる1種以上のポリエステル樹脂である1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
5.前記ポリエステル樹脂(A)がポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)であり、該組成物からなる射出成形品を、23℃/50%RHの条件で48時間調湿後、ASTM D648(荷重1.82MPa)に従って測定した耐熱温度(T)(℃)が、下記式1)を満たすことを特徴とする1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
式1) T−((T−Ta1)×W/100+Ta1)>0
:ポリフェニレンエーテル樹脂(B)の耐熱温度(℃)
a1:ポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)の耐熱温度(℃)
:ポリフェニレンエーテル樹脂(B)の配合量(重量%)
6.前記ポリエステル樹脂(A)がポリエチレンテレフタレート樹脂(a2)であり、該組成物からなる射出成形品を、23℃/50%RHの条件で48時間調湿後、ASTM D638に従って測定した引張伸度が100%以上であることを特徴とする、1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
7.前記熱可塑性樹脂組成物が溶融混練を経て得られたものであることを特徴とする、1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
8.前記溶融混練を剪断速度と樹脂圧力の積5000sec−1・MPa以上の剪断下で行うことにより得られたものである7記載の熱可塑性樹脂組成物。
9.ポリエステル樹脂(A)とポリフェレンエーテル樹脂(B)とを剪断速度と樹脂圧力の積5000sec−1・MPa以上の剪断下で溶融混練することを特徴とする1〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
10.1〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
11.成形品が射出成形品、フィルムまたはシートである10記載の成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂が本来有する、優れた機械特性を損なうことなく、耐熱性、靭性に優れた成形品を得ることができるため、これらの特性を活かした各種成形品として有用に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明における第1発明は、ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、該熱可塑性樹脂組成物中で(A)成分または(B)成分が、平均粒子径0.001〜0.9μmとなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物である。
【0015】
本発明で用いるポリエステル樹脂(A)とは、二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体および、ジオールまたはその誘導体からエステル化反応により合成される飽和ポリエステルであり、従来公知のポリエステルが広く使用でき、特に限定されるものではない。
【0016】
上記二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体としてはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらの低級アルコールエステルなどが挙げられる。またジオールまたはその誘導体としては炭素数2〜20の脂肪族グリコールすなわち、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなど、あるいは分子量400〜6000の長鎖グリコール、すなわちポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどおよびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0017】
これらの重合体ないしは共重合体の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレンナフタレ−ト、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/5−ナトリウムスルホイソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/5−ナトリウムスルホイソフタレート)、ポリエチレンナフタレ−ト、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどが挙げられる。なかでもポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレンナフタレ−ト、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどがさらに好ましく、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0018】
またこれら重合体および共重合体は、成形性、機械的特性の観点からo−クロロフェノール溶液を用いて25℃で測定したときの固有粘度が0.36〜1.60、特に0.52〜1.25の範囲にあるものが好適であり、さらには0.6〜1.0の範囲にあるものが最も好ましい。
【0019】
本発明に用いられるポリフェニレンエーテル樹脂(B)とは、下記構造式で表される繰り返し単位を有するポリマーが挙げられる。かかるポリフェニレンエーテル樹脂は、フェノール化合物の1種または2種以上と酸化カップリング触媒を用い、酸素または酸素含有ガスの存在下で酸化重合して得る事が出来る。
【0020】
【化1】

【0021】
(式中、R、R、R、R、はそれぞれ同一でも異なっていても良く、水素、ハロゲン、炭化水素、および置換炭化水素から選ばれるいずれかであり、このうち少なくとも1つは水素である)。
【0022】
上記一般式におけるR、R、R、Rの具体例としては、水素、塩素、臭素、フッ素、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、tert−ブチル、フェニル、クロロエチル、ヒドロキシエチル、フェニルエチル、ベンジル、ヒドロキシメチル、カルボキシエチル、メトキシカルボニルエチル、シアノエチル、クロロフェニル、o−トリル、m−トリル、p−トリル、ジメチルフェニル、エチルフェニル、アリルなどが挙げられる。
【0023】
具体的な例としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,6−、2,5−、2,4−または3,5−ジメチルフェノール、2−メチル−6−フェニルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2−メチル−6−エチルフェノール、2,3,5−、2,3,6−または2,4,6−トリメチルフェノール、3−メチル−6−t−ブチルフェノール、2−メチル−6−アリルフェノールなどが挙げられる。また、これらのフェノール類を酸化重合してポリフェニレンエーテル樹脂を製造する場合には上記一般式以外のフェノール化合物、例えばビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、レゾルシン、ハイドロキノン、ノボラック樹脂のような多価ヒドロキシ芳香族化合物と、上記一般式のフェノール化合物との共重合でも良い。
【0024】
このようにして得られるポリフェニレンエーテル樹脂の中で好ましいものとしては、2,6−ジメチルフェノール単独重合体、2,6−ジメチルフェノールと少量の3−メチル−6−t−ブチルフェノールあるいは2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が挙げられる。
【0025】
ポリフェニレンエーテル樹脂は、上記単独重合体または共重合体に他の重合体をグラフト変性したものであっても良い。例えばEPDMゴムの存在下に前記フェノール類を酸化重合したもの、ポリスチレン系樹脂の存在下に前記フェノール類を酸化重合したもの、上記フェノール類の単独重合体または共重合体の存在下にスチレン及び/または他のビニルモノマーをラジカル開始剤と共に溶融混練したものなどを使用することができる。これらの中ではポリスチレン系樹脂の存在下に前記フェノール類を酸化重合したものが好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂は他の重合体成分と共に用いることができる。このような他の重合体成分としては、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/α−オレフィン共重合体、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリ塩化ビニルなどを使用することができる。これらの中でも特にポリスチレン系樹脂が好ましい。
【0026】
かかるポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)との配合量には特に制限がないが、ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)との配合量の比として、(A)/(B)=99/1〜40/60(重量比)の範囲が好ましく、さらに好ましくは(A)/(B)=99/1〜60/40(重量比)の範囲が好ましく、特に好ましくは(A)/(B)=99/1〜80/20(重量比)の範囲が好ましい。
【0027】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)と、ポリフェニレンエーテル樹脂(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、該熱可塑性樹脂組成物中で(A)成分または(B)成分が、平均粒子径0.001〜0.9μmとなることが必要である。このような平均粒子径となることで、特異的に耐熱性や靭性が向上し、優れた特性が得られる。
【0028】
また、該熱可塑性樹脂組成物の構造は海島構造を形成し、且つ海成分がポリエステル樹脂(A)であることが、耐熱性、靭性、成形性の点から好ましい。
【0029】
前記の平均粒子径の観察方法としては、例えば、ペレット、プレス成形品、あるいは射出成形品などから切削した試料を光学顕微鏡や透過型電子顕微鏡により観察することができる。例えば、ペレット状の樹脂組成物から切削した試料を透過型電子顕微鏡の倍率10000倍で観察して観察部位を写真に撮った場合、その写真においてポリエステル樹脂(A)成分とポリフェニレンエーテル樹脂(B)成分は濃淡により識別される。
【0030】
ここでいう平均粒子径は、電子顕微鏡写真から求めた長径の数平均粒子径であり画像解析により求めることができる。また、写真から直接粒子の長径を50個以上測定し、その数平均値を求めることもできる。
【0031】
平均粒子径0.001〜0.9μmとなるポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物を得る方法としては、そのような組成物が得られる限りにおいて特に制限はないが、共通溶媒に溶解後、この溶液から噴霧乾燥、凍結乾燥、非溶媒物質中の凝固、溶媒蒸発によるフィルム生成等の方法により得られる溶媒キャスト法や、溶融混練法が挙げられる。中でも溶媒を用いないドライプロセスである溶融混練法が、実用上好ましく用いられる。
【0032】
しかし、従来の溶融混練法では平均粒子径0.001〜0.9μmとなるポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物を得ることは困難であり、溶融混練を剪断速度と樹脂圧力の積5000sec−1・MPa以上の高剪断下で行うことにより、安定的に平均粒子径0.001〜0.9μmの熱可塑性樹脂組成物が得られ、特異的に耐熱性や靭性が向上し、優れた特性が得られる。
【0033】
上記溶融混練時の剪断速度と樹脂圧力の積とは、一貫して5000sec−1・MPa以上が必要ではなく、溶融混練時に少なくとも1ヵ所以上もしくは一時的に剪断速度と樹脂圧力の積が5000sec−1・MPa以上となる領域もしくは時間が存在すれば良く、押出機を用いて溶融混練する際には、通常最も剪断速度と樹脂圧力の積が高くなる箇所、例えば逆フルフライトやニーディングブロックによる樹脂滞留箇所で剪断速度と樹脂圧力の積が5000sec−1・MPa以上となるようにすることが好ましい。本発明では、ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)を溶融混練する際に少なくとも1カ所以上剪断速度と樹脂圧力の積が5000sec−1・MPa以上となる領域が存在すればよい。ここで、剪断速度と樹脂圧力の積が5000sec−1・MPa以上となる時間は1秒以上であることが好ましく、逆フルフライトやニーディングブロックによる樹脂滞留箇所に樹脂が1秒以上滞留することで、一時的に剪断速度と樹脂圧力の積が5000sec−1・MPa以上になる時間が存在することになる。剪断速度と樹脂圧力の積が5000sec−1・MPa以上になる時間は、さらに好ましくは、5秒から5分程度である。
【0034】
溶融混練時の剪断速度と樹脂圧力の積は、5000sec−1・MPa以上であれば特に制限はないが、好ましくは8000sec−1・MPa以上であり、さらに好ましくは10000sec−1・MPa以上であれば平均粒子径の微細な熱可塑性樹脂組成物が得られやすく、極めて優れた特性を得ることができる。
【0035】
溶融混練時の剪断速度と樹脂圧力の積を調整する方法としては、特に制限はないが、例えば(イ)溶融混練温度の低下による樹脂粘度の向上、(ロ)目的の剪断速度と樹脂圧力の積になるような分子量のポリマーを選択する、(ハ)逆フルフライト、ニーディングブロック導入などのスクリューアレンジ変更による樹脂滞留、(ニ)バレル内のポリマー充満率を上げる、(ホ)スクリュー回転数を上げる、(へ)任意の添加剤を混合することによる樹脂粘度の向上、(ト)炭酸ガス導入などの超臨界状態などが挙げられる。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を溶融混練する際は、剪断速度と樹脂圧力の積が5000sec−1・MPa以上、好ましくは8000sec−1・MPa以上となるように、バレル温度、スクリュー回転数、原料供給速度(充満率)、樹脂温度とのバランスを見ながら調整することにより製造することが好ましい。
【0037】
本発明では、ポリエステル樹脂(A)がポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)であるとき、該組成物からなる射出成形品を、23℃/50%RHの条件で48時間調湿後、ASTM D648(荷重1.82MPa)に従って側手下耐熱温度(T)(℃)が、下記式1)を満たすものを得ることができる。
式1) T−((T−Ta1)×W/100+Ta1)>0
:ポリフェニレンエーテル樹脂(B)の耐熱温度(℃)
a1:ポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)の耐熱温度(℃)
:ポリフェニレンエーテル樹脂(B)の配合量(重量%)
【0038】
なお、式1)はポリフェニレンエーテル樹脂(B)の配合量(重量%)とポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の耐熱温度(℃)の相関関係を表す式であり、この値が0を越えているということは、ポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)にポリフェニレンエーテル樹脂(B)を混ぜることで期待される耐熱性の上昇以上に耐熱性が上昇したことを意味する。ここで、Wポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)の合計を100重量%とした場合の配合量(重量%)である。
【0039】
また、本発明では、ポリエステル樹脂(A)がポリエチレンテレフタレート樹脂(a2)であるとき、該組成物からなる射出成形品を、23℃/50%RHの条件で48時間調湿後、ASTM D638に従って測定した引張伸度が100%以上のものを得ることができる。
【0040】
本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物には、熱硬化性樹脂を本発明の構造を損なわない範囲で含有させることもできる。これらの熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0041】
これらの熱硬化性樹脂は、本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能である。例えば、ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)を配合する際に同時に添加する方法や、予め、ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)を溶融混練した後に添加する方法や、始めに、ポリエステル樹脂(A)またはポリフェニレンエーテル樹脂(B)に添加し溶融混練後、残りを配合する方法等が挙げられる。
【0042】
なお、本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲でさらに各種の添加剤を含有させることもできる。これらの添加剤としては、例えば、タルク、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、セリサイト、塩基性炭酸マグネシウム、ガラスフレーク、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、岩綿、ケイ砂、ワラステナイト、ガラスビーズなどの強化材、非板状充填材、あるいは酸化防止剤(リン系、硫黄系など)、紫外線吸収剤、熱安定剤(ヒンダードフェノール系など)、エステル交換反応抑制剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、染料および顔料を含む着色剤、難燃剤(ハロゲン系、リン系など)、難燃助剤(三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物、酸化ジルコニウム、酸化モリブデンなど)、発泡剤、カップリング剤(エポキシ基、アミノ基メルカプト基、ビニル基、イソシアネート基を一種以上含むシランカップリング剤やチタンカップリング剤)、抗菌剤等が挙げられる。
【0043】
これらの添加剤は、本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能である。例えば、ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)を配合する際に同時に添加する方法や、予め、ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)を溶融混練した後に添加する方法や、始めに、ポリエステル樹脂(A)またはポリフェニレンエーテル樹脂(B)に添加し溶融混練後、残りを配合する方法等が挙げられる。
【0044】
本発明における好ましい成形方法としては、任意の方法が可能であり、好ましくは射出成形法、フィルム成形法、シート成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法等により、特に好ましくは射出成形法、フィルム成形法、シート成形法により、射出成形品、フィルム、シート等にすることができる。
【0045】
また本発明における熱可塑性樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)が本来有する優れた特性を損なうことなく、著しく耐熱性や靭性が改良されることから、例えば、自動車部品や電機部品などに好適に使用することができる。また本発明の構造制御が、可視光の波長以下も可能であることを利用した透明性樹脂材料にも好適に用いることができる。
【0046】
自動車部品の例としては、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、エアフローメーター、エアポンプ、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、サーモスタットハウジング、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、エンジンマウント、イグニッションホビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、バキュームポンプケース、インヒビタースイッチ、回転センサー、加速度センサー、ディストリビューターキャップ、コイルベース、ABS用アクチュエーターケース、ラジエータタンクのトップ及びボトム、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー、オイルキャップ、オイルパン、オイルフィルター、フューエルキャップ、フューエルストレーナー、ディストリビューターキャップ、ベーパーキャニスターハウジング、エアクリーナーハウジング、タイミングベルトカバー、ブレーキブ−スター部品、各種ケース、燃料関係・排気系・吸気系等の各種チューブ、各種タンク、燃料関係・排気系・吸気系等の各種ホース、各種クリップ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、各種パイプ、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、ブレーキパッド摩耗センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコンパネルスイッチ基板、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、ステップモーターローター、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、トルクコントロールレバー、スタータースイッチ、スターターリレー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、デュストリビューター、サンバイザーブラケット、各種モーターハウジング、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアミラーステー、ホーンターミナル、ウィンドウォッシャーノズル、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、グリルエプロンカバーフレーム、ランプリフレクター、ランプソケット、ランプハウジング、ランプベゼル、ドアハンドル、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクター、ヒューズ用コネクターなどの各種コネクターなどが挙げられる。
【0047】
また電気部品の例としては、コネクター、コイル、各種センサー、LEDランプ、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネット、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク・DVD等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品、オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、携帯電話関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライター関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等の光学機器/精密機械関連部品などが挙げられる。
【0048】
かかる透明性を高めた成型品は、例えばフィルムおよび/またはシートなどに好適に使用することができ、その例としては、食品関連用途、包装材用途、医療品関連用途、農業関連用途、情報産業関連用途、光学部門関連用途として好適に用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
なお、使用した樹脂、相溶化剤は、以下のとおりである。
PBT−1:ポリブチレンテレフタレート樹脂((東レ(株)製、“トレコン1100S”、固有粘度[η]0.85dl/g(o−クロロフェノール溶液を25℃で測定))
PET−1:ポリエチレンテレフタレート樹脂(東レ(株)製、“TSB900”)
PPE−1:ポリフェニレンエーテル樹脂( 三菱ガス化学(株)製“YPX−100F”)
相溶化剤−1:エチレン/グリシジルメタクリレート−g−ポリメタクリル酸メチル(日本油脂(株)製“モディパー”A−4200)
相溶化剤−2:芳香族ポリエステル−ポリスチレン系ブロック共重合体(PS−b−PAr)(特開平10−139984号公報の参考例1、4に従い重合を行い、芳香族ポリエステル−ポリスチレン系ブロック共重合体(PS−b−PAr)を得た。得られたPS−b−PArの分子量測定(ゲル浸透ガスクロマトグラフを使用)を行った結果、数平均分子量110,000、重量平均分子量200,000であった。)
相溶化剤−3:グリシジルメタクリレート変性水添ブロック共重合体(特開平1−203454号公報の参考例3に従い作成した。)
相溶化剤−4:グリシジルメタクリレート変性水添ブロック共重合体(特開平1−203454号公報の参考例2に従い作成した。)。
【0051】
[実施例1〜6]
表1記載の組成からなる原料を、ニーディングゾーン長さをL、スクリュー径をDとしたときに、L/D=5の長さを有するニーディングゾーンを2箇所とL/D=6の長さを有するニーディングゾーンを1箇所、計L/D=16の長さのニーディングゾーンを有する、2軸スクリュー押出機(JSW社製TEX30XSSST)(L/D=45.5(なおここでのLは原料供給口から吐出口までの長さである。))に供給した。押出機による押出しは、溶融混練時のニーディングブロック部の樹脂圧力が表1記載の値となるように、ポリマー溶融部以降のバレル温度を170℃〜260℃の間で調整し、また、表1記載の剪断速度による剪断場を付与した。ダイから吐出後のガットをすぐに氷水中に急冷し、構造を固定した後ストランドカッターでペレタイズしペレットを得た。
【0052】
また、剪断速度と樹脂圧力の積が5000sec−1・MPa以上になるニーディングゾーンの前後に可視化バレルを設置し、さらにカラーペレットを使用し、該ニーディングゾーンをカラーペレットが通過する時間を測定し、その計算結果を表1に記載した。
【0053】
該ペレットを、ホッパ下から先端に向かって、250℃−255℃−260℃−260℃に設定した住友重機械工業(株)製射出成形機(SG−75H−MIV)で、金型温度80℃とし、保圧10秒、冷却時間15秒の成形サイクルでそれぞれの試験片を成形した。得られた成形品について以下の通り評価し、その結果を表1に記載した。
【0054】
耐熱性:ASTM D648に準拠し、荷重1.82MPaにおける荷重たわみ温度の測定を行い、測定した耐熱温度(T)(℃)が下記式を満たすものを合格とした。
式1) T−((T−Ta1)×W/100+Ta1)>0
:ポリフェニレンエーテル樹脂(B)の耐熱温度(191℃)
a1:ポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)の耐熱温度(60℃)
:ポリフェニレンエーテル樹脂(B)の配合量(重量%)
【0055】
また、射出成形により得られた成形品から超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて10万倍に拡大して観察を行い、観察部位を写真に撮った。この電子顕微鏡写真からポリエステル樹脂中に分散したポリフェニレンエーテル樹脂粒子を任意に100個選び、各々の長径を測定し数平均値を計算することで平均粒子径を求めた。
【0056】
[比較例1〜8]
表1記載の組成からなる原料を、ニーディングゾーン長さをL、スクリュー径をDとしたときに、L/D=3の長さを有するニーディングゾーンを2箇所、計L/D=6の長さのニーディングゾーンを有する、2軸スクリュー押出機(JSW社製TEX30XSSST)(L/D=45.5(なおここでのLは原料供給口から吐出口までの長さである。))に供給した。押出機による押出しは、溶融混練時のニーディングブロック部の樹脂圧力が表1記載の値となるように、ポリマー溶融部以降のバレル温度を250℃〜260℃の間で調整し、また、表1記載の剪断速度による剪断場を付与した。ダイから吐出後のガットをすぐに氷水中に急冷し、構造を固定した後ストランドカッターでペレタイズしペレットを得た。
【0057】
また、ニーディングゾーンの前後に可視化バレルを設置し、さらにカラーペレットを使用することで、ニーディングゾーンをカラーペレットが通過する時間を測定し、その計算結果を表1に記載した。
【0058】
このサンプルについても実施例1〜6と同様に成形品を作製し、実施例1〜6と同様に評価した結果を表1に記載した。
【0059】
【表1】

【0060】
以上の結果から、ポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、前記ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂である熱可塑性樹脂組成物は、剪断速度と樹脂圧力の積5000sec−1・MPa以上で溶融混練する事により、微細な平均粒子径を有する構造を形成し、優れた耐熱性を有することがわかる。
【0061】
[実施例7〜12]
表2記載の組成からなる原料を、ニーディングゾーン長さをL、スクリュー径をDとしたときに、L/D=5の長さを有するニーディングゾーンを2箇所とL/D=6の長さを有するニーディングゾーンを1箇所、計L/D=16の長さのニーディングゾーンを有する、2軸スクリュー押出機(JSW社製TEX30XSSST)(L/D=45.5(なおここでのLは原料供給口から吐出口までの長さである。))に供給した。押出機による押出しは、溶融混練時のニーディングブロック部の樹脂圧力が表2記載の値となるように、ポリマー溶融部以降のバレル温度を170℃〜280℃の間で調整し、また、表2記載の剪断速度による剪断場を付与した。ダイから吐出後のガットをすぐに氷水中に急冷し、構造を固定した後ストランドカッターでペレタイズしペレットを得た。
【0062】
また、剪断速度と樹脂圧力の積が5000sec−1・MPa以上になるニーディングゾーンの前後に可視化バレルを設置し、さらにカラーペレットを使用することで、該ニーディングゾーンをカラーペレットが通過する時間を測定し、その計算結果を表1に記載した。
【0063】
該ペレットを、ホッパ下から先端に向かって、270℃−275℃−280℃−280℃に設定した住友重機械工業(株)製射出成形機(SG−75H−MIV)で、金型温度30℃とし、保圧10秒、冷却時間15秒の成形サイクルでそれぞれの試験片を成形した。得られた成形品について以下の通り評価し、その結果を表2に記載した。
【0064】
引張伸度:ASTM D638準拠し、引張伸度の測定を行い、測定した引張伸度が100%以上となるものを合格とした。
【0065】
また、射出成形により得られた成形品から超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて10万倍に拡大して観察を行い、観察部位を写真に撮った。この電子顕微鏡写真からポリエステル樹脂中に分散したポリフェニレンエーテル樹脂粒子を任意に100個選び、各々の長径を測定し数平均値を計算することで平均粒子径を求めた。
【0066】
[比較例9〜16]
表2記載の組成からなる原料を、ニーディングゾーン長さをL、スクリュー径をDとしたときに、L/D=3の長さを有するニーディングゾーンを2箇所、計L/D=6の長さのニーディングゾーンを有する、2軸スクリュー押出機(JSW社製TEX30XSSST)(L/D=45.5(なおここでのLは原料供給口から吐出口までの長さである。))に供給した。押出機による押出しは、溶融混練時のニーディングブロック部の樹脂圧力が表2記載の値となるように、ポリマー溶融部以降のバレル温度を270℃〜280℃の間で調整し、また、表2記載の剪断速度による剪断場を付与した。ダイから吐出後のガットをすぐに氷水中に急冷し、構造を固定した後ストランドカッターでペレタイズしペレットを得た。
【0067】
また、ニーディングゾーンの前後に可視化バレルを設置し、さらにカラーペレットを使用することで、ニーディングゾーンをカラーペレットが通過する時間を測定し、その計算結果を表1に記載した。
【0068】
このサンプルについても実施例7〜12と同様に成形品を作製し、実施例7〜12と同様に評価した結果を表2に記載した。
【0069】
【表2】

【0070】
以上の結果から、ポリエステル樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、前記ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレート樹脂である熱可塑性樹脂組成物は、剪断速度と樹脂圧力の積5000sec−1・MPa以上で溶融混練する事により、微細な平均粒子径を有する構造を形成し、優れた引張伸度を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、該熱可塑性樹脂組成物中で(A)成分または(B)成分が、平均粒子径0.001〜0.9μmで分散していることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)とポリフェニレンエーテル樹脂(B)の合計を100重量%として、ポリエステル樹脂(A)1〜99重量%およびポリフェニレンエーテル樹脂(B)1〜99重量%を配合してなることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物が海島構造を形成し、海成分がポリエステル樹脂(A)であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂(A)がポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)およびポリエチレンテレフタレート樹脂(a2)から選ばれる1種以上のポリエステル樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂(A)がポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)であり、該組成物からなる射出成形品を、23℃/50%RHの条件で48時間調湿後、ASTM D648(荷重1.82MPa)に従って測定した耐熱温度(T)(℃)が、下記式1)を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
式1) T−((T−Ta1)×W/100+Ta1)>0
:ポリフェニレンエーテル樹脂(B)の耐熱温度(℃)
a1:ポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)の耐熱温度(℃)
:ポリフェニレンエーテル樹脂(B)の配合量(重量%)
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂(A)がポリエチレンテレフタレート樹脂(a2)であり、該組成物からなる射出成形品を、23℃/50%RHの条件で48時間調湿後、ASTM D638に従って測定した引張伸度が100%以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂組成物が溶融混練を経て得られたものであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記溶融混練を剪断速度と樹脂圧力の積5000sec−1・MPa以上の剪断下で行うことにより得られたものである請求項7記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
ポリエステル樹脂(A)とポリフェレンエーテル樹脂(B)とを剪断速度と樹脂圧力の積5000sec−1・MPa以上の剪断下で溶融混練することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【請求項11】
成形品が射出成形品、フィルムまたはシートである請求項10記載の成形品。

【公開番号】特開2009−242759(P2009−242759A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94444(P2008−94444)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】