説明

熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】 透明性・寸法安定性と優れた機械的特性を兼ね備える熱可塑性樹脂組成物を実現すべく、熱可塑性樹脂中に良好な分散状態で均一に配合し、かつ、熱可塑性樹脂の分子量を特定の水準以上に保持することができる酸化アルミニウム水和物を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 結晶水量が1.50[mol/mol]以下、及び/又は、200面の結晶子サイズが195Å以上である酸化アルミニウム水和物と熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化アルミニウム水和物を含む熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の透明性を維持しつつ機械的強度・寸法安定性・耐熱性等を向上させる方法として、樹脂との屈折率差が小さく、より微細で、樹脂に対して均一に分散させることができるフィラーとの組成物が検討されている。例えば、酸化アルミニウムはポリカーボネート樹脂との屈折率差が小さいため、透明性に優れた樹脂組成物を得ることが期待されている。
【0003】
特許文献1では、アスペクト比の高いベーマイトとポリカーボネート樹脂組成物の記載がある。この文献のベーマイトは、アルミニウム金属塩、アルコキサイド等を原料とし、これら原料の加水分解のためにアルカリ水溶液を添加する。このため、アルカリ金属塩由来のハロゲン原子や硝酸根、アルカリ金属がベーマイト中に残留しやすく、ポリカーボネートを加水分解する触媒となってしまうため、ポリカーボネートの分子量を低下させ、コンポジットの耐衝撃性を低下させてしまう、と考えられる。さらに、ベーマイト粒子を合成する過程で発生する塩酸による反応装置の腐食の問題が避けらず、工業生産には適さない。
【0004】
特許文献2には、難燃性フィラーとして、アスペクト比3以上のベーマイトを用いたポリマーとの複合体について記載されている。
この文献のベーマイト合成は、水酸化アルミニウムと種結晶としてのベーマイト、水酸化カリウム、硝酸を用いて水熱合成する方法であるが、反応温度160−185℃で反応時間2〜3時間と短く、生成したベーマイトの結晶性は不十分であると予想される。
【0005】
特許文献3には、アスペクト比3以上の針状ベーマイト粒子を樹脂中に分散させることが開示されている。この文献の針状ベーマイトは、ギブサイト(水酸化アルミニウム)、擬ベーマイトに硝酸を添加することにより製造している。合成条件は180℃で反応時間2時間と短いので結晶性は不十分と予想される。また、得られたベーマイトの粒子の厚みが10〜20nmと大きく、アスペクト比10−20と高くないので、線熱膨張係数や透明性が不十分であると考えられる。また、ベーマイトの合成に硝酸を用いているために、精製後もベーマイト中に硝酸根が残りやすく、ポリカーボネート樹脂と混合して、溶融混練する際のポリカーボネート分解活性は高く、ポリカーボネート樹脂組成物として、充分な耐衝撃性が得られないと予想される。
【0006】
特許文献4には、針状の酸化アルミニウム粒子をポリカーボネート樹脂中に分散させる方法が記載されている。この酸化アルミニウムの合成方法は、ハロゲンやアルカリ金属イオンを合成原料に含む。そのため、精製過程を経てもこれらの不純物が酸化アルミニウムに残留しやすく、ポリカーボネート樹脂を加水分解する触媒となり、ポリカーボネート樹脂の分子量が低下しやすく、ポリカーボネート樹脂組成物の耐衝撃性が低下する、という問題があった。さらに、酸化アルミニウム粒子を合成する過程で発生する塩酸による反応装置の腐食の問題が避けらず、工業生産には適さない。
【0007】
このように、従来において、酸化アルミニウムと熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物において、その特性改善のために様々な検討がなされているが、現状では、高透明性、寸法安定性、優れた機械的特性とを兼ね備えた樹脂組成物は未だ提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−62905号公報
【特許文献2】特表2008−518084号公報
【特許文献3】特表2005−528474号公報
【特許文献4】WO2009−011278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の主な課題は、透明性・寸法安定性と優れた機械的特性を兼ね備える熱可塑性樹脂組成物を実現すべく、熱可塑性樹脂中に良好な分散状態で均一に配合し、かつ、熱可塑性樹脂の分子量を特定の水準以上に保持することができる酸化アルミニウム水和物を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが検討した結果、酸化アルミニウム水和物を、熱可塑性樹脂と溶融して樹脂組成物にする際、結晶性の高い酸化アルミニウム水和物を熱可塑性樹脂中に分散させることにより、透明性・寸法安定性に優れた熱可塑性樹脂組成物得ることができると共に、熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の分子量の低下を著しく抑制することができることを見出した。その結果、熱可塑性樹脂の特性である耐衝撃性を損なわない熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0011】
これにより、透明性・寸法安定性と優れた機械的特性を充分に兼ね備えた熱可塑性樹脂組成物を与えることができる。
すなわち本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、結晶水量が1.50[mol/mol]以下、及び/又は、200面の結晶子サイズが195Å以上である酸化アルミニウム水和物と熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする。
【0012】
又、本発明は、結晶水量が1.50以下及び/又は、200面の結晶子サイズが195Å以上である酸化アルミニウム水和物と熱可塑性樹脂を混合することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により提供される酸化アルミニウム水和物を含む熱可塑性樹脂組成物は、透明性・寸法安定性に優れると共に、造粒や成型の際に、熱可塑性樹脂が溶融状態で高温下にさらされる時の樹脂の加水分解を低減するので、樹脂の分子量を高く保持することができる。
その結果、熱可塑性樹脂の特性を生かした状態で酸化アルミニウム水和物充填の効果、すなわち、透明性・寸法安定性・機械的強度の向上効果を十分に得た熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
[酸化アルミニウム水和物]
本発明の酸化アルミニウム水和物は、ギブサイト、バイヤライト、ベーマイト、擬ベーマイト、ダイスポア、無定形などの水酸化アルミニウム(アルミナ水和物)、及びγ、ηδ、ρ、κ、θ、χ、α型のアルミナ結晶が包含される。
【0015】
これらの中でも入手の容易さと、粒子の分散性保持、及び屈折率の観点から、ベーマイト、擬ベーマイトが好ましい。
本発明で用いる酸化アルミニウム水和物は、Al.nHOで表され、n=0以上通常3以下のものからなる混合物である。したがって、このような酸化アルミニウム水和物を用いてポリカーボネート樹脂組成物を調製する場合、種々のnの値を持つ酸化アルミニウム水和物の混合物である上に、実験的に結晶水と結晶水ではない吸着水との区別をすることが困難であり、一義的に酸化アルミニウム水和物の組成式を提示することができない。
【0016】
このため、本発明では、含有される酸化アルミニウム水和物の量を、特に断らない限り吸着水や結晶水が除かれた形態のアルミナ(Al)換算の数値として表す。具体的には、この数値は詳細に後述する熱分析(TG−DTA)により灰分として求められる。
本発明で使用する酸化アルミニウム水和物は、繊維状、紡錘状、棒状、針状、筒状、柱状、鱗片状、薄片状、板状のいずれでもよい。
【0017】
その粒子サイズは、透過型電子顕微鏡(TEM)による目視観察で、短軸長さが1〜20nmであり、長軸長さが20〜2000nmであり、アスペクト比が5〜1000のものが好ましく、短軸長さが1〜15nmであり、長軸長さが20〜1000nmであり、アスペクト比が5〜500ものがより好ましい。
酸化アルミニウム水和物を配合して高透明性の樹脂組成物を得ようとする場合には、粒子サイズは粒子の短軸長さが15nm以下で、長軸長さが50〜1000nmであり、アスペクト比が5〜500である針状の粒子、もしくは薄片か鱗片状の粒子が好ましく、短軸長さが15nm以下で、長軸長さが50〜1000nmであり、アスペクト比が5〜500である針状の粒子がより好ましく、短軸長さが10nm以下であり、長軸長さが50〜800nmであり、アスペクト比が5〜500である針状の粒子がさらにより好ましく、短軸長さが10nm以下であり、長軸長さが50〜600nmの針状の粒子であるアスペクト比が5〜500であることが特に好ましい。
【0018】
ここでいう粒子サイズとは、TEM画像で観察される粒子ひとつ一つの大きさのことを指し、通常酸化アルミニウム水和物結晶の1次粒子が単独で、もしくは、1次粒子の集合体からなる2次粒子、もしくはこれらの混合体からなる。
ここで、短軸長さとは、粒子の厚みをさし、長軸長さとは粒子の最長寸法のことを指す。板状の場合は板面における最大の長さをさす。アスペクト比とは、この長軸長さを短軸長さで除した値である。
【0019】
尚、本発明の酸化アルミニウム水和物粒子の平均のサイズは、より正確には、TEMにより得られた画像を画像処理により統計的に算出して平均値を調べることができる。
このような酸化アルミニウム水和物は、例えば特開昭59−13446号公報、WO97/32817、特開平6−64919、特開平7―10535号公報等の公知の方法により合成することができる。
【0020】
この際、使用する酸化アルミニウム水和物に、無機酸、ハロゲンや金属元素、塩基性物質が含有される場合は、これらが残留していると、樹脂組成物にもこれらの物質が残留し、溶融の際にポリカーボネート樹脂を加水分解してしまう。そのため、ポリカーボネート樹脂と酸化アルミニウム水和物の混合物を混練する前の段階でこれら不純物をよく洗浄して除去しておくことが好ましい。
【0021】
[酸化アルミニウム水和物の結晶水量]
本発明の酸化アルミニウム水和物は、組成式ではAl・nHO(nは酸化アルミニウム水和物のアルミナと結晶水のモル比)と表せ、nはベーマイトの場合、結晶構造
が整然としていれば、1.0であり、組成式ではAl・HOまたは、AlOOHと示される。ベーマイトのアルミナと結晶水のモル比nが1.0より過剰である場合とは、ベーマイト構造に乱れがあることか、ベーマイトに他の種類の酸化アルミニウム水和物が混在していること、等が原因と考えられる。
【0022】
本発明の酸化アルミニウム水和物の結晶水量[mol/mol]とは、酸化アルミニウム水和物の110℃から1000℃の間に脱離する水のモル数と1000℃におけるアルミナ(Al)残留量のモル数との比を後述する熱分析(TG−DTA)により求めた数値をいう。
熱分析により、重量減少から結晶水量をもとめる本発明の方法では、結晶格子を構成する結晶水だけでなく、残留している吸着水も少量カウントされるので、その酸化アルミニウム水和物本来のアルミナと結晶水のモル比nより若干大きい数値を示す。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の酸化アルミニウム水和物は、結晶水量が1.50[mol/mol]以下であることが好ましく、1.45以下がより好ましく1.40以下が特にこのましい。結晶水量が多すぎると、この酸化アルミニウム水和物を用いて熱可塑性樹脂組成物とすると、透明性・寸法安定性・熱可塑性樹脂の分子量維持を悪化させる。
酸化アルミニウム水和物の結晶水量が1.50以下であることが、熱可塑性樹脂組成物の透明性・寸法安定性・熱可塑性樹脂の分子量維持に好ましい理由は明らかではないが、結晶水量が1.50以下であることは、ベーマイト構造に、格子欠陥や結晶の歪みが少ないこと、ベーマイト構造以外の別の形態の酸化アルミニウム水和物含有量が少ないことに起因した現象と推測される。
【0024】
この場合、酸化アルミニウム水和物が主にベーマイト構造からなっており、結晶構造がより規則的であるために、酸化アルミニウム水和物粒子の表面構造に乱れが少ないと考えられる。そのため、酸化アルミニウム水和物粒子表面に吸着される有機酸が粒子表面に均一に吸着可能となり、有機基が酸化アルミニウム水和物粒子表面を均一に覆うことが可能となる。このため、親油的な熱可塑性樹脂と混合しやすい状態となり、その結果熱可塑性樹脂マトリックス中に酸化アルミニウム水和物粒子が均一に分散しやすくなる効果があると推測される。
【0025】
前記のように酸化アルミニウム水和物粒子が、熱可塑性樹脂マトリックス中に均一に分散しやすくなれば、酸化アルミニウム水和物粒子は、熱可塑性樹脂マトリックス中で凝集状態になりにくくなるため、可視光の波長に対して粒子のサイズが小さく保つことができるため、酸化アルミニウム水和物粒子の熱可塑性樹脂組成物の透明性が良好となる。
また、酸化アルミニウム水和物粒子が、熱可塑性樹脂マトリックス中に良好に分散していれば、酸化アルミニウム水和物粒子が、熱可塑性樹脂の分子運動を効率よく抑制できるため、熱可塑性樹脂組成物の熱線膨張率を良好に低下させることが可能となる。
【0026】
また、酸化アルミニウム水和物粒子の表面構造に乱れが少ないということは、結晶構造の歪み(配位不飽和サイト)や、その他の不均質な構造から発生する酸・塩基サイトも少ないため、熱可塑性樹脂を加水分解する触媒(酸・塩基)サイトも少なく、熱可塑性樹脂の分子量低下を抑制できると考えられる。
酸化アルミニウム水和物の表面処理をする場合においても表面処理剤が均一に酸化アルミニウム水和物表面に吸着しやすいので、酸化アルミニウム水和物表面の酸・塩基サイトを均一に封鎖可能となる。このため、加水分解性の分子構造をもつ熱可塑性樹脂の場合には、加水分解が抑制される効果が増大する。
【0027】
酸化アルミニウム水和物の結晶水量を前記好ましい範囲内に制御する因子としては、
明らかではないが、
1)合成における酸化アルミニウム水和物析出条件が、ギブサイトやバイヤライト等のベーマイトもしくは擬ベーマイト以外の酸化アルミニウム水和物の析出条件に近くなく、ベーマイト結晶が成長しやすい合成条件である。
2)水熱合成温度と反応時間のプロファイルが、ベーマイトの核生成、粒子の成長に必要なやや低温とベーマイトの結晶化に必要な高温条件の組み合わせからなる。
3)水熱合成時の攪拌が、酸化アルミニウム水和物の核生成時の核のもしくは酸化アルミニウム水和物粒子が成長する際の粒子の周囲の環境を均一にするための適度な状態である。
4)原料中にベーマイトの結晶化を阻害する不純物やアルミニウム以外の金属成分が少ない。
5)結晶性を向上させるため熟成させる。
などが挙げられると考えている。
【0028】
[酸化アルミニウム水和物の200面の結晶子サイズ]
本発明の酸化アルミニウム水和物の熱可塑性樹脂組成物中の酸化アルミニウム水和物の200面の結晶子サイズは、195Å以上であることを特徴とする。好ましくは200Å以上、より好ましくは210Å以上、さらに好ましくは220Å以上である。
本発明の酸化アルミニウム水和物の200面の結晶子サイズとは、X線回折法によって
得られる回折線巾の拡がりからSherrerの式により算出されるものであり、具体的にはCuKα線をX線源として用いた場合には、回折角(2θ)で64.9°±0.3°に極大をもつ、酸化アルミニウム水和物に由来する回折線の拡がりから算出される。
【0029】
酸化アルミニウム水和物の200面の結晶子サイズが小さい酸化アルミニウム水和物を用いて熱可塑性樹脂組成物とすると、透明性・寸法安定性・熱可塑性樹脂の分子量維持を悪化させる。
酸化アルミニウム水和物の200面の結晶子サイズが大きいということは、a軸方向への結晶構造の繰り返しの規則性がよいことを意味する。a軸方向とは、針状の酸化アルミニウム水和物粒子の場合は、針の長手方向と考えられるので、長手方向に沿って格子欠陥や結晶のゆがみが少ないことを意味すると推定される。
【0030】
通常、針状の酸化アルミニウム水和物が凝集する場合には、酸化アルミニウム水和物の長手方向の辺が重なり合い、束になって凝集する現象がTEMで観察されることが多い。本発明の酸化アルミニウム水和物は、長手方向への格子欠陥や歪みが少なくなることにより、理由はよくわからないが、針状酸化アルミニウム水和物が束になって凝集する傾向が緩和され、酸化アルミニウム水和物が熱可塑性樹脂中で分散しやすくなると考えられる。

【0031】
また、熱可塑性樹脂を分解する酸・塩基サイトが酸化アルミニウム水和物表面に少なく、熱可塑性樹脂の加水分解を抑制していると考えられる。
また、酸化アルミニウム水和物を表面処理する際に針状の粒子の長手方向へ均一に有機酸が反応または吸着するので、酸化アルミニウム水和物の長手方向の辺が重なり合うことによる粒子の凝集が抑制可能となり、酸化アルミニウム水和物の熱可塑性樹脂中への分散が有利になると共に、酸化アルミニウム水和物表面の酸・塩基サイトを封鎖しやすく、熱可塑性樹脂の加水分解を抑制する効果が大きいと考えられる。
【0032】
酸化アルミニウム水和物の200面の結晶子サイズを195Å以上に制御する方法としては、明らかではないが、
1)酸化アルミニウム水和物のa軸を成長させる酸性領域の合成条件。
2)水熱合成温度と反応時間のプロファイルが、ベーマイトの核生成、粒子の成長に必要なやや低温とベーマイトの結晶化に必要な高温条件の組み合わせからなる。
3)水熱合成時の攪拌が、酸化アルミニウム水和物の核生成時の核のもしくは酸化アルミニウム水和物粒子が成長する際の粒子の周囲の環境を均一にするための適度な状態である。
4)原料中にベーマイトの結晶化を阻害する不純物やアルミニウム以外の金属成分が少ない
5)結晶性を向上させるため熟成させる。
などが挙げられると考えている。
【0033】
[酸化アルミニウム水和物と有機酸の混合物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、有機酸を含むことが好ましい。その含有状態に特に制限はなく、熱可塑性樹脂組成物と有機酸を単に混合したもの、有機酸で表面処理された酸化アルミニウム水和物と熱可塑性樹脂との混合物が挙げられる。これらは1種のみからなる形態であってもよく、複数の形態の混合体であってもよい。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の有機酸の含有量は、特に制限されないが、多すぎると、酸化アルミニウム水和物粒子の表面処理の際に、酸化アルミニウム水和物粒子を凝集させながら粒子への被覆が進み、粒子表面が均一に被覆されないために樹脂組成物中でも粒子の凝集がほぐれず、熱可塑性樹脂組成物中に酸化アルミニウム水和物粒子の凝集塊ができ、熱可塑性樹脂組成物の透明性や熱線膨張率を悪化させる。また、粒子を被覆せずに存在する過剰の有機酸が残留することにより、過剰の有機酸が触媒となって熱可塑性樹脂の加水分解が進行して熱可塑性樹脂の分子量が低下し、機械的物性が悪化する。
【0035】
逆に有機酸の含有量が少なすぎると、酸化アルミニウム水和物の粒子が充分に表面被覆されずに、粒子本来のもつ、熱可塑性樹脂を加水分解する触媒作用を充分抑制することができずに、熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の分子量を低下させ、機械的物性(特に耐衝撃性)が悪化する。
これらのことから有機酸の添加量は通常酸化アルミニウム水和物に対し、0.1〜1000重量%、好ましくは1〜500重量%、より好ましくは10〜200重量%、さらに好ましくは10〜100重量%、特には10〜70重量%である。
【0036】
[酸化アルミニウム水和物の表面処理]
本発明でもちいる酸化アルミニウム水和物は、有機酸により表面処理されていてもよい。かかる有機酸は少なくとも一つ以上の酸性基とそれ以外の基からなる。
酸化アルミニウム水和物を有機酸で表面処理することにより、酸化アルミニウム水和物の表面が有機化され、熱可塑性樹脂中での酸化アルミニウム水和物粒子の分散性がより向上する。また、有機酸によって、酸化アルミニウム水和物粒子表面の酸・塩基サイトが封鎖されるので、酸化アルミニウム水和物の熱可塑性樹脂組成物の溶融時の熱可塑性樹脂の分解をより抑制することができる。
【0037】
[有機酸]
かかる有機酸としては、特に限定されるものではないが、酸化アルミニウム水和物に対する吸着能が高い有機スルホン酸、有機燐酸、有機燐酸エステル、カルボン酸が好ましく、その中でも有機スルホン酸、有機燐酸、有機燐酸エステルがより好ましく、有機スルホン酸が特に好ましい。
【0038】
好ましくは、炭素数6以上、より好ましくは炭素数8以上の有機酸を酸化アルミニウム水和物表面に作用させることによって、熱可塑性樹脂組成物のより一層良好な透明性と寸法安定性が得られ、熱可塑性樹脂の分子量低下抑制が可能となるため良好な機械的物性が得られる。同時に流動性が向上するので、熱可塑性樹脂組成物を造粒・成型する際に有利である。
【0039】
本発明で用いる有機酸は、一分子中に少なくとも一つ以上の有機酸基をもつ。有機酸の化学構造は特に限定されるものではないが、炭素数6以上の有機酸が、熱可塑性樹脂の加水分解性の抑制効果、樹脂組成物の機械的物性、酸性基に起因する樹脂組成物の腐食性質(例えば二軸押出機使用時の金属腐食性)の改善の観点からは好ましく、熱可塑性樹脂の加水分解性の抑制効果、樹脂組成物の機械的物性、酸性基に起因する樹脂組成物の腐食性質(例えば二軸押出機使用時の金属腐食性)の改善、溶融流動性の改善の観点からは炭素数8以上であることがより好ましく、10以上であることが特に好ましい。
【0040】
有機酸の炭素数の上限には特に制限はないが、樹脂組成物の線熱膨張係数を悪化させない観点から通常50以下、好ましくは30以下である。
また、樹脂組成物の線熱膨張係数の低下と弾性率向上の観点から、有機酸の化学構造中に剛直な有機基が含まれることが好ましい。かかる剛直な有機基として具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環等など芳香環構造が好ましく、そのなかでもベンゼン環とナフタレン環が特に好ましい。さらに、かかる各種芳香環構造は置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、溶融流動性の観点から機械的物性が低下しない範囲で嵩高い構造が好ましく、具体的には、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15程度のアルキル基、アルコキシ基、アリル基、アリール基などが挙げられる。
【0041】
<有機スルホン酸>
有機スルホン酸、及びその誘導体の具体例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ドデカンスルホン酸などのアルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ジメチルベンゼンスルホン酸、ビフェニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、などのベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、テトラデシルベンゼンスルホン酸、及び炭素数10〜14の長鎖アルキル基をもつアルキルベンゼンスルホン酸の混合物、などのアルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、アントラセンスルホン酸、フェナントレンスルホン酸などの多環芳香族スルホン酸、及びこれらの低級アルコールとのエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の誘導体、が挙げられる。これらのうちで、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸類、長鎖アルキル基が置換したベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸が、酸化アルミニウム水和物に対する吸着能と、得られた熱可塑性樹脂組成物中での酸化アルミニウム水和物の分散性、熱可塑性樹脂組成物の良好な溶融流動性、樹脂の熱分解性の抑制効果、樹脂組成物の機械的物性の観点から好ましく、その中でも炭素数4以上のアルキル基が置換したベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸が酸化アルミニウム水和物に対する吸着能と、得られた熱可塑性樹脂組成物の良好な流動性、樹脂の熱分解性の抑制効果、樹脂組成物の機械的物性の観点から好ましく、その中でもドデシルベンゼンスルホン酸とジノニルナフタレンスルホン酸がより好ましい。
【0042】
<有機燐酸類>
有機燐酸及びその誘導体の具体例としては、
トリブチルホスフェート、ジエチルホスフェート、メチルホスフェート、ブトキシエチルホスフェート、リン酸ビス(ブトキシエチル)エステル、リン酸ジブチルエステル、リン酸ジヘキシルエステルなどの燐酸モノ/ジ/トリアルキルエステル(例えば、城北化学工業(株)から市販のアシッドホスフェート類)、トリフェニルホスフェート、フェニルホスフェート、燐酸ジメチルフェニルエステル、燐酸ナフチルエステルなどの燐酸アリールエステル、ジメチルホスホネートなどのホスホン酸エステル、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイトなどの亜燐酸エステル、トリフェニルホスフィンオキシドなどのホスフィンオキシド、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(三光(株)から市販)などの環状亜燐酸エステル、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、フェニルホスホン酸、オクチルフェニルホスホン酸、ドデシルフェニルホスホン酸、ナフタレンホスホン酸、アントラセンホスホン酸、フェナントレンホスホン酸などのホスホン酸、メチルホスフィン酸、エチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸などのホスフィン酸、及びこれらの低級アルコールとのエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0043】
<カルボン酸>
カルボン酸及びその誘導体の具体例としては、酢酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸等のアルキルカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ドデシル安息香酸、メトキシ安息香酸、フェノキシ安息香酸ナフタレンカルボン酸、フタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸、ドデシル安息香酸等のアルキルベンゼンカルボン酸、アントラセンカルボン酸、フェナントレンカルボン酸、等の多環芳香族カルボン酸や、乳酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸、アジピン酸等のジカルボン酸及びこれらの低級アルコールとのエステル、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の誘導体、が挙げられる。
【0044】
これらのうちで、長鎖アルキル基が置換したベンゼンスルホン酸類、ナフタレンスルホン酸類、フェニルホスホン酸類及びリン酸アリールエステル類などが、酸化アルミニウム水和物粒子に対する吸着能と、得られた熱可塑性樹脂組成物中での酸化アルミニウム水和物粒子の分散性、熱可塑性樹脂組成物の良好な溶融流動性、樹脂の熱分解性の抑制効果、樹脂組成物の機械的物性の観点から好ましく、その中でもドデシルベンゼンスルホン酸とジノニルナフタレンスルホン酸がより好ましい。
【0045】
なお、本発明の目的を大きく損なわない範囲において、本発明においては有機酸を複数併用しても構わない。例えば炭素数6以上の有機酸を2種以上併用してもよいし、炭素数6以上の有機酸の1種または2種以上と炭素数5以下の有機酸の1種または2種以上とを併用してもよい。炭素数5以下の有機酸を用いる場合、炭素数6以上の有機酸を用いることによる上述の効果を十分得るために、炭素数5以下の有機酸の使用量は、全有機酸に対して70モル%以下、さらに50モル%以下、特に30モル%以下であることが好ましい。
【0046】
有機酸による酸化アルミニウム水和物の表面処理方法としては、例えば次のような方法を採用することができる。
(1)酸化アルミニウム水和物の水分散液と有機酸を接触させる方法
酸化アルミニウム水和物の水分散液に有機酸を接触させる方法としては、酸化アルミニウム水和物の水分散液に有機酸を滴下する、もしくは有機酸に酸化アルミニウム水和物の水分散液を滴下する方法がある。
【0047】
この際有機酸は予め、水または有機溶媒で希釈してもよい。有機溶媒としてはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール等の脂肪族アルコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等の脂肪族エーテル、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸エチル、酢酸メチル等のカルボン酸エステル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、アニソール、N−メチルピロリドン、等の水と相溶性のある溶媒が挙げられる。
【0048】
このうち、有機酸が溶解する水または有機溶媒を選択することが好ましい。さらに好ましくは、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、酢酸、プオピオン酸から選ばれる溶媒である。前記溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。特に好ましくは、水または、イソプロパノール、もしくは水とイソプロパノールとの混合液である。
【0049】
このときの有機酸の濃度は特に制限はないが、大きすぎると、酸化アルミニウム水和物粒子が凝集してしまい、薄すぎると酸化アルミニウム水和物粒子表面との反応が進みにくく、処理する液量が膨大になってしまい効率が悪いので、通常、有機酸の濃度として、0.1〜80重量%、好ましくは1〜50重量%の範囲が選ばれる。
また、酸化アルミニウム水和物の水分散液に有機酸を接触させる際、酸化アルミニウム水和物の水分散液に、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール等の脂肪族アルコール、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸等の有機カルボン酸、及びこれらの塩(酢酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム等)、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル等のカルボン酸エステルを予め添加しておいてもよい。
【0050】
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。
中でも、酸化アルミニウム水和物の水分散液に可溶な物質が好ましく、イソプロパノール、酢酸、プロピオン酸、酢酸ナトリウムがより好ましく、イソプロパノール、酢酸、酢酸ナトリウムが特に好ましい。
これらの添加量は、特に制限されないが、多すぎると、酸化アルミニウム水和物粒子と有機酸の反応が進まないことから、通常酸化アルミニウム水和物に対し、0.1〜1000重量%、好ましくは1〜500重量%、より好ましくは10〜200重量%である。
【0051】
酸化アルミニウム水和物の水分散液に有機酸を接触させる際、酸化アルミニウム水和物の水分散液と有機酸が接触する反応液は、酸化アルミニウム水和物の水分散液と有機酸が大きな凝集塊のまま保持されたり、反応器の壁や攪拌羽根等に付着したままとならないように、適度に混合・攪拌され、充分に酸化アルミニウム水和物粒子と有機酸が接触することが好ましい。
【0052】
(2)酸化アルミニウム水和物の有機溶媒分散液と有機酸を接触させる方法
酸化アルミニウム水和物の水分散液を限外ろ過、蒸留などの溶媒交換、水を凍結乾燥して除去した後に、有機溶媒を添加すること等により、酸化アルミニウム水和物の有機溶媒分散液を調製することができる。
この場合、酸化アルミニウム水和物の有機溶媒分散液と有機酸を接触させる方法としては、酸化アルミニウム水和物の有機溶媒分散液に有機酸を滴下する、もしくは有機酸に酸化アルミニウム水和物の有機分散液を滴下する方法がある。
【0053】
酸化アルミニウム水和物の有機溶媒分散液の調製に用いる有機溶媒としては、樹脂組成物にしていく過程で除去できるものであればよく、特に制限はないが、具体的には次のようなものがあげられる。
有機溶媒としてはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール等の脂肪族アルコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等の脂肪族エーテル、トルエン、キシレン、ヘプタン、オクタン等の芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等の塩素化炭化水素、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アニソール、シクロヘキノン、N−メチルピロリドン等が
挙げられる。
【0054】
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。水と有機溶媒の混合液であっても良い。
使用される有機酸は予め、水または有機溶媒で希釈してもよい。有機溶媒として、酸化アルミニウム水和物の有機溶媒分散液の調製で用いることのできる有機溶媒と同様のものが挙げられる。
【0055】
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。水と有機溶媒の混合液であっても良い。有機酸の溶解能がありかつ、酸化アルミニウム水和物の有機溶媒分散液の有機溶媒と均一に混合できる溶媒が好ましい。
このときの有機酸の濃度は特に制限はないが、大きすぎると、酸化アルミニウム水和物粒子が凝集してしまい、薄すぎると酸化アルミニウム水和物粒子表面との反応が進みにくく、処理する液量が膨大になってしまい効率が悪いので、通常、有機酸の濃度として、0.1〜80重量%、好ましくは1〜50重量%の範囲が選ばれる。
【0056】
また、酸化アルミニウム水和物の有機溶媒分散液に有機酸を接触させる際に、酸化アルミニウム水和物の有機溶媒分散液に水、アルコールまたは有機カルボン酸、もしくはエステルを予め添加しておいてもよい。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール等の脂肪族アルコール、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸等のカルボン酸、及びこれらの塩(酢酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム等)、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル等のカルボン酸エステルが挙げられる。
【0057】
これらのうち、酸化アルミニウム水和物の有機溶媒分散液に可溶な物質が好ましく、水、イソプロパノール、酢酸、プロピオン酸、酢酸ナトリウムがより好ましく、水、イソプロパノール、酢酸、酢酸ナトリウムがより好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。水と有機溶媒の混合液であっても良い。
【0058】
これらの添加量は、特に制限されないが、多すぎると、酸化アルミニウム水和物粒子と有機酸の反応が進まないことから、通常酸化アルミニウム水和物に対し、0.1〜1000重量%、好ましくは1〜500重量%、より好ましくは10〜200重量%である。
酸化アルミニウム水和物の有機溶媒分散液に有機酸を接触させる際、酸化アルミニウム水和物の有機溶媒分散液と有機酸が接触する反応液は、酸化アルミニウム水和物の水分散液と有機酸が大きな凝集塊のまま保持されたり、反応器の壁や攪拌羽根等に付着したままとならないように、適度に混合・攪拌され、充分に酸化アルミニウム水和物粒子と有機酸が接触することが好ましい。
【0059】
上記(1)(2)で用いる酸化アルミニウム水和物の、水分散液または有機溶媒分散液中の濃度は、特に限定されないが、酸化アルミニウム水和物粒子の表面をできるだけ均一に処理する観点からは、希薄濃度であることが好ましく、80重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましく、30重量%以下が特に好ましい。一方、処理効率の面からは、この濃度は通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。
【0060】
また、有機酸で処理された酸化アルミニウム水和物の水分散液または有機溶媒分散液は、限外ろ過、蒸留、凍結乾燥、スプレードライ、スラリードライ、ろ過、遠心脱水などの公知の方法で溶媒を交換したり、水または有機溶媒を除去したのちに別の分散媒に分散させることもできる。
(3)酸化アルミニウム水和物の粉体と有機酸を接触させる方法
酸化アルミニウム水和物の粉体に有機酸を直接作用させて処理する方法としては、例えば、酸化アルミニウム水和物の粉体に対して有機酸を滴下する、あるいは有機酸に酸化アルミニウム水和物の粉体を添加する方法がある。この際、この処理温度で液体を呈する有機酸を用いた場合には、無溶媒で処理することも可能である。
【0061】
これら有機酸はあらかじめ水あるいは各種有機溶剤で希釈してもよい。希釈する溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール等の脂肪族アルコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等の脂肪族エーテル、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸エチル、酢酸メチル等のカルボン酸エステル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、アニソール、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0062】
このうち、用いる有機酸に溶解する水または有機溶媒を選択することが好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。水と有機溶媒の混合液であっても良い。
このときの有機酸の濃度は特に制限はないが、濃すぎると、酸化アルミニウム水和物粒子が凝集してしまい、薄すぎると酸化アルミニウム水和物粒子表面との反応が進みにくく、処理する液量が膨大になってしまい効率が悪いので、通常、有機酸の濃度として、0.1〜80重量%、好ましくは1〜50重量%の範囲が選ばれる。
【0063】
また、酸化アルミニウム水和物の粉体に有機酸を接触させる際に、酸化アルミニウム水和物の粉体に水、アルコールまたは有機カルボン酸及びその塩、もしくはエステルを予め添加しておいてもよく、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール等の脂肪族アルコール、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸等のカルボン酸、及びこれらの塩(酢酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム等)等、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル等のエステルが挙げられる。これらのうち、水、イソプロパノール、酢酸、プロピオン酸、酢酸ナトリウムが好ましく、水、イソプロパノール、酢酸、酢酸ナトリウムがより好ましい。
【0064】
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。水と有機溶
媒の混合液であっても良い。
これらの添加量は、特に制限されないが、多すぎると、酸化アルミニウム水和物粒子と有機酸の反応が進まないことから、通常酸化アルミニウム水和物に対し、0.1〜1000重量%、好ましくは1〜500重量%、より好ましくは10〜200重量%である。
【0065】
酸化アルミニウム水和物の表面を有効に処理する観点から、酸化アルミニウム水和物の粉体と有機酸は攪拌下(例えばヘンシェルミキサーミキサー類もしくはメカニカルスターラーを備えた攪拌槽などの良好な攪拌下)で処理されることが好ましく、また、酸化アルミニウム水和物の粉体は、粒子同士が可能な限り凝集していない表面積の大きな状態(例えば、凍結乾燥やスプレードライ、スラリードライで得られた粉体)もしくは、必要に応じて処理の過程で含有された水や有機溶媒などを適度に残留させて凝集を防いだ湿った状態で用いることが好ましい。
【0066】
有機酸で処理した酸化アルミニウム水和物の粉体を所望の有機溶剤へと再分散させることで、分散剤で処理した酸化アルミニウム水和物の有機溶剤分散液(ゾル)とすることも
できる。
上記(1)〜(3)の有機酸と、酸化アルミニウム水和物を接触させる際の処理温度は特に限定されないが、通常5〜200℃であり、10〜100℃が好ましい。
【0067】
また、有機酸と、酸化アルミニウム水和物を接触させたのち、有機酸の酸化アルミニウム水和物に対する吸着をより均一に安定化させるために接触終了後の反応液を静置したり、攪拌状態を継続するなどの方法で熟成させてもよい。その際の温度及び時間は特に限定されないが、通常5〜200℃、が10分〜240時間、10〜100℃が10分〜40時間が好ましい。
【0068】
[有機酸の使用量]
上記(1)〜(3)の方法における有機酸による酸化アルミニウム水和物の表面処理において、酸化アルミニウム水和物に対する有機酸分散剤の使用量は通常0.01〜200重量%であり、熱可塑性樹脂組成物の良好な流動性、透明性、熱安定性と機械的物性の確保の観点からは、0.1〜100重量%がより好ましく、1〜70重量%が更に好ましく、1〜50重量%が特に好ましい。
【0069】
使用量が0.01重量%未満だと熱可塑性樹脂組成物の良好な流動性、酸化アルミニウム水和物の分散性(透明性、寸法安定性)、熱可塑性樹脂の熱安定性(加水分解抑制)に対し十分な効果が得られず、また200重量%以上を超えると、酸化アルミニウム水和物表面に作用していない過剰な有機酸の影響が大きくなり、ポリカーボネート樹脂組成物の機械的物性が低下し、過剰な有機酸による熱可塑性樹脂の分解や揮発成分の増大などの理由により滞留熱安定性も問題となる。場合によっては、樹脂組成物表面にシルバー(樹脂組成物に含有される水分が気化したものと熱可塑性樹脂が加水分解して生じる軽沸成分(ポリカーボネートの場合、加水分解により二酸化炭素が発生)、熱分解物等が、射出成型または射出プレスされた際に成型品表面に現れる線状の外観不良現象)が多く発生して外観不良となる。また、過剰の有機酸の金属腐食性により樹脂組成物の製造装置(例えば二軸押出機)からの金属成分の溶出が問題となる場合がある。
【0070】
特に有機酸の使用量は、酸化アルミニウム水和物100重量部に対する有機酸の割合が5重量部以上であることが好ましい。この有機酸の使用量は更に好ましくは7重量部以上である。酸化アルミニウム水和物に対する有機酸の使用量が少なすぎると、酸化アルミニウム水和物表面を均質かつ十分に覆うことができず、改質効果が不十分で酸化アルミニウム水和物の分散性、熱可塑性樹脂組成物の良好な流動性、透明性、熱可塑性樹脂の加水分解性抑制に対し十分な効果が得られない、という問題点がある。
【0071】
[熱可塑性樹脂]
本発明の熱可塑性樹脂としては、特に限定はなく具体的には、ポリエチレン(PE)・ポリプロピレン(PP)環状ポリオレフィン(COP)などのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)・ポリアクリル酸メチル(PMA)などのアクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)・ポリブチレンテレフタレート(PBT)・ポリエチレンナフタレート(PEN)・ポリブチレンナフタレート(PBN)・シクロヘキサンジカルボン酸とシクロヘキサンジメタノールとのポリエステル(PCC)・ビスフェノールAテレフタレート等のポリアリレート樹脂(PAR)・ポリ乳酸などのポリエステル樹脂、ビスフェノールAのポリカーボネート等の芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレンカーボネート等の脂肪族カーボネート樹脂、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン6,6などのポリアミド樹脂、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、ポリアセタール(POM)、メチルペンテン(TPX)、ポリフェニレンエーテル樹脂、などが挙げられる。
【0072】
このほか、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの樹脂でもよい。
本発明においては、複数種の異なる熱可塑性樹脂を混合して用いても良く、ポリマーアロイでもよい。
【0073】
本発明において特に熱可塑性樹脂の分子量の低下を抑制し、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性を保持する点で効果がみられる熱可塑性樹脂としては、前述のうち以下の加水分解性の構造をもつ樹脂が挙げられる。
加水分解性を持つ熱可塑性樹脂とは、エステル結合もしくはカーボネート結合等の縮重合型のポリマー構造を有する熱可塑性樹脂であり、具体的には、ビスフェノールAのポリカーボネート等の芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレンカーボネート等の脂肪族カーボネート樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)・ポリアクリル酸メチル(PMA)などのアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)・ポリブチレンテレフタレート(PBT)・ポリエチレンナフタレート(PEN)・ポリブチレンナフタレート(PBN)・シクロヘキサンジカルボン酸とシクロヘキサンジメタノールとのポリエステル(PCC)・ビスフェノールAテレフタレート等のポリアリレート樹脂(PAR)・ポリ乳酸などのポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン6,6などのポリアミド樹脂、が挙げられ、これらの樹脂の単独種であっても、2種類以上の樹脂の混合体であってもよい。
【0074】
[ポリカーボネート]
ポリカーボネート(PC)樹脂とは、3価以上の多価フェノール類を共重合成分として含有できる1種以上のビスフェノール類と、ビスアルキルカーボネート、ビスアリールカーボネート、ホスゲン等の炭酸エステル類との反応により製造される共重合体であり、必要に応じて芳香族ポリエステルカーボネート類とするために共重合成分としてテレフタル酸やイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸又はその誘導体(例えば芳香族ジカルボン酸ジエステルや芳香族ジカルボン酸塩化物)を使用して製造したものであってもよい。
【0075】
ビスフェノール類としては、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールM、ビスフェノールP、ビスフェノールS、ビスフェノールZ等が例示され、中でもビスフェノールAとビスフェノールZ(中心炭素がシクロヘキサン環に参加しているもの)が好ましく、ビスフェノールAが特に好ましい。
共重合可能な3価フェノール類としては、1,1,1−(4−ヒドロキシフェニル)エタンやフロログルシノールなどが例示できる。
【0076】
ポリカーボネート樹脂は、単独使用でも2種以上のポリマーブレンドとしての併用であってもよく、複数種の単量体の共重合体であってもよい。
ポリカーボネート樹脂の製造方法に特に制限は無く、例えば次の(a)〜(d)の方法など公知のいずれの方法も採用することができる。
(a)ビスフェノール類のアルカリ金属塩と求核攻撃に活性な炭酸エステル誘導体(例えばホスゲン)とを原料とし、生成ポリマーを溶解する有機溶剤(例えば塩化メチレンなど)とアルカリ水との界面にて重縮合反応させる界面重合法
(b)ビスフェノール類と前記求核攻撃に活性な炭酸エステル誘導体とを原料とし、ピリジン等の有機塩基中で重縮合反応させるピリジン法
(c)ビスフェノール類とビスアルキルカーボネートやビスアリールカーボネート等の炭酸エステル(好ましくはジフェニルカーボネート)とを原料とし、溶融重縮合させる溶融重合法
(d)ビスフェノール類と一酸化炭素や二酸化炭素を原料とする製造方法
このほか、例えば二酸化炭素とプロピレンオキシドの反応により、ポリプロピレンカーボネートを合成できることが知られており、このような製法で合成された脂肪族ポリカーボネートでも使用できる。
【0077】
[アクリル樹脂]
アクリル樹脂とは、アクリル酸エステルまたは、メタクリル酸エステルの重合体であり、通常ラジカル重合により合成される。
[ポリエステル樹脂]
ポリエステル樹脂とは多価カルボン酸とポリアルコールとの重縮合体である。例えば、テレフタル酸とエチレングリコールとの脱水縮合により作られる、エステル結合の連なる樹脂である。このエステル結合は、テレフタル酸ジメチルとのエステル交換反応によっても生成可能である。
【0078】
同様に、ポリブチレンテレフタレートは、1,4-ブタンジオールとテレフタル酸との
脱水縮合から製造され、ポリエチレンナフタレートはエチレングリコールと、2,6-ナ
フタレンジカルボン酸の脱水縮合から製造され、ポリブチレンナフタレート、は、1,4-ブタンジオールと2,6−ナフタレンジカルボン酸の脱水縮合から製造される。
ポリアリレートとは、2価フェノールとフタル酸・カルボン酸などの2塩基酸との重縮合を基本構成とする樹脂である。
ポリ乳酸は乳酸がエステル結合によって重合し、長くつながった高分子である。
【0079】
[ポリアミド樹脂]
ポリアミド樹脂とは、アミド結合によって多数のモノマーが結合してできたポリマーである。例えば、ナイロン6はカプロラクタムを開環重縮合したポリアミドである。そのほかラウロラクタムを開環重縮合したナイロン12、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との共縮重合で得られるナイロン6,6などがある。
【0080】
[ポリフェニレンエーテル樹脂]
ポリフェニレンエーテル樹脂とは、ベンゼン環残基が酸素原子を介して結ばれた重合体であり、加熱溶融できるものである。これらは、フェノール類またはその反応性誘導体を原料として、公知の方法(例えば酸化カップリング触媒を用いた酸素または酸素含有ガス(例:空気)による酸化カップリング重合)で製造される重合体である。最も一般的なポリフェニレンエーテル樹脂としては、ポリ(2,6−ジメチルー1,4−フェニレン)エーテル、またはこれを主構造とする共重合体が挙げられる。ポリフェニレンエーテル系樹脂は、単独でも複数種の併用であってもよい。
【0081】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、上記構造を少なくとも樹脂の一部に含めばよく、製法に制限はない。
熱可塑性樹脂の分子量に特に制限は無い。
ポリカーボネート樹脂の場合、通常40℃のクロロホルム溶媒によるGPC(ゲルパーミッションクロマトグラフィー)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが通常10,000〜500,000であることが好ましく、特に機械的物性と溶融流動性の観点から重量平均分子量Mwが好ましくは15,000〜200,000、より好ましくは20,000〜100,000である。
【0082】
ポリエステル樹脂の分子量は、フェノールとsym−テトラクロロエタンの重量比1:1の混合溶媒を使用し、濃度1g/dLとし30℃で測定した極限粘度[η]が0.2〜3.5dL/gの範囲のものである。極限粘度がこの範囲よりも小さい場合には、靭性が極端に低下し、逆にこの範囲よりも大きい場合には、溶融粘度が大きすぎて成型に支障をきたすため好ましくない。該極限粘度[η]は、好ましくは0.5〜3.0dL/g、更に好ましくは0.8〜2.5dL/gである。
【0083】
ポリエステル樹脂のうち、ポリアリレート樹脂の場合は、通常40℃のクロロホルム溶媒によるGPC(ゲルパーミッションクロマトグラフィー)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが8,000〜200,000、機械的物性と溶融流動性の点で好ましくは10,000〜100,000、更に好ましくは15,000〜80,000の範囲のものである。
【0084】
ポリアミド樹脂の場合、通常25℃の濃硫酸中で測定した相対粘度が0.5〜5.0の範囲のものが好ましく用いられ、靭性及び成型性の点から更に好ましいのは、0.8〜4.0の範囲である。
また、熱可塑性樹脂のガラス転移点Tgは、樹脂の種類や組成に依存するが、ポリカーボネート樹脂の場合、通常120〜220℃であり、耐熱性と溶融流動性の観点から好ましくは130〜200℃、より好ましくは140〜190℃である。
【0085】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、酸化アルミニウムの水和物の含有量は通常0.1〜70重量%であり、樹脂組成物の機械的強度や剛性(弾性率)、寸法安定性を高める効果の点でその下限は好ましくは3重量%、更に好ましくは5重量%、最も好ましくは10重量%であり、樹脂組成物の靭性(脆くなく粘り強い性質)と成型可能な流動性を確保する点でその上限は好ましくは67重量%、更に好ましくは60重量%、最も好ましくは50重量%である。
【0086】
なお、上述の熱可塑性樹脂組成物中の酸化アルミニウム水和物含有量とは、ここではアルミナ(Al)換算の数値とし、後述の実施例の項に示される灰分の測定により求められる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の上述の有機酸の含有量は、前述した理由から、熱可塑性樹脂組成物中の酸化アルミニウム水和物に対して、0.01〜200重量%特に、0.1〜100重量%であることが好ましい。
【0087】
また特に、酸化アルミニウム水和物1gに対する有機酸の量は、0.1〜2mmolであることが好ましく、0.5〜1.5mmmolであることがより好ましい。
尚、このときの酸化アルミニウム水和物の量は、前記と同様に、後述する熱分析でもとめられるアルミナ(Al)換算での値(灰分)としてあらわす。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中に有機酸は、通常0.01〜50重量%、このましくは0.1〜30重量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%である。
【0088】
本発明における樹脂組成物は、酸化アルミニウム水和物と熱可塑性樹脂組成物とを含むものであるが、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じてその他の添加剤を含有することができる。
例えば安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤を含有することができる。
また、各熱可塑性エラストマーなどの耐衝撃性改善剤を配合してもよい。
【0089】
耐衝撃性改善剤は、通常、透明樹脂マトリクス中で相分離して存在するので、光散乱による透明性低下を抑制するためには、耐衝撃性改善剤の屈折率を透明樹脂マトリクスの屈折率に極力近づけることが望ましい。更に、ホスファイト系などの熱安定剤(例えばMARK2112の商品名で常用されているトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなど)、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、離型剤、顔料、帯電防止剤などの添加剤を添加してもよい。例えば、成形時の熱安定性を向上させるため、イルガノックス1010、同1076(チバガイギー社製)等のヒンダードフェノール系、スミライザーGS、同GM(住友化学社製)に代表される部分アクリル化多価フェノール系、イルガフォス168(チバガイギー社製)やアデカスタブLA−31等のホスファイト系に代表される燐化合物などの安定剤、長鎖脂肪族アルコールや長鎖脂肪族エステル等の添加剤を添加することができる。
【0090】
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂の製造方法は、酸化アルミニウム水和物と、熱可塑性樹脂を溶融混合するもので、酸化アルミニウム水和物の結晶水量が1.50[mol/mol]以下、及び/又は、200面の結晶子サイズが195Å以上である酸化アルミニウム水和物であることが好ましい。
【0091】
酸化アルミニウム水和物の結晶水量は、1.50[mol/mol]以下であることが
好ましく、1.45以下がより好ましく1.40以下が特にこのましい。
酸化アルミニウム水和物の200面の結晶子サイズが195Å以上、好ましくは200Å以上より好ましくは210Å以上さらに好ましくは220Å以上であることが特に好ましい。
【0092】
熱可塑性樹脂組成物中の酸化アルミニウム水和物の結晶水量が1.50を超えたり、200面の結晶子サイズが195Å未満になる場合には、熱可塑性樹脂中での酸化アルミニウム水和物の分散性が不良になったり、熱可塑性樹脂組成物の溶融時に熱可塑性樹脂の加水分解が起こりやすくなって、熱可塑性樹脂組成物の透明性や寸法安定性が損なわれたり、熱可塑性樹脂の分子量の低下のために熱可塑性樹脂組成物の優れた機械的特性、特に耐衝撃性が低下する。
【0093】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、二軸混練機やニーダーで混練してもよく、溶融したのち、造粒してペレットとしたり、所望の形態の金型に流し込んで加圧成型または押し出し加圧成型することができる。
成型には、射出成型、射出圧縮成型、押出成型、プレス成型、真空プレス成型、二色成型、多色成型法など公知の成型方法を使用できる。
【0094】
これらの場合の熱可塑性樹脂組成物の溶融温度は、熱可塑性樹脂の種類に依存し、熱可塑性樹脂が溶融する温度であれば特に制限はないが、ポリカーボネート樹脂の場合、樹脂の分子量の低下や、着色を抑制するために、樹脂の温度として通常、150〜350℃であり、下限値は好ましくは180℃、より好ましくは200℃、上限値は好ましくは300℃、さらに好ましくは280℃、特に好ましくは270℃である。
【0095】
ポリカーボネート樹脂の場合、加熱溶融温度が150℃に満たない場合は、ポリカーボネートの成分が溶融せず、また、350℃を超えるとポリカーボネート樹脂の熱分解、加水分解、酸化劣化、着色が起きやすい。このような高温ではポリカーボネート樹脂組成物に含まれる有機酸が、酸化アルミニウム水和物表面から脱離することにより生成したフリーの有機酸と、有機酸が脱離したとの酸化アルミニウム水和物表面に触媒活性点が生じるためにその双方(フリーの有機酸と酸化アルミニウム水和物表面の触媒活性点)が、ポリカーボネートの熱の加水分解を触媒し、その結果ポリカーボネート分子量の低下が顕著となり、好ましくない。
【0096】
その他の種類の熱可塑性樹脂においても、該樹脂が溶融するに必要な加熱溶融温度であればよく、徒に350℃以上の高温状態に熱可塑性樹脂組成物を長時間さらすことは、熱分解、酸化劣化、(熱可塑性樹脂が加水分解性の構造を持つ場合は)加水分解の面からも好ましくない。
尚、加熱溶融の際に、水や熱可塑性樹脂の分解生成物(例えば、ポリカーボネート樹脂
の場合には加水分解によりビスフェノール類や二酸化炭素が生成する)などの揮発成分を除去して熱可塑性樹脂の平均分子量を保持したり、熱可塑性樹脂組成物中の気泡を除去するために、ベント式押し出し機の使用などにより減圧下に溶融混合してもよい。
【0097】
加熱溶融の際に熱可塑性樹脂組成物中に残存するアルカリ、ハロゲン、金属イオン、無機酸、酸化アルミニウム水和物表面から脱離した状態の有機酸、などの熱可塑性樹脂を加水分解させやすい不純物は、熱可塑性樹脂組成物を溶融する工程の前に低減することが好ましい。その量は3重量%以下が好ましく、1重量%以下がより好ましく、0.6重量%以下が特に好ましい。
【0098】
これらの不純物の低減は、酸化アルミニウム水和物と熱可塑性樹脂とを混合するまえに、酸化アルミニウム水和物粒子を水や各種有機溶媒による洗浄、蒸留、乾燥等による除去してもよく、酸化アルミニウム水和物と熱可塑性樹脂とを混合後、溶融する前に、同様の方法で除去してもよい。
本発明の樹脂組成物を製造する具体的な方法としては、次の(1)〜(3)の方法が挙げられる。
(1)酸化アルミニウム水和物分散液を用いる場合は所望の溶媒の分散液とし、酸化アルミニウム水和物粉体を用いる場合は、水や有機物を含んでいて良い形態で、熱可塑性樹脂とを加熱混合して溶融混練することにより、酸化アルミニウム水和物が均一に分散したポ熱可塑性樹脂組成物を得る直接混練法。
(2)酸化アルミニウム水和物分散液の形態もしくは、酸化アルミニウム水和物粉体を用いる場合は所望の分散媒の分散液の形態とし、熱可塑性樹脂のモノマーと混合して反応溶液を調製し、その後モノマーを重合させることにより、酸化アルミニウム水和物及び熱可塑性樹脂との混合物を得て、その後溶融混練することにより、酸化アルミニウム水和物が均一に分散した熱可塑性樹脂組成物を得る方法。
(3)酸化アルミニウム水和物分散液を用いる場合は所望の溶媒の分散液とし、酸化アルミニウム水和物粉体を用いる場合は所望の分散媒の分散液とするかもしくは粉体の状態で、その酸化アルミニウム水和物と、熱可塑性樹脂を含む有機溶媒とを混合攪拌し、溶媒の留去に必要な温度と圧力下にて溶媒のみを留去し、酸化アルミニウム水和物が均一に分散した混合物を得て、その後溶融混練することにより、酸化アルミニウム水和物が均一に分散した熱可塑性樹脂組成物を得る方法。
(1)の方法において、有機酸で表面処理する場合は、予め酸化アルミニウム水和物分散液や酸化アルミニウム水和物の粉体を調製する際に添加しておいてもよいし、酸化アルミニウム水和物と熱可塑性樹脂を溶融混練する際に添加してもよい。
【0099】
この直接混練法の場合、溶融混練に用いる混練機としては、一般的な二軸混練押出機、微量混練押出機、ラボプラストミル、ロール混練機等、製造スケールに応じて選択使用することができる。また、乾式の固体状態又はガラス転移点近傍の温度で強力な剪断を印加し、次いで溶融混練させる形式の混練工程も採用可能である。
(2)の方法において、この場合、有機酸で表面処理する場合は、予め酸化アルミニウム水和物の分散液を調製する際に添加しておいてもよいし、分散液と熱可塑性樹脂のモノマーを混合する際に添加してもよい。
【0100】
熱可塑性樹脂がポリカーボネートの場合、この方法において、モノマーの重合反応としては、ジヒドロキシ化合物とホスゲンの縮合反応であるホスゲン法、もしくは、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのエステル交換反応であるいわゆるエステル交換法などの方法を採用することができる。
(3)の方法において、この場合、有機酸で表面処理する場合は予め酸化アルミニウム水和物の分散液を調製する際に添加しておいてもよいし、分散液または粉体と熱可塑性樹脂を含む有機溶媒と混合する際に添加してもよい。
【0101】
この方法において、酸化アルミニウム水和物と有機酸、熱可塑性樹脂を含む有機溶媒を混合攪拌し、溶媒の留去に必要な温度と圧力下にて溶媒のみを留去する際、溶媒減量とともに、溶液の粘度が上昇するが、攪拌できなくなるまで攪拌を継続することが望ましく、これにより樹脂組成物中における表面処理酸化アルミニウム水和物を凝集させることなく、より均一に分散させることができる。ただし、溶媒の減量には、例えば薄膜蒸発機やニーダー、スプレードライヤー又はスラリードライヤーなどの攪拌機構のないかもしくは攪拌効果が微弱な装置を利用してもよい。
【0102】
上記(1)〜(3)において、予め酸化アルミニウム水和物分散液や酸化アルミニウム水和物の粉体を調製する際に有機酸を添加しておくほうが、酸化アルミニウム水和物に効果的に作用し、得られる熱可塑性樹脂組成物中の酸化アルミニウム水和物の分散性が更に向上し、透明性、流動性、熱安定性、寸法安定性などの観点で好ましい。
このように酸化アルミニウム水和物を処理しその後熱可塑性樹脂と混合する熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、上述の(1)の方法を適用することが、溶媒を使用しないため、熱可塑性樹脂組成物の生産効率の上から好ましい。また、熱可塑性樹脂組成物中の酸化アルミニウム水和物の分散性の観点からは、上記(3)の方法が好ましい。
【0103】
また、上記(1)〜(3)の方法において、酸化アルミニウム水和物粉体を経る工程においては、酸化アルミニウム水和物粒子同士が可能な限り凝集していない状態、たとえば、凍結乾燥、スプレードライ、スラリードライ、ろ過、遠心脱水により得られた粉体であることが、得られるポリカーボネート樹脂組成物における酸化アルミニウム水和物の分散性の観点からは好ましい。
【0104】
前記酸化アルミニウム水和物粉体は水、有機物のうち少なくとも一種類の物質を含有していてもよい。
含有される水または有機物の範囲は制限されないが、通常酸化アルミニウム水和物に対して0.1〜50重量倍であり、1〜20重量倍が次の工程での脱水効率の面と酸化アルミニウム水和物の凝集を防ぐ観点とからは好ましい。
【0105】
尚、酸化アルミニウム水和物を酸化アルミニウム水和物分散液として熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂溶液と混合する場合、酸化アルミニウム水和物の分散液を調製するための分散媒としては、前述の酸化アルミニウム水和物の表面処理の項で酸化アルミニウム水和物分散液の調製に用いる媒体として例示した水及び/又は有機溶媒を用いることができるが、熱可塑性樹脂を含む有機溶媒との均一な混合のために、特に有機溶媒を用いることが好ましい。酸化アルミニウム水和物分散液の酸化アルミニウム水和物濃度としては、前述の酸化アルミニウム水和物の表面処理の場合と同様に0.1〜80重量%、特に1〜50重量%とすることが好ましい。
【0106】
一方、熱可塑性樹脂を熱可塑性樹脂溶液として、酸化アルミニウム水和物粉体または酸化アルミニウム水和物分散液と混合する場合、熱可塑性樹脂溶液の調製にもちいる有機溶媒としては、熱可塑性樹脂を均一に溶解でき、熱可塑性樹脂を分解する性質がないこと、樹脂組成物の着色原因となる副反応生成物を与える等の悪影響を及ぼさないものであればよく、特に制限はないが、例えばテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル、エチレングリコールのエーテルなどのエーテル系溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒、メチルエチルケトン、アセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、1,3−ジオキソランなどのアセタール系溶媒、N、N−ジメチルホルムアミドやN−メチルピロリドンなどを例示することができる。これらの有機溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。このうち、特に好ましい溶媒は、テトラヒドロフラン、クロロホルム、シクロヘキサノン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランである。
【0107】
また、熱可塑性樹脂溶液中の熱可塑性樹脂濃度は、過度に高いと粘度が高くなり製造上ハンドリングが困難となり、また過度に低いと続く溶剤除去工程の負荷が大きくなることから、1〜20重量%、特に5〜15重量%であることが好ましい。
酸化アルミニウム水和物の熱可塑性樹脂中での分散性を向上させる上で、酸化アルミニウム水和物の分散媒と、熱可塑性樹脂溶液の溶媒が、相溶性があることが好ましく、均一に混合可能であることがより好ましい。
【0108】
<熱可塑性樹脂の分子量>
本発明の熱可塑性樹脂組成物では、酸化アルミニウム水和物の結晶性が高いので、酸化アルミニウム水和物の格子欠陥や結晶の乱れが少なく、配位不飽和サイトが少ないので、熱可塑性樹脂が加水分解性の構造をもつ場合、酸化アルミニウム水和物表面に熱可塑性樹脂を加水分解する触媒の活性点が少なく、分子量を低下させにくい。
【0109】
さらに、有機酸で酸化アルミニウム水和物を表面処理した場合は、有機酸が酸化アルミニウム水和物表面に吸着することにより、酸化アルミニウム水和物表面の酸・塩基サイトを封止すると共に、有機酸自身も酸化アルミニウム水和物表面に吸着するので、有機酸、酸化アルミニウム水和物の双方とも、熱可塑性樹脂を加水分解する触媒としては働きにくくなる。その結果、熱可塑性樹脂の分子量低下を抑制でき、重量平均分子量として3.6万以上の分子量を保持することができる。好ましくは、4万以上である。
【0110】
<線熱膨張係数>
本発明の熱可塑性樹脂組成物の線熱膨張係数は、低ければ低いほど好ましいが、通常その下限は10ppm/Kである。好ましくは、60ppm/K以下、より好ましくは、55ppm/K以下である。
<ヘイズ値>
本発明の熱可塑性樹脂組成物のヘイズ値は、0.9mm厚のサンプルにおいて20以下であることが好ましい。このヘイズ値は15以下がより好ましく、8以下が更に好ましく、5以下が特に好ましい。
【0111】
[熱可塑性樹脂組成物の用途]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性・寸法安定性・樹脂の機械的特性を向上させることができる。熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート、アクリル、ポリスチレン樹脂を用いた樹脂組成物は特に高透明性の樹脂組成物を得ることができる。
とりわけポリカーボネート樹脂組成物は、機械的強度・寸法安定性・熱安定性・透明性・成型性等において、優れた特性を併せ持つことから、例えば自動車内装材として計器盤の透明カバーなどに、自動車外装材として窓ガラス(ウィンドウ)やヘッドランプ、サンルーフ及びコンビネーションランプカバー類などに、更には家電や住宅に用いられる透明部材・備品・家具などの分野において、ガラス代替材料として有効に用いることができる。
【実施例】
【0112】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。
なお、以下において、各種分析測定方法の詳細は次の通りである。
(1)酸化アルミニウム水和物の結晶水量の測定方法
酸化アルミニウム水和物の結晶水量は以下の方法で測定した。
【0113】
酸化アルミニウム水和物の水ゾル(固形分として約0.5g)を採取し、水ゾル中の軽沸成分(水や酢酸)を、エバポレーターで除去したのちに、乾燥空気(露点−30℃〜−70℃°)送風下110℃で18時間熱風オーブン中で前乾燥した。吸湿を防ぐため露点−60℃°の窒素雰囲気のグローブボックス内へで、測定試料を10mg秤量し、以下のプログラムでTG−DTAを窒素下で測定し、TG−DTAにおけるサンプル温度で、110℃から1000℃までの減量を水(HO)とし、残留した成分の重量をAlとして、HO/Alのモル比から求めた。
TG−DTA測定条件
試料セル:Ptパン
N2流通(露点−60℃°) 200ml/分
30℃(30分保持)−(10℃/分で昇温)−110℃(15分保持)→1000℃(15分保持)
(2)酸化アルミニウム水和物の同定及び200面の結晶子サイズのX線回折による分析
酸化アルミニウム水和物粒子の水分散ゾル(5重量%)を凍結乾燥した試料を乳鉢の自重により軽く1分粉砕したのち、測定用ホルダー(SUS製)にガラス板を敷き、その上に圧粉したものを観察用試料としてX線回折装置にて測定をおこなった。
【0114】
[測定装置仕様]
装置名:オランダPANalytical社製 X’Pert Pro MPD
光学系:集中法光学系
(光学系仕様)
入射側:封入式X線管球(CuKα)
Soller Slit (0.04rad)
Divergence Slit (Variable Slit)
試料台:回転試料台(Spinner)
受光側:半導体アレイ検出器(X’Celerator)
Ni-filter
Soller Slit(0.04rad)
ゴニオ半径:243mm
[測定条件]
X線出力(CuKα(波長 1.5418Å)):40kV,30mA
走査軸:θ/2θ
走査範囲(2θ):5.0―70.0°
測定モード:Continuous
読込巾:0.017°
計測時間:29.8sec
自動可変スリット(Automatic-DS):10mm(照射幅)
横発散マスク:10mm(照射幅)
可変スリットモードによる測定で得られた生データについて、固定スリットモードへのデータ補正変換を実施して酸化アルミニウム水和物粒子の同定及び200面の結晶子サイズの解析に用いた。
【0115】
[酸化アルミニウム水和物粒子の同定]
観測された回折パターンは、PDF(Powder Diffraction File)との比較により同定した。
[200面結晶子サイズの解析]
酸化アルミニウム水和物の200面の結晶子サイズは、下記のソフトフェアを用い、プロファイルフィッティング法によって計算式に基づき解析を行った。
【0116】
解析に使用したソフトウェア:Materials data社(MDI) JADE(
Ver.7)
解析方法:結晶子サイズ(D)はScherrer式(式1)に基づき計算を行った。
【0117】
【数1】

【0118】
K:Scherrer定数(0.9)
λ:X線波長
β:試料由来半価幅(装置由来半価幅βi(式2)を用いて補正)
θ:ブラッグ角(プロファイルフィッティング法(Pearson−VII関数)よ
り算出)
【0119】
【数2】

【0120】
βo:プロファイルフィッティング法(Pearson−VII関数)より算出した
半価幅
βi:装置由来半価幅
200面の結晶子サイズは、200面およびその低角側に存在する132面の2本のピークについてプロファイルフィッティングをおこない、200面の半価幅から結晶子サイズを求めた。
【0121】
尚、プロファイルフィッティングの際、バックグランドは次のように引いて実施した。2θ=58.0°、62.4°±0.1°、65.9°±0.1°、69.5°±0.1°、70.0°における回折強度位置を選んで結合点とする。
そして、各結合点を通る三次式近似曲線を引き、これをバックグランドとする。
(3)水ゾル中のベーマイト濃度の測定
得られた酸化アルミニウム水和物水ゾルを前記「(1)酸化アルミニウム水和物の結晶水量の測定方法」と同じ方法で試料を調製してTG−DTA測定を行い、1000℃保持後に残留したアルミナ(Al 式量102)成分の重量をベーマイト(AlOOH
式量60)へ下記の式により換算して
(ベーマイト重量)=(アルミナ重量)*120/102
採取した水ゾル中に含有されるベーマイト重量を算出した。
【0122】
(4)コンポジットの灰分
酸化アルミニウム水和物のポリカーボネート樹脂組成物をセイコーインスツルメンツ製「TG−DTA320」により、白金パンを使用し、空気中、室温(約23℃)から600℃に10℃/分で昇温し、30分保持した重量減から、残留成分のもとの樹脂組成物に対する重量%として算出した。
【0123】
(5)重量平均分子量
樹脂組成物の0.05重量%クロロホルム溶液を調製し、不溶分を0.2μmのフィル
ターで濾過し、可溶分のみをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて分析した。
装置:東ソー社製HLC−8220GPC
カラム:東ソー社製TSKgel SuperMultipore HZ−M
カラムサイズ 内径4.6mm×長さ15cm×3本
カラム温度:40℃
検出器:東ソー社製UV−8220(254nm)
移動相:CHCl(和光純薬製、試薬一級アミレン添加品)
較正法:ポリスチレン換算
注入量:0.05重量%(樹脂組成物として)×10μL
なお、重量平均分子量(Mw)計算は、分子量400のポリスチレンの溶出位置を含むピークの低分子量側極小点で垂直分割したピークの高分子量成分のみを対象にして行った。
【0124】
(6)線熱膨張係数
樹脂組成物を溶融混練した後、底面の直径5mm、長さ10mmの円柱状の試料を成型し、ディラトメーター(ブルカーエイエックスエス(旧マックサイエンス)社製「TD5000」を使用し、窒素雰囲気下で、荷重は20gで、昇温速度5℃/分で測定した30℃〜60℃の範囲の長さ方向の寸法変化から決定した。試料は計測前に、100℃まで昇温速度5℃/分で昇温し、室温まで降温させた後に測定した。標準試料は石英を用い、GaとInの融解温度(軟化温度)に基づき温度補正を行った。
【0125】
(7)ヘーズ(曇価)
樹脂組成物を溶融混練した後、加熱プレス成型をして厚さ0.9mmの試験片フィルムを作成し、このフィルムについて、JIS K7105の方法により、へイズメーター((株)スガ試験機株式会社性「ヘーズコンピューターHZ−2」により測定した。
[実施例1]
(酸化アルミニウム水和物の合成)
200mlのテフロン(登録商標)内筒に、常温、常圧で脱塩水74gに関東化学製特級酢酸6gを添加して、メカニカルスターラーを用いてよく攪拌した。住友化学社製水硬性アルミナBK-112 20gを前記酢酸水溶液に添加して400rpmで2時間攪拌し
た。テフロン(登録商標)中蓋をとりつけたのち、ミクロオートクレーブ中に密封し、(株)ヒロ製水熱合成反応装置KH-03Sの回転軸にとりつけ、回転軸の回転速度が15rpmとなるように回転させることにより、ミクロオートクレーブの内容物を攪拌させた。
【0126】
前記水熱合成反応装置の空気浴の温度を135℃まで1時間で昇温したのち、135℃
で16時間、その後さらに150℃で24時間とすることにより水熱処理を行い、酸化アルミニウム水和物を得た。この際、150℃に昇温したのちに、水熱合成反応装置の回転軸を停止させることによりミクロオートクレーブ内容物の攪拌をやめて静置した。
室温まで降温後、生成した半透明の酸化アルミニウム水和物を脱塩水で希釈して、固形物をほぐしたのちに、原料の水硬性アルミナ基準で5重量%になるように脱塩水の量を調
整し、200rpmで1時間、400rpmで3時間攪拌して水ゾルとした。水ゾルは静置して沈降成分を除去して精製し、酸化アルミニウム水和物の水ゾルとした。
この水ゾルを凍結乾燥にて乾燥したのちに、X線回折の試料とした結果、ベーマイトと
同定された。この水ゾル中の灰分を測定した結果、アルミナ基準で4.7重量%であり、ベーマイト基準で換算すると5.5重量%であった。
【0127】
(ベーマイトの表面処理)
5.5重量%ベーマイトの水ゾル162.5gを500mlの四つ口フラスコに採取しメカニカルスターラーを用いて回転速度300rpmで攪拌しながら、ALDRICH社
製ドデシルベンゼンスルホン酸70重量% inイソプロパノール溶液2.9g(ドデシルベンゼンスルホン酸の含有量2.0g)を脱塩水26.4gに溶解した溶液を滴下したのち、オイルバス温度80℃で3時間加熱した。15時間静置したのち、上澄み液を79.5gぬきだし除去して、取り出した含水ケーキを凍結乾燥機(東京理化器械株式会社製 「DRC−1000/FDU2100」内に静置し、予め−40℃で3時間凍結させ、続いて槽内を真空状態とし、(10Pa以下)、―40℃で72時間乾燥後、30℃で2時間乾燥し、水を凍結乾燥により除去した。
このようにして、ベーマイトに対して23%ドデシルベンゼンスルホン酸を含有するベーマイトを調製した。
【0128】
(表面処理ベーマイトとポリカーボネートとの複合化)
このスルホン酸表面処理ベーマイト10gと、THF(テトラヒドロフラン(純正化学特級))153gを混合し、2時間室温で攪拌してスルホン酸処理ベーマイトのTHFゾルとした。ポリカーボネート(三菱化学エンジニアリングプラスチック(株)製ノバレックス(登録商標)7030A、重量平均分子量6.5×10、数平均分子量1.3×10)。の9.1重量%ジクロロメタン溶液434gと均一に混合したのち、溶媒を留去させ、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量17重量%、ドデシルベンゼンスルホン酸含有量5重量%)を得た。
この樹脂組成物を120℃、0.8KPaの真空条件で一晩乾燥したのち、東洋精機製作所製ラボプラストミルで260℃設定、100rpm、ベント引きをしながら(大気圧〜最高減圧度5KPa)で5分間で溶融混練し、取り出した。
【0129】
[実施例2]
実施例1において、水熱合成の条件を150℃で24時間とし、攪拌は継続して水熱処理を行った以外は、同様に酸化アルミニウム水和物を合成し、水ゾルとした。X線回折の
結果、ベーマイトと同定された。水ゾル中のベーマイト濃度は5.6重量%であった。
実施例1と同様に、ドデシルベンゼンスルホン酸にてベーマイトの表面処理を行い、ポリカーボネートとの複合化を実施した。
【0130】
[実施例3]
実施例1において、水熱合成の条件を135℃で16時間の後150℃で24時間とした以外は、同様に酸化アルミニウム水和物を合成し、水ゾルとした。X線回折の結果、ベ
ーマイトと同定された。水ゾル中のベーマイト濃度は5.5重量%であった。
実施例1と同様に、ドデシルベンゼンスルホン酸にてベーマイトの表面処理を行い、ポリカーボネートとの複合化を実施した。
【0131】
[実施例4]
実施例3において水熱合成中の攪拌を継続した以外は同様の方法で酸化アルミニウム水和物を合成し、水ゾルとした。X線回折の結果、ベーマイトと同定された。水ゾル中のベ
ーマイト濃度は5.5重量%であった。
実施例1と同様に、ドデシルベンゼンスルホン酸にてベーマイトの表面処理を行い、ポリカーボネートとの複合化を実施した。
【0132】
[実施例5]
実施例3において水熱合成の温度を135℃で40時間の後150℃で7時間とした以外は同様の方法で酸化アルミニウム水和物を合成し、水ゾルとした。X線回折の結果、ベ
ーマイトと同定された。水ゾル中のベーマイト濃度は5.6重量%であった。
実施例1と同様に、ドデシルベンゼンスルホン酸にてベーマイトの表面処理を行い、ポリカーボネートとの複合化を実施した。
【0133】
[実施例6]
実施例2において水熱合成の条件を150℃で16時間とした以外は同様の方法で酸化アルミニウム水和物を合成し、水ゾルとした。X線回折の結果、ベーマイトと同定された。水ゾル中のベーマイト濃度は5.6重量%であった。
実施例1と同様に、ドデシルベンゼンスルホン酸にてベーマイトの表面処理を行い、ポリカーボネートとの複合化を実施した。
【0134】
[比較例1]
実施例2において水熱合成の条件を135℃で40.5時間とし、はじめの16時間は攪拌し、その後の24.5時間は静置した以外は同様の方法で酸化アルミニウム水和物を合成し、水ゾルとした。X線回折の結果、ベーマイトと同定された。水ゾル中のベーマイ
ト濃度は5.5重量%であった。
実施例1と同様に、ドデシルベンゼンスルホン酸にてベーマイトの表面処理を行い、ポリカーボネートとの複合化を実施した。
【0135】
[比較例2]
実施例2において酢酸の量を7g、脱塩水の量を73gに変更し、水熱合成の条件を115℃まで0.5時間で昇温させたのち、115℃で24時間、150℃で1時間、135℃で24時間とした以外は同様の方法で酸化アルミニウム水和物を合成し、水ゾルとした。X線回折の結果、ベーマイトと同定された。水ゾル中のベーマイト濃度は5.2重量%であった。
【0136】
実施例1と同様に、ドデシルベンゼンスルホン酸にてベーマイトの表面処理を行い、ポリカーボネートとの複合化を実施した。
尚、水熱合成の条件で、実施例2−6、比較例1では、各水熱合成条件の初期設定温度
に空気浴を設定したところに、前述の200ml内容積のテフロン(登録商標)内筒を備えたミクロオートクレーブをセットして水熱合成を開始した。実施例1、比較例2は記載した昇温条件に従って、初期設定温度まで昇温させ、水熱合成を開始した。
【0137】
また、実施例1、3、4、5において水熱合成の設定温度を変更した際は昇温に0.5時間かけた。
上記した全実施例、比較例について、合成したベーマイトは針状の形態をしていた。
合成したベーマイトのTEM観察の目視での代表的な粒子サイズ、酸化アルミニウム水和
物の結晶水量、X線回折による200面の結晶子サイズ、ポリカーボネート樹脂組成物の
アルミナ灰分、線熱膨張係数、ヘーズ(曇価)、及びポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)の結果を表にまとめて記す。
【0138】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、酸化アルミニウム水和物を熱可塑性樹脂中に良好な分散状態で均一に配合し、かつ、熱可塑性樹脂の分子量を特定の水準以上に保持することができる。特にポリカーボネート樹脂組成物においては、透明性・寸法安定性と優れた機械的特性を兼ね備えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶水量が1.50[mol/mol]以下、及び/又は、200面の結晶子サイズが195Å以上である酸化アルミニウム水和物と熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
有機酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
結晶水量が1.50以下及び/又は、200面の結晶子サイズが195Å以上である酸化アルミニウム水和物と熱可塑性樹脂を混合することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−46810(P2011−46810A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195764(P2009−195764)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】