説明

熱可塑性重合体粉末

(i)アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)の1個以上と、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)及び前記ブロック(A)と構造の異なるアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)から選ばれる重合体ブロックの1個以上とが結合したアクリル系ブロック共重合体から主としてなり;(ii)250℃、振動周波数5ラジアン/秒の条件下に測定した複素動的粘度η(5)が5.0×10Pa・s以下で;(iii)数式;n=logη(5)−logη(50)[式中、η(5)及びη(50)は、250℃で、それぞれ振動周波数5ラジアン/秒及び50ラジアン/秒の条件下に測定した複素動的粘度(単位Pa・s)を示す]で表されるニュートン粘性指数nが0.50以下で、且つ(iv)平均粒径が1mm以下である、熱可塑性重合体粉末である。本発明の熱可塑性重合体粉末は、スラッシュ成形等の粉末を用いる成形技術や粉体塗装に好適に使用でき、耐候性、柔軟性、力学的強度、低温特性、極性樹脂との接着性、ゴム弾性、安全性等に優れる成形体、表皮材等を円滑に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、熱可塑性重合体粉末、それを用いてなる成形体および成形体の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、粉末を用いて行われる成形技術や塗装技術、例えば、スラッシュ成形、回転成形、粉末溶射、押出成形、カレンダー成形、圧縮成形、粉体塗装などに好適に用いることのできる熱可塑性重合体粉末、それを用いてなる成形体および該成形体の製造方法に関する。本発明の熱可塑性重合体粉末を用いて前記した成形や塗装を行うことによって、ハロゲンなどによる環境汚染の心配が少なく、安全性に優れ、しかも耐候性、柔軟性、力学的強度、低温特性、極性樹脂との接着性、ゴム弾性などの特性に優れる成形体、表皮材、塗膜、それらの表皮材や塗膜を有する複合製品などを円滑に製造することができる。
【背景技術】
軟質のポリ塩化ビニル樹脂組成物を用いて製造した表皮材は、安価で、柔軟性、耐傷つき性に優れていることから、インストルメントパネル、ドアトリム、コンソールボックス、座席シートなどの自動車内装材、ソファーや椅子といった家具などの分野で従来から広く利用されてきた。これらの表皮材の製造に当たっては、粉末状のポリ塩化ビニル樹脂組成物を複雑な形状を有する金型表面に付着させて加熱成形するスラッシュ成形が従来汎用されてきた。また、軟質のポリ塩化ビニル樹脂粉末は、安価で、柔軟性に優れ、複雑な形状に賦形できることから、回転成形による玩具などの製造においても広く用いられてきた。
しかしながら、ポリ塩化ビニル樹脂は、焼却時にダイオキシンなどの有害物質を発生し、またそこで用いられている可塑剤が内分泌撹乱物質や発癌物質などとして作用する疑いがあり、環境汚染や安全性の点で問題がある。また、可塑剤に由来するブリードアウトやフォギングなどの問題もある。
上記の点から、近年、ポリ塩化ビニル樹脂の代りに、ハロゲンや可塑剤を含まない熱可塑性エラストマーを使用してスラッシュ成形を行うことが検討されている。
粉末を用いて行う成形方法や塗装方法の中でも、スラッシュ成形や回転成形は、賦形圧力をかけずに成形を行うため、成形時に金型に付着した粉末材料が溶融して無加圧下で流動して皮膜を形成する必要があり、かかる点からスラッシュ成形や回転成形に用いられる熱可塑性エラストマー粉末は、低剪断下において溶融粘度が低いことが条件になっている。
低剪断下で溶融粘度が低く、賦形圧力のかからない条件下でも流動性を有していて、スラッシュ成形などが可能な熱可塑性エラストマー粉末としては、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとポリオレフィン系樹脂とのエラストマー組成物からなるスラッシュ成形用の熱可塑性エラストマー粉末が知られている(特開平5−5050号公報参照)。しかしながら、前記特開平5−5050号公報に記載されているスラッシュ成形用の熱可塑性エラストマー粉末は、非極性樹脂であるために、ポリウレタン樹脂やABS樹脂などの極性樹脂との接着性が低く、極性樹脂との複合体などを製造することが困難である。また、この熱可塑性エラストマー粉末から得られる成形体は柔軟性の点で十分に満足のゆくものではない。
一方、極性樹脂への接着性を示すスラッシュ成形用材料として、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、可塑剤、ブロックポリイソシアネートおよび顔料からなるスラッシュ成形用材料が提案されている(特開平11−49948号公報参照)。しかしながら、このスラッシュ成形用材料は、低温特性、溶融流動性、柔軟性などを保持するために用いられている可塑剤が、軟質のポリ塩化ビニル樹脂粉末の場合と同様に、ブリードアウト、フォギングなどの問題がある。また、このスラッシュ成形用材料はポリウレタンエラストマーをベースとしているため、耐候性が低い。
本発明の目的は、溶融流動性が良好で、スラッシュ成形や回転成形などのような粉末を用いる成形技術や、粉体塗装技術などにおいて好適に使用することができ、ハロゲンおよび可塑剤を含まず、環境汚染を生じず、発癌性などの心配がなく安全性に優れ、しかも耐候性、柔軟性、ゴム弾性、低温特性、極性樹脂との接着性、風合、外観などに優れる高品質の成形体、表皮材、塗膜などを形成することのできる熱可塑性重合体粉末を提供することである。
更に、本発明の目的は、前記の熱可塑性重合体粉末よりなる成形体およびその製造方法を提供することである。
【発明の開示】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、特定のブロック構造を有するアクリル系ブロック共重合体から主としてなり且つ特定の動的粘度特性を有する熱可塑性重合体粉末が、溶融流動性が良好で、スラッシュ成形や回転成形などのような粉末を用いる種々の成形技術や、粉体塗装技術に好適に使用できることを見出した。そして、その熱可塑性重合体粉末を用いて得られる成形体、表皮材、塗膜などが、ハロゲンおよび可塑剤を含まないために環境汚染の心配がなく、安全性にも優れていること、さらに耐候性、柔軟性、ゴム弾性、低温特性、極性樹脂との接着性、風合、外観などにも優れていることを見出した。
スラッシュ成形や回転成形などのような粉末を用いる成形技術や粉体塗装に好適に用いることができ、それらの成形技術や塗装技術によって柔軟性、ゴム弾性、耐候性、低温特性、風合などに優れる成形体や表皮材、塗膜などを与えるアクリル系重合体粉末は、従来知られておらず、本発明者らが初めて見出したものである。
すなわち、本発明は、
(1)(i) アクリル酸エステル由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(A)[以下「アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)」という]の少なくとも1個;および、
メタクリル酸エステル由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(B)[以下「メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)」という]、およびアクリル酸エステル系重合体ブロック(A)とは異なるアクリル酸エステル由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(C)[以下「アクリル酸エステル系重合体ブロック(C)」という]から選ばれる重合体ブロックの少なくとも1個;
が結合したアクリル系ブロック共重合体(I)から主としてなり;
(ii) 温度250℃、振動周波数5ラジアン/秒の条件下に測定した複素動的粘度η(5)が5.0×10Pa・s以下であり;
(iii) 下記の数式(1);

[式中、nはニュートン粘性指数、η(5)は温度250℃、振動周波数5ラジアン/秒の条件下に測定した複素動的粘度(単位Pa・s)、η(50)は温度250℃、振動周波数50ラジアン/秒の条件下に測定した複素動的粘度(単位Pa・s)を示す。]
で表されるニュートン粘性指数nが0.50以下であり;且つ
(iv)平均粒径が1mm以下である;
ことを特徴とする熱可塑性重合体粉末である。
そして、本発明は、
(2) 回転粘度計によって測定された、温度250℃、ずり速度0.2sec−1における溶融粘度が3000Pa・s以下である前記(1)の熱可塑性重合体粉末;
(3) 水中カット法または衝撃粉砕法により得られたものである前記(1)または(2)の熱可塑性重合体粉末;
(4) アクリル系ブロック共重合体(I)の重量平均分子量が5,000〜200,000である請求の前記(1)〜(3)のいずれかの熱可塑性重合体粉末;
(5) アクリル系ブロック共重合体(I)を構成するアクリル酸エステル系重合体ブロック(A)の重量平均分子量が1,000〜150,000であり、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)およびアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)の重量平均分子量が2,000〜50,000である前記(1)〜(4)のいずれかの熱可塑性重合体粉末;
(6) アクリル系ブロック共重合体(I)が、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)−アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)−メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)からなるトリブロック共重合体である前記(1)〜(5)のいずれかの熱可塑性重合体粉末;
(7) アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)を構成する原料の単量体の溶解度パラメーターσ(A)(単位:MPa1/2)と、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)またはアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)を構成する原料の単量体の溶解度パラメーターσ(B)またはσ(C)との差が2.5以下である前記(1)〜(6)のいずれかの熱可塑性重合体粉末;および、
(8) スラッシュ成形用または回転成形用である前記(1)〜(7)のいずれかの熱可塑性重合体粉末;
である。
さらに、本発明は、
(9) 前記(1)〜(8)のいずれかの熱可塑性重合体粉末を用いてスラッシュ成形または回転成形を行って成形体を製造する方法;
(10) 前記(1)〜(8)のいずれかの熱可塑性重合体粉末を用いて製造した成形体;
(11) JIS−A硬度が40〜95の範囲の玩具部材である、前記(10)の成形体;および、
(12) JIS−A硬度が95以上の照明カバーである、前記(10)の成形体;
である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の熱可塑性重合体粉末は、アクリル系ブロック共重合体(I)から主としてなり[上記(i)の要件]、上記の(ii)および(iii)に規定する動的粘度特性を満足し、且つ平均粒径が1mm以下[上記(iv)の要件]である熱可塑性の粉末である。本発明の熱可塑性重合体粉末は、前記(i)〜(iv)の要件を満足する限りは、アクリル系ブロック共重合体(I)の単独からなる粉末であってもよいし、またはアクリル系ブロック共重合体(I)に他の成分(例えば他の重合体や添加剤など)を配合したアクリル系ブロック共重合体(I)組成物からなる粉末であってもよい。
本発明の熱可塑性重合体粉末を構成するアクリル系ブロック共重合体(I)は、アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)の1個または2個以上と、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)、およびアクリル酸エステル系重合体ブロック(A)とは異なる構造を有するアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)から選ばれる重合体ブロックの1個または2個以上が結合したブロック共重合体である。
アクリル系ブロック共重合体(I)を構成するアクリル酸エステル系重合体ブロック(A)では、アクリル酸エステル由来の構造単位の割合が、該重合体ブロック(A)を構成する全構造単位に対して、60モル%以上であることが柔軟性の点から好ましく、80〜100モル%であることがより好ましい。
アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)を構成するアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなどを挙げることができる。アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)は、これらのアクリル酸エステルの1種または2種以上から形成されていることができる。
そのうちでも、本発明の熱可塑性重合体粉末を用いて得られる成形体、表皮材、塗膜などの柔軟性がより良好になる点から、アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)は、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−メトキシエチルの1種または2種以上から形成されていることが好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルの1種または2種以上から形成されていることがより好ましく、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルの1種または2種以上から形成されていることが更に好ましい。
また、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)では、メタクリル酸エステルに由来する構造単位の割合が60モル%以上であることが、耐熱性の点から好ましく、80〜100モル%であることがより好ましい。
メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)を構成するメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチルなどを挙げることができる。メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)は、前記したメタクリル酸エステルの1種または2種以上から形成されていることができる。そのうちでも、本発明の熱可塑性重合体粉末を用いて得られる成形体、表皮材、塗膜などの耐熱性がより良好になる点から、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニルの1種または2種以上から形成されていることが好ましく、特にメタクリル酸メチルから形成されていることがより好ましい。
また、アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)を構成するアクリル酸エステル系重合体とは構造の異なるアクリル酸エステル単位からなるアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)では、アクリル酸エステルに由来する構造単位の割合が60モル%以上であることが、耐熱性の点から好ましく、80〜100モル%であることがより好ましい。
アクリル酸エステル系重合体ブロック(C)を構成するアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなどを挙げることができ、アクリル酸エステル系重合体ブロック(C)はこれらのアクリル酸エステルの1種または2種以上から形成されていることができる。但し、アクリル酸エステル系重合体ブロック(C)は、アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)と構造単位が異なっていることが必要である。
アクリル系ブロック共重合体(I)を構成するアクリル酸エステル系重合体ブロック(A)、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)および/またはアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)は、各重合体ブロックの特性を損なわない範囲において、必要に応じて他のモノマーに由来する構造単位(モノマー単位)を少量有していてもよい。アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)および/またはアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)が有し得る他のモノマー単位の種類は特に制限されないが、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−オクテンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン化合物;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン、アクリルアミド、メタクリルアミドなどに由来する構造単位を挙げることができ、これらのモノマー単位の1種または2種以上を含有することができる。
アクリル系ブロック共重合体(I)におけるアクリル酸エステル系重合体ブロック(A)と、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)および/またはアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)との結合数および結合形態は、上記の(ii)および(iii)に規定した動的粘度特性を満足する熱可塑性重合体粉末を与えるものであればいずれでもよいが、本発明の熱可塑性重合体粉末を用いて形成した成形体、表皮材、塗膜などが柔軟性により優れたものとなる点から、アクリル系ブロック共重合体(I)は、特に下記の一般式(1)で表されるジブロック共重合体或いは下記の一般式(2)または(3)で表されるトリブロック共重合体であることが好ましく、下記の一般式(3)で表されるトリブロック共重合体であることがより好ましい。
A−B (1)
C−A−B (2)
B−A−B (3)
[式中、Aはアクリル酸エステル系重合体ブロック(A)、Bはメタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)、Cはアクリル酸エステル系重合体ブロック(A)を構成する構造単位とは構造の異なるアクリル酸エステル構造単位からなるアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)を示す。]
上記の一般式(1)で表されるジブロック共重合体、一般式(2)で表されるトリブロック共重合体および一般式(3)で表されるトリブロック共重合体において、Aはガラス転移温度が20℃未満のアクリル酸エステル系重合体ブロック(A)、Bはガラス転移温度が20℃以上のメタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)、Cはガラス転移温度が20℃以上のアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)であることが好ましい。
さらに、アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)を構成する単量体の溶解度パラメーターσ(A)(単位:MPa1/2)と、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)またはアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)を構成する原料の単量体の溶解度パラメーターσ(B)またはσ(C)との差が2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
なお、本発明でいう溶解度パラメーター(以下、「SP値」ということがある)は、“POLYMER HANDBOOK Forth Edition”、VII 675頁〜714頁(Wiley Interscience社、1999年発行)および“Polymer Engineering and Science”、1974年、第14巻、147頁〜154頁に記載の方法で計算することができる。本発明において好ましく用いられる主な単量体のSP値を求めると[( )内にSP値を示す]、メタクリル酸メチル(18.3)、アクリル酸n−ブチル(18.0)、アクリル酸2−エチルヘキシル(17.6)である。
一般的に、SP値の異なる単量体を構成単位とする重合体ブロックを有するブロック共重合体はミクロ相分離構造を形成し、溶融状態において非ニュートン粘性を示す。また、ブロック共重合体であっても、各重合体ブロックが相溶すればミクロ相分離構造を有さず(無秩序状態)、ニュートン粘性を示すようになる。低剪断下で溶融粘度が低く、賦形圧力のかからない条件下でも流動性を有するためには、溶融状態においてニュートン粘性を示すことが好ましい。各重合体ブロックを構成する構造単位である単量体のSP値の差が小さいと、かかるブロック共重合体の秩序−無秩序転移温度を低くすることができ、ニュートン粘性を示す温度範囲で成形加工可能であり、好ましい。一方、各重合体ブロックを構成する構造単位である単量体のSP値の差が大きい場合には、そのブロック共重合体における秩序−無秩序転移温度は該ブロック共重合体の分解温度より高くなる傾向となり、無秩序状態となる温度で成形加工することが困難なため、好ましくない。
アクリル系ブロック共重合体(I)の好ましい具体例としては、[ポリアクリル酸n−ブチル]−[ポリメタクリル酸メチル]、[ポリアクリル酸2−エチルヘキシル]−[ポリメタクリル酸メチル]などのジブロック共重合体;[ポリアクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸n−ブチル]−[ポリメタクリル酸メチル]、[ポリアクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸2−エチルヘキシル]−[ポリメタクリル酸メチル]、[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸エチル]−[ポリメタクリル酸メチル]、[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸n−ブチル]−[ポリメタクリル酸メチル]、[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸2−エチルヘキシル]−[ポリメタクリル酸メチル]などのトリブロック共重合体を挙げることができる。その中でも、アクリル系ブロック共重合体(I)は、[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸n−ブチル]−[ポリメタクリル酸メチル]または[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸2−エチルヘキシル]−[ポリメタクリル酸メチル]からなるトリブロック共重合体であるのが、本発明の熱可塑性重合体粉末から得られる成形体、表皮材、塗膜などが柔軟性により優れることから特に好ましい。
アクリル系ブロック共重合体(I)における各重合体ブロックの含有割合は特に限定されないが、本発明の熱可塑性重合体粉末の溶融流動性をより良好にし、且つ得られる成形体、表皮材、塗膜などの柔軟性を良好にする点からは、アクリル系ブロック共重合体(I)の質量に基づいて、アクリル酸エステル系重合体ブロック(A)の割合が20〜95質量%であることが好ましく、30〜80質量%であることがより好ましい。
また、本発明の熱可塑性重合体粉末から得られる成形体、表皮材、塗膜などの耐熱性をより良好にする点からは、アクリル系ブロック共重合体(I)の質量に基づいて、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)の割合が5〜80質量%、特に20〜70質量%であるか[アクリル酸エステル系重合体ブロック(C)を有していない場合]、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)とアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)の合計割合が5〜80質量%、特に20〜70質量%であるか[メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)とアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)の両方を有する場合]、或いはアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)の割合が5〜80質量%、特に20〜70質量%である[メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)を有していない場合]ことが好ましい。
アクリル系ブロック共重合体(I)を構成する各重合体ブロックの分子量は、本発明の熱可塑性重合体粉末に上記(ii)および(iii)に規定する動的粘度特性を与えるような分子量であればいずれでもよいが、一般的にはアクリル酸エステル系重合体ブロック(A)の重量平均分子量が1,000〜150,000、特に5,000〜80,000であることが好ましく、またメタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)およびアクリル酸エステル系重合体ブロック(C)の重量平均分子量が2,000〜50,000、特に5,000〜25,000であることが好ましい。
アクリル系ブロック共重合体(I)の全体の分子量は、本発明の熱可塑性重合体粉末に上記(ii)および(iii)に規定する動的粘度特性を与えるような分子量であればいずれでもよいが、一般的には重量平均分子量が5,000〜200,000であることが好ましく、10,000〜100,000であることがより好ましい。
アクリル系ブロック共重合体(I)が上記した[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸n−ブチル]−[ポリメタクリル酸メチル]、または[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸2−エチルヘキシル]−[ポリメタクリル酸メチル]からなるトリブロック共重合体である場合は、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)に相当するポリメタクリル酸メチルブロックの重量平均分子量が2,000〜25,000、特に5,000〜15,000の範囲であるのが、本発明の熱可塑性重合体粉末の溶融流動性が良好になり、且つ熱可塑性重合体粉末を用いて得られる成形体、表皮材、塗膜などの柔軟性がより良好になる点から好ましい。
その中でも特に、メタクリル酸エステル系重合体ブロック(B)に相当するポリメタクリル酸メチルブロックの重量平均分子量が、6,000〜13,000の範囲であり、アクリル系ブロック共重合体(I)の全体の分子量が30,000〜70,000の範囲にある場合には、本発明の熱可塑性重合体粉末は極めて溶融流動性が良好であり、流動性向上剤や可塑剤などを添加しなくとも優れた成形性を有する。
本発明の熱可塑性重合体粉末を構成するアクリル系ブロック共重合体(I)は、アクリル系ブロック共重合体を製造する公知の手法に準じて製造することができる。例えば、各ブロックを構成するモノマーをリビング重合する方法が一般に使用される。このようなリビング重合の手法としては、例えば、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤としアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩などの鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法(特公平7−25859号公報参照)、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法(特開平11−335432号公報参照)、有機希土類金属錯体を重合開始剤として重合する方法(特開平6−93060号公報参照)、α−ハロゲン化エステル化合物を開始剤として銅化合物の存在下でラジカル重合する方法(“Macromolecular Chemical Physics”,2000年,第201巻,p1108−1114参照)などが挙げられる。また、多価ラジカル重合開始剤や多価ラジカル連鎖移動剤を用いて、各ブロックを構成するモノマーを重合させ、本発明の熱可塑性重合体粉末を構成するアクリル系ブロック共重合体(I)を含有する混合物として製造する方法なども挙げられる。
これらの方法の中で、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用いて有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法が、アクリル系ブロック共重合体(I)を高純度で得ることができ、また分子量や組成比の制御が容易であり、かつ経済的であることから好ましく採用される。
本発明の熱可塑性重合体粉末は、温度250℃、振動周波数5ラジアン/秒の条件下に測定した複素動的粘度η(5)が、5.0×10Pa・s以下であることが必要であり[上記の要件(ii)]、1.0×10Pa・s以下であることが好ましく、5.0×10Pa・s以下であることがより好ましい。熱可塑性重合体粉末の温度250℃、周波数5ラジアン/秒での複素動的粘度η(5)が5.0×10Pa・sよりも大きいと、熱可塑性重合体粉末が金型面上で溶融しなくなり、成形加工時の剪断速度が1sec−1以下と極めて低く、実質的に賦形圧力をかけないで成形が行われる粉末スラッシュ成形に適さないものとなる。
さらに、本発明の熱可塑性重合体粉末は、下記の数式(1);

[式中、nはニュートン粘性指数、η(5)は温度250℃、振動周波数5ラジアン/秒の条件下に測定した複素動的粘度(単位Pa・s)、η(50)は温度250℃、振動周波数50ラジアン/秒の条件下に測定した複素動的粘度(単位Pa・s)を示す。]
で表されるニュートン粘性指数nが0.50以下であることが必要であり[上記の要件(iii)]、0.30以下であることが好ましく、0.20以下であることがより好ましい。
熱可塑性重合体粉末のニュートン粘性指数nが0.50よりも大きいと、たとえ温度250℃、周波数5ラジアン/秒で測定した複素動的粘度η(5)が5.0×10Pa・s以下であっても、複素動的粘度の周波数依存性が大きくなって、成形時の剪断速度が1sec−1以下と非常に小さいか、また成形時の賦形圧力が1kg/cm以下と小さい、スラッシュ成形などの成形法では、溶融した熱可塑性重合体粉末同士の熱融着が不完全になり、機械的特性に劣る成形体しか得られなくなる。
本発明における熱可塑性重合体粉末の温度250℃、振動周波数5ラジアン/秒の条件下での複素動的粘度η(5)(単位Pa・s)、および温度250℃、振動周波数50ラジアン/秒の条件下での複素動的粘度η(50)(単位Pa・s)は、いずれも、Rheometric Scientific社製のARES粘弾性測定システムを使用して、温度250℃、振動周波数5ラジアン/秒および50ラジアン/秒の条件下で、成形体にする前の熱可塑性重合体粉末自体についてその動的粘度を測定したときの値であり、詳細な内容については以下の実施例の項に記載するとおりである。
本発明の熱可塑性重合体粉末は、温度250℃、ずり速度0.2sec−1の条件下に測定した溶融粘度が3000Pa・s以下であることが好ましく、2000Pa・s以下であることがより好ましく、1500Pa・s以下であることが更に好ましい。
温度250℃、ずり速度0.2sec−1の条件下に測定した溶融粘度が3000Pa・s以上である場合には、熱可塑性重合体粉末が金型面上で溶融しにくくなり、成形加工時の剪断速度が1sec−1以下と極めて低く、実質的に賦形圧力をかけないで成形が行われるスラッシュ成形に適さないものになり易い。
本発明の熱可塑性重合体粉末は、その平均粒径が1mm以下であることが必要であり、800μm以下であることが好ましく、50〜500μmであることがより好ましい。熱可塑性重合体粉末の平均粒径が1mmを超えると、スラッシュ成形、回転成形、粉末を用いるその他の成形時や粉体塗装時などに、粉末の流動性や計量性が不良になり易く、高品質の成形体、表皮材、塗膜などが得られにくくなる。特に、本発明の熱可塑性重合体粉末をスラッシュ成形に用いる場合は、熱可塑性重合体粉末の平均粒径が50〜500μmであることが、作業環境の良好性、得られる成形体の厚さの均一性、ピンホールの発生防止、力学強度などの点から好ましい。
ここで、本明細書における熱可塑性重合体粉末の平均粒径とは、散乱式粒度分布測定装置(例えばHORIBA製「LA−920」)で測定した平均粒径をいう。
本発明の熱可塑性重合体粉末は、上記した(i)〜(iv)の要件を満足する限りは、アクリル系ブロック共重合体(I)の単独からなる粉末であってもよいし、またはアクリル系ブロック共重合体(I)に他の成分(例えば他の重合体、添加剤など)を配合したアクリル系ブロック共重合体(I)組成物からなる粉末であってもよい。
本発明の熱可塑性重合体粉末がアクリル系ブロック共重合体(I)と共に他の重合体を含有するアクリル系ブロック共重合体(I)組成物からなる場合は、他の重合体の含有割合は、他の重合体の種類などに応じて変わり得るが、一般的には、アクリル系ブロック共重合体(I)組成物の質量に基づいて40質量%以下であることが、本発明の熱可塑性重合体粉末の有する効果を損なわない点から好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
本発明の熱可塑性重合体粉末がアクリル系ブロック共重合体(I)と共に含有し得る他の重合体の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリノルボルネンなどのオレフィン系樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂などのスチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;メチルメタクリレート−スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマーなどのポリアミド;ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーンゴム変性樹脂;アクリル系ゴム;シリコーン系ゴム;SEPS、SEBS、SISなどのスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDM等のゴムなどを挙げることができ、これらの重合体の1種または2種以上を含有することができる。これらの重合体の中でも、熱可塑性重合体粉末の構成成分であるアクリル系ブロック共重合体(I)との相溶性に優れる点から、アクリル系樹脂が好ましく用いられる。
また、本発明の熱可塑性重合体粉末が必要に応じて含有し得る添加剤としては、例えば、滑剤、流動性向上剤、可塑剤(軟化剤)、熱安定剤、耐候性向上剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、粘着剤、粘着付与剤、発泡剤、顔料、染料、充填剤、補強剤などを挙げることができる。より具体的には、例えば、成形加工時の流動性を向上させるためのパラフィン系オイル、ナフテン系オイルなどの鉱物油軟化剤;耐熱性、耐候性などの向上または増量などを目的とする炭酸カルシウム、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどの無機充填剤;補強のためのガラス繊維、カーボン繊維などの無機繊維または有機繊維などが挙げられる。これらの添加剤の中でも、耐熱性、耐候性をさらに良好なものとするために、本発明の熱可塑性重合体粉末は、熱安定剤、酸化防止剤などを含有することが実用上好ましい。
なお、アクリル系ブロック共重合体(I)単独のときには上記した(ii)または(iii)の要件を満足しない場合であっても、流動性向上剤または可塑剤を配合することで、良好な流動性を示す粉末が得られる場合がある。中でもアクリル系ブロック共重合体(I)を構成する重合体ブロック構成単位である単量体のSP値と近いSP値を有する流動性向上剤または可塑剤を配合すると、ブリードアウトやフォギングを防止しながら、上記した(ii)および(iii)の要件を満足する溶融流動性に優れる粉末が得られることが多い。その際に好ましく用い得る流動性向上剤または可塑剤の例としては[( )内はSP値である]、トリクレジルホスフェート(21.4)等のリン酸系誘導体;アセチルトリn−ブチルシトレート(20.1)等のクエン酸系誘導体;ジ(2−エチルヘキシル)セバケート(18.1)等のセバシン酸系誘導体;ジイソノニルアジペート(18.2)等のアジピン酸系誘導体;ジイソノニルフタレート(19.2)等のフタル酸系誘導体;ポリエステルオリゴマー、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系オリゴマーなどを挙げることができる。これらの中でも、アセチルトリn−ブチルシトレートを用いることが、耐ブリードアウト性、安全性という点からより好ましい。流動性向上剤または可塑剤を配合する場合、その配合量はアクリル系ブロック共重合体(I)100質量部に対して300質量部以下であるのが好ましく、150質量部以下であるのがより好ましい。
本発明の熱可塑性重合体粉末の製法としては、熱可塑性重合体粉末が他の重合体や添加剤を含まず、アクリル系ブロック共重合体(I)の単独からなる場合は、例えば、重合により得られるアクリル系ブロック共重合体(I)を直接そのまま適当な方法で粉末とし、必要に応じて篩などを用いて分級する方法などを挙げることができる。
また、本発明の熱可塑性重合体粉末が、アクリル系ブロック共重合体(I)と共に他の重合体および/または添加剤を含有するアクリル系ブロック共重合体(I)組成物からなる場合は、組成物を構成する各成分を一括混合または分割混合し、それにより得られる混合物を従来公知の混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、オープンロール、ニーダーなどの混練機を使用して混練して例えばペレット形状のアクリル系ブロック共重合体(I)組成物を調製し、次いでそれを適当な方法で粉末とし、必要に応じて篩などを用いて分級する方法などを挙げることができる。
アクリル系ブロック共重合体(I)組成物を得るための前記混練に際しては、被混練成分のそれぞれをそのまま直接混練機に供給せずに、混練前にヘンシェルミキサーやタンブラーなどのような混合機を用いて予めドライブレンドしてから混練機に供給すると、均一なアクリル系ブロック共重合体(I)組成物を得ることができる。また、アクリル系ブロック共重合体(I)組成物を調製するための混練温度は、使用するアクリル系ブロック共重合体(I)の溶融温度などに応じて適宜調節可能であり、通常、110℃〜300℃の範囲内の温度で混合することができる。
上記において、アクリル系ブロック共重合体(I)自体またはアクリル系ブロック共重合体(I)組成物を粉末とする方法は特に制限されず、熱可塑性重合体組成物を粉末とする際に用いられる方法であればいずれでもよい。例えば、アクリル系ブロック共重合体(I)自体やアクリル系ブロック共重合体(I)組成物の塊状物、ペレットなどを、ターボミル、ピンミル、ハンマーミル、ロータースピードミルなどの衝撃式微粉砕装置を用いて常温または凍結下に微粉砕する方法;アクリル系ブロック共重合体(I)自体やアクリル系ブロック共重合体(I)組成物を加熱溶融してスプレー装置やディスクアトマイザーなどを用いて噴霧し冷却する方法;アクリル系ブロック共重合体(I)自体やアクリル系ブロック共重合体(I)組成物を押出機によりミクロダイスを通して水中に押し出し、水中でホットカットする方法などを採用することができる。
上記方法のうちで、衝撃式微粉砕装置を用いて常温または凍結下に微粉砕する方法は、設備が安価で生産が容易な点から好ましく採用される。
また、ミクロダイスを通して水中に押し出し、水中でホットカットする方法は、特に熱可塑性重合体粉末がアクリル系ブロック共重合体(I)組成物からなる場合は、アクリル系ブロック共重合体(I)組成物を押出機を用いて調製するのと同時に粉末とすることができるので有利である。また、ミクロダイスを通して水中に押し出し、水中でホットカットする方法による場合には、ミクロダイスからの吐出(押し出し)の際に加わる剪断によって押し出し物が高度に配向するため、それをカットして得られる粉末は膠着が少なく流動性に優れたものとなる点から好ましい。
上記した粉末化方法によって平均粒径が1mm以下の粉末が直接得られる場合は、それをそのまま本発明の熱可塑性重合体粉末として回収してもよい。また、上記した粉末化方法によって得られる粉末の平均粒径が1mmを超える場合や、1mm以下であっても更に平均粒径の小さいものを得たい場合は、上記した粉末化方法により得られる粉末を、篩、集塵装置などを用いて分級して、平均粒径が1mm以下またはそれよりも小さな粉末を回収するとよい。
本発明の熱可塑性重合体粉末は、粉末状の熱可塑性重合体や熱可塑性重合体組成物を用いる成形技術や塗装技術に有効に用いることができる。例えば、スラッシュ成形、回転成形、圧縮成形、粉末溶射、押出成形、カレンダー成形などの粉末成形、粉末を使用する各種塗装技術(例えば流動浸漬法、静電塗装法、溶射法、吹付塗装など)に用いることができ、シート状物、フィルム状物、中空状物、積層物などの各種成形体、表皮材、塗膜、塗装製品などを得ることができる。そのうちでも、本発明の熱可塑性重合体粉末は、スラッシュ成形および回転成形で使用するのに特に適している。
本発明の熱可塑性重合体粉末を用いてスラッシュ成形などの粉末成形を行うことにより、例えば、皮シボ状やステッチ状などの凹凸模様や複雑な形状を有する表皮材を得ることができる。本発明の熱可塑性重合体粉末を用いて得られる成形体、表皮材、塗膜などは、耐候性に優れ、しかも柔軟性、力学的強度、低温特性およびゴム弾性などにおいても優れている。さらに、構成成分であるアクリル系ブロック共重合体(I)の耐候性が良好であるため、得られる成形体なども耐候性にも優れている。しかも、塩素などのハロゲンや可塑剤を含まないので、燃焼した際の環境汚染を生じず、発癌性の心配がなく安全性などの点においても優れている。
本発明の熱可塑性重合体粉末を用いて得られる成形体、表皮材、塗膜などは、必要に応じて、例えばポリウレタンなどにより表面塗装されていてもよい。
本発明の熱可塑性重合体粉末を用いてなる成形体、表皮材、塗膜を有する製品などは、その優れた柔軟性、ゴム弾性、低温特性、力学的強度、耐候性、安全性、環境汚染がない点などの諸特性を活かして、例えば、インストルメントパネル、ドアトリム、コンソールボックス、アームレスト、ヘッドレスト、座席シート、ピラー、ステアリングホイール、天井などの自動車内装材;ソファー、各種椅子用の表皮材;スポーツ用品;レジャー用品;文房具;家屋の内張り材;マネキンなどの幅広い用途に有効に使用することができる。中でも、JIS−A硬度が40〜95の範囲の柔軟な熱可塑性重合体粉末を用いると、特に玩具部材用途に好適に用いることができる。また、JIS−A硬度が95以上の硬度の高い熱可塑性重合体粉末を用いると、街路灯グローブ、庇、天蓋などの屋外使用部品;活魚タンク、工業用タンクなどのタンク類;照明カバーなど、該熱可塑性重合体粉末の耐侯性、透明性を活かした用途に有効に使用することができる。
【実施例】
以下に実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
以下の例において、ブロック共重合体全体およびポリメタクリル酸メチル(PMMA)ブロックの重量平均分子量、各重合体ブロックの構成割合、熱可塑性重合体粉末の平均粒径、溶融粘度、動的粘度(複素動的粘度)、スラッシュ成形性、得られた成形体の柔軟性(硬度)および引張強さ、引張破断伸びの測定または評価は、以下の方法によって行った。
(1)ブロック共重合体全体およびPMMAブロックの重量平均分子量:
以下の参考例において、ブロック共重合体全体およびPMMAブロックの重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(以下GPCと表す)によりポリスチレン換算分子量で求めた。
(2)ブロック共重合体における各重合体ブロックの構成割合:
以下の参考例において、ブロック共重合体における各重合体の構成割合は、H−NMR測定によって求めた。
(3)熱可塑性重合体粉末の平均粒径:
以下の実施例または比較例で得られた熱可塑性重合体粉末の平均粒径は、散乱式粒度測定装置(HORIBA製「LA−920」)を用いて測定した。
(4)熱可塑性重合体粒子の溶融粘度:
以下の実施例および比較例で得られた熱可塑性重合体粉末を用いて、ブルックフィールド社製のブルックフィールド粘度計(型番:RVDV−II+)を使用して、温度250℃、ずり速度0.2sec−1の条件下で溶融粘度を測定した。
(5)熱可塑性重合体粉末の動的粘弾性および複素動的粘度:
以下の実施例および比較例で得られた熱可塑性重合体粉末を使用して、Rheometric Scientific社製のARES粘弾性測定システムを用いて、温度250℃、振動周波数5ラジアン/秒および50ラジアン/秒での動的粘弾性を測定し、それにより得られた動的粘弾性の値から、複素動的粘度η(5)およびη(50)が算出される。なお、動的粘弾性の測定は平行平板モード(Dynamic Frequency Sweep;25mmφプレート使用)で行い、印加歪は0.5%で行った。
また、上記で算出した複素動的粘度η(5)および複素動的粘度η(50)の値を用いて上記の数式(1)によりニュートン粘性指数nを算出した。
(6)スラッシュ成形性:
以下の実施例または比較例におけるスラッシュ成形により得られた厚さ1mmのシート状成形体の外観および表面状態を目視により観察して、下記の評価基準にしたがってスラッシュ成形性を評価した。
[スラッシュ成形性の評価基準]
◎:表面状態が極めて滑らかなシート状成形体が得られている。
○:表面状態が良好で、ピンホールのないシート状成形体が得られている。
×:表面の凹凸が激しく、かつピンホールが多数見られる。
(7)成形体の柔軟性(硬度):
以下の実施例または比較例におけるスラッシュ成形により得られた厚さ1mmのシート状成形体について、JIS K 6253に準じてその柔軟性(硬度)を測定した。すなわち、A型硬度計(高分子計器株式会社製)を用いて、デュロメータ硬さ試験を行い、硬度を測定した。
(8)成形体の引張り強さおよび引張破断伸び:
以下の実施例または比較例におけるスラッシュ成形により得られた厚さ1mmのシート状成形体から、JIS3号打ち抜き刃によって試験片を打ち抜き、JIS K 6251に準拠して引張強さおよび引張破断伸びを測定した。
《参考例1》[アクリル系ブロック共重合体の合成]
(1) 1リットルの三口フラスコに三方コックを取り付け、内部を脱気し、窒素で置換した後、室温にてトルエン278g、1,2−ジメトキシエタン13.9g、イソブチルビス(2,6−ジt−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム8.18mmolを含有するトルエン溶液12.2gを加え、さらに、sec−ブチルリチウム1.68mmolを加えた。これにメタクリル酸メチル17.0gを加え、室温で1時間反応させた。この反応液を1g採取し、サンプリング試料1とする。引き続いて、重合液の内部温度を−30℃に冷却し、アクリル酸n−ブチル79.0gを5時間かけて滴下した。この反応液を1g採取し、サンプリング試料2とする。続いてメタクリル酸メチル17.0gを加えて反応液を室温に昇温し、10時間攪拌下に反応させた。この反応液を大量のメタノール中に注ぎ、析出した沈殿物をアクリル系ブロック共重合体[以下「トリブロック共重合体(a)」という]として分離回収した。
(2) 上記(1)で得られたサンプリング試料1、サンプリング試料2およびトリブロック共重合体(a)について、GPC測定とH−NMR測定の結果に基づいて、全体のMw(重量平均分子量)、Mw/Mn(分子量分布)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)ブロックとポリアクリル酸n−ブチル(PnBA)ブロックの質量比などを求めたところ、PMMAブロック−PnBAブロック−PMMAブロックからなるトリブロック共重合体であった。このトリブロック共重合体(a)の両端のPMMAブロックのMwは10,400、Mw/Mnは1.07であり、トリブロック共重合体(a)全体のMwは77,000、Mw/Mnは1.10であった。また、各重合体ブロックの割合はPMMA(15質量%)−PnBA(70質量%)−PMMA(15質量%)であることが判明した。
《参考例2》[アクリル系ブロック共重合体の合成]
供給するモノマー量を変更して、参考例1と同様の方法を採用して、PMMAブロック−PnBAブロック−PMMAブロックからなるトリブロック共重合体[以下「トリブロック共重合体(b)」という]を製造した。
このトリブロック共重合体(b)における両端のPMMAブロックのMwは10,600、Mw/Mnは1.07であり、トリブロック共重合体(b)全体のMwは60,800、Mw/Mnは1.04であった。また、このトリブロック共重合体(b)における各重合体ブロックの割合はPMMA(20質量%)−PnBA(60質量%)−PMMA(20質量%)であった。
《参考例3》[アクリル系ブロック共重合体の合成]
供給するモノマー量を変更して、参考例1と同様の方法を採用して、PMMAブロック−PnBAブロック−PMMAブロックからなるトリブロック共重合体[以下「トリブロック共重合体(c)」という]を製造した。
このトリブロック共重合体(c)における両端のPMMAブロックのMwは7,100、Mw/Mnは1.13であり、トリブロック共重合体(c)全体のMwは82,000、Mw/Mnは1.13であった。また、このトリブロック共重合体(c)における各重合体ブロックの割合はPMMA(12.5質量%)−PnBA(75質量%)−PMMA(12.5質量%)であった。
《参考例4》[アクリル系ブロック共重合体の合成]
供給するモノマー量を変更して、参考例1と同様の方法を採用して、PMMAブロック−PnBAブロック−PMMAブロックからなるトリブロック共重合体[以下「トリブロック共重合体(d)」という]を製造した。
このトリブロック共重合体(d)における両端のPMMAブロックのMwは11,300、Mw/Mnは1.07であり、トリブロック共重合体(d)全体のMwは116,000、Mw/Mnは1.06であった。また、このトリブロック共重合体(d)における各重合体ブロックの割合はPMMA(12.5質量%)−PnBA(75質量%)−PMMA(12.5質量%)であった。
《参考例5》[アクリル系ブロック共重合体の合成]
供給するモノマー量を変更して、参考例1と同様の方法を採用して、PMMAブロック−PnBAブロック−PMMAブロックからなるトリブロック共重合体[以下「トリブロック共重合体(e)」という]を製造した。
このトリブロック共重合体(e)における両端のPMMAブロックのMwは8,300、Mw/Mnは1.08であり、トリブロック共重合体(e)全体のMwは54,000、Mw/Mnは1.07であった。また、このトリブロック共重合体における各重合体ブロックの割合はPMMA(17.5質量%)−PnBA(65質量%)−PMMA(17.5質量%)であった。
《参考例6》[アクリル系ブロック共重合体の合成]
供給するモノマー量を変更して、参考例1と同様の方法を採用して、PMMAブロック−PnBAブロック−PMMAブロックからなるトリブロック共重合体[以下「トリブロック共重合体(f)」という]を製造した。
このトリブロック共重合体(f)における両端のPMMAブロックのMwは10,900、Mw/Mnは1.12であり、トリブロック共重合体(f)全体のMwは37,000、Mw/Mnは1.08であった。また、このトリブロック共重合体における各重合体ブロックの割合はPMMA(30質量%)−PnBA(40質量%)−PMMA(30質量%)であった。
《参考例7》[アクリル系ブロック共重合体の合成]
供給するモノマー量を変更して、参考例1と同様の方法を採用して、PMMAブロック−PnBAブロック−PMMAブロックからなるトリブロック共重合体[以下「トリブロック共重合体(g)」という]を製造した。
このトリブロック共重合体(g)における両端のPMMAブロックのMwは7,600、Mw/Mnは1.14であり、トリブロック共重合体(g)全体のMwは49,000、Mw/Mnは1.10であった。また、このトリブロック共重合体における各重合体ブロックの割合はPMMA(15質量%)−PnBA(70質量%)−PMMA(15質量%)であった。
上記の参考例1〜7で得られたアクリル系ブロック共重合体の内容をまとめると、以下の表1に示すとおりである。

《実施例1》[熱可塑性重合体粉末の製造およびスラッシュ成形]
(1) 参考例1で得られたトリブロック共重合体(a)を、衝撃式粉砕機(フリッチュ社製「ロータースピードミルP−14」)を用いて、温度−100℃で粉砕した後、粉砕物を32メッシュ篩(目開き0.495mm)を使用して篩分けし、篩を通過した粉末を熱可塑性重合体粉末として回収した。
得られた熱可塑性重合体粉末の平均粒径および溶融粘度を前記の方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、得られた熱可塑性重合体粉末の複素動的粘度η(5)および複素動的粘度η(50)を前記した方法で算出すると共に、それらの値から前記の数式(1)によりニュートン粘性指数nを求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体粉末を、表面温度250℃のニッケル電鋳板(縦×横×厚さ=150mm×150mm×1mm)よりなる型に均一に振りかけて、静置状態で同温度に30秒間保持して熱可塑性重合体粉末を溶着させた後、電鋳板を回転させることで未溶着粉末を排出させ、熱可塑性重合体粉末を溶着した電鋳板を250℃の加熱炉内に3分間保持して溶融させた。次いで、加熱炉から取り出して、40℃に水冷後、脱型して、厚さ1mmのシート状成形体(スラッシュ成形体)を製造した。このときのスラッシュ成形性を前記した方法で評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(3) 上記(2)で得られたシート状成形体から所定の試験片を得て、柔軟性(硬度)、引張強さおよび引張破断伸びを前記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
《実施例2》[熱可塑性重合体粉末の製造およびスラッシュ成形]
(1) 参考例1で得られたトリブロック共重合体(a)を用いて、押出機を使用して穴径が500μmのミクロダイスを通して水中に押し出し、アンダーウォーターペレタイジングシステムズ(Gala社製)を用いて水中でホットカット(温度80℃)して、熱可塑性重合体粉末を製造した。
得られた熱可塑性重合体粉末の平均粒径および溶融粘度を前記の方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、得られた熱可塑性重合体粉末の複素動的粘度η(5)および複素動的粘度η(50)を前記した方法で算出すると共に、それらの値から前記の数式(1)によりニュートン粘性指数nを求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体粉末を用いて、実施例1の(2)と同様にしてスラッシュ成形を行って、厚さ1mmのシート状成形体を製造した。このときのスラッシュ成形性を前記した方法で評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(3) 上記(2)で得られたシート状成形体から所定の試験片を得て、柔軟性(硬度)、引張強さおよび引張破断伸びを前記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
《実施例3》[熱可塑性重合体粉末の製造およびスラッシュ成形]
(1) 参考例2で得られたトリブロック共重合体(b)を用いた以外は実施例1の(1)と同様にして、熱可塑性重合体粉末を製造した。
得られた熱可塑性重合体粉末の平均粒径および溶融粘度を前記の方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、得られた熱可塑性重合体粉末の複素動的粘度η(5)および複素動的粘度η(50)を前記した方法で算出すると共に、それらの値から前記の数式(1)によりニュートン粘性指数nを求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体粉末を用いて、実施例1の(2)と同様にしてスラッシュ成形を行って、厚さ1mmのシート状成形体を製造した。このときのスラッシュ成形性を前記した方法で評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(3) 上記(2)で得られたシート状成形体から所定の試験片を得て、柔軟性(硬度)、引張強さおよび引張破断伸びを前記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
《実施例4》[熱可塑性重合体粉末の製造およびスラッシュ成形]
(1) 参考例3で得られたトリブロック共重合体(c)90質量部に対して、他成分としてメタクリル樹脂[Mw=37,000、Mw/Mn=1.6、メタクリル酸メチル:アクリル酸メチルの共重合割合=86:14(質量比)]10質量部の割合で混合し、混合物をラボプラストミルにより200℃で溶融混練してトリブロック共重合体(c)組成物を調製した。
(2) 上記(1)で得られたトリブロック共重合体(c)組成物を用いて実施例1の(1)と同様にして熱可塑性重合体粉末を製造した。
得られた熱可塑性重合体粉末の平均粒径および溶融粘度を前記の方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、得られた熱可塑性重合体粉末の複素動的粘度η(5)および複素動的粘度η(50)を前記した方法で算出すると共に、それらの値から前記の数式(1)によりニュートン粘性指数nを求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
(3) 上記(2)で得られた熱可塑性重合体粉末を用いて、実施例1の(2)と同様にしてスラッシュ成形を行って、厚さ1mmのシート状成形体を製造した。このときのスラッシュ成形性を前記した方法で評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(4) 上記(3)で得られたシート状成形体から所定の試験片を得て、柔軟性(硬度)、引張強さおよび引張破断伸びを前記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
《実施例5》[熱可塑性重合体粉末の製造およびスラッシュ成形]
(1) 参考例5で得られたトリブロック共重合体(e)を用いた以外は実施例3の(1)と同様にして熱可塑性重合体粉末を製造した。
得られた熱可塑性重合体粉末の平均粒径および溶融粘度を前記の方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、得られた熱可塑性重合体粉末の複素動的粘度η(5)および複素動的粘度η(50)を前記した方法で算出すると共に、それらの値から前記の数式(1)によりニュートン粘性指数nを求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体粉末を用いて、実施例1の(2)と同様にしてスラッシュ成形を行って、厚さ1mmのシート状成形体(スラッシュ成形体)を製造した。このときのスラッシュ成形性を前記した方法で評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(3) 上記(2)で得られたシート状成形体から所定の試験片を得て、柔軟性(硬度)、引張強さおよび引張破断伸びを上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
《実施例6》[熱可塑性重合体粉末の製造およびスラッシュ成形]
(1) 参考例6で得られたトリブロック共重合体(f)を用いた以外は実施例3の(1)と同様にして熱可塑性重合体粉末を製造した。
得られた熱可塑性重合体粉末の平均粒径および溶融粘度を前記の方法で測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
また、得られた熱可塑性重合体粉末の複素動的粘度η(5)および複素動的粘度η(50)を前記した方法で算出すると共に、それらの値から上記の数式(1)によりニュートン粘性指数nを求めたところ、下記の表3に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体粉末を用いて、実施例1の(2)と同様にしてスラッシュ成形を行って、厚さ1mmのシート状成形体を製造した。このときのスラッシュ成形性を前記した方法で評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
(3) 上記(2)で得られたシート状成形体から所定の試験片を得て、柔軟性(硬度)、引張強さおよび引張破断伸びを前記した方法で測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
《実施例7》[熱可塑性重合体粉末の製造およびスラッシュ成形]
(1) 参考例7で得られたトリブロック共重合体(g)を用いた以外は実施例3の(1)と同様にして熱可塑性重合体粉末を製造した。
得られた熱可塑性重合体粉末の平均粒径および溶融粘度を前記の方法で測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
また、得られた熱可塑性重合体粉末の複素動的粘度η(5)および複素動的粘度η(50)を前記した方法で算出すると共に、それらの値から上記の数式(1)によりニュートン粘性指数nを求めたところ、下記の表3に示すとおりであった。
(2)上記(1)で得られた熱可塑性重合体粉末を用いて、実施例1の(2)と同様にしてスラッシュ成形を行って、厚さ1mmのシート状成形体を製造した。このときのスラッシュ成形性を前記した方法で評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
(3)上記(2)で得られたシート状成形体から所定の試験片を得て、柔軟性(硬度)、引張強さおよび引張破断伸びを前記した方法で測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
《実施例8》[熱可塑性重合体粉末の製造およびスラッシュ成形]
(1) 参考例4で得られたトリブロック共重合体(d)70質量部に対して、可塑剤としてアセチルトリn−ブチルシトレート(三建化工株式会社製)を30質量部の割合で混合し、混合物をラボプラストミルにより200℃で溶融混練して、トリブロック共重合体(d)組成物を調製した。
(2) 上記(1)で得られたトリブロック共重合体(d)組成物を用いて、実施例1の(1)と同様にして熱可塑性重合体粉末を製造した。得られた熱可塑性重合体粉末の平均粒径および溶融粘度を前記の方法で測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
また、得られた熱可塑性重合体粉末の複素動的粘度η(5)および複素動的粘度η(50)を前記した方法で算出すると共に、それらの値から上記の数式(1)によりニュートン粘性指数nを求めたところ、下記の表3に示すとおりであった。
(3) 上記(2)で得られた熱可塑性重合体粉末を用いて、実施例1の(2)と同様にしてスラッシュ成形を行って、厚さ1mmのシート状成形体を製造した。このときのスラッシュ成形性を前記した方法で評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
(4) 上記(3)で得られたシート状成形体から所定の試験片を得て、柔軟性(硬度)、引張強さおよび引張破断伸びを前記した方法で測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。
《比較例1》[熱可塑性重合体粉末の製造およびスラッシュ成形]
(1) 参考例4で得られたトリブロック共重合体(d)を用いた以外は実施例1の(1)と同様にして、熱可塑性重合体粉末を製造した。
得られた熱可塑性重合体粉末の平均粒径を前記の方法で測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。また、得られた熱可塑性重合体粉末の溶融粘度を前記の方法で測定しようとしたところ、ブルックフィールド粘度計では測定上限を越えてしまい、測定できなかった。
また、得られた熱可塑性重合体粉末の複素動的粘度η(5)および複素動的粘度η(50)を上記した方法で算出すると共に、それらの値から上記の数式(1)によりニュートン粘性指数nを求めたところ、下記の表3に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体粉末を用いて、実施例1の(2)と同様にしてスラッシュ成形を行ったところ、表面の凹凸が激しく、しかもピンホールが多数発生した成形体となり、正常なシート状成形体が得られなかったため、柔軟性(硬度)、引張強さおよび引張破断伸びを測定できなかった。
《比較例2》[熱可塑性重合体粉末の製造およびスラッシュ成形]
(1) 参考例1で得られたトリブロック共重合体(a)の代わりに、スチレン系ブロック共重合体(株式会社クラレ製「SEPTON 2002」)を用いて実施例1の(1)と同様にして熱可塑性重合体粉末を製造した。
得られた熱可塑性重合体粉末の平均粒径を前記の方法で測定したところ、下記の表3に示すとおりであった。また、得られた熱可塑性重合体粉末の溶融粘度を前記の方法で測定しようとしたところ、ブルックフィールド粘度計では測定上限を越えてしまい、測定できなかった。
また、得られた熱可塑性重合体粉末の複素動的粘度η(5)および複素動的粘度η(50)を上記した方法で算出すると共に、それらの値から上記の数式(1)によりニュートン粘性指数nを求めたところ、下記の表3に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体粉末を用いて、実施例1の(2)と同様にしてスラッシュ成形を行ったところ、表面の凹凸が激しく、しかもピンホールが多数発生した成形体となり、正常なシート状成形体が得られなかったため、柔軟性(硬度)、引張強さおよび引張破断伸びを測定できなかった。


上記の表2および表3にみるように、実施例1〜8の熱可塑性重合体粉末は、上記の(i)〜(iii)の要件を満たし、且つ平均粒径が1mm以下と小さくて要件(iv)をも満たしていることにより、スラッシュ成形性に優れていて、表面状態が良好で、ピンホールのない成形体をスラッシュ成形で円滑に得ることができ、しかもスラッシュ成形によって得られた成形体は機械的特性に優れている。
さらに、表2および表3の結果から、本発明の熱可塑性重合体粉末が、上記の(i)の要件を満たすアクリル系ブロック共重合体(I)から主としてなっていて且つ上記の(ii)〜(iv)に規定する要件を満たす熱可塑性重合体粉末である限りは、該熱可塑性重合体粉末がアクリル系ブロック共重合体(I)単独から形成されたものであっても(実施例1〜3および実施例5〜7)、またはアクリル系ブロック共重合体(I)と共に他の成分を含有する組成物から形成されたものであっても(実施例4および実施例8)、スラッシュ成形性に優れていることがわかる。
参考例4で得られたアクリル系ブロック共重合体(I)[トリブロック共重合体(d)]の単独からなる比較例1の粉末は、上記の数式(1)で表されるニュートン粘性指数nが0.50を超えていて上記の(iii)の要件を備えておらず、溶融流動性に劣るために、スラッシュ成形性に劣っており、スラッシュ成形により得られる成形体は表面の凹凸が激しく、しかもピンホールが多数発生している。
それに対して、実施例8の熱可塑性重合体粉末は、上記(iii)の要件を満たしていない該トリブロック共重合体(d)にアセチルトリn−ブチルシトレート(流動性向上剤または可塑剤)を添加した組成物を用いて製造されていて、上記の(i)および(iv)の要件だけでなく、要件(ii)および(iii)をも満たしていることにより、実施例1〜7の熱可塑性重合体粉末と同じように、流動性が高く、スラッシュ成形性に優れている。
また、比較例2の熱可塑性重合体粉末も、比較例1の熱可塑性重合体粉末と同様に、上記の数式(1)で表されるニュートン粘性指数nが0.50を超えていて上記の(iii)の要件を備えておらず、溶融流動性に劣るために、スラッシュ成形性に劣っており、スラッシュ成形により得られる成形体は表面の凹凸が激しく、しかもピンホールが多数発生している。
【産業上の利用可能性】
本発明の熱可塑性重合体粉末は、成形性(特に溶融流動性)に優れており、スラッシュ成形、回転成形、圧縮成形、押出成形、カレンダー成形などの粉末樹脂を用いる成形技術に有効に用いることができ、さらに各種粉体塗装技術に良好に用いることができる。特に、スラッシュ成形に用いた場合は、皮シボ状や縫い目状の凹凸(凹凸模様)や複雑な形状を有する成形体を円滑に製造することができる。
本発明の熱可塑性重合体粉末を用いて得られる成形体、表皮材、塗膜などは、耐候性に優れ、しかも柔軟性、低温特性、ゴム弾性、風合、外観、極性樹脂との接着性などに優れている。
本発明の熱可塑性重合体粉末は内分泌撹乱物質の疑いや発癌性が疑われている可塑剤を含有しておらず、また熱可塑性重合体粉末を構成している重合体成分などにはハロゲンが含まれていないので、焼却によるダイオキシンの発生、発癌性などの心配がなく、安全性に優れている。
本発明の熱可塑性重合体粉末は、前記した優れた特性を活かして、例えば、インストルメントパネル、ドアトリム、コンソールボックス、アームレスト、ヘッドレスト、座席シート、ピラー、ステアリングホイール、天井などの自動車内装材;ソファー、各種椅子用の表皮材;スポーツ用品;レジャー用品;文房具;家屋の内張り材;マネキン;玩具部材;街路灯グローブ、庇、天蓋などの屋外使用部品;活魚タンク;工業用タンクなどのタンク類;照明用カバーなどの広範な用途に有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) アクリル酸エステル由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(A)の少なくとも1個;および、
メタクリル酸エステル由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(B)、および重合体ブロック(A)とは異なるアクリル酸エステル由来の構造単位を主体とする重合体ブロック(C)から選ばれる重合体ブロックの少なくとも1個;
が結合したアクリル系ブロック共重合体(I)から主としてなり;
(ii) 温度250℃、振動周波数5ラジアン/秒の条件下に測定した複素動的粘度η(5)が5.0×10Pa・s以下であり;
(iii) 下記の数式(1);

[式中、nはニュートン粘性指数、η(5)は温度250℃、振動周波数5ラジアン/秒の条件下に測定した複素動的粘度(単位Pa・s)、η(50)は温度250℃、振動周波数50ラジアン/秒の条件下に測定した複素動的粘度(単位Pa・s)を示す。]
で表されるニュートン粘性指数nが0.50以下であり;且つ
(iv)平均粒径が1mm以下である;
ことを特徴とする熱可塑性重合体粉末。
【請求項2】
回転粘度計によって測定された、温度250℃、ずり速度0.2sec−1における溶融粘度が3000Pa・s以下である請求の範囲第1項に記載の熱可塑性重合体粉末。
【請求項3】
水中カット法または衝撃粉砕法により得られたものである請求の範囲第1項または第2項に記載の熱可塑性重合体粉末。
【請求項4】
アクリル系ブロック共重合体(I)の重量平均分子量が5,000〜200,000である請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体粉末。
【請求項5】
アクリル系ブロック共重合体(I)を構成する重合体ブロック(A)の重量平均分子量が1,000〜150,000であり、重合体ブロック(B)および重合体ブロック(C)の重量平均分子量が2,000〜50,000である請求の範囲第1〜4項のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体粉末。
【請求項6】
アクリル系ブロック共重合体(I)が、重合体ブロック(B)−重合体ブロック(A)−重合体ブロック(B)からなるトリブロック共重合体である請求の範囲第1〜5項のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体粉末。
【請求項7】
重合体ブロック(A)を構成する原料の単量体の溶解度パラメーターσ(A)(単位:MPa1/2)と、重合体ブロック(B)または重合体ブロック(C)を構成する原料の単量体の溶解度パラメーターσ(B)またはσ(C)との差が2.5以下である請求の範囲第1〜6項のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体粉末。
【請求項8】
スラッシュ成形用または回転成形用である請求の範囲第1〜7項のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体粉末。
【請求項9】
請求の範囲第1〜8項のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体粉末を用いてスラッシュ成形または回転成形を行って成形体を製造する方法。
【請求項10】
請求の範囲第1〜8項のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体粉末を用いて製造した成形体。
【請求項11】
JIS−A硬度が40〜95の範囲の玩具部材である、請求の範囲第10項に記載の成形体。
【請求項12】
JIS−A硬度が95以上の照明カバーである、請求の範囲第10項に記載の成形体。

【国際公開番号】WO2004/041886
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【発行日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549591(P2004−549591)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013943
【国際出願日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】