説明

熱型赤外線センサ

【課題】赤外線センサチップに発生する熱応力や残留応力を小さくし、赤外線センサチップが割れてしまったり、その測定能力等に悪影響が現れたりするのを防ぐとともに、赤外線センサチップの周囲を容易に真空に維持することができ、測定精度や感度を所望のものに無理なくすることができる熱型赤外線センサを提供する。
【解決手段】赤外線を検知する赤外線センサチップ1の周囲を真空にした熱型赤外線センサ100であって、複数のリードピンPが設けられた平板状のステム2と、前記ステム2の面板部に接合され、前記赤外線センサチップ1と前記リードピンPとを電気的に接続するための中継配線31が設けられた回路基板3と、を備えており、前記赤外線センサチップ1は平板状のものであり、前記回路基板3に接合されており、前記回路基板3の熱膨張率は、前記回路基板3の熱膨張率と前記赤外線センサチップ1の熱膨張率の差の絶対値が、前記ステム2の熱膨張率と前記赤外線センサチップ1の熱膨張率の差の絶対値よりも小さくなるような値にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱型の赤外線センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱型の赤外線センサA100としては、図2に例示するように複数のリードピンAPが配置されたステムA1と、前記ステムA1に接合材により直接接合される赤外線センサチップA3と、赤外線を透過する窓を有し、前記赤外線チップA3及び前記リードピンAPを覆うように前記ステムA1に気密に取り付けられるキャン集合体A4とを備え、前記キャン集合体A4と前記ステムA1とによって形成された内部空間が真空に保たれているものが特許文献1に開示されている。
【0003】
このような熱型の赤外線センサA100では、前記ステムA1に前記赤外線チップA3を接合材により取り付けるときに、加熱して接合材を固化させる必要がある。
【0004】
ところで、通常ステムA1は鉄等からなる金属であり、赤外線センサチップA3は微細加工の施されたシリコンであるため、熱膨張率が大きく異なる。この熱膨張率の違いのため、赤外線センサチップA3に大きな熱応力が発生し、製造過程で赤外線センサチップA3はその薄さのために割れてしまうことがあるという不具合が発生する。また、仮に割れなかったとしても、残留応力によって赤外線センサチップA3の微細構造乃至チップ内部の半導体回路の特性が変化することによって、測定結果に悪影響を与えてしまうことも考えられる。
【0005】
このような問題を解決するために、この特許文献2に示されるようにステムの上に更に電子冷却素子を取り付けておき、その電子冷却素子の上面に赤外線センサチップを取り付けるとともに、その上面に形成された中継配線を介してリードピンと赤外線センサチップとをワイヤボンディングするように構成した熱型赤外線センサも提案されている。
【0006】
しかしながら、このものは、特許文献1に記載されているような、赤外線センサチップが直接ステムに取り付けられているものと比べると、複雑な構造の電子冷却素子がある分だけ赤外線センサチップが収容されている内部空間に接している部材の表面積が非常に大きくなってしまう。赤外線センサチップの測定精度や感度を良くするには、赤外線センサチップの周囲を真空にする必要があるが、電子冷却素子によって内部空間に接している部材の表面積が大きくなるため、真空に接している面から放出されるガスの量が増大するので真空を維持することは難しい。このようなことから、特許文献2に開示されている熱型赤外線センサでは、測定精度や感度を設計したものにすることは非常に困難である。
【特許文献1】特表2005−537473号公報
【特許文献2】特開平11−214423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述したような問題を一挙に解決するためになされたものであり、赤外線センサチップに発生する熱応力や残留応力を小さくし、赤外線センサチップが割れてしまったり、その測定能力等に悪影響が現れたりするのを防ぐとともに、赤外線センサチップの周囲を容易に真空に維持することができ、測定精度や感度を所望のものに無理なくすることができる熱型赤外線センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の熱型赤外線センサは、赤外線を検知する赤外線センサチップの周囲を真空にした熱型赤外線センサであって、複数のリードピンが設けられた平板状のステムと、前記ステムの面板部に接合され、前記赤外線センサチップと前記リードピンとを電気的に接続するための中継配線が設けられた回路基板と、を備えており、前記赤外線センサチップは平板状のものであり、前記回路基板に接合されており、前記回路基板の熱膨張率は、前記回路基板の熱膨張率と前記赤外線センサチップの熱膨張率の差の絶対値が前記ステムの熱膨張率と前記赤外線センサチップの熱膨張率の差の絶対値よりも小さくなるような値であることを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、前記赤外線センサチップが前記ステムに直接接合されているものに比べて、前記赤外線センサチップと前記回路基板との間の熱膨張率の差は小さいものであるので、赤外線センサチップに発生する熱応力を前記回路基板によって緩和することができる。より具体的には、前記ステムの熱変形による前記回路基板と前記ステムとの間の熱応力は、前記回路基板の前記ステムの界面で大きく発生し、赤外線センサチップとの界面にはほとんど発生しないので、前記ステムの熱変形は前記赤外線センサチップにほとんど影響を与えない。また、前記回路基板と前記赤外線センサチップとの間の熱膨張率の差を小さくなるようにしているので、略同じように熱変形をすることになり、赤外線センサチップにほとんど熱応力が及ばない。従って、前述したような熱膨張率の特性を持つ回路基板が間にあることにより、赤外線センサチップに及ぼす熱応力や残留応力を小さくすることができる。この結果、熱型赤外線センサの製造工程において、赤外線センサチップが加熱されて割れてしまうのを防ぎ、冷却後の残留応力によって測定精度に悪影響が出るのを防ぐことができるようになる。
【0010】
また、前記回路基板を前記ステムの面板部に接合し、前記回路基板に前記赤外線センサチップを接合するように構成してあるので、前記ステムと前記赤外線センサチップとの間の距離を、赤外線センサチップが温度変化によって割れないようにしつつ、できる限り近づけることが可能となる。従って、真空に接する部材の表面積を小さくできるので、部材からのガスの発生量を少なくすることができる。このことから、熱型赤外線センサの測定精度や感度を所望のものにすることが非常に容易となる。
【0011】
さらに、前記回路基板には前記赤外線センサチップと前記リードピンとを電気的に接続するための中継配線が設けられているので、前記赤外線チップと前記中継配線の間をワイヤボンディングし、前記中継配線と前記リードピンとの間をワイヤボンディングすることによって空中に配線されるワイヤの長さを短くすることができる。従って、ワイヤが落下等の衝撃で接触してしまう等の不具合を防ぐことができるので、配線の信頼性を向上させることができる。
【0012】
しかも、前述したようにワイヤの長さに起因する信頼性の問題が中継配線によって解決されるので、前記赤外線センサチップに対して前記ステムを面積的に非常に大きなものですることができ、前記リードピンを前記赤外線センサチップに対して離して配置することも可能になる。この結果、熱型赤外線センサに補償機能等の新たな機能を追加するための構成を前記回路基板や前記ステムに容易に設けることができるようになり、レイアウトの自由度も大きくなる。
【0013】
前記回路基板の最も好ましい実施の態様としては、前記回路基板の熱膨張率が前記赤外線センサチップの熱膨張率と等しければよい。このようにすれば、前記赤外線センサチップと前記回路基板は温度変化に対して同じように熱変形することになるので、前記回路基板に起因する熱応力は前記赤外線センサチップに発生しなくなり、製造工程での割れや、残留応力の発生を最も抑えることができるようになる。
【0014】
真空に保たれた作業室において溶接等を行う真空溶接機のような高価な真空封止設備を用いることなく熱型赤外線センサのパッケージ内を真空にするには、前記ステムは貫通孔が形成されているものであり、その貫通孔に排気パイプが接続されていればよい。このようなものであれば、予め組み立てられた熱型赤外線センサに対して排気パイプを真空源に接続して、前記赤外線センサチップの周囲を徐々に真空にすることができ、真空になった時点で排気パイプを潰すなどすることによって容易に真空にすることができる。また、このようなものであることから、真空度を変化させながら赤外線センサチップの感度等のチェックを行うこともできる。
【0015】
熱型赤外線センサのパッケージ内において、赤外線センサチップの近傍の温度を測定し、前記赤外線センサチップの出力する測定値について精度よく温度補償できるようにするには、前記回路基板に温度測定部を設けたものであればよい。
【0016】
熱型赤外線センサに用いられる部材からの放出ガスや、その他の原因によってパッケージ内の真空度が変化したとしても、設計値通りの真空度を保てるようにするには、前記ステムの回路基板が接合されている側に、固体表面の吸着作用により気体を溜めこむゲッターを更に備え、当該ゲッターは前記ステムから離間して設けられるものであればよい。このようなものであれば、ゲッターの温度を上昇させることにより、吸着作用を活性化させる場合でも、前記ゲッターは前記ステムから離間しているので、前記ステムに余計な熱が伝わることで、熱応力や残留応力が発生するのを防ぐことができる。さらに、前記ステムにゲッターの熱が逃げないようにすることができるので、吸着作用を活性化させるのに必要な熱量を小さくすることができ、吸着作用に関する熱効率を大幅に改善することができる。
【発明の効果】
【0017】
このように本発明によれば、前記ステムと前記赤外線センサチップとの間に前記回路基板が接合してあり、前記回路基板の熱膨張率が前記赤外線センサチップに発生する熱応力や残留応力を緩和するように設定されているので、製造工程における昇温降温時に赤外線センサチップが割れないようにし、測定への悪影響がでるのを防ぐことができる。また、前記ステムと前記赤外線センサチップとの間に前記回路基板を設け、それぞれを接合するように構成してあるので、真空にするべき空間に接する部材の表面積を小さくすることができ、部材から発生するガスの量を減らすことができるので、容易に真空にすることができ、熱型赤外線センサの測定精度や感度を所望のものにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
本実施形態の熱型赤外線センサ100は、例えば放射温度計等に用いられるものである。図1に示されるように、本実施形態の熱型赤外線センサ100は、ステム集合体Sと、前記ステム集合体Sを覆うように取り付けられるカバーであって、前記ステム集合体との間に内部空間を形成するキャン集合体Cとから構成してある。
【0020】
前記ステム集合体Sは、ベースとなるステム2と、前記ステム2に接合材により直接接合される回路基板3と、前記回路基板3に接合材により直接接合される赤外線センサチップ1と、内部空間の気体の吸着を行う非昇華型ゲッター5と、を備えたものである。なお、接合材は、加熱されることによって固化するものであり、真空中においてガスをあまり発生させないようなものであり、熱伝導の高い材料からなるものである。例えば、有機材料からなるものよりも無機材料からなるものが好ましい。無機材料であれば、真空にされた内部空間に有機物質が飛散して赤外線の測定精度や感度に影響を与えることを防ぐことができる。
【0021】
前記ステム2は、鉄等からなる金属から構成してあるものであり、概略長方形状の一枚の平板である。その中央部に貫通孔21が形成してあり、その貫通孔21に外側へ向かって排気パイプ22が取り付けてある。そして、長手方向の周辺部には複数のリードピンPが一列ずつそのヘッドが内部空間側へ突出するように厚み方向に貫通させて設けてある。
【0022】
前記排気パイプ22は、内部空間を真空にするときに真空源と接続されるものであり、所望の真空度になった時点で減圧しながら挟みつぶされて封止されるものである。
【0023】
前記ヘッドが前記ステム2から突出している高さは、略前記赤外線センサチップ1の高さになるように構成してある。
【0024】
前記回路基板3は、シリコン基板であって、前記ステム2の略全面を覆う大きさの概略長方形状のものであり、接する面の略全面が接合材によって接合してあるものである。この回路基板3には、接合されている前記ステム2の貫通孔21と同軸になるように貫通孔が設けてあり、前記リードピンPのヘッドと前記赤外線センサチップ1との間を中継するアルミによって中継配線31が施してある。この中継配線31の端部と、前記リードピンPのヘッド及び前記赤外線センサチップ1のアルミ製のボンディングパッドBとは、ワイヤボンディングによって電気的に接続される。前記中継配線31の端部はそれぞれ、回路基板3の周辺部と前記赤外線センサチップ1が接合されている中央部に配置してある。したがって、中継配線31のそれぞれの端部は前記リードピンP及び前記ボンディングパッドBはできる限り近づくように配線されているので、それぞれを接続するワイヤWの長さを十分に短いものとすることができる。この回路基板3には、更に温度測定部であるサーミスタ4が設けてあり、このサーミスタ4も前記リードピンPとは中継配線31を介して接続するように構成してある。
【0025】
前記赤外線センサチップ1は、熱型のアレイセンサであり、シリコンによってできているサーモパイルあるいはボロメータである。このものは、MEMS等によりシリコンに微細形状が形成してあり、その微細形状によって赤外線を検知して、電気信号として出力するものである。ここで、本明細書における赤外線とは、赤外領域とともにテラHzの波長の光も含む概念である。また、この赤外線センサチップ1も前記回路基板3と接する面の略全面が接合材によって接合されるように構成してある。
【0026】
前記非昇華型ゲッター5は、固体表面の吸着作用により気体を内部に溜めこむものであり、通電により発熱させることで活性化させてその吸着度を変化させることができるものである。本実施形態では、非昇華型ゲッター5は前記ステム2、前記回路基板3、キャン集合体Cに接触しないようにそれぞれから離間させて設けてある。このようにすることによって、全ての面から十分に気体の吸着を行うことができるとともに、発熱時に他の部品へ影響を与えてしまうのを防止することができる。より具体的には、前記非昇華型ゲッター5はリード線によって前記ステム2と接触しないように空中に支えられるように取り付けてある。このため、気体の吸着を活性化させるために通電して発熱させたとしても、内部空間は真空であり、非昇華型ゲッター5は前記ステム2から離間しているので、前記ステム2に熱はほとんど伝わらない。従って、非昇華型ゲッター5の発熱では、前記ステム2はほとんど熱変形を起こさないので、前記赤外線センサチップにも熱応力や残留応力が発生するのを防ぐことができる。また非昇華型ゲッター5から熱が逃げにくくなるので、吸着度を高めるのに必要な熱量を小さくすることができ、発熱させるのに必要な電力も小さくなるので、大きな電流を流す必要もなくなる。
【0027】
前記キャン集合体Cは、前記赤外線センサチップ1と略同じ大きさの開口部を有したキャン6と、その開口部に溶接によりはめ合わされる窓材7と、から構成してある。
【0028】
前記キャン6は、前記ステム2を覆うようカバーの一部をなすものであって、前記ステム2に対して気密に溶接して取り付けられるものであり、その材質は熱伝導度が高いものが好ましい。例えば、後述する窓材7がシリコンやゲルマニウムであるならば、熱膨張率の近い鉄、ニッケル窓材7は前記赤外線センサチップ1に入射させるべき波長の光を選択するように赤外線透過膜が形成してある。
【0029】
次に、このように構成された熱型赤外線センサ100について、熱応力による赤外線センサチップ1の割れ又は、その微細構造への熱による悪影響を防止するための構成について説明する。
【0030】
前記赤外線センサチップ1はMEMS等の微細加工により形成されるものであるので、非常に薄く形成されたアレイセンサである。従って、熱膨張率が大きく異なる金属製のステム2等と直接接合するように加熱して接合材を固化させると、熱膨張率の違いから大きな熱応力が発生し、赤外線センサチップ1はその薄さのために割れが生じてしまうことがある。
【0031】
そのため、前記回路基板3は、前記ステム2と前記赤外線センサチップ1間に設けられて、前記赤外線センサチップ1に発生する熱応力や残留応力が小さくなるようにその熱膨張率又は厚さを設定してある。
【0032】
より具体的には、前記回路基板3の熱膨張率は前記ステム2と前記赤外線センサチップ1の熱膨張率の間の値、又は前記赤外線センサチップ1の熱膨張率と同じ値になるようにしてある。なお、本実施形態では、前記回路基板3の材質は、前記赤外線センサチップ1の材質と同じ、シリコンであるので、その熱膨張率は略同じものになるようにしてあることになる。具体的な数値で表すと、ステムが鉄で熱膨張率が約12×10−6/℃であり、シリコンである赤外線センサチップの熱膨張率が2.4×10−6/℃等である場合に、回路基板3の熱膨張率をステム2(12×10−6/℃)と赤外線センサチップ1(2.4×10−6/℃)の間か、あるいは赤外線センサチップの熱膨張率の近傍の値(例えば、2.0×10−6/℃等)になるようにしてある。従って、前記赤外線センサチップ1と前記回路基板3は温度変化によって略同じ熱変形をするので、熱応力や残留応力は殆ど発生しない。
【0033】
また、前記回路基板3の厚さは、前記ステム2の熱変形によって生じる熱応力が前記回路基板3を介して前記赤外線センサチップ1に伝達されるのを略防ぐことができる厚さであり、また、回路基板3自体が、熱応力によって割れたり破断したりすることを防ぐことができる強度となるような厚さにしてある。
【0034】
言い換えると、前記回路基板3と前記ステム2とは、熱膨張率が大きく異なるので、前記回路基板3はステム2側には大きな熱応力が発生するものの、赤外線センサチップ1側には前記ステム2と接合されていることによる熱応力の影響がほとんど発生しないようにその厚さが設定してある。
【0035】
また、前記赤外線センサチップ1と前記回路基板3との間、及び前記回路基板3と前記ステム2との間には接合材により接合層が形成されている。この接合層は各部材を接合する働きとともに、各部材間の熱膨張率の違いによる熱応力や残留応力を緩和するものであり、前記回路基板の機能に対して補助的な役割を果たすものである。
【0036】
このように本実施形態の熱型赤外線センサ100によれば、前記赤外線センサチップ1と同じ材質であり、十分な厚さを有した前記回路基板3が前記ステム2に接合され、その回路基板3に前記赤外線センサチップ1が接合してあるので、前記赤外線センサチップ1には、温度変化によって大きな熱応力や残留応力が生じることを防ぐことができる。このため、製造工程において接合材を固化するために加熱した場合に赤外線センサチップ1が割れたり、その測定精度や感度が微小構造の変化によって変わってしまったりすることを防ぐことができる。
【0037】
また、前記赤外線センサチップ1と前記ステム2との間には前記回路基板3しかないので、高さ方向の寸法を小さいものにすることができる。このため、真空にされるべき内部空間に接する部材の表面積を小さくすることができるので、部材から発生するガスの量を減らすことができるので、容易に真空にすることができるようになる。従って、赤外線センサチップ1の測定精度や感度を無理なく所望の値にすることが可能となる。
【0038】
また、前記回路基板3には中継配線31が設けてあるので、前記赤外線センサチップ1のボンディングパッドBと前記リードピンPとをワイヤボンディングするワイヤWの長さを短くすることができる。従って、空中配線されるワイヤWの長さが短いので、ワイヤW同士の接触を起こりにくくすることができ、配線の信頼性を保つことができる。
【0039】
しかも、配線の信頼性を保つことができるので、赤外線センサチップ1に対して前記ステム2を面積的に大きなものとすることができるので、前記サーミスタ4や前記ゲッター5といった部材を配置するためのスペースを容易に作ることができる。また配線の仕方によってそのレイアウトを様々なものとすることができる。
【0040】
さらに、回路基板3にはサーミスタ4が設けてあるので、内部空間の前記赤外線センサチップ1のごく近傍の温度を測定することができ、精度よく測定値等の温度補償を行うことができる。
【0041】
加えて、前記ステム2が貫通孔21及び排気パイプ22を備えたものであるので、前記ステム集合体Sと前記キャン集合体Cを溶接した後に、その排気パイプ22を真空源に接続して内部空間を徐々に真空度を高めていくことができる。従って、真空中において溶接を行う必要がないので、高価な真空封止設備を用意する必要がなく、しかも、熱型赤外線センサ100の製造途中において、真空度を変化させながら赤外線センサチップ1の測定精度や感度をチェックすることができる。また、製造途中における不良品のチェックも行うことができるようになる。
【0042】
その他の実施形態について説明する。
【0043】
前記実施形態では前記回路基板と前記赤外線センサチップは同じ材質のものであったが、異なる材質のものであっても構わない。例えば、前記回路基板の熱膨張率は、前記回路基板の熱膨張率と前記赤外線センサチップの熱膨張率の差の絶対値が、前記ステムの熱膨張率と前記赤外線センサチップの熱膨張率の差の絶対値よりも小さくなるような値であればよい。
【0044】
より具体的には、前記回路基板の熱膨張率は前記ステムと前記赤外線センサチップの熱膨張率の間の値であればよい。また、間の値でなかったとしても、前記赤外線センサチップの熱膨張率よりも前記回路基板の熱膨張率がわずかに大きい、又は小さいものであっても構わない。つまり、前記赤外線センサチップが前記ステムに直接接合された場合に比べて、発生する熱応力や残留応力が小さくなるような値であればよい。好ましい熱膨張率を有した前記回路基板としては、前記赤外線センサチップと同じ熱膨張率であるものが挙げられる。このようなものであれば、赤外線センサチップに熱応力や残留応力が生じないようにすることができるので、赤外線センサチップが温度変化によって割れたり、微細構造や内部の半導体回路の特性が変化することによって測定結果に悪影響がでたりすることを好適に防ぐことができる。
【0045】
前記回路基板は有機材料よりも無機材料のほうが好ましい。これは真空中に有機物質が発散することによって測定精度に影響が与えられるのを防ぐためである。
【0046】
前記回路基板は中継配線のみが形成されているものに限られない。例えば、回路基板に電気回路を形成しておき、測定結果の補償をするための演算を行わせるなどすることができる。
【0047】
サーミスタは白金抵抗体やダイオードであっても構わない。また中継配線と同じアルミによって抵抗体を形成することによって温度測定部としても構わない。
【0048】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱型赤外線センサの模式図。
【図2】従来の熱型赤外線センサの一例を示す模式的断面図。
【符号の説明】
【0050】
100・・・熱型赤外線センサ
1・・・赤外線センサチップ
2・・・ステム
3・・・回路基板
P・・・リードピン
4・・・サーミスタ(温度測定部)
5・・・ゲッター
21・・・貫通孔
31・・・中継配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を検知する赤外線センサチップの周囲を真空にした熱型赤外線センサであって、
複数のリードピンが設けられた平板状のステムと、
前記ステムの面板部に接合され、前記赤外線センサチップと前記リードピンとを電気的に接続するための中継配線が設けられた回路基板と、を備えており、
前記赤外線センサチップは平板状のものであり、前記回路基板に接合されており、
前記回路基板の熱膨張率は、前記回路基板の熱膨張率と前記赤外線センサチップの熱膨張率の差の絶対値が前記ステムの熱膨張率と前記赤外線センサチップの熱膨張率の差の絶対値よりも小さくなるような値であることを特徴とする熱型赤外線センサ。
【請求項2】
前記ステムは貫通孔が形成されているものであり、その貫通孔に排気パイプが接続されている請求項1記載の熱型赤外線センサ。
【請求項3】
前記回路基板に温度測定部を設けられている請求項1又は2記載の熱型赤外線センサ。
【請求項4】
前記ステムの回路基板が接合されている側に、固体表面の吸着作用により気体を溜めこむゲッターを更に備え、当該ゲッターは前記ステムから離間して設けられるものである請求項1、2又は3記載の熱型赤外線センサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−122132(P2010−122132A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297572(P2008−297572)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】