熱媒体用流路およびその製造方法並びにそれを用いた金型
【課題】設計・製作の自由度が比較的高い「熱媒体用管路の製造方法」を提供すること。
【解決手段】(i)熱溶融性の第1材料を用いて基板の主面上に第1層を形成する工程であって、製造することになる熱媒体用流路に相当する形状となるように第1層を形成する工程、(ii)非熱溶融性の第2材料を用いて基板の主面上に第2層を形成する工程であって、第2層によって第1層が包み込まれるように第2層を形成する工程、および、(iii)第1層を溶融させる工程を含んで成り、工程(iii)では、溶融させた第1層の第1材料を基板上から除去することによって、基板と第2層との間に熱媒体用流路を形成することを特徴とする熱媒体用管路の製造方法。
【解決手段】(i)熱溶融性の第1材料を用いて基板の主面上に第1層を形成する工程であって、製造することになる熱媒体用流路に相当する形状となるように第1層を形成する工程、(ii)非熱溶融性の第2材料を用いて基板の主面上に第2層を形成する工程であって、第2層によって第1層が包み込まれるように第2層を形成する工程、および、(iii)第1層を溶融させる工程を含んで成り、工程(iii)では、溶融させた第1層の第1材料を基板上から除去することによって、基板と第2層との間に熱媒体用流路を形成することを特徴とする熱媒体用管路の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱媒体用流路を製造する方法に関する。より詳細には、本発明は、温調用の熱媒体を流すための流路の製造方法に関する。また、本発明は、かかる製造方法で得られる熱媒体用流路およびそれを用いた金型にも関する。
【背景技術】
【0002】
熱媒体用管路などの温調用流路は、加熱、保温または冷却などの所望の単位操作が必要とされる技術分野において広く用いられている。例えば、プラスチック製品の成形においては、射出成形用金型などの温調に熱媒体用管路が用いられている。
【0003】
熱媒体用管路の形成方法としては、ドリルや放電加工といった除去加工による形成方法が存在する他、光硬化性樹脂の光造形・金属光造形・金属光造形複合加工による形成方法などが存在する。更には、表面部材の裏側にて熱交換媒体を流すための管を配置し、管をハンダ付けなどの方法により表面部材と接触させ、次いで、セメントや低融点金属などで管を埋設する形成方法なども存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3107965号公報
【特許文献2】特開2004−195758号公報
【特許文献3】特開2010−209389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来技術については、次のような問題点があった:
・ドリルや放電加工等の除去加工:加工プロセス上の制約に起因して管路の形状は直線状に限定されることが多く、それゆえ、管路設計の自由度は低い。更に、管路を曲げたい場合では直線状の穴を交差させたうえで、所望の管路以外の部分の穴を栓などによって塞ぐ必要がある。
・光造形・金属光造形・金属光造形複合加工:管路設計の自由度は比較的高いものの、製造できる管路のサイズは造形装置が加工できる加工物の大きさに依存している。従って、管路サイズが大きくなると、複数のサブ管路を組み合わせる必要があり、プロセス工程が増えてしまう。
・管を埋設する形成方法:管路設計の自由度が管の曲げ加工の自由度に制限されるので、管がつぶれるような曲率の設計は行うことができない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、設計・製作の自由度が比較的高い「熱媒体用管路・流路の製造方法」を提供することである。本発明の別の課題は、そのように設計・製作の自由度が高い製造方法で得られる管路・流路であって、温調機能が向上した熱媒体用の管路・流路(およびそれを用いた金型)を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、
(i)熱溶融性の第1材料を用いて基板の主面上に第1層を形成する工程であって、製造することになる熱媒体用流路に相当する形状となるように第1層を形成する工程、
(ii)非熱溶融性の第2材料を用いて基板の主面上に第2層を形成する工程であって、第2層によって第1層が包み込まれるように第2層を形成する工程、および
(iii)第1層を溶融させる工程
を含んで成り、
工程(iii)では、溶融させた第1層の第1材料を基板上から除去することによって、基板と第2層との間に熱媒体用流路を形成することを特徴とする熱媒体用流路の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の製造方法では、基板上に第1層および第2層を順次形成した後に第1層を加熱除去しており、その第1層の除去後に形成される空間を熱媒体用流路として用いることを特徴の1つとしている。
【0009】
ある好適な態様では、第1層の溶融および除去のために高温流体を用いる。かかる場合、高温流体を第1層に接触させて第1層の溶融を引き起こし、それによって、溶融した第1層の第1材料を流動させつつ高温流体を第1材料の形成領域に流通させることが好ましい。
【0010】
ある好適な態様では、第1材料として低融点固体材料を用いる。かかる態様においては、低融点固体材料はパラフィンであってよい。パラフィンは、特に側鎖型パラフィンであることが好ましい。
【0011】
ある好適な態様では、基板として金属基板を用いる。
【0012】
ある好適な態様では、第2材料として硬化性流体を用いる。かかる態様においては、工程(ii)の実施に際して、硬化性流体を第1層の上に塗布し、その塗布した硬化性流体を硬化に付すことによって第2層を形成することが好ましい。硬化性流体は低融点固体材料の融点以下の温度領域にて硬化する硬化性樹脂の流動体であってよい。
【0013】
ある好適な態様では、第2材料として金属材料を用いる。かかる態様では、工程(ii)の実施に際して、溶射プロセスまたは電鋳プロセスを実施し、それによって、第1層上に第2層を形成する。第2層の上には更なる層を形成してもよい。つまり、第2層を覆うように第2層上に第3層を形成してよい。尚、第2材料は「基板材質と同じもの」又は「基板材質と線膨張係数が近いもの」を用いることができる。溶射プロセスを実施する場合、第1層のマクロ的な溶融を引き起こす熱量が第1層に伝わることがないように、“溶融ノズルからの距離”、“同一箇所の連続溶射時間”および/または“雰囲気による冷却効果”などを調整してよい。一方、電鋳プロセスを実施する場合では、例えば無電解めっきなどを用いて第1層上に導電層を形成してよい。
【0014】
ある好適な態様では、高温流体として、低融点固体材料の融点以上の温度領域に沸点を有する流体を用いる。この場合、低融点固体材料の融点以上に加熱された高温流体が第1層に接触しながら流動することによって第1層を溶融させ、それによって、その溶融した第1層の第1材料が高温流体の流れに同伴されることになるように高温流体を第1層の形成領域に流通させる。
【0015】
高温流体の使用に先立っては、高温流体の流通部分を第1層に予め形成しておいてもよい。
【0016】
第1層の形成に際しては、低融点固体材料をその融点以上に一旦加熱することを通じて熱媒体用流路に相当する形状を得てよい。
【0017】
ある好適な態様では、基板の主面における第2層形成領域に対して接着剤(接着剤層)を設ける。また、別のある好適な態様では、第2材料の硬化性流体として、「常温硬化に相当する“前硬化”」と「加熱硬化に相当する“後硬化”」との2段階の硬化を経ることができる硬化性流体を用いる。かかる場合、工程(ii)では、低融点固体材料の融点未満の温度で硬化性流体を“前硬化”に付して第2層前駆体を形成し、次いで、低融点固体材料の融点以上の温度で第2層前駆体を“後硬化”に付して第2層を形成することが好ましい。
【0018】
接着剤は、「2段階硬化の硬化性流体」の“前硬化”に際して硬化せず、その後の“後硬化”に際して硬化するものであってよい。また、工程(ii)および(iii)において、硬化性流体を“前硬化”に付した後、媒体用流路を形成するための部材全て(即ち、基板、第1層および第2層前駆体)を「低融点固体材料の融点以上の温度」かつ「硬化性流体の“後硬化”および接着剤の“硬化”を引き起こす温度」に付してよい。これによって、硬化性流体の“後硬化”と接着剤の“硬化”と低融点固定材料の“溶融(好ましくは溶融に伴う除去”とが並行して行われることになる。尚、低融点固体材料の溶融・除去に際して残存した低融点固体材料は「低融点固体材料の融点以上の沸点を有する高温流体」によって全て除去することができる。
【0019】
ある好適な態様では、工程(i)に先立って、基板の主面を粗面化しておく。かかる場合、基板上にサンドブラストなどの除去加工を施すことによって粗面を形成してよい。あるいは、基板上に溶射を施すことによって粗面を形成してもよい(尚、溶射金属としては、基板材質と同じ種類の材質を用いる又は線膨張係数が近い金属を用いることが好ましい)。
【0020】
基板の粗面化を行う場合、サンドブラストなどの除去加工を行った後に溶射を行う態様であってもよい。また、基板の粗面化を行う態様においては、基板の粗面化面の上に接着剤を塗布して接着層を設けてもよい(特に、溶射によって粗面化を行った場合では、溶射層上に接着層を設けることが好ましい)。
【0021】
ある好適な態様では、第1層と外部との間の流体連通を可能とする管部材を設ける。かかる場合、管部材と第2層との接合面(界面)に接着剤(接着層)を設けてよい。また、溶射または接着することにより管部材の一部を基板の主面上に固定してもよい。更には、管部材を第2層によって保持されるような態様で設けてもよい。
【0022】
高温流体は、その使用後に回収してよい。具体的には、溶融および除去に用いた高温流体を、除去された溶融状態の第1材料と共に回収してよい。かかる場合、回収された高温流体および第1材料は、それらの比重に基づいて相互に分離させることが好ましい。
【0023】
本発明では、上述した製造方法を通じて得られる熱媒体用流路も提供される。かかる熱媒体用流路は、“平板状部材”と“凹部を備えた部材”とから構成されて成る熱媒体用流路であって、
「凹部の側壁部分」と「平板状部材の主面」とが相互に接合された構成となっており、それによって、「凹部の内側」と「平板状部材の主面」との間に熱媒体用流路が形成されていることを特徴としている。
【0024】
本発明の熱媒体用流路のある好適な態様では、平板状部材が金属材質から成る。また、別のある好適な態様では、凹部を備えた部材が樹脂材質または金属材質から成る。
【0025】
本発明の熱媒体用流路のある好適な態様では、「凹部を成す側壁部分」と「平板状部材の主面」との間の相互の接合部分に接着剤層が設けられている。更に別の好適な態様では、平板状部材の主面自体は粗面を成している。
【0026】
本発明では、上述の熱媒体用流路を用いた金型も提供される。かかる金型は、平板状部材が金型キャビティーを形成する金型壁を成しており、熱媒体用流路が金型キャビティーに充填される成形材料を温調するための流路となっていることを特徴としている。
【0027】
本発明の金型は、熱媒体用流路が金型壁と直接的に接触した状態となっている特徴も有している。
【発明の効果】
【0028】
本発明の製造方法では、基板上に第1層および第2層を形成した後に第1層を加熱除去することによって熱媒体用流路を形成するので、全体のプロセスが比較的シンプルなものとなっている。ここで、形成される熱媒体用流路の形態(形状)は第1層の形状に依存している。この点、第1層の形状は基板上への第1材料の供給・配置態様で決まるため、第1材料の供給・配置次第で任意の熱媒体用流路の形態(形状)を得ることができる。特に、第1材料に低融点固体材料を用いた場合では、第1材料をその融点以上に一旦加熱すると一時的または局所的に軟化させることができるので、第1層の形状を任意に容易に変化させることができ、その結果、所望の流路形態(流路形状)を比較的簡易に得ることができる。以上のように、本発明の製造方法は、熱媒体用流路の設計・製作の点で自由度が高いものとなっている。
【0029】
また、本発明の製造方法で製造される熱媒体用流路は基板と直接的に接した状態で得られる。熱媒体用流路の設置側と反対側に位置する基板の主面は“温調対象物が接する面”に相当する。つまり、本発明では熱媒体用流路を流れる熱媒体は、配管部材などを介することなく、基板と直接接することになるので、熱媒体からの熱が効果的に温調対象物へと伝わる。これは、本発明の製造方法で得られる熱媒体用流路は伝熱効率が向上した構成となっていることを意味している。更には、上述したように熱媒体用流路の形態は第1層の形状・配置の調整によって任意に変更することができるところ、第1層と基板との接触面積を大きいものとすれば、熱媒体用流路と基板との接触面積を大きくできる。従って、本発明では大きい伝熱面を備えた熱媒体用流路を比較的容易に得ることができるといえる。このように本発明に係る熱媒体用流路は向上した伝熱特性・伝熱効率を有するので、それをプラスチック成形用金型へと適用した場合では、表面温度制御の応答を速くすることが可能となる(これによって、例えば成形サイクルを短縮することができたり、あるいは、成形むらの無い高品位な成形品を得ることができたりする)。
【0030】
常套的な熱媒体用管路では、繰り返し使用していると、熱応力などを受けて管と基板との間の接合状態が弱まって伝熱効率が低下し得る。これは、管と基板との材質の違い、即ち、線膨張係数の違いに起因している場合が多い。この点、本発明に係る熱媒体用流路およびそれを用いた金型では、第2層(即ち、凹部を備えた部材)と基板(即ち、平板状部材)とが相互に接合されることで“流路”が形成されているので、かかる熱応力による影響が低減されている。つまり、第2層を構成する第2材料として「基板の材質」または「基板の材質と線膨張係数が近いもの」を選択すれば、材質の違い、即ち、線膨張係数の違いに起因した熱影響を低減することができ、熱媒体用流路の耐久性を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1(a)〜(e)は、本発明に係る熱媒体用流路の製造工程を説明するための模式的な斜視断面図である。
【図2】図2(a)および(b)は、高温流体の流通部分60を第1層20に予め形成しておく態様を模式的に示した断面図である。
【図3】図3(a)は、第1層の所望形状を得る際に実施するプレス加工の態様を模式的に示した断面図であり、図3(b)は、第1層の所望形状を得る際に実施する押出加工の態様を模式的に示した斜視図である。
【図4】図4(a)は、低融点固体材料部材の表面を局所的に加熱してそれらを相互に接合する態様を表した模式図であり、図4(b)は、サブ流通部分60’同士が接続されるように複数の低融点固体材料部材を局所的に加熱して相互に接合する態様を表した模式図であり、図4(c)は、低融点固体材料部材の表面またはそれと接触することになる別の固体表面(例えば基板の主面)とを一旦加熱してそれらを相互に接合する態様を表した模式図である。
【図5】図5は、溶融および除去に用いた高温流体を回収して再利用する態様を表した模式図である。
【図6】図6(a)〜(d)は、第2材料として硬化性流体を用いた場合の本発明の製造方法を模式的に表した斜視断面図である。
【図7】図7(a)および(b)は、高温流体の流通部分60を第1層20に予め形成しておく態様を模式的に示した断面図である。
【図8】図8(a)〜(e)は、第2材料として金属材料を用いた場合の本発明の製造方法を模式的に表した斜視断面図である。
【図9】図9(a)〜(e)は、接着剤を使用する場合の本発明の製造方法を模式的に表した斜視断面図である。
【図10】図10(a)〜(f)は、“2段階硬化型の硬化性流体”を使用する場合の本発明の製造方法を模式的に表した斜視断面図である。
【図11】図11(a)〜(d)は、“2段階硬化型の硬化性流体”を使用する場合(特に接着剤Aを使用する場合)の本発明の製造方法を模式的に表した断面図である。
【図12】図12(a)および(b)は、管部材設置の態様を模式的に表した断面図である。
【図13】図13は、基板を粗面化する場合の本発明の製造方法を模式的に表した斜視断面図である。
【図14】図14は、基板を粗面化する場合(特に溶射層により粗面化する場合)の本発明の製造方法を模式的に表した断面図である。
【図15】図15は、基板の粗面化面に対して接着層を設ける場合の本発明の製造方法を模式的に表した断面図である。
【図16】図16は、本発明に係る金型100の態様を模式的に表した断面図である。
【図17】図17は、本発明の実施例1における態様を表した写真図である。
【図18】図18は、本発明の実施例2における態様を表した写真図である。
【図19】図19は、本発明の実施例3における条件および写真図である。
【図20】図20は、本発明の実施例3における結果図および結果グラフである。
【図21】図21は、本発明の実施例4における態様を表した写真図である。
【図22】図22は、本発明の実施例5における態様を表した写真図である。
【図23】図23は、従来技術の金型の態様を模式的に表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下にて、本発明に係る「熱媒体用流路の製造方法」、「熱媒体用流路」および「金型」について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、図面に示す各種の要素は、本発明の理解のために模式的に示したにすぎず、寸法比や外観などは実物と異なり得ることに留意されたい。
【0033】
[本発明の熱媒体用流路の製造方法]
本発明の熱媒体用流路の製造方法は、
(i)熱溶融性の第1材料を用いて基板の主面上に第1層を形成する工程であって、製造することになる熱媒体用流路に相当する形状を有するように第1層を形成する工程、
(ii)非熱溶融性の第2材料を用いて基板の主面上に第2層を形成する工程であって、第2層によって第1層が包み込まれるように第2層を形成する工程、および
(iii)第1層の加熱によって第1層の少なくとも一部を溶融させる工程
を含んで成り、
工程(iii)では、溶融させた第1層の第1材料を基板上から除去・排除することによって、基板と第2層との間に熱媒体用流路を形成する(即ち、基板と第2層とから構成された熱媒体用流路を形成する)。
【0034】
かかる本発明の製造方法の特徴の1つは、基板上に第1層(第1材料から成る熱溶融性層)および第2層(第2材料から成る非熱溶融性層)を順次積層した後、第1層を加熱除去して得られる空間を熱媒体用流路(即ち“熱媒体用管路”)として用いることである。特に本発明では、基板の主面と第2層との間で第1層を包み込む積層構造を得てから、第1層を加熱除去して熱媒体用流路を形成している。
【0035】
第1層の溶融および除去には高温流体を用いることが好ましい。具体的には、高温流体を第1層の形成領域に流通させることによって、高温流体の熱でもって第1層を溶融させると共に、その溶融した第1層(即ち、第1材料)を高温流体の流れに同伴させることによって「基板および第2層の積層構造体」から除去することが好ましい(以下、本願明細書では「高温流体」のことを「除去用流体」とも称す)。
【0036】
本願明細書において「熱媒体用流路」にいう「熱媒体」とは、熱交換などの単位操作を行うための伝熱用媒体のことを指している。従って、実質的には「熱媒体」は「高温媒体」または「低温媒体」のことを指している。
【0037】
また、本願明細書において「基板」とは、第1層および第2層が形成される支持部材のことを実質的に意味している。例えば、基板は、金属成分を含んで成る金属基板であってよく、あるいは、セラミックス成分を含んで成るセミラック基板であってもよい。
【0038】
また、本願明細書において「熱溶融性の第1材料」とは、加熱すると溶融して流動性を呈する材料のことを実質的に意味している。特に、「熱溶融性の第1材料」は、常温では固体形態を有しており、融点以上に加熱されると最終的に流動性を呈するものの、一時的または局所的に加熱された程度では固体形態を維持したままで一時的または局所的に軟化し得るものを指している。
【0039】
一方、本願明細書において「非熱溶融性の第2材料」とは、加熱によって溶融しない材料のことを実質的に意味している。特に、「非熱溶融性の第2材料」は、工程(iii)で第1層(第1材料から成る層)を加熱して溶融させる際に、溶融しない物性を有するものを指している。
【0040】
更に、本願明細書において「高温流体」にいう「高温」とは、“第1材料から成る第1層”の溶融を引き起こす程度の温度のことを実質的に意味している。特に第1材料として低融点固体材料を用いる場合では、「高温」は、低融点固体材料の融点以上の温度のことを意味している。尚、「高温流体」は、その使用時にて液体状態を維持していることが好ましいので、“第1層の溶融を引き起こす程度の温度”でありつつも、それは流体自体の沸点未満の温度に温調されていることが好ましい。
【0041】
図1を参照して、本発明の製造方法について工程を追って説明していく。本発明の実施に際しては、まず、工程(i)として、熱溶融性の第1材料を用いて基板10の主面上に第1層20を形成する。
【0042】
図1(a)および1(b)に示すように、基板10上に形成される第1層20の形状は、「製造することになる熱媒体用流路に相当する形状(50’)」となるようにする。換言すれば、本発明においては、最終的に溶融除去される第1層の形成領域が熱媒体用流路を成すことになるので、対象となる熱媒体用流路の形態に従って第1層20を形成しておく。
【0043】
工程(i)で用いる基板10は、例えば平板形状を有していることが好ましい(即ち、一例を挙げると基板10は“金属板”であってよい)。この基板は、実際の用途において熱媒体からの熱を伝える部分に相当し得るので、その観点でいえば、基板10は熱伝導性の良好な金属成分(一例を挙げると銅)を含んで成ることが好ましい。
【0044】
工程(i)で用いる第1材料としては、例えば、低融点固体材料を用いることが好ましい。かかる低融点固体材料は、除去用流体(高温流体)の熱では溶融して流動性を呈するものの、第2層形成時における熱では流動性を呈しないものが一般に好ましい。従って、低融点固体材料の融点は、除去用流体の温度よりも低く、かつ、第2層の形成プロセス時の熱処理温度よりも高いことが好ましい。
【0045】
例えば除去用流体に水を用いる場合(即ち、最高温度100℃となる高温流体を用いる場合)では、融点が100℃以下となった低融点固体材料を用いることが好ましい。また、第2層として硬化性流体を用いる場合では、融点がその硬化性流体の硬化温度以上となる低融点固体材料を用いることが好ましい。従って、除去用流体に水を用いると共に、第2層を硬化性流体から形成する場合では、硬化性流体の硬化温度以上、かつ、100℃以下の融点を有する固体材料を用いることが好ましい。一例を挙げると、常温(例えば25℃)〜100℃の範囲に融点、好ましくは50℃〜100℃の範囲に融点、より好ましくは60℃〜90℃の範囲に融点を有する固体材料を用いることが好ましい。
【0046】
具体的な低融点固体材料は、特に制限するわけではないが、例えばパラフィン(特に固形状のパラフィン)であってよい(従って、低融点固体材料はワックスと称されるものであってもよい)。パラフィンは、除去用流体(高温流体)の熱により溶融して流動性を呈する一方、第2層形成時における熱では流動性を呈しないからである。パラフィンの中でも特に側鎖型パラフィン(例えば融点が60℃〜90℃の側鎖型パラフィン)が好ましい。側鎖型パラフィンは、直鎖型パラファインと比べて、より好適に第1層を基板上に形成することができるからである。具体的には、側鎖型パラフィンは、加熱されて溶融が開始してもある程度長く固体形状を維持することができるので、所望形状の第1層を金属板上に形成し易い。換言すれば、熱媒体用流路の形状を有するように第1層を加工することを踏まえると、硬すぎたり脆くて割れたりすることなく、かつ、加熱により軟化して加工できるものが望ましく(形状の微調整が行えるのが望ましく)、その点で側鎖型パラフィンが好適であるといえる。以下の表1を参照されたい。
【0047】
【表1】
【0048】
低融点固体材料を用いた第1層の形成に際しては、切削加工、プレス加工または押出加工などを適当に行ってよく、それによって、所望の流路形状を有するように第1層を好適に形成できる。例えば、図2(a)に示すように高温流体の流通部分60を第1層に予め形成しておく場合を想定すると、そのような第1層(即ち、図2(a)に示される“コの字状”の第1層20)を、図3(a)に示すようなプレス加工によって、あるいは、図3(b)に示すような押出成形加工によって形成することができる。ちなみに、図2(b)に示されるような中央領域に流通部分60を備えた第1層は、第1層の中実部をドリル加工することによって得ることができる他、上述の“コの字状”の第1層を2つ対向して組み合わせることによっても得ることができる。
【0049】
ここで本発明の製造方法は、熱媒体用流路の形態、即ち、第1層の形状につき自由度が高いものであるが、これは、パラフィンなどの低融点固体材料を用いる場合に特にいえることである。第1材料としてパラフィンなどの低融点固体材料を用いると、その固体材料の融点以上に一旦加熱することを通じて熱媒体用流路に相当する形状を容易に得ることができるからである。例えば、ある形状に一旦形成された低融点固体材料部材を局所的または一時的に融点以上に加熱すると軟化させることができ、その結果、曲げ加工を好適に行うことができる。従って、湾曲した形状・曲がった形状の第1層を得ることができ、ひいては、そのような湾曲した形状・曲がった形状の熱媒体用流路を容易に得ることができる。
【0050】
更に、各種加工法を用いて作製した複数の低融点固体材料部材を一旦局所的に融点以上に加熱して、それらを相互に接続してもよい。複数の低融点固体材料部材を相互に接続すると、熱媒体用流路が長いであっても好適に対応できる点で有利である。例えば、図4(a)に示すように、流路形状に一旦形成された低融点固体材料部材の表面を局所的に融点以上に加熱することによって、複数の低融点固体材料部材を相互に接合できる。尚、高温流体の流通部分60を予め形成しておく場合においては、図4(b)に示すように、サブ流通部分60’同士が接続されるように複数の低融点固体材料部材を相互に接合してよい。
【0051】
また、図4(c)に示すように、流路形状に一旦形成された低融点固体材料部材の表面またはそれと接触することになる別の固体表面(特に図示するような基板の主面)を一旦融点以上に加熱し、低融点固体材料物と当該別の固体表面との接合を行ってもよい。
【0052】
工程(i)に引き続いて、工程(ii)を実施する。即ち、非熱溶融性の第2材料を用いて基板の主面上に第2層を形成する。特に、図1(c)に示すように、第2層30によって第1層20が包み込まれることになるように、基板10の主面上に第2層を形成する。
【0053】
第2材料としては、硬化性流体(硬化性流動体)を用いることができる。かかる硬化性流体は、第1材料たる低融点固体材料の融点以下の温度領域で硬化できるものであることが好ましい。また、硬化性流体は、塗布特性の観点からペースト形態を有していることが好ましい。このような硬化性流体を用いる場合、第1層を包み込むように基板の主面上に硬化性流体を塗布した後、その塗布した硬化性流体を硬化に付すことによって所望の第2層を形成することができる。
【0054】
硬化性流体は、「一般的な熱硬化樹脂の形成に用いられる主剤」と「一般的な熱硬化樹脂の形成に用いられる硬化剤または硬化促進剤」との組み合わせを含んで成り得る流体である。「一般的な熱硬化樹脂の形成に用いられる主剤」は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂およびシアネート樹脂から成る群から選択される少なくとも1種以上の熱硬化樹脂の主剤であることが好ましい。「一般的な熱硬化樹脂の形成に用いられる硬化剤または硬化促進剤」は、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族酸無水物、脂環式酸無水物、有機過酸化物および多塩基酸から成る群から選択される少なくとも1種以上の硬化剤であることが好ましい。尚、クラックが入ったり、割れたりすることなく所望の第2層が形成されるように、第2層形成時に生じ得る収縮現象が小さくなる第2材料を用いることが好ましい(例えば、第2層形成時の収縮率が0.1%以下となる第2材料を用いることが好ましい)。あくまでも一例であるが、収縮を抑える観点でいえば、エポキシ系の樹脂を主剤として含んだ第2材料を用いてよい。
【0055】
第2材料としては、硬化性流体以外の材料も用いることができる。例えば、金属材料を第2材料として用いてよい。かかる場合、溶射プロセスまたは電鋳プロセスを実施することによって、金属材料から成る第2層を第1層上に好適に形成することができる。
【0056】
溶射プロセスでは、溶射ノズルからの距離、同一箇所の連続溶射時間、および/または、雰囲気ガスによる冷却効果などを調整することによって、第1層の溶融をマクロで引き起こす熱量が第1層に伝わることがない条件でもって実施することが好ましい。ちなみに、溶射プロセス以外にも“コールド・スプレー”などの他の金属供給プロセスを実施してもかまわない。
【0057】
電鋳プロセスを実施する場合、不導体であるパラフィン(もしくはワックス)などから成る第1層上には無電解めっきなどによって予め導電層を形成しておくことが好ましい。
【0058】
第2材料の金属材料は、溶射プロセスまたは電鋳プロセスを実施できるのであれば、その種類に特に制限はない。しかしながら、流路の使用時においては、第2層と基板との材質の違い(特に線膨張係数の違い)に起因した熱ひずみ発生による変形・割れなどの不具合が生じることも考えられる。その点に鑑みると、第2層の第2材料は「基板の材質と同じもの」又は「基板の材質と線膨張係数が近いもの」であることが好ましい。
【0059】
第2層を溶射プロセスまたは電鋳プロセスで形成すれば、“熱ひずみ発生による変形・割れなどの不具合”を防止できるものの、第2層自体は比較的薄い厚さを有するので、必要に応じて付加的な層(即ち、第3層)を設けてもよい。例えば、形成された第2層に空孔が存在する場合では、封孔処理や樹脂埋めなどの処理を付加的な層で行ってよく、これによって、最終的に得られる熱媒体用流路での流体漏洩を防ぐことができる。また、熱媒体用流路またはそれを含む構造物に剛性が必要である場合では、第2層の外側に補強層を設けてもよい。
【0060】
工程(ii)に引き続いて、工程(iii)を実施する。即ち、第1層を加熱することによって、第1層を溶解させる。この際、図1(d)に示すように、溶融させた第1層の第1材料を基板10上から除去する。より具体的には、溶融させた第1層の第1材料を「基板10および第2層30の積層構造体」から除去する。これによって、第1層が形成されていた領域、即ち、基板10と第2層30との間の空間に熱媒体用流路50が形成されることになる(図1(e)参照)。
【0061】
高温流体、即ち、除去用流体としては、低融点固体材料の融点以上の温度領域に沸点を有する流体(例えば水)を用いることが好ましく、それを、低融点固体材料の融点以上に加熱した状態で用いることが好ましい。かかる場合、高温流体が第1層に接触しながら流動することによって第1層を溶融させ、それによって、その溶融した第1層の第1材料を同伴した状態で高温流体を流して除去することができる(図1(d)参照)。換言すれば、高温流体を第1層の形成領域に圧送し、それによって、高温流体の熱で第1層を溶融させつつ高温流体の流れによって“溶融した第1層の第1材料”を除去する。
【0062】
図5に示すように、第1層の溶融および除去に用いた高温流体、即ち、除去用流体は回収して再利用してよい。具体的には、除去用流体は、溶融した第1層の成分(即ち、第1材料/低融点固体材料)と混合された状態で流路出口から排出されてくるが、それら混合物を回収して分離槽(特に流路外の除去用流体流動系に設置された分離槽)に送ってよい。そして、分離槽において、混合物中の除去用流体および第1材料/低融点固体材料を、それらの比重に基づいて相互に分離させる。除去用流体に水(即ち温水)、第1材料/低融点固体材料にパラフィンを用いた場合、それらは互いに溶解性を呈さず、パラフィンの方が水よりも比重が小さいので、上層がパラフィン層で下層が水層(即ち温水層)となって分離する。従って、このように分離された水層(即ち温水層)は、再度温調された後、除去用流体としてサイクル利用することができる(分離されたパラフィンについても別の熱媒体用流路の形成に再利用できる)。ちなみに、分離槽で分離を引き起こすためには、分離対象物の比重が異なることと互いに溶け合わないこととが必要であるが、界面活性剤が混入して乳化現象が引き起こされないようにも注意する必要がある。
【0063】
以上本発明の製造方法を説明してきたが、次に『第1材料が低融点固体材料であって、第2材料が硬化性流体である場合』および『第1材料が低融点固体材料であって、第2材料が金属材料である場合』を例にとって本発明の製造方法の一態様を経時的に説明する。
【0064】
(硬化性流体の第2材料を用いた態様)
図6を参照して、第2材料として硬化性流体を用いた態様について説明する。
【0065】
まず、図6(a)に示すように、平板状の基板10上に低融点固体材料層20を形成する。製造される熱媒体用流路を金型の熱交換に使用する場合では、平板状の基板10は、金型キャビティーを形成する金型壁に相当する。かかる場合、平板状の基板10は、銅などの熱伝導性材料を含んで成ることが好ましく、その厚さT1(図6(a)参照)は、例えば0.5〜5mm程度であり得る。
【0066】
第1層20は、熱媒体用流路に相当する形状を有するように形成される。この点、本発明では、低融点固体材料をその融点以上に一旦加熱して柔らかくすることを通じて所望の流路形状を得てよい。また、図7に示すように、除去用の高温流体が効果的に流れることになるように第1層20に流通部分60を予め形成しておいてもよい。熱媒体用流路を金型の熱交換に使用する場合では、第1層の厚さT2(図6(a)参照)は、例えば5〜20mm程度であり得る(尚、かかる第1層の厚さの値は、流路の水力直径に相当し得るものである)。
【0067】
第1層の形成後、第2層を形成する。具体的には図6(b)に示すように、硬化性流体の塗布によって第1層20の周囲を硬化性流体で包埋し、次いで、その硬化性流体を硬化させて第2層30を形成する。硬化性流体は常温によって硬化させてよく、あるいは、積極的に熱を加えて硬化させてもよい。尚、用いられる硬化性流体は硬化時の収縮率は小さいのが好ましく、例えば収縮率が0.1%以下(即ち、収縮率0〜0.1%)のものが好ましい。熱媒体用流路を金型の熱交換に使用する場合では、第2層の厚さ、特に、第1層の上面を基準にした図6(b)に示すような厚さT3は、例えば2〜10mm程度であり得る。
【0068】
第2層の形成後、高温流体を第1層の形成領域に流す。これによって、図6(c)に示すように、高温流体の熱でもって第1層を溶融させつつ、その溶融した第1層の第1材料を高温流体の流れに同伴させて除去する。高温流体は温水であってよい(特に、低融点固体材料の融点以上の温度かつ沸点未満の温度に温調された温水)。例えば、流通部分60が第1層20に形成されている場合、常温の水を流通部分60に流すことから開始して、徐々にその水の温度を上げていき、最終的に低融点固体材料の融点以上の温度かつ沸点未満の温度にしてもよい。
【0069】
高温流体で第1層が除去されると、図6(d)に示されるように、第1層の除去後に形成される空間(基板10と第2層30との間の空間)が最終的に熱媒体用流路50となる。
【0070】
このような硬化性流体を用いた態様では、硬化性流体を補強する目的で、硬化性流体中にフィラ―を混入させてよい。あるいは、予め第1層(低融点固体材料)の周囲にフィラ―を設置してハンドレイアップ法などによって硬化性流体にフィラ―を含浸させる手法を採用してもよい。尚、このようなフィラーは、第2層形成時の収縮防止を図る観点、あるいは、第2層の線膨脹係数の調整を図る観点で使用してもよい。
【0071】
(金属材料の第2材料を用いた態様)
図8を参照して、第2材料として金属材料を用いた態様について説明する。
【0072】
まず、図8(a)に示すように、平板状の基板10上に低融点固体材料層20を形成する。製造される熱媒体用流路を金型の熱交換に使用する場合では、平板状の基板10は、金型キャビティーを形成する金型壁に相当する。かかる場合、平板状の基板10は、銅などの熱伝導性材料を含んで成ることが好ましく、その厚さt1(図8(a)参照)は、例えば0.5〜5mm程度であり得る。
【0073】
第1層20は、熱媒体用流路に相当する形状を有するように形成される。この点、本発明では低融点固体材料をその融点以上に一旦加熱して柔らかくすることを通じて所望の流路形状を得てよい。また、前述と同様、除去用の高温流体が効果的に流れることになるように第1層20に流通部分60を予め形成しておいてもよい。熱媒体用流路を金型の熱交換に使用する場合では、第1層の厚さt2(図8(a)参照)は、例えば5〜20mm程度であり得る(尚、かかる第1層の厚さの値は、流路の水力直径に相当し得るものである)
【0074】
第1層の形成後、第2層を形成する。具体的には図8(b)に示すように、溶射プロセスまたは電鋳プロセスを実施することによって第1層20の周囲を金属層で包埋して、第2層30を形成する。かかる第2層の厚さt3(図8(b))は、例えば、0.5〜2mm程度であり得る。
【0075】
第2層の形成後、高温流体を第1層の形成領域に流す。これによって、図8(c)に示すように、高温流体の熱でもって第1層を溶融させつつ、その溶融した第1層の第1材料を高温流体の流れに同伴させて除去する。高温流体は温水であってよい(特に、低融点固体材料の融点以上の温度に温調された温水)。例えば、流通部分60が第1層20に形成されている場合、常温の水を流通部分60に流すことから開始して、徐々にその水の温度を上げていき、最終的に低融点固体材料の融点以上の温度にしてもよい。
【0076】
高温流体で第1層が除去されると、図8(d)に示されるように、第1層の除去後に形成される空間(基板10と第2層30との間の空間)が最終的に熱媒体用流路50となる。
【0077】
形成された流路壁(特に第2層)に空孔が存在する場合においては、封孔処理や樹脂埋めなどの処理によって流路を流れる熱媒体のリーク防止を図ることが好ましい。また、流路または流路を含む構造物に剛性が必要である場合においては、第2層の外側に補強層を設けてもよい。即ち、例えば図8(e)に示すように第2層30の外側に第3層70を設けてもよい。
【0078】
(接着剤使用の態様)
図9を使用して、接着剤を使用する態様について説明する。
【0079】
まず、図9(a)に示すように、平板状の基板10上に低融点固体材料層20を形成する。次いで、基板10に接着剤80を塗布する。図9(b)に示すように、接着剤80は、低融点固体材料層の形成領域以外の基板主面に塗布することが好ましい。換言すれば、基板主面のうち第2層形成領域に対して接着剤層80を設けることが好ましい。
【0080】
用いる接着剤は、第2層と基板との接着強度を結果的に高めるものであれば特に制限はなく、例えばエポキシ系接着剤である。後述するが、接着剤は第1層の硬化性流体の特性に鑑みた硬化特性を備えていることが好ましい。基板主面上に形成される接着剤層80の厚さは、例えば1〜50μm程度であってよい。
【0081】
接着剤層の形成に引き続いて第2層を形成する。具体的には、上述したように、硬化性流体または金属材料などから第2層30を形成する。例えば、第1層20を包み込むように基板主面に硬化性流体を塗布した後、それを硬化させることによって第2層30を形成する(図9(c)参照)。
【0082】
第2層の形成後、第1層を溶融・除去する。つまり、図9(d)に示すように、高温流体を第1層の形成領域に流すことによって、第1層を溶融させつつ、その溶融した第1層の第1材料を除去する。これにより最終的に熱媒体用流路50を得ることができる(図9(e)参照)。
【0083】
このような接着剤を用いる態様では、接着剤の接着力に起因して、“基板からの第2層の剥離”が効果的に防止される。つまり、熱媒体用流路の実際の使用に際して媒体圧力が流路に掛かった場合であっても第2層が基板から剥離することがなく、媒体のリークを効果的に防止することができる。
【0084】
(2段階硬化型の硬化性流体の使用態様)
図10を使用して、“2段階硬化型の硬化性流体”を使用する態様について説明する。本明細書で使用する「2段階硬化型の硬化性流体」とは、「常温硬化に相当する前硬化(仮硬化)」と「加熱硬化に相当する後硬化(本効果)」との2段階の硬化を経ることができる硬化性流体のことを実質的に意味している。「前硬化(仮硬化)」は、第2材料の機械強度(硬度、曲げ強度、弾性率など)を発現させるための常温硬化を実質的に意味している一方、「後硬化(本効果)」は、第2材料の耐熱性を向上させる(Tgを上げる)ための加熱硬化を実質的に意味している。「前硬化(仮硬化)」では、一般に、対象材料が収縮する現象を伴うことになる。あくまでも例示にすぎないが、2段階硬化型の硬化性流体としては、例えば以下のものを挙げることができる:
ナガセケムテックス製エポキシ材
・XNR6505(エポキシ樹脂、主剤)
・XNH6505(アミン系硬化剤)
※ XNR6505とXNH6505とを混合して使用する。XNR6505:XNH6505(重量比)=約100:約25
【0085】
まず、図10(a)および(b)に示すように、平板状の基板10上に低融点固体材料層20を形成する。そして、図10(c)に示すように、第1層20を包み込むように基板主面に2段階硬化型の硬化性流体を塗布し、硬化性流体を前硬化に付して第2層前駆体30’を形成する。具体的には、硬化性流体を常温下に置くことによって機械的に強度を発現させ、それによって、塗布された硬化性流体から第2層前駆体30’を得る。例えば、塗布された硬化性流体を5℃〜35℃の室温下(好ましくは10℃〜30℃の室温下)に好ましくは6〜24時間程度置くことによって前硬化を実施する。前硬化に引き続いて後硬化を実施する。具体的には、前硬化により得られた第2層前駆体を加熱処理して耐熱性を向上させ、それによって、第2層前駆体30’から第2層30を形成する(図10(d)参照)。例えば、後硬化に際しては第2層前駆体30’を好ましくは100〜130℃の加熱温度下に30〜120分程度置く。
【0086】
第2層の形成後、第1層を溶融・除去する。つまり、図10(e)に示すように、高温流体を第1層の形成領域に流すことによって、第1層を溶融させつつ、その溶融した第1層の第1材料を除去する。これにより熱媒体用流路50を最終的に得ることができる(図10(f)参照)。
【0087】
このような「2段階硬化型の硬化性流体を使用する態様」では、第1層の低融点固体材料の融点未満の温度で「前硬化」を実施して“第2層形状”を一旦形成しておき、次いで、第1層の低融点固体材料の融点以上の温度で「後硬化」を実施して最終的な第2層を得ることが可能となる。従って、第2層形成に際して第1層形状を好適に保持することができ(特に、第2形成時の加熱処理に起因した第1層変形、ひいては第2層変形を好適に防止することができ)、結果的に、所望の流路形態を備えた熱媒体用流路をより効果的に得ることができる。この点、詳述しておくと、「前硬化」は第1層の低融点固体材料の融点未満の温度で行われるので、第1層が熱的に変形することなく、その形状が保持された状態で第2層前駆体を形成できる一方(つまり、所望の流路形状を保持した状態で“第2層形状”を得ておくことができる一方)、“第2層形状”が一旦得られた後の「後硬化」は、第1層の低融点固体材料の融点以上の温度で行われるので、第1層を溶融させつつ(好ましくは溶融に伴って第1層を除去しつつ)、最終的な第2層を第2層前駆体から得ることができる。
【0088】
ちなみに「2段階硬化型の硬化性流体を使用する態様」であっても、上記接着剤を使用することが好ましい。特に、接着剤としては、硬化性流体の「前硬化」に際しては硬化せず、硬化性流体の「後硬化」に際して硬化する接着剤(以後、「接着剤A」とも称する)を使用することが好ましい。かかる場合、第2層の硬化形成に伴う“反り”を接着剤Aによって抑制することができる。
【0089】
具体的には、図11(a)〜(d)に示されるような態様で接着剤Aを用いると(特に、基板と第2層原料との間に接着剤Aを用いると)、硬化性流体の前硬化時に発生する“収縮現象に起因する反り”を“硬化前の接着剤Aにより発現される界面の滑り”によって抑制することが可能となる。つまり、“硬化前の接着剤”が干渉的に作用することによって、第2層前駆体形成時の収縮に起因した接合不具合(特に、第2層前駆体と基板との接合状態の不具合)を減じることができる。これによって、“第2層の剥離”が更に効果的に防止されることになる。
【0090】
尚、硬化性流体を“前硬化”に付した後、媒体用流路を形成するための前駆体全て(即ち、基板、第1層および第2層前駆体)を「低融点固体材料の融点以上の温度であって硬化性流体の“後硬化”および接着剤の硬化を引き起こす温度」に付してよい。これにより、硬化性流体の“後硬化”と接着剤の硬化と低融点固定材料の溶融および除去とが並行して行われることになり、流通部分(例えば、図2(a)および(b)に示すような高温流体の流通部分60)を特に設けなくても第1層・第1材料の除去を効果的に行うことができる。かかる場合にあっては、低融点固体材料の溶融・除去に際して残存した低融点固体材料を「低融点固体材料の融点以上の沸点を有する高温流体」によって全て除去することが好ましい。
【0091】
(管部材設置の態様)
かかる態様は、図12(a)および(b)に示されるように、「第1層と外部との間の流体連通を可能とする管部材90」を設ける態様である。管部材90を設けることによって、高温流体を第1層の形成領域へと好適に導入したり、あるいはその逆で高温流体を第1層の形成領域から好適に排出させたりすることができる。また、かかる管部材をそのまま最終製品として使用してもよく、その場合には、熱媒体を流路へと好適に導入できたり、流路から熱媒体を好適に排出させたりできる。
【0092】
管部材90の設置についていえば、予め管部材を基板に配置した後に第1層20を形成し、その後に第2層を形成してもよいし、あるいは、第1層20を形成した後に管部材を配置し、その後に第2層を形成してもよい。即ち、第2層の形成前に管部材を配置しておけばよい。しかしながら、第2層形成後に管部材を配置することも可能であり、例えばドリル加工などの機械加工で第2層に穴を設け、その穴に管部材を配置してもよい。管部材の設置に際しては、溶射または接着によって管部材の一部を基板の主面上に固定してもよい。また、管部材が第2層によって効果的に保持されるように管部材および第2層の設置形態を適宜考慮することが好ましい。
【0093】
管部材を設ける場合、管部材と第2層との相互の接合面に接着剤(接着層)を設けてよい。これにより、管部材と第2層との間の界面のシール性を向上させることができ、高温流体や熱媒体などのリークを防止することができる。
【0094】
(基板の粗面化の態様)
図13および図14を使用して、基板の粗面化を実施する態様について説明する。本態様では、図13および図14に示すように、基板10上に第1層20および第2層30を形成するに先立って、基板主面に対して粗面化を施す(特に、図13(a)および図14(a)参照)。サンドブラストなどの除去加工により粗面を形成してよいし、あるいは、溶射によって粗面を形成してもよい(尚、溶射金属は基板材質と同じ種類の材質を用いる又は線膨張係数が近い金属を用いることが好ましい。なぜなら、熱媒体用流路の実際の使用時にて温度変化を伴う場合、熱膨張差による熱応力を小さくでき、“基板からの溶射層の剥離”を効果的に防止できるからである)。
【0095】
“サンドブラストなどの除去加工”または“溶射”のいずれの場合であっても、基板が粗面化されることによって、最終的に得られる熱媒体用流路において第2層の接合強度を強くすることができる。具体的には、第2層の基板からの剥離が“粗面化によるアンカー効果”に起因して効果的に防止される。従って、熱媒体用流路の実際の使用に際して媒体圧力が流路に掛かった場合であっても第2層が基板から剥離することがなく、媒体のリークを効果的に防止できる。
【0096】
基板に粗面化処理を施した後は、上述の態様と同様の工程を実施すればよい。即ち、第1層20および第2層30を形成し(図13(b)および(c)参照)、その後、高温流体でもって、第1層を溶融・除去する(図13(d)参照)。これによって熱媒体用流路50を最終的に得ることができる(図13(e)参照)。
【0097】
基板の粗面化を行う態様では、サンドブラストなどの除去加工した後に溶射を行ってもよい。この場合、サンドブラストによって基板表面を凹凸にした後で、その凹凸領域に溶射金属から成る粒状面を形成することができる。実質的には“溶射金属の粒状面”によって基板粗面化が達成され得るが、かかる“溶射金属の粒状面”の基板に対する接合強度は向上したものとなる。
【0098】
例えば図15に示すように、基板の粗面化を行う態様においては粗面化面上に接着剤を塗布して接着層を設けてもよい。かかる場合、粗面化面に起因した“接着剤の接触面積増加の効果”が供されることになり、第2層の剥離防止効果が更に効果的に奏されることになる。
【0099】
[本発明の熱媒体用流路]
次に、上記本発明の製造方法で得られる熱媒体用流路について説明する。本発明の熱媒体用流路は、“平板状部材10”と“凹部30aを備えた部材30”とから構成されて成る熱媒体用流路50である。図1(e)、図6(d)および図8(d)に示すように、「凹部30aの側壁部分」と「平板状部材10の主面」とが相互に接合された構成となっており、それによって、「凹部30aの内側」と「平板状部材10の主面」との間に熱媒体用流路50が形成されていることを特徴としている。
【0100】
本明細書において「凹部」とは、部材30にて局所的に形成された溝部分のことを意味している(例えば、ある角度で折れ曲がるように窪んで成る形状の溝部分のみならず、Rをもって窪んで成る形状の溝部分なども意味している)。尚、凹部の側壁部分の頂面は同一平面上に位置していることが好ましい。
一方、本明細書において「平板状部材」とは、全体として平坦な形状を有する部材を意味している。好ましくは、平板状部材の主面は、実質的にフラットな面を成していることが好ましいものの、部材30との間で熱媒体用流路50が形成されるのであれば、曲面を成していても、あるいは、粗面を成していてもかまわない。
【0101】
平板状部材は主として金属材質から成ることが好ましい(即ち、平板状部材が金属板であることが好ましい)。特に製造される熱媒体用流路が金型の熱交換に使用される場合では、金属材質から成る平板状部材10は、金型キャビティーを形成する金型壁に相当する。一方、凹部を備えた部材30は主として樹脂材質または金属材質から成ることが好ましい。具体的には、上述の製造方法の第2層の形成にて硬化性流動体を用いた場合では“凹部を備えた部材30”が樹脂材質から成ることになり、その一方、溶射プロセスまたは電鋳プロセスを実施した場合では“凹部を備えた部材30”が金属材質から成ることになる。
【0102】
尚、製造方法の実施に際して接着剤を使用した場合、本発明の熱媒体流路では、「凹部を成す側壁部分」と「平板状部材の主面」との接合部分に接着剤層80が設けられている(図9(e)参照)。接着剤層80の厚みは、例えば1〜50μm程度である。また、製造方法の実施に際して基板粗面化を実施した場合、平板状部材の主面が粗面を成している。
【0103】
その他の本発明の熱媒体用流路の構成・特徴などについては、上述の[本発明の熱媒体用流路の製造方法]で触れているので、重複を避けるために説明を省略する。
【0104】
[本発明の金型]
次に、上記本発明の熱媒体用流路を用いた金型について説明する。本発明の金型100は、図16に示すように、平板状部材10が金型キャビティーを形成する金型壁を成しており、熱媒体用流路50が金型キャビティーに充填された成形材料を温調するための流路を成している。
【0105】
図示するように、本発明の金型100では、熱媒体用流路50が金型壁10と直接的に接触した状態となっている。つまり、本発明の金型100は、成形時に樹脂原料が接触する金型表面部材の裏側に温調媒体が直接的に接する金型であるといえる。
【0106】
このような金型は、向上した伝熱特性・伝熱効率を有するので、金型表面温度の制御の応答が速くなる。これによって、例えば熱硬化性樹脂の注型成形における成形サイクルを短縮することができたり、あるいは、成形むらの無い高品位な成形品を得ることができたりする。また、本発明の金型では、凹部を備えた部材30と平板状部材10とが相互に接合されることで“流路”が形成されているので、かかる熱応力による影響が低減されている。つまり、凹部を備えた部材30を構成する材料として「平板状部材10の材質」または「平板状部材10の材質と線膨張係数が近いもの」を選択すると、材質の違い、即ち、線膨張係数の違いに起因した熱影響を低減でき、熱媒体用流路の耐久性を効果的に向上させることができる。
【0107】
このような本発明の金型の特徴は、以下のような従来技術の事情を踏まえると、特に有利な特徴であることが理解されよう:
●従来技術とその問題点(図23参照):ニッケル電鋳などにより形成された金型表面部材の裏側に温調媒体を流すための管を配置し,管はハンダ付けなどの方法により金型表面部材と接触させている。その後、補強のためにセメントなどで管を埋設している。樹脂成形時では管の内部に金型温度以上の温調媒体を流し、金型表面部材と接触した注入された熱硬化性樹脂に熱を与えている。これによって、硬化反応を発生させ、成形品を得ている。注型成形で成形サイクルを短縮するためには、樹脂を注入した後の金型表面温度上昇の時間短縮が必要である。しかしながら、従来技術では、金型が大きな熱容量を持っていること、金型部材と温調媒体を流す管の接触面積が小さいこと、温調媒体自体が熱容量を持っていること等によって、金型の加熱に時間を要してしまい、成形サイクルを短縮することができない。また、耐久性の面では、金型を使用していくうちに、金型表面部材と管との固定が外れる場合があり、外れた部分の熱交換が悪くなる問題点がある。外れた管を再び固定するためには補強のセメントなどを一度除去し、管の固定後に再び埋設を実施する必要があるためにメンテナンス性は良くない。
【0108】
本発明の金型の好適な態様は、温調媒体が流れる流路表面の熱伝達率が5000W/m2K以上となる「温調媒体、流路寸法、温調媒体循環用ポンプ」を有している。また、別の好適な態様では、樹脂材質から成る“凹部を備えた部材30”に黒鉛系炭素繊維あるいは鉄粉などを含有させて、伝熱特性・伝熱効率の更なる向上が図られている。
【0109】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0110】
例えば、上述の説明では第1層の溶融に“高温流体の熱”を用いたが、本発明は必ずしもかかる態様に限定されない。例えば、基板を加熱することによって、あるいは、第2材料の硬化反応時の熱を利用することによって、第1層の溶融を引き起こしてもよい。
【実施例】
【0111】
(実施例1)
本発明に従って、熱媒体用流路を作製した:
作製条件
・基板:ステンレス製の金属板
・第1材料:側鎖型パラフィン(融点:72℃)
・第2材料:硬化性流動体(エポキシ系)
・高温流体:水(最終的に95℃まで加熱して使用)
【0112】
上記作製条件に基づいて本発明の製造方法を実施した結果、「第2材料から成る凹部を備えた部材の内側」と「金属板の主面」との間に熱媒体用流路を好適に作製することができた(図17参照)。
【0113】
(実施例2)
本発明に従って、接着剤を用いた以下の条件で熱媒体用流路を作製した:
・基板:ステンレス製の金属板
・第1材料:側鎖型パラフィン(融点:72℃)
・第2材料:硬化性流動体(エポキシ系)
・高温流体:水(最終的に95℃まで加熱して使用)
・接着剤:エポキシ系接着剤(図18に示すように第1層形成後かつ第2層形成前に基板上に塗布)
【0114】
上記作製条件に基づいて本発明の製造方法を実施した結果、「第2材料から成る凹部を備えた部材の内側」と「金属板の主面」との間に熱媒体用流路を好適に作製することができた(特に、「凹部を成す側壁部分」と「平板状部材の主面」との間の接合部分に接着剤層が設けられた熱媒体用流路を得ることができた)。
【0115】
(実施例3)
温調確認試験を実施した。具体的には、“作製された熱媒体用流路”を用いて、基板表面温度の応答性を調べた(図19参照)。尚、基板表面温度は「金型表面温度」に相当する。
【0116】
温調確認試験では、図20に示すような結果を得ることができ、本発明で得られる“熱媒体用流路”/“金型”については良好な表面温度応答性を有していることを確認できた。
【0117】
(実施例4)
“作製された熱媒体用流路”における断面構成を調べた。その結果、図21に示すように、基板と第2層とから熱媒体用流路が好適に構成されていることを確認できた。
【0118】
(実施例5)
「管部品」を用いた態様を図22に示す。管部品は、外部と第1層とを連通させるために使用した。管部品を設置した結果、好適に高温流体および熱媒体などを流すことができた。
【符号の説明】
【0119】
10 基板/平板状部材/金型キャビティーを形成する金型壁
20 第1層(第1材料から成る層)
30 第2層(第2材料から成る層)
30’ 第2層前駆体
40 高温流体(除去用流体)
50 熱媒体用流路
50’ 製造されることになる熱媒体用流路の領域・空間
60 高温流体の流通部分
60’ サブ流通部分
70 第3層
80 接着剤または接着剤層
90 管部材(管部品)
100 金型
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱媒体用流路を製造する方法に関する。より詳細には、本発明は、温調用の熱媒体を流すための流路の製造方法に関する。また、本発明は、かかる製造方法で得られる熱媒体用流路およびそれを用いた金型にも関する。
【背景技術】
【0002】
熱媒体用管路などの温調用流路は、加熱、保温または冷却などの所望の単位操作が必要とされる技術分野において広く用いられている。例えば、プラスチック製品の成形においては、射出成形用金型などの温調に熱媒体用管路が用いられている。
【0003】
熱媒体用管路の形成方法としては、ドリルや放電加工といった除去加工による形成方法が存在する他、光硬化性樹脂の光造形・金属光造形・金属光造形複合加工による形成方法などが存在する。更には、表面部材の裏側にて熱交換媒体を流すための管を配置し、管をハンダ付けなどの方法により表面部材と接触させ、次いで、セメントや低融点金属などで管を埋設する形成方法なども存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3107965号公報
【特許文献2】特開2004−195758号公報
【特許文献3】特開2010−209389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来技術については、次のような問題点があった:
・ドリルや放電加工等の除去加工:加工プロセス上の制約に起因して管路の形状は直線状に限定されることが多く、それゆえ、管路設計の自由度は低い。更に、管路を曲げたい場合では直線状の穴を交差させたうえで、所望の管路以外の部分の穴を栓などによって塞ぐ必要がある。
・光造形・金属光造形・金属光造形複合加工:管路設計の自由度は比較的高いものの、製造できる管路のサイズは造形装置が加工できる加工物の大きさに依存している。従って、管路サイズが大きくなると、複数のサブ管路を組み合わせる必要があり、プロセス工程が増えてしまう。
・管を埋設する形成方法:管路設計の自由度が管の曲げ加工の自由度に制限されるので、管がつぶれるような曲率の設計は行うことができない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、設計・製作の自由度が比較的高い「熱媒体用管路・流路の製造方法」を提供することである。本発明の別の課題は、そのように設計・製作の自由度が高い製造方法で得られる管路・流路であって、温調機能が向上した熱媒体用の管路・流路(およびそれを用いた金型)を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、
(i)熱溶融性の第1材料を用いて基板の主面上に第1層を形成する工程であって、製造することになる熱媒体用流路に相当する形状となるように第1層を形成する工程、
(ii)非熱溶融性の第2材料を用いて基板の主面上に第2層を形成する工程であって、第2層によって第1層が包み込まれるように第2層を形成する工程、および
(iii)第1層を溶融させる工程
を含んで成り、
工程(iii)では、溶融させた第1層の第1材料を基板上から除去することによって、基板と第2層との間に熱媒体用流路を形成することを特徴とする熱媒体用流路の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の製造方法では、基板上に第1層および第2層を順次形成した後に第1層を加熱除去しており、その第1層の除去後に形成される空間を熱媒体用流路として用いることを特徴の1つとしている。
【0009】
ある好適な態様では、第1層の溶融および除去のために高温流体を用いる。かかる場合、高温流体を第1層に接触させて第1層の溶融を引き起こし、それによって、溶融した第1層の第1材料を流動させつつ高温流体を第1材料の形成領域に流通させることが好ましい。
【0010】
ある好適な態様では、第1材料として低融点固体材料を用いる。かかる態様においては、低融点固体材料はパラフィンであってよい。パラフィンは、特に側鎖型パラフィンであることが好ましい。
【0011】
ある好適な態様では、基板として金属基板を用いる。
【0012】
ある好適な態様では、第2材料として硬化性流体を用いる。かかる態様においては、工程(ii)の実施に際して、硬化性流体を第1層の上に塗布し、その塗布した硬化性流体を硬化に付すことによって第2層を形成することが好ましい。硬化性流体は低融点固体材料の融点以下の温度領域にて硬化する硬化性樹脂の流動体であってよい。
【0013】
ある好適な態様では、第2材料として金属材料を用いる。かかる態様では、工程(ii)の実施に際して、溶射プロセスまたは電鋳プロセスを実施し、それによって、第1層上に第2層を形成する。第2層の上には更なる層を形成してもよい。つまり、第2層を覆うように第2層上に第3層を形成してよい。尚、第2材料は「基板材質と同じもの」又は「基板材質と線膨張係数が近いもの」を用いることができる。溶射プロセスを実施する場合、第1層のマクロ的な溶融を引き起こす熱量が第1層に伝わることがないように、“溶融ノズルからの距離”、“同一箇所の連続溶射時間”および/または“雰囲気による冷却効果”などを調整してよい。一方、電鋳プロセスを実施する場合では、例えば無電解めっきなどを用いて第1層上に導電層を形成してよい。
【0014】
ある好適な態様では、高温流体として、低融点固体材料の融点以上の温度領域に沸点を有する流体を用いる。この場合、低融点固体材料の融点以上に加熱された高温流体が第1層に接触しながら流動することによって第1層を溶融させ、それによって、その溶融した第1層の第1材料が高温流体の流れに同伴されることになるように高温流体を第1層の形成領域に流通させる。
【0015】
高温流体の使用に先立っては、高温流体の流通部分を第1層に予め形成しておいてもよい。
【0016】
第1層の形成に際しては、低融点固体材料をその融点以上に一旦加熱することを通じて熱媒体用流路に相当する形状を得てよい。
【0017】
ある好適な態様では、基板の主面における第2層形成領域に対して接着剤(接着剤層)を設ける。また、別のある好適な態様では、第2材料の硬化性流体として、「常温硬化に相当する“前硬化”」と「加熱硬化に相当する“後硬化”」との2段階の硬化を経ることができる硬化性流体を用いる。かかる場合、工程(ii)では、低融点固体材料の融点未満の温度で硬化性流体を“前硬化”に付して第2層前駆体を形成し、次いで、低融点固体材料の融点以上の温度で第2層前駆体を“後硬化”に付して第2層を形成することが好ましい。
【0018】
接着剤は、「2段階硬化の硬化性流体」の“前硬化”に際して硬化せず、その後の“後硬化”に際して硬化するものであってよい。また、工程(ii)および(iii)において、硬化性流体を“前硬化”に付した後、媒体用流路を形成するための部材全て(即ち、基板、第1層および第2層前駆体)を「低融点固体材料の融点以上の温度」かつ「硬化性流体の“後硬化”および接着剤の“硬化”を引き起こす温度」に付してよい。これによって、硬化性流体の“後硬化”と接着剤の“硬化”と低融点固定材料の“溶融(好ましくは溶融に伴う除去”とが並行して行われることになる。尚、低融点固体材料の溶融・除去に際して残存した低融点固体材料は「低融点固体材料の融点以上の沸点を有する高温流体」によって全て除去することができる。
【0019】
ある好適な態様では、工程(i)に先立って、基板の主面を粗面化しておく。かかる場合、基板上にサンドブラストなどの除去加工を施すことによって粗面を形成してよい。あるいは、基板上に溶射を施すことによって粗面を形成してもよい(尚、溶射金属としては、基板材質と同じ種類の材質を用いる又は線膨張係数が近い金属を用いることが好ましい)。
【0020】
基板の粗面化を行う場合、サンドブラストなどの除去加工を行った後に溶射を行う態様であってもよい。また、基板の粗面化を行う態様においては、基板の粗面化面の上に接着剤を塗布して接着層を設けてもよい(特に、溶射によって粗面化を行った場合では、溶射層上に接着層を設けることが好ましい)。
【0021】
ある好適な態様では、第1層と外部との間の流体連通を可能とする管部材を設ける。かかる場合、管部材と第2層との接合面(界面)に接着剤(接着層)を設けてよい。また、溶射または接着することにより管部材の一部を基板の主面上に固定してもよい。更には、管部材を第2層によって保持されるような態様で設けてもよい。
【0022】
高温流体は、その使用後に回収してよい。具体的には、溶融および除去に用いた高温流体を、除去された溶融状態の第1材料と共に回収してよい。かかる場合、回収された高温流体および第1材料は、それらの比重に基づいて相互に分離させることが好ましい。
【0023】
本発明では、上述した製造方法を通じて得られる熱媒体用流路も提供される。かかる熱媒体用流路は、“平板状部材”と“凹部を備えた部材”とから構成されて成る熱媒体用流路であって、
「凹部の側壁部分」と「平板状部材の主面」とが相互に接合された構成となっており、それによって、「凹部の内側」と「平板状部材の主面」との間に熱媒体用流路が形成されていることを特徴としている。
【0024】
本発明の熱媒体用流路のある好適な態様では、平板状部材が金属材質から成る。また、別のある好適な態様では、凹部を備えた部材が樹脂材質または金属材質から成る。
【0025】
本発明の熱媒体用流路のある好適な態様では、「凹部を成す側壁部分」と「平板状部材の主面」との間の相互の接合部分に接着剤層が設けられている。更に別の好適な態様では、平板状部材の主面自体は粗面を成している。
【0026】
本発明では、上述の熱媒体用流路を用いた金型も提供される。かかる金型は、平板状部材が金型キャビティーを形成する金型壁を成しており、熱媒体用流路が金型キャビティーに充填される成形材料を温調するための流路となっていることを特徴としている。
【0027】
本発明の金型は、熱媒体用流路が金型壁と直接的に接触した状態となっている特徴も有している。
【発明の効果】
【0028】
本発明の製造方法では、基板上に第1層および第2層を形成した後に第1層を加熱除去することによって熱媒体用流路を形成するので、全体のプロセスが比較的シンプルなものとなっている。ここで、形成される熱媒体用流路の形態(形状)は第1層の形状に依存している。この点、第1層の形状は基板上への第1材料の供給・配置態様で決まるため、第1材料の供給・配置次第で任意の熱媒体用流路の形態(形状)を得ることができる。特に、第1材料に低融点固体材料を用いた場合では、第1材料をその融点以上に一旦加熱すると一時的または局所的に軟化させることができるので、第1層の形状を任意に容易に変化させることができ、その結果、所望の流路形態(流路形状)を比較的簡易に得ることができる。以上のように、本発明の製造方法は、熱媒体用流路の設計・製作の点で自由度が高いものとなっている。
【0029】
また、本発明の製造方法で製造される熱媒体用流路は基板と直接的に接した状態で得られる。熱媒体用流路の設置側と反対側に位置する基板の主面は“温調対象物が接する面”に相当する。つまり、本発明では熱媒体用流路を流れる熱媒体は、配管部材などを介することなく、基板と直接接することになるので、熱媒体からの熱が効果的に温調対象物へと伝わる。これは、本発明の製造方法で得られる熱媒体用流路は伝熱効率が向上した構成となっていることを意味している。更には、上述したように熱媒体用流路の形態は第1層の形状・配置の調整によって任意に変更することができるところ、第1層と基板との接触面積を大きいものとすれば、熱媒体用流路と基板との接触面積を大きくできる。従って、本発明では大きい伝熱面を備えた熱媒体用流路を比較的容易に得ることができるといえる。このように本発明に係る熱媒体用流路は向上した伝熱特性・伝熱効率を有するので、それをプラスチック成形用金型へと適用した場合では、表面温度制御の応答を速くすることが可能となる(これによって、例えば成形サイクルを短縮することができたり、あるいは、成形むらの無い高品位な成形品を得ることができたりする)。
【0030】
常套的な熱媒体用管路では、繰り返し使用していると、熱応力などを受けて管と基板との間の接合状態が弱まって伝熱効率が低下し得る。これは、管と基板との材質の違い、即ち、線膨張係数の違いに起因している場合が多い。この点、本発明に係る熱媒体用流路およびそれを用いた金型では、第2層(即ち、凹部を備えた部材)と基板(即ち、平板状部材)とが相互に接合されることで“流路”が形成されているので、かかる熱応力による影響が低減されている。つまり、第2層を構成する第2材料として「基板の材質」または「基板の材質と線膨張係数が近いもの」を選択すれば、材質の違い、即ち、線膨張係数の違いに起因した熱影響を低減することができ、熱媒体用流路の耐久性を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1(a)〜(e)は、本発明に係る熱媒体用流路の製造工程を説明するための模式的な斜視断面図である。
【図2】図2(a)および(b)は、高温流体の流通部分60を第1層20に予め形成しておく態様を模式的に示した断面図である。
【図3】図3(a)は、第1層の所望形状を得る際に実施するプレス加工の態様を模式的に示した断面図であり、図3(b)は、第1層の所望形状を得る際に実施する押出加工の態様を模式的に示した斜視図である。
【図4】図4(a)は、低融点固体材料部材の表面を局所的に加熱してそれらを相互に接合する態様を表した模式図であり、図4(b)は、サブ流通部分60’同士が接続されるように複数の低融点固体材料部材を局所的に加熱して相互に接合する態様を表した模式図であり、図4(c)は、低融点固体材料部材の表面またはそれと接触することになる別の固体表面(例えば基板の主面)とを一旦加熱してそれらを相互に接合する態様を表した模式図である。
【図5】図5は、溶融および除去に用いた高温流体を回収して再利用する態様を表した模式図である。
【図6】図6(a)〜(d)は、第2材料として硬化性流体を用いた場合の本発明の製造方法を模式的に表した斜視断面図である。
【図7】図7(a)および(b)は、高温流体の流通部分60を第1層20に予め形成しておく態様を模式的に示した断面図である。
【図8】図8(a)〜(e)は、第2材料として金属材料を用いた場合の本発明の製造方法を模式的に表した斜視断面図である。
【図9】図9(a)〜(e)は、接着剤を使用する場合の本発明の製造方法を模式的に表した斜視断面図である。
【図10】図10(a)〜(f)は、“2段階硬化型の硬化性流体”を使用する場合の本発明の製造方法を模式的に表した斜視断面図である。
【図11】図11(a)〜(d)は、“2段階硬化型の硬化性流体”を使用する場合(特に接着剤Aを使用する場合)の本発明の製造方法を模式的に表した断面図である。
【図12】図12(a)および(b)は、管部材設置の態様を模式的に表した断面図である。
【図13】図13は、基板を粗面化する場合の本発明の製造方法を模式的に表した斜視断面図である。
【図14】図14は、基板を粗面化する場合(特に溶射層により粗面化する場合)の本発明の製造方法を模式的に表した断面図である。
【図15】図15は、基板の粗面化面に対して接着層を設ける場合の本発明の製造方法を模式的に表した断面図である。
【図16】図16は、本発明に係る金型100の態様を模式的に表した断面図である。
【図17】図17は、本発明の実施例1における態様を表した写真図である。
【図18】図18は、本発明の実施例2における態様を表した写真図である。
【図19】図19は、本発明の実施例3における条件および写真図である。
【図20】図20は、本発明の実施例3における結果図および結果グラフである。
【図21】図21は、本発明の実施例4における態様を表した写真図である。
【図22】図22は、本発明の実施例5における態様を表した写真図である。
【図23】図23は、従来技術の金型の態様を模式的に表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下にて、本発明に係る「熱媒体用流路の製造方法」、「熱媒体用流路」および「金型」について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、図面に示す各種の要素は、本発明の理解のために模式的に示したにすぎず、寸法比や外観などは実物と異なり得ることに留意されたい。
【0033】
[本発明の熱媒体用流路の製造方法]
本発明の熱媒体用流路の製造方法は、
(i)熱溶融性の第1材料を用いて基板の主面上に第1層を形成する工程であって、製造することになる熱媒体用流路に相当する形状を有するように第1層を形成する工程、
(ii)非熱溶融性の第2材料を用いて基板の主面上に第2層を形成する工程であって、第2層によって第1層が包み込まれるように第2層を形成する工程、および
(iii)第1層の加熱によって第1層の少なくとも一部を溶融させる工程
を含んで成り、
工程(iii)では、溶融させた第1層の第1材料を基板上から除去・排除することによって、基板と第2層との間に熱媒体用流路を形成する(即ち、基板と第2層とから構成された熱媒体用流路を形成する)。
【0034】
かかる本発明の製造方法の特徴の1つは、基板上に第1層(第1材料から成る熱溶融性層)および第2層(第2材料から成る非熱溶融性層)を順次積層した後、第1層を加熱除去して得られる空間を熱媒体用流路(即ち“熱媒体用管路”)として用いることである。特に本発明では、基板の主面と第2層との間で第1層を包み込む積層構造を得てから、第1層を加熱除去して熱媒体用流路を形成している。
【0035】
第1層の溶融および除去には高温流体を用いることが好ましい。具体的には、高温流体を第1層の形成領域に流通させることによって、高温流体の熱でもって第1層を溶融させると共に、その溶融した第1層(即ち、第1材料)を高温流体の流れに同伴させることによって「基板および第2層の積層構造体」から除去することが好ましい(以下、本願明細書では「高温流体」のことを「除去用流体」とも称す)。
【0036】
本願明細書において「熱媒体用流路」にいう「熱媒体」とは、熱交換などの単位操作を行うための伝熱用媒体のことを指している。従って、実質的には「熱媒体」は「高温媒体」または「低温媒体」のことを指している。
【0037】
また、本願明細書において「基板」とは、第1層および第2層が形成される支持部材のことを実質的に意味している。例えば、基板は、金属成分を含んで成る金属基板であってよく、あるいは、セラミックス成分を含んで成るセミラック基板であってもよい。
【0038】
また、本願明細書において「熱溶融性の第1材料」とは、加熱すると溶融して流動性を呈する材料のことを実質的に意味している。特に、「熱溶融性の第1材料」は、常温では固体形態を有しており、融点以上に加熱されると最終的に流動性を呈するものの、一時的または局所的に加熱された程度では固体形態を維持したままで一時的または局所的に軟化し得るものを指している。
【0039】
一方、本願明細書において「非熱溶融性の第2材料」とは、加熱によって溶融しない材料のことを実質的に意味している。特に、「非熱溶融性の第2材料」は、工程(iii)で第1層(第1材料から成る層)を加熱して溶融させる際に、溶融しない物性を有するものを指している。
【0040】
更に、本願明細書において「高温流体」にいう「高温」とは、“第1材料から成る第1層”の溶融を引き起こす程度の温度のことを実質的に意味している。特に第1材料として低融点固体材料を用いる場合では、「高温」は、低融点固体材料の融点以上の温度のことを意味している。尚、「高温流体」は、その使用時にて液体状態を維持していることが好ましいので、“第1層の溶融を引き起こす程度の温度”でありつつも、それは流体自体の沸点未満の温度に温調されていることが好ましい。
【0041】
図1を参照して、本発明の製造方法について工程を追って説明していく。本発明の実施に際しては、まず、工程(i)として、熱溶融性の第1材料を用いて基板10の主面上に第1層20を形成する。
【0042】
図1(a)および1(b)に示すように、基板10上に形成される第1層20の形状は、「製造することになる熱媒体用流路に相当する形状(50’)」となるようにする。換言すれば、本発明においては、最終的に溶融除去される第1層の形成領域が熱媒体用流路を成すことになるので、対象となる熱媒体用流路の形態に従って第1層20を形成しておく。
【0043】
工程(i)で用いる基板10は、例えば平板形状を有していることが好ましい(即ち、一例を挙げると基板10は“金属板”であってよい)。この基板は、実際の用途において熱媒体からの熱を伝える部分に相当し得るので、その観点でいえば、基板10は熱伝導性の良好な金属成分(一例を挙げると銅)を含んで成ることが好ましい。
【0044】
工程(i)で用いる第1材料としては、例えば、低融点固体材料を用いることが好ましい。かかる低融点固体材料は、除去用流体(高温流体)の熱では溶融して流動性を呈するものの、第2層形成時における熱では流動性を呈しないものが一般に好ましい。従って、低融点固体材料の融点は、除去用流体の温度よりも低く、かつ、第2層の形成プロセス時の熱処理温度よりも高いことが好ましい。
【0045】
例えば除去用流体に水を用いる場合(即ち、最高温度100℃となる高温流体を用いる場合)では、融点が100℃以下となった低融点固体材料を用いることが好ましい。また、第2層として硬化性流体を用いる場合では、融点がその硬化性流体の硬化温度以上となる低融点固体材料を用いることが好ましい。従って、除去用流体に水を用いると共に、第2層を硬化性流体から形成する場合では、硬化性流体の硬化温度以上、かつ、100℃以下の融点を有する固体材料を用いることが好ましい。一例を挙げると、常温(例えば25℃)〜100℃の範囲に融点、好ましくは50℃〜100℃の範囲に融点、より好ましくは60℃〜90℃の範囲に融点を有する固体材料を用いることが好ましい。
【0046】
具体的な低融点固体材料は、特に制限するわけではないが、例えばパラフィン(特に固形状のパラフィン)であってよい(従って、低融点固体材料はワックスと称されるものであってもよい)。パラフィンは、除去用流体(高温流体)の熱により溶融して流動性を呈する一方、第2層形成時における熱では流動性を呈しないからである。パラフィンの中でも特に側鎖型パラフィン(例えば融点が60℃〜90℃の側鎖型パラフィン)が好ましい。側鎖型パラフィンは、直鎖型パラファインと比べて、より好適に第1層を基板上に形成することができるからである。具体的には、側鎖型パラフィンは、加熱されて溶融が開始してもある程度長く固体形状を維持することができるので、所望形状の第1層を金属板上に形成し易い。換言すれば、熱媒体用流路の形状を有するように第1層を加工することを踏まえると、硬すぎたり脆くて割れたりすることなく、かつ、加熱により軟化して加工できるものが望ましく(形状の微調整が行えるのが望ましく)、その点で側鎖型パラフィンが好適であるといえる。以下の表1を参照されたい。
【0047】
【表1】
【0048】
低融点固体材料を用いた第1層の形成に際しては、切削加工、プレス加工または押出加工などを適当に行ってよく、それによって、所望の流路形状を有するように第1層を好適に形成できる。例えば、図2(a)に示すように高温流体の流通部分60を第1層に予め形成しておく場合を想定すると、そのような第1層(即ち、図2(a)に示される“コの字状”の第1層20)を、図3(a)に示すようなプレス加工によって、あるいは、図3(b)に示すような押出成形加工によって形成することができる。ちなみに、図2(b)に示されるような中央領域に流通部分60を備えた第1層は、第1層の中実部をドリル加工することによって得ることができる他、上述の“コの字状”の第1層を2つ対向して組み合わせることによっても得ることができる。
【0049】
ここで本発明の製造方法は、熱媒体用流路の形態、即ち、第1層の形状につき自由度が高いものであるが、これは、パラフィンなどの低融点固体材料を用いる場合に特にいえることである。第1材料としてパラフィンなどの低融点固体材料を用いると、その固体材料の融点以上に一旦加熱することを通じて熱媒体用流路に相当する形状を容易に得ることができるからである。例えば、ある形状に一旦形成された低融点固体材料部材を局所的または一時的に融点以上に加熱すると軟化させることができ、その結果、曲げ加工を好適に行うことができる。従って、湾曲した形状・曲がった形状の第1層を得ることができ、ひいては、そのような湾曲した形状・曲がった形状の熱媒体用流路を容易に得ることができる。
【0050】
更に、各種加工法を用いて作製した複数の低融点固体材料部材を一旦局所的に融点以上に加熱して、それらを相互に接続してもよい。複数の低融点固体材料部材を相互に接続すると、熱媒体用流路が長いであっても好適に対応できる点で有利である。例えば、図4(a)に示すように、流路形状に一旦形成された低融点固体材料部材の表面を局所的に融点以上に加熱することによって、複数の低融点固体材料部材を相互に接合できる。尚、高温流体の流通部分60を予め形成しておく場合においては、図4(b)に示すように、サブ流通部分60’同士が接続されるように複数の低融点固体材料部材を相互に接合してよい。
【0051】
また、図4(c)に示すように、流路形状に一旦形成された低融点固体材料部材の表面またはそれと接触することになる別の固体表面(特に図示するような基板の主面)を一旦融点以上に加熱し、低融点固体材料物と当該別の固体表面との接合を行ってもよい。
【0052】
工程(i)に引き続いて、工程(ii)を実施する。即ち、非熱溶融性の第2材料を用いて基板の主面上に第2層を形成する。特に、図1(c)に示すように、第2層30によって第1層20が包み込まれることになるように、基板10の主面上に第2層を形成する。
【0053】
第2材料としては、硬化性流体(硬化性流動体)を用いることができる。かかる硬化性流体は、第1材料たる低融点固体材料の融点以下の温度領域で硬化できるものであることが好ましい。また、硬化性流体は、塗布特性の観点からペースト形態を有していることが好ましい。このような硬化性流体を用いる場合、第1層を包み込むように基板の主面上に硬化性流体を塗布した後、その塗布した硬化性流体を硬化に付すことによって所望の第2層を形成することができる。
【0054】
硬化性流体は、「一般的な熱硬化樹脂の形成に用いられる主剤」と「一般的な熱硬化樹脂の形成に用いられる硬化剤または硬化促進剤」との組み合わせを含んで成り得る流体である。「一般的な熱硬化樹脂の形成に用いられる主剤」は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂およびシアネート樹脂から成る群から選択される少なくとも1種以上の熱硬化樹脂の主剤であることが好ましい。「一般的な熱硬化樹脂の形成に用いられる硬化剤または硬化促進剤」は、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族酸無水物、脂環式酸無水物、有機過酸化物および多塩基酸から成る群から選択される少なくとも1種以上の硬化剤であることが好ましい。尚、クラックが入ったり、割れたりすることなく所望の第2層が形成されるように、第2層形成時に生じ得る収縮現象が小さくなる第2材料を用いることが好ましい(例えば、第2層形成時の収縮率が0.1%以下となる第2材料を用いることが好ましい)。あくまでも一例であるが、収縮を抑える観点でいえば、エポキシ系の樹脂を主剤として含んだ第2材料を用いてよい。
【0055】
第2材料としては、硬化性流体以外の材料も用いることができる。例えば、金属材料を第2材料として用いてよい。かかる場合、溶射プロセスまたは電鋳プロセスを実施することによって、金属材料から成る第2層を第1層上に好適に形成することができる。
【0056】
溶射プロセスでは、溶射ノズルからの距離、同一箇所の連続溶射時間、および/または、雰囲気ガスによる冷却効果などを調整することによって、第1層の溶融をマクロで引き起こす熱量が第1層に伝わることがない条件でもって実施することが好ましい。ちなみに、溶射プロセス以外にも“コールド・スプレー”などの他の金属供給プロセスを実施してもかまわない。
【0057】
電鋳プロセスを実施する場合、不導体であるパラフィン(もしくはワックス)などから成る第1層上には無電解めっきなどによって予め導電層を形成しておくことが好ましい。
【0058】
第2材料の金属材料は、溶射プロセスまたは電鋳プロセスを実施できるのであれば、その種類に特に制限はない。しかしながら、流路の使用時においては、第2層と基板との材質の違い(特に線膨張係数の違い)に起因した熱ひずみ発生による変形・割れなどの不具合が生じることも考えられる。その点に鑑みると、第2層の第2材料は「基板の材質と同じもの」又は「基板の材質と線膨張係数が近いもの」であることが好ましい。
【0059】
第2層を溶射プロセスまたは電鋳プロセスで形成すれば、“熱ひずみ発生による変形・割れなどの不具合”を防止できるものの、第2層自体は比較的薄い厚さを有するので、必要に応じて付加的な層(即ち、第3層)を設けてもよい。例えば、形成された第2層に空孔が存在する場合では、封孔処理や樹脂埋めなどの処理を付加的な層で行ってよく、これによって、最終的に得られる熱媒体用流路での流体漏洩を防ぐことができる。また、熱媒体用流路またはそれを含む構造物に剛性が必要である場合では、第2層の外側に補強層を設けてもよい。
【0060】
工程(ii)に引き続いて、工程(iii)を実施する。即ち、第1層を加熱することによって、第1層を溶解させる。この際、図1(d)に示すように、溶融させた第1層の第1材料を基板10上から除去する。より具体的には、溶融させた第1層の第1材料を「基板10および第2層30の積層構造体」から除去する。これによって、第1層が形成されていた領域、即ち、基板10と第2層30との間の空間に熱媒体用流路50が形成されることになる(図1(e)参照)。
【0061】
高温流体、即ち、除去用流体としては、低融点固体材料の融点以上の温度領域に沸点を有する流体(例えば水)を用いることが好ましく、それを、低融点固体材料の融点以上に加熱した状態で用いることが好ましい。かかる場合、高温流体が第1層に接触しながら流動することによって第1層を溶融させ、それによって、その溶融した第1層の第1材料を同伴した状態で高温流体を流して除去することができる(図1(d)参照)。換言すれば、高温流体を第1層の形成領域に圧送し、それによって、高温流体の熱で第1層を溶融させつつ高温流体の流れによって“溶融した第1層の第1材料”を除去する。
【0062】
図5に示すように、第1層の溶融および除去に用いた高温流体、即ち、除去用流体は回収して再利用してよい。具体的には、除去用流体は、溶融した第1層の成分(即ち、第1材料/低融点固体材料)と混合された状態で流路出口から排出されてくるが、それら混合物を回収して分離槽(特に流路外の除去用流体流動系に設置された分離槽)に送ってよい。そして、分離槽において、混合物中の除去用流体および第1材料/低融点固体材料を、それらの比重に基づいて相互に分離させる。除去用流体に水(即ち温水)、第1材料/低融点固体材料にパラフィンを用いた場合、それらは互いに溶解性を呈さず、パラフィンの方が水よりも比重が小さいので、上層がパラフィン層で下層が水層(即ち温水層)となって分離する。従って、このように分離された水層(即ち温水層)は、再度温調された後、除去用流体としてサイクル利用することができる(分離されたパラフィンについても別の熱媒体用流路の形成に再利用できる)。ちなみに、分離槽で分離を引き起こすためには、分離対象物の比重が異なることと互いに溶け合わないこととが必要であるが、界面活性剤が混入して乳化現象が引き起こされないようにも注意する必要がある。
【0063】
以上本発明の製造方法を説明してきたが、次に『第1材料が低融点固体材料であって、第2材料が硬化性流体である場合』および『第1材料が低融点固体材料であって、第2材料が金属材料である場合』を例にとって本発明の製造方法の一態様を経時的に説明する。
【0064】
(硬化性流体の第2材料を用いた態様)
図6を参照して、第2材料として硬化性流体を用いた態様について説明する。
【0065】
まず、図6(a)に示すように、平板状の基板10上に低融点固体材料層20を形成する。製造される熱媒体用流路を金型の熱交換に使用する場合では、平板状の基板10は、金型キャビティーを形成する金型壁に相当する。かかる場合、平板状の基板10は、銅などの熱伝導性材料を含んで成ることが好ましく、その厚さT1(図6(a)参照)は、例えば0.5〜5mm程度であり得る。
【0066】
第1層20は、熱媒体用流路に相当する形状を有するように形成される。この点、本発明では、低融点固体材料をその融点以上に一旦加熱して柔らかくすることを通じて所望の流路形状を得てよい。また、図7に示すように、除去用の高温流体が効果的に流れることになるように第1層20に流通部分60を予め形成しておいてもよい。熱媒体用流路を金型の熱交換に使用する場合では、第1層の厚さT2(図6(a)参照)は、例えば5〜20mm程度であり得る(尚、かかる第1層の厚さの値は、流路の水力直径に相当し得るものである)。
【0067】
第1層の形成後、第2層を形成する。具体的には図6(b)に示すように、硬化性流体の塗布によって第1層20の周囲を硬化性流体で包埋し、次いで、その硬化性流体を硬化させて第2層30を形成する。硬化性流体は常温によって硬化させてよく、あるいは、積極的に熱を加えて硬化させてもよい。尚、用いられる硬化性流体は硬化時の収縮率は小さいのが好ましく、例えば収縮率が0.1%以下(即ち、収縮率0〜0.1%)のものが好ましい。熱媒体用流路を金型の熱交換に使用する場合では、第2層の厚さ、特に、第1層の上面を基準にした図6(b)に示すような厚さT3は、例えば2〜10mm程度であり得る。
【0068】
第2層の形成後、高温流体を第1層の形成領域に流す。これによって、図6(c)に示すように、高温流体の熱でもって第1層を溶融させつつ、その溶融した第1層の第1材料を高温流体の流れに同伴させて除去する。高温流体は温水であってよい(特に、低融点固体材料の融点以上の温度かつ沸点未満の温度に温調された温水)。例えば、流通部分60が第1層20に形成されている場合、常温の水を流通部分60に流すことから開始して、徐々にその水の温度を上げていき、最終的に低融点固体材料の融点以上の温度かつ沸点未満の温度にしてもよい。
【0069】
高温流体で第1層が除去されると、図6(d)に示されるように、第1層の除去後に形成される空間(基板10と第2層30との間の空間)が最終的に熱媒体用流路50となる。
【0070】
このような硬化性流体を用いた態様では、硬化性流体を補強する目的で、硬化性流体中にフィラ―を混入させてよい。あるいは、予め第1層(低融点固体材料)の周囲にフィラ―を設置してハンドレイアップ法などによって硬化性流体にフィラ―を含浸させる手法を採用してもよい。尚、このようなフィラーは、第2層形成時の収縮防止を図る観点、あるいは、第2層の線膨脹係数の調整を図る観点で使用してもよい。
【0071】
(金属材料の第2材料を用いた態様)
図8を参照して、第2材料として金属材料を用いた態様について説明する。
【0072】
まず、図8(a)に示すように、平板状の基板10上に低融点固体材料層20を形成する。製造される熱媒体用流路を金型の熱交換に使用する場合では、平板状の基板10は、金型キャビティーを形成する金型壁に相当する。かかる場合、平板状の基板10は、銅などの熱伝導性材料を含んで成ることが好ましく、その厚さt1(図8(a)参照)は、例えば0.5〜5mm程度であり得る。
【0073】
第1層20は、熱媒体用流路に相当する形状を有するように形成される。この点、本発明では低融点固体材料をその融点以上に一旦加熱して柔らかくすることを通じて所望の流路形状を得てよい。また、前述と同様、除去用の高温流体が効果的に流れることになるように第1層20に流通部分60を予め形成しておいてもよい。熱媒体用流路を金型の熱交換に使用する場合では、第1層の厚さt2(図8(a)参照)は、例えば5〜20mm程度であり得る(尚、かかる第1層の厚さの値は、流路の水力直径に相当し得るものである)
【0074】
第1層の形成後、第2層を形成する。具体的には図8(b)に示すように、溶射プロセスまたは電鋳プロセスを実施することによって第1層20の周囲を金属層で包埋して、第2層30を形成する。かかる第2層の厚さt3(図8(b))は、例えば、0.5〜2mm程度であり得る。
【0075】
第2層の形成後、高温流体を第1層の形成領域に流す。これによって、図8(c)に示すように、高温流体の熱でもって第1層を溶融させつつ、その溶融した第1層の第1材料を高温流体の流れに同伴させて除去する。高温流体は温水であってよい(特に、低融点固体材料の融点以上の温度に温調された温水)。例えば、流通部分60が第1層20に形成されている場合、常温の水を流通部分60に流すことから開始して、徐々にその水の温度を上げていき、最終的に低融点固体材料の融点以上の温度にしてもよい。
【0076】
高温流体で第1層が除去されると、図8(d)に示されるように、第1層の除去後に形成される空間(基板10と第2層30との間の空間)が最終的に熱媒体用流路50となる。
【0077】
形成された流路壁(特に第2層)に空孔が存在する場合においては、封孔処理や樹脂埋めなどの処理によって流路を流れる熱媒体のリーク防止を図ることが好ましい。また、流路または流路を含む構造物に剛性が必要である場合においては、第2層の外側に補強層を設けてもよい。即ち、例えば図8(e)に示すように第2層30の外側に第3層70を設けてもよい。
【0078】
(接着剤使用の態様)
図9を使用して、接着剤を使用する態様について説明する。
【0079】
まず、図9(a)に示すように、平板状の基板10上に低融点固体材料層20を形成する。次いで、基板10に接着剤80を塗布する。図9(b)に示すように、接着剤80は、低融点固体材料層の形成領域以外の基板主面に塗布することが好ましい。換言すれば、基板主面のうち第2層形成領域に対して接着剤層80を設けることが好ましい。
【0080】
用いる接着剤は、第2層と基板との接着強度を結果的に高めるものであれば特に制限はなく、例えばエポキシ系接着剤である。後述するが、接着剤は第1層の硬化性流体の特性に鑑みた硬化特性を備えていることが好ましい。基板主面上に形成される接着剤層80の厚さは、例えば1〜50μm程度であってよい。
【0081】
接着剤層の形成に引き続いて第2層を形成する。具体的には、上述したように、硬化性流体または金属材料などから第2層30を形成する。例えば、第1層20を包み込むように基板主面に硬化性流体を塗布した後、それを硬化させることによって第2層30を形成する(図9(c)参照)。
【0082】
第2層の形成後、第1層を溶融・除去する。つまり、図9(d)に示すように、高温流体を第1層の形成領域に流すことによって、第1層を溶融させつつ、その溶融した第1層の第1材料を除去する。これにより最終的に熱媒体用流路50を得ることができる(図9(e)参照)。
【0083】
このような接着剤を用いる態様では、接着剤の接着力に起因して、“基板からの第2層の剥離”が効果的に防止される。つまり、熱媒体用流路の実際の使用に際して媒体圧力が流路に掛かった場合であっても第2層が基板から剥離することがなく、媒体のリークを効果的に防止することができる。
【0084】
(2段階硬化型の硬化性流体の使用態様)
図10を使用して、“2段階硬化型の硬化性流体”を使用する態様について説明する。本明細書で使用する「2段階硬化型の硬化性流体」とは、「常温硬化に相当する前硬化(仮硬化)」と「加熱硬化に相当する後硬化(本効果)」との2段階の硬化を経ることができる硬化性流体のことを実質的に意味している。「前硬化(仮硬化)」は、第2材料の機械強度(硬度、曲げ強度、弾性率など)を発現させるための常温硬化を実質的に意味している一方、「後硬化(本効果)」は、第2材料の耐熱性を向上させる(Tgを上げる)ための加熱硬化を実質的に意味している。「前硬化(仮硬化)」では、一般に、対象材料が収縮する現象を伴うことになる。あくまでも例示にすぎないが、2段階硬化型の硬化性流体としては、例えば以下のものを挙げることができる:
ナガセケムテックス製エポキシ材
・XNR6505(エポキシ樹脂、主剤)
・XNH6505(アミン系硬化剤)
※ XNR6505とXNH6505とを混合して使用する。XNR6505:XNH6505(重量比)=約100:約25
【0085】
まず、図10(a)および(b)に示すように、平板状の基板10上に低融点固体材料層20を形成する。そして、図10(c)に示すように、第1層20を包み込むように基板主面に2段階硬化型の硬化性流体を塗布し、硬化性流体を前硬化に付して第2層前駆体30’を形成する。具体的には、硬化性流体を常温下に置くことによって機械的に強度を発現させ、それによって、塗布された硬化性流体から第2層前駆体30’を得る。例えば、塗布された硬化性流体を5℃〜35℃の室温下(好ましくは10℃〜30℃の室温下)に好ましくは6〜24時間程度置くことによって前硬化を実施する。前硬化に引き続いて後硬化を実施する。具体的には、前硬化により得られた第2層前駆体を加熱処理して耐熱性を向上させ、それによって、第2層前駆体30’から第2層30を形成する(図10(d)参照)。例えば、後硬化に際しては第2層前駆体30’を好ましくは100〜130℃の加熱温度下に30〜120分程度置く。
【0086】
第2層の形成後、第1層を溶融・除去する。つまり、図10(e)に示すように、高温流体を第1層の形成領域に流すことによって、第1層を溶融させつつ、その溶融した第1層の第1材料を除去する。これにより熱媒体用流路50を最終的に得ることができる(図10(f)参照)。
【0087】
このような「2段階硬化型の硬化性流体を使用する態様」では、第1層の低融点固体材料の融点未満の温度で「前硬化」を実施して“第2層形状”を一旦形成しておき、次いで、第1層の低融点固体材料の融点以上の温度で「後硬化」を実施して最終的な第2層を得ることが可能となる。従って、第2層形成に際して第1層形状を好適に保持することができ(特に、第2形成時の加熱処理に起因した第1層変形、ひいては第2層変形を好適に防止することができ)、結果的に、所望の流路形態を備えた熱媒体用流路をより効果的に得ることができる。この点、詳述しておくと、「前硬化」は第1層の低融点固体材料の融点未満の温度で行われるので、第1層が熱的に変形することなく、その形状が保持された状態で第2層前駆体を形成できる一方(つまり、所望の流路形状を保持した状態で“第2層形状”を得ておくことができる一方)、“第2層形状”が一旦得られた後の「後硬化」は、第1層の低融点固体材料の融点以上の温度で行われるので、第1層を溶融させつつ(好ましくは溶融に伴って第1層を除去しつつ)、最終的な第2層を第2層前駆体から得ることができる。
【0088】
ちなみに「2段階硬化型の硬化性流体を使用する態様」であっても、上記接着剤を使用することが好ましい。特に、接着剤としては、硬化性流体の「前硬化」に際しては硬化せず、硬化性流体の「後硬化」に際して硬化する接着剤(以後、「接着剤A」とも称する)を使用することが好ましい。かかる場合、第2層の硬化形成に伴う“反り”を接着剤Aによって抑制することができる。
【0089】
具体的には、図11(a)〜(d)に示されるような態様で接着剤Aを用いると(特に、基板と第2層原料との間に接着剤Aを用いると)、硬化性流体の前硬化時に発生する“収縮現象に起因する反り”を“硬化前の接着剤Aにより発現される界面の滑り”によって抑制することが可能となる。つまり、“硬化前の接着剤”が干渉的に作用することによって、第2層前駆体形成時の収縮に起因した接合不具合(特に、第2層前駆体と基板との接合状態の不具合)を減じることができる。これによって、“第2層の剥離”が更に効果的に防止されることになる。
【0090】
尚、硬化性流体を“前硬化”に付した後、媒体用流路を形成するための前駆体全て(即ち、基板、第1層および第2層前駆体)を「低融点固体材料の融点以上の温度であって硬化性流体の“後硬化”および接着剤の硬化を引き起こす温度」に付してよい。これにより、硬化性流体の“後硬化”と接着剤の硬化と低融点固定材料の溶融および除去とが並行して行われることになり、流通部分(例えば、図2(a)および(b)に示すような高温流体の流通部分60)を特に設けなくても第1層・第1材料の除去を効果的に行うことができる。かかる場合にあっては、低融点固体材料の溶融・除去に際して残存した低融点固体材料を「低融点固体材料の融点以上の沸点を有する高温流体」によって全て除去することが好ましい。
【0091】
(管部材設置の態様)
かかる態様は、図12(a)および(b)に示されるように、「第1層と外部との間の流体連通を可能とする管部材90」を設ける態様である。管部材90を設けることによって、高温流体を第1層の形成領域へと好適に導入したり、あるいはその逆で高温流体を第1層の形成領域から好適に排出させたりすることができる。また、かかる管部材をそのまま最終製品として使用してもよく、その場合には、熱媒体を流路へと好適に導入できたり、流路から熱媒体を好適に排出させたりできる。
【0092】
管部材90の設置についていえば、予め管部材を基板に配置した後に第1層20を形成し、その後に第2層を形成してもよいし、あるいは、第1層20を形成した後に管部材を配置し、その後に第2層を形成してもよい。即ち、第2層の形成前に管部材を配置しておけばよい。しかしながら、第2層形成後に管部材を配置することも可能であり、例えばドリル加工などの機械加工で第2層に穴を設け、その穴に管部材を配置してもよい。管部材の設置に際しては、溶射または接着によって管部材の一部を基板の主面上に固定してもよい。また、管部材が第2層によって効果的に保持されるように管部材および第2層の設置形態を適宜考慮することが好ましい。
【0093】
管部材を設ける場合、管部材と第2層との相互の接合面に接着剤(接着層)を設けてよい。これにより、管部材と第2層との間の界面のシール性を向上させることができ、高温流体や熱媒体などのリークを防止することができる。
【0094】
(基板の粗面化の態様)
図13および図14を使用して、基板の粗面化を実施する態様について説明する。本態様では、図13および図14に示すように、基板10上に第1層20および第2層30を形成するに先立って、基板主面に対して粗面化を施す(特に、図13(a)および図14(a)参照)。サンドブラストなどの除去加工により粗面を形成してよいし、あるいは、溶射によって粗面を形成してもよい(尚、溶射金属は基板材質と同じ種類の材質を用いる又は線膨張係数が近い金属を用いることが好ましい。なぜなら、熱媒体用流路の実際の使用時にて温度変化を伴う場合、熱膨張差による熱応力を小さくでき、“基板からの溶射層の剥離”を効果的に防止できるからである)。
【0095】
“サンドブラストなどの除去加工”または“溶射”のいずれの場合であっても、基板が粗面化されることによって、最終的に得られる熱媒体用流路において第2層の接合強度を強くすることができる。具体的には、第2層の基板からの剥離が“粗面化によるアンカー効果”に起因して効果的に防止される。従って、熱媒体用流路の実際の使用に際して媒体圧力が流路に掛かった場合であっても第2層が基板から剥離することがなく、媒体のリークを効果的に防止できる。
【0096】
基板に粗面化処理を施した後は、上述の態様と同様の工程を実施すればよい。即ち、第1層20および第2層30を形成し(図13(b)および(c)参照)、その後、高温流体でもって、第1層を溶融・除去する(図13(d)参照)。これによって熱媒体用流路50を最終的に得ることができる(図13(e)参照)。
【0097】
基板の粗面化を行う態様では、サンドブラストなどの除去加工した後に溶射を行ってもよい。この場合、サンドブラストによって基板表面を凹凸にした後で、その凹凸領域に溶射金属から成る粒状面を形成することができる。実質的には“溶射金属の粒状面”によって基板粗面化が達成され得るが、かかる“溶射金属の粒状面”の基板に対する接合強度は向上したものとなる。
【0098】
例えば図15に示すように、基板の粗面化を行う態様においては粗面化面上に接着剤を塗布して接着層を設けてもよい。かかる場合、粗面化面に起因した“接着剤の接触面積増加の効果”が供されることになり、第2層の剥離防止効果が更に効果的に奏されることになる。
【0099】
[本発明の熱媒体用流路]
次に、上記本発明の製造方法で得られる熱媒体用流路について説明する。本発明の熱媒体用流路は、“平板状部材10”と“凹部30aを備えた部材30”とから構成されて成る熱媒体用流路50である。図1(e)、図6(d)および図8(d)に示すように、「凹部30aの側壁部分」と「平板状部材10の主面」とが相互に接合された構成となっており、それによって、「凹部30aの内側」と「平板状部材10の主面」との間に熱媒体用流路50が形成されていることを特徴としている。
【0100】
本明細書において「凹部」とは、部材30にて局所的に形成された溝部分のことを意味している(例えば、ある角度で折れ曲がるように窪んで成る形状の溝部分のみならず、Rをもって窪んで成る形状の溝部分なども意味している)。尚、凹部の側壁部分の頂面は同一平面上に位置していることが好ましい。
一方、本明細書において「平板状部材」とは、全体として平坦な形状を有する部材を意味している。好ましくは、平板状部材の主面は、実質的にフラットな面を成していることが好ましいものの、部材30との間で熱媒体用流路50が形成されるのであれば、曲面を成していても、あるいは、粗面を成していてもかまわない。
【0101】
平板状部材は主として金属材質から成ることが好ましい(即ち、平板状部材が金属板であることが好ましい)。特に製造される熱媒体用流路が金型の熱交換に使用される場合では、金属材質から成る平板状部材10は、金型キャビティーを形成する金型壁に相当する。一方、凹部を備えた部材30は主として樹脂材質または金属材質から成ることが好ましい。具体的には、上述の製造方法の第2層の形成にて硬化性流動体を用いた場合では“凹部を備えた部材30”が樹脂材質から成ることになり、その一方、溶射プロセスまたは電鋳プロセスを実施した場合では“凹部を備えた部材30”が金属材質から成ることになる。
【0102】
尚、製造方法の実施に際して接着剤を使用した場合、本発明の熱媒体流路では、「凹部を成す側壁部分」と「平板状部材の主面」との接合部分に接着剤層80が設けられている(図9(e)参照)。接着剤層80の厚みは、例えば1〜50μm程度である。また、製造方法の実施に際して基板粗面化を実施した場合、平板状部材の主面が粗面を成している。
【0103】
その他の本発明の熱媒体用流路の構成・特徴などについては、上述の[本発明の熱媒体用流路の製造方法]で触れているので、重複を避けるために説明を省略する。
【0104】
[本発明の金型]
次に、上記本発明の熱媒体用流路を用いた金型について説明する。本発明の金型100は、図16に示すように、平板状部材10が金型キャビティーを形成する金型壁を成しており、熱媒体用流路50が金型キャビティーに充填された成形材料を温調するための流路を成している。
【0105】
図示するように、本発明の金型100では、熱媒体用流路50が金型壁10と直接的に接触した状態となっている。つまり、本発明の金型100は、成形時に樹脂原料が接触する金型表面部材の裏側に温調媒体が直接的に接する金型であるといえる。
【0106】
このような金型は、向上した伝熱特性・伝熱効率を有するので、金型表面温度の制御の応答が速くなる。これによって、例えば熱硬化性樹脂の注型成形における成形サイクルを短縮することができたり、あるいは、成形むらの無い高品位な成形品を得ることができたりする。また、本発明の金型では、凹部を備えた部材30と平板状部材10とが相互に接合されることで“流路”が形成されているので、かかる熱応力による影響が低減されている。つまり、凹部を備えた部材30を構成する材料として「平板状部材10の材質」または「平板状部材10の材質と線膨張係数が近いもの」を選択すると、材質の違い、即ち、線膨張係数の違いに起因した熱影響を低減でき、熱媒体用流路の耐久性を効果的に向上させることができる。
【0107】
このような本発明の金型の特徴は、以下のような従来技術の事情を踏まえると、特に有利な特徴であることが理解されよう:
●従来技術とその問題点(図23参照):ニッケル電鋳などにより形成された金型表面部材の裏側に温調媒体を流すための管を配置し,管はハンダ付けなどの方法により金型表面部材と接触させている。その後、補強のためにセメントなどで管を埋設している。樹脂成形時では管の内部に金型温度以上の温調媒体を流し、金型表面部材と接触した注入された熱硬化性樹脂に熱を与えている。これによって、硬化反応を発生させ、成形品を得ている。注型成形で成形サイクルを短縮するためには、樹脂を注入した後の金型表面温度上昇の時間短縮が必要である。しかしながら、従来技術では、金型が大きな熱容量を持っていること、金型部材と温調媒体を流す管の接触面積が小さいこと、温調媒体自体が熱容量を持っていること等によって、金型の加熱に時間を要してしまい、成形サイクルを短縮することができない。また、耐久性の面では、金型を使用していくうちに、金型表面部材と管との固定が外れる場合があり、外れた部分の熱交換が悪くなる問題点がある。外れた管を再び固定するためには補強のセメントなどを一度除去し、管の固定後に再び埋設を実施する必要があるためにメンテナンス性は良くない。
【0108】
本発明の金型の好適な態様は、温調媒体が流れる流路表面の熱伝達率が5000W/m2K以上となる「温調媒体、流路寸法、温調媒体循環用ポンプ」を有している。また、別の好適な態様では、樹脂材質から成る“凹部を備えた部材30”に黒鉛系炭素繊維あるいは鉄粉などを含有させて、伝熱特性・伝熱効率の更なる向上が図られている。
【0109】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0110】
例えば、上述の説明では第1層の溶融に“高温流体の熱”を用いたが、本発明は必ずしもかかる態様に限定されない。例えば、基板を加熱することによって、あるいは、第2材料の硬化反応時の熱を利用することによって、第1層の溶融を引き起こしてもよい。
【実施例】
【0111】
(実施例1)
本発明に従って、熱媒体用流路を作製した:
作製条件
・基板:ステンレス製の金属板
・第1材料:側鎖型パラフィン(融点:72℃)
・第2材料:硬化性流動体(エポキシ系)
・高温流体:水(最終的に95℃まで加熱して使用)
【0112】
上記作製条件に基づいて本発明の製造方法を実施した結果、「第2材料から成る凹部を備えた部材の内側」と「金属板の主面」との間に熱媒体用流路を好適に作製することができた(図17参照)。
【0113】
(実施例2)
本発明に従って、接着剤を用いた以下の条件で熱媒体用流路を作製した:
・基板:ステンレス製の金属板
・第1材料:側鎖型パラフィン(融点:72℃)
・第2材料:硬化性流動体(エポキシ系)
・高温流体:水(最終的に95℃まで加熱して使用)
・接着剤:エポキシ系接着剤(図18に示すように第1層形成後かつ第2層形成前に基板上に塗布)
【0114】
上記作製条件に基づいて本発明の製造方法を実施した結果、「第2材料から成る凹部を備えた部材の内側」と「金属板の主面」との間に熱媒体用流路を好適に作製することができた(特に、「凹部を成す側壁部分」と「平板状部材の主面」との間の接合部分に接着剤層が設けられた熱媒体用流路を得ることができた)。
【0115】
(実施例3)
温調確認試験を実施した。具体的には、“作製された熱媒体用流路”を用いて、基板表面温度の応答性を調べた(図19参照)。尚、基板表面温度は「金型表面温度」に相当する。
【0116】
温調確認試験では、図20に示すような結果を得ることができ、本発明で得られる“熱媒体用流路”/“金型”については良好な表面温度応答性を有していることを確認できた。
【0117】
(実施例4)
“作製された熱媒体用流路”における断面構成を調べた。その結果、図21に示すように、基板と第2層とから熱媒体用流路が好適に構成されていることを確認できた。
【0118】
(実施例5)
「管部品」を用いた態様を図22に示す。管部品は、外部と第1層とを連通させるために使用した。管部品を設置した結果、好適に高温流体および熱媒体などを流すことができた。
【符号の説明】
【0119】
10 基板/平板状部材/金型キャビティーを形成する金型壁
20 第1層(第1材料から成る層)
30 第2層(第2材料から成る層)
30’ 第2層前駆体
40 高温流体(除去用流体)
50 熱媒体用流路
50’ 製造されることになる熱媒体用流路の領域・空間
60 高温流体の流通部分
60’ サブ流通部分
70 第3層
80 接着剤または接着剤層
90 管部材(管部品)
100 金型
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体用流路の製造方法であって、
(i)熱溶融性の第1材料を用いて基板の主面上に第1層を形成する工程であって、製造することになる前記熱媒体用流路に相当する形状となるように前記第1層を形成する工程、
(ii)非熱溶融性の第2材料を用いて前記基板の主面上に第2層を形成する工程であって、前記第2層によって前記第1層が包み込まれるように前記第2層を形成する工程、および
(iii)前記第1層を溶融させる工程
を含んで成り、
工程(iii)では、前記溶融させた前記第1層の前記第1材料を前記基板上から除去することによって、前記基板と前記第2層との間に前記熱媒体用流路を形成することを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記第1層の前記第1材料の前記溶融および前記除去のために高温流体を用いており、
前記高温流体を前記第1層に接触させることによって前記第1層の溶融を引き起こし、それによって、該溶融した前記第1層の前記第1材料を流動させつつ前記高温流体を前記第1層の形成領域にて流通させることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1材料として低融点固体材料を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記低融点固体材料がパラフィンであることを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記パラフィンが側鎖型パラフィンであることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記基板として金属基板を用いることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記第2材料として硬化性流体を用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記硬化性流体として、前記低融点固体材料の融点以下で硬化する硬化性樹脂の流動体を用いることを特徴とする、請求項3に従属する請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程(ii)では、前記硬化性流体を前記第1層の上に塗布した後、前記硬化性流体を硬化に付すことによって、前記第2層を形成することを特徴とする、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第2材料として金属材料を用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程(ii)では、溶射プロセスまたは電鋳プロセスを実施することによって、前記第1層上に前記第2層を形成することを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第2層を覆うように該第2層上に第3層を形成することを特徴とする、請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第2材料として、前記基板の材質と同じ材料を用いることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記第1層の形成に際しては、前記低融点固体材料をその融点以上に一旦加熱することを通じて前記熱媒体用流路に相当する形状を得ることを特徴とする、請求項3に従属する請求項4〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
前記第1層の前記第1材料の前記溶融および前記除去のために、前記低融点固体材料の融点以上の沸点を有する高温流体を用い、
前記低融点固体材料の融点以上に加熱された前記高温流体が前記第1層に接触しながら流動することによって前記第1層を溶融させ、それによって、該溶融した前記第1層の前記第1材料が前記高温流体の流れに同伴されるように前記高温流体を前記第1層の形成領域に流通させることを特徴とする、請求項3に従属する請求項4〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
前記高温流体の使用に先立って、前記高温流体の流通部分を前記第1層に予め形成しておくことを特徴とする、請求項2に従属する請求項3〜15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
前記第2材料の前記硬化性流体として、常温硬化に相当する前硬化と加熱硬化に相当する後硬化との2段階の硬化を経ることができる硬化性流体を用い、
前記工程(ii)では、前記低融点固体材料の融点未満の温度で前記硬化性流体を前記前硬化に付して第2層前駆体を形成し、次いで、該低融点固体材料の該融点以上の温度で該第2層前駆体を前記後硬化に付して前記第2層を形成することを特徴とする、請求項3に従属する請求項7に記載の製造方法。
【請求項18】
前記基板の前記主面における第2層形成領域に接着剤を設けることを特徴とする、請求項1〜17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
前記接着剤は、前記硬化性流体の前記前硬化に際しては硬化せず、該硬化性流体の前記後硬化に際して硬化することを特徴とする、請求項17に従属する請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記工程(ii)および(iii)において、前記硬化性流体を前記前硬化に付した後、前記基板、前記第1層および前記第2層前駆体を、前記低融点固体材料の融点以上の温度かつ前記硬化性流体の前記後硬化および前記接着剤の前記硬化を引き起こす温度に付し、それによって、該硬化性流体の該後硬化と該接着剤の該硬化と該低融点固定材料の前記溶融とを並行して行うことを特徴とする、請求項17に従属する請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記工程(i)に先立って、前記基板の前記主面を粗面化することを特徴とする、請求項1〜20のいずれかに記載の製造方法。
【請求項22】
前記溶融および前記除去に用いた前記高温流体を、前記除去された溶融状態の前記第1材料と共に回収し、
前記回収された前記高温流体および前記第1材料を、それらの比重に基づいて相互に分離することを特徴とする、請求項2に従属する請求項3〜21のいずれかに記載の製造方法。
【請求項23】
平板状部材と凹部を備えた部材とから構成されて成る熱媒体用流路であって、
「前記凹部を成す側壁部分」と「前記平板状部材の主面」とが相互に接合された構成となっており、それによって、「前記凹部の内側」と「前記平板状部材の主面」との間に前記熱媒体用流路が形成されていることを特徴とする、熱媒体用流路。
【請求項24】
前記平板状部材が金属材質から成ることを特徴とする、請求項23に記載の熱媒体用流路。
【請求項25】
前記凹部を備えた部材が樹脂材質または金属材質から成ることを特徴とする、請求項23または24に記載の熱媒体用流路。
【請求項26】
前記平板状部材の前記主面が粗面を成していることを特徴とする、請求項23〜25のいずれかに記載の熱媒体用流路。
【請求項27】
「前記凹部を成す前記側壁部分」と「前記平板状部材の前記主面」との間の相互の接合部分に接着剤層が設けられていることを特徴とする、請求項23〜26のいずれかに記載の熱媒体用流路。
【請求項28】
請求項23〜27のいずれかに記載の熱媒体用流路を用いた金型であって、
前記平板状部材が、金型キャビティーを形成する金型壁を成しており、
前記熱媒体用流路が、前記金型キャビティーに充填された成形材料を温調するための流路であることを特徴とする、金型。
【請求項29】
前記熱媒体用流路が前記金型壁と直接的に接触した状態となっていることを特徴とする、請求項28に記載の金型。
【請求項1】
熱媒体用流路の製造方法であって、
(i)熱溶融性の第1材料を用いて基板の主面上に第1層を形成する工程であって、製造することになる前記熱媒体用流路に相当する形状となるように前記第1層を形成する工程、
(ii)非熱溶融性の第2材料を用いて前記基板の主面上に第2層を形成する工程であって、前記第2層によって前記第1層が包み込まれるように前記第2層を形成する工程、および
(iii)前記第1層を溶融させる工程
を含んで成り、
工程(iii)では、前記溶融させた前記第1層の前記第1材料を前記基板上から除去することによって、前記基板と前記第2層との間に前記熱媒体用流路を形成することを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記第1層の前記第1材料の前記溶融および前記除去のために高温流体を用いており、
前記高温流体を前記第1層に接触させることによって前記第1層の溶融を引き起こし、それによって、該溶融した前記第1層の前記第1材料を流動させつつ前記高温流体を前記第1層の形成領域にて流通させることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1材料として低融点固体材料を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記低融点固体材料がパラフィンであることを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記パラフィンが側鎖型パラフィンであることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記基板として金属基板を用いることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記第2材料として硬化性流体を用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記硬化性流体として、前記低融点固体材料の融点以下で硬化する硬化性樹脂の流動体を用いることを特徴とする、請求項3に従属する請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程(ii)では、前記硬化性流体を前記第1層の上に塗布した後、前記硬化性流体を硬化に付すことによって、前記第2層を形成することを特徴とする、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第2材料として金属材料を用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程(ii)では、溶射プロセスまたは電鋳プロセスを実施することによって、前記第1層上に前記第2層を形成することを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第2層を覆うように該第2層上に第3層を形成することを特徴とする、請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第2材料として、前記基板の材質と同じ材料を用いることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記第1層の形成に際しては、前記低融点固体材料をその融点以上に一旦加熱することを通じて前記熱媒体用流路に相当する形状を得ることを特徴とする、請求項3に従属する請求項4〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
前記第1層の前記第1材料の前記溶融および前記除去のために、前記低融点固体材料の融点以上の沸点を有する高温流体を用い、
前記低融点固体材料の融点以上に加熱された前記高温流体が前記第1層に接触しながら流動することによって前記第1層を溶融させ、それによって、該溶融した前記第1層の前記第1材料が前記高温流体の流れに同伴されるように前記高温流体を前記第1層の形成領域に流通させることを特徴とする、請求項3に従属する請求項4〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
前記高温流体の使用に先立って、前記高温流体の流通部分を前記第1層に予め形成しておくことを特徴とする、請求項2に従属する請求項3〜15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
前記第2材料の前記硬化性流体として、常温硬化に相当する前硬化と加熱硬化に相当する後硬化との2段階の硬化を経ることができる硬化性流体を用い、
前記工程(ii)では、前記低融点固体材料の融点未満の温度で前記硬化性流体を前記前硬化に付して第2層前駆体を形成し、次いで、該低融点固体材料の該融点以上の温度で該第2層前駆体を前記後硬化に付して前記第2層を形成することを特徴とする、請求項3に従属する請求項7に記載の製造方法。
【請求項18】
前記基板の前記主面における第2層形成領域に接着剤を設けることを特徴とする、請求項1〜17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
前記接着剤は、前記硬化性流体の前記前硬化に際しては硬化せず、該硬化性流体の前記後硬化に際して硬化することを特徴とする、請求項17に従属する請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記工程(ii)および(iii)において、前記硬化性流体を前記前硬化に付した後、前記基板、前記第1層および前記第2層前駆体を、前記低融点固体材料の融点以上の温度かつ前記硬化性流体の前記後硬化および前記接着剤の前記硬化を引き起こす温度に付し、それによって、該硬化性流体の該後硬化と該接着剤の該硬化と該低融点固定材料の前記溶融とを並行して行うことを特徴とする、請求項17に従属する請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記工程(i)に先立って、前記基板の前記主面を粗面化することを特徴とする、請求項1〜20のいずれかに記載の製造方法。
【請求項22】
前記溶融および前記除去に用いた前記高温流体を、前記除去された溶融状態の前記第1材料と共に回収し、
前記回収された前記高温流体および前記第1材料を、それらの比重に基づいて相互に分離することを特徴とする、請求項2に従属する請求項3〜21のいずれかに記載の製造方法。
【請求項23】
平板状部材と凹部を備えた部材とから構成されて成る熱媒体用流路であって、
「前記凹部を成す側壁部分」と「前記平板状部材の主面」とが相互に接合された構成となっており、それによって、「前記凹部の内側」と「前記平板状部材の主面」との間に前記熱媒体用流路が形成されていることを特徴とする、熱媒体用流路。
【請求項24】
前記平板状部材が金属材質から成ることを特徴とする、請求項23に記載の熱媒体用流路。
【請求項25】
前記凹部を備えた部材が樹脂材質または金属材質から成ることを特徴とする、請求項23または24に記載の熱媒体用流路。
【請求項26】
前記平板状部材の前記主面が粗面を成していることを特徴とする、請求項23〜25のいずれかに記載の熱媒体用流路。
【請求項27】
「前記凹部を成す前記側壁部分」と「前記平板状部材の前記主面」との間の相互の接合部分に接着剤層が設けられていることを特徴とする、請求項23〜26のいずれかに記載の熱媒体用流路。
【請求項28】
請求項23〜27のいずれかに記載の熱媒体用流路を用いた金型であって、
前記平板状部材が、金型キャビティーを形成する金型壁を成しており、
前記熱媒体用流路が、前記金型キャビティーに充填された成形材料を温調するための流路であることを特徴とする、金型。
【請求項29】
前記熱媒体用流路が前記金型壁と直接的に接触した状態となっていることを特徴とする、請求項28に記載の金型。
【図1】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図16】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図16】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−106282(P2012−106282A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179670(P2011−179670)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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