説明

熱媒体通流ローラ装置

【課題】 肉圧内に気液二相の熱媒体を封入したジャケット室を有する熱媒体通流ローラ装置において、負荷熱量やローラの熱伝導率にかかわらず、ローラの表面温度の変動に省エネルギーで即応させること。
【解決手段】循環する熱媒流体路に熱交換装置5a、5bを配置し、前記熱交換装置で熱交換された熱媒流体を、肉圧内に気液二相の熱媒体を封入したジャケット室1bを有するローラ1の内部に通流して前記ローラ1を所定の温度に保持してなる、前記ローラ1の表面に当接する処理物を熱処理する熱媒体通流ローラ装置において、ローラ1の表面温度とローラ内部へ送る熱媒流体の温度との差が所定の一定となるようにローラ内部へ送る熱媒体の通流量を調節する。これによりローラ表面の温度変動に対してローラ表面温度の均一化を図りつつ迅速に対応し、最適の省エネルギー運転ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱媒体通流ローラ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シート状の処理物をローラに掛け、ローラに当接して通過する間に処理物を所定の温度に加熱あるいは奪熱することが行われている。このようなローラ装置として、ローラの内部に加熱された例えば油などの流体からなる熱媒流体を、熱交換装置を介してポンプにより循環通流し、この通流によってローラの温度を所定の温度に保持する熱媒体通流ローラ装置がある。
【0003】
図3は、このような熱媒体通流ローラ装置の構成を示すもので、図3において、1はローラ本体を構成するロールシェル、2は図示しないモータにより回転してロールシェルを回転する回転駆動軸、3は中子、4はロータリジョイント、5aは熱交換装置の加熱部、5bは熱交換装置の冷却部、6は熱媒流体循環ポンプ、7はサイリスタなどからなる電力制御回路、8は冷却水調整電磁弁、9はロールシェル1の温度を検出する温度センサ、10はロールシェル1内へ送る熱媒体の温度を検出する温度センサ、11は熱媒流体温度調節回路、12は回転変圧器である。
【0004】
ロールシェル1は円筒状をなし、この例ではその肉厚内部に長手方向に沿うジャケット室1bと温度センサ挿入孔1cが形成され、温度センサ挿入孔1cには、ロールシェル1の表面温度を検出する温度センサ9が配置され、ジャケット室1b内には、潜熱移動によってロールシェル1の表面の温度を均一化する水などの気液二相の熱媒体が封入されている。そして、中空内部に中子3が配置され、中子3の中央部を貫通して熱媒流体の通流路3aが形成されている。熱媒流体の通流路3aは回転駆動軸2内を経てロータリジョイント4の流入口に連結され、ロールシェル1の内周壁と中子3の外周壁との間で形成された熱媒流体の通流路1aは回転駆動軸2内を経てロータリジョイント4の出口に連結されている。
【0005】
熱媒流体は、熱交換装置の冷却部5bと熱交換装置の加熱部5aを通り、所定の温度に加熱または冷却され、循環ポンプ6によってロールシェル1内に送られ、熱媒流体の通流路3aおよび1aを通流し、熱交換装置の冷却部5bへと循環する。循環する熱媒流体の温度は、ロールシェル1の温度を検出する温度センサ9の検出温度とロールシェル1内へ送る熱媒体の温度を検出する温度センサ10の検出温度とを、熱媒流体温度調節回路11で適宜目標値と比較し、その偏差に応じた制御信号を電力制御回路7へ送り、熱交換装置の加熱部5aの発熱体の発熱量を制御し、加熱部5aに流れる熱媒流体の温度を調節する。また、その偏差に応じた制御信号を冷却水調整電磁弁8へ送り、冷却部5bに流れる熱媒流体の温度を調節する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−195888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように構成した熱媒体通流ローラ装置では、ローラの肉厚内に気液二相の熱媒体を封入したジャケット室を設けたことと相俟ってジャケット室のないローラに比べ1/20程度の流量で同等の表面温度が得られ省エネルギーに寄与するが、ローラは、その内部に熱媒流体を通流してローラの表面に熱を伝える構造であるため、ローラ内を通流する熱媒流体の温度とローラ内面の温度との間に熱伝達率に基づく差が発生し、ローラ内面の温度とローラ表面温度との間にローラ材の熱伝導率と負荷熱量に基づく差が発生する。すなわち、ローラ内を通流する熱媒流体の温度とローラ表面温度との間には、流体量・流速・ローラの材質・ローラの肉厚・負荷熱量の諸条件によって温度差が発生し、特に負荷熱量が大きく、ローラの肉厚が厚い、たとえば製紙用のローラでは、50℃〜100℃の温度差が発生する場合が多く、従来のローラ内部へ送る熱媒流体の温度とローラの表面温度を検出し、この検出に基づいて熱媒流体の温度を調節するだけでは負荷熱量の大きいものにはその変動に即応することが困難であると同時に即応性のない分消費エネルギーが大きいという問題があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、ローラの肉厚内に気液二相の熱媒体を封入したジャケット室を設け、内部に熱媒流体を通流する熱媒体通流ローラ装置において、負荷熱量やローラの熱伝導率にかかわらず、ローラの表面温度の変動に即応し、より省エネルギー性を高めることができ、斯かる問題を解消する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、肉厚内に気液二相の熱媒体を封入した複数のジャケット室を有し、内部に熱媒流体を通流する熱媒流体通流路が形成されたローラと、一端が前記熱媒流体通流路の流出口に連結され、他端が、循環ポンプと熱媒流体の温度を調節する熱交換装置を介して前記熱媒流体通流路の流入口に連結された熱媒流体循環路とを備え、前記ローラ内部の熱媒流体通流路に流れる熱媒流体を、前記循環ポンプにより前記熱交換装置を介して循環させてなる熱媒体通流ローラ装置において、前記熱交換装置を通流した直後の熱媒流体の温度を検出する第1の温度センサと、前記ローラの表面温度を検出する第2の温度センサと、前記ローラ内の熱媒流体通流路へ送る熱媒流体の通流量を調節する熱媒流量調節手段を設け、前記第1の温度センサが検出した温度と前記第2の温度センサが検出した温度との偏差が予め設定した偏差値と一致するように前記ローラ内の熱媒流体通流路へ送る熱媒流体の通流量を調節する構成としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、ローラの表面温度と熱交換装置を通流した直後の熱媒流体の温度との間に大きい差が発生した場合、熱媒流体温度調節手段により所定の温度に加熱された熱媒流体を、ローラの表面温度と熱交換装置を通流した直後の熱媒流体の温度との差が予め設定した差となるように、熱媒流体の通流量を調節するので、迅速にその差を短縮することができる。また、その差を、気液二相の熱媒体を封入したジャケット室によるローラの長手方向、すなわち熱媒体の流れる方向における表面温度の均一化が図れる値とすることにより、最適な省エネルギーでその差を短縮することができる。特に製紙ローラのようにローラの肉厚が厚く負荷熱量の大きいものは、通紙開始時の高温(例えば230℃)からローラの表面温度が所定の温度(例えば150℃)にまで低下して安定するまでの時間が長いが、この時間を大幅に短縮することができ、加工品質の高い製品の歩留まりを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係る熱媒体通流ローラ装置の構成を示す構成図である。
【図2】本発明の他の実施例に係る熱媒体通流ローラ装置の構成を示す構成図である
【図3】従来の熱媒体通流ローラ装置の構成を示す構成図である。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の実施例に係る熱媒体通流ローラ装置の構成を示す構成図である。なお、図3に示す従来の熱媒体通流ローラ装置と同一部分には同一の符号を付し、重複する部分の説明は省略する。図1において、16は循環ポンプ6を駆動するインバータである。
【0013】
熱媒流体は、熱交換装置の冷却部5bと熱交換装置の加熱部5aを通り、所定の温度に加熱または冷却され、循環ポンプ6によってロールシェル1内に送られ、熱媒体の通流路3aおよび1aを通流し、熱交換装置の冷却部5bへと循環する。循環する熱媒体の温度は、ロールシェル1の温度表面を検出する温度センサ9の検出温度と加熱部通流直後の熱媒体の温度を検出する温度センサ10の検出温度とを、温度調節計11で適宜目標値と比較し、その偏差に応じた制御信号を電力制御回路7または冷却水調整電磁弁8へ送り、熱媒流体の温度を制御する。
【0014】
本発明にしたがい温度調節計11の偏差に応じた制御信号、すなわち温度調節計11で求めたロールシェル1の表面温度を検出する温度センサ9の検出温度と加熱部通流直後の熱媒流体の温度を検出する温度センサ10の検出温度との温度差を予め設定した目標値と比較し、その温度差を一定とする信号でインバータ16を制御し、循環ポンプ6で送る熱媒流体の流量を制御する。
【0015】
たとえば、ロールシェル1の表面温度斑を1℃以下にするには、ロータリジョイント4の入口の熱媒流体の温度と、ロータリジョイント4の出口の熱媒流体の温度との差を1℃以下にする必要があるが、ローラの肉厚内に気液二相の熱媒体を封入したジャケット室を設けたローラ装置では20℃の温度差があっても、温度斑は1℃以下となるので、その温度差が20℃以下となるように流量を調節することにより、負荷量などによるロールシェルの表面温度が変動しても、この変動に対して迅速に対応し、これによりそのときの運転条件下での最適の省エネルギー運転ができる。
【0016】
ところで、ロータリジョイント4の入口の熱媒流体の温度と、ロータリジョイント4の出口の熱媒流体の温度との差が20℃を越えると、ローラの肉厚内に気液二相の熱媒体を封入したジャケット室による均一化が果たせなくなり、ロールシェル1の表面温度は大きく変動し、この変動はロールシェル1の温度を検出する温度センサ9の検出温度と加熱部通流直後の熱媒体の温度を検出(必ずしもロータリジョイント4の入口の熱媒流体の温度と一致するものではない。)する温度センサ10の検出温度との差が変化することとなる。すなわち、加熱部通流直後の熱媒流体の温度を検出ことはロータリジョイント4の入口の熱媒流体の温度を検出することに、ロールシェル1の温度表面を検出することはロータリジョイント4の出口の熱媒流体の温度を検出することにそれぞれ相当する。したがって、ロールシェル1の温度表面を検出する温度センサ9の検出温度と加熱部通流直後の熱媒体の温度を検出する温度センサ10の検出温度との変動差が解消されるように流量を調節する。この流量の調節により、負荷量などによるロールシェルの表面温度が変動しても、この変動に対して迅速に対応し、これによりそのときの運転条件下での最適の省エネルギー運転ができる。
【0017】
たとえば、ローラの表面温度を所定の150℃とし、ローラの表面温度を速く立ち上げるために当初熱媒流体の温度を250℃に加熱し、循環ポンプ6の最大出力でローラ内へ供給すると、ローラの表面温度は短時間で150℃になるが、ローラ表面温度が150℃に到達する一定時間前に、温度調節計11で熱媒流体の温度を下げるとともに、温度調節計11で求めた温度差分の信号でインバータ16を制御し、循環ポンプ6で送る熱媒流体の流量を調節する。
【0018】
図2は、本発明の他の実施例に係る熱媒体通流ローラ装置の構成を示す構成図である。なお、図1に示す実施例の熱媒体通流ローラ装置と同一部分および対応する部分には同一の符号を付し、重複する部分の説明は省略する。図1に示す実施例では、ローラに供給する熱媒流体の流量をポンプ6の制御により行なっているが、熱媒流体の循環路を、ローラの熱媒流体通流路と連接する流量調整電磁弁19を設置した流路17とローラをバイパスする流量調整電磁弁20を設置した流路18とで構成し、温度調節計11の偏差に応じた制御信号で流量調整電磁弁19と流量調整電磁弁20を制御し、ローラ内を通流する熱媒流体の通流量を調節する。このように余分の熱媒流体を、バイパス路を経て熱交換装置の冷却部5bと熱交換装置の加熱部5aを循環させておくと、たとえばローラの熱媒流体通流量を増加する場合、直ちにその増加に適用することができる。
【0019】
なお、以上の実施例では、ローラの一方の端部で熱媒体の送り込みと排出を行っているが、ローラの一方の端部で熱媒体の送り込み、他方の端部で排出するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0020】
1 ロールシェル
2 回転駆動軸
3 中子
4 ロータリジョイント
5a 熱交換装置の加熱部
5b 熱交換装置の冷却部
6 循環ポンプ
7 加熱部の電力制御回路
8 冷却水調整電磁弁
9 ロールシェルの表面温度を検出する温度センサ
10 熱媒流体の温度を検出する温度センサ
11 温度調節計
12 回転変圧機
16 インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉厚内に気液二相の熱媒体を封入した複数のジャケット室を有し、内部に熱媒流体を通流する熱媒流体通流路が形成されたローラと、一端が前記熱媒流体通流路の流出口に連結され、他端が、循環ポンプと熱媒流体の温度を調節する熱交換装置を介して前記熱媒流体通流路の流入口に連結された熱媒流体循環路とを備え、前記ローラ内部の熱媒流体通流路に流れる熱媒流体を、前記循環ポンプにより前記熱交換装置を介して循環させてなる熱媒体通流ローラ装置において、前記熱交換装置を通流した直後の熱媒流体の温度を検出する第1の温度センサと、前記ローラの表面温度を検出する第2の温度センサと、前記ローラ内の熱媒流体通流路へ送る熱媒流体の通流量を調節する熱媒流量調節手段を設け、前記第1の温度センサが検出した温度と前記第2の温度センサが検出した温度との偏差が予め設定した偏差値と一致するように前記ローラ内の熱媒流体通流路へ送る熱媒流体の通流量を調節することを特徴とする熱媒体通流ローラ装置。
【請求項2】
ローラ内の熱媒流体通流路へ送る熱媒流体の通流量の調節は、前記循環ポンプの出力制御であることを特徴とする請求項1に記載の熱媒体通流ローラ装置。
【請求項3】
ローラ内の熱媒流体通流路へ送る熱媒流体の通流量の調節は、前記循環路にローラの熱媒流体通流路と連接する流量調整弁を設置した流路とローラをバイパスする流量調整弁を設置した流路を設けた前記各流量調整弁の操作であることを特徴とする請求項1に記載の熱媒体通流ローラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−63028(P2011−63028A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253644(P2010−253644)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【分割の表示】特願2005−367864(P2005−367864)の分割
【原出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】