説明

熱延鋼板の張力制御方法及び製造方法

【課題】超微細粒鋼を製造する際に必要となる強冷却を行う際にも最終圧延機とピンチロールとの間の張力変動を抑制して歩留まりを向上させるとともに、製造停止に至るトラブルも回避することが可能な、熱延鋼板の張力制御方法及び製造方法を提供する。
【解決手段】仕上圧延機列の最終圧延機1と、該最終圧延機の出側に設置された冷却装置2と、該冷却装置の出側に設置されて鋼板Sの上下両面に当接するピンチロール3と、を備えた装置を用いて熱延鋼板を製造する際に、鋼板の先端がピンチロールに到達して、仕上圧延機列の最終圧延機とピンチロールとの間の鋼板の張力が確立した後の予め定められたタイミングで冷却装置による冷却を開始するにあたり、冷却による温度変化によって生じる鋼板の長さ変化を予測し、長さ変化の予測値に基づいてピンチロール3の速度を修正する熱延鋼板の張力制御方法、及び、該熱延鋼板の張力制御方法を用いる熱延鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板の張力制御方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用や構造材用等として用いられる鋼材は、強度、加工性、靭性といった機械的特性に優れることが求められ、これらの機械的特性を総合的に高めるには、熱延鋼板の結晶粒を微細化することが有効である。また、結晶粒を微細化すれば、合金元素の添加量を削減しても優れた機械的性質を具備した高強度熱延鋼板を製造することが可能になる。
【0003】
熱延鋼板の結晶粒の微細化方法としては、熱間仕上圧延の特に後段において、高圧下圧延(後段スタンドの圧下率を高めた仕上圧延)をおこなってオーステナイト粒を微細化するとともに粒内に圧延歪を蓄積させ、仕上圧延直後に急冷することにより、得られるフェライト粒の微細化を図る方法が知られている。この方法で超微細結晶粒(例えば、平均粒径が2μm以下の結晶粒をいう。以下において同じ。)を有する熱延鋼板(以下において、「超微細粒鋼」という。)を製造するためには、熱間圧延ラインにおけるタンデム仕上圧延機の直後に鋼板を高圧力、高流量で急速に冷却できる冷却装置を設置し、圧延直後の鋼板を強冷却する必要がある。
【0004】
しかし、鋼板に張力が付与されていない状態では鋼板の平坦度不良が顕在化しているため、その状態で強冷却すると冷却ムラが生じてしまう問題がある。この問題の解決に関連する技術として、例えば特許文献1には、冷却装置の下流側にピンチロールを設置し、鋼板の先端がピンチロールに達してタンデム仕上圧延機の最終圧延機と該ピンチロールとの間で鋼板に張力が付与された状態になってから冷却を開始する技術、及び、その際の張力制御方法が開示されている。この張力制御方法は、ピンチロールの電流をもとに鋼板の張力を推定し、推定された張力に基づいてピンチロール速度を操作するフィードバック制御である。ただし、この張力制御方法では、鋼板の張力を精度良く推定することが難しいという問題がある。また、特許文献2には、冷却装置とピンチロールとの間に張力を検出するためのルーパを設置することが開示されている。したがって、特許文献1及び特許文献2を組み合わせることにより、ルーパによって検出された張力をピンチロール速度にフィードバックする張力制御を実施することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−136108号公報
【特許文献2】特願2010−216352
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術や、特許文献1と特許文献2とを組み合わせた技術は、フィードバック方式の張力制御であるため、張力変動を引き起こす外乱である温度変化が速い場合には制御が間に合わず、十分な張力制御効果が得られないという問題があった。
【0007】
特に、特許文献1に記載されているように、鋼板の先端がピンチロールに到達して最終圧延機とピンチロールとの間で鋼板を拘束した状態になってから鋼板を強冷却すると、鋼板が熱収縮して最終圧延機とピンチロールとの間の鋼板張力は増加する。この張力の増加は、冷却速度が速いほど速く、温度変化が大きいほど大きくなるため、結晶粒の微細化を図ろうと冷却速度や冷却量を大きくすればするほど激しくなり、従来のフィードバック方式の張力制御では制御不可能となる。そして、張力が高くなりすぎると、板幅の狭窄部が生じたり、ピンチロールがスリップして鋼板にスリップ痕が付いたりするため、その部分は製品とすることができずに歩留まりが低下する。この問題を回避すべく無理に張力の増加を抑制しようとフィードバック制御ゲインを大きくすると、熱収縮が終了した時点でハンチングが生じ、逆に張力は低下してしまう。張力が低下すると鋼板の平坦度不良が顕在化して冷却ムラが生じるだけでなく、張力低下がさらに進んで無張力に至ると、鋼板がアコーデオン状になって通板できないトラブルとなり、製造停止に至る。
【0008】
そこで、本発明は、超微細粒鋼を製造する際に必要となる、冷却速度、冷却量の大きな強冷却をおこなう際にも、最終圧延機とピンチロールとの間の張力変動を抑制して歩留まりを向上させるとともに、製造停止に至るトラブルも回避することが可能な熱延鋼板の張力制御方法及びこれを用いる熱延鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における張力制御の原理について説明する。鋼板が仕上げ圧延機列の最終圧延機とピンチロール間で拘束されているときに冷却を開始した場合の張力変化Δσ(t)は下記式(1)で表される。
【0010】
【数1】

ここで、Eは鋼板のヤング率、Lは冷却前の最終圧延機とピンチロールとの間の鋼板長さ、ΔV(t)はピンチロールの速度変化量、ΔL(t)は冷却によって生じる最終圧延機とピンチロールとの間の鋼板の長さ変化量(収縮を正とする)、Vは冷却開始前のピンチロールの速度、f(Δθ(t))はルーパが水平面となす角度(以下において、「ルーパ角度」という。)がΔθ(t)変化することによる幾何学的な鋼板長さの変化量である。
【0011】
上記式(1)の右辺第1項は、ピンチロールに引き込まれる鋼板の速度が変化することにより生じる張力変化、右辺第2項は、冷却による鋼板の収縮を弾性変形で吸収することにより生じる張力変化、右辺第3項は、ルーパの角度が変化することにより生じる張力変化である。したがって、冷却による鋼板の長さ変化量ΔL(t)を予測して、ピンチロールの速度及び/又はルーパ角度を適切にフィードフォワード修正すれば、鋼板の張力変化を大幅に抑制することができる。
【0012】
具体的には、ピンチロールの速度を修正する場合、速度修正量ΔV(t)は、上記式(1)でΔσ(t)=f(Δθ(t))=0とおいて、下記式(2)で与えられる。
【0013】
【数2】

【0014】
また、ルーパ角度を修正する場合、上記式(1)の右辺第一項の被積分関数にルーパ角度θが含まれていないため、当該右辺第1項の張力変化量を抑制することはできないが、第2項の張力変化を相殺するルーパ角度の修正量は下記式(3)で与えられる。
【0015】
【数3】

【0016】
本発明者は、以上を踏まえて、本発明を完成させた。以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするため、添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明の第1の態様は、仕上圧延機列の最終圧延機(1)と、該仕上圧延機列の最終圧延機(1)の出側に設置された冷却装置(2)と、該冷却装置(2)の出側に設置されて鋼板(S)の上下両面に当接するピンチロール(3)と、を備えた装置(7)を用いて熱延鋼板を製造する際に、鋼板(S)の先端がピンチロール(3)に到達して、仕上圧延機列の最終圧延機(1)とピンチロール(3)との間の鋼板(S)の張力が確立した後の予め定められたタイミングで冷却装置(2)による冷却を開始するにあたり、冷却による温度変化によって生じる鋼板(S)の長さ変化を予測し、長さ変化の予測値に基づいてピンチロール(3)の速度を修正することを特徴とする、熱延鋼板の張力制御方法である。
【0018】
本発明の第2の態様は、仕上圧延機列の最終圧延機(1)と、該仕上圧延機列の最終圧延機(1)の出側に設置された冷却装置(2)と、該冷却装置(2)の出側に設置されて鋼板(S)の上下両面に当接するピンチロール(3)と、冷却装置(2)とピンチロール(3)との間で鋼板(S)の上方に位置した水切りロール(4)と、該水切りロール(4)とピンチロール(3)との間の鋼板(S)の長さを調節可能なルーパ(5)と、を備えた装置(7)を用いて熱延鋼板を冷却する際に、鋼板(S)の先端がピンチロール(3)に到達して、仕上圧延機列の最終圧延機(1)とピンチロール(3)との間の鋼板(S)の張力が確立した後の予め定められたタイミングで冷却装置(2)による冷却を開始するにあたり、冷却による温度変化によって生じる鋼板(S)の長さ変化を予測し、長さ変化の予測値に基づいてルーパ(5)の角度を修正することを特徴とする、熱延鋼板の張力制御方法である。
【0019】
本発明の第3の態様は、仕上圧延機列の最終圧延機(1)と、該仕上圧延機列の最終圧延機(1)の出側に設置された冷却装置(2)と、該冷却装置(2)の出側に設置されて鋼板(S)の上下両面に当接するピンチロール(3)と、冷却装置(2)とピンチロール(3)との間で鋼板(S)の上方に位置した水切りロール(4)と、該水切りロール(4)とピンチロール(3)との間の鋼板(S)の長さを調節可能なルーパ(5)と、を備えた装置(7)を用いて熱延鋼板を冷却する際に、鋼板(S)の先端がピンチロール(3)に到達して、仕上圧延機列の最終圧延機(1)とピンチロール(3)との間の鋼板(S)の張力が確立した後の予め定められたタイミングで冷却装置(2)による冷却を開始するにあたり、冷却による温度変化によって生じる鋼板(S)の長さ変化を予測し、長さ変化の予測値に基づいてピンチロール(3)の速度及びルーパ(5)の角度を修正することを特徴とする、熱延鋼板の張力制御方法である。
【0020】
本発明の第4の態様は、上記本発明の第1の態様乃至上記本発明の第3の態様にかかる熱延鋼板の張力制御方法を用いて鋼板の張力を制御する工程を有する、熱延鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1の態様及び本発明の第3の態様では、冷却によって生じる鋼板(S)の長さ変化に基づいて、張力変化を抑制するようにピンチロール(3)の速度をフィードフォワード修正するので、張力を検出または推定してフィードバック修正する従来法よりも高応答に張力を制御することができる。
【0022】
本発明の第2の態様及び本発明の第3の態様では、冷却によって生じる鋼板(S)の長さ変化に基づいて、張力変化を抑制するようにルーパ(5)の角度をフィードフォワード修正するので、張力を検出または推定してフィードバック修正する従来法よりも高応答に張力を制御することができる。
【0023】
本発明の第1の態様乃至本発明の第3の態様のいずれの態様においても張力変動が抑制されるので、超微細粒鋼を製造する際に必要となる、冷却速度、冷却量の大きな強冷却をおこなう際にも、板幅の狭窄、スリップ痕、冷却ムラによる歩留まりロスを改善でき、また、無張力状態に起因して製造停止に至るトラブルも回避することが可能になる。
【0024】
本発明の第4の態様は、本発明の第1の態様乃至本発明の第3の態様にかかる熱延鋼板の張力制御方法を用いて鋼板の張力を制御する工程を有している。そのため、従来以上の強冷却が可能となり、従来以上の微細結晶粒を有する熱延鋼板の製造が可能となる。したがって、本発明の第3の態様によれば、超微細粒鋼を製造する際に必要となる、冷却速度、冷却量の大きな強冷却をおこなう際にも、最終圧延機とピンチロールとの間の張力変動を抑制して歩留まりを向上させるとともに、製造停止に至るトラブルも回避することが可能な熱延鋼板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の熱延鋼板の張力制御方法が適用される製造装置7の形態例を示す図である。
【図2】本発明の第1の態様にかかる熱延鋼板の張力制御方法を適用した場合の圧延状態を示すグラフである。
【図3】本発明の第2の態様にかかる熱延鋼板の張力制御方法を適用した場合の圧延状態を示すグラフである。
【図4】本発明以外の熱延鋼板の張力制御方法を適用した場合の圧延状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
図1は、本発明にかかる熱延鋼板の張力制御方法が適用される製造装置7の形態例を示す図である。図1に示した製造装置7は、仕上げ圧延機列の最終圧延機1と、最終圧延機1で圧延された直後の鋼板Sを冷却可能なように最終圧延機1の直後に設置された冷却装置2と、冷却装置2の出側に設置されて鋼板Sの上、下両面に当接するピンチロール3とを備えるとともに、冷却装置2とピンチロール3との間に水切りロール4が設置され、水切りロール4とピンチロール3との間にルーパ5が設置されている。ルーパ5は、ルーパ角度を変更することにより、水切りロール4とピンチロール3との間の鋼板Sの幾何学的な長さを調整できるように構成されている。また、ルーパ5にはルーパ角度の検出器が備えられているととともに、ルーパ5の鋼板Sと接触して回転する部分にはロードセルが内蔵されており、鋼板Sにかかる張力を測定することができる。
【0028】
冷却装置2は、鋼板Sの上、下面に多数のノズル6、6、…を配した装置であり、ノズル6、6、…は冷却制御装置10の指令に基づいて多量の冷却水を噴射することにより、最終圧延機1から出てきた鋼板Sを急速に冷却する。また、ルーパ5の角度実績値はルーパ角度制御装置20に入力され、ルーパ角度制御装置20はルーパ角度が目標値に一致するようにルーパ5の駆動トルクを修正する。また、ピンチロール3の速度は速度制御装置30で制御されており、ルーパ5に内蔵されたロードセルで検出された鋼板Sの張力は張力フィードバック制御装置40に入力され、張力フィードバック制御装置40は張力が目標値に一致するようにピンチロール3の速度修正量を速度制御装置30に出力する。
【0029】
計算機70は、予め定められた鋼板Sの冷却指示温度に基づいて、ノズル6、6、…の各冷却水量を計算して冷却制御装置10に出力し、冷却制御装置10はノズル6、6、…の冷却水量を制御することにより所望の冷却が実行される。また、計算機70は、上記の冷却によって生じる、最終圧延機1とピンチロール3との間の鋼板Sの長さ変化量を予測して、第一フィードフォワード制御装置50と第二フィードフォワード制御装置60に出力する。
【0030】
第一フィードフォワード制御装置50は、計算機70から与えられた鋼板Sの長さ変化量の予測値に基づいてピンチロール3の速度修正量を求めて速度制御装置30に出力し、速度制御装置30がピンチロール3の速度を修正することにより、鋼板Sの長さ変化によって生じる張力変化を抑制するようにピンチロール3の速度が修正される。
【0031】
第二フィードフォワード制御装置60は、計算機70から与えられた鋼板Sの長さ変化量の予測値に基づいてルーパ5の角度目標値の修正量を求めてルーパ角度制御装置20に出力し、ルーパ角度制御装置20は修正された角度目標値にルーパ5の角度を一致させるようにルーパ5の駆動トルクを修正することにより、鋼板Sの長さ変化によって生じる張力変化を抑制するようにルーパ角度が修正される。
【0032】
以下、図1を参照しつつ、本発明の熱延鋼板の張力制御方法を具体的に説明する。
【0033】
鋼板Sの圧延を開始する前に、計算機70は予め定められた鋼板Sの冷却指示温度に基づいて、ノズル6、6、…の各冷却水量を計算して冷却制御装置10に出力するとともに、その冷却によって生じる、最終圧延機1とピンチロール3との間の鋼板Sの長さ変化量を予測して、第一フィードフォワード制御装置50と第二フィードフォワード制御装置60に出力する。例えば、鋼板Sの長さ変化量(収縮を正とする)の予測は、下記式(4)のようにおこなう。
【0034】
【数4】

ここで、αは線膨張係数、Lは冷却前の鋼板Sの長さであり、ΔTi(t)は最終圧延機1とピンチロール3との間をN等分した各区間に存在する鋼板Sの各部位の温度降下量、tは時間である。式(4)は温度降下による熱収縮のみを表した式であるが、鋼板Sの相変態による長さ変化が無視できない場合はその長さ変化も含めておくことが望ましい。
【0035】
鋼板Sの圧延を開始して鋼板Sの先端がピンチロール3に到達すると、ルーパ角度制御装置20はルーパ5を振り上げ、ルーパ5の角度制御を開始する。その動作は、ルーパ5から入力されるルーパ角度実績値が予め定められた角度目標値θに一致するようにルーパ5の駆動トルクを修正するものであり、公知の比例積分制御を用いることができる。
【0036】
また、振り上げられたルーパ5が鋼板Sと接触すると、ルーパ5に内蔵されたロードセルによって測定された鋼板Sの張力実績値は、張力フィードバック制御装置40に入力され、張力フィードバック制御装値40は、張力フィードバック制御を開始する。その動作は、張力実績値を予め定められた張力目標値に一致させるピンチロール3の速度修正量ΔVFB(t)を求めて速度制御装置30に出力するものであり、公知の比例積分制御を用いることができる。速度制御装置30は速度修正量ΔVFB(t)に基づき、ピンチロール3の速度を修正することにより鋼板Sの張力がフィードバック制御される。
【0037】
ルーパ5によって測定された張力が冷却を開始してもよい状態になると、冷却制御装置10はノズル6、6、…の各冷却水量が計算機70から与えられた水量に一致するように冷却装置2の動作を制御し、鋼板Sの冷却が開始される。
【0038】
それと同時に、冷却による張力変動を抑制するフィードフォワード制御が開始される。これには、例えばピンチロール速度を修正する方法と、ルーパ角度を修正する方法の2通りが選択可能であり、それぞれの修正の応答性や修正可能量に応じてどちらを用いるかを決定しておく。
【0039】
まず、ピンチロール速度を修正する方法について説明する。第一フィードフォワード制御装置50は、計算機70から与えられた鋼板Sの長さ変化量予測値ΔL(t)を上記式(2)に代入してピンチロール3のフィードフォワード速度修正量ΔVFF(t)を求め、ΔVFF(t)を速度制御装置30に出力する。速度制御装置30は張力フィードバック制御装置40から与えられた速度修正量ΔVFB(t)と、第一フィードフォワード制御装置50から与えられた速度修正量ΔVFF(t)を加算し、その加算値に基づき、ピンチロール3の速度を修正する。なお、この方法の場合は、第二フィードフォワード制御装置60は動作しない。
【0040】
次に、ルーパ角度を修正する場合について説明する。第二フィードフォワード制御装置60は、計算機70から与えられた鋼板Sの長さ変化量予測値ΔL(t)を上記式(3)に代入してルーパ5の角度目標値の修正量Δθ(t)を求め、Δθ(t)をルーパ角度制御装置20に出力する。ルーパ角度制御装置20は、ルーパ5の角度目標値を冷却開始前の目標値θからθ+Δθ(t)に修正しつつルーパ5の角度制御を続行し、ルーパ5の駆動トルクを修正する。なお、この方法の場合は、第一フィードフォワード制御装置50は動作しない。また、この方法では、ルーパ角度の目標値を変更するので、冷却による鋼板Sの長さ変化が完了した時間tendのときのルーパ角度が、定常部の通常の目標値θstになるようにすることが望ましい。これには、冷却開始前の角度目標値θを予め下記式(5)のようにしておけばよい。
【0041】
【数5】

【0042】
上述した方法では、ピンチロール速度をフィードフォワード修正するか、ルーパ角度をフィードフォワード修正するかを二者択一するものとして説明したが、修正量を両者に任意に配分することも可能である。この場合、計算機70で予測した鋼板長さの変化量ΔL(t)を、第一フィードフォワード制御装置50にΔL(t)、第二フィードフォワード制御装置60にΔL(t)=ΔL(t)−ΔL(t)として出力し、第一フィードフォワード制御装置50及び第二フィードフォワード制御装置60をともに動作させればよい。
【実施例】
【0043】
シミュレーションの結果を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。
【0044】
図1の製造装置7を、10.5m/sの速度で走行する板厚2mm、板幅1000mmの鋼板Sを、仕上圧延機列の最終圧延機1とピンチロール3との間の張力が付与された状態で、板厚方向の断面平均温度を900℃から650℃に冷却するシミュレーションをおこなった。
【0045】
本発明の第1の態様にかかる熱延鋼板の張力制御方法を適用した場合(実施例1)の圧延状態を図2に、本発明の第2の態様にかかる熱延鋼板の張力制御方法を適用した場合(実施例2)の圧延状態を図3に示す。比較として、従来法(本発明以外の熱延鋼板の張力制御方法)を適用した場合の圧延状態を図4に示す。従来法では、鋼板Sの張力を検出してピンチロール3の速度を修正する張力フィードバック制御のみをおこなっているのに対し、実施例1では冷却による鋼板Sの長さ変化の予測値に基づいてピンチロール3の速度を修正するフィードフォワード制御が、実施例2では冷却による鋼板Sの長さ変化の予測値に基づいてルーパ5の角度を修正するフィードフォワード制御が加えられている。
【0046】
いずれの場合も、時間0において冷却を開始しており、冷却開始とともに仕上圧延機列の最終圧延機1からピンチロール3までの鋼板Sの長さは温度低下により急速に縮み、張力は増大しようとする。
【0047】
従来法では、増大した張力を検出してからピンチロール3の速度を修正する張力フィードバック制御のみであるため応答性が悪く、73kNも張力が増加した。また、時間1.5秒の辺りではアンダーシュートも見られ、張力が冷却前の値に整定するまで約3秒を要した。
【0048】
これに対して実施例1では、冷却による鋼板Sの縮み量の予測値に基づいてピンチロール3の速度を減速するフィードフォワードの変更指令が加えられているので、従来法よりもピンチロール3の速度修正が素早くおこなわれる。これにより、張力の増加量は21kNに抑制され、整定時間も約1秒に短縮した。
【0049】
また実施例2では、冷却による鋼板Sの縮み量の予測値に基づいてルーパ5の角度目標値を下げるフィードフォワードの変更指令が加えられており、ルーパ角度制御によって、変更された目標値に一致するようにルーパ角度が低下する。これにより、張力の増加量は45kNに抑制され、整定時間も約1秒に短縮した。
【0050】
ピンチロール速度をフィードフォワード修正するとともに、ルーパ角度をフィードフォワード修正する形態のシミュレーションは今回実施していないが、実施例1及び実施例2の結果から、ピンチロール速度及びルーパ角度をフィードフォワード修正する形態であっても、張力の増加を低減でき、整定時間も短縮可能であることは明らかである。
【0051】
以上より、本発明によれば、仕上圧延機列の最終圧延機直後で強冷却を実施した際でも張力変動を抑制することができるので、板幅の狭窄、スリップ痕、冷却ムラによる歩留まりロスを改善でき、また、無張力状態に起因して製造停止に至るトラブルも回避できる。さらに、本発明の熱延鋼板の張力制御方法を用いる本発明の熱延鋼板の製造方法によれば、従来以上の強冷却が可能となり、従来以上の微細結晶粒を有する熱延鋼板の製造が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、超微細結晶粒を有する熱延鋼板の製造等に用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
S…鋼板
1…仕上圧延機列の最終圧延機
2…冷却装置
3…ピンチロール
4…水切りロール
5…ルーパ
6…ノズル
7…製造装置
10…冷却制御装置
20…ルーパ角度制御装置
30…速度制御装置
40…張力フィードバック制御装置
50…第一フィードフォワード制御装置
60…第二フィードフォワード制御装置
70…計算機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕上圧延機列の最終圧延機と、該仕上圧延機列の最終圧延機の出側に設置された冷却装置と、該冷却装置の出側に設置されて鋼板の上下両面に当接するピンチロールと、を備えた装置を用いて熱延鋼板を製造する際に、
前記鋼板の先端が前記ピンチロールに到達して、前記仕上圧延機列の最終圧延機と前記ピンチロールとの間の前記鋼板の張力が確立した後の予め定められたタイミングで前記冷却装置による冷却を開始するにあたり、冷却による温度変化によって生じる前記鋼板の長さ変化を予測し、長さ変化の予測値に基づいて前記ピンチロールの速度を修正することを特徴とする、熱延鋼板の張力制御方法。
【請求項2】
仕上圧延機列の最終圧延機と、該仕上圧延機列の最終圧延機の出側に設置された冷却装置と、該冷却装置の出側に設置されて鋼板の上下両面に当接するピンチロールと、前記冷却装置と前記ピンチロールとの間で前記鋼板の上方に位置した水切りロールと、該水切りロールと前記ピンチロールとの間の前記鋼板の長さを調節可能なルーパと、を備えた装置を用いて熱延鋼板を冷却する際に、
前記鋼板の先端が前記ピンチロールに到達して、前記仕上圧延機列の最終圧延機と前記ピンチロールとの間の前記鋼板の張力が確立した後の予め定められたタイミングで前記冷却装置による冷却を開始するにあたり、冷却による温度変化によって生じる前記鋼板の長さ変化を予測し、長さ変化の予測値に基づいて前記ルーパの角度を修正することを特徴とする、熱延鋼板の張力制御方法。
【請求項3】
仕上圧延機列の最終圧延機と、該仕上圧延機列の最終圧延機の出側に設置された冷却装置と、該冷却装置の出側に設置されて鋼板の上下両面に当接するピンチロールと、前記冷却装置と前記ピンチロールとの間で前記鋼板の上方に位置した水切りロールと、該水切りロールと前記ピンチロールとの間の前記鋼板の長さを調節可能なルーパと、を備えた装置を用いて熱延鋼板を冷却する際に、
前記鋼板の先端が前記ピンチロールに到達して、前記仕上圧延機列の最終圧延機と前記ピンチロールとの間の前記鋼板の張力が確立した後の予め定められたタイミングで前記冷却装置による冷却を開始するにあたり、冷却による温度変化によって生じる前記鋼板の長さ変化を予測し、長さ変化の予測値に基づいて前記ピンチロールの速度及び前記ルーパの角度を修正することを特徴とする、熱延鋼板の張力制御方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱延鋼板の張力制御方法を用いて鋼板の張力を制御する工程を有する、熱延鋼板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−103267(P2013−103267A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250443(P2011−250443)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】