説明

熱検出装置

【課題】複数の基準熱源25,26を基準として、収集した測定対象熱源30の熱源画像を補正する熱検出装置100に関し、遮蔽空間(代表例としてのトンネル)外から遮蔽空間内に熱検出装置100が移動し、遮蔽空間内壁の温度を測定する場合における、基準熱源25,26の制御方法を提供する。
【解決手段】測定対象物温度測定部21が、測定対象熱源30の温度を測定し、外気温度測定部22が外気温度を測定し、判別部23が、自装置100が遮蔽空間内にあるか否かを判別し、制御部が、判別部23によって、遮蔽空間内であることを検出すると、複数の基準熱源25,26の制御を、前記外気温度測定部22における測定結果に基づく制御から前記測定対象物温度測定部21における測定結果に基づく制御に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱検出装置に関し、好ましくは特に、複数の基準熱源を基準として、収集した測定対象熱源の熱源画像の感度補正を行う熱検出装置に関する。
【0002】
近年、測定対象熱源から放射された赤外線を検出し、この検出信号を測定対象熱源の熱源画像として表示する熱検出装置は、例えば、監視カメラ、暗視装置、サーモグラフィ、リモートセンシング並びに車両及び航空機に搭載された前方監視装置等として広く普及している。赤外線を検出する熱検知器には、単一検知素子、1次元配列検知素子、及び2次元配列検知素子構成のもの等がある。1次元配列素子及び2次元配列素子のような多素子構成の熱検知器においては、各素子の感度特性は必ずしも均一でない。また、同一素子が検出した画素も、その測定条件により誤差が発生する。したがって、測定対象熱源の正確な温度測定を行うためには各画素の感度補正を行う必要がある。
【背景技術】
【0003】
従来例(1)
従来の熱検出装置(赤外線撮像装置)、例えば、特開平10-111172号公報(特許文献1)記載の赤外線撮像装置は、撮像目標(測定対象熱源)からの赤外線を集光して熱検知器の視野を走査する走査光学系に対して2つの基準熱源を備え、該熱検知器を構成する検知素子の該測定対象熱源に対する無効走査期間において、該検知素子が両基準熱源を見込んだときの出力から該検知素子の感度を補正するようにした赤外線撮像装置において、前記2つの基準熱源に対する前記検知素子の出力の中間値を算出して、該中間値が目標物体(測定対象熱源)を撮像したときの該検知素子の出力の平均値と一致するように、第1の基準熱源の温度と第2の基準熱源の温度とを、所定の温度差を持たせて制御する。そして、この2つの温度を基準とした感度補正を行っている。これにより、第1及び第2の基準熱源の温度を測定対象熱源の温度に近くに設定でき正確な感度補正が可能になる。
【0004】
従来例(2)
また、別の従来の熱検出装置(赤外線撮像装置)、例えば、特開2001-8100号公報(特許文献2)記載の赤外線撮像装置は、複数の素子により構成された赤外線検知器と、高温の基準熱源と常温の基準熱源を備え、基準熱源制御回路が、該高温と常温との基準熱源の温度を制御し、光学系が、有効走査期間に目標物(測定対象熱源)方向の赤外線を走査して前記赤外線検知器に入射し、信号処理回路が、無効走査期間に前記高温と常温との基準熱源からの赤外線を走査して前記赤外線検知器に入射すると、前記無効走査期間に取込んだ前記高温の基準熱源による高温データと前記常温の基準熱源による常温データとを基に、前記素子対応の感度補正を行い、且つ前記赤外線検知器を構成する各素子の欠陥を判定し、欠陥素子による信号を正常素子による信号に置換する処理を行う。
【特許文献1】特開平10-111172号公報(3〜4頁、図1)
【特許文献2】特開2001-8100号公報(3〜4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように従来例(1)及び(2)の熱検出装置では、温度差を持たせた2つ基準熱源の温度を測定対象熱源の温度に近づけるように制御し、そして、この2つの温度を基準として、熱検知器の検出素子の感度のバラツキを正確に補正している。
しかしながら、従来例(1)及び(2)においては、熱検出装置の移動する場合についての配慮がない。即ち、熱検出装置が遮蔽空間外から遮蔽空間内に移動する場合についての配慮がない。
【0006】
そこで、本発明では、遮蔽空間(代表例としてのトンネル)外から遮蔽空間内に熱検出装置が移動し、遮蔽空間内壁の温度を測定する場合における、基準熱源の制御方法を提供することを目的とする。
また、遮蔽空間内を断続的に移動する場合に、効率的な基準熱源の制御方法を提供することを目的とする。
【0007】
例えば、測定対象熱源の温度の高いトンネル外から温度の低いトンネル(閉鎖空間)に入ってトンネルの内壁の温度を測定する場合、基準熱源を最適な温度に高速で測定対象熱源付近の温度に追従させることができない。これは、基準熱源の熱容量の大きさに起因する温度制御遅れであり、例えば、この遅れは30秒程度ある場合がある。すなわち、正確な感度補正を行うためには基準熱源の設定温度をトンネルの内壁温度付近に設定する必要があるが、トンネル内に入るとき、この制御に遅れが発生するため感度補正が正確でなくなる。
【0008】
また、複数のトンネルの内壁を順次測定し、その熱源画像を記録する場合、本来測定対象外のトンネル外(遮蔽空間外)の熱源画像も熱源画像記録部に記録されてしまうため、熱源画像記録部の限りある記憶容量を無駄に消費していた。すなわち、トンネル外の不必要な熱源画像のために必要以上の記録媒体を用意しておかなければならなかった。
【0009】
そこで本発明は、遮蔽空間内の測定対象熱源画像を抽出して記録することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明においては、基準熱源を用いて赤外検知器の感度補正を行う熱検出装置が、複数の基準熱源と、測定対象熱源の温度を測定する測定対象物温度測定部と、外気温度を測定する外気温度測定部と、自装置が遮蔽空間内にあるか否かを判別する判別部と、該判別部によって、遮蔽空間内であることを検出すると、前記複数の基準熱源の制御を、前記外気温度測定部における測定結果に基づく制御から前記測定対象物温度測定部における測定結果に基づく制御に切り替える制御部を備えたことを特徴としている。
【0011】
すなわち、熱検出装置は、複数(通常2つ)の基準熱源、測定対象物温度測定部、外気温度測定部、判別部、及び制御部を備えている。測定対象物温度測定部は、測定対象熱源の温度を測定し、外気温度測定部は外気温度を測定し、判別部は自装置が遮蔽空間(例えば、トンネル)内にあるか否かを判別し、制御部は、該判別部によって、遮蔽空間内であることを検出すると、前記複数の基準熱源の制御を、前記外気温度測定部における測定結果に基づく制御から前記測定対象物温度測定部における測定結果(トンネル内の壁の温度)に基づく制御に切り替える。
【0012】
これにより、遮蔽空間(代表例としてのトンネル)外から遮蔽空間内に熱検出装置が移動し、遮蔽空間内壁の温度を測定する場合における、基準熱源の制御が可能になる。
【0013】
また、上記の課題を解決するため、本発明では、基準熱源を用いて赤外検知器の感度補正を行う熱検出装置が、複数の基準熱源と、測定対象熱源の温度を測定する測定対象物温度測定部と、外気温度を測定する外気温度測定部と、自装置が遮蔽空間内にあるか否かを判別する判別部と、該判別部によって、遮蔽空間内から遮蔽空間外への変化を検出すると、前記遮蔽空間内における前記複数の基準熱源の温度制御を、次に遮蔽空間内に移動するまで保持する制御部とを備えたことを特徴としている。
【0014】
すなわち、熱検出装置は、複数(通常2つ)の基準熱源、測定対象物温度測定部、外気温度測定部、判別部、及び制御部を備えている。
【0015】
測定対象物温度測定部は、測定対象熱源の温度を測定し、外気温度測定部は、外気温度を測定し、判別部は、自装置が遮蔽空間内にあるか否かを判別し、制御部は、該判別部によって、遮蔽空間内から遮蔽空間外への変化を検出すると、前記遮蔽空間内における前記複数の基準熱源の温度制御を、次に遮蔽空間内に移動するまで保持する。
【0016】
一般的に、トンネル外の外気はトンネル内の外気と連続しているため、トンネル出入口付近のトンネル外の外気温度とトンネル出入口付近のトンネル内壁(トンネル内外気と接触している。)の温度とは、ほぼ等しい。したがって、基準熱源温度設定部が上述したような各基準熱源の温度制御を行った場合、各基準熱源が追従できないほどの急峻な温度変化を各基準熱源に与える制御を行うことなく、すなわち、基準熱源が追従可能な温度制御を行うことが可能になる。これにより、遮蔽空間内を断続的に移動する場合に、効率的な基準熱源の制御が可能になる。
【0017】
また、上記の制御部は、前記判別部によって、遮蔽空間内であると判断した場合に、測定対象熱源画像を記録し、遮蔽空間外であると判断した場合に、測定対象熱源画像を記録しないように制御することができる。これにより、遮蔽空間内の測定対象熱源画像を抽出して記録することが可能になる。
【0018】
また、上記の制御部は、遮蔽空間内から遮蔽空間外に移動したとき、該遮蔽空間内の該測定対象熱源を検出した温度を保持する代わりに、該外気温度に基づき各基準熱源の温度を制御することができる。
【0019】
これによれば、例えば、遮蔽空間と次の遮蔽空間との距離が長い場合、前の遮蔽空間の出口の内壁の温度と次の遮蔽空間の入口の内壁の温度が大きく異なる可能性があり、この場合、最後に検出した温度を保持して温度制御を行うと基準熱源の遅れが問題になる。そこで、外気温度が遮蔽空間の出口の内壁の温度から次の遮蔽空間の入口の内壁の温度までに徐々に変化するものとして、外気温度に基づき、基準熱源の温度制御を行えば、遅れの問題は解消する。
【0020】
また、上記の判別部は、GPS受信機を含み、該GPS受信機が、全てのGPS信号を受信できなかったとき、該遮蔽空間内であると判別し、少なくとも1つのGPS信号を受信したとき、該遮蔽空間外であると判別することができる。これにより、熱検出装置が遮蔽空間内にあるか否かを判別することが可能になる。
【0021】
また、上記の測定対象物温度測定部を、サーモパイルを用いた放射温度計としてもよい。
【0022】
また、上記の外気温度測定部を、白金抵抗を用いた温度センサとしてもよい。
【0023】
また、本発明では、該基準熱源の内の1つを高温側基準熱源とし、別の1つを低温側基準熱源としたとき、該赤外検知器で検知された該高温側基準熱源の熱源画像の全画素データの平均値と該低温側基準熱源の熱源画像の全画素データの平均値との差を、該高温側基準熱源の熱源画像の各画素データと該低温側基準熱源の熱源画像の各画素データとの差で割った値を各画素のゲイン係数とし、該低温側基準熱源の熱源画像の全画素データの平均値と該高温側基準熱源の熱源画像の各画素データとの積と、該高温側基準熱源の熱源画像の全画素データの平均値と該低温側基準熱源の熱源画像の各画素データの積との差を、該高温側基準熱源の熱源画像の各画素データと該低温側基準熱源の熱源画像の各画素データとの差で割った値を各画素のオフセット係数として該感度補正をする信号処理部を備えることができる。なお、この感度補正は、3つ以上の基準熱源の画素データを用いて、より正確な感度補正をすることも可能である。
【0024】
また、上記の各画素データを各画素近傍の複数の画素データの平均値とすることができる。これにより、熱検知器12の各画素データに含まれるノイズの影響を排除することが可能になる。
【0025】
また、上記の遮蔽空間をトンネルとすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、遮蔽空間外から閉鎖空間内に熱検出装置が移動する場合の基準熱源の効率的な制御方法が提供される。
また、本発明によれば、遮蔽空間内を断続的に移動する場合に、効率的な基準熱源の制御方法が提供される。
また、本発明によれば、遮蔽空間内の測定対象熱源画像を抽出して記録することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
構成実施例
図1は、本発明の熱検出装置100の構成実施例を示している。この熱検出装置100は、光学系部10、光路選択部11、熱検知器(赤外線検知器)12、増幅器13、A/D変換器14、信号処理部15、D/A変換器16、モニタ17、熱源画像記録部18、及び基準熱源入射選択部19を備えている。さらに、熱検出装置100は、測定対象物温度測定部21、外気温度測定部22、遮蔽空間内運用判別部23、基準熱源温度設定部24、基準熱源25、基準熱源26、及び基準熱源選択部27を備えている。この内の光路選択部11、基準熱源選択部27、及び基準熱源入射選択部19で選択部31を構成している。
【0028】
動作実施例
動作において、光学系部10は、測定対象熱源30から受けた赤外線を光路選択部11に与える。基準熱源選択部27は、基準熱源25及び基準熱源26の内の一方からの赤外線を選択して光路選択部11に与える。光路選択部11は、測定対象熱源30からの赤外線及び基準熱源25又は基準熱源26からの赤外線の内のいずれか1つを選択して熱検知器12に与える。熱検知器(赤外線検知器)12は、与えられた赤外線を電気信号に変換し、この電気信号を増幅器13は増幅してA/D変換器14に与える。A/D変換器14は与えられた電気信号をディジタル信号に変換して、信号処理部15に与える。このディジタル信号は、順次、画像フレーム800_1,800_2,…,800_n,…(以下、符号800で総称することがある。)に構成されて出力される。
【0029】
図2は、画像フレーム800の一例を示しており、この画像フレーム800は、測定対象熱源画像800a及び基準熱源画像800bで構成されている。基準熱源画像800bには低温側基準熱源画像又は高温側基準熱源画像を含んでいる。基準熱源画像800bでは、各画素当たり128データ取得する。感度補正係数の算出には基準熱源画像800bを使用する。感度補正係数は通常、1フレーム毎に更新される。
【0030】
信号処理部15は、例えば、基準熱源25及び基準熱源26に対応する基準熱源画像800bの低温側基準熱源画像及び高温側基準熱源画像に基づき、熱検知器12の検知素子の感度バラツキ等に起因する各画素の感度を補正する。さらに、信号処理部15は、測定対象熱源30の熱源画像を熱源画像記録部18に記録できるデータ形式に変換して熱源画像記録部18に与えるとともに、モニタ17に写すためのデータ形式に変換したディジタルデータをD/A変換器16に与える。このディジタルデータをD/A変換器16はアナログ信号に変換してモニタ17に与える。モニタ17はアナログ信号に基づき測定対象熱源30の熱源画像を表示する。
【0031】
基準熱源入射選択部19は、基準熱源選択部27と光路選択部11を制御して、それぞれ、高温側及び低温側温度に設定された基準熱源25又は基準熱源26からの赤外線を熱検知器12に入射させる。さらに、基準熱源入射選択部19は、現在、基準熱源25及び基準熱源26の内のいずれの赤外線が熱検知器12に入射しているかを示す基準熱源入射通知704を信号処理部15に通知する。熱源画像記録部18は、与えられたデータ形式の熱源画像を記録する。この記録媒体として、例えば、ハードディスクが用いられる。熱源画像記録部18の記録開始及び記録停止は、遮蔽空間内運用判別部23が出力する遮蔽空間内運用判別情報702に基づき行われる。これにより、遮蔽空間外の熱源画像及び遮蔽空間内の測定対象熱源画像の内の遮蔽空間内の測定対象熱源画像のみを記録することが可能になる。
【0032】
測定対象物温度測定部21は、測定対象熱源30の表面温度を測定するものであり、例えばセンサとしてサーモパイルを用いた放射温度計で構成し、得られる測定対象熱源30の表面温度の誤差は、概ね±1℃以下となるようにする。測定対象物温度測定部21はその精度を向上させるための校正回路を含んでも良い。放射温度計が測定する測定対象熱源30の範囲は、熱検知器12が測定する範囲と重なるようにする。得られた測定対象熱源30の表面温度はアナログ又はディジタル形式で基準熱源温度設定部24に送られる。
【0033】
外気温度測定部22は、本発明の熱検出装置100周辺の外気温度を測定するものであり、例えばセンサとして白金抵抗を用いて構成する。白金抵抗にはおよそ1mAの電流を流し、そのときの電圧降下を増幅して、誤差が概ね±1℃以下となるような外気温度を得る。得られた外気温度はアナログ又はディジタル形式で基準熱源温度設定部24に送られる。
【0034】
遮蔽空間内運用判別部23は、本発明の熱検出装置100が遮蔽空間内(トンネル内)にあるか否かを判別するものであり、例えばGPS受信機を含んでいる。一般にGPS受信機はRS232C等を用いたステータス出力機能を有している。このステータス出力の内、現在受信できているGPS衛星数の情報を用いる。本発明の熱検出装置100が遮蔽空間(トンネル)外にあるときはGPS衛星から発せられる電波を受信できるので、GPS受信機が出力するステータスが示す“現在受信できているGPS衛星数”≧“1”となる。
【0035】
一方、本発明の熱検出装置100が遮蔽空間内にあるときはGPS衛星から発せられる電波を受信できないので、GPS受信機が出力するステータスが示す“現在受信できているGPS衛星数”=“0"となる。すなわち、GPS受信機が出力するステータスが示す“現在受信できているGPS衛星数”≧“1"のときは本発明の熱検出装置100が遮蔽空間外にあり、“現在受信できているGPS衛星数”=“0"のときは本発明の熱検出装置100が遮蔽空間内にあると判別する。遮蔽空間内運用判別情報702は、1ビットのロジック信号であり、基準熱源温度設定部24及び熱源画像記録部18に送られる。
【0036】
基準熱源温度設定部24は、例えば、ロジック回路により構成され、測定対象物温度測定部21が出力する測定対象物温度703、外気温度測定部22が出力する外気温度701、遮蔽空間内運用判別部23が出力する遮蔽空間内運用判別情報702に基づき、基準熱源25及び基準熱源26の温度を設定する。
【0037】
基準熱源の温度設定例
図3は、基準熱源温度設定部24の動作手順例を示しており、この動作手順では、基準熱源温度設定部24は基準熱源25及び基準熱源26の温度を設定する。以下に設定部24の動作手順を説明する。
【0038】
ステップS100:熱検出装置100に電源が投入され、熱検出装置100の運用が開始する。
【0039】
ステップS110:基準熱源温度設定部24は、熱検出装置100が遮蔽空間内にあるか否かの判別を行う、すなわち、基準熱源温度設定部24は、遮蔽空間内運用判別部23からの遮蔽空間内運用判別情報702=“0:NO(遮蔽空間外)”であるときは、ステップS120に進み、“1:YES(遮蔽空間内)”のときは、ステップS130に進む。
【0040】
ステップS120:基準熱源温度設定部24は、外気温度測定部22で測定された外気温度701を基に基準熱源25及び基準熱源26の温度を設定する。例えば、基準熱源25=“外気温度701+5℃”及び基準熱源26=“外気温度701−5℃”に設定した後、ステップS110に戻る。
【0041】
尚、遮蔽空間外である場合に、測定対象物温度測定部21の測定結果を用いて基準熱源25、26を制御すると、例えば、測定対象を上方側に設定してあると、空について放射温度を測定してしまい、遮蔽空間の内壁の温度よりも低い温度にあわせて基準熱源を制御してしまう。従って、遮蔽空間内に移動した際に、基準熱源の温度を大きく変動させる必要があり、基準熱源の熱容量の大きさに起因する温度制御遅れ(例えば、30秒程度)により、赤外線検知器の補正が正常に行えない期間が増大することとなる。
しかし、この実施例では、外気温度測定部22で測定した外気温度に基づいて基準熱源25、26を制御する。遮蔽空間への入り口付近の内壁の温度は、外気温度に近い温度であり、遮蔽空間内に移動した際に、基準熱源がなるべく測定対象である内壁温度に近い温度に基づいて制御されるからである。
【0042】
ステップS130:基準熱源温度設定部24は、測定対象物温度測定部21が測定した測定対象熱源(トンネル内壁)30の温度を基に基準熱源25及び基準熱源26の温度を設定する。例えば、基準熱源25=“測定対象熱源30の温度+5℃”及び基準熱源26=“測定対象熱源30の温度−5℃”に設定される。
【0043】
ステップS140:再度、熱検出装置100は、遮蔽空間内の運用であるか否かの判定を実施し、“YES(遮蔽空間内)”であるとき、ステップS130に戻り、ステップS130で測定された測定対象熱源30の温度を基に基準熱源25及び基準熱源26の設定温度が更新される。“NO(遮蔽空間外)”であるとき、ステップS150に進む。
【0044】
ステップS150:基準熱源25及び基準熱源26の設定温度は更新されずに保持される。ステップS140に戻る。そして、遮蔽空間外の運用が続く場合、基準熱源25及び基準熱源26の設定温度は更新されずに保持される。
【0045】
図4は、本発明の熱検出装置100における基準熱源25及び基準熱源26の温度設定例を示している。同図(1)は、遮蔽空間内運用判別情報702を示しており、横軸は時間、縦軸は判別情報702=“1:YES(遮蔽空間内)”、運用判別情報702=“0:NO(遮蔽空間外)”を示している。同図(2)〜(5)は、横軸は時間を示し、縦軸は、それぞれ、外気温度701、測定対象物温度703、基準熱源25の設定温度、及び基準熱源26の設定温度を示している。
【0046】
図3を参照して、図4に示した基準熱源25及び基準熱源26の温度設定動作を以下に説明する。
【0047】
区間T1:熱検出装置100の電源が遮蔽空間外で投入され、熱検出装置100の運用が開始される(図3のステップS100参照。)。このとき、遮蔽空間内運用でないので(同ステップS110参照。)、基準熱源25の温度=“外気温度701+5℃”に設定され、基準熱源26の温度=“外気温度701−5℃”に設定される(同ステップS120参照。)。
【0048】
区間T2:熱検出装置100が遮蔽空間内(トンネル内)に進入すると、遮蔽空間内運用判別情報702=“1:YES(遮蔽空間内)”となり(同ステップS110参照。)、基準熱源25の温度=“測定対象物温度703+5℃”、基準熱源26の温度=“測定対象物温度703−5℃”に設定される(同ステップS130参照。)。すなわち、遮蔽空間内の内壁温度(=測定対象熱源の温度)に基づき設定される。
【0049】
区間T3:さらに、熱検出装置100が遮蔽空間外に出ると(同ステップS140の“NO”参照。)、遮蔽空間内運用判別情報702=“0:NO(遮蔽空間外)”となり、基準熱源25の温度=“遮蔽空間内の測定対象物温度703+5℃を保持”、基準熱源26の温度=“遮蔽空間内の測定対象物温度703−5℃を保持”、すなわち、基準熱源25,26の設定された温度を保持する(同ステップS150参照。)。
【0050】
区間T4:さらに、熱検出装置100が遮蔽空間内に進入すると(同ステップS140の“YES”参照。)、遮蔽空間内運用判別情報702=“1:YES(遮蔽空間内)”となり、基準熱源25の温度=“測定対象物温度703+5℃”、基準熱源26の温度=“測定対象物温度703−5℃”に設定される(同ステップS130の参照。)。
【0051】
区間T5:さらに、熱検出装置100が遮蔽空間外に出ると、区間T3と同様に、遮蔽空間内運用判別情報702=“0:NO(遮蔽空間外)”となり、基準熱源25の温度=“遮蔽空間内の測定対象物温度703+5℃を保持”、基準熱源26の温度=“遮蔽空間内の測定対象物温度703−5℃を保持”に設定される。
【0052】
なお、区間T3では、区間T2の測定対象熱源(トンネル内壁)の温度を保持したが、次のトンネルまでの距離が長く、前のトンネルの出口の内壁温度と次のトンネルの入口の内壁温度が大きく異なる可能性のある場合、最後に検出した温度を保持して温度制御を行うと基準熱源の遅れが問題になる。そこで、外気温度が遮蔽空間の出口の内壁の温度から次の遮蔽空間の入口の内壁の温度までに徐々に変化するものとして、外気温度に基づき、基準熱源の温度制御を行うようにしてもよい(図3では、ステップS140の“NO”からステップS120に向かう波線の流れ参照。)。
【0053】
このように、設定された基準熱源25からの赤外線、基準熱源26からの赤外線、及び測定対象熱源30からの赤外線は、基準熱源選択部27、光路選択部11で選択され、熱検知器12に交互に到達する。これらの赤外線の選択制御は、基準熱源入射選択部19が行う。すなわち、基準熱源入射選択部19は、それぞれ、切替制御信号705,706を基準熱源選択部27及び光路選択部11に与えることで、赤外線切替を行う。また、基準熱源入射選択部19は、熱検知器12に入射された赤外線が、基準熱源25、基準熱源26、及び測定対象熱源30のいずれから放射した赤外線であるかを示す基準熱源入射通知704を信号処理部15に与える。これにより、信号処理部15は、増幅器13及びA/D変換器14を経由して熱検知器12から送信された熱源画像が基準熱源25、基準熱源26、及び測定対象熱源30の内のいずれからのものであるか判別できる。
【0054】
熱検知器12が検出した各画素には、ゲイン及びオフセットのばらつきがあるので、信号処理部15は、正確な測定対象熱源30の熱源画像を得るために補正係数を算出する必要がある。この補正係数には、ゲイン係数aiとオフセット係数biの2種類があり、これらの係数は、基準熱源25,26の赤外線を検出している時の熱検知器12の基準熱源画像800b(図2参照。)を用いて計算で求められる。
【0055】
この計算例では、熱検知器12の出力データに含まれるノイズの影響を排除するため、熱検知器12の出力データは低温側の基準熱源26、高温側の基準熱源25の各々について16画像フレーム分、平均したものを用いる。すなわち、各画素について、1画像フレーム当たり128個データを取得する。それを更に16フレーム分集めて平均化する。以下に、係数算出のための計算式を示す。
【0056】
ゲイン係数ai及びオフセット係数biは、それぞれ、次式(1)及び式(2)で求めることができる。

【0057】
【数1】



【0058】
【数2】

【0059】
ここで、i=画素番号、Hm=高温データの全画素での平均値、Lm=低温データの全画素での平均値、Hi=高温データの各画素での平均値、Li=低温データの各画素での平均値、Di=各画素の補正された出力、di=各画素の熱検知器出力である。
【0060】
各画素番号iの画素について求めたゲイン係数aiとオフセット係数biを用い、熱検知器出力は次式(3)で補正することができる。

【0061】
【数3】

【0062】
これにより、各画素の正確な感度補正が可能になる。
以上の実施例によれば、(1)基準熱源の温度を、測定対象熱源の温度近くに追従させる温度制御が可能になり、熱検知器を構成する検知素子の補正(感度補正)を正確に行うことが可能になる。これにより、従来行われていた、複数箇所の内壁温度を予め手動で測定しておき、その平均値を基に基準熱源の温度を手動で設定する必要がなくなり、無駄な時間と人手を必要としなくなる。
【0063】
(2)遮蔽空間外においては、基準熱源の設定温度が前の遮蔽空間内の測定対象熱源の温度に保持されるので、複数の遮蔽空間内を連続して測定する場合においても、各遮蔽空間内の測定対象熱源の温度が同様な場合、遮蔽空間内に入った時から正しく感度補正された熱源画像が得られる。
【0064】
(3)例えば、熱検出装置の電源投入後、外気温度を基に基準熱源の温度を予め設定制御することにより、遮蔽空間内に入り、該外気温度に近い温度の測定対象熱源の温度に基づき基準熱源の温度制御を行う場合、基準熱源の温度が測定対象熱源の温度に近づく時間が短くなり、熱検知器の検出素子の感度補正の誤差及びその誤差が生じる時間を小さくできる。
【0065】
(4)遮蔽空間外で熱検出を運用していない時は、不必要な熱源画像記録を自動的に停止することにより、記録媒体の節約及びコストダウンが図れると共に、記録された熱源画像解析の際に不必要な熱源画像除去作業の手間が省け、解析のスピードアップが図れる。すなわち、トンネル外であるか否かを判断し、トンネル外であるとき、熱源画像の記録を手動で一時的に停止するという無駄な時間と人手を必要でなくなる。
【0066】

(付記1)
基準熱源を用いて赤外検知器の感度補正を行う熱検出装置において、
複数の基準熱源と、
測定対象熱源の温度を測定する測定対象物温度測定部と、
外気温度を測定する外気温度測定部と、
自装置が遮蔽空間内にあるか否かを判別する判別部と、
該判別部によって、遮蔽空間内であることを検出すると、前記複数の基準熱源の制御を、前記外気温度測定部における測定結果に基づく制御から前記測定対象物温度測定部における測定結果に基づく制御に切り替える制御部と、
を備えたことを特徴とする熱検出装置。
(付記2)
基準熱源を用いて赤外検知器の感度補正を行う熱検出装置において、
複数の基準熱源と、
測定対象熱源の温度を測定する測定対象物温度測定部と、
外気温度を測定する外気温度測定部と、
自装置が遮蔽空間内にあるか否かを判別する判別部と、
該判別部によって、遮蔽空間内から遮蔽空間外への変化を検出すると、前記遮蔽空間内における前記複数の基準熱源の温度制御を、次に遮蔽空間内に移動するまで保持する制御部と、
を備えたことを特徴とする熱検出装置。
(付記3)
前記制御部は、前記判別部によって、遮蔽空間内であると判断した場合に、測定対象熱源画像を記録し、遮蔽空間外であると判断した場合に、測定対象熱源画像を記録しないように制御することを特徴とする付記1又は2記載の熱検出装置。
(付記4)
該制御部が、遮蔽空間内から遮蔽空間外に移動したとき、該遮蔽空間内の該測定対象熱源を検出した温度を保持する代わりに、該外気温度に基づき各基準熱源の温度を制御することを特徴とした付記1又は2記載の熱検出装置。
(付記5)
前記判別部は、GPS受信機を含み、
該GPS受信機が、全てのGPS信号を受信できなかったとき、該遮蔽空間内であると判別し、少なくとも1つのGPS信号を受信したとき、該遮蔽空間外であると判別する、ことを特徴とした付記1又は2記載の熱検出装置。
(付記6)
該測定対象物温度測定部が、サーモパイルを用いた放射温度計であることを特徴とした付記1又は2記載の熱検出装置。
(付記7)
該外気温度測定部が白金抵抗を用いた温度センサであることを特徴とした付記1又は2記載の熱検出装置。
(付記8)
該基準熱源の内の1つを高温側基準熱源とし、別の1つを低温側基準熱源としたとき、
該赤外検知器で検知された該高温側基準熱源の熱源画像の全画素データの平均値と該低温側基準熱源の熱源画像の全画素データの平均値との差を、該高温側基準熱源の熱源画像の各画素データと該低温側基準熱源の熱源画像の各画素データとの差で割った値を各画素のゲイン係数とし、該低温側基準熱源の熱源画像の全画素データの平均値と該高温側基準熱源の熱源画像の各画素データとの積と、該高温側基準熱源の熱源画像の全画素データの平均値と該低温側基準熱源の熱源画像の各画素データの積との差を、該高温側基準熱源の熱源画像の各画素データと該低温側基準熱源の熱源画像の各画素データとの差で割った値を各画素のオフセット係数として該感度補正をする信号処理部を備えていることを特徴とした付記1又は2記載の熱検出装置。
(付記9)
各画素データが、各画素近傍の複数の画素データの平均値であることを特徴とした付記8の熱検出装置。
(付記10)
該遮蔽空間がトンネルであることを特徴とした付記1又は2記載の熱検出装置。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る熱検出装置の構成実施例を示したブロック図である。
【図2】本発明に係る熱検出装置における信号処理部に入力される画像フレーム例を示した図である。
【図3】本発明に係る熱検出装置における基準熱源温度設定部の動作手順例を示したフローチャート図である。
【図4】本発明に係る熱検出装置における基準熱源の温度設定例を示した図である。
【符号の説明】
【0068】
100 熱検出装置
10 光学系部 11 光路選択部
12 熱検知器 13 増幅器
14 A/D変換器 15 信号処理部
16 D/A変換器 17 モニタ
18 熱源画像記録部 19 基準熱源入射選択部
21 測定対象物温度測定部 22 外気温度測定部
23 遮蔽空間内運用判別部 24 基準熱源温度設定部
25,26 基準熱源 27 基準熱源選択部
30 測定対象熱源 31 選択部
701 外気温度 702 遮蔽空間内運用判別情報
703 測定対象物温度 704 基準熱源入射通知
705,706 切替制御信号 800,800_n〜800_n+2 画像フレーム
800a 測定対象熱源画像 800b 基準熱源画像(低温側又は高温側)
i 画素番号 ai 各画素のゲイン係数
bi 各画素のオフセット係数
Hm 高温データの全画素での平均値 Lm 低温データの全画素での平均値
Hi 高温データの各画素での平均値 Li 低温データの各画素での平均値
Di 各画素の補正された出力 di 各画素の熱検知器出力
図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準熱源を用いて赤外検知器の感度補正を行う熱検出装置において、
複数の基準熱源と、
測定対象熱源の温度を測定する測定対象物温度測定部と、
外気温度を測定する外気温度測定部と、
自装置が遮蔽空間内にあるか否かを判別する判別部と、
該判別部によって、遮蔽空間内であることを検出すると、前記複数の基準熱源の制御を、前記外気温度測定部における測定結果に基づく制御から前記測定対象物温度測定部における測定結果に基づく制御に切り替える制御部と、
を備えたことを特徴とする熱検出装置。
【請求項2】
基準熱源を用いて赤外検知器の感度補正を行う熱検出装置において、
複数の基準熱源と、
測定対象熱源の温度を測定する測定対象物温度測定部と、
外気温度を測定する外気温度測定部と、
自装置が遮蔽空間内にあるか否かを判別する判別部と、
該判別部によって、遮蔽空間内から遮蔽空間外への変化を検出すると、前記遮蔽空間内における前記複数の基準熱源の温度制御を、次に遮蔽空間内に移動するまで保持する制御部と、
を備えたことを特徴とする熱検出装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記判別部によって、遮蔽空間内であると判断した場合に、測定対象熱源画像を記録し、遮蔽空間外であると判断した場合に、測定対象熱源画像を記録しないように制御する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の熱検出装置。
【請求項4】
前記判別部は、GPS受信機を含み、
該GPS受信機が、全てのGPS信号を受信できなかったとき、該遮蔽空間内であると判別し、少なくとも1つのGPS信号を受信したとき、該遮蔽空間外であると判別する、ことを特徴とした請求項1又は2記載の熱検出装置。
【請求項5】
該基準熱源の内の1つを高温側基準熱源とし、別の1つを低温側基準熱源としたとき、
該赤外検知器で検知された該高温側基準熱源の熱源画像の全画素データの平均値と該低温側基準熱源の熱源画像の全画素データの平均値との差を、該高温側基準熱源の熱源画像の各画素データと該低温側基準熱源の熱源画像の各画素データとの差で割った値を各画素のゲイン係数とし、該低温側基準熱源の熱源画像の全画素データの平均値と該高温側基準熱源の熱源画像の各画素データとの積と、該高温側基準熱源の熱源画像の全画素データの平均値と該低温側基準熱源の熱源画像の各画素データの積との差を、該高温側基準熱源の熱源画像の各画素データと該低温側基準熱源の熱源画像の各画素データとの差で割った値を各画素のオフセット係数として該感度補正をする信号処理部を備えていることを特徴とした請求項1又は2記載の熱検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−349646(P2006−349646A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179933(P2005−179933)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】