熱流束導出方法、この導出方法を含む傷部検出方法、及びこの検出方法を用いた傷部検出装置
【課題】測定対象物の表面温度に基づく傷部の検出方法において、検査員等の人的な要因による傷部の検出結果のばらつきを抑制することができる測定対象物の加熱条件の導出方法、この導出方法を含む傷部検出方法、及びこの検出方法を用いた傷部検出装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、傷部を検出するのに適した熱流束を導出する方法であって、傷部と健全部との温度差Δtと傷部の大きさdと熱流束qとにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータの代表値を変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析で温度差Δtと傷部の大きさdと熱流束qとの関係Qを求め、検出したい温度差Δt1と検出対象の傷部の大きさd1とを設定し、予め求めた関係Qに基づき、設定された温度差Δt1と傷部の大きさd1とから傷部aを検出するために測定対象物Tを加熱するときの熱流束qを求めことを特徴とする。
【解決手段】本発明は、傷部を検出するのに適した熱流束を導出する方法であって、傷部と健全部との温度差Δtと傷部の大きさdと熱流束qとにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータの代表値を変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析で温度差Δtと傷部の大きさdと熱流束qとの関係Qを求め、検出したい温度差Δt1と検出対象の傷部の大きさd1とを設定し、予め求めた関係Qに基づき、設定された温度差Δt1と傷部の大きさd1とから傷部aを検出するために測定対象物Tを加熱するときの熱流束qを求めことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物における剥離や減肉等の傷部を、加熱された測定対象物の表面温度から検出する方法、及びこの方法を用いた傷部検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、母材の表面がセラミックスコーティングされている測定対象物において、当該セラミックスコーティングの母材からの剥離を検出する方法として特許文献1に記載の方法が知られている。
【0003】
この方法では、測定対象物を加熱し、剥離の有無によって母材への熱伝導が異なるために生じる、即ち、周囲への熱拡散の大小によって生じる測定対象物(セラミックスコーティング)の表面温度分布を赤外線サーモグラフィ装置や赤外線カメラ等の温度測定手段によって測定し、その温度分布からセラミックスコーティングの母材からの剥離を検出する。
【0004】
また、配管内側の減肉部(周囲よりも肉厚が薄くなった部位)を検出する方法として特許文献2に記載の方法が知られている。この方法では、配管を加熱して配管表面に設定された評価領域内の温度を均一にした後、自然冷却中の配管の表面温度を赤外線サーモグラフィ装置で測定し、その測定結果を熱伝導解析結果が格納されているデータベースと比較することにより、減肉部の有無や減肉部の範囲を検出する。
【0005】
これら測定した測定対象物の表面温度に基づいて剥離や減肉等の傷部を検出する方法によれば、内部に生じている傷部の検出を非破壊で行うことができる。しかも、X線や超音波探傷等では検出の難しい厚みの小さなコーティングの剥離の検出も可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−126338号公報
【特許文献2】特開2000−161943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような表面温度に基づく傷部の検出方法では、傷部とその周囲の健全部(剥離や減肉の生じていない部位)との温度差を温度測定手段によって検出するが、測定対象物を加熱するときの加熱条件によって測定される表面温度の温度分布状態が異なる。そのため、上記の傷部の検出方法においては、測定対象物を加熱するときに、傷部と健全部との温度差を検出し易い温度分布状態となるような加熱条件を決めなければならない。
【0008】
この加熱条件は、FEM(有限要素法)等の熱伝導解析によって決めることができる。しかし、測定対象物の傷部の検出を行っている現場においては、日毎に測定対象物が異なる場合も多く、その度にFEM等の複雑な演算による熱伝導解析を行うことは時間的に困難である。そのため、傷部の検出を行っている検査員等により、その経験に基づいて加熱条件が決められる場合が多い。その結果、測定対象物における傷部の検出結果にばらつきが生じていた。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、測定対象物の表面温度に基づく傷部の検出方法において、検査員等の人的な要因による傷部の検出結果のばらつきを抑制することができる測定対象物の加熱条件の導出方法、この導出方法を含む傷部検出方法、及びこの検出方法を用いた傷部検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明の発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意研究を行った結果、以下のことを発見した。
【0011】
上記のように、傷部を検出するために測定対象物に与えられる熱負荷は、温度測定手段が傷部を表面温度の変化として検出できるよう、測定対象物の物性や、傷部の大きさ、測定対象物に供給される熱流束等をパラメータとした熱伝導解析に基づいて求められる。この熱伝導解析を各パラメータの値を種々変更して多数回行い、その結果を精査したところ、いずれの場合においても測定対象物の加熱過程における傷部と健全部との温度差Δtと加熱時間との関係において所定の特徴が現れることを発見した。
【0012】
そこで、この特徴に着目して前記多数の熱伝導解析の結果を解析したところ、少なくとも温度差Δtと、傷部の大きさと、測定対象物を加熱するときの熱流束との間に特定の関係が成り立つことがわかった。
【0013】
前記発明者らは、これらの発見に基づき、測定対象物の加熱過程における傷部と健全部との温度差Δtと加熱時間との関係において現れる所定の特徴に着目することによって得ることができた温度差と傷部の大きさと熱流束との特定の関係を用いて以下の構成の熱流束導出方法、この方法を含む傷部検出方法、及びこの検出方法を用いた傷部検出装置を創作した。
【0014】
本発明に係る熱流束導出方法は、測定対象物の所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加え、そのときの当該表面の温度分布に基づき前記加熱対象面と直交する方向についての当該加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法が周囲よりも小さい傷部の存在範囲を熱伝導解析により検出するにあたり当該測定対象物を加熱するための熱流束を導出する方法であって、前記熱伝導解析のパラメータである傷部とその周囲の健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記熱流束の値との関係を求める関係導出工程と、前記測定対象物において検出したい前記温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを設定する値設定工程と、前記関係導出工程で予め求めておいた関係に基づいて、前記値設定工程で設定された前記温度差の値と前記傷部の大きさの値とから前記傷部の存在範囲を検出するために測定対象物を加熱するときの熱流束の値を求める熱流束導出工程とを備えることを特徴とする。尚、本発明において測定対象物の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚さ寸法とは、加熱対象面から当該加熱対象面と直交する方向について隙間無く連続している測定対象物の部位の当該方向の寸法をいう。
【0015】
かかる構成によれば、測定対象物において傷部と健全部との間で検出したい温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とが設定されれば、傷部の検出を行う検査員等によってばらつきが生じることなく、傷部の検出のために測定対象物を加熱するのに適した熱流束の値が導出される。このようにして求められた熱流束によって測定対象物が加熱されることで、その表面温度を測定して加熱対象面の温度分布を求めたときに傷部と健全部との温度差が検出し易くなり、所定範囲の大きさを有する傷部の存在範囲を精度よく検出することができる。
【0016】
しかも、熱流束導出工程よりも前に、熱伝導解析のパラメータである傷部と健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値との関係が予め求められているため、傷部の検出を行うときに、その都度、多数のパラメータを用いた複雑な演算による熱伝導解析等を行わなくても、測定対象物において検出したい前記温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを決めるだけで所定範囲の大きさの傷部の検出に適した熱流束の値を迅速に導出することができる。
【0017】
尚、上記の熱流束導出方法において、前記関係導出工程では、前記パラメータに含まれる傷部の前記加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係を予め求めておき、前記値設定工程では、前記測定対象物において検出対象とする傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値を設定し、前記熱流束導出工程では、前記値設定工程で設定された前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記熱流束の値を求めるのが好ましく、さらに、前記関係導出工程では、前記パラメータに含まれる健全部の前記加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係を予め求めておき、前記値設定工程では、前記測定対象物における健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値を設定し、前記熱流束導出工程では、前記値設定工程で設定された前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記熱流束の値を求めるのがより好ましい。
【0018】
このように関係導出工程において傷部と健全部との温度差や熱流束等の関係を求めるときのパラメータが増えることで、傷部の検出のために測定対象物を加熱するときの加熱条件としてより適した熱流束の値が導出される。
【0019】
前記関係導出工程で求められる前記関係は、前記値設定工程で設定される温度差の値をΔt、傷部の大きさの値をd、傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値をx、熱流束の値をqとし、測定対象物の材質と健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法とに基づく定数をbとしたときに、以下の(1)式で表されるのが好ましい。
【0020】
【数1】
【0021】
このように、傷部と健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と熱流束の値との関係が簡単な関数によって表されることで、測定対象物において検出したい傷部と健全部との温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値と検出対象とする傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値とが与えられれば、例えば電卓等によって、前記傷部の検出に必要な熱流束の値を容易且つ迅速に導出することができる。
【0022】
本発明に係る傷部検出方法は、測定対象物の所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加え、そのときの当該表面の温度分布に基づき前記加熱対象面と直交する方向についての当該加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法が周囲よりも小さい傷部の存在範囲を熱伝導解析により検出する方法であって、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱流束導出方法によって前記熱流束の値を求める熱流束決定工程と、前記熱流束決定工程で求めた値の熱流束によって前記測定対象物を加熱する加熱工程と、前記加熱工程において加熱された前記測定対象物の加熱対象面における表面温度を測定する温度測定工程と、前記温度測定工程で測定された表面温度の加熱対象面における温度分布と前記熱流束導出方法の値設定工程において設定された温度差の値とに基づいて前記傷部の存在範囲を検出する検出工程とを備えることを特徴とする。
【0023】
かかる構成によれば、測定対象物において検出したい前記温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とが与えられれば、検査員等によってばらつきが生じることなく傷部の検出のための加熱に適した熱流束の値が求められ、この値の熱流束で測定対象物を加熱することで所定範囲の大きさを有する傷部の存在範囲を精度よく検出することができる。
【0024】
しかも、熱流束決定工程よりも前に、熱伝導解析のパラメータである傷部と健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記熱流束の値との関係が予め求められているため、傷部の検出を行うときに、その都度、多数のパラメータを用いた複雑な演算による熱伝導解析等を行わなくても、測定対象物において検出したい前記温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを設定するだけで前記傷部の存在範囲の検出に適した熱流束の値を迅速に導出することができる。
【0025】
前記温度測定工程では、前記測定対象物の加熱対象面に複数の測定点が指定されて各測定点の温度が測定され、前記検出工程では、前記複数の測定点のうちの特定の測定点と他の測定点との間の温度差の値と、前記値設定工程において設定された温度差に基づく所定の閾値とを比較することにより前記傷部の検出が行われるのが好ましい。
【0026】
かかる構成によれば、測定対象物における所定範囲の大きさの傷部の存在範囲をより精度よく検出することができる。即ち、傷部と健全部とでは測定対象物において加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法が異なるため加熱により熱拡散の大小に起因する温度差が生じ、その結果、傷部同士又は健全部同士の温度差に比べて温度差が大きくなり、この大きくなった温度差を利用することで傷部を容易に検出することができる。しかも、この温度差の値と所定の値(閾値)との大小によって傷部か健全部かを判断することで、傷部か健全部かをより精度よく簡単に判断することができる。
【0027】
また、前記検出工程では、前記複数の測定点を前記特定の測定点に対する温度差の小さな第1の測定点とこの第1の測定点よりも前記特定の測定点に対する温度差が大きな第2の測定点とに分類し、前記第1の測定点が前記第2の測定点よりも多い場合には、前記特定の測定点に対する温度差の値が前記閾値よりも大きくなった測定点を前記傷部として検出する一方、前記第1の測定点が前記第2の測定点よりも少ない場合には、前記特定の測定点に対する温度差の値が前記閾値よりも小さくなった測定点を前記傷部として検出するのが好ましい。
【0028】
かかる構成によれば、複数の測定点から任意に特定の測定点を選んだ場合でも、傷部と健全部とが確実に判断される。即ち、通常、傷部は健全部よりも面積が小さいため、第1の測定点と第2の測定点とのうち少ない方を傷部の測定点として判断し、傷部の検出が行われる。これにより、特定の測定点が傷部又は健全部のいずれに指定されても、検出結果において傷部と健全部とが逆になることが防止される。
【0029】
前記加熱工程では、ハロゲンランプにより測定対象物が加熱され、前記温度測定工程では、赤外線サーモグラフィ装置により測定対象物の表面温度が測定されるのが好ましい。
【0030】
かかる構成によれば、測定対象物から離れた位置から測定対象物の加熱及び表面温度の測定ができる。そのため、測定対象物が高所等、測定位置から離れた位置に配置されている場合でも足場等を組むことなく容易に傷部の検出を行うことができる。
【0031】
本発明に係る傷部検出装置は、測定対象物の所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加え、そのときの当該表面の温度分布に基づき前記加熱対象面と直交する方向についての当該加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法が周囲よりも小さい傷部の存在範囲を熱伝導解析により検出するための装置であって、前記測定対象物を加熱する加熱手段と、前記測定対象物の加熱対象面における表面温度を測定する測定手段と、前記加熱手段が前記測定対象物を加熱するときの熱流束の値を求める導出手段と、前記測定対象物における傷部と健全部との間で検出したい温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを前記導出手段に入力可能な入力手段と、前記導出手段で導出された熱流束の値を外部に出力する出力手段と、前記測定手段で測定された表面温度の加熱対象面における温度分布と入力手段から入力された前記温度差の値とに基づいて前記傷部の存在範囲を検出する検出手段とを備え、前記加熱手段は、前記熱流束の値を変更可能に構成され、前記導出手段は、前記熱伝導解析のパラメータである傷部とその周囲の健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記熱流束の値との関係を予め格納しておく記憶部と、前記入力手段から入力された前記温度差の値と傷部の大きさの値とから前記記憶部に格納されている関係に基づいて熱流束の値を求める熱流束導出部とを有することを特徴とする。
【0032】
かかる構成によれば、測定対象物において検出したい前記温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを入力手段から入力することにより、検査員等によってばらつきが生じることなく、出力手段から前記傷部の存在範囲の検出に適した熱流束の値が出力されるため、この値に基づいて加熱手段が測定対象物を加熱するときの熱流束の値を変更することで、所定範囲の大きさを有する傷部の存在範囲の検出を精度よく行うことができる。
【0033】
しかも、記憶部に、熱伝導解析のパラメータである傷部とその周囲の健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値との関係が予め格納されているため、入力手段から前記温度差の値と傷部の大きさの値とが入力される度に複雑な演算等による熱伝導解析が行われなくても、傷部の検出に適した熱流束の値が導出され、その結果、迅速な傷部の検出を行うことが可能となる。
【0034】
尚、上記の傷部検出装置においては、前記入力手段は、前記測定対象物において検出対象とする傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値を前記導出手段に入力可能に構成され、前記記憶部には、前記パラメータに含まれる傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係が予め格納され、前記熱流束導出部は、前記入力手段から入力された温度差の値と傷部の大きさの値と傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記記憶部に格納されている関係に基づいて熱流束の値を求めるのが好ましく、さらに、前記入力手段は、前記測定対象物における健全部の前記加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値を前記導出手段に入力可能に構成され、前記記憶部には、前記パラメータに含まれる健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係が予め格納され、前記熱流束導出部は、前記入力手段から入力された温度差の値と傷部の大きさの値と傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記記憶部に格納されている関係に基づいて熱流束の値を求めるのがより好ましい。このように、記憶部に格納されている傷部と健全部との温度差や熱流束等の関係を求めるときのパラメータが増えることで、前記傷部の存在範囲の検出のために測定対象物を加熱するときのより適した熱流束の値が導出される。
【0035】
前記加熱手段は、前記測定対象物を加熱するための加熱源を備え、この加熱源は、前記測定対象物からの距離を変更可能に構成されるのが好ましい。
【0036】
かかる構成によれば、測定対象物に供給される熱流束の値を容易に変更することができる。即ち、出力手段からの出力に基づき加熱源の測定対象物からの距離を変更するだけで、測定対象物に供給される熱流束の値を変更することができる。
【0037】
このとき、前記出力手段は、前記導出手段で導出された熱流束の値を出力信号として前記加熱手段に出力し、前記加熱手段は、前記出力手段からの出力信号に基づいて前記加熱源を移動させる移動手段をさらに備えてもよい。
【0038】
かかる構成によれば、入力手段から温度差の値と傷部の大きさの値とが入力されると、加熱手段において自動的に前記傷部の存在範囲の検出に適した値となるように調整された熱流束が測定対象物に供給される。
【0039】
また、前記出力手段は、前記導出手段で導出された熱流束の値を出力信号として前記加熱手段に出力し、前記加熱手段は、前記測定対象物を加熱可能に構成されると共に供給される電流値に基づいて前記測定対象物に供給される熱流束の値を変更可能な加熱源と、前記出力手段からの出力信号に基づいて前記加熱源に供給する電流値を変更する加熱用電源とを備えてもよい。
【0040】
かかる構成によっても、入力手段から温度差の値と傷部の大きさの値とが入力されると、加熱手段において自動的に前記傷部の存在範囲の検出に適した値となるように調整された熱流束が測定対象物に供給される。
【発明の効果】
【0041】
以上より、本発明によれば、測定対象物の表面温度に基づく傷部の検出方法において、検査員等の人的な要因による傷部の検出結果のばらつきを抑制することができる測定対象物の加熱条件の導出方法、この導出方法を含む傷部検出方法、及びこの検出方法を用いた傷部検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1実施形態に係る傷部検出装置の概略構成図である。
【図2】前記傷部検出装置の演算手段の構成ブロック図である。
【図3】前記演算手段本体の導出手段における記憶部に予め格納される関数を求めるために行ったFEMで用いた解析モデルを示す図である。
【図4】(a)は前記解析モデルに用いた軟鋼の物性値を示す図であり、(b)は前記記憶部に予め格納される関数を求めるために行ったFEMでのパラメータの各値を示す図である。
【図5】傷部の大きさ毎の傷部中央と健全部との温度差と加熱時間との関係を示す図である。
【図6】測定対象物の健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法が0.006mの場合において、傷部中央と健全部との温度差と傷部の大きさとの関係を傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法さ毎に示す両対数グラフである。
【図7】図6の両対数グラフの横軸をd√3/xとした図である。
【図8】健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法が0.012mの場合において、傷部中央と健全部との温度差と傷部の大きさとの関係を傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法毎に示す両対数グラフの横軸をd√3/xとした図である。
【図9】傷部中央と健全部との温度差と熱流束との関係を示す図である。
【図10】(a)は前記解析モデルに用いたセラミックスの物性値を示す図であり、(b)は前記記憶部に予め格納される関数を求めるために行ったFEMでのパラメータの各値を示す図である。
【図11】傷部の大きさ毎の傷部中央と健全部との温度差と加熱時間との関係を示す図である。
【図12】傷部中央と健全部との温度差と傷部の大きさとの関係を傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法毎に示す両対数グラフである。
【図13】図12の両対数グラフの横軸をd√3/xとした図である。
【図14】測定手段で測定対象物を測定したときの温度分布の画像(熱画像)を示す図である。
【図15】図14におけるデータ処理線上での特定の測定点と他の測定点との温度差を示す図であり、(a)は健全部に特定の測定点を指定したときの図であり、(b)は傷部に特定の測定点を指定したときの図である。
【図16】傷部の検出方法を示すフロー図である。
【図17】ハロゲンライトの光軸上での距離と熱流束との関係を示す図である。
【図18】第2実施形態に係る傷部検出装置の概略構成図である。
【図19】試験片の熱画像を示す図である。
【図20】実測値と各近似値から得られた結果を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の第1実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0044】
本発明に係る傷部検出装置は、測定対象物において表面から見えない剥離や減肉部等の傷部を非破壊、非接触で検出することができる。具体的に、傷部検出装置は、測定対象物を加熱したときの熱拡散の大小によって生じる表面の温度分布に基づいて所定範囲の大きさを有する傷部の存在範囲を検出することができる。本実施形態において、熱拡散の大小は、測定対象物の所定の加熱される表面(加熱対象面)と直交する方向における加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の大小により生じている。この測定対象物の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚さ寸法とは、加熱対象面から当該加熱対象面と直交する方向について隙間無く連続している測定対象物の部位の当該方向の寸法をいう。例えば、図1に示されるような母材T1の表面にメッキT2によってコーティングが施された測定対象物Tにおいて傷部aが剥離である場合には、傷部aの加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚さ寸法とは、加熱対象面50から当該加熱対象面50と直交する方向について連続し、剥離により生じた空間55を囲む面(剥離部分のメッキの裏面)52までの部位Aの寸法をいう。また、健全部bの加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚さ寸法とは、加熱対象面50から当該加熱対象面50と直交する方向について連続し、母材T1の裏面53までの部位Bの寸法をいう。
【0045】
図18に示されるような傷部aが減肉である場合には、傷部aの加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚さ寸法とは、加熱対象面50から測定対象物Tの裏面(加熱対象面と反対側の面)54において加熱対象面50側に部分的に凹んでいる部位の寸法Cをいう。
【0046】
傷部検出装置は、図1に示されるように、測定対象物Tを加熱する加熱手段12と、測定対象物Tの表面温度を測定する測定手段18と、加熱手段12及び測定手段18を制御する演算手段20とを備える。
【0047】
加熱手段12は、測定対象物Tを加熱するための加熱源14と、この加熱源14に電力を供給する加熱用電源16とを備える。加熱源14は、非接触で測定対象物Tを加熱でき、測定対象物Tからの距離を変更可能に構成される。加熱源14は、測定対象物Tからの距離を変更することにより、測定対象物Tを加熱するときに当該測定対象物Tに供給する熱流束の値を変更することができる。本実施形態の加熱源14には、ハロゲンライトが用いられる。
【0048】
測定手段18は、非接触で測定対象物Tの表面温度を測定でき、測定対象物Tの表面(加熱対象面)50における各部位(測定点)の温度を測定することで温度分布を得ることができる。測定点は、測定手段18によって指定された測定対象物Tの表面50における温度が測定される部位(点)である。本実施形態では、測定手段18として赤外線サーモグラフィ装置が用いられる。また、本実施形態の測定点は、赤外線サーモグラフィ装置18における各画素にそれぞれ対応する測定対象物Tの表面50上の部位である。
【0049】
赤外線サーモグラフィ装置18で得られた測定対象物表面50の温度分布は、温度分布信号として演算手段本体22(詳しくは、検出手段36)に送信される。
【0050】
演算手段20は、図2にも示されるように、演算手段本体22と、この演算手段本体22に情報を入力する入力手段24と、演算手段本体22から出力された情報を外部に出力する出力手段26とを備える。この入力手段24は、少なくとも、測定対象物Tにおける傷部aと健全部bとの間で検出したい温度差の値Δt1と、検出対象とする傷部の大きさの値d1と、検出対象とする傷部aの加熱対象面50から厚み方向に連続する部分の厚み寸法(以下、単に「傷部の厚み寸法」とも称する。)の値x1と、測定対象物Tの健全部bの加熱対象面50から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値(以下、単に「健全部の厚み寸法」とも称する。)y1とをそれぞれ演算手段本体22へ入力することができる。本実施形態では、入力手段24としてキーボードが用いられる。本実施形態の出力手段26は、CRT、LCD等の検査員等が画面を通じて情報を取得できるように構成されている。尚、入力手段24及び出力手段26の具体的構成は限定されない。
【0051】
演算手段本体22は、加熱手段12が測定対象物Tを加熱するときの熱流束の値を導出する導出手段30と、測定手段18で得られた温度分布と入力手段24から入力された情報とに基づいて傷部aの存在範囲を検出する検出手段36とを有する。
【0052】
導出手段30は、所定の関数(熱流束導出関数Q)が予め格納されている記憶部32と、入力手段24から入力された情報と記憶部32に格納されている熱流束導出関数Qとから、加熱手段12により測定対象物Tを加熱するときの熱流束の値qを導出する熱流束導出部34とを有する。
【0053】
記憶部に格納されている熱流束導出関数Qは、以下の(2)式で表される。
【0054】
【数2】
【0055】
ここで、Δt、d、x、b、qは、それぞれ入力手段から入力される温度差の値、傷部の大きさの値、傷部の厚み寸法の値、健全部の厚み寸法に基づく定数、熱流束の値である。尚、本実施形態では、傷部aと健全部bとの温度差の値Δtには絶対値が用いられる。
【0056】
熱流束導出関数Qは、熱伝導解析(本実施形態ではFEM(有限要素法))での解析結果に基づいて導出された関数である。具体的に、この熱流束導出関数Qは、熱伝導解析のパラメータである傷部aとその周囲の健全部bとの温度差の値Δtと、傷部aの大きさの値dと、傷部aの厚み寸法(残厚)の値xと、健全部bの厚み寸法の値yと、熱流束の値qとにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいてFEMを行って求めた温度差の値Δtと傷部aの大きさの値dと傷部aの厚み寸法の値xと健全部bの厚み寸法の値yと熱流束の値qとの関係を表す。
【0057】
詳細には、以下のようにして熱流束導出関数Q((2)式)が求められた。
【0058】
本実施形態に係る傷部検出装置10においては、赤外線サーモグラフィ装置18が検出できる表面50の温度変化が傷部aと健全部bとの間で得られなければならない。そこで、測定対象物Tの加熱条件として熱流束と加熱時間とに着目し、FEM(熱伝導解析)によって加熱条件と測定対象物表面50に現れる温度変化(傷部aと健全部bとの温度差の値Δt)、傷部aの大きさ(寸法)d及び傷部aの厚み寸法xとの関係を検討した。
【0059】
以下では、測定対象物として金属を用いた場合と非金属のセラミックスを用いた場合を検討するが、先ず、測定対象物が金属の場合について検討する。
【0060】
[測定対象物が金属の場合]
<解析モデル及び解析条件>
加熱時に測定対象物表面に現れる時系列の温度変化を算出するため、2次元軸対称モデルによる非定常熱伝導解析を行った。解析モデルとして図3に示す中央に傷部として円形の凹部(減肉部)が形成された円板を用いた。前記の解析では、円板の外周面を断熱、表裏面で空気の自然対流による熱伝達を考慮した。円板の材質を軟鉄と仮定し、図4(a)に示す物性値を計算に用いた。
【0061】
熱伝導解析では、パラメータのうち、傷部の大きさ(減肉部の直径)d、傷部の厚み寸法(残厚)x、健全部の厚み寸法y及び熱流束qの値を図4(b)に示すように変化させ、傷部中央と健全部との温度をそれぞれ算出した。このとき、健全部の温度として加熱側の面の周縁部の温度を用いた。熱伝導解析は、加熱過程40sec、冷却過程80secの合計120secについて実施し、その間の時系列の温度変化を求めた。
【0062】
<傷部中央と健全部の温度差Δtと加熱時間との関係>
上記の熱伝導解析の結果から、加熱時間と測定対象物Tの表面温度との関係について検討する。解析結果の一例として、健全部の厚み寸法yが0.006mで傷部の厚み寸法xが0.001mの場合に、8kW/m2の熱流束qで40秒間加熱した後、80秒間冷却するときの傷部の大きさdと傷部中央と健全部との温度差Δtとの関係を図5に示す。この図5において、温度差Δtに着目すると、加熱開始直後に大きく変化するが、時間の経過に伴って変化が小さくなり一定値に収束する傾向が確認できる。このとき、温度差Δtが一定値に収束するまでの時間は、傷部の大きさdが小さいほど短く、大きいほど長くなっていることがわかる。
【0063】
このように温度差Δtが一定値に収束すると、この温度差Δtを定数として扱うことができ、加熱時間を温度差Δtの影響因子から除外できる。以下では、一定値に収束した温度差Δtとして40secの加熱終了時の温度差Δtを用い、さらに熱伝導解析の結果を精査する。
【0064】
<傷部の大きさd、傷部の厚み寸法x及び温度差Δtの関係>
上記のように温度差Δtが収束することに着目してこの温度差Δtを定数として扱い、傷部の大きさd及び傷部の厚み寸法xと温度差Δtの関係を調べた。縦軸を温度差Δt、横軸を傷部の大きさdとする両対数グラフの一例を図6に示す。この図6によれば、傷部の大きさdと温度差Δtとの関係が、傷部の厚み寸法xの値に関わらず傾きが等しい直線関係として表される。測定対象物が金属の場合では、直線の傾きは、傷部の厚み寸法xの値に関わらず、ほぼ√3となった。異なる値の熱流束でも、同様の傾向が確認でき、温度差Δtは傷部の大きさdの√3乗に比例して変動する。
【0065】
次に図6の関係をさらに単純化するため、横軸を(d√3)/xとして、両対数グラフを作成した。その結果を図7に示す。このように横軸を(d√3)/xとすることにより、図6における各傷部の厚み寸法xでのグラフが全て一直線上に重なった。
【0066】
<健全部の厚み寸法yが温度差Δtに及ぼす影響>
次に、健全部の厚み寸法yが温度差Δtに及ぼす影響について検討するため、健全部の厚み寸法yが0.012mのときに、図7と同様に傷部の大きさd及び傷部の厚み寸法xと温度差Δtとの関係を整理した。その結果を図8に示す。この図8によれば、健全部の厚み寸法が0.012mの場合でも0.006mの場合と同様の傾向が確認できた。即ち、各傷部の厚み寸法xでのグラフが全てほぼ同一直線上に重なった。
【0067】
<傷部の厚み寸法x、熱流束q及び温度差Δtの関係>
さらに、傷部の厚み寸法x、熱流束q及び温度差Δtの関係を調べた。その一例として、傷部の大きさdを0.01mとし、各傷部の厚み寸法xにおいて縦軸を温度差Δt、横軸を熱流束qとして整理し、その結果を図9に示す。この図9によれば、温度差Δtは熱流束qに比例して大きくなる。傷部の大きさdの値を変えても、同様の比例関係が確認できた。
【0068】
<近似式(熱流束導出関数Q)>
図7〜9に基づき、健全部の厚み寸法y=0.006m、0.012mの場合に、温度差Δtを算出する近似式を求めると以下の(3)式が得られる。
【0069】
【数3】
【0070】
ここで、aは健全部の厚み寸法に基づく比例定数であり、本実施例のように測定対象物Tが軟鉄で健全部の厚み寸法yが0.006mの場合には、a0.006m=4.08×10−4となり、健全部の厚み寸法yが0.012mの場合には、a0.012m=4.22×10−4となる。
【0071】
熱流束qを求めるために(3)式をqについて整理することで、以下の(4)式が(熱流束導出関数Q)得られる。
【0072】
【数4】
【0073】
ここで、bは健全部の厚み寸法に基づく比例定数であり、本実施例のように測定対象物Tが軟鉄で健全部の厚み寸法yが0.006mの場合には、b0.006m=2450.98となり、健全部の厚み寸法yが0.012mの場合には、b0.012m=2369.67となる。
【0074】
以上のように、測定対象物Tの加熱のときに傷部aと健全部bとの温度差Δtが収束することに着目し、この温度差Δtを定数として取り扱うことによって、温度差Δtと傷部の大きさdと傷部の厚み寸法xと健全部の厚み寸法yと熱流束qとの特定の関係である熱流束導出関数Qが得られた。
【0075】
[測定対象物がセラミックスの場合]
<解析モデル及び解析条件>
上記の測定対象物が金属の場合と同様に、図3に示す解析モデルを用いて2次元軸対称モデルによる非定常熱伝導解析を行った。円板の材質をセラミックスの一種であるアルミナ(Al2O3)と仮定し、図10(a)に示す物性値を計算に用いた。
【0076】
熱伝導解析では、パラメータのうち、傷部の大きさd、傷部の厚み寸法x、健全部の厚み寸法y及び熱流束qの値を図10(b)に示すように変化させ、傷部中央と健全部との温度をそれぞれ算出した。熱伝導解析は、120sec間、加熱したときの時系列の温度変化を求めた。
【0077】
<傷部中央と健全部の温度差Δtと加熱時間との関係>
上記の熱伝導解析の結果から、加熱時間と測定対象物Tの表面温度との関係について検討する。解析結果の一例として、健全部の厚み寸法yが0.006mで傷部の厚み寸法xが0.005mの場合に、8kW/m2の熱流束qで120秒間加熱したときの傷部の大きさdと傷部中央と健全部との温度差Δtとの関係を図11に示す。この図11において、温度差Δtに着目すると、加熱開始直後に大きく変化し、所定時間経過後にピークに達し、その後、僅かに減少していく、即ち、1つのピーク値を持つ傾向が確認できる。このとき、温度差Δtがピーク値に達するまでの時間は、傷部の大きさdが小さいほど短く、大きいほど長くなっていることがわかる。
【0078】
このように温度差Δtが1つのピーク値を持つため、このピーク値を用いることにより、加熱時間を温度差Δtの影響因子から除外できる。以下では、温度差Δtとしてピーク値を用い、さらに熱伝導解析の結果を精査する。
【0079】
<傷部の大きさd、傷部の厚み寸法x及び温度差Δtの関係>
上記のように温度差Δtが1つのピーク値を持つことに着目して温度差Δtとしてこのピーク値を用い、傷部の大きさd及び傷部の厚み寸法xと温度差Δtの関係を調べた。縦軸を温度差Δt、横軸を傷部の大きさdとする両対数グラフの一例を図12に示す。この図12によれば、傷部の大きさdと温度差Δtとの関係が、傷部の厚み寸法xの値に関わらず傾きが等しい直線関係として表される。測定対象物が非金属の場合でも、直線の傾きは、傷部の厚み寸法xの値に関わらず、ほぼ√3となった。異なる値の熱流束でも、同様の傾向が確認でき、温度差Δtは傷部の大きさdの√3乗に比例して変動する。
【0080】
次に図12の関係をさらに単純化するため、横軸を(d√3)/xとして、両対数グラフを作成した。その結果を図13に示す。このように横軸を(d√3)/xとすることにより、図12における各傷部の厚み寸法xでのグラフが全て一直線上に重なった。
【0081】
<傷部の厚み寸法x、熱流束q及び温度差Δtの関係>
さらに、測定対象物が非金属(セラミックス)の場合においても、傷部の厚み寸法x、熱流束q及び温度差Δtの関係を調べたところ、測定対象物が金属の場合と同様に、温度差Δtは熱流束qに比例して大きくなる(図9参照)。また、傷部の大きさdの値を変えても、同様の比例関係が確認できた。
【0082】
<近似式(熱流束導出関数Q)>
図9、12、13に基づき、温度差Δtを算出する近似式を求めると以下の(5)式が得られる。
【0083】
【数5】
【0084】
ここで、cは健全部の厚み寸法に基づく比例定数であり、本実施例のように測定対象物Tがアルミナで健全部の厚み寸法yが0.006mの場合には、c=5.67×10−4となる。
【0085】
熱流束qを求めるために(5)式をqについて整理することで、以下の(6)式が(熱流束導出関数Q)得られる。
【0086】
【数6】
【0087】
ここで、eは健全部の厚み寸法に基づく比例定数であり、本実施例のように測定対象物Tがアルミナで健全部の厚み寸法yが0.006mの場合には、e=1763.55となる。
【0088】
このように、測定対象物Tの加熱のときに傷部aと健全部bとの温度差Δtが1つのピーク値を持つことに着目し、この温度差Δtのピーク値を用いることによっても、温度差Δtと傷部の大きさdと傷部の厚み寸法xと健全部の厚み寸法yと熱流束qとの特定の関係である熱流束導出関数Qが得られた。
【0089】
以上より、測定対象物が金属であってもセラミックス(非金属)であっても、熱流束導出関数Qの比例定数を除く項が共にΔt(x/d√3)である点が共通している((4)式及び(6)式参照)。即ち、測定対象物が金属であっても、非金属であっても、比例定数を変更するだけで熱流束導出関数Qを用いることができる。
【0090】
熱流束導出部34は、以上のようにして求められて予め記憶部32に格納されている熱流束導出関数Qに入力手段24から入力された値(情報)を代入することで、傷部aの存在範囲の検出に適した熱流束qを導出する。ここで、傷部aの検出に適した熱流束qとは、測定対象物表面50の温度分布に基づいて傷部aを検出する場合、傷部aの検出性は、表面温度の絶対値よりも傷部aと健全部bとの温度差Δtが大きく影響を与えるため、加熱後の測定対象物Tにおける傷部aと健全部bとの温度差Δtが大きくなるような熱流束である。
【0091】
具体的に、本実施形態の熱流束導出部34では、入力手段24から、測定対象物Tにおける傷部aと健全部bとの間で検出したい温度差の値Δt1と、検出対象とする傷部の大きさの値d1と、検出対象とする傷部の厚み寸法(残厚)の値x1と、測定対象物の健全部の厚み寸法の値y1とが入力されることにより、これら各値Δt1、d1、x1、y1と記憶部32に格納されている熱流束導出関数Qとから、傷部aの存在範囲の検出に適した熱流束qを導出する。
【0092】
このように熱流束導出部34では、記憶部32に、FEMに用いられるパラメータである傷部と健全部との温度差の値Δtと傷部の大きさの値dと熱流束の値qとにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいてFEMを行って求めた温度差の値Δtと傷部の大きさの値dと熱流束の値qとの関係(熱流束導出関数)が予め格納されているため、これを用いることで、傷部aを検出するために測定対象物Tを加熱するのに適した熱流束qを求める際に、その都度、多数のパラメータを用いた複雑な演算によるFEMを行わなくても、傷部aの検出に適した熱流束の値qを迅速に導出することができる。
【0093】
このように導出された熱流束の値qは、熱流束導出部34により熱流束信号として出力手段26に出力される。
【0094】
検出手段36は、測定手段18から温度分布信号として受け取った測定対象物表面50の温度分布と、入力手段24から入力された検出したい温度差の値Δt1とに基づいて傷部aの存在範囲を検出するものである。
【0095】
具体的に、検出手段36は、測定手段18で温度を測定した複数の測定点(本実施形態では、赤外線サーモグラフィ装置の各画素に対応する測定対象物表面50の部位)のうちから特定の測定点を指定し、この特定の測定点と他の測定点との間の温度差の値をそれぞれ求める(図15(a)参照)。検出手段36は、このようにして求めた各温度差の値と、入力手段24から入力された検出したい温度差の値Δt1に基づく閾値とをそれぞれ比較することにより傷部aの存在範囲の検出を行う。本実施形態の閾値は、入力手段24から入力された検出したい温度差の値Δt1の1/2の値である。尚、検出したい温度差の値Δt1は、測定手段18における温度分解能に基づいて決められ、本実施形態では、測定手段18の温度分解能の約10倍の値である。
【0096】
詳細には、検出手段36は、図14に示すように、測定手段18で温度分布が得られた測定領域においてデータ処理線αを指定し、このデータ処理線α上の測定点の一つを特定の測定点(図14におけるα1点)として指定する。検出手段36は、この特定の測定点α1と他のデータ処理線上の測定点との温度差をそれぞれ求め(図15(a)参照)、この温度差と閾値とを比較し、この閾値を超えた温度差を求めたときの測定点を傷部aと判断する。検出手段36は、このデータ処理線αを測定領域内で移動させ、各位置でのデータ処理線α上の傷部aの存在範囲を求めることで、測定領域内の傷部aの存在範囲を検出する。
【0097】
ここで、検出手段36は、データ処理線α上で任意に特定の測定点α1を指定するため、傷部aの存在範囲内に特定の測定点α1を指定する場合がある。この場合には、データ処理線α上の他の測定点との温度差の値を求めると、図15(b)に示されるようになり、閾値を超えた温度差を求めたときの測定点を傷部aと判断すると、健全部bが傷部aと判断されることになる。そのため、検出手段36は、通常、測定対象物Tにおいて傷部aの領域が健全部bの領域に対して圧倒的に小さくなることを利用して、特定の測定点α1が健全部bに指定されたか傷部aに指定されたかを判断する。
【0098】
具体的に、本実施形態の検出手段36は、特定の測定点と他の測定点との温度差をそれぞれ求めた後、データ処理線α上の傷部aの存在範囲を検出する前に、データ処理線α上の複数の測定点を特定の測定点α1に対する温度差の小さな第1の測定点と、この第1の測定点よりも特定の測定点α1に対する温度差が大きな第2の測定点とに分類する。そして、検出手段36は、第1の測定点が第2の測定点よりも多い場合には、特定の測定点α1に対する温度差の値が閾値よりも大きくなった測定点を傷部aとして検出する一方、第1の測定点が第2の測定点よりも少ない場合には、特定の測定点α1に対する温度差の値が閾値よりも小さくなった測定点を傷部aとして検出する。このように判断することで、検出手段36では、特定の測定点α1が傷部a又は健全部bのいずれに指定されても、検出結果において傷部aと健全部bとが逆になることが防止される。
【0099】
検出手段36は、検出した傷部aの存在範囲を検出信号として出力手段26に送信する。
【0100】
以上のように構成される傷部検出装置10では、測定対象物の厚み寸法(健全部の厚み寸法)の値yや検出対象となる傷部の大きさの値d等のように容易に設定できる値又は容易に得られる値が入力されることで、その都度、FEMを行うことなく、傷部aの存在範囲の検出のために測定対象物Tを加熱するのに適した熱流束qが迅速に導出され、この導出された熱流束qで測定対象物Tを加熱することで、検査員等によってばらつきが生じることなく、測定対象物Tにおける傷部aの存在範囲を精度よく検出することができる。
【0101】
具体的には、以下のようにして(図16参照)、傷部aの存在範囲の検出が行われる。
【0102】
<各数値の設定>
まず、測定対象物Tを加熱するための熱流束の値qを求めるために入力手段24から演算手段本体22へ入力するための所定の複数の値が設定される(ステップS1)。具体的には、検出したい温度差の値Δt1と、検出対象とする傷部の大きさの値d1と、検出対象とする傷部の厚み寸法の値x1と、健全部の厚み寸法の値y1とが設定される。検出したい温度差の値Δt1は、本実施形態では、測定手段18の温度分解能の約10倍の値(2.5℃)に設定される。傷部の大きさの値d1は、測定対象物Tの表面方向に沿った大きさである。このように検出対象とする傷部の大きさの値d1が設定されても、当該傷部検出装置10において、この大きさの傷部aのみが検出されるのではなく、この傷部aの大きさを含む所定の範囲の大きさの傷部aが検出される。この所定の範囲とは、傷部aに関する複数のパラメータ(例えば、d、x、…等)を含む各パラメータをそれぞれ変更して熱伝導解析を行った場合に、熱流束導出関数Qにより導出された熱流束qと等しい、又は熱流束qよりも値の小さな熱流束が解析結果として得られるような前記傷部に関するパラメータの範囲をいう。傷部の厚み寸法の値x1は、例えば、メッキ等のコーティングの剥離を検出する場合には、このコーティングの厚み寸法の値を用いる。健全部の厚み寸法の値yは、測定対象物Tを測定することにより容易に得られる。
【0103】
<数値の入力及び熱流束の導出>
上記のようにして設定された各値が入力手段24から入力される。入力手段24から上記の各値が入力されると、演算手段本体22の導出手段30において熱流束導出部34が記憶部32に予め格納されている熱流束導出関数Qと入力された各値とから測定対象物Tを加熱するときの熱流束の値qを直ちに導出し、この結果(熱流束の値q)が出力手段26に表示される(ステップS2)。
【0104】
具体的には、演算手段20において熱流束導出部34が入力された温度差の値Δt1と傷部の大きさの値d1と傷部の厚み寸法の値x1と健全部の厚み寸法の値y1と、記憶部32に予め格納された熱流束導出関数Qとから熱流束の値qを導出する。そして、熱流束導出部34が、この導出した熱流束の値qを熱流束信号として出力手段26に送信し、この熱流束信号を受け取った出力手段26が熱流束の値qを表示する。
【0105】
このように演算手段20によれば、予めFEMによる熱伝導解析を行い、その結果から導き出された関係(熱流束導出関数Q)が格納されているため、この熱流束導出関数Qを用いることで、測定対象物Tの傷部aの存在範囲の検出の度に熱流束の値qをFEMにより導出する必要がなく、容易に設定できる値や得やすい値を用いて迅速に導出することができる。また、検査員等の経験に基づいて熱流束の値qを決める場合に比べ、上記の各値さえ決めれば熱流束の値qが一義的に求められるため、人的な要因による検出結果のばらつきが抑制される。
【0106】
<測定対象物の加熱>
次に、求められた熱流束により測定対象物Tを加熱する。本実施形態では、測定対象物Tに供給される熱流束の値が出力手段26に表示された熱流束の値qとなるように、加熱源14と測定対象物Tとの距離が調整される(ステップS3)。具体的に、加熱源14として用いられているハロゲンライトを移動させて当該ハロゲンライト14の測定対象物Tからの距離を調整することにより、測定対象物Tに供給される熱流束が調整される。
【0107】
詳細には、ハロゲンライト14の光軸上の熱流束と測定対象物Tからハロゲンライトまでの距離との関係(図17参照)を実測等により予め求めておき、この関係と出力手段26に表示された熱流束の値qとに基づき測定対象物Tの所定の表面(加熱対象面)50からハロゲンライト14までの距離を求める。測定対象物Tの表面50からハロゲンライト14までの距離が求めた距離となるようにハロゲンライト14を移動させる。このように測定対象物Tの表面50とハロゲンライト14との距離が調整された状態で、ハロゲンライト14により測定対象物Tが加熱される。
【0108】
尚、本実施形態では、測定対象物Tへ供給される熱流束を調整するために、熱流束の値qを出力手段26に表示させ、この値qに基づいて予め求めておいた距離と熱流束との関係から、検査員等が測定対象物Tとハロゲンライト14との距離を求めてハロゲンライト14を移動させているが、これに限定されない。例えば、記憶部32に予め距離と熱流束との関係を格納しておき、熱流束導出部34が導出した熱流束の値qとこの関係とに基づいて測定対象物Tからハロゲンライト14までの距離を求め、この距離を出力手段26に表示させるように構成されてもよい。また、傷部検出装置10に、ハロゲンライト(加熱源)14を移動させて測定対象物Tとハロゲンライト14との距離を変更可能なアクチュエータ等の移動手段を設け、熱流束導出部34が上記のようにして測定対象物Tとハロゲンライト14との距離を求め、これに基づき移動手段を制御してハロゲンライト14を移動させるように構成されてもよい。
【0109】
<温度測定及び傷部の存在範囲の検出>
加熱開始から所定時間(本実施形態では、熱流束導出関数Qを求めたときに用いた加熱時間:40秒)経過後に測定手段18により測定対象物Tの表面温度を測定し、測定対象物表面50の温度分布を求める(ステップS4)。
【0110】
この温度分布に基づき、検出手段36が傷部の存在範囲を検出する。具体的に、検出手段36は、測定手段18により得られた測定対象物表面50の温度分布から、健全部bと所定の温度差が生じた範囲を傷部aの存在範囲として検出する。
【0111】
詳細には、検出手段36が測定手段18により温度分布を求めた測定領域内において多数の測定点から特定の測定点α1を指定し、この特定の測定点α1と他の測定点との温度差をそれぞれ求める。そして、検出手段36は、入力手段24から入力された検出したい温度差の値Δt1に基づく閾値(本実施形態では、上記のように温度差の値Δt1の1/2の値)と、特定の測定点α1と他の測定点との温度差の値とを比較し、この温度差の値が閾値よりも大きい範囲(特定の測定点α1が健全部bに指定された場合)又は前記温度差の値が閾値よりも小さい範囲(特定の測定点α1が傷部aに指定された場合)を測定対象物Tにおける傷部aの存在範囲として検出する(ステップS5)。
【0112】
このように検出手段36で検出された傷部aの存在範囲は、出力手段26に検出信号として送信され、これを受け取った出力手段26が傷部aの位置や範囲等を表示する。
【0113】
以上のように本実施形態の傷部検出装置10によれば、測定対象物Tにおいて、検出したい温度差の値Δt1と、検出対象とする傷部の大きさの値d1と、検出対象とする傷部の厚み寸法の値x1と、健全部の厚み寸法の値y1とを入力手段から入力することにより、検査員等によってばらつきが生じることなく、出力手段26から傷部aの存在範囲の検出に適した熱流束の値qが出力されるため、この値に基づいて加熱手段12が測定対象物Tを加熱するときの熱流束の値qを変更することで、所定範囲の大きさを有する傷部aの存在範囲の検出を精度よく行うことができる。
【0114】
しかも、記憶部32に、FEMに基づいて導出された熱流束導出関数Qが予め格納されているため、入力手段24から温度差の値Δt1と、傷部の大きさの値d1と、傷部の厚み寸法の値x1と、健全部の厚み寸法の値y1とが入力される度に複雑な演算等によるFEMが行われなくても、傷部aの検出に適した熱流束の値qが導出され、その結果、迅速な傷部aの検出を行うことが可能となる。
【0115】
また、傷部検出装置10では、ハロゲンランプ(加熱源)14により測定対象物Tが加熱され、赤外線サーモグラフィ装置(測定手段)18により測定対象物Tの表面温度が測定されるため、測定対象物Tから離れた位置から測定対象物Tの加熱及び表面温度の測定ができる。そのため、測定対象物Tが高所等、測定位置から離れた位置に配置されている場合でも足場等を組むことなく容易に傷部aの検出を行うことができる。
【0116】
次に、本発明の第2実施形態について図18を参照しつつ説明する。上記第1実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成についてのみ詳細に説明する。
【0117】
本実施形態の傷部検出装置110は、加熱手段12と測定手段18とを備える。加熱手段12は、ハロゲンライトからなる加熱源14と、この加熱源14に電力を供給する加熱用電源16を有する。測定手段18は、赤外線サーモグラフィ装置により構成される。
【0118】
また、本実施形態では、測定対象物Tにおける傷部aの存在範囲の検出のため、傷部検出装置110以外に、熱流束導出関数Qと、ハロゲンライト14の光軸上での距離と熱流束との関係(図17参照)が記載されたテーブルとを予め用意しておく。
【0119】
以上のような傷部検出装置110と、熱流束導出関数Qと、ハロゲンライト14の光軸上での距離と熱流束との関係とを用い、以下のようにして(図16参照)測定対象物Tにおける所定範囲の傷部aの存在範囲の検出が行われる。
【0120】
<各数値の設定>
第1実施形態と同様に、検出したい温度差の値Δt1と、検出対象とする傷部の大きさの値d1と、検出対象とする傷部の厚み寸法の値x1と、健全部の厚み寸法の値y1とが設定される(ステップS1)。
【0121】
<熱流束の導出>
これらの各値と熱流束導出関数Qとから熱流束qが求められる(ステップS2)。本実施形態では、熱流束導出関数Qと設定された各値とに基づいて検査員等が計算により熱流束qを求める。このとき、熱流束導出関数Qが比較的簡単な関数であるため、検査員等が各値を熱流束導出関数Qに代入し、電卓等により計算することで、FEM等の複雑な演算を行う熱伝導解析を行う場合に比べ、傷部aの検出に適した熱流束の値qを極めて容易且つ迅速に求めることができる。そのため、FEM(熱伝導解析)を行う時間が不要となり、検査員等の経験に基づいて熱流束の値を決めていたのと異なり、検出したい傷部の形状(大きさd1や厚み寸法x1)と検出したい温度差Δt1とを決めるだけで、傷部aの検出に適した熱流束の値qが一義的に求まり、人的な要因による傷部の検出結果のばらつきが抑制される。
【0122】
<測定対象物の加熱>
このようにして導出した熱流束の値qに基づき、第1実施形態同様に検査員等がハロゲンライト14の光軸上での距離と熱流束との関係から測定対象物Tとハロゲンライト14との距離を求め、ハロゲンライト14の位置が調整される(ステップS3)。
【0123】
このように測定対象物Tとハロゲンライト14との距離が調整された状態で、ハロゲンライト14により測定対象物Tが加熱される。
【0124】
<温度測定及び傷部の存在範囲の検出>
加熱開始から所定時間(第1実施形態同様に40秒)経過後に測定手段18により測定対象物Tの表面温度を測定してその温度分布を求める(ステップS4)。この測定により得られた測定対象物表面50の温度分布から傷部aの存在範囲を検出する(ステップS5)。本実施形態では、測定手段18である赤外線サーモグラフィ装置の熱画像の色の変化により傷部aの存在範囲が検出される。具体的には、熱画像において、温度差が一定以上となる範囲を傷部aとして検出する。
【0125】
詳細には、熱画像中の測定対象物Tにおいて、大部分を占める色と異なる色の部位、即ち、測定対象物の大部分を占める健全部と一定以上の温度差が生じている部位を傷部として検出する。通常、測定対象物において健全部bが傷部aよりも圧倒的に大きく厚みも一定であるため、加熱後の温度は、健全部bでは略均一となる。一方、傷部aは、健全部bよりも厚みが小さいため、加熱後の温度は健全部bよりも高温となる。そのため、赤外線サーモグラフィ装置18により温度を測定し、その熱画像から、測定対象物の大部分を占める色(温度)と異なる色(温度)の範囲を検出することにより、健全部bよりも厚みの小さな部位(傷部)の存在範囲を検出することができる。
【0126】
ここで、熱流束の値qを求めるときに設定した測定対象とする傷部の大きさの値d1及び傷部の厚み寸法の値x1と同じ寸法を有する傷部aが測定対象物Tに生じていた場合に、求めた値qの熱流束で測定対象物Tを加熱することによって、傷部aと健全部bとの温度差が熱流束導出関数Qを求めるときに設定した温度差の値Δt1となる。この温度差は、赤外線サーモグラフィ装置18の温度分解能の約10倍となるように設定されているため、当該装置18の熱画像上において明確な色の違いとして現れる。また、検出したい温度差の値Δt1を赤外線サーモグラフィ装置18の温度分解能の約十倍に設定したことで、測定対象物Tに実際に生じている傷部aの寸法(大きさd及び厚み寸法x)が熱流束の値qを求めるときに設定した値と異なっても、この寸法が所定範囲内の大きさであれば、傷部aと健全部bとの温度差の値がΔt1より小さくなっても熱画像上で十分識別できる色の違いとして現れる。この色の違いによって、検査員等は、熱流束を求めたときに設定した傷部の寸法を含む所定範囲内の大きさの傷部aを熱画像から検出できる。
【0127】
以上のような熱流束導出関数Qを用いた熱流束の値qの導出方法によれば、この値qの熱流束で加熱することにより傷部aと健全部bとの温度差Δtを十分識別できるような熱流束の値qが求められるため、この熱流束で測定対象物Tを加熱することで、目視によっても熱画像の色の変化から傷部aの検出を行い易くなり、その結果、精度よく傷部を検出することができる。
【0128】
尚、本発明の熱流束導出方法、この導出方法を含む傷部検出方法、及びこの検出方法を用いた傷部検出装置は、上記第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0129】
本実施形態の熱流束導出関数Qは、傷部aと健全部bとの温度差の値Δtと、傷部の大きさの値dと、傷部の厚み寸法の値xと、健全部の厚み寸法の値yと、熱流束の値qとの関係として求められているが、これに限定されない。即ち、熱流束導出関数Qは、温度差の値Δtと、傷部の大きさの値dと、熱流束の値qとの関係から求められてもよい。この場合、熱流束導出関数Q1は、図6及び図9から近似式として求められ、具体的には、以下の(6)式ように表される。
【0130】
先ず、図6及び図9から求められた近似式は、
【0131】
【数7】
【0132】
ここで、Δt、q、d、は、それぞれ傷部と健全部との温度差(℃)、熱流束(W/m2)、傷部の大きさ(m)である。
【0133】
この(7)式をqについて整理すると、
【0134】
【数8】
【0135】
また、熱流束導出関数Qは、温度差の値Δtと、傷部の大きさの値dと、傷部の厚み寸法xと、熱流束の値qとの関係から求められてもよい。この場合、熱流束導出関数Q2は、図7及び図9から近似式として求められ、具体的には、以下の(10)式ように表される。
【0136】
先ず、図7及び図9から求められた近似式は、
【0137】
【数9】
【0138】
ここで、Δt、q、d、xは、それぞれ傷部と健全部との温度差(℃)、熱流束(W/m2)、傷部の大きさ(m)、傷部の厚み寸法(m)である。
【0139】
この(7)式をqについて整理すると、
【0140】
【数10】
【0141】
以上のような熱流束導出関数Q1,Q2と、第1及び第2実施形態で用いた熱流束導出関数Qとの精度を確認するために、加熱した試験片の実測値と、熱流束導出関数Q1,Q2,Qを求めたときの近似式(7)式、(9)式、(3)式により導出したΔtと比較する。
【0142】
具体的には、図19に示される試験片tpを熱流束7460W/m2で加熱する。この試験片は、厚み寸法12mmで表面にはメッキが施されており、矢印で示す部分に約φ3mmの剥離が存在する。メッキの厚み寸法は、55μmである。
【0143】
図20にその結果を示す。この図から(7)式、(9)式、(3)式の順に実測値との誤差が小さくなっているのがわかる。(3)式においては、約0.5℃の誤差に収まっており、傷部の検出のための測定対象物の加熱条件としては十分な精度が得られたが、(7)式や(9)式においても、傷部の検出のための測定対象物の加熱条件として用いることができる精度が得られた。
【0144】
第1実施形態の傷部検出装置10では、検査員等によってハロゲンライト14を移動させることにより、測定対象物Tに供給される熱流束が調整されるが、これに限定されない。例えば、出力手段26が導出手段30で導出された熱流束の値qを出力信号として加熱手段12に出力し、加熱手段12が、測定対象物Tを加熱可能に構成されると共に供給される電流値に基づいて測定対象物Tに供給される熱流束の値を変更可能な加熱源14と、出力手段26からの出力信号に基づいて加熱源14に供給する電流値を変更する加熱用電源16とを備えてもよい。このように構成されても、入力手段24から温度差の値Δt1と傷部の大きさの値d1とが入力されると、加熱手段12において自動的に傷部aの存在範囲の検出に適した値となるように調整された熱流束が測定対象物Tに供給される。
【0145】
また、第1実施形態では、測定対象物Tにおける傷部aとして剥離が生じている部位の検出が行われ、第2実施形態では、測定対象物Tにおける傷部aとして減肉部位の検出が行われるが、これに限定されず、一つの測定対象物Tにおいて剥離及び減肉の両方の検出が行われてもよい。
【0146】
また、傷部aは剥離や減肉のみに限定されない。即ち、検出対象としての傷部aとは、測定対象物Tの所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加えたときに、周囲よりも熱拡散が妨げられることによって周囲(健全部b)との間で温度差Δtが生じるような部位のことである。第1及び第2実施形態の傷部(剥離及び減肉部)aでは、加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法が小さく、直下への熱拡散が妨げられている。
【符号の説明】
【0147】
10 傷部検出装置
12 加熱手段
18 測定手段
20 演算手段
24 入力手段
26 出力手段
30 導出手段
32 記憶部
34 熱流束導出部
36 検出手段
a 傷部
b 健全部
d 傷の大きさ値
d1 検出対象とする傷の大きさ値
q 熱流束の値
T 測定対象物
x 傷部の厚み寸法(残厚)の値
y 健全部の厚み寸法の値
Δt 傷部と健全部との温度差の値
Δt1 傷部と健全部との間において検出したい温度差の値
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物における剥離や減肉等の傷部を、加熱された測定対象物の表面温度から検出する方法、及びこの方法を用いた傷部検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、母材の表面がセラミックスコーティングされている測定対象物において、当該セラミックスコーティングの母材からの剥離を検出する方法として特許文献1に記載の方法が知られている。
【0003】
この方法では、測定対象物を加熱し、剥離の有無によって母材への熱伝導が異なるために生じる、即ち、周囲への熱拡散の大小によって生じる測定対象物(セラミックスコーティング)の表面温度分布を赤外線サーモグラフィ装置や赤外線カメラ等の温度測定手段によって測定し、その温度分布からセラミックスコーティングの母材からの剥離を検出する。
【0004】
また、配管内側の減肉部(周囲よりも肉厚が薄くなった部位)を検出する方法として特許文献2に記載の方法が知られている。この方法では、配管を加熱して配管表面に設定された評価領域内の温度を均一にした後、自然冷却中の配管の表面温度を赤外線サーモグラフィ装置で測定し、その測定結果を熱伝導解析結果が格納されているデータベースと比較することにより、減肉部の有無や減肉部の範囲を検出する。
【0005】
これら測定した測定対象物の表面温度に基づいて剥離や減肉等の傷部を検出する方法によれば、内部に生じている傷部の検出を非破壊で行うことができる。しかも、X線や超音波探傷等では検出の難しい厚みの小さなコーティングの剥離の検出も可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−126338号公報
【特許文献2】特開2000−161943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような表面温度に基づく傷部の検出方法では、傷部とその周囲の健全部(剥離や減肉の生じていない部位)との温度差を温度測定手段によって検出するが、測定対象物を加熱するときの加熱条件によって測定される表面温度の温度分布状態が異なる。そのため、上記の傷部の検出方法においては、測定対象物を加熱するときに、傷部と健全部との温度差を検出し易い温度分布状態となるような加熱条件を決めなければならない。
【0008】
この加熱条件は、FEM(有限要素法)等の熱伝導解析によって決めることができる。しかし、測定対象物の傷部の検出を行っている現場においては、日毎に測定対象物が異なる場合も多く、その度にFEM等の複雑な演算による熱伝導解析を行うことは時間的に困難である。そのため、傷部の検出を行っている検査員等により、その経験に基づいて加熱条件が決められる場合が多い。その結果、測定対象物における傷部の検出結果にばらつきが生じていた。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、測定対象物の表面温度に基づく傷部の検出方法において、検査員等の人的な要因による傷部の検出結果のばらつきを抑制することができる測定対象物の加熱条件の導出方法、この導出方法を含む傷部検出方法、及びこの検出方法を用いた傷部検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明の発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意研究を行った結果、以下のことを発見した。
【0011】
上記のように、傷部を検出するために測定対象物に与えられる熱負荷は、温度測定手段が傷部を表面温度の変化として検出できるよう、測定対象物の物性や、傷部の大きさ、測定対象物に供給される熱流束等をパラメータとした熱伝導解析に基づいて求められる。この熱伝導解析を各パラメータの値を種々変更して多数回行い、その結果を精査したところ、いずれの場合においても測定対象物の加熱過程における傷部と健全部との温度差Δtと加熱時間との関係において所定の特徴が現れることを発見した。
【0012】
そこで、この特徴に着目して前記多数の熱伝導解析の結果を解析したところ、少なくとも温度差Δtと、傷部の大きさと、測定対象物を加熱するときの熱流束との間に特定の関係が成り立つことがわかった。
【0013】
前記発明者らは、これらの発見に基づき、測定対象物の加熱過程における傷部と健全部との温度差Δtと加熱時間との関係において現れる所定の特徴に着目することによって得ることができた温度差と傷部の大きさと熱流束との特定の関係を用いて以下の構成の熱流束導出方法、この方法を含む傷部検出方法、及びこの検出方法を用いた傷部検出装置を創作した。
【0014】
本発明に係る熱流束導出方法は、測定対象物の所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加え、そのときの当該表面の温度分布に基づき前記加熱対象面と直交する方向についての当該加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法が周囲よりも小さい傷部の存在範囲を熱伝導解析により検出するにあたり当該測定対象物を加熱するための熱流束を導出する方法であって、前記熱伝導解析のパラメータである傷部とその周囲の健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記熱流束の値との関係を求める関係導出工程と、前記測定対象物において検出したい前記温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを設定する値設定工程と、前記関係導出工程で予め求めておいた関係に基づいて、前記値設定工程で設定された前記温度差の値と前記傷部の大きさの値とから前記傷部の存在範囲を検出するために測定対象物を加熱するときの熱流束の値を求める熱流束導出工程とを備えることを特徴とする。尚、本発明において測定対象物の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚さ寸法とは、加熱対象面から当該加熱対象面と直交する方向について隙間無く連続している測定対象物の部位の当該方向の寸法をいう。
【0015】
かかる構成によれば、測定対象物において傷部と健全部との間で検出したい温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とが設定されれば、傷部の検出を行う検査員等によってばらつきが生じることなく、傷部の検出のために測定対象物を加熱するのに適した熱流束の値が導出される。このようにして求められた熱流束によって測定対象物が加熱されることで、その表面温度を測定して加熱対象面の温度分布を求めたときに傷部と健全部との温度差が検出し易くなり、所定範囲の大きさを有する傷部の存在範囲を精度よく検出することができる。
【0016】
しかも、熱流束導出工程よりも前に、熱伝導解析のパラメータである傷部と健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値との関係が予め求められているため、傷部の検出を行うときに、その都度、多数のパラメータを用いた複雑な演算による熱伝導解析等を行わなくても、測定対象物において検出したい前記温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを決めるだけで所定範囲の大きさの傷部の検出に適した熱流束の値を迅速に導出することができる。
【0017】
尚、上記の熱流束導出方法において、前記関係導出工程では、前記パラメータに含まれる傷部の前記加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係を予め求めておき、前記値設定工程では、前記測定対象物において検出対象とする傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値を設定し、前記熱流束導出工程では、前記値設定工程で設定された前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記熱流束の値を求めるのが好ましく、さらに、前記関係導出工程では、前記パラメータに含まれる健全部の前記加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係を予め求めておき、前記値設定工程では、前記測定対象物における健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値を設定し、前記熱流束導出工程では、前記値設定工程で設定された前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記熱流束の値を求めるのがより好ましい。
【0018】
このように関係導出工程において傷部と健全部との温度差や熱流束等の関係を求めるときのパラメータが増えることで、傷部の検出のために測定対象物を加熱するときの加熱条件としてより適した熱流束の値が導出される。
【0019】
前記関係導出工程で求められる前記関係は、前記値設定工程で設定される温度差の値をΔt、傷部の大きさの値をd、傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値をx、熱流束の値をqとし、測定対象物の材質と健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法とに基づく定数をbとしたときに、以下の(1)式で表されるのが好ましい。
【0020】
【数1】
【0021】
このように、傷部と健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と熱流束の値との関係が簡単な関数によって表されることで、測定対象物において検出したい傷部と健全部との温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値と検出対象とする傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値とが与えられれば、例えば電卓等によって、前記傷部の検出に必要な熱流束の値を容易且つ迅速に導出することができる。
【0022】
本発明に係る傷部検出方法は、測定対象物の所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加え、そのときの当該表面の温度分布に基づき前記加熱対象面と直交する方向についての当該加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法が周囲よりも小さい傷部の存在範囲を熱伝導解析により検出する方法であって、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱流束導出方法によって前記熱流束の値を求める熱流束決定工程と、前記熱流束決定工程で求めた値の熱流束によって前記測定対象物を加熱する加熱工程と、前記加熱工程において加熱された前記測定対象物の加熱対象面における表面温度を測定する温度測定工程と、前記温度測定工程で測定された表面温度の加熱対象面における温度分布と前記熱流束導出方法の値設定工程において設定された温度差の値とに基づいて前記傷部の存在範囲を検出する検出工程とを備えることを特徴とする。
【0023】
かかる構成によれば、測定対象物において検出したい前記温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とが与えられれば、検査員等によってばらつきが生じることなく傷部の検出のための加熱に適した熱流束の値が求められ、この値の熱流束で測定対象物を加熱することで所定範囲の大きさを有する傷部の存在範囲を精度よく検出することができる。
【0024】
しかも、熱流束決定工程よりも前に、熱伝導解析のパラメータである傷部と健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記熱流束の値との関係が予め求められているため、傷部の検出を行うときに、その都度、多数のパラメータを用いた複雑な演算による熱伝導解析等を行わなくても、測定対象物において検出したい前記温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを設定するだけで前記傷部の存在範囲の検出に適した熱流束の値を迅速に導出することができる。
【0025】
前記温度測定工程では、前記測定対象物の加熱対象面に複数の測定点が指定されて各測定点の温度が測定され、前記検出工程では、前記複数の測定点のうちの特定の測定点と他の測定点との間の温度差の値と、前記値設定工程において設定された温度差に基づく所定の閾値とを比較することにより前記傷部の検出が行われるのが好ましい。
【0026】
かかる構成によれば、測定対象物における所定範囲の大きさの傷部の存在範囲をより精度よく検出することができる。即ち、傷部と健全部とでは測定対象物において加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法が異なるため加熱により熱拡散の大小に起因する温度差が生じ、その結果、傷部同士又は健全部同士の温度差に比べて温度差が大きくなり、この大きくなった温度差を利用することで傷部を容易に検出することができる。しかも、この温度差の値と所定の値(閾値)との大小によって傷部か健全部かを判断することで、傷部か健全部かをより精度よく簡単に判断することができる。
【0027】
また、前記検出工程では、前記複数の測定点を前記特定の測定点に対する温度差の小さな第1の測定点とこの第1の測定点よりも前記特定の測定点に対する温度差が大きな第2の測定点とに分類し、前記第1の測定点が前記第2の測定点よりも多い場合には、前記特定の測定点に対する温度差の値が前記閾値よりも大きくなった測定点を前記傷部として検出する一方、前記第1の測定点が前記第2の測定点よりも少ない場合には、前記特定の測定点に対する温度差の値が前記閾値よりも小さくなった測定点を前記傷部として検出するのが好ましい。
【0028】
かかる構成によれば、複数の測定点から任意に特定の測定点を選んだ場合でも、傷部と健全部とが確実に判断される。即ち、通常、傷部は健全部よりも面積が小さいため、第1の測定点と第2の測定点とのうち少ない方を傷部の測定点として判断し、傷部の検出が行われる。これにより、特定の測定点が傷部又は健全部のいずれに指定されても、検出結果において傷部と健全部とが逆になることが防止される。
【0029】
前記加熱工程では、ハロゲンランプにより測定対象物が加熱され、前記温度測定工程では、赤外線サーモグラフィ装置により測定対象物の表面温度が測定されるのが好ましい。
【0030】
かかる構成によれば、測定対象物から離れた位置から測定対象物の加熱及び表面温度の測定ができる。そのため、測定対象物が高所等、測定位置から離れた位置に配置されている場合でも足場等を組むことなく容易に傷部の検出を行うことができる。
【0031】
本発明に係る傷部検出装置は、測定対象物の所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加え、そのときの当該表面の温度分布に基づき前記加熱対象面と直交する方向についての当該加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法が周囲よりも小さい傷部の存在範囲を熱伝導解析により検出するための装置であって、前記測定対象物を加熱する加熱手段と、前記測定対象物の加熱対象面における表面温度を測定する測定手段と、前記加熱手段が前記測定対象物を加熱するときの熱流束の値を求める導出手段と、前記測定対象物における傷部と健全部との間で検出したい温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを前記導出手段に入力可能な入力手段と、前記導出手段で導出された熱流束の値を外部に出力する出力手段と、前記測定手段で測定された表面温度の加熱対象面における温度分布と入力手段から入力された前記温度差の値とに基づいて前記傷部の存在範囲を検出する検出手段とを備え、前記加熱手段は、前記熱流束の値を変更可能に構成され、前記導出手段は、前記熱伝導解析のパラメータである傷部とその周囲の健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記熱流束の値との関係を予め格納しておく記憶部と、前記入力手段から入力された前記温度差の値と傷部の大きさの値とから前記記憶部に格納されている関係に基づいて熱流束の値を求める熱流束導出部とを有することを特徴とする。
【0032】
かかる構成によれば、測定対象物において検出したい前記温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを入力手段から入力することにより、検査員等によってばらつきが生じることなく、出力手段から前記傷部の存在範囲の検出に適した熱流束の値が出力されるため、この値に基づいて加熱手段が測定対象物を加熱するときの熱流束の値を変更することで、所定範囲の大きさを有する傷部の存在範囲の検出を精度よく行うことができる。
【0033】
しかも、記憶部に、熱伝導解析のパラメータである傷部とその周囲の健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値との関係が予め格納されているため、入力手段から前記温度差の値と傷部の大きさの値とが入力される度に複雑な演算等による熱伝導解析が行われなくても、傷部の検出に適した熱流束の値が導出され、その結果、迅速な傷部の検出を行うことが可能となる。
【0034】
尚、上記の傷部検出装置においては、前記入力手段は、前記測定対象物において検出対象とする傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値を前記導出手段に入力可能に構成され、前記記憶部には、前記パラメータに含まれる傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係が予め格納され、前記熱流束導出部は、前記入力手段から入力された温度差の値と傷部の大きさの値と傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記記憶部に格納されている関係に基づいて熱流束の値を求めるのが好ましく、さらに、前記入力手段は、前記測定対象物における健全部の前記加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値を前記導出手段に入力可能に構成され、前記記憶部には、前記パラメータに含まれる健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係が予め格納され、前記熱流束導出部は、前記入力手段から入力された温度差の値と傷部の大きさの値と傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値と健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記記憶部に格納されている関係に基づいて熱流束の値を求めるのがより好ましい。このように、記憶部に格納されている傷部と健全部との温度差や熱流束等の関係を求めるときのパラメータが増えることで、前記傷部の存在範囲の検出のために測定対象物を加熱するときのより適した熱流束の値が導出される。
【0035】
前記加熱手段は、前記測定対象物を加熱するための加熱源を備え、この加熱源は、前記測定対象物からの距離を変更可能に構成されるのが好ましい。
【0036】
かかる構成によれば、測定対象物に供給される熱流束の値を容易に変更することができる。即ち、出力手段からの出力に基づき加熱源の測定対象物からの距離を変更するだけで、測定対象物に供給される熱流束の値を変更することができる。
【0037】
このとき、前記出力手段は、前記導出手段で導出された熱流束の値を出力信号として前記加熱手段に出力し、前記加熱手段は、前記出力手段からの出力信号に基づいて前記加熱源を移動させる移動手段をさらに備えてもよい。
【0038】
かかる構成によれば、入力手段から温度差の値と傷部の大きさの値とが入力されると、加熱手段において自動的に前記傷部の存在範囲の検出に適した値となるように調整された熱流束が測定対象物に供給される。
【0039】
また、前記出力手段は、前記導出手段で導出された熱流束の値を出力信号として前記加熱手段に出力し、前記加熱手段は、前記測定対象物を加熱可能に構成されると共に供給される電流値に基づいて前記測定対象物に供給される熱流束の値を変更可能な加熱源と、前記出力手段からの出力信号に基づいて前記加熱源に供給する電流値を変更する加熱用電源とを備えてもよい。
【0040】
かかる構成によっても、入力手段から温度差の値と傷部の大きさの値とが入力されると、加熱手段において自動的に前記傷部の存在範囲の検出に適した値となるように調整された熱流束が測定対象物に供給される。
【発明の効果】
【0041】
以上より、本発明によれば、測定対象物の表面温度に基づく傷部の検出方法において、検査員等の人的な要因による傷部の検出結果のばらつきを抑制することができる測定対象物の加熱条件の導出方法、この導出方法を含む傷部検出方法、及びこの検出方法を用いた傷部検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1実施形態に係る傷部検出装置の概略構成図である。
【図2】前記傷部検出装置の演算手段の構成ブロック図である。
【図3】前記演算手段本体の導出手段における記憶部に予め格納される関数を求めるために行ったFEMで用いた解析モデルを示す図である。
【図4】(a)は前記解析モデルに用いた軟鋼の物性値を示す図であり、(b)は前記記憶部に予め格納される関数を求めるために行ったFEMでのパラメータの各値を示す図である。
【図5】傷部の大きさ毎の傷部中央と健全部との温度差と加熱時間との関係を示す図である。
【図6】測定対象物の健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法が0.006mの場合において、傷部中央と健全部との温度差と傷部の大きさとの関係を傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法さ毎に示す両対数グラフである。
【図7】図6の両対数グラフの横軸をd√3/xとした図である。
【図8】健全部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法が0.012mの場合において、傷部中央と健全部との温度差と傷部の大きさとの関係を傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法毎に示す両対数グラフの横軸をd√3/xとした図である。
【図9】傷部中央と健全部との温度差と熱流束との関係を示す図である。
【図10】(a)は前記解析モデルに用いたセラミックスの物性値を示す図であり、(b)は前記記憶部に予め格納される関数を求めるために行ったFEMでのパラメータの各値を示す図である。
【図11】傷部の大きさ毎の傷部中央と健全部との温度差と加熱時間との関係を示す図である。
【図12】傷部中央と健全部との温度差と傷部の大きさとの関係を傷部の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法毎に示す両対数グラフである。
【図13】図12の両対数グラフの横軸をd√3/xとした図である。
【図14】測定手段で測定対象物を測定したときの温度分布の画像(熱画像)を示す図である。
【図15】図14におけるデータ処理線上での特定の測定点と他の測定点との温度差を示す図であり、(a)は健全部に特定の測定点を指定したときの図であり、(b)は傷部に特定の測定点を指定したときの図である。
【図16】傷部の検出方法を示すフロー図である。
【図17】ハロゲンライトの光軸上での距離と熱流束との関係を示す図である。
【図18】第2実施形態に係る傷部検出装置の概略構成図である。
【図19】試験片の熱画像を示す図である。
【図20】実測値と各近似値から得られた結果を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の第1実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0044】
本発明に係る傷部検出装置は、測定対象物において表面から見えない剥離や減肉部等の傷部を非破壊、非接触で検出することができる。具体的に、傷部検出装置は、測定対象物を加熱したときの熱拡散の大小によって生じる表面の温度分布に基づいて所定範囲の大きさを有する傷部の存在範囲を検出することができる。本実施形態において、熱拡散の大小は、測定対象物の所定の加熱される表面(加熱対象面)と直交する方向における加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法の大小により生じている。この測定対象物の加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚さ寸法とは、加熱対象面から当該加熱対象面と直交する方向について隙間無く連続している測定対象物の部位の当該方向の寸法をいう。例えば、図1に示されるような母材T1の表面にメッキT2によってコーティングが施された測定対象物Tにおいて傷部aが剥離である場合には、傷部aの加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚さ寸法とは、加熱対象面50から当該加熱対象面50と直交する方向について連続し、剥離により生じた空間55を囲む面(剥離部分のメッキの裏面)52までの部位Aの寸法をいう。また、健全部bの加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚さ寸法とは、加熱対象面50から当該加熱対象面50と直交する方向について連続し、母材T1の裏面53までの部位Bの寸法をいう。
【0045】
図18に示されるような傷部aが減肉である場合には、傷部aの加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚さ寸法とは、加熱対象面50から測定対象物Tの裏面(加熱対象面と反対側の面)54において加熱対象面50側に部分的に凹んでいる部位の寸法Cをいう。
【0046】
傷部検出装置は、図1に示されるように、測定対象物Tを加熱する加熱手段12と、測定対象物Tの表面温度を測定する測定手段18と、加熱手段12及び測定手段18を制御する演算手段20とを備える。
【0047】
加熱手段12は、測定対象物Tを加熱するための加熱源14と、この加熱源14に電力を供給する加熱用電源16とを備える。加熱源14は、非接触で測定対象物Tを加熱でき、測定対象物Tからの距離を変更可能に構成される。加熱源14は、測定対象物Tからの距離を変更することにより、測定対象物Tを加熱するときに当該測定対象物Tに供給する熱流束の値を変更することができる。本実施形態の加熱源14には、ハロゲンライトが用いられる。
【0048】
測定手段18は、非接触で測定対象物Tの表面温度を測定でき、測定対象物Tの表面(加熱対象面)50における各部位(測定点)の温度を測定することで温度分布を得ることができる。測定点は、測定手段18によって指定された測定対象物Tの表面50における温度が測定される部位(点)である。本実施形態では、測定手段18として赤外線サーモグラフィ装置が用いられる。また、本実施形態の測定点は、赤外線サーモグラフィ装置18における各画素にそれぞれ対応する測定対象物Tの表面50上の部位である。
【0049】
赤外線サーモグラフィ装置18で得られた測定対象物表面50の温度分布は、温度分布信号として演算手段本体22(詳しくは、検出手段36)に送信される。
【0050】
演算手段20は、図2にも示されるように、演算手段本体22と、この演算手段本体22に情報を入力する入力手段24と、演算手段本体22から出力された情報を外部に出力する出力手段26とを備える。この入力手段24は、少なくとも、測定対象物Tにおける傷部aと健全部bとの間で検出したい温度差の値Δt1と、検出対象とする傷部の大きさの値d1と、検出対象とする傷部aの加熱対象面50から厚み方向に連続する部分の厚み寸法(以下、単に「傷部の厚み寸法」とも称する。)の値x1と、測定対象物Tの健全部bの加熱対象面50から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値(以下、単に「健全部の厚み寸法」とも称する。)y1とをそれぞれ演算手段本体22へ入力することができる。本実施形態では、入力手段24としてキーボードが用いられる。本実施形態の出力手段26は、CRT、LCD等の検査員等が画面を通じて情報を取得できるように構成されている。尚、入力手段24及び出力手段26の具体的構成は限定されない。
【0051】
演算手段本体22は、加熱手段12が測定対象物Tを加熱するときの熱流束の値を導出する導出手段30と、測定手段18で得られた温度分布と入力手段24から入力された情報とに基づいて傷部aの存在範囲を検出する検出手段36とを有する。
【0052】
導出手段30は、所定の関数(熱流束導出関数Q)が予め格納されている記憶部32と、入力手段24から入力された情報と記憶部32に格納されている熱流束導出関数Qとから、加熱手段12により測定対象物Tを加熱するときの熱流束の値qを導出する熱流束導出部34とを有する。
【0053】
記憶部に格納されている熱流束導出関数Qは、以下の(2)式で表される。
【0054】
【数2】
【0055】
ここで、Δt、d、x、b、qは、それぞれ入力手段から入力される温度差の値、傷部の大きさの値、傷部の厚み寸法の値、健全部の厚み寸法に基づく定数、熱流束の値である。尚、本実施形態では、傷部aと健全部bとの温度差の値Δtには絶対値が用いられる。
【0056】
熱流束導出関数Qは、熱伝導解析(本実施形態ではFEM(有限要素法))での解析結果に基づいて導出された関数である。具体的に、この熱流束導出関数Qは、熱伝導解析のパラメータである傷部aとその周囲の健全部bとの温度差の値Δtと、傷部aの大きさの値dと、傷部aの厚み寸法(残厚)の値xと、健全部bの厚み寸法の値yと、熱流束の値qとにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいてFEMを行って求めた温度差の値Δtと傷部aの大きさの値dと傷部aの厚み寸法の値xと健全部bの厚み寸法の値yと熱流束の値qとの関係を表す。
【0057】
詳細には、以下のようにして熱流束導出関数Q((2)式)が求められた。
【0058】
本実施形態に係る傷部検出装置10においては、赤外線サーモグラフィ装置18が検出できる表面50の温度変化が傷部aと健全部bとの間で得られなければならない。そこで、測定対象物Tの加熱条件として熱流束と加熱時間とに着目し、FEM(熱伝導解析)によって加熱条件と測定対象物表面50に現れる温度変化(傷部aと健全部bとの温度差の値Δt)、傷部aの大きさ(寸法)d及び傷部aの厚み寸法xとの関係を検討した。
【0059】
以下では、測定対象物として金属を用いた場合と非金属のセラミックスを用いた場合を検討するが、先ず、測定対象物が金属の場合について検討する。
【0060】
[測定対象物が金属の場合]
<解析モデル及び解析条件>
加熱時に測定対象物表面に現れる時系列の温度変化を算出するため、2次元軸対称モデルによる非定常熱伝導解析を行った。解析モデルとして図3に示す中央に傷部として円形の凹部(減肉部)が形成された円板を用いた。前記の解析では、円板の外周面を断熱、表裏面で空気の自然対流による熱伝達を考慮した。円板の材質を軟鉄と仮定し、図4(a)に示す物性値を計算に用いた。
【0061】
熱伝導解析では、パラメータのうち、傷部の大きさ(減肉部の直径)d、傷部の厚み寸法(残厚)x、健全部の厚み寸法y及び熱流束qの値を図4(b)に示すように変化させ、傷部中央と健全部との温度をそれぞれ算出した。このとき、健全部の温度として加熱側の面の周縁部の温度を用いた。熱伝導解析は、加熱過程40sec、冷却過程80secの合計120secについて実施し、その間の時系列の温度変化を求めた。
【0062】
<傷部中央と健全部の温度差Δtと加熱時間との関係>
上記の熱伝導解析の結果から、加熱時間と測定対象物Tの表面温度との関係について検討する。解析結果の一例として、健全部の厚み寸法yが0.006mで傷部の厚み寸法xが0.001mの場合に、8kW/m2の熱流束qで40秒間加熱した後、80秒間冷却するときの傷部の大きさdと傷部中央と健全部との温度差Δtとの関係を図5に示す。この図5において、温度差Δtに着目すると、加熱開始直後に大きく変化するが、時間の経過に伴って変化が小さくなり一定値に収束する傾向が確認できる。このとき、温度差Δtが一定値に収束するまでの時間は、傷部の大きさdが小さいほど短く、大きいほど長くなっていることがわかる。
【0063】
このように温度差Δtが一定値に収束すると、この温度差Δtを定数として扱うことができ、加熱時間を温度差Δtの影響因子から除外できる。以下では、一定値に収束した温度差Δtとして40secの加熱終了時の温度差Δtを用い、さらに熱伝導解析の結果を精査する。
【0064】
<傷部の大きさd、傷部の厚み寸法x及び温度差Δtの関係>
上記のように温度差Δtが収束することに着目してこの温度差Δtを定数として扱い、傷部の大きさd及び傷部の厚み寸法xと温度差Δtの関係を調べた。縦軸を温度差Δt、横軸を傷部の大きさdとする両対数グラフの一例を図6に示す。この図6によれば、傷部の大きさdと温度差Δtとの関係が、傷部の厚み寸法xの値に関わらず傾きが等しい直線関係として表される。測定対象物が金属の場合では、直線の傾きは、傷部の厚み寸法xの値に関わらず、ほぼ√3となった。異なる値の熱流束でも、同様の傾向が確認でき、温度差Δtは傷部の大きさdの√3乗に比例して変動する。
【0065】
次に図6の関係をさらに単純化するため、横軸を(d√3)/xとして、両対数グラフを作成した。その結果を図7に示す。このように横軸を(d√3)/xとすることにより、図6における各傷部の厚み寸法xでのグラフが全て一直線上に重なった。
【0066】
<健全部の厚み寸法yが温度差Δtに及ぼす影響>
次に、健全部の厚み寸法yが温度差Δtに及ぼす影響について検討するため、健全部の厚み寸法yが0.012mのときに、図7と同様に傷部の大きさd及び傷部の厚み寸法xと温度差Δtとの関係を整理した。その結果を図8に示す。この図8によれば、健全部の厚み寸法が0.012mの場合でも0.006mの場合と同様の傾向が確認できた。即ち、各傷部の厚み寸法xでのグラフが全てほぼ同一直線上に重なった。
【0067】
<傷部の厚み寸法x、熱流束q及び温度差Δtの関係>
さらに、傷部の厚み寸法x、熱流束q及び温度差Δtの関係を調べた。その一例として、傷部の大きさdを0.01mとし、各傷部の厚み寸法xにおいて縦軸を温度差Δt、横軸を熱流束qとして整理し、その結果を図9に示す。この図9によれば、温度差Δtは熱流束qに比例して大きくなる。傷部の大きさdの値を変えても、同様の比例関係が確認できた。
【0068】
<近似式(熱流束導出関数Q)>
図7〜9に基づき、健全部の厚み寸法y=0.006m、0.012mの場合に、温度差Δtを算出する近似式を求めると以下の(3)式が得られる。
【0069】
【数3】
【0070】
ここで、aは健全部の厚み寸法に基づく比例定数であり、本実施例のように測定対象物Tが軟鉄で健全部の厚み寸法yが0.006mの場合には、a0.006m=4.08×10−4となり、健全部の厚み寸法yが0.012mの場合には、a0.012m=4.22×10−4となる。
【0071】
熱流束qを求めるために(3)式をqについて整理することで、以下の(4)式が(熱流束導出関数Q)得られる。
【0072】
【数4】
【0073】
ここで、bは健全部の厚み寸法に基づく比例定数であり、本実施例のように測定対象物Tが軟鉄で健全部の厚み寸法yが0.006mの場合には、b0.006m=2450.98となり、健全部の厚み寸法yが0.012mの場合には、b0.012m=2369.67となる。
【0074】
以上のように、測定対象物Tの加熱のときに傷部aと健全部bとの温度差Δtが収束することに着目し、この温度差Δtを定数として取り扱うことによって、温度差Δtと傷部の大きさdと傷部の厚み寸法xと健全部の厚み寸法yと熱流束qとの特定の関係である熱流束導出関数Qが得られた。
【0075】
[測定対象物がセラミックスの場合]
<解析モデル及び解析条件>
上記の測定対象物が金属の場合と同様に、図3に示す解析モデルを用いて2次元軸対称モデルによる非定常熱伝導解析を行った。円板の材質をセラミックスの一種であるアルミナ(Al2O3)と仮定し、図10(a)に示す物性値を計算に用いた。
【0076】
熱伝導解析では、パラメータのうち、傷部の大きさd、傷部の厚み寸法x、健全部の厚み寸法y及び熱流束qの値を図10(b)に示すように変化させ、傷部中央と健全部との温度をそれぞれ算出した。熱伝導解析は、120sec間、加熱したときの時系列の温度変化を求めた。
【0077】
<傷部中央と健全部の温度差Δtと加熱時間との関係>
上記の熱伝導解析の結果から、加熱時間と測定対象物Tの表面温度との関係について検討する。解析結果の一例として、健全部の厚み寸法yが0.006mで傷部の厚み寸法xが0.005mの場合に、8kW/m2の熱流束qで120秒間加熱したときの傷部の大きさdと傷部中央と健全部との温度差Δtとの関係を図11に示す。この図11において、温度差Δtに着目すると、加熱開始直後に大きく変化し、所定時間経過後にピークに達し、その後、僅かに減少していく、即ち、1つのピーク値を持つ傾向が確認できる。このとき、温度差Δtがピーク値に達するまでの時間は、傷部の大きさdが小さいほど短く、大きいほど長くなっていることがわかる。
【0078】
このように温度差Δtが1つのピーク値を持つため、このピーク値を用いることにより、加熱時間を温度差Δtの影響因子から除外できる。以下では、温度差Δtとしてピーク値を用い、さらに熱伝導解析の結果を精査する。
【0079】
<傷部の大きさd、傷部の厚み寸法x及び温度差Δtの関係>
上記のように温度差Δtが1つのピーク値を持つことに着目して温度差Δtとしてこのピーク値を用い、傷部の大きさd及び傷部の厚み寸法xと温度差Δtの関係を調べた。縦軸を温度差Δt、横軸を傷部の大きさdとする両対数グラフの一例を図12に示す。この図12によれば、傷部の大きさdと温度差Δtとの関係が、傷部の厚み寸法xの値に関わらず傾きが等しい直線関係として表される。測定対象物が非金属の場合でも、直線の傾きは、傷部の厚み寸法xの値に関わらず、ほぼ√3となった。異なる値の熱流束でも、同様の傾向が確認でき、温度差Δtは傷部の大きさdの√3乗に比例して変動する。
【0080】
次に図12の関係をさらに単純化するため、横軸を(d√3)/xとして、両対数グラフを作成した。その結果を図13に示す。このように横軸を(d√3)/xとすることにより、図12における各傷部の厚み寸法xでのグラフが全て一直線上に重なった。
【0081】
<傷部の厚み寸法x、熱流束q及び温度差Δtの関係>
さらに、測定対象物が非金属(セラミックス)の場合においても、傷部の厚み寸法x、熱流束q及び温度差Δtの関係を調べたところ、測定対象物が金属の場合と同様に、温度差Δtは熱流束qに比例して大きくなる(図9参照)。また、傷部の大きさdの値を変えても、同様の比例関係が確認できた。
【0082】
<近似式(熱流束導出関数Q)>
図9、12、13に基づき、温度差Δtを算出する近似式を求めると以下の(5)式が得られる。
【0083】
【数5】
【0084】
ここで、cは健全部の厚み寸法に基づく比例定数であり、本実施例のように測定対象物Tがアルミナで健全部の厚み寸法yが0.006mの場合には、c=5.67×10−4となる。
【0085】
熱流束qを求めるために(5)式をqについて整理することで、以下の(6)式が(熱流束導出関数Q)得られる。
【0086】
【数6】
【0087】
ここで、eは健全部の厚み寸法に基づく比例定数であり、本実施例のように測定対象物Tがアルミナで健全部の厚み寸法yが0.006mの場合には、e=1763.55となる。
【0088】
このように、測定対象物Tの加熱のときに傷部aと健全部bとの温度差Δtが1つのピーク値を持つことに着目し、この温度差Δtのピーク値を用いることによっても、温度差Δtと傷部の大きさdと傷部の厚み寸法xと健全部の厚み寸法yと熱流束qとの特定の関係である熱流束導出関数Qが得られた。
【0089】
以上より、測定対象物が金属であってもセラミックス(非金属)であっても、熱流束導出関数Qの比例定数を除く項が共にΔt(x/d√3)である点が共通している((4)式及び(6)式参照)。即ち、測定対象物が金属であっても、非金属であっても、比例定数を変更するだけで熱流束導出関数Qを用いることができる。
【0090】
熱流束導出部34は、以上のようにして求められて予め記憶部32に格納されている熱流束導出関数Qに入力手段24から入力された値(情報)を代入することで、傷部aの存在範囲の検出に適した熱流束qを導出する。ここで、傷部aの検出に適した熱流束qとは、測定対象物表面50の温度分布に基づいて傷部aを検出する場合、傷部aの検出性は、表面温度の絶対値よりも傷部aと健全部bとの温度差Δtが大きく影響を与えるため、加熱後の測定対象物Tにおける傷部aと健全部bとの温度差Δtが大きくなるような熱流束である。
【0091】
具体的に、本実施形態の熱流束導出部34では、入力手段24から、測定対象物Tにおける傷部aと健全部bとの間で検出したい温度差の値Δt1と、検出対象とする傷部の大きさの値d1と、検出対象とする傷部の厚み寸法(残厚)の値x1と、測定対象物の健全部の厚み寸法の値y1とが入力されることにより、これら各値Δt1、d1、x1、y1と記憶部32に格納されている熱流束導出関数Qとから、傷部aの存在範囲の検出に適した熱流束qを導出する。
【0092】
このように熱流束導出部34では、記憶部32に、FEMに用いられるパラメータである傷部と健全部との温度差の値Δtと傷部の大きさの値dと熱流束の値qとにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいてFEMを行って求めた温度差の値Δtと傷部の大きさの値dと熱流束の値qとの関係(熱流束導出関数)が予め格納されているため、これを用いることで、傷部aを検出するために測定対象物Tを加熱するのに適した熱流束qを求める際に、その都度、多数のパラメータを用いた複雑な演算によるFEMを行わなくても、傷部aの検出に適した熱流束の値qを迅速に導出することができる。
【0093】
このように導出された熱流束の値qは、熱流束導出部34により熱流束信号として出力手段26に出力される。
【0094】
検出手段36は、測定手段18から温度分布信号として受け取った測定対象物表面50の温度分布と、入力手段24から入力された検出したい温度差の値Δt1とに基づいて傷部aの存在範囲を検出するものである。
【0095】
具体的に、検出手段36は、測定手段18で温度を測定した複数の測定点(本実施形態では、赤外線サーモグラフィ装置の各画素に対応する測定対象物表面50の部位)のうちから特定の測定点を指定し、この特定の測定点と他の測定点との間の温度差の値をそれぞれ求める(図15(a)参照)。検出手段36は、このようにして求めた各温度差の値と、入力手段24から入力された検出したい温度差の値Δt1に基づく閾値とをそれぞれ比較することにより傷部aの存在範囲の検出を行う。本実施形態の閾値は、入力手段24から入力された検出したい温度差の値Δt1の1/2の値である。尚、検出したい温度差の値Δt1は、測定手段18における温度分解能に基づいて決められ、本実施形態では、測定手段18の温度分解能の約10倍の値である。
【0096】
詳細には、検出手段36は、図14に示すように、測定手段18で温度分布が得られた測定領域においてデータ処理線αを指定し、このデータ処理線α上の測定点の一つを特定の測定点(図14におけるα1点)として指定する。検出手段36は、この特定の測定点α1と他のデータ処理線上の測定点との温度差をそれぞれ求め(図15(a)参照)、この温度差と閾値とを比較し、この閾値を超えた温度差を求めたときの測定点を傷部aと判断する。検出手段36は、このデータ処理線αを測定領域内で移動させ、各位置でのデータ処理線α上の傷部aの存在範囲を求めることで、測定領域内の傷部aの存在範囲を検出する。
【0097】
ここで、検出手段36は、データ処理線α上で任意に特定の測定点α1を指定するため、傷部aの存在範囲内に特定の測定点α1を指定する場合がある。この場合には、データ処理線α上の他の測定点との温度差の値を求めると、図15(b)に示されるようになり、閾値を超えた温度差を求めたときの測定点を傷部aと判断すると、健全部bが傷部aと判断されることになる。そのため、検出手段36は、通常、測定対象物Tにおいて傷部aの領域が健全部bの領域に対して圧倒的に小さくなることを利用して、特定の測定点α1が健全部bに指定されたか傷部aに指定されたかを判断する。
【0098】
具体的に、本実施形態の検出手段36は、特定の測定点と他の測定点との温度差をそれぞれ求めた後、データ処理線α上の傷部aの存在範囲を検出する前に、データ処理線α上の複数の測定点を特定の測定点α1に対する温度差の小さな第1の測定点と、この第1の測定点よりも特定の測定点α1に対する温度差が大きな第2の測定点とに分類する。そして、検出手段36は、第1の測定点が第2の測定点よりも多い場合には、特定の測定点α1に対する温度差の値が閾値よりも大きくなった測定点を傷部aとして検出する一方、第1の測定点が第2の測定点よりも少ない場合には、特定の測定点α1に対する温度差の値が閾値よりも小さくなった測定点を傷部aとして検出する。このように判断することで、検出手段36では、特定の測定点α1が傷部a又は健全部bのいずれに指定されても、検出結果において傷部aと健全部bとが逆になることが防止される。
【0099】
検出手段36は、検出した傷部aの存在範囲を検出信号として出力手段26に送信する。
【0100】
以上のように構成される傷部検出装置10では、測定対象物の厚み寸法(健全部の厚み寸法)の値yや検出対象となる傷部の大きさの値d等のように容易に設定できる値又は容易に得られる値が入力されることで、その都度、FEMを行うことなく、傷部aの存在範囲の検出のために測定対象物Tを加熱するのに適した熱流束qが迅速に導出され、この導出された熱流束qで測定対象物Tを加熱することで、検査員等によってばらつきが生じることなく、測定対象物Tにおける傷部aの存在範囲を精度よく検出することができる。
【0101】
具体的には、以下のようにして(図16参照)、傷部aの存在範囲の検出が行われる。
【0102】
<各数値の設定>
まず、測定対象物Tを加熱するための熱流束の値qを求めるために入力手段24から演算手段本体22へ入力するための所定の複数の値が設定される(ステップS1)。具体的には、検出したい温度差の値Δt1と、検出対象とする傷部の大きさの値d1と、検出対象とする傷部の厚み寸法の値x1と、健全部の厚み寸法の値y1とが設定される。検出したい温度差の値Δt1は、本実施形態では、測定手段18の温度分解能の約10倍の値(2.5℃)に設定される。傷部の大きさの値d1は、測定対象物Tの表面方向に沿った大きさである。このように検出対象とする傷部の大きさの値d1が設定されても、当該傷部検出装置10において、この大きさの傷部aのみが検出されるのではなく、この傷部aの大きさを含む所定の範囲の大きさの傷部aが検出される。この所定の範囲とは、傷部aに関する複数のパラメータ(例えば、d、x、…等)を含む各パラメータをそれぞれ変更して熱伝導解析を行った場合に、熱流束導出関数Qにより導出された熱流束qと等しい、又は熱流束qよりも値の小さな熱流束が解析結果として得られるような前記傷部に関するパラメータの範囲をいう。傷部の厚み寸法の値x1は、例えば、メッキ等のコーティングの剥離を検出する場合には、このコーティングの厚み寸法の値を用いる。健全部の厚み寸法の値yは、測定対象物Tを測定することにより容易に得られる。
【0103】
<数値の入力及び熱流束の導出>
上記のようにして設定された各値が入力手段24から入力される。入力手段24から上記の各値が入力されると、演算手段本体22の導出手段30において熱流束導出部34が記憶部32に予め格納されている熱流束導出関数Qと入力された各値とから測定対象物Tを加熱するときの熱流束の値qを直ちに導出し、この結果(熱流束の値q)が出力手段26に表示される(ステップS2)。
【0104】
具体的には、演算手段20において熱流束導出部34が入力された温度差の値Δt1と傷部の大きさの値d1と傷部の厚み寸法の値x1と健全部の厚み寸法の値y1と、記憶部32に予め格納された熱流束導出関数Qとから熱流束の値qを導出する。そして、熱流束導出部34が、この導出した熱流束の値qを熱流束信号として出力手段26に送信し、この熱流束信号を受け取った出力手段26が熱流束の値qを表示する。
【0105】
このように演算手段20によれば、予めFEMによる熱伝導解析を行い、その結果から導き出された関係(熱流束導出関数Q)が格納されているため、この熱流束導出関数Qを用いることで、測定対象物Tの傷部aの存在範囲の検出の度に熱流束の値qをFEMにより導出する必要がなく、容易に設定できる値や得やすい値を用いて迅速に導出することができる。また、検査員等の経験に基づいて熱流束の値qを決める場合に比べ、上記の各値さえ決めれば熱流束の値qが一義的に求められるため、人的な要因による検出結果のばらつきが抑制される。
【0106】
<測定対象物の加熱>
次に、求められた熱流束により測定対象物Tを加熱する。本実施形態では、測定対象物Tに供給される熱流束の値が出力手段26に表示された熱流束の値qとなるように、加熱源14と測定対象物Tとの距離が調整される(ステップS3)。具体的に、加熱源14として用いられているハロゲンライトを移動させて当該ハロゲンライト14の測定対象物Tからの距離を調整することにより、測定対象物Tに供給される熱流束が調整される。
【0107】
詳細には、ハロゲンライト14の光軸上の熱流束と測定対象物Tからハロゲンライトまでの距離との関係(図17参照)を実測等により予め求めておき、この関係と出力手段26に表示された熱流束の値qとに基づき測定対象物Tの所定の表面(加熱対象面)50からハロゲンライト14までの距離を求める。測定対象物Tの表面50からハロゲンライト14までの距離が求めた距離となるようにハロゲンライト14を移動させる。このように測定対象物Tの表面50とハロゲンライト14との距離が調整された状態で、ハロゲンライト14により測定対象物Tが加熱される。
【0108】
尚、本実施形態では、測定対象物Tへ供給される熱流束を調整するために、熱流束の値qを出力手段26に表示させ、この値qに基づいて予め求めておいた距離と熱流束との関係から、検査員等が測定対象物Tとハロゲンライト14との距離を求めてハロゲンライト14を移動させているが、これに限定されない。例えば、記憶部32に予め距離と熱流束との関係を格納しておき、熱流束導出部34が導出した熱流束の値qとこの関係とに基づいて測定対象物Tからハロゲンライト14までの距離を求め、この距離を出力手段26に表示させるように構成されてもよい。また、傷部検出装置10に、ハロゲンライト(加熱源)14を移動させて測定対象物Tとハロゲンライト14との距離を変更可能なアクチュエータ等の移動手段を設け、熱流束導出部34が上記のようにして測定対象物Tとハロゲンライト14との距離を求め、これに基づき移動手段を制御してハロゲンライト14を移動させるように構成されてもよい。
【0109】
<温度測定及び傷部の存在範囲の検出>
加熱開始から所定時間(本実施形態では、熱流束導出関数Qを求めたときに用いた加熱時間:40秒)経過後に測定手段18により測定対象物Tの表面温度を測定し、測定対象物表面50の温度分布を求める(ステップS4)。
【0110】
この温度分布に基づき、検出手段36が傷部の存在範囲を検出する。具体的に、検出手段36は、測定手段18により得られた測定対象物表面50の温度分布から、健全部bと所定の温度差が生じた範囲を傷部aの存在範囲として検出する。
【0111】
詳細には、検出手段36が測定手段18により温度分布を求めた測定領域内において多数の測定点から特定の測定点α1を指定し、この特定の測定点α1と他の測定点との温度差をそれぞれ求める。そして、検出手段36は、入力手段24から入力された検出したい温度差の値Δt1に基づく閾値(本実施形態では、上記のように温度差の値Δt1の1/2の値)と、特定の測定点α1と他の測定点との温度差の値とを比較し、この温度差の値が閾値よりも大きい範囲(特定の測定点α1が健全部bに指定された場合)又は前記温度差の値が閾値よりも小さい範囲(特定の測定点α1が傷部aに指定された場合)を測定対象物Tにおける傷部aの存在範囲として検出する(ステップS5)。
【0112】
このように検出手段36で検出された傷部aの存在範囲は、出力手段26に検出信号として送信され、これを受け取った出力手段26が傷部aの位置や範囲等を表示する。
【0113】
以上のように本実施形態の傷部検出装置10によれば、測定対象物Tにおいて、検出したい温度差の値Δt1と、検出対象とする傷部の大きさの値d1と、検出対象とする傷部の厚み寸法の値x1と、健全部の厚み寸法の値y1とを入力手段から入力することにより、検査員等によってばらつきが生じることなく、出力手段26から傷部aの存在範囲の検出に適した熱流束の値qが出力されるため、この値に基づいて加熱手段12が測定対象物Tを加熱するときの熱流束の値qを変更することで、所定範囲の大きさを有する傷部aの存在範囲の検出を精度よく行うことができる。
【0114】
しかも、記憶部32に、FEMに基づいて導出された熱流束導出関数Qが予め格納されているため、入力手段24から温度差の値Δt1と、傷部の大きさの値d1と、傷部の厚み寸法の値x1と、健全部の厚み寸法の値y1とが入力される度に複雑な演算等によるFEMが行われなくても、傷部aの検出に適した熱流束の値qが導出され、その結果、迅速な傷部aの検出を行うことが可能となる。
【0115】
また、傷部検出装置10では、ハロゲンランプ(加熱源)14により測定対象物Tが加熱され、赤外線サーモグラフィ装置(測定手段)18により測定対象物Tの表面温度が測定されるため、測定対象物Tから離れた位置から測定対象物Tの加熱及び表面温度の測定ができる。そのため、測定対象物Tが高所等、測定位置から離れた位置に配置されている場合でも足場等を組むことなく容易に傷部aの検出を行うことができる。
【0116】
次に、本発明の第2実施形態について図18を参照しつつ説明する。上記第1実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成についてのみ詳細に説明する。
【0117】
本実施形態の傷部検出装置110は、加熱手段12と測定手段18とを備える。加熱手段12は、ハロゲンライトからなる加熱源14と、この加熱源14に電力を供給する加熱用電源16を有する。測定手段18は、赤外線サーモグラフィ装置により構成される。
【0118】
また、本実施形態では、測定対象物Tにおける傷部aの存在範囲の検出のため、傷部検出装置110以外に、熱流束導出関数Qと、ハロゲンライト14の光軸上での距離と熱流束との関係(図17参照)が記載されたテーブルとを予め用意しておく。
【0119】
以上のような傷部検出装置110と、熱流束導出関数Qと、ハロゲンライト14の光軸上での距離と熱流束との関係とを用い、以下のようにして(図16参照)測定対象物Tにおける所定範囲の傷部aの存在範囲の検出が行われる。
【0120】
<各数値の設定>
第1実施形態と同様に、検出したい温度差の値Δt1と、検出対象とする傷部の大きさの値d1と、検出対象とする傷部の厚み寸法の値x1と、健全部の厚み寸法の値y1とが設定される(ステップS1)。
【0121】
<熱流束の導出>
これらの各値と熱流束導出関数Qとから熱流束qが求められる(ステップS2)。本実施形態では、熱流束導出関数Qと設定された各値とに基づいて検査員等が計算により熱流束qを求める。このとき、熱流束導出関数Qが比較的簡単な関数であるため、検査員等が各値を熱流束導出関数Qに代入し、電卓等により計算することで、FEM等の複雑な演算を行う熱伝導解析を行う場合に比べ、傷部aの検出に適した熱流束の値qを極めて容易且つ迅速に求めることができる。そのため、FEM(熱伝導解析)を行う時間が不要となり、検査員等の経験に基づいて熱流束の値を決めていたのと異なり、検出したい傷部の形状(大きさd1や厚み寸法x1)と検出したい温度差Δt1とを決めるだけで、傷部aの検出に適した熱流束の値qが一義的に求まり、人的な要因による傷部の検出結果のばらつきが抑制される。
【0122】
<測定対象物の加熱>
このようにして導出した熱流束の値qに基づき、第1実施形態同様に検査員等がハロゲンライト14の光軸上での距離と熱流束との関係から測定対象物Tとハロゲンライト14との距離を求め、ハロゲンライト14の位置が調整される(ステップS3)。
【0123】
このように測定対象物Tとハロゲンライト14との距離が調整された状態で、ハロゲンライト14により測定対象物Tが加熱される。
【0124】
<温度測定及び傷部の存在範囲の検出>
加熱開始から所定時間(第1実施形態同様に40秒)経過後に測定手段18により測定対象物Tの表面温度を測定してその温度分布を求める(ステップS4)。この測定により得られた測定対象物表面50の温度分布から傷部aの存在範囲を検出する(ステップS5)。本実施形態では、測定手段18である赤外線サーモグラフィ装置の熱画像の色の変化により傷部aの存在範囲が検出される。具体的には、熱画像において、温度差が一定以上となる範囲を傷部aとして検出する。
【0125】
詳細には、熱画像中の測定対象物Tにおいて、大部分を占める色と異なる色の部位、即ち、測定対象物の大部分を占める健全部と一定以上の温度差が生じている部位を傷部として検出する。通常、測定対象物において健全部bが傷部aよりも圧倒的に大きく厚みも一定であるため、加熱後の温度は、健全部bでは略均一となる。一方、傷部aは、健全部bよりも厚みが小さいため、加熱後の温度は健全部bよりも高温となる。そのため、赤外線サーモグラフィ装置18により温度を測定し、その熱画像から、測定対象物の大部分を占める色(温度)と異なる色(温度)の範囲を検出することにより、健全部bよりも厚みの小さな部位(傷部)の存在範囲を検出することができる。
【0126】
ここで、熱流束の値qを求めるときに設定した測定対象とする傷部の大きさの値d1及び傷部の厚み寸法の値x1と同じ寸法を有する傷部aが測定対象物Tに生じていた場合に、求めた値qの熱流束で測定対象物Tを加熱することによって、傷部aと健全部bとの温度差が熱流束導出関数Qを求めるときに設定した温度差の値Δt1となる。この温度差は、赤外線サーモグラフィ装置18の温度分解能の約10倍となるように設定されているため、当該装置18の熱画像上において明確な色の違いとして現れる。また、検出したい温度差の値Δt1を赤外線サーモグラフィ装置18の温度分解能の約十倍に設定したことで、測定対象物Tに実際に生じている傷部aの寸法(大きさd及び厚み寸法x)が熱流束の値qを求めるときに設定した値と異なっても、この寸法が所定範囲内の大きさであれば、傷部aと健全部bとの温度差の値がΔt1より小さくなっても熱画像上で十分識別できる色の違いとして現れる。この色の違いによって、検査員等は、熱流束を求めたときに設定した傷部の寸法を含む所定範囲内の大きさの傷部aを熱画像から検出できる。
【0127】
以上のような熱流束導出関数Qを用いた熱流束の値qの導出方法によれば、この値qの熱流束で加熱することにより傷部aと健全部bとの温度差Δtを十分識別できるような熱流束の値qが求められるため、この熱流束で測定対象物Tを加熱することで、目視によっても熱画像の色の変化から傷部aの検出を行い易くなり、その結果、精度よく傷部を検出することができる。
【0128】
尚、本発明の熱流束導出方法、この導出方法を含む傷部検出方法、及びこの検出方法を用いた傷部検出装置は、上記第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0129】
本実施形態の熱流束導出関数Qは、傷部aと健全部bとの温度差の値Δtと、傷部の大きさの値dと、傷部の厚み寸法の値xと、健全部の厚み寸法の値yと、熱流束の値qとの関係として求められているが、これに限定されない。即ち、熱流束導出関数Qは、温度差の値Δtと、傷部の大きさの値dと、熱流束の値qとの関係から求められてもよい。この場合、熱流束導出関数Q1は、図6及び図9から近似式として求められ、具体的には、以下の(6)式ように表される。
【0130】
先ず、図6及び図9から求められた近似式は、
【0131】
【数7】
【0132】
ここで、Δt、q、d、は、それぞれ傷部と健全部との温度差(℃)、熱流束(W/m2)、傷部の大きさ(m)である。
【0133】
この(7)式をqについて整理すると、
【0134】
【数8】
【0135】
また、熱流束導出関数Qは、温度差の値Δtと、傷部の大きさの値dと、傷部の厚み寸法xと、熱流束の値qとの関係から求められてもよい。この場合、熱流束導出関数Q2は、図7及び図9から近似式として求められ、具体的には、以下の(10)式ように表される。
【0136】
先ず、図7及び図9から求められた近似式は、
【0137】
【数9】
【0138】
ここで、Δt、q、d、xは、それぞれ傷部と健全部との温度差(℃)、熱流束(W/m2)、傷部の大きさ(m)、傷部の厚み寸法(m)である。
【0139】
この(7)式をqについて整理すると、
【0140】
【数10】
【0141】
以上のような熱流束導出関数Q1,Q2と、第1及び第2実施形態で用いた熱流束導出関数Qとの精度を確認するために、加熱した試験片の実測値と、熱流束導出関数Q1,Q2,Qを求めたときの近似式(7)式、(9)式、(3)式により導出したΔtと比較する。
【0142】
具体的には、図19に示される試験片tpを熱流束7460W/m2で加熱する。この試験片は、厚み寸法12mmで表面にはメッキが施されており、矢印で示す部分に約φ3mmの剥離が存在する。メッキの厚み寸法は、55μmである。
【0143】
図20にその結果を示す。この図から(7)式、(9)式、(3)式の順に実測値との誤差が小さくなっているのがわかる。(3)式においては、約0.5℃の誤差に収まっており、傷部の検出のための測定対象物の加熱条件としては十分な精度が得られたが、(7)式や(9)式においても、傷部の検出のための測定対象物の加熱条件として用いることができる精度が得られた。
【0144】
第1実施形態の傷部検出装置10では、検査員等によってハロゲンライト14を移動させることにより、測定対象物Tに供給される熱流束が調整されるが、これに限定されない。例えば、出力手段26が導出手段30で導出された熱流束の値qを出力信号として加熱手段12に出力し、加熱手段12が、測定対象物Tを加熱可能に構成されると共に供給される電流値に基づいて測定対象物Tに供給される熱流束の値を変更可能な加熱源14と、出力手段26からの出力信号に基づいて加熱源14に供給する電流値を変更する加熱用電源16とを備えてもよい。このように構成されても、入力手段24から温度差の値Δt1と傷部の大きさの値d1とが入力されると、加熱手段12において自動的に傷部aの存在範囲の検出に適した値となるように調整された熱流束が測定対象物Tに供給される。
【0145】
また、第1実施形態では、測定対象物Tにおける傷部aとして剥離が生じている部位の検出が行われ、第2実施形態では、測定対象物Tにおける傷部aとして減肉部位の検出が行われるが、これに限定されず、一つの測定対象物Tにおいて剥離及び減肉の両方の検出が行われてもよい。
【0146】
また、傷部aは剥離や減肉のみに限定されない。即ち、検出対象としての傷部aとは、測定対象物Tの所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加えたときに、周囲よりも熱拡散が妨げられることによって周囲(健全部b)との間で温度差Δtが生じるような部位のことである。第1及び第2実施形態の傷部(剥離及び減肉部)aでは、加熱対象面から厚さ方向に連続する部分の厚み寸法が小さく、直下への熱拡散が妨げられている。
【符号の説明】
【0147】
10 傷部検出装置
12 加熱手段
18 測定手段
20 演算手段
24 入力手段
26 出力手段
30 導出手段
32 記憶部
34 熱流束導出部
36 検出手段
a 傷部
b 健全部
d 傷の大きさ値
d1 検出対象とする傷の大きさ値
q 熱流束の値
T 測定対象物
x 傷部の厚み寸法(残厚)の値
y 健全部の厚み寸法の値
Δt 傷部と健全部との温度差の値
Δt1 傷部と健全部との間において検出したい温度差の値
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加え、そのときの当該表面の温度分布に基づき前記加熱対象面と直交する方向についての当該加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法が周囲よりも小さい傷部の存在範囲を熱伝導解析により検出するにあたり当該測定対象物を加熱するための熱流束を導出する方法であって、
前記熱伝導解析のパラメータである傷部とその周囲の健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記熱流束の値との関係を求める関係導出工程と、
前記測定対象物において検出したい前記温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを設定する値設定工程と、
前記関係導出工程で予め求めておいた関係に基づいて、前記値設定工程で設定された前記温度差の値と前記傷部の大きさの値とから前記傷部の存在範囲を検出するために測定対象物を加熱するときの熱流束の値を求める熱流束導出工程とを備えることを特徴とする熱流束導出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱流束導出方法において、
前記関係導出工程では、前記パラメータに含まれる傷部の前記加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係を予め求めておき、
前記値設定工程では、前記測定対象物において検出対象とする傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値を設定し、
前記熱流束導出工程では、前記値設定工程で設定された前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記熱流束の値を求めることを特徴とする熱流束導出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の熱流束導出方法において、
前記関係導出工程では、前記パラメータに含まれる健全部の前記加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係を予め求めておき、
前記値設定工程では、前記測定対象物における健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値を設定し、
前記熱流束導出工程では、前記値設定工程で設定された前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記熱流束の値を求めることを特徴とする熱流束導出方法。
【請求項4】
請求項3に記載の熱流束導出方法において、
前記関係導出工程で求められる前記関係は、前記値設定工程で設定される温度差の値をΔt、傷部の大きさの値をd、傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値をx、熱流束の値をqとし、測定対象物の材質と健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法とに基づく定数をbとしたときに、以下の(1)式で表されることを特徴とする熱流束導出方法。
【請求項5】
測定対象物の所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加え、そのときの当該表面の温度分布に基づき前記加熱対象面と直交する方向についての当該加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法が周囲よりも小さい傷部の存在範囲を熱伝導解析により検出する方法であって、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱流束導出方法によって前記熱流束の値を求める熱流束決定工程と、
前記熱流束決定工程で求めた値の熱流束によって前記測定対象物を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程において加熱された前記測定対象物の加熱対象面における表面温度を測定する温度測定工程と、
前記温度測定工程で測定された表面温度の加熱対象面における温度分布と前記熱流束導出方法の値設定工程において設定された温度差の値とに基づいて前記傷部の存在範囲を検出する検出工程とを備えることを特徴とする傷部検出方法。
【請求項6】
請求項5に記載の傷部検出方法において、
前記温度測定工程では、前記測定対象物の加熱対象面に複数の測定点が指定されて各測定点の温度が測定され、
前記検出工程では、前記複数の測定点のうちの特定の測定点と他の測定点との間の温度差の値と、前記値設定工程において設定された温度差に基づく所定の閾値とを比較することにより前記傷部の検出が行われることを特徴とする傷部検出方法。
【請求項7】
請求項6に記載の傷部検出方法において、
前記検出工程では、前記複数の測定点を前記特定の測定点に対する温度差の小さな第1の測定点とこの第1の測定点よりも前記特定の測定点に対する温度差が大きな第2の測定点とに分類し、
前記第1の測定点が前記第2の測定点よりも多い場合には、前記特定の測定点に対する温度差の値が前記閾値よりも大きくなった測定点を前記傷部として検出する一方、前記第1の測定点が前記第2の測定点よりも少ない場合には、前記特定の測定点に対する温度差の値が前記閾値よりも小さくなった測定点を前記傷部として検出することを特徴とする傷部検出方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の傷部検出方法において、
前記加熱工程では、ハロゲンランプにより測定対象物が加熱され、
前記温度測定工程では、赤外線サーモグラフィ装置により測定対象物の表面温度が測定されることを特徴とする傷部検出方法。
【請求項9】
測定対象物の所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加え、そのときの当該表面の温度分布に基づき前記加熱対象面と直交する方向についての当該加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法が周囲よりも小さい傷部の存在範囲を熱伝導解析により検出するための装置であって、
前記測定対象物を加熱する加熱手段と、
前記測定対象物の加熱対象面における表面温度を測定する測定手段と、
前記加熱手段が前記測定対象物を加熱するときの熱流束の値を求める導出手段と、
前記測定対象物における傷部と健全部との間で検出したい温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを前記導出手段に入力可能な入力手段と、
前記導出手段で導出された熱流束の値を外部に出力する出力手段と、
前記測定手段で測定された表面温度の加熱対象面における温度分布と入力手段から入力された前記温度差の値とに基づいて前記傷部の存在範囲を検出する検出手段とを備え、
前記加熱手段は、前記熱流束の値を変更可能に構成され、
前記導出手段は、前記熱伝導解析のパラメータである傷部とその周囲の健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記熱流束の値との関係を予め格納しておく記憶部と、前記入力手段から入力された前記温度差の値と傷部の大きさの値とから前記記憶部に格納されている関係に基づいて熱流束の値を求める熱流束導出部とを有することを特徴とする傷部検出装置。
【請求項10】
請求項9に記載の傷部検出装置において、
前記入力手段は、前記測定対象物において検出対象とする傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値を前記導出手段に入力可能に構成され、
前記記憶部には、前記パラメータに含まれる傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係が予め格納され、
前記熱流束導出部は、前記入力手段から入力された温度差の値と傷部の大きさの値と傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記記憶部に格納されている関係に基づいて熱流束の値を求めることを特徴とする傷部検出装置。
【請求項11】
請求項10に記載の傷部検出装置において、
前記入力手段は、前記測定対象物における健全部の前記加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値を前記導出手段に入力可能に構成され、
前記記憶部には、前記パラメータに含まれる健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係が予め格納され、
前記熱流束導出部は、前記入力手段から入力された温度差の値と傷部の大きさの値と傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記記憶部に格納されている関係に基づいて熱流束の値を求めることを特徴とする傷部検出装置。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか1項に記載の傷部検出装置において、
前記加熱手段は、前記測定対象物を加熱するための加熱源を備え、この加熱源は、前記測定対象物からの距離を変更可能に構成されることを特徴とする傷部検出装置。
【請求項13】
請求項12に記載の傷部検出装置において、
前記出力手段は、前記導出手段で導出された熱流束の値を出力信号として前記加熱手段に出力し、
前記加熱手段は、前記出力手段からの出力信号に基づいて前記加熱源を移動させる移動手段をさらに備えることを特徴とする傷部検出装置。
【請求項14】
請求項9乃至11のいずれか1項に記載の傷部検出装置において、
前記出力手段は、前記導出手段で導出された熱流束の値を出力信号として前記加熱手段に出力し、
前記加熱手段は、前記測定対象物を加熱可能に構成されると共に供給される電流値に基づいて前記測定対象物に供給される熱流束の値を変更可能な加熱源と、前記出力手段からの出力信号に基づいて前記加熱源に供給する電流値を変更する加熱用電源とを備えることを特徴とする傷部検出装置。
【請求項1】
測定対象物の所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加え、そのときの当該表面の温度分布に基づき前記加熱対象面と直交する方向についての当該加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法が周囲よりも小さい傷部の存在範囲を熱伝導解析により検出するにあたり当該測定対象物を加熱するための熱流束を導出する方法であって、
前記熱伝導解析のパラメータである傷部とその周囲の健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記熱流束の値との関係を求める関係導出工程と、
前記測定対象物において検出したい前記温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを設定する値設定工程と、
前記関係導出工程で予め求めておいた関係に基づいて、前記値設定工程で設定された前記温度差の値と前記傷部の大きさの値とから前記傷部の存在範囲を検出するために測定対象物を加熱するときの熱流束の値を求める熱流束導出工程とを備えることを特徴とする熱流束導出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱流束導出方法において、
前記関係導出工程では、前記パラメータに含まれる傷部の前記加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係を予め求めておき、
前記値設定工程では、前記測定対象物において検出対象とする傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値を設定し、
前記熱流束導出工程では、前記値設定工程で設定された前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記熱流束の値を求めることを特徴とする熱流束導出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の熱流束導出方法において、
前記関係導出工程では、前記パラメータに含まれる健全部の前記加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行って前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係を予め求めておき、
前記値設定工程では、前記測定対象物における健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値を設定し、
前記熱流束導出工程では、前記値設定工程で設定された前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記熱流束の値を求めることを特徴とする熱流束導出方法。
【請求項4】
請求項3に記載の熱流束導出方法において、
前記関係導出工程で求められる前記関係は、前記値設定工程で設定される温度差の値をΔt、傷部の大きさの値をd、傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値をx、熱流束の値をqとし、測定対象物の材質と健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法とに基づく定数をbとしたときに、以下の(1)式で表されることを特徴とする熱流束導出方法。
【請求項5】
測定対象物の所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加え、そのときの当該表面の温度分布に基づき前記加熱対象面と直交する方向についての当該加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法が周囲よりも小さい傷部の存在範囲を熱伝導解析により検出する方法であって、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱流束導出方法によって前記熱流束の値を求める熱流束決定工程と、
前記熱流束決定工程で求めた値の熱流束によって前記測定対象物を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程において加熱された前記測定対象物の加熱対象面における表面温度を測定する温度測定工程と、
前記温度測定工程で測定された表面温度の加熱対象面における温度分布と前記熱流束導出方法の値設定工程において設定された温度差の値とに基づいて前記傷部の存在範囲を検出する検出工程とを備えることを特徴とする傷部検出方法。
【請求項6】
請求項5に記載の傷部検出方法において、
前記温度測定工程では、前記測定対象物の加熱対象面に複数の測定点が指定されて各測定点の温度が測定され、
前記検出工程では、前記複数の測定点のうちの特定の測定点と他の測定点との間の温度差の値と、前記値設定工程において設定された温度差に基づく所定の閾値とを比較することにより前記傷部の検出が行われることを特徴とする傷部検出方法。
【請求項7】
請求項6に記載の傷部検出方法において、
前記検出工程では、前記複数の測定点を前記特定の測定点に対する温度差の小さな第1の測定点とこの第1の測定点よりも前記特定の測定点に対する温度差が大きな第2の測定点とに分類し、
前記第1の測定点が前記第2の測定点よりも多い場合には、前記特定の測定点に対する温度差の値が前記閾値よりも大きくなった測定点を前記傷部として検出する一方、前記第1の測定点が前記第2の測定点よりも少ない場合には、前記特定の測定点に対する温度差の値が前記閾値よりも小さくなった測定点を前記傷部として検出することを特徴とする傷部検出方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の傷部検出方法において、
前記加熱工程では、ハロゲンランプにより測定対象物が加熱され、
前記温度測定工程では、赤外線サーモグラフィ装置により測定対象物の表面温度が測定されることを特徴とする傷部検出方法。
【請求項9】
測定対象物の所定の表面を加熱対象面としてこれに熱を加え、そのときの当該表面の温度分布に基づき前記加熱対象面と直交する方向についての当該加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法が周囲よりも小さい傷部の存在範囲を熱伝導解析により検出するための装置であって、
前記測定対象物を加熱する加熱手段と、
前記測定対象物の加熱対象面における表面温度を測定する測定手段と、
前記加熱手段が前記測定対象物を加熱するときの熱流束の値を求める導出手段と、
前記測定対象物における傷部と健全部との間で検出したい温度差の値と検出対象とする傷部の大きさの値とを前記導出手段に入力可能な入力手段と、
前記導出手段で導出された熱流束の値を外部に出力する出力手段と、
前記測定手段で測定された表面温度の加熱対象面における温度分布と入力手段から入力された前記温度差の値とに基づいて前記傷部の存在範囲を検出する検出手段とを備え、
前記加熱手段は、前記熱流束の値を変更可能に構成され、
前記導出手段は、前記熱伝導解析のパラメータである傷部とその周囲の健全部との温度差の値と傷部の大きさの値と熱流束の値とにおいて複数の代表値をそれぞれ設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記熱流束の値との関係を予め格納しておく記憶部と、前記入力手段から入力された前記温度差の値と傷部の大きさの値とから前記記憶部に格納されている関係に基づいて熱流束の値を求める熱流束導出部とを有することを特徴とする傷部検出装置。
【請求項10】
請求項9に記載の傷部検出装置において、
前記入力手段は、前記測定対象物において検出対象とする傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値を前記導出手段に入力可能に構成され、
前記記憶部には、前記パラメータに含まれる傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係が予め格納され、
前記熱流束導出部は、前記入力手段から入力された温度差の値と傷部の大きさの値と傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記記憶部に格納されている関係に基づいて熱流束の値を求めることを特徴とする傷部検出装置。
【請求項11】
請求項10に記載の傷部検出装置において、
前記入力手段は、前記測定対象物における健全部の前記加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値を前記導出手段に入力可能に構成され、
前記記憶部には、前記パラメータに含まれる健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値において複数の代表値をさらに設定し、各パラメータにおける代表値をそれぞれ変更した各組み合わせにおいて熱伝導解析を行ったときの前記温度差の値と前記傷部の大きさの値と前記傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と前記熱流束の値との関係が予め格納され、
前記熱流束導出部は、前記入力手段から入力された温度差の値と傷部の大きさの値と傷部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値と健全部の加熱対象面から厚み方向に連続する部分の厚み寸法の値とから前記記憶部に格納されている関係に基づいて熱流束の値を求めることを特徴とする傷部検出装置。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか1項に記載の傷部検出装置において、
前記加熱手段は、前記測定対象物を加熱するための加熱源を備え、この加熱源は、前記測定対象物からの距離を変更可能に構成されることを特徴とする傷部検出装置。
【請求項13】
請求項12に記載の傷部検出装置において、
前記出力手段は、前記導出手段で導出された熱流束の値を出力信号として前記加熱手段に出力し、
前記加熱手段は、前記出力手段からの出力信号に基づいて前記加熱源を移動させる移動手段をさらに備えることを特徴とする傷部検出装置。
【請求項14】
請求項9乃至11のいずれか1項に記載の傷部検出装置において、
前記出力手段は、前記導出手段で導出された熱流束の値を出力信号として前記加熱手段に出力し、
前記加熱手段は、前記測定対象物を加熱可能に構成されると共に供給される電流値に基づいて前記測定対象物に供給される熱流束の値を変更可能な加熱源と、前記出力手段からの出力信号に基づいて前記加熱源に供給する電流値を変更する加熱用電源とを備えることを特徴とする傷部検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−137635(P2011−137635A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295858(P2009−295858)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(594126159)神鋼検査サービス株式会社 (9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(594126159)神鋼検査サービス株式会社 (9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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