説明

熱潜在性触媒

【課題】
優れた潜在性を有する熱潜在性触媒および熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
下記式(1)で表されるジイミン化合物(A)と、下記式(2)で表される金属塩(B)とを反応させて得られる熱潜在性触媒およびこれを含有する熱硬化性樹脂組成物。
−CH=N−R−N=CH−R …(1)
(式中のRは置換基を有しても良い炭素数3〜15の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、Rは炭素数1〜10の炭化水素基である。)
MXn1 …(2)
(式中のMは亜鉛、ジルコニウムまたはチタンであり、Xはハロゲン原子、炭素数2〜18のアシルオキシ基または置換基を有しても良い炭素数6〜15のフェノキシ基であり、n1は1〜4の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱潜在性触媒、および該触媒を添加した熱硬化性樹脂組成物、より詳しくは、エポキシ化合物を含む熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ルイス酸触媒が様々な分野において用いられている。特にエポキシ樹脂をはじめとする熱硬化性樹脂組成物においては、より低温短時間で硬化物を得るために金属塩をはじめとするルイス酸触媒が用いられている。しかしながら、ルイス酸触媒を添加した時点より反応が進行するため、ルイス酸触媒を添加することで熱硬化性樹脂組成物のポットライフが短縮してしまうことが問題となっていた。この問題を解決すべく、常温では活性を示さず、加熱した際に始めて活性を示す熱潜在性触媒の研究が行われてきた。例えば、非特許文献1および特許文献1においては、ルイス酸を塩基で中和した化合物等が開示されており、ルイス酸触媒単独で用いた場合に比しては、幾分かの触媒としての潜在性が得られている。
【0003】
一方、ヘミアセタールエステル基含有化合物は熱潜在性を有する硬化剤としてエポキシ樹脂組成物等に用いられる(例えば、特許文献1、2)。しかしながら、ヘミアセタールエステル基含有化合物は、その保護基の解離反応に時間を要するため、低温短時間で硬化が可能な熱硬化性樹脂組成物を得ることが難しかった。保護基の解離反応はルイス酸触媒によって活性化される。したがって、ヘミアセタールエステル基含有化合物を硬化剤とした熱硬化性樹脂組成物を幅広い用途に適応するためには、熱潜在性の高いルイス酸触媒が求められる。
容易な操作で合成が出来、かつ工業的実使用において高い潜在性を有する熱潜在性触媒、すなわち具体的には、室温では全く活性を示さず、100〜140℃といった比較的低温で顕著な活性を示す熱潜在性触媒が望まれているのである。
【0004】
【特許文献1】特開平08−041208号公報
【特許文献2】特開平10−025406号公報
【非特許文献1】遠藤剛他、高分子、45巻、128−131頁(1996年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実状に鑑みて成し遂げられたものであり、その第一の目的は、優れた潜在性を有する熱潜在性触媒を提供することにある。
また、本発明の第二の目的は、該熱潜在性触媒を添加した熱硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ルイス酸と、中性近傍の液性である特定構造のジイミン化合物とから形成した金属錯体が、従来に無い優れた潜在性を有する熱潜在性触媒として機能することの知見を得て、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る熱潜在性触媒は、下記式(1)で表されるジイミン化合物(A)と、下記式(2)で表される金属塩(B)とを反応させて得られるものである。
【0007】
−CH=N−R−N=CH−R …(1)
(式中のRは置換基を有しても良い炭素数3〜15の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、Rは炭素数1〜10の炭化水素基である。)
MXn1 …(2)
(式中のMは亜鉛、ジルコニウムまたはチタンであり、Xはハロゲン原子、炭素数2〜18のアシルオキシ基または置換基を有しても良い炭素数6〜15のフェノキシ基であり、n1は1〜4の整数である。)
【0008】
本発明によれば、室温においては、金属塩(B)のルイス酸触媒の活性がジイミン化合物(A)により抑えられ、60〜200℃の温度領域で、ジイミン化合物(A)の構造によっては100〜140℃の温度領域で金属塩(B)のルイス酸触媒活性が再生する熱潜在性触媒を得ることができる。
本発明に係る熱潜在性触媒における好適な一実施形態としては、前記ジイミン化合物(A)が下記式(3)の構造を有するものが挙げられる。
【0009】
【化1】

(式中のRは炭素数1〜10の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であり、n2は0〜3の整数である。)
前記ジイミン化合物(A)が前記式(3)の構造を有する場合、分子中にπ電子系が導入されることにより、潜在性がさらに向上し、特に室温における触媒活性を極小に抑制できる。
【0010】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、前記本発明の熱潜在性触媒を0.01〜10重量%、ヘミアセタールエステル基含有化合物を29〜70重量%、エポキシ基含有化合物を29〜70重量%含有するものである。
【0011】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、硬化剤も熱潜在化されているために、より優れたポットライフが得られる。さらには、触媒活性の再生温度に達すると、ヘミアセタールエステル基含有化合物がルイス酸触媒によりカルボキシル基を再生し、再生したカルボキシル基とエポキシ基が反応し硬化物を形成するため、より低温短時間で架橋密度の高い硬化物を得ることができる。また、ジイミン化合物(A)の塩基性が低いため、ヘミアセタールエステル化合物のカルボキシル基再生反応を阻害することなく、良好な硬化物を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る熱潜在性触媒は、室温ではルイス酸触媒活性を示さず優れた潜在性を有する。
また、本発明によれば、熱潜在性と硬化特性に優れた熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下において本発明を詳しく説明する。
1.熱潜在性触媒
本発明に係る熱潜在性触媒は、ジイミン化合物(A)と金属塩(B)とを反応させて得られるものであり、代表的には、ジイミン化合物(A)の2つのイミンのN原子が金属塩(B)の金属に対して配位する構造を有する。
本発明において、ジイミン化合物(A)と金属塩(B)との反応は0〜80℃という比較的低温で進行し、反応時間1〜8時間で比較的高収率で熱潜在性触媒を得ることができる。
【0014】
この反応を行う際に、反応系を均一にし、粘度を下げる目的で溶剤を用いても良い。この際に用いられる溶剤としては特に限定されないが、ジイミン化合物(A)と金属塩(B)とが溶解し、得られる熱潜在性触媒は溶解しない溶剤であることが製造工程上好ましい。このような溶剤としてはエタノールをはじめとしたアルコール類が挙げられる。
本発明において用いられるジイミン化合物(A)は、下記式(1)で表されるものである。
【0015】
−CH=N−R−N=CH−R …(1)
(式中のRは置換基を有しても良い炭素数3〜15の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、Rは炭素数1〜10の炭化水素基である。)
本発明において用いられるジイミン化合物(A)は、Rの構造によってルイス酸活性の再生温度を制御することができる。Rが電子供与性基であれば、熱潜在性触媒のルイス酸活性の再生温度が高くなる傾向に有り、Rが電子吸引性基であれば、熱潜在性触媒のルイス酸活性の再生温度が低くなる傾向に有る。前記式(1)において、Rの範囲は置換基を有しても良い炭素数3〜15の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、より好ましくは炭素数6〜15の脂肪族または芳香族炭化水素基である。炭素数が3以下になると、室温における触媒活性を厳密に抑制することができなくなる上に、熱潜在性触媒の溶解性を制御することが難しく、炭素数が15以上になると触媒活性が低くなる可能性がある。特に、Rが芳香族炭化水素基である場合、ベンゼン環の影響により、室温における触媒活性を高精度に抑制できる上に、置換基の構造により溶解性および触媒活性の再生温度を調整することができることから、ジイミン化合物(A)は下記式(3)の構造であることが好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
(式中のRは炭素数1〜10の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であり、n2は0〜3の整数である。)
本発明において用いられるジイミン化合物(A)において、前記式(1)または(3)のRは上記の範囲であれば特に限定されるものではないが、Rの構造によって室温での触媒活性の厳密な抑制や、熱潜在性触媒の耐水性を制御することができる。前記式(1)または(3)において、Rの範囲は炭素数1〜10の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2〜8の炭化水素基である。炭素数が10以上になるとイミン間の距離が大きくなるため、室温における触媒活性を厳密に抑制することができなくなる。特に、触媒活性の制御および耐水性、原料の入手しやすさから、Rは下記式(4)または(5)の構造であることが好ましい。
【0018】
【化3】

(n3は2〜5の整数である。)
【0019】
【化4】

(6員環はシクロヘキサン環であり、Rは炭素数1から4の炭化水素基であり、n4は1〜3の整数である。)
前記式(3)において、Rの範囲は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基、またはメトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基である。置換基Rはイミンに対しパラ位につくことが最も好ましい。
【0020】
本発明において用いられるジイミン化合物(A)は、下記式(6)のように、比較的安価で入手性の良いジアミン化合物(a1)とアルデヒド化合物(a2)とを反応させることにより得ることができる。
本発明において、ジアミン化合物(a1)とアルデヒド化合物(a2)との反応は0〜80℃という比較的低温で進行し、反応時間1〜8時間において比較的高収率でジイミン化合物を得ることができる。
この反応を行う際に、反応系を均一にし、粘度を下げる目的で溶剤を用いても良い。この際に用いられる溶剤としては特に限定されないが、ジアミン化合物(a1)とアルデヒド化合物(a2)とが溶解する溶剤であることが製造工程上好ましい。得られるジイミン化合物(A)と金属塩(B)との反応において好ましく用いられることから、ジアミン化合物(a1)とアルデヒド化合物(a2)との反応においても、エタノールをはじめとしたアルコール類、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0021】
【化5】

【0022】
本発明において用いられる金属塩(B)は、下記式(2)で表されるものである。
MXn1 …(2)
(式中のMは亜鉛、ジルコニウムまたはチタンであり、Xはハロゲン原子、炭素数2〜18のアシルオキシ基または置換基を有しても良い炭素数6〜15のフェノキシ基であり、n1は1〜4の整数である。)
前記式(2)においてXはハロゲン原子、炭素数2〜18のアシルオキシ基または置換基を有しても良い炭素数6〜15のフェノキシ基であるが、より好ましくは、塩素原子、炭素数2〜10のアシルオキシ基または置換基を有しても良い炭素数6〜10のフェノキシ基である。
前記式(2)においてXが塩素原子である金属塩は比較的容易に入手できるが、Xが炭素数2〜18のカルボン酸または炭素数6〜15のフェノール化合物である金属塩は、Xが塩素原子である金属塩より配位子交換反応により合成することができる。その際の合成方法は特に限定されるものではないが、カルボン酸またはフェノール化合物と金属との反応、カルボン酸またはフェノール化合物と金属の酸化物や水酸化物との反応、カルボン酸またはフェノール化合物のアルカリ金属塩と水溶性金属塩との反応等を利用した、複分解法、溶融直接法、半溶融直接法湿式直接法、固相直接法、溶媒直接法等が例として挙げられる。以上の合成法の中でも、反応速度や生成物分離の容易さの観点から複分解法および半溶融直接法が好ましい例として挙げられる。合成法によって得られる金属塩の溶剤への溶解性等の性質が異なることがある。
上記の配位子交換反応は必ずしも金属塩(B)の段階で行う必要はなく、例えば、前記式(2)においてXが塩素原子である金属塩とジイミン化合物(A)とを反応させ、配位子が塩素原子である本発明の熱潜在性触媒を得た後に、カルボン酸またはフェノール化合物のアルカリ金属塩と反応させ、配位子がアシルオキシ基またはフェノキシ基である本発明の熱潜在性触媒を得ることが可能である。
【0023】
本発明の熱潜在性触媒は常温ではルイス酸触媒活性を有しないため、ルイス酸により触媒される熱硬化性樹脂と組み合わせると、ポットライフに優れる熱硬化性樹脂組成物が得られる。熱硬化性樹脂としては、代表的にエポキシ樹脂やビスマレイミド樹脂、シアナート樹脂(ウレタン樹脂等)、ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン等のエンジニアリングプラスチック、N−フェニルマレイミド−スチレン交互共重合体、芳香族ポリエステル樹脂が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂の中で、本発明の熱潜在性触媒がより好ましく用いられるのはエポキシ樹脂である。
2.熱硬化性樹脂組成物
【0024】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、前記本発明の熱潜在性触媒を0.01〜10重量%、ヘミアセタールエステル基含有化合物を29〜70重量%、エポキシ基含有化合物を29〜70重量%含有する
本発明において、ヘミアセタールエステル基含有化合物とは、1分子中に2個以上のヘミアセタールエステル基を有する化合物をいう。ヘミアセタールエステル基含有化合物は、カルボン酸のカルボキシル基がビニルエーテル化合物によって潜在化された化合物であり、特開平08−041208号公報等に記載の公知の方法により合成することが出来る。
ヘミアセタールエステル基含有化合物は低温短時間の加熱ではカルボン酸を再生することが難しい。したがって、エポキシ基含有化合物の硬化剤として使用する際には、カルボン酸を再生する反応の触媒であるルイス酸触媒を添加することが望まれる。しかしながら、熱潜在性の無いルイス酸触媒を添加した際には、室温においてもカルボン酸を再生する反応が進行し、十分なポットライフを得ることが難しい。本発明の熱潜在性触媒は潜在性が高いため、ヘミアセタールエステル化合物と組み合わせることによって、ポットライフが長い保存安定性に優れる熱硬化性樹脂組成物となる。さらには、ジイミン化合物(A)の塩基性が低いため、ヘミアセタールエステル化合物のカルボキシル基再生反応を阻害することなく、良好な硬化物を得ることができる。
前記のカルボン酸のうち本発明において好適に用いられるものは、アジピン酸等の脂肪族多価カルボン酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(以下、トリメリット酸)等の芳香族トリカルボン酸;1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸(以下、CHTA)などの脂環式トリカルボン酸;1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸(ピロメリット酸)等の芳香族テトラカルボン酸;シクロヘキサンテトラカルボン酸などの脂環式テトラカルボン酸が挙げられる。さらには、グリセリンやポリビニルアルコール等の多価アルコールと無水フタル酸、1,3,4−ベンゼントリカルボン酸−3,4−無水物(無水トリメリット酸)等の酸無水物との反応により得られるハーフエステル体も好ましく挙げられる。なお、以上のカルボン酸の中では、硬化性に優れる硬化物が得られることから、ピロメリット酸、トリメリット酸またはCHTAが、より好適に挙げられる。
【0025】
前記のビニルエーテル化合物としては、例えばイソプロピルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルへキシルビニルエーテル、シクロへキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類が挙げられる。本発明のエポキシ樹脂組成物に好適に用いることができるビニルエーテル化合物としては、n−プロピルビニルエーテルおよびイソブチルビニルエーテルが挙げられる。
【0026】
本発明において、エポキシ基含有化合物とは、エポキシ基を1分子中に2個以上有する化合物をいう。前記のエポキシ基含有化合物としては、具体的には例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型またはビキシレノール型のエポキシ樹脂またはそれらの混合物、ナフタレン基含有エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂およびその誘導体、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、DPP(ジ−n−ペンチルフタレート)型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂等の芳香族ポリグリシジルエーテル;
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、各種芳香族グリシジルエーテル類の水添または半水添エポキシ樹脂、その他脂肪族ポリオールのグリシジルエーテル等の脂肪族グリジジルエーテル類(より具体的には、エチレングリコールールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル等);
【0027】
アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等の炭素数2〜50の脂肪族ポリジグリシジルエステル;
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2,3−エポキシプロピル)エステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル、3級カルボン酸グリシジルエステル等の脂肪族グリジジルエステル類;
フタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル等の炭素数7〜50の芳香族ジグリシジルエステル;
【0028】
1,2:8,9ジエポキシリモネン、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変成3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、3,1−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプチル3−)−スピロ[1,3−ジオン−5,3’−[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の脂環式エポキシ化合物;
N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、テトラグリシジルジアミノフェニルメタン、アニリンジグリシジルエーテル、N−(2−メチルフェニル)−N−(オキシラニルメチル)オキシランメタンアミン、N−グリシジルフタルイミド等のグリジジルアミン類;
トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート等の複素環式エポキシ化合物;
その他に、ブタジエンの単独重合体または共重合体のエポキシ基含有化合物;
グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマーの重合体
等が挙げられる。
以上のエポキシ基含有化合物の中では、硬化性に優れる硬化物が得られることから、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマーの重合体等がより好適に挙げられる。
【実施例】
【0029】
〈試薬〉
以下に本実施例で用いた試薬についてまとめる。
エチレンジアミン(関東化学工業(株)製)、ベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、p−メトキシベンズアルデヒド(以上、関東化学工業(株)製)、塩化亜鉛−ジエチルエーテル(1M)溶液(シグマアルドリッチ(株)製)、n−プロピルビニルエーテル(和光純薬工業(株)製)、2−エチルヘキシル酸(関東化学工業(株)製)。
〈測定手法〉
核磁気共鳴スペクトル(NMR)は、日本電子(株)製EX−270、Varian INOVA500[溶媒はクロロホルム−d(CDCl)あるいはDMSO−d6を用い、化学シフトは、内部標準としてテトラメチルシランのピークを0.00ppmとした。]にて測定を行い、δおよびJ値はppmで表し、Hおよび13Cは、270MHzあるいは500MHzと67.5MHzあるいは125MHzとした。赤外分光光度計(IR)は、日本分光(株)製FT/IR−470 Plusにて測定を行い値はcm−1で表した。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、Viscotek(株)製TDA MODEL301を用いた。カラムは東ソー(株)製TSK−GMHXL、G4000HXL、G3000HXL、G2500HXLを用い、測定温度40℃、THFを溶離液とし、ポリスチレンスタンダードを用い検量線を作成後測定した。融点測定は示差走査熱量分析測定装置(セイコーインスツルメンツ(株)製DSC6200)を用いにて測定した。
【0030】
〈合成例1:ジイミン化合物(A−1、N,N’−Dibenzylidene−ethane−1,2−diamine)の合成〉
撹拌子、滴下ロート、三方コックを備え窒素置換した50mL2口フラスコに、エチレンジアミンを3.01重量部、ジクロロメタンを20.00重量部、モレキュラーシーブス3A caを5.00重量部加えた。次に滴下ロートにベンズアルデヒド10.74重量部、ジクロロメタンを10.00重量部加えた後、氷冷下にて滴下した。滴下終了後室温にて3時間撹拌した。
反応終了後、脱水に用いたモレキュラーシーブスを濾取し、ろ液を回収、減圧濃縮した。得られた残渣はクロロホルム/ヘキサンにて再結晶を行い、白色の結晶を得た(収率:92重量%)。得られた生成物をA−1とし、H、13C−NMR、IR、GC−MSにて同定を行った。同定の結果を表1に示す。
〈合成例2、3:ジイミン化合物(A−2、N,N’−Bis−(4−methyl−benzylidene)−ethane−1,2−diamine)、(A−3、N,N’−Bis−(4−methoxy−benzylidene)−ethane−1,2−diamine)の合成〉
合成例1と同様な手法でA−2、A−3を合成し、同定を行った。合成条件および同定の結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
〈合成例4:ヘミアセタールエステル化合物(HAE)の合成〉
撹拌子、滴下ロート、三方コックを備えた窒素置換した50mL2口フラスコに、2−エチルヘキシル酸を14.42重量部、触媒としてリン酸−2−エチルヘキシルエステルを85.60重量部加えた。次に滴下ロートよりn−プロピルビニルエーテル12.92重量部を滴下した。滴下終了後、室温にて18時間撹拌しヘミアセタールエステル化反応を行った。次に酸触媒を固体塩基のMgAl(OH)16CO・4HOに吸着させ濾過により除去し、過剰量のn−プロピルビニルエーテルを減圧留去し、その後、2度の減圧蒸留にて精製し目的物(HAE)を得た(沸点;71℃/1.5 mmHg、収率; 56重量%)。得られた生成物の構造はH、13C−NMR、IR、元素分析にて下記式(10)の構造であることを確認した。
【0036】
【化9】

【0037】
〈合成例5:多価ヘミアセタールエステル化合物(BTMA)の合成〉
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、PMA27重量部、三菱瓦斯化学(株)製トリメリット酸(以下、TMA)を27重量部、n−プロピルビニルエーテルを46重量部加え、攪拌しながら加熱し70℃に昇温した。次いで、温度を保ちながら6時間攪拌し続けたところ、溶液の酸価0.64mgKOH/gの潜在化された硬化剤溶液(BTMA)が得られた。
【0038】
なお、酸価及び全酸当量は、JIS K 0070:1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」の加水分解酸価測定によって測定した。
〈重合例1:エポキシ基含有重合体(PGMA)の合成〉
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた容量500mLの4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを160g仕込み、攪拌しながら加熱して80℃に昇温した。次いで、80℃の温度でグリシジルメタクリレート114g、シクロヘキシルメタクリレートg、日本油脂(株)製の過酸化物系重合開始剤「パーヘキシルO(;商品名、純度93%)」7g、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート33gを予め均一混合したもの(滴下成分)を、2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下終了後、98℃の温度を7時間維持した後、反応を終了した。重量平均分子量(Mw)34,000、固形分53%、粘度25Pa・s(20℃)および溶液のエポキシ当量520g/molのエポキシ基を有する重合体溶液(PGMA)を得た。
【0039】
〈実施例1:熱潜在性触媒(L−1)の合成〉
撹拌子、滴下ロート、三方コックを備え窒素置換した50mL2口フラスコに、1M−塩化亜鉛−ジエチルエーテル溶液を1.30g、エタノールを20.00g加えた。次に滴下ロートにA−1を0.24g、ジクロロメタンを5.00g加えた後、氷冷下にて滴下した。滴下まもなく白色の粉末が析出した。滴下終了後に室温にて3時間撹拌し、反応終了後、析出した白色沈殿を濾紙上に濾取した。得られた生成物は、減圧下、乾燥させた(収率:92重量%)。得られた生成物をL−1とし、H、13C−NMR、IR、元素分析にて同定を行った。同定の結果を表1に示す。
〈実施例2、3:熱潜在性触媒(L−2、3)の合成〉
実施例1と同様な手法でL−2、L−3を合成し、同定を行った。合成条件および同定の結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
【化10】

【0042】
【化11】

【0043】
【化12】

【0044】
〈潜在性確認試験〉
十分に乾燥させた試験管に撹拌子、触媒を0.02g加え、三方コックを付け、脱気と窒素封入を3回繰り返し試験管内を窒素雰囲気下にした。次に、シリンジを用いて、HAEを0.23g、グリシジルフェニルエーテルを0.15g加え、30℃および140℃の各温度にて5時間、反応させた。得られた溶液を回収し、H−NMRにてグリシジルフェニルエーテルの転化率を算出した。また、前記と同様に調整した試料を20℃にて90日間静置した後、H−NMRにてグリシジルフェニルエーテルの転化率を算出した。潜在性確認試験の結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
*1:転化率5mol%未満で○、5mol%以上で×
*2:転化率85mol%以上で○、85mol%未満で×
*3:転化率5mol%未満で○、5mol%以上で×
*4:オクチル酸亜鉛とN−メチルモルホリンの反応物(特開2001−350010号公報記載:LCAT−1)
*5:塩化亜鉛とO,O−ジ−p−メチルベンジルフェニルフォスフォネートの反応物(Macromolecules、33巻,2359頁(2000年)記載)
*6:下記式(14)の金属錯体(Macromolecules、34巻,1518頁(2001年)記載)
【0047】
【化13】

【0048】
〈熱硬化性樹脂組成物への適用試験〉
十分に乾燥させた試験管に撹拌子、PGMAを35重量部、BTMAを15重量部、触媒を1重量部加え攪拌した。このようにして得た熱硬化性樹脂組成物について、調製直後の粘度と20℃にて90日間静置した後の粘度の比から保存安定性を評価した。また、前記の熱硬化性樹脂組成物を、ブリキ板にバーコーターで塗布し、150℃、1時間の条件で硬化させて熱硬化性樹脂組成物の硬化物としての硬化膜を得た。この硬化膜に対し、アセトンをしみこませたティシュー紙で擦ることによって、熱硬化性樹脂組成物の硬化性を確認した。結果を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
*1:粘度上昇率が10%未満で○、10%以上で×
*2:100往復擦っても傷がなければ○、傷が目視で確認できれば×
実施例で得られたL−1〜3に関しては、表3より30℃では触媒活性を有さず、140℃では触媒活性を有する熱潜在性触媒であることが判明した。さらに、表3、4より20℃、90日の保管中に活性が確認されることもなかった。また、ヘミアセタールエステル基含有化合物とエポキシ基含有化合物と潜在性触媒を含む熱硬化性樹脂組成物において、本発明の熱潜在性触媒を用いることで、ポットライフが長く硬化性の良い熱硬化性樹脂組成物が得られることが判明した。
【0051】
表3、4より、触媒を配合しない場合には、反応が進行しないことが判明し、塩化亜鉛や本発明によらない従来の熱潜在性触媒では、高い潜在性が得られず、ポットライフの短い熱硬化性樹脂組成物しか得られないことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジイミン化合物(A)と、下記式(2)で表される金属塩(B)とを反応させて得られる熱潜在性触媒。
−CH=N−R−N=CH−R …(1)
(式中のRは置換基を有しても良い炭素数3〜15の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、Rは炭素数1〜10の炭化水素基である。)
MXn1 …(2)
(式中のMは亜鉛、ジルコニウムまたはチタンであり、Xはハロゲン原子、炭素数2〜18のアシルオキシ基または置換基を有しても良い炭素数6〜15のフェノキシ基であり、n1は1〜4の整数である。)
【請求項2】
ジイミン化合物(A)が下記式(3)で表される請求項1に記載の熱潜在性触媒。
【化1】

(式中のRは炭素数1〜10の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基であり、n2は0〜3の整数である。)
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱潜在性触媒を0.01〜10重量%、ヘミアセタールエステル基含有化合物を29〜70重量%、エポキシ基含有化合物を29〜70重量%含有する熱硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−312675(P2006−312675A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135791(P2005−135791)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】