説明

熱特性を有し高屈折率層を含む積重体を備えた基材

本発明は、赤外線又は太陽放射線反射特性を有し、特に銀又は銀含有金属合金から製造された、金属機能性層(40)と、2つの反射防止コーティング(20、60)とを含む薄膜積重体を主要面に備えたガラス基材(10)であり、該コーティングはそれぞれ少なくとも2つの誘電層(22、24、26;62、64、66)を含んでいて、該機能性層(40)が両方の反射防止コーティング(20、60)の間に配置されているガラス基材であって、各反射防止コーティング(20、60)が機能性層(40)と接触又は近接した、すなわち機能性層(40)から10nm以内に、少なくとも1つの高屈折率誘電層(24、64)を含むことを特徴とするガラス基材(10)に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にガラスなどの硬質無機材料から製造された、透明基材に関し、該基材は太陽放射線及び/又は長波長の赤外線に作用し得る金属タイプの機能性層を含む薄膜多層コーティングで被覆される。
【0002】
本発明はより詳しくは、このような基材を断熱及び/又は太陽光保護グレージングユニットを製造するために使用することに関する。これらのグレージングユニットは、特に、空調負荷の低減及び/もしくは過熱防止の目的(「太陽光制御」グレージングと呼ばれる)で、ならびに/又は建物及び車両乗員室においてガラス張り面の使用が増すことによって起こる外部へ放散されるエネルギー量を低減する目的(「低E」又は「低放射」グレージングと呼ばれる)で、建物に装備することと車両に装備することの両方を意図することができる。
【0003】
このようなグレージングはまた、例えば加熱グレージングユニット又はエレクトロクロミックグレージングユニットなどの、特定の機能を備えたグレージングユニットに組み込むこともできる。
【背景技術】
【0004】
基材にこのような特性を付与することが知られている多層コーティングの一種は、赤外線及び/又は太陽放射線の反射特性を備えた金属機能性層、特に銀又は銀含有金属合金を基礎材料とする金属機能性層、からなる。
【0005】
この種の多層コーティングでは、機能性層は例えば、それぞれが窒化物タイプの誘電性材料、特に窒化ケイ素もしくは窒化アルミニウム、又は酸化物タイプの誘電性材料から製造された一般に数層をそれぞれが含んでなる2つの反射防止膜の間に配置される。光学的見地から、金属機能性層を挟み込むこれらの膜の目的は、この金属機能性層の「反射を防止する」ことである。
【0006】
しかしながら、1つの又は各反射防止膜と機能性金属層の間にブロッカー膜が挿入されることもあり、機能性層の下で基材側に配置されたブロッカー膜は、任意の曲げ及び/又は強化タイプの高温熱処理の間、機能性層を保護し、また、機能性層の上で基材と反対側に配置されたブロッカー膜は、上部の反射防止膜の被着中、ならびに任意の曲げ及び/又は強化タイプの高温熱処理の間、この層を劣化から保護する。
【0007】
例えば、ヨーロッパ特許出願公開第678484号明細書から、基材と金属機能性層の間に配置された、例えば酸化ニオブ又は酸化チタンから製造された高屈折率誘電層は、金属機能性層の「反射を防止する」ことを可能とすることが知られている。
【0008】
光学的特性を更に改良するための1つの解決策は、金属機能性層の各側で高屈折率誘電層を用いるものである。
【0009】
しかしながら、これらの高屈折率材料は、低屈折率材料ほど速い速度で被着させることができず、これにより、一方では被着を連続に行う場合に製造プロセスの問題があり、他方では薄膜被着機の効率を下げる必要がある場合に製造コストが高くなる(単位作業時間当たりに生産される被覆した基材の数の点で)という問題がある。
【0010】
更に、反応性スパッタリングにより、例えば「マグネトロン」法と呼ばれるもの、特に反応性マグネトロンスパッタリングを用いて、これらの材料を被着させるのに用いるターゲットは一般に、低屈折率材料を被着させるためのターゲットよりも高価である。
【0011】
よって、この種の材料が金属機能性層の各側に存在する場合には高屈折率材料の量を最小限にする必要がある。
【0012】
この解決策はまた、特に反射光で許容される色、とりわけ赤ではない色を得ることができなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】ヨーロッパ特許出願公開第678484号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、新規なタイプの多層コーティングであって、単一の機能性層を含み、低いシート抵抗(従って低放射率)、高い光透過率を有するとともに、特に当該層側での(とは言えやはり反対側、すなわち「基材側」でも)反射光に、比較的中性の色を持つ多層コーティングを開発することによって、先行技術の欠点を首尾よく改善することであり、これらの特性は好ましくは、多層コーティングが曲げ及び/又は強化及び/又は徐冷タイプの1以上の高温熱処理を受けるか受けないかによらず、限定された範囲内に維持される。
【0015】
もう1つの重要な目的は、単一の機能性層を含み、かつ、低い放射率を有する一方で、可視領域において低い光反射率を、そして特に反射光に、許容できる色、とりわけ赤ではない色を、やはり有する、多層コーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
よって、本発明が対象とする一つは、その最も広い意味において、請求項1に記載したとおりのガラス基材である。この基材は、主要面に、赤外線及び/又は太陽放射線の反射特性を有し、特に銀又は銀含有金属合金を基礎材料とする、金属機能性層と、2つの反射防止膜とを含む薄膜多層コーティングが施されていて、当該反射防止膜はそれぞれが少なくとも2つの誘電層を含んでおり、当該機能性層は当該2つの反射防止膜の間に配置され、一方では当該機能性層は場合により、下部反射防止膜と機能性層との間に配置されたアンダーブロッカー膜の上に直接被着されており、他方で当該機能性層は場合により、当該機能性層と上部反射防止膜との間に配置されたオーバーブロッカー膜の下に直接被着されている。本発明によれば、
・各反射防止膜は機能性層と接触し又は近接して位置する少なくとも1つの高屈折率誘電層を含み、
・下部反射防止膜内に位置する、1つの高屈折率誘電層又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さは、この下部反射防止膜の全光学的厚さの30〜75%に相当し、かつ、
・上部反射防止膜内に位置する、1つの高屈折率誘電層又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さは、この上部反射防止膜の全光学的厚さの10〜60%に相当する。
【0017】
本発明において「膜」とは、当該膜内に単一層又は材料の異なるいくつかの層が存在し得ること意味するものと理解すべきである。
【0018】
「高屈折率誘電層」とは、本発明においては、構成材料の波長550nmで測定される屈折率が2.2以上、又は更には2.3以上である層を意味すると理解される。この波長で測定されるこの屈折率は、薄膜多層コーティングの分野における通例の材料に関する文献から一般に周知である。
【0019】
「接触して」とは、本発明においては、高屈折率層と金属機能性層との間に層が挿入されないことを意味すると理解される。従ってこの場合には、ブロッカー膜は存在しない。
【0020】
「近接して」とは、本発明においては、高屈折率層と金属機能性層との間に少なくとも1つの層が挿入され、高屈折率層と金属機能性層との間に挿入される1つの層(又は全ての層)の物理的厚さが10nmを超えないことを意味すると理解される。
【0021】
「光学的厚さ」とは、本発明においては、通常のとおりに、層の物理的(又は実際の)厚さに通常550nmで測定される屈折率をかけた積を意味すると理解される。
【0022】
「全光学的厚さ」とは、本発明においては、着目する層の光学的厚さ全ての合計を意味すると理解され、各光学的厚さは、上で説明したように、層の物理的(又は実際の)厚さに通常550nmで測定される屈折率をかけた積である。
【0023】
よって、下部反射防止膜の全光学的厚さは、基材と機能性金属層との間、又は、アンダーブロッカー膜が存在する場合、基材とアンダーブロッカー膜との間に配置される、この膜の誘電層の光学的厚さ全ての合計からなる。
【0024】
同様に、上部反射防止膜の全光学的厚さは、基材と反対側の、機能性金属層の上に配置される、又は、オーバーブロッカー膜が存在する場合、オーバーブロッカー膜の上に配置される、この膜の誘電層の光学的厚さ全ての合計からなる。
【0025】
実際、本発明によれば、下部又は上部反射防止膜内で、それが唯一の高屈折率誘電層であればその高屈折率誘電層の光学的厚さが、又はいくつかの高屈折率誘電層が存在すれば全ての高屈折率誘電層の光学的厚さの合計が、
・下部反射防止膜の場合には、この下部反射防止膜の全光学的厚さの30〜75%の間(これらの値を含む)、又は更には35〜55%の間(これらの値を含む)であり、
・上部反射防止膜の場合には、この上部反射防止膜の全光学的厚さの10〜60%の間(これらの値を含む)、又は更には15〜35%の間(これらの値を含む)である。
【0026】
よって、本発明によれば、高屈折率材料が金属機能性層と接触又は近接してこの層の各側に位置すること、及びこの高屈折率材料が多過ぎることなく(ゆえに、そのパーセント範囲の終点の値)、十分な量(ゆえに、そのパーセント範囲の始点の値)であることが不可欠である。
【0027】
しかしながら、一方では、上部反射防止膜の高屈折率材料の最小膜厚と下部反射防止膜の高屈折率材料の最小膜厚(それぞれ10%と30%、又は更にはそれぞれ15%と35%)の間に、他方では、上部反射防止膜の高屈折率材料の最大膜厚と下部反射防止膜の高屈折率材料の最大膜厚(それぞれ60%と75%、又は更にはそれぞれ35%と55%)の間に、いくらかのアンバランスが認めらている。
【0028】
従って、高屈折率材料における本発明によるこの分布のために、高屈折率層の膜厚を制限することが可能である。これらの層は下部膜では少なくとも5nm、又は更には少なくとも8nmの物理的厚さを有することができ、そして最大で25nm、又は最大で20nm、又は最大で16nm、又は最大で14nmの物理的厚さを有することができ、これらの最小値は全てこれらの最大値と組み合わせることが可能である。
【0029】
よって、詳しく言えば、一方では下部反射防止膜内に位置する1つの高屈折率誘電層又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さは15〜65nmの間(これらの値を含む)、又は更には18〜50nmの間(これらの値を含む)であることができ、他方では上部反射防止膜内に位置する1つの高屈折率誘電層又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さは8〜60nmの間(これらの値を含む)、あるいは12〜35nmの間(これらの値を含む)であることができ、下部反射防止膜の場合におけるこれらの範囲は上部反射防止膜のこれらの範囲と組み合わせることが可能である。
【0030】
更に、驚くことに、高屈折率誘電層の高屈折率材料は、好ましくは、上部反射防止膜内に位置する1つの高屈折率誘電層又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さに対する、下部反射防止膜内に位置する1つの高屈折率誘電層又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さの比が1.1〜5の間(これらの値を含む)、又は1.2〜4の間(これらの値を含む)、又は更には1.3〜3.8の間(これらの値を含む)となるよう、多くの部分が金属機能性層の下の誘電膜内に存在することが分かる。以下にRとして定義されるこの比は、特に1.4又は1.5であることができる。
【0031】
各高屈折率誘電層の構成材料は好ましくは、酸化チタン、酸化ニオブ、又はジルコニウムをドープされ、かつ場合によりAlもドープされた、窒化ケイ素から選択される。
【0032】
低温反応性マグネトロンスパッタリングによって被着された薄膜の形態において、酸化チタンTiO2は、層の結晶化度(これは、例えば層が低温で被着されるか高温で被着されるかなどの、被着条件に依存する)によって550nmにおいて2.35〜2.5の間の屈折率を有する。屈折率の例としては、雑誌Applied Surface Science, 175−176(2001) pp276−280に公表されている“Spectroellipsometric characterization of materials for multilayer coatings”と題された文献を参照。
【0033】
薄膜形態での酸化ニオブNb25は、雑誌Thin Solid Film, 516(2008) pp8096−8100に公表されている“Characterization of sputtered and annealed niobium oxide films using spectroscopic ellipsometry, Rutherford backscattering spectrometry and X−ray diffraction”と題された文献によれば、550nmにおいて2.25〜2.40の間の屈折率を有し得る。
【0034】
ヨーロッパ特許出願公開第1656328号明細書も参照することができ、これには反射防止膜のためのSi34:Zr層の製造が開示され、12頁にZr含有量に応じたSi34:Zrの屈折率(3頁にはTiO2及びNb25の屈折率)が示されている。
【0035】
本発明による高屈折率層には厳密な化学量論は必要でなく、酸化物の場合には酸素に関して化学量論量を下回っても上回ってもよく、及び/又は窒化物の場合には窒素に関して化学量論量を下回っても上回ってもよい。
【0036】
更に、高い光透過率と、反射光における中性の色と、比較的高い選択性(すなわち、グレージングの太陽係数(solar factor)SFに対するグレージングの可視領域における光透過率TLの比であり、S=TLvis/SFというようなものである)の間に許容される妥協点を得るためには、上部反射防止膜のnm単位での光学的厚さに対する下部反射防止膜のnm単位での光学的厚さの比Eは、好ましくは0.4≦E≦0.9、あるいは0.5≦E≦0.8というようなものである。特定の一つの実施形態では、該下部反射防止膜及び該上部反射防止膜はそれぞれ、場合によりアルミニウムなどの少なくとも1種の他の元素をドープされた、窒化ケイ素を基礎材料とする少なくとも1つの誘電層を含む。
【0037】
特定の一実施形態では、下部反射防止膜の基材から最も離れた最終層又はオーバーコートは、酸化物をベースとする濡れ性層、特に、場合によりアルミニウムなどの少なくとも1種の他の元素をドープされた、酸化亜鉛を基礎材料とするものである。
【0038】
特定の一実施形態では、下部反射防止膜は、窒化物を基礎材料とする、特に窒化ケイ素及び/又は窒化アルミニウムを基礎材料とする、少なくとも1つの誘電層と、混合酸化物から製造された少なくとも1つの非結晶性平坦化層とを含み、該平坦化層は結晶性上部濡れ性層と接触している。
【0039】
好ましくは、アンダーブロッカー膜及び/又はオーバーブロッカー膜は、0.2nm≦e≦1.8nmというような物理的厚さeを有するニッケル又はチタンを基礎材料とする薄層を含む。
【0040】
特定の一形態では、ニッケルを基礎材料とする少なくとも1つの薄層、特にオーバーブロッカー膜のそれは、クロムを含み、好ましくは80wt%のNiと20wt%のCrを含む。
【0041】
別の特定の形態では、ニッケルを基礎材料とする少なくとも1つの薄層、特にオーバーブロッカー膜のそれは、チタンを含み、好ましくは50wt%のNiと50wt%のTiを含む。
【0042】
更に、アンダーブロッカー膜及び/又はオーバーブロッカー膜は、薄膜多層コーティングを施される基材がそのコーティングの被着後に曲げ及び/又は強化の熱処理を受けなかった場合には、金属形態で存在するニッケルベースの少なくとも1つの薄層を含むことができ、この層は、薄膜多層コーティングを施される基材がそのコーティングの被着後に少なくとも1つの曲げ及び/又は強化の熱処理を受けた場合には、少なくとも部分的に酸化される。
【0043】
アンダーブロッカー膜のニッケルベースの薄層及び/又はオーバーブロッカー膜のニッケルベースの薄層は、これらの層が存在する場合、機能性層と好ましくは直接接触している。
【0044】
上部反射防止膜の基材から最も離れた最終層又はオーバーコートは、好ましくは化学量論量を下回って被着された、酸化物を基礎材料とするのが好ましく、とりわけ酸化チタン(TiOx)を基礎材料とする又はスズと亜鉛の混合酸化物(SnZnOx)を基礎材料とし、これらは場合により最大で10wt%量の別の元素をドープされる。
【0045】
このように、多層コーティングは最終層又はオーバーコート、すなわち保護層を含むことができる。
【0046】
この保護層は好ましくは、0.5〜10nmの間の物理的厚さを有する。
【0047】
本発明によるグレージングは、少なくとも、本発明による多層コーティングを支持する基材を含み、場合により少なくとも1つの他の基材と組み合わされる。各基材は透明であっても着色されていてもよい。基材のうちの少なくとも1つは、特に、バルク着色ガラスから製造されていてもよい。着色タイプの選択は、製造が完了した時点でそのグレージングに求められる光透過率のレベル及び/又は比色外観による。
【0048】
本発明によるグレージングは積層構造であることができ、特に、少なくとも2つのガラスタイプの硬質基材と少なくとも1つの熱可塑性ポリマーシートを、ガラス/薄膜多層コーティング/シート/ガラスタイプの構造を有するように組み合わせたものであることができる。ポリマーは、特に、ポリビニルブチラールPVB、エチレン−酢酸ビニルEVA、ポリエチレンテレフタレートPET又はポリ塩化ビニルPVCを基礎材料とすることができる。
【0049】
更に、グレージングは、ガラス/薄膜多層コーティング/ポリマーシートタイプの構造を有してもよい。
【0050】
本発明によるグレージングは、薄膜多層コーティングの損傷を受けることなく熱処理を受けることができる。場合により、該グレージングには曲げ加工及び/又は強化処理が施される。
【0051】
該グレージングは、多層コーティングが施された、単一の基材として曲げ及び/又は強化を施すことができる。この場合、これは「一体式」グレージングと呼ばれる。グレージングに、特に車両窓ガラスを形成する目的で、曲げが施される場合、薄膜多層コーティングは好ましくは少なくとも部分的に非平面状である面上にある。
【0052】
該グレージングはまた、多重グレージングユニット、特に二重グレージングユニットであってもよく、少なくとも多層コーティングを支持する基材には曲げ及び/又は強化を施すことができる。多重グレージングの構成においては、多層コーティングを、ガスを充填した中間キャビティーに面した側に配置するのが好ましい。積層構造では、多層コーティングをポリマーシートに接触させることができる。
【0053】
グレージングはまた、ペアごとにガス充填キャビティーで隔てられた3枚のガラス板からなる三重グレージングユニットであってもよい。三重グレージング構造では、多層コーティングを支持する基材は、太陽光の入射方向が各面を面番号の昇順で通り抜けるとした場合に、面2及び/又は面5にあればよい。
【0054】
グレージングが一体式グレージング、又は二重グレージング、三重グレージングもしくは積層グレージングタイプの多重グレージングである場合、少なくとも多層コーティングを支持する基材は、曲げガラス又は強化ガラス製でよく、この基材は多層コーティングの被着前又は被着後に曲げ又は強化を施すことができる。
【0055】
このグレージングを二重グレージングユニットとして取り付ける場合、それは好ましくは、S≧1.3もしくは更にはS≧1.4、あるいはS≧1.5もしくは更にはS>1.5の選択性を有する。
【0056】
本発明はまた、S≧1.3もしくは更にはS>1.4、あるいはS≧1.5もしくは更にはS>1.5の選択性を有する二重グレージングを製造するために、本発明による基材を使用することにも関する。
【0057】
本発明による基材は特に、加熱グレージング又はエレクトロクロミックグレージングの、あるいは照明装置又はディスプレー装置の、あるいは光起電性パネルの、透明電極を製造するために使用することができる。
【0058】
よって、有利なことに、本発明は、多重グレージング構成、特に二重グレージング構成において、高い選択性(S≧1.35)、低い放射率(εN≦3%)、及び美的魅力のある外観(TLvis≧70%、RLvis≦25%、中性色反射光)を有する、単一の機能性層を含む薄膜多層コーティングの製造を可能とする。
【0059】
本発明による単一の機能性層を含む多層コーティングは、同様の特性を有する2つの機能性層を含む多層コーティングよりも製造コストが安い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】基材上に被着させた本発明による単一の機能性層を含む多層コーティングを説明する図である。
【図2】一方の基材として本発明による多層コーティングを有する基材を使用する二重グレージングユニットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明の詳細及び有利な特徴は、添付の図1及び図2により示される以下の非限定的な例から明らかになり、図1は基材10の上に被着させた本発明による単一の機能性層を含む多層コーティング12を示していて、この機能性層にはアンダーブロッカー膜とオーバーブロッカー膜が設けられ、コーティングには更に任意的な保護膜が施されており、図2は、それぞれが基材10、30を構成していて、ガスを充填した中間キャビティー15で隔てられている2枚のガラス板から形成された二重グレージングユニット(DGU)の製品を示している。
【0062】
一方のガラス板、すなわち、図の左から右へ向いた白抜き矢印によって示される建物へ入ってくる太陽光の入射方向で見た場合に、建物内部に向かって一番遠い板は、ガスを充填した中間キャビティーに向いている内面9を、下記で説明する単一の機能性層を含んでなる多層コーティング12からなる絶縁膜で被覆されている基材10を構成し(従って、単一の機能性層を含んでなる当該多層コーティングは二重グレージングの「面3」と呼ばれる内面にある)、基材10の外面llは薄膜多層コーティングでコーティングされていない。
【0063】
他方のガラス板、すなわち基材30は、ガスを充填した中間キャビティーに向いているその内面31が絶縁膜で被覆されておらず、すなわちこの板は、太陽光の入射方向で見た場合に建物の一番外側の板であり、その外面29(「面1」と呼ばれる)は例えば自己クリーニング膜で被覆されてもよい。
【0064】
これらの図では、検討が容易なように、種々の層の厚み間の比率を厳密に示してはいない。
【0065】
更に、下記の全ての例において、薄膜多層コーティング12は、厚さ4mmのソーダ石灰ガラス(Saint Gobain社からのPLANILUX)製の基材10に被着されている。
【0066】
更に、これらの例では、基材に熱処理が行われた全ての場合において、これは、曲げ又は強化の熱処理をシミュレートするために約620℃の温度で約8分行われる徐冷操作とその後の室温(約20℃)への冷却であった。
【0067】
以下の例の全てにおいて、図2に示したように、4−16(90%Ar)−4の構成を有する、すなわちそれぞれが90%のアルゴンと10%の空気を含有するガスを充填した厚さ16mmの中間キャビティー15によって隔てられた基材10、30を含んでなる2枚の4mmの透明ガラス板から形成されて、その集成体全体がフレーム構造によって一緒に保持されている、二重グレージング構成の場合、薄膜多層コーティングは面3に、すなわち建物へ入ってくる太陽光の入射方向で見た場合に建物の外側に対して一番遠い板に、配置される。
【0068】
図1は、透明ガラス基材10の上に被着された単一の機能性層を含む多層コーティングの構造を示しており、その構造では、単一の機能性層40は2枚の反射防止膜の間に配置され、すなわち基材10の方向において機能性層40の下にある下部反射防止膜20と、基材10と反対側で機能性層40の上にある上部反射防止膜60との間に配置されている。
【0069】
これらの2枚の反射防止膜20、60はそれぞれ、少なくとも1つの誘電層21、22、24、26; 62、64、66、68、69を含む。
【0070】
場合により、一方において機能性層40は、下部反射防止膜20と機能性層40との間に配置されたアンダーブロッカー膜30の上に被着させることができ、他方において機能性層40は、機能性層40と上部反射防止膜60との間に配置されたオーバーブロッカー膜50の下に直接被着させることができる。
【0071】
図1は、下部反射防止膜20が4つの反射防止層21、22、24及び26を含み、上部反射防止膜60が4つの反射防止層62、64、66及び68を含み、そしてこの反射防止膜60が任意的な保護層69、特に酸化物を基礎材料とするもの、とりわけ酸素が化学量論量未満の層で終えていることを示している。
【0072】
本発明によれば、各反射防止膜20、60は、機能性層40と接触又は近接して位置する少なくとも1つの高屈折率誘電層24、64を含み、そして一方において、下部反射防止膜20内に位置する高屈折率誘電層24又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さe2はこの下部反射防止膜20の全光学的厚さe20の30〜75%の間に相当し、他方において、上部反射防止膜60内に位置する高屈折率誘電層64又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さe6はこの上部反射防止膜60の全光学的厚さe60の10〜60%の間に相当する。
【0073】
更に、各反射防止膜20、60は好ましくは、機能性層40と接触又は近接して位置する少なくとも1つの高屈折率誘電層24、64を含み、そして一方において、下部反射防止膜20内に位置する高屈折率誘電層24又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さe2はこの下部反射防止膜20の全光学的厚さe20の35〜55%の間に相当し、他方において、上部反射防止膜60内に位置する高屈折率誘電層64又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さe6はこの上部反射防止膜60の全光学的厚さe60の15〜55%の間に相当する。
【0074】
更に、上部反射防止膜60のnm単位での光学的厚さe60に対する下部反射防止膜20のnm単位での光学的厚さe20の比Eは好ましくは、0.4≦E≦0.9、又は更には0.5≦E≦0.8、というようなものである。
【0075】
数値シミュレーションを最初に行い(下記に示す、本発明による例1〜3及び本発明によらない比較例9〜13)、次に2つの薄膜多層コーティングを実際に被着させた(例1及び比較例11)。
【0076】
下記の表1に例1〜3及び比較例9〜13の各層又は膜の物理的厚さをナノメートル単位で示し、表2にこれらの例に関する主要なデータ、特に光学的厚さをまとめ、表3にシミュレーションによって得られたこれらの例の主要な光学的特性を示す。
【0077】
表1で、「番号」の欄は図1に示す構成に関する層の番号を示し、2つ目の欄は被着させた材料を示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表2は、以下のデータを示す。
・e2及びe6、これらはそれぞれ下部反射防止膜20及び上部反射防止膜60の高屈折率誘電層24、64の全光学的厚さ(あるいはそれぞれ比較例13及び12の高屈折率層22、68の全光学的厚さ)である。
・e20及びe60、これらはそれぞれ下部反射防止膜20及び上部反射防止膜60の全光学的厚さである。
・%2、これは下部反射防止膜20の全光学的厚さe20に対するこの下部反射防止膜20の単一の高屈折率誘電層24(あるいは比較例13の場合には単一の層21)の全光学的厚さe2の百分率である。
・%6、これは上部反射防止膜60の全光学的厚さe60に対するこの上部反射防止膜60の単一の高屈折率誘電層64(あるいは比較例12の場合には単一の層68)の全光学的厚さe6の百分率である。
・d2及びd6、これらは各高屈折率誘電層24、64と機能性層40との物理的距離(あるいはそれぞれ比較例13及び12については、各高屈折率誘電層21、68と機能性層40との物理的距離)である。
【0080】
この表2において、光学的厚さを計算するために考慮する各層の屈折率は次の通りである。
Si34: 2.05
ZnO: 1.9
TiO2: 2.4
ZnSnOx: 2.0
【0081】
【表2】

【0082】
表3は、多層コーティングで被覆された基材の次の光学的特性を示す。
・TLvis、これはD65光源下で2°にて測定した可視領域における%単位での光透過率TLである。
・薄膜多層コーティングが被着されている主要面と反対側の基材上において、D65光源下で2°にて測定したLABシステムでの透過色aT*及びbT*
・RCvis、これは薄膜多層コーティングが被着されている基材の主要面において、D65光源下で2°にて測定した可視領域における%単位での光反射率である。
・薄膜多層コーティングが被着されている主要面と反対側の基材上において、D65光源下で2°にて測定したLABシステムでの反射色aRc*及びbRc*
【0083】
表3はまた、図2に示したように、面3に薄膜多層コーティングを有し、他方の基材は透明標準ガラス(Saint−Gobain社製PLANILUX)である、4−16(90%Ar)−4二重グレージング構成で考察される%単位でのg係数、又は太陽係数(CEN標準規格)も示す。
【0084】
【表3】

【0085】
例9では、基材と機能性層40との間の下部反射防止膜20にも、機能性層40の上の上部反射防止膜60にも、高屈折率層がない。
【0086】
この例9の多層コーティングは、透過(負のaT*及び正のbT*、どちらも比較的小さい絶対値)及びコーティング側の反射(正のaRc*及び負のbRc*、どちらも比較的小さい絶対値)の双方において許容される色を持つこと、かつ、熱処理中にその光学的特性が維持されるので「強化可能」である又は「強化対象」であることができるタイプのものであるから有用であるが、機能性層が正確には「反射防止性」ではないために非常に高い光透過率を持つものではない。結果として、光反射率もまた比較的高い。
【0087】
例10では、2つの高屈折率誘電層24、64がそれぞれ下部反射防止膜20及び上部反射防止膜60の多層コーティングに導入されている。
【0088】
しかしながら、これらの2層、特に下部反射防止膜のものは、比較的厚く、それらの被着に費用がかかり、被着プロセスが面倒になる。
【0089】
光透過率は例9に比べて極めて増大し、その結果、光反射率は極めて低く、太陽係数は高くなる。しかしながら、色は、特に多層コーティング側の反射光が、全く満足できるものではなく、aRc*及びbRc*はどちらも絶対値が高すぎ、赤−紫の色調となる。
【0090】
例10は、下部反射防止膜20の全光学的厚さに対する高屈折率層24の光学的厚さの割合は大きい(74%)が、高屈折率材料(層24及び64の全て)の大部分は上部反射防止膜60にある(R比は1未満、ここでは0.7である)ことを示している。
【0091】
本発明による例1では、例10と同様に、2つの高屈折率誘電層24、64がそれぞれ下部反射防止膜20及び上部反射防止膜60の多層コーティングに導入されている。
【0092】
これらの2つの層24、64は、例10と同様に、両例とも物理的厚さ5nmの単一層(それぞれ26、62)が、一方は高屈折率層24と機能性層40との間に、他方は機能性層40と高屈折率層64との間に挿入されていることから、機能性層40と近接して保持されている。
【0093】
しかしながら、これらの2層は、例1の場合は例10の場合よりも薄く、それにより被着コストは低く、被着プロセスは簡単になり、各吸収層24、64の光学的厚さの比率はそれぞれ、下部反射防止膜20及び上部反射防止膜60の全光学的厚さの2分の1より小さくなる(すなわち、それぞれ47%及び22%)。
【0094】
更に、R比が1より大きい(1.4である)ことから、高屈折率材料の大部分は例10と同様にもはや上部反射防止膜60にはなく、下部反射防止膜20に存在する。
【0095】
この例1では、光透過率は例10のそれよりも若干小さいが、依然として全く満足できるものであって、例9のそれよりも十分高く、光反射率は例10のそれよりも若干高いが、依然として全く満足できるものであって、例9のそれよりも十分低く、そして驚くことに、太陽係数は例10のそれとほぼ同じ値に維持される。
【0096】
更には、特別に、透過光の色は例10よりも良好であり(絶対値の小さい、aT*値及びとりわけbT*値)、反射光の色もかなり良好である(絶対値の小さいaRc*及びbRc*)。
【0097】
例llでは、中間層26及び62が厚くなっていることを除き、多層コーティングの構成は例1のそれと同じであって、これは、一方では高屈折率誘電層24と機能性層40との、他方では機能性層40と高屈折率誘電層64との、それぞれ距離d2及びd6を長くする(14nmまで)という効果を持つ。
【0098】
これにより光透過率が小さくなり、光反射率が大きくなり、また太陽係数が小さくなって、更にはその結果、多層コーティング側の反射光の色が許容されないものとなり(aRc*>5)、透過光の色がそれほど好ましくないものとなる(bT*>4)。
【0099】
本発明による例2は、本発明に従って技術的効果を得る上での制限を示す。すなわち、この例2は、中間層26及び62が厚くなっていることを除いて実施例1と同じであり、これには距離d2及びd6を長くする(9nmまで)効果があるが、これらの中間層26及び62は例11ほど厚くはない。
【0100】
例12では、中間層62が厚くなっていて、これには距離d6を長くする(35.5nmまで)効果があること以外、多層コーティングの構成は例1のそれと同じである。
【0101】
これにより光透過率が著しく小さくなり、光反射率が著しく大きくなり、そしてまた太陽係数が小さくなる。
【0102】
本発明による例3は、別の多層コーティング構造、すなわちアンダーブロッカー膜30及びオーバーブロッカー膜50を備えた構造でどのように技術的効果が得られるかを示す。
【0103】
2つの高屈折率層24、64は、例1と同様に、機能性層40と近接して保持されており、これはどちらの場合にも、ブロッカー膜30、50の厚さを考慮に入れなければ、物理的厚さ5nmの単一層(それぞれ26、62)が、一方では高屈折率層24と機能性層40との間に、他方では機能性層40と高屈折率層64との間に挿入されているからである。
【0104】
これら2つの高屈折率層24、64は、例1と同様の光学的厚さで被着され、例1の場合と同様に、各吸収層24、64の光学的厚さの比率はそれぞれ、下部反射防止膜20及び上部反射防止膜60の全光学的厚さの2分の1より小さくなる(それぞれ37%及び20%)。
【0105】
更に、例1と同様に、R比が1より大きいことから(1.5となる場合さえある)、高屈折率材料の大部分は下部反射防止膜20に存在する。
【0106】
このような多層コーティング構造を用いれば、主として銀層が薄くなっているという事実のために、光透過率が例1のそれよりずっと大きくなり、光反射率が例1のそれよりずっと小さくなり、太陽係数が著しく大きくなって、ゆえに放射率も大きくなる。
【0107】
多層コーティング側の透過光及び反射光の双方における色は非常に満足なものとなる。
【0108】
本発明をより明らかに理解するために、例3に準拠する例13を提示する。
【0109】
今回は、下部反射防止膜20の高屈折率層(層番号21)が基材上に直接被着されるため、また、この層と機能性層40との間に全物理的厚さ24nmの材料が挿入され(アンダーブロッカー膜30の厚さは考慮に入れない)、上部反射防止膜60の高屈折率層64が物理的厚さ14nmの中間層上に直接被着される(オーバーブロッカー膜50の厚さは考慮に入れない)ために、距離d2及びd6は極めて長くなる。
【0110】
これら2つの高屈折率層21、64は、例3と同様の光学的厚さで被着され、そして例3と同様に、各吸収層21、64の光学的厚さの比率は、それぞれ下部反射防止膜20及び上部反射防止膜60の全光学的厚さの2分の1より小さくなる(それぞれ37%及び20%)。
【0111】
表3は、例3に比べて、光透過率及び光反射率は維持されるものの、aRc*及びbRc*の絶対値が高すぎるためにこの例13の反射光の色は許容できるものでないことを明らかに示す。
【0112】
例1及び比較例11の目的は、基材に表1に示されるような対応する多層コーティングを被着することによる検証である。
【0113】
これらの例では、以下の条件で層を被着させた。
【0114】
【表4】

【0115】
これらの例の抵抗率、光学特性及びエネルギー特性を下記の表5に示す。
【0116】
これらの例において、多層コーティングで被覆された基材の特性は次の通りである。
・Rは、多層コーティングのシート抵抗をΩ/□単位で示す。
・TLは、D65光源下で2°にて測定した、多層コーティングで被覆された基材の可視領域における%単位での光透過率を示す。
・aT*及びbT*は、D65光源下で2°にて測定した、LABシステムでの透過光の色a*及びb*を示す。
・Rcは、薄膜多層コーティングで被覆された基材の側においてD65光源下で2°にて測定した、可視領域における%単位での光反射率を示す。
・ac*及びbc*は、コーティングを施された基材側においてD65光源下で2°にて測定した、LABシステムでの反射光の色a*及びb*を示す。
・Rgは、裸の基材側においてD65光源下で2°にて測定した、可視領域における%単位での光反射率を示す。
・ag*及びbg*は、裸の基材側においてD65光源下で2°にて測定した、LABシステムにおける反射光の色a*及びb*を示す。
従前と同様に、%単位の係数g、又は太陽係数(CEN標準規格)は、図2に示した、薄膜多層コーティングが面3にあり、他方の基材は透明な標準ガラス(Saint−Gobain社製のPLANILUX)である、4−16(90%Ar)−4二重グレージング構造で検討される。
【0117】
【表5】

【0118】
上記表5の光学特性及びエネルギー特性を表3の光学特性と比較することで、例1と例11との違いという観点から良好な一致が認められる。
【0119】
被着された多層コーティングで得られる光学特性は、それらが、特に実際に被着される機能性金属層の厚さに関して、完全に至適化されてはいない試験コーティングであることから、表3に示されているシミュレーションのものと同じではない。
【0120】
例1の多層コーティングは、可視領域の光透過率の熱処理による変動が5未満、更には3未満であることから、本発明の範囲内の強化可能なコーティングである。
【0121】
従って、並べて置いた場合、基材の熱処理を受けた例1による基材と熱処理を受けなかったこの同じ例の基材とをそれぞれ区別することは困難である。
【0122】
更に、本発明による多層コーティングの機械的強度は保護層69が存在するおかげで非常に良好である。
【0123】
更に、例1のこの多層コーティングの全体的な化学的耐性も一般に良好である。
【0124】
ヨーロッパ特許出願公開第1656328号明細書から知られているように、Si:Zrに基づく層(及びなお更に、いくつかのこのような層)の使用によっても、特にこの種の層と周囲の酸化物又は窒化物層との適合性が極めて良好なために、被着させようとする1又は複数の高屈折率層をより迅速に被着させることが可能であり、かつまた、極めて良好な強化特性を得ることも可能になる。
【0125】
また、良好な光学特性(特に、可視領域における光透過率)と相まって銀層が厚い(従って低いシート抵抗が得られる)ために、本発明による多層コーティングで被覆された基材を使用して透明な電極基材を作製することも可能である。
【0126】
この透明電極基材は、特に、例1の窒化ケイ素層66を導電層(特に抵抗率が1Ω・cm未満のもの)、とりわけ酸化物を基礎材料とする層に置き換えることにより、有機発光装置に好適となり得る。この層は例えば、酸化スズで製作してもよく、あるいは、場合によりAlもしくはGaをドープされた酸化亜鉛を基礎材料としてもよく、又は混合酸化物、特に酸化インジウムスズITO、酸化インジウム亜鉛IZO、酸化スズ亜鉛SnZn(場合によりドープされた(例えばSb又はFを))を基礎材料としてもよい。この有機発光装置は、照明装置又はディスプレー装置(スクリーン)を製造するために使用可能である。
【0127】
一般に、該透明電極基材は、加熱グレージング、任意のエレクトロクロミックグレージング、任意の表示スクリーン、又は更には光電池(又はパネル)、特に光電池の透明な背面に好適であろう。
【0128】
以上、本発明を実施例によって説明してきたが、当然のことながら、当業者ならば、特許請求の範囲で定義される発明の範囲から逸脱することなく、本発明の様々な変形を作り出すことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線及び/又は太陽放射線の反射特性を有する、特に銀又は銀含有金属合金を基礎材料とする、金属機能性層(40)と、2つの反射防止膜(20、60)とを含む薄膜多層コーティングを主要面に施した透明基材(10)であり、当該反射防止膜はそれぞれが少なくとも2つの誘電層(22、24、26;62、64、66、68)を含んでいて、当該機能性層(40)は当該2つの反射防止膜(20、60)の間に配置され、一方では当該機能性層(40)は場合により、下部反射防止膜(20)と機能性層(40)との間に配置されたアンダーブロッカー膜(30)上に直接被着され、他方において当該機能性層(40)は場合により、機能性層(40)と上部反射防止膜(60)との間に配置されたオーバーブロッカー膜(50)の下に直接被着されている透明基材(10)であって、各反射防止膜(20、60)が当該機能性層(40)と接触又は近接して位置する少なくとも1つの高屈折率誘電層(24、64)を含むこと、及び一方において、当該下部反射防止膜(20)内に位置する1つの高屈折率誘電層(24)又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さe2がこの下部反射防止膜(20)の全光学的厚さ20の30〜75%の間に相当し、他方において、当該上部反射防止膜(60)内に位置する1つの高屈折率誘電層(64)又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さe6がこの上部反射防止膜(60)の全光学的厚さe60の10〜60%の間に相当することを特徴とする、薄膜多層コーティングを施した透明基材(10)。
【請求項2】
高屈折率誘電層(24、64)の高屈折率材料は、上部反射防止膜(60)内に位置する1つの高屈折率誘電層(64)又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さe6に対する、下部反射防止膜(20)内に位置する1つの高屈折率誘電層(24)又は全ての高屈折率誘電層の全光学的厚さe2の比R=e2/e6が1.1〜5の間にあってこれらの値を含むように、あるいは1.2〜4の間にあってこれらの値を含むように、多くの部分が金属機能性層(40)の下の誘電膜(20)内にあることを特徴とする、請求項1に記載の基材(10)。
【請求項3】
各高屈折率誘電層(24、64)の構成材料が、酸化チタン、酸化ニオブ、又はジルコニウムをドープされ、場合によりアルミニウムもドープされた、窒化ケイ素から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の基材(10)。
【請求項4】
上部反射防止膜(60)のnm単位での光学的厚さe60に対する、下部反射防止膜(20)のnm単位での光学的厚さe20の比Eが0.4≦E≦0.9、あるいは0.5≦E≦0.8であるようなものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の基材(10)。
【請求項5】
下部反射防止膜(20)及び上部反射防止膜(60)がそれぞれ、場合によりアルミニウムなどの少なくとも1種の他の元素をドープされた、窒化ケイ素を基礎材料とする少なくとも1つの誘電層(22、66)を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の基材(10)。
【請求項6】
下部反射防止膜(20)の基材から最も離れた最終層又は保護層が、酸化物を基礎材料とする濡れ性層(26)、特に、場合によりアルミニウムなどの少なくとも1種の他の元素をドープされた、酸化亜鉛を基礎材料とするものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の基材(10)。
【請求項7】
下部反射防止膜(20)が、窒化物を基礎材料とする、特に窒化ケイ素及び/又は窒化アルミニウムを基礎材料とする、少なくとも1つの誘電層(22)と、混合酸化物から製造された少なくとも1つの非結晶性平坦化層(24)とを含み、該平坦化層(24)が結晶性上部濡れ性層(26)と接触していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の基材(10)。
【請求項8】
上部反射防止膜(60)の基材から最も離れた最終層又は保護層が、好ましくは化学量論量を下回って被着された、酸化物を基礎材料とすること、特に酸化チタン(TiOx)を基礎材料とし又はスズと亜鉛の混合酸化物(SnZnOx)を基礎材料とすることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の基材(10)。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の少なくとも1つの基材(10)を組み込み、場合により少なくとも1つの他の基材と組み合わされたグレージング(1)。
【請求項10】
少なくとも前記多層コーティングを支持する基材に曲げ加工及び/又は強化処理が施されていることを特徴とする、一体式ユニットとして、又は二重グレージングもしくは三重グレージングもしくは積層グレージングタイプの多重グレージングユニットとして取り付けられた、請求項9に記載のグレージング(1)。
【請求項11】
選択性S≧1.3又は更にはS≧1.4もしくはS≧1.5であることを特徴とする、二重グレージングユニットとして取り付けられた請求項9又は10に記載のグレージング(1)。
【請求項12】
加熱グレージング、又はエレクトロクロミックグレージング、又は照明装置、又はディスプレー装置、又は光起電性パネルの透明電極を製造するための、請求項1〜8のいずれか1項に記載の基材の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−519648(P2012−519648A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553491(P2011−553491)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050391
【国際公開番号】WO2010/103224
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】