説明

熱特性を有する多層コーティングと吸収層とを備えた基材

本発明は、少なくとも2つの基材を含み、1つの基材は、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティングで、ガス充填空洞と接する内面にコーティングされ、上記コーティングは、単一の金属機能層(140)および2つの誘電体膜(120,160)を含み、上記膜は、少なくとも1層の誘電体層(122,126;162,166)をそれぞれ含み、上記機能層(140)は、2つの誘電体膜(120,160)の間に配置される複層ガラスに関し、少なくとも1つの誘電体膜(120,160)または両方の誘電体膜(120,160)が、誘電体膜の2層の誘電体層(122,126;162,166)の間に配置された吸収層(123,165)を含み、吸収層(123,165)の吸収材料は、大部分は、金属機能層(140)の下にある誘電体膜(120)にあるか、または、大部分は、金属機能層(140)の上にある誘電体膜(160)にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つのガラス基材タイプの基材を含む複層ガラス(multiple glazing)に関する。それらは、枠構造によって一体に保持される。上記複層ガラスは外部空間と内部空間との間の仕切りを提供する。上記複層ガラスには、少なくとも1つのガス充填空洞が2枚の基材の間にある。
【背景技術】
【0002】
知られているように、基材の1つは、ガス充填空洞と接している内面を、赤外光および/太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティングでコーティングしてもよい。上記コーティングは、単一の金属機能層、とくに銀または銀を含有する合金をベースとしたものと2つの誘電体膜とを含む。上記誘電体膜は、少なくとも1層の誘電体層をそれぞれ含む。上記機能層は、2つの誘電体膜の間に配置される。
【0003】
本発明は、とくに、断熱および/または日射防止ガラスユニットを製造するための上記基材の使用に関する。これらのガラスユニットは、とくに、エアコンの負荷を減少させるために、および/または過度に暑くなるのを防止するために(「日射調整」ガラスと呼ばれている)、および/または外側に散逸するエネルギーの量を減少させるために(「low−E」または「低放射」複層ガラスと呼ばれている)、建築物に備えることを意図されてもよく、建築物における複層ガラス表面の利用をさらに増加させることが重要になっている。
【0004】
複層ガラスは、たとえば、加熱ガラスまたはエレクトロクロミックガラスなどの特定の機能を有するガラスユニットに一体化されてもよい。
【0005】
上記特性を基材に与えることが知られている多層コーティングの1つのタイプは、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する金属機能層、とくに銀または銀を含有する合金をベースとする金属機能層からなる。
【0006】
このタイプの多層コーティングでは、機能層は、2つの誘電体膜の間に配置される。誘電体膜は、窒化物タイプの、とくに窒化ケイ素もしくは窒化アルミニウムの、または酸化物タイプの誘電体材料でそれぞれ作製された数層の層を一般にそれぞれ含む。光学的観点から、金属機能層を両側から挟むこれらのフィルムの目的は、この金属層の「反射防止」することである。
【0007】
しかし、遮断膜は、1つまたはそれぞれの誘電体膜と金属機能層との間に挿入されることが時々ある。基材の方向の機能層の下に配置された遮断膜は、曲げ加工のおよび/または焼き入れタイプの所望の高温熱処理の間、上記機能層を保護する。基材から反対側の機能層上に配置された遮断膜は、上方の誘電体膜の堆積の間ならびに曲げ加工のおよび/または焼き入れタイプの所望の高温熱処理の間、この層を任意の劣化から保護する。
【0008】
心覚えに、ガラスの日射透過率SFは、全入射太陽エネルギーに対するガラスを通って部屋に入ってきた全太陽エネルギーの割合である。選択率sは、ガラスの日射透過率に対するガラスの可視における光透過率TLvisの割合に対応し、s=TLvis/SFである。
【0009】
従来の2層ガラスユニットにおいて、たとえば、以下の構造:4−16(Ar−90%)−4(90%のアルゴンおよび10%の空気を含有し、16mmの厚さを有するガス充填空洞によって隔てられた2つの4mmのガラスシートからなる構造)の面3上などに搭載された場合、現在、およそ2〜3%の通常の放射率εN、およそ65%の可視の光透過率TL、および約50%の日射透過率についての1.3〜1.35のオーダーの選択率を有し、銀系の単一の機能層(以下、「単一の機能層を含む多層コーティング」という表現で示す)を含むlow−E薄膜多層コーティングが存在する。そのガラスシートの1つ、すなわち、建築物に入る太陽光の入射方向を考慮した場合、建築物のもっとも内側のシートのガス充填空洞に面している面は、単一の機能層を含む多層コーティングでコーティングされる。
【0010】
当業者は、2層ガラスの面2の上(建築物に入ってくる太陽光の入射方向を考慮した場合のもっとも外側のシートのガラス充填空洞に面している面上)に薄膜多層コーティングを配置することによって、日射透過率を減少させ、それにより選択率を増加できることを知っている。
【0011】
上記例の文脈の中では、単一の機能層を含む同じ多層コーティングを使用して、およそ1.5の選択率を得ることが可能になる。
【0012】
しかし、可視の光反射、とくに建築物の外側から見える可視の光反射が比較的高いレベル、20%よりも高く、約23〜25%であるので、この解決策は、いくつかの用途について不十分である。
【0013】
エネルギー反射を維持する、またはさらにエネルギー反射を増加させながら、光反射を減少させるために、当業者は、多層コーティングに、とくに1つまたは2つ以上の誘電体膜に、可視に吸収性のある1層または2層以上の層を導入できることを知っている。
【0014】
可視の吸収性がある単一機能層を含む層の位置にしたがって、複層ガラスユニット中の多層コーティングを配置するとき、特定の規則が考慮されなくてはならないことがわかる。これが本発明の主題を形成するものである。
【0015】
先行技術は、複数の機能層を含む多層コーティング中の可視の吸収性がある層の使用をすでに教示していることに留意されるべきである。とくに国際公開第02/48065号パンフレットは、曲げ加工/焼き入れタイプの熱処理に対して抵抗力を有する多層コーティング中の可視の吸収性がある層の使用に関する。
【0016】
しかし、多層コーティングの複雑さおよび堆積される材料の量のため、いくつかの機能層を含むこれらの多層コーティングは、単一の機能層を含む多層コーティングに比べて製造コストがかかる。
【0017】
さらに、2層の機能層を含むこの多層コーティングの複雑さのため、上述の文書の教示は、単一の機能層を含む多層コーティングを設計するために直接移し替えることはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的の1つは、単一の機能層を含む新しいタイプの多層コーティングを開発することによって、先行技術の欠点をなくすことに成功することである。そのコーティングは、低いシート抵抗(それゆえ、低い放射率)、高い光透過率およびとくに多層コーティング側(さらに反対側、すなわち基材側)の反射で比較的無色の色を有する。これらの特性は、多層コーティングが曲げ加工および/または焼き入れおよび/またはアニールタイプの1回または2回以上の高温熱処理を受けても受けなくても、限られた範囲内に好ましくは維持される。
【0019】
別の重要な目的は、単一の機能層を含む多層コーティングを提供することである。そのコーティングは、低い放射率を有するが、さらに、可視での低い光反射およびとくに複層ガラスにおける外反射で、とくに赤色以外の色で、許容できる色を有する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明の対象は、もっとも広い意味で、請求項1または請求項2に記載の複層ガラスである。この複層ガラスは、少なくとも2つの基材または少なくとも3つの基材をそれぞれ含む。それらの基材は、枠構造によって一体に保持される。上記複層ガラスは、外部空間と内部空間との間の仕切りを提供する。外部空間と内部空間との中では、少なくとも1つのガス充填空洞が2枚の基材の間にある。基材の1つは、ガス充填空洞と接している内面を、赤外光および/太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティングでコーティングされる。上記コーティングは、とくに銀または銀を含有する合金をベースとした単一の金属機能層と2つの誘電体膜とを含む。上記膜は、少なくとも2層の誘電体層をそれぞれ含む。上記機能層は、2つの誘電体膜の間に配置される。本発明によれば、少なくとも1つの誘電体膜、または両方の誘電体膜は、誘電体膜の2層の誘電体層の間に配置された吸収層を含む。吸収層の吸収材料は、以下のような方法で、大部分は、金属機能層の下にある誘電体膜にあるか、大部分は、金属機能層の上にある誘電体膜にある。
− 吸収層の吸収材料(またはすべての吸収材料)(すなわち、吸収材料の物理的厚さ)は、大部分は、金属機能層の下にある誘電体膜にあり、薄膜多層コーティングは、別の面で外部空間と接する基材の内面上に配置されるか、または
− 吸収層の吸収材料(またはすべての吸収材料)(すなわち、吸収材料の物理的厚さ)は、大部分は、金属機能層の上にある誘電体膜にあり、薄膜多層コーティングは、別の面で内部空間と接する基材の内面上に配置されるかのいずれか。
【0021】
好ましくは、少なくとも2つの基材を含む複層ガラスの、または少なくとも3つの基材を含む複層ガラスの単一の基材は、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する薄層多層コーティングで、ガス充填空洞と接する内面上にコーティングされる。
【0022】
用語「大部分は」は、吸収層または多層コーティングの層の吸収材料の全厚さの半分を超える厚さの吸収材料が、金属機能層の下にある誘電体膜の、または金属機能層の上にある誘電体膜のどちらかに配置されることを意味すると、本発明の範囲内で理解される。
【0023】
一特定の実施形態では、用語「大部分は」は、50%よりも大きくかつ100%未満の、または55%と95%との間の(55%と95%とを含む)、さらに60%と90%との間の(60%と90%とを含む)物理的厚さを示してもよい。
【0024】
本発明の文脈の中では、用語「大部分は」を解釈する場合、誘電体膜内以外で多層コーティング内に存在する吸収材料は考慮しない。したがって、機能層と接するまたは近接する、所望により存在する遮断層は、用語「大部分は」を解釈する場合に考慮される吸収材料の一部を形成しない。
【0025】
本発明の文脈の中では、用語「膜」は、膜に、単一層または異なる材料の複数の層が存在することを意味すると理解されるべきである。
【0026】
いつもの通り、用語「誘電体層」は、材料が「非金属」であること、すなわち金属でないことをその性質の観点から意味することを本発明では理解される。本発明の文脈の中では、この用語は、全可視波長範囲(380nmから780nmまで)にわたって、5以上のn/k比率を有する材料を示す。
【0027】
用語「吸収材料」は、全可視波長範囲(380nmから780nmまで)にわたって、0と5との間の(0と5とは含まない)n/k比率を有し、(文献から知られているように)バルク状態で10-5Ω・cmより大きな電気抵抗率を有する材料を意味すると本発明では理解される。
【0028】
nは、所与の波長における材料の実屈折率を示し、kは、所与の波長における屈折率の虚数部分を示し、比率n/kは、同じ所与の波長におけるnとkとの両方から計算されることを思い出すであろう。
【0029】
それぞれの誘電体膜の中では、吸収層を両側から挟む2層の誘電体層は、好ましくは同じ性質を有する。したがって、誘電体層の組成(化学量論的組成)は、吸収層の両側で同一である。
【0030】
本発明の1つの特定の変形では、少なくとも1つの基材が、ガス充填空洞に接する少なくとも1つの面上に反射防止膜を有する。反射防止膜は、ガス充填空洞に関連して、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティングと反対側である。
【0031】
光透過率が著しく増加し、複層ガラスの日射透過率がより小さく増加することのお陰で、この変形によって、高い選択率を達成することができる。
【0032】
本発明の別の特定の変形では、入射太陽光が透過する第1の基材の内面上に配置された薄膜多層コーティングにおける吸収層またはすべての吸収層のナノメートルの全(物理的)厚さeは、以下の一般式である。
e=ae140+55−SF
ここで、
0.5nm<e<10nm、または2nm<e<8nm、
−1.5<a<0、
140は銀層の物理的厚さであり、5nm≦e140≦20nm、
SFは複層ガラスの日射透過率(%)。
【0033】
本発明の1つの特定の変形では、多層コーティングの少なくとも1層の吸収層および好ましくは多層コーティングのすべての吸収層は窒化物をベースとし、とくに、これらの層の少なくとも1層の層および好ましくはすべてのこれらの層は窒化ニオブNbNをベースとし、または、これらの層の少なくとも1層の層および好ましくはすべてのこれらの層は窒化チタンTiNをベースとする。
【0034】
上記(またはそれぞれの)吸収層は、複層ガラスにおける25%以上のまたは30%以上の光透過率を維持するために、0.5nmと10nmとの間の(0.5nmと10nmとを含む)、または2nmと8nmとの間の(2nmと8nmとを含む)厚さを好ましくは有する。
【0035】
少なくとも上述のそれぞれの誘電体膜にある誘電体層は、1.8と2.5との間の(1.8と2.5とを含む)、好ましくは1.9と2.3との間の(1.9と2.3とを含む)光学的屈折率を有する(ここで示される光学的屈折率または屈折率は、通常、550nmで測定されたものである)。
【0036】
1つの特定の実施形態では、上記下にある誘電体膜および上にある誘電体膜は、少なくとも1種の他の元素、たとえばアルミニウムを所望によりドープした窒化ケイ素をベースとする少なくとも1層の誘電体層をそれぞれ含む。
【0037】
本発明の1つの特定の態様では、それぞれの吸収層は、誘電体膜の中の2層の誘電体層の間に配置される。誘電体層は、少なくとも1種の他の元素、たとえばアルミニウムを所望によりドープした窒化ケイ素をベースとする。
【0038】
1つの特定の実施形態では、下にある誘電体膜の最終層またはオーバーコート(overcoat)、すなわち基材からもっとも離れている層は、酸化物をベースとする、とくに、少なくとも1種の他の元素、たとえばアルミニウムを所望によりドープした酸化亜鉛をベースとするウェッティング(wetting)層である。
【0039】
特定の実施形態では、下にある誘電体膜は、窒化物、とくに窒化ケイ素および/または窒化アルミニウムをベースとする少なくとも1層の誘電体層と、混合酸化物で作製された少なくとも1層の非晶質平滑層を含む。上記平滑層は、上にある結晶ウェッティング層と接している。
【0040】
好ましくは、機能層は、機能層と機能層の下にある誘電体膜との間に配置された下方遮断膜上に直接配置され、および/または、機能層は、機能層と機能層の上にある誘電体膜との間に配置された上方遮断膜の直接下に堆積され、ならびに、下方遮断膜および/または上方遮断膜は、ニッケルまたはチタニウムをベースとし、0.2nm≦e≦2.5nmの幾何学的厚さeを有する薄層を含む。
【0041】
さらに、薄層多層コーティングが堆積された後に、薄層多層コーティングを備えた基材が、曲げ加工および/または焼き入れ熱処理を受けない場合、下方遮断膜および/または上方遮断膜は、金属の状態で存在するニッケルまたはチタニウムをベースとする少なくとも1層の薄層を含んでもよい。薄層多層コーティングが堆積された後に、薄層多層コーティングを備えた基材が、少なくとも1回の曲げ加工および/または焼き入れ熱処理を受ける場合、この層は、少なくとも部分的に酸化される。
【0042】
下方遮断膜のニッケル系薄層および/または上方遮断膜のニッケル系薄層は、その層が存在する場合、好ましくは、機能層と直接接する。
【0043】
1つの特定の実施形態では、上にある誘電体膜における基材からもっとも離れている最終層またはオーバーコートは、酸化物をベースとし、好ましくは準化学量論的に堆積され、とくに酸化チタン(TiOx)をベースとするか、混合スズ亜鉛酸化物(SnZnOx)をベースとし、多くて10重量%の量の別の元素を所望によりドープする。
【0044】
したがって、多層コーティングは、好ましくは、準化学量論的に堆積されたオーバーコート、すなわち保護層を含んでもよい。この層は、堆積の後、多層コーティングの中で本質的には化学量論的に酸化される。
【0045】
この保護層は、0.5nmと10nmとの間の厚さを好ましくは有する。
【0046】
本発明による複層ガラスは、少なくとも1つの他の基材に所望により結合した本発明による多層コーティングを備えた少なくとも1つの基材を組み入れる。それぞれの基材は、無色透明でも着色されていてもよい。とくに基材の少なくとも1つは、バルク着色ガラスで作製されてもよい。着色のタイプの選択は、光透過率のレベルおよび/または、いったん、製造が完了したときに複層ガラスに望まれている色彩の外観によって決まる。
【0047】
本発明による複層ガラスは、積層構造、とくに、ガラス/薄膜多層コーティング/シート(複数可)/ガラス/ガス充填空洞/ガラスシートのタイプの構造を有するように、ガラスタイプの少なくとも2つの硬質の基材を少なくとも1つの熱可塑性ポリマーのシートと結合させた積層構造を有していてもよい。そのポリマーは、ポリビニルブチラールPVB、エチレンビニルアセテートEVA、ポリエチレンテレフタレートPETまたはポリ塩化ビニルPVCをとくにベースとしてもよい。
【0048】
薄膜多層コーティングがダメージを受けることなく、本発明による複層ガラスの基材は熱処理を受けることができる。所望により、上記基材は、曲げ加工され、および/または焼き入れされる。
【0049】
また、本発明の対象は、枠構造によって一体に保持された少なくとも2つの基材を含む本発明による複層ガラスを製造する方法である。上記複層ガラスは、外部空間と内部空間との間の仕切りを提供する。上記複層ガラスには、2つの基材の間に少なくとも1つのガス充填空洞がある。一方の基材は、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティングをガス充填空洞に接する内面上にコーティングされる。上記コーティングは、とくに銀または銀を含有する合金をベースとする単一の金属機能層と2つの誘電体膜とを含む。上記膜は、少なくとも1層の誘電体層をそれぞれ含む。上記機能層は、2つの誘電体膜の間に配置される。少なくとも1つの誘電体膜、または両方の誘電体膜は、吸収層を含む。吸収層は、誘電体膜の2層の誘電体層の間に配置される。吸収層の吸収材料は、以下のように、大部分は、金属機能層の下にある誘電体膜に、または、大部分は、金属層の上にある誘電体膜にある。
− 基材は、その内面が薄膜多層コーティングを含むようにし、その他の面が外部空間と接するように、枠構造に配置される。薄膜多層コーティングにおける吸収層(またはすべての吸収層)の吸収材料は、大部分は、金属機能層の下にある誘電体膜にあるか、
− または、基材は、その内面が薄膜多層コーティングを含み、その他の面が内部空間と接するように、枠構造に配置される。薄膜多層コーティングにおける吸収層(またはすべての吸収層)の吸収材料は、大部分は、金属機能層の下にある誘電体膜にあるかのいずれかである。
【0050】
吸収層を両側から挟む2層の誘電体層が、窒素および/または酸素が存在する中で反応スパッタリングによって堆積される場合、これらの2層の層の間に堆積される吸収層は、好ましくは、窒素および/または酸素が存在する中でそれぞれ堆積される。
【0051】
また、本発明は、赤外光および/または太陽光で反射特性を有し、とくに銀または銀を含有する合金をベースとする単一の金属機能層と2つの誘電体膜とを含む薄膜多層コーティングの使用に関する。上記膜は、少なくとも1層の誘電体層をそれぞれ含む。上記機能層は、2つの誘電体膜の間に配置される。上記薄膜多層コーティングは、本発明による複層ガラスを作り出すために、少なくとも1つの基材の内面上に配置される。複層ガラスは少なくとも2つの基材を含む。その基材は、枠構造によって一体に保持される。その複層ガラスには、ガス充填空洞が2つの基材の間にある。
【0052】
好都合なことに、本発明は、複層ガラス構成、とくに2層ガラス構成に、高い選択率(s≧1.40)、低い放射率(εN≦3%)および審美的に魅力的な外観(TLvis≧60%、外部RLvis≦25%または外部RLvis≦20%または外部RLvis<20%、および無彩色の外部反射)を有する単一の機能層を含む薄膜多層コーティングを作り出すことを可能にする。一方、従来、2層の機能層を含む多層コーティングのみが、この基準の組み合わせを満たし得た。
【0053】
本発明による単一の機能層を含む多層コーティングは、同様の特性(TLvis、RLvisおよび無彩色の外部反射)を有する、2層の機能層を含む多層コーティングに比べて作製するのに費用がかからない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
本発明の詳細なおよび有利な特徴は、以下に説明され、ここに添付される図によって説明される以下の制限しない例から明らかになるであろう。
【図1】図1は、先行技術による単一の機能層を含む多層コーティングを示し、その機能層は下方遮断膜および上方遮断膜を備える。
【図2】図2は、単一の機能層を含む多層コーティングを組み入れた2層ガラスの解決法を示す。
【図3】図3は、単一の機能層を含む多層コーティングを組み入れた2層ガラスの解決法を示す。
【図4】図4は、本発明による単一の機能層を含む多層コーティングを示し、その機能層は下方遮断膜および上方遮断膜を備える。
【図5】図5は、単一の機能層を含む多層コーティングを組み入れた3層ガラスの解決法を示す。
【図6】図6は、単一の機能層を含む多層コーティングを組み入れた3層ガラスの解決法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
これらの図では、よりわかりやすくするために、様々な層または様々な構成要素の厚さの間の比率は、厳密には守られていない。
【0056】
図1は、透明ガラス基材10,30の上に堆積された先行技術における単一の機能層を含む多層コーティングの構造を説明する。その多層コーティングの中では、とくに銀または銀を含有する合金をベースとする単一の機能層140は、2つの誘電体膜、すなわち、基材10,30の方向に、機能層140の下にある、下にある誘電体膜120と、基材10,30とは反対側の機能層140上にある、上にある誘電体膜160との間に配置される。
【0057】
これらの2つの誘電体膜120,160は、少なくとも2層の誘電体層122,126,128;162,166,168をそれぞれ含む。
【0058】
所望により、一方では、機能層140は、下にある誘電体膜120と機能層140との間に配置された下方遮断膜130上に堆積されてもよく、他方では、機能層140は、機能層140と上にある誘電体膜160との間に配置された上方遮断層150の直接下に堆積されてもよい。
【0059】
この誘電体膜160は、所望の保護層168、とくに、酸化物、とくに酸素が準化学量論的である酸化物をベースとするものの末端であってもよい。
【0060】
単一の機能層を含む多層コーティングが、2層ガラス構造の複層ガラス100に使用される場合、この複層ガラスは、枠構造90によって一体に保持され、ガス充填空洞15によって相互に隔てられた2つの基材10,30を含む。
【0061】
複層ガラスは、外部空間ESと内部空間ISとの間の仕切りを提供する。
【0062】
多層コーティングは、面2上(建築物に入る太陽光の入射方向を考慮した場合の建築物のもっとも外側のガラスシートのガス空洞に面する面上)、または、面3上(建築物に入る太陽光の入射方向を考慮した場合の建築物のもっとも内側のガラスシートのガス空洞へ面する面上)に配置されてもよい。
【0063】
図2および3は、以下の配置(建築物に入る太陽光の入射方向は、2つの矢印によって説明される)をそれぞれ説明する。
− ガス充填空洞15と接する基材10の内面11に配置された薄膜多層体14の面2上。基材10の他の面9は外部空間ESと接する。そして、
− ガス充填空洞15と接する基材30の内面29上に配置された薄膜多層コーティング26の面3上。基材30の他の面31は、内部空間ISと接する。
【0064】
しかし、また、この2層ガラス構造の中で基材の1つが積層された構造を有することを想像されてもよい。しかし、そのような構造にはガス充填空洞がないので、混乱の可能性はない。
【0065】
さらに、これは説明されていないが、少なくとも1つの基材10,30が、ガス充填空洞15と接する少なくとも1つの面11(図3の場合)または面29(図2の場合)の上に含んでもよい。上記基材は、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティングを有さない。上記ガス充填空洞15と関連して薄膜コーティング14(図2の場合)および薄膜コーティング26(図3の場合)と対向する反射防止膜は、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する。
【0066】
2層ガラス構造に反射防止膜を挿入する目的は、高い光透過率と高い日射透過率とを得ることを可能にすることである。
【0067】
一連の5つの例が作製された。それぞれの例は、1〜5の番号が付けられた。
【0068】
国際公開第2007/101964号パンフレットの教示によれば、下にある誘電体膜120は、窒化ケイ素系誘電体層122および、混合された酸化物、この場合、アンチモンがドープされた混合された亜鉛スズ酸化物(上記酸化物は、65:34:1のそれぞれZn:Sn:Sbの質量比を有する金属ターゲットを使用して堆積された)で作製された少なくとも1層の非晶質平滑層126を含んでもよい。上記平滑層126は上にあるウェッティング層128と接する。
【0069】
この多層コーティングでは、(2重量%のアルミニウムをドープした亜鉛からなる金属ターゲットを使用して堆積された)アルミニウムをドープした酸化亜鉛ZnO:Alで作製されたウェッティング層128は、銀の結晶化を増進させることができ、それにより、導電率を増加させる。この効果は、アモルファスSnZnOx:Sb平滑層の使用によって高まる。これによりZnOの成長が改善され、それゆえ銀の成長が改善される。
【0070】
上にある誘電体膜160は、アルミニウムをドープした酸化亜鉛ZnO:Alで作製された(2重量%のアルミニウムをドープした亜鉛からなる金属ターゲットを使用して堆積された)少なくとも1層の誘電体層162と、窒化ケイ素系誘電体層166とを含んでもよい。
【0071】
窒化ケイ素層122,166は、Si34層であり、8重量%のアルミニウムをドープした金属ターゲットを使用して堆積された。
【0072】
また、これらの多層コーティングは、焼き入れすることができるという有利な点を有する。すなわち、それらは、焼き入れ熱処理に耐えることができ、この熱処理を実施した際、それらの光学的特性は、少ししか変わらない。
【0073】
上記のすべての例について、層を堆積するための条件は以下である。
【0074】
【表1】

【0075】
したがって、堆積された層は、以下の3つのカテゴリーにまとめられる。
i)誘電体材料で作製され、可視の全波長範囲にわたって5よりも大きなn/k比率を有する層:Si34、SnZnO、ZnO。
ii)吸収材料で作製され、可視の全波長範囲にわたって0<n/k<5のようなn/k比率および、バルク状態での10-5Ω・cmよりも大きな電気抵抗率を有する層:NbN。
iii)赤外光および/または太陽光で反射特性を有する材料で作製された金属機能層:Ag。
【0076】
銀もまた可視の全波長範囲にわたって0<n/k<5のようなn/k比率を有するが、しかし、そのバルク状態での電気抵抗率は10-5Ω・cmよりも小さいことがわかっている。
【0077】
また、Ti、TiNおよびNb材料は、上記に示された定義による吸収材料で作製された層を構成し得ることがわかっている。
【0078】
以下の例のすべてについて、薄膜多層コーティングは、Saint-Gobain社から販売された「Planilux」の登録商標の4mmの厚さを有する透明なソーダ石灰ガラスで作製された基材の上に堆積される。
【0079】
これらの基材について、
− Rは、多層コーティングのΩ/□のシート抵抗を示す。
− TLは、光源D65の下、2°において測定された可視における%の光透過率を示す。
− aT*およびbT*は、光源D65の下、2°において測定されたLAB系における透過の色a*およびb*を示す。
− Rcは、基材の薄膜多層コーティングでコーティングされた側での光源D65の下、2°において測定された可視の%の光反射率を示す。
− aC*およびbC*は、基材のコーティングされた側での光源D65の下、2°において測定されたLAB系における透過の色a*およびb*を示す。
− Rgは、基材のコーティングされていない側での光源D65の下、2°において測定された可視の%の光反射率を示す。そして、
− ag*およびbg*は、基材のコーティングされていない側での光源D65の下、2°において測定されたLAB系における透過の色a*およびb*を示す。
【0080】
さらに、これらの例について、熱処理が基材に適用されるすべての場合、これは、曲げ加工または焼き入れ熱処理を模擬するような約620℃の温度で約6分実行されるアニール処理である。この後、基材は、周囲の空気(約20℃)を使用して冷却される。
【0081】
さらに、これらの例について、多層コーティングを備え基材が2層ガラスに一体化される場合、これは、4−16−4(90%Ar)構造、すなわち、4mmの厚さをそれぞれ有する2つのガラス基材が90%のアルゴンと10%の空気からなる16mm厚さのガス空洞によって引き離されている構造を有する。
【0082】
すべての上記例に関して、この2層ガラス構成では、EN673標準に準拠して計算された、およそ1.1W・m-2・K-1のU係数またはK係数(すなわち、外部空間に接するガラスの面と内部空間に接するガラスの面との間の単位温度差に関して、定常状態における単位面積当たりの基材を通る熱の量を示すガラスを通る熱貫流係数)を達成することができる。
【0083】
これらの2層ガラスユニットについて、
− SFは、日射透過率、すなわち、全入射太陽光に対する2層ガラスを通って部屋に入る全太陽エネルギーのパーセントの比率を示す。
− sは、日射透過率SFに対する可視の光透過率TLの比率に対応する選択率を示す。すなわち、s=TLvis/SF。
− TLは、光源D65の下、2°において測定された可視における%の光透過率を示す。
− aT*およびbT*は、光源D65の下、2°において測定されたLAB系における透過の色a*およびb*を示す。
− Reは、外部空間ES側での光源D65の下、2°において測定された可視の%の外部光反射率を示す。
− ae*およびbe*は、外部空間ES側での光源D65の下、2°において測定されたLAB系における外部反射の色a*およびb*を示す。
− Riは、内部空間IS側での光源D65の下、2°において測定された可視の%の内部光反射率を示す。そして、
− ai*およびbi*は、内部空間IS側での光源D65の下、2°において測定されたLAB系における内部反射の色a*およびb*を示す。
【0084】
例1は、本発明による吸収層なしで、しかし、所望の保護層168および下方遮断膜130なしの図1に説明されたコーティング構造にしたがって作製された。
【0085】
以下の表1は、例1の層のそれぞれのナノメートルの幾何学的または物理的厚さ(および、光学的厚さではない)を説明する。
【0086】
【表2】

【0087】
以下の表2は、熱処理前の10/30基材のみを考慮した場合の、熱処理後の基材10’/30のみを考慮した場合の、ならびにこれらの基材が、2層ガラスとして、図2のように、面2上に(F2)、および図3に示すように面3上に(F3)、それぞれ搭載された場合の、この例1の主な光学的およびエネルギー特性をまとめる。
【0088】
2つのF2の行について、上の行は、基材10を使用して得られたデータを示し、下の行は、熱処理を受けた基材10’を使用して得られたデータを示す。同じように、2つのF3の行について、上の行は、熱処理なしの基材(したがって、それは、基材30である)を使用して得られたデータを示し、下の行は、熱処理を受けた基材(したがって、それは基材30’である)を使用して得られたデータを示す。
【0089】
【表3】

【0090】
このように、表2に示されているように、2層ガラスにおける可視の光透過率TLはおよそ65%であり、外部反射の色は、比較的無色である。
【0091】
しかし、外部光反射Reは、面2および面3の両方で高すぎるように見えるという意味で完全に十分というわけではない。したがって、他のパラメーター、とくに色のパラメーターが影響を受けることなく20%以下の値まで、さらに15%以下の値までそれを減少させることが望ましい。
【0092】
例2〜5は、図4で説明された多層コーティングに基づいて、窒化ニオブNbOで作製された1層(または2層以上)の吸収層をコーティングに挿入することによって作製された。
【0093】
以下の表3は、例2の層のそれぞれのナノメートルの幾何学的厚さを説明する。
【0094】
【表4】

【0095】
このように、誘電体層122が、実質的に同一の厚さの2つの部分(それぞれ122および124)に分割された点および吸収層123がこれらの2層の層の間に、すなわち、例1の層122の実質的に真ん中に挿入された点を除いて、例2は、例1と実質的に同じである。
【0096】
以下の表4は、基材のみを考慮した場合の、および、上記基材が、2層ガラスとして、図2のように、面2上に、および図3に示すように面3上に、それぞれ搭載された場合の例2の主な光学的およびエネルギー特性をまとめる。この表は、表2と同じ構成を示す。
【0097】
【表5】

【0098】
表4に示されるように、多層コーティングが面2上に配置された場合、約7.5%の値を有する外部光反射Reは非常に満足できる。しかし、多層コーティングが面3上に配置された場合、十分ではない。
【0099】
さらに、外側から見える色は、例1の色とは少し異なるが、多層コーティングが熱処理を受けても受けなくとも無色のままである。
【0100】
多層コーティングの吸収層123のナノメートルの全厚さeは、式:e=ae40+55−SFが適用される(2層ガラスの面2の場合、a=−1.1)。
【0101】
以下の表5は、例3の層のそれぞれのナノメートルの幾何学的厚さを説明する。
【0102】
【表6】

【0103】
このように、誘電体層166が、実質的に同じ厚さの2つの部分(それぞれ164および166)に分割された点、および吸収層165が、これらの2層の層の間に、すなわち、例1の層166の実質的真ん中に挿入された点を除いて、例3は、例1と実質的に同じである。
【0104】
以下の表6は、基材のみを考慮した場合の、ならびにこれらの基材が、2層ガラスとして、図2のように、面2上に、および図3に示すように面3上に、それぞれ搭載された場合の、例3の主な光学的およびエネルギー特性をまとめる。この表は、表2および4と同じ構成を有する。
【0105】
【表7】

【0106】
表6に示されるように、多層コーティングが面3上に配置された場合、約15%の値を有する外部光反射Reは、非常に満足できる。しかし、多層コーティングが面2上に配置される場合、不十分である。
【0107】
さらに、外部から見える色は、例1の色と少ししか異ならず、コーティングが熱処理を受けても受けなくても無色のままである。
【0108】
多層コーティングの吸収層165におけるナノメートルの全厚さeは、式:e=ae40+55−SFが適用される(2層ガラスの面2の場合、a=−1.1)。
【0109】
以下の表7は、例4の層のそれぞれのナノメートルの幾何学的厚さを説明する。
【0110】
【表8】

【0111】
このように、誘電体層122および166が、実質的に同じ厚さの2つの部分(それぞれ、122/124および164/166)にそれぞれ分割される点、ならびに吸収層123,165が、これらの2層の層の間に、すなわち、例1の層122および166の実質的に真ん中にそれぞれ挿入される点を除いて、例4は、例1と実質的に同じである。
【0112】
さらに、吸収層の吸収材料は、下にある膜120に、すなわち、キャリア基材と機能層140との間に、大部分は(80%よりも大きい)、配置される。
【0113】
以下の表8は、熱処理していない基材自体のみを考慮した場合、および基材が、この2層ガラスとして、図2のように、面2上に、および図3に示すように面3上に、それぞれ搭載された場合の、例4の主な光学的およびエネルギー特性をまとめる。
【0114】
【表9】

【0115】
表8に示されるように、多層コーティングが面2上に配置される場合、約7%の値を有する外部光反射Reは、非常に満足できる。多層コーティングが面3上に配置された場合、より十分ではない。
【0116】
さらに、外部から見える色は、例1の色と少ししか異ならず、多層コーティングが熱処理を受けても受けなくても無色のままである。
【0117】
多層コーティングの吸収層123におけるナノメートルの全厚さeは、式:e=ae40+55−SFが適用される(2層ガラスの面2の場合、a=−0.9)。
【0118】
以下の表9は、例5の層のそれぞれのナノメートルの幾何学的厚さを説明する。
【0119】
【表10】

【0120】
例5は、例4のものと同じ構造を有する。
【0121】
しかし、例4とは異なり、吸収層の吸収材料は、上にある膜160、すなわち、機能層140の上に、キャリア基材から反対側に、大部分は(多くて80%)、配置される。
【0122】
以下の表10は、熱処理をしない基材自体のみを考慮した場合の、ならびにこれらの基材が、2層ガラスとして、図2のように、面2上に、および図3に示すように面3上に、それぞれ搭載された場合の、例5の主な光学的およびエネルギー特性をまとめる。
【0123】
【表11】

【0124】
表10に示されるように、多層コーティングが面3上に配置された場合、約10%の値を有する外部光反射率Reは、非常に満足できる。多層コーティングが面2上に配置された場合、より十分ではない。
【0125】
さらに、外部から見える色は、例1の色と少ししか異ならず、多層コーティングが熱処理を受けても受けなくても無色のままである。
【0126】
基材10(入射太陽光が通過する第1の基材)の内面上に配置された薄膜多層体の吸収層123および165のナノメートルの全厚さeは、式:e=ae40+55−SFが適用される(2層ガラスの面2の場合、a=−1.1)。
【0127】
したがって、本発明によれば、薄膜多層コーティングが複層ガラスの面2上に配置される場合、多層コーティングの吸収層123および/または165のナノメートルの全厚さeは、式:e=ae40+55−SFである。ここで、
0.5nm<e<10nmであり、
−1.5<a<0であり、
5nm≦e40≦20nmであり、そして
SFは、%の日射透過率である。
【0128】
この式は、本発明の実施の文脈の中で必要な吸収層の全厚さを手短に示す。
【0129】
さらに、一般に、焼き入れ熱処理は、本発明による例に少ししか影響を与えない。
【0130】
とくに、熱処理の前および後の本発明による多層コーティングのシート抵抗は、すべて4Ω/□未満である。
【0131】
例2〜5は、単一の金属銀機能層を含む多層コーティングを使用して、好適な審美的外観(TLが60%よりも大きく、反射の色が無色である)を依然として維持しながら、高い選択率、低い放射率および低い外部光反射率を兼ね備えることが可能であるということを示す。
【0132】
さらに、両方とも光源D65の下で測定された光反射率RL、光透過率TL、および光源D65の下で測定された、基材側の反射のLAB系の色a*およびb*は、熱処理を行ってもあまり変わらない。
【0133】
熱処理前の光学的およびエネルギー特性を、熱処理後のこれらの同じ特性と比較しても、大きな特性の低下は観察されなかった。
【0134】
さらに、本発明による多層コーティングの機械的強度は、非常に良好である。さらに、このコーティングの全体の一般的な化学的耐久性も良好である。
【0135】
単一の機能層を含む多層コーティングが3層ガラス構造の複層ガラス100で使用される場合、この複層ガラスは、枠構造90によって一体に保持され、ガス充填空洞15,25によってペアでそれぞれ隔てられた3つの基材10,20,30を含む。したがって、複層ガラスは、外部空間ESと内部空間ISとの間に仕切りを提供する。
【0136】
多層コーティングは、面2上(建築物に入る太陽光の入射方向を考慮した場合のもっとも外側のガラスシートのガス空洞に面する面上)、または面5上(建築物に入る太陽光の入射方向を考慮した場合のもっとも内側のガラスシートのガス空洞に面する面上)に配置されてもよい。
【0137】
図5および6は、以下の配置をそれぞれ説明する。
− ガス充填空洞15と接する基材10の内面11に配置された薄膜多層コーティング14の面2上。基材10の他の面9は外部空間ESと接する。そして、
− ガス充填空洞25と接する基材30の内面29上に配置された薄膜多層コーティング26の面5上。基材30の他の面31は、内部空間ISと接する。
【0138】
しかし、また、この3層ガラス構造の中で基材の1つが積層された構造を有することを想像されてもよい。しかし、そのような構造にはガス充填空洞がないので、混乱の可能性はない。
【0139】
さらに、ガス充填空洞15,25と接する少なくとも1つの面11,19,21,29の上に反射防止膜18,22を含む少なくとも1つの基材10,20,30を備えてもよい。反射防止膜18,22は、ガス充填空洞15,25と関連して、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティング14,26と対向する。
【0140】
図6は、上記ガス充填空洞25に関連して、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティング26と対向する反射防止膜22を、3層ガラスの中央基材20が、ガス充填空洞25と接する面21上に含む場合を説明する。
【0141】
もちろん、本発明の実施の文脈の中で、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティング14が基材10の面11上に配置される場合、ガス充填空洞15と接する3層ガラスの中央基材20の面19は、上記ガス充填空洞15に関連して薄膜多層コーティング14と対向する反射防止膜18を含む。
【0142】
また、図6のこれらの2つの場合の最初のものに関して説明したように、これらの場合の両方で、3層ガラスの中央基材20の他の面が反射防止膜を有することを想像されてもよい。
【0143】
3層ガラス構造における1つの(または2つ以上の)反射防止膜のこの挿入の目的は、断熱を高めるとともに、高い光透過率および高い日射透過率を、少なくとも2層ガラスのものと同様な光透過率および日射透過率を達成させることである。
【0144】
本発明は、例とし上に記載した。もちろん、当業者は、特許請求の範囲によって規定される特許の範囲から逸脱することなく、本発明の様々な変形形態を作製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠構造(90)によって一体に保持された少なくとも2つの基材(10,30)を含み、外部空間(ES)と内部空間(IS)との間の仕切りを提供し、
少なくとも1つのガス充填空洞(15)は、2つの前記基材の間にあり、
一方の基材(10,30)は、前記ガス充填空洞(15)と接する内面(11,29)上を、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティング(14,26)でコーティングされ、
前記コーティングは、とくに銀もしくは銀を含有する合金をベースとする単一の金属機能層(140)と2つの誘電体膜(120,160)とを含み、
前記膜は、少なくとも1層の誘電体層(122,126;162,166)をそれぞれ含み、
前記機能層(140)は、前記2つの誘電体膜(120,160)の間に配置される、複層ガラス(100)であって、
少なくとも1つの誘電体膜(120,160)または両方の誘電体膜(120,160)が、前記誘電体膜の2層の誘電体層(122,126;162,166)の間に配置された吸収層(123,165)を含み、
− 前記吸収層(またはすべての吸収層)(123,165)の前記吸収材料は、大部分は、前記金属機能層(140)の下にある前記誘電体膜(120)にあり、前記薄膜多層コーティング(14)は、前記外部空間(ES)と別の面(9)で接する基材(10)の前記内面(11)上に配置されるか、または
− 前記吸収層(またはすべての吸収層)(123,165)の前記吸収材料は、大部分は、前記金属機能層(140)の上にある前記誘電体膜(160)にあり、前記薄膜多層コーティング(26)は、前記内部空間(IS)と別の面(31)で接する前記基材(30)の前記内面(29)上に配置されるかのいずれかであるように、
前記吸収層(123,165)の吸収材料は、大部分は、前記金属機能層(140)の下にある誘電体膜(120)にあるか、または、大部分は、前記金属機能層(140)の上にある前記誘電体膜(160)にあることを特徴とする複層ガラス(100)。
【請求項2】
枠構造(90)によって一体に保持された少なくとも3つの基材(10,20,30)を含み、外部空間(ES)と内部空間(IS)との間の仕切りを提供し、
少なくとも2つのガス充填空洞(15,25)は、2つの前記基材の間にそれぞれあり、
一方の基材(10,30)は、前記ガス充填空洞(15,25)と接する内面(11,29)上を、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティング(14,26)でコーティングされ、
前記コーティングは、とくに銀もしくは銀を含有する合金をベースとする単一の金属機能層(140)と2つの誘電体膜(120,160)とを含み、
前記膜は、少なくとも1層の誘電体層(122,126;162,166)をそれぞれ含み、
前記機能層(140)は、前記2つの誘電体膜(120,160)の間に配置される、複層ガラス(100)であって、
少なくとも1つの誘電体膜(120,160)または両方の誘電体膜(120,160)が、前記誘電体膜の2層の誘電体層(122,126;162,166)の間に配置された吸収層(123,165)を含み、
− 前記吸収層(またはすべての吸収層)(123,165)の前記吸収材料は、大部分は、前記金属機能層(140)の下にある前記誘電体膜(120)にあり、前記薄膜多層コーティング(14)は、前記外部空間(ES)と別の面(9)で接する基材(10)の前記内面(11)上に配置されるか、または
− 前記吸収層(またはすべての吸収層)(123,165)の前記吸収材料は、大部分は、前記金属機能層(140)の上にある前記誘電体膜(160)にあり、前記薄膜多層コーティング(26)は、前記内部空間(IS)と別の面(31)で接する前記基材(30)の前記内面(29)上に配置されるかのいずれかであるように、
前記吸収層(123,165)の吸収材料は、大部分は、前記金属機能層(140)の下にある誘電体膜(120)にあるか、または、大部分は、前記金属機能層(140)の上にある前記誘電体膜(160)にあることを特徴とする複層ガラス(100)。
【請求項3】
少なくとも1つの基材(10,20,30)は、前記ガス充填空洞(15,25)と接する少なくとも1つの面(11,19,21,29)上に、反射防止膜(18,22)を有し、
前記反射防止膜(18,22)は、前記ガス充填空洞(15,25)に関連して、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティング(14,26)と対向することを特徴とする請求項1または2に記載の複層ガラス(100)。
【請求項4】
前記基材(10)の前記内面(11)に配置された前記薄膜多層コーティング(14)の前記吸収層(123,165)のナノメートルの全厚さeは、式:e=ae140+55−SFである(ここで、
0.5nm<e<10nmであり、
−1.5<a<0であり、
140は前記金属機能層(140)の物理的厚さであり、
5nm≦e140≦20nmであり、そして
SFは、前記複層ガラスの%の日射透過率である)
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複層ガラス(100)。
【請求項5】
少なくとも1層の吸収層(123,165)、好ましくはすべての吸収層は、窒化物をベースとする、とくに、窒化ニオブNbOをベースとするか、または窒化チタニウムTiNをベースとすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の複層ガラス(100)。
【請求項6】
前記吸収層(123,165)またはそれぞれの吸収層(123,165)は、0.5nmと10nmとの間の厚さ(0.5nmと10nmとを含む)を有し、さらに2nmと8nmとの間の厚さ(2nmと8nmとを含む)を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の複層ガラス(100)。
【請求項7】
前記下にある誘電体膜(120)および上にある誘電体膜(160)は、少なくとも1種の他の元素(たとえば、アルミニウム)を所望によりドープした窒化ケイ素をベースとする少なくとも1層の誘電体層(122,166)をそれぞれ含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の複層ガラス(100)。
【請求項8】
それぞれの吸収層(123,165)は、前記誘電体膜の2層の誘電体層(122,124;164,166)の間に配置され、
前記2層の誘電体層(122,124;164,166)は、少なくとも1種の他の元素(たとえば、アルミニウム)を所望によりドープした窒化ケイ素を両方ともベースとすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の複層ガラス(100)。
【請求項9】
前記機能層(140)は、前記機能層(140)と前記機能層の下にある前記誘電体膜(120)との間に配置された下方遮断膜(130)の直接上に配置され、および/または
前記機能層(140)は、前記機能層(140)と前記機能層の上にある前記誘電体膜(160)との間に配置された上方遮断膜(150)の直接下に配置され、
前記下方遮断膜(130)および/または前記上方遮断膜(150)は、ニッケルまたはチタニウムをベースとし、0.2≦e’≦2.5nmの物理的厚さe’を有する薄層を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の複層ガラス(100)。
【請求項10】
前記基材からもっとも離れている前記上にある誘電体膜(160)の最終層またはオーバーコート(168)は、準化学量論的に好ましくは堆積された酸化物ベースとする、とくに酸化チタニウム(TiOx)をベースとするかまたは混合スズ亜鉛酸化物(SnZnOx)をベースとすることを特徴とする請求項1〜9に記載の複層ガラス(100)。
【請求項11】
薄膜多層コーティング(14,26)は、赤外光および/または太陽光で反射特性を有し、とくに銀もしくは銀を含有する合金をベースとする単一の金属機能層(140)と2つの誘電体膜(120,160)とを含み、
前記膜は、少なくとも1層の誘電体層(122,126;164,168)をそれぞれ含み、
前記機能層(140)は、前記2つの誘電体膜(120,160)の間に配置され、
前記薄膜多層コーティング(14,26)は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の複層ガラス(100)を作製するための少なくとも1つの基材(10,30)の内面(11,29)上に配置され、
前記複層ガラス(100)は、枠構造(90)によって一体に保持された少なくとも2つの基材(10,30)を含み、
ガス充填空洞(15)が前記複層ガラスの2つの前記基材の間にある、
薄膜多層コーティング(14,26)の使用。
【請求項12】
枠構造(90)によって一体に保持された少なくとも2つの基材(10,30)を含み、外部空間(ES)と内部空間(IS)との間の仕切りを提供し、
少なくとも1つのガス充填空洞(15)は、2つの前記基材の間にあり、
一方の基材(10,30)は、前記ガス充填空洞(15)と接する内面(11,29)上を、赤外光および/または太陽光で反射特性を有する薄膜多層コーティング(14,26)でコーティングされ、
前記コーティングは、とくに銀もしくは銀を含有する合金をベースとする単一の金属機能層(140)と2つの誘電体膜(120,160)とを含み、
前記膜は、少なくとも1層の誘電体層(122,126;162,166)をそれぞれ含み、
前記機能層(140)は、前記2つの誘電体膜(120,160)の間に配置される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の複層ガラス(100)の製造方法であって、
少なくとも1つの誘電体膜(120,160)または両方の誘電体膜(120,160)が、前記誘電体膜の2層の誘電体層(122,126;162,166)の間に配置された吸収層(123,165)を含み、
− 前記基材(10)は、前記基材(10)の内面(11)が薄膜多層コーティング(14)を含むために前記枠構造(90)に配置され、前記吸収層(またはすべての吸収層)(123,165)の前記吸収材料は、大部分は、前記金属機能層(140)の下にある前記誘電体膜(120)にあり、前記基材(10)の別の面(9)は、前記外部空間(ES)とで接するか、または
− 前記基材(30)は、前記基材(30)の内面(29)が薄膜多層コーティング(26)を含むために前記枠構造(90)に配置され、前記吸収層(またはすべての吸収層)(123,165)の前記吸収材料は、大部分は、前記金属機能層(140)の上にある前記誘電体膜(160)にあり、前記基材(30)の別の面(31)は、前記内部空間(IS)と接するかのいずれかであるように、
前記吸収層(123,165)の吸収材料は、大部分は、前記金属機能層(140)の下にある誘電体膜(120)にあるか、または、大部分は、前記金属機能層(140)の上にある前記誘電体膜(160)にあることを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−513369(P2012−513369A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542878(P2011−542878)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052663
【国際公開番号】WO2010/072973
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】