説明

熱硬化性樹脂廃材の再生方法

【課題】熱硬化性樹脂製品の廃材を粉砕および接合して再生させる方法において、その粉砕物が微細粉砕物(粒径0.5mm程度以下)であっても、良好に接合することができる方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂製品の廃材3を細かく砕いて無数の粉砕物2を生成し、それに熱可塑性樹脂材のバインダー1を混合した後、加熱および冷却することによって接合して再生品4を生産する再生方法において、バインダー1をパウダー状とし、粉砕物2同士を点接触によって接合する。また、廃材3の粉砕物2を、少なくとも粒径0.5mm以下の微細粉砕物2aを含んでいるものとする。さらに、パウダー状のバインダー1を、粒径500μm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂廃材の再生方法に関する。より詳細には、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)やNBR(ニトリルブタジエンラバー)等のいわゆる熱硬化性樹脂で成形された製品の廃材を、防音材などの製品(再生品)として再利用するための再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車のシール材を構成するEPDMスポンジ材やEPDMソリッド材は、その多くが再生されることなくそのまま廃棄されている。
従って、廃棄処理に多大な費用を必要とし、また、有限である天然資源を浪費する結果となっている。
【0003】
こうした実情に鑑み、近年では、樹脂製品を再生すべく、それを細かく粉砕した粉砕物に、ファイバー状、ペレット状、ネット状、フィルム状あるいは液状の熱可塑性樹脂(PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PA(ポリアミド)など)をバインダー(接合剤)として混入し、加熱および冷却することによって粉砕物同士を接合して防音材を生産する手段が創案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−301023号公報
【特許文献2】特開平8−310314号公報
【0005】
この手段によれば、熱硬化性樹脂製品を再生することができるので、廃棄費用の削減と、天然資源の有効利用を図ることができるといった大きな利点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した熱硬化性樹脂製品の再生手段には改善すべき課題がある。
すなわち、本発明者らは、熱硬化性樹脂製品の粉砕物の粒径が数ミリ程度以上のものであれば、ファイバー状、ペレット状、ネット状、フィルム状および液状の熱可塑性樹脂をバインダーとして接合することができるが、その粒径が0.5mm程度以下の微細粉砕物の場合には接合することが困難であることを確認した。
これは、熱硬化性樹脂製品の微細粉砕物の粒径に比較して、バインダーが大きすぎることによるものである。例えば、微細粉砕物の粒径が0.5mm以下であるのに対して、ペレット状のバインダーの粒径は通常0.5mm〜5mm程度と大きいため、微細粉砕物同士を強固に接合することは困難である。
【0007】
また、本発明者らは、熱硬化性樹脂スポンジ材の粉砕物(数ミリ程度以上)を液状のバインダーを使用して接合すると、接合されたスポンジ材の表面がその液状バインダーで覆われるために硬くなってしまうことも確認した。このことは、ファイバー状、ペレット状、ネット状およびフィルム状のバインダーを使用した場合にも言える。
これらのバインダーは、粉砕物の表面の全体あるいは大部分を線あるいは面で覆ってしまうからである。さらに、本発明者らは、液状のバインダーでは微細粉砕物(粒径0.5mm程度以下)を接合することが困難であることも確認した。表面張力の影響かと思われる。
【0008】
そこで、本発明の目的とするところは、熱硬化性樹脂製品の廃材を粉砕および接合して再生させる方法において、その粉砕物が微細粉砕物(粒径0.5mm程度以下)であっても、良好に接合することができる方法を提供することにある。また、粉砕物がスポンジ材である場合に、その柔軟性(柔らかい質感)をより高めることのできる再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の熱硬化性樹脂廃材の再生方法は、熱硬化性樹脂製品の廃材(3)を細かく砕いて無数の粉砕物(2)を生成し、それに熱可塑性樹脂材のバインダー(1)を混合した後、加熱および冷却することによって接合して再生品(4)を生産する再生方法において、前記バインダー(1)をパウダー状とし、前記粉砕物(2)同士を点接触によって接合したことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の熱硬化性樹脂廃材の再生方法は、前記廃材(3)の粉砕物(2)が、少なくとも粒径0.5mm以下の微細粉砕物(2a)を含んでいることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の熱硬化性樹脂再生方法は、前記バインダー(1)が、粒径500μm以下であることを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項4に記載の熱硬化性樹脂廃材の再生方法は、前記廃材(3)が少なくともスポンジ材を含んでいることを特徴とする。
【0013】
またさらに、請求項5に記載の熱硬化性樹脂再生方法は、前記廃材(3)がEPDMであり、前記バインダー(1)がポリエチレンであることを特徴とする。
【0014】
括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための最良の形態に記載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、熱可塑性樹脂材のバインダーをパウダー状としたので、通常の粉砕物(粒径が数ミリ程度以上)に限らず、微細粉砕物(粒径が0.5mm以下)でも良好に接合して再生品とすることができる。
すなわち、バインダーをパウダー状としたことによって、粉砕物と隣接する粉砕物との間にこの微細なバインダーが入り込み、加熱されることによって溶融して粉砕物同士を点接触した状態で接着する。さらに冷却されることによって固化し、粉砕物同士を点接触した状態を保ちつつ接合する。
従って、粉砕物が微細粉砕物であってもそれら同士を確実に接合することができる。
【0016】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、廃材の粉砕物が、粒径0.5mm以下の微細粉砕物も含んでいるので、粉砕物のサイズの選択(例えば小さい粉砕物をすてる)が不要で、であるので、この微細粉砕物で生産した再生品の密度を高めることができると共に、その内部に、通常の粉砕物で生産した再生品と比較して、より多くの微細な空隙を形成することができる。
また、大小の範囲の広い粒径の粉砕物で作られていることもあり、この再生品を、例えば防音材として使用する場合、その防音機能をより高めることができる。
【0017】
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項1および2に記載の発明の作用効果に加えて、バインダーが粒径500μm以下であるので、粉砕物同士をきわめて小さな点接触状態で接合することができる。
これにより、より粒径の小さい粉砕物を良好に接合することができる。
【0018】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3に記載の発明の作用効果に加えて、熱硬化性樹脂製品の廃材がスポンジ材を含んでいるため、より柔軟性に富む再生品を生産することができる。これは、スポンジ材の粉砕物同士をパウダー状のバインダーによって点接触状態で接合するので、このバインダーの付着によって硬化する面積を最小限に抑えることができるからである。同時に、無数の粉砕物同士を接合することにより、元のスポンジ材製品と比較して、再生品の方がより多くの空気層を有することになるからである。
【0019】
またさらに、請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4に記載の発明の作用効果に加えて、廃材がEPDMで、バインダーがポリエチレンであるため、両者の良好な物性的相性により、粉砕物をより強固に接合することができる。
また、ポリエチレンは溶融温度が110℃〜130℃と比較的低温であるため加熱処理を容易に行うことができる。また、ポリエチレンは安価でもあるため、再生品の生産コストを低廉化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る熱硬化性樹脂廃材の再生方法によって生産した再生品の一部を示す拡大斜視図である。
【図2】図1に示す再生品を拡大した要部断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る熱硬化性樹脂廃材の再生方法の一態様を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1および図2を参照して、本発明の実施形態に係る熱硬化性樹脂廃材の再生方法について説明する。
【0022】
この再生方法は、熱硬化性樹脂製品の廃材3を細かく砕いて無数の粉砕物2を生成し、それに熱可塑性樹脂材のバインダー1を混合した後、加熱および冷却することによって再生品4を生産する再生方法である。そして、熱可塑性樹脂材であるバインダー1をパウダー状とし、無数の粉砕物2同士を点接触によって接合するものである。
【0023】
なお、本実施形態では、熱硬化性樹脂製品の廃材3として、EPDMで形成した自動車用シール材の廃棄物を使用している。また、この廃材3を砕いて生成する粉砕物2として、最大長さが約10cm以下で、更には0.5mm以下の微細粉砕物2aも使用している。また、バインダー1として、粒径が500μm以下であるポリエチレンを使用している。なお、バインダー1の粒径が500μmより大きいと、微細粉砕物2aに付着し難く、その自重で落下して微細粉砕物2a同士を良好に接合させることが困難となるので好ましくない。
【0024】
本実施形態に係る再生方法は次の工程によって行うことができる。図3を参照して説明する。
まず、熱硬化性樹脂製品の廃材3を粉砕機5で砕いて最大長さが10cm以下で無数の微細粉砕物2aが含まれた粉砕物2を生成する(図3(a)参照)。
次に、この無数の粉砕物2に、粒径が500μm以下のパウダー状のポリエチレンであるバインダー1を所定量混合し、バインダー1を粉砕物2の間に付着させる(図3(b)参照)。
【0025】
続いて、この混合物を、所定の金型6の内部で、バインダー1の溶融温度(この場合、110℃〜130℃)以上の温度で加熱してバインダー1を溶かし、この溶かしたバインダー1で隣接する粉砕物2や微細粉砕物2a同士を接着すると共に、粉砕物2を所定形状に形成する(図3(c)参照)。
そして、最後に冷却してバインダー1を固化し、それによって粉砕物2同士を接合して再生品4とする(図3(d)参照)。
【0026】
なお、再生品4の冷却は、再生品4を金型6から取り出して行うこともできるし、金型6に収納したままの状態で、金型6を強制冷却することによっても行うことができる。また、自然冷却で行っても良いし、ファンによる空冷で行うこともできる。
【0027】
なお、この再生方法においては、加熱時や冷却前において再生品4に対する圧縮量を調整することで、その硬さを設定することができる(ソリッド材およびスポンジ材の両方)。
【0028】
本実施形態に係る熱硬化性樹脂廃材の再生方法は、熱可塑性樹脂材のバインダー1を、粒径が0.5mm以下のパウダー状としているので、粒径が0.5mm以下の微細粉砕物2aであってもこれら同士を点接触状態で接合して、微細粉砕物2aから再生品4を生産することができる。
【0029】
なお、微細粉砕物2aを含んで生産した再生品4は密度が高く、また、その内部に微細な空隙Gを多く形成することができるので、例えば防音材として使用する場合、優れた防音機能を持たせることができる。
【0030】
また、この再生方法は、廃材3としてEPDMを使用し、また、バインダー1としてポリエチレンを使用しているので、両者の良好な物性的相性によって、微細粉砕物2aであってもより強固に接合することができる。これにより、強靱な再生品4を生産することができる。
【0031】
また、ポリエチレンは溶融温度が110℃〜130℃と比較的低温であるため加熱処理を容易に行うことができ、従って、生産コストの低廉化を図ることができる。また、このポリエチレンは安価でもあるため、再生品4の生産コストをさらに削減することができる。
【0032】
なお、熱硬化性樹脂製品の廃材3がスポンジ材(例えばEPDMスポンジ材)である場合には、スポンジ材の粉砕物2同士をパウダー状のバインダー1によって点接触状態で接合することができるので、このバインダー1の付着によって硬化する面積を最小限に抑えることができる。また、無数の粉砕物2同士を接合することにより、元のスポンジ材製品と比較して、より多くの空気層を形成することができると共に、種々の異なる物性(例えば異なる比重)の廃材がミックスされ、硬度の高い樹脂も内包されているので、単一素材のスポンジ品と比較して防音性にきわめて優れた再生品4を生産することができる。
【0033】
なお、熱硬化性樹脂はEPDMに限定されるものではなく、例えば、NBR、ACM(アクリルゴム)、ウレタンなどを使用することができる。また、NR(天然ゴム)の使用も可能であると共に、これらをミックスしたものでもよい。また、バインダー1として使用する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンの他に、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)が好適である。さらに、このバインダー1は、ポリエチレンなどの帯電付着性に富むものが好ましい。更に、バインダーの粒径は、微細粉砕物2aの粒径以下が望ましい。
【0034】
本実施形態に係る再生方法によって生産することのできる再生品4としては、車両用フロアマット防音材、車両用ドアおよび天井吸音材、車両用タイヤハウスの吸音材および防音材、車両用燃料タンクの緩衝材、道路側壁の防音材など多種多様である。
【0035】
なお、上記実施形態に係る再生方法は、粒径が0.5mm以下の微細粉砕物2aと、それ以上の粒径を持つ粉砕物2を使用している。また、各粉砕物2(微細粉砕物2aを含む)の粒径が揃っていても良いし、また、その形状は長尺状や短尺状(チップ状)であっても良い。さらには、ソリッド材の粉砕物2(または微細粉砕物2a)とスポンジ材の粉砕物2(または微細粉砕物2a)とを混合することもできる。
【0036】
また、粉砕物2(微細粉砕物2a)同士の点状態による接合を邪魔しない範囲で、パウダー状のバインダー1と共に、ポリエチレンフィルムの廃材を細長く裁断したものを使用することも可能である。この場合、細長く裁断されたポリエチレンフィルムが多数の粉砕物2を連続的に接合するので、接合力の高い再生品4を生産することができる。また、ポリエチレンフィルムの廃材を廃棄することなく、再利用できるといった利点もある。
【符号の説明】
【0037】
1 バインダー
2 粉砕物
2a 微細粉砕物
3 廃材
4 再生品
5 粉砕機
6 金型
G 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂製品の廃材を細かく砕いて無数の粉砕物を生成し、それに熱可塑性樹脂材のバインダーを混合した後、加熱および冷却することによって接合して新たな製品を生産する再生方法において、
前記バインダーをパウダー状とし、前記粉砕物同士を点接触によって接合したことを特徴とする熱硬化性樹脂廃材の再生方法。
【請求項2】
前記廃材の粉砕物が、少なくとも粒径0.5mm以下の微細粉砕物を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂廃材の再生方法。
【請求項3】
前記バインダーが、粒径500μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂廃材の再生方法。
【請求項4】
前記廃材が少なくともスポンジ材を含んでいることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の熱硬化性樹脂廃材の再生方法。
【請求項5】
前記廃材がEPDMであり、前記バインダーがポリエチレンであることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一つに記載の熱硬化性樹脂廃材の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−241045(P2010−241045A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94129(P2009−94129)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000196107)西川ゴム工業株式会社 (454)
【Fターム(参考)】