説明

熱線遮蔽複層ガラス

【課題】熱線遮蔽性に優れ、結露を防止することができる熱線遮蔽複層ガラスを提供する。
【解決手段】2枚のガラス板11,12がスペーサー22介して積層され、スペーサー22により2枚ガラス板間に空隙部からなる中空層20が形成されている複層ガラス100であって、一方のガラス板(A)11の中空層20側表面に、接着樹脂層18とタングステン化合物を含む熱線吸収層14とがこの順で設けられ、他方のガラス板(B)12の中空層20側表面に熱線反射層16が設けられていることを特徴とする熱線遮蔽複層ガラス100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物等の窓ガラスに用いられる防露性に優れる熱性遮蔽複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、住宅やオフィスビル等の建築物や車両の窓に複層ガラスが用いられている。複層ガラスは、図5に記載の概略断面図のように、一般的に2枚のガラス板110、120が中空層210を介して平行に配置された構造を有する。中空層210は、フレーム状のスペーサー220を介して2枚のガラス板110、120を配置することにより形成される。この2枚のガラス板110、120の周縁部はサッシ枠に装着する際の介装材であるグレージングチャンネル240に取り付けられている。中空層200の存在により、複層ガラス50を介した熱の出入りを抑制し、複層ガラス50全体に断熱性を付与することが可能となる。したがって、複層ガラス50を使用することにより、冷房や暖房による消費エネルギーを軽減することができる。
【0003】
近年では、太陽光に含まれる熱線を遮蔽する性能を更に有する複層ガラスも知られている。例えば、金属酸化物膜/Ag膜等を主成分とする貴金属膜/金属酸化物膜を積層した熱線遮蔽膜(Low−E膜ともいう)を複層ガラスの中空層側面に被覆して形成した熱線遮蔽性を有する複層ガラスが開発され、実用化されている(例えば、特許文献1)。Low−E膜は太陽光の可視光領域は透過し、室内から放射される暖房等の遠赤外線は反射して逃がさない機能(断熱性)を有する。
【0004】
Low−E膜は、室外側に施されている場合は外熱遮蔽により冷房効率を上げるのに効果的とされ、逆に室内側面に施されている場合は断熱性向上できることにより、暖房効率を上げるのに効果的とされている。これにより、冷暖房による消費エネルギーを、更に軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−226237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような複層ガラスは、そのユニット自体の温度が低いため、室内の温度と室内側表面の温度に差がある場合には、ガラス板表面やガラス板とグレージングチャンネルとの間の微小な隙間などに結露が生じやすい。結露によってカビの発生や腐食場合があり、衛生的、耐久性に問題がある。
【0007】
この問題に対して、これまでは一般的にスペーサーの厚みを厚くしたり、複層大判化を敢えてさける等の対策を行ってきたが、この方法では、サッシが厚くなるため、実用上に不都合(重量・かさ高さ)があるばかりか、外観上サイズ上の制約もあり、建物や自動車の設計の自由度に不都合が生じていた。
【0008】
従って、本発明の目的は、熱線反射層が設けられた複層ガラスであって、防露性に優れる熱線遮蔽複層ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、2枚のガラス板がスペーサーを介して積層され、スペーサーにより2枚ガラス板間に空隙部からなる中空層が形成されている複層ガラスであって、一方のガラス板(A)の中空層側表面に、接着樹脂層とタングステン化合物を含む熱線吸収層とがこの順で設けられ、他方のガラス板(B)の中空層側表面に熱線反射層が設けられていることを特徴とする熱線遮蔽複層ガラスにより達成される。この構成によれば、室内外から侵入した熱線が熱線吸収層に吸収され、その吸収された熱がガラス板及びグレージングチャンネルに伝達することにより、複層ガラスユニット全体を従来の複層ガラスよりも高い温度に保つことができる。これにより、室内外の温度と複層ガラスの温度との差を小さくすることで結露の発生を防止することができる。
【0010】
本発明の熱線遮蔽複層ガラスの好ましい態様は以下の通りである。
(1)熱線吸収層の中空層側表面に、更に接着樹脂層を介してガラス板(C)が設けられている。
(2)スペーサー内に乾燥剤を充填されている。
(3)タングステン化合物は、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物である。
(4)タングステン酸化物が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素を表わし、そして2.2≦z/y≦2.999である)で表され、そして
複合タングステン酸化物が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土塁元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir,Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、し、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、FV、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素を表わし、そして0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3である)で表される化合物である。
(5)Mがセシウムである。
(6)熱線反射層は、少なくとも金属酸化物層/銀含有層/金属酸化物層を含む。
(7)接着樹脂層はエチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分とする。
(8)熱線遮蔽複層ガラスの周縁部がグレージングチャンネルに取り付けられている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱線遮蔽複層ガラスによれば、熱線吸収層により吸収された熱がガラス板及びグレージングチャンネルに伝達することで、室内外の温度とガラス板の温度の差を小さくすることができる。従って、ガラス板表面及びグレージングチャンネルの温度が露点温度以下になりにくく、結露の発生を防止することができる。結露の発生を防止することで熱線反射層に用いられる金属の錆の発生やカビの発生を防止することができ、これにより防露性及び耐久性が高く、衛生的な熱線遮蔽複層ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す概略断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示す概略断面図である。
【図5】従来の複層ガラスを示す概略断面図である。
【図6】Low−E膜を被覆した従来の複層ガラスである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の熱線遮蔽複層ガラスの代表的な一例を示す概略断面図である。
【0014】
なお、本発明において、「ガラス」とは透明基板全般を意味するもので、ガラス板の他、透明プラスチック製基板であっても良い。従って、例えば、熱性遮蔽複層ガラスとは、熱線遮蔽性が付与された複層透明基板を意味する。
【0015】
本発明の熱線遮蔽複層ガラス100は、図1に記載のように、室外側からガラス板11、接着樹脂層18、熱線吸収層14、中空層20、熱線反射層16及びガラス板12となるように構成されている。中空層20は、ガラス板11に接着樹脂層18を介して形成された熱線吸収層14と、熱線反射層16が設けられたガラス板12の外周部にスペーサー22が配置されることにより形成されている。更に、上記熱線遮蔽複層ガラス100の周縁部は、熱線遮蔽複層ガラス100をサッシ枠に装着する際の介装材であるグレージングチャンネル24に取り付けられている。
【0016】
熱線吸収層14はタングステン化合物を含んでおり、可視光透過率を低下させることなく、熱線を吸収することで、断熱性を高めることができる。また、熱線反射層16は、遮熱性を高めたり、室内からの熱線を反射することで、冷暖房負荷を低下させることができる。更に、熱伝導率の低い空気等を充填した中空層20を形成することで、断熱性を更に向上させることができる。
【0017】
この構成により、熱線遮蔽複層ガラス100の遮熱性・断熱性を向上させつつ、熱線吸収層14により吸収された熱が、隣接するガラス板及びグレージングチャンネルへ伝達することにより、グレージングチャンネルを含めた熱線遮蔽複層ガラス100全体を暖めることができる。また、断熱性が高いので夜間に外気温が低下しても内気温に影響を与えにくい。従って、室内と室外の温度に差がある場合であっても、ガラス板及びグレージングチャネル内に生じる結露の発生を防止することができる。
【0018】
図2は、本発明の他の実施の形態を示した概略断面図である。室外側からガラス板11、接着樹脂層18、熱線吸収層14、接着樹脂層19、ガラス板13、中空層20、熱線反射層16、ガラス板12となるように構成した熱線遮蔽複層ガラス200である。即ち、図1に記載の熱線遮蔽複層ガラス100の熱線吸収層14の中空層側に更に接着樹脂層19とガラス板13を設けたものである。この構成であっても、ガラス板13を含めた熱線遮蔽ガラス200全体を暖めることができ、結露の発生を防止することができる。
【0019】
また、本発明の熱線遮蔽複層ガラスを窓枠に設置する場合、何れの面を室内側及び室外側とするかはさほど問題ではなく、図3及び図4に示したように、図1及び図2に記載の熱線遮蔽複層ガラスとは室内及び室外側を逆とした配置であっても本発明の目的を達成することができる。
【0020】
以下に熱線遮蔽ガラスを構成する要素について説明する。
【0021】
[熱線吸収層]
熱線吸収層は熱線吸収剤としてタングステン化合物を含む。タングステン化合物としては、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を用いる。タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物は、可視光透過率を低下させることなく、優れた熱線吸収性を熱線遮蔽ガラスに付与することができる。
【0022】
タングステン酸化物は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表される酸化物である。また、複合タングステン酸化物は、上記タングステン酸化物に、元素M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素)を添加した組成を有するものである。これにより、z/y=3.0の場合も含めて、WyOz中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、1000nm付近の近赤外線吸収剤料として有効となる。本発明では、複合タングステン酸化物が好ましい。
【0023】
上述した一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物において、タングステンと酸素との好ましい組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3よりも少なく、さらには、当該熱線吸収剤をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999である。このz/yの値が、2.2以上であれば、熱線吸収剤中に目的以外であるWOの結晶相が現れるのを回避することが出来るとともに、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので有効な熱線吸収剤として適用できる。一方、このz/yの値が、2.999以下であれば必要とされる量の自由電子が生成され効率よい熱線吸収剤となり得る。
【0024】
複合タングステン酸化物は、安定性の観点から、一般に、MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表される酸化物であることが好ましい。アルカリ金属は、水素を除く周期表第1族元素、アルカリ土類金属は周期表第2族元素、希土類元素は、Sc、Y及びランタノイド元素である。特に、熱線吸収剤としての光学特性、耐候性を向上させる観点から、M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上であるものが好ましい。また、複合タングステン酸化物は、シランカップリング剤で処理されていることが好ましい。優れた分散性、熱線吸収性、及び透明性が得られる。
【0025】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され熱線吸収効果を十分に得ることが出来る。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、熱線吸収効果も上昇するが、x/yの値が1程度で飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、熱線吸収層中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0026】
酸素量の制御を示すz/yの値については、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物においても、上述のWyOzで表記される熱線吸収剤と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましく、さらに好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
【0027】
さらに、複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、当該酸化物の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。
【0028】
この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Feを添加したとき六方晶が形成されやすい。勿論これら以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すれば良く、上記元素に限定される訳ではない。
【0029】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0030】
また、六方晶以外では、正方晶、立方晶のタングステンブロンズも熱線吸収効果がある。そして、これらの結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。このため、より可視光領域の光を透過して、より赤外線領域の光を遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。また、複合タングステン酸化物の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性の向上の観点から好ましい。
【0031】
本発明で使用される複合タングステン酸化物微粒子の平均粒径は、透明性を保持する観点から、10〜800nm、特に10〜400nmであるのが好ましい。これは、800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。この粒子による散乱の低減を重視するとき、平均粒径は20〜200nm、好ましくは20〜100nmが好ましい。
【0032】
なお、上記微粒子の平均粒子径は、熱線吸収層の断面を透過型電子顕微鏡により倍率100万倍程度で観測し、少なくとも100個の微粒子の投影面積円相当径を求めた数平均値とする。
【0033】
複合タングステン酸化物は、例えば下記のようにして製造される。
【0034】
上記一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物、及び/又は、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0035】
タングステン化合物の出発原料には、3酸化タングステン粉末、もしくは酸化タングステンの水和物、もしくは、6塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
【0036】
ここで、タングステン酸化物を製造する場合には製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、を用いることがさらに好ましく、複合タングステン酸化物を製造する場合には、出発原料が溶液であると各元素を容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることがさらに好ましい。これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述した粒径のタングステン酸化物、または/及び、複合タングステン酸化物を得ることができる。
【0037】
また、上記元素Mを含む一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物は、上述した一般式WyOzで表されるタングステン酸化物のタングステン化合物出発原料と同様であり、さらに元素Mを、元素単体または化合物の形で含有するタングステン化合物を出発原料とする。ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料を製造するためには各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0038】
ここで、不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な着色力を有し熱線吸収剤として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100〜650℃で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650〜1200℃の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがHが好ましい。また還元性ガスとしてHを用いる場合は、還元雰囲気の組成として、Hが体積比で0.1%以上が好ましく、さらに好ましくは2%以上が良い。0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
【0039】
水素で還元された原料粉末はマグネリ相を含み、良好な熱線吸収性を示し、この状態で熱線吸収剤として使用可能である。しかし、酸化タングステン中に含まれる水素が不安定であるため、耐候性の面で応用が限定される可能性がある。そこで、この水素を含む酸化タングステン化合物を、不活性雰囲気中、650℃以上で熱処理することで、さらに安定な熱線吸収剤を得ることができる。この650℃以上の熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、工業的観点から、N、Arが好ましい。当該650℃以上の熱処理により、熱線吸収剤中にマグネリ相が得られ耐候性が向上する。
【0040】
本発明の複合タングステン酸化物は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等のカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤が好ましい。これによりバインダ樹脂との親和性が良好となり、透明性、熱線吸収性の他、各種物性が向上する。
【0041】
シランカップリング剤の例として、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシアクリルシランを挙げることができる。ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、トリメトキシアクリルシランが好ましい。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また上記化合物の含有量は、複合タングステン酸化物100質量部に対して5〜20質量部で使用することが好ましい。
【0042】
バインダ樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂を使用することができる。例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂等の透明合成樹脂をあげることができる。耐候性の点でシリコーン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂が好ましく、特に紫外線硬化性樹脂が好ましい。紫外線硬化性樹脂は、短時間で硬化させることができ、生産性に優れているので好ましい。樹脂組成物は、硬化方法に応じて熱重合開始剤、光重合開始剤を含む。さらに、ポリイソシアネート化合物などの硬化剤を含んでいてもよい。
【0043】
熱線吸収層における(複合)タングステン酸化物の含有量は、バインダ樹脂100質量部に対して、10〜500質量部、さらに20〜500質量部、特に30〜300質量部であるのが好ましい。
【0044】
熱線吸収層は、(複合)タングステン酸化物以外に、必要により色素を含んでいてもよい。色素としては、一般に800〜1200nmの波長に吸収極大を有するもので、例としては、フタロシアニン系色素、金属錯体系色素、ニッケルジチオレン錯体系色素、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、ポリメチン系色素、アゾメチン系色素、アゾ系色素、ポリアゾ系色素、ジイモニウム系色素、アミニウム系色素、アントラキノン系色素、を挙げることができ、特にシアニン系色素又、フタロシアニン系色素、ジイモニウム系色素が好ましい。これらの色素は、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0045】
熱線吸収層は、上記色素をバインダ樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部、さらに1〜20質量部、特に1〜10質量部含有することが好ましい。
【0046】
熱線吸収層を作製する場合、(複合)タングステン酸化物等及びバインダ等を含む樹脂組成物を、透明プラスチックフィルムの表面上に塗布し、乾燥させた後、必要に応じて加熱、又は紫外線、X線、γ線、電子線などの光照射により硬化させる方法が好ましく用いられる。乾燥は、透明プラスチックフィルム上に塗布した樹脂組成物を60〜150℃、特に70〜110℃で加熱することにより行うのが好ましい。乾燥時間は1〜10分間程度で良い。光照射は、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線を照射して行うことができる。
【0047】
透明プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリメチルメタクリレート(PMMA)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリエチレンブチレートフィルム等を挙げることができ、特に加工時の熱、溶剤、折り曲げ等の負荷に対する耐性が高く、透明性が高い点で、PETフィルムが好ましい。また、透明プラスチックフィルム表面には、接着性を向上させるために、予めコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、プライマー層コート処理などの接着処理を施してもよく、共重合ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂等の易接着層を設けてもよい。透明プラスチックフィルムの厚さは、一般に、1μm〜10mm、好ましくは10〜400μmであり、特に20〜200μmが好ましい。
【0048】
[熱線反射層]
本発明の熱線遮蔽複層ガラスに用いられる熱線反射層は、タングステン酸化物及び複合タングステン酸化物以外の金属酸化物からなる。金属酸化物としては、可視光を選択的に透過させ、熱線を選択的に反射することができるものが使用できる。
【0049】
金属酸化物として具体的には、酸化スズ、スズ含有酸化インジウム(ITO)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、酸化インジウム、アンチモン含有酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化イットリウムなどが挙げられる。なかでも、酸化スズ、アンチモン含有酸化スズ、及びスズ含有酸化インジウムが好ましく挙げられる。これらの金属酸化物によれば、耐久性にすぐれる熱線反射層を形成することができる。また、金属酸化物は、一種単独で用いられてもよく、二種以上を併用することもできる。
【0050】
熱線反射層の厚さは、0.02〜1μm、特に0.05〜0.1μmであるのが好ましい。このように薄い熱線反射層であっても、上述した熱線吸収層を用いることにより優れた熱線遮蔽性を有する熱線遮蔽ガラスを提供することが可能となる。
【0051】
熱線反射層を作製するには、物理蒸着法、化学蒸着法、溶射法およびメッキ法が挙げられる。物理蒸着法としては真空蒸着法、スパッタリングおよびイオンプレーティングが挙げられる。化学蒸着(CVD)法としては、熱CVD法、プラズマCVD法および光CVD法等がある。該方法によりダイヤモンドライクカーボン、TiN、CrNのような硬質被膜を形成することが可能である。また、溶射法としては大気圧プラズマ溶射法、および減圧プラズマ溶射法等がある。メッキ法としては、無電解メッキ(化学メッキ)法、溶融メッキおよび電気メッキ法等が挙げられ、電気メッキ法においてはレーザーメッキ法を用いることができる。
【0052】
熱線反射層としては、Low−E膜として知られる低放射性金属膜を用いることもできる。Low−E膜は放射による熱エネルギー移動を低下させることができ、これにより熱線遮蔽性を複層ガラスに付与することができる。
【0053】
Low−E膜としては、例えば、金属酸化物層/Ag層/金属酸化物層をこの順でガラス板に被覆したものや、金属酸化物層/Ag層/金属酸化物層/Ag層/金属酸化物層をこの順でガラス板に被覆したもの等を用いる。このうちAg層を2層有するLow−E膜は、可視光領域の反射を高くすることなく、近赤外線領域で急嵯に反射を高めることができるため、Ag層を2層設けたLow−E膜を用いることが好ましい。金属酸化物層としては、酸化亜鉛や酸化スズを用いる。
【0054】
Low−E膜はAg等の金属を含むため、結露により中空層に水分が介入した場合には、その金属が酸化して錆が発生する場合がある。しかしながら、本発明による熱線遮蔽複層ガラスは結露を防止することができるため、Low−E膜が錆びることを防止することができる。
【0055】
[接着樹脂層]
本発明の熱線遮蔽複層ガラスにおいて、接着樹脂層には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、金属イオン架橋エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、部分鹸化エチレン−酢酸ビニル共重合体、カルボキシル化エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル−(メタ)アクリレート共重合体などのエチレン系共重合体を使用することができる(なお、「(メタ)アクリル」は「アクリル又はメタクリル」を示す。)。その他、接着樹脂層には、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ゴム系粘着剤、SEBS及びSBS等の熱可塑性エラストマー等も用いることができる。なかでも、優れた接着性を有することから接着樹脂層には、EVAを用いるのが好ましい。
【0056】
接着樹脂層に用いられるEVAは、酢酸ビニル含有率が、EVA100質量部に対して、23〜38質量部であり、特に23〜28質量部であることが好ましい。これにより接着性及び透明性に優れる接着樹脂層を得ることができる。またEVAのメルト・フロー・インデックス(MFR)が、1.0〜30.0g/10分、特に1.5〜5.0g/10分であることが好ましい。予備圧着が容易になる。
【0057】
接着樹脂層は、EVAの他に、有機過酸化物を含むのが好ましい。これによりEVAを架橋させて、接着樹脂層と他の層とを接合一体化することができる。
【0058】
この有機過酸化物の例としては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3−ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート、ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、ヒドロキシヘプチルパーオキサイド、クロロヘキサノンパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、クミルパーオキシオクトエート、コハク酸パーオキサイド、アセチルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレーオ及び2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドを挙げることができる。
また、接着樹脂層は、さらに架橋助剤、シランカップリング剤を含むのが好ましい。
【0059】
架橋助剤としては、架橋助剤としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等に複数のアクリル酸あるいはメタクリル酸をエステル化したエステル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの多官能化合物を挙げることができる。
【0060】
また、シランカップリング剤の例としては、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また上記化合物の含有量は、エチレン系共重合体100質量部に対して5質量部以下であることが好ましい。
【0061】
接着樹脂層は、種々の物性(機械的強度、接着性、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整、特に機械的強度の改良のため、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物、エポキシ基含有化合物、可塑剤、紫外線吸収剤を含んでいることが好ましい。
【0062】
接着樹脂層の厚さは、100〜2000μm、特に400〜1000μmであるのが好ましい。
【0063】
EVAを含有する接着樹脂層を作製するには、例えば、EVA及び有機過酸化物等を含む組成物を、通常の押出成形、カレンダ成形(カレンダリング)等により成形して層状物を得る方法などを用いることができる。組成物の混合は、40〜90℃、特に60〜80℃の温度で加熱混練することにより行うのが好ましい。また、製膜時の加熱温度は、架橋剤が反応しない或いはほとんど反応しない温度とすることが好ましい。例えば、40〜90℃、特に50〜80℃とするのが好ましい。接着樹脂層は透明プラスチックフィルムやガラス板の表面に直接形成しても良く、別途、フィルム状の接着剤シートを使用して形成しても良い。
【0064】
例えば、図1に記載の熱線遮蔽複層ガラス100におけるガラス板11と、プラスチックフィルム上に熱線吸収剤を塗工した熱線吸収層14を接着するには、これらの間に上記接着樹脂層18を挟持した積層体を脱気した後、加熱下(好ましくは40〜200℃で1〜120分間、特に60〜150℃で1〜20分間)に押圧(好ましくは1.0×10〜5.0×10Paの圧力)して接着一体化すればよい。これらの工程は例えば、真空袋方式、ニップロール方式等で行うことができる。
【0065】
例えば、接着樹脂層18にEVAを使用した場合、一般に100〜150℃(特に130℃付近)で、10分〜1時間架橋させる。これは、積層体を脱気した後、例えば80〜120℃の温度で予備圧着し、100〜150℃(特に130℃付近)で、10分〜1時間加熱処理することにより行われる。架橋後の冷却は一般に室温で行われるが、特に、冷却は早いほど好ましい。
【0066】
[ガラス板]
本発明におけるガラス板は透明基板であれば良く、例えば、グリーンガラス、珪酸塩ガラス、無機ガラス板、無着色透明ガラス板などのガラス板の他、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンブチレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のプラスチック製の基板又はフィルムを用いてもよい。耐候性、耐衝撃性等の点でガラス板が好ましい。ガラス板の厚さは、1〜20mm程度が一般的である。
【0067】
[その他]
中空層としては、空気層、不活性ガス層、及び減圧層などが用いられる。これらの中空層によれば、複層ガラスに求められる断熱性を向上するとともに、熱線吸収層の経時的劣化を抑制することができる。中空層は、スペーサー22内に乾燥剤を入れることにより乾燥空気を用いてもよい。不活性ガス層は、クリプトンガス、アルゴンガス、及びキセノンガスなどの不活性ガスを含む。減圧層の気圧は、1.0Pa以下、特に0.01〜1.0Paとするのが好ましい。中空層の厚さは、6〜12mmであるのが好ましい。中空層を形成するために配置されるスペーサーには乾燥剤が充填されていることが好ましい。乾燥剤を入れることにより確実に結露を防止することができる。
【0068】
複層ガラスをサッシ枠に装着する際の介装材であるグレージングチャンネルとしては、従来から用いられているゴム製やプラスチック製のものでよい。特に密閉性が高く外部の空気及び水が侵入しにくいグレージングチャンネルが好ましい。グレージングチャンネルは凹状の断面を有し、この凹み部に複層ガラスの周縁部を嵌め込むことで窓枠に設置することが可能となる。
【0069】
本発明の熱線遮蔽複層ガラスは、熱線反射層及び熱線吸収層の他に、ネオン発光吸収層、紫外線吸収層等の各種機能を有する層を有していても良い。
【0070】
ネオン発光吸収層(ネオンカット層)は、ネオン発光の選択吸収色素を含む層である。ネオン発光の選択吸収色素としては、ポルフィリン系色素、アザポルフィリン系色素、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、アントラキノン系色素、フタロシアニン系色素、ポリメチン系色素、ポリアゾ系色素、アズレニウム系色素、ジフェニルメタン系色素、トリフェニルメタン系色素を挙げることができる。このような選択吸収色素は、585nm付近のネオン発光の選択吸収性とそれ以外の可視光波長において吸収が小さいことが必要であるため、吸収極大波長が560〜610nmであり、吸収スペクトル半値幅が40nm以下であるものが好ましい。
【0071】
紫外線吸収層は、紫外線吸収剤を含む層であり、紫外線吸収剤として、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物及び、ヒンダードアミン系化合物、サリチル酸系化合物、シアノアクリレート系化合物等を使用することができる。
【0072】
これらの層は、各化合物の性質(溶解性、反応性等)に応じて別々の層として形成しても良く、各化合物を混合して同一の層として形成しても良い。また、光学特性に大きな影響を与えない限り、これらの層に着色用の色素、酸化防止剤等をさらに加えても良い。
【0073】
複層ガラスの形状は、用途に応じて、矩形状、丸状、菱形状など、種々の形状とすることができる。複層ガラスの用途についても、建築物や乗り物(自動車、鉄道車両、船舶)用の窓ガラス、あるいは、プラズマディスプレイなどの機器要素をはじめとして、冷蔵庫や保温装置などのような各種装置の扉や壁部など、種々の用途に使用することができる。
【0074】
本発明の複層ガラスを比較的、緯度が高い地域など、寒冷地域で使用する場合には、熱線吸収層を室外側、熱線反射層を室内側として配置することが好ましい。室内から放射される暖房等の赤外線を反射して逃がさず(断熱性)、暖房効率を高めることができるからである。本発明の複層ガラスは断熱性に優れるので、寒冷地域でより有効に使用することができる。
【0075】
一方、本発明の複層ガラスを、比較的、緯度が低い地域など、温暖な地域において使用する場合には、熱線吸収層を室内側、熱線反射層を室外側として配置することが好ましい。太陽光や室外から照射される近赤外線を効果的に遮蔽できるからである。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例により説明する。
1.熱線吸収層の作製
下記成分を含む組成物をポリエチレンフタレート(PET)フィルム(厚さ125μm)上に、バーコーターを用いて塗布し、80℃のオーブン中で2分間乾燥させた後、高圧水銀灯により500mJ/cmのUV積算光量として紫外線を照射することにより、PETフィルム上に熱線吸収層(厚さ8μm)を作製した。
【0077】
熱線吸収層形成用組成物の組成:
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:
光重合開始剤(イルガキュア(登録商標)184(チバ・スペシャリティー・ケミカル(株)製))
Cs0.03WO(平均粒径80nm):20質量部
メチルイソブチルケトン:300質量部。
【0078】
2.熱線反射層の作製
インライン式の直流スパッタリング装置を用いて、フロートガラス(厚さ3mm)上に、ガラス板側から、酸化亜鉛膜(厚さ50nm)、銀膜(厚さ10nm)、酸化チタン膜(厚さ2nm)、酸化亜鉛膜(厚さ50nm)をこの順に含む熱線反射膜を成膜することによりフロートガラス上に熱線反射層を形成した。酸化亜鉛膜はアルゴンと酸素とを1:9の流量比で導入した0.4Paの減圧雰囲気下で、その他の膜は0.4Paに減圧したアルゴン雰囲気下で、それぞれ成膜した。酸化亜鉛膜、銀膜、酸化チタン膜は、それぞれ、亜鉛、銀、チタンをターゲットとして成膜した。酸化チタン膜は、チタン膜として成膜し、この膜を次の酸化亜鉛膜の成膜工程で酸化して生成させた。成膜条件(印加電圧、成膜時間等)は、各膜の膜厚が上記の値となるように予め確認した条件を適用した。
【0079】
3.接着樹脂層の作製
下記の配合を原料としてカレンダ成形法によりシート状の接着樹脂層(厚さ400μm)を得た。なお、配合物の混練は80℃で15分行い、またカレンダロールの温度は80℃、加工速度は5m/分であった。
【0080】
接着樹脂層の配合:
EVA(EVA100質量部に対する酢酸ビニルの含有量25質量部、
東ソー製) 100質量部
架橋剤(tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート;
日本油脂製) 2.5質量部
架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート;
日本化成製) 2質量部
シランカップリング剤(γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン;
信越化学製) 0.5質量部。
【0081】
4.熱線吸収層が形成されたPETフィルムとガラス板の接着一体化
ガラス板(厚さ3mm)上に、上述のようにして得られた接着樹脂層、熱線吸収層が形成されたフィルムをこの順で積層した。得られた積層体を、100℃で30分間加熱することにより仮圧着を行った後、オートクレーブ中で圧力13×10Pa、温度140℃の条件で30分間加熱した。これにより、接着樹脂層を硬化させて、PETフィルムとガラス板を接着一体化させた。
【0082】
(実施例1)
図1に記載のように、室外側からフロートガラス11(3mm)、接着樹脂層18(400μm)、熱線吸収層14(133μm)、中空層20(6mm)、中空層側に熱線反射層16(112nm)を被覆したフロートガラス板12(3mm)をこの順で配置した。中空層20は、熱線吸収層14と熱線反射層16の間の外周部に、乾燥剤入りスペーサー22を配置しブチルゴムにより接着することにより形成した。これにより得た熱線遮蔽複層ガラス100の周縁部をグレージングチャンネルに取り付けた。
【0083】
(実施例2)
図2に記載のように、室外側からフロートガラス11(3mm)、接着樹脂層18(400μm)、熱線吸収層14(133μm)、接着樹脂層19(400μm)、フロートガラス13(3mm)、中空層20(6mm)、中空層側に熱線反射層16(112nm)を被覆したフロートガラス12(3mm)をこの順で配置した。中空層は、中央のフロートガラス13と熱線反射層16の間の外周部に、乾燥剤入りスペーサーを配置しブチルゴムにより接着することにより形成した。これにより得た熱線遮蔽複層ガラス200の周縁部をグレージングチャンネルに取り付けた。
【0084】
(実施例3)
図3のように、実施例1とは室内と室外を反対に配置した熱線遮蔽複層ガラス300を形成し、グレージングチャンネルに取り付けた。
【0085】
(実施例4)
図4のように、実施例2とは室内と室外を反対に配置した熱線遮蔽複層ガラス400を形成し、グレージングチャンネルに取り付けた。
【0086】
(比較例1)
図5のように、2枚のフロートガラス110、120(3mm)を乾燥剤入りスペーサー220を介して対向させ、これにより中空層210を形成した。これにより得た複層ガラス50の周縁部をグレージングチャンネル240に取り付けた。
【0087】
(比較例2)
図6のように、比較例1の複層ガラスの室内側ガラスの中空層側表面に実施例1〜4で用いたものと同様の熱線反射層160を被覆した複層ガラス60を形成し、これをグレージングチャンネル240に取り付けた。
【0088】
[評価方法]
上述のように作製した複層ガラスを模擬的建築物に取り付け、外気温及び内気温を表1及び2に記載の通りに設定し、6時間毎にガラス室外側温度及びガラス室内側温度を測定した。また、熱貫流率(U値)をJIS R3107に従い算出した。
1.結露発生の有無
グレージングチャンネルから複層ガラスを取り外し、グレージングチャネル内の表面を、ルーペを用いて観察し、結露(水滴)の発生の有無を調べた。
2.暖房負荷の測定
内気温を23℃に保つための暖房に使用した電力を24時間あたりの暖房負荷(kWh)として測定した。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
[評価結果]
実施例1〜4においては、ガラス室外側温度が比較例1及び2に比較して高く保たれていた。特に、外気温が最も低下するAM6時においても、ガラス室外側温度が低下しにくいことが認められた。また、比較例1及び2は結露の発生が認められたが、実施例1〜4においてはグレージングチャンネル内の結露の発生が認められなかった。また、24時間当たりの暖房負荷(kWh)は、比較例1,2と比較して実施例1〜4は低下していた。
【0092】
以上により、上記実施例1〜4に記載のように配置した熱線遮蔽複層ガラスであれば、結露が発生せず、暖房負荷を低減することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
冷暖房負荷が低減され、結露の発生を防止することができる熱線遮蔽複層ガラスを提供することができる。
【符号の説明】
【0094】
11,12,13 ガラス板
14 熱線吸収層
16 熱線反射層
18、19 接着樹脂層
20 中空層
22 スペーサー
24 グレージングチャンネル
100、200、300、400 熱線遮蔽複層ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚のガラス板がスペーサーを介して積層され、スペーサーにより2枚ガラス板間に空隙部からなる中空層が形成されている複層ガラスであって、
一方のガラス板(A)の中空層側表面に、接着樹脂層とタングステン化合物を含む熱線吸収層とがこの順で設けられ、他方のガラス板(B)の中空層側表面に熱線反射層が設けられていることを特徴とする熱線遮蔽複層ガラス。
【請求項2】
前記熱線吸収層の中空層側表面に、更に接着樹脂層を介してガラス板(C)が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱線遮蔽複層ガラス。
【請求項3】
前記スペーサー内に乾燥剤を充填したことを特徴とする請求項1又は2の何れか1項に記載の熱線遮蔽複層ガラス。
【請求項4】
前記タングステン化合物は、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の熱線遮蔽複層ガラス。
【請求項5】
前記タングステン酸化物が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素を表わし、そして2.2≦z/y≦2.999である)で表され、そして
前記複合タングステン酸化物が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土塁元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir,Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、し、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、FV、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素を表わし、そして0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3である)で表されることを特徴とする請求項4に記載の熱線遮蔽複層ガラス。
【請求項6】
前記Mがセシウムであることを特徴とする請求項5に記載の熱線遮蔽複層ガラス。
【請求項7】
前記熱線反射層は、少なくとも金属酸化物層/銀含有層/金属酸化物層を含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の熱線遮蔽複層ガラス。
【請求項8】
前記接着樹脂層はエチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分とする請求項1〜7の何れか1項に記載の熱線遮蔽複層ガラス。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の熱線遮蔽複層ガラスの周縁部をグレージングチャンネルに取り付けて窓枠に設置する熱線遮蔽複層ガラスの設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−178608(P2011−178608A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44895(P2010−44895)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】