説明

熱電供給型有機ハイドライドステーション

【課題】ステーション全体としてのエネルギー効率を向上させることができる熱電供給型有機ハイドライドステーションを提供する。
【解決手段】熱及び電気を発生させると共に、発生させる熱の量と電気の量との比率を変更することができる熱電供給機器8と、熱電供給機器8から熱を供給され、有機ハイドライドの脱水素反応を行う脱水素反応器2と、熱電供給機器8から電気を供給され、有機ハイドライドから取り出された水素を圧縮する水素圧縮機5と、ステーション内において必要とされる電気の量に基づいて熱電供給機器8の運転条件を設定すると共にと、脱水素反応器2及び水素圧縮機5を同時に起動させる制御装置11と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハイドライドを脱水素して、高圧水素の供給を行う熱電供給型有機ハイドライドステーションに関する。
【背景技術】
【0002】
有機ハイドライドは常温では液体であり、ガソリンと同様な取り扱いを行うことが可能であるため、既存の設備を用いて安価に且つ効率的に輸送できるというメリットがある。しかしながら、脱水素反応が吸熱反応であるため、ステーション内で熱を供給するためのエネルギーが別途必要となってしまい、総合的に見てエネルギー効率が低下してしまうという問題がある。ここで、従来のステーションとして、ステーション内に熱と電気を発生させることのできる熱電供給機器を設置したものが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。従来のステーションにおいて、熱電供給機器は、高温ガスを脱水素反応器へ供給することによって熱を供給し、発生させた電気をステーション内の機器に供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−197705号公報
【特許文献2】特開2006−221850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のステーションにあっては、熱電供給機器の運転条件の設定や、ステーションにおける状況にあわせた運転方法を更に最適化することによって、ステーション全体としてのエネルギー効率を更に向上させることが求められていた。
【0005】
そこで、本発明は、ステーション全体としてのエネルギー効率を向上させることができる熱電供給型有機ハイドライドステーションを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションは、有機ハイドライドを脱水素して、高圧水素の供給を行う熱電供給型有機ハイドライドステーションであって、熱及び電気を発生させると共に、発生させる熱の量と電気の量との比率を変更することができる熱電供給機器と、熱電供給機器から熱を供給され、有機ハイドライドの脱水素反応を行う脱水素反応器と、熱電供給機器から電気を供給され、有機ハイドライドから取り出された水素を圧縮する水素圧縮機と、ステーション内において必要とされる電気の量に基づいて熱電供給機器の運転条件を設定する運転条件設定手段と、脱水素反応器及び水素圧縮機を同時に起動させる起動手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションにおいて、熱電供給機器は、発生させる熱の量と電気の量の比率を変更することができる。また、運転条件設定手段は、ステーション内において必要とされる電気の量に基づいて熱電供給機器の運転条件を設定することができる。従って、運転条件設定手段は、必要とされる電気の量が多い場合には、発生させる電気の量の比率が高くなるように運転条件を設定し、必要とされる電気の量が少ない場合には、発生させる電気の量の比率が低くなるように運転条件を設定することができる。このように、運転条件設定手段は、ステーション内の状況にあわせた適切な運転条件を選択することができる。
【0008】
ここで、熱電供給機器は、発生させる熱の量と電気の量の比率を一定の範囲で変更することができるものの、例えば、熱に比して電気の量の比率を極端に少なくすること(脱水素に必要な量の熱を発生させつつ、発生させる電力を極めて少量に抑えること)はできない。ここで、本発明者らは、水素圧縮機が必要とする電気の量は、ステーション内の他の機器に比して大幅に多いことに注目した。このような見地から、本発明者らは、熱を必要とする脱水素反応器と電気を多く必要とする水素圧縮機とを同時に起動させることを見出した。そこで、起動手段は、脱水素反応器及び水素圧縮機を同時に起動させることができる。このように、脱水素反応器と同時に水素圧縮機を起動させることで、熱電供給機器で発生した電気は、一定量が確実に水素圧縮機で使用される。従って、本発明に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションは、発生させた電気の多くが余剰となることを抑制し、リアルタイムで使用される熱と電気を、必要な量にあわせて熱電供給機器において発生させることができる。これによって、ステーション全体としてのエネルギー効率を向上させることができる。
【0009】
また、本発明に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションにおいて、水素圧縮機によって圧縮された高圧水素を貯留する蓄圧器を更に備え、起動手段は、蓄圧器の圧力に基づいて、脱水素反応器及び水素圧縮機を同時に起動させることができる。これによって、起動手段は、蓄圧器の圧力が下がって高圧水素が不足となるような場合に、直ちに高圧水素を補うことができる。
【0010】
更に、本発明に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションにおいて、脱水素反応器によって有機ハイドライドから取り出された水素を貯留するバッファタンクを更に備え、起動手段は、バッファタンクの水素量に基づいて、脱水素反応器及び水素圧縮機を同時に起動させてもよい。また、本発明に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションにおいて、起動手段は、脱水素反応器の圧力に基づいて、脱水素反応器及び水素圧縮機を同時に起動させてもよい。
【0011】
また、具体的に、本発明に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションにおいて、熱電供給機器がSOFCまたはエンジン発電機である。
【0012】
また、本発明に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションにおいて、具体的には、有機ハイドライドがメチルシクロヘキサンであり、その脱水素化物がトルエンである。
【0013】
また、本発明に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションにおいて、燃料電池自動車、及び水素エンジン車に水素を供給し、有機ハイドライド自動車に有機ハイドライドを供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ステーション全体としてのエネルギー効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションの制御処理の内容を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションの実施例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る熱電供給型有機ハイドライドステーションの構成を示すブロック図である。有機ハイドライドは、製油所で大量に生産されている水素を芳香族炭化水素と反応させた水素化物である。有機ハイドライドは、ガソリンなどと同様に液体燃料としてローリーなどによって熱電供給型有機ハイドライドステーション100へ輸送することができる。本実施形態では有機ハイドライドとして、メチルシクロヘキサン(以下、MCHと称する)を用いる。その他、有機ハイドライドとしてシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、メチルデカリン、ジメチルデカリン、エチルデカリンなど芳香物炭化水素の水素化物を適用することができる。熱電供給型有機ハイドライドステーション100は、燃料電池自動車や水素エンジン車に水素を供給することができる。また、熱電供給型有機ハイドライドステーション100は、有機ハイドライド自動車に有機ハイドライドを供給してもよい。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る熱電供給型有機ハイドライドステーション100は、脱水素反応器2、水素精製器3、バッファタンク4、水素圧縮機5、蓄圧器6、ディスペンサ7、熱電供給機器8、MCH供給装置9、燃料供給装置10、制御装置11を備えて構成されている。
【0019】
脱水素反応器2は、脱水素触媒を用いた脱水素反応によってMCHから水素を取り出すと共に、取り出した水素と脱水素化物であるトルエンを分離する機器である。脱水素反応は吸熱反応であるため、脱水素反応器2は熱電供給機器8から高温ガスを介して熱を供給される。脱水素反応器2は、取り出した水素を水素精製器3に供給し、分離されたトルエンを回収する。
【0020】
水素精製器3は、脱水素反応器2で取り出された水素を更に精製する機器である。バッファタンク4は、精製された水素を貯留することのできるタンクである。水素圧縮機5は、バッファタンク4に貯留された水素を圧縮することのできる機器である。水素圧縮機5は、熱電供給型有機ハイドライドステーション100の中でも特に多くの電気が必要とされる機器である。蓄圧器6は、水素圧縮機5で圧縮された水素を高圧状態にて貯めておくことのできる機器である。ディスペンサ7は、蓄圧器6に貯められている水素を燃料電池車などに供給することのできる機器である。
【0021】
熱電供給機器8は、熱と電気を同時に供給することのできる機器であり、例えばSOFCやエンジン発電機を適用することができる。熱電供給機器8は、例えば、排ガス用の配管を介して脱水素反応器2と接続されている。これによって、熱電供給機器8は、脱水素反応器2に高温ガスを供給することによって、当該脱水素反応器2に熱を供給することができる。また、熱電供給機器8は、発生させた電力を水素圧縮機5、及び熱電供給型有機ハイドライドステーション100の他の機器に供給することができる(なお、熱電供給型有機ハイドライドステーション100内の各機器は、外部の系統電力から電力を供給されることもできる)。更に、熱電供給機器8は、発生させた電力を、電気自動車に電力を供給するための蓄電器に供給し、あるいは売電することもできる。
【0022】
熱電供給機器8は、設定された運転条件に応じて、発生させる熱の量と電気の量との比率を変更することができる。具体的には、熱電供給機器8としてエンジン発電機を適用する場合、熱電供給機器8は、運転条件が調整されることによって、発電効率を10〜35%程度の範囲で変更するのに対して、熱効率を60〜35%程度の範囲で変更することができる。例えば、ステーション内における電気需要が少ないときには、発電効率が10%となり、熱効率が60%となるように運転条件を設定することができる。一方、ステーション内における電気需要が多いとき(例えば、電気自動車に対して電力を供給する蓄電器の残りが少なくなっている場合や、所定の理由によってステーション内における機器が多くの電気を要求している場合など)は、発電効率が30%となり、熱効率が40となるように運転条件を設定することができる。熱電供給機器8としてSOFCを適用する場合も同様で、熱電供給機器8は、運転条件が調整されることによって、発電効率を30〜45%程度の範囲で変更するのに対して、熱効率を65〜50%程度の範囲で変更することができる。
【0023】
MCH供給装置9は、脱水素反応器2にMCHを供給することのできる機器であり、ポンプなどによって構成されている。燃料供給装置10は、熱電供給機器8に対して燃料を供給することのできる機器である。MCH供給装置9及び燃料供給装置10は、運転状況にあわせて供給量を制御することが可能である。
【0024】
制御装置11は、熱電供給型有機ハイドライドステーション100の全体的な制御を行うことのできる装置である。制御装置11は、熱電供給型有機ハイドライドステーション100内の各機器、及び図示されていない機器やセンサのぞれぞれと電気的に接続されており、システム内における入力信号を取得すると共に、各機器に対して制御信号を出力することができる。なお、図1においては制御装置11と各機器の電気的な接続関係は省略されている。
【0025】
本実施形態において、制御装置11は、ステーション内の状況を把握し、ステーション内において必要とされる電気の量を取得する機能を有している。例えば、ステーション内における機器がどの程度の電気を必要としているかや、電気自動車に電気を供給するための蓄電器(不図示)の残りの電力を把握することができる。更に、制御装置11は、熱電供給機器8が脱水素反応器2に供給するのに必要とされる熱量を取得する機能を有している。また、制御装置11は、ステーション内において必要とされる電気の量に基づいて、熱電供給機器8の運転条件を設定する機能を有している。すなわち、制御装置11は、ステーション内において電気需要が多いときは、発電効率の比率が高くなるように運転条件を設定し、電気需要が少ないときは発電効率の比率が低くなるように運転条件を設定することができる。このとき、制御装置11は、必要とされる熱量も考慮して運転条件を設定する。また、制御装置11は、設定した運転条件にて熱電供給機器8の運転が行われるように、システム内の機器を制御する機能を有している。また、制御装置11は、脱水素反応器2及び水素圧縮機5を同時に起動させる機能を有している。なお、「同時に起動」とは、完全に同一の時間で起動させる場合のみならず、各機器の起動特性などにより誤差の範囲で起動時間がずれるような場合も含む。
【0026】
制御装置11は、脱水素反応器2及び水素圧縮機5を同時に起動させるための条件として、所定の条件をトリガーとすることができる。例えば、制御装置11は、蓄圧器6の圧力を監視しておき、当該圧力が所定の閾値以下となることをトリガーとすることができる。また、制御装置11は、バッファタンク4の水素量を監視しており、当該水素量が所定の閾値以下となることをトリガーとすることができる。更に、制御装置11は、脱水素反応器2の圧力(例えば、リアクタの出口圧)を監視しており、当該圧力が所定の閾値以下となることをトリガーとすることができる。なお、制御装置11は、上述の条件のうち、いずれか一つをトリガーとしてもよく、あるいは二つの条件が満たされたことをトリガーとしてもよく、三つの条件の全てが満たされたことをトリガーとしてもよい。
【0027】
次に、本実施形態に係る熱電供給型有機ハイドライドステーション100の制御方法について図2を参照して説明する。図2は、本実施形態に係る熱電供給型有機ハイドライドステーション100の制御処理の内容を示すフローチャートである。図2の処理は、図1に示す各機器及び熱電供給機器8が停止しているときにおいて、制御装置11内において所定のタイミングで実行される。以下の説明では、300Nm/h級の熱電供給型有機ハイドライドステーション100であって、熱電供給機器8として、エンジン発電機を適用した場合における例について説明する。また、トリガーとして蓄圧器6の圧力のみを用いる。このとき、水素圧縮機5を運転するための電気需要は0〜100kWhであり、ステーション内における当該水素圧縮機5以外の機器や設備による電気需要は0〜20kWhとなる(ただし、例えば蓄電器がステーション内に多く備わっているような場合は、更に多くなる場合がある)。
【0028】
図2に示すように、制御装置11は、蓄圧器6の圧力を監視しておき、当該蓄圧器6の圧力が所定の閾値以下となったか否かを判定する(ステップS10)。S10において、圧力が閾値より大きいと判定した場合は、蓄圧器6に十分な高圧水素が存在するとして、制御装置11は、蓄圧器6の監視を継続する。
【0029】
S10において、蓄圧器6の圧力が所定の閾値以下となったと判定した場合、蓄圧器6の高圧水素が減少したとして、制御装置11は高圧水素を製造するための処理を実行する。まず、制御装置11は、脱水素反応器2に供給するのに必要とされる熱量を取得する(ステップS20)。ここで、必要とされる熱量とは、脱水素反応に必要な熱量及び熱電供給機器8の熱利用率(%)を考慮した熱量である。具体的に、300Nm/h級の熱電供給型有機ハイドライドステーション100の場合、脱水素反応に要する理論熱量は0〜250kWhである。しかしながら、熱電供給機器8が供給する熱量の全てを脱水素反応に用いることはできないため、熱利用率(%)に応じて多めに熱量を供給する必要がある。エンジン発電機は、約700℃の高温ガスを脱水素反応器2に供給することができるため、熱利用率50%程度の高い熱利用率を実現できる。従って、脱水素反応に要する熱量が0〜250kWhであるのに対し、熱電供給機器8が供給するのに必要とされる熱量は、0〜500kWhとなる。なお、SOFCは高温ガスの温度が約350℃と低くなるため、エンジン発電機に比して熱利用率が低くなり、熱利用率25%程度となる。従って、脱水素反応に要する熱量が0〜250kWhであるのに対し、熱電供給機器8が供給するのに必要とされる熱量は、0〜1000kWhとなる。
【0030】
S20において、制御装置11は、予め設定しておいた値を必要な熱量として取得してもよく、あるいは、状況に応じて演算された値を必要な熱量として取得してもよい。例えば、速やかに高圧水素を製造するために、必要とされる熱量の最大値(前述より、エンジン発電機の場合は、500kWh)を予め設定しておくことができる。ただし、地域や季節の違いによって蓄圧器6の圧力条件が変わる場合などを考慮して必要な熱量を設定してもよい。
【0031】
次に、制御装置11は、ステーションの状況を取得することによって、ステーション内において必要とされる電気の量を取得する(ステップS30)。本実施形態では、制御装置11は、水素圧縮機5の運転に必要な電気の量と、ステーション内において当該水素圧縮機5以外の部分において必要とされる電気の量とを足し合わせた量を取得する。
【0032】
制御装置11は、S20で取得した熱量及びS30で取得した電気の量に基づいて、熱電供給機器8の運転条件を設定する(ステップS40)。すなわち、制御装置11は、S20で取得した熱量が得られると共に、S30で取得した電気の量が得られるように、燃料の供給量等の運転条件を設定する。このとき、必要とされる電気の量が多い場合は、発生させる電気の量の比率が大きくなる(発電効率が高くなり、発熱効率が低くなる)ような運転条件が設定される。一方、水素圧縮機5以外の部分で特に多くの電気が必要とされていないような場合は、発生させる電気の量の比率が小さくなる(発電効率が低くなり、発熱効率が高くなる)ような運転条件が設定される。
【0033】
運転条件が設定された後、制御装置11は、当該運転条件に従って、熱電供給機器8の運転を開始する(ステップS50)。熱電供給機器8の運転を開始し、高温ガスや発電が安定した後、脱水素反応器2及び水素圧縮機5を同時に起動して運転を開始する(ステップS60)。これによって、熱電供給機器8からの高温ガスは脱水素反応に用いられ、発生した電気は水素圧縮機5に供給されると共に、ステーション内におけるその他の機器や設備に供給される。このとき、余剰の電気が発生した場合は、売電・充電することも可能である。また、電気の量が不足している場合は、各機器の電気を系統電力から補ってもよい。なお、S60において、制御装置11は、脱水素反応器2及び水素圧縮機5以外の機器(例えば水素精製器3など)をあわせて起動してもよいが、起動せずに脱水素反応器2及び水素圧縮機5のみを運転する状態としてもよい。脱水素反応器2及び水素圧縮機5の運転がなされている間、制御装置11は、蓄圧器6の圧力が所定の閾値以上となったか否かの判定を行う(ステップS70)。S70において蓄圧器6の圧力が閾値以上でないと判定した場合、十分な高圧水素が得られていないとして、制御装置11は引き続き熱電供給機器8、脱水素反応器2、及び水素圧縮機5の運転を続行し、S70の判定を繰り返す。一方、S70において蓄圧器6の圧力が閾値以上であると判定した場合、蓄圧器6に十分な高圧水素が溜められたとして、制御装置11は、システムを休止させ、熱電供給機器8、脱水素反応器2、及び水素圧縮機5を休止させる(ステップS80)。S80の処理が終了すると、図2に示す制御処理は終了し、再びS10から処理を繰り返す。
【0034】
次に、本実施形態に係る熱電供給型有機ハイドライドステーション1の作用・効果について説明する。
【0035】
本実施形態に係る熱電供給型有機ハイドライドステーション1において、熱電供給機器8は、発生させる熱の量と電気の量の比率を変更することができる。また、制御装置11は、ステーション内において必要とされる電気の量に基づいて熱電供給機器8の運転条件を設定することができる。従って、制御装置11は、必要とされる電気の量が多い場合には、発生させる電気の量の比率が高くなるように運転条件を設定し、必要とされる電気の量が少ない場合には、発生させる電気の量の比率が低くなるように運転条件を設定することができる。このように、制御装置11は、ステーション内の状況にあわせた適切な運転条件を選択することができる。
【0036】
ここで、熱電供給機器8は、発生させる熱の量と電気の量の比率を一定の範囲で変更することができるものの、例えば、熱に比して電気の量の比率を極端に少なくすること(脱水素に必要な量の熱を発生させつつ、発生させる電力を極めて少量に抑えること)はできない。ここで、本発明者らは、水素圧縮機5が必要とする電気の量は、ステーション内の他の機器に比して大幅に多いことに注目した。このような見地から、本発明者らは、熱を必要とする脱水素反応器2と電気を多く必要とする水素圧縮機5とを同時に起動させることを見出した。そこで、制御装置11は、脱水素反応器2及び水素圧縮機5を同時に起動させることができる。このように、脱水素反応器2と同時に水素圧縮機5を起動させることで、熱電供給機器8で発生した電気は、一定量が確実に水素圧縮機5で使用される。従って、本実施形態に係る熱電供給型有機ハイドライドステーション1は、発生させた電気の多くが余剰となることを抑制し、リアルタイムで使用される熱と電気を、必要な量にあわせて熱電供給機器8において発生させることができる。これによって、ステーション全体としてのエネルギー効率を向上させることができる。
【0037】
また、本実施形態に係る熱電供給型有機ハイドライドステーション1において、制御装置11は、蓄圧器6の圧力に基づいて、脱水素反応器2及び水素圧縮機5を同時に起動させることができる。これによって、制御装置11は、蓄圧器の圧力が下がって高圧水素が不足となるような場合に、直ちに高圧水素を補うことができる。
【0038】
次に、本発明に係る熱電供給型有機ハイドライドステーション1の実施例について説明する。図3に示す表は、300Nm/h級の熱電供給型有機ハイドライドステーションであって、熱電供給機器8として、SOFC、エンジン発電機を適用した場合における実際の機器の性能に基づいた計算結果を示している。図3には比較例として、バーナーの熱を脱水素反応器2へ供給した場合の計算結果も示されている。図3において、「必要な熱量(kW)」は、熱電供給機器8が脱水素反応器2に対して供給する必要のある熱量である。つまり、「必要な熱量(kW)」は、実際に脱水素反応に要する熱量と、熱電供給機器8の「熱利用率(%)」とが考慮された値である。図3の「発電効率(%)」、「熱効率(%)」は、熱電供給機器8に投入される燃料によるエネルギーを100%とし、当該エネルギーに対する発電量と発熱量の比率である。なお、図3の「発電量(kW)」、「発電効率(%)」、「熱効率(%)」は、ステーション内における需要に応じて制御可能な値である。図3の「エネルギー有効利用率(%)」は、熱と電気を総合的に判断したエネルギー効率である。具体的には、以下の式(1)によって求められる。
【0039】
「エネルギー有効利用率」=「発電効率」+{「熱効率」×(「熱利用率」/100)} …式(1)
【0040】
図3に示すように、バーナーが脱水素反応の熱を供給する場合、エネルギー有効利用率はいずれの場合も40%となる。なお、バーナーは発電を行わないため、ステーション内の機器に対して別途電気を供給する必要がある。従って、ステーション全体で見た場合の実質的なエネルギー効率は更に低下する。一方、熱電供給機器8としてSOFC、エンジン発電機を適用した場合、エネルギー有効利用率はいずれの状況においても40%以上を超えている。このことより、熱電供給機器8としてSOFC、エンジン発電機を適用することで、ステーション全体としてエネルギー効率を向上できることが理解される。
【0041】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0042】
上述の実施形態では、制御装置11は、ステーション内の需要に合わせた量の電気が得られるように運転条件を設定していた。このような制御によって、リアルタイムに使用される量に応じて発電することができ好適であるが、予め余剰電力を売電・蓄電することを前提として、リアルタイムに使用される量よりも多めに発電するような運転条件を設定してもよい。
【符号の説明】
【0043】
2…脱水素反応器、4…バッファタンク、5…水素圧縮機、6…蓄圧器、8…熱電供給機器、11…制御装置(運転条件設定手段、起動手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ハイドライドを脱水素して、高圧水素の供給を行う熱電供給型有機ハイドライドステーションであって、
熱及び電気を発生させると共に、発生させる熱の量と電気の量との比率を変更することができる熱電供給機器と、
前記熱電供給機器から熱を供給され、前記有機ハイドライドの脱水素反応を行う脱水素反応器と、
前記熱電供給機器から電気を供給され、前記有機ハイドライドから取り出された水素を圧縮する水素圧縮機と、
ステーション内において必要とされる電気の量に基づいて前記熱電供給機器の運転条件を設定する運転条件設定手段と、
前記脱水素反応器及び前記水素圧縮機を同時に起動させる起動手段と、を備えることを特徴とする熱電供給型有機ハイドライドステーション。
【請求項2】
前記水素圧縮機によって圧縮された高圧水素を貯留する蓄圧器を更に備え、
前記起動手段は、前記蓄圧器の圧力に基づいて、前記脱水素反応器及び前記水素圧縮機を同時に起動させることを特徴とする請求項1記載の熱電供給型有機ハイドライドステーション。
【請求項3】
前記脱水素反応器によって前記有機ハイドライドから取り出された水素を貯留するバッファタンクを更に備え、
前記起動手段は、前記バッファタンクの水素量に基づいて、前記脱水素反応器及び前記水素圧縮機を同時に起動させることを特徴とする請求項1記載の熱電供給型有機ハイドライドステーション。
【請求項4】
前記起動手段は、前記脱水素反応器の圧力に基づいて、前記脱水素反応器及び前記水素圧縮機を同時に起動させることを特徴とする請求項1記載の熱電供給型有機ハイドライドステーション。
【請求項5】
前記熱電供給機器がSOFCまたはエンジン発電機であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の熱電供給型有機ハイドライドステーション。
【請求項6】
前記有機ハイドライドがメチルシクロヘキサンであり、その脱水素化物がトルエンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の熱電供給型有機ハイドライドステーション。
【請求項7】
燃料電池自動車、及び水素エンジン車に水素を供給し、有機ハイドライド自動車に前記有機ハイドライドを供給することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の熱電供給型有機ハイドライドステーション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−251857(P2011−251857A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125034(P2010−125034)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(590000455)一般財団法人石油エネルギー技術センター (249)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】