説明

熱風乾燥装置の温度制御方法及び熱風乾燥装置

【課題】 経糸の種類、湿潤の経糸の送り速度などの経糸糊付機の条件の変更に伴い、目標温度が変更されたとしても、乾燥室の内部温度を常に高い精度で目標温度に保つことにある。
【解決手段】 湿潤経糸を乾燥させる熱風乾燥装置の乾燥室の温度制御方法は、熱風乾燥装置の運転中には、検出された乾燥室の内部温度の設定目標温度に対する偏差をもとに、PID演算の結果に従って前記乾燥室に送り込む空気への加熱量を制御する。熱風乾燥装置の温度制御方法は、前記PID演算に用いる積分定数及び微分定数の少なくともいずれか一方と比例定数とが、目標温度に対応して予め複数記憶されており、目標温度が設定されると、前記複数の定数の中から前記設定された目標温度に対応する各定数を選択し、熱風乾燥装置の運転中には、前記偏差と前記選択された各定数とに基づくPID演算を実行することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤経糸を乾燥させる熱風乾燥装置の温度制御方法及びその熱風乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、シート状の経糸に糊付してビームに巻き取る経糸糊付機に用いられ、湿潤の経糸を熱風で乾燥させる熱風乾燥装置の一つに特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載の熱風乾燥装置は、乾燥室と、乾燥室の内部の温度を乾燥室内温度として検出する温度検出器と、乾燥室の内部に空気を送り込む送風機と、乾燥室に送り込まれる空気を加熱すべく、空気送風経路に配置された空気加熱器と、乾燥室の内部の目標温度を設定する設定器と、乾燥室内温度の目標温度との偏差に基づいて空気加熱器による空気の加熱量を制御する温度制御器とを含む。
【0003】
また、熱風乾燥装置では、乾燥室の内部温度の制御精度を高めるために、近年温度制御器として、例えば検出された内部温度の目標温度に対する偏差と予め定められる比例、積分および微分の各定数に基づきPID演算を行い、PID演算結果に基づいて空気加熱量を制御する調節弁の開閉時間を調節するものが用いられる。そのような熱風乾燥装置は、1つのPID定数に基づいて乾燥室の内部の温度を一定に維持する。
【0004】
【特許文献1】特開平9−209258号公報、第8図
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、経糸の種類や経糸の走行速度等の経糸糊付機の条件変更にともない、熱風乾燥装置における乾燥室内の設定温度(目標温度)が度々変更される。しかしながら、乾燥室内の温度制御でPID演算のもとになるPID定数を、目標温度に対応して選択的に用いる技術について、これまで存在しない。従来のように、目標温度に関係なく同じPID定数を用いた場合、熱風乾燥装置の乾燥室の内部温度は、設定される目標温度の高低により、ハンチングや整定の遅れ等を生じる。その結果、温度制御の精度が悪くなって、経糸乾燥度にムラが生じてしまい、結果として経糸ビームの品質を低下させてしまう。
【0006】
本発明の目的は、経糸の種類、湿潤の経糸の送り速度などの経糸糊付機の条件の変更に伴い、目標温度が変更されたとしても、乾燥室の内部温度を常に高い精度で目標温度に保つことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る温度制御方法は、湿潤の経糸を乾燥室に通過させてに乾燥させる熱風乾燥装置に適用する。温度制御方法は、湿潤経糸を乾燥室に通過させて乾燥させる熱風乾燥装置に用いられ、熱風乾燥装置の運転中には、検出された乾燥室の内部温度の設定目標温度に対する偏差をもとに、PID演算結果に従って前記送り込む空気への加熱量を制御する熱風乾燥装置に適用される。熱風乾燥装置の温度制御方法は、前記PID演算に用いる積分定数および微分定数のうち少なくともいずれか一方と比例定数が、目標温度に対応して予め複数記憶されており、目標温度が設定されると、前記複数の定数の中から前記設定された目標温度に対応する各定数を選択し、熱風乾燥装置の運転中には、前記偏差と前記選択された各定数とに基づくPID演算を実行することを含む。
【0008】
本発明に係る熱風乾燥装置は、湿潤経糸を通過させて乾燥させる乾燥室と、前記乾燥室の内部温度を検出する温度検出器と、前記乾燥室の内部に空気を送り込む送風機と、熱量制御信号に従って前記乾燥室に送り込む空気を加熱する空気加熱器と、前記乾燥室の内部の目標温度が設定される設定器と、PID定数と前記目標温度に対する偏差とに基づくPID演算結果に従って熱量制御信号を出力する温度制御器とを含む、熱風乾燥装置であって、前記熱風乾燥装置は、さらに、積分定数および微分定数のうち少なくともいずれか一方と比例定数とが予め複数定められるとともに、前記目標温度に対応する各定数を前記温度制御器に出力するPID定数出力器を含み、運転中、前記温度制御器は、前記PID定数発生器からのPID定数と前記目標温度に対する偏差とに基づくPID演算結果に従って熱量制御信号を出力することを含む。
【0009】
さらに、前記温度制御器は、チューニング指令信号の入力にともない、目標温度に対する所定の熱量制御信号を前記空気加熱器に出力する一方、この間における検出された前記乾燥室内温度の変化から各定数を算出するチューニング機能を有する。前記PID定数出力器は、前記チューニング機能で得られたPID定数を、前記目標温度に対応して記憶するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の温度制御方法及び熱風乾燥装置によれば、目標温度の設定値を変更しても、変更後の目標温度の設定値に適したPID定数を自動的に選択するから、従来のような目標温度の高い低いにかかわらず同じPID定数を用いることに起因する温度制御のハンチングや整定遅れなどを防止でき、熱風温度を変更後の目標温度に常に保つことができる。
【0011】
さらに好ましい熱風乾燥装置によれば、温度制御器がチューニング指令信号の入力にともなうチューニング機能の実行で得られた各定数を、前記記憶器は目標温度に対応して記憶するから、そのようなPID定数は、適した定数であり、温度制御の精度がより高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1を参照するに、経糸糊付機などの熱風乾燥装置10は、前工程(図示せず)でシート状に配置されて糊付された湿潤の複数の経糸12を熱風が送風される乾燥室内を通過させて乾燥させる。その後、経糸12は、後工程において、シリンダ乾燥部(図示せず)に送り込まれて、さらに乾燥される。
【0013】
熱風乾燥装置10は、概略、乾燥室14と、乾燥室14の内部に空気を送り込む空気送風経路18に配置された送風機20と、送風機20に供給する空気を加熱すべく配置された空気加熱器22とを有する。
【0014】
乾燥室14は、横断面形状が矩形であり、一方及び他方に開口24,26を設けている筒状の形状を有する。乾燥室14の長手方向における一端の近傍及び他端の近傍に熱風吹込口28及び熱風排気口30を有する。
【0015】
熱風吹込口28と熱風排気口30の間の乾燥室14の内部には、温度検出器16が配設されている。温度検出器16は、例えば熱電対などの公知の温度センサである。
【0016】
空気送風経路18は、熱風排気口30から熱風吹込口28に空気を送り込むための経路である。より詳しくは、空気送風経路18は、概略、乾燥室14の熱風排気口30と空気過熱器22の導入部とを接続するダクト18aと、空気過熱器22の導出部と送風機20の吸気口とを接続するダクト18bと、空気過熱器22の吹出し口と乾燥室14の熱風吸込口28と接続するダクト18cとを有してなり、乾燥室14からの空気を空気過熱器22を介して加熱し、送風機20により再び乾燥室14に戻す空気循環経路を構成している。空気送風経路18には、空気加熱器22と送風機20とが直列に配置されている。
【0017】
熱風循環のための熱風排気口30の近傍には、排気のための熱風排気口31が設けられ、熱風排気口31に対して排気ダクト36と排気機32とが配置されている。排気機32は、排気ファン34と、排気ファン34を回転させる排気用モータ35とを有する。熱風排気口31から吸い込まれた空気は、排気ダクト36を経て、排気ファン34の開口部38から熱風乾燥装置10の外部に放出される。
【0018】
空気加熱器22は、水蒸気を発生させる熱源(図示せず)と、熱源からの供給蒸気を調節する調節弁40と、供給される蒸気の熱を放熱するラジエータ42とを含み、これらは、パイプを介して気密に接続されている。しかし、空気加熱器22は、後述される温度制御指令信号に応じて熱を発生する電熱器を含むようにしてもよいし、燃料ガスの燃焼量に応じて熱を発生するガス熱器を含むようにしてもよい。
【0019】
蒸気供給量を調節する調節弁40は、例えば、開閉弁とされる。開閉弁は、後述する温度制御器52から出力されるオン又はオフの信号により、全開又は全閉する。しかし、調節弁40を絞り弁とし、温度制御器52から出力される信号に基づいて絞り量を制御されるようにしてもよい。
【0020】
送風機20は、それの作動により、その取り込み口を負圧状態にすることにより、熱風排気口30から空気を、空気加熱器22を経由させることによって、加熱された空気を取り込み、それの噴き出し口より上記加熱された空気を熱風吹込口28に送り込む。
【0021】
送風機20は、送風機用モータ46と、送風機用モータ46の出力軸の回転によって回転する送風ファン48とを有する。送風機用モータ46は、後述する主制御器50によって制御される。
【0022】
空気加熱器22によって加熱された空気は、主として、送風機20の吸い込み力により、送風機20を介して熱風吹込口28から熱風排気口30へ乾燥室14の内部を流れる。
【0023】
複数の経糸12は、湿潤した状態で、乾燥室14の一方の開口24から他方の開口26に向けて乾燥室14の内部を通過している。乾燥室14の内部に位置する複数の経糸12は、乾燥室14の内部を流れる加熱された空気によって乾燥される。乾燥室14の内部の複数の経糸12の移動方向と乾燥室14の内部を流れる加熱された空気の移動方向とは反対向きになるようにすることが好ましい。
【0024】
図2は、熱風乾燥装置10の制御ブロック図を示す。熱風乾燥装置10は、概略、主制御器50と温度制御器52と設定器66とを含む。
【0025】
主制御器50は、作業者が操作する、運転ボタン54、ヒートボタン56、停止ボタン58及び自動チューニング操作ボタン60からの信号を受ける。運転ボタン54、ヒートボタン56、停止ボタン58及び自動チューニング操作ボタン60は運転操作器として作用する。
【0026】
主制御器50は、例えば、プログラマブルコントローラなどの公知の制御器で構成される。主制御器50は、乾燥制御部62、経糸糊付機(図示せず)の制御部、例えば、巻取制御部64、経糸張力を制御する張力制御部(図示せず)を有する。主制御器50は、各ボタンの押下により以下のように温度制御器52に温度制御指令信号S3、自動チューニング指令信号S7を出力することができる。
【0027】
なお、主制御器50、乾燥制御部62、巻取制御部64や張力制御部などの各織機を一体化した例えばプログラマブルコントローラなどの公知の制御器で処理することも可能である。
【0028】
作業者が運転ボタン54又はヒートボタン56を押下すると、運転信号S1又はヒート信号S2が主制御器50に入力される。これにより、主制御器50は、対応する電流発生器に作動指令信号を出力して、送風機20を作動状態にする。また、主制御器50は温度制御指令信号S3を温度制御器52に出力する。温度制御器52では、詳細は後述するが、乾燥室14が予め定められる目標温度になるように循環空気に加熱する熱量を制御する温度制御が開始される。こうして、熱風乾燥装置10の運転が開始する。
【0029】
ヒートボタン56は、運転ボタン54の押下による運転開始に先立ち、乾燥室の内部温度が低下しているときに事前に操作されるボタンであり、より具体的には、乾燥室14の温度を事前に所望の目標温度に高めておくことで運転開始直後の乾燥ムラを防ぐために操作される。
【0030】
そこで、運転ボタン54の押下により主制御器50は、運転信号S1を出力し、巻取制御部64及び張力制御部(図示せず)などの糊付制御部(図示せず)が、いずれも作動状態におかれる。この結果、経糸糊付機の具体的構成について、以下いずれも図示しないが、送出ビームから繰り出され糊液に浸されて絞られたシート上の湿潤経糸は、乾燥室14、さらには次工程であるシリンダ乾燥部を経て乾燥され、また所定の経糸張力を維持しつつ経糸12が走行されて、やがて経糸ビームに巻取られる。
【0031】
なお、排気機32は、経糸糊付機の運転中に、循環空気の一部を排出することにより乾燥室内の湿気を排出し、乾燥効果を高める目的で設けられるものであり、主制御器50は、詳説しないアルゴリズムのもとで、経糸糊付機の運転状況に応じて適宜作動状態にされる。
【0032】
経糸糊付機の運転中に停台原因が発生した場合、又は作業者が停止ボタン58を押下することにより、主制御器50に停止信号S4が入力されると、主制御器50は、経糸糊付機(図示せず)を直ちに停止させると共に、送風機20と排気機32とを非作動状態にする。また、主制御器50は、オフの温度制御指令信号S3を温度制御器52に出力して、温度制御の実行を直ちに中断する。
【0033】
さて、温度制御器52の温度制御についても、詳細は後述するが、経糸糊付機の納入据え付け時には、経糸糊付機の製造会社(メーカ)の作業者によって、温度制御器に対する制御ゲイン(より具体的にはPID定数)が、適切な値に決定されている。これに対し、経糸糊付機を有する経糸準備工場では、熱源とされる蒸気ボイラーなどの設備更新、四季の変化又は標高の異なる別の場所への経糸糊付機の移設を行うことが多々ある。このような周囲の環境の変化で、温度調節系に対する制御ゲインが変わってしまうことがある。換言すれば、先に決定された制御ゲインが、周囲の環境の変化に適していない値になる結果、温度調節の機能性が損なわれる危険が生じる。
【0034】
このため、本件装置である熱風乾燥装置10の温度制御器52には、作業者がチューニング操作ボタンを操作することにより、通常の温度制御機能の実行に代えて、所定の熱量制御を実行して制御ゲインであるPID定数を自動的に決定するためのチューニング機能を選択的に実行するように構成されている。
【0035】
より具体的には、そのような周囲の環境の変化に対応して、経糸準備工場の作業者は、チューニング操作ボタン60を押下することにより、主制御器50は、送風機20の作動状態を判別してチューニング指令S7を温度制御器52に出力する。
【0036】
自動チューニングは、送風機20が作動状態である状態下で行う必要があり、ヒートボタン56の押下後又は糊付機の運転中に行うべきである。
【0037】
そこで、作業者は、糊付機の運転の開始に先立って、ヒートボタン56を押下し、ヒート信号S2を受けた主制御器50は、熱風乾燥装置10を作動させる。ヒートボタン56は、糊付機が停止中に操作される。
【0038】
予め、空気加熱器22によって、加熱させた空気を空気送風経路18と乾燥室14とを循環させて所定の温度を維持することで、糊付機の運転の開始直後における糊付された経糸12の乾燥不良を防止する。
【0039】
設定器66は、種制御器50及び温度制御器52に対する入力器と表示器との機能を兼ね備えたタッチパネル等で構成されている。設定器66と主制御器50と温度制御器52とは、双方向に情報送受信可能に接続されている。
【0040】
設定器66には、熱風乾燥装置10の製造会社が予め作成したプログラムを格納しており、作業者が行う操作により、設定器66は、図示しない表示器及び入力器の画面の表示の切換を行い、作業者が行うタッチ操作で入力された設定値を主制御器50に出力する。また設定器66は、主制御器50が有する情報(例えば、停台情報、巻取長の制御情報)を読出して設定器66の図示しない表示器の画面に表示する。
【0041】
作業者は、作業者との対話方式により、設定器66の画面を他の画面に切換えて情報を表示させて、乾燥室14の内部の目標温度Tを入力する。設定器66は、入力された目標温度Tを温度制御器52に出力する。また、設定器66は目標温度Tに対応するPID定数を温度制御器52に出力するPID定数出力器としても機能するが、その詳細は後述する。
【0042】
設定器66は、温度検出器16によって検出された乾燥室14の内部の温度を乾燥室内温度として表示するようにしてもよい。設定器66は、作業者の操作に応じて、検出された乾燥室内温度を経時的に記録し、記録された乾燥室内温度を横軸を時間軸として経時的に表示器の画面に出力するようにしてもよい。
【0043】
温度制御器52は、乾燥室内温度Toの目標温度Tとの偏差を算出し、算出された偏差に基づいてPID演算を行い、PID演算の結果に基づいて空気加熱器22による空気の加熱量を制御するための熱量制御信号を出力する。PID演算は、比例要素(P動作)、積分要素(I動作)及び微分要素(D動作)の各操作量の総和を操作量として出力する。
【0044】
比例要素(P動作)の基になる比例定数(P定数)は、比例帯の形で定められる。ここで、比例帯とは、偏差に比例する操作量を出力する領域を指し、目標温度Tの設定値を中心とする幅αとされる。
【0045】
乾燥室内の実測温度Toが比例帯の始点以下(すなわち、To≦T−α/2)の場合、操作量の出力を100%に固定され、逆に、比例帯の終点以上(すなわち、To≧T+α/2)の場合では、操作量の出力を0%に固定される。
【0046】
操作量は、実測温度Toが比例帯の始点から終点までの間(すなわち、T−α/2<To<T+α/2)において、目標温度Tに対する偏差に応じて100%から0%までの範囲で出力される。比例帯の幅が小さいほど、偏差量に対する操作量は大きくなる。
【0047】
積分要素(I動作)の基になる積分定数(I定数)は、積分時間の形で定められる。ここで、積分時間とは、ステップ状の偏差を入力したとき、積分の操作量が比例動作による操作量と同じ操作量に達するまでの時間とされる。
【0048】
積分時間が短いほど、偏差量に対する経時的な操作量の変化量が大きくなる。
【0049】
微分要素(D動作)の基になる微分定数(D定数)は、微分時間の形で定められる。ここで、微分時間とは、偏差が経時的に一定の割合で増大されるランランプ状の偏差を入力したとき、微分の操作量が比例動作による操作量と同じ操作量に達するまでの時間とされる。
【0050】
微分時間が長いほど、偏差量の変化に対する操作量が大きくなる。
【0051】
このように、PID演算器は、比例要素(P動作)、積分要素(I動作)及び微分要素(D動作)の各要素における操作量の総和に対応して、空気の加熱量の制御信号としての開閉弁40への操作量信号を出力することができる。例えば、これに電流発生器を介し接続される開閉弁40が、いわゆるON/OFF制御される開閉弁とされる場合には、所定単位期間と開閉弁40の開状態とされる期間との割合が、上記各要素の総和による操作量に対応する開閉比(デューティー比)となるような開閉指令信号を、空気の加熱量の制御信号として出力する。
【0052】
作業者によるヒートボタン56の操作により、温度制御器52は、乾燥室14の内部の温度が目標温度Tになるように、演算された操作量に応じて開閉弁40を開閉駆動して、空気加熱器22の内部に流れる空気を加熱する。
【0053】
なお、好ましくは、主制御器50は、乾燥室14の内部の温度が目標温度Tの数パーセント以内(例えば、目標温度Tが80℃の場合、73℃から78℃までの範囲)に到達まで、運転ボタン54からの運転信号S1を無効にする。主制御器50は、乾燥室14の内部の温度が目標温度Tの数パーセント以内に到達すると、運転ボタン54からの運転信号S1にしたがって巻取制御部64などに運転信号を出力することにより、経糸糊付機を運転させ供給される湿潤経糸12を乾燥させる。
【0054】
これにより、乾燥室14の内部の温度が目標温度Tに対して低い状態で経糸12の乾燥を行うという乾燥不良による経糸ビームの品質不良を防止することができる。
【実施例1】
【0055】
図3には、高温領域、中温領域及び低温領域のそれぞれに1対1に対応するPID定数を温度制御器52により算出する際の一連の処理フローを示す。
【0056】
作業者が設定器66のタッチパネルで表示されるメニューに対し、例えば作業者は順次選択操作して、自動チューニングモードに入る旨のメニューを選択すると、設定器66は、その旨の情報を主制御器50に出力し、主制御器50は自動チューニングモードに切り換える(ST101)。
【0057】
なお、チューニングモードでは、主制御器50は、経糸糊付機の操作を禁止するとともに、温度制御器52のチューニング機能を用いて、目標温度に対するPID定数をそれぞれ算出し、また求めたPID定数を目標温度毎に設定器66に記憶させるための一連の処理を実行可能にする。なお、以下に述べる実施例は、想定される設定目標温度の領域を、低温領域、中温領域及び高温領域の3つの領域に区分し、各領域を代表する目標温度としての各基準温度により、各温度領域に対するPID定数を算出する例である。
【0058】
先ず、作業者は、低温領域の基準温度を目標温度の設定値として設定器66に入力する(ST102)。
【0059】
次に、作業者は、チューニング操作を行う。チューニング操作は、ヒートボタン56の押下、チューニング操作ボタン60の押下により行われる(ST103)。
【0060】
より詳しくは、温度制御器52には、先に設定器66に入力された目標温度の設定値が目標温度として送り込まれている。
【0061】
そこで、ヒートボタンからの操作信号がONされると、主制御器50は、直ちに送風機22としての送風ブロワをONさせる一方、温度制御器52は、直ちに温度制御モードを、「温度制御OFFモード」から「温度制御ONモード」に切り換えるとともに、空気加熱器22に対し図示しない操作量信号を出力する結果、温度センサ16を介して検出される乾燥室の内部温度は、室温から目標温度Tに向けて急速に上昇する。
【0062】
次いで、乾燥室の室内温度がある程度高まった時点で、作業者がチューニング操作ボタンを操作してチューニング操作信号が発生されると、温度制御器52は、制御モードを「自動チューニングモード」に切り換える。
【0063】
自動チューニングモードにおける動作いわゆる自動チューニング動作について、例えば実際の室内温度Toが目標温度Tよりも若干下回った状態よりスタートするものである。より具体的には、実際の乾燥室の内部温度Toが目標温度Tに達するまで開閉弁40を全開させ、その後目標温度Tを下回るまで開閉弁を全閉にする温度制御を実行することにより、乾燥室内の温度をハンチングさせる一方、そのハンチングにおける温度の変動幅W1と、上記温度制御により開閉弁40を全閉になってから実測温度Toが最高値に達するまでの時間Td1、及び実測温度Toが目標温度Tを下回って開閉弁40が全開された状態での実測温度Toが上昇に転じるまでの時間T1とをそれぞれ測定し、このようなハンチング動作を2回程度繰り返して得られた各データを元に、PID定数を算出し自動的に決定する。
【0064】
そして、このような自動チューニング動作が終了されると、温度制御器52は、温度制御モードを「温度制御OFFモード」に切り換えるとともに、図示しない信号を主制御器50および設定器66に出力する。このため主制御器50は、直ちに送風機22としての送風ブロワをOFFさせ、他方、設定器66は、算出されたPID定数を温度制御器52から読み出すとともに、目標温度が属する温度領域に対応するPID定数として、内蔵する図示しない記憶器に記憶する(ST104)。
【0065】
記憶処理が終了されると、設定器66は、他の温度領域に対するPID定数のチューニング処理終了するか否かの入力を促す旨の表示をタッチパネルに表示する(ST105)。作業者は、中温領域等の他の温度領域に対するPID定数を算出する必要があるため、作業続行する旨の選択情報を設定器66に入力することにより、処理ステップST102に戻る。以降、中温領域および高温領域に対する基準温度を目標温度として設定し、ヒートボタンおよびチューニング操作ボタンの順に押下することにより、各温度領域に対するPID定数をそれぞれ算出し、設定器66に内蔵される図示しない記憶器に目標温度に対応するPID定数として記憶される。このようにして、高温領域、中温領域及び低温領域のそれぞれに1対1に対応したPID定数を求め、求めたPID定数を基準温度と共に、設定器66に内蔵される記憶器(図示せず)記憶させる。
【0066】
そして、高温領域、中温領域及び低温領域に対するPID定数を算出した後に、処理ステップST105における前述の表示に対し、作業者は、「作業を終了する」旨の選択操作により、自動チューニングモードを終了させる(ST106)。
【0067】
表1は、このようにして得られた各PID定数を示す。設定器66は、このようにして求めた高温領域、中温領域及び低温領域のそれぞれに1対1に対応したPID定数を有する。
【0068】
【表1】

【0069】
記憶された各PID定数は、経糸糊付機の運転に先立ち、設定器66は、入力された目標温度Tに対応するPID定数を目標温度の情報と共に温度制御器52に出力する。
【0070】
図4は、作業者が経糸の品種を替えたときにおけるPID定数を変更させる設定器66の内部処理フローを示す。
【0071】
先ず、作業者が経糸の品種を替えるとき、ほぼ同時に、新たな目標温度Tsの設定値を設定器66に入力する(ST201)。新たな目標温度Tsが入力された設定器66は、入力された目標温度Tの設定値が、低温領域、中温領域及び高温領域のいずれに属するか判別する(ST202)。
【0072】
設定器66は、目標温度Tsが低温領域に該当すると判断した場合、低温用のPID定数、これに内蔵される記憶器(図示せず)から読み出し、温度制御器52に出力する(ST203)。
【0073】
また、設定器66は、目標温度Tsが中温領域に該当すると判断した場合、中温用のPID定数をこれに内蔵される記憶器(図示せず)から読み出し、温度制御器52に出力する(ST204)。
【0074】
設定器66は、目標温度Tsが高温領域に該当すると判断した場合、高温用のPID定数をこれに内蔵される記憶器(図示せず)から読み出し、温度制御器52に出力する(ST205)。
【0075】
このように、作業者が生産する経糸ビームの品種替わりにともなって、目標温度Tの設定値を変更したとしても、設定器66は変更後の設定値Tsに適したPID定数を自動的に選択して温度制御器52に出力するから、熱風温度を変更後の目標温度Tsに常に保つことができる。
【実施例2】
【0076】
図5に示す熱風乾燥装置10の制御ブロック図は、実施例1(図2)に示した温度制御器52の代わりに、自動チューニング機能を有しない温度制御器52aを用いた実施例である。
【0077】
設定器66は、PID定数に関するデータベースを記憶すべくこれと別個に設けられる記憶器68に接続しており、記憶器68と設定器66とでPID定数出力器を構成している。記憶器68に記憶されているデータベースは、例えば、目標温度T、機械の設定パラメータ、機械が設置された環境条件(標高、平均気温)などに基づいてPID定数を検索できるように体系的に構成している。
【0078】
データベースは、熱風乾燥装置10aの製造会社によって提供されるが、熱風乾燥装置10aの使用者によって書き換えられるようにしてもよい。
【0079】
また、記憶器68は、設定器66に内蔵させてもよいし、通信回線を介して接続されるホストコンピュータとしてもよく、具体的な形態は問わない。ホストコンピュータは、例えば、熱風乾燥装置10の製造会社が提供するデータベースとすることもできる。
【0080】
表2は、弊社の経糸糊付機用の熱風乾燥装置を平地(標高500m以下)、年間平均気温20℃に設置した場合における設定器66に設定される設定値をデータベースの一例として示す。
【0081】
【表2】

【実施例3】
【0082】
図6に示す熱風乾燥装置10の制御ブロック図は、実施例1(図2)に示した設定器66を、目標温度をアナログ電気信号として出力するポテンショメータのような可変抵抗器66aで構成したものである。
【0083】
可変抵抗器66aは、作業者の操作により、メモリに対応する目標温度の設定値信号としてのアナログ電気信号を温度制御器52と定数信号発生器70に出力する。
【0084】
本件発明のPID定数出力器として機能する定数信号発生器70は、アナログ電気信号の入力値と予め設定された複数の閥値とを比較する比較器72と、異なるPID定数がそれぞれ設定された複数のPID定数設定器74と、複数のPID定数設定器74と比較器72に接続されている切換器76とを有する。比較器72に設定された複数の閾値は、温度領域(低温領域、中温領域、高温領域など)に対応している。
【0085】
切換器76は、比較器72から出力される信号に基づいて、複数のPID定数設定器74から一つを選択し、選択したPID定数設定器74に記憶されているPID定数を温度制御器52に出力する。
【0086】
このように、作業者が可変抵抗器66aを操作して目標温度Tの設定値を変更しても、定数信号発生器70は、変更後の設定値Tsに適したPID定数を自動的に選択し、温度制御器52に出力するから、温度制御器52は、熱風温度を変更後の目標温度Tsに常に保つように調節弁40を調節することができる。
【実施例4】
【0087】
実施例4は、上記実施例2,3に対する変形例を示す。この実施例では、先の実施例のように3つの温度領域のような粗い温度区分ではなく、より細く区分された目標温度毎に、PID定数を蓄積記憶するものであり、さらには、経糸糊付機が設置される環境条件として、標高、年間平均気温、蒸気ボイラーからの供給蒸気圧毎に、PID定数を蓄積記憶するものである。
【0088】
なお、環境条件について、例えば熱源に関するものとして蒸気ボイラーの容量や蒸気の温度などがあり、また機械仕様の条件として、メーカの型式、製造ロット番号、経糸巻取幅などがあり、より精密には、これらに対応するPID定数を蓄積することが考えられる。PID定数は、表3に示すように、他の環境条件、例えば他の装置の仕様などにより抽出してもよい。
【0089】
【表3】

【0090】
設定器66に設定されている設定値の判別処理を自動化する代わりに、作業者が複数のPID定数設定器の中から設定値に対応するPID定数を選択するようにしてもよい。
【0091】
上記実施例の温度領域の分割数は、3としたが、4以上としてもよい。また、温度領域の分割数は、設定される目標温度の数と同じにすることが好ましい。目標温度は、一般的には、50℃から200℃までの範囲に定められる。
【0092】
温度領域は、等間隔に定められてもよいし、所定の温度領域の範囲を他の温度領域よりも広く又は狭くしてもよい。
【0093】
上記した環境条件及び機械の使用条件によりPID定数を選択する実施例について、予め設定記憶されるPID定数を、各条件の上記列記されたもの全て、さらにはそれ以外に考えられるものを含む全てに対応させて記憶させることも考えられるが、簡略化するならば、上記列記したもののうち影響度合いの高い1以上のものに対応させて記憶させることが考えられる。影響度合いの高いものとして、例えば環境条件としての平均気温、又は機械仕様条件としての蒸気の供給圧力が考えられる。
【0094】
上記実施例では、目標温度に対応するPID定数を出力する機能を、温度制御器52の外部に設けているが、温度制御器52にそのような機能を持たせることも可能である。例えば、主制御器50と温度制御器52とが、例えばプログラマブルコントローラなどの公知の制御器により構成される場合、そのようなPID定数をそれに内蔵される図示しない記憶器に予め記憶させておき、設定器66からの目標温度の入力により、前記内蔵記憶器から読み出すように構成することも可能である。
【0095】
各目標温度に対応するPID定数について、上記した表1、表2、表3では、比例、積分および微分の各定数の全てを、目標温度に対して独立的に設定するようにしたが、より簡略化するならば、影響度の少ないと考えられる定数、例えば積分定数又は微分定数のいずれか一方が目標温度に関係なく固定的に用いる形態、すなわち積分定数および微分定数のうちいずれか一方と比例定数とを目標温度に対応して複数定め、設定される目標温度に対応する上記各定数を適宜選択するように構成することも可能である。
【0096】
本発明は、上記実施例に限定されず、本発明の要旨の範囲内で変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明に係る熱風乾燥装置の一実施例を示す概念図である。
【図2】図1に示す熱風乾燥装置のブロック線図である。
【図3】図2に示す主制御器の自動チューニング操作の処理フローを示すフローチャート図である。
【図4】図2に示す設定器の内部処理フローを示す。
【図5】本発明に係る熱風乾燥装置の別の実施例を示す概念図である。
【図6】本発明に係る熱風乾燥装置のさらに別の実施例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0098】
S1 運転信号
S2 ヒート信号
S3 温度制御指令信号
S4 停止信号
S5 チューニング操作信号
S7 チューニング指令信号
To 実際の検出温度
T 目標温度
10 熱風乾燥装置
12 経糸
14 乾燥室
16 温度検出器
18 空気送風経路
20 送風機
22 空気加熱器
24,26 開口
28 熱風吹込口
30 熱風排気口
32 排気機
34 排気ファン
35 排気用モータ
36 排気ダクト
38 開口部
40 調節弁
42 ラジエータ
46 送風機用モータ
48 送風ファン
50 主制御器
52,52a 温度制御器
54 運転ボタン
56 ヒートボタン
58 停止ボタン
60 チューニング操作ボタン
62 乾燥制御部
64 巻取制御部
66 設定器
66a 可変抵抗器
68 記憶器
70 定数信号発生器
72 比較器
74 定数設定器
76 切換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿潤経糸を乾燥室に通過させて乾燥させる熱風乾燥装置に用いられ、
熱風乾燥装置の運転中には、検出された乾燥室の内部温度の設定目標温度に対する偏差をもとに、PID演算の結果に従って前記乾燥室に送り込む空気への加熱量を制御する、熱風乾燥装置の温度制御方法において、
前記PID演算に用いる積分定数及び微分定数の少なくともいずれか一方と比例定数とが、目標温度に対応して予め複数記憶されており、
目標温度が設定されると、前記複数の定数の中から前記設定された目標温度に対応する各定数を選択し、熱風乾燥装置の運転中には、前記偏差と前記選択された各定数とに基づくPID演算を実行することを含む、熱風乾燥装置の温度制御方法。
【請求項2】
湿潤経糸を通過させて乾燥させる乾燥室と、
前記乾燥室の内部温度を検出する温度検出器と、
前記乾燥室の内部に空気を送り込む送風機と、
熱量制御信号に従って前記乾燥室に送り込む空気を加熱する空気加熱器と、
前記乾燥室の内部の目標温度が設定される設定器と、
PID定数と前記目標温度に対する偏差とに基づくPID演算結果に従って熱量制御信号を出力する温度制御器とを含む、熱風乾燥装置であって、
前記熱風乾燥装置は、さらに、積分定数および微分定数のうち少なくともいずれか一方と比例定数とが予め複数定められるとともに、前記目標温度に対応する各定数を前記温度制御器に出力するPID定数出力器を含み、
運転中、前記温度制御器は、前記PID定数発生器からのPID定数と前記目標温度に対する偏差とに基づくPID演算結果に従って熱量制御信号を出力することを含む、熱風乾燥装置。
【請求項3】
さらに前記温度制御器には、チューニング指令信号の入力にともない、目標温度に対する所定の熱量制御信号を前記空気加熱器に出力する一方、この間における内部温度の変化から前記各定数を算出するチューニング機能を有するとともに、前記PID定数出力器は、前記チューニング機能で得られた各定数を目標温度に対応する定数として記憶する、請求項2に記載の熱風乾燥装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−70369(P2006−70369A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252665(P2004−252665)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000215109)津田駒工業株式会社 (226)
【Fターム(参考)】