説明

燃料タンクの蒸発燃料放出抑制装置

【課題】 エンジンの吸気負圧を利用してタンク本体のリークを検出する際に、タンク本体およびフィラーチューブの給油口を接続する蒸発燃料通路に設けた差圧弁が障害にならないようにする。
【解決手段】 燃料タンクTの蒸発燃料放出抑制装置は、タンク本体11およびキャニスタ15を接続する第1蒸発燃料通路16と、タンク本体11およびフィラーチューブ12の給油口12aを接続する第2蒸発燃料通路17と、第2蒸発燃料通路17に設けられた差圧弁18とを備えており、差圧弁18は、タンク本体11側が給油口12a側よりも所定値以上高圧のときに開弁するとともに、給油口12a側がタンク本体1側よりも所定値以上高圧のときに開弁する2方向弁で構成され、かつ給油口12a側およびタンク本体11側を常時連通させる絞りを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク本体およびキャニスタを接続する第1蒸発燃料通路と、タンク本体およびフィラーチューブの給油口を接続する第2蒸発燃料通路と、第2蒸発燃料通路に設けられた差圧弁とを備えた燃料タンクの蒸発燃料放出抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
給油口を開いて給油ガンからフィラーチューブに燃料を供給するとき、給油ガンから出る燃料に吸引されて給油口からタンク本体内に大気が吸引されるのを防止すべく、タンク本体およびフィラーチューブの給油口を蒸発燃料通路で接続し、燃料の供給によってタンク本体から押し出された蒸発燃料の一部を蒸発燃料通路を介して給油口に戻し、この蒸発燃料を給油ガンから出る燃料で吸引して大気の吸引を防止するものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
前記蒸発燃料通路には、タンク本体側が吸気口側よりも所定値だけ高圧になったときに開弁する差圧弁と、差圧弁に設けられてタンク本体側および吸気口側を常時連通させる絞りとを備えている。給油ガンから出る燃料の流量が大きいときには燃料による吸引力が強いため、差圧弁を開弁させて大量の蒸発燃料を給油口に戻して蒸発燃料を吸引することで大気の吸引を防止し、給油ガンから出る燃料の流量が小さいときには給油ガンから出る燃料による吸引力が弱く、給油口に戻された蒸発燃料を充分に吸引することができないため、前記絞りのみを通して少量の蒸発燃料を給油口に戻して大気への放散を防止するようになっている。
【特許文献1】特許第3536289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、タンク本体の内部空間をエンジンの吸気負圧で減圧した後に一定持間保持し、その間の内圧の増加を監視することでタンク本体のリークを検出することが行われている。この場合に、フィラーチューブの下端が燃料液面下に没しているとタンク本体の内部空間とフィラーチューブの内部空間とが差圧弁の絞りを介して連通することになり、タンク本体の内部空間を減圧しても、フィラーチューブの内分空間が充分に減圧されず、タンク本体の内圧を監視している間にフィラーチューブの内部空間に残ったエアが絞りを通過してタンク本体に流入することで、前記内圧が次第に上昇してリークが発生していると誤認される可能性があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので エンジンの吸気負圧を利用してタンク本体のリークを検出する際に、タンク本体およびフィラーチューブの給油口を接続する蒸発燃料通路に設けた差圧弁が障害にならないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、タンク本体およびキャニスタを接続する第1蒸発燃料通路と、タンク本体およびフィラーチューブの給油口を接続する第2蒸発燃料通路と、第2蒸発燃料通路に設けられた差圧弁とを備えた燃料タンクの蒸発燃料放出抑制装置において、前記差圧弁は、タンク本体側が給油口側よりも所定値以上高圧のときに開弁するとともに、給油口側がタンク本体側よりも所定値以上高圧のときに開弁する2方向弁であり、かつ給油口側およびタンク本体側を常時連通させる絞りを備えたことを特徴とする燃料タンクの蒸発燃料放出抑制装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記絞りを差圧弁の弁体に形成したことを特徴とする燃料タンクの蒸発燃料放出抑制装置が提案される。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の構成によれば、給油口を開いて給油ガンからフィラーチューブに燃料を供給するとき、燃料の流量が大きい場合にはタンク本体内の蒸発燃料の一部が第2蒸発燃料通路の差圧弁を通って給油口に押し出され、給油ガンから出る燃料により発生する負圧で吸引されて再びタンク本体に戻されることで、給油口からタンク本体に大気が吸入されるのを防止できる。
【0009】
給油ガンから出る燃料の流量が小さい場合には発生する負圧が小さいために、タンク本体から第2蒸発燃料通路を経て給油口に押し出された蒸発燃料をタンク本体に戻すことができず、その蒸発燃料が給油口から大気に放散されてしまう可能性があるが、閉弁した差圧弁の絞りを通過する微量の蒸発燃料だけが給油口に押し出されることで、蒸発燃料の大気放散を防止することができる。
【0010】
エンジンの吸気負圧を第2蒸発燃料通路を介してタンク本体に伝達して該タンク本体のリークを検出する際に、フィラーチューブの下部が燃料液面によってタンク本体の気相空間と分離されていても、吸気負圧を作用させると差圧弁が開弁して絞りが無効化されるので、フィラーチューブの内部空間およびタンク本体の内部空間を同時に減圧してリーク検出の精度を高めることができる。
【0011】
請求項2の構成によれば、絞りを差圧弁の弁体に形成したので、差圧弁の構造を簡素化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0013】
図1〜図6は本発明の一実施例を示すもので、図1は燃料タンクの蒸発燃料放出抑制装置の全体構成を示す図(給油時)、図2は燃料タンクの蒸発燃料放出抑制装置の全体構成を示す図(リークテスト時)、図3は図1の3部拡大断面図、図4は図3の4−4線断面図、図5は図3の5−5線断面図、図6は差圧弁の作用の説明図である。
【0014】
図1および図2に示すように、自動車の燃料タンクTは、燃料を貯留するタンク本体11と、タンク本体11から斜め上方に延びるフィラーチューブ12と、フィラーチューブ12の上端の給油口12aを開閉するフィラーキャップ13と、タンク本体11からエンジンEに燃料を供給するインタンク式の燃料ポンプ14と、タンク本体11の上部空間を蒸発燃料を吸着するキャニスタ15に接続する第1蒸発燃料通路16と、タンク本体11の上部空間をフィラーチューブ12の給油口12a近傍に接続する第2蒸発燃料通路17と、第2蒸発燃料通路17に設けられた差圧弁18とを備える。キャニスタ15は第3蒸発燃料通路22を介してエンジンEの吸気通路23に接続され、この第3蒸発燃料通路22には第1開閉弁19が設けられる。キャニスタ15の大気に連通するドレンポート20には第2開閉弁21が設けられる。
【0015】
第1蒸発燃料通路16がタンク本体11内に開口する部分には、満タン時に上昇した燃料液面により閉弁し、給油ガンのオートストップ装置を作動させるベントシャットフロートバルブ24が設けられる。また第1蒸発燃料通路16から分岐する分岐通路25がタンク本体11内に開口する部分には、燃料タンクTが大きく傾斜したときに閉弁し、タンク本体11内の燃料がキャニスタ15に流入するのを阻止するカットバルブ26が設けられる。更に、前記分岐通路25には、タンク本体11側の圧力がキャニスタ15側の圧力よりも所定値以上高くなると開弁するリリーフバルブ27が設けられる。
【0016】
図3〜図5に示すように、差圧弁18は2方向弁の機能を有するもので、弁ハウジング31に摺動自在に支持された第1弁部材32および第2弁部材33を備える。第2弁部材33は、円板状の弁体33aと、弁体33aの一側面から軸方向に突出して弁ハウジング31の内周面に摺動自在に案内される4本の第1ガイド部33b…と、弁本33aの他側面から軸方向に突出する4本の第2ガイド部33c…と、弁体33aの中央を貫通する小径の絞り33dとを備える。第1弁部材32は、円板状の弁体32aと、弁体32aの中央に形成されて第2弁体33の4本の第2ガイド部33c…の外周に軸方向摺動自在に案内されるガイド孔32bと、弁体32aの外周部に形成された4個の切欠32c…とを備える。第1弁部材32は、その弁体32aと第2弁部材33の第2ガイド部33c…の先端との間に配置された第1弁ばね34で第2弁部材33の弁体33aに当接する方向に付勢される。また第1弁部材32の弁体32aは、弁ハウジング31の内周面に設けたばね座31aとの間に配置された第2弁ばね35で、弁ハウジング31の内周面に設けた弁座31bに着座する方向に付勢される。
【0017】
次に、上記構成を備えた本発明の実施例の作用について説明する。
【0018】
図1に示すように、フィラーキャップ13を取り外し、フィラーチューブ12の燃料供給口12aに給油ガン36を挿入して燃料を供給すると、給油ガン36からタンク本体11に供給された燃料の容積に相当する蒸発燃料の一部が第2蒸発燃料通路17から差圧弁18を経て給油口12aの近傍に戻される。給油ガン36から供給される燃料の流量が大きい高速給油時には、差圧弁18の上流側の圧力が下流側の大気圧に比べて充分に高くなるため、図6(A)に示すように、差圧弁18の第2弁部材33および第1弁部材32が一体になって第2弁ばね35を圧縮しながら右動し、第1弁部材32の弁体32aが弁ハウジング31の弁座31bから離間する。
【0019】
その結果、開弁した差圧弁18の弁体32aおよび弁座31bの隙間から第1弁部材32の弁体32aの切欠32c…を通過した大量の蒸発燃料が、タンク本体11側からフィラーチューブ12の給油口12a側に流れることができる。このとき、第2弁部材33の絞り33dを介して一部の蒸発燃料が流れるが、第1、第2弁部材32,33の弁体32aおよび弁座31bの隙間間の隙間を介して流れる蒸発燃料に比べれば微量である。この蒸発燃料は給油ガン36から出る燃料に吸引されてフィラーチューブ12からタンク本体11に戻されることで、給油口12aから大気が吸引されることが防止されてタンク本体11内での新たな蒸発燃料の発生が抑制される。
【0020】
給油ガン36から供給される燃料の流量が小さい低速給油時には、差圧弁18の上流側および下流側の差圧が小さくなるため、図6(B)に示すように、第2弁ばね35の弾発力で第2弁部材33および第1弁部材32は移動することができない。その結果、閉弁した差圧弁18の弁体33aの絞り33dを通過した小量の蒸発燃料だけがタンク本体11側からフィラーチューブ12の給油口12a側に流れ、給油ガン36から出る燃料による吸引力が小さくても、給油口12aに戻された蒸発燃料をタンク本体11内に吸引してが大気に放散するのを防止することができる。
【0021】
さて、タンク本体11やフィラーチューブ12に発生するリークを検出する場合には、図2に示すように、キャニスタ15のドレンポート20に設けた第2開閉弁21を閉弁し、第3蒸発燃料通路22に設けた第1開閉弁19を開弁することで、吸気通路23の負圧でタンク本体11内を減圧する。このときフィラーチューブ12の下端が燃料液面下に没してタンク本体11の内部空間およびフィラーチューブ12の内部空間の連通が遮られていても、吸気通路23の負圧がタンク本体11に作用したときに、図6(C)に示すように、差圧弁18の第2弁部材33が第1弁ばね34の弾発力に抗して左動し、その弁体33aが第1弁部材32の弁体32aから離間し、フィラーチューブ12の内部空間の蒸発燃料を含む空気が第1弁体32のガイド孔32b、第1、第2弁部材32,33の弁体32a,33a間の隙間および弁体33aの外周部を介してタンク本体11の内部空間に速やかに吸引され、タンク本体11の内部空間およびフィラーチューブ12の内部空間が同時に減圧される。このとき、第2弁部材33の絞り33dを介して一部の空気が吸引されるが、第1、第2弁部材32,33の弁体32a,33a間の隙間を介して吸引される空気に比べれば微量である。
【0022】
続いて、キャニスタ15のドレンポート20に設けた第2開閉弁21を閉弁したまま、第3蒸発燃料通路22に設けた第1開閉弁19を閉弁することでタンク本体11内を密閉し、その内圧の変化を監視する。その結果、時間の経過と共に内圧が増加すればタンク本体11にリークが発生していると判断し、内圧が増加しなければタンク本体11にリークが発生していないと判断することができる。
【0023】
タンク本体11の内部空間を吸気負圧によって減圧するとき、仮に差圧弁18が開弁する機構を備えておらず、絞り33dだけを介してフィラーチューブ12内の空気がタンク本体11側に吸引されるとすると、フィラーチューブ12の内圧がタンク本体11の内圧まで下がり切る前に内圧の監視が開始されてしまい、フィラーチューブ12内の空気が絞り33dを介して少しずつタンク本体11内に流入するにつれて該タンク本体11の内圧が上昇するため、タンク本体11にリークが発生していると誤認されてしまう可能性がある。
【0024】
それに対し、本実施例によれば、タンク本体11の内部空間を吸気負圧によって減圧するとき、差圧弁18が開弁してフィラーチューブ12の内圧をタンク本体11の内圧と略同じに減少させることができるので、タンク本体11のリークを精度良く検出することができる。
【0025】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0026】
例えば、差圧弁18の構造は実施例に限定されず、任意の構造の2方向弁を差圧弁18として採用することができる。
【0027】
また実施例では絞り33dを第2弁部材33の弁体33aに設けているが、差圧弁18のタンク本体11側と給油口12a側とを連通させる任意の位置に絞りを設けることができる。但し、実施例の如く弁体33aに絞り33dを設けることで、差圧弁18の構造を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】燃料タンクの蒸発燃料放出抑制装置の全体構成を示す図(給油時)
【図2】燃料タンクの蒸発燃料放出抑制装置の全体構成を示す図(リークテスト時)
【図3】図1の3部拡大断面図
【図4】図3の4−4線断面図
【図5】図3の5−5線断面図
【図6】差圧弁の作用の説明図
【符号の説明】
【0029】
11 タンク本体
12 フィラーチューブ
12a 給油口
15 キャニスタ
16 第1蒸発燃料通路
17 第2蒸発燃料通路
18 差圧弁
33a 弁体 33d 絞り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク本体(11)およびキャニスタ(15)を接続する第1蒸発燃料通路(16)と、
タンク本体(11)およびフィラーチューブ(12)の給油口(12a)を接続する第2蒸発燃料通路(17)と、
第2蒸発燃料通路(17)に設けられた差圧弁(18)と、
を備えた燃料タンクの蒸発燃料放出抑制装置において、
前記差圧弁(18)は、タンク本体(11)側が給油口(12a)側よりも所定値以上高圧のときに開弁するとともに、給油口(12a)側がタンク本体(11)側よりも所定値以上高圧のときに開弁する2方向弁であり、かつ給油口(12a)側およびタンク本体(11)側を常時連通させる絞り(33d)を備えたことを特徴とする燃料タンクの蒸発燃料放出抑制装置。
【請求項2】
前記絞り(33d)を差圧弁(18)の弁体(33a)に形成したことを特徴とする、請求項1に記載の燃料タンクの蒸発燃料放出抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−112182(P2007−112182A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302756(P2005−302756)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】