説明

燃料供給装置

【課題】燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力が目標値よりも高くなることを解消できる燃料供給装置を提供する。
【解決手段】内燃機関に備えられた燃料噴射弁31へ、燃料タンク10内の燃料を供給する電動式の燃料ポンプ21と、燃料ポンプへの印加電圧を制御するECU40(制御手段)と、燃料ポンプから燃料噴射弁に至るまでの燃料供給経路に接続され、燃料ポンプから吐出された燃料の一部を燃料タンクへ戻すリターン配管33aと、リターン配管33aの内部通路を開閉する減圧弁36(電磁弁)と、燃料噴射弁からの燃料噴射量(エンジン使用量Qout)が所定未満となっている低消費状態であるか否かを判定する判定手段と、を備え、低消費状態であると判定されている時には減圧弁を開弁させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンク内の燃料を供給する電動式の燃料ポンプにより燃料噴射弁へ供給する燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に備えられた従来の燃料供給装置では、燃料タンク内の燃料を燃料噴射弁へ供給する電動式の燃料ポンプを駆動させるにあたり、燃料ポンプへ一定の電圧を印加するのが一般的であった。なお、レギュレータを備えることで、燃料噴射弁への供給圧力が所定圧を超えることは回避させる。
【0003】
そして近年では、燃料ポンプへの印加電圧をデューティ制御することで、エンジン運転状態に合わせてデリバリパイプ内の燃圧が目標値となるように制御して、排気エミッションの向上や燃料ポンプの省電力化を図る装置が増えてきている(特許文献1参照)。なお、前記デリバリパイプとは、燃料ポンプから供給される燃料を蓄圧して、その蓄圧した燃料を複数の燃料噴射弁へ分配する容器である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−203814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、燃料ポンプには印加電圧の下限制約が存在する。例えば、印加電圧を下限値以下にすると、以下の不具合が懸念されるようになる。すなわち、ポンプの駆動トルクが過小になり、ポンプインペラ等に異物が噛み込んで回転不能にロックされる。また、ポンプを駆動させるモータのブラシとコンミテータとの間に油膜が発生して所望の駆動トルクが得られなくなる。また、ポンプ内のベーパー排出が不十分となりベーパーロックする。また、モータの冷却が不十分となり焼き付きが生じる。
【0006】
そして、このように印加電圧の下限制約が存在することが原因で、燃圧の前記目標値が低い時であってもポンプ吐出量を十分に下げるよう印加電圧を下げることができず、実燃圧が目標燃圧よりも高くなる不具合が生じる、との知見を本発明者は得た。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力が目標値よりも高くなることを解消できる燃料供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0009】
請求項1記載の発明では、内燃機関に備えられた燃料噴射弁へ、燃料タンク内の燃料を供給する電動式の燃料ポンプと、前記燃料ポンプへの印加電圧を制御して、前記燃料ポンプからの燃料吐出量を制御する制御手段と、前記燃料ポンプから前記燃料噴射弁に至るまでの燃料供給経路に接続され、前記燃料ポンプから吐出された燃料の一部を前記燃料タンクへ戻すリターン配管と、前記リターン配管の内部通路を開閉する電磁弁と、前記燃料噴射弁からの燃料噴射量が所定未満となっている低消費状態であるか否かを判定する判定手段と、を備え、前記低消費状態であると判定されている時には、前記電磁弁を開弁させることを特徴とする。
【0010】
これによれば、低消費状態の時には、燃料ポンプから吐出された燃料の一部がリターン配管を通じて燃料タンクへ戻ることとなる。よって、燃料ポンプへの印加電圧の下限制約が存在することに起因して、ポンプ吐出量を低消費状態に応じた量に十分に低下できない場合であっても、燃料ポンプから過剰に吐出した分をリターン配管から排出できる。よって、燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力が目標値よりも高くなることを解消できる。
【0011】
請求項2記載の発明では、前記制御手段は、前記燃料吐出量の目標値に応じて前記印加電圧を設定しており、前記低消費状態であると判定されている時には、前記リターン配管を流れるリターン量の想定分だけ前記目標値を増量させることを特徴とする。
【0012】
ここで、電磁弁を開弁させれば、リターン配管から排出されるリターン量の分だけ燃料噴射弁へ供給される供給量が少なくなり、燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力が目標値よりも低くなることが懸念される。この点を鑑みた上記発明では、低消費状態であると判定されている時には目標値を増量させるので、前記懸念を解消できる。
【0013】
請求項3記載の発明では、前記目標値を増量させる制御に切り替えてから、前記電磁弁の近傍での流量が増加を開始した後に前記電磁弁を開弁させることを特徴とする。
【0014】
ここで、燃料ポンプからの燃料吐出圧(ポンプ吐出圧)は、上述の如く目標値を増量させる制御(増量制御)に切り替えた時点で直ぐに増大する。しかし、燃料供給経路のうち電磁弁近傍の燃料圧力は、ポンプ吐出圧が増大してから所定時間が経過した後に増大を開始する。つまり、ポンプ吐出圧の増大に遅れて電磁弁近傍の燃圧は増大するので、増量制御に切り替えた時点で直ぐに電磁弁を開弁させると、燃料噴射弁への供給圧力が目標圧力に対して大幅に低下することが懸念される。この点を鑑みた上記発明では、増量制御に切り替えてから、電磁弁近傍での流量が増加を開始した後に電磁弁を開弁させるので、上記懸念を解消できる。
【0015】
具体的には、増量制御に切り替えてから所定のディレイ時間(図5中の符号D1参照)が経過した時点を、「電磁弁近傍での流量が増加を開始した時点」とみなして電磁弁を開弁させればよい。或いは、モデル式等を用いた演算により「電磁弁近傍での流量が増加を開始する時点」を推測して電磁弁を開弁させてもよい。
【0016】
請求項4記載の発明では、前記目標値を増量させる制御を終了してから、前記電磁弁の近傍での流量が減少を開始した後に前記電磁弁を閉弁させることを特徴とする。
【0017】
ここで、燃料ポンプからの燃料吐出圧(ポンプ吐出圧)は、上述の如く目標値を増量させる制御を終了した時点で直ぐに減少する。しかし、燃料供給経路のうち電磁弁近傍の燃料圧力は、ポンプ吐出圧が減少してから所定時間が経過した後に減少を開始する。つまり、ポンプ吐出圧の減少に遅れて電磁弁近傍の燃圧は減少するので、増量制御を終了した時点で直ぐに電磁弁を閉弁させると、燃料噴射弁への供給圧力が目標圧力に対して大幅に上昇することが懸念される。この点を鑑みた上記発明では、増量制御を終了してから、前記電磁弁の近傍での流量が減少を開始した後に電磁弁を閉弁させるので、上記懸念を解消できる。
【0018】
具体的には、増量制御を終了してから所定のディレイ時間(図5中の符号D2参照)が経過した時点を、「電磁弁近傍での流量が減少を開始した時点」とみなして電磁弁を閉弁させればよい。或いは、モデル式等を用いた演算により「電磁弁近傍での流量が減少を開始する時点」を推測して電磁弁を閉弁させてもよい。
【0019】
請求項5記載の発明では、前記目標値を増量させる制御を開始または終了させてから所定のディレイ時間が経過した後に、前記電磁弁の開閉を切り替えるように制御しており、前記燃料噴射弁へ供給する燃料の圧力が高くなっている時ほど、前記ディレイ時間を長くすることを特徴とする。
【0020】
ディレイ時間を過剰に長く設定すると、燃料噴射弁への供給燃圧が目標値よりも高くなり、過剰に短く設定すると目標値よりも低くなるため、これらの点を鑑みた最適な値に設定することが要求される。そして、このような最適値は、増量制御に切り替える直前の供給燃圧に応じて異なる値となることを本発明者は見出した。そこで上記発明では、供給燃圧が高くなっている時ほどディレイ時間を長くするので、ディレイ時間を先述した最適値にすることを実現でき、目標値に対して供給燃圧を高精度で制御できる。
【0021】
請求項6記載の発明では、前記燃料噴射弁へ供給する燃料の実圧力が目標燃圧より所定以上高くなっている場合には、前記判定手段による判定結果に拘わらず、前記電磁弁を開弁させることを特徴とする。
【0022】
これによれば、実圧力が目標燃圧に対して所定以上高くなった時に、電磁弁を開弁させることで実圧力を迅速に低下させることができる。よって、実圧力を目標燃圧に一致させる制御の応答性を向上できる。特に、燃料供給経路に実圧力の低下を抑制する手段(例えば逆止弁)が設けられている場合には、電磁弁を開弁させなければ実圧力を迅速に低下させることができないので、このような逆止弁等の手段が設けられている場合に上記発明を適用すれば、実圧力を迅速に低下させるといった前記効果が好適に発揮される。
【0023】
なお、以上に説明した各種発明を実施するにあたり、前記判定手段による判定結果に応じて、前記電磁弁を全閉および全開のいずれかに切り替えるオンオフ制御を実施してもよいし、電磁弁の作動をデューティ制御して、リターン配管から排出する流量を制御することもできる。但しデューティ制御を実施した場合には、デューティ制御に伴い生じる通電接点のオンオフ作動音が運転者にとって耳障りとなり、また、コストアップを招く。そのため、電磁弁の作動についてはデューティ制御よりもオンオフ制御が有効である。
【0024】
また、以上に説明した各種発明において、低消費状態であるか否かの判定に応じて電磁弁の開閉状態を切り替えるにあたり、低消費状態であるか否かの判定にヒステリシスを設けることで、電磁弁が短時間で開閉を繰り返すこと(チャタリング)の抑制を図ることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態において、燃料供給装置および燃料噴射システムを示す構成図。
【図2】図1で採用されている燃料ポンプの特性を示すグラフ。
【図3】図1の減圧弁を制御する手順を示すフローチャート。
【図4】ポンプ駆動デューティとポンプ吐出量Qpとの関係を計測した結果を示すグラフ。
【図5】図3の処理を実施した場合の一態様を示すタイムチャート。
【図6】本発明の第2実施形態において、減圧弁を制御する手順を示すフローチャート。
【図7】図6の制御による作用効果を説明するタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明にかかる燃料供給装置を具体化した一実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する燃料供給装置は、車両用のエンジン(内燃機関)に搭載されたものであり、当該エンジンには、複数の気筒の各々に燃料噴射弁が備えられた多気筒エンジン、かつ、点火式のガソリンエンジンを想定している。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、車両に搭載された燃料タンク10内にはサブタンク11が備えられており、そのサブタンク11内に燃料ポンプユニット20が設置されている。燃料ポンプユニット20は、サブタンク11内の燃料をデリバリパイプ30へ供給する。デリバリパイプ30は、供給されてきた燃料を蓄圧して、エンジンの各気筒に設けられた燃料噴射弁31へ分配する。
【0028】
燃料噴射弁31の作動(噴射開始時期および噴射期間)は、電子制御ユニット(ECU40)により制御される。具体的には、エンジン運転状態(例えばエンジン負荷およびエンジン回転速度)に基づき目標噴射量を算出し、その目標噴射量となるように燃料噴射弁31の開弁時間(噴射期間)を制御する。
【0029】
燃料ポンプユニット20は、燃料ポンプ21、サクションフィルタ22、メインフィルタ23、残圧保持バルブ24を一体に組み付けて構成されている。燃料ポンプ21は、ケーシング内にインペラを収容して構成されたポンプ部21aと、インペラを回転駆動させる電動モータ21bとを備えて構成されている。
【0030】
そして、電動モータ21bへ電力供給してポンプ部21aを回転駆動させると、サブタンク11内の燃料がサクションフィルタ22を通じてポンプ部21aに吸入され、燃料ポンプ21の吐出口21cから吐出される。その後、メインフィルタ23および残圧保持バルブ24を通過して、燃料ポンプユニット20から吐出される。
【0031】
吐出口21cから吐出された燃料の一部は、図示しないジェットポンプに供給される。これにより、燃料タンク10内の燃料がサブタンク11内に汲み上げられることとなる。なお、以下の説明では、燃料ポンプ21の吐出口21cから吐出される燃料の流量をポンプ吐出量Qp(燃料吐出量)とし、ジェットポンプに供給される燃料の流量をジェットポンプ駆動量Qjとし、デリバリパイプ30へ供給される燃料の流量を供給量Qinとする。また、燃料噴射弁31から噴射される燃料の流量をエンジン使用量Qoutとする。また、後述する減圧弁36を開弁してリターンさせる燃料の流量をリターン量Qrとする。
【0032】
残圧保持バルブ24は、設定圧力(例えば200kPa)以上の時に開弁してサブタンク11へ燃料をリークするように作動し、設定圧力未満の時には閉弁してリークしないように作動する。これにより、燃料ポンプ21の駆動を停止した後において、残圧保持バルブ24の下流側の燃料圧力を設定圧力に維持するように残圧保持する。
【0033】
燃料ポンプユニット20とデリバリパイプ30とを接続する高圧配管33には、上流側から順に、逆止弁34、リリーフ弁35、減圧弁36(電磁弁)が取り付けられている。なお、これらの逆止弁34、リリーフ弁35および減圧弁36は、燃料タンク10内に位置する。
【0034】
逆止弁34は、高圧配管33から燃料ポンプユニット20へ燃料が逆流することを防止する。リリーフ弁35は、燃料の圧力が上限圧力(例えば600kPa)を超えた時に開弁して燃料をリリーフさせる。これにより、上限圧力を超えた圧力の燃料がデリバリパイプ30へ供給されることを防止する。
【0035】
減圧弁36は、ECU40により駆動制御される電磁弁であり、ECU40により通電オンすると開弁して、高圧配管33内の燃料を燃料タンク10へ戻す。なお、ECU40は、減圧弁36の開度をデューティ制御等により調整しているわけではなく、全開か全閉のいずれかにオンオフ制御する。ちなみに、減圧弁36の下流側に接続された配管がリターン配管33aに相当する。また、燃料ポンプ21の吐出口21cからデリバリパイプ30に至るまでの経路が「燃料供給経路」に相当する。
【0036】
ところで、エンジンの運転状態に応じて、デリバリパイプ30内の燃料圧力(供給圧)の最適値は異なってくる。つまり、供給圧を最適値に制御すれば、排気エミッション向上やエンジン出力向上を図ることができる。そこでECU40は、エンジンの運転状態(例えばエンジン負荷およびエンジン回転速度)に応じた目標供給圧Ptrgを算出し、目標供給圧Ptrgに応じたポンプ吐出量となるよう、燃料ポンプ21の作動を制御する。具体的には、所望のポンプ吐出量Qpとなるよう、電動モータ21bへの印加電圧をデューティ制御する。
【0037】
なお、ECU40は、燃圧センサ32により検出された実際の供給圧(実供給圧Pact)を逐次取得しており、検出した実供給圧Pactが目標供給圧Ptrgとなるように、燃料ポンプユニット20の作動をフィードバック制御している。ちなみに、ECU40から出力されたデューティ信号(0〜5V)はコントローラ41に入力され、コントローラ41は、入力されたデューティ信号に対応したデューティ比の駆動電圧(0〜12V)を電動モータ21bへ印加する。
【0038】
ところで、燃料ポンプ21には印加電圧の下限制約が存在する。例えば、印加電圧を下限値以下にすると、以下の不具合が懸念されるようになる。すなわち、ポンプ部21aのインペラの回転トルクが過小になり、インペラとケーシングの間に異物が噛み込んで回転不能にロックされる。また、電動モータ21bのブラシとコンミテータとの間に油膜が発生して所望の駆動トルクが得られなくなる。また、ポンプ内のベーパー排出が不十分となりベーパーロックする。また、電動モータ21bの冷却が不十分となり焼き付きが生じる。したがって、これらの懸念全てを解消できるように、印加電圧の下限値(図2の例ではB2V)が設定されている。
【0039】
図2は、図1で採用されている燃料ポンプ21の特性を示すグラフであって、燃圧、流量(ポンプ吐出量Qp)および印加電圧の関係を示すものである。例えば、直線L1は、印加電圧を最大(例えばB1V)にした時のポンプ吐出量Qpと燃圧の関係を示す。但し、ポンプ流量の機差ばらつきやインペラ等の磨耗による流量低下、先述したフィルミングによる流量低下、各種フィルタ22,23での圧力損失による流量低下等、各種の流量低下分(斜線D1参照)を見込んで、印加電圧を最大にした時のポンプ吐出量Qpは直線L2であるとみなす。また、図中の直線L3は、印加電圧を先述した下限値(例えばB2V)にした時のポンプ吐出量Qpと燃圧の関係を示す。さらに、図中の斜線D2はジェットポンプ駆動量Qjを示す。
【0040】
スロットルバルブを最大にした状態(WOT)でエンジンを運転させている時には、燃圧がA1kPaとなるように制御するため、その時のポンプ吐出量は図中の縦軸にて符号Qp(max)に示す値となる。したがって、このポンプ吐出量Qp(max)からジェットポンプ駆動量Qjを減算した量が、リターン量Qrをゼロとした場合の供給量Qinに相当する。要するに、WOT時のエンジン使用量Qoutおよびジェットポンプ駆動量Qjから算出されるポンプ吐出量Qp(max)を、最大電圧時に吐出可能な能力の燃料ポンプ21が選定されている。
【0041】
そして、このように選定した燃料ポンプ21において、エンジンをアイドル運転させている時には、燃圧がA2kPaとなるように制御するため、印加電圧を下限値にした時のポンプ吐出量は図中の縦軸にて符号Qp(min)に示す値となる。したがって、このポンプ吐出量Qp(min)からジェットポンプ駆動量Qjを減算した量が、リターン量Qrをゼロとした場合の供給量Qinに相当する。
【0042】
しかしながら、このように印加電圧の下限制約が存在することに起因して、エンジン使用量Qoutが少量の場合には、その使用量Qoutに対する供給量Qinが過剰となる。換言すれば、燃圧の目標値が低い時であってもポンプ吐出量Qpを十分に下げることができず、実燃圧が目標燃圧よりも高くなる不具合が生じる、との知見を本発明者は得た。そこで本実施形態では、エンジン使用量Qoutが所定値未満である場合には、減圧弁36を開弁してリターン量Qrを生じさせ、エンジン使用量Qoutに対する供給量Qinを最適な量に調整する。
【0043】
図3は、この調整にかかる制御手順を示すフローチャートであり、ECU40が有するマイクロコンピュータにより所定周期で繰り返し実行される。
【0044】
先ず、図3に示すステップS10(判定手段)において、エンジン使用量Qoutが所定値未満(低消費状態)であるか否かを判定する。エンジン使用量Qoutは、先述した目標噴射量に基づき算出すればよい。所定量未満であると判定されれば(S10:YES)、ステップS11に進み、印加電圧が下限値L3で制限される低消費状態とみなして、減圧弁36を開弁させるよう開判定する。
【0045】
一方、所定量Qth未満であると判定されれば(S10:NO)、ステップS20に進み、エンジン使用量Qoutが図中の符号(a)に示すヒステリシス分を所定値Qthに加算した値以上であるか否かを判定する。Qout≧Qth+ヒステリシス分と判定されれば(S20:YES)、ステップS21に進み、印加電圧が下限値L3で制限されていない非低消費状態とみなして、減圧弁36を閉弁させるよう閉判定する。ちなみに、ステップS10,S20の両方で否定判定された場合には、ステップS11またはS21で為された現状の判定を維持させる。
【0046】
ところで、ECU40がコントローラ41へ出力するデューティ信号は、目標供給圧Ptrgおよびエンジン使用量Qoutに応じて決定される。具体的には、目標供給圧Ptrgおよびエンジン使用量Qoutと関連付けられたデューティ比の適合値を予め試験して取得しておき、マップ等にて予め記憶させておく。そして、エンジン運転時において、都度のエンジン使用量Qoutおよび目標供給圧Ptrgに基づき、前記マップを参照してデューティ比の適合値を取得し、取得したデューティ比のデューティ信号をコントローラ41へ出力する。
【0047】
但し、減圧弁36を開弁させている場合には、リターン量Qrの分だけ供給量Qinが少なくなる。この点を鑑み、前記マップを、開弁用と閉弁時用の2種類に分けて作成しておき、開弁用マップによるデューティ比の方が、閉弁用マップによるデューティ比よりも大きくなるように設定する。これにより、開弁時にはリターン量Qrの分だけポンプ吐出量Qpが増量されることとなる。
【0048】
なお、開弁時用マップを廃止して、閉弁用マップに基づくデューティ比を増大させる補正して、開弁時におけるデューティ信号を設定してもよい。或いは、開弁時用マップおよび閉弁用マップの両方を廃止してもよく、この場合には、図5において、開判定時t1または閉判定時t3にマップを切り替えることに替え、コントローラ41から出力される電圧値を閉弁用と開弁用とで切り替えることとなる。
【0049】
図3の説明に戻り、ステップS11にて開判定されていれば、次のステップS12にて、先述した開弁用マップを用いるように使用マップを切り替え、開弁用マップを用いて設定したデューティ信号を出力する。但し、使用マップを開弁用マップに切り替えてポンプ制御を開始した時点から所定のディレイ時間が経過するまでは、減圧弁36を閉弁状態に維持させておき(S13:NO)、前記ディレイ時間が経過した時点(S13:YES)で、ステップS14に進み減圧弁36を開弁させる。
【0050】
一方、ステップS21にて閉判定されていれば、次のステップS22にて、先述した閉弁用マップを用いるように使用マップを切り替え、閉弁用マップを用いて設定したデューティ信号を出力する。但し、使用マップを閉弁用マップに切り替えてポンプ制御を開始した時点から所定のディレイ時間が経過するまでは、減圧弁36を開弁状態に維持させておき(S23:NO)、前記ディレイ時間が経過した時点(S23:YES)で、ステップS24に進み減圧弁36を閉弁させる。
【0051】
図4は、コントローラ41から電動モータ21bへ出力されるポンプ駆動デューティとポンプ吐出量Qpとの関係を計測した結果を示すグラフである。先述した使用マップの切り替えに伴い、ポンプ吐出量Qpが所定量(例えば60L/h)未満で有る低消費状態の時には、ポンプ駆動デューティがリターン量Qrの分だけ上乗せして増量されていることを図4は示す。
【0052】
図5は、図3の処理を実施した場合の一態様を示すタイムチャートであり、先ず、車両走行中にスロットル開度を小さくするよう操作したことに伴いエンジン使用量Qoutが低下している状況(図5の左側参照)について説明する。
【0053】
エンジン使用量Qoutが所定量Qth未満となったt1時点で、閉弁用マップから開弁用マップに切り替える(図5(a)(b)参照)。そして、このマップ切り替えに伴い、ポンプ吐出量Qpがリターン量Qrの分だけ増量する(図5(c)参照)。その後、t1時点から所定のディレイ時間D1が経過したt2時点で、減圧弁36を開弁させる(図5(d)参照)。
【0054】
ここで、電動モータ21bへの印加電圧は、目標供給圧Ptrgと実供給圧Pactとの偏差に応じてフィードバック補正される。そのため、本実施形態に反して減圧弁36を廃止しても、前記フィードバック補正により実供給圧Pactを目標供給圧Ptrgにすることができる。しかし、その応答性が悪く、実供給圧Pactを迅速に目標供給圧Ptrgにすることはできない。これに対し、本実施形態では、下限値L3の制約に起因して、目標供給圧Ptrgに対するポンプ吐出量Qpが過剰になると予測される場合には、減圧弁36を開弁させて余剰分をリリーフさせるので、迅速に目標供給圧Ptrgにすることができる。つまり、減圧弁36の開弁によりフィードフォワード制御していると言える。
【0055】
図5の説明に戻り、次に、車両走行中にスロットル開度を大きくするよう操作したことに伴いエンジン使用量Qoutが増加している状況(図5の右側参照)について説明する。エンジン使用量Qoutが所定量Qth+ヒステリシス分以上となったt3時点で、開弁用マップから閉弁用マップに切り替える(図5(a)(b)参照)。そして、このマップ切り替えに伴い、ポンプ吐出量Qpがリターン量Qrの分だけ減量する(図5(c)参照)。その後、t3時点から所定のディレイ時間D2が経過したt4時点で、減圧弁36を閉弁させる(図5(d)参照)。
【0056】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0057】
(1)低消費状態の時には減圧弁36を開弁させるので、ポンプ吐出量Qpの一部がリターン量Qrとして燃料タンク10へ戻ることとなる。よって、燃料ポンプ21の下限値L3の制約に起因して、ポンプ吐出量Qpを低消費状態に応じたエンジン使用量Qoutに十分に低下できない場合であっても、ポンプ吐出量Qpの余剰分を減圧弁36から排出できる。よって、デリバリパイプ30への供給量Qinをエンジン使用量Qoutに応じた適正量にすることができ、実供給圧Pactが目標供給圧Ptrgよりも高くなることを解消できる。
【0058】
(2)減圧弁36を開弁させれば、リターン量Qrの分だけデリバリパイプ30へ供給される供給量Qinが少なくなるとの懸念に対し、本実施形態では、低消費状態であると判定されている時には閉弁用マップから開弁用マップに切り替えてポンプ吐出量Qpを増量させるので、前記懸念を解消できる。
【0059】
(3)ここで、ポンプ吐出量Qpおよび吐出圧は、開弁用マップ(増量制御)に切り替えた時点で直ぐに増大する。しかし、減圧弁36近傍の燃料圧力は、ポンプ吐出圧が増大してから所定時間が経過した後に増大する。つまり、ポンプ吐出圧の増大に遅れて減圧弁36近傍の燃圧は増大するので、開弁用マップに切り替えたt1時点で直ぐに減圧弁36を開弁させると、実供給圧Pactが目標供給圧Ptrgに対して大幅に低下することが懸念される。この点を鑑みた本実施形態では、開弁用マップに切り替えたt1時点から、所定のディレイ時間D1が経過したt2時点で減圧弁36を開弁させるので、上記懸念を解消できる。
【0060】
(4)開弁用マップから閉弁用マップに切り替えた場合も同様にして、閉弁用マップに切り替えたt3時点から、所定のディレイ時間D2が経過したt4時点で減圧弁36を閉弁させるので、t3時点で閉弁させることにより実供給圧Pactが目標供給圧Ptrgに対して大幅に上昇する、といった懸念を解消できる。
【0061】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、低消費状態である場合に減圧弁36を開弁させているが、本実施形態では、低消費状態であるか否かに拘わらず、実供給圧Pactが目標供給圧Ptrgよりも所低圧Pa以上高くなった場合に減圧弁36を開弁させている。なお、本実施形態における燃料供給装置のハード構成は、図1に示す上記第1実施形態と同じである。
【0062】
図6は、本実施形態にかかる減圧弁36の開弁制御手順を示すフローチャートであり、先ずステップS30において、実供給圧Pactおよび目標供給圧Ptrgを取得する。次のステップS31では、Pact≧Ptrg+Paであるか否かを判定し、肯定判定されれば次のステップS32にて減圧弁36を開弁させる。一方、ステップS31にて否定判定されれば次のステップS33にて減圧弁36を閉弁させる。
【0063】
なお、図6の処理は、図3の処理とは別に実施される割り込み処理である。また、図6の処理では、開弁用マップへの切り替えは実施しない。また、図6の処理では、図5に示すディレイ時間D1,D2を廃止して、ステップS31での判定が切り替わった時点で直ぐに減圧弁36を作動させる。また、ステップS31の判定にはヒステリシスを設けておくことが望ましい。
【0064】
図7は、図6の制御による作用効果を説明するタイムチャートであり、図中の実線は実供給圧Pactの変化を表し、点線は目標供給圧Ptrgの変化を表す。目標供給圧Ptrgがta時点でステップ状に低下した場合、図6の制御による減圧弁36の開弁を実施しなければ、実供給圧Pactは燃料噴射弁31から燃料が噴射されることに伴って徐々に低下していく(図7(a)参照)。
【0065】
これに対し、図6の制御による減圧弁36の開弁を実施すれば、ta時点で減圧弁36が開弁することとなり、実供給圧Pactと目標供給圧Ptrgとの偏差が所低圧Paになるtc時点までの期間、減圧弁36の開弁状態が継続される(図7(b)参照)。これにより、実供給圧Pactを目標供給圧Ptrgにまで低下させるに要する時間(ta〜tb)を短縮でき、特に目標供給圧Ptrgが急激に低下した場合における実供給圧Pactの応答性を向上できる。
【0066】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0067】
・上記第1実施形態では、エンジン使用量Qoutが所定値Qth未満である場合に低消費状態であると見なして減圧弁36を開弁させているが、ECU40から出力するデューティ信号のデューティ比が所定値未満である場合に、低消費状態であると見なして減圧弁36を開弁させてもよい。
【0068】
・上記第1実施形態で設定されているディレイ時間D1,D2を、その時の実供給圧Pactに応じて可変設定してもよい。例えば、実供給圧Pactが高い場合には、マップ切り替えによりポンプ吐出量Qpを変化させてから減圧弁36近傍の燃圧が変化するまでの遅れ時間が短くなるので、実供給圧Pactが高い場合にはディレイ時間D1,D2を短く設定することが望ましい。
【0069】
・また、ポンプの劣化状態に応じてディレイ時間D1,D2を可変設定してもよい。なお、ポンプの劣化状態は、電動モータ21bへの印加電圧(デューティ比)に対するポンプ吐出量により把握できる。例えば、実供給圧Pactが目標供給圧Ptrgとなるようにフィードバック制御するにあたり、デューティ比のベース値に対するフィードバック補正量の大きさに基づき、ポンプ劣化状態を把握すればよい。
【0070】
・上記第2実施形態にかかる図6の制御を実施するにあたり、減圧弁36を開弁させた後、閉弁のタイミングが遅れると、実供給圧PactがオーバーシュートしてPtrgよりも大幅に低くなることが懸念される。そこで、例えばステップS31の判定に用いる所低圧Paを、実供給圧Pactと目標供給圧Ptrgとの偏差に応じて可変設定して、前記懸念の解消を図るようにしてもよい。
【0071】
・上記第2実施形態にかかる図6の制御を実施するにあたり、エンジン運転状態に応じてステップS31の判定に用いる所低圧Paを可変設定してもよい。例えば、燃料噴射弁31からの噴射量をゼロにした燃料噴射カット時においては、所低圧Paを小さい値に変更する。
【0072】
・燃料ポンプ21の吐出口21cからデリバリパイプ30に至るまでの経路が「燃料供給経路」に相当する。そして、図1に示す上記実施形態では減圧弁36を高圧配管33に取り付けているが、燃料ポンプユニット20に取り付けてもよい。但し、図6の制御を実施して迅速な減圧を図る場合には、逆止弁34の下流側に減圧弁36を配置する必要がある。
【0073】
・上記各実施形態にかかるECU40は、減圧弁36を全開および全閉のいずれかにオンオフ制御しているが、デューティ制御等により減圧弁36の開度を調整するように制御してもよい。
【0074】
・上記各実施形態では、通電により開弁するノーマリクローズ式の減圧弁36を採用しているが、通電により閉弁するノーマリオープン式の減圧弁を採用してもよい。但し、ノーマリオープン式を採用する場合には、逆止弁34の下流側に減圧弁を配置すると、エンジン停止して残圧保持させたい時に減圧弁の閉弁状態を維持させるべく通電を継続させなければならないので、現実的ではない。よって、ノーマリオープン式を採用する場合には、逆止弁34の上流側に減圧弁を配置することが望ましい。
【0075】
・上記各実施形態では、減圧弁36を逆止弁34の下流側に配置しているが、上流側に配置してもよい。また、残圧保持バルブ24およびリリーフ弁35のいずれかを廃止してもよい。なお、例えばリリーフ弁35を廃止した場合には、燃料の圧力が上限圧力(例えば600kPa)を超えた時に残圧保持バルブ24が開弁してリリーフするように構成すればよい。
【符号の説明】
【0076】
21…燃料ポンプ、31…燃料噴射弁、33a…リターン配管、36…減圧弁(電磁弁)、40…ECU(制御手段)、41…コントローラ(制御手段)、Pact…実供給圧(実圧力)、Ptrg…目標供給圧(目標燃圧)、S10…判定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に備えられた燃料噴射弁へ、燃料タンク内の燃料を供給する電動式の燃料ポンプと、
前記燃料ポンプへの印加電圧を制御して、前記燃料ポンプからの燃料吐出量を制御する制御手段と、
前記燃料ポンプから前記燃料噴射弁に至るまでの燃料供給経路に接続され、前記燃料ポンプから吐出された燃料の一部を前記燃料タンクへ戻すリターン配管と、
前記リターン配管の内部通路を開閉する電磁弁と、
前記燃料噴射弁からの燃料噴射量が所定未満となっている低消費状態であるか否かを判定する判定手段と、
を備え、
前記低消費状態であると判定されている時には、前記電磁弁を開弁させることを特徴とする燃料供給装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記燃料吐出量の目標値に応じて前記印加電圧を設定しており、前記低消費状態であると判定されている時には、前記リターン配管を流れるリターン量の想定分だけ前記目標値を増量させることを特徴とする請求項1に記載の燃料供給装置。
【請求項3】
前記目標値を増量させる制御に切り替えてから、前記電磁弁の近傍での流量が増量を開始した後に前記電磁弁を開弁させることを特徴とする請求項2に記載の燃料供給装置。
【請求項4】
前記目標値を増量させる制御を終了してから、前記電磁弁の近傍での流量が減少を開始した後に前記電磁弁を閉弁させることを特徴とする請求項2または3に記載の燃料供給装置。
【請求項5】
前記目標値を増量させる制御を開始または終了させてから所定のディレイ時間が経過した後に、前記電磁弁の開閉を切り替えるように制御しており、
前記燃料噴射弁へ供給する燃料の圧力が高くなっている時ほど、前記ディレイ時間を長くすることを特徴とする請求項3または4に記載の燃料供給装置。
【請求項6】
前記燃料噴射弁へ供給する燃料の実圧力が目標燃圧より所定以上高くなっている場合には、前記判定手段による判定結果に拘わらず、前記電磁弁を開弁させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の燃料供給装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−15067(P2013−15067A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148116(P2011−148116)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】