説明

燃料噴射ポンプ用リード弁および燃料噴射ポンプ

【課題】高い耐圧性と高いリフト量とを両立できる燃料噴射ポンプ用リード弁および燃料噴射ポンプを提供する。
【解決手段】上シート板60とリード弁本体51とを積層して構成され、上シート板60には、弁座61Aと弁座孔61とが形成され、リード弁本体51には、弾性変形する腕部51Qと腕部51Qの一端に設けられる弁部51Pとを備え、弁部51Pが弁座61Aに当接して弁座孔61を塞ぐことで閉状態となり、弁部51Pが弁座61Aから離れ弁座孔61を開放することで開状態となる吸入リード弁31であって、リード弁本体51は、最上面シート81と最下面シート82とを積層して構成され、最上面シート81および最下面シート82の積層面の摩擦係数は、積層面以外の摩擦係数よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射ポンプ用リード弁および燃料噴射ポンプの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料噴射ポンプ用リード弁は、燃料噴射ポンプで使用されるリード弁として公知である。特許文献1は、燃料噴射ポンプ用リード弁を開示している。燃料噴射ポンプ用リード弁は、弾性変形する腕部と、腕部の一端に設けられる弁部と、からなるリード弁本体を備えている。燃料噴射ポンプ用リード弁は、リード弁本体を1枚の薄板に一体化した逆止弁である。
【0003】
リード弁本体には、高い耐圧性と高いリフト量とが要求される。リード弁本体の高い耐圧性とは、閉弁したときのリード弁の上流側と下流側との圧力差に耐える性能をいう。リード弁本体の耐圧性は、リード弁本体の板厚が厚いほど向上する。一方、リード弁本体のリフト量とは、開弁するときのリード弁本体の撓み量をいう。リード弁本体が開弁したときにリフト量が高いほど弁座孔の開口面積が大きくなる。リード弁本体のリフト量は、リード弁本体の板厚が薄いほど高くなる。
【0004】
つまり、リード弁本体の高い耐圧性と高いリフト量とは、トレードオフの関係にある。一方、燃料噴射ポンプ用リード弁は、小型化および低コストが要求されている。そのため、リード弁本体の高い耐圧性と高いリフト量とは、どちらか一方を犠牲にしなければ、燃料噴射ポンプ用リード弁としての製品化が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−153000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、解決しようとする課題は、高い耐圧性と高いリフト量とを両立できる燃料噴射ポンプ用リード弁および燃料噴射ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、シートとリード弁本体とを積層して構成され、前記シートには、弁座と弁座孔とが形成され、前記リード弁本体には、弾性変形する腕部と該腕部の一端に設けられる弁部とを備え、前記弁部が前記弁座に当接して前記弁座孔を塞ぐことで閉状態となり、前記弁部が前記弁座から離れ前記弁座孔を開放することで開状態となる燃料噴射ポンプ用リード弁であって、前記リード弁本体は、複数枚のシートを積層して構成され、前記シートの積層面の摩擦係数は、前記シートの積層面以外の摩擦係数よりも高いものとされるものである。
【0009】
請求項2においては、請求項1に記載の燃料噴射ポンプ用リード弁であって、前記シートの積層面の面粗度は、前記シートの積層面以外の面粗度よりも大きいものとされるものである。
【0010】
請求項3においては、請求項1または2に記載の燃料噴射ポンプ用リード弁であって、前記複数枚のシートのうち前記弁座に当接するシートの、前記弁部における前記弁座に当接しない部分には、貫通孔が形成されるものである。
【0011】
請求項4においては、燃料噴射ポンプであって、請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料噴射ポンプ用リード弁を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の燃料噴射ポンプ用リード弁および燃料噴射ポンプによれば、高い耐圧性と高いリフト量とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態である燃料噴射ポンプの構成を示す模式図。
【図2】同じくバルブユニットの構成を示した斜視図。
【図3】実施形態である吸入リード弁の構成を示す模式図。
【図4】同じく平面図。
【図5】同じく吸入リード弁の開閉を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を用いて、燃料噴射ポンプ10について説明する。
なお、図1および図2では、吸入通路21を破線で示し、吐出通路22を実線で示し、リリーフ通路23を2点鎖線で示している。
【0015】
燃料噴射ポンプ10は、本発明の燃料噴射ポンプの実施形態である。燃料噴射ポンプ10は、燃料噴射ポンプ本体20と、バルブユニット30と、電磁スピル弁40と、を具備している。燃料噴射ポンプ本体20は、吸入通路21と、吐出通路22と、リリーフ通路23と、燃料加圧室25と、プランジャ27と、駆動カム28と、ポンプハウジング15と、を具備している。吸入通路21は、吸入側の燃料通路としてポンプハウジング15に形成されている。吐出通路22は、吐出側の燃料通路としてポンプハウジング15に形成されている。燃料加圧室25は、吸入通路21および吐出通路22に連通する内部空間として、ポンプハウジング15に形成されている。
【0016】
プランジャ27は、軸方向に摺動して燃料加圧室25を加圧するようにポンプハウジング15に収納されている。駆動カム28は、プランジャ27を駆動するように設けられている。駆動カム28の回転軸部28Aは、一端側がポンプハウジング15の外部に突出し、プーリを介してエンジンの動力により回転駆動されるものである。
【0017】
バルブユニット30は、燃料噴射ポンプ用リード弁としての吸入リード弁31と、燃料噴射ポンプ用リード弁としての吐出リード弁32と、燃料噴射ポンプ用リード弁としてのリリーフリード弁33と、を具備している。バルブユニット30には、吸入リード弁31、吐出リード弁32およびリリーフリード弁33が一体化されている。バルブユニット30は、燃料加圧室25の上方に配置されている。なお、バルブユニット30の詳細な構成については後述する。
【0018】
吸入リード弁31は、電磁スピル弁40によって開閉可能に構成されている。吸入リード弁31は、電磁スピル弁40によって開状態になると、吸入通路21を通して燃料加圧室25に燃料を吸入させる。また、吸入リード弁31が電磁スピル弁40によって閉状態になると、駆動カム28の回転によってプランジャ27のリフト量が増加するときに、燃料加圧室25の容積が縮小するのに伴って燃料加圧室25内の燃料がフィードポンプの供給圧レベルよりも十分に高圧となる燃料圧力に加圧される。
【0019】
吐出リード弁32は、閉状態ではデリバリーパイプ側の高圧燃料が吸入時の燃料加圧室25内に逆流するのを阻止する。また、吐出リード弁32は、燃料加圧室25内の燃料の圧力が吐出リード弁32より下流側の吐出通路22内の燃料圧力より高くなり、両圧力の差(前後差圧)が予め設定された差圧値に達するときに開状態となり、燃料加圧室25内の高圧燃料を下流側の吐出通路22に接続するデリバリーパイプ側に吐出させる。
【0020】
リリーフリード弁33は、燃料加圧室25からデリバリーパイプ側に吐出される高圧燃料の圧力が予め設定された上限圧力値に達すると開状態となり、余剰燃料をリリーフ通路23を経由させて燃料タンク側にリークさせる。
【0021】
電磁スピル弁40は、本実施形態では詳細な説明を省略する。
【0022】
図2を用いて、バルブユニット30について説明する。
バルブユニット30は、吸入リード弁31、吐出リード弁32およびリリーフリード弁33をユニットで構成したものである。リード弁とは、舌状に形成され、圧力の差で開閉する構成の弁である。
【0023】
吸入リード弁31は、リード弁本体51と、弁座61Aと、から構成されている。吸入リード弁31の閉状態は、リード弁本体51と弁座61Aとが当接することで構成される。同様に、吐出リード弁32は、リード弁本体52と、弁座72Aと、から構成されている。吐出リード弁32の閉状態は、リード弁本体52と弁座62Aとが当接することで構成される。同様に、リリーフリード弁33は、リード弁本体53と、弁座63Aと、から構成されている。リリーフリード弁33の閉状態は、リード弁本体53と弁座63Aとが当接することで構成される。
【0024】
バルブユニット30は、バルブ板50と、シートとしての上シート板60と、シートとしての下シート板70と、を具備している。バルブ板50は、略円板状に形成され、ポンプハウジング15内に収納されている。バルブ板50には、リード弁本体51と、リード弁本体52と、リード弁本体53と、が一体的に形成されている。
【0025】
上シート板60は、バルブ板50の上面側に隣接して配置されている。上シート板60には、弁座孔61と、弁座61Aと、孔62と、弁座孔63と、弁座63Aと、が一体に形成されている。弁座孔61は、吸入通路21の一部を構成する部分である。弁座61Aは、弁座孔61周囲の縁部であって、上シート板60のバルブ板50側において、リード弁本体51が当接する部分である。弁座孔63は、リリーフ通路23の一部を構成する部分である。弁座63Aは、弁座孔63周囲の縁部であって、上シート板60のバルブ板50側において、リード弁本体53が当接する部分である。
【0026】
下シート板70は、バルブ板50の下面側に隣接して配置されている。下シート板70には、孔71と、弁座孔72と、弁座72Aと、孔73と、が一体に形成されている。弁座孔72は、吐出通路22の一部を構成する部分である。弁座孔72は、燃料加圧室25内に開口しており、弁座72Aは、弁座孔72周囲の縁部であって、下シート板70のバルブ板50側において、リード弁本体52が当接する部分である。
【0027】
吸入リード弁31の開状態は、電磁スピル弁40のリード弁本体51に対する押圧作用によって、リード弁本体51が弁座61Aから離れ、吸入通路21と燃料加圧室25とが連通される状態である。吸入リード弁31の閉状態は、電磁スピル弁40のリード弁本体51に対する押圧作用の解除、ならびに、吸入通路21と燃料加圧室25との圧力差(燃料加圧室25内の圧力>吸入通路21内の圧力)によって、リード弁本体51が弁座61Aに当接し、吸入通路21と燃料加圧室25とが遮断される状態である。
【0028】
吐出リード弁32の開状態は、吐出通路22と燃料加圧室25との圧力差(燃料加圧室25内の圧力>吐出通路22内の圧力)が設定差圧値を越えたときに、燃料加圧室25からの圧力のリード弁本体52に対する作用によって、リード弁本体52が弁座72Aから離れ、吐出通路22と燃料加圧室25とが連通される状態である。吐出リード弁32の閉状態は、吐出通路22と燃料加圧室25との圧力差(燃料加圧室25内の圧力<吐出通路22内の圧力)によって、リード弁本体52が弁座72Aに当接し、吐出通路22と燃料加圧室25とが遮断される状態である。
【0029】
リリーフリード弁33の開状態は、吐出通路22の高圧燃料が設定上限圧力を超えたときに、高圧燃料の圧力のリード弁本体53に対する作用により、リード弁本体53が弁座孔63から離れ、吐出通路22とリリーフ通路23とが連通される状態である。リリーフリード弁33の閉状態は、吐出通路22とリリーフ通路23との圧力差(吐出通路22内の圧力<リリーフ通路23内の圧力)によって、リード弁本体53が弁座孔63に当接し、吐出通路22とリリーフ通路23とが遮断される状態である。
【0030】
図3〜図5を用いて、吸入リード弁31について説明する。
なお、図3では、説明を分かり易くするため、上シート板60と、上バルブ板91と、下バルブ板92と、下シート板70と、はそれぞれ分離して記載している。また、図4では、説明を分かり易くするため、リード弁本体51のみを記載している。
吸入リード弁31は、本発明の燃料噴射ポンプ用リード弁の実施形態である。
【0031】
図3を用いて、吸入リード弁31の側面視における構成(積層構成)について説明する。
吸入リード弁31は、リード弁本体51と、弁座61Aと、から構成されている。リード弁本体51は、最上面シート81と最下面シート82とを、最上面シート81の下面81Bと最下面シート82の上面82Aとが互いに当接するように、積層して構成されている。ここで、最上面シート81と最下面シート82とを積層した際に、互いに当接する面である最上面シート81の下面81Bと、最下面シート82の上面82Aと、を積層面と定義する。また、リード弁本体51においては、最上面シート81の上面81Aが弁座61Aと当接する。
【0032】
バルブ板50は、上バルブ板91と、下バルブ板92と、を積層して構成されている。最上面シート81は、上バルブ板91に形成されている。最下面シート82は、下バルブ板92に形成されている。
【0033】
最上面シート81の下面81B、すなわち積層面の摩擦係数は、最上面シート81の他の面(上面81Aを含む)の摩擦係数と比較して高いものとして形成されている。最下面シート82の上面82A、すなわち積層面の摩擦係数は、最下面シート82の他の面(下面82Bを含む)の摩擦係数と比較して高いものとして形成されている。つまり、リード弁本体51は、その他の面と比較して高い摩擦係数として形成される積層面(下面81Bおよび上面82A)が互いに当接するように、最上面シート81と最下面シート82とを積層して構成されている。
【0034】
本実施形態では、最上面シート81の下面81Bを最上面シート81の他の面(上面81Aを含む)の摩擦係数と比較して高い構成とするため、最上面シート81の下面81Bの面粗度は、最上面シート81の他の面(上面81Aを含む)の面粗度と比較して大きい、すなわち粗い面粗度で形成されている。また、最下面シート82の上面82Aを最下面シート82の他の面(下面82Bを含む)の摩擦係数と比較して高い構成とするため、最下面シート82の上面82Aの面粗度は、最下面シート82の他の面(下面82Bを含む)の面粗度と比較して大きい、すなわち粗い面粗度で形成されている。
【0035】
図4を用いて、吸入リード弁31の平面視における構成について説明する。
リード弁本体51は、弁部51Pと、腕部51Qと、が一体化して構成されている。弁部51Pは、リード弁本体51の弁座61Aに当接し、弁座孔61を塞ぐ部分である。腕部51Qは、リード弁本体51の弾性変形する部分である。最上面シート81は、弁部81Pと、腕部81Qと、が一体化して構成されている。同様に、最下面シート82は、弁部82Pと、腕部82Qと、が一体化して構成されている。
【0036】
最上面シート81には、複数(本実施形態では4つ)の貫通孔41が形成されている。
貫通孔41は、最上面シート81の弁部81Pの弁座61Aに当接しない部分に形成されている。言い換えれば、貫通孔41は、最上面シート81の弁部81Pの弁座孔61を塞ぐ部分に形成されている。貫通孔41は、弁部81Pの弁座孔61を塞ぐ部分において、弁座孔61の周囲側に形成されている。
【0037】
図5を用いて、吸入リード弁31の作用について説明する。
なお、図5(A)は、吸入リード弁31の閉弁時の状態を示し、図5(A)は、吸入リード弁31の開弁時の状態を示している。
【0038】
図5(A)を用いて、吸入リード弁31が閉弁している状態について説明する。
図5(A)においては、リード弁本体51側から弁座61A側へ向かって燃料が流れようとしており(図5(A)における矢印の向き))、吸入リード弁31が閉弁状態になっている。この、吸入リード弁31が閉弁している状態では、リード弁本体51は、上流側からの高圧によって弁座61A側に押圧され、弁座孔61を塞いでいる。このとき、弁部51Pの外周部は、弁座61Aに押し付けられる。同時に、弁部51Pの外周部には、弁座61Aによる反力が垂直方向に作用する。そして、弁部51Pの外周部では、最上面シート81と最下面シート82との間にも、同様の反力が垂直方向に作用する。
【0039】
一方、最上面シート81と最下面シート82とは、所定の値の摩擦係数を有している。弁部51Pの外周部では、最上面シート81と最下面シート82との間に反力が垂直方向に作用している。そのため、弁部51Pの外周部では、最上面シート81と最下面シート82との間に、上述した反力に摩擦係数を乗じた摩擦力が作用する。
【0040】
ここで、リード弁本体51は、その他の面と比較して高い摩擦係数、すなわち粗い表面で形成される下面81Bと上面82Aとを当接させた状態で、最上面シート81と最下面シート82とを積層して構成されている(図3参照)。言い換えれば、最上面シート81と最下面シート82とが高い摩擦係数を有した面を密着させた状態で積層されている。そのため、リード弁本体51が上流側からの高圧によって弁座61Aに押し付けられた状態では、最上面シート81と最下面シート82との間には大きな摩擦力が作用し、最上面シート81と最下面シート82とがずれることなく一体化される。
【0041】
図5(A)を用いて、吸入リード弁31が閉弁する直前の状態について説明する。
吸入リード弁31が閉弁する直前の状態では、未だリード弁本体51が弁座61Aに押し付けられておらず、下面81Bと上面82Aとが密着されていないため、最上面シート81と最下面シート82とが一体化されていない。そのため、最上面シート81と最下面シート82との隙間には、燃料が存在している。吸入リード弁31が閉弁する直前の状態では、吸入リード弁31の上流側と下流側では圧力差が生じている。同時に、最上面シート81と最下面シート82との隙間と、吸入リード弁31の下流側との間にも圧力差が生じている。このとき、吸入リード弁31の下流側の圧力は、最上面シート81と最下面シート82との隙間の圧力よりも低い。最上面シート81の弁部81Pには貫通孔41が形成されているため、最上面シート81と最下面シート82との隙間の燃料は、吸入リード弁31の下流側に吸い出されることになる。
【0042】
図5(B)を用いて、吸入リード弁31が開弁している状態について説明する。
図5(B)においては、上流側から下流側に向かって燃料が流れており(図5(Aにおける矢印の向き)、吸入リード弁31が開弁状態になっている。この、吸入リード弁31が開弁している状態では、リード弁本体51は上流側から下流側への流れによって弁座61Aに対してリフトされ、弁座孔61を解放する。吸入リード弁31の開弁状態では閉弁状態と異なり、リード弁本体51が弁座61Aに対して押圧されることがない。そのため、最上面シート81と最下面シート82との間には小さい摩擦力しか作用せず、最上面シート81と最下面シート82とが一体化されない。したがって、最上面シート81と最下面シート82とは、それぞれが薄板として個別に撓むことになる。
【0043】
図5(B)を用いて、吸入リード弁31が開弁する直前の状態について説明する。
吸入リード弁31が開弁する直前の状態では、最上面シート81と最下面シート82とが一体化されている。吸入リード弁31が開弁状態になるときには、弁座61A側からリード弁本体51側への燃料の流れが生じている。そして、最上面シート81の弁部81Pには貫通孔41が形成されているため、最上面シート81と最下面シート82との隙間には、弁座61A側から燃料が流れ込むことになる。
【0044】
吸入リード弁31の効果について説明する。
吸入リード弁31によれば、高い耐圧性と高いリフト量とを両立できる。
【0045】
従来、リード弁本体には、高い耐圧性と高いリフト量とが要求されていた。しかし、吸入リード弁31の高い耐圧性と高いリフト量とは、トレードオフの関係にあった。一方、燃料噴射ポンプ用リード弁は、小型化および低コストが要求されていた。そのため、吸入リード弁31の高い耐圧性と高いリフト量とは、どちらか一方を犠牲にしなければ、燃料噴射ポンプ用リード弁としての製品化が困難であった。
【0046】
本実施形態の吸入リード弁31によれば、閉弁状態では、最上面シート81と最下面シート82とが大きい摩擦力により互いに当接した状態で積層されている。このように、閉弁状態では、最上面シート81と最下面シート82との間には大きな摩擦力が作用しており、最上面シート81と最下面シート82とがずれることなく一体化される。そのため、吸入リード弁31は、閉弁状態では、一体化した2枚分の板厚の耐圧性が得られる。このようにして、吸入リード弁31の耐圧性を向上している。
【0047】
また、吸入リード弁31が閉弁する直前の状態では、最上面シート81と最下面シート82との隙間の燃料は、下流側(弁座61A側)に吸い出される。そのため、最上面シート81と最下面シート82との間の摩擦力が上昇し、最上面シート81と最下面シート82とが強固に一体化される。
【0048】
本実施形態の吸入リード弁31によれば、開弁状態では、最上面シート81と最下面シート82とは、それぞれが薄板として個別的に撓む。ここで、板が撓むときには、板厚が小さい方が剛性が低く、同じ力がかかった場合には大きく撓むことができる。そのため、最上面シート81と最下面シート82とは、それぞれ薄板として高いリフト量で撓むことができる。このようにして、吸入リード弁31のリフト量を向上している。
【0049】
また、吸入リード弁31が開弁する直前の状態では、最上面シート81と最下面シート82との隙間には、燃料が流れ込む。そのため、最上面シート81と最下面シート82とは、吸入リード弁31の開弁時には、いち早く一体化した状態がキャンセルされることになる。
【0050】
なお、本実施形態では、積層面の摩擦係数を、他の面と比較して高いものとするため、積層面の面粗度を、他の面の面粗度よりも大きいものとする構成としたが、これに限定されない。例えば、積層面のみを高摩擦係数コーティングする構成としても良い。
【0051】
また、本実施形態では、本発明の燃料噴射ポンプ用リード弁として吸入リード弁31について適用したが、これに限定されない。本発明の燃料噴射ポンプ用リード弁として吐出リード弁32またはリリーフリード弁33について適用しても、同様の効果が得られる。
【0052】
また、本実施形態では、本発明のリード弁本体として最上面シート81と最下面シート82とを積層して構成されるリード弁本体51としたが、これに限定されるものではない。本発明のリード弁本体として、積層する面の摩擦係数を他の面の摩擦係数と比較して高いものとすれば、3枚または4枚のシートを積層して構成しても良い。
【0053】
さらに、本実施形態の燃料噴射ポンプ10によれば、吸入リード弁31を備えているため、高い耐圧性と高いリフト量とを両立できる。
【符号の説明】
【0054】
10 燃料噴射ポンプ
31 吸入リード弁
51 リード弁本体
51P 弁部
51Q 腕部
60 上シート板
61 弁座孔
61A 弁座
70 下シート板
81 最上面シート
81B 下面(積層面)
82 最下面シート
82A 上面(積層面)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートとリード弁本体とを積層して構成され、
前記シートには、弁座と弁座孔とが形成され、
前記リード弁本体には、弾性変形する腕部と該腕部の一端に設けられる弁部とを備え、
前記弁部が前記弁座に当接して前記弁座孔を塞ぐことで閉状態となり、前記弁部が前記弁座から離れ前記弁座孔を開放することで開状態となる燃料噴射ポンプ用リード弁であって、
前記リード弁本体は、複数枚のシートを積層して構成され、
前記シートの積層面の摩擦係数は、前記シートの積層面以外の摩擦係数よりも高いものとされる、
燃料噴射ポンプ用リード弁。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射ポンプ用リード弁であって、
前記シートの積層面の面粗度は、前記シートの積層面以外の面粗度よりも大きいものとされる、
燃料噴射ポンプ用リード弁。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料噴射ポンプ用リード弁であって、
前記複数枚のシートのうち前記弁座に当接するシートの、前記弁部における前記弁座に当接しない部分には、貫通孔が形成される、
燃料噴射ポンプ用リード弁。
【請求項4】
燃料噴射ポンプであって、
請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料噴射ポンプ用リード弁を備える、
燃料噴射ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−189060(P2012−189060A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55677(P2011−55677)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】