説明

燃料噴射弁

【課題】効率良く燃料の薄膜化が図れ、雰囲気圧による噴射量の変化を抑制しつつ、燃料の微粒化の促進を図り得る燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】噴孔入口のオーバル形状の偏平率は、噴孔出口の形状を噴孔路の傾斜の方向に沿って噴孔プレートの上流側端面に投影したときに形成される仮想オーバル形状の外側に噴孔入口の周縁がはみ出ない範囲で、噴孔出口のオーバル形状の偏平率より大きく形成され、噴孔入口の中心と弁座の中心を通る直線と噴孔入口の長軸とを、噴孔入口の中心を通り弁座の軸心に直交する直交平面上に垂直に投影した夫々の線分が成す角度をαとし、噴孔入口の中心と弁座中心を通る直線と噴孔入口の短軸とを、前記直交平面上に垂直に投影した夫々の線分が成す角度をβとしたとき、α<βとなるように、前記噴孔入口を前記噴孔プレートの前記上流側端面に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の内燃期間等への燃料供給に使用される燃料噴射弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの排出ガス規制が強化される中、燃料噴射弁から噴射される燃料噴霧の微粒化が求められている。特に、燃料噴霧の微粒化については各種の検討がなされており、例えば、特許文献1には、噴孔入口を楕円形状とし、噴孔出口をスリット形状とすることで、均一な液膜を形成し、微粒化の促進を図った燃料噴射弁が開示されている。
【0003】
又、特許文献2、及び特許文献3には、テーパ形状の噴孔とすることで、燃料の微粒化の促進を図るようにした燃料噴射弁が開示されている。
【0004】
更に、特許文献4には、噴孔プレートに形成された各噴孔の噴孔出口に対応してそれぞれ凹部が形成され、噴孔は凹部の底面を跨ぐように形成したことで、微粒化の促進を図るようにした燃料噴射弁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−2720号公報
【特許文献2】特開2001−317431号公報
【特許文献3】特許第3644443号公報
【特許文献4】特許第3759918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示された従来の燃料噴射弁の場合、噴孔出口側で噴孔幅が狭くなっているため、噴孔内を燃料が充満して流れるため、高温負圧下で燃料を噴射する際に、噴孔上流側で減圧沸騰による気液二相流が発生した際に圧力損失が大きくなり、雰囲気により噴射される燃料の流量が変化するという課題があった。
【0007】
これに対して、特許文献2乃至4に示された従来の燃料噴射弁では、噴孔入口に対して噴孔出口を広くしていることから、高温負圧下でも噴孔内を燃料が充満しないため、気液二相流による圧力損失の影響が小さく、雰囲気による噴射量の変化が小さい構造となっている。
【0008】
燃料噴霧の微粒化メカニズムを解明するために、まず噴孔から噴射された燃料を拡大撮影した結果、燃料の分裂過程は、燃料を拡散させようとする力が表面張力に打ち勝つことで、燃料が「液膜」から「液糸」、そして「液糸」から[液滴]へと分裂していることが判明しており、また一度「液滴」になると表面張力の影響が大きくなるため、それ以降は分裂しにくいことが判明している。従って、燃料を乱れの少ない薄い液膜として噴孔から噴射し、この液膜をさらに薄く広げてから分裂させた方がより微粒化することになり、逆に燃料流れに乱れが生じると、燃料液膜が薄く広がる前に、厚い液膜の状態で分裂するため、分裂後の液滴も大きくなることが判明している。
【0009】
図8は、従来の燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図であり、特許文献2及び特許文献3に示された燃料噴射弁のように、テーパ噴孔とした場合を示している。図8の(a)
は断面図、(b)はその矢印A方向から見た平面図、(c)はC−C断面拡大図、(d)はB部拡大図である。開弁時に於ける燃料流れは、図8に示すように、弁座10の軸心へ向かう燃料の流れが噴孔12の内壁に衝突し、噴孔12内で液膜17を形成する過程で、噴孔入口中心に流入した燃料流れ16aは、下流側に行くにつれて断面積が大きくなる噴孔12の内壁に沿って液膜17を広げようとする燃料流れ16cに変換されるが、噴孔12の縁等の噴孔入口中心から離れた位置に流入した燃料流れ16bは、液膜を広げようとする流れ16cに対向する流れ16d変換されるため、両方の流れが相殺しあって中央部で厚い液膜17aとなってしまい、効率良く燃料の薄膜化が図れないという課題があった。
【0010】
又、液膜を広げようとする流れ16cと、それに対向する流れ16dとが噴孔内で衝突することで、燃料の流れに乱れが生じ、この乱れにより燃料の粒径が悪化するという課題があった。
【0011】
この発明は、前述のような従来の装置の課題を解決するためになされたものであり、効率良く燃料の薄膜化が図れ、燃料の微粒化の促進を図り得る燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明による燃料噴射弁は、
弁座のシート面に対して当接若しくは離反する弁体を有し、前記弁体が前記前座のシート面から離反したとき、燃料が、前記弁体と前記弁座のシート面との間を通過して後、前記弁座に固定された噴孔プレートに設けられた複数の噴孔から外部に噴射されるようにした燃料噴射弁であって、
前記弁座のシート面は、前記燃料の流通する上流側から下流側に向けて内径が縮小するように形成され、
前記噴孔プレートは、前記シート面に沿って前記シート面の下流側端縁から延長する仮想延長シート面と前記噴孔プレートの上流側端面とが交差して1つの仮想円を形成するように、前記弁体の先端部に対向して配置され、
前記噴孔プレートに設けられた複数の噴孔は、前記噴孔プレートの上流側端面でオーバル形状に開口する噴孔入口と、前記噴孔プレートの下流側端面でオーバル形状に開口する噴孔出口とを備え、前記噴孔入口と前記噴孔出口との間の噴孔路が前記噴孔プレートの厚さ方向に対して所定の角度で傾斜するように形成され、
前記噴孔入口は、前記前座の最小内径である弁座開口部の周縁及び前記噴孔出口より前記弁座の軸心側に配置され、
前記噴孔入口のオーバル形状の長軸の長さを短軸の長さで除算した値で表わされる偏平率は、前記噴孔出口の形状を前記噴孔路の前記傾斜の方向に沿って前記噴孔プレートの上流側端面に投影したときに形成される仮想オーバル形状の外側に前記噴孔入口の周縁がはみ出ない範囲で、前記噴孔出口のオーバル形状の偏平率より大きく形成され、
前記噴孔入口の中心と前記弁座の中心を通る直線と前記噴孔入口の長軸とを、前記噴孔入口の中心を通り前記弁座の軸心に直交する直交平面上に垂直に投影した夫々の線分が成す角度をαとし、前記噴孔入口の中心と前記弁座中心を通る直線と前記噴孔入口の短軸とを、前記直交平面上に垂直に投影した夫々の線分が成す角度をβとしたとき、
α<β
となるように、前記噴孔入口を前記噴孔プレートの前記上流側端面に配置した、
ことを特徴とするものである。
【0013】
又、この発明による燃料噴射弁は、
弁座のシート面に対して当接若しくは離反する弁体を有し、前記弁体が前記前座のシート面から離反したとき、燃料が、前記弁体と前記弁座のシート面との間を通過して後、前記弁座に固定された噴孔プレートに設けられた複数の噴孔から外部に噴射されるようにし
た燃料噴射弁であって、
前記弁座のシート面は、前記燃料の流通する上流側から下流側に向けて内径が縮小するように形成され、
前記噴孔プレートは、前記シート面に沿って前記シート面の下流側端縁から延長する仮想延長シート面と前記噴孔プレートの上流側端面とが交差して1つの仮想円を形成するように、前記弁体の先端部に対向して配置され、
前記噴孔プレートに設けられた複数の噴孔は、前記噴孔プレートの上流側端面でオーバル形状に開口する噴孔入口と、前記噴孔プレートの下流側端面でオーバル形状に開口する噴孔出口とを備え、前記噴孔入口と前記噴孔出口との間の噴孔路が前記噴孔プレートの厚さ方向に対して所定の角度で傾斜するように形成され、
前記噴孔入口は、前記前座の最小内径である弁座開口部の周縁及び前記噴孔出口より前記弁座の軸心側に配置され、
前記噴孔入口の形状は、前記噴孔出口の形状を前記噴孔路の前記傾斜の方向に沿って前記噴孔プレートの上流側端面に投影したときに形成される仮想オーバル形状の外側に前記噴孔入口の周縁がはみ出ない範囲で、扇形状に形成されると共に、前記扇形の円弧部が前記弁座の軸心側になるように形成され、
前記噴孔入口の中心と前記弁座の中心を通る直線と前記扇形の円弧部の中点と前記扇形のかなめ部分を結ぶ直線とを、前記仮想オーバル形状の中心を通り前記弁座の軸心に直交する直交平面上に垂直に投影した夫々の線分が成す角度をθとしたとき、
θ≦45°
とし、前記扇形の円弧部のうち前記弁座軸心側に配置される部分の割合を大きくするようにした、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明による燃料噴射弁によれば、噴孔入口のオーバル形状の偏平率は、噴孔出口の形状を噴孔路の傾斜の方向に沿って噴孔プレートの上流側端面に投影したときに形成される仮想オーバル形状の外側に噴孔入口の周縁がはみ出ない範囲で、噴孔出口のオーバル形状の偏平率より大きく形成され、噴孔入口の中心と弁座の中心を通る直線と噴孔入口の長軸とを、噴孔入口の中心を通り弁座の軸心に直交する直交平面上に垂直に投影した夫々の線分が成す角度をαとし、噴孔入口の中心と弁座中心を通る直線と噴孔入口の短軸とを、前記直交平面上に垂直に投影した夫々の線分が成す角度をβとしたとき、
α<β
となるように、前記噴孔入口を前記噴孔プレートの前記上流側端面に配置したので、噴孔入口の面積を噴孔出口の面積より小さくすると共に、弁座シートから噴孔へ向かう流れに対向するような噴孔の噴射方向となり、又、噴孔入口の長軸は弁座シート部から噴孔へ向かう流れに沿っていることから、燃料は噴孔中心に流入するため、下流側へ行くにつれて断面積が大きくなる噴孔内壁に沿って液膜を広げようとする流れが強化され、効率良く燃料の薄膜化が図れる効果がある。又、液膜を広げようとする流れに対向する流れが抑制されるため、噴孔内での流れの衝突による乱れも抑制され、微粒化が向上する効果がある。更に、噴孔入口に対して噴孔出口を広くしていることから、高温負圧下でも噴孔内を燃料が充満しないため、気液二相流による圧力損失の影響が小さく、雰囲気による噴射量の変化が小さくなる効果を有する。
【0015】
又、この発明による燃料噴射弁によれば、噴孔入口の形状は記噴孔出口の形状を噴孔路の傾斜の方向に沿って噴孔プレートの上流側端面に投影したときに形成される仮想オーバル形状の外側に噴孔入口の周縁がはみ出ない範囲で、扇形状に形成されると共に、扇形の円弧部が弁座の軸心側になるように形成され、噴孔入口の中心と弁座の中心を通る直線と扇形の円弧部の中点と扇形のかなめ部分を結ぶ直線とを、仮想オーバル形状の中心を通り弁座の軸心に直交する直交平面上に垂直に投影した夫々の線分が成す角度をθとしたとき

θ≦45°
とし、扇形の円弧部のうち弁座軸心側に配置される部分の割合を大きくするようにしたので、噴孔入口の面積を噴孔出口の面積より小さくすると共に、弁座シートから噴孔へ向かう流れに対向するような噴孔の噴射方向となり、又、噴孔入口の長軸は弁座シート部から噴孔へ向かう流れに沿っていることから、燃料は噴孔中心に流入するため、下流側へ行くにつれて断面積が大きくなる噴孔内壁に沿って液膜を広げようとする流れが強化され、効率良く燃料の薄膜化が図れる効果がある。又、液膜を広げようとする流れに対向する流れが抑制されるため、噴孔内での流れの衝突による乱れも抑制され、微粒化が向上する効果がある。更に、噴孔入口に対して噴孔出口を広くしていることから、高温負圧下でも噴孔内を燃料が充満しないため、気液二相流による圧力損失の影響が小さく、雰囲気による噴射量の変化が小さくなる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態1による燃料噴射弁を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1による燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態2による燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態3による燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態4による燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態5による燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態6による燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図である。
【図8】従来の燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による燃料噴射弁を示す断面図である。図1に於いて、燃料噴射弁1は、ソレノイド装置2、磁気回路のヨーク部分であるハウジング3、磁気回路の固定鉄心部分であるコア4、コイル5、磁気回路の可動鉄心部分であるアマチュア6、弁装置7を備えている。弁装置7は、先端部にボール状の先端部13を有する筒状の弁体8と弁本体9と弁座10で構成されている。
【0018】
弁本体9は、コア4の端部外周面に圧入された後、コア4に溶接により固定されている。アマチュア6は、弁体8に圧入された後、弁対8に溶接により固定されている。弁座10の下流側には、噴孔プレート11が溶接部11aで溶接されて結合されている。弁座10は、その下流側に噴孔プレート11が結合された状態で、弁本体9に挿入された後、溶接部11bで溶接されて弁本体9に結合されている。噴孔プレート11には、後述するように、その板厚方向に貫通する複数の噴孔12が設けられている。
【0019】
エンジンの制御装置(図示せず)から燃料噴射弁1の駆動回路(図示せず)に動作信号が送られると、燃料噴射弁1のコイル5に電流が通電され、アマチュア6、コア4、ハウジング3、弁本体9で構成される磁気回路に磁束が発生し、アマチュア6はコア4側へ吸引され、アマチュア6と一体構造である弁体8が弁座10のシート面10aから離れて間隙が形成される。これにより、燃料は弁体8の先端部13に設けられた複数の溝13aから弁座10のシート面10aと弁体8との隙間を通って、後述する複数の噴孔12からエ
ンジン吸気管に噴射される。
【0020】
次に、エンジンの制御装置より燃料噴射弁1の駆動回路に動作の停止信号が送られると、コイル5への電流の通電が停止し、前述の磁気回路中の磁束が減少して弁体8を閉弁方向に付勢している圧縮ばね14により弁体8と弁座10のシート面10aの間の隙間は閉じ状態となり、燃料噴射が終了する。弁体8は、アマチュア6のガイド部6aにより弁本体9の内周面で摺動し、開弁状態ではアマチュア6の上面6bがコア4の下面と当接する。
【0021】
図2は、この発明の実施の形態1による燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図であり、(a)は断面図、(b)はその矢印E方向から見た平面図、(c)はF部拡大図、(d)はG−G断面拡大図、(e)はN−N断面拡大図である。図2に於いて、弁座10は、下流側に向けて内径が縮小するように形成されており、その内周面がシート面10aとなる。弁座10のシート面10aの延長線と噴孔プレート11の上流側端面11cが交差して1つの仮想円15を形成するように噴孔プレート11を配置している。
【0022】
弁座10の軸心10bに直交する平面に於いて、噴孔12の噴孔入口12aは、弁座10の最小内径である弁座開口部10cより弁座10の軸心10b側に配置され、噴孔12が噴孔プレート11の下流側端面でオーバル形状に開口する噴孔出口部12bは、噴孔プレート11の上流側端面11cでオーバル形状に開口する噴孔入口12aより弁座10の軸心10bに対して径方向外側に配置されている。噴孔12は、噴孔プレート11の板厚方向に対して所定角度傾斜して形成され、噴孔入口12aの少なくとも一部は仮想円15の内側となるように配置されている。
【0023】
弁座10のシート面10dから燃料が離脱する際の乱れを抑制するために、シート面10dの下流側にシート面10dより狭い角度で傾いたテーパ面10eが設けられている。更に、弁座10の最小内径の内壁高さhを抑制するために、噴孔プレート11の中央部には、弁座軸10bに対してほぼ軸対称で、かつ断面が円弧状で弁体先端部13と平行に下流側へ突出する凸部11cが、前述の仮想円15の径方向内側に設けられている。これにより、弁体8の先端部13は、噴孔プレート11の上流側端面11cに当接することはない。
【0024】
尚、噴孔プレート11を平面とし、弁体8の先端部13に噴孔プレート11と平行な平面を設けて、弁体8先端部13と噴孔プレート11の上流側端面とが当接しないようにしても良い。
【0025】
噴孔入口12aの偏平率は、噴孔出口12bの形状を噴孔12の傾斜方向に沿って噴孔プレート11の上流側端面11cに投影したときに形成される噴孔出口の仮想オーバル形状12cの外側にはみ出さない範囲で、噴孔出口12bの扁平率よりも大きく形成されている。ここで、噴孔入口12aの偏平率、及び噴孔出口12bの偏平率とは、噴孔入口12a及び噴孔出口12bの夫々の長軸を、夫々の短軸で除算した値を意味する。噴孔入口12aの偏平率を、噴孔出口12bの扁平率よりも大きく形成することで、噴孔入口12aの面積を噴孔出口12bの面積より小さくしている。
【0026】
噴孔入口12aと噴孔出口12bは、夫々の長軸が同一方向となるように形成されている。又、噴孔入口12aの短軸は、噴孔出口12bの短軸より短く形成されているが、噴孔入口12aの長軸は、噴孔出口12bの長軸と同一長さに形成されている。
【0027】
又、噴孔入口12aの中心を通り弁座軸心10bに直交する直交平面に於いて、前記噴孔入口12aの中心と前記弁座軸心10bを通る直線12dと噴孔入口12aの長軸を前
記直交平面上に対して垂直に投影した線分12eとが成す角度をα、前記噴孔入口12aの中心と前記弁座軸心10bを通る直線12dと噴孔入口12aの短軸を前記直交平面上に対して垂直に投影した線分12fとが成す角度をβ、としたとき、
α<β
の関係となるように、噴孔入口12aが形成されている。
【0028】
尚、実施の形態1では、噴孔入口12aと噴孔出口12bの夫々の長軸が同一方向としているが、前述のα<βの関係の範囲内で、且つ噴孔入口12aの形状が前述の仮想オーバル形状12cの範囲内であれば、噴孔入口12aと噴孔出口12bの夫々の長軸は必ずしも同一方向でなくてもよい。
【0029】
更に、前述の実施の形態1では、噴孔入口12aは、その短軸の長さのみを噴孔出口12bの短軸の長さより短く形成しているが、長軸の長さも噴孔出口部12bの長軸の長さより短く形成するようにしてもよい。
【0030】
又、噴孔12の断面形状については、実施の形態1では楕円形状としているが、卵形、或いは長円であってもよい。
【0031】
以上述べたこの発明の実施の形態1による燃料噴射弁によれば、噴孔12からの燃料の噴射方向は、図2の(c)に示すように、弁座シート面から噴孔12へ向かう燃料の流れ16aに対向する方向となっており、又、噴孔入口12aの長軸は、前述のようにα<βの関係としているので、噴孔入口12aへ流入する燃料流れのうち噴孔入口12aの中心に流入する燃料流れ16aの割合が大きくなるため、下流側へ行くにつれて断面積が大きくなる噴孔12の内壁に沿って液膜17を広げようとする流れ16cが強化され、効率良く燃料の薄膜化が図れる効果がある。
【0032】
又、噴孔入口12aへ流入する流れのうち噴孔入口21aの中心から離れた位置に流入する燃料流れ16bの割合が小さくなるため、液膜を広げようとする流れに対向する流れが抑制されるため、噴孔内での流れの衝突による乱れも抑制され、微粒化が向上する効果がある。
【0033】
又、噴孔入口12aの断面に対して噴孔出口12bの断面を広くしていることから、高温負圧下でも噴孔内を燃料が充満しないため、気液二相流による圧力損失の影響が小さいことから、雰囲気による噴射量の変化が小さいという特長がある。
【0034】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2による燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図であり、(a)は断面図、(b)はその矢印H方向から見た平面図、(c)はJ―J断面拡大図、(d)はI部拡大図である。図3に於いて、噴孔入口12aの断面形状は、噴孔出口12bを噴孔12の傾斜方向に沿って噴孔プレート11の上流側端面11cに投影したときに形成される噴孔出口部の仮想オーバル形状12cの外側にはみ出さない範囲で、扇形状に形成されている。扇形状に形成された噴孔入口12aは、弁座軸心10bに近い側が大きな円弧12gに形成され、弁座軸心10bから遠い側が小さな円弧状に形成されている。尚、弁座軸心10bから遠い側に円弧を設けなくてもよい。
【0035】
図3の(d)に示すように、噴孔入口12aの中心と弁座軸心10bを通る直線と、仮想オーバル形状12cの中点と噴孔入口12aの扇形状の要部分を結ぶ線分とを、噴孔入口12aの扇形状の円弧部12gの中心を通り弁座軸心10bに直交する平面に対して垂直に投影して形成される線分が成す角度をθとしたとき、
θ≦45°
としている。これにより、噴孔入口12aの形状である扇形の円弧部12gのうち弁座軸心10b側に配置される部分の割合を大きくしている。
【0036】
実施の形態2によれば、噴孔入口12aへ流入する燃料流れのうち噴孔入口12aの中心に流入する燃料流れ16aの割合が大きくなるため、燃料流れの下流側へ行くにつれて断面積が大きくなる噴孔12の内壁に沿って液膜17を広げようとする流れ16cが強化され、効率良く燃料の薄膜化が図れる効果がある。
【0037】
又、噴孔入口12aへ流入する燃料流れのうち噴孔入口12aの中心から離れた位置に流入する燃料流れ16bの割合が小さくなるため、液膜17を広げようとする流れに対向する流れが抑制されるため、噴孔内での流れの衝突による乱れも抑制され、燃料の微粒化が促進される効果がある。
【0038】
更に、噴孔入口12aに対して噴孔出口12bを広くしていることから、高温負圧下でも噴孔内に燃料が充満しないため、気液二相流による圧力損失の影響が少なく、雰囲気による噴射量の変化が小さいという特長がある。
【0039】
実施の形態3.
図4は、この発明の実施の形態3による燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図であり、(a)は断面図、(b)はその矢印K方向から見た平面図、(c)はL部拡大図、(d)はM−M断面拡大図、(e)はO−O断面拡大図である。図4に示すように、弁座10と噴孔プレート11との間に、中間プレート18が設けられている。中間プレート18は、噴孔プレート11の噴孔12へ連通するノズル穴19が形成されており、ノズル穴18の断面の形状を前述の実施の形態1に於ける噴孔入口12aと同一の形状としている。
【0040】
この実施の形態3によれば、容易な加工で、実施の形態1と同様の微粒化効果を得ることができる。
【0041】
実施の形態4.
図5は、この発明の実施の形態4による燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図であり、(a)は噴孔プレート11の噴孔入口12a側の平面図、(b)はP−P断面図である。この実施の形態4では、噴孔プレート11に円筒状の噴孔12をプレス成型により形成した後、噴孔入口12aの周辺の一部を鍛圧して窪み11dを形成することにより、噴孔12の噴孔入口12a側を変形させてオーバル形状とするようにしたものである。
【0042】
実施の形態4によれば、実施の形態1に示した噴孔12を備えた噴孔プレート11を容易に得ることができると共に、微粒化効果を向上させた燃料噴射弁を得ることができる。
【0043】
実施の形態5.
図6は、この発明の実施の形態5による燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図であり、(a)は噴孔プレート11の噴孔入口12a側の平面図、(b)はQ−Q断面図である。この実施の形態5では、噴孔プレート11に円筒状の噴孔12をプレス成型により形成した後、噴孔入口12aの周辺の一部を鍛圧して窪み11dを形成することにより、噴孔12の噴孔入口12a側を変形させて扇形状とするようにしたものである。
【0044】
実施の形態5によれば、実施の形態2に示した噴孔12を備えた噴孔プレート11を容易に得ることができる。
【0045】
実施の形態6.
図7は、この発明の実施の形態6による燃料噴射弁の先端部の詳細を示す説明図であり
、(a)は噴孔プレートに円筒状の噴孔を抜き加工する段階の説明図、(b)は円筒状の噴孔に入れ子を挿入する段階の説明図、(c)は入れ子を挿入した状態で噴孔プレートの噴孔入口側に鍛造加工を施す説明図である。
【0046】
図7に於いて、先ず、(a)に示すように、ダイスガイド100に載置した噴孔プレート11に、パンチガイド200を介してパンチ300により円筒状の噴孔を打ち抜く。次に、(b)に示すように、噴孔プレート11をダイス400に載置し、噴孔プレート11の噴孔12に入れ子500を挿入すると共に、パンチガイド200を載置し、次に(c)に示すように、パンチ301により噴孔入口12aの近傍を鍛圧することにより窪み11dを形成する。これにより、前述の実施の形態2に示すような扇形状の噴孔入口12aを備えた噴孔プレート11を得ることができる。
【0047】
実施の形態6によれば、実施の形態2に示した噴孔12を備えた噴孔プレート11を容易に得ることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 燃料噴射弁 2 ソレノイド装置
3 ハウジング 4 コア
5 コイル 6 アマチュア
7 弁装置 8 弁体
9 弁本体 10 弁座
11 噴孔プレート 12 噴孔
13 弁体先端部 14 圧縮バネ
15 仮想円 16 燃料流れ
17 液膜 18 中間プレート
100 ダイスガイド 200 パンチガイド
300、301 パンチ 400 ダイス
500 入れ子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座のシート面に対して当接若しくは離反する弁体を有し、前記弁体が前記前座のシート面から離反したとき、燃料が、前記弁体と前記弁座のシート面との間を通過して後、前記弁座に固定された噴孔プレートに設けられた複数の噴孔から外部に噴射されるようにした燃料噴射弁であって、
前記弁座のシート面は、前記燃料の流通する上流側から下流側に向けて内径が縮小するように形成され、
前記噴孔プレートは、前記シート面に沿って前記シート面の下流側端縁から延長する仮想延長シート面と前記噴孔プレートの上流側端面とが交差して1つの仮想円を形成するように、前記弁体の先端部に対向して配置され、
前記噴孔プレートに設けられた複数の噴孔は、前記噴孔プレートの上流側端面でオーバル形状に開口する噴孔入口と、前記噴孔プレートの下流側端面でオーバル形状に開口する噴孔出口とを備え、前記噴孔入口と前記噴孔出口との間の噴孔路が前記噴孔プレートの厚さ方向に対して所定の角度で傾斜するように形成され、
前記噴孔入口は、前記前座の最小内径である弁座開口部の周縁及び前記噴孔出口より前記弁座の軸心側に配置され、
前記噴孔入口のオーバル形状の長軸の長さを短軸の長さで除算した値で表わされる偏平率は、前記噴孔出口の形状を前記噴孔路の前記傾斜の方向に沿って前記噴孔プレートの上流側端面に投影したときに形成される仮想オーバル形状の外側に前記噴孔入口の周縁がはみ出ない範囲で、前記噴孔出口のオーバル形状の偏平率より大きく形成され、
前記噴孔入口の中心と前記弁座の中心を通る直線と前記噴孔入口の長軸とを、前記噴孔入口の中心を通り前記弁座の軸心に直交する直交平面上に垂直に投影した夫々の線分が成す角度をαとし、前記噴孔入口の中心と前記弁座中心を通る直線と前記噴孔入口の短軸とを、前記直交平面上に垂直に投影した夫々の線分が成す角度をβとしたとき、
α<β
となるように、前記噴孔入口を前記噴孔プレートの前記上流側端面に配置した、
ことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
弁座のシート面に対して当接若しくは離反する弁体を有し、前記弁体が前記前座のシート面から離反したとき、燃料が、前記弁体と前記弁座のシート面との間を通過して後、前記弁座に固定された噴孔プレートに設けられた複数の噴孔から外部に噴射されるようにした燃料噴射弁であって、
前記弁座のシート面は、前記燃料の流通する上流側から下流側に向けて内径が縮小するように形成され、
前記噴孔プレートは、前記シート面に沿って前記シート面の下流側端縁から延長する仮想延長シート面と前記噴孔プレートの上流側端面とが交差して1つの仮想円を形成するように、前記弁体の先端部に対向して配置され、
前記噴孔プレートに設けられた複数の噴孔は、前記噴孔プレートの上流側端面でオーバル形状に開口する噴孔入口と、前記噴孔プレートの下流側端面でオーバル形状に開口する噴孔出口とを備え、前記噴孔入口と前記噴孔出口との間の噴孔路が前記噴孔プレートの厚さ方向に対して所定の角度で傾斜するように形成され、
前記噴孔入口は、前記前座の最小内径である弁座開口部の周縁及び前記噴孔出口より前記弁座の軸心側に配置され、
前記噴孔入口の形状は、前記噴孔出口の形状を前記噴孔路の前記傾斜の方向に沿って前記噴孔プレートの上流側端面に投影したときに形成される仮想オーバル形状の外側に前記噴孔入口の周縁がはみ出ない範囲で、扇形状に形成されると共に、前記扇形の円弧部が前記弁座の軸心側になるように形成され、
前記噴孔入口の中心と前記弁座の中心を通る直線と前記扇形の円弧部の中点と前記扇形のかなめ部分を結ぶ直線とを、前記仮想オーバル形状の中心を通り前記弁座の軸心に直交
する直交平面上に垂直に投影した夫々の線分が成す角度をθとしたとき、
θ≦45°
とし、前記扇形の円弧部のうち前記弁座軸心側に配置される部分の割合を大きくするようにした、
ことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項3】
前記弁座と前記噴孔プレートとの間に挿入された中間プレートを備え、
前記中間プレートは、前記噴孔プレートに形成された噴孔連通するノズル穴を備え、
前記ノズル穴の形状は、前記噴孔入口の形状と同一とした、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
前記噴孔プレートに円筒状の噴孔をプレスにより形成した後、前記円筒状に形成した噴孔の開口部周辺の一部を鍛圧することにより、前記噴孔入口を形成する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のうちの何れか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
前記円筒状に形成された噴孔に入れ子を挿入して前記鍛圧を行なう、
ことを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−255386(P2012−255386A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129110(P2011−129110)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】