説明

燃料噴射弁

【課題】本発明の目的は、弁体の運動を過剰に阻害しないようにし、また可動子と弁体との間での横方向の力の授受の影響を抑制した燃料噴射弁を提供することにある。
【解決手段】弁体101を可動子105の貫通孔105bに挿通させて弁体101に対して可動子105を相対運動可能に構成した電磁式燃料噴射弁において、貫通孔105bと弁体101との間に生じる空隙Aを、可動子105の外周面と摺動する筐体111の内周面摺動部との間に生じる隙間Bよりも大きく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を噴射する燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、噴孔からの燃料の噴射を断続する弁部材と、弁部材の噴孔とは反対側の端部に設けられ、弁部材と軸方向へ相対移動可能な可動コア(可動子)と、コイルに通電することにより、可動コアとの間に磁気吸引力を発生する固定コア(磁気コア)と、弁部材および可動コアを、弁部材が噴孔を閉塞する方向へ押し付ける第一弾性部材と、第一弾性部材の押し付け力より小さな押し付け力により可動コアを固定コア側へ押し付ける第二弾性部材と、弁部材の噴孔とは反対側の端部において径方向外側に突出し、可動コアの固定コア側と接触可能なストッパと、少なくとも一部にコイルで発生した磁界によって磁束が流れる磁性部を有し、可動コアを軸方向へ移動可能に収容するハウジングと、ハウジングに設けられ、第二弾性部材の可動コアとは反対側の端部を支持する座部と、を備えた燃料噴射弁が知られている(特許文献1参照)。この燃料噴射弁では、可動コアの径方向外側の端部がハウジングの内周壁と接しており、可動コアはハウジングの内周壁によって軸方向の移動が案内されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−278218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、化石燃料の枯渇防止や、地球温暖化防止の観点から、内燃機関の低燃費化が求められている。このために、内燃機関の各種損失を減じる努力が為されている。
【0005】
内燃機関の損失を低減すると、機関は無駄な仕事が少ない状態で回転することができるため、回転に必要な出力が減少する。より少ない出力で機関が回転できるため、必要とされる燃料量も少なくて済み、低燃費化が達成される。このため、低燃費化を行うためには、燃料の供給量を少なく絞ることが必要となる。
【0006】
燃料噴射式のガソリンエンジンにおいては、燃料の噴射量は燃料噴射弁に通電する時間や、燃料圧力によって制御されている。燃料の供給量を少なく絞るためには、燃料噴射弁による噴射量を小さくする必要がある。
【0007】
しかしながら、一般に、燃料噴射弁はある一定以下の噴射量を制御して噴射することができない。一定以下の噴射量を噴射しようとすると、噴射弁毎のばらつきや、噴射条件による燃料噴射弁の特性変化などによって噴射量が安定しないことがある。このような現象を生じずに制御可能な噴射量は、燃料噴射弁の最小噴射量と呼ばれる。
【0008】
ガソリンエンジンに用いられる燃料噴射弁は、一般にはソレノイドコイルによって磁気コア励磁し、可動子との間で磁気吸引力を発生させることで弁の開閉を行うオン・オフ型の電磁弁である。コイルに通電するオン時間を制御することで、弁が開いている時間を変化させ、燃料噴射量を制御する方式が一般的である。
【0009】
このような燃料噴射弁において、最小噴射量以上の通電時間では、通電時間に対して燃料噴射量の変化が略線形的となるのに対し、最小噴射量以下の通電時間ではこの線形性が失われ、非線形的になる。非線形的な動作は、燃料噴射弁の個体毎に必ずしも等しくならないことがあり、ばらつきの原因となる。この非線形性は、弁の開弁動作時に生じる磁気コアと可動子との衝突による跳ね返り挙動に因るところが大きい。
【0010】
また、通電時間が短い場合には、弁体の移動量が所定の値に達しない状態(フルリフトしていない状態)での動作となるため、弁が開いている時間は、燃料圧力や温度,燃料の性状といった噴射条件の影響を受け易くなる。したがって、通電時間が短い場合であっても、安定した動作のためには弁が所定の位置に達している状態(フルリフトした状態)をとる方がよい。
【0011】
弁が所定の位置に達し、なおかつ安定した状態で通電が打ち切られると、弁は閉弁を開始する。ここで、通電の終了から閉弁の完了までには磁気的および力学的な遅れ時間を生じる。すなわち、通電を終了しても弁が開いた状態になるために、その時間に応じた量の燃料が噴射されてしまうことになる。
【0012】
燃料噴射弁への通電に対して、このような弁動作が行われるため、最小噴射量を低減するためには弁のリフトが所定位置(フルリフト位置)に素早く達し、弁の状態が早期に安定し、なおかつ閉弁動作が短時間で行われることが望ましい。
【0013】
特許文献1に記載された燃料噴射弁では、可動子と弁体とが相対運動可能なように備えられていることにより、可動子と磁気コアとの衝突が発生しても弁体は慣性によって移動し続け、衝突による跳ね返り挙動を減じている。また、可動子はハウジングの内周壁と摺動するように構成されており、この摺動によって可動子はハウジングの内周壁によってガイドされ、燃料噴射量を精度よく制御することができる。
【0014】
しかしながら、従来技術では、可動子や弁体に働く横方向の力(弁軸心又は燃料噴射弁の中心線を横切る方向の力)によって、発生する磁気吸引力や燃料による抵抗力、およびクーロン摩擦力が変化し、弁の開閉動作に要する時間や可動子の跳ね返り挙動が燃料噴射弁の個体毎に異なってしまったり、安定し難くなる可能性があった。
【0015】
従来技術において、可動子とハウジングの内周壁との間で摺動を行わせた場合に、可動子は弁体と筒部材の双方と力の伝達を行うことになってしまう。この結果、静止している非通電状態と、通電して磁気吸引力が作用している状態とで、弁体や可動子に働く力の方向や大きさが変化し、燃料噴射量のばらつきの原因となる可能性があった。
【0016】
また、従来技術において、可動子と弁体とが相対運動可能であるようになっている場合、摺動部が可動子や弁体の運動を過剰に拘束してしまい、弁体の運動を阻害してしまう可能性があった。
【0017】
これらの課題によって、従来技術では、燃料噴射弁の最小噴射量をより少なくすることに制限が生じる場合があった。
【0018】
本発明の目的は、弁体の運動を過剰に阻害しないようにし、また可動子と弁体との間での横方向の力の授受の影響を抑制した燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明による燃料噴射弁では、弁体と相対運動可能に配置された可動子が、可動子の外径側の側面で摺動するように可動子の外側に設けた筒状部材(又は包囲部材)の内径と可動子の外径との間に生じる空隙(隙間)が、可動子の内径と弁体の外径との間に生じる空隙(隙間)よりも小さくなるように設定され、かつ弁体は燃料噴射弁の筐体に対して静止したガイド部材によって案内されるようにする。
【0020】
具体的には、以下のように構成すると良い。
【0021】
弁体を可動子に設けた貫通孔に挿通させて弁体と可動子とが相対運動可能なように構成され、開弁時に、コイルと磁気コアとで構成した電磁石に通電することにより発生する磁気吸引力により吸引される可動子に弁体を係合させて開弁動作させ、閉弁時に、付勢バネの付勢力で閉弁方向に付勢された弁体に可動子を係合させて閉弁動作させるように構成した燃料噴射弁において、前記弁体の弁軸方向の変位を弁軸方向に離れた2箇所でガイドする2つのガイド部を備え、前記貫通孔と前記弁体との間に生じる最小間隔となる第1の隙間を、前記可動子の外周面と前記可動子の外周面に対向して前記外周面と摺動する摺動部との間に生じる第2の隙間とりも大きく設定する。
【0022】
このとき、前記弁体をガイドする2つのガイド部のうち、前記可動子に近い部位に設けたガイド部と前記弁体との間に生じる第3の隙間を、前記第1の隙間よりも小さく設定するとよい。
【0023】
また、前記第1の隙間を、前記第2の隙間と、前記弁体をガイドする2つのガイド部のうち、前記可動子に近い部位に設けたガイド部と前記弁体との間に生じる第3の隙間との和よりも大きく設定するとよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、弁体の運動を過剰に阻害することがなく、また可動子と弁体との間での横方向の力の授受の影響を抑制することができ、燃料噴射量の精度の高い燃料噴射弁を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る燃料噴射弁の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の第一実施例に係る燃料噴射弁の可動子及び弁体の衝突部近傍を拡大した断面図である。
【図3】筐体,可動子,弁体及びロッドガイドの寸法関係を説明するための模式図である。
【図4】本発明による効果を示す、噴射量特性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明に係る燃料噴射弁の断面図であり、図2は可動子の近傍の拡大図である。図3は筐体,可動子,弁体及びロッドガイドの寸法関係を説明するために、筐体,可動子,弁体及びロッドガイドの周囲を模式的に示した図である。図4は燃料噴射弁の噴射パルス幅と噴射量の関係を示すグラフである。
【0027】
図1に示した燃料噴射弁は、通常時閉型の電磁弁(電磁式燃料噴射弁)であり、コイル107に通電されていない状態では付勢バネ(第1バネ)110によって弁体101は閉弁方向に付勢されてシート部材102に密着させられ、弁は閉じた状態になっている。この閉弁状態においては、可動子105はゼロ位置バネ(第2バネ)106によって開弁方向に付勢されており、弁体101に設けられた規制部112に押し付けられている。また、閉弁状態では、可動子105と磁気コア109の間には隙間がある状態となっている。
【0028】
弁体101は、シート部材102の側に設けられた先端ガイド103と、ロッドガイド104とによって摺動案内され、弁軸心又は燃料噴射弁の中心線に沿う方向に上下動できるようになっている。先端ガイド103はシート部材102に固定され、ロッドガイド104は燃料を密封する機能を有し、弁体101を内包する筒状部材である筐体111に固定されており、いずれも筐体111に対して静止するように組み立てられている。
【0029】
筒状部材である筐体111に、可動子105を内包し、可動子105と磁気コア109の周囲が筐体111によって覆われていることにより、燃料の封止の機能が筐体111によって行われるため、複数の部材を組み合わせによって燃料の封止部を構成する必要がなく、組み立て性が向上する。また、筐体111の内径が弁体101や可動子105の案内の基準となっており、これを複数の部品に依らずに提供できることから、精度よく組み立てやすくなる。このように、筐体111は可動子105を包囲する包囲部材である。
【0030】
また、弁体101のロッド部101aをガイドするロッドガイド104は弁体103を内包する筐体111に固定されており、このロッドガイド104がゼロ位置バネ106のバネ座を構成している。なお、付勢バネ110による力は、磁気コア109の内径に固定されるバネ押さえ113の押し込み量によって組み立て時に調整されている。
【0031】
このように構成された燃料噴射弁のコイル107に通電を行うと、可動子105と磁気コア109の間に磁気吸引力が作用し、可動子105は規制部112に接触した状態のまま、弁体101と共に開弁方向に変位する。この結果、弁体101とシート部材102の間には空隙を生じ、燃料噴射孔より燃料が噴射されて開弁状態となる。
【0032】
また、コイル107への通電を停止すると、可動子105と磁気コア109の間に生じていた磁気吸引力が減衰する。この結果、付勢バネ110による力によって弁体101と可動子105は閉弁方向に変位する。この結果、再び弁体101とシート部材102は密着し、閉弁状態となって燃料を封止する。
【0033】
ここで、弁体101は可動子105との間で相対運動できるように、弁体101と可動子105の間、すなわち可動子に設けられた貫通孔の内周面と弁体101の外周面との間には空隙201が設けられている。ここで、弁体101と可動子105との間の空隙A201は、可動子105と筒状の筐体111との間の空隙B202よりも大きくなるように設定されている。ここで、可動子105と筐体111との間の空隙B202の大きさは、可動子105の内外径の同軸ずれや、弁体101の筐体111に対する倒れ、ロッドガイド104の内径の筐体111に対する同軸ずれなどによっても、可動子105と弁体101とが接触することがないように設定されていると良い。すなわち、ロッドガイド104と弁体101との間の空隙C203は、可動子105と弁体101との間の空隙A201より狭い。さらに、可動子105と弁体101との間の空隙A201は、可動子105と筐体111との間の空隙B202とロッドガイド104と弁体101との間の空隙C203の和より大きくなるようになっていると可動子105と弁体101とが接触せずに動作できるようになる。
【0034】
図3を用いてさらに詳細に説明する。図3は、筐体111,可動子105,弁体101及びロッドガイド104の寸法関係を説明するため、筐体111,可動子105,弁体101及びロッドガイド104の断面のみを示している。またこの図は模式的な図であって、形状及び書く寸法比を正確に描いているものではない。
【0035】
図3(a)に示すように、空隙A201,空隙B202,空隙C203,可動子105の貫通孔105aの半径R105a,弁体の半径R101,筐体内周面の半径R111,可動子105の外周面半径R105a及びロッドガイド104の案内面半径R104の関係は以下の通りである。
【0036】
A=R105b−R101
B=R111−R105a
C=R104−R101
C<A
B<A
A>B+C
空隙A201は、貫通孔105bの内周面とこの内周面に対向する弁体101の外周面との間に生じる最小間隔となる部分の隙間(第1の隙間)である。また、空隙B202は、可動子105の外周面と可動子105の外周面に対向してこの外周面と摺動する摺動部との間に生じる隙間(第2の隙間)である。この場合の摺動部は、通常、筐体111の内周面に一致する。しかし、筐体111の内側にさらに別の部材を設け、この部材が摺動部を形成するようにしても良い。また、空隙C203は、弁体をガイドする2つのガイド部のうち、可動子105に近い部位に設けたガイド部であるロッドガイド104の案内面と弁体101の外周面との間に生じる隙間(第3の隙間)である。
【0037】
本実施例では、図3(b)に示すように、可動子105が図の右方(矢印105x方向)へ偏り、弁体101が左方(矢印101x方向)へ偏った場合でも、可動子105と弁体101との間に生じる隙間の最も間隔が狭くなる部分でも、なおDの隙間を残しており、可動子105と弁体101との間での横方向の力の授受の影響を抑制することができる。
【0038】
このように、可動子105が弁体101に接触しないことで、開弁・閉弁動作中の弁体101は、可動子105から弁体101の軸と垂直方向(横方向)の力を受けることがない。
【0039】
閉弁状態においては、弁体101は付勢バネ110の力によって閉弁方向に押し付けられているだけでなく、付勢バネ110の曲がりなどに起因する横方向の力を受けている。このような横方向の力により、弁体101はわずかに傾くものの、ロッドガイド104および先端ガイド103によってこの荷重は支えられることになる。ここで、コイル107に通電すると、磁気吸引力は磁気コア109と可動子105との間の吸引面だけでなく、可動子105と筐体111との間の空隙B202にも作用するようになる。ここで、横方向の磁気吸引力は可動子105の偏芯の影響を受ける。可動子105の偏芯によって、空隙B202は周方向に均一ではなくなり、空隙の狭い部位では横方向の吸引力が強くなり、空隙の広い部位では横方向の吸引力が弱くなる。この結果、可動子105は、その中心から、周方向において空隙B202が狭くなっている部分に向かう横方向の力を受けることになる。
【0040】
このように横方向に力を受けたときに、弁体101と可動子105との間の空隙A201が狭いと、可動子105は弁体101と接触して力の授受が行われてしまう。可動子105が磁気吸引力によって受ける横方向の力の方向と、閉弁状態で弁体101が付勢バネ110から受けている横方向の力の方向とは必ずしも一致しない。したがって、弁体101と可動子105との間の空隙A201が狭い場合には、閉弁状態の弁体101及び可動子105の偏芯の状態と、開弁状態における弁体111及び可動子105の偏芯の状態とは異なってしまう。すなわち、開閉弁の動作中に、可動子105の状態が変化し、これに伴って磁気吸引力も変化してしまうことになる。また、この偏芯の状態は、燃料噴射弁の組立て状態によっても変化するため、開閉弁動作中の可動子105の偏芯状態の変化が大きいものと、小さいものとが発生してしまう。
【0041】
このような可動子105の動作のばらつきは、燃料噴射弁の噴射量のばらつきを増大させる原因になりうる。
【0042】
そこで、本発明のように可動子105の貫通孔105bの内周面が、弁体101と接触しないようにすることで、磁気吸引力の発生の有無によって弁体101に作用する力が変化しないようにすることができる。すなわち、閉弁状態において弁体101が受けている横方向の力と、開閉弁動作中に受けている横方向の力の変化を小さくすることができる。
【0043】
同様に、本発明によれば、可動子105が弁体101から受ける横方向の力も、接触がないために閉弁状態と開閉弁動作中とで変化しない。このため、弁体101は初期の組立て状態と、動作中の状態とで、受ける力が変化せず、したがって摺動摩擦力の変化も少ない。同様に、可動子105と筐体111の間に生じる摺動摩擦力の変化も少なくできる。この結果、本発明による燃料噴射弁では、噴射量の個体ばらつきやショットごとのばらつきを低減できる。
【0044】
また、本発明のように可動子105と筐体111の間の空隙202が狭く設定されていると、大きい磁気吸引力を得やすくなる。可動子105と筐体111の半径の差で計算される空隙202が、弁体101の閉弁位置と開弁位置の距離(すなわちストローク)よりも狭く設定されていると、空隙202が磁気的な抵抗部になることを避けることができ、したがって高い磁気吸引力を得やすくなる。高い磁気吸引力が得られることで、より高い燃料圧力下でも動作できるようになる。あるいは、付勢バネの設定荷重を高めて、閉弁動作に要する時間を短縮し、最小噴射量を低減する効果もある。
【0045】
更に、本発明によって、可動子105の開弁動作の際に生じる振動的な動作を抑制することもできる。可動子105は、開弁時に磁気コア109と衝突し、跳ね返る動作をする。この跳ね返り動作のために、噴射パルスの幅の変化に対して噴射量の変化が非直線的になってしまう。この非直線性は、燃料噴射弁で使用可能な最小噴射パルス幅や最小噴射量を増大させる原因となる。
【0046】
図4は、一般的な燃料噴射弁の噴射パルス幅と噴射量の関係を示すグラフであり、特性301は本発明に拠らない燃料噴射弁を用いた場合の噴射量特性である。特性301は、本発明を用いない場合であるので、前記した可動子の跳ね返り動作のために、噴射パルス幅が小さい領域では噴射量との関係が非線形になっている。
【0047】
これに対して、本発明のように可動子105と筐体111の間の空隙202を小さくすると、可動子105が運動した際に燃料によって生じる粘性抵抗が大きくなる。この状態では、可動子105が磁気コア109に向けて開弁動作している際に、可動子105と磁気コア109の間の空隙204に存在している燃料は空隙202と可動子105の内径側に配置された燃料通路孔(図示されていない)を通じて移動するが、このうちの空隙202を通過できる量が減少する。すなわち、開弁状態に近づくにつれて、燃料は可動子の内側へと移動することになるが、移動するための通路である空隙204は、開弁に伴って狭くなるため、燃料の移動が困難になる。したがって、可動子105は、磁気コア109に接触する直前で燃料の抵抗によって減速する。このような減速効果によって、可動子105と磁気コア109の接触時の衝突スピードを減じることができ、跳ね返りを抑止できる。また、跳ね返りが生じても、可動子105はその側面において、筐体111との空隙202にある燃料によって抵抗力を受け、早期に跳ね返りが収束する。
【0048】
この結果、燃料噴射量の特性は、特性302に示すように短い噴射パルス幅の領域において、跳ね返り現象によって生じていた非直線性を減じることができ、したがって最小噴射量を低減できる。
【0049】
なお、本発明のように可動子105の跳ね返り挙動を抑制するためには、図2に示す可動子105のように、可動子105の磁気コア109との衝突面とは反対側に、テーパー状の凹部205を設け、可動子105が軽量化されていると良い。このような可動子105の軽量化は、弁体101と可動子105が相対運動可能な場合において、弁体101と独立して運動する可動子105の振動挙動を早期に安定させる効果がある。また、本発明による空隙202が狭い場合においては、空隙202における抵抗力に対して質量が減るため、可動子105の跳ね返り動作を収束させる上で効果が高い。
【符号の説明】
【0050】
101 弁体
102 シート部材
103 先端ガイド
104 ロッドガイド
105 可動子
106 ゼロ位置バネ
107 コイル
108 ヨーク
109 磁気コア
110 付勢バネ
111 筐体
201,202,203,204 空隙
205 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体を可動子に設けた貫通孔に挿通させて弁体と可動子とが相対運動可能なように構成され、開弁時に、コイルと磁気コアとで構成した電磁石に通電することにより発生する磁気吸引力により吸引される可動子に弁体を係合させて開弁動作させ、閉弁時に、付勢バネの付勢力で閉弁方向に付勢された弁体に可動子を係合させて閉弁動作させるように構成した燃料噴射弁において、
前記弁体の弁軸方向の変位を弁軸方向に離れた2箇所でガイドする2つのガイド部を備え、
前記貫通孔と前記弁体との間に生じる最小間隔となる第1の隙間を、前記可動子の外周面と前記可動子の外周面に対向して前記外周面と摺動する摺動部との間に生じる第2の隙間とりも大きく設定したことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射弁において、
前記弁体をガイドする2つのガイド部のうち、前記可動子に近い部位に設けたガイド部と前記弁体との間に生じる第3の隙間を、前記第1の隙間よりも小さく設定したことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料噴射弁において、
前記第1の隙間を、前記第2の隙間と、前記弁体をガイドする2つのガイド部のうち、前記可動子に近い部位に設けたガイド部と前記弁体との間に生じる第3の隙間との和よりも大きく設定したことを特徴とする燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−52418(P2012−52418A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193066(P2010−193066)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】