説明

燃料噴射装置のインジェクタ

【課題】燃料を加圧供給可能な燃料噴射装置のインジェクタであって、ノズルニードルが噴射口を開放又は閉鎖し、供給された燃料がこのインジェクタによって再び燃焼室に供給可能にする。
【解決手段】ノズルニードル9が燃料圧力に依存して2つの限定された操作リフト量11.1、12.1を備えており、ノズルニードル9による噴射口10の開放又は閉鎖が少なくとも1つの操作部材5によって可能とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置のインジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
可変圧力で燃料を噴射する、例えばコモンレール噴射装置等の噴射装置は、通常噴射開始のためにごく急峻な噴射率を有する。大量の燃料が噴射される。しかしこの効果は窒素酸化物排出率(NOX排出率)に否定的に作用する。噴孔の段階的解放/開放又は噴孔の限定された開放特性を介して階段状噴射率を達成し、それと共に排出率に好ましい影響を及ぼすことができる。
【0003】
このような噴射装置を利用する噴射装置の多くの製造業者およびディーゼルエンジンの多くの製造業者は、噴射口の最適制御を見出そうと努力している。噴射すべき燃料量を調節する他の可能性はカム制御式燃料噴射ポンプによって実現できる。
【0004】
噴射口の最適制御を見出す他に、噴射装置に存在する他の問題として、噴射孔の弾道挙動が知られている。噴孔の弾道挙動が現れるのは、噴射量が少なく、燃料噴射圧力が低いときである。短い噴射時間と噴孔の慣性効果との故に噴孔の未制御な運動が生じる。即ちニードルリフト量が噴射過程毎に異なる大きさとなることがあり、そのため、噴射される燃料量が異なる値となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これを前提に、本発明は、燃料噴射装置のインジェクタを改良することを課題とする。
【0006】
新規なインジェクタは、噴射される燃料量が少ない場合に、限定されたニードルリフト量又は限定された開放横断面を有さねばならない。更に、新規なインジェクタは弾道ニードル挙動現象をもはや示してはならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1に記載した燃料噴射装置のインジェクタによって解決される。
【0008】
本発明者等は、インジェクタにおいて上記諸欠点を避けるべく、インジェクタの噴射ニードルが2つの限定された運動行程を実行できると有利であることを確認した。これら両方のニードル行程は特定の制御機構により解放、遮断又は制限することができる。
【0009】
この認識を前提に本発明は、燃料をそれに加圧供給可能でありかつノズルニードルが噴射口を開放又は閉鎖し、供給された燃料を再び燃焼室に供給可能である噴射装置のインジェクタを改良し、ノズルニードルが燃料圧力に依存して2つの限定された操作リフト量を持ち、ノズルニードルによる噴射口の開放又は閉鎖を少なくとも1つの操作部材によって可能とすることを提案する。これにより提供されるインジェクタは2つのニードルリフト量を備えており、ニードルリフト量は各々限定された行程開放横断面を提供する。
【0010】
従来現れた弾道ニードル挙動の問題は、新規なインジェクタによって回避される。新規なインジェクタは、特に3ポート2位置切換弁、圧力調節弁等の上流側に設けられる弁と協動し、このため多重噴射用に利用可能とするのに適している。例えば以下の組合せが可能である。例えば可変噴射圧力とインジェクタの上流側に設けられる3ポート2位置切換弁とを有する燃料噴射装置を実現できる。更に、インジェクタを有するカム制御式燃料噴射ポンプを実現できる。
【0011】
ノズルニードルの上方と下方に各々圧力室が形成されており、これら圧力室に燃料が加圧供給可能であると有利である。例えば上側圧力室と下側圧力室とに同じ圧力が加わっていると、ニードルは特定の位置で保持される。両方のうち一方の圧力室内の圧力が例えば圧力放出によって変化して初めて、ノズルニードルは僅かな圧力を有する圧力室の方向に移動できる。
【0012】
インジェクタの考えられる1実施形態において、少なくとも1つの操作部材、主に2ポート2位置切換弁を配置することができ、これが少なくとも1つの圧力室を開放又は閉鎖し、これにより両圧力室間の圧力差を被動ノズルニードルに送ることができる。
【0013】
少なくとも1つの圧力室で、圧力吸込み横断面が圧力吐出し横断面より大きいとよい。この横断面比にて、圧力室の除圧時に室内部の圧力を絞って低下させることができる。
【0014】
インジェクタの他の好ましい1実施形態において、ノズルニードルの2つの限定された操作経路に各々少なくとも1つのばね要素を設け、該ばね要素でノズルニードルを各操作経路の端止めから出発位置へと戻す。ばね要素のばね定数により、特定の開放挙動を調整できる。圧縮ばねとしても引張ばねとしても実施可能なばね要素を直列に接続し、それらのばね定数を加算することもできる。
【0015】
ばね要素を有する操作経路と代替的に、ノズルニードルの限定された操作経路が操作部材、主に2ポート2位置切換弁を備えてもよく、これによりノズルニードルの運動がこの操作経路内で開始又は停止される。考え得るインジェクタの他の実施の形態では、少なくとも1つの3ポート2位置切換弁および/又は圧力調節弁で燃料がインジェクタに供給可能である。
【0016】
本発明の好ましい諸構成を従属請求項と以下の説明とから明らかにする。本発明の一実施例を単一の図面を基に詳しく説明するが、本発明はそれに限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1を参照して本発明を説明する。
【0018】
図1は燃料噴射装置のインジェクタ1の断面図である。燃料供給管路2を経て、燃料は高圧で上側圧力室13.1と下側圧力室13.2とに移送される。3ポート2位置弁と燃料供給管路2中の圧力調節弁3とを経て、移送される燃料圧力の値が調節され、加圧又は除圧が制御される。
【0019】
燃料は噴射口10を経て燃焼室内に噴射される。その際、ノズルニードル9が噴射口10を開閉する。図1に示す状態のときノズルニードル9は下側位置にあり、噴射口10を閉鎖保持する。ノズルニードル9が上方に動くと、噴射口10が開放される。ノズルニードル9が上方に動けば動くほど、自由となる噴射口10が一層大きくなり、噴射燃料の噴射量も一層多くなる。
【0020】
ノズルニードル9の開閉は、燃料排出管路6中にある2ポート2位置切換弁5により制御される。図1に示す状態のとき2ポート2位置切換弁5は閉じている。このため上側圧力室13.1にも下側圧力室13.2にも同じ圧力が加わる。上側圧力室13.1からピストンロッド4に上から加わる圧力と、下側圧力室13.2からノズルニードル9に下から加わる圧力とが均衡し、ピストンロッド4の下方にあるノズルニードル9は下側位置で保持され、噴射口10を閉鎖保持する。
【0021】
燃料噴射過程を開始すべく、即ちノズルニードル9を持ち上げて噴射口10の開放を引き起こすために、2ポート2位置切換弁5が開放される。このため上側圧力室13.1が除圧される。しかし流出絞り7の横断面積が流入絞り8の横断面積よりも大きい故、上側圧力室内13.1のこの除圧は徐々に進行する。
【0022】
下側圧力室13.2内で、加圧下の燃料がノズルニードル9を持ち上げて噴射口10を開放することがある。第1ばね要素11がノズルニードルの運動に対抗する。第1ばね要素11によってノズルニードルは前行程11.1の内部で動くことができる。燃料圧力が特定の限界圧力を上まわって初めてノズルニードル9は更に持ち上げられ、第2ばね要素12のばね力が作用する。第2ばね要素12を負荷しながらノズルニードル9の第2行程12.1は進行可能である。
【0023】
第1ばね要素11のばね定数が第2ばね要素12のばね定数よりも小さく設計されており、燃料圧力が低いときノズルニードル9の前行程11.1のみが実行される。
【0024】
自明のことであるが、前記特徴および特許請求の範囲の特徴はその都度記載した組合せにおいてだけでなく、本発明の枠から逸脱することなく別の組合せや単独でも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】新規なインジェクタの断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 インジェクタ、2 燃料供給管路、3 3ポート2位置切換弁と圧力調節弁、4 ピストンロッド、5 2ポート2位置切換弁、6 燃料排出管路、7 流出絞り、8 流入絞り、9 ノズルニードル、10 噴射口、11 第1ばね要素、11.1 前行程、12 第2ばね要素、12.1 第2行程、13.1 上側圧力室、13.2 下側圧力室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を加圧供給可能な燃料噴射装置のインジェクタ(1)であって、ノズルニードル(9)が噴射口(10)を開放又は閉鎖し、供給された燃料がこのインジェクタによって再び燃焼室に供給可能であるものにおいて、
ノズルニードル(9)が燃料圧力に依存して2つの限定された操作行程(11.1、12.1)を実行し、ノズルニードル(9)による噴射口(10)の開放又は閉鎖が少なくとも1つの操作部材(5)によって可能とされたことを特徴とするインジェクタ。
【請求項2】
ノズルニードル(9)の上方および下方に圧力室(13.1、13.2)が形成され、該圧力室に燃料が加圧状態で供給されることを特徴とする請求項1記載のインジェクタ。
【請求項3】
少なくとも1つの操作部材(5)、主に2ポート2位置切換弁が配置されており、これが少なくとも1つの圧力室(13.1)を開放又は閉鎖することを特徴とする請求項1又は2記載のインジェクタ。
【請求項4】
少なくとも1つの圧力室(13.1)において圧力吸込み横断面(8)が圧力吐出し横断面(7)よりも大きいことを特徴とする請求項1から3の1つに記載のインジェクタ。
【請求項5】
ノズルニードル(9)の2つの限定された操作行程(11.1、12.1)が各々少なくとも1つのばね要素(11、12)を自由にし、該ばね要素がノズルニードル(9)を各操作行程(11.1、12.1)の端止めから出発位置へと戻すことを特徴とする請求項1から4の1つに記載のインジェクタ。
【請求項6】
ばね要素(11、12)が直列に接続されており、その結果、それらのばね定数が加算されることを特徴とする請求項5記載のインジェクタ。
【請求項7】
ノズルニードル(9)の限定された操作行程(11.1、12.1)が操作部材、主に2ポート2位置切換弁を備えており、これによりノズルニードル(9)の運動がこの操作行程(12.1)内で開始又は停止されることを特徴とする請求項1から4の1つに記載のインジェクタ。
【請求項8】
少なくとも1つの3ポート2位置切換弁および/又は圧力調節弁(3)で、燃料がインジェクタ(1)に供給されることを特徴とする請求項1から7の1つに記載のインジェクタ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−154896(P2007−154896A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330504(P2006−330504)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(390041520)エムアーエヌ ディーゼル エスエー (59)
【Fターム(参考)】