説明

燃料性状検出装置

【課題】この発明は、燃料中に含まれるイミド基の濃度を、濃度検出が必要な場合に限って効率的に検出し、消費電力を節約することを目的とする。
【解決手段】内燃機関10は、燃料の全酸価を検出するTAN検出装置48と、燃料中に含まれるイミド基の濃度を検出するイミド基濃度検出装置50とを備える。ECU60は、燃料の全酸価が判定値S1よりも大きいときに、イミド基濃度検出装置50を作動させてイミド基の濃度検出を実行し、全酸価が判定値S1以下のときには、イミド基濃度検出装置50を停止状態に保持する。デポジットは、燃料の全酸価とイミド基の濃度が両方とも高いときに生成され易いので、全酸価が小さいときには、イミド基の濃度検出を行う必要がない。これにより、イミド基濃度検出装置50を必要な場合に限って効率的に作動させることができ、その消費電力を節約することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関等に用いられ、燃料の性状を検出する燃料性状検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開2008−107098号公報)に開示されているように、アルコール燃料中に含まれるアルコールの濃度を検出する構成とした燃料性状検出装置が知られている。この種の従来技術による燃料性状検出装置は、特定波長の光が燃料を透過するときの透過率を検出し、この透過率に基いて燃料中のアルコール濃度を算出する構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−107098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年においては、環境上の理由等により、バイオ燃料を使用する内燃機関が実現されている。バイオ燃料は、水分を含有し易い性質があるので、その使用時には、水分を除去するための清浄剤を燃料中に添加することが多い。このような清浄剤としては、PIBSI(ポリイソブチレンコハク酸イミド)等が用いられる。しかし、バイオ燃料中に含まれるカルボン酸等がPIBSIと反応すると、燃料中にデポジットが生成し易くなり、このデポジットより燃料フィルタの目詰まりや燃料噴射弁の作動不良等が発生する虞れがある。
【0005】
このような事態を避けるためには、例えば従来技術と類似した光学式のイミド基濃度検出装置等を用いて、燃料中に含まれるイミド基の濃度(即ち、PIBSIの濃度)を監視する方法が考えられる。しかし、イミド基濃度検出装置は、イミド基に吸収される単波長の光を生成するときに、比較的大きな電力を必要とする。このため、イミド基の濃度を常に監視しようとすると、システムの消費電力が増大するという問題がある。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、燃料中に含まれるイミド基の濃度を、濃度検出が必要な場合に限って効率的に検出することができ、消費電力を節約することが可能な燃料性状検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、燃料中に含まれる酸の濃度を検出する酸濃度検出手段と、
前記燃料中に含まれるイミド基の濃度を検出するイミド基濃度検出手段と、
前記酸の濃度が所定値よりも高いときに、前記イミド基濃度検出手段を作動させて前記イミド基の濃度検出を実行し、前記酸の濃度が前記所定値以下のときには前記イミド基濃度検出手段を停止状態に保持する濃度検出制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明によると、前記燃料は内燃機関で用いるバイオ燃料である構成としている。
【0009】
第3の発明によると、前記イミド基濃度検出手段は、
前記イミド基に吸収される波長の光を発生し、この光を入射光として前記燃料に入射する発光部と、
前記入射光のうち前記燃料を透過した光である透過光を受光する受光部と、
前記入射光と前記透過光との比率に対応するパラメータに基いて前記燃料中のイミド基の濃度を算出する濃度算出手段と、
を備える構成としている。
【0010】
第4の発明は、前記酸の濃度が前記所定値よりも高く、かつ前記イミド基の濃度が他の所定値よりも高いときに、この状態を報知する報知手段を備える構成としている。
【0011】
第5の発明は、前記酸の濃度が前記所定値よりも高く、かつ前記イミド基の濃度が他の所定値よりも高い第1の燃料状態と、前記酸の濃度が前記所定値よりも高く、かつ前記イミド基の濃度が前記他の所定値以下である第2の燃料状態とを識別可能に報知する報知手段を備える構成としている。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、デポジットは、燃料中に含まれる酸と、清浄剤等に含まれるイミド基との反応により生成されるので、これら2つの成分が高濃度であるほど、デポジットが生成され易くなる。従って、酸濃度検出手段とイミド基濃度検出手段の検出結果に基いて、燃料がデポジットを生成し易い状態であるか否かを判定することができ、この判定結果に基いてデポジットによる燃料系統の目詰まり等を未然に防止することができる。また、燃料中の酸の濃度が低いときには、仮にイミド基が高濃度であっても、デポジットが生成されにくいので、イミド基の濃度検出を行う必要がない。そこで、濃度検出制御手段は、酸の濃度が所定値よりも高いときにのみ、イミド基濃度検出手段を作動させてイミド基の濃度検出を実行し、それ以外の場合には、イミド基濃度検出手段を停止状態に保持することができる。従って、イミド基濃度検出手段が比較的大きな電力を消費する場合でも、これを必要な場合に限って効率的に作動させることができ、その消費電力を節約することができる。
【0013】
第2の発明によれば、バイオ燃料は、ガソリンや軽油等の燃料と比較して、熱劣化や経時劣化により酸の含有量が増加し易い特性がある。また、バイオ燃料は、水分が混入し易いので、水分を除去するためにイミド基を含む清浄剤を添加されることが多い。従って、バイオ燃料を用いる内燃機関においては、特にデポジットが生成され易いが、酸濃度検出手段とイミド基濃度検出手段とを用いて燃料の性状を監視することにより、デポジットの生成を確実に防止することができる。
【0014】
第3の発明によれば、光学式のイミド基濃度検出手段を用いることにより、入射光と透過光との比率等に基いて燃料中のイミド基の濃度を容易に検出することができる。また、光学式のイミド基濃度検出手段は、比較的大きな電力を消費するが、濃度検出制御手段によれば、この消費電力を最低限に抑えることができる。
【0015】
第4の発明によれば、報知手段は、燃料がデポジットを生成し易い状態となったときに、この状態をユーザ等に報知することができる。これにより、ユーザは、デポジットの生成を回避するために適切な処置を行うことができる。
【0016】
第5の発明によれば、報知手段は、燃料中の酸とイミド基の濃度が両方とも高いために現状でもデポジットが生成され易い第1の燃料状態と、酸の濃度は高いがイミド基の濃度が増加しなければデポジットが生成しにくい第2の燃料状態とを、それぞれ識別可能な方法で報知することができる。これにより、ユーザは、第1の燃料状態となったときに、例えば燃料の入替え等を速やかに実施することができる。また、第2の燃料状態となったときには、例えばイミド基を含む清浄剤の使用を控えることができるので、燃料の状態に応じてそれぞれ適切な処置を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。
【図2】燃料の誘電率と全酸価との関係を示す特性データである。
【図3】イミド基濃度検出装置の構成を示す説明図である。
【図4】燃料の受光率とイミド基の濃度との関係を示す特性データである。
【図5】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1乃至図5を参照しつつ、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。本実施の形態のシステムは、例えばディーゼルエンジンからなる多気筒型の内燃機関10を備えている。内燃機関10の各気筒には、燃料噴射弁12が設けられると共に、図示しない点火プラグ、吸気バルブ、排気バルブ等がそれぞれ設けられている。燃料噴射弁12は、後述の燃料系統から供給される燃料を筒内に噴射する直噴式の噴射弁により構成されている。なお、本発明は、直噴式の燃料噴射弁に限らず、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射式の燃料噴射弁を用いる構成としてもよい。
【0019】
内燃機関10は、各気筒の吸気ポートに接続されて吸入空気が流れる吸気通路14と、各気筒の排気ポートに接続されて排気ガスが流れる排気通路16とを備えている。吸気通路14には、吸入空気量を検出するエアフロメータ18、吸入空気量を調整する電動式のスロットルバルブ20等が設けられている。排気通路16には、排気ガスを浄化する複数種類の触媒22,24,26が設けられており、これらの触媒22,24,26は、例えばNSR(NOx Storage-Reduction)触媒、DPNR(Diesel Particulate-NOx Reduction System)触媒、酸化触媒等により構成されている。また、排気通路16には、触媒の昇温、再生等を行うために排気ガス中に燃料を添加する排気添加弁28が設けられている。
【0020】
一方、吸気通路14と排気通路16との間には、排気ガスの一部をEGRガスとして吸気系に還流させるためのEGR通路30が接続されている。EGR通路30には、EGRガスの流量を調整するEGR弁32が設けられると共に、EGRガス用の触媒、クーラ等が設けられている。また、吸気通路14と排気通路16には、排気圧を利用して吸入空気を過給するターボチャージャ34が設けられている。
【0021】
次に、本実施の形態の燃料系統について説明する。本実施の形態では、内燃機関10がバイオ燃料を使用可能なエンジンにより構成されており、燃料タンク36には、バイオ燃料が貯留される。なお、バイオ燃料(Biofuels)とは、例えば各種の植物油、植物性材料等を原料として生成されたアルコール成分を含む燃料である。燃料タンク36には、燃料配管等を介してコモンレール38が接続されている。コモンレール38には、各気筒の燃料噴射弁12がそれぞれ接続されると共に、燃料タンク36内のバイオ燃料をコモンレール38に供給する燃料ポンプ40が設けられている。また、燃料系統は、コモンレール38内の燃料圧力を調整する圧力レギュレータと、コモンレール38内で余った燃料を燃料タンク36に戻すリターン配管(何れも図示せず)とを備えている。
【0022】
さらに、本実施の形態のシステムは、内燃機関10の運転に必要な情報を検出するためのセンサ系統を備えている。このセンサ系統には、前述したエアフロメータ18の他に、A/Fセンサ42、排気温センサ44、差圧センサ46、TAN検出装置48、イミド基濃度検出装置50等が含まれている。ここで、A/Fセンサ42は排気空燃比を検出し、排気温センサ44は排気ガスの温度を検出し、差圧センサ46は触媒22,24の上流側と下流側の圧力差を検出するものである。これらのセンサ42,44,46から出力される検出信号は、排気ガスの空燃比制御や、触媒の温度制御および再生制御等に用いられる。また、TAN検出装置48とイミド基濃度検出装置50とは、例えば燃料タンク36内に設けられており、その詳細については後述する。さらに、センサ系統には、内燃機関の機関回転数やクランク角を検出するためのクランク角センサ、冷却水温を検出する水温センサ、アクセルの操作状態を検出するアクセルセンサ等が含まれている。
【0023】
そして、センサ系統は、内燃機関10を制御するECU(Electronic Control Unit)60の入力側に接続されている。また、ECU60の出力側には、各種のアクチュエータが接続されている。このアクチュエータには、燃料噴射弁12、スロットルバルブ20、排気添加弁28、EGR弁32、燃料ポンプ40、後述の報知器62等が含まれている。そして、ECU60は、センサ系統により検出した各種の運転情報に基いて各アクチュエータを駆動し、これにより内燃機関の運転状態を制御する。具体的には、センサ系統の出力に基いて燃料の噴射量、噴射時期および点火時期が設定され、これらの設定内容に応じてアクチュエータが駆動される。この結果、燃料系統では、燃料タンク36内のバイオ燃料が燃料ポンプ40によりコモンレール38内に供給され、この燃料は燃料噴射弁12から各気筒内に噴射される。そして、噴射された燃料は、吸気通路14から筒内に吸込まれた吸入空気と共に燃焼する。また、燃焼後の排気ガスは排気通路16を流通し、触媒22,24,26により浄化された後に外部に排出される。
【0024】
ここで、本実施の形態のシステムは、水分が混入し易いバイオ燃料を使用するので、燃料タンク36内には、燃料中の水分を除去するために、PIBSI(ポリイソブチレンコハク酸イミド)等の清浄剤を添加することが多い。しかし、PIBSIに含まれるイミド基は、燃料中に存在する酸(低級カルボン酸等)と反応することにより、デポジットを生成し易い。特に、バイオ燃料は、ガソリンや軽油等の燃料と比較して、熱劣化や経時劣化により酸の含有量が増加し易いので、デポジットの生成を促進する虞れがある。
【0025】
上記反応について詳しく述べると、イミド基とは、一般的にR-CONHCO-R(Rは有機化合物)と表記されるものであり、下記(1)式の左辺は、イミド基が含まれるPIBSIの化学式を示している。そして、このイミド基にバイオ燃料中の低級カルボン酸等が作用すると、(1)式の右辺に示すように、イミド基からアミド基が生成される。即ち、イミド基中の「C-N」結合部に酸が作用することにより、イミド基の環状構造が壊され、2重結合をもつアミド基構造が生成される。このアミド基は、重合反応を起すことによりデポジットを生成し易い。
【0026】
{C-CH2(CH3)(CH3)}n-CHCH2(CO)2N-R+R-COOH
→ {C-CH2(CH3)(CH3)}n-CH2(COOH)-CH(CONRCOH) ・・・(1)
【0027】
このため、ECU60は、TAN検出装置48とイミド基濃度検出装置50とを用いて燃料の性状(燃料中の酸とイミド基の濃度)を検出し、デポジットが生成され易い状態となった場合には、後述の報知器62を作動させるように構成されている。以下、これらの装置48,50と、ECU60の制御について説明する。
【0028】
(TAN検出装置)
TAN検出装置48は、燃料中に含まれる酸の濃度を検出する酸濃度検出手段を構成している。具体的に述べると、TAN検出装置48は、燃料中に含まれる酸の量に応じて変化するパラメータ(例えば、誘電率)を計測し、その計測結果に基いて燃料の全酸価(TAN = Total Acid Number)を検出する。この検出方法は、例えば特開2003−114206号公報等により公知な技術である。即ち、TAN検出装置48は、燃料タンク36内の燃料中で対向する一対の電極(図示せず)を備えている。そして、これらの電極間に交流電圧を印加することにより、燃料の誘電率(または比誘電率)を計測し、その計測結果をECU60に出力する。燃料の誘電率と全酸価との間には一定の関係があり、この関係は、例えば図2に示す特性データとしてECU60に予め記憶されている。従って、ECU60は、誘電率の計測結果に基いて図2の特性データを参照することにより、燃料の全酸価を検出することができる。
【0029】
なお、本実施の形態では、燃料の誘電率に基いて全酸価を検出する構成としたが、本発明は誘電率に限らず、全酸価と相関がある他のパラメータを検出し、当該パラメータに基いて全酸価を検出する構成としてもよい。また、本実施の形態では、燃料の誘電率から全酸価を検出するための特性データをECU60に記憶させておく構成としたが、本発明はこれに限らず、TAN検出装置48に搭載した演算回路等に前記特性データを記憶させておく構成としてもよい。この場合には、TAN検出装置48において誘電率から全酸価を算出し、その算出結果をECU60に出力すればよい。
【0030】
(イミド基濃度検出装置)
イミド基濃度検出装置50は、燃料中に含まれるイミド基の濃度(即ち、PIBSIの濃度)を検出するイミド基濃度検出手段を構成している。そして、イミド基濃度検出装置50は、ECU60から通電されることにより作動し、非通電時には停止状態に保持される。図3は、イミド基濃度検出装置の構成を示す説明図である。図3に示すように、イミド基濃度検出装置50は、燃料中で対向する発光部50Aと受光部50Bとを備えている。発光部50Aは、イミド基に吸収される特定の単波長の光を発生し、この光を入射光として燃料に入射する。この場合、入射光の波長は、例えば1705cm-1に設定される。また、受光部50Bは、入射光のうち燃料を透過した透過光を受光し、その受光状態に応じた信号を出力する。
【0031】
また、イミド基濃度検出装置50は、図示しない演算回路を備えており、この演算回路は、予め規定された入射光の強度と、受光部50Bにより受光した透過光の強度とに基いて、入射光と透過光との比率に対応するパラメータ(例えば光の透過率、受光率、損失率等)を算出する。この算出結果はECU60に出力される。燃料中に含まれるイミド基の濃度と、前記パラメータ(例えば、受光率)との間には一定の関係があり、この関係は、図4に示す特性データとしてECU60に予め記憶されている。従って、ECU60は、受光率の算出結果に基いて図4の特性データを参照することにより、燃料中のイミド基の濃度を容易に検出することができる。
【0032】
なお、本実施の形態では、受光率に基いてイミド基の濃度を検出する構成としたが、本発明はこれに限らず、例えば透過率、損失率、または他のパラメータに基いてイミド基の濃度を検出する構成としてもよい。また、本実施の形態では、受光率を演算する演算回路をイミド基濃度検出装置50に搭載する構成としたが、本発明はこれに限らず、前記演算回路をECU60に搭載する構成としてもよい。この場合、ECU60は、イミド基濃度検出装置50から出力される透過光の強度情報等に基いて受光率を算出し、更に受光率に基いてイミド基の濃度を検出する構成とすればよい。また、本発明では、図4に示す特性データをイミド基濃度検出装置50の演算回路に記憶させておく構成としてもよい。この場合には、イミド基濃度検出装置50において受光率からイミド基の濃度を検出し、その検出結果をECU60に出力すればよい。
【0033】
(ECUによる検出制御)
上述したように、デポジットは燃料中の酸とイミド基の反応により生成されるので、これら2つの成分が高濃度であるほど、デポジットが生成され易くなる。このため、ECU60は、TAN検出装置48により燃料の全酸価(TAN)を検出し、イミド基濃度検出装置50により燃料中のイミド基の濃度を検出する。そして、これらの検出結果に基いて、デポジットが生成され易い状態であるか否かを判定する。しかし、光学式のイミド基濃度検出装置50は、TAN検出装置48と比較して大きな電力を消費するので、イミド基の濃度を頻繁に検出しようとすると、システムの消費電力が増大するという問題がある。
【0034】
このため、本実施の形態では、まず、TAN検出装置48を作動させることにより、燃料の全酸価を検出する。そして、全酸価の検出値が図2中に示す所定の判定値S1よりも大きいときにのみ、イミド基濃度検出装置50を作動させ、イミド基の濃度検出を実行する。なお、判定値S1は、例えばデポジットの生成を抑制し得る全酸価の上限値として予め設定されており、ECU60に記憶されている。一方、全酸価の検出値が前記判定値S1以下であるときには、仮に燃料中のイミド基が高濃度であっても、デポジットは生成されにくい。そこで、この場合には、イミド基の濃度検出を実行せず、イミド基濃度検出装置50を停止状態に保持する。
【0035】
また、本実施の形態では、燃料の全酸価とイミド基の濃度とに基いて、ECU60により報知手段としての報知器62を作動させる。報知器62は、車両のユーザ等が確認し易い場所(例えば、速度メータの周囲等)に配置されており、ユーザ等に対して、以下に述べる第1,第2の燃料状態を識別可能に報知するものである。この報知動作は、例えば表示、ランプ、ブザー、音声等の手段により行われる。
【0036】
まず、ECU60は、燃料の全酸価が前記判定値S1よりも大きく、かつイミド基の濃度が図4中に示す所定の判定値S2よりも高いときに、現状でもデポジットが形成され易い状態(第1の燃料状態)であると判定する。そして、この場合には、報知器62を第1の動作モードで作動させることにより、第1の燃料状態であることをユーザ等に警告する。この警告は、(1)現在の燃料を早期に使い切るか廃棄する(2)新たな燃料を補給して酸およびイミド基の濃度を低下させる、の何れかを推奨する内容でもよい。これにより、ユーザ等に適切な対処を促し、デポジットによる燃料系統の目詰まり等を未然に防止することができる。なお、判定値S2は、前述した判定値S1と同様に、例えばデポジットの生成を抑制し得る濃度の上限値として予め設定されている。
【0037】
一方、燃料の全酸価が前記判定値S1よりも大きいものの、イミド基の濃度が前記判定値S2以下であるときには、PIBSIの濃度不足によりデポジットが生成されにくい状態(第2の燃料状態)であると判断される。即ち、第2の燃料状態とは、燃料中に新たな清浄剤を補充しなければ、デポジットの生成を抑制することが可能な状態である。ECU60は、第2の燃料状態であると判定したときに、報知器62を前記第1の動作モードと異なる第2の動作モードで作動させる。これにより、報知器62は、第2の燃料状態であることをユーザ等に警告し、例えば清浄剤の添加禁止等を推奨することができる。
【0038】
この構成によれば、現状でもデポジットが生成され易い第1の燃料状態と、イミド基の濃度が増加しなければデポジットが生成しにくい第2の燃料状態とを、報知器62によりそれぞれ識別可能な方法で報知することができる。これにより、ユーザ等は、第1の燃料状態となったときに、例えば燃料の入替え等を速やかに実施することができる。また、第2の燃料状態となったときには、イミド基を含む清浄剤の使用を控えることができる。従って、燃料の状態に応じてそれぞれ適切な処置を行うことができ、デポジットの生成を確実に回避することができる。
【0039】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
図5は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、内燃機関10の制御と並行して、車両の運転中に繰返し実行されるものとする。図5に示すルーチンにおいて、ECU60は、まず、TAN検出装置48を作動させることにより、燃料の全酸価を検出する(ステップ100)。そして、全酸価の検出値が前記判定値S1よりも大きいか否かを判定する(ステップ102)。この判定成立時には、燃料の全酸価が許容範囲から外れた領域(図2中に示す「酸アリ」の領域)にあるので、イミド基の濃度検出が必要となる。そこで、この場合には、イミド基濃度検出装置50に通電することにより、当該装置を作動させる(ステップ104)。そして、後述のステップ108に移行する。一方、ステップ102の判定が不成立のときには、燃料の全酸価が許容範囲内(図2中に示す「酸ナシ」の領域)にあるので、イミド基の濃度検出は必要ない。そこで、この場合には、イミド基濃度検出装置50を停止状態に保持し、今回の処理を終了する(ステップ106)。
【0040】
次に、ステップ108では、イミド基濃度検出装置50により、燃料中に含まれるイミド基の濃度を検出する。そして、イミド基の濃度が前記判定値S2よりも高いか否かを判定する(ステップ110)。この判定成立時には、イミド基の濃度が許容範囲から外れた領域(図4中に示す「イミド基アリ」の領域)にあるので、前述した第1の燃料状態であると判断される。そこで、この場合には、報知器62を第1の動作モードで作動させ、現状でもデポジットが形成され易い状態であることをユーザ等に警告する(ステップ112)。また、ステップ110の判定が不成立のときには、イミド基の濃度が許容範囲内(図4中に示す「イミド基ナシ」の領域)にあるので、前述した第2の燃料状態であると判断される。そこで、この場合には、報知器62を第2の動作モードで作動させ、清浄剤の添加を禁止すべき状態であることをユーザ等に警告する(ステップ114)。
【0041】
以上詳述した通り、燃料の全酸価(酸の濃度)が小さいときには、仮に燃料中のイミド基が高濃度であっても、デポジットが生成されにくいので、イミド基の濃度検出を行う必要がない。本実施の形態では、この点に着目することにより、全酸価が判定値S1よりも大きいときにのみ、イミド基濃度検出装置50を作動させてイミド基の濃度検出を実行し、それ以外の場合には、イミド基濃度検出装置50を停止状態に保持することができる。
【0042】
これにより、比較的大きな電力を消費する光学式のイミド基濃度検出装置50を用いたシステムでも、この検出装置50を必要な場合に限って効率的に作動させることができ、システムの消費電力を節約することができる。特に、バイオ燃料を用いる内燃機関10においては、燃料中にデポジットが生成され易いので、TAN検出装置48とイミド基濃度検出装置50とを用いて燃料の性状を監視する構成が有効となる。本実施の形態では、この構成によりデポジットの生成を確実に防止しつつ、イミド基濃度検出装置50の消費電力を最低限に抑えることができる。
【0043】
なお、前記実施の形態では、図5中のステップ102,104,106が濃度検出制御手段の具体例を示している。また、ステップ108及び図4の特性データは、濃度算出手段の具体例を示している。
【0044】
また、実施の形態では、燃料性状検出装置を、ディーゼルエンジンからなる内燃機関10の燃料に用いる構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、ガソリンエンジンに適用する構成としてもよく、さらには内燃機関以外の機器に適用する構成としてもよい。また、本発明は、実施の形態で用いたバイオ燃料に限らず、任意の燃料に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 内燃機関
12 燃料噴射弁
14 吸気通路
16 排気通路
18 エアフロメータ
20 スロットルバルブ
22,24,26 触媒
28 排気添加弁
30 EGR通路
32 EGR弁
34 ターボチャージャ
36 燃料タンク
38 コモンレール
40 燃料ポンプ
42 A/Fセンサ
44 排気温センサ
46 差圧センサ
48 TAN検出装置(酸濃度検出手段)
50 イミド基濃度検出装置(イミド基濃度検出手段)
50A 発光部
50B 受光部
60 ECU
62 報知器(報知手段)
S1,S2 判定値(所定値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料中に含まれる酸の濃度を検出する酸濃度検出手段と、
前記燃料中に含まれるイミド基の濃度を検出するイミド基濃度検出手段と、
前記酸の濃度が所定値よりも高いときに、前記イミド基濃度検出手段を作動させて前記イミド基の濃度検出を実行し、前記酸の濃度が前記所定値以下のときには前記イミド基濃度検出手段を停止状態に保持する濃度検出制御手段と、
を備えることを特徴とする燃料性状検出装置。
【請求項2】
前記燃料は内燃機関で用いるバイオ燃料である請求項1に記載の燃料性状検出装置。
【請求項3】
前記イミド基濃度検出手段は、
前記イミド基に吸収される波長の光を発生し、この光を入射光として前記燃料に入射する発光部と、
前記入射光のうち前記燃料を透過した光である透過光を受光する受光部と、
前記入射光と前記透過光との比率に対応するパラメータに基いて前記燃料中のイミド基の濃度を算出する濃度算出手段と、
を備えてなる請求項1または2に記載の燃料性状検出装置。
【請求項4】
前記酸の濃度が前記所定値よりも高く、かつ前記イミド基の濃度が他の所定値よりも高いときに、この状態を報知する報知手段を備えてなる請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の燃料性状検出装置。
【請求項5】
前記酸の濃度が前記所定値よりも高く、かつ前記イミド基の濃度が他の所定値よりも高い第1の燃料状態と、前記酸の濃度が前記所定値よりも高く、かつ前記イミド基の濃度が前記他の所定値以下である第2の燃料状態とを識別可能に報知する報知手段を備えてなる請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の燃料性状検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−12624(P2011−12624A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158827(P2009−158827)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】