説明

燃料油の分析方法

【課題】
燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を迅速に測定することが可能な燃料油の分析方法を提供すること。
【解決手段】
燃料油の赤外吸収スペクトルにおける、エチル−tert−ブチルエーテルに帰属される吸収帯のピーク強度に基づき、前記燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求める工程を有する、燃料油の分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料油の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内では、ガソリン等の石油製品におけるエチル−tert−ブチルエーテル(ETBE)の含有割合について、揮発油等の品質の確保等に関する法律(品確法)に基づく強制規格が定められており、当該規格を満たさない石油製品を販売することは認められていない。
【0003】
従来、石油製品中のエチル−tert−ブチルエーテルの定量分析法としては、ガスクロマトグラフによる測定法が知られている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JISハンドブック 25 石油 2007,1428〜1463頁(JIS K2536−2)
【非特許文献2】JISハンドブック 25 石油 2007,1491〜1496頁(JIS K2536−6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1及び非特許文献2に記載の測定法は、操作が煩雑であり、分析に長時間を要する。そのため、多くの燃料油サンプルにおけるエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を、短時間で測定することが可能な分析方法が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を迅速、かつ簡便に測定することが可能な燃料油の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、燃料油の赤外吸収スペクトルにおける、エチル−tert−ブチルエーテルに帰属される吸収帯のピーク強度に基づき、上記燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求める工程を有する、燃料油の分析方法を提供する。
【0008】
本発明に係る燃料油の分析方法によれば、赤外吸収スペクトルにおけるピーク強度を用いていることから、迅速かつ簡便に燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を測定することができる。
【0009】
本発明において、上記赤外吸収スペクトルが示されたチャートの横軸Xを吸収波長、縦軸Yを吸光度とし、上記吸収帯における吸光度の最大値を与える点をA(X,Y)とし、上記吸収帯の両端の谷の極小点をそれぞれA(X,Y)及びA(X,Y)とするとき、上記ピーク強度は、上記Aと上記Aとを結ぶ基準線Y=[(Y−Y)/(X−X)]X−[(X−X)/(X−X)]と直線X=Xとの交点から上記Aまでの距離{Y−[(X−X)Y−(X−X)Y]/(X−X)}であることが好ましい。
【0010】
このようなピーク強度に基づき燃料油を分析することにより、より高精度に、再現性良く燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を測定することができる。
【0011】
また、本発明において、上記吸収帯は、上記吸収帯における吸光度の最大値を与える点が1180〜1225cm−1の領域にある吸収帯であることが好ましい。
【0012】
このような吸収帯のピーク強度に基づき燃料油を分析することにより、燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合が極めて少ない場合であっても、高精度にその含有割合を測定することができる。
【0013】
さらに、本発明において、上記工程は、予め得られている上記ピーク強度とエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合との相関に基づいて、上記燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求める工程であることが好ましい。
【0014】
このような分析方法においては、予め得られている相関に基づいて分析を行うことにより、複数の燃料油を、迅速かつ簡便に分析することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を迅速、かつ簡便に測定することが可能な燃料油の分析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】燃料油の赤外吸収スペクトルが示されたチャートを示す模式図である。
【図2】実施例の測定サンプルにおいて測定された赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図3】実施例1で作成された検量線を示す図である。
【図4】実施例2で作成された検量線を示す図である。
【図5】実施例3で作成された検量線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る燃料油の分析方法の好適な実施形態について以下に説明する。
【0018】
本実施形態に係る燃料油の分析方法は、燃料油の赤外吸収スペクトルにおける、エチル−tert−ブチルエーテルに帰属される吸収帯のピーク強度に基づき、燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求める工程を有する。
【0019】
本実施形態に係る分析方法により分析される燃料油としては、原油又はその混合物に対して、蒸留、分解、改質、その他の精製処理等を適宜行うことによって得られる留分又は残渣が挙げられる。より具体的には、自動車エンジン用ガソリン、農業用内燃機関用ガソリン、林業用内燃機関用ガソリン等に代表されるガソリン留分;燃料用ナフサ等に代表されるナフサ留分(軽質ナフサ、重質ナフサ、ホールレンジナフサ等);ジェット燃料、航空ガソリン等に代表されるジェット燃料留分;冷暖房用灯油、厨房用灯油、石油発動機用灯油、工業燃料用灯油等に代表される灯油留分;自動車ディーゼルエンジン用軽油、加熱燃料用軽油等に代表される軽油留分;ボイラー用重油、ビル暖房用重油、船舶ディーゼルエンジン用重油、窯業用重油等に代表される重油留分(A重油、B重油、C重油等);及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0020】
本実施形態に係る燃料油の分析方法は、上述した各種の燃料油及びそれらの混合物の何れも分析可能であるが、特に、ガソリンを含有する燃料油を分析することに優れる。ここでガソリンとしては、JISK2202「自動車ガソリン」で規定される1号ガソリンや2号ガソリン、バイオガソリン等が挙げられる。
【0021】
燃料油の赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光法により得られた赤外吸収スペクトルであることが好ましい。このような赤外吸収スペクトルは、公知のフーリエ変換赤外分光光度計(フーリエ変換赤外分光分析装置、FT−IR装置ともいう。)を用いて得ることができ、フーリエ変換赤外分光光度計としては、例えば、Mattson ATI Genesis II FTIR(Mattson社製)等を用いることができる。
【0022】
燃料油の赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計等により、迅速かつ簡便に得ることができる。そのため、本実施形態に係る燃料油の分析方法によれば、迅速かつ簡便に燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求めることができる。
【0023】
本実施形態に係る燃料油の分析方法は、赤外吸収スペクトルを測定できる環境下であれば簡便に実施することができるため、精密機器の導入が困難な製造現場等における一次スクリーニング手段や品質管理手段として好適である。
【0024】
また、本実施形態に係る燃料油の分析方法は、エチル−tert−ブチルエーテルの含有割合が少ない燃料油を、精度良く分析することに優れる。したがって、分析対象となる燃料油は、エチル−tert−ブチルエーテルの含有割合が15容量%以下であることが好ましく、12容量%以下であることがより好ましく、10容量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
エチル−tert−ブチルエーテルに帰属される吸収帯としては、1180〜1225cm−1の領域において最大の吸光度を与える吸収帯(以下、「第1吸収帯」と称する。)、1140〜1100cm−1の領域において最大の吸光度を与える吸収帯(以下、「第2吸収帯」と称する。)、1100〜1055cm−1の領域において最大の吸光度を与える吸収帯(以下、「第3吸収帯」)が挙げられる。
【0026】
これらの吸収帯のうち、いずれの吸収帯のピーク強度に基づいて分析を行ってもよいが、燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を高精度に測定できることから、第1吸収帯のピーク強度に基づいて分析を行うことがより好ましい。第2吸収帯又は第3吸収帯のピーク強度に基づいて分析を行うと、燃料油中の芳香族炭化水素の含有割合が多い場合において、芳香族炭化水素由来の吸収スペクトルの影響を受け、精度よく燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を測定できない場合がある。
【0027】
本実施形態に係る燃料油の製造方法では、例えば、予め得られているピーク強度とエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合との相関に基づいて、上記燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求めることができる。
【0028】
上記相関の具体例としては、検量線が挙げられる。検量線は、例えば、エチル−tert−ブチルエーテルの含有割合が異なる複数のサンプルについて、それぞれの赤外吸収スペクトルにおけるエチル−tert−ブチルエーテルに帰属される吸収帯のピーク強度を測定して、エチル−tert−ブチルエーテルの含有割合に対するピーク強度をプロットすることにより作成することができる。
【0029】
このように作成された検量線によれば、分析対象である燃料油について求められたピーク強度を、当該検量線に当てはめることにより、迅速かつ簡便にエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求めることができる。また、複数の燃料油について、同一の検量線を用いて、迅速かつ簡便に分析を行うことができる。
【0030】
「吸収帯のピーク強度」としては、当該吸収帯における吸光度に関連して赤外吸収スペクトルから算出され得る値を適宜選択することができ、例えば、下記式(1)で表される値とすることができる。
I=a−a (1)
[式中、Iは吸収帯のピーク強度を示し、aは吸収帯における最大の吸光度を示し、aは吸収帯における最大の吸光度を与えるピーク位置において、吸収帯の両側の谷の極小点である2点を結んでなる基準線が与える吸光度を示す。]
【0031】
このようなピーク強度に基づき燃料油を分析することにより、より高精度に、再現性良く燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を測定することができる。
【0032】
図1は、燃料油の赤外線スペクトルが示されたチャートを示す図である。図1に示される赤外吸収スペクトル1において、第1吸収帯10、第2吸収帯20及び第3吸収帯30が、エチル−tert−ブチルエーテルに帰属される吸収帯である。
【0033】
ここで、第1吸収帯10を例にとり説明すると、第1吸収帯10は、ピークトップ11で最大の吸光度aを示す。また、第1吸収帯10の両側には、谷13及び谷15があり、谷13は、極小点14を有し、谷15は、極小点16を有する。また、極小点14及び極小点16を結んでなる基準線17は、第1吸収帯10のピークトップ11のピーク位置と同位置ある点12において、吸光度aを与える。そして、第1吸収帯10のピーク強度Iは、吸光度aから吸光度aを減じた値として算出される。
【0034】
このようにして算出されたピーク強度は、例えば、上述のように予め得られている相関に基づき解析され、エチル−tert−ブチルエーテルの含有割合が求められる。
【0035】
また、上記のピーク強度は、以下のように説明することもできる。
【0036】
すなわち、燃料油の赤外吸収スペクトルが示されたチャートの横軸Xを吸収波長、縦軸Yを吸光度とし、吸収帯における吸光度の最大値を与える点をA(X,Y)とし、吸収帯の両端の谷の極小点をそれぞれA(X,Y)及びA(X,Y)とするとき、ピーク強度は、AとAとを結ぶ基準線Y=[(Y−Y)/(X−X)]X+[(X−X)/(X−X)]と直線X=Xとの交点からAまでの距離{Y−[(X−X)Y−(X−X)Y]/(X−X)}である。
【0037】
ここで、図1を参照して、第1吸収帯10を例にとり説明すると、第1吸収帯10における吸光度の最大値を与える点11が、点Aである。また、第1吸収帯10の両側にある谷13及び15の極小点14及び16が、それぞれ点A及びAである。そして、点Aと点Aとを結ぶ基準線17と直線X=Xとの交点が、点12である。吸光度Iは、点12から点11までの距離として表すことができる。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の特徴の一つは、燃料油において、赤外吸収スペクトルのピーク強度に基づいて分析するとエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を迅速に求めることができることを見出した点にある。したがって、例えば、上記実施形態では、燃料油の分析方法として説明したが、本発明は燃料油に含まれるエチル−tert−ブチルエーテルの定量方法であってもよい。
【0039】
また、本実施形態に係る分析方法は、エチル−tert−ブチルエーテルを含む燃料油のみならず、エチル−tert−ブチルエーテルを含有しない燃料油に対しても適用可能であることはいうまでもない。この場合、本実施形態に係る分析方法を行うことによって、燃料油がエチル−tert−ブチルエーテルを含有しないことを確認することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
[1−1:検量線の作成]
エチル−tert−ブチルエーテルを含有しない燃料油(燃料油としては、市販のレギュラーガソリンを用いた。)とエチル−tert−ブチルエーテルとを用いて、エチル−tert−ブチルエーテルの含有割合がそれぞれ0容量%、1.9容量%、4.8容量%、9.6容量%である4つの測定サンプルを調製した。
【0042】
各測定サンプルについて、FT−IR装置として、「Mattson ATI Genesis II FTIR」(Mattson社製)を使用し、下記の測定条件でIR測定を行うとともに、ピーク強度Iを求めた。なお、各測定サンプルにおいて測定された赤外吸収スペクトルは図2に示すとおりであった。
【0043】
(測定条件)
積算回数 : 32回
分解能 : 4cm−1
セル : 光路長0.1mm KBr固定セル
(測定手順)
1.装置内部を窒素ガスで置換し、バックグラウンドを測定した(セル不使用)。
2.試料用の固定セルに、測定サンプルを注入し、測定を行った。
3.横軸に波数、縦軸に吸光度をとり、波数1500cm−1〜900cm−1の領域が含まれるように、赤外吸収スペクトルを表示した。
4.赤外吸収スペクトル上のエチル−tert−ブチルエーテルに帰属される吸収帯のうち、1180〜1225cm−1の領域において最大の吸光度aを与える吸収帯(第1吸収帯)について、当該吸収帯の両側の谷の極小点である2点を結び、基準線を作成した。
5.第1吸収帯の最大の吸光度を与える点から降ろした垂線と基準線との交点における吸光度aを求めた。
6.下記式(1)により、第1吸収帯におけるピーク強度Iを算出した。なお、ピーク強度Iは、JIS Z 8401の規定によって小数点以下第3位までの数値とした。
=a−a (1)
【0044】
各測定サンプルについて得られたピーク強度Iと、各測定サンプルにおけるエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合とから、検量線を作成した。作成した検量線を図3に示す。
【0045】
[1−2:燃料油の測定]
燃料油サンプル1〜5について、上記測定条件にて上記測定手順と同様にして、ピーク強度Iを算出し、得られたピーク強度Iと検量線からエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求めた。得られたピーク強度Iと含有割合は、下記表1に示すとおりであった。
【0046】
なお、燃料油サンプルは市販のハイオクガソリン又はレギュラーガソリンにエチル−tert−ブチルエーテル(純度:95.54%、密度:0.74g/cm)を添加して調整した。燃料油サンプル1は、石油会社Aの市販ハイオクガソリン(1.1516g)にエチル−tert−ブチルエーテル(0.1233g)を添加して調整したサンプル(エチル−tert−ブチルエーテル濃度:9.34容量%)であり、燃料油サンプル2は、石油会社Bの市販ハイオクガソリン(0.8756g)にエチル−tert−ブチルエーテル(0.0706g)を添加して調整したサンプル(エチル−tert−ブチルエーテル濃度:7.28容量%)であり、燃料油サンプル3は、石油会社Cの市販レギュラーガソリン(1.0707g)にエチル−tert−ブチルエーテル(0.0528g)を添加して調整したサンプル(エチル−tert−ブチルエーテル濃度:4.44容量%)であり、燃料油サンプル4は、石油会社Bの市販レギュラーガソリン(1.0898g)にエチル−tert−ブチルエーテル(0.0182g)を添加して調整したサンプル(エチル−tert−ブチルエーテル濃度:1.56容量%)であり、燃料油サンプル5は、石油会社Dの市販ハイオクガソリン(1.2199g)にエチル−tert−ブチルエーテル(0.0088g)を添加して調整したサンプル(エチル−tert−ブチルエーテル濃度:0.71容量%)である。
【0047】
(実施例2)
[2−1:検量線の作成]
実施例1の測定手順1〜3と同様にして、実施例1と同様の測定サンプルについて各々赤外吸収スペクトルを測定した。
【0048】
次いで、赤外吸収スペクトル上のエチル−tert−ブチルエーテルに帰属される吸収帯のうち、1140〜1100cm−1の領域において最大の吸光度を与える吸収帯(第2吸収帯)について、実施例1の測定手順4〜6と同様にしてそのピーク強度Iを求めた。
【0049】
各測定サンプルについて得られたピーク強度Iと、各測定サンプルにおけるエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合とから、検量線を作成した。作成した検量線を図4に示す。
【0050】
[2−2:燃料油の測定]
実施例1と同様の燃料油サンプル1〜5について、上記と同様にして、ピーク強度Iを算出し、得られたピーク強度Iと検量線からエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求めた。得られたピーク強度Iと含有割合は、下記表1に示すとおりであった。
【0051】
(実施例3)
[3−1:検量線の作成]
実施例1の測定手順1〜3と同様にして、実施例1と同様の測定サンプルについて各々赤外吸収スペクトルを測定した。
【0052】
次いで、赤外吸収スペクトル上のエチル−tert−ブチルエーテルに帰属される吸収帯のうち、1100〜1055cm−1の領域において最大の吸光度を与える吸収帯(第3吸収帯)について、実施例1の測定手順4〜6と同様にしてそのピーク強度Iを求めた。
【0053】
各測定サンプルについて得られたピーク強度Iと、各測定サンプルにおけるエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合とから、検量線を作成した。作成した検量線を図5に示す。
【0054】
[3−2:燃料油の測定]
実施例1と同様の燃料油サンプル1〜5について、上記と同様にして、ピーク強度Iを算出し、得られたピーク強度Iと検量線からエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求めた。得られたピーク強度Iと含有割合は、下記表1に示すとおりであった。
【0055】
(参考例1)
【0056】
実施例1と同様の燃料油サンプル1〜5について、JIS K2536−2に基づいてエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求めたところ、得られた含有割合は、下記表1に示すとおりであった。
【0057】
【表1】

【0058】
表1中、ETBE含有割合とは、エチル−tert−ブチルエーテルの含有割合(容量%)を示す。
【0059】
実施例1〜3と参考例1とを比較すると、実施例1〜3の方法で得られた含有割合の値は、操作が煩雑であり分析に長時間を要する参考例1の方法で得られた含有割合の値と良い一致を示した。以上のことから、本実施形態に係る燃料油の分析方法によって、従来の操作が煩雑であり分析に長時間を要する分析方法で得られる結果と、良い一致を示す分析結果を、迅速に得ることができることが確認された。
【0060】
(実施例4)
市販のバイオガソリンを測定サンプルとして、実施例1と同様の測定条件及び測定手順で、ピーク強度Iを算出した。そして、得られたピーク強度Iと、実施例1で得られた検量線から、エチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求めた。このとき、得られたピーク強度Iは0.137であり、得られたエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合は1.54容量%であった。
【0061】
(参考例2)
実施例4と同様の測定サンプルについて、JIS K2536−2に基づいてエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求めたところ、得られた含有割合は2.07容量%であった。
【0062】
実施例4と参考例2とを比較すると、実施例4の方法で得られた含有割合の値は、操作が煩雑であり分析に長時間を要する参考例1の方法で得られた含有割合の値と良い一致を示した。以上のことから、バイオガソリンを測定対象とした場合にも、本実施形態に係る燃料油の分析方法によって、従来の操作が煩雑であり分析に長時間を要する分析方法で得られる結果と良い一致を示す分析結果を、迅速に得ることができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料油の赤外吸収スペクトルにおける、エチル−tert−ブチルエーテルに帰属される吸収帯のピーク強度に基づき、前記燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求める工程を有する、燃料油の分析方法。
【請求項2】
前記赤外吸収スペクトルが示されたチャートの横軸Xを吸収波長、縦軸Yを吸光度とし、前記吸収帯における吸光度の最大値を与える点をA(X,Y)とし、前記吸収帯の両端の谷の極小点をそれぞれA(X,Y)及びA(X,Y)とするとき、前記ピーク強度は、前記Aと前記Aとを結ぶ基準線Y=[(Y−Y)/(X−X)]X+[(X−X)/(X−X)]と直線X=Xとの交点から前記Aまでの距離{Y−[(X−X)Y−(X−X)Y]/(X−X)}である、請求項1に記載の燃料油の分析方法。
【請求項3】
前記吸収帯における吸光度の最大値を与える点が、1180〜1225cm−1の領域にある、請求項1又は2に記載の燃料油の分析方法。
【請求項4】
前記工程は、予め得られている前記ピーク強度とエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合との相関に基づいて、前記燃料油中のエチル−tert−ブチルエーテルの含有割合を求める工程である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料油の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−8038(P2012−8038A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144999(P2010−144999)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】