説明

燃料組成物

【課題】フィッシャー・トロプシュ合成油の優れた排ガス性能を維持したまま、燃費の低下抑制が可能な燃料組成物を提供する。
【解決手段】フィッシャー・トロプシュ合成油に対し、以下に示す(1)〜(5)の性状を有する石油系炭化水素混合物Aを組成物全量基準で10〜30容量%含有し、引火点が45℃以上であることを特徴とする燃料組成物。
(1)15℃密度:800Kg/m以上900Kg/m以下
(2)10容量%留出温度(T10):150℃以上200℃以下
(3)97容量%留出温度(T97):270℃以下
(4)芳香族分:40容量%以上70容量%以下
(5)硫黄分:30質量ppm以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮着火エンジンに用いられる燃料組成物に関するものであり、より詳しくは優れた燃費性能と環境対応性能を同時に有する燃料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィッシャー・トロプシュ反応より得られる合成油は、セタン価が高く、また、硫黄分及び芳香族分を殆ど含まないため、圧縮着火エンジン用クリーン燃料としての用途への期待が高まっている。しかしながらフィッシャー・トロプシュ反応より得られる合成油はパラフィン分リッチであり、単位体積あたりの低位発熱量が従来の石油系ディーゼル燃料に比べ小さく、燃費が低下する懸念があったが、排ガスを悪化させずに燃費の低下を抑える方法はこれまで知られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記問題を解決するものであり、特定の性状を有する石油系炭化水素混合物燃料組成物を配合することにより、排ガスを悪化させずに燃費の低下を抑えることができる燃料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、フィッシャー・トロプシュ反応より得られる合成油に、特定の組成を有する石油系炭化水素混合物を配合することにより排ガスを悪化させずに燃費の低下を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0005】
すなわち、本発明は、フィッシャー・トロプシュ合成油に対し、以下に示す(1)〜(5)の性状を有する石油系炭化水素混合物Aを組成物全量基準で10〜30容量%含有し、引火点が45℃以上であることを特徴とする燃料組成物に関する。
(1)15℃密度:800Kg/m以上900Kg/m以下
(2)10容量%留出温度(T10):150℃以上200℃以下
(3)97容量%留出温度(T97):270℃以下
(4)芳香族分:40容量%以上70容量%以下
(5)硫黄分:30質量ppm以下
【0006】
また、本発明は、石油系炭化水素混合物Aが、接触分解装置より得られる留分であることを特徴とする前記記載の燃料組成物に関する。
【0007】
また、本発明は、前記記載の石油系炭化水素混合物Aが、接触分解装置より得られる留分を反応温度250℃以上310℃以下、水素圧力5MPa以上10MPa以下、LHSV0.5h−1以上3.0h−1以下、水素/炭化水素容量比が0.15以上0.6以下の条件で、Ni−W、Ni−Mo、Co−Mo、Co−W、またはNi−Co−Moのいずれかを含有する触媒により水素化脱硫処理して得られる留分であることを特徴とする前記記載の燃料組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の燃料組成物は、フィッシャー・トロプシュ合成油に特定の性状を有する石油系炭化水素を配合することにより、フィッシャー・トロプシュ合成油の優れた排ガス性能を維持したまま、フィッシャー・トロプシュ合成油の特徴である単位体積あたりの低位発熱量が従来の石油系ディーゼル燃料に比べ小さく、燃費が低下する懸念を改善することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。
本発明の燃料組成物は、フィッシャー・トロプシュ合成油(FT合成油)に、特定の性状を有する石油系炭化水素混合物から構成される。
【0010】
ここで、FT合成油とは、水素及び一酸化炭素を主成分とする混合ガス(合成ガスと称する場合もある)に対してフィッシャートロプシュ(FT)反応を適用させて得られるナフサ、灯油、軽油相当の液体留分、およびこれらを水素化精製、水素化分解することによって得られる炭化水素混合物、およびFT反応により液体留分およびFTワックスを生成し、これを水素化精製、水素化分解することにより得られる炭化水素混合物からなる合成油を示す。
【0011】
FT合成油の原料となる混合ガスは、炭素を含有する物質を、酸素および/または水および/または二酸化炭素を酸化剤に用いて酸化し、更に必要に応じて水を用いたシフト反応により所定の水素および一酸化炭素濃度に調整して得られる。
炭素を含有する物質としては、天然ガス、石油液化ガス、メタンガス等の常温で気体となっている炭化水素からなるガス成分や、石油アスファルト、バイオマス、石炭、建材やゴミ等の廃棄物、汚泥、及び通常の方法では処理しがたい重質な原油、非在来型石油資源等を高温に晒すことで得られる混合ガスが一般的であるが、水素及び一酸化炭素を主成分とする混合ガスが得られる限りにおいては、本発明はその原料を限定するものではない。
【0012】
フィッシャートロプシュ反応には金属触媒が必要である。好ましくは周期律表第8族の金属、例えば、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ニッケル、鉄等、更に好ましくは第8族第4周期の金属を活性触媒成分として利用する方法である。また、これらの金属を適量混合した金属群を用いることもできる。これらの活性金属はシリカやアルミナ、チタニア、シリカアルミナなどの担体上に担持して得られる触媒の形態で使用することが一般的である。また、これら触媒に上記活性金属に加えて第2金属を組合せて使用することにより、触媒性能を向上させることもできる。第2金属としては、ナトリウム、リチウム、マグネシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の他に、ジルコニウム、ハフニウム、チタニウムなどが挙げられ、一酸化炭素の転化率向上やワックス生成量の指標となる連鎖成長確率(α)の増加など、目的に応じて適宜使用されている。
【0013】
フィッシャートロプシュ反応は、混合ガスを原料として、液体留分およびFTワックスを生成する合成法である。この合成法を効率的に行うために、一般には混合ガス中の水素と一酸化炭素の比を制御することが好ましい。一酸化炭素に対する水素のモル混合比(水素/一酸化炭素)は1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.8以上であることが更により好ましい。また、この比率は3以下であることが好ましく、2.6以下であることがより好ましく、2.2以下であることが更により好ましい。
【0014】
上記触媒を用いてフィッシャートロプシュ反応を行う場合の反応温度は、180℃以上320℃以下であることが好ましく、200℃以上300℃以下であることがより好ましい。反応温度が180℃未満では一酸化炭素がほとんど反応せず、炭化水素収率が低い傾向にある。また、反応温度が320℃を超えると、メタンなどのガス生成量が増加し、液体留分およびFTワックスの生成効率が低下してしまう。
【0015】
触媒に対するガス空間速度に特に制限は無いが、500h−1以上4000h−1以下が好ましく、1000h−1以上3000h−1以下がより好ましい。ガス空間速度が500h−1未満では液体燃料の生産性が低下する傾向にあり、また4000h−1を超えると反応温度を高くせざるを得なくなると共にガス生成が大きくなり、目的物の収率が低下してしまう。
【0016】
反応圧力(一酸化炭素と水素からなる合成ガスの分圧)は特に制限が無いが、0.5MPa以上7MPa以下が好ましく、2MPa以上4MPa以下がより好ましい。反応圧力が0.5MPa未満では液体燃料の収率が低下する傾向にあり、また7MPaを超えると設備投資額が大きくなる傾向にあり、非経済的になる。
【0017】
FT合成基材は、上記FT反応により生成された液体留分およびFTワックスを、必要に応じて任意の方法で水素化精製または水素化分解し、目的にあった蒸留性状、組成等に調整することも可能である。水素化精製及び水素化分解は目的に即して選択すればよく、どちらか一方のみまたは両方法の組み合わせ等の選択も本発明の燃料組成物を製造しうる範囲において何ら限定されるものではない。
【0018】
水素化精製に用いる触媒は水素化活性金属を多孔質担体に担持したものが一般的であるが、同様の効果が得られる触媒であれば本発明はその形態を何ら限定するものではない。
多孔質担体としては無機酸化物が好ましく用いられる。具体的には、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、ゼオライトなどが挙げられる。
ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであり、フォージャサイト、ペンタシル、モルデナイトなどが挙げられ、好ましくはフォージャサイト、ベータ、モルデナイト、特に好ましくはY型、ベータ型が用いられる。なかでも、Y型は超安定化したものが好ましい。
【0019】
活性金属としては以下に示す2つの種類(活性金属Aタイプおよび活性金属Bタイプ)が好ましく用いられる。
活性金属Aタイプは周期律表第8族金属から選ばれる少なくとも1種類の金属である。好ましくはRu、Rh、Ir、PdおよびPtから選ばれる少なくとも1種類であり、さらに好ましくはPdまたは/およびPtである。活性金属としてはこれらの金属を組み合わせたものでよく、例えば、Pt−Pd、Pt−Rh、Pt−Ru、Ir−Pd、Ir−Rh、Ir−Ru、Pt−Pd−Rh、Pt−Rh−Ru、Ir−Pd−Rh、Ir−Rh−Ruなどがある。これらの金属からなる貴金属系触媒を使う際には、水素気流下において予備還元処理を施した後に用いることができる。一般的には水素を含むガスを流通し、200℃以上の熱を所定の手順に従って与えることにより触媒上の活性金属が還元され、水素化活性を発現することになる。
また活性金属Bタイプとして、周期律表第6A族および第8族金属から選ばれる少なくとも一種類の金属を含有し、望ましくは第6A族および第8族から選択される二種類以上の金属を含有しているものも使用することができる。例えばCo−Mo、Ni−Mo、Ni−Co−Mo、Ni−Wが挙げられ、これらの金属からなる金属硫化物触媒を使う際には予備硫化工程を含む必要がある。
【0020】
金属源としては一般的な無機塩、錯塩化合物を用いることができ、担持方法としては含浸法、イオン交換法など通常の水素化触媒で用いられる担持方法のいずれの方法も用いることができる。また、複数の金属を担持する場合には混合溶液を用いて同時に担持してもよく、または単独溶液を用いて逐次担持してもよい。金属溶液は水溶液でもよく有機溶剤を用いてもよい。
【0021】
活性金属Aタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の反応温度は、180℃以上400℃以下であることが好ましく、200℃以上370℃以下であることがより好ましく、250℃以上350℃以下であることが更に好ましく、280℃以上350℃以下が更により好ましい。水素化精製における反応温度が370℃を超えると、ナフサ留分へ分解する副反応が増えて中間留分の収率が極度に減少するため好ましくない。また、反応温度が270℃を下回ると、アルコール分が除去しきれずに残存するため好ましくない。
活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の反応温度は、170℃以上320℃以下であることが好ましく、175℃以上300℃以下であることがより好ましく、180℃以上280℃以下であることが更に好ましい。水素化精製における反応温度が320℃を超えると、ナフサ留分へ分解する副反応が増えて中間留分の収率が極度に減少するため好ましくない。また、反応温度が170℃を下回ると、アルコール分が除去しきれずに残存するため好ましくない。
【0022】
活性金属Aタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の水素圧力は、0.5MPa以上12MPa以下であることが好ましく、1.0MPa以上5.0MPa以下であることがより好ましい。水素圧力は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の水素圧力は、2MPa以上10MPa以下であることが好ましく、2.5MPa以上8MPa以下であることがより好ましく、3MPa以上7MPa以下であることが更に好ましい。水素圧力は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
【0023】
活性金属Aタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の液空間速度(LHSV)は、0.1h−1以上10.0h−1以下であることが好ましく、0.3h−1以上3.5h−1以下であることがより好ましい。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので経済的に好ましくない。
活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の液空間速度(LHSV)は、0.1h−1以上2h−1以下であることが好ましく、0.2h−1以上1.5h−1以下であることがより好ましく、0.3h−1以上1.2h−1以下であることが更に好ましい。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので経済的に好ましくない。
【0024】
活性金属Aタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の水素/油比は、50NL/L以上1000NL/L以下であることが好ましく、70NL/L以上800NL/L以下であることがより好ましい。水素/油比は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化精製を行う場合の水素/油比は、100NL/L以上800NL/L以下であることが好ましく、120NL/L以上600NL/L以下であることがより好ましく、150NL/L以上500NL/L以下であることが更に好ましい。水素/油比は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
【0025】
水素化分解に用いる触媒は水素化活性金属を固体酸性質を有する担体に担持したものが一般的であるが、同様の効果が得られる触媒であれば本発明はその形態を何ら限定するものではない。
固体酸性質を有する担体にはアモルファス系と結晶系のゼオライトがある。具体的にはアモルファス系のシリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニアとゼオライトのフォージャサイト型、ベータ型、MFI型、モルデナイト型などがある。好ましくはフォージャサイト型、ベータ型、MFI型、モルデナイト型のゼオライト、より好ましくはY型、ベータ型である。Y型は超安定化したものが好ましい。
【0026】
活性金属としては以下に示す2つの種類(活性金属Aタイプおよび活性金属Bタイプ)が好ましく用いられる。
活性金属Aタイプとしては主に周期律表第6A族および第8族金属から選ばれる少なくとも1種類の金属である。好ましくはNi、Co、Mo、Pt、PdおよびWから選ばれる少なくとも1種類の金属である。これらの金属からなる貴金属系触媒を使う際には、水素気流下において予備還元処理を施した後に用いることができる。一般的には水素を含むガスを流通し、200℃以上の熱を所定の手順に従って与えることにより触媒上の活性金属が還元され、水素化活性を発現することになる。
また活性金属Bタイプとしてはこれらの金属を組み合わせたものでよく、例えば、Pt−Pd、Co−Mo、Ni−Mo、Ni−W、Ni−Co−Moなどが挙げられる。また、これらの金属からなる触媒を使う際には、予備硫化したのち使用するのが好ましい。
【0027】
金属源としては一般的な無機塩、錯塩化合物を用いることができ、担持方法としては含浸法、イオン交換法など通常の水素化触媒で用いられる担持方法のいずれの方法も用いることができる。また、複数の金属を担持する場合には混合溶液を用いて同時に担持してもよく、または単独溶液を用いて逐次担持してもよい。金属溶液は水溶液でもよく有機溶剤を用いてもよい。
【0028】
活性金属Aタイプおよび活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の反応温度は、200℃以上450℃以下であることが好ましく、250℃以上430℃以下であることがより好ましく、300℃以上400℃以下であることが更に好ましい。水素化分解における反応温度が450℃を超えると、ナフサ留分へ分解する副反応が増えて中間留分の収率が極度に減少するため好ましくない。一方、200℃未満の場合は触媒の活性が著しく低下するので好ましくない。
【0029】
活性金属Aタイプおよび活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の水素圧力は、1MPa以上20MPa以下であることが好ましく、4MPa以上16MPa以下であることがより好ましく、6MPa以上13MPa以下であることが更に好ましい。水素圧力は高いほど水素化反応が促進されるが、分解反応はむしろ進行が鈍化し反応温度の上昇で進行を調整する必要が生じるため、転じて触媒寿命の低下に繋がってしまう。そのため、一般に反応温度には経済的な最適点が存在する。
【0030】
活性金属Aタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の液空間速度(LHSV)は、0.1h−1以上10h−1以下であることが好ましく、0.3h−1以上3.5h―1以下であることがより好ましい。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので経済的に好ましくない。
上記活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の液空間速度(LHSV)は、0.1h−1以上2h−1以下であることが好ましく、0.2h−1以上1.7h―1以下であることがより好ましく、0.3h−1以上1.5h−1以下であることが更に好ましい。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので経済的に好ましくない。
【0031】
活性金属Aタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の水素/油比は、50NL/L以上1000NL/L以下であることが好ましく、70NL/L以上800NL/L以下であることがより好ましく、400NL/L以上1500NL/L以下であることが更に好ましい。水素/油比は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の水素/油比は、150NL/L以上2000NL/L以下であることが好ましく、300NL/L以上1700NL/L以下であることがより好ましく、400NL/L以上1500NL/L以下であることが更に好ましい。水素/油比は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
【0032】
水素化処理する装置はいかなる構成でもよく、反応塔は単独または複数を組み合わせてもよく、複数の反応塔の間に水素を追加注入してもよく、気液分離操作や硫化水素除去設備、水素化生成物を分留し、所望の留分を得るための蒸留塔を有していてもよい。
水素化処理装置の反応形式は、固定床方式をとりうる。水素は原料油に対して、向流または並流のいずれの形式をとることもでき、また、複数の反応塔を有し向流、並流を組み合わせた形式のものでもよい。一般的な形式としてはダウンフローであり、気液双並流形式がある。反応塔の中段には反応熱の除去、あるいは水素分圧を上げる目的で水素ガスをクエンチとして注入してもよい。
【0033】
本発明の燃料組成物は、上記したフィッシャー・トロプシュ合成油に対し、以下に示す(1)〜(5)の性状を有する石油系炭化水素混合物Aを組成物全量基準で10〜30容量%含有し、引火点が45℃以上を有するものである。
(1)15℃密度:800Kg/m以上900Kg/m以下
(2)10容量%留出温度(T10):150℃以上200℃以下
(3)97容量%留出温度(T97):270℃以下
(4)芳香族分:40容量%以上70容量%以下
(5)硫黄分:30質量ppm以下
ここでいう密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。また、10容量%留出温度、97容量%留出温度とは、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法−常圧法」により測定される値を意味する。芳香族含有量は、JIS K2536「石油製品−炭化水素タイプ試験方法」の蛍光指示薬吸着法により測定される値である。
【0034】
石油系炭化水素混合物Aの含有量は、燃料組成物全量基準で10容量%以上であることが必要であり、12容量%以上が好ましく、15容量%以上がより好ましい。石油系炭化水素混合物Aの含有量が10容量%未満では、燃費向上効果が十分発揮されない懸念があり好ましくない。また、石油系炭化水素混合物Aの含有量は、燃料組成物全量基準で30容量%以下であることが必要であり、28容量%以下が好ましく25容量%以下がより好ましい。石油系炭化水素混合物Aの含有量が30容量%を超えると、排ガスが悪化する懸念があり好ましくない。
【0035】
本発明の燃料組成物における石油系炭化水素混合物Aとしては、接触分解装置より得られる留分であることが好ましい。
なお、ここでいう接触分解装置は、軽油以上の高沸点留分を固体触媒の存在下で接触分解して高オクタン価のガソリン基材を得るための装置であり、反応触媒としては、通常、無定形シリカアルミナ触媒やゼオライト触媒が用いられる。接触分解装置は基本的には反応塔と触媒再生塔とから構成されており、反応条件は通常、反応塔温度470〜550℃、再生塔温度650〜750℃、反応塔圧力0.08〜0.15MP、再生塔圧力0.09〜0.2MP程度である。主な接触分解プロセスとしては、エアリフトサーモフォア法、フードリフロー法、UOP法、シェル二段式法、フレキシクラッキング法、オルソフロー法、テキサコ法、ガルフ法、ウルトラキャットクラッキング法、アルコクラッキング法、HOC法、RCC法などがある。しかしながら本発明においては、接触分解装置のプロセスおよび運転条件を特に限定するものではなく、公知の任意の接触分解装置が使用可能である。
【0036】
また、本発明の燃料組成物における石油系炭化水素混合物Aとしては、接触分解装置より得られる留分を水素化脱硫処理して得られる留分であることが好ましい。
接触分解装置より得られる留分の水素化脱硫処理は、反応温度250℃以上310℃以下、水素圧力5MPa以上10MPa以下、LHSV0.5h−1以上3.0h−1以下、水素/炭化水素容量比が0.15以上0.6以下の条件で、Ni−W、Ni−Mo、Co−Mo、Co−W、またはNi−Co−Moのいずれかを含有する触媒により行うことができる。
【0037】
本発明の燃料組成物の硫黄含有量は、エンジンから排出される有害排気成分低減と排ガス後処理装置の性能向上の点から10質量ppmであることが好ましい。ここでいう硫黄含有量は、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」により測定される値である。
【0038】
本発明の燃料組成物の30℃における動粘度は、1.6mm/s以上であることが好ましく、1.65mm/s以上であることがより好ましい。当該動粘度が1.6mm/sに満たない場合は、燃料噴射ポンプ側の燃料噴射時期制御が困難となる傾向にあり、またエンジンに搭載された燃料噴射ポンプの各部における潤滑性が損なわれるおそれがある。一方、30℃における動粘度の上限は5.0mm/s以下であることが好ましく、4mm/s以下であることがより好ましい。当該動粘度が5.0mm/sを超えると、燃料噴射システム内部の抵抗が増加して噴射系が不安定化し、排出ガス中のNOx、PMの濃度が高くなってしまい好ましくない。なお、ここでいう動粘度とは、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定される動粘度を意味する。
【0039】
本発明の燃料組成物の反応試験の結果は、中性を示すことが好ましい。反応試験の結果が中性でない場合は、燃料による金属部材への腐食影響が顕在化する可能性が高まるため好ましくない。なお、本発明でいう反応試験の結果は、JIS K 2252「石油製品−反応試験方法」で測定される値を示す。
【0040】
本発明の燃料組成物の銅板腐食は、1以下であることが好ましく、1aを示すことがより好ましい。銅板腐食が1以下でない場合は、燃料による金属部材への腐食影響が顕在化する可能性が高まってしまい、安定性、長期保管に問題が生じる懸念がある。なお、本発明でいう銅板腐食は、JIS K 2513「石油製品−銅板腐食試験方法」で測定される値を示す。
【0041】
本発明の燃料組成物の引火点は45℃以上であることが好ましい。引火点が45℃に満たない場合には、安全上の観点から好ましくないため、引火点は47℃以上であることが好ましく、49℃以上であることがより好ましい。なお、本発明でいう引火点はJIS K 2265「原油及び石油製品引火点試験方法」で測定される値を示す。
【0042】
本発明の燃料組成物の10%残油の残留炭素分は0.1質量%以下であることが好ましく、スラッジによるフィルター目詰まり防止の点から、0.05質量%以下がより好ましい。なお、ここでいう10%残油の残留炭素分とは、JIS K 2270「原油及び石油製品−残留炭素分試験方法」により測定される値を意味する。
【0043】
本発明の燃料組成物においては、必要に応じて低温流動性向上剤、潤滑性向上剤、その他の添加剤を適量配合することが好ましい。
【0044】
本発明の燃料組成物には、使用される温度環境に応じて低温流動性向上剤を添加することができる。その添加量は活性分濃度で50mg/L以上、1000mg/L以下であることが好ましく、100mg/L以上、800mg/L以下であることがより好ましい。
低温流動性向上剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体に代表されるエチレン−不飽和エステル共重合体、アルケニル琥珀酸アミド、ポリエチレングリコールのジベヘン酸エステルなどの線状の化合物、フタル酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ酢酸などの酸又はその酸無水物などとヒドロカルビル置換アミンの反応生成物からなる極性窒素化合物、アルキルフマレートまたはアルキルイタコネート−不飽和エステル共重合体などからなるくし形ポリマーなどの低温流動性向上剤の1種または2種以上が使用できる。この中でも汎用性の点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体系添加剤を好ましく使用することができる。なお、低温流動性向上剤と称して市販されている商品は、低温流動性に寄与する有効成分(活性分)が適当な溶剤で希釈されていることがあるため、こうした市販品を本発明の軽油組成物に添加する場合にあたっては、上記の添加量は、有効成分としての添加量(活性分濃度)を意味している。
【0045】
本発明の燃料組成物には、燃料噴射ポンプの摩耗防止の理由から、潤滑性向上剤を添加することが好ましい。また、その添加量は、活性分濃度で20mg/L以上、200mg/L以下であることが好ましく、50mg/L以上、180mg/L以下であることがより好ましい。潤滑性向上剤の添加量が前記の範囲内であると、添加された潤滑性向上剤の効能を有効に引き出すことができ、例えば分配型噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンにおいて、運転中のポンプの駆動トルク増を抑制し、ポンプの摩耗を低減させることができる。
潤滑性向上剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、カルボン酸系、エステル系、アルコール系およびフェノール系の各潤滑性向上剤の1種又は2種以上が任意に使用可能である。これらの中でも、カルボン酸系及びエステル系の潤滑性向上剤が好ましい。
カルボン酸系の潤滑性向上剤としては、例えば、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸及びこれらのカルボン酸の2種以上の混合物が例示できる。
エステル系の潤滑性向上剤としては、グリセリンのカルボン酸エステルが挙げられる。カルボン酸エステルを構成するカルボン酸は、1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸等がある。
【0046】
また、本発明における燃料組成物の性能をさらに高める目的で、後述するその他の公知の燃料油添加剤(以下、便宜上「その他の添加剤」という。)を単独で、または数種類組み合わせて添加することもできる。その他の添加剤としては、例えば、炭素数6〜8のアルキルナイトレートで代表される硝酸エステル、有機化酸化物などのセタン価向上剤;イミド系化合物、アルケニルコハク酸イミド、コハク酸エステル、共重合系ポリマー、無灰清浄剤などの清浄剤;フェノール系、アミン系などの酸化防止剤;サリチリデン誘導体などの金属不活性化剤;脂肪族アミン、アルケニルコハク酸エステルなどの腐食防止剤;アニオン系、カチオン系、両性系界面活性剤などの帯電防止剤;アゾ染料などの着色剤;シリコン系などの消泡剤等が挙げられる。
その他の添加剤の添加量は任意に決めることができるが、添加剤個々の添加量は燃料組成物の全量基準でそれぞれ好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
【実施例】
【0047】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0048】
[実施例1、2および比較例1〜3]
表1に記載した、本発明の燃料油組成物における石油系炭化水素混合物A(表中「基材A」と表記)およびフィーッシャー・トロプシュ合成油の軽油留分(表中「GTL軽油」と表記)を用いて実施例1および2の燃料組成物を調製した。
実施例1の燃料組成物は、表1記載の基材A15容量%とGTL軽油85容量%を混合して調製した。
実施例2の燃料組成物は、表1記載の基材A25容量%とGTL軽油75容量%を混合して調製した。
また、GTL軽油を比較例1、市販の2号軽油を比較例2、GTL軽油85容量%と表1に記載した接触分解装置より得たライトサイクル油(表中「LCO」と表記)15容量%を混合して比較例3の燃料組成物を調製した。
実施例および比較例に示した各燃料組成物の性状を表2に示す。
【0049】
なお、燃料油の性状は以下の方法により測定した。
密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を指す。
動粘度は、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定される動粘度を指す。
引火点はJIS K 2265「原油及び石油製品引火点試験方法」で測定される値を示す。
硫黄分含有量は、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量含有量を指す。
蒸留性状は、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」によって測定される値である。
芳香族分含有量は、社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定された芳香族分含有量の容量百分率(容量%)を意味する。
反応は、JIS K 2252「石油製品−反応試験方法」により測定される反応を指す。
銅板腐食は、JIS K 2252「石油製品−銅板腐食試験方法」により測定される腐食の分類を指す。
【0050】
(車両排ガス試験)
下記に示すディーゼルエンジン搭載車両(車両1)を用いて、燃費および排ガスの測定を行った。た。なお、車両試験に係わる試験方法は、旧運輸省監修新型自動車審査関係基準集別添27「ディーゼル自動車10・15モード排出ガス測定の技術基準」に準拠した。燃費は比較例1での単位体積あたりの走行距離を100とし、各結果を相対的に比較、定量化し、また、各排ガス性能値は比較例1での試験結果を100とし、各結果を相対的に比較、定量化した。燃費および排ガスの測定結果を表2にあわせて示す。
【0051】
(車両諸元):車両1
エンジン種類:インタークーラー付過給直列4気筒ディ−ゼル
排気量 :3L
圧縮比 :18.5
最高出力 :125kW/3400rpm
最高トルク:350Nm/2400rpm
規制適合 :平成9年度排ガス規制適合
車両重量 :1900kg
ミッション:4AT
排ガス後処理装置:酸化触媒
【0052】
表2の結果から、本発明の燃料組成物に係る実施例1および2を用いることで、いずれもフィーッシャー・トロプシュ合成油の軽油留分に対し、排ガスを悪化させることなく燃費を向上できることがわかる。これに対して、比較例1〜3の場合は、燃費あるいは排ガス性能が劣り、環境負荷を増大させる可能性を示唆するものである。
【0053】
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィッシャー・トロプシュ合成油に対し、以下に示す(1)〜(5)の性状を有する石油系炭化水素混合物Aを組成物全量基準で10〜30容量%含有し、引火点が45℃以上であることを特徴とする燃料組成物。
(1)15℃密度:800Kg/m以上900Kg/m以下
(2)10容量%留出温度(T10):150℃以上200℃以下
(3)97容量%留出温度(T97):270℃以下
(4)芳香族分:40容量%以上70容量%以下
(5)硫黄分:30質量ppm以下
【請求項2】
石油系炭化水素混合物Aが、接触分解装置より得られる留分であることを特徴とする請求項1記載の燃料組成物。
【請求項3】
石油系炭化水素混合物Aが、接触分解装置より得られる留分を反応温度250℃以上310℃以下、水素圧力5MPa以上10MPa以下、LHSV0.5h−1以上3.0h−1以下、水素/炭化水素容量比が0.15以上0.6以下の条件で、Ni−W、Ni−Mo、Co−Mo、Co−W、またはNi−Co−Moのいずれかを含有する触媒により水素化脱硫処理して得られる留分であることを特徴とする請求項1記載の燃料組成物。

【公開番号】特開2007−270035(P2007−270035A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99603(P2006−99603)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】