説明

燃料配管用継手、燃料配管用クイックコネクター及び燃料配管部品

【課題】燃料の壁面透過量が低く、高温での高剛性・バリア性に優れ、成形可能温度幅が広く、溶融成形性に優れた燃料配管用継手であり、特に自動車用に使用される燃料配管用を提供する。
【解決手段】継手材料が、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂よりなる、燃料透過耐性に優れた燃料配管用継手。好ましくは継手材料がさらに強化材及び/又は導電性フィラーを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低吸水性、耐薬品性、機械的特性に優れ、成形可能温度幅が広く、成形加工性に優れたポリアミド樹脂を用いて製造され、燃料の壁面透過量が少なく、高温でも優れた剛性・バリア性を有する燃料配管用継手に関する。特に自動車用に使用される燃料配管用クイックコネクターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用の燃料配管には金属チューブとゴムチューブが組み合わされて使用されていた。しかし、ゴムチューブは自動車用燃料として使用されているガソリン等に対するバリア性が十分でなく、安全上及び環境上好ましくなく、また取り扱い性が悪かったので、近年では上記ゴムチューブの代わりに樹脂チューブが使用されている。
【0003】
この樹脂チューブはガソリンに対するバリア性が優れており、ゴムチューブと比較して軽量となる。また、樹脂チューブと金属チューブを迅速に接合できるコネクターが米国で開発され、取り扱い性に優れたシステムとして採用が進んでいる。このコネクタはクイックコネクターと呼ばれており、金属またはプラスチックの雄型チューブ端部と着脱自由に係合するプラスチックハウジングの雌型タイプクイックコネクタである(例えば、特許文献1参照。)。雌型ハウジングの向き合った端部は外周面に形成された複数の軸線的に離間したアゴ部を有し、それらを覆って圧入されたナイロン樹脂またはプラスチックチューブでシステムが接合されている。
【0004】
また、米国連邦法は自動車燃料の炭化水素蒸散の減少を指示しており、燃料チューブと接合部を含めた高い透過防止性能が求められている。
【0005】
元来、樹脂製チューブの中でもナイロン11樹脂またはナイロン12樹脂製チューブが優れた機械特性と耐薬品性を有することから使用されてきたが、炭化水素透過防止性能を満足しない。したがって、燃料バリア性の良好な樹脂、例えばEVOH、PBT、フッソ樹脂をバリア層として配置した多層チューブの適用が提案されてきた(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
このような高いバリア性能を有するチューブを使用することにより、配管からの透過は将来の炭化水素蒸散上限値を大幅に下回ることが可能になる。しかし、クイックコネクターにはナイロン12やナイロン66樹脂が広く使用されており、その材料自体の透過防止性能では、クイックコネクターの肉厚の増大や配置数低減等による蒸散量の抑制が将来の厳しい規制対応に必要とされる可能性がある。また、地球温暖化により、実質的な気温の上昇により、燃料透過量が増大する傾向もある。
【0007】
このような炭化水素透過防止ニーズに対応するため、O−リングの配置や、スピン溶着などによるシール性の改良が提案されている(例えば、特許文献3、特許文献4参照。)。しかし、クイックコネクタ筒状母材からの透過により、将来の設計に制約を来す可能性がある。
【0008】
そこで、本件出願人は、燃料の壁面透過量を低減することができ、高温でも優れた剛性・バリア性を有する燃料配管用継手を提供すべく、ジカルボン酸成分の60〜100モル%がテレフタル酸であるジカルボン酸成分と、ジアミン成分の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから選ばれるジアミン成分とからなるポリアミド(PA9TA)よりなる燃料配管用継手を開示した(特許文献5)。
【0009】
このポリアミド(PA9TA)を用いた燃料配管用継手は、燃料の壁面透過量が低く、高温でも剛性・バリア性が優れているが、吸水による物性変化、酸、高温のアルコール、熱水中での劣化などの問題点があり、成形可能温度幅が狭く溶融成形性に劣るので、これらの特性に優れた燃料配管用継手が求められており、また燃料の壁面透過量もより低く、高温での剛性・バリア性もより優れたものが求められている。
【0010】
【特許文献1】特開平11−294676号公報
【特許文献2】特表平7−507739号公報
【特許文献3】特開2000−310381公報
【特許文献4】特開2001−263570公報
【特許文献5】特開2004−150500公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記課題を解決すること、即ち、燃料の壁面透過量が低く、高温での剛性・バリア性に優れ、しかも低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性、機械的特性に優れ、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅がより広く、溶融成形性により優れた燃料配管用継手、特に自動車用に使用される燃料配管用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、継手材料が、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミン成分とからなるポリアミド樹脂(PA92C)よりなることを特徴とする燃料配管用継手を提供する。
【0013】
本発明は、同様に、継手材料が、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミン成分とからなるポリアミド樹脂(PA92C)50〜99重量部と、他のポリアミド樹脂および/または他の熱可塑性樹脂1〜50重量部からなるポリアミド樹脂組成物よりなることを特徴とする燃料配管用継手を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料配管用継手は、燃料の壁面透過量が低く、高温での剛性・バリア性に優れ、しかも低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性、機械的特性に優れ、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅がより広く、溶融成形性により優れることができる。特に自動車用に使用される燃料配管用クイックコネクターに好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明において継手材料に使用されるポリアミド樹脂は、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂(PA92C)である。
【0016】
(1)ポリアミド樹脂(PA92C)の構成成分
本発明に用いられるポリアミドは、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂である。
【0017】
本発明に用いるポリアミドの製造に用いられる蓚酸源としては、蓚酸ジエステルが用いられ、これらはアミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn−(またはi−)プロピル、蓚酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジフェニル等の芳香族アルコールの蓚酸ジエステル等が挙げられる。
【0018】
上記の蓚酸ジエステルの中でも炭素原子数が3を超える脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、芳香族アルコールの蓚酸ジエステルが好ましく、その中でも蓚酸ジブチル及び蓚酸ジフェニルが特に好ましい。
【0019】
ジアミン成分としては1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物を用いる。さらに、1:99〜99:1であり、好ましくは5:95〜95:5、より好ましくは5:95〜40:60又は60:40〜95:5、特に5:95〜30:70又は70:30〜90:10モル%である。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを上記の特定量共重合することにより、燃料の壁面透過量が低く、高温での剛性・バリア性に優れ、しかも融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅がより広く、溶融成形性により優れ、かつ低吸水性、耐加水分解性などにも優れたポリアミドが得られる。
【0020】
(2)ポリアミド樹脂の製造
本発明に用いられる新規なポリアミド樹脂は、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。本発明者らの研究によれば、ジアミン及び蓚酸ジエステルをバッチ式又は連続式で重縮合反応させることにより得ることができる。具体的には、以下の操作で示されるような、(i)前重縮合工程、(ii)後重縮合工程の順で行うのが好ましい。
【0021】
(i)前重縮合工程:まず反応器内を窒素置換した後、ジアミン(ジアミン成分)及び蓚酸ジエステル(蓚酸源)を混合する。混合する場合にジアミン及び蓚酸ジエステルが共に可溶な溶媒を用いても良い。ジアミン成分及び蓚酸源が共に可溶な溶媒としては、特に制限されないが、トルエン、キシレン、トリクロロベンゼン、フェノール、トリフルオロエタノールなどを用いることができ、特にトルエンを好ましく用いることができる。例えば、ジアミンを溶解したトルエン溶液を50℃に加熱した後、これに対して蓚酸ジエステルを加える。このとき、蓚酸ジエステルと上記ジアミンの仕込み比は、蓚酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.5(モル比)、好ましくは0.91〜1.1(モル比)、更に好ましくは0.99〜1.01(モル比)である。
【0022】
このように仕込んだ反応器内を攪拌及び/又は窒素バブリングしながら、常圧下で昇温する。反応温度は、最終到達温度が80〜150℃、好ましくは100〜140℃の範囲になるように制御するのが好ましい。最終到達温度での反応時間は3時間〜6時間である。
【0023】
(ii)後重縮合工程:更に高分子量化を図るために、前重縮合工程で生成した重合物を常圧下において反応器内で徐々に昇温する。昇温過程において前重縮合工程の最終到達温度、すなわち80〜150℃から、最終的に220℃以上300℃以下、好ましくは230℃以上280℃以下、更に好ましくは240℃以上270℃以下の温度範囲にまで到達させる。昇温時間を含めて1〜8時間、好ましくは2〜6時間保持して反応を行うことが好ましい。さらに後重合工程において、必要に応じて減圧下での重合を行うこともできる。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は0.1MPa未満〜13.3Paである。
【0024】
本発明に用いるポリアミド樹脂の製造方法の具体的例を説明する。
まず原料の蓚酸ジエステルを容器内に仕込む。容器は、後に行う重縮合反応の温度および圧力に耐え得るものであれば、特に制限されない。その後、容器を原料のジアミンと混合する温度まで昇温させ、次いでジアミンを注入し重縮合反応を開始させる。原料を混合する温度は、原料の蓚酸ジエステルおよびジアミンの融点以上、沸点未満の温度であり、かつシュウ酸ジエステルとジアミンの重縮合反応によって生じるポリオキサミドが熱分解しない温度であれば特に制限されない。例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物からなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミンとシュウ酸ジブチルを原料とするポリオキサミド樹脂の場合、上記混合温度は15℃から240℃が好ましい。また、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比は、5:95〜90:10、常温で液状か又は40℃程度に加温するだけで液化するので取り扱いやすいためより好ましい。混合温度が縮合反応によって生成するアルコールの沸点以上の場合、アルコールを留去、凝縮する装置を備えた容器を用いるのが望ましい。また、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する場合には、耐圧容器を用いる。シュウ酸ジエステルとジアミンの仕込み比は、シュウ酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.2(モル比)、好ましくは0.91〜1.09(モル比)、更に好ましくは0.98〜1.02(モル比)である。
【0025】
次に、容器内をポリオキサミド樹脂の融点以上かつ熱分解しない温度以下に昇温する。例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15であるジアミンとシュウ酸ジブチルを原料とするポリオキサミド樹脂の場合、融点は235℃であることから240℃から280℃に昇温するのが好ましい(圧力は、2MPa〜4MPa)。生成したアルコールを留去しながら、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。耐圧容器内で原料を混合し、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する場合は、まず生成したアルコールを留去しながら放圧する。その後、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は760〜0.1Torrである。温度は、240〜280℃が好ましい。また、アルコールは水冷コンデンサで冷却して液化し、回収する。
【0026】
(3)ポリアミド樹脂の性状及び物性
本発明に用いるポリアミド樹脂PA92Cの分子量に特別の制限はないが、96%濃硫酸を溶媒とし、ポリアミド樹脂濃度が1.0g/dlの96%濃硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrが1.8〜6.0の範囲内である。好ましくは2.0〜5.5であり、2.5〜4.5が特に好ましい。ηrが1.8より低いと成形物が脆くなり物性が低下する。一方、ηrが6.0より高いと溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなる。
【0027】
本発明に用いるポリアミド樹脂PA92Cは、カルボン酸成分として蓚酸を用い、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを共重合することで、蓚酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミドと比べて、上記相対粘度を増加させること、すなわち分子量を増加させることが可能である。また、実質的な熱分解の指標である1%重量減少温度(以下、Tdと略す)と融点(以下、Tmと略す)の差(Td−Tm)で表される成形可能温度範囲が、蓚酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミドと比べて拡大し、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であることができ、さらには90℃以上も可能である。本発明に用いるポリアミド樹脂は、Tdが好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは320℃以上であり、高い耐熱性を有することを特徴とする。
【0028】
(4)ポリアミド樹脂組成物に配合できる成分
本発明に用いるポリアミド樹脂PA92Cには、本発明の効果を損なわない範囲で他のジカルボン酸成分を混合する事が出来る。蓚酸以外の他のジカルボン酸成分としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸、また、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、さらにテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジ安息香酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸を溶融成形が可能な範囲内で用いることもできる。蓚酸以外の他のジカルボン酸成分の配合量は全ジカルボン酸成分基準に5モル%以下が好ましい。
【0029】
また、本発明に用いるポリアミド樹脂PA92Cには本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を混合する事が出来る。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンなどを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分の配合量は、全ジアミン成分基準に5モル%以下が好ましい。
【0030】
また、本発明における継手材料に用いられるポリアミドPA92Cは、ポリアミドPA92Cの単独重合体であってもよいし、他のポリアミド樹脂またはその他の熱可塑性樹脂との混合物であってもよい。
【0031】
他のポリアミド樹脂としては、ポリエチレンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンアゼパミド(ナイロン69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンウンデカミド(ナイロン611)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリノナメチレンドデカミド(ナイロン912)、ポリドデカメチレンドデカミド(ナイロン1212)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタラミド(TMHT)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリウンデカメチレンテレフタラミド(ナイロン11T)等、またはこれらの共重合体を挙げることができる。
【0032】
特に、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612またはそれらの共重合物は成形性、接着性改良のために好適に使用される。
【0033】
また、その他の熱可塑性樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、アイソタクチックポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体(EPR)樹脂、等のポリオレフィン系樹脂、ポリブチレンテレフタレ−ト(PBT)、ポリエチレンテレフタレ−ト(PET)、ポリエチレンイソフタレ−ト(PEI)、ポリエステル共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレ−ト(PAR)、ポリブチレンナフタレ−ト(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミド酸/ポリブチレ−トテレフタレ−ト共重合体等の芳香族ポリエステルなどのポリエステル系樹脂、ポリアセタ−ル(POM)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエ−テルエ−テルケトン(PEEK)等のポリエ−テル系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブダジエン・スチレン共重合体(ABS)、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体等のポリニトリル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル等のポリメタクリレ−ト系樹脂、酢酸ビニル(EVA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレ−ト共重合体等のポリビニル系樹脂、酢酸セルロ−ス、酢酸酪酸セルロ−ス等のセルロ−ス系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、ポリカ−ボネ−ト(PC)等のカ−ボネ−ト系樹脂、芳香族ポリイミド(PI)等のイミド系樹脂などを挙げることができる。
【0034】
本発明の継手をポリアミド樹脂PA92Cと、他のポリアミド樹脂及び/又は他の熱可塑性樹脂からなるポリアミド樹脂組成物で製造する場合、その配合量は、ポリアミド樹脂PA92Cを50〜99質量部と、他のポリアミド樹脂及び/又は他の熱可塑性樹脂1〜50質量部からなる。ポリアミド樹脂PA92Cと、他のポリアミド樹脂及び/又は他の熱可塑性樹脂からなるポリアミド樹脂組成物として構成することが好ましい。ポリアミド樹脂PA92Cが50質量部より少ないと、本発明の所望の効果が得られない場合がある。他のポリアミド樹脂及び/又は他の熱可塑性樹脂が1質量部より少ないと、これらの樹脂を配合する効果が得られない。
【0035】
本発明の継手材料に用いられるポリアミド樹脂または組成物には、強化材を添加することが好ましい。
【0036】
強化材としては、ガラス繊維や炭素繊維、ワラストナイトやチタン酸カリウムウイスカー等の繊維状無機材料、アラミド繊維等の有機繊維、モンモリロナイト、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、シリカ、クレイ、カオリン、ガラスパウダー、ガラスビーズ等の無機充填材が用いられる。
【0037】
繊維状無機材料としては、繊維径が0.01〜20μm、好ましくは0.03〜15μmであり、繊維カット長は0.5〜10mm、好ましくは0.7〜5mmである。
【0038】
特にガラス繊維は補強効果が高く、好適に使用される。ガラス強化することにより、締結部のクリープ耐性が高く変形が発生しなくなり、永続的なシールが可能となる。
【0039】
強化材の使用量は、ポリアミド樹脂または組成物中で、5〜65重量%、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。5重量%より少ないとポリアミドの機械的強度は充分満足されない。65重量%より多ければ、機械的強度は充分満足されるが、成形性や表面状態が悪くなり好ましくない。
【0040】
また、本発明の継手材料に用いられるポリアミド樹脂または組成物には、導電性フィラーを添加することが好ましい。導電化された継手と導電化されたチューブを接合し、電気運搬回路を形成することにより、燃料等の流体の搬送時に発生する静電気の散逸が可能になり、スパークによる部品の破損や爆発防止が可能となる。
【0041】
導電性とは、たとえば、ガソリンのような引火性の流体が樹脂のような絶縁体に連続的に接触した場合、静電気が蓄積してスパークが発生し、燃料が引火する可能性があるが、この静電気が蓄積しない程度の電気特性をいう。これにより、燃料等の流体の搬送時に発生する静電気によるスパークの発生を防止可能になる。
【0042】
本発明でいう導電性フィラーとは、樹脂に導電性能を付与するために添加されるすべての充填材が包含され、粒状、フレーク状及び繊維状フィラーなどが挙げられる。
【0043】
粒状フィラーとしては、カーボンブラック、グラファイト等が好適に使用できる。フレーク状フィラーとしては、アルミフレーク、ニッケルフレーク、ニッケルコートマイカ等が好適に使用できる。また、繊維状フィラーとしては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、炭素被覆セラミック繊維、カーボンウィスカー、アルミ繊維、銅繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維といった金属繊維等が好適に使用できる。これらの中では、カーボンブラック好適に使用できる。
【0044】
カーボンブラックには、導電性付与に一般的に使用されているカーボンブラックはすべて包含される。好ましいカーボンブラックとしては、アセチレンガスを完全燃焼して得られるアセチレンブラックや、原油を原料にファーネス式不完全燃焼によって製造されるケッチェンブラック、オイルブラック、ナフタリンブラック、サーマルブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラック等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
またカーボンブラックは、その粒子径、表面積、DBP吸油量、灰分などの特性の異なる種々のカーボン粉末が製造されている。そのカーボンブラックの特性に特に制限は無いが、良好な鎖状構造を有し、凝集密度の大きいものが好ましい。カーボンブラックの多量配合は耐衝撃性の面で好ましくなく、より少量で優れた電気伝導度を得る意味から、カーボンブラックは平均粒径が500nm以下であることが好ましく、5〜100nmであることがより好ましく、10〜70nmであることがさらに好ましく、また表面積(BET法)は10m/g以上であることが好ましく、は300m/g以上であることがより好ましく、500〜1500m/gであることがさらに好ましく、更にDBP(ジブチルフタレ−ト)吸油量は50ml/100g以上であることが好ましく、100ml/100gであることがより好ましく、更に300ml/100g以上であることがさらに好ましい。またカーボンブラックの灰分は0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下がより好ましい。ここでいうDBP吸油量とは、ASTM−D2414に定められた方法で測定した値である。また、カーボンブラックは、揮発分含量が1.0重量%未満のものがより好ましい。
【0046】
これら、導電性フィラーはチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていても良い。また溶融混練作業性を向上させるために造粒されたものを用いることも可能である。
【0047】
導電性フィラーの配合量は、用いる導電性フィラーの種類により異なるため、一概に規定はできないが、導電性と流動性、機械的強度などとのバランスの点から、ポリアミド樹脂を含む樹脂全体100質量部に対して、一般に2〜30重量部が好ましく選択される。
【0048】
またかかる導電性フィラーは、十分な帯電防止性能を得る意味で、それを配合したポリアミド樹脂組成物を溶融押出して得られる成形品の体積抵抗が10 Ω・cm以下、特に10 Ω・cm以下となる程度の量を配合することが好ましい。但し上記導電性フィラーの配合は強度、流動性の悪化を招きやすい。そのため目標とする導電レベルが得られれば、上記導電性フィラーの配合量はできるだけ少ない方が望ましい。
【0049】
また、本発明の継手材料に用いられるポリアミドには、上記強化材と導電性フィラーを重量比で1:3〜3:1の割合で配合することが好ましい。
【0050】
さらに、本発明の継手材料に用いられるポリアミドには、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、滑剤、無機質微粒子、帯電防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、可塑剤、衝撃改良剤等を添加してもよい。
【0051】
(5)継手材料の製造
本発明の継手材料の製造は、射出成形法その他、樹脂製継手の製造方法として公知のいずれの方法によってもよい。
【0052】
(6)クイックコネクター
本発明の燃料配管用継手の具体例としては、上記継手材料により筒状本体部が形成されてなる燃料配管用クイックコネクターが挙げられる。
【0053】
図1には、代表的なクイックコネクター1の断面を示す。本図に示すクイックコネクター1は、スチールチューブ2の端部とプラスチックチューブ3の端部を相互結合している。スチールチューブ2の端部から離れた位置にあるフランジ形状部4とコネクター1のリテーナー5により着脱可能に係合し、O−リング6の列によって燃料を封止する。また、プラスチックチューブ3とコネクター1の接合部では、コネクター端部は径方向へ突出した複数のあご部8を有する細長いニップル7を形成している。プラスチックチューブ3の端部はニップル7の外面に密着嵌合し、あご部8との機械的な接合とチューブとニップル間に備えたO−リング9により燃料を封止する。
【0054】
クイックコネクターの製造法としては、筒状本体やリテーナー、O−リング等各パーツを射出成形などで作成した後、所定の場所にアッセンブリーして組みたてる方法が挙げられる。
【0055】
上記クイックコネクターは樹脂チューブと係合した形のアッセンブリーに組みたてられ、燃料配管部品として用いられる。
【0056】
クイックコネクターと樹脂チューブとは、嵌合により機械的に接合してもよいが、スピン溶着、振動溶着、レーザー溶着、超音波溶着等の溶着方法により接合することが好ましい。これにより気密性を向上させることができる。
【0057】
また、挿入後、オーバーラップする部分に十分締めつけ力をかけられる、厚肉の樹脂チューブや熱収縮チューブ、クリップ等を用い気密性を向上させることもできる。
【0058】
樹脂チューブは、その途中に波形領域を有するものであってもよい。このような波形領域とは、チューブ本体途中の適宜の領域を、波形形状、蛇腹形状、アコーディオン形状、またはコルゲート形状等に形成した領域である。かかる波形の折り目が複数個環状に配設されている領域を有することにより、その領域において環状の一側を圧縮し、他側を外方に伸張することができるので、応力疲労や層間の剥離を伴うことなく容易に任意の角度で曲げることが可能になる。
【0059】
また、樹脂チューブは、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド層の他にバリア層を含む多層構造をとることが好ましく、PBT、PBN、フッソ樹脂、PA92、クレーがナノ分散したナイロン、EVOHなどがバリア層を形成する樹脂として使用できる。
【0060】
また、液体燃料が流動するラインでは導電層が最内層に含まれている構成が静電気による破損防止のため好ましい。
【0061】
上記樹脂チューブの外周の全部または一部には、石ハネ、他部品との摩耗、耐炎性を考慮してエピクロルヒドリンゴム、NBR、NBRとポリ塩化ビニルの混合物、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、アクリルゴム(ACM)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、NBRとEPDMの混合物ゴム、塩化ビニル系、オレフィン系、エステル系、アミド系等の熱可塑性エラストマー等から構成されるソリッドまたはスポンジ状の保護部材(プロテクター)を配設することができる。保護部材は既知の手法によりスポンジ状の多孔体としてもよい。多孔体とすることにより、軽量で断熱性に優れた保護部を形成できる。また、材料コストも低減できる。あるいは、ガラス繊維などを添加してその強度を改善してもよい。保護部材の形状は特に限定されないが、通常は、筒状部材または多層チューブを受け入れる凹部を有するブロック状部材である。筒状部材の場合は、予め作製した筒状部材に多層チューブを後で挿入したり、あるいは多層チューブの上に筒状部材を被覆押出しして両者を密着して作ることができる。両者を接着させるには、保護部材内面あるいは前記凹面に必要に応じ接着剤を塗布し、これに多層チューブを挿入または嵌着し、両者を密着することにより、多層チューブと保護部材の一体化された構造体を形成する。
【0062】
本発明におけるクイックコネクターは、O−リングや溶着等の気密性向上技術と合わせることにより、燃料ガソリン混合燃料等の壁面透過量が少なく、クリープ変形耐性等の特性に優れたものとすることができる。したがって、バリア性に優れた多層チューブと組み合わせて、厳しい燃料放出規制に対して柔軟に対応できる優れた燃料ラインシステムとして有用である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
特性値は次のようにして測定した。
【0064】
(1)相対粘度(ηr)
ηrはポリアミドの96%硫酸溶液(濃度:1.0g/dl)を使用してオストワルド型粘度計を用いて25℃で測定した。
【0065】
(2)融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)
Tm及びTcは、PerkinELmer社製PYRIS Diamond DSC用いて窒素雰囲気下で測定した。30℃から270℃まで10℃/分の速度で昇温し(昇温ファーストランと呼ぶ)、270℃で3分保持したのち、−100℃まで10℃/分の速度で降温し(降温ファーストランと呼ぶ)、次に270℃まで10℃/分の速度で昇温した(昇温セカンドランと呼ぶ)。得られたDSCチャートから降温ファーストランの発熱ピーク温度をTc、昇温セカンドランの吸熱ピーク温度をTmとした。
【0066】
(3)1%重量減少温度(Td)
Tdは島津製作所社製THERMOGRAVIMETRIC ANALYZER TGA−50を用い、熱重量分析(TGA)により測定した。20ml/分の窒素気流下室温から500℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、Tdを測定した。
【0067】
(4)溶融粘度
溶融粘度はティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製溶融粘弾性測定装置ARESにコーン・プレートを装着して、窒素中、250℃、せん断速度0.1s-1の条件で測定した。
【0068】
(5)フィルム成形
東邦マシナリー社製真空プレス機TMB−10を用いてフィルム成形を行った。500〜700Paの減圧雰囲気下260℃で5分間加熱溶融させた後、5MPaで1分間プレスを行いフィルム成形した。次に減圧雰囲気を常圧まで戻したのち室温5MPaで1分間冷却結晶化させてフィルムを得た。
【0069】
(6)吸水率(飽和吸水率、平衡吸水率)
ポリアミド樹脂を(5)の条件で成形したフィルム(寸法:20mm×10mm、厚さ0.25mm;重量約0.05g)を23℃のイオン交換水に浸漬し、所定時間ごとにフィルムを取り出し、フィルムの重量を測定した。フィルム重量の増加率が0.2%以内の範囲で3回続いた場合にポリアミド樹脂フィルムへの水分の吸収が飽和に達したと判断して、水に浸漬する前のフィルムの重量(Xg)と飽和に達した時のフィルムの重量(Yg)から式(1)により飽和吸水率(%)を算出した。
飽和吸水率(%)=100(Y−X)/X (1)
なお、上記フィルムの成形直後の重量(Xg)と上記フィルムを成形後に湿度65%、温度23℃で平衡に達したときの重量(Yg)から式(1)により算出した吸水率(平衡吸水率)をウェットでの吸水率として表中に記載した。
【0070】
(7)耐薬品性
本発明によって得られるポリアミドの熱プレスフィルムを以下に列挙する薬品中に7日間浸漬した後に、フィルムの重量残存率(%)及び外観の変化を観測した。濃塩酸、64%硫酸、氷酢酸のそれぞれの溶液においては23℃において浸漬した試料について試験を行った。
【0071】
(8)耐加水分解性
本発明によって得られるポリアミドの熱プレスフィルムをオートクレーブに入れ、水(pH=7)、0.5mol/l硫酸(pH=1)、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液(pH=14)中でそれぞれ121℃、60分間処理した後の重量残存率(%)、及び外観変化を調べた。
【0072】
(9)機械的物性
以下に示す〔1〕〜〔4〕の測定は、下記の試験片を樹脂温度260℃、金型温度80℃の射出成形により成形し、これを用いて行った。成形後直ちに調湿せずに23℃で評価したものをドライ、成形後に湿度65%、温度23℃で調湿した後に23℃で評価したものをウェットとして表中に記載した。
〔1〕 引張試験(引張降伏点強度):ASTM D638に記載のTypeIの試験片を用いてASTM D638に準拠して測定した。
〔2〕 曲げ試験(曲げ弾性率):試験片寸法127mm×12.7mm×3.2mmの試験片を用いてASTM D790に準拠し、23℃で測定した。
〔3〕 アイゾット衝撃強度:試験片寸法127mm×12.7mm×3.2mmの試験片を用いてASTM D256に準拠し、23℃で測定した。
〔4〕 荷重たわみ温度:試験片寸法127mm×12.7mm×3.2mmの試験片を用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPaで測定した。
【0073】
(10)燃料透過性
外径8mm、肉厚2mm、長さ100mmの継手を作成し、その片端を密栓し、内部にFuelC(イソオクタン/トルエン=50/50体積比)とエタノールを90/10体積比に混合したエタノール/ガソリンを入れ、残りの端部も密栓した。その後、全体の重量を測定し、次いで継手を60℃のオ−ブンに入れ、重量変化を測定し、燃料透過性(透過量とその内に含まれる炭化水素成分の量を(HC量)の両者を示す)を評価した。
【0074】
(11)電気抵抗
ASTMD−257に準拠して測定した。
【0075】
[樹脂製造例1:PA92C−1の製造]
攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、ダイアフラムポンプを直結した原料投入口、窒素ガス導入口、放圧口、圧力調節装置及びポリマー抜出し口を備えた内容積が150リットルの圧力容器にシュウ酸ジブチル28.40kg(140.4モル)を仕込み、圧力容器の内部を純度が99.9999%の窒素ガスで0.5MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返し、窒素置換を行った後、封圧下、攪拌しながら系内を昇温した。約30分間かけてシュウ酸ジブチルの温度を100℃にした後、1,9−ノナンジアミン18.89kg(119.3モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン3.34kg(21.1モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15)をダイアフラムフポンプにより流速1.49リットル/分で約17分間かけて反応容器内に供給すると同時に昇温した。供給直後の圧力容器内の内圧は、重縮合反応により生成したブタノールによって0.35MPaまで上昇し、重縮合物の温度は約170℃まで上昇した。その後、1時間かけて温度を235℃まで昇温した。その間、生成したブタノールを放圧口より抜き出しながら、内圧を0.5MPaに調節した。重縮合物の温度が235℃に達した直後から放圧口よりブタノールを約20分間かけて抜き出し、内圧を常圧にした。常圧にしたところから、1.5リットル/分で窒素ガスを流しながら昇温を開始し、約1時間かけて重縮合物の温度を260℃にし、260℃において4.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して約10分間静置した後、内圧0.5MPaまで放圧し、重縮合物を圧力容器下部抜出口より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の樹脂はペレタイザーによってペレット化した。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.20であった。
【0076】
[樹脂製造例2:PA92C−2の製造]
1,9−ノナンジアミン17.62kg(111.3モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン4.45kg(28.1モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が80:20)を仕込んだほかは、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.10であった。
【0077】
[樹脂製造例3:PA92C−3の製造]
1,9−ノナンジアミン11.11kg(70.2モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン11.11kg(70.2モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が50:50)を仕込んだ以外は、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.35であった。
【0078】
[樹脂製造例4:PA92C−4の製造]
1,9−ノナンジアミン 6.67 kg(42.1モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン15.56kg(98.3モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が30:70)を仕込んだ以外は製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.55であった。
【0079】
[樹脂製造例5:PA92C−5の製造]
1,9−ノナンジアミン1.33kg(8.4モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン20.88kg(131.9モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を仕込んだほかは、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.53であった。
【0080】
[樹脂製造例6:PA92C−6の製造]
1,9−ノナンジアミン1.33kg(8.4モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン20.88kg(131.9モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を仕込み、ブタノールの抜出による内圧を0.25MPaに保持した以外は、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=4.00であった。
【0081】
[比較樹脂製造例1:PA92の製造]
ジアミン原料として1,9−ノナンジアミン22.25kg(140.4モル)だけを用いて、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は黄白色のポリマーであり、ηr=2.78であった。
【0082】
樹脂製造例1〜6及び比較樹脂製造例1で得られたポリアミド樹脂PA92C−1〜PA92C−6、PA92、並びにナイロン6(宇部興産製、UBEナイロン1015B)、ナイロン66(宇部興産製、UBEナイロン2020B)及びナイロン12(宇部興産製、UBESTA3020U)について、相対粘度、融点、結晶化温度、1%重量減少温度、溶融粘度、飽和吸水率、耐薬品性、耐加水分解性、ドライ及びウェットにおける機械的特性を測定した。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
〔実施例1〕
PA92C−1を用いてASTM規格に沿ったテストビースを成形し、機械特性(ドライ及びウェットの曲げ弾性率、アイゾット衝撃値)、電気抵抗を測定した。また、継手を成形し、燃料透過性を測定した。結果を表2に示す。表2の「ジアミン成分比」は1,9−ノナンジアミン/1,8−メチル−2−オクタジアミンの組成比である(以下の実施例2〜7において同じ。)表2の通り、コネクターに必要な剛性がナイロン12より優れており、物理的に適した継手であり、また、燃料透過試験から燃料バリア性に優れること、特に有害な炭化水素成分のバリア性に優れることが示された。
【0085】
〔実施例2〕
PA92C−2を用いてASTM 規格に沿ったテストビースを成形し、機械特性(ドライ及びウェットの曲げ弾性率、アイゾット衝撃値)、電気抵抗を測定した。また、継手を成形し、燃料透過性を測定した。結果を表2に示す。表2の通り、コネクターに必要な剛性がナイロン12より優れており、物理的に適した継手であり、また、燃料透過試験から燃料バリア性に優れること、特に有害な炭化水素成分のバリア性に優れることが示された。
【0086】
〔実施例3〕
PA92C−5を用いてASTM 規格に沿ったテストビースを成形し、機械特性(ドライ及びウェットの曲げ弾性率、アイゾット衝撃値)、電気抵抗を測定した。また、継手を成形し、燃料透過性を測定した。結果を表2に示す。表2の通り、コネクターに必要な剛性がナイロン12より優れており、物理的に適した継手であり、また、燃料透過試験から燃料バリア性に優れること、特に有害な炭化水素成分のバリア性に優れることが示された。
【0087】
〔実施例4〕
PA92C−1にガラスファイバー(日東紡績株式会社製CS−3J−265S)30 質量%を日本製綱製TEX44二軸押出機にて混練し、ストランドを冷却水槽にて冷却固化した後、ペレタイザーにてペレット状試料を得た。この試料を用いてASTM 規格に沿ったテストビースを成形し、機械特性(ドライ及びウェットの曲げ弾性率、アイゾット衝撃値)、電気抵抗を測定した。また、継手を成形し、燃料透過性を測定した。結果を表2に示す。表2の通り、コネクターに必要な剛性がナイロン12より優れており、物理的に適した継手であり、また、燃料透過試験から燃料バリア性に優れること、特に有害な炭化水素成分のバリア性に優れることが示された。
【0088】
〔実施例5〕
PA92C−3にガラスファイバー(日東紡績株式会社製CS−3J−265S)30 質量%を日本製綱製TEX44二軸押出機にて混練し、ストランドを冷却水槽にて冷却固化した後、ペレタイザーにてペレット状試料を得た。この試料を用いてASTM規格に沿ったテストビースを成形し、機械特性(ドライ及びウェットの曲げ弾性率、アイゾット衝撃値)、電気抵抗を測定した。また、継手を成形し、燃料透過性を測定した。結果を表2に示す。表2の通り、コネクターに必要な剛性がナイロン12より優れており、物理的に適した継手であり、また、燃料透過試験から燃料バリア性に優れること、特に有害な炭化水素成分のバリア性に優れることが示された。
【0089】
〔実施例6〕
PA92C−1にガラスファイバー(日東紡績株式会社製CS−3J−265S)15 質量%,カーボンファイバー(三菱化学製K223SE)15質量%を日本製綱製TEX44二軸押出機にて混練し、ストランドを冷却水槽にて冷却固化した後、ペレタイザーにてペレット状試料を得た。この試料を用いてASTM規格に沿ったテストビースを成形し、機械特性(ドライ及びウェットの曲げ弾性率、アイゾット衝撃値)、電気抵抗を測定した。また、継手を成形し、燃料透過性を測定した。結果を表2に示す。表2の通り、コネクターに必要な剛性がナイロン12より優れており、物理的に適した継手であり、また、燃料透過試験から燃料バリア性に優れること、特に有害な炭化水素成分のバリア性に優れることが示された。
【0090】
〔実施例7〕
PA92C−4にガラスファイバー(日東紡績株式会社製CS−3J−265S)15重量%, カーボンファイバー(三菱化学製K223SE)15質量%を日本製綱製TEX44二軸押出機にて混練し、ストランドを冷却水槽にて冷却固化した後、ペレタイザーにてペレット状試料を得た。この試料を用いてASTM規格に沿ったテストビースを成形し、機械特性(ドライ及びウェットの曲げ弾性率、アイゾット衝撃値)、電気抵抗を測定した。また、継手を成形し、燃料透過性を測定した。結果を表2に示す。表2の通り、コネクターに必要な剛性がナイロン12より優れており、物理的に適した継手であり、また、燃料透過試験から燃料バリア性に優れること、特に有害な炭化水素成分のバリア性に優れることが示された。
【0091】
〔比較例1〕
ナイロン12(宇部興産製3020U)でASTM規格に沿ったテストビースを成形し、機械特性(ドライ及びウェットの曲げ弾性率、アイゾット衝撃値)、電気抵抗を測定した。また、継手を成形し、燃料透過性を測定した。結果を表2に示す。
【0092】
〔比較例2〕
ガラスファイバー30質量%入りナイロン12(宇部興産製3024GC6)でASTM規格に沿ったテストビースを成形し、機械特性(ドライ及びウェットの曲げ弾性率、アイゾット衝撃値)、電気抵抗を測定した。また、継手を成形し、燃料透過性を測定した。結果を表2に示す。
【0093】
〔比較例3〕
ナイロン66(宇部興産製2020B)でASTM規格に沿ったテストビースを成形し、機械特性(ドライ及びウェットの曲げ弾性率、アイゾット衝撃値)、電気抵抗を測定した。また、継手を成形し、燃料透過性を測定した。結果を表2に示す。
【0094】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】代表的なクイックコネクターの断面図を示す。
【符号の説明】
【0096】
1 クイックコネクター
2 スチールチューブ
3 プラスチックチューブ
4 フランジ形状部
5 リテーナー
6 O−リング
7 ニップル
8 あご部
9 O−リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
継手材料が、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂PA92C)よりなることを特徴とする燃料配管用継手。
【請求項2】
継手材料が、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂(PA92C)50〜99重量部と、他のポリアミド樹脂および/または他の熱可塑性樹脂1〜50重量部からなるポリアミド樹脂組成物よりなることを特徴とする燃料配管用継手。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂(PA92C)は、96%硫酸を溶媒とし、濃度が1.0g/dlのポリアミド樹脂溶液を用いて25℃で測定した相対粘度(ηr)が1.8〜6.0である請求項1又は2に記載の燃料配管用継手。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂(PA92C)は、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析における1%重量減少温度と窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した示差走査熱量法により測定した融点との温度差が50℃以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料配管用継手。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂(PA92C)は、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が5:95〜95:5であるジアミン成分とからなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料配管用継手。
【請求項6】
前記継手材料が、さらに強化材を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料配管用継手。
【請求項7】
前記継手材料が、さらに導電性フィラーを含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料配管用継手。
【請求項8】
前記継手材料が、さらに強化材と導電性フィラーを重量比で1:3〜3:1の割合で含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料配管用継手。
【請求項9】
請求項1〜8記載の継手材料により筒状本体部が形成されてなることを特徴とする燃料配管用クイックコネクター。
【請求項10】
シール材としてO−リングが使用されている請求9記載の燃料配管用クイックコネクター。
【請求項11】
請求項9記載のクイックコネクターが、スピン溶着、振動溶着、レーザー溶着、超音波溶着から選ばれる溶着方法によりポリアミド樹脂チューブと接合されてなる燃料配管部品。
【請求項12】
前記ポリアミド樹脂チューブがバリア層を含む多層チューブである請求項11記載の燃料配管部品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−299722(P2009−299722A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152311(P2008−152311)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】